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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20240509BHJP
   H01G 4/40 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01S5/042 630
H01G4/40 307A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022578311
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002088
(87)【国際公開番号】W WO2022163504
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021013468
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】大原 達也
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126979(JP,A)
【文献】特開2018-019044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0181533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/042
H01G 4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ基板に形成又は搭載された、固体発光素子、スイッチ素子、及び前記固体発光素子に放電される駆動電荷をそれぞれに蓄積する複数の駆動キャパシタを備え、
前記固体発光素子と前記スイッチ素子とで直列回路が構成され、
前記複数の駆動キャパシタが前記直列回路にそれぞれ並列接続されることで、前記直列回路を共通経路とする複数の駆動電流ループが構成され、
前記複数の駆動電流ループによってそれぞれ構成される複数の放電経路の時定数が揃っている、
発光装置。
【請求項2】
前記複数の放電経路の時定数が揃っていることにより、
前記駆動キャパシタを単一であるとした場合の前記固体発光素子の発光パルス幅より発光パルス幅が狭い、
請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記複数の放電経路の時定数は、それらの平均値から±50%の範囲内で揃っている、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記複数の駆動キャパシタのキャパシタンスはそれぞれ実質的に等しく、
前記複数の駆動電流ループのインピーダンスはそれぞれ実質的に等しい、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記複数の駆動キャパシタのキャパシタンスは、それらの平均値から±50%の範囲内で揃っていて、
前記複数の駆動キャパシタから前記固体発光素子までの距離は、それらの平均値から±50%の範囲内で揃っている、
請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記複数の駆動キャパシタは、前記固体発光素子及び前記スイッチ素子とは重ならない位置に形成された、
請求項1から5のいずれかに記載の発光装置。
【請求項7】
前記基板は上部導体パターン及び下部導体パターンを備え、
前記上部導体パターンは、第1上部導体パターン、第2上部導体パターン、および、第3上部導体パターンを備え、
前記下部導体パターンは、第1下部導体パターンおよび第2下部導体パターンを備え、
前記スイッチ素子の第1端と前記固体発光素子の第1端とは、前記第3上部導体パターンに接続され、
前記固体発光素子の第2端は、前記第1上部導体パターンおよび前記第2上部導体パターンに接続され、
前記スイッチ素子の第2端は前記第1下部導体パターンおよび第2下部導体パターンに接続され、
前記第1上部導体パターンと前記第1下部導体パターンとの間、および、前記第2上部導体パターンと前記第2下部導体パターンとの間にそれぞれキャパシタが形成されることで、前記複数の駆動キャパシタが設けられている、
請求項1から6のいずれかに記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザダイオード等の固体発光素子を駆動する発光装置に関し、特に、効果的に短パルス・高ピークの発光を得る発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図12(A)は特許文献1に開示されている発光装置100の平面図であり、図12(B)は図12(A)におけるI-I部分の断面図である。図13はその発光装置100の回路図である。
【0003】
特許文献1に開示されている発光装置100は、コンデンサ10と、コンデンサ10から給電されることで発光する固体発光素子20と、コンデンサ10から固体発光素子20への給電を制御する半導体スイッチ素子30とを備えている。コンデンサ10の外面には固体発光素子20が載置されていて、コンデンサ10の外面又は内部に半導体スイッチ素子30が設けられている。また、外部電極11,12の間には固体発光素子20と半導体スイッチ素子30とを直列接続する接続電極32が形成されている。コンデンサ10は誘電体セラミック層13に形成された内部電極14,15によって構成されている。発光装置100の上面には、ゲート引出し電極31、配線21,33が形成されている。発光部22は固体発光素子20の側部に設けられている。
【0004】
このように、コンデンサ10の上部に固体発光素子20及び半導体スイッチ素子30を搭載することで、半導体スイッチ素子30、固体発光素子20、コンデンサ10を結ぶ閉ループを短く構成し、これにより、電流経路である閉ループの寄生インピーダンスが低減され、高ピークかつ短パルスの光が出射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/207938号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発光装置では、図13に示されているように、固体発光素子20につき1つの電流経路(半導体スイッチ素子30、固体発光素子20、コンデンサ10を結ぶ閉ループ)しかないため、寄生インピーダンスが大きく、効果的に高ピークかつ短パルスの光を出射することはできない。
【0007】
上記出射光パワーは、入力電圧(図13中のコンデンサ10への充電電圧)を上げることにより高めることはできる。しかし、この入力電圧を高めるために昇圧回路を別途設けると、それだけ回路が複雑化し、部品点数が増えコストアップ要因となる。また、高電圧の印加により出射光のパルス幅が太くなるため、短いパルス幅と高い瞬時ピークを求められる用途にとって問題となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、効果的に短パルス・高ピークの発光を得る発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一例としての発光装置は、それぞれ基板に形成又は搭載された、固体発光素子、駆動キャパシタ及びスイッチ素子を備え、前記スイッチ素子はターンオンにより、前記駆動キャパシタの充電電荷を前記固体発光素子へ放電させる駆動電流ループを形成し、前記駆動キャパシタは、前記固体発光素子に対する駆動電荷をそれぞれ蓄積する互いに並列接続された複数のキャパシタで構成され、前記複数のキャパシタのうちの各キャパシタ、前記固体発光素子、及び前記スイッチ素子によって複数の駆動電流ループが構成され、前記複数のキャパシタと前記複数の駆動電流ループとでそれぞれ構成される複数の放電経路の時定数が揃っている、ことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、複数のキャパシタのうちの各キャパシタ、固体発光素子、及びスイッチ素子によって複数の駆動電流ループが構成されるので、電流経路である複数の閉ループの寄生インピーダンスの合成インピーダンスが低減される。そのため、複数のキャパシタと複数の駆動電流ループとでそれぞれ構成される複数の放電経路の時定数が小さくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短パルス・高ピークの発光を得る発光装置が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は第1の実施形態に係る発光装置101の平面図である。
図2図2(A)は図1におけるA-A部分での断面図であり、図2(B)は図1におけるB-B部分での断面図である。
図3図3(A)は発光装置101の回路図である。図3(B)は発光装置101に駆動電源が接続された状態での全体の回路図である。
図4図4は、スイッチ素子Q1のターンオンによって固体発光素子LD1に流れる駆動電流(スイッチ素子Q1のドレイン電流)の波形図である。
図5図5は、n個の駆動キャパシタを備える発光装置の回路図である。
図6図6(A)は図3(A)に示した回路の等価回路図である。図6(B)は、図6(A)の等価回路をLCRの回路で表した回路図である。
図7図7は第2の実施形態に係る発光装置の平面図である。
図8図8は第3の実施形態に係る発光装置103Aの平面図である。
図9図9は第3の実施形態に係る別の発光装置103Bの平面図である。
図10図10は、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC1までの経路に存在する寄生インピーダンスとして100pHの寄生インダクタンス成分と0.5Ωの寄生抵抗成分を備え、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC2までの経路に存在する寄生インピーダンスとして100pHの寄生インダクタンス成分と0.5Ωの寄生抵抗成分を備える回路図である。
図11図11は、表1に示したパラメータで、±50%の範囲を超える駆動キャパシタC1,C2を用いることで、駆動電流の波形に崩れが発生することを表す波形図である。
図12図12(A)は特許文献1に開示されている発光装置100の平面図であり、図12(B)は図12(A)におけるI-I部分の断面図である。
図13図13は発光装置100の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0014】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る発光装置101の平面図である。図2(A)は図1におけるA-A部分での断面図であり、図2(B)は図1におけるB-B部分での断面図である。
【0015】
この発光装置101は、基板1に形成された、固体発光素子LD1、2つの駆動キャパシタC1,C2及びスイッチ素子Q1を備える。図1図2(B)中の太矢印は固体発光素子LD1の発光方向を表している。後に示すように、スイッチ素子Q1はターンオンにより、駆動キャパシタC1,C2の充電電荷を固体発光素子LD1へ放電させる駆動電流ループを形成する。
【0016】
駆動キャパシタC1,C2は互いに並列接続されていて、固体発光素子LD1に対する駆動電荷をそれぞれ蓄積する。
【0017】
駆動キャパシタC1、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって第1の駆動電流ループが構成され、駆動キャパシタC2、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって第2の駆動電流ループが構成される。
【0018】
図1に表しているように、基板1の平面視で、駆動キャパシタC1,C2は、固体発光素子LD1及びスイッチ素子Q1とは重ならない位置に形成されている。そして、駆動キャパシタC1,C2は実質的に等しく、駆動キャパシタC1,C2は固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されている。
【0019】
図2(A)、図2(B)に示すように、基板1の表層に上部導体パターン6A,6Bが形成されていて、内部に下部導体パターン8A,8B,8Cが形成されている。基板1は例えばシリコン基板であり、上部導体パターン6A,6B及び下部導体パターン8A,8B,8Cはそれぞれ例えばAlパターン又はCuパターンである。上部導体パターン6A,6Bと下部導体パターン8A,8B,8Cとは数μmを隔てて形成されている。図2(A)に表れているように、下部導体パターン8A,8Bと上部導体パターン6A,6Bとの間に駆動キャパシタC1,C2が設けられている。図2(B)に表れているように、下部導体パターン8Cとスイッチ素子Q1との間に層間接続導体7が形成されている。この層間接続導体7はスイッチ素子Q1の一端(後に示すソース端子)と下部導体パターン8Cとを接続する。
【0020】
図2(A)、図2(B)に表れているように、基板1の表層に上部導体パターン6Cが形成されている。この上部導体パターン6Cの上部に固体発光素子LD1がマウントされている。また、上部導体パターン6A,6Bの上面から固体発光素子LD1の上面にかけて、導体パターンによる発光素子接続導体4A,4Bが形成されている。
【0021】
図2(B)に表れているように、スイッチ素子Q1の他端(後に示すドレイン端子)は上部導体パターン6Cに接続されている。
【0022】
上部導体パターン6A,6Bは本発明に係る「上部導体パターン」に相当し、下部導体パターン8A,8Bは本発明に係る「下部導体パターン」に相当する。
【0023】
図3(A)は発光装置101の回路図である。図3(B)は発光装置101に駆動電源が接続された状態での全体の回路図である。発光装置101は、図3(A)に示すように、固体発光素子LD1にスイッチ素子Q1が直列接続されている。この例では固体発光素子LD1はレーザダイオードであり、スイッチ素子Q1はMOS-FETである。この固体発光素子LD1とスイッチ素子Q1との直列回路に駆動キャパシタC1が並列接続されている。また、駆動キャパシタC1に駆動キャパシタC2が並列接続されている。
【0024】
図3(A)において、発光装置101は、スイッチ素子Q1のターンオンにより、駆動キャパシタC1,C2の充電電荷を固体発光素子LD1へ放電させる駆動電流ループを形成する。
【0025】
上部導体パターン6A,6B,6C及び下部導体パターン8A,8B,8Cは寄生インピーダンスを有する。図3(B)において、寄生インピーダンスZpAは上部導体パターン6Aと下部導体パターン8Aとによって形成される寄生インピーダンスである。寄生インピーダンスZpBは上部導体パターン6Bと下部導体パターン8Bとによって形成される寄生インピーダンスである。寄生インピーダンスZpCは上部導体パターン6Cと下部導体パターン8Cとによって形成される寄生インピーダンスである。
【0026】
図3(B)においては、定電圧電源E1と、この定電圧電源E1からの電流が流れる経路に挿入された抵抗素子R1についても示している。スイッチ素子Q1がオフ状態であれば、駆動キャパシタC1,C2は定電圧電源E1で充電される。スイッチ素子Q1がターンオンすると、図3(A)において矢印で示す経路で駆動電流が流れる。
【0027】
駆動キャパシタC1,C2は実質的に等しく、駆動キャパシタC1,C2は固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されている。したがって、図3(A)に示すように、固体発光素子LD1の一端(アノード)と駆動キャパシタC1,C2の一端とを接続する上部導体パターン6A,6Bの長さは実質的に等しく、固体発光素子LD1の他端(カソード)と駆動キャパシタC1,C2の他端とを接続する下部導体パターン8A,8Bの長さは実質的に等しい。そのため、上部導体パターン6A,6Bの寄生インピーダンスは実質的に等しく、下部導体パターン8A,8Bの寄生インピーダンスは実質的に等しい。したがって、図3(B)に示した寄生インピーダンスZpA,ZpBは実質的に等しい。このことにより、駆動キャパシタC1、寄生インピーダンスZpA,ZpC、固体発光素子LD1及びスイッチ素子Q1による閉ループの放電時定数と、駆動キャパシタC2、寄生インピーダンスZpB,ZpC、固体発光素子LD1及びスイッチ素子Q1による閉ループの放電時定数とは実質的に等しい。
【0028】
上記「駆動キャパシタC1,C2は実質的に等しく、」という意味は、「出射光波形に著しい崩れが無い程度に、駆動キャパシタC1,C2のキャパシタンスが揃っている」という意味である。例えば、駆動キャパシタC1,C2が、それらの平均値から±50%の範囲内となるように揃っていることである。また、「駆動キャパシタC1,C2は固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されている。」という意味は、「出射光波形に著しい崩れが無い程度に、駆動キャパシタC1,C2が固体発光素子LD1から等距離位置に配置されている」という意味である。例えば、駆動キャパシタC1,C2は固体発光素子LD1からの距離が、それらの平均値から±50%の範囲内となるように揃っていることである。
【0029】
次に、駆動キャパシタC1,C2のキャパシタンスが±50%以内であることが好ましい根拠について示す。図10は、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC1までの経路に存在する寄生インピーダンスとして100pHの寄生インダクタンス成分と0.5Ωの寄生抵抗成分を備え、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC2までの経路に存在する寄生インピーダンスとして100pHの寄生インダクタンス成分と0.5Ωの寄生抵抗成分を備える回路図である。表1は、駆動キャパシタC1,C2の値をその変動分の例を示している。
【0030】
【表1】
【0031】
図11は、表1に示したパラメータで、±50%の範囲を超える駆動キャパシタC1,C2を用いることで、駆動電流の波形(レーザダイオードLDの出射光の光波形と相似の波形)に崩れが発生することを表す波形図である。この例では、表1に示すように、4つの水準でシミュレーションを行った。
【0032】
図11において、駆動キャパシタC1,C2のキャパシタンス誤差が±50%を超えるキャパシタンスでは、(4)の波形の矢印で示す肩に盛り上がりが発生する。この盛り上がりは、2つの放電経路の時定数が異なることにより発生する。また、この盛り上がりが発生することで、電流ピーク値の減少にもつながっており、レーザダイオードLDを効率よく発光させられない。
【0033】
本実施形態によれば、基板1としてシリコン基板を用い、上部導体パターン6A,6B及び下部導体パターン8A,8B,8Cを数μm隔てて設けたので、上部導体パターン6A,6B及び下部導体パターン8A,8B,8Cによる電流ループの面積を小さくできる。そのため、その電流ループによる等価直列インダクタンスESLを小さくできる。
【0034】
図4は、スイッチ素子Q1のターンオンによって固体発光素子LD1に流れる駆動電流(スイッチ素子Q1のドレイン電流)の波形図である。図4中の波形Aは本実施形態の発光装置101の波形であり、図4中の波形Bは比較例としての発光装置の波形である。この比較例の発光装置は、駆動キャパシタとして、図1図3(A)、図3(B)に示した駆動キャパシタC1のみを設けたものである。
【0035】
図4に表れているように、比較例の発光装置では、ピーク値は約60Aであり、半値幅は約0.65nsである。本実施形態の発光装置101では、ピーク値は90Aであり、半値幅は約0.4nsである。このように、本実施形態の発光装置101では、短パルス、高ピークの発光を得ることができる。
【0036】
本実施形態の発光装置101では、電流経路が増えた分、駆動キャパシタC1,C2の一つあたりのキャパシタンスは減るので、キャパシタンスあたりの寄生インピーダンスが削減される。また、本実施形態の発光装置101は、寄生インピーダンスが小さくなるだけではなく、2つの駆動キャパシタC1,C2をそれぞれ含む2つの閉ループの放電時定数が実質的に等しい。このことにより、駆動キャパシタC1を介して固体発光素子LD1に流れる駆動電流と、駆動キャパシタC2を介して固体発光素子LD1に流れる駆動電流との過渡特性が揃って、駆動電流のパルス幅の広がりが抑制される。
【0037】
本発明において、複数のキャパシタのキャパシタンスがそれぞれ実質的に等しいとは、例えばそれらの平均値から±50%の範囲内で揃っていることである。また、前記複数の駆動電流ループがそれぞれ実質的に等しいとは、例えばそれらの平均値から±50%の範囲内で揃っていることである。この範囲であれば、出射光波形に著しい崩れが無い。
【0038】
以上に示した例では、駆動キャパシタC1,C2のキャパシタンスが実質的に等しく、駆動キャパシタC1,C2をそれぞれ含む2つの閉ループの大きさが実質的に等しいことによって、駆動キャパシタC1,C2をそれぞれ含む2つの閉ループの放電時定数を実質的に等しくした例を示した。しかしながら、複数の駆動キャパシタのキャパシタンスが異なっていても、それに応じて、閉ループの大きさを定めることによって、複数の駆動キャパシタをそれぞれ含む複数の閉ループの放電時定数を実質的に等しくしてもよい。そのことにより、短パルス・高ピークの発光を得る発光装置が構成される。
【0039】
ここで、複数の電流ループを持つ回路を考える。N番目の電流ループに含まれる駆動キャパシタのキャパシタンスをCn、寄生インダクタンスをLn、寄生抵抗をRnで表すとき、各々のループに流れる電流のパルス幅Tnは次式で表される。
【0040】
【数1】
【0041】
上記「複数の駆動キャパシタをそれぞれ含む複数の閉ループの放電時定数を実質的に等しく」という意味は、「出射光波形に著しい崩れが無い程度に、複数の駆動キャパシタをそれぞれ含む複数の閉ループの放電時定数が揃っている」という意味である。例えば、電流ループそれぞれのTn(n=1,2,3…)が、それらの平均値から±50%の範囲内となるようなCn, Ln, Rnの条件のことである。この範囲であれば、出射光波形に著しい崩れが無い。
【0042】
次に、3つ以上の駆動キャパシタを備える発光装置について例示する。図1から図4に示した例では、2つの駆動キャパシタC1,C2を備える発光装置について示したが、3つ以上の駆動キャパシタを備えてもよい。
【0043】
図5は、n個の駆動キャパシタを備える発光装置の回路図である。固体発光素子LD1の一端(アノード)と駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnの一端とは上部導体パターン6A,6B・・・6Nを介して接続されている。駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnの各キャパシタンスは実質的に等しい。また、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnは固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に設けられている。
【0044】
上記「駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnは実質的に等しい。」という意味は、「出射光波形に著しい崩れが無い程度に、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnのキャパシタンスが揃っている」という意味である。例えば、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnが、それらの平均値から±50%の範囲内となるように揃っていることである。また、「駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnは固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に設けられている。」という意味は、「出射光波形に著しい崩れが無い程度に、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnが固体発光素子LD1から等距離位置に配置されている」という意味である。例えば、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnは固体発光素子LD1からの距離が、それらの平均値から±50%の範囲内となるように揃っていることである。
【0045】
駆動キャパシタC1,C2・・・Cnの他端とスイッチ素子Q1のソースとは下部導体パターン8を介して接続されている。スイッチ素子Q1と固体発光素子LD1とは近接配置でき、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnが固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されることによって、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnはスイッチ素子Q1からも実質的に等距離の位置に形成される。
【0046】
図5では、下部導体パターン8を単一の導体パターンとして描いているので、スイッチ素子Q1の一端(ソース)と各駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnの一端までの距離が不均一のように見えるが、上述のとおり、スイッチ素子Q1から各駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnの一端までの距離は実質的に等しい。このことにより、駆動キャパシタC1,C2,・・・Cnの合成キャパシタンスが大きくなるだけではなく、各駆動キャパシタを介して固体発光素子LD1に流れる駆動電流の過渡特性が揃って、駆動電流のパルス幅の広がりが抑制される。このように、3つ以上の駆動キャパシタを設けてもよい。
【0047】
ここで、寄生インピーダンスが下がると、短パルス・高ピーク化することについて説明する。図6(A)は図3(A)に示した回路の等価回路図である。図6(A)において、キャパシタCは駆動キャパシタC1,C2の合成キャパシタンスを有するキャパシタであり、等価直列抵抗ESRは、図3(B)に示した寄生インピーダンスZpA,ZpB,ZpCの抵抗成分、等価直列インダクタンスESLは、図3(B)に示した寄生インピーダンスZpA,ZpB,ZpCのインダクタンス成分である。Loadは固体発光素子LD1の抵抗成分に相当する。図6(B)は、図6(A)の等価回路をLCRの回路で表した回路図である。図6(B)において抵抗素子Rの抵抗値はLoadとESRの合成抵抗値であり、インダクタLのインダクタンスはESLのインダクタンスである。
【0048】
スイッチ素子Q1がオンした後の状態は、次の(1)式で表すことができる。
【0049】
【数2】
【0050】
(2)式からi(t)を導く。まず、(2)式の両辺をtで微分する。
【0051】
【数3】
【0052】
(3)式に示す二階微分方程式を、振動条件(1 / LC > R2 / (4L2 ))について解くと、次の特殊解が得られる。
【0053】
【数4】
【0054】
(4)式には正弦波の要素が含まれる。本件の発光装置においては、この正弦波の周期の1/2がパルス幅となる。このことから、パルス幅は、次の式で与えられる。
【0055】
【数5】
【0056】
ここで、(5)式から、パルス幅とインダクタンスLとは単調増加の関係にあることがわかる。また、パルス幅Tpulsと抵抗値Rについても、単調増加の関係となっている。つまり、Lの低減やRの低減により短いパルス幅の電流を流すことができるようになる。(5)式におけるインダクタンスLは等価直列インダクタンスESLに相当し、(5)式における抵抗素子Rには寄生抵抗であるESRが含まれることから、このESRの低減により、パルス幅を短くできる。また、キャパシタCのキャパシタンス及び初期電圧が一定であるとき、パルス幅と駆動電流のピーク値は負の相関となることから、ESRの低減により、パルス幅が短くなり、駆動電流のピーク値が上がる。
【0057】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、第1の実施形態で示した例とは複数の駆動キャパシタと固体発光素子LD1との位置関係が異なる発光装置について例示する。
【0058】
図7は第2の実施形態に係る発光装置の平面図である。この発光装置102は、基板1に実装された、固体発光素子LD1、2つの駆動キャパシタC1,C2及びスイッチ素子Q1を備える。
【0059】
基板1の下層には下部導体パターン8A,8B,8Cが形成されている。下部導体パターン8A,8Bの端部と駆動キャパシタC1,C2の下面電極との間には層間接続導体がそれぞれ実装されている。これにより、下部導体パターン8A,8Bの端部に駆動キャパシタC1,C2の下面電極がそれぞれ接続されている。下部導体パターン8Cの端部はスイッチ素子Q1のソース電極に接続されている。
【0060】
基板1の上面には上部導体パターン6が形成されている。上部導体パターン6の第1端は固体発光素子LD1のカソード電極に接続されている。上部導体パターン6の第2端はスイッチ素子Q1のドレインに接続されている。
【0061】
駆動キャパシタC1,C2の上面電極と固体発光素子LD1の上面電極(アノード電極)との間はワイヤ5A,5Bを介して接続されている。
【0062】
このように、2層の導体パターンを設けることによって、固体発光素子LD1の駆動電流ループの面積をできる限り小さくでき、磁束の打ち消し効果(=寄生インダクタンスの低減)効果を最大化することができる。
【0063】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、複数の駆動キャパシタと固体発光素子LD1との位置関係についての幾つかの例を示す。
【0064】
図8は第3の実施形態に係る発光装置103Aの平面図である。この発光装置103Aは、基板1にそれぞれ実装された、固体発光素子LD1、2つの駆動キャパシタC1,C2及びスイッチ素子Q1を備える。
【0065】
基板1の表層には導体パターン2A,2B,3が形成されている。導体パターン2A,2Bの第1端には駆動キャパシタC1,C2がそれぞれ実装されている。これにより、導体パターン2A,2Bの第1端に駆動キャパシタC1,C2の下面電極がそれぞれ接続されている。
【0066】
導体パターン3の第1端には固体発光素子LD1が実装されている。固体発光素子LD1の第1端とスイッチ素子Q1の一端(ドレイン端子)とは導体パターン3を介して接続されている。導体パターン2A,2Bの第2端及び導体パターン3の第2端にはスイッチ素子Q1が実装されている。導体パターン2A,2Bのそれぞれの第2端はスイッチ素子Q1の一端(ソース端子)に接続されている。
【0067】
駆動キャパシタC1,C2の上面電極と固体発光素子LD1の上面電極との間はワイヤ5A,5Bを介して接続されている。駆動キャパシタC1,C2のキャパシタンスは実質的に等しい。また、駆動キャパシタC1,C2は固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されている。
【0068】
駆動キャパシタC1,C2は互いに並列接続されていて、固体発光素子LD1に対する駆動電荷をそれぞれ蓄積する。駆動キャパシタC1、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成され、駆動キャパシタC2、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成される。
【0069】
この発光装置103Aのように、導体パターンを基板の表層にのみ形成してもよい。
【0070】
図9は第3の実施形態に係る別の発光装置103Bの平面図である。この発光装置103Bは、基板1にそれぞれ実装された、固体発光素子LD1、4つの駆動キャパシタC1,C2,C3,C4及びスイッチ素子Q1を備える。
【0071】
基板1の表層には導体パターン2A,2B,2C,2D,3が形成されている。導体パターン2A,2B,2C,2Dの第1端には駆動キャパシタC1,C2,C3,C4がそれぞれ実装されている。これにより、導体パターン2A,2B,2C,2Dの第1端に駆動キャパシタC1,C2,C3,C4の下面電極がそれぞれ接続されている。
【0072】
導体パターン3の第1端には固体発光素子LD1が実装されている。固体発光素子LD1の第1端とスイッチ素子Q1の一端(ドレイン端子)とは導体パターン3を介して接続されている。導体パターン2A,2B,2C,2Dのそれぞれの第2端はスイッチ素子Q1の一端(ソース端子)に接続されている。
【0073】
駆動キャパシタC1,C2,C3,C4の上面電極と固体発光素子LD1の上面電極とはワイヤ5A,5B,5C,5Dを介して接続されている。
【0074】
駆動キャパシタC1,C2,C3,C4は互いに並列接続されていて、固体発光素子LD1に対する駆動電荷をそれぞれ蓄積する。駆動キャパシタC1、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成され、駆動キャパシタC2、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成され、駆動キャパシタC3、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成され、駆動キャパシタC4、固体発光素子LD1、及びスイッチ素子Q1によって駆動電流ループが構成される。
【0075】
駆動キャパシタC1,C2,C3,C4のキャパシタンスはそれぞれ実質的に等しい。また、駆動キャパシタC1,C2,C3,C4は固体発光素子LD1から実質的に等距離の位置に形成されている。したがって、固体発光素子LD1と駆動キャパシタC1,C2,C3,C4とを接続するワイヤ5A,5B,5C,5Dの長さは実質的に等しく、それらの寄生インピーダンスは実質的に等しい。この例では、スイッチ素子Q1と固体発光素子LD1とが比較的離れているので、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC1,C4までの距離と、スイッチ素子Q1から駆動キャパシタC2,C3までの距離とは異なる。しかし、下部導体パターン8の線幅は容易に太くできるので、それらの寄生インピーダンスを相対的に小さくできる。このことにより、各駆動キャパシタを含む閉ループそれぞれの放電時定数を揃えることができる。
【0076】
最後に、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【0077】
例えば、レーザダイオード以外に発光ダイオードや有機EL等の固体発光素子についても同様に適用できる。
【0078】
また、以上に示した例では、単一の固体発光素子LD1を備えた発光装置について示したが、複数の固体発光素子を備えていてもよい。
【0079】
また、以上に示した例では、個別のチップ状の駆動キャパシタを備えた発光装置について示したが、基板に、基板の誘電体層と、この誘電体層を挟んで対向する電極とで駆動キャパシタを構成してもよい。
【0080】
また、以上に示した例では、単体のスイッチ素子Q1を基板に実装した発光装置について示したが、半導体基板の一部にスイッチ素子を構成してもよい。
【0081】
また、以上に示した例では、固体発光素子LD1を基板に実装した発光装置について示したが、半導体基板の一部に固体発光素子を構成してもよい。
【符号の説明】
【0082】
C…キャパシタ
C1,C2,C3,C4…駆動キャパシタ
E1…定電圧電源
ESL…等価直列インダクタンス
ESR…等価直列抵抗
L…インダクタ
LD1…固体発光素子
Q1…スイッチ素子
R,R1…抵抗素子
ZpA,ZpB,ZpC…寄生インピーダンス
1…基板
2A,2B,2C,2D…導体パターン
3…導体パターン
4A,4B…発光素子接続導体
5A,5B,5C,5D…ワイヤ
6,6A,6B,6C…上部導体パターン
7…層間接続導体
8,8A,8B,8C…下部導体パターン
10…コンデンサ
11,12…外部電極
20…固体発光素子
30…半導体スイッチ素子
32…接続電極
100,101,102,103A,103B…発光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13