(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240509BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240509BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240509BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C23C14/08 K
B32B9/00 A
C23C14/24 A
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2023008255
(22)【出願日】2023-01-23
(62)【分割の表示】P 2018541442の分割
【原出願日】2018-07-26
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2017155060
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柏 充裕
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】伊関 清司
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-242760(JP,A)
【文献】特開2017-020056(JP,A)
【文献】特開2004-197171(JP,A)
【文献】特開2001-341225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
B32B 9/00
C23C 14/24
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも一方の面に厚さが5~100nmである無機薄膜層を積層したガスバリアフィルムを製造する方法であって、該無機薄膜層は真空蒸着法で成膜され、かつ蒸着材料としてAl、及びSiO2を用いて、酸素ガスを導入しながら成膜され、
該真空蒸着法において、使用する真空蒸着装置はハースを有すると共に、該ハース内に坩堝を有し、該坩堝の内外でAl、及びSiO2の蒸着材料が仕切られており、該蒸着材料を
電子銃加熱方式で別々に加熱
し、時分割によるAlとSiO2に対する加熱時間比をそれぞれa、bとしたとき、a<bかつ2a>bとすることで該無機薄膜層が形成されることを特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
該真空蒸着法において、該蒸着材料は電子銃加熱方式で加熱されることを特徴とする、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
該真空蒸着法において、該坩堝は主としてAl2O3から成る坩堝であることを特徴とする、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
該真空蒸着法において、配管により酸素ガスを導入することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
該配管により、該高分子基材と該蒸着材料との間に酸素ガスを供給することを特徴とする、請求項4に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、電子部品等の包装材料に用いられる透明ガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、医薬品、電子部品等に用いられる包装材料は、内容物の酸化、変質、腐食等を抑制するために、酸素や水蒸気等の気体(ガス)が包装材料を透過することを防止する必要があり、これらのガスを遮断するガスバリア性を有した包装材料が求められている。
【0003】
ガスバリア性の優れたフィルムとしては、プラスチックフィルム上にアルミニウム(以下Alとする)を積層したもの、塩化ビニリデンやエチレンビニールアルコール共重合体をコーティングしたものが知られている。また、無機薄膜を利用したものとして、酸化硅素、酸化アルミニウム薄膜等を積層したものが知られている。
【0004】
このような従来のガスバリア性フィルムは、次のような課題を有していた。アルミニウム積層品は、経済性、ガスバリア性の優れたものではあるが、不透明であるため包装時の内容物が見えず、また、マイクロ波を透過しないため電子レンジ中での使用ができない。また、アルミニウムを包装材料および包装体の構成の一部に含むとプラスチックフィルムの回収再利用(リサイクリング)ができないという問題点もある。塩化ビニリデンやエチレンビニールアルコール共重合体をコーティングしたものは、水蒸気、酸素等のガスバリア性が十分でなく、特にボイル処理やレトルト処理等の高温処理においてその低下が著しい。また、塩化ビニリデン系については、焼却時の塩素ガスの発生等があり、地球環境への影響も懸念されている。
【0005】
これらの問題点を克服するために、最近ではセラミック薄膜を透明な高分子材料から成る基材上に、真空蒸着法などの方法を用いて形成された、透明蒸着フィルムが上梓されている。
【0006】
該セラミック薄膜の材料としては、一酸化ケイ素などのケイ素酸化物や酸化アルミニウム(以下Al2O3とする)がしばしば用いられる。しかしながら、ガスバリア性の良好なケイ素酸化物はやや褐色を有しており、透明ガスバリアフィルムとしては不十分なものである。また、Al2O3は、原材料の蒸発温度が高く、蒸着工程における蒸発速度が遅くなる。そのため、ガスバリア性を発現させる程度の十分な膜厚を付着させるには、成膜時間が長くなり、生産効率が悪く高コスト化してしまう。
【0007】
かかる問題を解決する為に、特許文献1には、蒸着材料としてAlを用いて、蒸着機に酸素ガスを導入することでAlと反応させ、実質的にAl2O3の薄膜を基材フィルム上に設ける方法が提案されている。
しかしながら、かかる技術ではAl2O3の薄膜がもろく、包装用としての使用した際、屈曲などにより欠陥が生じてガスバリア性が低下するという問題点を有していた。
【0008】
かかる問題を解消すべく、特許文献2では、Al2O3とケイ素酸化物を混合し、複合酸化物の薄膜とすることで、耐屈曲性に優れたフィルムを作成する方法が開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-6442号公報
【文献】特開平7-242760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2では、蒸着材料であるAlと二酸化ケイ素(以下SiO2とする)をカーボン板で2つに仕切り、各材料を時分割で加熱して複合酸化物の薄膜を作成する方法が提案されている。しかしながら、本発明者らが検討を進めると、かかる方法では加熱効率が悪くなり、成膜速度が上がらないことが問題となった。
【0011】
本発明の目的は、透明性、ガスバリア性に優れたガスバリアフィルムを、高速で生産できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる従来技術の課題を背景に鋭意検討した結果、本発明に達した。すなわち、AlとSiO2を蒸着材料に用いた透明ガスバリアフィルムの製造方法において、酸素ガスを導入すると共に、Alを熱伝導率の低い坩堝に入れて各蒸着材料を仕切ることで熱の分散を低減でき、蒸着材料を効率的に加熱することが可能となる。その結果、加熱効率を上げ、成膜速度を向上させることができることを見出した。
【0013】
本発明者らは以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0014】
1.高分子基材の少なくとも一方の面に無機薄膜層を積層したガスバリアフィルムを製造する方法において、該無機薄膜層は真空蒸着法で形成され、かつ蒸着材料としてAl、SiO2を用いて、酸素ガスを導入しながら成膜されることを特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【0015】
2.該真空蒸着法において、電子銃加熱方式で加熱されることを特徴とする、1.に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【0016】
3.該該真空蒸着法において、使用する真空蒸着装置はハースを有すると共に、該ハース内に坩堝を有し、該坩堝の内外でAl、及びSiO2の蒸着材料が仕切られており、該蒸着材料を別々に加熱することで該無機薄膜層が形成されることを特徴とする、1.~2.のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【0017】
4.該該真空蒸着法において、該坩堝は主としてAl2O3から成る坩堝であることを特徴とする、3.に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【0018】
5.該真空蒸着法において、配管により酸素ガスを導入することを特徴とする、1.~4.のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【0019】
6.該配管により、該高分子基材と該蒸着材料との間に酸素ガスを供給することを特徴とする、5.に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【0020】
7.該真空蒸着法において、該蒸着材料は電子銃加熱方式で加熱され、時分割によるAlとSiO2に対する加熱時間比をそれぞれa、bとしたとき、a<bかつ2a>bとなることを特徴とする、1.~6.のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のAlとSiO2を蒸着材料に用いたガスバリアフィルムの製造方法において、酸素ガスを導入すると共に、Alを坩堝に入れて各蒸着材料を仕切ることで熱の分散を低減でき、蒸着材料を効率的に加熱することが可能となり、成膜速度を向上させることができる。すなわち、本発明は、AlとSiO2を蒸着材料としてガスバリアフィルムを高速に生産するための製造方法を提供することができる。また、本発明で形成されたガスバリアフィルムは、食品、医薬品、電子部品等の包装材料として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例1、2で用いられる真空蒸着装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳述する。
【0024】
本発明における高分子基材とは、有機高分子を溶融押出しし、必要に応じ、長手方向、及び/または、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルム状の基材であり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンレテフタレート、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。これらのうち、熱収縮率、吸湿膨張性の低さの点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、これらの有機高分子は他の有機重合体を少量共重合したり、ブレンドしたりしてもよい。
【0025】
さらに、この有機高分子には、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑材、滑材、着色剤などが添加されてもよく、その透明度は特に限定するものではないが、透明ガスバリア性フィルムとして使用する場合には、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上の全光線透過率を持つ物が好ましい。
【0026】
本発明の高分子基材は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、薄膜層を積層するに先行して、該フィルムをコロナ放電処理、グロー放電処理、その他の表面粗面化処理を施してもよく、また、アンカーコート処理、印刷、装飾が施されてもよい。
【0027】
本発明の高分子基材は、その厚さとして5~200μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは8~50μm、特に好ましくは10~30μmの範囲である。
【0028】
また本発明における基材層は、2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムとする場合の積層体の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
【0029】
本発明における無機薄膜層は、蒸着材料としてAlとSiO2とを用いるため、主としてAl、Si、Oの元素を含んでおり、これらの比率は作成条件により異なる。また、この成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して3%まで)の他成分を含んでもよい。該無機薄膜層の厚さとしては、ガスバリア性及び可尭性の点からは、5~100nmが好ましく、更に好ましくは7~40nmである。
【0030】
該無機薄膜層の作製には、真空蒸着法が用いられる。本発明においては、蒸発材料源としてAl、SiO2を用いているが、その他に一酸化ケイ素(SiO)や酸化アルミニウム(Al2O3)などが混合されていてもよい。Alは、酸化によりAlO、Al2O3などの酸化物にもなる。SiO2は、還元によりSiO、Siなどのケイ素またはケイ素酸化物となる。
また、各粒子の大きさは、蒸着時の圧力が変化しないように適当な大きさにする必要がある。粒径の好ましい範囲は、直径3mm以上20mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは3mm以上10mm以下である。粒子径が大きすぎると、熱を加えられてから蒸発までに時間がかかるために、圧力の変動が大きくなり、小さすぎると突沸を起こして粒子がフィルムに付着し、外観品位の低下や、膜に欠陥が発生する原因となる。
【0031】
各蒸着材料は坩堝により、ハース内で仕切られる。Alは熱伝導度が高く、Al粒子間での熱の伝導が蒸発温度に達するよりも速いため、Al粒子全てが液体化した後に蒸発温度まで上昇する。そのため、材料間を仕切り板で分割するたけでは隙間などから液体のAlが流出する恐れがある。坩堝で材料を仕切ることにより、熱の分散を低減して加熱効率を上げることに加えて、液体のAlの流出を抑制することができる。坩堝の種類は特に限定されないが、例えば、耐熱性と断熱性の観点から、主としてAl2O3から成る坩堝が好ましく、更には、主としてAl2O3から成る空孔を有した坩堝が好ましい。
【0032】
蒸着時の成膜速度は、生産コストの観点から、100m/min以上であることが好ましい。また、材料の蒸発速度は成膜速度により変化させる必要があるため特に限定されないが、後述の実施例に記載の算出方法で算出した蒸発速度が15~200μm/min/Aの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは15~100μm/min/Aの範囲であり、特に好ましくは、20~80μm/min/Aの範囲である。蒸発速度が遅すぎると成膜速度を上げることができず、速すぎると圧力の制御が困難になる。
【0033】
Al:Si原子の重量比は10:90~50:50の範囲内で構成されることが好ましく、さらに好ましくは20:80~40:60の範囲内である。Al比率が低すぎる場合はガスバリア性が発現せず、Al比率が高すぎる場合は着色しやすく、透明ガスバリアフィルムとしての用途が制限される。
【0034】
加熱方式としては、電子銃加熱方式は、走査、電流値を変化させることでの加熱量変化のレスポンスが速いなどの利点があるため好ましいが、該方法に限定されず、抵抗加熱、高周波誘導加熱、レーザー加熱などを用いることができる。また、成膜機内に反応性ガスを導入することができる。この場合、導入する反応性ガスはプラズマ化されていることが好ましい。反応性ガスとしては、酸素ガスを使用し、それ以外に、窒素、水素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いてもよい。
【0035】
電子銃加熱方式で蒸着材料を加熱する際、時分割によるAlとSiO2に対する加熱時間比をそれぞれa、bとしたとき、a<bかつ2a>bとなることが好ましい。より好ましくは、a<bかつ1.5a≧bの範囲内である。a>bの条件で蒸着すると着色しやすいが、2a<bではSiO2の蒸発量が過多となり、その蒸着粒子によってAlと酸素ガスとの反応が阻害されると考えられる。
【0036】
図1は、本発明における真空蒸着装置を図示したものである。真空チャンバー1内に巻出し部3と巻取り部4が、冷却ドラム2およびガイドロール5を介して配置している。ガイドロールは2つ図示しているが、これに制限されるものではない。
反応性ガスは、配管11を用いて真空チャンバー1内に導入される。配管の形状やガスの導入位置に関しては特に限定されないが、反応性ガス導入方向12に示された方向のように、蒸着材料が配置される坩堝9と基材が走行する冷却ドラム2との間に、ガスが供給されるように配置されることが反応性の観点から好ましい。また、配管11は蒸着材料が付着しない様に防着板13で覆われていることが好ましい。
【0037】
酸素ガスの導入量は、蒸着材料の蒸発量により変化するため特に制限されないが、成膜時の真空チャンバー1内の圧力が5.0×10-1Pa以下となるように調整されることが好ましく、更に好ましくは、1.0×10-1Pa以下である。
【0038】
電子銃のエミッション電流は、0.3A以上1.5A以下であることが好ましく、更に好ましくは、0.3A以上1.0A以下、より好ましくは0.3A以上0.8A以下である。エミッション電流が0.3Aよりも小さいと十分な蒸発速度が得られず、生産性が低くなる。また、エミッション電流が大きくなりすぎると、ケイ素酸化物の分解が大きくなり、圧力の制御が難しくなる。
【0039】
本発明において、該薄膜の作成をプラスチックフィルムの片面のみに行っても良いが、両面に行うこともできる。また、基板にバイアス等を加えたり、本発明の目的を損なわない限りに於いて、作成条件を変更してもよい。
【0040】
本発明の製造方法で製造されたガスバリアフィルムは、そのままで使用されてもよいが、他の有機高分子のフィルム、または、薄層をラミネートまたは、コーティングして使用してもよい。
【0041】
例えば、本発明の製造方法で製造されたガスバリアフィルムを用いて、包装に使用する場合は、包装する内容物に要求特性に応じ各種フィルムや、紙を用いてラミネートしてよく、代表的なラミ構成としては、ガスバリア性フィルム(PET上)/PE、ガスバリア性フィルム(PET上)/CPP、NY/ガスバリア性フィルム(PET上)/PE、ガスバリア性フィルム(NY上)/PEなどが考えられる。ラミネート方法としては、特に制限はないが、ドライラミネート、押し出しラミネート法等が好ましい。更に、装飾または、内容物説明の為に印刷を施したり、意匠用フィルムあるいは補強材等と貼り合わせたりしてもよい。
【0042】
本発明の積層体のガスバリア性は温度23℃、相対湿度65%RHの雰囲気下での酸素透過量が、1.0ml/m2/24H/MPa以上100ml/m2/24H/MPa以下が好ましい。ガスバリア性が100ml/m2/24H/MPaを超えると、食品、医薬品および工業製品などへの使用が困難になる恐れがあり、あまり好ましくない。また、ガスバリア性は低ければ低いほど良いが、現状の技術水準では本構成におけるバリア性は1.0ml/m2/24H/MPaが下限であり、1.0ml/m2/24H/MPaであっても実用上十分といえる。より好ましい範囲としては、1.0ml/m2/24H/MPa以上70ml/m2/24H/MPa以下であり、特に好ましくは1.0ml/m2/24H/MPa以上30ml/m2/24H/MPa以下の範囲である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
以下に、実施例で行った測定および操作方法を示す。
1) 膜厚、およびAl、Si比の算出
蛍光X線分析装置(理学電気製システム3270)を用いて測定した。X線の発生はロジウム管球を用い、50kV、50mAで行い、Al2O3/SiO2の複合膜において組成比の異なるサンプルより作成した検量線を用いて定量化した。
2)蒸発速度の算出
蒸発速度(以下ESとする)は以下の式を用いて測定した。
蒸発速度ES=T/(0.15/(LS/60))×60/1000/A
ここで、Tは膜厚(nm)、LSは成膜速度(m/min)、AはEBの電流値(A)を表す。
3) 酸素透過率
作成したガスバリアフィルムの酸素透過率を酸素透過率測定装置(モダンコントロールズ社製OX-TRAN100)を用いて23℃、65%R.H.の条件で測定した。
4)光線透過率
ヘイズメーター(日本電色製ヘイズメーター NDH5000)を用いて全光線透過率を測定した。
【0045】
(実施例1)
蒸着源として、7mm~9mm程度の粒子状のAl(純度99.9%)と4mm~7mm程度のSiO
2(純度99.9%)を用いて、
図1に示した真空蒸着装置で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡(株):E5100)上に複合酸化薄膜の形成を行った。上記2種の蒸着材料は混合せずに、ハース内のAl
2O
3から成る空孔を有した坩堝にAlを投入して、周囲にSiO
2を投入することで材料を区切った。加熱源として一台の電子銃を用い、AlとSiO
2の各々を時分割で加熱した。電子ビームの出力は、0.7Aとし、AlとSiO
2への加熱比(時間比)を40:60とし、フィルムの送り速度は150m/minで26.7nm厚の複合膜を作った。酸素ガスの流量は50sccmとし、蒸着時の圧力が6.0×10
-2Paとした。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度を-10℃に調整して、本発明のガスバリアフィルムを得た。これらの成膜条件を表1に示す。
このようにして得られたガスバリアフィルムの膜厚およびAl、Si比率を蛍光X線分析装置で測定し、ガスバリア性として酸素透過率を測定し、光学特性として光線透過率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0046】
(実施例2)
蒸着源として、7mm~9mm程度の粒子状のAl(純度99.9%)と4mm~7mm程度のSiO
2(純度99.9%)を用いて、
図1に示した真空蒸着装置で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡(株):E5100)上に複合酸化薄膜の形成を行った。上記2種の蒸着材料は混合せずに、ハース内のMgO製の坩堝にAlを投入して、周囲にSiO
2を投入することで材料を区切った。加熱源として一台の電子銃を用い、AlとSiO
2の各々を時分割で加熱した。電子ビームの出力は、0.6Aとし、AlとSiO
2への加熱比(時間比)を49:51とし、フィルムの送り速度は120m/minで13.6nm厚の複合膜を作った。酸素ガスの流量は150sccmとし、蒸着時の圧力が1.0×10
-1Paとした。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度を-10℃に調整して、本発明のガスバリアフィルムを得た。これらの成膜条件を表1に示す。
このようにして得られたガスバリアフィルムの膜厚およびAl、Si比率を蛍光X線分析装置で測定し、ガスバリア性として酸素透過率を測定し、光学特性として光線透過率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0047】
(比較例1)
蒸着源として、7mm~9mm程度の粒子状のAl(純度99.9%)と4mm~7mm程度のSiO
2(純度99.9%)を用いて、
図1に示した真空蒸着装置で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡(株):E5100)上に複合酸化薄膜の形成を行った。上記2種の蒸着材料は混合せずに、ハース内をカーボン板で2つに仕切り、材料を区切った。加熱源として一台の電子銃を用い、AlとSiO
2の各々を時分割で加熱した。電子ビームの出力は、2.0Aとし、AlとSiO
2への加熱比(時間比)を11:89とし、フィルムの送り速度は50m/minで79nm厚の膜を作った。酸素ガスの流量は100sccmとし、蒸着時の圧力が1.1×10
-1Paとした。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度を-10℃に調整して、本発明のガスバリアフィルムを得た。これらの成膜条件を表1に示す。得られたガスバリアフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0048】
(比較例2)
蒸着源として、7mm~9mm程度の粒子状のAl(純度99.9%)と4mm~7mm程度のSiO
2(純度99.9%)を用いて、
図1に示した真空蒸着装置で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡(株):E5100)上に複合酸化薄膜の形成を行った。上記2種の蒸着材料は混合せずに、ハース内をカーボン板で2つに仕切り、材料を区切った。加熱源として一台の電子銃を用い、AlとSiO
2の各々を時分割で加熱した。電子ビームの出力は、2.0Aとし、AlとSiO
2への加熱比(時間比)を9:91とし、フィルムの送り速度は50m/minで85nm厚の膜を作った。酸素ガスの流量は300sccmとし、蒸着時の圧力が1.3×10
-1Paとした。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度を-10℃に調整して、本発明のガスバリアフィルムを得た。これらの成膜条件を表1に示す。得られたガスバリアフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0049】
(比較例3)
蒸着源として、7mm~9mm程度の粒子状のAl(純度99.9%)と4mm~7mm程度のSiO
2(純度99.9%)を用いて、
図1に示した真空蒸着装置で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡(株):E5100)上に複合酸化薄膜の形成を行った。上記2種の蒸着材料は混合せずに、ハース内をカーボン板で2つに仕切り、材料を区切った。加熱源として一台の電子銃を用い、AlとSiO
2の各々を時分割で加熱した。電子ビームの出力は、2.0Aとし、AlとSiO
2への加熱比(時間比)を11:89とし、フィルムの送り速度は50m/minで78nm厚の膜を作った。酸素ガスの流量は60sccmとし、蒸着時の圧力が6.0×10
-2Paとした。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度を-10℃に調整して、本発明のガスバリアフィルムを得た。これらの成膜条件を表1に示す。得られたガスバリアフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表2より、実施例1~2で得られたガスバリアフィルムは、蒸発速度が38.1、18.1μm/min/Aであり、速い蒸発速度で成膜された。また、酸素透過率、全光線透過率についても、30ml/m2/24H/MPa以下、80%以上と、透明ガスバリア性フィルムとして十分な性能であった。一方、比較例1~3では、2種の蒸着材料がカーボン板で仕切られているために加熱効率が悪く、蒸発速度が13.0~14.2μm/min/Aと、遅くなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、ガスバリア性、および透明性に優れるガスバリアフィルムを高速で製造することが可能であり、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられる包装用フィルム製造方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・真空チャンバー
2・・・冷却ドラム
3・・・巻出し部
4・・・巻取り部
5・・・ガイドロール
6・・・基材フィルム
7・・・無機薄膜層積層体
8・・・電子銃
9・・・ハース
10・・・真空ポンプ
11・・・反応性ガス導入配管
12・・・反応性ガス導入方向
13・・・防着板