(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】パーキングブレーキ装置および車両
(51)【国際特許分類】
B60T 1/06 20060101AFI20240509BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20240509BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B60T1/06 G
F16D63/00 H
F16H63/34
(21)【出願番号】P 2022008599
(22)【出願日】2022-01-24
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 文生
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049809(JP,A)
【文献】国際公開第2017/129174(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/144302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/06
F16D 63/00
F16H 63/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に所定のピッチで配置される複数の歯部を有し、車輪を駆動する駆動軸と一体的に回転するパーキングギヤと、
第1係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第1係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第1係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第1パーキングポールと、
第2係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第2係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第2係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第2パーキングポールと、
を備え、
前記第1パーキングポールおよび前記第2パーキングポールのそれぞれは、同一の支持軸回りに回動可能に支持され、
前記第1パーキングポールは、前記離脱位置から前記係合位置に回動する場合、前記支持軸回りの一側に回動し、
前記第2パーキングポールは、前記離脱位置から前記係合位置に回動する場合、前記支持軸回りの他側に回動する、
前記第1係合部が係合する前記歯部に対する第1係合部のずれ量と前記第2係合部が係合する前記歯部に対する第2係合部のずれ量との間の差分は、前記所定のピッチよりも狭い、
パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
円周方向に所定のピッチで配置される複数の歯部を有し、車輪を駆動する駆動軸と一体的に回転するパーキングギヤと、
第1係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第1係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第1係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第1パーキングポールと、
第2係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第2係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第2係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第2パーキングポールと、
前記第1パーキングポールおよび前記第2パーキングポールの少なくとも一方を前記離脱位置から前記係合位置に回動させるカム部材
と、を備え、
前記第1係合部が係合する前記歯部に対する第1係合部のずれ量と前記第2係合部が係合する前記歯部に対する第2係合部のずれ量との間の差分は、前記所定のピッチよりも狭く、
前記カム部材は、軸方向の一側から前記軸方向の他側に向かって前記軸方向に対し直交する径方向に徐々に拡がる拡径部を有し、前記第1パーキングポールと前記第2パーキングポールとの間の隙間に前記軸方向の一側と前記軸方向の他側との間を往復移動可能に配置される円錐台部を備え、
前記拡径部は、前記円錐台部が前記軸方向の他側から前記軸方向の一側に移動した場合、前記第1係合部が前記歯部に係合するように、前記第1パーキングポールを前記径方向の一側へ押し出するとともに、前記第2係合部が前記歯部に係合するように、前記拡径部が前記第2パーキングポールを前記径方向の他側へ押し出す、
パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記差分は、前記所定のピッチの1/2である、
請求項1または2に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記第1パーキングポールおよび前記第2パーキングポールのそれぞれが前記係合位置と前記離脱位置との間を回動する場合、前記第1係合部および前記第2係合部のそれぞれの回動量は互いに同じである、
請求項1から3のいずれか一項に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のパーキングブレーキ装置を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パーキングブレーキ装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を停止させた状態に保つことが可能なパーキングブレーキ装置が知られている。
【0003】
例えば、車両の駆動軸と連動して回転するパーキングギヤと、パーキングポールと、傾斜面部を有するパーキングカムとを備え、シフトレバーをパーキングレンジに入れたとき、傾斜面部がパーキングポールをパーキングギヤ方向に押圧して、パーキングポールをパーキングギヤの歯部に噛み合わせることで、駆動軸を動かさないようにする。これにより、車両を停止させた状態であるパーキング状態を成立させることが可能なパーキングブレーキ装置が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、坂道などで、シフトレバーをパーキングレンジに入れるパーキング操作をした場合、パーキングギヤとパーキングポールとの位相が合わずに噛み合わず、ある程度車両が動かないと、パーキング状態を成立させることが困難となる場合があるという問題がある。
【0006】
本開示の目的は、パーキング状態を成立させる際の確実性を上げることが可能なパーキングブレーキ装置および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示におけるパーキングブレーキ装置は、
円周方向に所定のピッチで配置される複数の歯部を有し、車輪を駆動する駆動軸と一体的に回転するパーキングギヤと、
第1係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第1係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第1係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第1パーキングポールと、
第2係合部を有し、前記駆動軸を回転させないように前記第2係合部が前記複数の歯部のいずれかの歯部に係合する係合位置と前記駆動軸の回転を許容するように前記第2係合部が前記歯部から離脱する離脱位置との間を回動可能な第2パーキングポールと、
を備え、
前記第1パーキングポールおよび前記第2パーキングポールのそれぞれは、同一の支持軸回りに回動可能に支持され、
前記第1パーキングポールは、前記離脱位置から前記係合位置に回動する場合、前記支持軸回りの一側に回動し、
前記第2パーキングポールは、前記離脱位置から前記係合位置に回動する場合、前記支持軸回りの他側に回動する、
前記第1係合部が係合する前記歯部に対する第1係合部のずれ量と前記第2係合部が係合する前記歯部に対する第2係合部のずれ量との間の差分は、前記所定のピッチよりも狭い。
【0008】
本開示における車両は、上記のパーキングブレーキ装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、パーキング状態を成立させる際の確実性を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係るパーキングブレーキ装置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、パーキングレンジ位置が選択された場合の離脱位置から係合位置に回動した第1パーキングポールを示す図である。
【
図3】
図3は、パーキングレンジ位置が選択された場合の離脱位置から係合位置に回動した第2パーキングポールを示す図である。
【
図4】
図4は、走行段レンジ位置が選択された場合のアクチュエータ機構を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、パーキングレンジ位置が選択された場合のアクチュエータ機構を模式的に示す図である。
【
図6A】
図6Aは、走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
【
図6B】
図6Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
【
図7A】
図7Aは走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
【
図7B】
図7Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係の途中経過を示す図である。
【
図7C】
図7Cはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との最終的な位置関係を示す図である。
【
図8A】
図8Aは走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
【
図8B】
図8Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係の途中経過を示す図である。
【
図8C】
図8Cはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との最終的な位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の実施の形態に係るパーキングブレーキ装置を模式的に示す図である。
【0012】
本開示の実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100は、電動モータや、エンジン(内燃機関)等の動力源の回転速度を歯車などで自動的に変速して出力する自動変速機に適用される。パーキングブレーキ装置100は、パーキングレンジ位置が選択された場合、自動変速機の出力軸の回転を阻止し、また、走行段レンジ位置が選択された場合、出力軸の回転を許容する。
【0013】
図1に示すように、パーキングブレーキ装置100は、パーキングギヤ10、第1パーキングポール20、第2パーキングポール30およびアクチュエータ機構40(
図4を参照)を備える。
【0014】
パーキングギヤ10は、円周方向に所定のピッチPで配置される複数の歯部12を有する。パーキングギヤ10は、自動変速機の出力軸(不図示)と一体に回転する。出力軸は、本開示の「駆動軸」に対応する。
【0015】
図1には、X軸およびY軸が描かれている。
図1の紙面おける奥行き方向を軸方向又はX方向といい、奥側の方向を軸方向一側又は「+X方向」、手前側の方向を軸方向他側又は「-X方向」という。また、
図1において上下方向を径方向又はY方向といい、上方向を径方向一側、上側又は「+Y方向」、下方向を径方向他側、下側又は「-Y方向」という。また、
図1において、円周方向を「R方向」といい、時計回りの方向を「円周方向一側」、「正方向」又は「+R方向」という。また、
図1において、反時計回りの方向を「円周方向他側」、「逆方向」又は「-R方向」という。
【0016】
図1に、走行段レンジ位置が選択された場合の第1パーキングポールおよび第2パーキングポールのそれぞれを示す。
図2は、パーキングレンジ位置が選択された場合の離脱位置から係合位置に回動した第1パーキングポールを示す図である。
図3は、パーキングレンジ位置が選択された場合の離脱位置から係合位置に回動した第2パーキングポールを示す図である。
【0017】
第1パーキングポール20は、パーキングギヤ10の円周方向(R方向)に沿うように延在する。第1パーキングポール20における正方向(+R方向)の端部である一端部21は、支持軸20aにより支持される。第1パーキングポール20における逆方向(-R方向)の端部である他端部22には、第1凹部26が配置される。第1凹部26は、他端部22の下側縁を上側(+Y方向)に凹入する円弧状断面形状の凹部である。第1凹部26の軸方向他側(-X方向)の端位置から軸方向(X方向)中央位置までの領域26aにおける凹面の円弧の径は、一定である(
図4を参照)。また、第1凹部26の軸方向(X方向)中央位置から軸方向一側(+X方向)の端位置までの領域26bにおける凹面の円弧の径は、軸方向一側(+X方向)へ向かって徐々に大きくなる。一端部21と他端部22との間の中間部23には、第1係合部28が配置される(
図4を参照)。
【0018】
第1パーキングポール20は、支持軸20aに支持されることにより係合位置(
図2を参照)と離脱位置(
図1を参照)との間を回動可能にされる。
図2に示す係合位置においては、第1係合部28が複数の歯部12のいずれかの歯部12aと係合する。これにより、駆動軸の回転が阻止される。
図1に示す離脱位置においては、第1係合部28が歯部12aから離脱する。これにより、駆動軸の回転が許容される。なお、第1パーキングポール20は、係合位置から離脱位置に回動する方向へ付勢部材(不図示)により付勢される。
【0019】
第2パーキングポール30は、パーキングギヤ10の円周方向(R方向)に沿うように延在する。第2パーキングポール30における正方向(+R方向)の端部である一端部31と逆方向(-R方向)の端部である他端部32との間の中間部33は、支持軸20aにより回動可能に支持される。一端部31には第2係合部38が配置される。他端部32には第2凹部36が配置される。第2凹部36は、他端部32の上側縁を下側(-Y方向)に凹入する円弧状断面形状の凹部である。第2凹部36の軸方向他側(-X方向)の端位置から軸方向(X方向)中央位置までの領域36aにおける凹面の円弧の径は、一定である(
図5を参照)。また、第2凹部36の軸方向(X方向)中央位置から軸方向一側(+X方向)の端位置までの領域36bにおける凹面の円弧の径は、軸方向一側(+X方向)へ向かって徐々に大きくなる(
図5を参照)。
【0020】
第2パーキングポール30は、支持軸20aに支持されることにより係合位置(
図3を参照)と離脱位置(
図1を参照)との間を回動可能にされる。
図3に示す係合位置においては、第2係合部38が複数の歯部12のいずれかの歯部12bと係合する。これにより、駆動軸の回転が阻止される。
図1に示す離脱位置においては、第2係合部38が歯部12bから離脱する。これにより、駆動軸の回転が許容される。なお、第2パーキングポール30は、係合位置から離脱位置に回動する方向へ付勢部材(不図示)により付勢される。なお、第1パーキングポール20を付勢する付勢部材と第2パーキングポール30を付勢する付勢部材のそれぞれは、互いに同一部材であっても、別部材であってもよい。
【0021】
次に、第1係合部28および第2係合部38のそれぞれと歯部12との位置関係について
図1を参照して説明する。
第1係合部28が係合する歯部12に対する第1係合部28の円周方向(R方向)のずれ量S21と、第2係合部38が係合する歯部12に対する第2係合部38の円周方向(R方向)のずれ量S31との間の差分Zは、ピッチPの1/2である。以下の説明で、「円周方向のずれ」および「円周方向のずれ量」のそれぞれを、単に「ずれ」および「ずれ量」という。また、円周方向において隣接する歯部12,12間の歯底の位置に対して第1係合部28(又は第2係合部38)の位置が一致していることを、歯部12の位置に対して第1係合部28(又は第2係合部38)の位置が一致しているといい、円周方向において隣接する歯部12,12間の歯底の位置に対して第1係合部28(又は第2係合部38)の位置が一致していないことを、歯部12の位置に対して第1係合部28(又は第2係合部38)の位置がずれている又は一致していないという。
【0022】
次に、アクチュエータ機構40について
図4および
図5を参照して説明する。
図4は、走行段レンジ位置が選択された場合のアクチュエータ機構を模式的に示す図である。
図5は、パーキングレンジ位置が選択された場合のアクチュエータ機構を模式的に示す図である。
【0023】
図4および
図5に示すように、アクチュエータ機構40は、モータ(不図示)と、アクチュエータシャフト41と、パーキングプレート42と、連結ロッド43と、カム部材50とを備える。
【0024】
アクチュエータシャフト41は、モータの回転軸(不図示)に連結されて一体的に回転する。アクチュエータシャフト41は、走行段レンジ位置が選択された場合、正方向(+R方向)へ回転し、パーキングレンジ位置が選択された場合、逆方向(-R方向)へ回転する。
【0025】
パーキングプレート42の基端部にはアクチュエータシャフト41が固定されている。これにより、パーキングプレート42は、アクチュエータシャフト41と一体的に回転する。
【0026】
連結ロッド43は、軸方向(X方向)に延在する。連結ロッド43の軸方向一側(+X方向)の端部にはパーキングプレート42の先端部が連結されている。これにより、パーキングプレート42が正方向(+R方向)に回動した場合、
図4に示すように連結ロッド43は軸方向一側(+X方向)に移動する。また、パーキングプレート42が逆方向(-R方向)に回動した場合、
図5に示すように連結ロッド43は軸方向他側(-X方向)に移動する。
【0027】
カム部材50は円錐台部52を有している。円錐台部52は、連結ロッド43の軸方向他側(-X方向)の端部に配置される。また、円錐台部52は、第1パーキングポール20と第2パーキングポール30との間の隙間に配置される。
【0028】
円錐台部52は、小径部53、大径部54および拡径部55を有する。小径部53は、円錐台部52のうちの軸方向他側(-X方向)に配置される。小径部53の周壁の径は、大径部54の周壁の径よりも小さい。小径部53の周壁は、
図4に示すように走行段レンジ位置が選択された場合、第1凹部26および第2凹部36により上下方向(Y方向)から挟まれる。
【0029】
大径部54は、円錐台部52のうちの軸方向一側(+X方向)に配置される。大径部54の周壁は、
図5に示すようにパーキングレンジ位置が選択された場合、第1凹部26および第2凹部36により上下方向(Y方向)から挟まれる。
【0030】
拡径部55は、円錐台部52のうちの小径部53と大径部54との間の中間部に配置される。拡径部55の周壁の径は、小径部53から大径部54に向かって徐々に大きくなる。拡径部55の周壁の上側壁面は、第1凹部26の領域26bの形状に応じて形成される。拡径部55の周壁の下側壁面は、第2凹部36の領域36bの形状に応じて形成される。
【0031】
次に、パーキングブレーキ装置100の動作の一例について
図6Aから
図8Cを参照して説明する。
図6Aから
図8Cに、パーキングブレーキ装置100の動作をわかり易くするため、パーキングギヤ10の円周方向(R方向)に所定のピッチPで配列される複数の歯部12を直線方向に展開して示す。また、複数の歯部12のうち、角度θj-1から角度θk+1までの位置に配置される歯部を抜粋して示す(j,kのそれぞれは、k>j+3の関係にある正の整数)。
図6Aから
図8Cにおいて、左方向を、正方向又は時計回りの方向(+R方向)といい、右方向を逆方向又は反時計回りの方向(-R方向)という。なお、前述するように、第1係合部28が係合する歯部12に対する第1係合部28のずれ量S21と、第2係合部38が係合する歯部12に対する第2係合部38のずれ量S31との間の差分Zは、ピッチPの1/2である(|S21-S31|=Z,Z=P*1/2)。
【0032】
先ず、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置が一致し、かつ、歯部12の位置に対して第2係合部38の位置がずれている場合について
図6Aおよび
図6Bを参照して説明する。
図6Aは、走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
図6Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
図6Aに示す状態では、角度θkの位置の歯部12と角度θk-1の位置の歯部との間の歯底の位置に対して第1係合部28の位置が一致している。
【0033】
図6Aに示す状態で、パーキングシフト位置が選択された場合、第2係合部38が歯部12に噛み合わないが、第1係合部28が歯部12と噛み合うため、パーキング状態を確実に成立させることが可能となる(
図6Bを参照)。
【0034】
次に、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置および第2係合部38の位置のいずれもが一致していない場合について、
図7Aから
図7Cを参照して説明する。
図7Aは走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
図7Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係の途中経過を示す図である。
図7Cはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との最終的な位置関係を示す図である。
図7Aに示すように、パーキングギヤ10が
図6Aに示す状態から逆方向(-R方向)に角度α回転した状態では、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置が一致していない。また、歯部12の位置に対して第2係合部38の位置が一致していない。ここで、パーキングギヤ10のピッチ円の半径をrとした場合、α*rは、ピッチPの1/6とする(α*r=P*1/6)。
【0035】
図7Aに示す状態で、パーキングシフト位置が選択された場合、第2係合部38が歯部12の歯先と当接する(
図7Bを参照)。これにより、第2係合部38が歯部12と噛み合わない。一方、第1係合部28が歯部12の歯面と当接し(
図7Bを参照)、歯部12の歯面を押圧するため、パーキングギヤ10が正方向(+R方向)に角度α回転する。これにより、第1係合部28が歯部12と噛み合うため、パーキング状態を確実に成立させることが可能となる(
図7Cを参照)。
【0036】
次に、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置および第2係合部38の位置のいずれもが一致していない場合について、
図8Aから
図8Cを参照して説明する。
図8Aは走行シフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係を示す図である。
図8Bはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との位置関係の途中経過を示す図である。
図8Cはパーキングシフト位置が選択された場合のパーキングギヤの歯部と第1係合部等との最終的な位置関係を示す図である。
図8Aに示すように、パーキングギヤ10が
図6Aに示す状態から逆方向(-R方向)に角度β回転した状態では、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置が一致していない。また、歯部12の位置に対して第2係合部38の位置が一致していない。ここで、β*rは、ピッチPの1/3とする(β*r=P*1/3)。これにより、(α*r)と(β*r)とを加算した値は、ピッチPの1/2となる((α+β)*r=P*1/2)。
【0037】
図8Aに示す状態で、パーキングシフト位置が選択された場合、第1係合部28が歯部12の歯先と当接する(
図8Bを参照)。これにより、第1係合部28が歯部12と噛み合わない。一方、第2係合部38が歯部12の歯面と当接し(
図8Bを参照)、歯部12の歯面を押圧するため、パーキングギヤ10が逆方向(-R方向)に角度α回転する。これにより、第2係合部38が歯部12と噛み合うため、パーキング状態を確実に成立させることが可能となる(
図8Cを参照)。
【0038】
以上のように、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置および第2係合部38の位置のいずれもが一致していない場合においても、パーキングシフト位置が選択された場合、パーキングギヤ10が多くとも角度β(P*1/3相当)だけ回転することで、第1係合部28および第2係合部38のいずれかが、歯部12の歯面を押圧し、これにより、パーキングギヤ10が正方向又は逆方向のいずれかの方向に回転するため、歯部12に噛み合う。これにより、パーキング状態を確実に成立させることが可能となる。
【0039】
上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100は、円周方向(R方向)に所定のピッチで配置される複数の歯部12を有し、車輪を駆動する駆動軸と一体的に回転するパーキングギヤ10と、第1係合部28を有し、駆動軸を回転させないように第1係合部28が複数の歯部12のいずれかの歯部12aに係合する係合位置と駆動軸の回転を許容するように第1係合部28が歯部12aから離脱する離脱位置との間を回動可能な第1パーキングポール20と、第2係合部38を有し、駆動軸を回転させないように第2係合部38が複数の歯部12のいずれかの歯部12bに係合する係合位置と駆動軸の回転を許容するように第2係合部38が歯部12bから離脱する離脱位置との間を回動可能な第2パーキングポール30と、を備え、第1係合部28が係合する歯部12aに対する第1係合部28のずれ量S21と第2係合部38が係合する歯部12bに対する第2係合部38のずれ量S31との間の差分Zは、所定のピッチPの1/2である。
【0040】
上記構成により、歯部12の位置に対して第1係合部28の位置および第2係合部38の位置のいずれもが一致していない場合においても、パーキングシフト位置が選択された場合、パーキングギヤ10が多くても所定角度(角度β、P*1/3相当)だけ回転することで、第1係合部28および第2係合部38のいずれかが、歯部12の歯面を押圧し、これにより、パーキングギヤ10が正方向又は逆方向のいずれかの方向に回転するため、歯部12に噛み合う。これにより、パーキング状態を成立させる際高い確実性を実現することが可能となる。
【0041】
また、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100では、一つの支持軸20aにより、第1パーキングポール20および第2パーキングポール30のそれぞれが回動可能にされ、また、一つのカム部材50により、第1パーキングポール20および第2パーキングポール30のそれぞれが係合位置と離脱位置との間を回動可能にされる。これにより、部品点数を削減するとともに、組立コストを低減することが可能となる。
【0042】
なお、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100では、離脱位置から係合位置に回動する場合、第1パーキングポール20が支持軸20a回りに反時計回りに回動し、第2パーキングポール30が支持軸20a回りに時計回りに回動する。つまり、離脱位置から係合位置に回動する場合、第1パーキングポール20および第2パーキングポール30のそれぞれは互いに反対の方向に回動する。しかし、本開示はこれに限らない。第1パーキングポール20および第2パーキングポール30のそれぞれは同じ方向に回動してもよい。
【0043】
また、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100では、
図4および
図5に示すように円錐台部52を有し、X方向の運動をY方向の運動に変換するカム部材50を備える。しかし、本開示はこれに限らず、例えば、X軸回りの回転運動をY方向の運動に変換するカム部材(例えば、板カム)を備えてもよい。
【0044】
なお、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100では、歯部12に対する第1係合部28のずれ量S21と歯部12に対する第2係合部38のずれ量S31との間の差分ZがピッチPの1/2である。しかし、本開示はこれに限らず、例えば、差分Zは、ピッチPよりも狭ければよい。この場合、パーキングギヤ10が多くても1ピッチP分だけ回転すれば、第1係合部28および第2係合部38のいずれかが歯部12と噛み合うため、パーキング状態を成立させる際の確実性を上げることが可能となる。
【0045】
また、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100を、自動変速機に適用したが、本開示はこれに限らず、手動変速機に適用してもよい。この場合、車速やシフトノブの位置などの検出結果に基づいて、
図4および
図5に示すアクチュエータ機構40を回動させればよい。
【0046】
また、上記実施の形態に係るパーキングブレーキ装置100では、第1パーキングポール20および第2パーキングポール30のそれぞれが係合位置と離脱位置との間を回動する場合、第1パーキングポール20の回動量と第2パーキングポール30の回動量とを互いに同一の所定量に設定してもよい。これにより、離脱位置から係合位置に回動するタイミングが第1パーキングポール20と第2パーキングポール30との間で異ならないため、パーキング状態を成立させる際の確実性をさらに上げることが可能となる。
【0047】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本開示は、パーキング状態を成立させる際の確実性を上げることが要求されるパーキングブレーキ装置を備えた車両に好適に利用される。
【符号の説明】
【0049】
10 パーキングギヤ
12,12a,12b 歯部
20 第1パーキングポール
20a 支持軸
21 一端部
22 他端部
23 中間部
26 第1凹部
26a 領域
26b 領域
28 第1係合部
30 第2パーキングポール
31 一端部
32 他端部
33 中間部
36 第2凹部
36a 領域
36b 領域
38 第2係合部
40 アクチュエータ機構
41 アクチュエータシャフト
42 パーキングプレート
43 連結ロッド
50 カム部材
52 円錐台部
53 小径部
54 大径部
55 拡径部