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特許7484898電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池
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  • 特許-電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240509BHJP
   H01M 8/1053 20160101ALI20240509BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20240509BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALI20240509BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20240509BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20240509BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240509BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/1053
H01M8/1067
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/1039
H01B1/06 A
C08L27/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021513473
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021008903
(87)【国際公開番号】W WO2021192949
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2020052299
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 一直
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 瑛子
(72)【発明者】
【氏名】小西 貴
(72)【発明者】
【氏名】尾形 大輔
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-156295(JP,A)
【文献】特表2015-502629(JP,A)
【文献】特開2009-081129(JP,A)
【文献】特開2013-077554(JP,A)
【文献】特開2021-153048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/10
C25B 9/00
C25B 13/00
C08J 5/22
B01J 39/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層とイオン伝導性の炭化水素ポリマーからなるB層から構成され、A層に前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散している電解質膜。
【請求項2】
前記電解質膜は、示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満である請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
A層に前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散径0.55μm以下で分散している請求項1または2に記載の電解質膜。
【請求項4】
A層の厚みを(t1)とし、A層の表層からA層中の炭化水素ポリマーまでの最短距離を(t2)とした場合に、下記式(1)を満たす請求項1のいずれかに記載の電解質膜。
(t1)-(t2)>0 ・・・(1)
【請求項5】
示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満である請求項14のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項6】
前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニリデンフルオジド)およびビニリデンフルオリドと他の含フッ素モノマーとのコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1~5のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項7】
前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ビニリデンフルオリドと他の含フッ素モノマーとのコポリマーである請求項1~6のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項8】
前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーである請求項1~7のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項9】
A層におけるイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとの質量比が25:75~55:45である請求項1~8のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項10】
前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが下記式(1)および(2)で表される構造単位を含有する請求項1~9のいずれかに記載の電解質膜。
【化1】
【化2】
式中、Ar,Arは下記化学式(3)、Arは下記化学式(4)で表わされる。
【化3】
【化4】
式中、XおよびXは、それぞれ独立に、ケトン基(-(C=O)-)、エーテル基(-O-)、スルホン酸基(-SO-)、フッ化炭素含有基(-C(CF-)を表し、上記構造を複数含んでいても良い。また、Xは保護基であっても良い。Yはイオン性基を表す。請求項またはに記載の繊維強化複合成形品の成形方法であって、キャビティおよび樹脂注入口を有する成形型を用いて強化繊維積層体および樹脂組成物をプレス成形するに際し、前記キャビティ内に前記強化繊維積層体を配置し、前記樹脂注入口から前記樹脂組成物を前記キャビティ内に注入するときに、樹脂注入開始直前に前記樹脂組成物を攪拌することを特徴とする繊維強化複合成形品の成形方法。
【請求項11】
前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーがランダム共重合体である請求項1~10のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項12】
前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーの重量平均分子量が30万以上である請求項1~11のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項13】
4価バナジウムイオン濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1,800×10-10cm/min以下である請求項1~12のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項14】
23℃×50%RHにおける引張り弾性率が0.5GPa以上である請求項1~13のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項15】
A層がB層の一方の面のみに積層されている請求項1~14のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項16】
レドックスフロー電池用電解質膜である請求項1~15のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の電解質膜を、正極と負極を隔離分離する隔膜として用いてなるレドックスフロー電池。
【請求項18】
電解質膜のA層側が正極側となるように配置されてなる請求項17に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜に関し、詳細には、レドックスフロー電池に好適な電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用が増加している。一方で、日射しや風速など発電量の変動が大きく、再生可能エネルギーの出力安定化や電力負荷平準化、電力系統の安定化を実現する大型蓄電池システムが求められている。蓄電池としては鉛蓄電池、ナトリウム硫黄(NAS)電池、リチウムイオン電池、レドックスフロー電池が知られている。このうち、活物質を含む電解液をポンプで循環させて充放電するレドックスフロー電池は電解液を外部タンクに貯蔵できるため大型化が容易であり、他の蓄電池と比較して再生が容易であることなどを理由に利用拡大が進んでいる。
【0003】
レドックスフロー電池は、電極上での酸化還元反応を利用し、電池内のポンプ循環により充放電を繰り返す電池である。電解液に含まれる活物質としては、鉄-クロム系、クロム-臭素系、チタン-マンガン系、臭素-亜鉛系などが挙げられるが、特に正極および負極の活物質として価数の異なるバナジウム系を用いる場合、析出物が生成するような電極反応での副反応が起こりにくく、電解液の劣化が少ないことからも長期利用に適していると考えられている。
【0004】
電極と正極活物質を含む正極と電極と負極活物質を含む負極を隔てる隔膜として高分子電解質膜が利用されている。電解質膜に求められる特性として、電池出力およびエネルギー効率を維持する目的で活物質の透過性が低いことが挙げられる。また、電池として組み込んだ際に長期間安定して充放電が可能であることが求められる。
充放電時に特に陽極(カソード側)では1.5V以上の高電位環境下に曝されるため、電解質膜には電気的な耐酸化性が求められる。耐酸化性が不十分な場合、充放電中に電解質膜が劣化し、長期的に充放電特性が低下する恐れがある。
【0005】
特許文献1では、燃料電池の膜電極アセンブリー(MEA)内のポリマー電解質膜(PEM)と触媒層との接着性を高めるために、イオン伝導性ポリマーと非イオン伝導性ポリマーを含む接着性促進層を配置することが提案されている。
【0006】
特許文献2では、第一の層と第二の層からなるイオン伝導性膜において、第一の層がペルフルオロスルホン酸ポリマーを含み、第二の層がスルホン化炭化水素ポリマーを含むことで燃料電池における水素クロスオーバーを低減する電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2008-512844号公報
【文献】特表2015-502629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている構成では、レドックスフロー電池用の電解質膜として使用する場合、耐久性が十分に得られないという課題があった。
【0009】
特許文献2に記載の電解質膜は、総厚さ5μm~50μmのうち第二の層である炭化水素系電解質膜の厚みが2μm以下であり、この電解質膜をレドックスフロー電池に適用した場合、バナジウムイオン透過性の増大に伴う電流効率(電力効率)の低下、および機械耐久性が低下するという課題があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、例えば、レドックスフロー電池に好適な電解質膜を提供することにある。すなわち、本発明は、レドックスフロー電池として高い電力効率と長期間使用した場合においても安定した充放電を可能とする、電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電解質膜は、上記課題を解決するため次の[1]または[2]のいずれかの構成を有する。すなわち、
[1]少なくともイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層とイオン伝導性の炭化水素ポリマーからなるB層から構成され、A層に前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散している電解質膜、
または、
[2]少なくともイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層とイオン伝導性の炭化水素ポリマーからなるB層から構成され、示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満である電解質膜、である。
【0012】
また、本発明のレドックスフロー電池は次の構成を有する。すなわち、
上記電解質膜を、正極と負極を隔離分離する隔膜として用いてなるレドックスフロー電池、である。
【0013】
本発明の上記[1]の電解質膜は、A層に前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散径0.55μm以下で分散していることが好ましい。
【0014】
本発明の上記[1]の電解質膜は、A層の厚みを(t1)とし、A層表層からA層中の炭化水素ポリマーまでの最短距離を(t2)とした場合に、下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0015】
(t1)-(t2)>0 ・・・(1)
本発明の上記[1]の電解質膜は、示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満であることが好ましい。
【0016】
本発明の電解質膜は、前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニリデンフルオジド)およびビニリデンフルオリドと他の含フッ素モノマーとのコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0017】
本発明の電解質膜は、前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ビニリデンフルオリドと他の含フッ素モノマーとのコポリマーであることが好ましい。
本発明の電解質膜は、前記非イオン伝導性のフッ素化ポリマーが、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーであることが好ましい。
本発明の電解質膜は、A層におけるイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとの質量比が25:75~55:45であることが好ましい。
本発明の電解質膜は、前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーが下記式(1)および(2)で表される構造単位を含有することが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
式中、Ar,Arは下記化学式(3)、Arは下記化学式(4)で表わされる。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
式中、XおよびXは、それぞれ独立に、ケトン基(-(C=O)-)、エーテル基(-O-)、スルホン酸基(―SO-)、フッ化炭素含有基(-C(CF-)を表し、上記構造を複数含んでいても良い。また、Xは保護基であっても良い。Yはイオン性基を表す。
【0024】
本発明の電解質膜は、前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーがランダム共重合体であることが好ましい。
【0025】
本発明の電解質膜は、前記イオン伝導性の炭化水素ポリマーの重量平均分子量が30万以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の電解質膜は、4価バナジウム濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1,800×10-10cm/分以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の電解質膜は、23℃×50%RHにおける引張り弾性率が0.5GPa以上であることが好ましい。
【0028】
本発明の電解質膜は、A層がB層の一方の面のみに積層されていることが好ましい。
【0029】
本発明の電解質膜は、レドックスフロー電池用電解質膜であることが好ましい。
本発明のレドックスフロー電池は、電解質膜のA層側が正極側となるように配置されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐酸化性に優れた電解質膜を提供することができる。加えて、該電解質膜をレドックスフロー電池の隔膜として使用することで、高い電力効率と長期時間使用した場合においても安定した充放電を可能とする。つまり、本発明の電解質膜を用いたレドックスフロー電池は、高い電力効率を有し、かつ長期間駆動における耐久性が向上する。
【0031】
また、本発明の電解質膜は、レドックスフロー電池に限定されず、燃料電池、水電解装置、電気化学式水素圧縮装置等に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一態様である電解質膜の拡大断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0034】
レドックスフロー電池では高電位の電極と電解質膜が直接接するため長時間駆動させた場合に、活物質のみならず電解質膜から直接電子が引き抜かれ、電解質膜が電気化学的に酸化劣化する課題がある。上記課題を解決するため、本発明の電解質膜の基本構成は、イオン伝導性の炭化水素ポリマーからなるB層上に高電位環境下でも酸化され難いイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層を少なくとも1層有する。電解質膜が上記基本構成を採ることによって、上記課題を解決でき、長期間使用しても安定した充放電が可能となる。
【0035】
本発明の電解質膜は、レドックスフロー電池の長期間駆動における電解質膜の劣化(膨れ、剥がれ、白化など)を抑制し、耐久性をさらに向上させるために、上記基本構成に加えて、以下の特徴的構成を有する。すなわち、
[実施態様1]A層にイオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散していることを特徴とする。
[実施態様2]示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満であることを特徴とする。
以下、イオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層を「A層」、炭化水素ポリマーからなるB層を「B層」とそれぞれ略記することがある。
【0036】
本発明において、イオン伝導性のフッ素化ポリマーは、パーフルオロカーボンを主構成単位とする主鎖を有するとともに、当該主鎖または側鎖にイオン性基が付与されたポリマーを指す。このようなフッ素系高分子電解質としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(エーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)が挙げられる。中でも、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンの繰り返し単位とを有する共重合体が好ましい。このような共重合体の市販品としては、“ナフィオン”(登録商標:デュポン社製)、“アクイヴィオン”(登録商標:ソルベイ社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン-g-スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド-パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、エチレン-四フッ化エチレン共重合体、トリフルオロスチレン等をベースポリマーとする樹脂などが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からは、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が特に好ましい。
また、非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとしては、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、ビニリデンフルオリドとトリフルオロエチレンとのコポリマー、ビニリデンフルオリドとテトラフルオロエチレンとのコポリマー、ポリ(ビニリデンフルオジド)などが例示できる。これらの中でも、A層におけるイオン伝導性炭化水素ポリマーの分散径を比較的小さくするという観点、あるいは電解質膜の結晶融解ピーク(Tm)を比較的低くするという観点から、ビニリデンフルオリドと他の含フッ素モノマー(上記したようなフルオロアルキレンなど)とのコポリマーが好ましく、特に、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーが好ましい。
【0037】
本発明の実施態様1の電解質膜は、前述の基本構成に加えて、A層にイオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散していることを特徴とする。すなわち、B層のイオン伝導性の炭化水素ポリマーの一部がA層中に分散していることを特徴とする。
【0038】
A層にイオン伝導性の炭化水素ポリマーが分散していることは、例えば、電解質膜の断面を電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)や走査電子顕微鏡(SEM))で観察することによって確認することができる。
【0039】
図1は、本発明の一態様である電解質膜の断面の部分拡大写真(A層とB層の一部を示す写真)である。A層(A-layer)にイオン伝導性の炭化水素ポリマー(P)が分散していることが確認できる。
【0040】
A層におけるイオン伝導性炭化水素ポリマーの分散状態としては、レドックスフロー電池の長期間駆動における電解質膜の劣化を抑制し、耐久性を向上させるという観点から、例えば、B層との界面側領域に高密度で分散していることが好ましい。ここで、界面側領域とは、例えば、B層との界面からA層厚みの50%までの領域とするのが適当である。例えば、A層の厚みが5μmの場合は、B層との界面から2.5μmまでが界面側領域となる。上記界面側領域は、さらにA層厚みの40%までの領域とするのが好ましく、A層厚みの30%までの領域とするのがより好ましい。
【0041】
上記界面側領域に、イオン伝導性炭化水素ポリマーの分散の全個数の70%以上が存在することが好ましく、80%以上存在することがより好ましく、90%以上存在することがさらに好ましく、95%以上存在することが特に好ましい。一方、長期運転の耐久性の観点から、A層の表層(B層とは反対側)にはイオン伝導性炭化水素ポリマーの分散は存在しないことが好ましい。
【0042】
本発明において、イオン伝導性炭化水素ポリマーの分散とは、例えば、分散径を0.10μm以上とするのが適当である。分散径が0.10μm以上であれば、図1に示すような電解質膜の断面観察(A層の厚み方向全域とB層の少なくとも一部を含む)において比較的容易に確認することができ、また、電解質膜の特性(性能)や本発明の効果などに影響する最小の大きさであると推測される。
【0043】
上記したような本発明の電解質膜は、例えば、B層上にA層を塗布(ウェットコート)することによって得ることができる。A層の塗布に際し、B層は乾燥状態(ウェットオンドライ方式)であってもよいし、湿潤状態(ウェットオンウェット方式)であってもよい。
【0044】
上記したように、界面側領域にイオン伝導性炭化水素ポリマーを高密度で分散させるという観点から、ウェットオンドライ方式が好ましい。さらに、A層塗液の溶媒として、B層製膜時の溶媒と同種の溶媒を用いることが好ましい。上記溶媒として、非プロトン性極性溶媒が好ましく、さらに、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)等が好適であるが、本発明はこれに限定されない。
【0045】
A層の塗布は、B層上に直接もしくは他の層を介して行うことができるが、直接に塗布することが好ましい。他の層を介在させる場合、他の層は極薄膜であることが好ましく、具体的には他の層の厚みは1μm以下が適当であり、0.5μm以下が好ましい。つまり、本発明の電解質膜は、B層上にA層が直接に積層されていることが好ましい。
【0046】
本発明の電解質膜において、レドックスフロー電池の長期間駆動における電解質膜の劣化を抑制し、耐久性を向上させるという観点から、A層に分散しているイオン伝導性炭化水素ポリマーの分散径は比較的小さい方が好ましい。具体的には、A層に分散しているイオン伝導性の炭化水素ポリマーの分散径は、0.55μm以下が好ましく、0.50μm以下がより好ましく、0.40μm以下がさらに好ましく、0.30μm以下が特に好ましく、0.25μm以下が最も好ましい。下限は特に限定されないが、前記のとおり0.10μm程度が適当である。ここで、イオン伝導性炭化水素ポリマーの分散径は数平均分散径を意味する。
【0047】
ここでいう分散径とは、該フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査電子顕微鏡(SEM)観察などによりその分散形態を確認し、新円状であればその円の直径を分散径とし、もし楕円や紡錘状などの変形した分散形態である場合は、その外接円の直径を分散径とすることができる。
【0048】
A層におけるイオン伝導性の炭化水素ポリマーの分散径を比較的小さくするという観点から、A層における非イオン伝導性のフッ素化ポリマーの含有比率は、A層の全成分(固形分総量)に対して25質量%以上75質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下が好ましく、35質量%以上65質量%以下が特に好ましい。また、上記観点から、A層におけるイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとの質量比は、25:75~55:45の範囲が好ましく、30:70~50:50の範囲がより好ましく、35:65~45:55の範囲が特に好ましい。
【0049】
また、A層におけるイオン伝導性の炭化水素ポリマーの分散径を比較的小さくするという観点から、電解質膜は示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満であることが好ましい。上記結晶融解ピーク(Tm)は160℃未満がより好ましく、150℃未満でさらに好ましく、特に140℃未満が好ましく、135℃未満が最も好ましい。詳細は後述する。
【0050】
本発明の電解質膜は、A層の表層にイオン伝導性の炭化水素系ポリマーが実質的に存在しないことが好ましい。具体的には、A層の厚みを(t1)とし、表層からA層中の炭化水素ポリマーまでの最短距離を(t2)とした場合に、下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0051】
(t1)-(t2)>0 ・・・(1)
ここで、A層の表層にはイオン伝導性の炭化水素系ポリマーが実質的に存在しないとは、イオン伝導性の炭化水素系ポリマーの分散径が0.1μm以上のものが存在しないことを意味する。上記(t2)は、表層から分散径が0.1μm以上のものまでの最短距離である。
【0052】
上記式(1)を満たすことにより、A層の表層にイオン伝導性の炭化水素系ポリマーが存在しないため高電位の電極と直接電解質膜が接していても電気化学的な酸化劣化が生じ難く、長期間使用しても安定した充放電が可能となるため好ましい。また、(t1)と(t2)の関係は下記式(2)を満たすことがより好ましい。下記式(3)を満たすことがさらに好ましく、下記式(4)を満たすことが最も好ましい。
【0053】
0.3×(t1)≦(t2) ・・・(2)
0.5×(t1)≦(t2) ・・・(3)
0.8×(t1)≦(t2) ・・・(4)
すなわち、A層におけるイオン伝導性の炭化水素ポリマーの分散は、A層とB層との界面側領域に高密度で存在し、A層の表層には実質的に存在しないことが好ましい。
【0054】
上記式(1)~(4)の態様は、例えば、B層の上に、A層の塗液を塗布することによって得られる。
また、式(2)~(4)に示されているように、t1(A層の厚み)に対するt2(表層から炭化水素ポリマーまでの最短距離)の比率は大きい方が好ましいが、上記比率は、例えば、A層の塗液の溶媒、塗液の固形分濃度、塗布後の乾燥速度などを調整することによって制御することができる。例えば、A層の塗液の溶媒をB層製膜時の溶媒と同種にすることによって、塗液の固形分濃度を比較的高くすることによって、あるいは乾燥速度を比較的速くすることによって、上記比率を大きくすることができる。
【0055】
本発明の実施態様2の電解質膜は、前述の基本構成に加えて、示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満であることを特徴とする。このような本発明の電解質膜を用いることによって、長時間運転における電解質膜の劣化が抑制され耐久性が向上する。
【0056】
本発明の電解質膜は、示差走査熱量(DSC)測定での3rd runにおける最も低い結晶融解ピーク(Tm)が、160℃未満が好ましく、150℃未満がより好ましく、140℃未満がさらに好ましく、135℃未満が最も好ましい。上記結晶融解ピーク(Tm)の下限は80℃程度である。上記好ましい範囲の場合、電解質膜の劣化が抑制され耐久性が向上する。
【0057】
電解質膜の上記結晶融解ピーク(Tm)の調整は、例えば、A層に含有する非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとして結晶性のフッ素化ポリマーを使用し、この結晶性フッ素化ポリマーの融点を制御することによって行うことができる。具体的には、融点175℃未満の結晶性のフッ素化ポリマーが好ましく、融点150℃未満の結晶性のフッ素化ポリマーがより好ましく、融点135℃未満の結晶性のフッ素化ポリマーが特に好ましい。結晶性フッ素化ポリマーの融点がより低い方がA層とB層の密着性が向上する傾向にある。融点175℃未満の結晶性フッ素化ポリマーとして、例えば、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーが好ましく用いられるが、本発明はこれに限定されない。
電解質膜の上記結晶融解ピーク(Tm)が175℃未満であると、A層にイオン伝導性炭化水素ポリマーが分散しやすくなり、また、上記結晶融解ピーク(Tm)がさらに低くなるとA層におけるイオン伝導性炭化水素ポリマーの分散径が小さくなる傾向にある。
【0058】
本発明において、A層はイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーを主成分として含有することが好ましい。すなわち、イオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとの合計量がA層の全成分(固形分総量)の60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。上限は100質量%である。
【0059】
また、A層中における非イオン伝導性のフッ素化ポリマーの割合としては、A層全成分(固形分総量)の25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、35質量%が特に好ましい。また、上記割合は、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。A層中の非イオン伝導性ポリマーが上記好ましい範囲の場合、A層中のイオン伝導性が十分で、レドックスフロー電池として組み込んだ際に抵抗上昇を防ぎ、十分な充放電特性が得られる。また、イオン伝導性の炭化水素系ポリマーからなるB層との密着性が十分で、充放電中に層間での剥離などが抑制できる。
【0060】
また、前述したようにA層におけるイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとの質量比は、25:75~55:45の範囲が好ましく、30:70~50:50の範囲がより好ましく、35:65~45:55の範囲が特に好ましい。A層中のイオン伝導性ポリマーと非イオン伝導性ポリマーとの質量比が上記好ましい範囲の場合、A層中のイオン伝導性が十分で、レドックスフロー電池として組み込んだ際に抵抗上昇を防ぎ、十分な充放電特性が得られる。また、イオン伝導性の炭化水素系ポリマーからなる層との密着性が十分で、充放電中に層間での膨れや剥離などが抑制できる。
【0061】
本発明において、B層におけるイオン伝導性の炭化化水素ポリマーの含有量は、B層に含有する電解質成分(イオン伝導性ポリマー)の合計量の70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。上限は100質量%である。また、B層は、非イオン伝導性ポリマー、例えばフッ素化ポリマーや炭化水素ポリマーなどを含有することができる。この場合の非イオン性ポリマーの含有量は、イオン伝導性の炭化化水素ポリマー100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0062】
A層の厚みは、高い電力効率と長期間駆動における耐久性の観点から、1μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上15μm以下がより好ましく、3μm以上10μm以下が特に好ましい。
【0063】
B層の厚みは、高い電力効率と長期間駆動における耐久性の観点から、10μm以上300μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましく、30μm以上100μm以下が特に好ましい。
【0064】
本発明の電解質膜の厚みとしては、耐久性の観点から15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましい。一方、電圧効率の観点から、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、200μm以下が特に好ましい。電解質膜の膜厚は、溶液濃度あるいは支持基材上への塗布厚により制御することができる。
【0065】
本発明の電解質膜において、A層はB層の一方の面あるいは両面に積層することができるが、A層がB層の一方の面のみに積層することが好ましい。B層の一方の面のみにA層が積層されていることによって、電解質膜の抵抗を低く抑えながら耐久性を向上させることができる。
【0066】
本発明の電解質膜は、4価バナジウムイオン濃度1.5mol・L-1、硫酸濃度3.0mol・L-1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1,800×10-10cm/min以下であることが好ましい。より好ましくは800×10-10cm/min以下であり、さらに好ましくは300×10-10cm/min以下であり、特に好ましくは50×10-10cm/min以下であり、最も好ましくは30×10-10cm/min以下である。透過量が上記好ましい範囲であると、正極にある活物質が負極側に透過(クロスオーバー)して自己放電することはないので、電流効率が低下せず、また、充放電を繰り返した際のエネルギー効率が低下することもない。また、下限は特に限定されないが、プロトン伝導性を確保する観点からは1×10-11cm/min以上が好ましい。なお、活物質の透過量を上記の範囲内とするためには、B層にイオン伝導性の炭化水素ポリマーを使用することが好ましく、後述の化学式(1)および(2)で表される構造単位を含有することがより好ましい。
【0067】
本発明の電解質膜は、23℃×50%RHにおける引張り弾性率が0.5GPa以上であることが好ましい。より好ましくは1.0GPa以上であり、さらに好ましくは1.5GPa以上である。引張弾性率が上記好ましい範囲の場合、レドックスフロー電池に組み込む際のハンドリング性が良好となる。また、引張弾性率の上限は特に設けないが、一般的な高分子膜の引張弾性率から考えると10GPa以下が上限と考えられる。ここで、引張弾性率を0.5GPa以上とするには、B層にイオン伝導性の炭化水素ポリマーを使用することが好ましく、後述の化学式(1)および(2)で表される構造単位を含有することがより好ましい。
【0068】
本発明の電解質膜において、B層を構成するイオン導電性の炭化水素ポリマーとしては、主鎖中に芳香環を有する炭化水素系ポリマーであることが好ましい。ポリマー主鎖中に芳香環を有する炭化水素系の電解質膜としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等のポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むものであり、特定のポリマー構造を限定するものではない。
【0069】
これらのポリマーのなかでも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド等のポリマーが、機械強度、物理的耐久性、加工性および耐加水分解性の面からより好ましい。なかでも、機械強度、物理的耐久性や製造コストの面から、芳香族ポリエーテル系重合体がさらに好ましい。主鎖骨格構造のパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質を有する点から、また引張強伸度、引裂強度および耐疲労性の点から、芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーが特に好ましい。
【0070】
芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーはそのパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質があり溶液製膜に不向きであるものの、ポリマー中に保護基を含有させることにより、PEKポリマーの結晶性を低減させ、有機溶媒への溶解性を付与し溶液製膜を可能とすることができる。なお、膜状等に成形された後には、該ポリマーの分子鎖の分子間凝集力を高めるために、保護基の一部を脱保護することで、耐熱水性、引張強伸度、引裂強度や耐疲労性等の機械特性、バナジウムやチタン、マンガンなどの活物質遮断性を大幅に向上させた電解質膜をえることができる。この製造工程を経た場合に、特に本発明の高分子電解質膜は高いプロトン伝導性に加え、製膜性(加工性)、製造コストならびに耐熱水性、活物質遮断性、機械特性を両立できるという特徴を有する。
【0071】
本発明のイオン伝導性の炭化水素ポリマーは、下記式(1)および(2)で表される構造単位を含有することがより好ましい。
【0072】
【化5】
【0073】
【化6】
【0074】
ここで、Ar,Arは下記化学式(3)、Arは下記化学式(4)で表わされ、XおよびXはそれぞれ独立に、ケトン基(-(C=O)-)、エーテル基(-O-)、スルホン酸基(―SO-)、フッ化炭素含有基(-C(CF-)を表し、上記構造を複数含んでいても良い。また、Xは保護基であっても良い。Yはイオン性基を表す。有機溶媒への可溶性や膜にした際の物理的特性の観点から、XおよびXがケトン基、フッ化炭素含有基であることがより好ましく、ケトン基であることが特に好ましい。
【0075】
【化7】
【0076】
【化8】
【0077】
なお、上記構造は、2価の芳香族ジハライド化合物と2価のビスフェノール化合物の重縮合により得ることができ、これらの仕込み量比により構造単位の含有量を変更することが出来る。ここで、Y(イオン性基)は塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR (Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されずに使用することができる。これらのイオン性基はポリマー中に2種類以上含むことができ、組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。これら電解質ポリマーに対してイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法が挙げられるが、本発明はイオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法を使用する。
【0078】
ここで、Xは前記のとおり保護基であってもよく、保護基としては、有機合成で一般的に用いられる保護基があげられ、該保護基とは、後の段階で除去することを前提に、一時的に導入される置換基であり、反応性の高い官能基を保護し、その後の反応に対して不活性とするものであり、反応後に脱保護して元の官能基に戻すことのできるものである。すなわち、保護される官能基と対となるものであり、例えばt-ブチル基を水酸基の保護基として用いる場合があるが、同じt-ブチル基がアルキレン鎖に導入されている場合は、これを保護基とは呼ばない。保護基を導入する反応を保護(反応)、除去する反応を脱保護(反応)と呼称される。
【0079】
このような保護反応としては、例えば、セオドア・ダブリュー・グリーン(Theodora W. Greene)、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)、米国、ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, Inc.)、1981に詳しく記載されており、これらが好ましく使用できる。保護反応および脱保護反応の反応性や収率、保護基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において保護基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
【0080】
保護反応の具体例を挙げるとすれば、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタール、で保護/脱保護する方法が挙げられる。これらの方法については、前記「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)のチャプター4に記載されている。また、スルホン酸と可溶性エステル誘導体との間で保護/脱保護する方法、芳香環に可溶性基としてt-ブチル基を導入および酸で脱t-ブチル化して保護/脱保護する方法等が挙げられる。一般的な溶剤に対する溶解性を向上させ、結晶性を低減させるため、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が保護基として好ましく用いられる。
【0081】
保護基を導入する官能基の位置としては、ポリマーの主鎖であることがより好ましい。本発明の高分子電解質膜の材料は、パッキングが良いポリマーの主鎖部分に保護基を導入することで加工性が向上する。ここで、ポリマーの主鎖に存在する官能基とは、その官能基を削除した場合にポリマー鎖が切れてしまう官能基と定義する。例えば、芳香族ポリエーテルケトンのケトン基を削除するとベンゼン環とベンゼン環が切れてしまうことを意味するものである。より具体的には、次の(P1)~(P7)の化学式で表される構造が挙げられ、ここで示す構造の通り2価のビスフェノール化合物をモノマーとして使用することで、ポリマー鎖中に導入することができる。なお、次の化学式で示されるビスフェノール化合物を使用した場合、前記化学式(1)、(2)で示されるArの構造として考えることが出来る。また、膜として成形せしめたのちに、脱保護によりケタール部位がケトン基に変化していても問題ない。
【0082】
【化9】
【0083】
ここで、Arを2価の芳香族ジハライド化合物由来の構造、Arをイオン性基を有する芳香族ジハライド化合物由来の構造とすると、各モノマーとしては下記に示すような化合物を用いることができる。
【0084】
芳香族ジハライド化合物の具体例としては、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。中でも、製造コスト、活物質透過抑制効果の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
【0085】
また、イオン性基を有する芳香族ジハライド化合物の具体例としては、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。中でも、芳香族活性ジハライド化合物としては、製造コスト、活物質透過抑制効果の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルケトン、3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
【0086】
本発明に好ましく使用する芳香族ポリエーテル系重合体の重合方法については、実質的に十分な高分子量化が可能な方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族ジハライド化合物と2価フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。また、ハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して、第5成分を導入することも可能である。
【0087】
本発明の高分子電解質膜に好ましい材料を得るために行う、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合は、上記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させて行うことができる。重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。重合温度が上記好ましい範囲の場合、反応が十分に進む一方、ポリマー分解も起こらない。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0088】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。
【0089】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃~約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。普通の共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどが含まれる。もちろん、その沸点が用いた双極性溶媒の沸点よりも低いような共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
【0090】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5~50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。ポリマー濃度が上記好ましい範囲の場合、重合度が十分に上がる一方、反応系の粘性が適度で反応物の後処理が容易である。
【0091】
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することができる。
【0092】
本発明においては、加工性の観点から製膜段階まで保護基を脱保護させずに導入しておく必要があることから、保護基が安定に存在できる条件を考慮して、重合および精製を行う必要がある。例えば、ケタールを保護基として使用する場合には、酸性下では脱保護反応が進行してしまうため、系を中性あるいはアルカリ性に保つ必要がある。
【0093】
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではない。前記脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械強度や耐溶剤性の観点からは、膜状等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
【0094】
ポリマーに対して必要な酸性水溶液の重量比は、好ましくは1~100倍であるけれども更に大量の水を使用することもできる。酸触媒は好ましくは存在する水の0.1~50重量%の濃度において使用する。好適な酸触媒としては塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、硫酸などのような強鉱酸、及びp-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンルスホン酸などのような強有機酸が挙げられる。ポリマーの膜厚等に応じて、酸触媒及び過剰水の量、反応圧力などは適宜選択できる。
【0095】
例えば、6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で1~48時間加熱することにより、容易にほぼ全量を脱保護することが可能である。また、25℃の1N塩酸水溶液に24時間浸漬しても、大部分の保護基を脱保護することは可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、酸性ガスや有機酸等で脱保護したり、熱処理によって脱保護しても構わない。
【0096】
一般に、高電位の電極と炭化水素系ポリマーが直接触すると、電気化学的にポリマーが酸化されて劣化するおそれがある。特に、正極側の電極は高電位になるため、本発明の電解質膜をレドックスフロー電池に組み込む際には、イオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層を正極側に向けて配置することで効果的に劣化を抑制することができるため好ましい。また、A層を確認する方法としては、FT-IR ATR法により電解質膜の表裏のスペクトルを採取し、イオン伝導性のフッ素化ポリマーまたは非イオン伝導性のフッ素化ポリマー由来のピーク強度が表裏で異なっているかどうかにより確認することができる。また、電解質膜の厚み方向に切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した断面画像から、膜表面と膜内部のフッ素含有量をEDXにより元素分析を行い、膜の表面と中央部でフッ素原子濃度が異なっているかどうかによっても確認することが出来る。
【0097】
また、本発明の電解質膜には、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤あるいは離型剤、酸化防止剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【0098】
また、本発明の電解質膜には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強しても良い。
【0099】
電解質膜中のスルホン酸基の量は、スルホン酸基密度(mmol/g)の値として示すことができる。本発明における電解質膜のスルホン酸基密度は、プロトン伝導性、活物質遮断性および機械強度の点から1.0~3.0mmol/gであることが好ましく、活物質遮断性の点から1.1~2.5mmol/gであることがより好ましく、1.2~2.0mmol/gであることがさらに好ましい。スルホン酸基密度が、上記好ましい範囲であると、プロトン伝導性が高く十分な電圧効率が得られ、一方、レドックスフロー電池用電解質膜として使用する際に、含水時の機械的強度が十分である。
【0100】
ここで、スルホン酸基密度とは、乾燥した高分子電解質材料1gあたりに導入されたスルホン酸基のモル数であり、値が大きいほどスルホン酸基の量が多いことを示す。スルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定により求めることが可能である。これらの中でも測定の容易さから、元素分析法を用い、S/C比から算出することが好ましいが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは、中和滴定法によりイオン交換容量を求めることもできる。本発明の電解質膜は、後述するようにイオン性基を有するポリマーとそれ以外の成分からなる複合体である態様を含むが、その場合もスルホン酸基密度は複合体の全体量を基準として求めるものとする。
【0101】
本発明の電解質膜には本発明の目的を阻害しない範囲において、他の成分、例えば導電性若しくはイオン伝導性を有さない不活性なポリマーや有機あるいは無機の化合物が含有されていても構わない。
【0102】
本発明の電解質膜において、保護基を有する基の含有量は特に限定されるものではないが、機械特性、活物質遮断性ならびに化学的安定性の点から、より少量であることが好ましく、全て脱保護されているものが最も好ましい。保護基の含有量は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、熱重量減少測定(TGA)、昇温熱脱離-質量分析法(TPD-MS)による発生ガス分析、熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC-MS、赤外吸収スペクトル(IR)等によって測定することが可能である。電解質膜中に含有する保護基の量が多い場合には、溶剤溶解性があるため核磁気共鳴スペクトル(NMR)が保護基の定量に好適である。しかしながら、保護基の量がごく少量で溶剤不溶性である場合には、NMRで正確に定量することは困難な場合がある。そうした場合には、昇温熱脱離-質量分析法(TPD-MS)による発生ガス分析、あるいは熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC-MSが好適な定量方法となる。
【0103】
本発明の電解質膜とは、本発明の電解質材料を含有する成型体を意味する。本発明において、具体的な成型体の形状としては、膜類(フィルム、シートおよびフィルム状のものを含む)の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状、微多孔状、コーティング類、発砲体類など、使用用途によって様々な形態をとりうる。ポリマーの設計自由度の向上および機械特性や耐溶剤性等の各種特性の向上が図れることから、幅広い用途に適応可能である。特に高分子電解質成型体が膜類であるときに好適である。
【0104】
本発明の電解質膜を構成するイオン伝導性の炭化水素系ポリマーの重量平均分子量は、30万以上であることが好ましい。本発明の電解質膜を構成するポリマーの重量平均分子量が上記好ましい範囲であると、成型した膜にクラックが発生しにくく機械強度が十分で,化学安定性が良好である。本発明の電解質膜を構成するポリマーの重量平均分子量は35万以上であることがより好ましく、40万以上であることがさらに好ましく、50万以上であることが特に好ましい。一方、重量平均分子量の上限は特に制限されないが、500万以下であると、溶解性が十分であり、また溶液粘度が適度で、加工性が良好である。ここで用いた重量平均分子量Mwは、NMP溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するNMP溶媒)を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で求めた、標準ポリスチレンの分子量に対する相対的な重量平均分子量を示す。
【0105】
なお、本発明の電解質膜を構成するポリマーの化学構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030~1,045cm-1、1,160~1,190cm-1のS=O吸収、1,130~1,250cm-1のC-O-C吸収、1,640~1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸基の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル(H-NMR)により、例えば6.8~8.0ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。また、溶液13C-NMRや固体13C-NMRによって、スルホン酸基の付く位置や並び方を確認することができる。
【0106】
本発明の電解質膜は、重水素化ジメチルスルホキシドや重水素化クロロホルムに例示される一般的な有機溶剤に不溶な場合があるが、重水素化硫酸を用いれば測定が可能である。これにより、モノマー段階でスルホン化され、スルホン化位置が制御されたポリマーであるか、あるいはスルホン化位置の制御されていない後スルホン化ポリマーかを見極めることが可能である。ただし、ケトン基やスルホン基のような電子吸引性の基が隣接していない場合には、サンプル作成中や測定中にスルホン化反応が進行してしまうので、サンプルの正確なスルホン化位置を断定することが困難となる。
【0107】
B層に電解質材料として用いられるイオン伝導性の炭化水素系ポリマーは、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。B層を構成するイオン伝導性の炭化水素系ポリマーとしてランダム共重合体を用いることによって、バナジウムイオンの透過を抑制することができる。また、ランダム共重合体は、ブロック共重合体に比べてA層中での分散径が小さくなる傾向にあることから好ましい。
【0108】
B層に用いられるイオン伝導性の炭化水素系ポリマーとしては、例えば、(i)前述の式(1)および(2)で表される構造単位を含むことが好ましく、(ii)前述の式(3)および式(4)のXおよびXがケトン基であることがより好ましく、(iii)前述の式(1)および(2)のランダム共重合体であることがさらに好ましく、(iv)重量平均分子量が30万以上のランダム共重合体であることが特に好ましい。
【0109】
本発明の電解質膜は成型した後、成型体に含有される該保護基の少なくとも一部を脱保護せしめて得ることを特徴とする。膜に転化する方法に特に制限はないが、ケタール等の保護基を有する段階で、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該高分子電解質材料をNMP等の溶媒に溶解し、その溶液を支持基材、例えば、PETフィルムやガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
【0110】
製膜に用いる溶媒としては、高分子電解質材料を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、DMAc、DMF、NMP、DMSO、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。
【0111】
必要な固形分濃度に調製したポリマー溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過などに供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下が好ましい。濾過を行うことで、異物の混入を許さず、膜破れの発生を防ぎ、耐久性が十分となる。
【0112】
次いで、得られた高分子電解質膜はイオン性基の少なくとも一部を金属塩の状態にしてから熱処理することが好ましい。用いる高分子電解質材料が重合時に金属塩の状態で重合するものであれば、そのまま製膜、熱処理することが好ましい。金属塩の金属はスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。この熱処理の温度は好ましくは150~550℃、さらに好ましくは160~400℃、特に好ましくは180~350℃である。
【0113】
熱処理時間は、好ましくは10秒~12時間、さらに好ましくは30秒~6時間、特に好ましくは1分~1時間である。熱処理温度が上記好ましい範囲であると、活物質の透過抑制効果や弾性率、破断強度が十分となる。一方、膜材料の劣化を生じにくくなる。熱処理時間が上記好ましい範囲であると、熱処理の効果が十分となる。一方、膜材料の劣化を生じにくくなる。熱処理により得られた高分子電解質膜は必要に応じて酸性水溶液に浸漬することによりプロトン置換することができる。この方法で成形することによって本発明の高分子電解質膜はプロトン伝導度と活物質遮断性、ならびに機械特性、長期耐久性をより良好なバランスで両立することが可能となる。
【0114】
本発明の電解質膜は芳香族ポリエーテルケトン系重合体から構成されるポリマー溶液を上記の方法により膜状に成型後、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とするものである。この方法によれば、溶解性に乏しい低スルホン酸基量ポリマーの溶液製膜が可能となり、プロトン伝導性と活物質遮断性効果の両立、優れた機械特性、優れた寸法安定性が達成可能となる。
【0115】
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の一部または全部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではないが、例えば成型した後で、酸処理する方法が挙げられる。具体的には、成型された膜を塩酸や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については成型体への染みこみ安さ等を考慮して適宜選択することができる。例えば、6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で8時間加熱することにより、容易に脱保護することが可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、熱処理による脱保護や酸性ガスや有機酸等で脱保護しても構わない。
【0116】
本発明の電解質膜は、少なくともイオン伝導性のフッ素化ポリマーと非イオン伝導性のフッ素化ポリマーからなるA層とイオン伝導性の炭化水素ポリマーからなるB層から構成される積層膜である。その製造方法としては、特に限定されるのもではないが、例えば上記に記載した方法で形成したイオン伝導性の炭化水素系ポリマーからなるB層の上に、A層を形成する方法が挙げられる。A層を塗工する際に使用する溶媒としては、上記に記載のイオン伝導性の炭化水素系ポリマーからなるB層を形成する際に使用する溶媒と同様のものが使用することが好ましい。A層、B層の流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。また、使用する塩型の高分子電解質溶液の濃度は、3~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。溶液粘度が上記好ましい範囲の場合、溶液の滞留性が良好で、液流れが生じにくく、一方、電解質膜の表面平滑性が良好である。
【0117】
本発明の電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、イオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途に適用可能である。また、人工筋肉としても好適である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、電気化学式水素圧縮装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でもレドックスフロー電池が最も好ましい。
【0118】
本実施形態のレドックスフロー電池は、炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、を含む電解槽を有し、前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含む。活物質を含む正極電解液及び負極電解液は、例えば、正極電解液タンク及び負極電解液タンクによって貯蔵され、ポンプ等によって各セル室に供給される。
【0119】
本実施形態に係るレドックスフロー電池は、液透過性で多孔質の炭素電極(負極用、正極用)を隔膜の両側にそれぞれ配置し、押圧でそれらを挟み、隔膜で仕切られた一方を正極セル室、他方を負極セル室とし、スペーサーで両セル室の厚みを確保した構造を有するものとすることができる。押圧で挟む際に多孔質の炭素電極が圧縮されるが、この際に電解質膜も同時に変形することで電極との接触面積が増え、電極を流れる活物質と電子の移動、およびプロトンの移動をスムーズにすることにより電圧効率を向上させることを可能とする。多孔質の炭素材料としては、公知の電極を利用できる。例えば炭素繊維を主体とするもの、例えば、不織布(カーボンフェルト)やペーパーが挙げられる。カーボンフェルト製の電極を利用すると、(1)電解液に水溶液を用いた場合において充電時に酸素発生電位になっても、酸素ガスが発生し難い、(2)表面積が大きい、(3)電解液の流通性に優れる、といった効果がある。中でも不織布(カーボンフェルト)と本発明の電解質膜を組み合わせることで前述した電圧効率を向上させる上で好ましい。また炭素材料の圧縮率が20%以上70%未満であることが好ましい。
【0120】
バナジウム型レドックスフロー電池の場合、正極セル室には、バナジウム4価(V4+)及び同5価(V5+)を含む硫酸電解液からなる正極電解液を、負極セル室には、バナジウム3価(V3+)及び同2価(V2+)を含む負極電解液を流通させることにより、電池の充電及び放電が行われる。このとき、充電時には、正極セル室においては、バナジウムイオンが電子を放出するためV4+がV5+に酸化され、負極セル室では外路を通じて戻って来た電子によりV3+がV2+に還元される。この酸化還元反応では、正極セル室ではプロトン(H)が過剰になり、隔膜は正極セル室の過剰なプロトンを選択的に負極室に移動させ電気的中性が保たれる。放電時には、この逆の反応が進む。レドックスフロー電池の充放電における蓄電性能は、エネルギー効率によって判断することができる。低い内部抵抗と活物質の透過阻止の両方が達成された膜を用いたレドックスフロー電池では、活物質に蓄えられた電荷量が無駄なく取り出され、単位電荷量あたりの内部抵抗ロスも抑制されるため、最終的な電池の蓄電性能(エネルギー効率)が向上する。レドックスフロー電池の運転中、活物質が隔膜を通過すると、充電によって価数が変化したイオンが放電に寄与することができなくなるため、電流効率(電力効率)が減少する。本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜を利用することで、活物質の透過が抑制されるため、高い電流効率(電力効率)での運転が可能となる。
【0121】
一方、レドックスフロー電池の内部抵抗は膜のプロトン透過性に依存し、プロトン透過性が高い膜を利用することで、電池の内部抵抗が低減される。内部抵抗が低減されると、充電時には必要となる電圧が下がり、放電時にはより高電圧での運転が可能となる。 前述したとおり、本実施形態のレドックスフロー電池用隔膜は、内部抵抗を低く保ちながら活物質の透過抑制による高電流効率(高電力効率)を達成しており、最終的に得られるレドックスフロー電池のエネルギー効率が高い。
【実施例
【0122】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。また、本実施例中には化学構造式を挿入するが、該化学構造式は読み手の理解を助ける目的で挿入するものであり、ポリマーの重合成分の化学構造、正確な組成、並び方、スルホン酸基の位置、数、分子量などを必ずしも正確に表すわけではなく、これらに限定されるものでない。
(1)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、H-NMRの測定を行い、構造確認を行った。
【0123】
装置:日本電子(株)製EX-270
共鳴周波数:270MHz(H-NMR)
測定温度:室温
溶解溶媒:DMSO-d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数:16回
(2)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー(株)製HLC-8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー(株)製TSK gel Super HM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、NMP溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するNMP溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
(3)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
【0124】
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー(株)製)、L=30m、Φ=0.53mm、D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/秒)
分析条件は次のとおりとした。
【0125】
Inj.temp.:300℃
Detct.temp.:320℃
Oven:50℃×1分
Rate:10℃/分
Final:300℃×15分
SP ratio:50:1
(4)分散径、A層およびB層の厚み
電解質膜を垂直な方向に切断し、凍結超薄切片法で断面試料を作成した。画像のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色しても良い。切断面を透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立製HT7700)を用いて、加速電圧200kVの条件下で観察した。得られた写真をイメージアナライザー(Leica MICROSYSTEMS社製Leica Application Suite LAS ver4.6)に画像として取り込み、分散径が0.1μm以上の分散について各分散の外接円をとりその直径の数平均値を分散径とした。なお、分散が炭化水素ポリマーか判断つかない場合は、EDXにてフッ素元素のマッピングを行い、フッ素原子が検出されない分散を炭化水素系ポリマーとした。さらに、上記と同様の方法にてA層およびB層の厚みについて、それぞれ5カ所測定し平均した。
(5)A層の表層からA層中の炭化水素系ポリマーの距離(t2)
上記で観察したTEM-EDXの結果から、A層の表層からA層中の炭化水素系ポリマー(分散径が0.1μm以上)までの距離を5点確認し、最も小さい値を採用した。次いで、A層の厚み(t1)と(t2)が下記式を満たすかを確認した。下記式を満たす場合、表1において〇と表記した。
【0126】
(t1)-(t2)>0 ・・・(1)
(6)結晶融解ピーク温度(Tm)
電解質膜を、JIS K 7121(1987)およびJIS K 7122(1987)に準じて、測定装置には日立ハイテクノロジー株式会社 製示差走査熱量測定装置“温度変調DSC7000X”を、データ解析にはディスクセッション“SSC/5200”を用いて、下記の要領にて測定した。得られた3rd runの結果において最も低い結晶融解ピーク温度を値として採用した。
【0127】
サンプル量:10mg
昇温、降温速度:10℃/min
測定モード:ランプモード
測定プログラム:
1st run:25℃~120℃、60分ホールド
2nd run:120℃~25℃ 10分ホールド
3rd run:25℃~210℃ 0分ホールド
4th run:210℃~25℃ 10分ホールド
(7)4価バナジウムイオン透過量
H型セル間に電解質膜(6.6cm)を挟み、片側に1.5mol・L-1硫酸マグネシウム/3.5mol・L-1硫酸水溶液、もう片側に1.5mol・L-1硫酸バナジウム(IV)/3.5mol・L-1硫酸水溶液を各70mL入れた。マグネチックスターラーを用いて、25℃、300rpmで攪拌した。4日後の硫酸マグネシウム溶液中に溶出した4価のバナジウムイオン濃度をUV分光光度計((株)日立製作所製、U-3010)で765nmの吸光度を測定した。
【0128】
あらかじめ、濃度の異なる硫酸バナジウム(IV)の3.5mol・L-1硫酸水溶液を調製し、上記UV分光高度計により吸光度を測定し、濃度と吸光度の関係から得られる検量線を作成し、この検量線から透過した4価のバナジウムイオン濃度を定量した。
【0129】
次いで、下記式により4価のバナジウムイオン透過量を算出した。ここで、使用した硫酸水溶液の比重(密度)は水と同じとする。
【0130】
4価バナジウムイオン透過量(×10-10cm/分)=透過したバナジウムイオン濃度(mol)/(膜面積(cm)×透過時間(分))/1.5(×10-3mol/cm)×膜厚(cm)
(8)引張試験(ヤング率、破断点伸度、破断点強度)
以下の条件にて引張測定を行い、n=5の試験の平均値をヤング率、破断点伸度、破断点応力とした。
【0131】
測定装置:オートグラフAG-IS((株)島津製作所製)
荷重:100N
引張り速度:10mm/min
試験片:幅10mm×長さ50mm
サンプル間距離:30mm
試験環境:23℃×50%RH
試験数:n=5
(9)寸法変化率
複合電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスで製膜方向(MD)の長さと製膜方向と直交する方向(TD)の長さ(MD1とTD1)を測定した。該電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD2とTD2)を測定し、面方向におけるMD方向とTD方向の寸法変化率(λMDとλTD)および面方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式より算出した。
【0132】
λMD=(MD2-MD1)/MD1×100
λTD=(TD2-TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2
(10)イオン交換容量(IEC)
プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。次に、電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。続いて、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。最終的に、下記の式によりイオン交換容量を算出した。
【0133】
イオン交換容量(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
(11)レドックスフロー電池充放電試験
実施例および比較例で製膜した電解質膜のそれぞれにつき、充放電試験を以下のように行った。
【0134】
電解質膜を、カーボンフェルト(厚さ3.0mm)からなる2枚の炭素電極材料で挟み込み、評価用セルを組み立てた。この評価用セルは、有効電極面積50cmを有する小型のセルとしており、各極に電解液を供給するための配管を有している。各極の電解液は、セルに設けられた配管を通じて各電極を構成する炭素電極材料に供給され、この炭素電極材料内の空隙を通過することになる。
【0135】
定電流密度で充放電を繰り返し、電解質膜性能のテストを行った。充放電時の電流密度は80mA/cmとした。充電時の上限電圧は1.55V、放電時の下限電圧は1.0Vとした。正極電解液には1.7mol/Lのオキシ硫酸バナジウムの4.3mol/L硫酸水溶液を用い、負極電解液には1.7mol/Lの硫酸バナジウムの4.3mol/L硫酸水溶液を用いた。電解液量は正負極ともに50mLとした。液流量は毎分40mLとし、35℃の恒温槽内で1,000サイクルまで試験を行った。ただし、1サイクル目の放電容量を基準とし、30%容量が低下した時点で電解液をタンクから抜き取り、新品に交換して試験を行った。
【0136】
ここで、充放電テストにおいて、電極面積当たりの電流密度を80mA/cm(4,000mA)として、1.55Vまでの充電に要した電気量をQ1クーロン、1.0Vまでの定電流放電で取りだした電気量をQ2クーロンとした。また1.55Vまでの充電に要した電力量をW1とし、1.0Vまでの定電流放電で取りだした電気量をW2とした。
【0137】
そして、これらQ1、Q2、およびW1、W2を用いて、下記式に基づき5サイクル目の電流効率、電力効率、電圧効率を初期性能として求めた。また1,000サイクル後の電力効率(VE1000)を同様に求め、初期の電力効率(VE)からの低下率を下記式にて算出した。
【0138】
電流効率(CE)=Q2×100/Q1
電力効率(VE)=W2×100/W1
電圧効率(EE)=電力効率/電流効率
電力効率の低下率(%)={(VE-VE1000)/VE}×100
(12)耐久性
上記レドックスフロー電池充放電試験を800サイクルおよび1,000サイクル実施したあとにセルを解体し、電解質膜の外観を観察して以下の基準により5段階で評価を行った。Aが最良、BおよびCが良好、Dが許容レベル、Eが付加レベル。詳細は以下の通り。
A:1,000サイクルでも変化なし
B:800サイクルでは変化ないが、1,000サイクルでは軽微な膨れや剥がれが確認される。
C:800サイクルでは変化ないが、1,000サイクルでは軽度な膨れや剥がれが確認される。
D:800サイクルで軽度な膨れや剥がれが確認されるが、1,000サイクルでは白化していない。
E:800サイクルで軽度な白化があり、1,000サイクルでは重度に白化している。(電解質膜のイオン伝導性炭化水素ポリマーの劣化が進むと白化が起こり、電力効率が急速に低下する。)
(13)非イオン伝導性のフッ素化ポリマー
非イオン伝導性のフッ素化ポリマーとして、下記のポリフッ化ビニリデン(ホモポリマーまたはコポリマー)を使用した。
・PVDF2751:アルケマ社製“Kynar”(登録商標)2751:ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー
・PVDF21510:ソルベイ社製“Solef”(登録商標)21510:ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー
・PVDF7300:(株)クレハ製“クレハKFポリマー”(登録商標)#7300:ビニリデンフルオリドのホモポリマー
(14)イオン伝導性の炭化水素ポリマー
・“Nafion”(登録商標)D2020(Chemours社製)
・“Aquivion”(登録商標)D79-25BS(ソルベイスペシャリティーポリマーズ社製)
(15)イオン伝導性の炭化水素ポリマー
<合成例1>
下記一般式で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(以下、K-DHBP)の合成
【0139】
【化10】
【0140】
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して52.0gの乾燥結晶を得た。この結晶をGC分析したところ99.8%のK-DHBPと0.2%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0141】
<合成例2>
下記一般式で表されるジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成
【0142】
【化11】
【0143】
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬工業(株)試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶しジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造はH-NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
【0144】
<合成例3>ランダムコポリマーr1の合成
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP20.66g(80mmol、50mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン13.51g(32mmol、20mol%)、および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン10.47g(アルドリッチ試薬、48mmol、30mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、ランダムコポリマーr1を得た。このランダムコポリマーの重量平均分子量は41万であった。
【0145】
<合成例4>ランダムコポリマーr2の合成
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP16.53g(64mmol、40mol%)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.39g(東京化成工業(株)試薬、16mmol、10mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン13.51g(32mmol、20mol%)、および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン10.47g(アルドリッチ試薬、48mmol、30mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、ランダムコポリマーr2を得た。このランダムコポリマーの重量平均分子量は39万であった。
【0146】
<合成例5>ランダムコポリマーr3の合成
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP20.66g(80mmol、50mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン11.82g(28mmol、17.5mol%)、および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン11.35g(アルドリッチ試薬、52mmol、32.5mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、ランダムコポリマーr3を得た。このランダムコポリマーの重量平均分子量は40万であった。
<合成例6>ブロックコポリマーb1の合成
(下記一般式で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、K-DHBP25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、NMP300mL、トルエン100mL中にて160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10,000であった。
【0147】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、NMP100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は11,000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値10,400と求められた。
【0148】
【化12】
【0149】
(下記一般式で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、K-DHBP12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、ジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18-クラウン-6、17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、NMP300mL、トルエン100mL中にて170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16,000であった。
【0150】
【化13】
【0151】
(上記式において、Mは、NaまたはKを表す。)。
【0152】
(イオン性基を含有するセグメント(A1)としてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するブロックポリマーb1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ヒドロキシル基)16g(1mmol)を入れ、窒素置換後、NMP100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は34万であった。
(実施例1)
合成例3で得られたイオン伝導性の炭化水素ポリマーをNMPに14質量部溶解させたポリマー溶液を調製し、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過を行った。
【0153】
上記で得られたポリマー溶液をダイコーターでポリエチレンテレフタレート基材上に流延塗布し、115℃で10分、150℃で10分乾燥し、ポリケタールケトン膜を得た。次いで、10質量%硫酸水溶液に25℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、B層を得た。
【0154】
“Nafion”(登録商標)(市販のChemours社製D2020溶液をNMP置換して使用)とPVDF2751をNMPに溶解した溶液A(固形分比率:“Nafion”/PVDF=40質量%/60質量%、固形分濃度10質量%)を、上記で得られたB層の片面にダイコーターを用いて塗布した。次いで80℃で10min、100℃で5min、120℃で5min乾燥した後、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、室温乾燥することでA層を作製し、電解質膜(膜厚55μm)を得た。膜の特性を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
(実施例2~15)
B層に使用するイオン伝導性の炭化水素系ポリマーの種類、B層の厚み、A層の厚み、A層に使用するPVDFの種類および(“Nafion”または“Aquivion”)/(PVDF)の比率を表1および表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。膜の特性を表1および表2に併せて示す。
【0157】
【表2】
【0158】
(実施例16)
合成例4で得られたイオン伝導性の炭化水素ポリマーを90質量%、PVDF7300を10質量%となるようにNMPに溶解し溶解させたポリマー溶液を調製し、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過を行った。上記で得られたポリマー溶液を実施例1と同じ方法でB層を得た。
【0159】
“Nafion”(登録商標)(市販のChemours社製D2020溶液をNMP置換して使用)とPVDF21510をNMPに溶解した溶液A(固形分比率:Nafion/PVDF=40質量%/60質量%、固形分濃度10質量%)を、上記で得られたB層の片面にダイコーターを用いて塗布した。次いで80℃で10min、100℃で5min、120℃で5min乾燥した後、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、室温乾燥することでA層を作製し、電解質膜(膜厚55μm)を得た。膜の特性を表2に併せて示す。
(比較例1)
合成例3で得られたポリマーを用いて実施例1に記載の方法と同様にしてB層を作製し、B層のみからなる電解質膜を得た。膜の特性を表2に併せて示す。
【符号の説明】
【0160】
P:イオン伝導性の炭化水素ポリマー
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、レドックスフロー電池、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、レドックスフロー電池向けの隔膜として好適であり、特にバナジウムを活物質とするレドックスフロー電池に好適に用いることができる。
【0162】
本発明の電解質膜を用いてなるレドックスフロー電池は、太陽光発電や風力発電により生成された電力を貯蔵する2次電池として好ましく用いられる。
図1