(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】調光シート、および、スクリーン
(51)【国際特許分類】
G02F 1/137 20060101AFI20240509BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240509BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G02F1/137
G02F1/13 505
G02F1/1334
(21)【出願番号】P 2022121773
(22)【出願日】2022-07-29
【審査請求日】2022-12-02
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 克仁
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139457(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/035464(WO,A1)
【文献】特許第7099578(JP,B1)
【文献】特開平06-110043(JP,A)
【文献】特開2018-146654(JP,A)
【文献】国際公開第2018/014017(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/110364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/137
G02F 1/13
G02F 1/1334
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空隙を有する透明高分子層と、前記空隙を埋める液晶組成物であって、液晶化合物および二色性色素を含む前記液晶組成物とを含む調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、
前記一対の透明電極層間の電位差の変化に応じて前記液晶化合物および前記二色性色素の配向を変え、これによって透明状態から有色の不透明状態に切り換わる調光シートであって、
前記不透明状態における前記調光シートのヘイズは85%以上95%未満であり、
前記液晶化合物
はトラン系化合物
を含んでおらず、
前記液晶化合物の屈折率異方性を示すΔnは0.18未満であり、
前記調光層における前記液晶化合物の割合は60質量%未満であり、
前記調光層における前記二色性色素の割合は2質量%以上である
調光シート。
【請求項2】
前記調光層の厚さは10μm以上22μm以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記液晶組成物は、黒色を呈する前記二色性色素を含む
請求項1に記載の調光シート。
【請求項4】
複数の空隙を有する透明高分子層と、前記空隙を埋める液晶組成物であって、液晶化合物および二色性色素を含む前記液晶組成物とを含む調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、
前記一対の透明電極層間の電位差の変化に応じて前記液晶化合物および前記二色性色素の配向を変え、これによって透明状態から有色の不透明状態に切り換わり、前記不透明状態において画像が投影されるスクリーンであって、
前記不透明状態における前記スクリーンのヘイズは85%以上95%未満であり、
前記液晶化合物
はトラン系化合物
を含んでおらず、
前記液晶化合物の屈折率異方性を示すΔnは0.18未満であり、
前記調光層における前記液晶化合物の割合は60質量%未満であり、
前記調光層における前記二色性色素の割合は2質量%以上である
スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率の可変な調光シート、および、スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、高分子材料中に分散された液晶化合物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えており、一対の透明電極層間に駆動電圧が印加される。駆動電圧の印加の有無に応じて液晶化合物の配向状態が変わることから、調光層を光が透過する透過状態と、調光層で光が散乱する散乱状態とを切り替えることが可能である(例えば、特許文献1参照)。透過状態の調光シートは透明であり、散乱状態の調光シートは白く濁って見える。
【0003】
散乱状態の調光シートは、プライバシーの保護等のための視界の遮断や、画像の投影に用いられる。それゆえ、散乱状態においては、調光シートの透明性が低いこと、すなわち、濁りの程度を示す指標であるヘイズが高いことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
意匠性の向上や投影される画像のコントラストの向上といった観点から、散乱状態の調光シートが、白色とは異なる有色であることが好まれる場合がある。例えば、スモークフィルムを積層することで、散乱状態であるときに黒色に見える調光シートが提案されている。
【0006】
しかしながら、散乱状態の調光シートに外光が入射すると、調光シートの前方や後方へ散乱光が射出されることに起因して、スモークフィルムが積層されていても、調光シートが白っぽく見える現象である白化現象が発生することがある。白化現象が起こると、意匠性の向上や投影される画像のコントラストの向上といった効果が十分に得られない。特に、車両の窓に調光シートが取り付けられる場合のように、屋外やその付近で調光シートが用いられて、調光シートに強い外光が入射する場合に、白化現象が起こりやすい。
【0007】
さらに、ヘイズが高いほど、散乱が強くなるため、白化現象が強くなりやすい。ヘイズを低くすれば、白化現象を抑えることが可能ではあるが、ヘイズが低いと、散乱状態で調光シートが透けてしまうため、視界の遮断や画像の投影といった用途に求められる低い透明性が維持できない。したがって、白化現象を抑えつつも低い透明性を得ることのできる調光シートが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための調光シートおよびスクリーンの各態様を記載する。
[態様1]複数の空隙を有する透明高分子層と、前記空隙を埋める液晶組成物であって、液晶化合物および二色性色素を含む前記液晶組成物とを含む調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、前記一対の透明電極層間の電位差の変化に応じて前記液晶化合物および前記二色性色素の配向を変え、これによって透明状態から有色の不透明状態に切り換わる調光シートであって、前記不透明状態における前記調光シートのヘイズは85%以上95%未満であり、前記液晶化合物中のトラン系化合物の割合は20質量%未満である調光シート。
【0009】
上記構成によれば、ヘイズが低いことから調光層での光の散乱が抑えられるため、白化現象の発生を抑えることができる。そして、二色性色素による吸光が生じる結果、ヘイズが低くとも不透明状態において調光シートが透けることが抑えられる。
【0010】
[態様2]前記調光層における前記液晶化合物の割合は60質量%未満である[態様1]に記載の調光シート。
上記構成によれば、調光シートのヘイズを上記範囲内に制御しやすくなる。
【0011】
[態様3]前記調光層の厚さは10μm以上22μm以下である[態様1]または[態様2]に記載の調光シート。
上記構成によれば、調光シートのヘイズを上記範囲内に制御しやすくなる。
【0012】
[態様4]前記液晶組成物は、黒色を呈する前記二色性色素を含む[態様1]~[態様3]のいずれか一項に記載の調光シート。
上記構成によれば、調光シートが透けることをより好適に抑えることができる。
【0013】
[態様5]前記調光層における前記二色性色素の割合は2質量%以上である[態様1]~[態様4]のいずれか一項に記載の調光シート。
上記構成によれば、調光シートが透けることをより好適に抑えることができる。
【0014】
[態様6]複数の空隙を有する透明高分子層と、前記空隙を埋める液晶組成物であって、液晶化合物および二色性色素を含む前記液晶組成物とを含む調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、前記一対の透明電極層間の電位差の変化に応じて前記液晶化合物および前記二色性色素の配向を変え、これによって透明状態から有色の不透明状態に切り換わり、前記不透明状態において画像が投影されるスクリーンであって、前記不透明状態における前記調光シートのヘイズは85%以上95%未満であり、前記液晶化合物中のトラン系化合物の割合は20質量%未満であるスクリーン。
【0015】
上記構成によれば、ヘイズが低いことから調光層での光の散乱が抑えられるため、白化現象の発生を抑えることができる。そして、二色性色素による吸光が生じる結果、ヘイズが低くとも不透明状態においてスクリーンが透けることが抑えられる。これにより、コントラストの高い画像の投影が可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、白化現象を抑えるとともにシートが透けることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態におけるノーマルタイプの調光シートの断面構造を示す図。
【
図2】一実施形態の調光層の一部を拡大して示す図。
【
図3】一実施形態におけるリバースタイプの調光シートの断面構造を示す図。
【
図4】一実施形態の調光シートにおける不透明状態のヘイズと液晶濃度との関係の一例を示す図。
【
図5】一実施形態の調光シートにおける不透明状態のヘイズと調光層の厚さとの関係の一例を示す図。
【
図6】一実施形態の調光シートにおける不透明状態のクラリティと調光層の厚さとの関係の一例を示す図。
【
図7】一実施形態の調光シートにおけるコントラストと二色性色素濃度との関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、調光シートおよびスクリーンの一実施形態を説明する。
[調光シートの構成]
図1および
図2を参照して、調光シートの構成を説明する。本実施形態の調光シートは、例えば、ノーマルタイプおよびリバースタイプのいずれかの層構成を有する。まず、
図1を参照して、ノーマルタイプの層構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、ノーマルタイプの調光シート10である調光シート10Aは、調光層20、第1透明電極層31、第2透明電極層32、第1透明支持層41、および、第2透明支持層42を備えている。調光層20は、第1透明電極層31と第2透明電極層32とに挟まれ、これらの透明電極層31,32に接している。第1透明支持層41は、第1透明電極層31に対して調光層20と反対側で第1透明電極層31を支持し、第2透明支持層42は、第2透明電極層32に対して調光層20と反対側で第2透明電極層32を支持している。
【0020】
図2は、
図1における調光層20の領域Rを拡大して示す図である。
図2に示すように、調光層20は、透明高分子層21と液晶組成物23とを含んでいる。透明高分子層21は、液晶組成物23が充填される空隙であるドメイン22を有しており、ドメイン22内に液晶組成物23が保持されている。
【0021】
透明高分子層21の構造および液晶組成物23の保持型式は、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、および、カプセル型のいずれかである。ポリマーネットワーク型の調光層20は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、透明高分子層の一例であり、ポリマーネットワークにおける相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物が保持される。高分子分散型の調光層20は、孤立した多数の空隙を区画する透明高分子層を備え、透明高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物が保持される。カプセル型の調光層20は、透明高分子層のなかに分散したカプセル内の空隙に液晶組成物を保持する。
【0022】
透明高分子層21は、光重合性化合物の重合体である。光重合性化合物は、例えば、紫外線重合性化合物である。紫外線重合性化合物は、例えば、ブチルエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアクリレート化合物、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等のメタクリレート化合物、スチルベン化合物、ジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物、これらの各化合物のオリゴマーである。調光層20の総質量に対する透明高分子層21の割合は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0023】
透明高分子層21は、複数のドメイン22を区画する。液晶組成物23は、液晶化合物24と二色性色素25とを含み、ドメイン22に充填されている。液晶化合物24は、例えば、誘電率異方性が正の液晶化合物であり、すなわち、液晶化合物24の長軸方向の誘電率は、液晶化合物24の短軸方向の誘電率よりも大きい。
【0024】
液晶化合物24は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系の化合物である。液晶組成物23は、単一の種類の液晶化合物24のみを含んでいてもよいし、複数の種類の液晶化合物24を含んでいてもよい。
【0025】
二色性色素25は、細長い分子形状を有し、分子の長軸方向における可視領域の吸光度が分子の短軸方向における吸光度よりも大きい。二色性色素25は、光の入射方向に対して長軸方向が交差する状態において、有色を呈する。具体的には、二色性色素25は、調光層20における第1透明電極層31または第2透明電極層32との接触面の法線方向に対して、二色性色素25の長軸方向が略直交するように交差するとき、呈色する。二色性色素25が示す色は、例えば、黒色または黒色に近い色である。二色性色素25は、液晶化合物24をホストとしたゲストホスト型式によって駆動されて呈色する。
【0026】
二色性色素25は、例えば、ポリヨウ素、アゾ化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、アゾメチン化合物、テトラジン化合物、キノフタロン化合物、メロシアニン化合物、ペリレン化合物、ジオキサジン化合物である。液晶組成物23は、単一の種類の二色性色素25のみを含んでいてもよいし、複数の種類の二色性色素25を含んでいてもよい。耐光性および二色比を高める観点では、二色性色素25は、アゾ化合物およびアントラキノン化合物の少なくとも一方であることが好ましく、アゾ化合物であることがより好ましい。調光層20が含む二色性色素25の割合は、例えば、調光層20の総質量に対して、2質量%以上10質量%以下である。
【0027】
なお、液晶組成物23は、液晶化合物24および二色性色素25に加えて、粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤等を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0028】
また、調光層20は、透明高分子層21の全体に渡って分散されたスペーサを含んでいてもよい。スペーサは、スペーサの周辺において調光層20の厚さを定めることにより、調光層20の厚さを均一化する。スペーサは、ビーズスペーサでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサでもよい。スペーサは、透光性を有していれば、無色透明でもよいし、有色透明でもよい。有色透明のスペーサが呈する色は、二色性色素25が呈する色と同色であることが好ましい。
【0029】
第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々は、導電性を有し、可視領域の光に対して透明である。透明電極層31、32の材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)等である。
【0030】
第1透明支持層41および第2透明支持層42の各々は、可視領域の光に対して透明な基材である。透明支持層41,42の材料は、例えば、合成樹脂や無機化合物である。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等である。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等である。
【0031】
第1透明電極層31および第2透明電極層32には、液晶化合物24の配向状態を変えるための電圧である駆動電圧が印加される。調光シート10は、液晶化合物24の配向状態の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方へ切り替わる。透明状態は、光透過率、すなわち平行線透過率が相対的に高い状態であり、不透明状態は、光透過率が相対的に低い状態である。また、透明状態は、ヘイズが相対的に低い状態であり、不透明状態は、ヘイズが相対的に高い状態である。
【0032】
ノーマルタイプの調光シート10Aでは、駆動電圧が印加されていないとき、液晶化合物24の長軸方向の向きは不規則である。そのため、液晶化合物24の複屈折率や液晶化合物24と透明高分子層21との屈折率差に起因して、調光シート10Aに入射した光は、調光層20にて様々な方向に散乱される。また、二色性色素25の長軸方向の向きも不規則となり、二色性色素25の少なくとも一部は呈色する。したがって、ノーマルタイプの調光シート10Aは、駆動電圧が印加されていないときに、有色の不透明状態となる。
【0033】
液晶化合物24の誘電率異方性が正の場合、駆動電圧が印加されると、液晶化合物24は、その長軸方向が電界方向に沿う向きに配向される。すなわち、調光層20の厚さ方向に長軸方向が沿うように、液晶化合物24の向きが変わる。このとき、二色性色素25も、調光層20の厚さ方向に長軸方向が沿うように、配向される。その結果、調光層20での光の散乱および二色性色素25の呈色が抑えられ、調光シート10Aを光が透過しやすくなる。したがって、ノーマルタイプの調光シート10Aは、駆動電圧が印加されているときに、無色の透明状態となる。
【0034】
次に、
図3を参照して、リバースタイプの調光シートの層構成について説明する。
図3に示すように、リバースタイプの調光シート10である調光シート10Bは、調光層20、透明電極層31,32、透明支持層41,42に加えて、第1配向層51と第2配向層52とを備えている。第1配向層51は、調光層20と第1透明電極層31との間に位置し、これらの層と接する。第2配向層52は、調光層20と第2透明電極層32との間に位置し、これらの層と接する。なお、調光層20における領域Rの構造はノーマルタイプと同様である。
【0035】
第1配向層51および第2配向層52は、液晶化合物24の配向を規制する。配向層51,52は、例えば、垂直配向膜である。垂直配向膜は、液晶化合物24を、その長軸方向が調光層20の厚さ方向に沿うように配向させる。配向層51,52が垂直配向膜である場合、液晶化合物24としては、誘電率異方性が負の液晶化合物、すなわち、長軸方向の誘電率が短軸方向の誘電率よりも小さい液晶化合物が用いられる。
【0036】
配向層51,52の材料は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム等の無機化合物、シリコーン等である。配向層51,52を形成するための配向処理は、例えば、ラビング処理、偏光照射処理、微細加工処理である。
【0037】
リバースタイプの調光シート10Bでは、駆動電圧が印加されていないとき、配向層51,52からの配向規制力を受けて、液晶化合物24は、その長軸方向が調光層20の厚さ方向に沿う向きとなる。このとき、二色性色素25も、調光層20の厚さ方向に長軸方向が沿うように、配向される。その結果、調光層20での光の散乱および二色性色素25の呈色が抑えられ、調光シート10Bを光が透過しやすくなる。したがって、リバースタイプの調光シート10Bは、駆動電圧が印加されていないときに、無色の透明状態となる。
【0038】
液晶化合物24の誘電率異方性が負の場合、駆動電圧が印加されると、液晶化合物24は、その長軸方向が電界方向に直交する向きに配向される。すなわち、長軸方向が調光層20の厚さ方向に略直交する向きとなるように、液晶化合物24の向きが変わる。このとき、二色性色素25も、その長軸方向が調光層20の厚さ方向に略直交する向きに配向される。その結果、調光層20で光の散乱が生じやすくなり、二色性色素25は呈色する。したがって、リバースタイプの調光シート10Bは、駆動電圧が印加されているときに、有色の不透明状態となる。
【0039】
なお、駆動電圧の印加による液晶化合物の配向状態の変化に基づいて、調光シート10の透明状態と不透明状態とが切り換えられるように構成されていれば、調光シート10の層構成は上記に限られない。例えば、調光シート10は、調光層20に対する入射光あるいは透過光の偏光を制御する偏光層を備えていてもよいし、配向層51,52は水平配向膜であってもよい。駆動電圧の印加時に調光シート10が透明状態となるか不透明状態となるかは、配向層51,52の有無、配向層51,52による配向規制力の働く方向、液晶化合物における誘電率異方性の正負、偏光層の有無等によって変えることができる。
【0040】
調光シート10の表面および裏面の少なくとも一方は、ガラスや樹脂等からなる透明板に貼り付けられる。透明板は、例えば、各種の建物が備える窓ガラス、屋内に設置されたパーティション、車両や航空機等の移動体が備える窓ガラスやウインドシールドである。透明板の表面は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0041】
また、調光シート10は、画像が投影されるスクリーンとして用いられてもよい。調光シート10は、透過型の投影システムのスクリーンに適用可能である。すなわち、調光シート10の後方から、不透明状態の調光シート10に向けて、画像を構成する光である投影光が照射されると、投影光に基づく散乱光が調光シート10の前方に射出される。これにより、調光シート10の前方に位置する観察者は画像を視認することができる。
【0042】
[調光シートの特性]
本実施形態の調光シート10の特性について説明する。以下の特性は、調光シート10の層構成に関わらず共通する特性である。
【0043】
不透明状態における調光シート10のヘイズは、85%以上95%未満である。ヘイズは、ASTM D 1003-00に準拠して測定される。
一般に、二色性色素を含まず不透明状態において白く濁って見える従来の調光シートでは、不透明状態であるときに調光シートが透けて見えることを抑えるために、95%以上、好ましくは97%以上のヘイズを要する。すなわち、本実施形態の調光シート10は、透明性が十分に低い従来の調光シートよりも、低いヘイズを有する。
【0044】
一方で、本実施形態の調光シート10は二色性色素25を含んでいるため、二色性色素25による吸光が生じる結果、ヘイズが低くとも不透明状態において調光シート10が透けて見えることは抑えられる。それゆえ、調光シート10による視界の遮断や、調光シート10への画像の投影が好適に可能である。こうした効果は、特に、二色性色素25が黒色または黒色に近い色を呈する場合に高く得られる。調光シート10が透けることを抑えるためには、調光層20における二色性色素25の含有割合は2質量%以上であることが好ましい。
【0045】
そして、ヘイズが低いことから、調光層20での光の散乱が抑えられるため、白化現象の発生を抑えることができる。このように、本実施形態の調光シート10であれば、不透明状態において、白化現象を抑えつつも低い透明性を得ることができる。それゆえ、意匠性の向上やコントラストの高い画像の投影が可能である。
【0046】
調光シート10の特性についてさらに説明する。調光層20が含む液晶組成物23において、液晶化合物24の総質量に対するトラン系化合物の割合は、20質量%未満である。さらに、液晶化合物24の総質量に対するトラン系化合物の割合は、15質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。さらに、トラン系化合物の割合は0質量%でもよい。トラン系化合物である液晶材料は、従来のように不透明状態において高いヘイズを得るために、液晶化合物の屈折率異方性を示すΔnを高めることを目的として用いられる。しかしながら、トラン系化合物の割合が多いと、調光シート10における耐候性の低下や、駆動可能な温度範囲の縮小が生じる。
【0047】
本実施形態では、調光シート10のヘイズが低く抑えられることから、Δnも低く抑えられる。具体的には、従来の調光シートでは、Δnは、0.18以上、好ましくは0.20以上であることに対し、本実施形態の調光シート10では、Δnは、0.18未満である。それゆえ、調光シート10では、液晶組成物23におけるトラン系化合物の割合を抑えることが可能であり、これにより、耐候性の向上や駆動可能な温度範囲の拡大が可能である。
なお、トラン系の液晶化合物とは、アセチレン結合を結合基に含むトラン骨格を有する液晶化合物である。
【0048】
続いて、不透明状態での調光シート10のヘイズと液晶濃度との関係について説明する。
図4は、Δn=0.173である液晶化合物24を用いた場合の、不透明状態でのヘイズと液晶濃度との関係の一例を示す。液晶濃度は、調光層20の総質量に対する液晶化合物24の総質量の割合である。
【0049】
図4に示すように、液晶濃度が大きくなるほどヘイズが高くなる傾向がある。Δnが0.18未満である場合において、ヘイズを95%未満に抑えるためには、液晶濃度は60質量%未満であることが好ましいと言える。なお、調光シート10の好適な駆動のためには、液晶濃度は、20質量%以上であることが好ましい。
【0050】
次に、不透明状態での調光シート10のヘイズと調光層20の厚さとの関係について説明する。
図5は、Δn=0.173である液晶化合物24を用いた場合の、不透明状態でのヘイズと調光層20の厚さとの関係の一例を示す。
【0051】
図5に示すように、調光層20が厚くなるほどヘイズが高くなる傾向がある。Δnが0.18未満である場合において、ヘイズを85%以上95%未満とするためには、調光層20の厚さは、10μm以上22μm以下であることが好ましく、15μm以上20μm以下であることが好ましいと言える。
【0052】
本実施形態では、従来の調光シートよりもヘイズが低く抑えられることから、従来よりも調光層20を薄くすることが可能である。これによって、調光層20の膜厚の増大に伴う電界強度の低下が原因で駆動電圧の上昇が生じることが抑えられる。
【0053】
なお、液晶濃度および調光層20の厚さの各々は、各別にヘイズを制御可能である。
図4に示したように、液晶濃度が60質量%未満であることにより好適なヘイズを得るためには、調光層20の厚さは15μm以上20μm以下であることが好ましい。
図5に示したように、調光層20の厚さが10μm以上22μm以下であることにより好適なヘイズを得るためには、液晶濃度は40質量%以上60質量%未満であることが好ましい。
【0054】
次に、不透明状態での調光シート10のクラリティと調光層20の厚さとの関係について説明する。クラリティとは、調光シート10の透け感を評価するための指標である。
クラリティは、調光層20を透過した光のなかで、調光層20に入射した平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量LCとし、平行光の光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量LRとするときに、以下の(式1)によって算出される。なお、光量LCおよび光量LRは、ASTM D 1003-00に準拠した測定によって求められる。
100×(LC-LR)/(LC+LR) ・・・(式1)
【0055】
調光シート10の透け感は平行線透過率によっても評価可能であるが、クラリティは、平行線透過率よりも評価結果が人間の視感に合致しやすいパラメーターである。調光シート10の背後の光景が調光シート10を介して見えることを抑えるためには、不透明状態での調光シート10のクラリティは、80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0056】
図6は、Δn=0.173である液晶化合物24を用いた場合の、不透明状態でのクラリティと調光層20の厚さとの関係の一例を示す。
図6に示すように、調光層20が厚くなるほどクラリティが低くなる、すなわち透け感が小さくなる傾向がある。Δnが0.18未満である場合において、クラリティを80%未満に抑えるためには、調光層20の厚さは15μm以上であることが好ましく、クラリティを60%未満に抑えるためには、調光層20の厚さは18μm以上であることが好ましいと言える。
【0057】
次に、二色性色素25の濃度と調光シート10のコントラストとの関係について説明する。二色性色素25の濃度は、調光層20の総質量に対する二色性色素25の総質量の割合である。コントラストは、不透明状態の全光線透過率に対する透明状態の全光線透過率の比である。全光線透過率はASTM D 1003-00に準拠して測定される。
【0058】
図7は、Δn=0.173である液晶化合物24を用いた場合の、二色性色素25の濃度と調光シート10のコントラストとの関係の一例を、調光層20の厚さが15μmの場合および18μmの場合について示す。
図7に示すように、調光層20が厚いほど、また、二色性色素25の濃度が大きいほど、コントラストが大きくなる。したがって、調光シート10の用途に応じて、高いコントラストが望まれる場合には、調光層20を厚くすることや二色性色素25の濃度を大きくすることが好ましいと言える。一方で、調光シート10の製造コストの削減が優先される場合には、調光層20の厚さや二色性色素25の濃度が小さく抑えられてもよい。
【0059】
[調光シートの製造方法]
調光シート10の製造方法について説明する。まず、第1透明電極層31が積層された第1透明支持層41と、第2透明電極層32が積層された第2透明支持層42とを準備する。透明電極層31,32は、例えば、スパッタリング等の公知の成膜方法によって形成される。
【0060】
ノーマルタイプの調光シート10Aを製造する場合には、第1透明電極層31と第2透明電極層32との間に、調光層20を形成するための塗膜を形成する。リバースタイプの調光シート10Bを製造する場合には、第1透明電極層31の上に第1配向層51を形成し、第2透明電極層32の上に第2配向層52を形成する。そして、第1配向層51と第2配向層52との間に、調光層20を形成するための塗膜を形成する。
【0061】
塗膜は、光重合性化合物、液晶化合物24、二色性色素25、および、光重合性化合物の重合を開始するための重合開始剤を含む。重合開始剤は、例えば、ジケトン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサンソン化合物等である。塗膜は、単一の種類の重合開始剤のみを含んでいてもよいし、複数の種類の重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤の一例は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、シクロヘキシルフェニルケトン等である。
【0062】
塗膜を挟んだ積層体に対して光を照射し、光重合性化合物を重合させることによって、液晶組成物23の相分離が生じ、調光層20が形成される。光重合性化合物を重合させる光は、紫外光線や電子線である。光重合性化合物を重合させる光は、第1透明支持層41に向けて照射されてもよいし、第2透明支持層42に向けて照射されてもよいし、第1透明支持層41および第2透明支持層42の両方に向けて照射されてもよい。これにより、調光シート10が形成される。
【0063】
[実施例]
上述した調光シートについて、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
(実施例1)
ポリマーネットワーク型の調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含有したノーマルタイプの調光シートを実施例1の調光シートとした。二色性色素の色は黒色である。実施例1の調光シートは、液晶化合物をホストとし二色性色素をゲストとしたゲストホスト型式によって駆動される。これにより、調光シートの透明性が変化する。
【0064】
実施例1の調光シートの製造に用いた材料、および、調光層の形成のための塗液における各材料の比率は下記である。
透明電極層:酸化インジウムスズ
透明支持層:ポリエチレンテレフタレートフィルム
液晶化合物:フッ素系液晶化合物 50質量%
二色性色素:アゾ系化合物混合色素(Irgaphor Black X12 DC、BASF社製) 3質量%
光重合性化合物:イソボニルアクリレートと、ペンタエリスリトールトリアクリレートと、ウレタンアクリレートとの混合物 46質量%
重合開始剤:光重合開始剤(Irgacure Oxe04、BASF社製) 1質量%
スペーサ:カーボンブラックを含有したシリカ製の真球状粒子(粒径15μm)
【0065】
(比較例1)
透明高分子層を有さない液晶組成物のみからなる調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含有した調光シートを比較例1の調光シートとした。二色性色素の色は黒色である。比較例1の調光シートは、液晶化合物をホストとし二色性色素をゲストとしたゲストホスト型式によって駆動される。これにより、調光シートの透明性が変化する。
【0066】
(比較例2)
ポリマーネットワーク型の調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含まず、かつ、黒色のスモークフィルムが積層されたノーマルタイプの調光シートを比較例2の調光シートとした。比較例2の調光シートにおいては、電圧印加による液晶化合物の配向状態の変化に応じて透明性が変化する。
【0067】
(比較例3)
エレクトロクロミック素子を用いたシートを比較例3の調光シートとした。比較例3の調光シートにおいては、電気化学的な酸化還元反応により透明性が変化する。
【0068】
(比較例4)
SPD(Suspended Particle Device)を用いたシートを比較例4の調光シートとした。比較例4の調光シートにおいては、電圧印加による微粒子の配向状態の変化に応じて透明性が変化する。
【0069】
(評価)
実施例1および比較例1~4の調光シートについて、不透明状態でのヘイズの有無、黒色の透過性変化の有無、白化現象の発生の有無、および、映像投影の適否を評価した。評価結果を表1に示す。白化現象の発生の確認は、調光シートに後方から外光が入射する環境で実施した。映像投影の適否については、調光シートの後方から画像を投影し、調光シートの前方から画像が視認できるかを確認した。
【0070】
【0071】
表1に示すように、ポリマーネットワーク型の調光層を備える実施例1および比較例2は、不透明状態でヘイズを有していた。実施例1のヘイズは、比較例2のヘイズよりも低い。比較例1,3,4は、不透明状態、すなわち黒色の遮光状態においてヘイズを有しておらず、光の散乱が起こっていないことが確認された。
【0072】
実施例1および比較例1,3,4では、電圧の印加によって黒色の透過性変化が観察された。すなわち、黒色が薄いもしくは無色でシートの透明性が高い透明状態と、黒色が濃くシートの透明性が低い不透明状態との切り替えが可能であった。一方、比較例2では、スモークフィルムにおける黒色の濃度は一定であるため、電圧の印加に伴うヘイズの変化によってシートの透明性は変化するものの、黒色の透過性は変化しない。
【0073】
不透明状態でヘイズが生じていない比較例1,3,4では、散乱光の射出がないことから、白化現象は観察されなかった。一方で、散乱光の射出がないことから、映像の投影は困難であった。
【0074】
不透明状態でヘイズが生じている実施例1および比較例2では、画像の投影が可能であった。一方、ヘイズが抑えられている実施例1では白化現象が観察されないことに対し、ヘイズが高い比較例2では、白化現象が観察された。白化現象が生じている状態で画像を投影すると、投影された画像が白っぽく見えた。
以上により、実施例1の調光シートでは、白化現象の発生が抑えられて画像の投影が好適に可能であることが確認された。
【0075】
(実施例2)
ポリマーネットワーク型の調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含有したノーマルタイプの調光シートを実施例2の調光シートとした。二色性色素の色は黒色である。
【0076】
実施例2の調光シートの製造に用いた材料、および、調光層の形成のための塗液における各材料の比率は下記である。実施例2の調光シートの不透明状態におけるヘイズは90%であった。
透明電極層:酸化インジウムスズ
透明支持層:ポリエチレンテレフタレートフィルム
液晶化合物:フッ素系液晶化合物 50質量%
二色性色素:アゾ系化合物混合色素(Irgaphor Black X12 DC、BASF社製) 3質量%
光重合性化合物:イソボニルアクリレートと、ペンタエリスリトールトリアクリレートと、ウレタンアクリレートとの混合物 46質量%
重合開始剤:光重合開始剤(Irgacure Oxe04、BASF社製) 1質量%
スペーサ:カーボンブラックを含有したシリカ製の真球状粒子(粒径15μm)
【0077】
(比較例5)
ポリマーネットワーク型の調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含まず、かつ、黒色のスモークフィルムが積層されたノーマルタイプの調光シートを比較例5の調光シートとした。
【0078】
比較例5の調光シートの製造に用いた材料、および、調光層の形成のための塗液における各材料の比率は下記である。スモークフィルムの全光線透過率は18%である。比較例5の調光シートの不透明状態におけるヘイズは97%であった。
透明電極層:酸化インジウムスズ
透明支持層:ポリエチレンテレフタレートフィルム
液晶化合物:シアノ系液晶化合物とフッ素系液晶化合物の組成物 50質量%
光重合性化合物:イソボニルアクリレートと、ペンタエリスリトールトリアクリレートと、ウレタンアクリレートとの混合物 49質量%
重合開始剤:光重合開始剤(Irgacure Oxe04、BASF社製) 1質量%
スペーサ:ポリメチルメタクリレート製真球状粒子(粒径15μm)
【0079】
(比較例6)
スモークフィルムを、全光線透過率が42%のスモークフィルムに変更したこと以外は比較例5と同様の構成として、比較例6の調光シートを得た。比較例6の調光シートの不透明状態におけるヘイズは97%であった。
【0080】
(評価)
実施例2および比較例5,6の不透明状態の調光シートについて、3種類の条件下で白化現象の発生の有無を評価した。白化現象が観察される場合を「○」、白化現象が観察されない場合を「×」として、評価結果を表2に示す。
【0081】
観察条件1では、調光シートの後方からの外光の入射がない環境で白化現象の有無を確認した。観察条件2では、調光シートの後方から外光が間接的に入射する環境で白化現象の有無を確認した。すなわち、調光シートの後方において調光シートと重ならない位置に照明が位置する。観察条件3では、調光シートの後方から外光が直接的に入射する環境で白化現象の有無を確認した。すなわち、調光シートの後方において調光シートと重なる位置に照明が位置する。
【0082】
【0083】
表2に示すように、実施例2では、観察条件1~3のいずれにおいても、白化現象は確認されなかった。一方、比較例5,6では、観察条件1では白化現象が確認されなかったが、観察条件2,3では白化現象が確認された。また、比較例5,6のいずれについても、観察条件2よりも観察条件3の方が白化現象が強く生じていた。
【0084】
以上により、ヘイズを抑えつつ二色性色素の含有により黒色を呈する実施例2の調光シートでは、高いヘイズでスモークフィルムの積層により黒色を実現した比較例5,6よりも、白化現象を抑えることが可能であることが確認された。特に、実施例2では、外光の強い環境下でも白化現象を好適に抑えることができる。
【0085】
(実施例3)
ポリマーネットワーク型の調光層を備え、液晶組成物中に二色性色素を含有したノーマルタイプの調光シートを実施例3の調光シートとした。二色性色素の色は黒色である。
【0086】
実施例3の調光シートの製造に用いた材料、および、調光層の形成のための塗液における各材料の比率は下記である。
透明電極層:酸化インジウムスズ
透明支持層:ポリエチレンテレフタレートフィルム
液晶化合物:フッ素系液晶化合物 50質量%
二色性色素:アゾ系化合物混合色素(Irgaphor Black X12 DC、BASF社製) 3.0質量%
光重合性化合物:イソボニルアクリレートと、ペンタエリスリトールトリアクリレートと、ウレタンアクリレートとの混合物 46質量%
重合開始剤:光重合開始剤(Irgacure Oxe04、BASF社製) 1質量%
スペーサ:カーボンブラックを含有したシリカ製の真球状粒子(粒径15μm)
【0087】
(実施例4)
二色性色素の比率を4.0質量%に変更したこと以外は実施例3と同様の構成にて、実施例4の調光シートを得た。
【0088】
(実施例5)
二色性色素の比率を5.0質量%に変更したこと以外は実施例3と同様の構成にて、実施例5の調光シートを得た。
【0089】
(評価)
実施例3~5の調光シートについて、高温と低温での動作の可否を評価した。高温は90℃と80℃、低温は-30℃と-35℃と-40℃の各々について評価を実施した。評価においては、透明状態と不透明状態との切り替えが可能であり、透明状態での曇りおよび不透明状態での透けが生じない場合を「○」、透明状態と不透明状態との切り替えが可能であり、透明状態での曇りあるいは不透明状態での透けがやや確認された場合を「△」、透明状態での曇りあるいは不透明状態での透けが顕著に確認された場合を「×」とした。評価結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
表3に示すように、実施例3~5のいずれも、高温および低温のすべての温度で動作が可能であった。高温では、ヘイズの低下により不透明状態での透けが生じやすくなるが、二色性色素の含有により光吸収が起こることから顕著な透けが抑えられている。特に、二色性色素の含有割合が4.0質量%以上である実施例4,5では、高温での透けが好適に抑えられている。また、最も低温である-40℃の場合でも二色性色素の析出は確認されなかった。
【0092】
以上、実施形態および実施例で説明したように、調光シートによれば、以下の効果を得ることができる。
(1)不透明状態における調光シート10のヘイズが85%以上95%未満であり、液晶化合物24中のトラン系化合物の割合が20質量%未満である。こうした構成によればヘイズが低いことから調光層20での光の散乱が抑えられるため、白化現象の発生を抑えることができる。そして、二色性色素による吸光が生じる結果、ヘイズが低くとも不透明状態において調光シート10が透けることが抑えられる。
【0093】
(2)画像が投影されるスクリーンに調光シート10を適用することにより、コントラストの高い画像の投影が可能である。
(3)黒色を呈する二色性色素25を用いることにより、調光シート10が透けることをより好適に抑えることができる。
【0094】
(4)調光層20における二色性色素25の割合が2質量%以上であれば、調光シート10が透けることをより好適に抑えることができる。
(5)調光層20における液晶化合物24の割合が60質量%未満であれば、調光シート10のヘイズを上記範囲内に制御しやすくなる。
【0095】
(6)調光層20の厚さが10μm以上22μm以下であれば、調光シート10のヘイズを上記範囲内に制御しやすくなる。
【符号の説明】
【0096】
10,10A,10B…調光シート
20…調光層
21…透明高分子層
22…ドメイン
23…液晶組成物
24…液晶化合物
25…二色性色素
31,32…透明電極層
41,42…透明支持層
51,52…配向層