(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
A61M1/16 110
A61M1/16 117
(21)【出願番号】P 2021563935
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045383
(87)【国際公開番号】W WO2021117654
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2019225071
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 翔
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-19497(JP,A)
【文献】特開平9-10300(JP,A)
【文献】特開2018-42624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14-1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側に向けて血液が流れる血液回路に組み込まれた血液浄化器と、
前記血液浄化器内に透析液を供給する透析液管路と、
前記血液浄化器から排出された排液を流す排液管路と、
前記透析液管路に設けられ、前記透析液管路を流れる前記透析液を送り出す給液機構と、
前記排液管路に設けられ、前記排液管路を流れる前記排液を送り出す排液機構と、
前記排液管路を流れる前記排液における監視対象成分の濃度を監視する監視装置とを備え、
除水量が設定値に達する前であって、前記監視装置によって前記監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出されていないとき、前記給液機構および前記排液機構を駆動させて透析しつつ除水が行なわれ、
除水量が前記設定値に達する前であって、前記監視装置によって前記監視対象成分の濃度が前記閾値以下になっていることが検出されているとき、前記給液機構を停止しつつ前記排液機構を駆動させて除水する限外ろ過が行なわれ、
除水量が前記設定値に達したとき、前記給液機構および前記排液機構を停止させる、血液浄化装置。
【請求項2】
前記監視対象成分が尿素である、請求項1に記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体外限外ろ過法(ECUM:extracorporeal ultrafiltration method)を行なう血液浄化装置を開示した先行文献として、特開2018-42624号公報(特許文献1)がある。
【0003】
特許文献1に記載された血液浄化装置は、ダイアライザと、透析液導入ラインと、透析液排出ラインと、除水ポンプとを備える。ダイアライザは、血液回路を流れる血液を浄化する。透析液導入ラインは、ダイアライザに透析液を導入し得る。透析液排出ラインは、ダイアライザからの排液を排出し得る。除水ポンプは、血液回路を流れる血液から除水し得る。血液浄化装置は、ダイアライザに対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプを駆動させて除水する限外ろ過治療を行なうことが可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された血液浄化装置は、限外ろ過治療時の途中で補液を行なえる、または、限外ろ過治療後に直ちに返血を行なえるものであり、透析と限外ろ過とを切り替えるタイミングについては考慮されていない。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、血液中の物質を必要以上に除去することを抑制しつつ設定量の除水を行なうことができる、血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づく血液浄化装置は、血液浄化器と、透析液管路と、排液管路と、給液機構と、排液機構と、監視装置とを備える。血液浄化器は、上流側から下流側に向けて血液が流れる血液回路に組み込まれている。透析液管路は、血液浄化器内に透析液を供給する。排液管路は、血液浄化器から排出された排液を流す。給液機構は、透析液管路に設けられ、透析液管路を流れる透析液を送り出す。排液機構は、排液管路に設けられ、排液管路を流れる排液を送り出す。監視装置は、排液管路を流れる排液における監視対象成分の濃度を監視する。除水量が設定値に達する前であって、監視装置によって監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出されていないとき、給液機構および排液機構を駆動させて透析しつつ除水が行なわれる。除水量が上記設定値に達する前であって、監視装置によって監視対象成分の濃度が上記閾値以下になっていることが検出されているとき、給液機構を停止しつつ排液機構を駆動させて除水する限外ろ過が行なわれる。除水量が上記設定値に達したとき、給液機構および排液機構を停止させる。
【0008】
本発明の一形態においては、監視対象成分が尿素である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血液中の物質を必要以上に除去することを抑制しつつ設定量の除水を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係る血液浄化装置の構成を示す回路図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る血液浄化装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る血液浄化装置について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。以下の実施形態の説明においては、血液浄化装置として、一般的な血液透析法(hemodialysis:HD)に用いられる血液浄化装置について説明する。但し、血液浄化装置は、血液透析ろ過法(hemodiafiltration:HDF)、持続緩徐式血液浄化療法(Continuous Renal Replacement Therapy:CRRT)、持続的血液濾過透析法(continuous hemodiafiltration:CHDF)、持続的血液ろ過法(continuous hemofiltration:CHF)、および、持続的血液透析法(continuous hemodialysis:CHD)のいずれかに用いられる血液浄化装置であってもよく、持続的な療法またはアフェレシス療法などに用いられることが好ましい。
【0012】
図1は、本発明の実施形態1に係る血液浄化装置の構成を示す回路図である。
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る血液浄化装置100は、血液浄化器120と、透析液管路140と、排液管路150と、給液機構161と、排液機構162と、監視装置170とを備える。血液浄化装置100は、透析液供給源130および制御部をさらに備える。制御部は、給液機構161、排液機構162および監視装置170の各々と電気的に接続されている。制御部は、監視装置170から入力された検出結果に基づいて、給液機構161および排液機構162の各々の動作を制御する。
【0013】
血液浄化器120は、たとえば中空糸膜からなる半透膜を内部に含んでいる。血液浄化器120は、血液入口121および血液出口122を有している。血液入口121には、血液回路110の上流側が接続されている。血液出口122には、血液回路110の下流側が接続されている。
【0014】
血液回路110には、血液を送り出す血液ポンプ111が設けられている。血液回路110の上流側から下流側に向けて血液が流れる。血液浄化器120は、血液回路110に組み込まれている。
【0015】
血液浄化器120は、透析液入口124および排液出口123をさらに有している。透析液入口124には、透析液管路140が接続されている。排液出口123には、排液管路150が接続されている。
【0016】
透析液管路140の上流端は、透析液を供給する透析液供給源130と接続されている。透析液管路140には、透析液を設定流量Qdで送り出す給液機構161が接続されている。給液機構161は、ベリスタルティック式ポンプであるが、ローラ式ポンプであってもよい。透析液管路140を流れた透析液は、血液浄化器120内に供給される。
【0017】
排液管路150の下流端から、血液浄化器120から排出された排液が排出される。排液管路150には、排液管路150を流れる排液を設定流量Quで送り出す排液機構162が接続されている。排液機構162は、ベリスタルティック式ポンプであるが、ローラ式ポンプであってもよい。
【0018】
給液機構161の構成は、透析液管路140を流れる透析液を送液可能な構成であれば、特に限定されない。排液機構162の構成は、排液管路150を流れる排液を送液可能な構成であれば、特に限定されない。たとえば、給液機構161および排液機構162は、ダブルチャンバ方式、ビスカス方式または複式ポンプ方式などの密閉式容量制御方式によって、血液浄化器120への新鮮透析液の流入および血液浄化器120からの使用済み透析液の排出を実行するものでもよい。これらの方式においては、透析液管路140および排液管路150の各々に、ポンプ、および、開閉弁または逆止弁が接続されている。
【0019】
ビスカス方式の給液機構161および排液機構162は、たとえば、新鮮透析液室と排液室とビスカス室とを含む2つのビスカスチャンバを用いて、ポンプにて2つのビスカス室にシリコーンオイルを出し入れすることにより、新鮮透析液の供給と排液の排出とを行なう構成でもよい。したがって、給液機構161および排液機構162の各々の駆動は、ポンプの駆動、および、開閉弁の開閉駆動の少なくとも一方により行なわれる。
【0020】
監視装置170は、排液管路150を流れる排液における監視対象成分の濃度を監視する。本実施形態においては、監視対象成分が尿素である。ただし、監視対象成分は、尿素に限られず、β2ミクログロブリン、クレアチニンまたは尿酸などであってもよい。
【0021】
監視装置170は、たとえば、排液の紫外線吸光度変化を連続測定することにより、吸光度変化に相関のある血中尿素窒素の変化から排液中の尿素濃度の推移を算出する。監視装置170の測定は、連続測定に限られず、一定間隔での測定であってもよい。また、監視装置170の測定対象は、紫外線吸光度に限られず、示差屈折率などでもよい。
【0022】
以下、本実施形態に係る血液浄化装置100の動作について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る血液浄化装置の動作を示すフローチャートである。まず、制御部によって、除水量、除水速度および監視対象成分の濃度の閾値が設定される。除水速度が設定値となるように、制御部によって、透析液の設定流量Qdと排液の設定流量Quとが決定される。除水速度は、Qd-Quである。
【0023】
次に、
図2に示すように、制御部からの信号により、設定流量Qdとなるように給液機構161が駆動開始されるとともに、設定流量Quとなるように排液機構162が駆動開始される(工程S1)。また、血液ポンプ111が駆動開始される。これにより、血液浄化器120に透析液が供給され、透析しつつ除水が行なわれる。
【0024】
次に、制御部は、除水量が設定値未満であるか判断する(工程S2)。除水量が設定値未満である場合、制御部は、監視装置によって排液における監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出されているか確認する(工程S3)。
【0025】
監視装置によって排液における監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出された場合、制御部は、給液機構161を停止しつつ排液機構162を駆動させる(工程S4)。これにより、血液浄化器120への透析液の供給を停止しつつ除水する限外ろ過が行なわれる。その結果、血液浄化器120における拡散を行なうことなく除水のみ行なうことができるため、血液中の尿素、β2ミクログロブリンおよびクレアチニンなどを必要以上に除去することを抑制することができる。
【0026】
監視装置によって排液における監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出されていない場合、工程S2に戻る。工程S4において限外ろ過が開始された後、工程S2に戻る。
【0027】
除水量が設定値に達した場合、制御部は、給液機構161および排液機構162を停止させる(工程S5)。これにより、設定量の除水を行なうことができる。
【0028】
上記のように、本実施形態に係る血液浄化装置100においては、除水量が設定値に達する前であって、監視装置170によって監視対象成分の濃度が閾値以下になっていることが検出されていないとき、給液機構161および排液機構162を駆動させて透析しつつ除水が行なわれる。除水量が上記設定値に達する前であって、監視装置170によって監視対象成分の濃度が上記閾値以下になっていることが検出されているとき、給液機構161を停止しつつ排液機構162を駆動させて除水する限外ろ過が行なわれる。除水量が上記設定値に達したとき、給液機構161および排液機構162を停止させる。これにより、血液中の物質を必要以上に除去することを抑制しつつ設定量の除水を行なうことができる。
【0029】
尿素は、分子量が小さいため血液中に略均等に存在しており、監視対象成分を尿素にすることにより、血液中の尿毒素の除去状態を精度よく把握することができる。尿素の濃度の上記閾値をたとえば20mg/dLに設定することにより、透析患者の血液中の尿素の濃度を健常な人と同程度に維持することができる。
【0030】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0031】
100 血液浄化装置、110 血液回路、111 血液ポンプ、120 血液浄化器、121 血液入口、122 血液出口、123 排液出口、124 透析液入口、130 透析液供給源、140 透析液管路、150 排液管路、161 給液機構、162 排液機構、170 監視装置。