(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】プリント配線板用基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20240509BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20240509BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H05K3/38 A
H05K3/18 B
B32B15/088
(21)【出願番号】P 2021573126
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001231
(87)【国際公開番号】W WO2021149610
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2020007749
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】部谷 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳世
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悠
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161016(JP,A)
【文献】特開2018-29139(JP,A)
【文献】特開2016-152405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00―43/00
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、
上記ベースフィルムの少なくとも一部の表面に設けられるとともに銅ナノ粒子を含む焼結体層と
を備え、
上記ベースフィルムが上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子を有し、
上記銅原子と結合している上記窒素原子の、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の単位面積当たりの平均数が2.6×10
18個/m
2以上7.7×10
18個/m
2以下であり、
上記平均数が、X線光電子分光分析法による上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づき測定領域が厚さ3nmの領域であると仮定して算出した平均数であるプリント配線板用基板。
【請求項2】
上記銅原子と結合している上記窒素原子の、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の単位面積当たりの平均数が3.7×10
18個/m
2以上5.1×10
18個/m
2以下である請求項1に記載のプリント配線板用基板。
【請求項3】
上記ベースフィルムの、上記焼結体層が設けられる表面の下記式1で求められる表面積増加率Sが0.3%以上8.5%以下である請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板用基板。
S=[(SB-SA)/SA]×100 ・・・式1
式1中、SAは上記ベースフィルムの表面をこの表面に平行な面へ投影した図の面積で表される投影表面積である。SBは原子間力顕微鏡により測定される上記ベースフィルムの凹凸表面に沿った実表面積である。
【請求項4】
上記表面積増加率Sが1.5%以上6.0%以下である請求項3に記載のプリント配線板用基板。
【請求項5】
上記焼結体層の酸素含有量が15.0atomic%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプリント配線板用基板。
【請求項6】
上記酸素含有量が5atomic%以下である請求項5に記載のプリント配線板用基板。
【請求項7】
上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の上記ポリイミドの全窒素原子の数に対する上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している上記窒素原子の数の割合が20%以上60%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプリント配線板用基板。
【請求項8】
上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の上記ポリイミドの全窒素原子の数に対する上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している上記窒素原子の数の割合が25%以上45%以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のプリント配線板用基板。
【請求項9】
上記焼結体層の表面であって上記ベースフィルムとは反対側の表面に設けられる無電解めっき層と、
上記無電解めっき層の表面であって上記焼結体層とは反対側の表面に設けられる電解めっき層をさらに備える請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のプリント配線板用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリント配線板用基板に関する。
本出願は、2020年1月21日出願の日本出願第2020-7749号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の金属層等の形成に水等の溶媒中に銅ナノ粒子が分散した銅ナノインクが用いられている。上記金属層は、銅ナノ粒子の焼結体を含んでおり、銅ナノインクの塗布によってベースフィルムの表面に形成された塗工膜を焼成することで形成される(特開2016-152405号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のプリント配線板用基板は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、上記ベースフィルムの少なくとも一部の表面に設けられるとともに銅ナノ粒子を含む焼結体層とを備え、上記ベースフィルムが上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子を有し、上記銅原子と結合している上記窒素原子の、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の単位面積当たりの平均数が2.6×1018個/m2以上7.7×1018個/m2以下であり、上記平均数が、X線光電子分光分析法による上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づき測定領域が厚さ3nmの領域であると仮定して算出した平均数である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るプリント配線板用基板の模式的部分断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るプリント配線板用基板の模式的部分断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るプリント配線用基板をX線光電子分光分析により測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
銅ナノインクに含まれる銅ナノ粒子は、インク中の溶存酸素や空気との接触によって酸化されやすい。また、銅ナノインクの塗布後にも銅ナノ粒子の酸化が進行し、酸化銅濃度が増加する傾向がある。このような銅ナノインクによる焼結体層は、ベースフィルムとの密着力の低下や配線部の形成不良が生じ、回路に短絡、断線、動作不良等を引き起こすおそれがある。一方で、密着力を強化しすぎると、エッチング性に劣り作業性が低下するという問題がある。
【0007】
本開示は上記事情に基づいてなされたものであり、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力が優れるとともに、エッチング性を向上できるプリント配線板用基板を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係るプリント配線板用基板によれば、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力が優れるとともに、エッチング性を向上できる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
本開示のプリント配線板用基板は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、上記ベースフィルムの少なくとも一部の表面に設けられるとともに銅ナノ粒子を含む焼結体層とを備え、上記ベースフィルムが上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子を有し、上記銅原子と結合している上記窒素原子の、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の単位面積当たりの平均数が2.6×1018個/m2以上7.7×1018個/m2以下であり、上記平均数が、X線光電子分光分析法による上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づき測定領域が厚さ3nmの領域であると仮定して算出した平均数である。
【0011】
当該プリント配線板用基板は、X線光電子分光分析法によるベースフィルムの単位面積当たりの銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数が2.6×1018個/m2以上である。これにより、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力を高めることができる。一方、銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数が7.7×1018個/m2以下であることで、銅ナノ粒子の銅原子とベースフィルムの窒素原子の結合力が適度な範囲となり、エッチング性を向上できる。従って、当該プリント配線板用基板は、上記焼結体層とベースフィルムとの密着力が優れるとともに、エッチング性を向上できる。ここで、「窒素原子の平均数」とは、上記ベースフィルムの焼結体層が積層された表面の「窒素原子の平均数」であり、X線光電子分光分析法により、上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づく。測定は、サンプルの1か所に対して100μmのプローブ径にて、幅方向に1.4mm動かす動作を1scanとし、この積算回数を10回としたときの平均のスペクトルに対してピーク分離を行い、測定領域が上記表面から厚さ3nmの領域であると仮定して算出された窒素原子の平均数をいう。
【0012】
当該プリント配線板用基板における上記ベースフィルムの単位面積当たりの上記窒素原子の平均数が3.7×1018個/m2以上5.1×1018個/m2以下であってよい。上記窒素原子の平均数が上記範囲であることで、上記焼結体層とベースフィルムとの密着力及び配線部の形成不良に対する抑制効果をより向上できる。
【0013】
当該プリント配線板用基板は、上記ベースフィルムの、上記焼結体層が設けられる表面の下記式1で求められる表面積増加率Sが0.3%以上8.5%以下であってよい。
S=[(SB-SA)/SA]×100 ・・・式1
式1中、SAは上記ベースフィルムの表面をこの表面に平行な面へ投影した図の面積で表される投影表面積である。SBは原子間力顕微鏡により測定される上記ベースフィルムの凹凸表面に沿った実表面積である。
上記ベースフィルムは焼結体層が積層されると、ベースフィルムの積層面の表面粗さが大きくなる結果、表面積が増加する。上記ベースフィルムの表面積増加率Sが0.3%以上8.5%以下であることで、上記焼結体層とベースフィルムとの密着力及び配線部の形成不良に対する抑制効果をより向上できる。
【0014】
当該プリント配線板用基板における上記ベースフィルムの表面積増加率Sが1.5%以上6.0%以下であってよい。上記ベースフィルムの表面積増加率Sが上記範囲であることで、上記焼結体層とベースフィルムとの密着力及び配線部の形成不良に対する抑制効果をさらに向上できる。
【0015】
当該プリント配線板用基板における上記焼結体層における酸素含有量が15.0atomic%以下であってよい。上記酸素含有量が上記範囲であることで、当該プリント配線板用基板は銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの密着力がより優れる。
【0016】
当該プリント配線板用基板の上記酸素含有量が5atomic%以下であってよい。上記剥離強度が上記範囲であることで、上記焼結体層とベースフィルムとの密着力及び配線部の形成不良に対する抑制効果をさらに向上できる。
【0017】
当該プリント配線板用基板において、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の上記ポリイミドの全窒素原子の数に対する上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している上記窒素原子の数の割合が20%以上60%以下であるとよい。この形態によると、銅ナノ粒子の銅原子とポリイミドの窒素原子の結合力が適度な範囲となり、エッチング性を向上できる。
【0018】
当該プリント配線板用基板において、上記ベースフィルムの上記焼結体層が設けられる上記表面の上記ポリイミドの全窒素原子の数に対する上記銅ナノ粒子の銅原子と結合している上記窒素原子の数の割合が25%以上45%以下であるとよい。この形態によると、銅ナノ粒子の銅原子とポリイミドの窒素原子の結合力が適度な範囲となり、エッチング性を向上できる。
【0019】
当該プリント配線板用基板は、上記焼結体層の表面であって上記ベースフィルムとは反対側の表面に直接又は間接に設けられる無電解めっき層と、上記無電解めっき層の表面であって上記焼結体層とは反対側の表面に設けられる電解めっき層をさらに備えてもよい。この形態により、金属層の厚みをさらに増すことができる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態に係るプリント配線板用基板について詳説する。
【0021】
<プリント配線板用基板>
図1は、一実施形態に係るプリント配線板用基板10を示す模式的部分断面図である。
図1に示すように、プリント配線板用基板10は、絶縁性を有するベースフィルム1と、上記ベースフィルム1の表面に積層される銅ナノ粒子の焼結体層2とを備える。すなわち、焼結体層2は、銅ナノ粒子を含有する上記銅ナノインクの塗工膜中の銅ナノ粒子の焼結により得られる焼結体から構成される。また、プリント配線板用基板10は、
図2のとおり、焼結体層2の表面に直接又は間接に、無電解めっき層3及び電気めっき層4をさらに備えてもよい。
図3は
図2の拡大図である。
図3のとおり、焼結体層2に含まれる銅ナノ粒子2aは粒子形状を維持している。
【0022】
[ベースフィルム]
ベースフィルム1は、ポリイミドを主成分とし、電気絶縁性を有する。ベースフィルム1は、導電パターンを形成するためのベースフィルムである。ベースフィルム1は可撓性を有していてもよい。ベースフィルム1が可撓性を有する場合、当該プリント配線板用基板10はフレキシブルプリント配線板用基板として用いることができる。ベースフィルム1がポリイミドを主成分とすることで、金属との結合力が大きく、絶縁性及び機械的強度に優れる。上記ベースフィルム1における「主成分」とは、最も含有量が多い成分であり、含有量が50質量%以上の成分をいう。本開示において、ベースフィルム1中のポリイミドの含有量は、75質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。本開示において、ベースフィルム1は実質的にポリイミドのみが含まれていてもよい。
【0023】
上記ポリイミドとしては、従来公知の方法で製造したものを用いることができる。例えば、ポリアミック酸と有機溶媒とを含むポリイミド前駆体溶液を用いて成形した後に加熱処理してイミド化を完結することでポリイミドフィルムを製造できる。また、本開示で用いるポリイミドフィルムは、配線基板などの各種基板に好適に用いることができる市販のポリイミドフィルムを用いることができる。また、ポリイミドフィルムは単層又は2層以上を積層した複層のフィルムのいずれでも良い。
【0024】
上記ポリイミドとしては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)等から選ばれる成分を主成分として含むテトラカルボン酸成分と、4,4-ジアミノジフェニルエーテル(4,4-DADE)、パラフェニレンジアミン(PPD)、3,4-ジアミノジフェニルエーテル(3,4-DADE)等から選ばれる成分を主成分として含むジアミン成分とから合成されるポリイミドが挙げられる。
【0025】
ベースフィルム1の平均厚さの下限としては、5μmであってもよく、10μmであってもよい。一方、ベースフィルム1の平均厚さの上限としては、50μmであってもよく、40μmであってもよい。ベースフィルム1の平均厚さが5μm未満であると、ベースフィルム1の絶縁強度が不十分となるおそれがある。一方、ベースフィルム1の平均厚さが50μmを超えると、当該プリント配線板が不必要に厚くなるおそれや、可撓性が不十分となるおそれがある。「平均厚さ」とは、任意の5点で計測した厚さの平均値をいう。
【0026】
[焼結体層]
焼結体層2は、ベースフィルム1の少なくとも一方の面に積層される。焼結体層2は、複数の銅ナノ粒子2aを焼成することによって得られる銅ナノ粒子2aの焼結体の層である。焼結体層2が銅ナノ粒子2aの焼結体の層であることにより、焼結体層2の導電性が高くなり、プリント配線板用基板10の導電性が向上する。また、焼結体層2を低コストで形成できる。
【0027】
上記焼結体層2は、例えば銅ナノインクをベースフィルム1の少なくとも一方の面に塗工後、塗工膜の乾燥及び焼結を行うことにより形成できる。
【0028】
焼結体層2の平均厚さの下限としては、5μmであってもよく、10μmであってもよい。
一方、焼結体層2の平均厚さの上限としては、50μmであってもよく、40μmであってもよい。焼結体層2の平均厚さが5μm未満であると、焼結体層2の絶縁強度が不十分となるおそれがある。一方、焼結体層2の平均厚さが50μmを超えると、当該プリント配線板用基板10が不必要に厚くなるおそれがある。
【0029】
〈銅ナノ粒子の銅原子と結合しているベースフィルムの窒素原子の平均数〉
ベースフィルム1は、少なくとも焼結体層2が積層される表面に、焼結体層2の銅ナノ粒子2a由来の銅原子が拡散している。拡散した銅原子のうち一部の銅原子は窒素原子と結合している。この窒素原子とは、ベースフィルムの主成分であるポリイミドに含まれる窒素原子である。上記ベースフィルム1の上記焼結体層が形成されている面の単位面積当たりの、銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している上記窒素原子の平均数の下限は、2.6×1018個/m2であってもよく、3.7×1018個/m2であってもよい。上記窒素原子の平均数の上限は、7.7×1018個/m2であってもよく、5.1×1018個/m2であってもよい。上記ベースフィルム1の単位面積当たりの上記窒素原子の平均数が2.6×1018個/m2以上であることで、銅ナノ粒子2aの焼結体層2とベースフィルム1との間の密着力を高めることができる。一方、銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の平均数が7.7×1018個/m2以下であることで、銅ナノ粒子2aの銅原子とポリイミドの窒素原子の結合力が適度な範囲となり、エッチング性を向上できる。従って、当該プリント配線板用基板10は、上記焼結体層2とベースフィルム1との密着力が優れるとともに、エッチング性を向上できる。
なお、焼結体層の酸化銅の生成を調節することにより、窒素原子と銅原子の結合数を調節できる。
【0030】
X線光電子分光分析法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とは、超高真空下で試料表面に軟X線を照射することによって光電効果により試料表面から真空中に放出された光電子の運動エネルギーを観測して、試料表面の元素組成や化学状態に関する情報を得ることができる分析法である。「窒素原子の平均数」とは、上記ベースフィルムの焼結体層が積層された表面の単位面積当たりの、銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の平均数であり、X線光電子分光分析法による上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づく。測定は、サンプルの1か所に対して100μmのプローブ径にて、幅方向に1.4mm動かす動作を1scanとし、この積算回数を10回としたときの平均のスペクトルに対してピーク分離を行い、測定領域が上記表面から厚さ3nmの領域であると仮定して算出した窒素原子の平均数をいう。
【0031】
ベースフィルム1の少なくとも焼結体層2が積層される表面におけるポリイミドの全窒素原子の数に対する上記銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の数の割合の下限としては、20%であってもよく、25%であってもよい。一方、上記銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の数の割合の上限としては、60%であってもよく、50%であってもよく、45%であってもよい。上記銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の数の割合が20%以上であることで、銅ナノ粒子2aの焼結体層2とベースフィルム1との間の密着力を高めることができる。また、酸化銅の生成に対する抑制効果が得られることによって、銅ナノ粒子2aの銅原子とポリイミドの窒素原子の結合が促進され、上記焼結体層2とベースフィルム1との間の密着力を高めることができる。一方、上記銅ナノ粒子2aの銅原子と結合している窒素原子の平均数の割合が60%以下であることで、銅ナノ粒子2aの銅原子とポリイミドの窒素原子の結合力が適度な範囲となり、エッチング性を向上できる。
なお、ここでいう「ベースフィルム1の表面におけるポリイミドの全窒素原子の数に対する銅原子と結合している窒素原子の数の割合」とは、X線光電子分光分析法による上記ベースフィルムの上記表面の測定値に基づく。なお、測定領域の厚さは表面から約3nmである。
【0032】
〈ベースフィルムの表面積増加率〉
ベースフィルム1は焼結体層2が積層されると、ベースフィルム1における焼結体層2が積層された面の表面粗さが大きくなる結果、表面積が増加する。ベースフィルム1の表面積増加率(SAD:Surface Area Difference)Sの下限としては、0.3%であってもよく、0.5%であってもよく、1.0%であってもよい。一方、上記ベースフィルム1の表面積増加率Sの上限としては、8.5%であってもよく、7.5%であってもよく、6.0%であってもよい。
【0033】
上記ベースフィルムの表面積増加率Sは、下記式1で求められる。
S=[(SB-SA)/SA]×100 ・・・式1
式1中、SAは上記ベースフィルム1の表面をこの表面に平行な面へ投影した図の面積で表される投影表面積である。SBは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)により測定される上記ベースフィルムの凹凸表面に沿った実表面積である。
【0034】
表面積増加率Sは、数値が0%に近づくほど、SBとSAとの数値に差が少なくなり、ベースフィルム1の表面が平坦であることを示している。SAで表される投影表面積とは、親水性膜の垂線方向から投影して親水性膜表面の凹凸を無視した2次元方向における見た目の面積である。表面積増加率Sは、後述するようにアルカリ処理後のベースフィルム1及び銅ナノインクの塗工膜の水分量により、所定の範囲に調節することができる。
【0035】
上記ベースフィルム1は焼結体層2が積層されると、その積層面の表面粗さが大きくなる結果、表面積が増加する。上記ベースフィルム1の表面積増加率Sが上記範囲であることで、上記焼結体層2とベースフィルム1との密着力及び配線部の形成不良に対する抑制効果をより向上できる。上記ベースフィルム1の表面積増加率Sが0.3%未満の場合、銅ナノ粒子2aの焼結体層とベースフィルムとの間の密着力を保持できないおそれがある。一方、上記ベースフィルム1の表面積増加率Sが8.5%を超えると凹凸が大きくなり、エッチング性が下がるおそれがある。
【0036】
さらに、上記ベースフィルム1の表面積増加率が上記範囲であることにより、アンカー効果といわれる物理的相互作用が大きくなることで焼結体層2とベースフィルム1との密着力が向上するとともに、配線部の形成不良に対する抑制効果も向上できる。望ましくは、上記銅原子と結合している窒素原子数と上記表面増加率が適当な範囲に調整されている場合において、密着力とエッチング性がバランスよく維持されるため、作業性実用性が向上する。
【0037】
〈焼結体層の酸素含有量〉
上記銅ナノ粒子2aの焼結体層2における酸素含有量の上限としては、15.0atomic%であってもよく、10atomic%であってもよく、5atomic%であってもよい。上記酸素含有量が15.0atomic%を超えると、銅ナノ粒子2aの焼結体層とベースフィルムとの密着力が不十分となるおそれがある。上記焼結体層2の酸素含有量は、エネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)により測定される。具体的には、焼結体層2を含む照射領域に対して電子線又はX線を照射し、この照射領域から放出される特性X線をEDSにより元素マッピング分析を行うことで、上記銅ナノ粒子2aの焼結体層2における酸素含有量を求める。
上記銅ナノ粒子2aの焼結体層2における酸素含有量の下限は0atomic%である。または、上記銅ナノ粒子2aの焼結体層2における酸素含有量は0atomic%超である。
【0038】
当該プリント配線板用基板10は、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法によりプリント配線板を製造するために用いることができる。つまり、当該プリント配線板用基板10を用いて製造されるプリント配線板は、焼結体層2をパターニングした層を含む導電パターンを有する。
【0039】
[プリント配線板用基板の製造方法]
本開示の一実施形態に係るプリント配線板用基板の製造方法は、例えば絶縁性を有するベースフィルムに上記銅ナノインクを塗工する工程(塗工工程)と、上記ベースフィルムに塗工した上記銅ナノインクの塗工膜を乾燥する工程(乾燥工程)と、上記乾燥工程後の塗工膜を焼成する工程(焼成工程)とを備える。また、本開示の一実施形態に係るプリント配線板用基板の製造方法は、上記銅ナノインクを塗工する工程の前に、上記ベースフィルムにアルカリ処理を行う工程(アルカリ処理工程)を備えていてもよい。
【0040】
(アルカリ処理工程)
アルカリ処理工程は、具体的には塗工工程の前にベースフィルムの塗工工程が行われる面にアルカリ溶液を接触させてアルカリ溶液で処理する工程と、アルカリ液を除去する工程を有する。このアルカリ処理工程により、ベースフィルムの主成分であるポリイミドを親水化し、イミド環を開環させる。本開示において、開環することにより形成されたカルボキシル基に結合している窒素原子に銅ナノ粒子の銅原子を結合させることができる。従って、ポリイミドの窒素原子と銅ナノ粒子の銅原子との結合が促進されるとともに、ベースフィルムの表面積増加率が向上する。
したがって、本開示でいうベースフィルムの窒素原子とは、主成分として含まれるポリイミドに含まれる窒素原子である。
アルカリ溶液で処理する工程では、ベースフィルムの表面にアルカリ溶液を噴きつけたり、アルカリ溶液へ浸漬させたりして、ベースフィルムの表面を処理する。アルカリ溶液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどを含む水溶液が挙げられる。
アルカリ溶液の濃度としては、例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウムの添加量が10g/L~200g/Lの範囲で用いられる。
【0041】
アルカリ処理工程で用いるアルカリ液のpHとしては、例えば10以上14以下とすることができる。また、ベースフィルムのアルカリ液との接触時間としては、例えば10秒以上4分以下とすることができる。アルカリ液の温度としては、例えば30℃以上50℃以下とすることができる。
【0042】
上記アルカリ液を除去する工程では、ベースフィルムを水洗いして、ベースフィルムの表面に付着しているアルカリ液を除去する。
【0043】
上記アルカリ液を除去する工程では、洗浄後、洗浄水を乾燥することが好ましい。ベースフィルム中の水分を蒸発させることによって、ベースフィルムの水分量が適切な範囲に維持され、酸化銅及び水酸化銅の生成を抑制できるので、銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数を良好に保つことができる。その結果、銅ナノ粒子の銅原子とポリイミドの窒素原子の結合が促進され、密着力が向上する。アルカリ処理後のベースフィルムの水分量としては、1.2質量%以上2質量%以下であってもよく、1.3質量%以上1.8質量%以下であってもよい。
【0044】
(塗工工程)
上記塗工工程では、上述の上記銅ナノインクをベースフィルムに塗工する。
【0045】
〈銅ナノインク〉
上記銅ナノインクは、銅ナノ粒子を含有する。また、上記銅ナノインクは、一般に分散剤及び分散媒をさらに含有する。
【0046】
上記銅ナノ粒子の平均粒子径の下限としては、1nmであってもよく、30nmであってもよい。一方、上記銅ナノ粒子の平均粒子径の上限としては、500nmであってもよく、100nmであってもよい。上記銅ナノ粒子の平均粒子径が1nmより小さいと、インク中での銅ナノ粒子の分散性及び安定性が低下するおそれがある。逆に、上記銅ナノ粒子の平均粒子径が500nmを超えると、銅ナノ粒子が沈殿し易くなるおそれや、インクを塗工した際に銅ナノ粒子の密度が均一になり難くなるおそれがある。平均粒子径が上記範囲である上記銅ナノ粒子を用いることで、焼結体層2の平均厚さを低減できる。その結果、小型化を促進できるプリント配線板を得ることができる。平均粒子径は、粒子径分布測定装置(例えば日機装株式会社の「マイクロトラック粒度分布計 UPA-150EX」)で測定することができる。
【0047】
上記インクにおける銅ナノ粒子の含有量の下限としては、5質量%であってもよく、8質量%であってもよく、10質量%であってもよい。一方、上記含有量の上限としては、50質量%であってもよく、45質量%であってもよく、40質量%であってもよい。上記含有量が5質量%より小さいと、後述する焼成工程において分散剤や分散媒を除去し難くなるおそれや、焼結体層2が過度に薄くなるおそれがある。逆に、上記含有量が50質量%を超えると、インク中で銅ナノ粒子が凝集しやすくなるおそれがある。
【0048】
上記銅ナノ粒子は、高温処理法、液相還元法、気相法等で製造することができる。これらの中で、液相還元法であってもよく、チタンレドックス法であってもよい。
【0049】
銅ナノ粒子の粒子径を調整する方法としては、金属化合物、分散剤、還元剤の種類及び配合割合を調整する方法、金属化合物を還元反応させる際の攪拌速度、温度、時間、pH等を調整する方法が挙げられる。
【0050】
上記分散剤は、分散媒中で析出した銅ナノ粒子を上記インク中に良好に分散させるものである。上記分散剤は、焼結体層2の劣化防止の観点から、硫黄、リン、ホウ素、ハロゲン及びアルカリを含まないものであってよい。このような分散剤としては、例えばポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の分子中にカルボン酸基を有するポリカルボン酸系の高分子分散剤、ポリビニルアルコール、スチレン-マレイン酸共重合体、オレフィン-マレイン酸共重合体、1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体等の極性基を有する高分子分散剤などを挙げることができる。
【0051】
上記分散剤の数平均分子量の下限としては、20,000であってもよく、30,000であってもよい。一方、上記数平均分子量の上限としては、300,000であってもよく、250,000であってもよい。分散剤の数平均分子量が上記範囲内であることにより、銅ナノ粒子を分散媒中に良好に分散させることができ、得られる焼結体層2を緻密でかつ欠陥のないものにすることができる。しかし、上記数平均分子量が20,000より小さいと、銅ナノ粒子の凝集を防止して分散を維持する効果が十分に得られず、焼結体層2を緻密で欠陥の少ないものにできないおそれがある。逆に、上記数平均分子量が300,000を超えると、分散剤が過度に嵩高くなり、インクの塗工後に行う熱処理において、銅ナノ粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせるおそれがある。また、分散剤が過度に嵩高くなることで、焼結体層2の膜質の緻密さが低下したり、分散剤の分解残渣が焼結体層2の導電性を低下させたりするおそれがある。
【0052】
上記分散媒は、その中で銅ナノ粒子が分散するものである。上記分散媒としては、一般的に水が用いられる。分散媒として水を用いることで、上記分散剤が十分に膨潤し、分散剤で囲まれた銅ナノ粒子が良好に分散できる。また、必要に応じて水溶性の有機溶媒をさらに用いてもよい。水溶性の有機溶媒をさらに用いることで、分散液の粘度調整及び蒸気圧調整が可能である。
【0053】
上記水の含有割合としては、銅ナノ粒子100質量部当たり20質量部以上1900質量部以下であってよい。上記水の含有割合が上記下限より小さいと、上述の分散剤の膨潤効果が不十分となるおそれがある。一方、上記水の含有割合が上記上限を超えると、インク中の銅ナノ粒子割合が少なくなり、焼結体層2の厚み及び密度が不十分となるおそれがある。
【0054】
上記有機溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールやその他のエステル類;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテルなどが挙げられる。
【0055】
上記有機溶媒の含有割合としては、銅ナノ粒子100質量部当たり30質量部以上900質量部以下が好ましい。上記水溶性の有機溶媒の含有割合が上記下限より小さいと、上述の分散液の粘度調整及び蒸気圧調整の効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記含有割合が上記上限を超えると、上述の分散剤の膨潤効果が不十分となり、インク中で銅ナノ粒子の凝集が生じ易くなるおそれがある。
【0056】
上記インクは、銅ナノ粒子と、分散剤と、分散媒である水と、必要に応じて水溶性の有機溶媒とを所定の割合で配合することで製造できる。
【0057】
ベースフィルムに銅ナノインクを塗工する方法としては、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法等の従来公知の塗工方法を用いることができる。また、例えばスクリーン印刷、ディスペンサ等によりベースフィルムの面の一部のみに銅ナノインクを塗工するようにしてもよい。
【0058】
(乾燥工程)
上記乾燥工程では、ベースフィルム上の銅ナノインクの塗工膜を乾燥させる。乾燥工程では、銅ナノインクの塗工膜に40℃~60℃の環境下で送風を吹き付けることによって塗工膜を乾燥することが好ましい。上記送風乾燥を行うことで、塗工膜の水分量が適切な範囲に維持され、酸化銅及び水酸化銅の生成を抑制できるので、銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数を良好に保つことができる。その結果、焼結時における銅ナノ粒子の銅原子とポリイミドの窒素原子の結合が促進され、密着力が向上する。塗工後の水分量としては、18g/cm2以上30g/cm2以下が好ましい。また、送風の速度としては、塗工膜を波立たせない程度とすることが好ましい。塗工膜表面での具体的な温風の風速としては、例えば5m/秒以上10m/秒以下とすることができる。また、低酸素濃度下で乾燥させることが好ましい。
【0059】
(焼成工程)
本工程では、塗工工程において塗工した銅ナノインクを焼成する。これにより、塗工された銅ナノインクに含まれる分散剤やその他の有機物が揮発及び分解して除去され、その結果残る銅ナノ粒子が焼結し相互に密着して固体接合し、ベースフィルム1の少なくとも一方の面に焼結体層2が形成される。
【0060】
本工程における加熱温度の下限としては、150℃であってもよく、200℃であってもよい。一方、上記加熱温度の上限としては、500℃であってもよく、400℃であってもよい。上記加熱温度が150℃より小さいと、ベースフィルム1と焼結体層2の密着力を十分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、上記加熱温度が500℃を超えると、ベースフィルム1が変形するおそれがある。
【0061】
なお、焼成時間については特に限定されないが、例えば30分以上600分以下の範囲で行うことができる。
【0062】
上記プリント配線板用基板の製造方法は、上記焼成工程後に形成される銅ナノインクの焼結体層に無電解めっきや電気めっきにより、さらに金属を積層して焼結体層よりもより厚い金属層を形成してもよい。
【0063】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[試験番号No.1~No.10]
[プリント配線板用基板の作製]
(アルカリ処理工程)
アルカリ溶液として、40℃の100g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用い、90秒間浸漬した後、水洗、濃度1質量%の酢酸水溶液による酸洗、水洗、乾燥をこの順で行い、ベースフィルムの一方側の面にアルカリ処理を施した。上記乾燥は、表1に記載のアルカリ処理後の乾燥条件で実施した。
【0066】
(塗工工程)
平均粒子径80nmの銅粒子及び分散剤(日本触媒社の「エポミンp-1000」)の合計と、分散媒としての水との質量比が1:3となるように混合し、銅ナノインクを製造した。次に、平均厚さ25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカの「アピカル(登録商標)NPI」)を用い、このポリイミドフィルムの片方の面に上記銅ナノインクを塗工した。
【0067】
(乾燥工程)
表1に記載の乾燥条件で、銅ナノインクの塗工膜を乾燥させた。
【0068】
(焼成工程)
次に、焼成温度350℃、焼成時間150分の条件下で乾燥して平均厚さが15μmの焼結体層を形成し、No.1~No.10のプリント配線板用基板を作製した。
【0069】
(アルカリ処理後のベースフィルム及び銅ナノインクの塗工膜の水分量)
アルカリ処理後のベースフィルム工程後の水分量は、加熱乾燥式水分計を用いて測定した。また、焼成工程前の銅ナノインクの塗工膜の水分量は、真空乾燥後の重量と乾燥後の重量との差分により算出した。
【0070】
[評価]
(銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数及び結合割合)
焼結体層積層後に、ベースフィルムの表面におけるポリイミドの窒素原子であって、銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数をX線光電子分光法により測定した。測定条件として、X線条件は、プローブ径100μm、出力100W-20kVとした。分析表面に対するX線入射角度を90°とし、光電子取り出し角を45°とした。測定装置としては、例えばULVAC-Phi社製の走査型X線光電子分光分析装置「QuanteraSXM」を用いた。得られた銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数から、さらに、ベースフィルムの表面におけるポリイミドの全窒素原子の数に対する銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の数の割合を求めた。ここでいうベースフィルムの表面とは、焼結体層が積層されたベースフィルムの表面から厚さ3nmの領域である。
図4のX線光電子分光分析によるN1s(Nの1s軌道)のスペクトル及びそのピーク分離結果を参照してより詳細に説明する。グラフの縦軸は強度(任意単位)、横軸は結合エネルギー(Binding Energy)を示す。実線はN1sのスペクトルであり、これを点線及び破線のピークでピーク分離を行っている。点線はベースフィルム中のポリイミドに由来するピーク、破線はポリイミドと銅原子の結合に由来するピークで、内側を斜線により強調している。この分離を行った2つのピークから結合に由来するピークの比率を算出することにより、結合数を求めることができる。
焼結体層積層後のベースフィルムの表面のX線光電子分光法による具体的な測定手順としては、まず、塩化第2銅2水和物50g/L及び塩酸100mL/Lを添加したエッチング液を調整する。そして、30℃の上記エッチング液に銅基板を浸漬させて銅をエッチングした後に、走査型X線光電子分光分析装置を用いて上記ベースフィルムの表面を分析した。
【0071】
(ベースフィルムの表面積増加率)
塩化鉄水溶液をエッチング液として用いて、焼結体層をエッチングにより除去したベースフィルムをサンプルとした。
測定方法:原子間力顕微鏡分析
装置名:Dimension Icon with ScanAsyst,Veeco 走査範囲:5μm×5μm
走査速度:0.2Hz
走査モード:タッピングモード
得られた3次元表面形状の像から上記ベースフィルムの凹凸表面に沿った実表面積及び上記ベースフィルムの表面を上記ベースフィルムに平行な面へ投影した図の面積で表される投影表面積を算出した。そして、上述の式1に基づいて、表面積増加率を算出した。各試料について任意に選んだ2箇所で各々1回ずつ上記測定を行い、汚染部を除いた部位の平均値を最終的な表面積比とした。
【0072】
(焼結体層の酸素含有量)
焼結体層の酸素含有量は、電子線を焼結体層に対して照射し、この照射領域から放出される特性X線をエネルギー分散型X線分光器により元素マッピング分析を行うことで、上記銅ナノ粒子の焼結体層における酸素含有量を求めた。具体的には、断面撮影に用いたエネルギー分散型X線分光器(日本電子社製JEM-2100F)を用いて、加速電圧200kVで分析することにより、ベースフィルムと金属層との界面近傍領域における銅、炭素及び酸素の含有量を測定した。
【0073】
(ベースフィルム及び焼結体層間の密着力評価)
No.1~No.10のプリント配線板用基板について、JIS-K-6854-2(1999)「接着剤-はく離接着強さ試験方法-2部:180度はく離」に準じた方法により各プリント配線板用基板について、製造直後の剥離強度を測定した。ベースフィルム及び焼結体層間の密着力についてはA~Dの4段階で評価した。上記ベースフィルム及び焼結体層間の密着力の評価基準は以下の通りとした。評価結果がA及びBの場合、良好である。評価結果を表1に示す。
A:剥離強度が8N/cm以上
B:剥離強度が5N/cm以上8N/cm未満である
C:剥離強度が3N/cm以上5N/cm未満である
D:剥離強度が3N/cm未満である
【0074】
(エッチング性)
No.1~No.10のプリント配線板用基板について、無電解めっきにより焼結体層の表面に平均厚さ0.4μmの無電解めっき層を形成した。次いで、電気銅めっきにより上記無電解めっき層の表面に平均厚さ20μmの電気銅めっき層を形成することで焼結体層、無電解めっき層及び電気銅めっき層を含む導電層を形成した。その後、ドライレジストフィルムを用い、サブトラクティブ法によりNo.1~No.10のプリント配線板用基板にフラッシュエッチング処理を行った。そして、平均回路幅25μm、平均回路間隔25μmのラインが並列に並んだテストパターンを形成してNo.1~No.10のプリント配線板を得た。
【0075】
次に、上記フラッシュエッチング処理後に走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社の「Flex-SEM1000形」)を用いて撮像し、得られた画像からNo.1~No.10のプリント配線板の配線部の裾引き量をそれぞれ10か所計測した。ここで、「裾引き」とは、回路形成工程のエッチングにより、配線部の上面から下面(ベースフィルム側)に向かって、末広がりにエッチングされ、断面形状が台形状になった配線部の上底と下底との差の値をいう。次に、上記各10か所の計測値の平均値に基づいて、裾引きの度合いを以下のA~Dの4段階で評価した。上記4段階のうち、評価結果としては、A及びBが良好である。評価結果を表1に示す。
A:裾引きがない
B:裾引きが0.5μm未満である
C:裾引きが0.5μm以上2.0μm未満である
D:裾引きが2.0μm以上である
【0076】
【0077】
表1に示すように、ベースフィルムの単位面積当たりにおける銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数が2.6×1018個/m2以上7.7×1018個/m2以下であるNo.5~No.10のプリント配線板用基板は、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力及びエッチング性が良好であった。また、これらの中でもベースフィルムの単位面積当たりの窒素原子の平均数が3.7×1018個/m2以上5.1×1018個/m2以下の範囲であるか、又はポリイミドの全窒素原子の数に対する銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の数の割合が25%以上39%以下の範囲であるNo.6~No.8のプリント配線板用基板は、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力及びエッチング性が特に優れていた。
【0078】
一方、ベースフィルムの単位面積当たりにおける銅ナノ粒子の銅原子と結合している窒素原子の平均数が2.6×1018個/m2未満であるNo.1及びNo.2のプリント配線板用基板は、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力が非常に低かった。
また、上記窒素原子の平均数が7.7×1018個/m2を超えるNo.10のプリント配線板用基板は、エッチング性が劣っていた。
【0079】
以上の結果から、当該プリント配線板用基板は、銅ナノ粒子の焼結体層とベースフィルムとの間の密着力が優れるとともに、エッチング性を向上できることが示された。
【符号の説明】
【0080】
1 ベースフィルム
2 焼結体層
2a 銅ナノ粒子
3 無電解めっき層
4 電気めっき層
10 プリント配線用基板