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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電源システム装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022576647
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001132
(87)【国際公開番号】W WO2022158389
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021006166
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 達也
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-90423(JP,A)
【文献】特開2006-50891(JP,A)
【文献】国際公開第2015/50094(WO,A1)
【文献】特開2012-151937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタとスイッチング回路と個別アナログ制御部とをそれぞれに備える複数の電力変換回路と、
前記複数の電力変換回路の入力部が並列に接続され、入力電源に接続されている共通入力端子と、
前記複数の電力変換回路の出力部が並列接続され、負荷に接続されている共通出力端子と、
前記複数の電力変換回路に対して、発振制御信号を出力する共通制御部と、
を備え、
前記個別アナログ制御部は、
アナログ電子回路によってパルス幅変調制御回路が形成され、
前記共通出力端子の出力電圧を検出して帰還信号を生成する電圧帰還信号生成部と、
前記帰還信号に基づいて、前記スイッチング回路のスイッチング素子を駆動する駆動部と、
を備え、
前記共通制御部と前記複数の個別アナログ制御部とを有する統合システム制御部は、
前記帰還信号を用いて、前記複数の電力変換回路が連動して前記パルス幅変調制御回路を個別に制御する複数の個別電圧帰還制御ループを備え、
入力電源電圧に対して電圧を変換する電圧変換動作において、前記複数の電力変換回路で、同時に、前記個別電圧帰還制御ループを用いた駆動制御を実行し、前記負荷に電力を供給する、
電源システム装置。
【請求項2】
前記電圧帰還信号生成部は、
前記複数の電力変換回路を並列に接続されている共通ノードと、
前記複数の電力変換回路のインダクタの電流に基づく個別電流信号を生成する個別電流信号生成部と、
前記複数の電力変換回路に対する前記個別電流信号から前記共通ノードに流れる共通バス信号を生成する共通信号生成部と、
を備え、
前記個別電流信号と前記共通バス信号の差から個別電流帰還信号を生成し、前記帰還信号として出力する、
請求項1に記載の電源システム装置。
【請求項3】
前記インダクタの電流を検出するインダクタ電流検出回路を備え、
前記インダクタ電流検出回路は、
前記インダクタに並列接続されている検出用コンデンサと検出用抵抗の直列回路を備え、
前記検出用コンデンサと前記検出用抵抗は、前記インダクタが有するスイッチング周波数における特定のインダクタンスと特定の交流抵抗に対して所定の関係を有するCR時定数を有し、
前記検出用コンデンサの両端電圧を、前記個別電流信号を生成するための前記インダクタの電流の検出信号とする、
請求項2に記載の電源システム装置。
【請求項4】
前記個別電流信号は、前記共通出力端子の出力電圧に対して、所定の位相遅れを有する、
請求項3に記載の電源システム装置。
【請求項5】
前記電圧帰還信号生成部は、
前記共通出力端子の出力電圧に前記個別電流帰還信号を合成した信号を、前記帰還信号として出力する、
請求項4に記載の電源システム装置。
【請求項6】
前記共通信号生成部は、前記複数の電力変換回路の前記個別電流信号の最大値を用いて、前記共通バス信号を生成する、
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の電源システム装置。
【請求項7】
前記共通信号生成部は、前記複数の電力変換回路の前記個別電流信号の平均値を用いて、前記共通バス信号を生成する、
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の電源システム装置。
【請求項8】
前記共通制御部は、前記複数の電力変換回路に対して、互いにスイッチング周波数の位相をずらせた前記発振制御信号を出力する、
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の電源システム装置。
【請求項9】
前記スイッチング回路と前記個別アナログ制御部とは、一体化して集積されたFET内蔵PWM制御ICで構成されている、
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の電源システム装置。
【請求項10】
前記共通制御部は、プログラマブルなマイクロプロセッサで構成されている、
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の電源システム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電力変換回路を備えた電源システム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、システム電源システム装置が記載されている。特許文献1のシステム電源システム装置は、複数の電力変換回路と共通制御部とを備える。複数の電力変換回路は、インダクタ、スイッチング回路、および、個別アナログ制御部をそれぞれに備える。
【0003】
個別アナログ制御部は、電力変換回路の出力状態を検出して帰還信号を生成する帰還信号生成部と、帰還信号に応じてスイッチング回路の駆動制御を行う駆動部を備える。
【0004】
共通制御部は、プログラマブルな演算処理を実行できるデジタル電子回路によって構成されている。共通制御部は、出力電圧に応じた発振制御信号を、個別アナログ制御部の駆動部に出力する。
【0005】
個別アナログ制御部の駆動部は、発振制御信号に基づいて、スイッチング回路のスイッチング素子を駆動制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2020/183820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す構成では、負荷(出力電圧)の急速な変動への高速な応答、出力の安定化が難しかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、負荷(出力電圧)の急速な変動に対する高速な応答、且つ、安定的な電力供給を実現可能な電源システム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の電源システム装置は、電力変換回路、共通入力端子、共通出力端子、および、共通制御部を備える。複数の電力変換回路は、インダクタとスイッチング回路と個別アナログ制御部とをそれぞれに備える。共通入力端子は、複数の電力変換回路の入力部が並列に接続され、入力電源に接続されている。共通出力端子は、複数の電力変換回路の出力部が並列接続され、負荷に接続されている。共通制御部は、複数の電力変換回路に対して、発振制御信号を出力する。
【0010】
個別アナログ制御部は、アナログ電子回路によってパルス幅変調制御回路が形成されたものであり、電圧帰還信号生成部、および、駆動部を備える。電圧帰還信号生成部は、共通出力端子の出力電圧を検出して帰還信号を生成する。駆動部は、帰還信号に基づいて、スイッチング回路のスイッチング素子を駆動する。
【0011】
統合システム制御部は、共通制御部と複数の個別アナログ制御部とを有する。そして、統合システム制御部は、帰還信号を用いて、複数の電力変換回路が連動してパルス幅変調制御回路を個別に制御する複数の個別電圧帰還制御ループを備える。統合システム制御部は、入力電源電圧に対して電圧を変換する電圧変換動作において、複数の電力変換回路で、同時に、個別電圧帰還制御ループを用いた駆動制御を実行し、負荷に電力を供給する。
【0012】
この構成では、アナログ回路からなる個別電圧帰還制御ループによって、負荷(出力電圧)の変動がフィードバックされて、個別電圧帰還制御ループを構成する駆動部とスイッチング素子とによって、負荷(出力電圧)の変動を補償するようにパルス幅変調制御が行われる。これにより、高速な応答が可能になる。さらに、電力変換回路を含む個別電圧帰還ループは、複数あり、これらは、同時に駆動制御を行っている。これにより、上述の負荷変動への高速な応答を可能にしながら、マルチフェーズ制御が実現され、出力が安定化する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、複数の電力変換回路で、同時に、出力電圧の変動を検出し、検出した際に、最も高速に応答できる電圧帰還制御ループを用いた駆動制御を実行し、負荷の急速な変動に対して、高速な応答、且つ、安定的な電力供給を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施形態に係る電源システム装置の一例を示す回路ブロック図である。
図2図2(A)、図2(B)、図2(C)、図2(D)は、電力変換回路が2個のときのマルチフェーズ制御時の各種波形の一例を示す図である。
図3図3は、電力変換回路の具体的な回路構成の一例を示す回路ブロック図である。
図4図4は、駆動部の回路構成の一例を示す等価回路図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る帰還信号生成部の一例を示す等価回路図である。
図6図6(A)、図6(B)は、比較構成でのインダクタ電流およびインダクタ電流の検出信号の波形図であり、図6(C)、図6(D)は、本願構成でのインダクタ電流およびインダクタ電流の検出信号の波形図である。
図7図7は、第2の実施形態に電源システム装置の帰還信号生成部の回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る電源システム装置について、図を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る電源システム装置の一例を示す回路ブロック図である。
【0016】
(電源システム装置10の全体の概略構成)
図1に示すように、電源システム装置10は、MPU20、電力変換回路31、電力変換回路32、電力変換回路33、電力変換回路34、および、分圧回路60を備える。本実施形態では、電力変換回路の個数は、4個であるが、2個以上であれば、本実施形態の構成を適用できる。電源システム装置とは、例えば、単に1個の電力変換回路を備えた電源装置とは異なり、複数の電力変換回路を備え、負荷の状態に応じて複数の電力変換回路の運転数、運転状態を適正に制御する電源装置を意味する。
【0017】
電源システム装置10は、共通入力端子Pin、および、共通出力端子Poutを備える。共通入力端子Pinは、外部の直流電圧源(入力電源)に接続されている。電源システム装置10は、共通入力端子Pinから直流の入力電圧Vinの供給を受けている。共通出力端子Poutは、負荷Roに接続されている。共通出力端子Poutの電圧が、電源システム装置10の出力電圧Voutとなる。
【0018】
(MPU20の制御およびマルチフェーズ制御の概略)
MPU20は、共通入力端子Pinに接続しており、共通入力端子Pinを通じて電源供給されている。この電源供給ラインは、入力コンデンサCi1を通してグランド基準電位に接続されている。
【0019】
MPU20は、デジタル電子回路からなり、プログラマブルなMicro Processing Unitである。MPU20は、プログラマブルな演算処理を実行可能なデバイスである。MPU20は、プログラマブルな演算処理によって、複数の電力変換回路31-34の駆動部41-44への制御信号(発振制御信号)を生成する。MPU20が、本発明の「共通制御部」に対応する。
【0020】
MPU20は、電力変換回路31、電力変換回路32、電力変換回路33、おおよび、電力変換回路34に接続されている。MPU20は、電力変換回路31、電力変換回路32、電力変換回路33、おおよび、電力変換回路34のそれぞれに対して、制御信号を出力する。
【0021】
例えば、MPU20は、複数の電力変換回路の内、運転する電力変換回路(動作を有効にする電力変換回路)に、その電力変換回路に応じた制御信号を出力し、運転しない電力変換回路(動作を無効にする電力変換回路)には制御信号を出力しない。この際、MPU20は、出力電圧Voutに基づく共通バス信号(詳細は後述する。)を抵抗R61と抵抗R62との直列回路からなる分圧回路60によって分圧した電圧を用いて、運転する電力変換回路の個数を決定する。
【0022】
運転する電力変換回路に出力する制御信号は、各電力変換回路のスイッチング周波数からなる発振信号を含んでいる。各制御信号の発振信号は位相差を有し、この位相差は、運転する電力変換回路の個数によって設定されている。
【0023】
これにより、MPU20は、電源システム装置10をマルチフェーズコンバータとして動作させる。
【0024】
図2(A)、図2(B)、図2(C)、図2(D)は、電力変換回路が2個のときのマルチフェーズ制御時の各種波形の一例を示す図である。図2(A)、図2(B)は、各電力変換回路の入力電流を示し、図2(C)は、各電力変換回路のインダクタ電流を示し、図2(D)は、出力電圧を示す。なお、図2(A)、図2(B)、図2(C)、図2(D)は、本実施形態のように電力変換回路が2個の場合で、2個の電力変回路を運転する場合の一例を示す。以下の説明では、2個の電力変換回路として、電力変換回路31と電力変換回路32とを用いる場合を示す。
【0025】
MPU20は、電力変換回路31、電力変換回路32に対して、スイッチング周期Tswに応じて、位相をずらせた制御信号を出力する。これにより、電力変換回路31、電力変換回路32には、図2(A)、図2(B)に示すような、入力電流が生じる。電力変換回路31は、この入力電流に応じて、図2(C)の実線に示すようなインダクタ電流IL1を生じ、このインダクタ電流IL1に応じた個別出力電圧Vout1を出力する。また、電力変換回路32は、この入力電流に応じて、図2(C)の破線に示すようなインダクタ電流IL2を生じ、このインダクタ電流IL2に応じた個別出力電圧Vout2を出力する。
【0026】
共通出力端子Poutに出力されている出力電圧Voutは、電力変換回路31の個別出力電圧Vout1と電力変換回路32の個別出力電圧Vout2とを合成した電圧になる。したがって、出力電圧Voutは、図2(D)に示すような波形となる。
【0027】
電力変換回路31と電力変換回路32とがマルチフェーズ制御されていることによって、電力変換回路31の個別出力電圧Vout1の電圧変動と電力変換回路32の個別出力電圧Vout2の電圧変動とが相殺され、リップル電圧は小さくなる。すなわち、電力変換回路31または電力変換回路32を単独で用いるよりも、リップル電圧は小さくなる。
【0028】
これにより、電源システム装置10は、出力電圧Voutを安定化できる。
【0029】
(電力変換回路31-34の構成)
電力変換回路31-34は、共通入力端子Pinに接続されており、共通入力端子Pinを通じて電源供給されている。電力変換回路31の電源供給ラインは、入力コンデンサCi1を通してグランド基準電位に接続されている。電力変換回路32の電源供給ラインは、入力コンデンサCi2を通してグランド基準電位に接続されている。電力変換回路33の電源供給ラインは、入力コンデンサCi3を通してグランド基準電位に接続されている。電力変換回路34の電源供給ラインは、入力コンデンサCi4を通してグランド基準電位に接続されている。
【0030】
電力変換回路31の出力端、電力変換回路32の出力端、電力変換回路33の出力端、および、電力変換回路34の出力端は、共通出力端子Poutに接続されている。
【0031】
複数の電力変換回路31-34は、入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換する電圧変換動作を、同時に、それぞれに個別に実行する。電力変換回路31-34は、同じ回路構成を有する。
【0032】
図1に示すように、電力変換回路31は、駆動部41、スイッチング素子Q11、スイッチング素子Q12、インダクタL1、出力コンデンサCo1、抵抗RL1、コンデンサCL1、および、帰還信号生成部51を備える。帰還信号生成部51は、端子511、端子512、端子513、および、端子514を備える。端子511、端子512、端子513、および、端子514は、物理的な端子構造を有していてもよいが、機能的には、他の回路素子等への接続部である。スイッチング素子Q11およびスイッチング素子Q12からなる回路は、本発明の「スイッチング回路」に対応する。
【0033】
電力変換回路32は、駆動部42、スイッチング素子Q21、スイッチング素子Q22、インダクタL2、出力コンデンサCo2、抵抗RL2、コンデンサCL2、および、帰還信号生成部52を備える。帰還信号生成部52は、端子521、端子522、端子523、および、端子524を備える。端子521、端子522、端子523、および、端子524は、物理的な端子構造を有していてもよいが、機能的には、他の回路素子等への接続部である。スイッチング素子Q21およびスイッチング素子Q22からなる回路は、本発明の「スイッチング回路」に対応する。
【0034】
電力変換回路34は、駆動部44、スイッチング素子Q41、スイッチング素子Q42、インダクタL4、出力コンデンサCo4、抵抗RL4、コンデンサCL4、および、帰還信号生成部54を備える。帰還信号生成部54は、端子541、端子542、端子543、および、端子544を備える。端子541、端子542、端子543、および、端子544は、物理的な端子構造を有していてもよいが、機能的には、他の回路素子等への接続部である。スイッチング素子Q41およびスイッチング素子Q42からなる回路は、本発明の「スイッチング回路」に対応する。
【0035】
なお、図示を省略しているが、電力変換回路33は、電力変換回路31、32、34と同様に、駆動部43、スイッチング素子Q31、スイッチング素子Q32、インダクタL3、出力コンデンサCo3、抵抗RL3、コンデンサCL3、および、帰還信号生成部53を備える。帰還信号生成部53は、端子531、端子532、端子533、および、端子534を備える。端子531、端子532、端子533、および、端子534は、物理的な端子構造を有していてもよいが、機能的には、他の回路素子等への接続部である。スイッチング素子Q31およびスイッチング素子Q32からなる回路は、本発明の「スイッチング回路」に対応する。
【0036】
複数の電力変換回路31-34は同じ回路構成であるので、以下では、電力変換回路31のみについて、回路構成を具体的に説明する。図3は、電力変換回路の具体的な回路構成の一例を示す回路ブロック図である。
【0037】
駆動部41は、共通入力端子Pinに接続しており、共通入力端子Pinを通じて電源供給されている。駆動部41は、アナログ回路によって形成されている。また、駆動部41、および、帰還信号生成部51によって、個別アナログ制御部が形成される。個別アナログ制御部とスイッチング回路とは、例えば、一体化して集積されたFET内蔵PWM制御ICによって形成される。
【0038】
駆動部41には、MPU20から制御信号が入力されている。駆動部41には、電圧帰還信号と電流帰還信号とが合成された帰還信号が、帰還信号生成部51から入力されている。すなわち、図3の二点鎖線に示すような個別電圧帰還制御ループvFBを介して個別電圧帰還信号が駆動部41にフィードバックされ、図3の点線に示すような個別電流帰還制御ループiFBを介して個別電流帰還信号が駆動部41にフィードバックされる。なお、これら個別電圧帰還制御ループvFBおよび個別電流帰還制御ループiFBに関する説明は、後述の帰還信号生成部51の箇所において行う。
【0039】
駆動部41は、制御信号と帰還信号とから、スイッチング素子Q11およびスイッチング素子Q12に対して、PWM(パルス幅変調)制御を用いたスイッチング制御信号を生成する。
【0040】
具体的には、駆動部41は、例えば、図4に示す回路構成を有する。図4は、駆動部の回路構成の一例を示す等価回路図である。図4に示すように、駆動部41は、エラーアンプU411、PWMコンパレータU412、および、反転器OP413を備える。
【0041】
エラーアンプU411の反転入力端子には、帰還信号が入力されている。エラーアンプU411の非反転入力端子には、リファレンス電圧Vrefが印加されている。リファレンス電圧Vrefは、負荷を安定動作させる出力電圧Voutに基づいて設定されている。
【0042】
エラーアンプU411の出力端子は、PWMコンパレータU412の非反転入力端子に接続されている。PWMコンパレータU412の反転入力端子には、PWM制御用の周波数信号(所定周波数の電圧信号)が入力されている。
【0043】
PWMコンパレータU412の出力端子は、スイッチング素子Q12に接続されているとともに、反転器OP413を通して、スイッチング素子Q11に接続されている。
【0044】
この構成によって、駆動部41は、帰還信号の電圧に基づいてPWM制御信号を生成し、スイッチング素子Q11とスイッチング素子Q12とに出力する。そして、駆動部41は、アナログ電子回路によって構成されているので、帰還信号の電圧に応じたPWM制御信号を高速で出力できる。なお、この帰還信号を用いることによる出力電圧Voutやインダクタ電流iL1への具体的な作用効果は、帰還信号生成部51の説明の後に、まとめて説明する。
【0045】
スイッチング素子Q12のゲートは、駆動部41に接続されており、ドレインは、共通入力端子Pinに接続されており、ソースは、スイッチング素子Q11のドレインに接続されている。スイッチング素子Q11のゲートは、駆動部41に接続されており、ソースは、グランド基準電位に接続されている。
【0046】
スイッチング素子Q12のゲートには、駆動部41から、スイッチング素子Q12用のPWM制御信号が入力されている。スイッチング素子Q11のゲートには、駆動部41から、スイッチング素子Q11用のスイッチング制御信号が入力されている。
【0047】
インダクタL1の一方端は、スイッチング素子Q12のソースとスイッチング素子Q11のドレインとの接続点に接続されている。
【0048】
インダクタL1の他方端は、共通出力端子Poutに接続されている。インダクタL1の他方端は、出力コンデンサCo1を通してグランド基準電位に接続されている。
【0049】
抵抗RL1とコンデンサCL1との直列回路は、インダクタL1に並列接続されている。この回路が、本発明の「インダクタ電流検出回路」に対応する。抵抗RL1が、本発明の「検出用抵抗」に対応し、コンデンサCL1が、本発明の「検出用コンデンサ」に対応する。抵抗RL1とコンデンサCL1との接続点は、帰還信号生成部51の端子512に接続されている。すなわち、インダクタL1に対するインダクタ電流検出回路は、コンデンサCL1の両端電圧を、インダクタL1のインダクタ電流iL1の検出信号として、帰還信号生成部52に出力できる。
【0050】
この際、インダクタ電流検出回路は、インダクタL1のインダクタンス、インダクタL1の等価直列抵抗Rs1の抵抗値、抵抗RL1の抵抗値、および、コンデンサCL1のキャパシタンスを特定の関係にすることで、インダクタL1に流れるインダクタ電流iL1を、無損失で検出できる。
【0051】
具体的には、Rs1/L1=1/(CL1・R1L)の関係を用いる。すなわち、インダクタL1のインダクタンス、インダクタL1の等価直列抵抗Rs1の抵抗値に対して、コンデンサCL1のキャパシタンス、および、抵抗RL1の抵抗値(コンデンサCL1と抵抗RL1からなるCR回路の時定数(CR時定数))を、上式を満たすように設定する。これにより、時間的に変化するインダクタ電流iL1(t)を無損失で検出できる。
【0052】
(帰還信号生成部51の構成)
図1図3に示すように、帰還信号生成部51は、端子511、端子512、端子513、端子514を備える。端子511は、共通出力端子Pout、言い換えれば、電力変換回路31の出力端、および、電力変換回路32の出力端の並列接続部に接続されている。端子512は、抵抗RL1とコンデンサCL1との接続点に接続されている。端子513は、駆動部41に接続されている。
【0053】
端子514は、他の電力変換回路32の帰還信号生成部52の端子524と並列に接続されている。すなわち、電力変換回路31の帰還信号生成部51の端子514、および、電力変換回路32の帰還信号生成部52の端子524は、共通ノードに接続されている。共通ノードは、上述のように、分圧回路60と通じてMPU20に接続されている。
【0054】
帰還信号生成部51は、アナログ回路によって構成されており、出力電圧Vout、インダクタL1のインダクタ電流iL1、共通ノードの電圧(共通バス信号の電圧)に基づいて、駆動部41への帰還信号を生成する。
【0055】
図5は、第1の実施形態に係る帰還信号生成部の一例を示す等価回路図である。
【0056】
帰還信号生成部51は、個別電流信号生成部551、共通信号生成部552、個別帰還信号生成部553、および、電圧調整回路554を備える。
【0057】
個別電流信号生成部551は、増幅器U51、抵抗R51、抵抗R52、抵抗R53、および、抵抗R54を備える。
【0058】
増幅器U51の反転入力端子は、抵抗R51を通じて、端子511に接続されている。増幅器U51の非反転入力端子は、抵抗R52を通じて、端子512に接続されている。抵抗R51の抵抗値と抵抗R52の抵抗値とは同じである。抵抗R53は、非反転入力端子とグランド基準電位との間に接続されている。増幅器U51の出力端子は、抵抗R54を通じて、増幅器U51の反転入力端子に接続されている。抵抗R53の抵抗値と抵抗R54の抵抗値とは同じである。増幅器U51には、駆動電源VDDが供給されている。この回路構成によって、個別電流信号生成部551は、差動増幅回路を実現する。
【0059】
端子511は、共通出力端子Poutに接続されており、端子512は、コンデンサCL1と抵抗RL1との接続点に接続されている。これにより、増幅器U51の非反転入力端子と反転入力端子との間には、インダクタ電流iL1に対応した電位差が生じる。そして、増幅器U51の出力端子、すなわち、個別電流信号生成部551の出力端子からは、インダクタ電流iL1に基づく信号が所定の増幅率で増幅されて、個別電流信号として出力されている。
【0060】
共通信号生成部552は、増幅器U52、および、ダイオードD52を備える。増幅器U52の非反転入力端子は、増幅器U51の出力端子に接続されている。増幅器U52の出力端子は、ダイオードD52を通じて、増幅器U52の反転入力端子に接続されている。この際、ダイオードD52のアノードは、出力端子に接続され、ダイオードD52のカソードは、反転入力端子に接続されている。反転入力端子は、端子514、すなわち、共通ノードに接続されている。増幅器U52には、駆動電源VDDが供給されている。
【0061】
この回路構成によって、共通信号生成部552は、複数の電力変換回路31、32に対する、個別電流信号の最大値保持回路を実現する。この個別電流信号の最大値からなる信号が、本発明の「共通バス信号」に対応する。
【0062】
個別帰還信号生成部553は、増幅器U53、増幅器U54、トランジスタTr55、抵抗R55、抵抗R56、抵抗R57、抵抗R58、抵抗R551、および、抵抗R552を備える。
【0063】
増幅器U53の反転入力端子は、抵抗R55を通じて、増幅器U51の出力端子に接続されている。増幅器U53の非反転入力端子は、抵抗R56を通じて、ダイオードD52のカソード、および、端子504に接続されている。抵抗R55の抵抗値と抵抗R56の抵抗値とは同じである。抵抗R57は、増幅器U53の非反転入力端子とグランド基準電位との間に接続されている。増幅器U53の出力端子は、抵抗R58を通じて、増幅器U53の反転入力端子に接続されている。抵抗R57の抵抗値と抵抗R58の抵抗値とは同じである。増幅器U53には、駆動電源VDDが供給されている。
【0064】
増幅器U54の非反転入力端子は、増幅器U53の出力端子に接続されている。増幅器U54の出力端子は、NPN型のトランジスタTr55のベースに接続されている。トランジスタTr55のコレクタは、抵抗R551を通じて、端子511に接続されている。トランジスタTr55のエミッタは、抵抗R552を通じてグランド基準電位に接続されている。また、トランジスタTr55のエミッタは、増幅器U54の反転入力端子に接続されている。
【0065】
増幅器U53の反転入力端子には、個別電流信号が入力され、非反転入力端子には、共通バス信号が入力されている。これにより、増幅器U51の非反転入力端子と反転入力端子との間には、共通バス信号と個別電流信号との電位差が生じる。そして、増幅器U53の出力端子からは、共通バス信号と個別電流信号との電位差に基づく信号が所定の増幅率で増幅されて、増幅器U54に出力されている。
【0066】
増幅器U54、トランジスタTr55、および、抵抗R552からなる回路によって、電圧-電流変換回路が実現されている。具体的には、この回路では、増幅器U54の非反転入力端子に差分信号(差分電圧)が印加されていると、トランジスタTr55のコレクタ-エミッタ間には、差分信号(差分電流Iadj)が流れる。この差分電流が、個別電流帰還信号に相当する。
【0067】
差分電流Iadjが流れることによって、抵抗R551と抵抗R11との接続点(トランジスタTr55のコレクタ)の電圧は、Vout-(Rr551×Iadj)となる。Rr551は、抵抗R551の抵抗値である。
【0068】
ここで、出力電圧Voutは、個別電圧帰還信号と同じである。したがって、個別帰還信号生成部553は、個別電流帰還信号と個別電圧帰還信号とを合成した帰還信号を生成でき、出力できる。
【0069】
電圧調整回路554は、いわゆる分圧回路であり、抵抗R11と抵抗R12との直列回路を備える。抵抗R11は、個別帰還信号生成部553のトランジスタTr55のコレクタと抵抗R551との接続点に接続されている。抵抗R12は、グランド基準電位に接続されている。抵抗R11と抵抗R12との接続点は、端子513に接続されている。端子513が、帰還信号生成部51における帰還信号の出力端子である。
【0070】
これにより、電圧調整回路554は、個別帰還信号生成部553から出力された帰還信号の電圧を、駆動部41が対応可能な電圧に変換して、端子513に出力する。
【0071】
端子513に出力された帰還信号は、駆動部41にフィードバックされる。これにより、上述の駆動部41の説明に示すような個別電圧帰還制御ループvFB(図3の二点鎖線)および個別電流帰還制御ループiFB(図3の点線)が実現される。
【0072】
駆動部41は、この帰還信号を用いて、上述のようなPWM制御を実行する。
【0073】
これにより、負荷の急激な変動が生じても、負荷の変動に応じて出力電圧Voutを高速で応答させる。すなわち、負荷の変動に応じて出力電圧Voutが変動すると、これが帰還信号に含まれる個別電圧帰還信号に反映される。駆動部41は、この個別電圧帰還信号の変化を用いて、出力電圧Voutを安定させるように、PWM制御を実行する。
【0074】
したがって、駆動部43と帰還信号生成部53からなる個別アナログ制御部、駆動部42と帰還信号生成部52からなる個別アナログ制御部、駆動部41と帰還信号生成部51からなる個別アナログ制御部(これらは図示を省略している)、および、駆動部44と帰還信号生成部54からなる個別アナログ制御部、は、それぞれが、出力電圧Voutの急激な変動に対して、高速に応答し、出力電圧Voutを安定化させることができる。さらに、各個別アナログ制御部は、アナログ電子回路によって構成されているので、より高速な応答、出力電圧Voutの安定化を実現できる。
【0075】
これにより、複数の電力変換回路31-34で、同時に、出力電圧の変動を検出し、検出した際に、最も高速に応答できる電圧帰還制御ループを用いた駆動制御を実行し、負荷の急速な変動に対して、高速な応答、且つ、安定的な電力供給を実現できる。
【0076】
なお、この個別電圧帰還信号の制御は、その時点で出力電圧Voutに対する寄与が大きな電力変換回路による制御が実質的に作用する。すなわち、電力変換回路31が出力電圧Voutを実質的に出力している期間では、電力変換回路31によってこの出力電圧Voutを安定させるPWM制御が実質的に作用する。また、電力変換回路32が出力電圧Voutを実質的に出力している期間では、電力変換回路32によって、この出力電圧Voutを安定させるPWM制御が実質的に作用する。同様に、電力変換回路33、34のいずれかが出力電圧Voutを実質的に出力している期間では、電力変換回路33、34における出力電圧Voutを実質的に出力している電力変換回路によって、この出力電圧Voutを安定させるPWM制御が実質的に作用する。
【0077】
したがって、本願のような個別電流帰還信号を用いたフィードバック制御を行わなければ、特定の電力変換回路の電力損失が大きくなってしまい、電源システム装置10としての電力効率を向上することができない。
【0078】
しかしながら、本願のような個別電流帰還信号を用いたフィードバック制御を行うことで、並列接続される複数の電力変換回路(本実施形態では、電力変換回路31と電力変換回路32)のインダクタ電流を平均化できる。これにより、複数の電力変換回路の電力損失を平均化できる。この結果、電源システム装置10は、電力効率を向上し、電力損失によって発生する発熱を分散し、信頼性を向上できる。
【0079】
図6(A)、図6(B)は、比較構成でのインダクタ電流およびインダクタ電流の検出信号の波形図であり、図6(C)、図6(D)は、本願構成でのインダクタ電流およびインダクタ電流の検出信号の波形図である。図6(A)、図6(B)、図6(C)、図6(D)では、電力変換回路31の負荷が電力変換回路32の負荷よりも大きくなった場合を示している。なお、比較構成は、本願構成における個別電流帰還制御ループiFBを有さない構成である。
【0080】
図6(A)、図6(B)、図6(C)、図6(D)に示すように、本願構成を用いることによって、複数の電力変換回路の負荷が異なっても、複数の電力変換回路のインダクタ電流を平均化できる。
【0081】
そして、この際、個別アナログ制御部がアナログ電子回路によって構成されているので、電源システム装置10は、この電力損失の平均化の制御を高速に実現できる。
【0082】
すなわち、電源システム装置10は、出力電圧Voutの急激な変動に対して、高速に応答し、出力電圧Voutを安定化させることができる。
【0083】
また、上述の構成では、インダクタ電流の検出信号は、所定のCR時定数によって出力される。すなわち、負荷変動による個別電流帰還信号の変化は、個別電圧帰還信号の変化よりも、所定の位相遅れをもって検出される。これにより、電源システム装置10は、まず、出力電圧Voutを高速に安定化させた後、電力損失の平均化を高速に実現できる。したがって、電源システム装置10は、安定した電力制御を実現できる。
【0084】
さらに、電源システム装置10は、上述のように、個別アナログ制御部と、MPU20からなる共通制御部とによって構成される統合システム制御部によって、上述の負荷変動に対する制御とともに、マルチフェーズ制御を行っている。したがって、電源システム装置10は、負荷の緩やかな変動にも最適な電力効率を実現しながら、負荷の急激な変動が生じても、これに高速に応答し、電力効率を向上できる。
【0085】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る電源システム装置について、図を参照して説明する。図7は、第2の実施形態に電源システム装置の帰還信号生成部の回路ブロック図である。
【0086】
図7に示すように、第2の実施形態に係る電源システム装置の帰還信号生成部51Rは、第1の実施形態に係る電源システム装置10の帰還信号生成部51に対して、共通信号生成部53Rを用いる点で異なる。帰還信号生成部51Rの他の構成は、帰還信号生成部51と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。なお、この場合、図示は省略するが、並列接続される帰還信号生成部52Rも、帰還信号生成部51Rと同様の構成を備える。
【0087】
共通信号生成部53Rは、抵抗R60を備える。抵抗R60は、増幅器U52の出力端子と反転入力端子との間に接続されている。この構成によって、増幅器U52と抵抗R60とを備える平均値算出回路が実現される。
【0088】
共通信号生成部53Rは、この平均値信号を共通バス信号とする。このように、共通バス信号に平均値信号を用いても、上述の最大値信号と同様の処理を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
10:電源システム装置
20:MPU
31、32、33、34:電力変換回路
41、42、44:駆動部
51、51R、52、52R、54:帰還信号生成部
53R:共通信号生成部
60:分圧回路
504、511、512、513、514、521、522、523、524、541、542、543、544:端子
551:個別電流信号生成部
552:共通信号生成部
553:個別帰還信号生成部
554:電圧調整回路
Ci1、Ci2、Ci3、Ci4:入力コンデンサ
CL1、CL2、CL4:コンデンサ
Co1、Co2、Co4:出力コンデンサ
D52:ダイオード
iFB:個別電流帰還制御ループ
vFB:個別電圧帰還制御ループ
iL1、IL2:インダクタ電流
L1、L2、L4:インダクタ
OP413:反転器
Pin:共通入力端子
Pout:共通出力端子
Q11、Q12、Q21、Q22、Q41、Q42:スイッチング素子
R11、R12、R51、R52、R53、R54、R55、R551、R552、R56、R57、R58、R60、R61、R62:抵抗
RL1、RL2、RL4:抵抗
Ro:負荷
Rs1:等価直列抵抗
Tr55:トランジスタ
Tsw:スイッチング周期
U411:エラーアンプ
U412:PWMコンパレータ
U51、U52、U53、U54:増幅器
VDD:駆動電源
Vin:入力電圧
Vout1、Vout2:個別出力電圧
Vref:リファレンス電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7