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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】重心位置判定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/12 20120101AFI20240509BHJP
   B60W 40/112 20120101ALI20240509BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20240509BHJP
【FI】
B60W40/12
B60W40/112
B60W30/045
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022579498
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2022003138
(87)【国際公開番号】W WO2022168733
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021018057
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】田川 悟
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/122786(WO,A1)
【文献】特開2003-320914(JP,A)
【文献】特開2012-051425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重心位置判定装置であって、
積載物を積載可能な車両と、
前記車両の自己位置データを取得する自己位置検知部と、
前記自己位置データに基づいて旋回パラメータとして旋回曲率又は旋回半径を求める旋回パラメータ生成部と、
前記車両の操舵制御値を検出する操舵検知部と、
前記積載物が所定状態であるときの前記旋回パラメータと前記操舵制御値との関係を示す参照データを記憶する記憶部と、
前記旋回パラメータ生成部によって求められた前記旋回パラメータ及び前記操舵検知部によって検出された前記操舵制御値を前記参照データと比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて前記車両又は前記積載物の重心位置を判定する判定部と、を備えている、重心位置判定装置。
【請求項2】
前記車両が、旋回動作を制御する旋回制御部を備えており、
前記重心位置判定装置が、前記比較結果に基づいて、前記旋回制御部への入力を補正する補正部をさらに備えている、請求項1に記載の重心位置判定装置。
【請求項3】
前記参照データが、前記車両の車速が一定である条件のもとに作成されている、請求項1又は2に記載の重心位置判定装置。
【請求項4】
前記記憶部が、異なる重心位置に対応する複数の参照データを記憶している、請求項1~のいずれか一項に記載の重心位置判定装置。
【請求項5】
積載物を積載可能な車両における前記車両又は前記積載物の重心を判定する重心位置判定方法であって、
前記積載物が所定状態であるときの前記車両の操舵制御値とそれに対する旋回パラメータとしての旋回曲率又は旋回半径との関係を参照データとして予め構築し、
前記車両の自己位置検知機能を利用して前記車両の実際の自己位置履歴に基づいて前記旋回パラメータを求め、
実際の旋回に対して用いられた前記操舵制御値及び前記自己位置履歴に基づいて求められた前記旋回パラメータを前記参照データと比較して前記車両又は前記積載物の重心位置を判定する、重心位置判定方法。
【請求項6】
前記参照データが前記車両の車速もパラメータとして構築され、前記車両又は前記積載物の前記重心位置の判定時には、実際の旋回に対して用いられた前記操舵制御値、前記自己位置履歴に基づいて求められた前記旋回パラメータ及び検出された前記車両の実車速が前記参照データと比較される、請求項に記載の重心位置判定方法。
【請求項7】
前記参照データを前記車両の実走行時に構築する、請求項又はに記載の重心位置判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に積載された積載物の重心を判定する装置及び方法[an apparatus for determining a gravity center of a cargo loaded on a vehicle, and a method therefor]に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、車両の右側と左側にそれぞれ設けられた車高センサを用いて、車両に積載された積載物の偏りを検出する装置を開示している。上記装置によって積載物の偏りが検出された場合は、車両横転(ロールオーバ)の危険性があるとして警報が発せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4060031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された装置では、積載物の偏りを検出するためには車高センサを車両の右側と左側とにそれぞれ特別に設ける必要がある。
【0005】
本開示に係る重心位置判定装置及び方法の目的は、車高センサの有無によらず、車両又は車両に積載された積載物の重心位置を判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る重心位置判定装置は、積載物を積載可能な車両と、前記車両の自己位置データを取得する自己位置検知部と、前記自己位置データに基づいて旋回パラメータとして旋回曲率又は旋回半径を求める旋回パラメータ生成部と、前記車両の操舵制御値を検出する操舵検知部と、前記積載物が所定状態であるときの前記旋回パラメータと前記操舵制御値との関係を示す参照データを記憶する記憶部と、前記旋回パラメータ生成部によって求められた前記旋回パラメータ及び前記操舵検知部によって検出された前記操舵制御値を前記参照データと比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づいて前記車両又は前記積載物の重心位置を判定する判定部と、を備えている。
【0007】
本開示に係る重心位置判定方法では、積載物を積載可能な車両における前記車両又は前記積載物の重心を判定する。当該方法では、前記積載物が所定状態であるときの前記車両の操舵制御値とそれに対する旋回パラメータとしての旋回曲率又は旋回半径との関係を参照データとして予め構築し、前記車両の自己位置検知機能を利用して前記車両の実際の自己位置履歴に基づいて前記旋回パラメータを求め、実際の旋回に対して用いられた前記操舵制御値及び前記自己位置履歴に基づいて求められた前記旋回パラメータを参照データと比較して前記車両又は前記積載物の重心位置を判定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る重心位置判定装置又は方法によれば、車高センサの有無によらず、車両又は車両に積載された積載物の重心位置を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】積載物の重心位置と車両の旋回特性との関係を示す平面図であり、(a)は重心位置が旋回中心側(旋回内側)にある場合、(b)は重心位置が旋回外側にある場合を示している。
図2】実施形態に係る重心位置判定装置の構成図である。
図3】上記重心位置判定装置のブロック図である。
図4】上記重心位置判定装置で用いられる参照データを示す説明図である。
図5】実施形態に係る重心位置判定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
本開示では、積載物の重心位置と車両の旋回特性との関係に基づいて、車両に積載された積載物の重心位置(又は、車両の重心位置)を判定する。まず、積載物の重心位置と車両の旋回特性との関係について図1を参照して説明する。車両1の積載物の重心位置Gは、平面視において車両の前後中心線上に位置するのが理想である。重心位置Gが前後中心線上ある場合の所定操舵制御値に対する旋回軌跡C0が図1(a)及び図1(b)中に示されている。旋回軌跡C0の旋回半径を適正旋回半径r0とする。即ち、積載物が適正に積載されている場合に所定操舵制御値で車両1が旋回された場合、車両1は旋回軌跡C0(適正旋回半径r0の円)を描く。
【0012】
しかし、図1(a)に示されるように、積載物の重心位置Gが旋回中心O側(旋回内側)にズレている場合、所定操舵制御値に対する結果としての実旋回半径r1は適正旋回半径r0よりも小さくなる。一方、図1(b)に示されるように、積載物の重心位置Gが旋回外側にズレている場合、所定操舵制御値に対する結果としての実旋回半径r2は適正旋回半径r0よりも大きくなる。即ち、発明者は、旋回特性から重心位置を判定し得ることを新たに知見した。なお、操舵制御値とは、車両1を旋回させるための旋回制御(転舵輪[steered road wheels]を転舵させる制御)に用いられる値であり、具体的には、ステアリングホイール4aの操舵角(舵角要求値)、転舵輪の転舵角若しくは転舵目標角(舵角制御値)、又は、これら両方である。
【0013】
上述した旋回特性に基づく重心位置の判定の説明では、操舵制御値に基づいて車両が旋回された結果としての旋回特性を示す旋回パラメータが旋回半径(図1中のr0~r2参照)であった。しかし、旋回特性を示す旋回パラメータとしては、旋回半径の逆数である旋回曲率(=1/旋回半径)を用いることもできる。以下に説明する本実施形態では、旋回パラメータとして旋回曲率(=1/旋回半径)を用いる場合を例にして説明する。なお、旋回パラメータとは、車両の走行軌跡から得られるパラメータであり、車両に対して上述した操舵制御値を用いた操舵制御が行われた結果の旋回特性を示すパラメータである。旋回パラメータは、後述する自己位置検知部[self-location detector]によって取得された車両の自己位置データに基づいて求められる。
【0014】
本実施形態では、図2に示されるように、車両1が、積載物12が積載されたトレーラ10とこのトレーラ10を牽引するトラクタ11からなる場合を例に説明する。なお、トラクタは、トレーラヘッドとも呼ばれる。また、連結されているトレーラ10及びトラクタ11全体をトレーラと呼ぶこともあるが、ここでは、連結された状態のトレーラ10及びトラクタ11によって車両1が構成されているとして説明する。
【0015】
また、本実施形態では、上記車両1が特定の工場などの事業所[business site]内で運転されている際に重心位置の判定が行われる場合を例に説明する。例えば、工場で製造された大きな製品をトレーラ10に積載して工場から出荷する際の構内走行[in-site running]時(又は工場到着後の構内走行時)に重心位置の判定が行われる。このような構内では、大型車両の走行速度が5km/h以下又は10km/h以下などに制限されているため、走行速度も既知である(又は、走行速度による旋回半径への影響を無視できる)ものとして扱うことができる。
【0016】
なお、一般道を走行する場合であっても、大型積載物を交通規制及び交通整理を行いながら夜間に運搬する場合には、走行ルートも事前に決められており、かつ、車速を既知の(又は、その影響を無視し得る)パラメータとして扱える場合がある。大型積載物としては、例えば、電車の車両、航空機又はロケットの一部、橋梁の一部などが挙げられる。このような大型積載物は、トレーラ(車両)への積載時に不安定になりやすいものも多く、本実施形態の重心位置判定は有効である。そして、このような走行ルートが既知で、かつ、車速を既知の(又は、その旋回特性への影響を無視し得る)パラメータとして扱える場合も、上述した構内での走行(自動運転走行も含み得る)と同様に重心位置判定を行うことができる。
【0017】
また、ここでは、構内走行が自動運転によって行われることを想定している。構内では走行速度だけでなく走行ルートも特定できるため、一般道での自動運転よりも自動運転を導入しやすい。さらに、構内であれば、走行路の詳細な三次元マップ(二次元マップでもよい)を作成しやすく、自動運転を導入しやすい。またさらに、構内道路は一般道ではないため道路交通法の適用外となる場合があり、自動運転を導入しやすい。本開示の重心位置判定装置及び方法は、このような構内での自動運転の場合に非常に有用である。
【0018】
図2に、本実施形態の重心位置判定装置の構成図を示す。上述したように、車両1は、トラクタ11とトレーラ10とで構成されており、トレーラ10には積載物12としてコンテナが積載されている。なお、車両1は内燃機関車(ICV)、電気自動車(BEV・FCEV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)などの駆動形式は問われない。コンテナの内部にはその全体の重心が車両1の前後中心線上となるように積載物が積まれるのが通常である。しかし、コンテナの内部で荷崩れ[cargo shift]が生じれば積載物12の重心は移動し得る。重心位置判定装置は、車両1の各種状態量[various parameters indicating conditions of]を検出するセンサ類と重心位置判定を司るコントローラ2とを備えている。コントローラ2は、コンピュータであり、CPU及び重心判定プログラムなどが保存された記憶部[memory]21などからなる。コントローラ2は、車両1に搭載された他のシステムと統合されたコントローラでもよく、本実施形態のコントローラ2は自動運転も制御する。
【0019】
車両1は、各種状態量を検出するセンサ類として、車速センサ3と、舵角センサ4と、アクセルペダルストロークセンサ5と、ブレーキペダルストロークセンサ6とを備えており、これらのセンサはコントローラ2と接続されている。なお、これらのセンサは、他のシステムのコントローラ(例えば、エンジンECU又はABS/VSC-ECUなど)を経由してコントローラ2に接続されてもよい。即ち、これらのセンサの検出値が他のシステムのコントローラを経由してコントローラ2に供給されてもよい。
【0020】
車速センサ3は、トラクタ11の車軸の回転から車両1の実際の走行速度(実車速)を検出する。なお、実車速は、後述する自己位置検知部の検出結果(自己位置履歴)に基づいて求められてもよい(この場合は、自己位置検知部及びコントローラ2が車速センサを構成する)。舵角センサ4は、ステアリングホイール4aの操舵角(舵角要求値)を検出する。本実施形態では、重心位置を判定する状況では、ステアリングホイール4aの操舵角(舵角要求値)と転舵輪の転舵角(舵角制御値)との関係は一対一の関係で制御される。舵角センサ4は、舵角要求値又は舵角制御値などの操舵制御に関する制御値(操舵制御値)を検出する操舵検知部[steering detector]である。
【0021】
例えば、自動運転制御又は車両挙動安定制御(VSC)などのためにステアバイワイヤシステムが利用される場合、舵角要求値と舵角制御値とが一対一の関係とはならない場合がある。運転者ではなく自動運転システムが車両1の操舵を制御する場合、運転者はステアリングホイール4aを操作しないので舵角要求値は存在せず、自動運転システムが舵角制御値を決定して転舵輪を転舵する。また、舵角要求値が車両挙動安定制御によって補正されて舵角制御値が算出される場合は、舵角要求値と舵角制御値とは一対一の関係に固定されない。ただし、舵角要求値が存在する場合は、舵角要求値に基づいて舵角制御値が算出されるため、舵角要求値から舵角制御値を取得することができる。
【0022】
なお、本実施形態の車両1では、完全なステアバイワイヤシステムは採用されておらず、自動運転時には、パワーステアリングシステムのアクチュエータ13を利用して転舵輪が舵角制御値で転舵されるように制御される(ステアリングホイールも回転する)。従って、アクチュエータ13の状態を検出することで、舵角制御値を直接検出することもできる。例えば、アクチュエータ13がサーボモータであるような場合はその制御状態を検出することができるので、舵角制御値を直接検出することも可能である。本実施形態では、パワーステアリングシステムのアクチュエータ13が、車両1の旋回動作を制御する旋回制御部[turning controller]として機能している。
【0023】
また、低速時の車両の取り回しを改善するために車速応動可変ギアレシオステアリング(VGS)システム又は四輪操舵(4WS)システムが採用される場合もある。VGSシステムは、ステアリングホイールの操舵角(舵角要求値)に対する転舵輪の転舵角(舵角制御値)の割合、即ちギアレシオを低速時に大きくする(速度に応じて可変制御する)システムである。低速時には高速時に比べてステアリングホイールの操舵角に対して転舵輪が大きく転舵され、車両の取り回しが向上する。また、4WSシステムでは、低速時に前輪(転舵輪)に対して後輪が逆相に転舵されるため、車両の取り回しが向上する。なお、トラクタ及びトレーラからなる車両又はトラックは、乗用車とは違って、多くの場合四つ以上の車輪を有するが、ここではそのような場合も含めて4WSシステムと呼ぶ。
【0024】
これらの場合も、舵角要求値が存在する場合は舵角要求値に基づいて舵角制御値が算出されるため、舵角要求値から舵角制御値を取得することができる。本実施形態では、舵角要求値に基づいて重心位置判定が行われる。ステアリングシステムにこれらの補助システムが統合されている場合でも、上述した操舵検知部(本実施形態では舵角センサ4)が、操舵制御に関する制御値(操舵制御値)を検出するセンサである。操舵制御値は、舵角要求値、舵角制御値、又は、両方である。
【0025】
アクセルペダルストロークセンサ5は、アクセルペダルの操作量(駆動力要求値)を検出するセンサである。上述した舵角センサ4と同様に、アクセルバイワイヤシステム又はVSCシステムが利用される場合、駆動力要求値と駆動力制御値とが一対一の関係に固定されない場合がある。また、ハイブリッドシステムが採用されている場合、駆動力要求値に対して、内燃機関とモータとで駆動力を分担する場合もあり、駆動力制御値はそれぞれ別々に設定され得る。また、運転者ではなく自動運転システムが車両1の駆動を制御する場合、運転者はアクセルペダルを操作しないので駆動力要求値は存在せず、自動運転システムが駆動力制御値を決定して車両1を走行させる。しかし、ここでも同様に、駆動力要求値が存在する場合は駆動力要求値に基づいて駆動力制御値が算出されるため、動力要求値から動力制御値を取得することができる。
【0026】
ブレーキペダルストロークセンサ6は、ブレーキペダルの操作量(制動力要求値)を検出するセンサである。上述した舵角センサ4及びアクセルペダルストロークセンサ5と同様に、ブレーキバイワイヤシステム、ABSシステム又はVSCシステムが利用される場合、制動力要求値と制動力制御値とが一対一の関係に固定されない場合がある。ハイブリッドシステムが採用されている場合、制動力要求値に対して、流体圧ブレーキ(油圧ブレーキ又はエアブレーキ)と回生発電による制動とで制動力を分担する場合もあり、制動力制御値はそれぞれ別々に設定され得る。また、運転者ではなく自動運転システムが車両1の制動を制御する場合、運転者はブレーキペダルを操作しないので制動力要求値は存在せず、自動運転システムが制動力制御値を決定して車両1を走行させる。しかし、ここでも同様に、制動力要求値が存在する場合は制動力要求値に基づいて制動力制御値が算出されるため、制動力要求値から制動力制御値を取得することができる。
【0027】
上述したように、車両1に搭載された自動運システムはコントローラ2によって制御される。従って、転舵輪の転舵及び車両1の駆動・制動を自動制御するための各種アクチュエータ類もコントローラ2によって制御され得る。コントローラ2は、自動運転時にはこれらのアクチュエータ類(例えば、上述したパワーステアリングシステムのアクチュエータ13)を制御する。また、自動運転システムは、そのシステムの一部として、車両1の自己位置検知機能を備えている。具体的には、自動運転システムは、GPSシステム(GPSアンテナ7)とジャイロセンサ(慣性センサ)8とを併用した自己位置検知部を備えている。即ち、GPSシステム(GPSアンテナ7)、ジャイロセンサ8及びコントローラ2によって、車両1の自己位置を検出する自己位置検知部が構成されている。自己位置検知部によって、車両の自己位置データが取得される。
【0028】
なお、ここに言うGPSの語は、米国の衛星測位システムのみを指すのではなく、衛星測位システム全般を指す語として用いられている。また、これには、複数の衛星測位システムを同時利用するシステムも含まれる(例えば、米国のGPS、ロシアのGRONASS、日本のみちびきの同時利用など)。また、車両に自動運転システムが搭載されていなくても、ナビゲーションシステムが搭載されていれば、重心位置判定装置は、当該ナビゲーションシステムの自己位置検知機能を利用することが可能である。
【0029】
さらに、本実施形態の自動運転システム(車両1のコントローラ2)は、運行管理システム9と通信する通信機能(通信アンテナ9a)を備えており、コントローラ2は運行管理システム9と無線通信で各種の走行関連データを送受信する。例えば、走行関連データとしては、後述する参照データ(判定マップ)、自動運転のための運行ルート及び走行速度などの運行データ、車両1の諸元、積載物12の諸元などが挙げられる。車両1の諸元は、トラクタ11及びトレーラ10の重量、寸法、重心位置などを含む。積載物12の諸元は、重量、寸法、重心位置などを含む。
【0030】
コントローラ2は、運行管理システム9(通信アンテナ9a)を介して、運行データ及び参照データを受信して、その内部の記憶部21に保存することが可能である。なお、本実施形態の運行管理システム9は、車両1と無線通信するが、有線通信してもよい。有線通信の場合は、運行開始前に接続ケーブルを用いてデータの送受信が行われた後、接続ケーブルは取り外される。また、通信によらず、記憶媒体などを介してデータがやり取りされてもよい。
【0031】
図3に、コントローラ2周辺のブロック図を示す。図3に示されるように、コントローラ2は、上述したセンサ類と接続されている。また、コントローラ2は、上述した記憶部21に加えて、旋回パラメータ生成部[turning parameter generator]20、比較部[comparator]22、判定部[determiner]23及び補正部[compensator]24も備えている。旋回パラメータ生成部20は、上述した自己位置検知部が検出した自己位置データに基づいて旋回パラメータ(本実施形態では旋回曲率)を求める[calculate]。比較部22は、旋回パラメータ生成部20によって求められた旋回パラメータ(旋回曲率)及び舵角センサ(操舵検知部)4によって検出された操舵制御値(本実施形態では舵角要求値)を後述する参照データと比較する。
【0032】
判定部23は、比較部22の比較結果に基づいて積載物12の重心位置(又は積載物12が積載された状態の車両1の重心位置)を判定する。重心位置の判定とは、積載物の車両1への搭載状態が所定状態(例えば、適正積載状態)であるときの重心位置に対して、実際の重心位置がどのような状態であるかを判定することである。補正部24は、比較部22による比較結果に基づいて、旋回制御部(パワーステアリングシステムのアクチュエータ13)への入力を補正する。これらの旋回パラメータ生成部20、比較部22、判定部23及び補正部24は、上述した重心判定プログラム及び当該プログラムを実行するCPU等によって実現されている。
【0033】
ここで、参照データについて、図4を参照しつつ説明する。参照データは、積載物12が所定状態であるときの旋回パラメータ(旋回曲率)と操舵制御値(操舵角)との関係を示すデータであり、重心位置判定時に参照される判定マップである。即ち、積載物12を搭載した車両1のステアリングホイール4aがある操舵角で操舵されて車両1がある旋回曲率で旋回する場合の、操舵角と旋回曲率との関係が参照データに記憶されている。なお、本実施形態では、上述したように走行速度(車速)は既知であり、当該車速で車両1が走行しているときに重心位置判定が行われる。
【0034】
図4には、積載物12の重心位置が適正な状態であるときの操舵角と旋回曲率との関係が直線Rf(基準判定線)として示されている。この適正な状態に対して積載物12の重心位置が旋回外側にx(>0)メートルズレている場合には、図1で示したように旋回特性(旋回曲率)が変わるため、操舵角と旋回曲率との関係は直線δo1で示される。同様に、適正な状態に対して積載物12の重心位置が旋回内側にxメートルズレている場合には、操舵角と旋回曲率との関係は直線δi1で示される。適正な状態に対して積載物12の重心位置が旋回内側にy(>x)メートルズレている場合には、操舵角と旋回曲率との関係は直線δi2で示される。
【0035】
なお、図4では、右旋回時の操舵角を正、左旋回時の操舵角を負として示している。また、図4には四本の関係線のみが示されているが、関係線は操舵角と旋回曲率との関係ごとにさらに多くの関係線が規定されている。ただし、参照データが少なくとも基準判定線Rfを含んでいれば、重心位置がズレているか否かの判定は行える。この場合、検出された実操舵角及び求められた実旋回曲率の基準判定線Rfからの乖離に基づいて、重心位置のズレ量を演算して推定することも可能である。また、図4では、操舵角と旋回曲率との関係線が全て直線で示されているが、曲線になることもある。さらに、牽引するトレーラ10又は積載物12が変われば、当然、参照すべき参照データも変わる。このような参照データ(判定マップ)は予め構築されており、積載物12を搭載して車両1が走行するときに、前もってコントローラ2の記憶部21に記憶される。
【0036】
本実施形態において上述した装置(センサ類)は、コントローラ2以外は車両1が通常備えている装備である。特に、本実施形態では、重心位置判定のコントローラ2に自動運転のコントローラの機能が統合されている。即ち、本実施形態の重心位置判定装置(方法)は、車両1に搭載されている既存の装置を活用して運用される。
【0037】
上述した構成を有する重心位置判定装置を用いた積載物重心位置判定方法について、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。上述したように、操舵制御値(本実施形態では、舵角センサ4によって検出されるステアリングホイール4aの操舵角、即ち、舵角要求値)と当該操舵制御値に対する旋回曲率との関係が、参照データ(判定マップ)として予め構築される(ステップS0)。車両1の運行に際して、参照データを含む上述した走行関連データが運行管理システム9(通信アンテナ9a)を介してコントローラ2の記憶部21に記憶される(ステップS1)。走行関連データには、上述したように車両1及び積載物12の諸元も含まれているが、トラクタ11の諸元は変わらないので、トラクタ11の諸元は、はじめから記憶部21に記憶されていてもよい。
【0038】
そして、実際の車両1の走行(旋回)時に、コントローラ2によって、自己位置検知機能(装置:GPSアンテナ7を含むGPSシステム及びジャイロセンサ8)を利用して、自己位置履歴が自己位置データとして保存される(ステップS2)。また、この旋回時のステアリングホイール4aの操舵角(操舵制御値)も舵角センサ(操舵検知部)4によって検出される。即ち、旋回中の複数の自己位置(自己位置データ)とその時の操舵角が保存される。次に、旋回中の複数の自己位置(自己位置データ)に基づいて、旋回パラメータ生成部20が実旋回曲率(実際の旋回パラメータ)を求める(ステップS3)。実旋回曲率は、複数の自己位置を用いて最小二乗法による円近似を行い、近似された実旋回半径から求められる。
【0039】
次に、比較部22が、実旋回曲率(実際の旋回パラメータ)及び操舵角(操舵制御値)を参照データと比較する(ステップS4)。具体的には、実操舵角及び実旋回曲率に基づく実旋回特性が、図4中の点Pのように参照データ(判定マップ)上にプロットされる。この比較の結果、本実施形態では、積載物12が搭載された状態のトレーラ10の重心位置について概略的に判定できる。具体的には、図4の点Pの場合であれば、積載物12が搭載された状態のトレーラ10の重心位置のズレ量が、適正状態に対して旋回外側にxメートル(関係線δi1)を超えてyメートル(関係線δi2)未満であると判定できる。
【0040】
本実施形態では、この概略的判定に関して補間処理を行い、より正確な判定を行う。トレーラ10及び積載物12の諸元は記憶部21に記憶されているので、このデータを用いることで、点Pと関係線δi1及び関係線δi2との乖離に基づいて、判定部23が、計算によって重心位置のズレ量を推定(判定)する(ステップS5)。例えば、点Pに関して、x=0.25メートルでy=0.50メートルである場合に、補間処理によって、重心位置が0.38メートル旋回外側にズレていると推定される。
【0041】
ステップS5で推定された重心位置は、積載物12が搭載された状態のトレーラ10の重心位置である。本実施形態では、この重心位置から、判定部23は、積載物12のみの重心位置を推定(判定)する(ステップS6)。上述したように、トレーラ10の諸元は記憶部21に記憶されているので、このデータを用いることで、判定部23が、計算によって積載物12の重心位置を推定(判定)する。
【0042】
なお、ステップS4で積載物12を搭載した状態の車両1全体の重心位置が推定(判定)された時点で処理を終了してもよい。あるいは、車両1全体の重心位置の推定(判定)後に、積載物12を搭載した状態の車両1全体の重心位置に基づいて、積載物12のみの重心位置を推定(判定)してもよい。この場合も、車両1(トラクタ11及びトレーラ10)の諸元は記憶部21に記憶されているので、このデータを用いることで、計算によって積載物12の重心位置を推定(判定)できる。
【0043】
上述したように、車両1は自動運転可能であり、自動運転はコントローラ2が制御する。本実施形態では、上述した比較部22の比較結果に基づいて、即ち、判定された重心位置のズレ量に基づいて、コントローラ2の補正部24が、当該ズレ量を解消するように、パワーステアリングシステムのアクチュエータ13(旋回制御部)への入力を補正する。この補正によって、旋回時の旋回曲率(半径)が適正旋回曲率(半径)となるように転舵輪の転舵角が補正されるので、車両1を正確に旋回させることができる。
【0044】
上記実施形態では、事業所などの構内での旋回時に重心位置判定を行う場合を例に説明し、車速を既知の(又は、旋回特性への影響を無視し得る)パラメータとして扱った。即ち、参照データ(判定マップ)は、車両1の車速が一定である条件のもとに作成されていた。これにより、参照データが複雑になるのを防止して重心位置判定を正確に行うことができる。しかし、本開示の装置及び方法は、車速が逐次変化する一般道の走行時にも適用が可能であり、このような場合は、車速もパラメータとして扱うことで、旋回特性に基づく重心位置判定が可能である。この場合、操舵制御値及び車速に応じて適正旋回曲率(半径)が変わり得る。このような場合、参照データ(判定マップ)は車速も考慮して構築される。
【0045】
また、図4に示されるように、記憶部21は、異なる重心位置に対応する複数の参照データ(Rf、δi1、δi2、δo1…など)を記憶している。これにより、より迅速に重心位置判定を行うことができる。なお、参照データをより細かく規定することで、上述した補間処理を省略することも可能である。しかし、参照データをより細かく規定するには、その適合作業等に多くの時間が必要になるため、多くの工数が必要になる。そこで、本実施形態では、補間処理を用いることで参照データの作成のための工数を削減している。
【0046】
逆に、上述したように、参照データ(判定マップ)に基準判定線Rfのみを規定して重心位置のズレ量は基準判定線Rfのみに基づく補間処理によって求めることも可能である。しかし、本実施形態のように、記憶部21が異なる重心位置に対応する複数の参照データ(Rf、δi1、δi2、δo1…など)を記憶していれば、演算負荷を軽減できると共に、より正確に重心位置を判定することができる。
【0047】
参照データ(判定マップ)は、重心位置判定に先立って事前に構築される。その構築は、車両1(トレーラ10及びトラクタ11)及び積載物12をモデル化して、シミュレーションなどによって構築される。しかし、積載物12の重心位置が適正であると確認されている車両1の実走行時に取得したデータを、参照データの構築に利用してもよい。即ち、参照データを車両1の実走行時に構築することも可能である。この場合は、コントローラ2の記憶部21に参照データの構築のためのプログラムを保存し、このプログラムを利用してコントローラ2が参照データを構築する。このようにすれば、参照データを効率よく構築することができる。
【0048】
参照データ(判定マップ)の構築に必要なデータは車両に搭載されているセンサ類(車速センサ3、自己位置検知部及び操舵検知部など)によって取得でき、車高センサの有無によらない。従って、積載物12の重心位置が適正であると確認されている車両1の実走行時に取得したデータを用いて、図4に示される基準判定線Rfを取得することができる。その後、基準判定線Rfに基づいて、シミュレーションなどによって、その他の関係線(δi1、δi2、δo1…など)が規定される。もちろん、積載物12の重心位置を意図的にズラして車両1を走行させることでその他の関係線を取得することも可能である。あるいは、基準判定線Rf自体もシミュレーションなどによって取得してもよい。
【0049】
このように車両1の実走行を利用して参照データ(判定マップ)を作成する場合、車両1を走行させる際に積載物12の重心位置が適正であると確認する必要がある。これを確認するには、例えば、積載物12を車両1に積載した後に作業者が実際に重心位置を測定して適正であることを確認することが考えられる。積載物12の諸元が明確な場合は測定しなくても重心位置が決定できる場合もある。
【0050】
あるいは、積載物12を車両1に積載した後にカメラによって積載状態を確認することで積載物12の重心位置が適正であると確認してもよい。積載物12の諸元が明確な場合はこのようなカメラでの確認だけで重心位置が適正であることを確認することができる。あるいは、積載物12を車両1に積載した後に各車輪に作用する重量を軸重計などで計測することで重心位置が適正であることを確認することもできる。
【0051】
上述したように、本実施形態において重心位置を判定するための各種装置(センサ類)は、車両が通常備えている装備である。なお、本実施形態では自動運転システム及び運行管理システム9を備えているが、これらは重心位置判定に必須ではない。車両1がナビゲーションシステムを備えていれば、ナビゲーションシステムの自己位置検知機能を重心位置判定に利用できる。即ち、本実施形態によれば、車高センサの有無によらず、車両に積載された積載物(又は車両)の重心位置を判定することができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、旋回パラメータとして旋回曲率を用いた。しかし、旋回曲率は旋回半径の逆数であるので、旋回半径を旋回パラメータとして用いてもよい。言い換えれば、旋回曲率を検出することは旋回半径を検出することに等しい。即ち、本開示において、実旋回曲率を求めることと、実旋回半径を求めることは等しいと言える。同様に、操舵制御値と旋回半径との関係が記憶されている参照データ(判定マップ)は、操舵制御値と旋回曲率との関係を記憶している判定マップと等価であると言える。
【0053】
なお、旋回パラメータとして、移動距離と走行方向の変化を組としたパラメータなどを用いることもできる。つまり、走行の軌道が(近似的に)どのような円弧を描いたか判定できるパラメータを、旋回パラメータとして用いることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、自己位置検知部としてGPSアンテナ7及びジャイロセンサ8を利用したが、自己位置検知部はこれに限られない。例えば、自動運転機能の一部としてSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)システムが車両1に搭載されている場合は、このSLAMシステムを自己位置検知部として利用することも可能である。あるいは、事業所などの構内であれば、走行路にマーカー又は通信機を設置するなどして路車間通信を行うことも容易であり、このような設備を含めて自己位置検知部として採用することも考えられる。
【0055】
また、上記実施形態の車両1は、積載物12が積載されたトレーラ10とこのトレーラ10を牽引するトラクタ11で構成された。トラクタ11に対してトレーラ10は平面視で揺動し得るが、自己位置検知部が搭載される車両1はこのような揺動が生じ得ないトラックでもよい。トラックでも上述した旋回特性を用いた重心位置判定を行うことが可能である。なお、上述した実施形態では、積載物12が積載されたトレーラ10の重心位置に基づいて、積載物12の重心位置が求められた。しかし、積載物12を積載した車両全体(トラクタ11+トレーラ10+積載物12)の重心位置が求められてもよい。車両1がトレーラ10のような牽引される部分を有しないトラックなどの場合は、車両1の重心位置を求めても積載物の重心位置を求めても大差はない。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2 コントローラ(自己位置検知部)
20 旋回パラメータ生成部
21 記憶部
22 比較部
23 判定部
24 補正部
3 車速センサ
4 舵角センサ(操舵検知部)
7 GPSアンテナ(自己位置検知部)
8 ジャイロセンサ(自己位置検知部)
12 積載物
13 (パワーステアリングシステムの)アクチュエータ(旋回制御部)
図1
図2
図3
図4
図5