(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240509BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 305
B41J2/14 613
B41J2/16 305
B41J2/16 401
B41J2/16 511
(21)【出願番号】P 2022532967
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026082
(87)【国際公開番号】W WO2022003918
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 徹
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-248775(JP,A)
【文献】特開2017-210003(JP,A)
【文献】特開2011-046041(JP,A)
【文献】特開2000-263264(JP,A)
【文献】特開2009-248524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0101482(US,A1)
【文献】特開2017-154495(JP,A)
【文献】特開2012-245774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、
前記ノズルプレートには、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じており、
前記ノズルは、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられて
おり、
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状である、インクジェットヘッド。
【請求項2】
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートと、
前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板と、を備え、
前記ノズルプレートには、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じており、
前記ノズルは、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられており、
前記ノズルプレートは、当該ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面が、前記流路基板の所定の基板平面に接合されており、
前記接合面及び前記基板平面の少なくとも一方には、前記インク吐出基準方向から見て前記接合面と前記基板平面との接合領域に重なる範囲内に突起が設けられており、
前記ノズルプレートには、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離が小さいことにより前記反りが生じている、インクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートの材質は、シリコン、ポリイミド、ステンレス鋼及びニッケルのいずれかである、請求項1
又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面を、前記基準平面に平行な仮想的な2平面で挟んだときの当該2平面の距離をDとし、前記ノズル開口面の長手方向の長さをLとした場合に、D/Lが0.1×10
-3以上、4×10
-3以下である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
D/Lが1×10
-3以上、4×10
-3以下である、請求項
4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状又は凸状である、請求項
2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板を備え、
前記ノズルプレートは、当該ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面が、前記流路基板の所定の基板平面に接合されており、
前記接合面及び前記基板平面の少なくとも一方には、前記インク吐出基準方向から見て前記接合面と前記基板平面との接合領域に重なる範囲内に突起が設けられており、
前記ノズルプレートには、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離が小さいことにより前記反りが生じている、請求項
1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置。
【請求項9】
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、前記ノズルプレートに、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じているインクジェットヘッドの製造方法であって、
所定の板状部材に前記ノズルを形成して前記ノズルプレートを作成するノズルプレート作成工程を含み、
前記ノズルプレート作成工程では、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに前記ノズルを形成
し、
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状である、インクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、前記ノズルプレートに、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じているインクジェットヘッドの製造方法であって、
所定の板状部材に前記ノズルを形成して前記ノズルプレートを作成するノズルプレート作成工程と、
前記ノズルプレートに前記反りを生じさせるノズルプレート整形工程と、を含み、
前記ノズルプレート作成工程では、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに前記ノズルを形成し、
前記ノズルプレート整形工程は、前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板の所定の基板平面と、前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面とを接合させる工程であり、
前記ノズルプレート整形工程の前に、前記板状部材のうち前記接合面に相当する面、前記ノズルプレートの前記接合面、及び前記流路基板の前記基板平面のうち少なくともいずれかに突起を形成する突起形成工程を含み、
前記ノズルプレート整形工程では、前記突起が前記基板平面又は前記接合面に当接するように前記基板平面と前記接合面とを接合させ、当該接合において、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離を小さくすることで前記反りを生じさせる、インクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記ノズルプレートに前記反りを生じさせるノズルプレート整形工程を含む、請求項
9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記ノズルプレート整形工程は、前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板の所定の基板平面と、前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面とを接合させる工程であり、
前記ノズルプレート整形工程の前に、前記板状部材のうち前記接合面に相当する面、前記ノズルプレートの前記接合面、及び前記流路基板の前記基板平面のうち少なくともいずれかに突起を形成する突起形成工程を含み、
前記ノズルプレート整形工程では、前記突起が前記基板平面又は前記接合面に当接するように前記基板平面と前記接合面とを接合させ、当該接合において、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離を小さくすることで前記反りを生じさせる、請求項
11に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記ノズルプレート作成工程では、前記板状部材における加工位置に応じて穿孔方向が変化する穿孔加工により前記板状部材に前記ノズルを形成する、請求項
9~
12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記ノズルプレート作成工程では、前記板状部材に前記反りを生じさせた状態で、前記インク吐出基準方向に平行な方向に穿孔する穿孔加工により前記板状部材に前記ノズルを形成する、請求項
9~
12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記板状部材の材質はシリコンであり、
前記穿孔加工はエッチング加工である、請求項
13又は
14に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記板状部材の材質はステンレス鋼であり、
前記穿孔加工はポンチ加工である、請求項
13又は
14に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記板状部材の材質はステンレス鋼又はポリイミドであり、
前記穿孔加工はレーザー加工である、請求項
13又は
14に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記板状部材は、前記ノズルの形成後に分割されることで前記ノズルプレートとなる領域を複数有する複合基板であり、
前記ノズルプレート作成工程は、前記ノズルの形成後に前記板状部材を分割して複数の前記ノズルプレートを作成する工程を含む、請求項
9~
17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドに設けられたノズルからインクを吐出させて記録媒体上の所望の位置に着弾させることで画像を形成するインクジェット記録装置がある。インクジェットヘッドは、ノズルに連通するインク流路が設けられた流路基板と、当該流路基板に対して接着剤等を用いて接合されたノズルプレートとを有し、このうちノズルプレートに、当該ノズルプレートを貫通するノズルが設けられている。
【0003】
ノズルプレートには、流路基板との熱膨張係数の相違や、流路基板との接合時の接着剤の収縮により生じる応力等に起因して、反りが生じ得る。ノズルプレートに反りが生じると、ノズルからのインクの吐出方向が変化するため、記録媒体における着弾位置が所望の位置からずれて画質が低下する。
【0004】
これに対し、従来、ノズルプレートの反りを抑制するための各種技術が提案されている。例えば、ノズルプレート及び流路基板を熱膨張係数が近い材質で形成することで、熱膨張係数の相違に起因する反りを抑制する技術がある。また、ノズルプレートの剛性を向上させる構造や製造方法を採用したり、ノズルプレートを支持して反りを抑えるための部材を別途設けたりすることで反り抑制する技術がある。また、特許文献1には、ノズルプレートに応力緩衝用の貫通孔を設けて反りを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ノズルプレートの反りを抑制するための構成や製造方法を採用すると、インクジェットヘッドの構造が複雑化したり、製造コストが上昇したりすることが避けられない。また、多様な要因によって生じるノズルプレートの反りを完全になくすことは困難であるため、ノズルプレートの反りに起因するインクの吐出方向のずれを確実に抑制することは容易でない。
このように、上記従来の技術では、簡易な構成でより確実にインクの吐出方向のずれを抑制することが困難であるという課題がある。
【0007】
この発明の目的は、簡易な構成でより確実にインクの吐出方向のずれを抑制することができるインクジェットヘッドの駆動方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のインクジェットヘッドの発明は、
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、
前記ノズルプレートには、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じており、
前記ノズルは、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられており、
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状である。
また、上記目的を達成するため、請求項2に記載のインクジェットヘッドの発明は、
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートと、
前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板と、を備え、
前記ノズルプレートには、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じており、
前記ノズルは、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられており、
前記ノズルプレートは、当該ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面が、前記流路基板の所定の基板平面に接合されており、
前記接合面及び前記基板平面の少なくとも一方には、前記インク吐出基準方向から見て前記接合面と前記基板平面との接合領域に重なる範囲内に突起が設けられており、
前記ノズルプレートには、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離が小さいことにより前記反りが生じている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートの材質は、シリコン、ポリイミド、ステンレス鋼及びニッケルのいずれかである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面を、前記基準平面に平行な仮想的な2平面で挟んだときの当該2平面の距離をDとし、前記ノズル開口面の長手方向の長さをLとした場合に、D/Lが0.1×10-3以上、4×10-3以下である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のインクジェットヘッドにおいて、
D/Lが1×10-3以上、4×10-3以下である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状又は凸状である。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板を備え、
前記ノズルプレートは、当該ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面が、前記流路基板の所定の基板平面に接合されており、
前記接合面及び前記基板平面の少なくとも一方には、前記インク吐出基準方向から見て前記接合面と前記基板平面との接合領域に重なる範囲内に突起が設けられており、
前記ノズルプレートには、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離が小さいことにより前記反りが生じている。
【0014】
また、上記目的を達成するため、請求項8に記載のインクジェット記録装置の発明は、
請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを備える。
【0015】
また、上記目的を達成するため、請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法の発明は、
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、前記ノズルプレートに、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じているインクジェットヘッドの製造方法であって、
所定の板状部材に前記ノズルを形成して前記ノズルプレートを作成するノズルプレート作成工程を含み、
前記ノズルプレート作成工程では、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに前記ノズルを形成し、
前記反りは、前記ノズルプレートの長手方向の両端部が、中央部に対して前記インク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状である。
また、上記目的を達成するため、請求項10に記載のインクジェットヘッドの製造方法の発明は、
インクを吐出するノズルが設けられたノズルプレートを備え、前記ノズルプレートに、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じているインクジェットヘッドの製造方法であって、
所定の板状部材に前記ノズルを形成して前記ノズルプレートを作成するノズルプレート作成工程と、
前記ノズルプレートに前記反りを生じさせるノズルプレート整形工程と、を含み、
前記ノズルプレート作成工程では、前記ノズルプレートに前記反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、前記反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、前記インク吐出基準方向に近くなる向きに前記ノズルを形成し、
前記ノズルプレート整形工程は、前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板の所定の基板平面と、前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面とを接合させる工程であり、
前記ノズルプレート整形工程の前に、前記板状部材のうち前記接合面に相当する面、前記ノズルプレートの前記接合面、及び前記流路基板の前記基板平面のうち少なくともいずれかに突起を形成する突起形成工程を含み、
前記ノズルプレート整形工程では、前記突起が前記基板平面又は前記接合面に当接するように前記基板平面と前記接合面とを接合させ、当該接合において、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離を小さくすることで前記反りを生じさせる。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートに前記反りを生じさせるノズルプレート整形工程を含む。
【0017】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレート整形工程は、前記ノズルに連通するインク流路を有する流路基板の所定の基板平面に対し、前記ノズルプレートにおける前記ノズルの開口部が設けられたノズル開口面とは反対側の接合面を接合させる工程であり、
前記ノズルプレート整形工程の前に、前記板状部材のうち前記接合面に相当する面、前記ノズルプレートの前記接合面、及び前記流路基板の前記基板平面のうち少なくともいずれかに突起を形成する突起形成工程を含み、
前記ノズルプレート整形工程では、前記突起が前記基板平面又は前記接合面に当接するように前記基板平面と前記接合面とを接合させ、当該接合において、前記突起が設けられている位置における前記基板平面と前記接合面との距離よりも、前記突起が設けられていない位置における前記基板平面と前記接合面との距離を小さくすることで前記反りを生じさせる。
【0018】
請求項13に記載の発明は、請求項9~12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレート作成工程では、前記板状部材における加工位置に応じて穿孔方向が変化する穿孔加工により前記板状部材に前記ノズルを形成する。
【0019】
請求項14に記載の発明は、請求項9~12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレート作成工程では、前記板状部材に前記反りを生じさせた状態で、前記インク吐出基準方向に平行な方向に穿孔する穿孔加工により前記板状部材に前記ノズルを形成する。
【0020】
請求項15に記載の発明は、請求項13又は14に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記板状部材の材質はシリコンであり、
前記穿孔加工はエッチング加工である。
【0021】
請求項16に記載の発明は、請求項13又は14に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記板状部材の材質はステンレス鋼であり、
前記穿孔加工はポンチ加工である。
【0022】
請求項17に記載の発明は、請求項13又は14に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記板状部材の材質はステンレス鋼又はポリイミドであり、
前記穿孔加工はレーザー加工である。
【0023】
請求項18に記載の発明は、請求項9~17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記板状部材は、前記ノズルの形成後に分割されることで前記ノズルプレートとなる領域を複数有する複合基板であり、
前記ノズルプレート作成工程は、前記ノズルの形成後に前記板状部材を分割して複数の前記ノズルプレートを作成する工程を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡易な構成でより確実にインクの吐出方向のずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【
図2】インクジェットヘッドを側面側から見た断面図である。
【
図3】ヘッドチップをノズル開口面側から見た斜視図である。
【
図5】比較例1におけるノズルからのインク吐出方向のずれ量を表すグラフである。
【
図6】実施例1のノズルプレートにおけるノズルの向きを示す模式図である。
【
図7】
図6のノズルプレートを流路基板に接合した状態を示す図である。
【
図8】
図7のヘッドチップにおけるノズルからのインク吐出方向を表すグラフである。
【
図10】比較例2におけるノズルからのインク吐出方向のずれ量を表すグラフである。
【
図11】実施例2のノズルプレートにおけるノズルの向きを示す模式図である。
【
図12】
図11のノズルプレートを流路基板に接合した状態を示す図である。
【
図17】ノズルプレートの反り量を説明する図である。
【
図18】長さLが50mmである場合における、距離Dに対するX方向端部のノズルの向きの是正量を示す図である。
【
図19】インクジェットヘッド製造工程の手順を示すフローチャートである。
【
図20】板状部材におけるノズルプレートの配置例を示す図である。
【
図21】エッチング加工で形成されるノズルの角度分布を示す図である。
【
図22】インクジェットヘッド製造工程の他の手順を説明するフローチャートである。
【
図23】ステップS102aにおけるノズルの形成方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置100の概略構成を示す図である。
インクジェット記録装置100は、搬送ベルト101、搬送ローラー102及びヘッドユニット103などを備える。
【0028】
搬送ローラー102は、図示しない搬送モーターの駆動によって、
図1のX方向に平行な回転軸を中心に回転する。搬送ベルト101は、一対の搬送ローラー102により内側が支持された輪状のベルトであり、搬送ローラー102が回転動作するのに従って一対の搬送ローラー102の回りを周回移動する。インクジェット記録装置100は、搬送ベルト101上に記録媒体Mが載置された状態で、搬送ローラー102の回転速度に応じた速度で搬送ベルト101が周回移動することで記録媒体Mを搬送ベルト101の移動方向(
図1のY方向)に搬送する搬送動作を行う。
【0029】
ヘッドユニット103は、搬送ベルト101により搬送される記録媒体Mに対して画像データに基づいてノズルからインクを吐出して記録媒体M上に画像を記録する。本実施形態のインクジェット記録装置100では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット103が記録媒体Mの搬送方向上流側から順に所定の間隔で並ぶように配列されている。
【0030】
各ヘッドユニット103は、平板状の基部103aと、当該基部103aを貫通する孔部に篏合した状態で基部103aに固定された複数の(本実施形態では7つの)インクジェットヘッド1とを有する。インクジェットヘッド1は、ノズルNの開口部が設けられたノズル開口面10a(
図2参照)を有し、各ヘッドユニット103は、インクジェットヘッド1のノズル開口面10aが搬送ベルト101の搬送面と対向する位置に配置される。ヘッドユニット103は、複数のインクジェットヘッド1を覆うカバー部材を有しているが、
図1では記載が省略されている。
【0031】
各インクジェットヘッド1では、インクを吐出する複数のノズルNが記録媒体Mの搬送方向と交差する方向(本実施形態では搬送方向と直交する幅方向、すなわちX方向)に配列されている(
図3参照)。また、各インクジェットヘッド1では、X方向に一次元配列されたノズルからなるノズル列が複数(本実施形態では4列)設けられており、当該複数のノズル列は、ノズルNの位置が互いにX方向にずれる位置関係で設けられている。
【0032】
各ヘッドユニット103における7つのインクジェットヘッド1は、ノズルのX方向についての配置範囲が、搬送ベルト101上の記録媒体Mのうち画像が記録可能な領域のX方向についての幅をカバーするように千鳥格子状に配置されている。このようにインクジェットヘッド1が配置されたインクジェット記録装置100では、ヘッドユニット103を固定した状態でインクジェットヘッド1から画像データに応じた適切なタイミングでインクを吐出することで、搬送される記録媒体M上に画像を記録することができる。すなわち、インクジェット記録装置100は、シングルパス方式で画像を記録する。
【0033】
図2は、インクジェットヘッド1を側面側(-X方向側)から見た断面図である。
図3では、4つのノズル列に含まれる4つのノズルNを含む面でのインクジェットヘッド1の断面が示されている。
インクジェットヘッド1は、ヘッドチップ2と、共通インク室70と、支持基板80と、配線部材3と、駆動回路4と、これらの構成要素を格納する図示略の筐体などを備える。
【0034】
ヘッドチップ2は、ノズルNからインクを吐出させるための構成であり、流路基板20と、ノズルプレート10とを有する。ノズルプレート10は、流路基板20の-Z方向側に向いた下面である基板平面20aに接合されて、流路基板20に積層されている。流路基板20は、Z方向に順に積層された圧力室基板30、スペーサー基板40及び配線基板50を有する。このうち最も-Z方向にある圧力室基板30にノズルプレート10が接合されている。流路基板20の基板平面20aは、インクジェットヘッド1のインク吐出基準方向に垂直な基準平面と平行な面である。ここで、インク吐出基準方向は、インクジェットヘッド1から吐出されるインクの設計上の吐出方向である。本実施形態では、インク吐出基準方向はZ方向と平行であり、基準平面はXY平面と平行である。
【0035】
ノズルプレート10には、インクを吐出する複数のノズルNが設けられている。ノズルNは、ノズルプレート10を貫通する貫通孔であり、ノズル開口面10aに開口を有している。ノズルNは、ノズル開口面10aの近傍の先端部において、他の部分よりも開口径が小さくなっている。あるいは、ノズル開口面10aの先端部が、ノズル開口面10aに近いほど断面の直径が小さくなるテーパー形状を有していてもよい。ノズルNのうち先端部を除く部分は、円筒形状を有する。ノズルNからは、円筒形状の中心軸に平行な向き(以下では、当該向きを「ノズルNの向き」と記す)にインクが吐出される。したがって、ノズルNからインク吐出基準方向にインクが吐出されるために、ノズルNの向きは流路基板20の基板平面20a(基準平面)に対して垂直となっていることが望ましい。なお、ノズルNの形状はこれに限られない。例えば、断面が円形とは異なる形状であってもよい。また、先端部がテーパー形状を有していなくてもよい。また、先端部を含む全体の断面が同一形状となっていてもよい。
ノズルプレート10は、ノズル開口面10aとは反対側の接合面10bが、流路基板20の基板平面20aに接着剤を介して接合されている。
ノズルプレート10の材質は、例えばシリコン、ポリイミド、ステンレス鋼(SUS)及びニッケルのいずれかとすることができる。本実施形態では、ノズルプレート10の材質はシリコンである。
【0036】
図3は、ヘッドチップ2をノズル開口面10a側から見た斜視図である。
ヘッドチップ2が有するノズルプレート10及び流路基板20は、X方向に長い直方体形状を有し、Z方向から見て重なるように積層されている。ヘッドチップ2のX方向の長さは50~70mm程度であり、Y方向の長さは、例えば10mm程度である。
ノズルプレート10には、X方向にノズルNが配列されたノズル列が4列設けられているが、ノズル列の数はこれに限られず、3列以下又は5列以上であってもよい。なお、
図3では、説明の便宜上、ノズルNの数を実際より少なく描いている。各ノズル列には、例えば数百個のノズルNが設けられる。
ノズルプレート10には、長手方向であるX方向について反りが生じているが、当該反りは微小であるため
図3には現れていない。ノズルプレート10の反りについては、後に詳述する。
【0037】
図2に示すように、流路基板20にはノズルNに連通するインク流路21が設けられている。当該インク流路21は、配線基板50の露出される側(+Z方向側)の面で開口している。この配線基板50の露出面上には、全ての開口を覆うように共通インク室70が設けられている。共通インク室70のインク室形成部材70a内に貯留されるインクは、配線基板50の開口からインク流路21を通って各ノズルNへ供給される。
【0038】
インク流路21の途中には、圧力室31が設けられている。圧力室31は、圧力室基板30を上下方向(Z方向)に貫通して設けられており、圧力室31の上面は、圧力室基板30とスペーサー基板40との間に設けられた振動板61により構成されている。圧力室31内のインクには、振動板61を介して圧力室31と隣り合って設けられている格納部41内の圧電素子62の変位(変形)によって振動板61(圧力室31)が変形することで、圧力変化が付与される。圧力室31内のインクに適切な圧力変化が付与されることで、圧力室31に連通するノズルNからインク流路21内のインクが液滴として吐出される。
【0039】
支持基板80は、ヘッドチップ2の上面に接合されており、共通インク室70のインク室形成部材70aを保持している。支持基板80には、インク室形成部材70aの下面の開口とほぼ同じ大きさ及び形状の開口が設けられており、共通インク室70内のインクは、インク室形成部材70aの下面の開口、及び支持基板80の開口を通ってヘッドチップ2の上面に供給される。
【0040】
配線部材3は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)などであり、配線基板50の配線に接続されている。この配線を介して格納部41内の配線51及び接続部52(導電部材)に伝えられる駆動信号により圧電素子62が変位動作する。配線部材3は、支持基板80を貫通して引き出されて駆動回路4に接続される。
【0041】
駆動回路4は、インクジェット記録装置の制御部からの制御信号や、電力供給部からの電力供給などを受けて、各ノズルNからのインク吐出動作や非吐出動作に応じて、圧電素子62の適切な駆動信号を配線部材3に出力する。駆動回路4は、IC(Integrated Circuit)などで構成されている。
【0042】
上述のとおり、本実施形態のノズルプレート10には、X方向について反りが生じている。また、当該反りが生じていてもインクがインク吐出基準方向に吐出されるように、ノズルNの向きが調整されている。以下では、このような構成の本実施形態に係る実施例1、2について、それぞれ比較例1、2と対比しつつ説明する。以下では、各比較例におけるヘッドチップ、ノズルプレート及びノズルプレートを指す場合には、符号「C」を付して、ヘッドチップ2C、ノズルプレート10C及び流路基板20Cなどと記す。
【0043】
図4は、比較例1のヘッドチップ2Cの模式図である。
比較例1のヘッドチップ2Cでは、ノズルプレート10Cに、基準平面に対する意図しない反りが生じている。詳しくは、ノズルプレート10Cの長手方向であるX方向について意図しない反りが生じている。
なお、
図4では、説明の便宜上、反りの大きさを誇張して描いている。また、
図4では、ノズルNの数を7つに省略している。また、
図4では、ノズルNからのインクの吐出方向を破線の矢印で表している。これらについては、以降の
図6、7、9、11-16においても同様である。
【0044】
ここで、X方向についての反りが生じているとは、X方向に平行かつ基準平面に垂直な
図4の断面において、X方向についての位置に応じて流路基板20Cの基板平面20aからノズルプレート10Cまでの距離が漸増又は漸減するような変形が生じていることをいう。換言すれば、X方向についての反りが生じているとは、反りを有するノズルプレート10Cの形状を円筒面に近似した場合に、当該円筒面の中心軸が、X方向に垂直かつ基準平面に平行な方向(Y方向)である変形が生じていることをいう。
【0045】
このようなノズルプレート10Cの反りは、種々の要因によって生じ得る。例えば、ノズルプレート10Cと流路基板20Cとの熱膨張係数が相違する場合において、温度が変動してノズルプレート10Cが流路基板20Cに対して相対的に伸長又は収縮することによって反りが生じ得る。また、ノズルプレート10Cと流路基板20Cとを接着剤90を介して接合する際に、接着剤の収縮により生じる応力に起因して反りが生じ得る。
図4の例では、ノズルプレート10Cの長手方向の両端部が、中心部に対して-Z方向にずれる反りが生じている。以下では、このような反りを「凹状の反り」と記す。
【0046】
比較例1のノズルプレート10Cには、ノズルプレート10Cに反りがない場合にインクがインク吐出基準方向に吐出されるように、ノズルプレート10Cのノズル開口面10aに対して垂直な向きにノズルNが形成されている。このため、ノズルプレート10Cの反りによって、ノズルNの向きがインク吐出基準方向(Z方向)からずれている。詳しくは、X方向の端部に近いノズルNほど、ノズルNからのインクの吐出方向の、インク吐出基準方向からのずれが大きくなっている。
図4の例では、-X方向の端にあるノズルNからのインクの吐出方向は、インク吐出基準方向に対して+θの方向となっている。また、+X方向の端にあるノズルNからのインクの吐出方向は、インク吐出基準方向に対して-θの方向となっている。
【0047】
図5は、比較例1におけるノズルNからのインク吐出方向のずれ量を表すグラフである。
図5の横軸は、ノズル番号であり、縦軸は、各ノズルNからのインク吐出方向の、インク吐出基準方向からのずれ量を角度で表したものである。ノズル番号は、ヘッドチップ2Cに設けられている全てのノズルNに対し、そのX方向についての位置に従って付番したものである。
図5に示すように、比較例1のヘッドチップ2Cでは、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、インク吐出方向のずれ量が+0.3度から-0.3度に変化している。このようにインク吐出方向がずれると、記録媒体Mに形成される画像のX方向についての幅が、所望の幅より小さくなる不具合が生じる。また、隣り合うインクジェットヘッド1との繋ぎ目において、インクが吐出されない領域が生じてしまう。
【0048】
これに対し、以下に示す本実施形態の実施例1のインクジェットヘッド1では、予めノズルプレート10の反りを想定してノズルNの向きが調整されている。
図6は、実施例1のノズルプレート10におけるノズルNの向きを示す模式図である。
図6に示すように、実施例1のノズルプレート10では、-X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して-θの角度を有して傾斜しており、+X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して+θの角度を有して傾斜している。また、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、ノズルNの向きのインク吐出基準方向に対する角度が、-θから+θに変化している。ここで、θは0.3度である。
【0049】
図7は、
図6のノズルプレート10を流路基板20に接合した状態を示す図である。
図6のノズルプレート10の接合面10bを、接着剤90を介して流路基板20の基板平面20aにすると、
図4の比較例1と同様の反りがノズルプレート10に生じる。このとき、ノズルNの向きが
図6に示した分布を有していることで、反りが生じた状態では、各ノズルNの向きがインク吐出基準方向に一致している。
【0050】
図8は、
図7のヘッドチップ2におけるノズルNからのインク吐出方向を表すグラフである。
図8に示すように、
図7のヘッドチップ2では、全てのノズルNからのインク吐出方向が、インク吐出基準方向からのずれ量のない状態となっている。よって、ノズルプレート10に反りが生じていても、各ノズルNからインク吐出基準方向にインクを吐出させることができる。これにより、記録媒体Mに、X方向について所望の幅で画像を形成することができる。また、隣り合うインクジェットヘッド1との繋ぎ目において、インクが吐出されない領域が生じないようにすることができる。
なお、各ノズルNの向きは、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出基準方向に完全に一致することが望ましいが、所望の画質を確保できる範囲でインク吐出基準方向と相違していてもよい。
【0051】
このように、実施例1のノズルNは、ノズルプレート10に反りが生じている状態(
図7)におけるインクの吐出方向が、反りが生じていない状態(
図6)におけるインクの吐出方向よりも、インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられている。
【0052】
図9は、比較例2のヘッドチップ2Cの模式図である。
図9のヘッドチップ2Cでは、ノズルプレート10Cの長手方向の両端部が、中心部に対して+Z方向にずれる反りが生じている。以下では、このような反りを「凸状の反り」と記す。比較例2のヘッドチップ2Cにおいても、ノズル開口面10aに対して垂直な向きにノズルNが形成されているため、ノズルプレート10Cの反りに起因してノズルNの向き、すなわちインクの吐出方向がインク吐出基準方向からずれている。詳しくは、-X方向の端にあるノズルNからのインクの吐出方向は、インク吐出基準方向に対して-θの方向となっている。また、+X方向の端にあるノズルNからのインクの吐出方向は、インク吐出基準方向に対して+θの方向となっている。また、X方向の端部に近いノズルNほど、ノズルNからのインクの吐出方向の、インク吐出基準方向からのずれが大きくなっている。
【0053】
図10は、比較例2におけるノズルNからのインク吐出方向のずれ量を表すグラフである。
図10に示すように比較例2のヘッドチップ2Cでは、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、インク吐出方向のずれ量が-0.3度から+0.3度に変化している。このようにインク吐出方向がずれると、記録媒体Mに形成される画像のX方向についての幅が、所望の幅より大きくなる不具合が生じる。また、隣り合うインクジェットヘッド1との繋ぎ目において、インクの吐出範囲が重なって濃度むらが生じてしまう。
【0054】
これに対し、以下に示す本実施形態の実施例2のインクジェットヘッド1では、予めノズルプレート10の反りを想定してノズルNの向きが調整されている。
図11は、実施例2のノズルプレート10におけるノズルNの向きを示す模式図である。
実施例2のノズルプレート10では、-X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して+θの角度を有して傾斜しており、+X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して-θの角度を有して傾斜している。また、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、ノズルNの向きのインク吐出基準方向に対する角度が、+θから-θに変化している。ここで、θは0.3度である。
【0055】
図12は、
図11のノズルプレート10を流路基板20に接合した状態を示す図である。
図11のノズルプレート10の接合面10bを、接着剤90を介して流路基板20の基板平面20aにすると、
図9の比較例2と同様の反りがノズルプレート10に生じる。このとき、ノズルNの向きが
図11に示した分布を有していることで、反りが生じた状態では、各ノズルNの向きがインク吐出基準方向に一致している。よって、
図12のヘッドチップ2では、
図8に示すように、全てのノズルNからのインク吐出方向が、インク吐出基準方向からのずれ量のない状態となっている。このため、ノズルプレート10に反りが生じていても、各ノズルNからインク吐出基準方向にインクを吐出させることができる。これにより、記録媒体Mに、X方向について所望の幅で画像を形成することができる。また、隣り合うインクジェットヘッド1との繋ぎ目における濃度むらが生じないようにすることができる。
【0056】
このように、実施例2のノズルNは、ノズルプレート10に反りが生じている状態(
図12)におけるインクの吐出方向が、反りが生じていない状態(
図11)におけるインクの吐出方向よりも、インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられている。
【0057】
ノズルプレート10の反りを前提としてノズルNの向きを調整する本実施形態のインクジェットヘッド1は、上記のようにノズルプレート10に意図しない反りが生じる場合に限られず、ノズルプレート10に意図しない反りが生じないもののノズルNの向きにばらつきが生じる場合にも適用可能である。以下、この場合に実施例3、4について、比較例3、4と対比しつつ説明する。
【0058】
図13は、比較例3のヘッドチップ2Cの模式図である。
比較例3のヘッドチップ2Cでは、流路基板20Cに接合された状態のノズルプレート10Cには反りが生じないものの、ノズルNの向きが、規則性を有しつつインク吐出基準方向からずれている。詳しくは、-X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して-θの角度を有して傾斜しており、+X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して+θの角度を有して傾斜している。また、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、ノズルNの向きのインク吐出基準方向に対する角度が、-θから+θに変化している。ここで、θは0.3度である。
このように、反りのないノズルプレート10CにおいてノズルNの向きがインク吐出基準方向からずれている場合には、ノズルプレート10Cの反りを解消させるための従来技術を適用しても、ノズルNの向きを調整することはできない。
【0059】
これに対し、本実施形態の実施例3では、ノズルプレート10に敢えて反りを生じさせることでノズルNの向きを調整している。
図14は、実施例3のヘッドチップ2の模式図である。
実施例3のノズルプレート10における各ノズルNの向きは、
図13の比較例3のノズルプレート10Cにおける各ノズルNの向きと同一である。実施例3では、ノズルプレート10に凹状の反りを生じさせることで、各ノズルNの向き、すなわちインク吐出方向を、インク吐出基準方向に一致させている。
図14におけるノズルプレート10の反り及びノズルNの向きは、
図7に示す実施例1と同様である。
【0060】
実施例3のノズルプレート10では、自然に反りが生じることはないため、ノズルプレート10の接合面10bのうち-X方向の端部近傍、及び+X方向の端部にそれぞれ突起11を設けることで反りを生じさせている。すなわち、接合面10bには、Z方向(インク吐出基準方向)から見て接合面10bと基板平面20aとの接合領域に重なる範囲内に突起11が設けられており、ノズルプレート10には、突起11が設けられている端部における基板平面20aと接合面10bとの距離よりも、突起11が設けられていない中央部における基板平面20aと接合面10bとの距離が小さいことにより反りが生じている。ここで、接合面10bと基板平面20aとの接合領域は、
図3においてノズルプレート10と流路基板20とが対向している領域である。
【0061】
突起11は、接合面10bのうちノズルNの形成範囲を除いた領域内に形成される。突起11は、接合面10bから流路基板20に向けて突出した形状を有していれば、Z方向から見た形状は特に限られない。突起11は、例えばノズルプレート10をなすシリコンの一部をエッチングすることにより形成することができる。ただし、これに限られず、ノズルプレート10の完成後に接合面10bに固着させる方法で突起11を設けてもよい。
また、流路基板20の基板平面20aに突起を設けてもよく、ノズルプレート10の接合面10b及び流路基板20の基板平面20aの双方に突起を設けてもよい。
【0062】
図15は、比較例4のヘッドチップ2Cの模式図である。
比較例4のヘッドチップ2Cにおいても、流路基板20Cに接合された状態のノズルプレート10Cには反りが生じないものの、ノズルNの向きがインク吐出基準方向からずれている。詳しくは、-X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して+θの角度を有して傾斜しており、+X方向側の端のノズルNの向きがインク吐出基準方向に対して-θの角度を有して傾斜している。また、-X方向側の端から+X方向側の端にかけて、ノズルNの向きのインク吐出基準方向に対する角度が、+θから-θに変化している。ここで、θは0.3度である。
【0063】
これに対し、本実施形態の実施例4では、実施例3とは逆方向の反りをノズルプレート10に生じさせることでノズルNの向きを調整している。
図16は、実施例4のヘッドチップ2の模式図である。
実施例4のノズルプレート10における各ノズルNの向きは、
図15の比較例4のノズルプレート10Cにおける各ノズルNの向きと同一である。実施例4では、ノズルプレート10に凸状の反りを生じさせることで、各ノズルNの向き、すなわちインク吐出方向を、インク吐出基準方向に一致させている。
図16におけるノズルプレート10の反り及びノズルNの向きは、
図12に示す実施例2と同様である。
【0064】
実施例4のノズルプレート10では、凸状の反りを生じさせるために、接合面10bのうちX方向の中央部近傍に2つの突起11が設けられている。これにより、ノズルプレート10には、突起11が設けられている中央部における基板平面20aと接合面10bとの距離よりも、突起11が設けられていない端部における基板平面20aと接合面10bとの距離が小さいことにより反りが生じている。
実施例4の突起11も、接合面10bのうちノズルNの形成範囲を除いた領域内に形成され、例えばノズルプレート10をなすシリコンの一部をエッチングすることにより形成することができる。ただし、これに限られず、ノズルプレート10の完成後に接合面10bに固着させる方法で突起11を設けてもよい。
また、流路基板20の基板平面20aに突起を設けてもよく、ノズルプレート10の接合面10b及び流路基板20の基板平面20aの双方に突起を設けてもよい。
【0065】
次に、上述した各実施例におけるノズルプレート10の反り量について説明する。
図17は、ノズルプレート10の反り量を説明する図である。
図17の平面S1、S2は、反りが生じているノズルプレート10のノズル開口面10aを挟む、基準平面に平行な仮想的な面である。2つの平面S1、S2の距離をDとし、ノズル開口面10aの長手方向(X方向)の長さをLとした場合に、ノズルプレート10の反り量は、Lが一定であれば距離Dにより表すことができる。これは、凹状の反り及び凸状の反りのいずれにおいても同様である。上記の実施例1~4では、長さLは50mmであり、距離Dは130μm程度である。長さLが50mmであるノズルプレート10においては、距離Dが130μm程度となる反りを生じさせることで、X方向端部のノズルNの向きがインク吐出基準方向から0.3度ずれている場合に、当該ずれを是正して、ノズルNの向きをインク吐出基準方向に一致させることができる。
【0066】
図18は、長さLが50mmである場合における、距離Dに対するX方向端部のノズルNの向きの是正量を示す図である。
図18に示すように、距離Dを大きくするほど、すなわち反り量を大きくするほど、ノズルNの向きの是正量を大きくすることができる。距離Dは、5μm以上200μm以下とすることが好ましい。距離Dが200μm以下の範囲内であれば、ノズルNが歪んだり、流路基板20とノズルプレート10との間隔が空きすぎたりする問題を生じにくくすることができる。また、距離Dが5μm以上であれば、ノズルNの向きを是正する効果が得られる。このノズルNの向きの是正効果の観点では、距離Dを50μm以上とすることがより好ましい。
【0067】
このように、距離Dは大きくても200μm程度であるため、反りにより流路基板20の基板平面20aとノズルプレート10の接合面10bとの間に距離が開いても、流路基板20のインク流路21からノズルプレート10のノズルNへのインクの供給に支障が生じることはない。すなわち、流路基板20とノズルプレート10との隙間は、ノズルNと同径の開口が開いた状態の接着剤90により埋められるため、流路基板20からノズルプレート10へのインクの流動が接着剤90により妨げられたり、流路基板20とノズルプレート10との隙間を介してノズル間でインクがリークしたりすることはない。
【0068】
上記では、ノズルプレート10(ノズル開口面10a)の長手方向の長さLが50mmである場合について例示したが、より一般的には、ノズルプレート10の反り量はD/Lで表すことができる。反り量をD/Lで表す場合には、D/Lが0.1×10-3以上、4×10-3以下であることが好ましい。また、ノズルNの向きの是正効果の観点では、D/Lが1×10-3以上であることがより好ましい。
【0069】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法について、ノズルプレート10の作成方法を中心に説明する。
【0070】
図19は、インクジェットヘッド製造工程の手順を示すフローチャートである。
図19では、実施例3、4のようにノズルプレート10に突起11が設けられており、またノズルプレート10の材質がシリコンである場合を例に挙げて説明する。
【0071】
インクジェットヘッド製造工程では、まず加工後にノズルプレート10となる板状部材10Aのうち接合面10bに相当する面に突起11を形成する(ステップS101:ノズルプレート作成工程、突起形成工程)。
【0072】
図20は、板状部材10Aにおけるノズルプレート10の配置例を示す図である。
板状部材10Aは、ここでは、オリエンテーションフラットを有する円盤形状のシリコンウェハーである。
図20の板状部材10Aは、ノズルNの形成後に分割(ダイシング)されることでノズルプレート10となる領域を9つ有する複合基板である。
【0073】
ステップS101では、板状部材10Aの表面を部分的にエッチングすることにより突起11を形成する。例えば、板状部材10Aの表面のうち突起11の形成領域にレジストを形成した後にドライエッチングを行うことで、突起11を除いた領域を薄化し、その後レジストを除去することで突起11を形成することができる。
【0074】
次に、板状部材10Aに所定の角度分布でノズルNを形成する(ステップS102:ノズルプレート作成工程)。例えば、板状部材10Aの表面のうちノズルNの形成領域を除いた領域にレジストを形成した後にドライエッチングを行うことで、板状部材10AにノズルNとなる貫通孔を形成する穿孔加工を行い、その後レジストを除去する。ドライエッチングの方式は、特には限られないが、例えばBoschプロセスを用いた深掘りRIE(DRIE、深掘り反応性イオンエッチング)を用いることができる。また、ドライエッチングに代えてウェットエッチングが用いられてもよい。
【0075】
また、ステップS102では、複数のノズルNが角度分布を有するように、板状部材10Aにおける加工位置に応じて穿孔方向が変化するエッチング加工(穿孔加工)により板状部材10AにノズルNを形成する。
【0076】
図21は、エッチング加工で形成されるノズルNの角度分布を示す図である。
図21の横軸は、
図20に示す板状部材10Aの中心からの距離Rである。
図21の縦軸は、各距離Rにおいて形成されるノズルNの向きと、インク吐出基準方向とがなす角の絶対値(以下、「ずれ角」と記す)を示す。
図21に示すように、ステップS102のエッチング加工では、板状部材10Aの中心ではずれ角がなく、中心から離れるほどずれ角が大きくなるようにノズルNが形成される。
【0077】
このような角度分布の条件を満たすための加工方法は、特には限られないが、例えばドライエッチングに用いるチャンバー内におけるガスの流れを制御する方法が挙げられる。すなわち、板状部材10Aの中心から放射状にガスの流れを生じさせたり、中心に向かってガスの流れを生じさせたりする方法が挙げられる。あるいは、板状部材10Aの表面に形成するレジストにおける、ノズルNに対応する位置に設けられた貫通孔の内壁面の角度を、中心からの距離に応じて変化させる方法がある。
【0078】
このようなエッチング加工により、板状部材10Aに含まれる9個のノズルプレート10のいずれにおいても、長手方向について中央から端部に近付くにつれて、ノズルNのずれ角が大きくなる。よって、ノズルプレート10に反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、インク吐出基準方向に近くなる向きにノズルNを形成することができる。
【0079】
ノズルNを形成した後に、板状部材10Aを分割して複数のノズルプレート10を作成する(ステップS103:ノズルプレート作成工程)。
【0080】
次に、ノズルプレート10を、反りが生じる状態で流路基板20に接合してヘッドチップ2を作成する(ステップS104:ノズルプレート整形工程)。すなわち、流路基板20の基板平面20aに突起11が当接するように基板平面20aとノズル開口面10aの接合面10bとを接着剤90により接合させる。このとき、ノズルプレート10を流路基板20に向けて押圧しながら接合する。このような接合において、突起11が設けられている位置における基板平面20aと接合面10bとの距離よりも、突起11が設けられていない位置における基板平面20aと接合面10bとの距離を小さくすることでノズルプレート10に反りを生じさせる。
【0081】
次に、ヘッドチップ2及びその他の構成部材を筐体に組み込んで、インクジェットヘッド1が完成する(ステップS105)。
【0082】
上記インクジェットヘッド製造工程のステップS101では、板状部材10Aに突起11を形成したが、これに代えて流路基板20の基板平面20aに突起を形成してもよい。基板平面20aに突起を形成する場合には、ノズルプレート10との接合時に、当該突起をノズルプレート10の接合面10bに当接させればよい。
また、ステップS101の突起形成工程は、ノズルNを形成した後のノズルプレート10の接合面10bに対して行ってもよい。すなわち、ステップS101は、ステップS102の後、又はステップS103の後に行ってもよい。
【0083】
また、実施例1、2のように、流路基板20との接合時又はその後にノズルプレート10に自然に反りが生じる場合には、ステップS101を省略することができる。また、この場合には、ステップS104でノズルプレート10を流路基板20に接合する際に、反りを生じさせる目的でノズルプレート10を押圧する必要はない。
【0084】
また、ノズルプレート10の材質がステンレス鋼である場合には、ステップS102においてノズルNを形成するための穿孔加工は、ステンレス鋼の板状部材10Aに対して錐状の工具等により機械的に穿孔するポンチ加工とすることができる。この場合には、板状部材10Aにおける加工位置に応じて穿孔方向が変化するようにポンチ加工を行えばよい。
【0085】
また、ノズルプレート10の材質がステンレス鋼又はポリイミドである場合には、ステップS102においてノズルNを形成するための穿孔加工は、ステンレス鋼又はポリイミドの板状部材10Aに対してレーザー照射により穿孔するレーザー加工とすることができる。この場合には、板状部材10Aにおける加工位置に応じてレーザーの照射方向が変化するようにレーザー加工を行えばよい。
【0086】
図22は、インクジェットヘッド製造工程の他の手順を説明するフローチャートである。
図22のフローチャートは、
図20のフローチャートのステップS102をステップS102aに変更したものに相当する。以下では、
図20のフローチャートとの相違点について説明する。
【0087】
図22のステップS102aでは、板状部材10Aに反りを生じさせた状態で、インク吐出基準方向に平行な方向にノズルNを形成する(ノズルプレート作成工程)。
【0088】
図23は、ステップS102aにおけるノズルNの形成方法を説明する図である。
ここでは、まず
図23の上段に示すように、板状部材10Aに、基準平面に対する反りを生じさせる。そして、この状態を維持したまま、板状部材10Aに対し、インク吐出基準方向に平行な方向に上述したいずれかの穿孔加工を行ってノズルNを形成する。これにより、
図23の下段に示すように、反りが生じた状態でインク吐出基準方向に対してインクを吐出可能なノズルNが形成される。
ステップS103以降の手順は、
図20と同様である。
【0089】
以上のように、本実施形態に係るインクジェットヘッド1は、インクを吐出するノズルNが設けられたノズルプレート10を備え、ノズルプレート10には、所定のインク吐出基準方向に垂直な基準平面に対する反りが生じており、ノズルNは、ノズルプレート10に反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、インク吐出基準方向に近くなる向きに設けられている。
これにより、ノズルプレート10に反りが生じる場合であっても、当該反りを解消させずに、ノズルNから所望の方向、すなわちインク吐出基準方向により近い方向にインクを吐出させることができる。よって、ノズルプレート10の反りを抑制するための構成に起因してインクジェットヘッド1の構成を複雑化させたり、製造コストを上昇させたりすることなく、インクの吐出方向のずれを抑制することができる。
また、ノズルプレート10に反りがない状態において、ノズルNの向きに規則的なばらつきが生じている場合に、ノズルプレート10に敢えて反りを生じさせることでインクの吐出方向をインク吐出基準方向に近付けることができる。このような態様によっても、簡易な構成でインク吐出方向のずれを抑制することができる。
【0090】
また、ノズルプレート10の材質は、シリコン、ポリイミド、ステンレス鋼及びニッケルのいずれかである。これにより、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを簡易に形成することができる。
【0091】
また、ノズルプレート10におけるノズルNの開口部が設けられたノズル開口面10aを、基準平面に平行な仮想的な2平面S1、S2で挟んだときの当該2平面S1、S2の距離をDとし、ノズル開口面10aの長手方向の長さをLとした場合に、D/Lが0.1×10-3以上、4×10-3以下である。D/Lを4×10-3以下とすることで、ノズルNが歪んだり、流路基板20とノズルプレート10との間隔が空きすぎたりする問題を生じにくくすることができる。また、D/Lを0.1×10-3以上とすることで、ノズルNの向きを是正する効果が得られる。
【0092】
また、D/Lを1×10-3以上、4×10-3以下とすることで、ノズルNの向きを是正するより大きな効果が得られる。
【0093】
また、ノズルプレート10の反りは、ノズルプレート10の長手方向の両端部が、中央部に対してインク吐出基準方向について同一方向側にずれている凹状又は凸状である。これによれば、ノズルプレート10の長手方向についての中央部の両側における反りの形状がほぼ対称となる。よって、中央部の両側に対称な向きでノズルNを形成する簡易な方法で、反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNが得られる。
【0094】
また、インクジェットヘッド1は、ノズルNに連通するインク流路21を有する流路基板20を備え、ノズルプレート10は、ノズル開口面10aとは反対側の接合面10bが、流路基板20の所定の基板平面20aに接合されており、接合面10b及び基板平面20aの少なくとも一方には、インク吐出基準方向から見て接合面10bと基板平面20aとの接合領域に重なる範囲内に突起11が設けられており、ノズルプレート10には、突起11が設けられている位置における基板平面20aと接合面10bとの距離よりも、突起11が設けられていない位置における基板平面20aと接合面10bとの距離が小さいことにより反りが生じている。これにより、ノズルプレート10に自然には反りが生じない場合において、適切な大きさの反りを簡易に生じさせることができる。
【0095】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、上記のインクジェットヘッドを備えるので、簡易かつ低コストな構成でより確実にインクの吐出方向のずれを抑制することができる。
【0096】
また、本実施形態に係るインクジェットヘッド1の製造方法は、板状部材10AにノズルNを形成してノズルプレート10を作成するノズルプレート作成工程を含み、ノズルプレート作成工程では、ノズルプレート10に反りが生じている状態におけるインクの吐出方向が、反りが生じていない状態におけるインクの吐出方向よりも、インク吐出基準方向に近くなる向きにノズルNを形成する。これにより、簡易かつ低コストな構成でより確実にインクの吐出方向のずれを抑制可能なインクジェットヘッドを製造することができる。
【0097】
また、インクジェットヘッド1の製造方法は、ノズルプレート10に反りを生じさせるノズルプレート整形工程を含む。これにより、ノズルプレート10に自然には反りが生じない場合において、ノズルプレート10に反りを生じさせてノズルNのインク吐出方向をインク吐出基準方向に近付けることができる。
【0098】
また、ノズルプレート整形工程は、流路基板20の基板平面20aに対しノズルプレート10の接合面10bを接合させる工程であり、ノズルプレート整形工程の前に、板状部材10Aのうち接合面10bに相当する面、ノズルプレート10の接合面10b、及び流路基板20の基板平面20aのうち少なくともいずれかに突起11を形成する突起形成工程を含み、ノズルプレート整形工程では、突起11が基板平面20a又は接合面10bに当接するように基板平面20aと接合面10bとを接合させ、当該接合において、突起11が設けられている位置における基板平面20aと接合面10bとの距離よりも、突起11が設けられていない位置における基板平面20aと接合面10bとの距離を小さくすることで反りを生じさせる。これにより、ノズルプレート10に自然には反りが生じない場合において、適切な大きさの反りを簡易に生じさせることができる。
【0099】
また、ノズルプレート作成工程では、板状部材10Aにおける加工位置に応じて穿孔方向が変化する穿孔加工により板状部材10AにノズルNを形成する。これにより、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを簡易に形成することができる。
【0100】
また、他のノズルプレート作成工程では、板状部材10Aに反りを生じさせた状態で、インク吐出基準方向に平行な方向に穿孔する穿孔加工により板状部材10AにノズルNを形成する。これによれば、一様な穿孔方向で穿孔する簡易な方法により、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを形成することができる。
【0101】
また、板状部材10Aの材質がシリコンである場合に、穿孔加工をエッチング加工とすることで、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを簡易に形成することができる。
【0102】
また、板状部材10Aの材質がステンレス鋼である場合に、穿孔加工をポンチ加工とすることで、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを形成することができる。
【0103】
また、板状部材10Aの材質がステンレス鋼又はポリイミドである場合に、穿孔加工をレーザー加工とすることで、ノズルプレート10に反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようなノズルNを形成することができる。
【0104】
また、板状部材10Aは、ノズルNの形成後に分割されることでノズルプレート10となる領域を複数有する複合基板であり、ノズルプレート作成工程は、ノズルNの形成後に板状部材10Aを分割して複数のノズルプレート10を作成する工程を含む。これにより、ノズルプレート10及びインクジェットヘッド1の製造効率を向上させることができる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、ノズルプレート10の反りは、凹状の反り及び凸状の反りに限られない。例えば、X方向について一方側の端部から所定の範囲で反りがなく、残りの部分にのみ反りが生じていてもよい。このように片側のみに反りを生じさせる場合には、反りがない範囲ではノズルNの向きをノズル開口面10aに対して垂直とし、反りが生じる部分のノズルNの向きを上記実施形態と同様に調整すればよい。また、片側のみに反りを生じさせるためには、例えば、
図14に示すノズルプレート10の両端の突起11のうち反りを生じさせない端部に対応する一方を省略すればよい。
【0106】
また、ノズルプレート10の反りは、長手方向(X方向)についての反りに限られない。長手方向の反りに加えて、又は長手方向の反りに代えて、短手方向(Y方向)についての反りが生じたときにインク吐出方向がインク吐出基準方向に近付くようにノズルNが形成されていてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、複合基板である板状部材10Aに複数のノズルプレート10を形成して分割する例を用いて説明したが、これに限られず、1つのノズルプレート10に対応する板状部材10Aを加工して個別にノズルプレート10を作成してもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、圧電素子62を変形させることで圧力室31内のインクの圧力を変動させてインクを吐出させるベントモードのインクジェットヘッド1を例に挙げて説明したが、これに限定する趣旨ではない。例えば、圧電体の内部に圧力室を設け、圧力室の壁面の圧電体にシアモード型の変位を生じさせて圧力室内のインクの圧力を変動させるシアモードのインクジェットヘッドに対して本発明を適用してもよい。また、圧力室を変形させる方式に限られず、例えば、加熱によりインクに気泡を生じさせてインクを吐出するサーマル方式のインクジェットヘッドに対して本発明を適用してもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、シングルパス形式のインクジェット記録装置100を例に挙げて説明したが、ヘッドユニット又はインクジェットヘッドを走査させながら画像の記録を行うインクジェット記録装置に本発明を適用してもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、搬送ベルト101により記録媒体Mを搬送する例を用いて説明したが、これに限定する趣旨ではなく、例えば回転する搬送ドラムの外周面上で記録媒体Mを保持して搬送してもよい。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 インクジェットヘッド
2 ヘッドチップ
3 配線部材
4 駆動回路
10 ノズルプレート
10a ノズル開口面
10b 接合面
10A 板状部材(複合基板)
11 突起
20 流路基板
20a 基板平面
21 インク流路
30 圧力室基板
40 スペーサー基板
50 配線基板
61 振動板
62 圧電素子
70 共通インク室
80 支持基板
90 接着剤
100 インクジェット記録装置
101 搬送ベルト
102 搬送ローラー
103 ヘッドユニット
M 記録媒体
N ノズル
S1、S2 平面