(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ノズルプレート及びインクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240509BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2022545189
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032515
(87)【国際公開番号】W WO2022044245
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾子
(72)【発明者】
【氏名】香西 洋明
(72)【発明者】
【氏名】前田 正寿
(72)【発明者】
【氏名】江上 信之
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-076422(JP,A)
【文献】特開平07-025015(JP,A)
【文献】特開2014-054815(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012829(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、
前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、
前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、
前記基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であり、
前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、
前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とするノズルプレート。
【請求項2】
前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、シランカップリング剤を含有する層であることを特徴とする請求項
1に記載のノズルプレート。
【請求項3】
基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、
前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、
前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、
前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、
前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、シランカップリング剤を含有する層であり、
前記下地層が含有する前記シランカップリング剤が、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含み、かつ、
前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とするノズルプレート。
【請求項4】
前記基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であることを特徴とする請求項
3に記載のノズルプレート。
【請求項5】
前記基材密着層の表面部における構成元素の濃度(atm%)比において、Feに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値が0.8以上であることを特徴とする請求項1
から請求項
4までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【請求項6】
前記基材密着層の層厚が、1~50nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【請求項7】
前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、少なくとも炭素(C)、ケイ素(Si)、酸素(O)により構成される酸化物を含有していることを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【請求項8】
前記基材が、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のノズルプレートを具備することを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレート及びインクジェットヘッドに関する。さらに詳しくは、構成する部材間の密着性と、インク耐性及び擦過耐久性に優れたノズルプレート及びそれを具備したインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在広く普及しているインクジェット記録装置は、複数のノズル孔が列状に並んで形成されたノズルプレートを具備したインクジェットヘッドをフレーム等に取り付けることによって保持し、当該複数のノズルのそれぞれから記録媒体に向けて、各色インクを微小な液滴の状態で吐出することにより、記録媒体に画像を形成する。
【0003】
インクジェットヘッドの代表的なインク吐出方式としては、加圧室に配置された電気抵抗体に電流を流すことにより発生した熱でインク中の水を気化膨張させインクに圧力を加えて吐出させる方法と、加圧室を構成する流路部材の一部を圧電体にするか、流路部材に圧電体を設置し、複数のノズル孔に対応する圧電体を選択的に駆動することにより、各圧電体の動圧に基づいて加圧室を変形させてノズルから液体を吐出させる方法がある。
【0004】
インクジェットヘッドにおいて、インク液滴の良好な射出性能を実現する上では、ノズルが設けられた面の表面特性が非常に重要となってくる。
【0005】
インクジェットヘッドのノズル孔の近傍にインク液やゴミが付着すると、吐出するインク液滴の射出方向が曲がること、又はノズル孔でのインク液滴の射出角度が広がり、サテライトが発生するという問題が生じる。
【0006】
インク液滴を安定に射出させるためには、インク流路内の設計やインクに圧力を印加する方法を最適化することはもちろんであるが、それだけでは不十分であり、さらにインクを射出するノズル孔の周りをいつも安定な表面状態に維持することが必要となる。そのためには、ノズルプレートのインク射出面のノズル孔周辺部に、不要なインクが付着又は残留しないように、撥液性を備えた撥液層を付与する方法が検討されている。
【0007】
一般に、インクジェットヘッドが具備するノズルプレートのノズル面に形成されている撥液層には、シリコーン系化合物やフッ素含有有機化合物、例えば、シランカップリング剤等が用いられている。
【0008】
撥液層の形成にシランカップリング剤を用いることにより、密着性に優れた撥液層を形成できることが知られている。しかしながら、ノズルプレートを構成する基材や下地層のヒドロキシ基の密度が低い場合、インクを構成するアルカリ性成分がそこに存在する水素結合やヒドロキシ基結合を破壊し、その結合を切断してしまうため、アルカリ耐性が低い撥液層となるという問題を有している。
【0009】
上記問題に対し、撥液層の形成方法として、同一層中に、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を有するシランカップリング剤とフッ素を有するシランカップリング剤と、一方の末端がフッ化炭素鎖で、他方の末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤を混合し、脱水縮合反応により高密度重合膜を形成することで、架橋点となるシロキサン結合近辺には疎水性のベンゼン環・アルキル鎖・フッ素炭素鎖が存在し、アルカリ耐性の高い撥液層の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、特許文献1で提案されている構成では、インクのアルカリ成分に対する耐久性が依然として十分ではなく、かつ、顔料インクを用いた場合、メンテナンス時に使用するワイプ材と顔料粒子を含む顔料インクとの擦過により、撥液層面が徐々に摩耗していく現象が確認されており、このような操作を長期間にわたり繰り返すことにより、メンテナンスのみでは耐久性(擦過耐久性)が確保できないという問題が存在することが分かった。
【0011】
また、ノズル基材がステンレス材からなり、撥液層が形成される表面側にクロム(以下、「Cr」と記載する。)の濃度がステンレス材自体のCrの濃度よりも高い表面部を有し、表面部のFeに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値が0.8以上であり、撥液層は炭素を含む層であり、ステンレス材に直接撥液層が成膜されている構成のノズルプレートが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0012】
特許文献2に記載されている発明によれば、製造プロセスを増加することなく、ノズル基材と撥液層との密着性が向上するとされている。
【0013】
しかしながら撥液層領域は、ノズル基材の表面を研磨剤により研磨することにより、表面部のFeを除去し、Cr濃度を高くする方法で形成され、撥液層とノズル基材が直接接する構成である。このような構成のノズルプレートでは、界面浸透性の高いインク、例えば、アルカリインクを長期間にわたり使用した場合、アルカリ耐性が十分ではなく、特に、空気とインクが接するノズル孔内部において、例えば、ステンレス基材と撥液層間の界面で剥離を起こすことが判明した。また、顔料インクを用いた場合、メンテナンス時に使用するワイプ材と顔料粒子を含む顔料インクとの擦過により、撥液層面が徐々に摩耗していく現象が確認されており、このような操作を長期間にわたり繰り返すことにより、メンテナンスのみでは耐久性(擦過耐久性)が確保できないという問題が存在することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4088544号公報
【文献】特許第6119152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、構成部材間の密着性と、インク耐性及び擦過耐久性に優れたノズルプレート及びそれを具備したインクジェットヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有し、前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度が高く、前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であるノズルプレートにより、構成部材間の密着性と、インク耐性及び擦過耐久性に優れたノズルプレート等を実現することができることを見いだし、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0018】
1.基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、
前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、
前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、
前記基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であり、
前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、
前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とするノズルプレート。
2.前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、シランカップリング剤を含有する層であることを特徴とする第1項に記載のノズルプレート。
3.基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、
前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、
前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、
前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、
前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、シランカップリング剤を含有する層であり、
前記下地層が含有する前記シランカップリング剤が、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含み、かつ、
前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とするノズルプレート。
【0019】
4.前記基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であることを特徴とする第3項に記載のノズルプレート。
【0020】
5.前記基材密着層の表面部における構成元素の濃度(atm%)比において、Feに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値が0.8以上であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【0021】
6.前記基材密着層の層厚が、1~50nmの範囲内であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【0022】
7.前記下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、少なくとも炭素(C)、ケイ素(Si)、酸素(O)により構成される酸化物を含有していることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【0025】
8.前記基材が、ステンレス鋼であることを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載のノズルプレート。
【0026】
9.第1項から第8項までのいずれか一項に記載のノズルプレートを具備することを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、構成部材間の密着性と、インク耐性及び擦過耐久性に優れたノズルプレート等を提供することができる。
【0028】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、以下のように推察している。
【0029】
本発明においては、前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、前記基材密着層は、前記基材よりCrの濃度(atm%)が高く、前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とする。
【0030】
図1は、従来のノズルプレートを構成するノズル孔の構成の一例を示してある。
【0031】
図1に記載のノズルプレート1は、基材2上に、下地層4と最表層として撥液層5を有する構成である。このような構成のノズルプレート1に対し、貫通するノズル孔Nが形成されている。このノズル孔NにインクInが充填されるが、例えば、インクInがアルカリインクの場合、ノズル孔の内面に存在するインクInが、特に、基材2と下地層4の界面部を浸食し、その界面部で剥離が生じるという問題が発生することが判明した。これによりノズルプレートの耐久性(インク耐性)を大きく損なう要因となっていた。
【0032】
本発明者は、上記問題について鋭意検討を進めていく中で、
図2で示すように、基材2と少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している下地層4の間に、Crを主成分とする基材密着層3を設けることにより、アルカリインク等による長期間にわたる印字を行っても、基材と下地層間の界面へのインクの浸透を防止し、基材と下地層間の剥離を防止することができることを見出した。また、基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率を50atm%以上とすることにより、擦過耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
さらに、基材密着層の表面部における構成元素の濃度比(atm%比)として、Feに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値を0.8以上とすることにより、上記アルカリインク耐性を向上させることができることを見出した。
【0034】
加えて、ノズルプレートを構成する下地層が酸化物を含有している層であることを特徴とするが、より好ましくは、下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有していること、好ましくは、シランカップリング剤を含有していること、さらに好ましくは、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤が高密度に重合し、かつお互いにスタッキング相互作用を生じることにより、ノズルプレートが応力、特に厚さ方向での応力を受けた際に、ノズルプレートの基材と、その上に設けた構成層間の密着性を向上させることができ、密着性の向上と共に、ノズルプレート表面がメンテナンス時に使用するワイプ材等により幅手方向での応力を受けた際の耐性を向上させることができる。また、中間層を含む下地層を具備することにより、撥液層におけるカップリング剤を効率的に表面に配向させ、平面上に高密度充填させることが可能となり、優れた撥液性の実現と共に、アルカリ耐久性と顔料インクを用いた長期繰り返しメンテナンスによる耐久性を確保することが可能となることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】比較例のノズルプレートのノズル孔部分の構成の一例を示す概略断面図
【
図2】本発明のノズルプレートのノズル孔部分の構成の一例を示す概略断面図
【
図3】本発明のノズルプレートの構成の一例を示す概略断面図
【
図4】本発明のノズルプレートの構成の他の一例を示す概略断面図
【
図5】基材密着層におけるCrの価数別のプロファイルの一例を示すグラフ
【
図6】基材及び基材密着層の厚さ方向における各原子濃度分布曲線(デスプロファイル)の一例を示すグラフ
【
図7】基材密着層の形成に用いるRIEモードの高周波プラズマ装置の一例を示す概略図
【
図8】基材密着層の形成に用いるPEモードの高周波プラズマ装置の一例を示す概略図
【
図9】本発明のノズルプレートの適用が可能なインクジェットヘッドの構造の一例を示す概略斜視図
【
図10】
図9に示すインクジェットヘッドを構成するノズルプレートの一例を示す底面図
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のノズルプレートは、基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0037】
本発明の実施形態としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCr(Cr(III))の含有率が、50atm%以上であることが、本発明の目的効果である擦過耐久性がより向上することができる点で好ましい。
【0038】
また、基材密着層の表面部における構成元素の濃度(atm%)比において、Feに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値が0.8以上とすることが、アルカリインク等による長期間にわたる印字を行っても、基材と下地層間の界面へのインクの浸透を防止し、基材と下地層間の剥離をより一層防止することができる点で好ましい。
【0039】
また、基材密着層の層厚が、1~50nmの範囲内とすることが、本発明の目的効果であるノズルプレートのノズル孔内面部におけるアルカリインク耐性をより向上させることができる点で好ましい。
【0040】
また、下地層が、前記炭素(C)を含む酸化物として、少なくとも炭素(C)、ケイ素(Si)、酸素(O)により構成される酸化物を含有していることが、上層である撥液層が含有するフッ素(F)を有するカップリング剤を保持する効果を発現させ、撥液層と中間層の密着性がより向上する点で好ましい。
【0041】
また、下地層が、シランカップリング剤を含有する層であること、さらには、シランカップリング剤が、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むことが、基材、特に金属基材との密着性が向上し、ノズルプレートが応力、特に厚さ方向での応力を受けた際に、ノズルプレートの基材と、その上に設けた構成層間の密着性を向上させることができ、密着性の向上と共に、ノズルプレート表面がメンテナンス時に使用するワイプ材等により幅手方向での応力を受けた際の擦過耐久性を向上させることができる点で好ましい。
【0042】
また、基材がステンレス鋼であることが、より優れた耐久性を発現することができる点で好ましい。
【0043】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0044】
《ノズルプレート》
本発明のノズルプレートは、基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を有するノズルプレートであって、前記基材と下地層の間に基材密着層を有し、前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とする。
【0045】
以下、本発明のノズルプレートの詳細について説明する。
【0046】
[ノズルプレートの基本構成]
はじめに、本発明のノズルプレートの基本的な構成について、図を交えて説明する。なお、各図の説明において、構成要素の末尾に記載した数字は、各図における符号を表す。
【0047】
図3は、本発明で規定する構成を有するノズルプレートの一例を示す概略断面図である。
【0048】
図3で示すように、本発明のノズルプレート1の基本的な構成は、基材2上に、当該基材よりCr濃度(atm%)が高い基材密着層3を形成し、その上に、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している下地層4を有し、最表層にフッ素(F)を有するカップリング剤を含有する撥液層5を有する構成である。
【0049】
図4は、本発明に係るノズルプレートの他の構成の一例を示す概略断面図である。
【0050】
図4に示すノズルプレート1は、
図3で示したノズルプレートの構成に対し、基材密着層3と撥液層5との間に設ける下地層4を、第1下地層6と第2下地層7の2層から構成される下地層ユニット4Uとした構成である。例えば、第1下地層6を両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤(以下、シランカップリング剤Aともいう。)を含有する構成とし、第2下地層7として、ケイ素(Si)を含有する有機酸化物、例えば、低分子量のシラン化合物又はシランカップリング剤からなる構成を挙げることができる。
【0051】
[ノズルプレートの各構成材料]
次いで、本発明のノズルプレートを構成する、基材2、基材密着層3、下地層4、撥液層5等の詳細について説明する。
本発明においては、基材と下地層の間に基材密着層を有し、前記基材密着層の表面部は、前記基材の表面部よりCrの濃度(atm%)が高く、前記下地層が、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であり、かつ、前記撥液層が、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成された層であることを特徴とする。
【0052】
本発明でいう基材の表面部とは、基材密着層と接する面側で、最表面から深さ5nmの領域をいう。また、基材密着層の表面部とは、基材と接する面側とは反対側の面であり、その表面部とは、一般的に、基材密着層の最表面より基材方向に深さで5nmまでの領域をいう。
【0053】
〔基材〕
ノズルプレート1を構成する基材2としては、機械的強度が高く、インク耐性を有し、寸法安定性に優れた材料より選択することができ、例えば、無機材料、金属材料や樹脂フィルム等種々のものを用いることができるが、その中でも、無機材料や金属材料であることが好ましく、更に好ましくは鉄(例えば、ステンレス鋼(SUS))、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属材料であり、特に好ましくは、ステンレス鋼(SUS)である。
【0054】
ノズルプレートを構成する基材の厚さは、特に制限はなく、10~500μmの範囲内であり、好ましくは30~150μmの範囲内である。
【0055】
〔基材密着層〕
(基材密着層の構成)
本発明では、基材と後述する下地層の間に形成する本発明に係る基材密着層の表面部は、基材の表面部よりCr濃度が高いことを特徴とする。
【0056】
本発明のノズルプレートにおいては、上記のように基材としてはステンレス鋼(SUS)を適用することが好ましいが、例えば、代表的なステンレス鋼であるSUS304の成分組成としては、まったく表面処理を施されていない場合には、Feが71atm%、Crが18atm%、Niが8.5atm%で、残りがその他の元素であるが、空気等と接するステンレス基材の表面は、空気による酸化や有機物の極微量な吸着等で、炭素や酸素の元素が存在し、後述するXPSによる元素分析を行うと、元素組成の一例としては、C:31atm%、O:47atm%、Cr:9.8atm%、Fe:7.5atm%、その他となる。基材として、SUS304を適用した場合には、その表面部のCr量は、9.8atm%となる。
【0057】
本発明に係る基材密着層では、少なくともCrを含有し、そのCr含有量としては、基材密着層の表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であることが好ましい態様の一つである。
【0058】
前述通り、基材密着層の表面部とは、基材と接する面側とは反対側の面であり、その表面部とは、一般的に、基材密着層の最表面より基材方向に深さで5nmまでの領域をいう。
【0059】
また、本発明に係る基材密着層では、上記で規定する表面部における構成元素の原子濃度比(atm%比)として、Feに対するCrの濃度(atm%)の比(Cr/Fe)の値が0.8以上であることが好ましい態様である。
【0060】
(基材密着層の具体的な組成分析方法)
以下、本発明に係る基材密着層の各特性値とその具体的な測定方法について、その詳細を説明する。
【0061】
〈基材密着層の構成元素の組成比率の測定〉
本発明において、基材密着層を構成する元素の組成比率等を測定する方法は、特に限定されないが、本発明において、例えば、トリミング用のガラスナイフなどを用いて基材密着層の表面から10nmの領域を削って、当該切片部位を構成する材料の組成を定量分析する方法や、基材密着層の厚さ方向の化合物の質量を赤外分光法(IR)や原子吸光などでスキャンする方法などを用いて定量化する方法、また、基材密着層が、10nm以下の極薄膜であっても、XPS(X線光電子分光:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析法によって定量化することできる。中でも、XPS分析法を用いることが、極薄膜であっても元素分析することができ、また後述のデプスプロファイル測定によって、基材密着層全体の層厚方向での組成分布プロファイルを測定できる観点から、好ましい方法である。なお、X線光電子分光分析法(XPS分析法)に関する詳細な説明は、後述する。
【0062】
〈分析方法1:基材密着層の表面部における3価Crの含有率の測定〉
本発明に係る基材密着層の表面部における3価のCrの含有率の測定方法について説明する。
【0063】
本発明に係る基材密着層では、表面部における総Cr含有量に対する3価のCrの含有率が、50atm%以上であることが好ましく、下記に記載の方法に従って3価のCrの含有率を求めることができる。
【0064】
本発明において、基材密着層の表面部におけるCrの0価(金属単体、Cr(0))、3価(Cr(III)、例えば、Cr2O3)及び6価(Cr(VI)、例えば、CrO3)の価数別の含有率を測定するには、X線光電子分光分析法を用いることが好ましい。
【0065】
X線光電子分光分析法とは、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)、又はESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis, エスカ)と呼ばれている光電子分光の1種で、サンプル表面から深さ5nmまでの表面部に存在する構成元素とその電子状態を分析する方法である。
【0066】
以下に、本発明に適用可能なXPS分析の具体的な条件の一例を示す。
【0067】
・分析装置:アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM
・X線源:単色化Al-Kα 15kV 25W
・Pass energy:55eV
・データ処理:アルバック・ファイ社製のMultiPakを使用
・元素組成分析:Shirley法を用いてバックグラウンド処理を行い、得られたピーク面積から相対感度係数を用いて元素組成を定量する。
【0068】
Cr価数状態分析:炭素1sピークの結合エネルギーからチャージによるピークシフトを補正した上で、Cr2p3/2ピークに対し、クロムの0価、3価、6価のピークにピーク分離を行う。各状態の結合エネルギーは、0価が574.3eV、3価が576.0eV、6価が578.9eVであり、この値をピークとしてピークのFWHM(半値全幅)が1.2~2.8の範囲内になる条件でフィッティングを行い、各ピークの面積比からクロムの0価、3価及び6価の割合を求める。
【0069】
上記は下地層や撥液層が施されていない試料に対して表面部(深さ5nm)における3価のCrの含有率を求める方法であるが、下地層や撥液層が形成されている試料に対しても、GCIB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、下地層や撥液層を除去した後に上記測定を行うことで、基材密着層の表面部における3価のCrの含有量を求めることができる。
【0070】
上記のX線光電子分光分析法を用いて、例えば、基材上に、Crスパッタとプラズマ処理を行って基材密着層を形成したノズルプレートのCrの価数別の含有率を測定し、総Cr含有量に対する3価のCrの含有率を求めることができる。
【0071】
上記方法により測定した基材密着層におけるCrの価数別のプロファイルの一例を、
図5に示す。
【0072】
〈分析方法2:基材密着層における各元素の平均組成比率の測定〉
本発明においては、総Cr含有量に対する3価のCrの含有率と合わせて基材密着層表面部の各元素の平均組成比率を算出する。平均組成比率は、試料をランダムに10点測定し、その平均値を使用して、各元素の組成比率(atm%)を求め、Feに対するCrの濃度の比を算出する。
【0073】
本発明に係る分析方法2は、上記分析方法1に記載した元素組成分析と同じであるが、価数状態分析は不要であることから「Pass energy」については特に規定はない。下地層や撥液層が施されている試料に対しても、分析方法1と同じようにGCIB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて下地層や撥液層を除去した上で上記測定を行うことができる。
【0074】
〈分析方法3:層厚方向における原子濃度分布の測定〉
本発明において、本発明に係る基材密着層から基材の厚さ方向における原子濃度分布曲線(以下、「デプスプロファイル」という。)は、金属の酸化物又は窒化物の濃度(atm%)、ケイ素の酸化物又は窒化物の濃度(atm%)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、アルゴン(Ar)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の濃度(atm%)等を、X線光電子分光法の測定と希ガス等によるイオンスパッタとを併用することにより、基材密着層の表面部より基材面側に向かって露出させつつ順次、基材密着層の表面部及び基材の表面部の表面組成分析を行うことにより測定することができる。
【0075】
このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の濃度(単位:atm%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする原子濃度分布曲線においては、エッチング時間は層厚方向における基材密着層の表面からの距離におおむね相関することから、「基材密着層の厚さ方向における基材密着層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される基材密着層の表面からの距離として採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用することができる。エッチング速度(エッチングレート)は、あらかじめ膜厚がわかっているSiO2熱酸化膜で計測することができ、エッチング深さを、SiO2熱酸化膜換算値で表記することが多い。
【0076】
以下に、本発明に係る基材密着層表面部領域の組成分析に適用可能なXPS分析の具体的な条件の一例を示す。
【0077】
・分析装置:アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM
・X線源:単色化Al-Kα 15kV 25W
・スパッタイオン:Ar(1keV)
・デプスプロファイル:SiO2換算スパッタ厚さで、所定の厚さ間隔で測定を繰り返し、深さ方向のデプスプロファイルを求める。この厚さ間隔は、2.6nmとした(深さ方向に2.6nmごとのデータが得られる)
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。データ処理は、アルバック・ファイ社製のMultiPakを用いる。
【0078】
以下に測定結果の一例を示す。
図6は、基材/基材密着層/下地層/撥液層から構成されるノズルプレートに対し、XPSにより測定した各原子濃度分布曲線(デスプロファイル)の一例を示す。
【0079】
図6に示す原子濃度分布曲線(デスプロファイル)は、SUS基材表面に後述するプラズマエッチング法で直接プラズマ処理を施して、基材密着層を形成した例を示しており、基材の表面部のCr濃度に対し、基材密着層の表面部のCr濃度が高いことを示してある。
【0080】
撥液層から基材の構成原子中、下地層由来のCの濃度がピーク濃度の1/2となる地点を基材密着層表面部(下地層と基材密着層の界面)として把握することができる。つまりエッング時間が88(min)、撥水層の表面から約113nmの場所が、下地層と基材密着層の界面と考えることができる。
【0081】
一方で、Crの濃度が横ばいとなる地点を基材密着層の表面部(下地層と基材密着層の界面)として把握することができる。すなわち、ここではエッング時間が128(min)、撥水層の表面から約164nmの場所が、基材密着層と基材の界面と考えることができる。基材密着層の表面部のCrの濃度が、基材の表面部のCrの濃度より大きい層が存在することが分かる。
【0082】
(基材密着層の形成方法)
本発明に係る基材密着層の形成方法としては、特に制限はないが、下記の方法を適用することができる。
【0083】
本発明に適用が可能な基材密着層の成膜方法としては、物理的気相成長法(PVD法)や化学的気相成長法(CVD法)等の乾式成膜法や、電解メッキや無電解メッキ等の湿式成膜法等が挙げられるが、本発明では、乾式成膜法で形成することが、薄膜で緻密な膜を形成することができる点で好ましい。
【0084】
本発明において、乾式成膜法としては、スパッタ法、真空蒸着法、レーザーアブレーション法、イオンプレーディング法、電子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、プラズマCVD法、酸素ガスを用いたプラズマエッチングモード法(O2PEモード)、酸素ガスを用いた反応性イオンエッチング法(O2RIEモード)等を挙げることができるが、薄膜で、Cr濃度の高い緻密な膜を形成することができる観点から、スパッタ法や、酸素ガスを用いたプラズマエッチングモード法(O2PEモード)が好ましい。
【0085】
本発明では、上記説明した方法の中でも、スパッタ法による成膜の後、プラズマ処理による表面処理をする方法が、所望の基材密着層を形成することができる点で好ましい。
【0086】
(基材密着層の具体的な成膜方法)
代表的な基材密着層の成膜方法としては、下記の2つの方法が挙げられる。
1.成膜方法1:基材上に、後述するプラズマ処理を施して、基材密着層を形成する方法。
【0087】
2.成膜方法2:基材上にCrをターゲットするスパッタ法で、Cr層(Cr100atm%)を形成した後、当該Cr層に後述するプラズマ処理を施して、基材密着層を形成する。
【0088】
(1)Crスパッタによる基材密着層の形成
スパッタ法では、Crをターゲットとして、アルゴンガス、酸素ガス、メタンなどの雰囲気下でのスパッタ成膜を行い、基材密着層を形成する。このスパッタ法により成膜される基材密着層におけるCrの含有量は、ほぼ100atm%となる。
【0089】
具体的なスパッタ法による成膜方法の一例を以下に示す。
【0090】
真空条件下で、DCスパッタ成膜装置の電極上に、予めセットしてあったCrターゲットを以下の条件でスパッタを行った。この際、DCスパッタに限らず、他のプラズマソースを用いてもよい。
【0091】
ターゲット:Cr
DC電力密度:1.1W/cm2
電力:RF電力(13.56MHz)、200W
温度:25℃
圧力:0.3Pa
導入ガス:アルゴンガス
成膜時間:30秒
【0092】
上記スパッタ法で成膜される基材密着層の層厚は20nmとなる。本発明に係る基材密着層の層厚としては、基材密着層の層厚は、概ね1~5000nmの範囲内であるが、1~100nmの範囲内であることが好ましく、ノズルプレートのアルカリ耐性とノズル孔作製時の加工性の観点から、5~50nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0093】
(2)Crスパッタ後のプラズマ処理
本発明に適用可能なプラズマエッチングモードとしては、RIEモードとPEモードを挙げることができる。本発明でいう「RIE」(Reactive Ion Etching)モードとは、対向する平板電極対において、給電電極側に、プラズマ処理対象物としてノズルプレートを構成する基材、例えば、SUS304を配置し、プラズマ処理対象物表面にプラズマ処理を施す方法である。一方、「PE」(Plasma Etching)モードとは、対向する平板電極対において、グランド電極側に、プラズマ処理対象物を配置し、プラズマ処理対象物表面にプラズマ処理を施す方法である。
【0094】
さらに図を交えて、各プラズマエッチングモードに関する詳細を説明する。
【0095】
〈RIEモードプラズマ処理装置〉
図7は、基材密着層の形成に用いるRIEモード(反応性イオンエッチングモード)の高周波プラズマ装置の一例を示す概略図である。RIEモードはイオン衝撃による物理的で高速な表面処理に適している。
【0096】
図7において、RIEモードの高周波プラズマ装置20A(以下、「プラズマ処理装置20A」ともいう。)は、反応室21、高周波電源22(RF(Radio Frequency)電源)、コンデンサー23、平面電極24(カソード、「給電電極」ともいう。)、対向電極25(アノード、「グランド電極」ともいう。)、接地部26などを有する。反応室21は、ガスの流入口27、流出口28を有する。平面電極24及び対向電極25は、反応室21内に配置されている。
【0097】
コンデンサー23を介して高周波電源22に接続された平面電極24と、平面電極24に対向し、接地部26により接地された対向電極25とから成る一対の電極は、密閉可能な反応室21内に配置されている。また、プラズマ処理の対象物としてのノズルプレート基材30が平面電極24上に配置される。
【0098】
先ず、ガス流出口28を介して反応室21から空気が十分に除去される。この状態で、ガス流入口27を介して反応室21内に反応ガスG(Ar、O2など)を供給しつつ、高周波電源22を起動し、高周波電源22に、3MHz以上、100MHz以下の高周波(通常、13.56MHz)で電力を供給すると、平面電極24及び対向電極25間に、放電Dが発生し、反応ガスGの低温プラズマ(陽イオン及び電子)とラジカル種が生成される放電空間31を形成する。この時、高周波電力密度としては、0.01~3W/cmの範囲内に設定することが好ましい。
【0099】
上記構成において、イオンと電子の易動度の違いにより、電子は平面電極24に捕集されて平面電極24を相対的に負に帯電させる(自己バイアス)。平面電極24の電子は、給電ライン33を経由してコンデンサー23で止まる。また、対向電極25の電子は、給電ライン32を経由して接地部26に流れる。
【0100】
一方、ラジカル種及び陽イオンは容易には電極に捕集されずにプラズマ中を運動する。このプラズマ中に被処理物としてのノズルプレート基材30が、平面電極24上に配置されると、ノズルプレート基材30の対向電極25側に強い電場が生じたイオンシースが発生し、陰極降下により400~1000Vの電界が発生し、ノズルプレート基材30中で運動する陽イオンがノズルプレート基材30の表面に衝突又は接触する。こうして、被処理物の表面処理(ここではエッチング)が行われる。
【0101】
エッチングに用いる反応ガスGとしては、希ガス(例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス)、酸素ガス、水素ガスが挙げられるが、本発明では、反応ガスGとしてアルゴンガスを用いたRIEモードプラズマ処理法を、「Ar-RIEモードプラズマ処理」といい、反応ガスとして酸素ガスを用いたRIEモードプラズマ処理法を、「O2-RIEモードプラズマ処理」という。
【0102】
〈PEモードプラズマ処理装置〉
図8は、基材密着層の形成に用いるPEモード(プラズマエッチングモード)の高周波プラズマ装置の一例を示す概略図である。PEモードはイオン衝突効果の少ないマイルドは処理が可能となる。
【0103】
図8に示すPEモードの高周波プラズマ装置20B(以下、「プラズマ処理装置20B」ともいう。)は、基本的な構成は上記
図7で説明したRIEモードの高周波プラズマ装置20Aと近似であるが、対向する平板電極対において、グランド電極25側に、プラズマ処理対象物であるノズルプレート基材30を配置し、プラズマ処理対象物表面にプラズマ処理を施す方法である。
【0104】
本発明では、反応ガスGとしてアルゴンガスを用いたPEモードプラズマ処理法を、「Ar-PEモードプラズマ処理」といい、反応ガスGとして酸素ガスを用いたPEモードプラズマ処理法を、「O2-PEモードプラズマ処理」という。
【0105】
(基材密着層の層厚)
本発明のノズルプレートにおいては、基材密着層の層厚は、概ね1~5000nmの範囲内であるが、1~100nmの範囲内であることが好ましく、ノズルプレートのアルカリ耐性とノズル孔作製時の加工性の観点から、5~50nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0106】
〔下地層〕
本発明に係る下地層4は、本発明に係る基材密着層と撥液層との間に形成され、少なくとも無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物を含有している層であることを特徴とする。
【0107】
本発明に係る下地層の形成に適用が可能な無機酸化物としては、特に制限はなく、例えば、例えば、遷移金属、貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属などをはじめとする金属の酸化物、複合酸化物などが挙げられる。さらに具体的に述べれば、前記無機酸化物微粒子はケイ素、アルミニウム、チタニウム、マグネシウム、ジルコニウム、アンチモン、鉄、タングステンより選ばれた1種若しくは1種以上の金属元素を含む酸化物又は複合酸化物であることが好ましい。
【0108】
また、前記酸化物または複合酸化物は、さらにリン、ホウ素、セリウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属より選ばれる1種以上を含むものであってもよい。
【0109】
一般的な無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、シリカ(二酸化ケイ素)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化スズ、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化マンガン、酸化セレン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化バナジウム等が挙げられる。
【0110】
また、本発明においては、下地層が含有する無機酸化物が二酸化ケイ素を主成分として構成される層であることが好ましい。また前記無機酸化物は副成分として有機基や樹脂などの有機物を含んでいてもかまわない。
【0111】
また、下地層が、少なくとも炭素(C)を含む有機酸化物であることが好ましい。
【0112】
炭素(C)を含む有機酸化物としては、例えば、ケイ素化合物としては、例えば、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス-(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス-(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス-(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O-ビス-(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス-(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン等が挙げられ、チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソポロポキシド、チタンn-ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス-2,4-エチルアセトアセテート)、チタンジ-n-ブトキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。また、ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムn-プロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムt-ブトキシド、ジルコニウムトリ-n-ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ-n-ブトキシドビス-アセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロペンタンジオネート等が挙げられる。また、アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムs-ブトキシド、アルミニウムt-ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ-s-ブトキシド等が挙げられる。
【0113】
上記炭素(C)を含む有機酸化物の中でも、より好ましくは、炭素(C)、ケイ素(Si)、酸素(O)を主成分として含む層が、分子量が300以下のシラン化合物(例えば、アルコキシシラン、シラザン等)又はシランカップリング剤を用いて形成することである。
【0114】
本発明に係る下地層としては、シランカップリング剤を用いて形成された層であることが好ましく、さらには、下地層が含有する前記シランカップリング剤が、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むことが好ましい。
【0115】
具体的な下地層の構成としては、例えば、本発明に係る下地層に適用可能な無機酸化物としては、例えば、下地層が、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤Aの脱水縮合反応により高密度重合膜を形成することが好ましい態様(第1下地層)であり、また、下地層が、無機酸化物又は、少なくともSiを含む有機酸化物を主成分として構成される酸化物で構成されていることが他の好ましい態様(第2下地層)である。
【0116】
(シランカップリング剤Aによる下地層の形成:第1の下地層)
本発明において、脱水縮合反応により下地層を形成するのに用いるシランカップ剤として、両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤Aを適用することが好ましい。
【0117】
下地層に適用可能なシランカップリング剤Aとしては、特に制限はなく、従来公知の上記要件を満たす化合物を適宜選択して用いることができるが、本発明の目的効果をいかんなく発揮させることができる観点から、下記一般式(1)で表される両端末に反応性官能基としてアルコキシ基、塩素、アシロキシ基、又はアミノ基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環(フェニレン基)を含む構造を有する化合物であることが好ましい。
【0118】
〈一般式(1)で表される構造を有する化合物〉
一般式(1)
XsQ3-sSi(CH2)tC6H4(CH2)uSiR3-mXm
上記一般式(1)において、Q及びRは、それぞれメチル基又はエチル基を表す。t及びuは、それぞれ1~10の自然数を表す。s及びmは、それぞれ1~3の自然数を表す。sが1、mが1の場合、Q及びRはそれぞれ二個存在するが、二個のQ及びRはそれぞれが同一構造であっても、異なる構造であってもよい。C6H4はフェニレン基である。Xはアルコキシ基、塩素、アシロキシ基、又はアミノ基を表す。
【0119】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数が1~12のアルコキシ基、好ましくは炭素数が1~8のアルコキシ基、より好ましくは炭素数が1~6のアルコキシ基等である。
【0120】
また、アシロキシ基としては、例えば、炭素数が2~19である直鎖又は分岐鎖アシロキシ基(アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec-ブチルカルボニルオキシ、tert-ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、テトラデシルカルボニルオキシ、及びオクタデシルカルボニルオキシ等)等が挙げられる。
【0121】
また、アミノ基としては、アミノ基(-NH2)及び炭素数が1~15の置換アミノ基(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、n-プロピルアミノ、メチル-n-プロピルアミノ、エチル-n-プロピルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、イソプロピルメチルアミノ、イソプロピルエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、メチルフェニルアミノ、エチルフェニルアミノ、n-プロピルフェニルアミノ、及びイソプロピルフェニルアミノ等)等が挙げられる。
【0122】
以下に、本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する例示化合物を列挙するが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0123】
1)1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン
2)1,4-ビス(トリエトキシシリルエチル)ベンゼン
3)1,4-ビス(トリメトキシシリルブチル)ベンゼン
4)1,4-ビス(トリエトキシシリルブチル)ベンゼン
5)1,4-ビス(トリメチルアミノシリルエチル)ベンゼン
6)1,4-ビス(トリエチルアミノシリルエチル)ベンゼン
7)1,4-ビス(トリメチルアミノシリルブチル)ベンゼン
7)1,4-ビス(トリアセトキシシリルエチル)ベンゼン
8)1,4-ビス(トリクロロメチルシリルエチル)ベンゼン
9)1,4-ビス(トリクロロエチルシリルエチル)ベンゼン
本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物は、従来公知の合成方法に従って合成して得ることができる。また、市販品としても入手することができる。
【0124】
〈シランカップリング剤Aを用いた下地層の形成方法〉
本発明に係る下地層は、本発明に係る両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤Aを、有機溶媒、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、2,2,2-トリフロオロエタノール等に所望の濃度に溶解して、下地層形成用塗布液を調製した後、湿式塗布法により、基材上に塗布・乾燥して形成する。
【0125】
下地層形成用塗布液におけるシランカップリング剤Aの濃度としては、特に制限はないが、おおむね0.5~50質量%の範囲であり、好ましくは、1.0~30質量%の範囲内である。
【0126】
本発明に係る第1の下地層の層厚は、特に制限はないが、おおむね1~500nmの範囲内とすることが好ましく、更に好ましくは5~200nmの範囲内である。
【0127】
(Siを含む有機酸化物を主成分とする酸化物で構成される下地層の形成:第2の下地層)
本発明に係る下地層においては、Siを含む有機酸化物を主成分として構成される酸化物で構成されている第2の下地層であることも好ましい態様である。
【0128】
好ましくは、
図2で示すように、下地層を第1下地層6と第2下地層7の2層による下地層ユニット4Uで構成し、第1下地層6を上記で説明した両端末に反応性官能基を有し、かつ中間部に炭化水素鎖とベンゼン環を含むシランカップリング剤Aを含有する第1の下地層で構成し、第2下地層7を、下記で説明するSiを含む有機酸化物で構成されている第2の下地層とすることが、好ましい態様である。
【0129】
本発明に適用可能な分子量が300以下のアルコキシシラン、シラザン又はシランカップリング剤の一例を示すが、これら例示する化合物に限定されるものではない。なお、各化合物の後のカッコ内に記載の数値は分子量(Mw)である。
【0130】
アルコキシシランとしては、例えば、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4、Mw:208.3)、メチルトリエトキシシラン(CH3Si(OC2H5)3、Mw:178.3)、メチルトリメトキシシラン(CH3Si(OCH3)3、Mw:136.2)、ジメチルジエトキシシラン((CH3)2Si(OC2H5)2、Mw:148.3)、ジメチルジメトキシシラン((CH3)2Si(OCH3)2、Mw:120.2)等が挙げられる。
【0131】
また、シラザンとしては、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン((CH3)3SiNHSi(CH3)3、161.4)、1,1,1,3,3,3-ヘキサエチルジシラザン((C2H5)3SiNHSi(C2H5)3、245.4)、その他には、1,3-ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン等を挙げることができる。
【0132】
また、シランカップリング剤としては、
1)ビニル系シランカップリング剤:ビニルトリメトキシシラン(CH2=CHSi(OCH3)3、Mw:148.2)、ビニルトリエトキシシラン(CH2=CHSi(OC2H5)3、Mw:190.3)、その他には、CH2=CHSi(CH3)(OCH3)2、CH2=CHCOO(CH2)2Si(OCH3)3、CH2=CHCOO(CH2)2Si(CH3)Cl2、CH2=CHCOO(CH2)3SiCl3、CH2=C(CH3)Si(OC2H5)3等を挙げることができる。
【0133】
2)アミノ系シランカップリング剤:3-アミノプロピルトリメトキシシラン(H2NCH2CH2CH2Si(OCH3)3、mW:179.3)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、Mw:222.4)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(CH3)(OCH3)2、Mw:206.4)等を挙げることができる。
【0134】
3)エポキシ系シランカップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Mw:236.3)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(Mw:278.4)等を挙げることができる。
【0135】
〈第2の下地層の形成方法〉
本発明に係る第2の下地層は、本発明に係る分子量が300以下のシラン化合物、例えば、従来公知のアルコキシシラン、シラザン又はシランカップリング剤を、有機溶媒、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、2,2,2-トリフロオロエタノール等に所望の濃度に溶解して、中間層形成用塗布液を調製した後、湿式塗布法により、下地層上に塗布・乾燥して形成する。
【0136】
第2の下地層形成用塗布液における無機酸化物形成用材料の濃度としては、特に制限はないが、おおむね0.5~50質量%の範囲であり、好ましくは、1.0~30質量%の範囲内である。
【0137】
本発明に係る第2の下地の層厚は、0.5~500nmの範囲内であり、好ましくは1~300nmの範囲内であり、更に好ましくは5~100nmの範囲内である。
【0138】
〔撥液層〕
本発明において、撥液層がフッ素(F)を有するカップリング剤(以下、カップリング剤Bともいう。)を含有することが好ましい。
【0139】
本発明に係る撥液層に適用が可能なフッ素(F)を有するカップリング剤Bとしては、特に制限はないが、フッ素系化合物を含有し、当該フッ素系化合物が、(1)少なくともアルコキシシリル基、ホスホン酸基若しくはヒドロキシ基を含有するパーフルオロアルキル基を有する化合物、又はアルコキシシリル基、ホスホン酸基若しくはヒドロキシ基を含有するパーフルオロポリエーテル基を有する化合物、又は、(2)パーフルオロアルキル基を有する化合物を含む混合物、又はパーフルオロポリエーテル基を有する化合物を含む混合物であることが好ましい。
【0140】
本発明に係る撥液層に適用が可能なフッ素(F)を有するカップリング剤Bの具体的な化合物としては、クロロジメチル[3-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)プロピル]シラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルエトキシジメチルシラン、ペンタフルオロフェニルエトキシジメチルシラン、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、トリクロロ[3-(ペンタフルオロフェニル)プロピル]シラン、トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、トリエトキシ[5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-4,4-ビス(トリフルオロメチル)ヘプチル]シラン、トリメトキシ(ペンタフルオロフェニル)シラン、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、γ-グリシジルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0141】
また、フッ素(F)を有するシランカップリング剤としては、市販品としても入手が可能であり、例えば、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)、信越化学工業(株)、ダイキン工業(株)(例えば、オプツールDSX)、旭ガラス社(例えば、サイトップ)、又、(株)セコ(例えば、Top CleanSafe(登録商標))、(株)フロロテクノジー(例えば、フロロサーフ)、Gelest Inc.ソルベイ ソレクシス(株)(例えば、Fluorolink S10)等により上市されており、容易に入手することができる他、例えば、J.Fluorine Chem.,79(1).87(1996)、材料技術,16(5),209(1998)、Collect.Czech.Chem.Commun.,44巻,750~755頁、J.Amer.Chem.Soc.1990年,112巻,2341~2348頁、Inorg.Chem.,10巻,889~892頁,1971年、米国特許第3668233号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。また、特開昭58-122979号、特開平7-242675号、特開平9-61605号、同11-29585号、特開2000-64348号、同2000-144097号の各公報等に記載の合成方法、又はこれに準じた合成方法により製造することができる。
【0142】
具体的には、シラン基末端パーフルオロポリエーテル基を有する化合物としては、例えば、上記に示したダイキン工業(株)製の「オプツールDSX」、シラン基末端フルオロアルキル基を有する化合物としては、例えば、フロロサーフ社製の「FG-5010Z130-0.2」等、パーフルオロアルキル基を有するポリマーとしては、例えば、AGCセイミケミカル社製の「エスエフコートシリーズ」、主鎖に含フッ素ヘテロ環状構造を有するポリマーとしては、例えば、上記旭ガラス社製の「サイトップ」等を挙げることができる。また、FEP(4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体)分散液とポリアミドイミド樹脂との混合物も挙げることができる。
【0143】
撥液層をPVD法により形成する方法としては、フッ素系化合物として、フルオロアルキルシラン混合酸化物であるメルクジャパン社のEvaporation substance WR1及びWR4を用い、例えば、シリコン基材にWR1による撥液層を形成する場合の下地として下地層として酸化シリコン層を予め形成しておくことが好ましい。WR1及びWR4により形成される撥液層は、水以外にエタノール等のアルコール、エチレングリコール(ポリエチレングリコールを含む)、シンナー及び塗料等の有機溶媒に対して撥液性を示す。
【0144】
本発明に係る撥液層の層厚は、おおむね1~500nmの範囲内であり、1~400nmの範囲内であることが好ましく、2~200nmの範囲内であることがより好ましい。
【0145】
〔ノズルプレートの加工〕
本発明のノズルプレートを製造するノズルプレートの製造方法としては、その詳細を上述したように、
1)前記ノズルプレートを、基材上に、少なくとも、下地層及び撥液層を形成し、
2)前記基材と下地層の間に基材密着層を形成し、
3)前記基材密着層を、前記基材よりCr濃度が高く構成し、
4)前記下地層を、無機酸化物又は炭素(C)を含む酸化物により形成し、かつ、
5)前記撥液層を、フッ素(F)を有するカップリング剤を用いて形成する
ことを特徴とする。
【0146】
前述の
図2に記載のノズルプレート1には、本発明のノズルプレートのノズル孔部分の構成の一例を示す概略断面図である。
【0147】
図2で示すように、ノズルプレート1に対し、インク吐出部として所望の形状を有するノズル部Nを形成する。
【0148】
本発明のノズルプレートに対し、ノズル孔等を形成する具体的な方法に関しては、例えば、特表2005-533662号公報、特開2007-152871号公報、特開2007-313701号公報、特開2009-255341号公報、特開2009-274415号公報、特開2009-286036号公報、特開2010-023446号公報、特開2011-011425号公報、特開2013-202886号公報、特開2014-144485号公報、特開2018-083316号公報、特開2018-111208号公報等に記載されている方法を参照することができ、ここでの詳細な説明は省略する。
【0149】
図2で示すように、本発明のノズルプレートの構成で、基材2と下地層4の間に、Cr濃度の高い基材密着層3を形成することにより、インク液Inによる界面破壊を防止し、耐久性の高いノズルプレートとすることができる。
【0150】
本発明のノズルプレートにおいては、ノズル孔をレーザー加工により形成することが好ましい。
【0151】
本発明のノズルプレートにおいては、その製造方法として、ノズル孔の外形加工において、レーザーを用いることが好ましく、さらにはレーザーがパルスレーザー又はCWレーザーであることが好ましい。
【0152】
本発明のノズルプレートの製造において適用可能なレーザーとしては、連続発振型のレーザービーム(CWレーザービーム)やパルス発振型のレーザービーム(パルスレーザービーム)を用いることが好ましい。
【0153】
ここで用いることができるレーザービームは、Arレーザー、Krレーザー、エキシマレーザーなどの気体レーザー、単結晶のYAG、YVO4、フォルステライト(Mg2SiO4)、YAlO3、GdVO4、YLF、若しくは多結晶(セラミック)のYAG、Y2O3、YVO4、YAlO3、GdVO4に、ドーパントとしてNd、Yb、Cr、Ti、Ho、Er、Tm、Taのうち1種または複数種添加されているものを媒質とするレーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、Ti:サファイアレーザー、銅蒸気レーザーまたは金蒸気レーザーのうち一種または複数種から発振されるものが挙げられる。
【0154】
これらの中でも、使用されるレーザーは波長266nm程度の紫外レーザー光を発光する、例えば、YAG-UV(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶:波長266nm)や、YVO4(波長:355nm)が好ましい。特に、波長266nm程度のレーザーでは、熱作用により加工対象物が有機材料の場合、C-H結合やC-C結合等の分子結合を解離させることが可能である。
【0155】
照射条件の一例としては、例えば、YAG-UV(波長266nm)では、パルス幅が12nsec、出力が1.6Wであり、YVO4(波長:355nm)の場合は、パルス幅が18nsec、出力が2.4Wである。
【0156】
更に、持続時間がおよそ10-11秒(10psec)から10-14秒(10fsec)の強いレーザーパルスを生成する超高速レーザーや、持続時間がおよそ10-10秒(100psec)から10-11秒(10psec)の強いレーザーパルスを生成する短パルスレーザーも用いることが可能である。これらのパルスレーザーも広範囲にわたる材料を切削または孔開け加工するのに有用である。
【0157】
《インクジェットヘッド》
図9は、本発明のノズルプレートが適用可能なインクジェットヘッドの構造の一例を示す概略外観図である。また、
図10は、本発明のノズルプレートを具備したインクジェットヘッドの底面図である。
【0158】
図9で示すように、本発明のノズルプレートを具備したインクジェットヘッド100は、インクジェットプリンター(図示略)に搭載されるものであり、インクをノズルから吐出させるヘッドチップと、このヘッドチップが配設された配線基材と、この配線基材とフレキシブル基材を介して接続された駆動回路基材と、ヘッドチップのチャネルにフィルターを介してインクを導入するマニホールドと、内側にマニホールドが収納された筐体56と、この筐体56の底面開口を塞ぐように取り付けられたキャップ受板と、マニホールドの第1インクポート及び第2インクポートに取り付けられた第1及び第2ジョイント81a及び81bと、マニホールドの第3インクポートに取り付けられた第3ジョイント82と、筐体56に取り付けられたカバー部材59とを備えている。また、筐体56をプリンタ本体側に取り付けるための取り付け用孔68がそれぞれ形成されている。
【0159】
また、
図10で示すキャップ受板57は、キャップ受板取り付け部62の形状に対応して、外形が左右方向に長尺な略矩形板状として形成され、その略中央部に複数のノズルNが配置されているノズルプレート61を露出させるため、左右方向に長尺なノズル用開口部71が設けられている。また、
図9で示すインクジェットヘッド内部の具体的な構造に関しては、例えば、特開2012-140017号公報に記載されている
図2等を参照することができる。
【0160】
図9及び
図10にはインクジェットヘッドの代表例を示したが、そのほかにも、例えば、特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッドを適宜選択して適用することができる。
【0161】
《インクジェットインク》
本発明のインクジェットヘッドを用いたインクジェット記録方法に適用可能なインクジェットインクとしては、特に制限はなく、例えば、水を主溶媒とする水系インクジェットインク、室温では揮発しない不揮発性溶媒を主とし、実質的に水を含まない油性インクジェットインク、室温で揮発する溶媒を主とし、実質的に水を含まない有機溶媒系インクジェットインク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後、紫外線等の活性光線により硬化する活性エネルギー線硬化型インクジェットインク等、様々な種類のインクジェットインクがあるが、本発明においては、本発明の効果を発揮することができる観点で、アルカリ性インクを適用することが好ましい態様である。
【0162】
インクには、例えば、アルカリ性インクや酸性インクがあり、特に、アルカリ性インクは、基材と撥液層やノズル形成面の化学的な劣化を生じさせるおそれがあるが、このようなアルカリ性インクを用いたインクジェット記録方法において、本発明のノズルプレートを具備したインクジェットヘッドを適用することが、特に有効である。
【0163】
詳しくは、本発明に適用可能なインクとしては、染料や顔料などの色材、水、水溶性有機溶剤、pH調整剤などを含む。水溶性有機溶剤は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、エタノール、プロパノールなどを使用することができる。pH調整剤は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ソーダ、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、アルカノールアミン、塩酸、酢酸などを使用することができる。
【0164】
pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ソーダ、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、アルカノールアミンなどを使用した場合、インクはアルカリ性を呈し、撥液層やノズル形成面の化学的ダメージ(化学的な劣化)を生じさせるおそれがあるアルカリ性インク(液体)となる。アルカリ性インクはpHが8.0以上である。
【0165】
上述したように、撥液層は、フッ素含有のシランカップリング剤などから形成されている。撥液層は、ケイ素を含む部分構造とフッ素を含む部分構造とが、メチレン基(CH2)のような置換基で結合された構造を有している。炭素(C)と炭素(C)との結合エネルギーは、ケイ素(Si)と酸素(O)との結合エネルギー、及び炭素(C)とフッ素(F)との結合エネルギーと比べて小さいので、炭素(C)と炭素(C)とが結合した部分は、ケイ素(Si)と酸素(O)とが結合した部分、及び炭素(C)とフッ素(F)とが結合した部分に比べて、結合が弱く、機械的ダメージや化学的ダメージの影響を受けやすい。
【0166】
このような現象を生じやすいアルカリ性インクを用いたインクジェット記録方法においては、本発明で規定する構成のノズルプレートを適用することが、耐久性を高める点で有効である。
【実施例】
【0167】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0168】
実施例1
《ノズルプレートの作製》
〔ノズルプレート1の作製〕
下記の方法に従って
図4に記載の基材2/基材密着層3/第1下地層6/第2下地層7/撥液層5から構成されるノズルプレート1を作製した。
【0169】
(1)基材の準備
基材として、縦3cm、横8cm、厚さ50μmの表面処理を施していないステンレス基材(SUS304)を用いた。
【0170】
(2)第1層(基材密着層1)の形成
〈ステップ1:スパッタ法によるCr層の形成〉
スパッタ法としては、Crをターゲットとして、アルゴンガスの雰囲気下で、基材上にスパッタ成膜を行い、Cr単独金属層を形成した。このスパッタ法により成膜されるCr層におけるCrの含有量は、ほぼ100atm%である。
【0171】
具体的には、真空条件下で、DCスパッタ成膜装置の電極上に、予めセットしてあったCrターゲットを以下の条件でスパッタを行った。
【0172】
ターゲット:Cr
DC電力密度:1.1W/cm2
電力:RF電力(13.56MHz)、200W
温度:25℃
圧力:0.3Pa
導入ガス:アルゴンガス
成膜時間:30秒
層厚:20nm
〈ステップ2:Ar-RIEプラズマモードによるエッチング〉
次いで、ステップ1でCr層を形成した基材に対し、下記の方法により、Ar-RIEプラズマモードによるエッチング処理を施して、基材密着層1を形成した。
【0173】
図7に記載の構成からなるRIEモードの高周波プラズマ装置を用いて、Cr層に対しArプラズマ処理を行って、層厚が20nmの基材密着層1を形成した。
【0174】
プラズマ処理条件は、以下の通りである。
【0175】
プラズマ処理装置:RIEモードの高周波プラズマ装置
反応ガスG:アルゴンガス
ガス流量:50sccm
ガス圧力:10Pa
高周波電力:13.56MHz
高周波電力密度:0.10W/cm2
電極間電圧:450W
処理時間:3min
基材処理温度:80℃以下
【0176】
(3)第2層(第1下地層)の形成
(第1下地層形成用塗布液の調製)
〈A-1液の調製〉
下記の各構成材料を混合して、A-1液を調製した。
【0177】
エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混合溶液(体積比で8:2) 30mL
シランカップリング剤a:1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン((CH3O)3Si(CH2)2(C6H4)(CH2)2Si(OCH3)3) 2mL
〈A-2液の調製〉
エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混合溶液(体積比で8:2) 19.5mL
純水 30mL
塩酸(36体積%) 0.5mL
【0178】
(第1下地層の形成)
上記調製したA-1液を攪拌子で攪拌しながら、A-2液を5mL滴下した。滴下後約1時間攪拌した後、この混合液をスピンコート法により、基材密着層上に、乾燥後の第1下地層の層厚が100nmとなる条件で塗布した。スピンコートの条件は、5000rpmで20秒とした。その後、基材を室温で1時間乾燥した後、200℃で30分焼成した。
【0179】
(4)第3層(第2下地層)の形成
(第2下地層形成用塗布液の調製)
下記の各構成材料を混合して、第2下地層形成用塗布液を調製した。
【0180】
エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混合溶液(体積比で8:2) 69mL
純水 30mL
シランカップリング剤c:3-アミノプロピルトリエトキシシラン((C2H5O)3SiC3H6NH2)、信越化学工業社製 KBE-903)
1mL
【0181】
(第2下地層の形成)
上記調製した第2下地層形成用塗布液(KBE-903濃度:1.0体積%)を、スピンコート法により基材の第1下地層上に、乾燥後の第2下地層の層厚が20nmとなる条件で塗布した。スピンコートの条件は3000rpmで20秒とした。その後、基材を室温で1時間乾燥した後、90℃・80%RHの条件で1時間加熱処理をした。
【0182】
(5)第4層(撥液層)の形成
(撥液層形成用塗布液の調製)
下記の各構成材料を混合して、撥液層形成用塗布液を調製した。
【0183】
エタノールと2,2,2-トリフルオロエタノールの混合溶液(体積比で8:2) 69.8mL
純水 30mL
フッ素を含有するカップリング剤b:(2-パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(CF3(CF2)7C2H4Si(OCH3)3)
0.2mL
【0184】
(撥液層の形成)
上記調製したフッ素原子を含有するカップリング剤bを0.2体積%含有する撥液層形成用塗布液を、スピンコート法により上記形成した第2下地層上に、乾燥後の撥液層の層厚が10nmとなる条件で塗布した。スピンコートの条件は1000rpmで20秒とした。その後、基材を室温で1時間乾燥した後、90℃・80%RHの条件で1時間加熱処理して、ノズルプレート1を作製した。
【化1】
【0185】
(6)基材密着層の総Cr含有量に対する3価Crの含有率(atm%)の測定
X線光電子分光分析法を用いて、基材上に、Crスパッタとプラズマ処理を行って基材密着層を形成したノズルプレートについて、
図5で例示したような総Cr含有量に対する3価のCrの含有率(atm%)を求めた。
【0186】
具体的な測定装置としては、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用いた。測定手順は、X線アノードには単色化Al-Kαを用い、出力25Wで測定する。なお、詳細な測定データの分析方法は、前述のとおりであり、記載は省略する。
【0187】
上記方法で測定したノズルプレート1を構成する基材密着層における3価のCrの含有率は90atm%であった。
【0188】
(7)基材密着層のCr/Feの測定
XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて、基材上に、Crスパッタとプラズマ処理を行って基材密着層を形成したノズルプレートの表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素である金属(Cr、Fe)の濃度(atm%)、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)の濃度(atm%)を分析した。
【0189】
測定条件は以下のとおりである。
・分析装置:アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM
・X線源:単色化Al-Kα
上記方法で測定したステンレス基材の表面部のCr含有量は、9.8atm%であった。また、基材密着層の表面部のCr含有量は17.6atm%であった。
更に、ノズルプレート1を構成する基材密着層におけるCr/Feについては、ほぼCrが100atm%で、Feはほとんど検出されなかったため、表Iには「∞」と表示した。
【0190】
〔ノズルプレート2の作製〕
上記ノズルプレート1の作製において、基材密着層の形成工程のステップ2の「Ar-RIEプラズマモードによるエッチング」において、高周波密度条件及び処理時間を適宜調整して、基材密着層の総Cr含有牢に対する3価Crの含有率を57atm%に変更した以外は同様にして、ノズルプレート2を作製した。
上記の方法で測定したステンレス基材の表面部のCr含有量は、9.8atm%であった。また、基材密着層の表面部のCr含有量は25.3atm%であった。
【0191】
〔ノズルプレート3の作製〕
上記ノズルプレート1の作製において、基材密着層の形成工程のステップ2の「Ar-RIEプラズマモードによるエッチング」を、反応ガスをArガスに代えて、O2ガスを用いた「O2-RIEプラズマモードによるエッチング」に変更した以外は同様にして、ノズルプレート3を作製した。ノズルプレート3の基材密着層の総Cr含有率に対する3価Crの含有率は44atm%であった。
上記の方法で測定したステンレス基材の表面部のCr含有量は、9.8atm%であった。また、基材密着層の表面部のCr含有量は20.3atm%であった。
【0192】
〔ノズルプレート4の作製〕
上記ノズルプレート1の作製において、基材密着層の形成工程のステップ1の「スパッタ法によるCr層の形成」を削除し、かつ第2層の「第1下地層」及び第3層の「第2下地層」の形成を行わなかった以外は同様にして、ノズルプレート4を作製した。ノズルプレート4の基材密着層のCr/Feは0.5、総Cr含有率に対する3価Crの含有率は41atm%であった。
上記の方法で測定したステンレス基材の表面部のCr含有量は、9.8atm%であった。また、基材密着層の表面部のCr含有量は5.9atm%であった。
【0193】
〔ノズルプレート5の作製〕
上記ノズルプレート4の作製において、基材密着層の形成に用いるプラズマ処理装置として、
図7に記載の構成からなるRIEモードの高周波プラズマ装置に代えて、
図8に記載のPEモードの高周波プラズマ装置を用い、「O
2-PEプラズマモードによるエッチング」を用いて基材密着層を形成した以外は同様にして、ノズルプレート5を作製した。
【0194】
ノズルプレート5の基材密着層のCr/Feは1.0、総Cr含有率(atm%)に対する3価Crの含有率は35atm%であった。
上記の方法で測定したステンレス基材の表面部のCr含有量は、9.8atm%であった。また、基材密着層の表面部のCr含有量は8.5atm%であった。
【0195】
〔ノズルプレート6の作製〕
上記ノズルプレート1の作製において、基材密着層の形成を行わなかった以外は同様にして、ノズルプレート6を作製した。
【0196】
《ノズルプレートの評価》
上記作製した各ノズルプレートに対し、下記の方法に従って、インク耐性及び擦過耐久性の評価を行った。
【0197】
〔インク耐性の評価〕
(ノズル孔の形成)
上記作製したノズルプレート1~6に対し、レーザー加工機を用いて、
図1又は
図2に記載の構成の直径が25μmのノズル孔を複数個形成した。
【0198】
(評価用実インクの調製:分散染料インク)
〈分散液の調製〉
分散染料:C.I.Disperse Yellow 160
24.0質量%
ジエチレングリコール 30.6質量%
スチレン-無水マレイン酸共重合体(分散剤) 12.0質量%
イオン交換水 33.4質量%
上記混合物を、直径0.5mmのセラミックビーズを使用して、アイメックス社製サンドグラインダーを用い、回転数2500rpmで5時間分散した。この分散液を、染料濃度が5%になる様に、水/ジエチレングリコール=1:4で希釈して分散液1を調製した。
【0199】
〈実インクの調製〉
上記分散液1に、各組成物を添加、攪拌して、評価用実インク(分散染料インク)を調製した。
【0200】
分散液1 20.0質量%
エチレングリコール 10.0質量%
グリセリン 8.0質量%
エマルゲン911(花王(株)製) 0.05質量%
イオン交換水を添加して、100質量%に仕上げた。加えて調製したインクの液性を調査し、アルカリ性(pH8.0以上)であることを確認した。
【0201】
(ノズルプレートの評価)
各ノズル孔を形成したノズルプレートを、65℃の実インクに40日間浸漬した。
【0202】
浸漬処理したのち、純水で洗浄及び乾燥させたのち、
図1.
図2で示すようなノズル孔内部の基材と基材密着層間での剥離の有無を100倍ルーペで観察し、下記の基準に従って実インクに対するノズル孔の密着耐性の評価を行った。
【0203】
◎:ノズルの全てで、剥離の発生が認められない
〇:5%未満のノズルで極弱い剥離が認められるが、実用上問題はない
△:5%以上、10%未満のノズルで弱い隔離が認められ、実用上許容される品質である
×:明らかな剥離が認められるノズルが存在し、実用上問題となる品質である
【0204】
〔擦過耐久性(ワイピング耐性)の評価〕
(ブラックインクの調製)
下記の構成からなる評価用のブラックインクを調製した。
【0205】
〈ブラック顔料分散体の調製〉
C.I.ピグメント ブラック6 12.0質量%
PB822(味の素ファインテック社製) 5.0質量%
メチルイソプロピルスルホン 5.0質量%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 68.0質量%
エチレングリコールジアセテート 10.0質量%
以上を混合し、0.3mmのジルコニヤビーズを体積率で60%充填した横型ビーズミルで分散し、ブラック顔料分散体を得た。平均粒径は125nmであった。
【0206】
〈ブラックインクの調製〉
ブラック顔料分散体 33.0質量%
イオン交換水 2.0質量%
エチレングリコールモノブチルエーテル 55.0質量%
トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート 6.7質量%
N-メチル-2-ピロリドン 3.3質量%
【0207】
(ワイピング試験)
25℃の上記調製したブラックインクを収容した容器内に、固定治金により上記方法で複数のノズル孔を形成した各ノズルプレートを、撥液層を上面にして固定し、エチレンプロピレン・ジエンゴム製のワイパーブレードを用いて、ノズルプレートの撥液層表面に対し、複数回のワイピング(払拭)操作を行い、下記の基準に従って擦過耐久性を評価した。
【0208】
◎:5000回以上のワイピング操作でも、ノズルの全てで、ノズル近傍での撥液層の剥離の発生が認められない
○:5000回未満のワイピング操作では、ノズルの全てで、ノズル近傍での撥液層の剥離の発生が認められないが、5000回以上のワイピングで5%未満のノズルで極弱い剥離が認められた
△:1000回未満のワイピング操作では、ノズルの全てで、ノズル近傍での撥液層の剥離の発生が認められないが、1000~5000回の範囲内のワイピングで5%未満のノズルで極弱い剥離が認められた
×:1000回のワイピングで実用上問題となる明らかな撥液層の剥離が認められるノズルの発生が確認された
【0209】
以上により得られた評価結果を表Iに示す。
【表1】
表Iに記載したように、本発明で規定する構成からなるノズルプレートは、比較例に対し、アルカリインク成分に長時間にわたり晒される環境や、又は表面に応力を受けた際にも、下地層が応力緩和層として作用し、かつ各構成層間の結合性が高く、インク耐性及び擦過耐久性に優れていることがわかる。また、本発明のノズルプレートは、アルカリインク中に長期間にわたり浸漬した後でも、ノズル孔内部の基材と基材密着層間の接着性に優れていることが分かる。
【0210】
実施例2
実施例1のノズルプレート1~3と同様にして、第1下地層及び第2下地層を構成する材料を、炭素を含む酸化剤であるシランカップリング剤から無機酸化物としてSiO2に変更した以外は同様にして作製したノズルプレート11~13を、及び第1下地層及び第2下地層を構成する材料を、シランカップリング剤から無機酸化物としてTiO2に変更した以外は同様にして作製したノズルプレート21~23について、実施例1に記載の方法と同様にしてインク耐性及び擦過耐久性について評価した結果、実施例1の結果と同様に、インク耐性及び擦過耐久性に優れた効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明のノズルプレートは、構成部材間の密着性と、インク耐性及び擦過耐久性に優れたノズルプレートに優れ、様々な分野のインクを用いるインクジェットプリンターに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0212】
1 ノズルプレート
2 基材
3 基材密着層
4 下地層
4U 下地層ユニット
5 撥液層
6 第1下地層
7 第2下地層
20A RIEプラズマ処理装置
20B PEプラズマ処理装置
21 反応室
22 高周波電源
23 コンデンサー
24 平面電極(給電電極)
25 対抗電極(グランド電極)
26 アース
27 ガス流入口
28 ガス流出口
30 ノズルプレート基材
31 放電空間
32、33 給電ライン
56 筐体
57 キャップ受板
59 カバー部材
61 ノズルプレート
62 キャップ受板取り付け部
68 取り付け用孔
71 ノズル用開口部
81a 第1ジョイト
81b 第2ジョイント
82 第3ジョイント
100 インクジェットヘッド
D 放電
G 反応ガス
N ノズル
P ポンプ