(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】微生物培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/14 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
C12M1/14
(21)【出願番号】P 2023017615
(22)【出願日】2023-02-08
(62)【分割の表示】P 2021508914の分割
【原出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019057726
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】高田 雅親
(72)【発明者】
【氏名】砂原 博文
(72)【発明者】
【氏名】青井 議輝
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0274739(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02955220(EP,A1)
【文献】特開2016-059346(JP,A)
【文献】特開2018-189474(JP,A)
【文献】特開2013-255483(JP,A)
【文献】特開2017-012109(JP,A)
【文献】特開2015-027266(JP,A)
【文献】特開2019-000045(JP,A)
【文献】特開昭52-125688(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2008-0097883(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291322(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0194588(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、第1凹部と、前記第1凹部の
底面に設けられ、前記第1凹部よりも深い、第2凹部と、を有する、ケースと、
前記第2凹部を塞ぎ、且つ前記第2凹部の深さ方向から見て前記第2凹部と重なる位置に設けられた複数の貫通孔を有する多孔板と、
前記ケースに設けられ、前記第2凹部よりも上流側の前記第1凹部内へ流体を流入させるための流入路と、
前記ケースに設けられ、前記第2凹部よりも下流側の前記第1凹部内から流体を流出させるための流出路と、
前記第2凹部より上流側の前記第1凹部に設けられた、上流側の整流リブと、
前記第2凹部より下流側の前記第1凹部に設けられた、下流側の整流リブと、
を備えており、
前記第2凹部に、環境成分含有材料又は栄養素含有材料が収容されており、
前記多孔板の
前記複数の貫通孔に、微生物含有培地が充填されており、
栄養素含有液体又は環境成分含有液体が前記流入路から流入されて前記流出路から流出されるようになっている、
ことを特徴とする、微生物培養装置。
【請求項2】
前記上流側の整流リブと前記下流側の整流リブとは、構成が異なっている、
請求項1記載の微生物培養装置。
【請求項3】
前記上流側の整流リブは、前記流入路から流入してきた流体を幅方向に均等に分流させるように設けられた前段リブと、幅方向に分流された流体を長さ方向に沿うように整流する後段リブと、を含んでおり、
前記長さ方向は、前記流入路から前記流出路へ至る方向であり、
前記幅方向は、前記長さ方向に対して直交する方向である、
請求項1又は2に記載の微生物培養装置。
【請求項4】
前記多孔板は、前記第2凹部に対して取り外し可能である、
請求項1又は2に記載の微生物培養装置。
【請求項5】
前記多孔板は、前記第2凹部を塞いだ状態で、前記第1凹部の前記底面と同一面となっている、
請求項1又は2に記載の微生物培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養する装置及び方法に関し、特に、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる微生物培養装置及び微生物培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的微生物の採取は、微生物の純粋培養によって行われている。この純粋培養は、従来一般には、寒天平板表面塗抹法によって行われていた。この方法では、シャーレに作製した固形培地に環境中から採取した微生物群を塗抹して培養している。しかしながら、その方法では、生育しない微生物が多く、現在、培養できる微生物は環境中の微生物の約1%であると言われている。その原因は、次のように考えられている。
(a)培養環境が閉鎖的であるために、微生物からの過剰な生成物質を系外へ排出できない。その結果、微生物の代謝産物や環境成分が、蓄積して、微生物の増殖を阻害する。
(b)固形培地において、目的微生物の成育に要求される栄養素濃度を維持するのが困難である。
【0003】
そこで、例えば特許文献1、2に示されるような培養技術が提案されている。特許文献1では、液体培地を連続的に供給しながら培養を行っている。特許文献2では、微生物を含有した固形培地を自然環境中に置いて培養を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-86654号公報
【文献】米国特許第7011957号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、培地成分のみを制御しているだけであるので、多様な培養条件を実現することができない。また、特許文献2の方法では、自然環境中の環境成分を供給しているので、安定した培養条件を実現することができない。
【0006】
本発明は、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる微生物培養装置及び微生物培養方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の微生物培養装置は、
表面に、第1凹部と、前記第1凹部の内部に設けられ、前記第1凹部よりも深い、第2凹部と、を有する、ケースと、
前記第2凹部よりも上流側の前記第1凹部内へ流体を流入させるための流入路と、
前記第2凹部よりも下流側の前記第1凹部内から流体を流出させるための流出路と、
を備えており、
前記第2凹部が多孔板で塞がれており、
前記第2凹部より上流側の前記第1凹部に設けられた、上流側の整流リブと、
前記第2凹部より下流側の前記第1凹部に設けられた、下流側の整流リブと、
を更に備えており、
前記第2凹部に、環境成分含有材料又は栄養素含有材料が収容されており、
前記多孔板の貫通孔に、微生物含有培地が充填されており、
栄養素含有液体又は環境成分含有液体が前記流入路から流入されて前記流出路から流出されるようになっている、
ことを特徴としている。
【0008】
なお、本発明は、以下のような態様も含んでいる。
【0009】
本発明の第1態様の微生物培養装置は、
微生物を培養する層状の培養部と、
前記培養部の第1表面と前記第1表面の反対側の第2表面とに配置された、前記培養部に栄養素を供給する層状の栄養素供給部及び前記培養部に環境成分を供給する層状の環境成分供給部の、少なくとも一方と、
を有する三層積層構造体を、含むことを特徴としている。
【0010】
本発明の第2態様の微生物培養方法は、栄養素供給部2が、栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させるようになっており、又は、環境成分供給部3が、環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させるようになっている、微生物培養装置を、用いるものであり、
栄養素供給部に流通させる栄養素含有気体又は栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、栄養素変更工程、及び、環境成分供給部に流通させる環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、環境成分変更工程の、少なくとも一方を、含んでいる。
【0011】
本発明の第3態様の微生物培養方法は、栄養素供給部が、別の栄養素供給部と交換可能に、又は、環境成分供給部と交換可能に、設けられており、又は、環境成分供給部が、別の環境成分供給部と交換可能に、又は、栄養素供給部と交換可能に、設けられている、微生物培養装置を、用いるものであり、
栄養素供給部を、別の栄養素供給部と交換し又は環境成分供給部と交換する、栄養素交換工程、及び、環境成分供給部を、別の環境成分供給部と交換し又は栄養素供給部と交換する、環境成分交換工程の、少なくとも一方を、含んでいる。
【0012】
本発明の第4態様の微生物培養方法は、栄養素供給部2が、栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させるようになっており、又は、環境成分供給部3が、環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させるようになっており、更に、培養部1が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えている、微生物培養装置を、用いるものであり、
培養部の培養状態をセンサーによって検知してモニターするモニター工程を、含んでおり、モニター結果に基づいて、栄養素供給部に流通させる栄養素含有気体又は栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、栄養素変更工程、及び、環境成分供給部に流通させる環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、環境成分変更工程の、少なくとも一方を、更に含んでいる。
【0013】
本発明の第5態様の微生物培養方法は、栄養素供給部2が、別の栄養素供給部と交換可能に、又は、環境成分供給部と交換可能に、設けられており、又は、環境成分供給部3が、別の環境成分供給部と交換可能に、又は、栄養素供給部と交換可能に、設けられており、更に、培養部1が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えている、微生物培養装置を、用いるものであり、
培養部の培養状態をセンサーによって検知してモニターするモニター工程を、含んでおり、モニター結果に基づいて、栄養素供給部を、別の栄養素供給部と交換し又は環境成分供給部と交換する、栄養素交換工程、及び、環境成分供給部を、別の環境成分供給部と交換し又は栄養素供給部と交換する、環境成分交換工程の、少なくとも一方を、更に含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の微生物培養装置によれば、多孔板の貫通孔内で微生物を培養でき、しかも、微生物の培養を簡単に実行でき、更に、非常にコンパクトな微生物培養装置を実現できる。
【0015】
本発明の第1態様の微生物培養装置によれば、培養部に、栄養素供給部から栄養素を供給でき、及び/又は、環境成分供給部から環境成分を供給できるので、培養部において微生物を培養できる。しかも、三層積層構造体によって装置を構成できるので、装置構成を簡素化できる。したがって、培養作業を簡単に実行できるので、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0016】
本発明の第2及び第3態様の微生物培養方法によれば、培養部に対する培養条件を容易に変更できるので、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0017】
本発明の第4及び第5態様の微生物培養方法によれば、培養の途中であっても、モニター結果に基づいて、培養部に対する培養条件を容易に変更できるので、最適な培養条件を容易に実現でき、多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の微生物培養装置が含む三層積層構造体の基本形態の第1例を示す断面略図である。
【
図2】本発明の微生物培養装置が含む三層積層構造体の基本形態の第2例を示す断面略図である。
【
図3】本発明の微生物培養装置が含む三層積層構造体の基本形態の第3例を示す断面略図である。
【
図4】三層積層構造体の変形例を示す断面略図である。
【
図5】三層積層構造体の別の変形例を示す断面略図である。
【
図6】本発明の微生物培養装置の基本形態の第1例を示す断面略図である。
【
図7】本発明の微生物培養装置の基本形態の第2例を示す断面略図である。
【
図8】本発明の微生物培養装置の基本形態の第3例を示す断面略図である。
【
図9】本発明の第1実施形態の微生物培養装置を示す斜視図である。
【0019】
【
図12】
図9の微生物培養装置の分解斜視図である。
【
図14】本発明の第2実施形態の微生物培養装置を示す斜視図である。
【0020】
【
図23】栄養素供給部であるジャケットの斜視図である。
【0021】
【
図33】培養部であるジャケットの変形例の斜視図である。
【
図37】本発明の第3実施形態の微生物培養装置を示す断面略図である。
【
図38】
図37の装置を製作するのに使用する装置を示す斜視図である。
【
図39】本発明の第4実施形態の微生物培養装置を製作するのに使用する装置を示す斜視図である。
【
図41】第2実施例で用いた微生物培養装置を示す断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の微生物培養装置及び微生物培養方法の基本形態を説明する。
【0023】
[基本形態]
<微生物培養装置>
本発明の微生物培養装置は、三層積層構造体を含むことを特徴としている。
【0024】
(三層積層構造体)
図1~
図3に示されるように、三層積層構造体は、次の3種類の構成を含んでいる。
【0025】
(1)
図1に示された三層積層構造体10は、層状の培養部1と、培養部1の第1表面11に配置された層状の栄養素供給部2と、培養部1の第2表面12に配置された層状の環境成分供給部3と、を有している。
【0026】
(2)
図2に示された三層積層構造体10は、層状の培養部1と、培養部1の第1表面11及び第2表面12に配置された層状の栄養素供給部2と、を有している。この構成では、第1表面11に配置された栄養素供給部2と、第2表面12に配置された栄養素供給部2とは、供給する栄養素の種類及び濃度の少なくとも一方が異なっていることが、好ましい。
【0027】
(3)
図3に示された三層積層構造体10は、層状の培養部1と、培養部1の第1表面11及び第2表面12に配置された層状の環境成分供給部3と、を有している。この構成では、第1表面に配置された環境成分供給部3と、第2表面に配置された環境成分供給部3とは、供給する環境成分の種類及び濃度の少なくとも一方が異なっていることが、好ましい。
【0028】
なお、三層積層構造体10は、各層の間にメンブレンフィルターを備えていることが、好ましい。
【0029】
また、三層積層構造体10は、例えば、
図4に示されるように、培養部1が2層以上積層されている構成も、含んでいる。2層以上積層された培養部1を一体の培養部とみなすことができるからである。
【0030】
更に、三層積層構造体10は、
図5に示されるように、横方向に積層された構成も含んでいる。
【0031】
(培養部)
培養部は、微生物を培養するようになっており、微生物が播種された培地すなわち微生物含有培地を有している。培地としては、例えば、寒天などを使用できる。
【0032】
培養部は、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えていることが、好ましい。そのセンサーは、温度センサー、pHセンサー、及びガス濃度センサーから、選択される。更に、培養部には、培養部に外部から物理的刺激を付与する1種以上の刺激付与部が、付設されていることが、好ましい。その刺激付与部は、光照射部、加熱部、電磁波照射部、及び超音波振動部から、選択される。例えば、
図1に示されるように、培養部1に対して、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器(超音波振動部)43が、設けられている。
【0033】
三層積層構造体において、培養部は、別の培養部と交換可能に設けられている。別の培養部とは、微生物の種類、及び、培地の種類又は濃度の、少なくとも一方が、元の培養部とは異なっている培養部である。
【0034】
(栄養素供給部)
栄養素供給部は、培養部に栄養素を供給するようになっている。栄養素とは、微生物の生育に必要な栄養などの基質(生育因子)である。栄養素は、固体又は液体又は気体の状態で、すなわち、栄養素含有材料又は栄養素含有液体又は栄養素含有気体として、供給される。
【0035】
栄養素供給部は、栄養素含有液体又は栄養素含有気体を供給する場合には、それを流通させるための流入路及び流出路を有していることが、好ましい。この場合においては、流入路及び流出路が開閉可能に設けられていることが、好ましい。その開閉手段としては、流入路及び流出路を閉じるための栓を着脱自在に有する機構を、採用できる。この場合には、流入路及び流出路を閉じることにより、栄養素含有材料を使用できる。
【0036】
三層積層構造体において、栄養素供給部は、別の栄養素供給部と交換可能に、又は、環境成分供給部と交換可能に、設けられている。別の栄養素供給部とは、栄養素の種類及び濃度の少なくとも一方が元の栄養素供給部とは異なっている栄養素供給部である。
【0037】
(環境成分供給部)
環境成分供給部は、培養部に環境成分を供給するようになっている。環境成分とは、微生物を自然環境に近い状態で生育させるための環境因子である。環境成分は、固体又は液体又は気体の状態で、すなわち、環境成分含有材料又は環境成分含有液体又は環境成分含有気体として、供給される。環境成分含有材料としては、例えば土壌をそのまま使用できる。環境成分含有液体としては、例えば海水をそのまま使用できる。
【0038】
環境成分供給部は、環境成分含有液体又は環境成分含有気体を供給する場合には、それを流通させるための流入路及び流出路を有していることが、好ましい。この場合においては、流入路及び流出路が開閉可能に設けられていることが、好ましい。その開閉手段としては、流入路及び流出路を閉じるための栓を着脱自在に有する機構を、採用できる。この場合には、流入路及び流出路を閉じることにより、環境成分含有材料を使用できる。
【0039】
三層積層構造体において、環境成分供給部は、別の環境成分供給部と交換可能に、又は、栄養素供給部と交換可能に、設けられている。別の環境成分供給部とは、環境因子の種類及び濃度の少なくとも一方が元の環境成分供給部とは異なっている環境成分供給部である。
【0040】
(作用効果)
本発明の微生物培養装置によれば、次のような作用効果を発揮できる。
(a)培養部1に、栄養素供給部2から栄養素を供給でき、及び/又は、環境成分供給部3から環境成分を供給できるので、培養部1において微生物を培養できる。
【0041】
(b)三層積層構造体10によって装置を構成できるので、装置構成を簡素化できる。
【0042】
(c)培養部1が微生物含有培地を保持するとともに、栄養素供給部2が栄養素含有材料を保持し又は栄養素供給部2が栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させ、及び/又は、環境成分供給部3が環境成分含有材料を保持し又は環境成分供給部3が環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるだけで、培養部1において微生物を培養できるので、培養作業が容易である。
【0043】
(d)
図2の三層積層構造体10を含んでいる場合において、第1表面11側の栄養素供給部2と第2表面12側の栄養素供給部2との、供給する栄養素の種類及び濃度の少なくとも一方が、異なっている場合には、培養部1に対して両面から異なる栄養素条件を与えることができる。したがって、一度に2種類の培養条件を設定できる。
【0044】
(e)
図3の三層積層構造体10を含んでいる場合において、第1表面11側の環境成分供給部3と第2表面12側の環境成分供給部3との、供給する環境成分の種類及び濃度の少なくとも一方が、異なっている場合には、培養部1に対して両面から異なる環境成分条件を与えることができる。したがって、一度に2種類の培養条件を設定できる。
【0045】
(f)各層の間にメンブレンフィルターを備えることにより、各層の間における微生物のコンタミネーションを防止できる。
【0046】
(g)培養部1を別の培養部と交換することによって、既に設定されている培養条件に適した微生物含有培地の選定を容易に行うことができる。
【0047】
(h)栄養素供給部2が栄養素含有液体又は栄養素含有気体を流通させる場合には、供給する栄養素の種類及び濃度の少なくとも一方を途中で変更できる。したがって、培養部1に対する培養条件を培養作業中に容易に変更でき、多様な培養条件を実現できる。
【0048】
(i)環境成分供給部3が環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させる場合には、供給する環境成分の種類及び濃度の少なくとも一方を途中で変更できる。したがって、培養部1に対する培養条件を作業中に容易に変更でき、多様な培養条件を実現できる。
【0049】
(j)栄養素供給部2を別の栄養素供給部と交換することによって又は環境成分供給部と交換することによって、培養部1に対する培養条件を容易に変更でき、多様な培養条件を実現できる。
【0050】
(k)環境成分供給部3を別の環境成分供給部と交換することによって又は栄養素供給部と交換することによって、培養部1に対する培養条件を容易に変更でき、多様な培養条件を実現できる。
【0051】
(l)培養部1の培養状態をセンサーによって検知できる。したがって、培養条件の適否を容易に判断できる。
【0052】
(m)センサーによる検知結果をモニターすることによって、モニター結果に基づいて、上記(h)~(k)で述べたように、培養部1に対する培養条件を容易に変更できる。したがって、培養作業の途中であっても、最適な培養条件を容易に実現でき、多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0053】
(n)刺激付与部によって培養部1に外部から物理的刺激を付与できるので、微生物の培養を活性化できる。
【0054】
(装置類型)
微生物培養装置としては、例えば、以下に示される4種類の型を採用できるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
[1]三層一体型装置
三層一体型装置は、例えば断面略図である
図6に示されるように、三層積層構造体10が1個のケース51内に収容されている構成を、有している。これによれば、非常にコンパクトな装置を実現できる。なお、三層積層構造体10の平面視形状は、円形、三角形、四角形、又は、その他の多角形などを採用できる。
【0056】
栄養素供給部2は、開閉可能な流入路27及び流出路28を有していることが、好ましい。また、環境成分供給部3は、開閉可能な流入路37及び流出路38を有していることが、好ましい。
【0057】
培養部1は、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43を備えることが、好ましい。両センサー41、42は、培養部1における微生物の培養状態を検知するように、設けられている。両センサー41、42による検知結果は、外部機器(図示せず)においてモニターできるようになっていることが、好ましい。超音波発振器43は、培養部1に保持されている微生物含有培地に対して超音波振動を付与するように、設けられている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっていることが、好ましい。
【0058】
なお、
図6の三層積層構造体10は、
図1の構成を有しているが、
図2~
図5などの構成を有してもよい。
【0059】
[2]ジャケット型装置
ジャケット型装置では、断面略図である
図7に示されるように、三層積層構造体10を構成する、培養部1、栄養素供給部2、及び環境成分供給部3が、それぞれ、内部空間を囲む枠本体を備えた枠体によって、構成されている。なお、三層積層構造体10の平面視形状は、円形、三角形、四角形、又は、その他の多角形を採用できる。
【0060】
すなわち、培養部1は、第1内部空間13を囲む第1枠本体14を備えており、栄養素供給部2は、第2内部空間23を囲む第2枠本体24を備えており、環境成分供給部3は、第3内部空間33を囲む第3枠本体34を備えており、第1枠本体14は、第1内部空間13に微生物含有培地を保持可能となっており、第2枠本体24は、第2内部空間23に栄養素含有材料を保持可能となっており、又は、第2内部空間23に栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通可能となっており、第3枠本体34は、第3内部空間33に環境成分含有材料を保持可能となっており、又は、第3内部空間33に環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通可能となっており、第1枠本体14と第2枠本体24と第3枠本体34とは、相互に積層状態で連結可能となっている。更に、第1枠本体14と第2枠本体24と第3枠本体34とは、相互に着脱可能となっていることが、好ましい。更に、第2枠本体24は、第2内部空間23へ流体を流入させるための流入路27と、第2内部空間23から流体を流出させるための流出路28と、を有しており、第3枠本体34は、第3内部空間33へ流体を流入させるための流入路37と、第3内部空間33から流体を流出させるための流出路38と、を有していることが、好ましい。その場合、第2枠本体24及び第3枠本体34の、流入路27、37及び流出路28、38は、それぞれ、開閉可能に構成されており、第2枠本体24は、流入路27及び流出路28が共に閉じられた状態で、第2内部空間23に栄養素含有材料を保持可能となっており、第3枠本体34は、流入路37及び流出路38が共に閉じられた状態で、第3内部空間33に環境成分含有材料を保持可能となっていることが、好ましい。
【0061】
このように、ジャケット型装置では、培養部1は、第1枠本体14が第1内部空間13に微生物含有培地を保持した構成を有する1個のジャケットからなっており、栄養素供給部2は、第2枠本体24が第2内部空間23に栄養素含有材料を保持した構成を有する1個のジャケットからなっており、又は、第2内部空間23に栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させるようになっている構成を有する1個のジャケットからなっており、環境成分供給部3は、第3枠本体34が第3内部空間33に環境成分含有材料を保持した構成を有する1個のジャケットからなっており、又は、第3内部空間33に環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させるようになっている構成を有する1個のジャケットからなっている。すなわち、ジャケット型装置は、ジャケットを積層して構成されている。なお、ジャケット同士の間には、メンブレンフィルターを配置することが好ましい。
【0062】
更に、培養部1は、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43を備えることが、好ましい。両センサー41、42は、培養部1における微生物の培養状態を検知するように、設けられている。両センサー41、42による検知結果は、外部機器(図示せず)においてモニターできるようになっていることが、好ましい。超音波発振器43は、培養部1に保持されている微生物含有培地に対して超音波振動を付与するように、設けられている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっていることが、好ましい。
【0063】
なお、
図7の三層積層構造体10は、
図1の構成を有しているが、
図2~
図5などの構成を有してもよい。
【0064】
[3]印刷層型装置
印刷型装置では、断面略図である
図8に示されるように、三層積層構造体10を構成する、培養部1、栄養素供給部2、及び環境成分供給部3が、それぞれ、印刷によって構成されている。なお、三層積層構造体10の平面視形状は、円形、三角形、四角形、又は、その他の多角形を採用できる。
【0065】
すなわち、培養部1は、微生物含有培地が印刷されて構成された第1印刷層15を、備えており、栄養素供給部2は、栄養素含有材料が印刷されて構成された第2印刷層25を、備えており、環境成分供給部3は、環境成分含有材料が印刷されて構成された第3印刷層35を、備えている。なお、各層の間には、メンブレンフィルター40が配置されていることが、好ましい。
【0066】
印刷は、ディスペンサーを用いて実行できる。例えば、第2印刷層25を形成する場合には、栄養素含有材料を、ペースト状にした後、ディスペンサーによって塗布する。
【0067】
第1印刷層15は、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43を備えることが、好ましい。両センサー41、42は、第1印刷層15における微生物の培養状態を検知するように、設けられている。両センサー41、42による検知結果は、外部機器(図示せず)においてモニターできるようになっていることが、好ましい。超音波発振器43は、第1印刷層15である微生物含有培地に対して超音波振動を付与するように、設けられている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっていることが、好ましい。
【0068】
なお、
図8の三層積層構造体10は、
図1の構成を有しているが、
図2~
図5などの構成を有してもよい。
【0069】
[4]薄膜体型装置
薄膜体型装置は、印刷型装置に比して、印刷層に代えて薄膜体を備えている点が異なっており、その他は同じである。すなわち、第1薄膜体16、第2薄膜体26、及び第3薄膜体36を備えている。第1薄膜体26は、ドクターブレード法によって微生物含有培地が薄膜化されて構成されており、第2薄膜体26は、ドクターブレード法によって栄養素含有材料が薄膜化されて構成されており、第3薄膜体36は、ドクターブレード法によって環境成分含有材料が薄膜化されて構成されている。なお、各薄膜体の間には、メンブレンフィルター40が配置されていることが、好ましい。
【0070】
ドクターブレード法による薄膜化は、例えば、次のように実行できる。例えば第2薄膜体26を作製する場合には、栄養素含有材料を、スラリー状にした後、キャリアフィルム上に載せ、ブレードによって所定の厚さの薄膜にし、乾燥させる。
【0071】
<微生物培養方法>
本発明の微生物培養方法は、上述した微生物培養装置を用いた微生物の培養において、多様な培養条件を実現できる。
【0072】
(1)本発明の第1微生物培養方法は、栄養素供給部2に流通させる栄養素含有気体又は栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、栄養素変更工程、及び、環境成分供給部3に流通させる環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、環境成分変更工程の、少なくとも一方を、含んでいる。この方法は、栄養素供給部2が、栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させるようになっており、又は、環境成分供給部3が、環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させるようになっている、微生物培養装置を、用いて実行できる。
【0073】
この方法によれば、培養部1に対する培養条件を容易に変更できる。したがって、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0074】
(2)本発明の第2微生物培養方法は、栄養素供給部2を、別の栄養素供給部と交換し又は環境成分供給部と交換する、栄養素交換工程、及び、環境成分供給部3を、別の環境成分供給部と交換し又は栄養素供給部と交換する、環境成分交換工程の、少なくとも一方を、含んでいる。この方法は、栄養素供給部2が、別の栄養素供給部と交換可能に、又は、環境成分供給部と交換可能に、設けられており、又は、環境成分供給部3が、別の環境成分供給部と交換可能に、又は、栄養素供給部と交換可能に、設けられている、微生物培養装置を、用いて実行できる。
【0075】
この方法によれば、培養部1に対する培養条件を容易に変更できる。したがって、多様な培養条件を実現して多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0076】
(3)本発明の第3微生物培養方法は、培養部1の培養状態をセンサーによって検知してモニターするモニター工程を、含んでおり、モニター結果に基づいて、栄養素供給部2に流通させる栄養素含有気体又は栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、栄養素変更工程、及び、環境成分供給部3に流通させる環境成分含有気体又は環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更する、環境成分変更工程の、少なくとも一方を、更に含んでいる。この方法は、栄養素供給部2が、栄養素含有気体又は栄養素含有液体を流通させるようになっており、又は、環境成分供給部3が、環境成分含有気体又は環境成分含有液体を流通させるようになっており、更に、培養部1が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えている、微生物培養装置を、用いて実行できる。
【0077】
この方法によれば、培養の途中であっても、モニター結果に基づいて、培養部1に対する培養条件を容易に変更できる。したがって、最適な培養条件を容易に実現でき、多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0078】
(4)本発明の第4微生物培養方法は、培養部1の培養状態をセンサーによって検知してモニターするモニター工程を、含んでおり、モニター結果に基づいて、栄養素供給部2を、別の栄養素供給部と交換し又は環境成分供給部と交換する、栄養素交換工程、及び、環境成分供給部3を、別の環境成分供給部と交換し又は栄養素供給部と交換する、環境成分交換工程の、少なくとも一方を、更に含んでいる。この方法は、栄養素供給部2が、別の栄養素供給部と交換可能に、又は、環境成分供給部と交換可能に、設けられており、又は、環境成分供給部3が、別の環境成分供給部と交換可能に、又は、栄養素供給部と交換可能に、設けられており、更に、培養部1が、培養状態を検知するセンサーを1種以上備えている、微生物培養装置を、用いて実行できる。
【0079】
この方法によれば、培養の途中であっても、モニター結果に基づいて、培養部1に対する培養条件を容易に変更できる。したがって、最適な培養条件を容易に実現でき、多様な難培養微生物の獲得を可能にできる。
【0080】
次に、本発明の微生物培養装置及び微生物培養方法の具体的な実施形態について、説明する。
【0081】
[第1実施形態]
図9は、本発明の第1実施形態の微生物培養装置を示す斜視図である。この微生物培養装置100Aは、1個のケース51内に1個の三層積層構造体10を収容した構成を、有しており、すなわち「三層一体型装置」である。
【0082】
図10は、
図9のX-X断面図である。
図11は、
図9のXI-XI断面図である。
図12は、
図9の微生物培養装置100Aの分解斜視図である。微生物培養装置100Aは、
図12に示されるように、ケース51と、多孔板52及びその取付部材53と、カバー体54及びそのシール部材55と、を有している。
【0083】
ケース51は、薄い箱体であり、表面に、第1凹部56及び第2凹部57などがプレス成形されている。第1凹部56は、深さD1を有している。第1凹部56の外周縁561は、ケース51の表面の周縁511近傍にて周縁511に沿っている。第2凹部57は、深さD2を有している。第2凹部57は、第1凹部56の内部に、且つ、ケース51の長さ方向Xの中央部に、平面視四角形に形成されている。D2>D1であり、D2は、ケース51の厚さの略半分である。
【0084】
第2凹部57には、凹状の取付部材53が嵌め込まれている。第2凹部57は、取付部材53の周枠531に多孔板52をネジ521で固定することにより、多孔板52で塞がれている。多孔板52は、多数の貫通孔522を有している。多孔板52は、第2凹部57を塞いだ状態で、第1凹部56の底面と同一面となっている。
【0085】
第1凹部56は、第1凹部56内へ流体を流入させるための流入路564と、第1凹部56内から流体を流出させるための流出路565と、を有している。流入路564は、第1凹部56の上流側において、第1凹部56の幅方向Yの中央から上流に向けて延びてケース51の上流側面513を貫通しており、筒体566に連結している。流出路565は、第1凹部56の下流側において、第1凹部56の幅方向Yの中央から下流に向けて延びてケース51の下流側面514を貫通しており、筒体567に連結している。
【0086】
第1凹部56は、第2凹部57より上流側の底面568に、整流リブ58を有しており、第2凹部57より下流側の底面569に、整流リブ59を有している。整流リブ58は、流入路564から流入してきた流体を幅方向Yに均等に分流させるように設けられた前段リブ581と、幅方向Yに分流された流体を長さ方向Xに沿うように整流する後段リブ582と、を含んでいる。後段リブ582は、幅方向Yに沿って等間隔で多数個設けられている。整流リブ59は、後段リブ582と同様に設けられた多数のリブ591を、含んでいる。
【0087】
第1凹部56の周囲には、シール溝551が形成されている。カバー体54は、シール溝551に嵌め込まれたシール部材55を上方から押さえた状態で、ケース51の表面にネジ511で固定されている。カバー体54は、第1凹部56及び第2凹部57を密封している。
【0088】
そして、多孔板52で塞がれた第2凹部57には、環境成分含有材料が収容されている。また、多孔板52の多数の貫通孔522の一つ一つには、微生物が播種された培地すなわち微生物含有培地が充填されている。環境成分含有材料と微生物含有培地とは接触しているので、多孔板52の微生物は、環境成分の供給を受けるようになっている。また、栄養素含有液体が、流入路564から第1凹部56内へ流入され、多孔板52の表面を流れて流出路566から流出されるようになっている。すなわち、栄養素含有液体と微生物含有培地とは接触するので、多孔板52の微生物は、栄養素の供給を受けるようになっている。したがって、微生物培養装置100Aは、環境成分含有材料が第2凹部57に収容されて構成された、層状の環境成分供給部と、微生物含有培地が多孔板52の貫通孔522に充填されて構成された、層状の培養部と、栄養素含有液体が第1凹部56を流通することによって構成された、層状の栄養素供給部と、を有する三層積層構造体10を、ケース51内に備えている。なお、環境成分供給部と培養部との間、及び、栄養素供給部と培養部との間には、メンブレンフィルターが配置されている。
【0089】
多孔板52には、
図13に示されるように、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43が、設けられている。両センサー41、42は、一つ一つの貫通孔522における微生物の培養状態を検知するように、設けられている。両センサー41、42による検知結果は、外部機器(図示せず)においてモニターできるようになっている。超音波発振器43は、全ての貫通孔522内の微生物含有培地に対して超音波振動を付与するように、設けられている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっている。
【0090】
このような微生物培養装置100Aは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)多孔板52の貫通孔522内の微生物に、下側から環境成分を供給でき、上側から栄養素を供給できるので、貫通孔522内で微生物を培養できる。
【0091】
(b)第1凹部56に栄養素含有液体を流通させるだけで微生物を培養できるので、微生物の培養を簡単に実行できる。したがって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0092】
(c)微生物を培養できる1個の三層積層構造体10を、ケース51内に備えているだけであるので、非常にコンパクトな微生物培養装置を実現できる。
【0093】
(d)第1凹部56に流通させる栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる(栄養素変更工程)。したがって、多様な培養条件の実現を容易に行うことができ、微生物に適した培養条件の選定作業を容易に行うことができる。
【0094】
(e)温度センサー41及び/又はpHセンサー42によって、貫通孔522内の微生物の培養状態を検知してモニターできる(モニター工程)。したがって、培養状態を迅速且つ的確に判断できる。
【0095】
(f)モニター結果に基づいて、第1凹部56に流通させる栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる(栄養素変更工程)。したがって、微生物に適した培養条件を容易に実現できる。
【0096】
(g)超音波発振器43によって貫通孔522内の微生物に振動を付与することができ、それによって、微生物の培養を活性化させることができる。したがって、培養効率を向上できる。
【0097】
[第1実施形態の変形例]
第1実施形態の微生物培養装置100Aは、次のような変形例を任意に採用できる。
【0098】
(1)第1凹部56に栄養素含有気体を流通させるようになっている。
【0099】
(2)第1凹部56に、環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるようになっている。
【0100】
(3)第2凹部57に栄養素含有材料が収容されている。
【0101】
(4)第2凹部57に栄養素含有材料が収容されており、第1凹部56に、環境成分含有液体又は環境成分含有気体を流通させるようになっている。
【0102】
[第2実施形態]
図14は、本発明の第2実施形態の微生物培養装置を示す斜視図である。この微生物培養装置100Bは、「ジャケット型装置」である。
図15は、
図14のXV矢視図である。
図16は、
図15のXVI矢視図(平面図)である。
図17は、
図16のXVII-XVII断面図である。
図18は、
図17に示される断面の斜視図である。
【0103】
微生物培養装置100Bは、7個のジャケット61~67を積層して構成されている。ジャケット61は、基台60に積層されており、ジャケット67は蓋体68で塞がれている。断面略図である
図19に示されるように、本装置100Bでは、ジャケット61は環境成分供給部3であり、ジャケット62~64、66は培養部1であり、ジャケット65、67は栄養素供給部2である。本装置100Bは、2組の三層積層構造体10A、10Bを備えており、すなわち、ジャケット62~64を1個の培養部とみなすことによってジャケット61~65からなる三層積層構造体10Aと、ジャケット65~67からなる三層積層構造体10Bと、を備えている。
【0104】
培養部1であるジャケット62は、
図20~
図22に示されるように、第1内部空間13を囲む環状の第1枠本体14を備えている。
図20は、ジャケット62の斜視図である。
図21は、
図20のXXI矢視図である。
図22は、
図21のXXII-XXII断面図である。第1枠本体14は、下部に、内ネジ141を有する外嵌部142を有しており、上部に、外ネジ143を有する内嵌部144を有している。外嵌部142は、内嵌部144に外嵌可能な寸法を有している。内嵌部144は、外嵌部142に内嵌可能な寸法を有している。第1内部空間13は、外嵌部142で囲まれた内部空間131と、それ以外の内部空間132と、を有している。そして、第1枠本体14は、内部空間132内に微生物含有培地を保持している。なお、
図20~
図22では、微生物含有培地の図示を省略している。ジャケット63、64、66も、ジャケット62と同じ構成を有している。
【0105】
栄養素供給部2であるジャケット65は、第2内部空間を囲む環状の第2枠本体を備えている。なお、本装置100Bでは、ジャケット65は、ジャケット62と同じ構成を有している。但し、内部空間132内に栄養素含有材料が保持されている。
【0106】
栄養素供給部2であるジャケット67は、
図23~
図25に示されるように、第2内部空間23を囲む環状の第2枠本体24を備えている。
図23は、ジャケット67の斜視図である。
図24は、
図23のXXIV矢視図である。
図25は、
図24のXXV-XXV断面図である。第2枠本体24は、下部に、内ネジ241を有する外嵌部242を有しており、上部に、外ネジ243を有する内嵌部244を有している。外嵌部242は、内嵌部244に外嵌可能な寸法を有している。内嵌部244は、外嵌部242に内嵌可能な寸法を有している。第2内部空間23は、外嵌部242で囲まれた内部空間231と、それ以外の内部空間232と、を有している。更に、第2枠本体24は、内部空間232へ流体を流入させるための流入路27と、内部空間232から流体を流出させるための流出路28と、を有している。流体は、栄養素含有液体又は栄養素含有気体である。また、
図26に示される筒体691、692が、流入路27、28のそれぞれに、連結されており、外部に向けて径方向に突出している。
図27は、
図26のXXVII矢視図である。流入路27、28は、筒体691の代わりに栓(図示せず)を詰めることによって閉じることができるようになっている。これによって、流入路27、28は、開閉可能となっている。
【0107】
環境成分供給部3であるジャケット61は、第3内部空間を囲む環状の第3枠本体を備えている。なお、本装置100Bでは、ジャケット61は、ジャケット67と同じ構成を有している。但し、内部空間232には環境成分含有液体又は環境成分含有気体が流通されるようになっている。
【0108】
図28~
図30は、基台60を示している。
図28は、基台60の斜視図である。
図29は、
図28のXXIX矢視図である。
図30は、
図29のXXX-XXX断面図である。基台60は、環状の板体であり、上部に、外ネジ601を有する内嵌部602を有している。内嵌部602は、第1枠本体14の外嵌部142及び第2枠本体24の外嵌部242に、それぞれ内嵌可能な寸法を、有している。
【0109】
図31及び
図32は、蓋体68を示している。
図31は、蓋体68の平面図である。
図32は、
図31のXXXII-XXXII断面図である。蓋体68は、環状の板体であり、下部に、内ネジ681を有する外嵌部682を有している。外嵌部682は、第1枠本体14の内嵌部141及び第2枠本体24の内嵌部241に、それぞれ外嵌可能な寸法を、有している。
【0110】
そして、ジャケット61は、基台60に対して、外嵌部242を基台60の内嵌部602に螺合させることによって外嵌して連結されており、したがって、積層されている。また、ジャケット62~67も、同様に、外嵌部を、下に位置するジャケットの内嵌部に螺合させることによって、外嵌して連結されており、したがって、積層されている。そして、蓋体68が、ジャケット67に対して、外嵌部682をジャケット67の内嵌部244に螺合させることによって外嵌して連結されている。なお、上下のジャケットを仕切るように、その間には、メンブレンフィルター40が配置されている。また、各ジャケットの間は、Oリング401(
図17)によってシールされている。こうして、本装置100Bは、7層構造のジャケット61~67を備えている。
【0111】
更に、
図19に示されるように、培養部1であるジャケット62~64、66には、それぞれ、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43が、設けられている。温度センサー41及びpHセンサー42は、第1内部空間13に保持されている微生物含有培地の温度及びpHを検知するように配置されており、第1枠本体14を内から外に貫通して外部機器(図示せず)に接続されている。外部機器は、両センサー41、42を介して、微生物含有培地の温度及びpHをモニターできるようになっている。超音波発振器43は、第1内部空間13に保持されている微生物含有培地に振動を付与できるように、第1枠本体14の内部に配置されている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっている。
【0112】
このような微生物培養装置100Bは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)ジャケット61に環境成分含有液体を流通させることにより、ジャケット62~64内の微生物に、下側から環境成分を供給でき、上側から栄養素を供給できるので、ジャケット62~64内で微生物を培養できる。また、ジャケット67に栄養素含有液体を流通させることにより、ジャケット66内の微生物に、下側からも上側からも栄養素を供給できるので、ジャケット66内で微生物を培養できる。
【0113】
(b)2組の三層積層構造体10A、10Bを有しており、それぞれにおける培養条件が異なっているので、2通りの培養条件を実行できる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0114】
(c)ジャケット62~64では、培養部が三層構造であるので、各層における培養条件が異なっている。例えば、供給される環境成分の濃度は、ジャケット62が最も高くなり、ジャケット64が最も低くなる。また、供給される栄養素の濃度は、ジャケット64が最も高くなり、ジャケット62が最も低くなる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0115】
(d)ジャケット61に環境成分含有液体を流通させるとともにジャケット67に栄養素含有液体を流通させるだけで微生物を培養できるので、微生物の培養を簡単に実行できる。したがって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0116】
(e)ジャケットを相互に連結するだけで組み立てることができるので、装置の生産性を向上できる。
【0117】
(f)ジャケットは、連結を解除することによって容易に取り外すことができ、代わりの別のジャケットを新たに連結できる。すなわち、ジャケットは、容易に交換できる。したがって、培養条件を容易に変更でき、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。例えば、栄養素供給部であるジャケット65及び/又はジャケット67を、別の栄養素供給部であるジャケットと交換でき又は環境成分供給部であるジャケットと交換できる(栄養素交換工程)。また、環境成分供給部であるジャケット61を、別の環境成分供給部であるジャケットと交換でき又は栄養素供給部であるジャケットと交換できる(環境成分交換工程)。
【0118】
(g)ジャケットの数を増やすことによって三層積層構造体の数を増やすことができる。そして、三層積層構造体毎に、培養条件を異ならせることができる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0119】
(h)ジャケット65及び/又はジャケット67に流通させる栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる(栄養素変更工程)。また、ジャケット61に流通させる環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる(環境成分変更工程)。したがって、多様な培養条件の実現を容易に行うことができ、微生物に適した培養条件の選定作業を容易に行うことができる。
【0120】
(i)温度センサー41及び/又はpHセンサー42によって、ジャケット62~64、66内の微生物の培養状態を検知してモニターできる(モニター工程)。したがって、各ジャケットにおける培養状態を迅速且つ的確に判断できる。
【0121】
(j)モニター結果に基づいて、ジャケット65及び/又はジャケット67に流通させる栄養素含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更でき(栄養素変更工程)、また、ジャケット61に流通させる環境成分含有液体の、種類及び濃度の少なくとも一方を、変更できる(環境成分変更工程)。したがって、培養の途中であっても、微生物に適した培養条件を容易に実現できる。
【0122】
(k)超音波発振器43によってジャケット内の微生物に振動を付与することにより、培養を活性化させることができる。したがって、培養効率を向上できる。
【0123】
[第2実施形態の変形例]
第2実施形態の微生物培養装置100Bは、次のような変形例を任意に採用できる。
【0124】
(1)
図33~
図35に示されるジャケット62では、第1内部空間13が多数個の貫通孔522で構成されている。
図33は、ジャケット62の斜視図である。
図34は、
図33のXXXIV矢視図である。
図35は、
図34のXXXV-XXXV断面図である。培養部1であるジャケット62は、外嵌部142を有する板体からなり、その板体に、外ネジ143が形成されるとともに多数の貫通孔522が形成されている。このジャケット62では、全ての貫通孔522に、微生物含有培地が充填される。
【0125】
(2)
図36に示されるように、多数の貫通孔522を有するジャケット62に、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43が、設けられている。これらは、貫通孔522の一つ一つに設けられている。温度センサー41及びpHセンサー42は、貫通孔522に充填されている微生物含有培地の温度及びpHを検知するように、ジャケット62の内部に配置されており、外部機器(図示せず)に接続されている。外部機器は、両センサー41、42を介して、微生物含有培地の温度及びpHをモニターできるようになっている。超音波発振器43は、貫通孔522に充填されている微生物含有培地に振動を付与できるように、ジャケット62の内部に配置されている。
【0126】
(3)ジャケット相互の連結は、内ネジ及び外ネジを用いた螺合機構に限るものではなく、例えば、スライド嵌合機構、凹凸嵌合機構、又は外部連結部材を採用できる。
【0127】
(4)ジャケットの積層数は、7個に限るものではなく、三層積層構造体を1個以上構成できればよい。また、2個以上の三層積層構造体を有する場合には、隣接する三層積層構造体が例えばジャケット65のようなジャケットを共有してもよい。
【0128】
(5)培養部1であるジャケット62の内部空間132は、横方向に任意に仕切られた空間でもよく、又は、上下方向に任意に仕切られた空間でもよい。
【0129】
[第3実施形態]
図37は、本発明の第3実施形態の微生物培養装置を示す断面略図である。この微生物培養装置100Cは、「印刷層型装置」である。
【0130】
微生物培養装置100Cは、基台70上に、第1印刷層71~第6印刷層76を積層して構成されている。なお、各印刷層の平面視形状は、円形、三角形、四角形、又はその他の多角形を採用できる。
【0131】
第1印刷層71は、環境成分含有材料が印刷されて構成された環境成分供給部3である。第2印刷層72、第3印刷層73、及び第5印刷層75は、微生物含有培地が印刷されて構成された培養部1である。第4印刷層74及び第6印刷層76は、栄養素含有材料が印刷されて構成された栄養素供給部2である。したがって、本装置100Cは、2組の三層積層構造体10C、10Dを備えており、すなわち、第1印刷層71~第4印刷層74からなる三層積層構造体10Cと、第4印刷層74~第6印刷層76からなる三層積層構造体10Dと、を備えている。なお、各層の間には、メンブレンフィルター40が配置されている。
【0132】
微生物培養装置100Cは、
図38に示される装置を用いて作製される。この装置9は、マルチニードル91を有するディスペンサーである。装置9は、タンク92に貯められた印刷材料を、マルチニードル91を移動させながらマルチニードル91から吐出することによって、印刷層を形成するようになっている。印刷材料とは、培養部1の場合はペースト状の微生物含有培地であり、栄養素供給部2の場合はペースト状の栄養素含有材料であり、環境成分供給部3の場合はペースト状の環境成分含有材料である。本装置100Cの場合には、まず、基台70上にペースト状の環境成分含有材料を吐出して第1印刷層71を形成し、その上にメンブレンフィルター40を載せ、その上にペースト状の微生物含有培地を吐出して第2印刷層72を形成し、その上にメンブレンフィルター40を載せ、その上にペースト状の微生物含有培地を吐出して第3印刷層73を形成し、その上にメンブレンフィルター40を載せ、その上にペースト状の栄養素含有材料を吐出して第4印刷層74を形成し、その上にメンブレンフィルター40を載せ、その上にペースト状の微生物含有培地を吐出して第5印刷層75を形成し、その上にメンブレンフィルター40を載せ、その上にペースト状の栄養素含有材料を吐出して第6印刷層76を形成している。
【0133】
更に、培養部である第2印刷層72、第3印刷層73、及び第5印刷層75には、それぞれ、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43が、設けられている。温度センサー41及びpHセンサー42は、各印刷層の微生物含有培地の温度及びpHを検知するように配置されており、外部機器(図示せず)に接続されている。外部機器は、両センサー41、42を介して、微生物含有培地の温度及びpHをモニターできるようになっている。超音波発振器43は、各印刷層の微生物含有培地に振動を付与できるように、配置されている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっている。
【0134】
このような微生物培養装置100Cは、次のような作用効果を発揮できる。
(a)第2印刷層72及び第3印刷層73の微生物に、下側から環境成分を供給でき、上側から栄養素を供給できるので、第2印刷層72及び第3印刷層73で微生物を培養できる。また、第5印刷層75に、下側からも上側からも栄養素を供給できるので、第5印刷層75で微生物を培養できる。
【0135】
(b)2組の三層積層構造体10C、10Dを有しており、それぞれにおける培養条件が異なっているので、2通りの培養条件を実行できる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0136】
(c)第2印刷層72及び第3印刷層73では、培養部が二層構造であるので、各層における培養条件が異なっている。例えば、供給される環境成分の濃度は、第2印刷層72の方が高くなり、また、供給される栄養素の濃度は、第3印刷層73の方が高くなる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0137】
(d)印刷層を形成して三層積層構造体を構成するだけで微生物を培養できるので、微生物の培養を簡単に実行できる。したがって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0138】
(e)印刷層を形成するだけで組み立てることができるので、装置の生産性を向上できる。
【0139】
(f)印刷層の数を増やすことによって三層積層構造体の数を増やすことができる。そして、三層積層構造体毎に、培養条件を異ならせることができる。したがって、培養条件の選定作業の効率を向上でき、よって、難培養微生物の獲得の可能性を向上できる。
【0140】
(g)温度センサー41及び/又はpHセンサー42によって、第2印刷層72、第3印刷層73、及び第5印刷層75内の微生物の培養状態を検知してモニターできる(モニター工程)。したがって、各印刷層における培養状態を迅速且つ的確に判断できる。
【0141】
(h)超音波発振器43によって第2印刷層72、第3印刷層73、及び第5印刷層75内の微生物に振動を付与することにより、培養を活性化させることができる。したがって、培養効率を向上できる。
【0142】
[第3実施形態の変形例]
第3実施形態の微生物培養装置100Cは、次のような変形例を任意に採用できる。
【0143】
(1)印刷層の積層数は、6個に限るものではなく、三層積層構造体を1個以上構成できればよい。また、2個以上の三層積層構造体を有する場合には、隣接する三層積層構造体が例えば第4印刷層74のような印刷層を共有してもよい。
【0144】
(2)印刷層を、ディスペンサーを用いた方法に限らず、下記の方法で形成してもよい。
(2-1)スクリーン印刷法。
(2-2)印刷材料を、PETフィルム上にコーターを用いて塗工して、所望の大きさに金型で打ち抜いて、積層体を形成する。
【0145】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態の微生物培養装置は、「薄膜体型装置」である。この微生物培養装置100Dは、
図37に示される第3実施形態の「印刷層型装置」と同じ構成を有しているが、印刷層に代えて薄膜体を備えている。
【0146】
微生物培養装置100Dは、基台70A上に、第1薄膜体71A~第6薄膜体76Aを積層して構成されている。なお、各薄膜体の平面視形状は、円形、三角形、四角形、又はその他の多角形を採用できる。
【0147】
第1薄膜体71は、環境成分含有材料が薄膜化されて構成された環境成分供給部3である。第2薄膜体72、第3薄膜体73、及び第5薄膜体75は、微生物含有培地が薄膜化されて構成された培養部1である。第4薄膜体74及び第6薄膜体76は、栄養素含有材料が薄膜化されて構成された栄養素供給部2である。したがって、本装置100Cは、2組の三層積層構造体10E、10Fを備えており、すなわち、第1薄膜体71~第4薄膜体74からなる三層積層構造体10Eと、第4薄膜体74~第6薄膜体76からなる三層積層構造体10Fと、を備えている。なお、各層の間には、メンブレンフィルター40が配置されている。
【0148】
微生物培養装置100Dは、
図39に示される装置を用いて作製される。この装置9Aは、ドクターブレード法を実施するためのものである。ドクターブレード法による薄膜化は、例えば、次のように実行できる。例えば第4薄膜体74を形成する場合には、栄養素含有材料を、スラリー状にした後、キャリアフィルム93上に載せ、ブレードによって所定の厚さの薄膜にし、乾燥させる。このような方法によって、各薄膜体を形成する。そして、各薄膜体を、メンブレンフィルター40を介在させながら、積層する。これにより、微生物培養装置100Dを作製できる。
【0149】
更に、培養部1である第2薄膜体72、第3薄膜体73、及び第5薄膜体75には、それぞれ、温度センサー41、pHセンサー42、及び超音波発振器43が、設けられている。温度センサー41及びpHセンサー42は、各薄膜体の微生物含有培地の温度及びpHを検知するように配置されており、外部機器(図示せず)に接続されている。外部機器は、両センサー41、42を介して、微生物含有培地の温度及びpHをモニターできるようになっている。超音波発振器43は、各薄膜体の微生物含有培地に振動を付与できるように、配置されている。超音波発振器43の作動は、外部機器によって制御されるようになっている。
【0150】
このような微生物培養装置100Dは、第3実施形態の「印刷層型装置」と同様の作用効果を発揮できる。
【0151】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0152】
[第1実施例]
第1実施形態の微生物培養装置100A(
図9)を使用した。
【0153】
(各部の構成)
・栄養素供給部
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 3.2g/L
【0154】
・培養部
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 3.2g/L
カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 15g/L
・上記のカンテン水溶液を、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出希釈液を添加し、攪拌後に培養部の各貫通孔522に充填した。なお、土壌抽出希釈液は、土壌5gに純水15mLを加えて攪拌し、1時間放置後の上澄を逐次希釈し、DAPI染色を行ない、顕微鏡観察にて微生物の数を数え、培養部の各貫通孔522に1個の微生物が入るような濃度に、調整した。
【0155】
・環境物質供給部
・カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 15g/L
・上記のカンテン水溶液95mLを、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出液5mLを添加し、攪拌後に第2凹部57に注入する。なお、土壌抽出液は、土壌5gに純水15mLを加えて、攪拌し、1時間放置後の上澄を5mL分取した。
【0156】
・培養部と環境物質供給部との間には、メンブレンフィルターVCWP(メルクミリポア株式会社製 0.1μm)を配置した。
【0157】
(培養作業)
栄養素供給部においてR2A培地を連続的に1週間流通させて、培養を行った。
【0158】
(解析作業)
培養後に、培養部に生成されたコロニーを、回収し、テクノスルガ・ラボ株式会社において、遺伝子解析を行った。16SrDNAのV1~V4領域の約600塩基に関して、相同性解析を実施し、簡易分子系統樹を作成し、種の同定を行った。相同率は塩基配列の一致度を示し、相同率が98%よりも低い場合に、新種と判断した。
・DNA抽出 アクロモペプチダーゼ(富士フィルム和光純薬株式会社製)
・PCR増幅 PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)
・サイクルシーケンス BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems製)
・塩基配列決定 ChromasPro1.7(Technelysium製)
・データベース DB-BA12.0(テクノスルガ・ラボ株式会社製)
国際塩基配列データベース
検索日:2018年3月15日
【0159】
(比較例)
寒天平板表面塗抹法によってコロニーを生成し、同様の遺伝子解析を実施した。
【0160】
(解析結果)
図40は、遺伝子解析の結果を示す。
図40において、Aは既知種100~98%を示し、Bは新種98~94%を示し、Cは新属・新科94~91%を示し、Dは新目91%未満を示している。本実施例によれば、獲得できた微生物の約45%が新種相当であり、新目及び新属レベルの新しい微生物も獲得できた。よって、難培養微生物の獲得に非常に有効であることを、確認できた。
【0161】
[第2実施例]
第2実施形態の微生物培養装置100Bを使用した。但し、
図41に示されるように、ジャケット65は、ジャケット67と同じ構成を有している。
【0162】
(各部の構成)
・栄養素供給部(ジャケット67)
・基質A液
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.32g/100mL
純水 100mL
【0163】
・栄養素供給部(ジャケット65)
・基質B液
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.032g/100mL
純水 100mL
【0164】
・環境成分供給部(ジャケット61)
・土壌抽出液
・土壌5gに対して純水15gの割合で作製した。
【0165】
・培養部(ジャケット62、63、64、66)
・カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 95mL
・上記のカンテン水溶液を、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出希釈液5mLを添加し、攪拌後に培養部であるジャケットの内部空間に充填した。なお、土壌抽出希釈液は、土壌5gに純水15mLを加えて攪拌し、1時間放置後の上澄を、逐次希釈で10000倍に希釈して、作製した。
・各部の間には、メンブレンフィルターVCWP(メルクミリポア株式会社製 0.1μm)を配置した。
【0166】
(培養作業)
栄養素供給部(ジャケット67)に基質A液を、栄養素供給部(ジャケット65)に基質B液を、及び環境成分供給部(ジャケット61)に土壌抽出液を、連続的に1週間流通させて、培養を行った。
【0167】
(解析作業)
培養後に、培養部に生成したコロニーを、回収し、テクノスルガ・ラボ株式会社において、遺伝子解析を行った。16SrDNAのV1~V4領域の約600塩基に関して、相同性解析を実施し、簡易分子系統樹を作成し、種の同定を行った。相同率は塩基配列の一致度を示し、相同率が98%よりも低い場合に、新種と判断した。
・DNA抽出 アクロモペプチダーゼ(富士フィルム和光純薬株式会社製)
・PCR増幅 PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)
・サイクルシーケンス BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems製)
・塩基配列決定 ChromasPro1.7(Technelysium製)
・データベース DB-BA12.0(テクノスルガ・ラボ株式会社製)
国際塩基配列データベース
検索日:2018年3月15日
【0168】
(比較例)
寒天平板表面塗抹法によってコロニーを生成し、同様の遺伝子解析を実施した。
【0169】
(解析結果)
図42は、遺伝子解析の結果を示す。
図42において、Aは既知種100~98%を示し、Bは新種98~94%を示し、Cは新属94~91%を示し、Dは新目91%未満を示している。本実施例によれば、獲得できた微生物の約40%が新種相当であり、新目及び新属レベルの新しい微生物も獲得できた。よって、難培養微生物の獲得に非常に有効であることを、確認できた。
【0170】
[第3実施例]
第3実施形態の微生物培養装置100C(
図37)を使用した。
【0171】
(各部の構成)
・栄養素供給部(第6印刷層76)
・基質A層
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.32g/100mL
カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 100mL
・オートクレーブ(121℃/20分間)処理して、基質ペーストを得た。
【0172】
・栄養素供給部(第4印刷層74)
・基質B層
・R2A培地(日本製薬株式会社製) 0.032g/100mL
カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 100mL
・オートクレーブ(121℃/20分間)処理して、基質ペーストを得た。
【0173】
・環境成分供給部(第1印刷層71)
・カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 95mL
・上記のカンテン水溶液を、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出液5mLを添加し、攪拌して、土壌ペーストを得た。なお、土壌抽出液は、土壌5gに純水15mLを加えて攪拌し、1時間放置後に上澄を5mL分取した。
【0174】
・培養部(第2、第3、第5印刷層72、73、75)
・カンテン末(ナカライテスク株式会社製) 1.5g/100mL
純水 95mL
・上記のカンテン水溶液を、オートクレーブ(121℃/20分間)処理し、60℃付近になったら土壌抽出希釈液5mLを添加して攪拌し、培養ペーストを得た。なお、土壌抽出希釈液は、土壌5gに純水15mLを加えて攪拌し、1時間放置後の上澄を、逐次希釈で10000倍に希釈して、作製した。
【0175】
(印刷層の形成)
・各層は、スクリュー式ディスペンサーQuspa Ms(株式会社進和製)を用いて形成した。ニードルとしては、以下のマルチニードルを用いた。ニードル先端及びシリンジは、ヒーターで60℃に加温することにより、各ペーストを溶融状態で保持した。ギャップ1.2mmで約1mm厚でペーストを塗布した。室温で放置すると、固化した。
・21G(内径0.51mm)×8本 ピッチ0.93mm
・各層の間には、メンブレンフィルターVCWP(メルクミリポア株式会社製 0.1μm)を配置した。
【0176】
(培養作業)
印刷層からなる積層体を形成した後、滅菌済みのシャーレに入れて、1週間培養を行った。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明の微生物培養装置は、多様な難培養微生物の獲得を可能にできるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0178】
100A~C 微生物培養装置
10A~F 三層積層構造体
1 培養部
11 第1表面
12 第2表面
13 第1内部空間
14 第1枠本体
15 第1印刷層
16 第1薄膜体
2 栄養素供給部
23 第2内部空間
24 第2枠本体
25 第2印刷層
26 第2薄膜体
27 流入路
28 流出路
3 環境成分供給部
33 第3内部空間
34 第3枠本体
35 第3印刷層
36 第3薄膜体
37 流入路
38 流出路
41 温度センサー
42 pHセンサー
43 超音波発振器(超音波振動部)
51 ケース