(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/045 20060101AFI20240509BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240509BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240509BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B41J2/045
B41J2/18
B41J2/01 401
B41J2/19
(21)【出願番号】P 2021569689
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2020000650
(87)【国際公開番号】W WO2021140646
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉持 裕介
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-313884(JP,A)
【文献】特開2016-203556(JP,A)
【文献】特開平10-114081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0207317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する少なくとも1つのインクジェットヘッドと、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第1圧力源と、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第2圧力源と、
制御部と、を備え、
前記第1圧力源、前記圧力室、および前記第2圧力源は、流路によって順次接続され、
前記インクジェットヘッドにおいて、前記流路は、前記圧力室を通る流路と、前記圧力室を通らない流路と、に分岐し、
循環流量により前記第1圧力源から前記ノズルまでに生じる圧損をΔPa、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数をa、ノズル開口近傍に生じる適正圧力をPnとするとき、前記制御部は、P2={Pn-(1―a)P1}/aの関係が成立するよう圧力を制御するインクジェット記録装置。
【請求項2】
差圧(P1-P2)が0〔Pa〕である非循環時に前記ノズルからインクが溢れるP1の限界値をP11、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時に前記ノズルからインクが溢れる時のP1の限界値をP12とするとき、ΔPa=|P12-P11|の関係を有する請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記ノズルからインクを吐出したときに生じる圧損をΔPb、前記ノズルの径をd、インクの表面張力をσとするとき、Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、-(4σ/d-a(P1-P2)-ΔPb)より大きい値である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
循環時で非吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP13、循環時で吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP14とするとき、ΔPb=|P14-P13|の関係を有する請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する少なくとも1つのインクジェットヘッドと、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第1圧力源と、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2〔Pa〕 が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第2圧力源と、
前記第1圧力源、前記圧力室、および前記第2圧力源は、流路によって順次接続されたインクジェット記録装置を製造するにあたり、
循環流量により前記第1圧力源から前記ノズルまでに生じる圧損をΔPaとして、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数aを求め、
ノズル開口近傍に生じる適正圧力をPnとして、P2={Pn-(1―a)P1 }/aの関係が成立するように設計するインクジェット記録装置の製造方法。
【請求項6】
差圧(P1-P2)が0〔Pa〕である非循環時に前記ノズルからインクが溢れるP1の限界値をP11、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時に前記ノズルからインクが溢れる時のP1の限界値をP12として、
差圧(P1-P2)を任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP11及びP12を求め、
ΔPa=|P12-P11|の関係によりΔPaを算出し、さらに差圧(P1-P2)とΔPaとの相関からaを求める請求項5に記載のインクジェット記録装置の製造方法。
【請求項7】
前記ノズルからインクを吐出したときに生じる圧損をΔPb、前記ノズルの径をd、インクの表面張力をσとして、Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、-(4σ/d-a(P1-P2)-ΔPb)より大きい値とする請求項5又は請求項6に記載のインクジェット記録装置の製造方法。
【請求項8】
循環時で非吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP13、循環時で吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP14として、
差圧(P1-P2)を0でない任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP13及びP14を求め、
ΔPb=|P14-P13|の関係により、ΔPbを求める請求項7に記載のインクジェット記録装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドを通してインクを循環させ、そのインクジェットヘッドのノズルからインクを吐出するインクジェット装置が知られている。
特許文献1に記載の発明にあっては、ノズルの開口近傍におけるインクの圧力を常に適正圧力に維持するために、インク流路におけるノズルへの分岐点から上流側と下流側の流路抵抗の比を用いて、上流側の圧力源(P1)と、下流側の圧力源(P2)と、ノズルの開口近傍におけるインクの適正圧力(Pn)との関係を、提案の関係式に従って保持し、適正圧力(Pn)を大気圧以下とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のP1,P2,Pnの関係式は、上流側の圧力源(P1)から下流側の圧力源(P2)までのインク流路が分岐していない
図4に示すような流路構造に限られる。
例えば、
図5に示すように、ノズルNを通る流路(流路抵抗R4,R5)と、ノズルNを通らない流路(流路抵抗R3)とに分岐するインク流路により、上流側の圧力源(P1)と下流側の圧力源(P2)とが繋がれている流路構造では、特許文献1に記載のP1,P2,Pnの関係式は成立しない。
特許文献1に記載の手法によると、以上のように流路構造が異なったインクジェットヘッドごとに、P1,P2,Pnの関係式を求める必要が生じる。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、インクジェット記録装置において、流路構造に依らず、容易にノズル開口近傍のインク圧力を適正に維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する少なくとも1つのインクジェットヘッドと、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第1圧力源と、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第2圧力源と、
制御部と、を備え、
前記第1圧力源、前記圧力室、および前記第2圧力源は、流路によって順次接続され、
前記インクジェットヘッドにおいて、前記流路は、前記圧力室を通る流路と、前記圧力室を通らない流路と、に分岐し、
循環流量により前記第1圧力源から前記ノズルまでに生じる圧損をΔPa、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数をa、ノズル開口近傍に生じる適正圧力をPnとするとき、前記制御部は、P2={Pn-(1―a)P1}/aの関係が成立するよう圧力を制御するインクジェット記録装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、差圧(P1-P2)が0〔Pa〕である非循環時に前記ノズルからインクが溢れるP1の限界値をP11、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時に前記ノズルからインクが溢れる時のP1の限界値をP12とするとき、ΔPa=|P12-P11|の関係を有する請求項1に記載のインクジェット記録装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記ノズルからインクを吐出したときに生じる圧損をΔPb、前記ノズルの径をd、インクの表面張力をσとするとき、Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、-(4σ/d-a(P1-P2)-ΔPb)より大きい値である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、循環時で非吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP13、循環時で吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP14とするとき、ΔPb=|P14-P13|の関係を有する請求項3に記載のインクジェット記録装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する少なくとも1つのインクジェットヘッドと、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第1圧力源と、
前記インクによって前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2〔Pa〕 が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する第2圧力源と、
前記第1圧力源、前記圧力室、および前記第2圧力源は、流路によって順次接続されたインクジェット記録装置を製造するにあたり、
循環流量により前記第1圧力源から前記ノズルまでに生じる圧損をΔPaとして、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数aを求め、
ノズル開口近傍に生じる適正圧力をPnとして、P2={Pn-(1―a)P1 }/aの関係が成立するように設計するインクジェット記録装置の製造方法である。
【0011】
請求項6記載の発明は、差圧(P1-P2)が0〔Pa〕である非循環時に前記ノズルからインクが溢れるP1の限界値をP11、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時に前記ノズルからインクが溢れる時のP1の限界値をP12として、
差圧(P1-P2)を任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP11及びP12を求め、
ΔPa=|P12-P11|の関係によりΔPaを算出し、さらに差圧(P1-P2)とΔPaとの相関からaを求める請求項5に記載のインクジェット記録装置の製造方法である。
【0012】
請求項7記載の発明は、前記ノズルからインクを吐出したときに生じる圧損をΔPb、前記ノズルの径をd、インクの表面張力をσとして、Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、-(4σ/d-a(P1-P2)-ΔPb)より大きい値とする請求項5又は請求項6に記載のインクジェット記録装置の製造方法である。
【0013】
請求項8記載の発明は、循環時で非吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP13、循環時で吐出時に前記ノズルから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP14として、
差圧(P1-P2)を0でない任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP13及びP14を求め、
ΔPb=|P14-P13|の関係により、ΔPbを求める請求項7に記載のインクジェット記録装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インクジェット記録装置において、流路構造に依らず、容易にノズル開口近傍のインク圧力を適正に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の主要構成を示した模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係り、第1圧力源と第2圧力源との差圧と、循環流量により第1圧力源からノズルまでに生じる圧損との比例関係を示したグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る圧力チャートである。
【
図4】従来の一例のインクジェットの流路構造を示す模式図である。
【
図5】従来の他の一例のインクジェットの流路構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0017】
図1に示すように本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド10と、インク供給部20と、制御部30と、搬送駆動部40とを備える。
インクジェットヘッド10は、ノズルNと、ノズルNに連通する圧力室11とを有し、この圧力室11に連通するインクを、圧電素子等の駆動素子の作用によりノズルNから吐出して、記録媒体に対して画像などを記録する記録動作等を行う。インクジェットヘッド10は、少なくとも1つ備えられるが、複数備えてもいてもよい。ノズルNの開口近傍に生じる圧力をPnとする。
【0018】
搬送駆動部40は、インクジェットヘッド10によって画像が記録される対象の記録媒体を当該インクジェットヘッド10のノズルNに対して相対移動させる。
【0019】
インク供給部20は、第1圧力源21と、第2圧力源22とを有する。
第1圧力源21は、第1流路12に連通し、インクによってノズルNの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1〔Pa〕が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する部分である。
第2圧力源22は、第2流路13に連通し、インクによってノズルNの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2〔Pa〕 が生じるようにインクの単位体積当たりのエネルギーを調整する部分である。
第1圧力源21及び第2圧力源22の具体的構成としては、ノズルNの開口高さ位置を基準に所定の高さに置かれたインク室に相当し、該インク室に対するインクの流入又は流出の制御、インク室内の液面に負荷される気圧の制御とを行うためのインクタンク、ポンプ、制御弁、センサー等を有した構成を挙げることができる。
【0020】
制御部30は、CPU31(Central Processing Unit)と、記憶部32とを備え、インクジェット記録装置1の各種動作を統括制御する。制御対象のインクジェット記録装置1の動作には、インクの供給及び循環、画像記録動作及びインクジェットヘッド10のメンテナンス動作などが含まれる。CPU31は、各種演算を行って制御処理を実行する。記憶部32は、例えば、RAM(Random Access Memory)と不揮発性メモリーを含む。RAMは、CPU31に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。不揮発性メモリーは、各種制御プログラム及び設定データを記憶、保持する。不揮発性メモリーは、例えば、フラッシュメモリーであり、HDD(Hard Disk Drive)などが含まれてもよい。
【0021】
図1に示す流路構造は一例であるが以下の通りに構成されている。
第1圧力源21は、第1流路12、第4流路15を介して圧力室11に接続されている。圧力室11は、第5流路16、第2流路13を介して第2圧力源22に接続されている。第1流路12と第4流路15との接続点と、第2流路13と第5流路16との接続点とが、第3流路14により圧力室11を通らずに接続されている。
第3流路14の流量をQ1、第4流路15及び第5流路16の流量をQ2とすると、第1流路12の流量及び第2流路13の流量は(Q1+Q2)となる。第1流路~第5流路の流路抵抗R1~R5を図示する。なお、第1流路12及び第2流路13には、ヘッド10と圧力源とを繋ぐヘッド外流路も含まれる(
図4,5において同じ)。
しかしながら、本発明ではPnを適正圧力に保つために、これらの流路抵抗R1~R5を用いないし、以上説明した流路構造もこれに限定されるものではなく、例えば、
図4に示した流路構造のほか、様々な流路構造に対して適用することができる。
【0022】
制御部30は、Pnを適正圧力に保つために圧力P1,P2を次のように制御する。
すなわち、循環流量により第1圧力源21からノズルNまでに生じる圧損をΔPa、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数をa、ノズルNの開口近傍に生じる適正圧力をPnとするとき、制御部30は、P2={Pn-(1―a)P1 }/a ・・・(3)の関係が成立するよう圧力を制御する。制御部30は、P1,P2の値を異なる値に可変制御する場合、式(3)を適用して制御する。制御部30は、Pnが適正範囲にあり、式(3)の関係を満たすP1,P2の値のうち、差圧(P1-P2)が大きく、従って流速が大きいP1,P2の値と、差圧(P1-P2)が小さく、従って流速が小さいP1,P2の値との間で可変制御する。
【0023】
Pnは、P1からの圧損ΔPaがあるため、式(1)が成り立つ。
Pn=P1-ΔPa ・・・(1)
差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数をaとするとの定義を式で表すと式(2)となる。
ΔPa=a(P1-P2) ・・・(2)
【0024】
式(1)へ式(2)を代入して、
Pn=P1-a(P1-P2)=(1-a)P1+aP2
さらに変形して、P2={Pn-(1―a)P1 }/a ・・・(3)
【0025】
ΔPaは、以下の関係を有する。
すなわち、差圧(P1-P2)が0〔Pa〕である非循環時にノズルNからインクが溢れるP1の限界値をP11、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時にノズルNからインクが溢れる時のP1の限界値をP12とするとき、
ΔPa=|P12-P11| ・・・(4)の関係を有する。
この関係を利用して、差圧(P1-P2)とΔPaとの比例定数aを、実験等による試行により求める。
図2に、差圧(P1-P2)と圧損ΔPaとの比例関係を示したグラフを示す。
差圧(P1-P2)を任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP11及びP12を求める。
差圧(P1-P2)を0に保持してP1を高めていったとき(P2も同じ値で高めてったとき)、ノズルNからインクが溢れる限界を向かえるから、その時のP1の値をP11とする。
差圧(P1-P2)を0でない複数の任意の値に保持してP1を高めていったとき、ノズルNからインクが溢れる限界を向かえるから、その時のP1の値をP12とする。
式(4)により、複数の差圧(P1-P2)に対応したΔPaをそれぞれ算出し、これら複数組の差圧(P1-P2)とΔPaとの相関から比例定数aを求める。
【0026】
記録動作においては、差圧(P1-P2)が0でない任意の値である循環時に、ノズルNからのインクの吐出が行われる。
ノズルNからインクを吐出したときに生じる圧損をΔPb、ノズルNの径をd、インクの表面張力をσとするとき、適正圧力Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、-(4σ/d-a(P1-P2)-ΔPb)・・・(5)より大きい値である。
また、循環時で非吐出時にノズルNから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP13、循環時で吐出時にノズルNから気泡巻き込みが発生する時のP1の限界値をP14とするとき、ΔPb=|P14-P13| ・・・(6)の関係を有する。
この関係を利用して、ΔPbを、実験等による試行により求める。
差圧(P1-P2)を0でない任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることによりP13及びP14を求める。
まず、ノズルNからの吐出を行わない時において、差圧(P1-P2)を0でない任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることにより、ノズルNから外気を引き込む程度が高まっていくとき、ノズルNから気泡巻き込みが発生する限界を向かえる。その時のP1の値をP13とする。
また、ノズルNからの吐出を行う時において、差圧(P1-P2)を0でない任意の値に保持してP1とP2の値を変化させることにより、吐出動作の反動もあってノズルNから外気を引き込む程度が高まっていくとき、ノズルNから気泡巻き込みが発生する限界を向かえる。その時のP1の値をP14とする。
式(6)により、ΔPbを求める。
ΔPbが求まったので、式(5)の値が特定され、適正圧力Pnの範囲が特定される。
制御部30は、以上のように特定された適正圧力Pnの範囲と、式(3)に従って圧力を制御する。これにより、ノズルNの開口に形成されるメニスカスが良好に保持される。
【0027】
改めて
図3の圧力チャートを参照して説明する。
図3に示す縦軸は、P1の大きさを示す。P1をインク供給側とする。その右隣の縦の帯B1は、差圧(P1-P2)が0〔kPa〕の時の、各状態の圧力範囲と、その境界(限界値)を示す。最も右側の縦の帯B2は、差圧(P1-P2)がΔPd〔kPa〕の時の、各状態の圧力範囲と、その境界(限界値)を示す。但し、ΔPd≠0
帯B1において圧力値P11より上の範囲においてはノズルNからインクが溢れる。帯B2において圧力値P12より上の範囲においてはノズルNからインクが溢れる。P12からP11の落差が、循環流量により第1圧力源21からノズルNまでに生じる圧損ΔPaに相当する。
差圧(P1-P2)が0〔kPa〕である帯B1においては、P1=P2=Pn=0〔kPa〕、すなわち、ノズルNの開口高さ位置の大気圧でノズルNからのインク溢れが生じる。
差圧(P1-P2)がΔPd〔kPa〕である帯B2においては、インクが流動するため、P1からPnまでに圧損ΔPaがある。
帯B1と帯B2とにおいて、ノズルNからのインクが溢れるという同じ現象の時の圧力P11,P12の差から圧損ΔPaを求めることができる。
【0028】
帯B2において圧力値P13は、インク吐出が無くとも、この値を下回ると気泡巻き込みが発生する限界値(静的メニスカスブレイク圧)に相当する。
帯B2において圧力値P14は、この値を下回ると、インク吐出の時には気泡巻き込みが発生する限界値(動的メニスカスブレイク圧)に相当する。
したがって、P14とP13の差が、ノズルNからインクを吐出したときに生じる圧損ΔPbに相当する。
【0029】
画像記録動作時に、ノズルNからインクを溢れさせず、インクを吐出しても、気泡巻き込みが発生しないためには、P12からP14の間の範囲にする必要がある。この範囲では、圧損ΔPa及び圧損ΔPbがあっても、ノズルNの開口に形成されるメニスカスは、表面張力による圧力4σ/dにより保持される。
しがって、適正圧力Pnは、0〔Pa〕未満、かつ、式(5)の値より大きい値である。
【0030】
インクジェット記録装置を製造するにあたり、以上のようにして比例定数a及び適正圧力Pnを求めた上で、式(3)を適用し、式(3)の関係が成立するように設計する。比例定数aについては、流路構造が同じであればインクの物性に依存しない。したがって、流路構造が同じである同種のインクジェットヘッドにつき、比例定数aを少なくとも一回調べればよい。
図3に示した圧力チャートは、画像記録動作時の差圧(P1-P2)の設定、インクの物性により異なるから、それぞれつき適正圧力Pnを求めておく。
P1,P2,Pnを、式(3)の関係を保ちつつ可変制御する制御機能を有した制御部を備えたインクジェット記録装置を製造してもよいし、稼働時に式(3)関係が成立するように動作するインク供給部を有したインクジェット記録装置を製造してもよい。
【0031】
以上説明したように本実施形態によれば、インクジェット記録装置において流路構造に依らず容易にノズル開口近傍のインク圧力を適正に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、インクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 インクジェット記録装置
10 インクジェットヘッド
20 インク供給部
21 第1圧力源
22 第2圧力源
30 制御部
40 搬送駆動部
N ノズル