(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】メタルマスク基材、および、メタルマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20240509BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240509BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240509BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H10K50/10
H10K71/16
(21)【出願番号】P 2023018214
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2021011018の分割
【原出願日】2016-03-22
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2015143509
(32)【優先日】2015-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 大生
(72)【発明者】
【氏名】西辻 清明
(72)【発明者】
【氏名】西 剛広
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-209176(JP,A)
【文献】特許第5641462(JP,B1)
【文献】特開2015-36436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
H10K 50/10
H10K 71/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子の製造に用いられる蒸着用のメタルマスクであって、金属板から構成され、前記金属板の表面に形成された開口が外部に露出し、かつ、前記開口が前記有機EL素子の形成材料が蒸着される基板に対向する前記蒸着用のメタルマスクを製造するためのメタルマスク基材であって、
前記メタルマスク基材は、
10μm以上50μm以下の厚さを有した圧延材であり、
5μm以上20μm以下の厚さを有したドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記ドライフィルムレジストを用いてエッチングされることによって前記開口が形成される表面を備え、
前記表面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、
前記表面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下である
メタルマスク基材。
【請求項2】
前記表面が第1面であり、
前記ドライフィルムレジストが第1ドライフィルムレジストであり、
前記第1面とは反対側の面であって、5μm以上20μm以下の厚さを有した第2ドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記第2ドライフィルムレジストを用いてエッチングされるための第2面をさらに備え、
前記第2面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、
前記第2面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下である
請求項1に記載のメタルマスク基材。
【請求項3】
前記メタルマスク基材は、鉄とニッケルとを主成分とする合金製である
請求項1または2に記載のメタルマスク基材。
【請求項4】
有機EL素子の製造に用いられる蒸着用のメタルマスクを製造する方法であって、金属板から構成され、前記金属板の表面に形成された開口が外部に露出し、かつ、前記開口が前記有機EL素子の形成材料が蒸着される基板に対向する前記蒸着用のメタルマスクを製造するメタルマスクの製造方法であって、
10μm以上50μm以下の厚さを有した圧延材であって、5μm以上20μm以下の厚さを有したドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記ドライフィルムレジストを用いてエッチングされることによって前記開口が形成される表面を備え、前記表面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、前記表面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下であるメタルマスク基材を準備することと、
前記表面に前記ドライフィルムレジストを配置することと、
前記メタルマスク基材に、前記メタルマスク基材の厚さ方向に沿って窪み、かつ、前記表面に開口を有した複数の凹部を形成するための貫通孔を前記ドライフィルムレジストに形成することと、
前記ドライフィルムレジストを介して、前記メタルマスク基材に複数の前記凹部を形成することと、
前記ドライフィルムレジストを前記凹部が形成された前記メタルマスク基材から除去することと、を備える
メタルマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストが配置されるための金属製の表面を備えるメタルマスク基材であって、例えば、有機EL素子用メタルマスクを形成するためのメタルマスク基材、および、メタルマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子用のメタルマスクの製造には、例えば金属板であるメタルマスク基材が用いられる。メタルマスク基材が有する塗布面には、レジスト層の形成材料を含む塗液が塗布され、それによってレジスト層が形成される。そして、レジスト層に対する露光と現像とが行われることによって、所定のパターンを有したレジスト層が形成され、レジスト層を介してメタルマスク基材がエッチングされることによって、メタルマスクが製造される。
【0003】
上述したレジスト層の形成では、塗布面に塗布される塗液の量や、塗液の乾燥される程度がばらつくことによって、レジスト層の厚さがばらついたり、レジスト層の面内において、厚さがばらついたりする場合がある。そこで、レジスト層におけるこうしたばらつきを抑えるために、レジスト層としてドライフィルムレジストを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗液を用いて形成されるレジスト層は、メタルマスク基材に対して直接塗布された塗液が塗布面で硬化した層であるため、塗布面に追従した形状を形成しやすく、それゆえに、メタルマスク基材に対して密着しやすい。一方で、ドライフィルムレジストから形成されるレジスト層は、メタルマスク基材とは別体である層がメタルマスク基材の1つの面に貼り付けられた層であるため、塗液によって形成されるレジスト層と比べて塗布面に追従しにくい形状を有し、それゆえに、レジスト層の一部がメタルマスク基材から剥がれる場合がある。
【0006】
なお、金属板から形成されるメタルマスク基材に限らず、例えば、樹脂層と金属層との積層体や、樹脂層が金属層によって挟まれた積層体のように、レジスト層と接する面が金属製あるいは合金製であるメタルマスク基材であれば、上述した事情は共通している。また、レジスト層の形成材料を含む塗液を用いて形成されるレジスト層であっても、メタルマスク基材に対する密着性が低いレジスト層においては、上述した事情は共通している。
【0007】
本発明は、レジストと表面との界面における密着性を高めることができる表面を備えたメタルマスク基材、および、メタルマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのメタルマスク基材は、有機EL素子の製造に用いられる蒸着用のメタルマスクであって、金属板から構成され、前記金属板の表面に形成された開口が外部に露出し、かつ、前記開口が前記有機EL素子の形成材料が蒸着される基板に対向する前記蒸着用のメタルマスクを製造するためのメタルマスク基材である。前記メタルマスク基材は、10μm以上50μm以下の厚さを有した圧延材であり、5μm以上20μm以下の厚さを有したドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記ドライフィルムレジストを用いてエッチングされることによって前記開口が形成される表面を備える。前記表面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、前記表面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下である。
【0009】
上記構成によれば、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、三次元表面粗さSzが3.17μm以下であるため、金属製の表面とレジストとの間の密着性が高められる。
【0010】
上記メタルマスク基材において、前記表面が第1面であり、前記レジストが第1レジストであり、前記第1面とは反対側の面であって、5μm以上20μm以下の厚さを有した第2ドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記第2ドライフィルムレジストを用いてエッチングされるための第2面をさらに備える。そして、前記第2面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、前記第2面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下であってもよい。
【0011】
上記構成によれば、第1面と第1レジストとの密着性、および、第2面と第2レジストとの密着性が高められるため、第1面、および、第2面に対するエッチングにおいて、加工の精度を高めることが可能である。
【0012】
上記メタルマスク基材において、前記メタルマスク基材は、鉄とニッケルとを主成分とする合金製であってもよい。
【0013】
上記課題を解決するためのメタルマスクの製造方法は、有機EL素子の製造に用いられる蒸着用のメタルマスクを製造する方法であって、金属板から構成され、前記金属板の表面に形成された開口が外部に露出し、かつ、前記開口が前記有機EL素子の形成材料が蒸着される基板に対向する前記蒸着用のメタルマスクを製造するメタルマスクの製造方法である。10μm以上50μm以下の厚さを有した圧延材であって、5μm以上20μm以下の厚さを有したドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成され、パターニングされた前記ドライフィルムレジストを用いてエッチングされることによって前記開口が形成される表面を備え、前記表面の三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、前記表面の三次元表面粗さSzが3.17μm以下であるメタルマスク基材を準備することと、前記表面に前記ドライフィルムレジストを配置することと、前記メタルマスク基材に、前記メタルマスク基材の厚さ方向に沿って窪み、かつ、前記表面に開口を有した複数の凹部を形成するための貫通孔を前記レジストに形成することと、前記ドライフィルムレジストを介して、前記メタルマスク基材に複数の前記凹部を形成することと、前記ドライフィルムレジストを前記凹部が形成された前記メタルマスク基材から除去することと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レジストと表面との界面における密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のメタルマスク基材をドライフィルムレジスト用メタルマスク基材として具体化した1つの実施形態におけるドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の一部斜視構造を示す部分斜視図である。
【
図2】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の一例における一部断面構造を示す部分断面図である。
【
図3】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の一例における一部断面構造を示す部分断面図である。
【
図4】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の一例における一部断面構造を示す部分断面図である。
【
図5】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材を用いて製造したメタルマスクの一部斜視構造を示す部分斜視図である。
【
図6】メタルマスクの一部断面構造を示す部分断面図である。
【
図7】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法を説明するための工程図であって、インバーから形成された母材を圧延する工程を示す工程図である。
【
図8】ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法を説明するための工程図であって、圧延材をアニールする工程を示す工程図である。
【
図9】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、ドライフィルムレジストを貼り付ける工程を示す工程図である。
【
図10】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、ドライフィルムレジストを現像する工程を示す工程図である。
【
図11】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、金属層の第1面をエッチングする工程を示す工程図である。
【
図12】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、第1保護層を形成する工程を示す工程図である。
【
図13】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、金属層の第2面をエッチングする工程を示す工程図である。
【
図14】メタルマスクの製造方法を説明するための工程図であって、ドライフィルムレジストを除去する工程を示す工程図である。
【
図15】実施例1における複数の第1凹部が形成された第1面の撮像結果を示す画像である。
【
図16】比較例1における複数の第1凹部が形成された表面の撮像結果を示す画像である。
【
図17】実施例1における第1凹部の直径の分布を2μmごとに示すヒストグラムである。
【
図18】実施例1における第1凹部の直径の分布を1μmごとに示すヒストグラムである。
【
図19】比較例1における第1凹部の直径の分布を2μmごとに示すヒストグラムである。
【
図20】比較例1における第1凹部の直径の分布を1μmごとに示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から
図20を参照して、メタルマスク基材をドライフィルムレジスト用メタルマスク基材として具体化した1つの実施形態、メタルマスク、および、メタルマスクの製造方法の1つの実施形態を説明する。本実施形態におけるドライフィルムレジスト用メタルマスク基材を用いて製造されたメタルマスクは、有機EL素子の製造工程において、ガラス基板に対して有機EL素子を構成する有機材料を蒸着するときに用いられるマスクである。以下では、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の構成、メタルマスクの構成、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法、メタルマスクの製造方法、および、実施例を順番に説明する。
【0017】
[ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の構成]
図1から
図4を参照してドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の構成を説明する。
図1が示すように、メタルマスク基材11は、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の一例であり、1つの面に沿って拡がる金属層である。メタルマスク基材11は、金属製の第1面11aを備え、第1面11aは、レジストが配置されるように構成された表面の一例、詳細には、ドライフィルムレジストが貼り付けられるように構成された表面の一例である。第1面11aにおいて、三次元表面粗さSaは0.11μm以下であり、三次元表面粗さSzは3.17μm以下である。
【0018】
三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzは、ISO 25178に準拠する方法によって測定された値である。三次元表面粗さSaは、所定の面積を有する定義領域中の算術平均高さSaであり、三次元表面粗さSzは、所定の面積を有する定義領域中の最大高さSzである。
【0019】
上記メタルマスク基材11によれば、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、かつ、三次元表面粗さSzが3.17μm以下である。そのため、第1面11aと第1面11aに貼り付けられる第1ドライフィルムレジスト12との間に隙間が形成されにくくなり、第1ドライフィルムレジスト12とメタルマスク基材11の第1面11aとの界面における密着性が高まる。なお、メタルマスク基材11の第1面11aに第1ドライフィルムレジスト12が貼り付けられた積層体は、メタルマスクを形成するための中間体であるメタルマスク形成用中間体10である。
【0020】
金属層の形成材料は、例えばインバー、すなわち、鉄とニッケルとを主成分とする合金であり、36質量%のニッケルを含む合金であることが好ましい。インバーの線膨張係数は、1.2×10-6/℃程度である。金属層の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0021】
金属層の形成材料がインバーであれば、ガラス基板の線膨張係数とインバーの線膨張係数とが同じ程度であるため、メタルマスク基材から形成されるメタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用すること、すなわち、形状の精度が高められたメタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用することが可能である。
【0022】
第1ドライフィルムレジスト12は、例えば、感光性を有する材料の一例であるネガ型レジストから形成されている。第1ドライフィルムレジスト12の形成材料は、例えば光重合により架橋するアクリル系樹脂である。第1ドライフィルムレジスト12の厚さは、例えば、5μm以上20μm以下であることが好ましい。なお、第1ドライフィルムレジスト12は、ポジ型レジストから形成されてもよいが、一般には、ネガ型レジストが用いられることが多い。
【0023】
図2から
図4を参照して、メタルマスク基材11、および、メタルマスク形成用中間体10の他の形態を説明する。なお、
図2は、メタルマスク基材11が1つの金属層から構成される例である第1の形態を示し、
図3は、メタルマスク基材11が1つの金属層と1つの樹脂層とから構成される例である第2の形態を示す。また、
図4は、メタルマスク基材11が2つの金属層と1つの樹脂層とから構成される例である第3の形態を示す。
【0024】
[第1の形態]
図2が示すように、金属層21は、第1面11aとは反対側の面である第2面11bを備えている。第1面11aは、第1ドライフィルムレジスト12が貼り付けられるように構成された金属製の表面であり、第2面11bは、レジストが配置されるように構成された表面の一例、詳細には、第2ドライフィルムレジスト13が貼り付けられるように構成された金属製の表面である。メタルマスク形成用中間体10は、これら金属層21、第1ドライフィルムレジスト12、および、第2ドライフィルムレジスト13から構成されている。
【0025】
第2面11bにおいても、第1面11aと同様、三次元表面粗さSaは0.11μm以下であり、三次元表面粗さSzは3.17μm以下であることが好ましい。このメタルマスク基材11によれば、金属層21のうち、第1面11aに加えて、第2面11bにおいても第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との密着性を高めることができる。
【0026】
なお、第2ドライフィルムレジスト13の形成材料は、第1ドライフィルムレジスト12と同じく、例えば光重合により架橋するアクリル系樹脂である。また、第2ドライフィルムレジスト13の厚さは、例えば、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0027】
[第2の形態]
図3が示すように、メタルマスク基材11は、金属層21と、金属層21に対して第1ドライフィルムレジスト12とは反対側に位置する樹脂層22とを備えてもよい。樹脂層22の線膨張係数と、金属層21の線膨張係数とは、温度の依存性として互いに同じ傾向を示し、かつ、線膨張係数の値が同じ程度であることが好ましい。金属層21は、例えばインバーから形成されたインバー層であり、樹脂層22は、例えばポリイミドから形成されたポリイミド層である。このメタルマスク基材11によれば、金属層21の線膨張係数と、樹脂層22の線膨張係数との差によって、メタルマスク基材11に反りが生じることが抑えられる。
【0028】
この形態におけるメタルマスク形成用中間体10は、これら金属層21、第1ドライフィルムレジスト12、および、樹脂層22から構成されている。なお、樹脂層22は、金属層21に対する塗工によって形成されてもよいし、金属層21とは別にフィルム状に形成されて、金属層21に貼り付けられてもよい。そして、樹脂層22が金属層21に貼り付けられる場合には、樹脂層22は、金属層21との接着性を発現する接着層を含み、この接着層が金属層21に貼り付けられた構成であってもよい。
【0029】
[第3の形態]
図4が示すように、メタルマスク基材11は、金属層21と樹脂層22とに加えて、メタルマスク基材11の厚さ方向において、樹脂層22に対して金属層21とは反対側に位置する他の金属層23をさらに備えてもよい。このメタルマスク基材11では、メタルマスク基材11における第1面11aとは反対側の面であって、金属層23の含む面が第2面11bである。
【0030】
他の金属層23の形成材料は、金属層21と同じく、例えばインバー、すなわち、鉄とニッケルとを主成分とする合金であり、36質量%のニッケルを含む合金であることが好ましい。金属層23の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下であることが好ましい。他の金属層23の厚さは、金属層21の厚さと互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0031】
金属層21が含む第1面11aおよび第2面11bと同様、他の金属層23の含む第2面11bにおいて、三次元表面粗さSaは0.11μm以下であり、かつ、三次元表面粗さSzは3.17μm以下であることが好ましい。
【0032】
これによって、他の金属層23が含む第2面11bによれば、金属層21が含む第1面11aおよび第2面11bと同等の効果を得ることができる。なお、メタルマスク基材11は、金属層21と樹脂層22とが積層され、また、金属層23と樹脂層22とが積層された構造体であるため、
図3を参照して先に説明したメタルマスク基材11と同等の効果を得ることもできる。
【0033】
この形態におけるメタルマスク形成用中間体10は、これら金属層21,23、第1ドライフィルムレジスト12、樹脂層22、および、第2ドライフィルムレジスト14から構成されている。なお、樹脂層22は、2つの金属層のうちのいずれかに対する塗工によって形成されてもよいし、金属層21,23とは別にフィルム状に形成されて、金属層21,23に貼り付けられてもよい。そして、樹脂層22が金属層21,23に貼り付けられる場合には、樹脂層22は、金属層21との接着性を発現する接着層と、金属層23との接着性を発現する接着層とを含み、これらの接着層が2つの金属層21,23にそれぞれ貼り付けられた構成であってもよい。
【0034】
[メタルマスクの構成]
図5および
図6を参照してメタルマスクの構成を説明する。なお、以下では、メタルマスクを製造するためのメタルマスク基材11が、1つの金属層21から構成される例、すなわち、
図2を用いて説明された第1の形態を用いて説明する。
【0035】
図5が示すように、メタルマスク30は、加工が施されたメタルマスク基材11であって、メタルマスク基体の一例であるマスク基体11Mを備えている。マスク基体11Mは、メタルマスク基材11の第1面11aに対応する金属製の表面であって、第1ドライフィルムレジスト12が取り除かれた面である第1マスク面11aMを含む。
【0036】
なお、メタルマスク基材11の第1面11aには、第1ドライフィルムレジスト12が貼り付けられる前に、以下の前提であれば、各種の処理、例えば洗浄処理などが行われてもよい。すなわち、この場合には、各種の処理は、第1マスク面11aMにおいて、三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzの各々が、処理前の面である第1面11aにおける値にほぼ維持することができる処理である。
【0037】
マスク基体11Mには、マスク基体11Mを厚さ方向に沿って貫通する複数の貫通孔11cが形成され、第1マスク面11aMに複数の貫通孔11cが開口している。複数の貫通孔11cは、例えば、第1マスク面11aMと対向する平面視において、第1マスク面11aMに沿う1つの方向に沿って規則的に並び、かつ、1つの方向と直交する方向に沿って規則的に並んでいる。
【0038】
図6が示すように、マスク基体11Mは、メタルマスク基材11の第2面11bに対応する金属製の面であって、第2ドライフィルムレジスト13が取り除かれた面である第2マスク面11bMを含む。
【0039】
なお、メタルマスク基材11の第2面11bには、第2ドライフィルムレジスト13が貼り付けられる前に、以下の前提であれば、各種の処理、例えば洗浄処理などが行われてもよい。すなわち、この場合には、各種の処理は、第2マスク面11bMにおいて、三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzの各々が、処理前の面である第2面11bにおける値にほぼ維持することができる処理である。
【0040】
各貫通孔11cは、第1マスク面11aMと第2マスク面11bMとの間を貫通し、各貫通孔11cがマスク基体11Mを貫通する方向と直交する方向における断面積が、第1マスク面11aMと第2マスク面11bMとの間において最も小さい。
【0041】
メタルマスク30によれば、メタルマスク30が製造されるときに、第2面11bにおいても、第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との密着性が高まる。そのため、貫通孔11cが、第1面11aにおけるエッチングと第2面11bにおけるエッチングとによって形成される構成でも、貫通孔11cにおける形状の精度が高められる。
【0042】
すなわち、貫通孔11cは、第1マスク面11aMに開口する第1開口41、第2マスク面11bMに開口する第2開口42、および、金属層21の厚さ方向において、第1開口41と第2開口42との間に位置する括れ部43を備える。第1マスク面11aMと対向する平面視において、第1開口41は第2開口42よりも小さい。貫通孔11cは、第1開口41から括れ部43に向けて断面積が小さくなり、かつ、第2開口42から括れ部43に向けて断面積が小さくなる形状を有している。なお、第1開口41と括れ部43との間の距離、すなわち、第1マスク面11aMと括れ部43との間の距離は小さいほど好ましい。
【0043】
また、メタルマスク30において、第1マスク面11aMと対向する平面視での第1開口41の寸法における平均値をAとし、寸法の標準偏差に3を掛けた値をBとするとき、(B/A)×100(%)が10%以下であることが好ましい。さらに、メタルマスク30において、第2マスク面11bMと対向する平面視での第2開口42の寸法における平均値をAとし、寸法の標準偏差に3を掛けた値をBとするとき、(B/A)×100(%)が10%以下であることが好ましい。
【0044】
メタルマスク30において、(B/A)×100(%)が10%以下であるため、メタルマスク30が有する貫通孔11cの第1開口41における寸法の精度、および、第2開口42における寸法の精度が高い。
【0045】
厚さ方向に沿う断面において、1つの方向に沿って複数の貫通孔11cが位置する間隔は、互いに隣り合う貫通孔11cの間において、第2開口42を含む凹部同士が繋がる程度に小さくてもよい。こうした構成によれば、2つの第2開口42が繋がる部分における厚さが、メタルマスク30のうち、貫通孔11cが形成されていない部分における厚さよりも薄くなる。
【0046】
なお、メタルマスクを製造するためのメタルマスク基材11が上記第2の形態であるとき、マスク基体11Mは、金属層と樹脂層とから構成される。こうしたマスク基体11Mは、上記第1マスク面11aMを有する一方で、第1マスク面11aMとは反対側の面は、金属製の表面ではなく、樹脂層に含まれる。こうした構成では、第1マスク面11aMに第2開口42が形成され、樹脂層に含まれる面に第1開口41が形成されることが好ましい。
【0047】
また、メタルマスクを製造するためのメタルマスク基材11が上記第3の形態であるとき、マスク基体11Mは、樹脂層と、この樹脂層を挟む2つの金属層とから構成される。こうしたマスク基体11Mにおいては、上記第1マスク面11aMが一方の金属層に含まれ、上記第2マスク面11bMが他方の金属層に含まれる。また、貫通孔11cは、これら樹脂層と2つの金属層とを貫通する。
【0048】
[ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法]
図7および
図8を参照して、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法を説明する。なお、以下では、メタルマスク基材11が、1つの金属層21から構成される例、すなわち、
図2を用いて説明された第1の形態を用いて説明する。
【0049】
図7が示すように、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材の製造方法では、まず、インバーから形成された母材21aであって、1つの方向である延伸方向D1に沿って延びる母材21aを準備する。次いで、母材21aの延伸方向D1と、母材21aを搬送する搬送方向D2とが平行になるように、母材21aを一対の圧延ローラー51,52を備える圧延装置50に向けて搬送方向D2に沿って搬送する。
【0050】
母材21aが一対の圧延ローラー51,52の間に到達すると、母材21aが一対の圧延ローラー51,52によって圧延される。これにより、母材21aの厚さが低減され、かつ、母材21aが搬送方向D2に沿って伸ばされることで、圧延材21bを得ることができる。圧延材21bはコアCに巻き取られるが、圧延材21bは、コアCに巻き取られることなく、帯形状に伸ばされた状態で取り扱われてもよい。圧延材21bの厚さは、例えば、10μm以上50μm以下である。
【0051】
図8が示すように、母材21aの圧延によって形成された圧延材21bの内部に蓄積された残留応力を取り除くために、アニール装置53を用いて圧延材21bをアニールする。これにより、メタルマスク基材としての金属層21が得られる。圧延材21bのアニールは、圧延材21bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら行うため、アニール前の圧延材21bに比べて残留応力が低減されたメタルマスク基材としての金属層21を得ることができる。
【0052】
なお、上述した圧延工程およびアニール工程の各々を、以下のように変更して実施してもよい。すなわち、例えば、圧延工程では、複数対の圧延ローラーを備える圧延装置を用いてもよい。また、圧延工程およびアニール工程を複数回繰り返すことによって、金属層21を製造してもよい。また、アニール工程は、圧延材21bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら圧延材21bに対してアニールを行うのではなく、コアCに巻き取られた状態の圧延材21bに対してアニールを行ってもよい。
【0053】
なお、コアCに巻き取られた状態の圧延材21bに対してアニール工程を行ったときには、金属層21がコアCに巻き取られたことにより、アニール後の金属層21には、金属層21の径に応じた反りの癖がついてしまう場合がある。そのため、金属層21がコアCに巻かれたときの径の大きさや母材21aを形成する材料によっては、圧延材21bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら圧延材21bをアニールすることが好ましい。
【0054】
[メタルマスクの製造方法]
図9から
図14を参照してメタルマスク30の製造方法を説明する。なお、以下では、メタルマスク30を製造するために使用されるメタルマスク基材11が、1つの金属層21から構成される例、すなわち、
図2を用いて説明された第1の形態を用いて説明する。また、
図9から
図14では、図示の便宜上から、メタルマスク30に形成される複数の貫通孔11cのうち、1つの貫通孔11cのみを含む部分に対する工程図が示されている。
【0055】
メタルマスクの製造方法は、金属製の表面を備えるメタルマスク基材を準備すること、表面にレジストを配置すること、メタルマスク基材に、メタルマスクの厚さ方向に沿って窪み、かつ、表面に開口を有する複数の凹部を形成するための貫通孔をレジストに形成すること、および、メタルマスク基材に複数の凹部を形成することを備えている。メタルマスク基材に複数の凹部を形成することでは、表面と対向する平面視での開口の寸法における平均値をAとし、寸法の標準偏差に3を掛けた値をBとするとき、(B/A)×100(%)が10%以下となるようにメタルマスク基材に複数の凹部を形成することが好ましい。
【0056】
なお、メタルマスク基材の表面と対向する平面視において、メタルマスク基材の凹部が円形状を有した領域を区画する孔であれば、凹部の開口における寸法は、開口の直径であればよい。また、メタルマスク基材の表面と対向する平面視において、メタルマスク基材の凹部が1つの方向に沿って延びる矩形状を有した領域を区画する孔であれば、凹部の開口における寸法は、開口の長手方向に沿う寸法であってもよいし、開口の短手方向に沿う寸法であってもよい。またあるいは、メタルマスク基材の表面と対向する平面視において、メタルマスク基材の凹部が正方形状を有した領域を区画する孔であれば、凹部の開口における寸法は、開口における一辺の寸法であればよい。
【0057】
なお、凹部が1つの方向に沿って延びる矩形状、あるいは、正方形状を有した領域を区画する孔であるときには、凹部によって区画される領域の角部が、凹部によって区画される領域の内部に曲率の中心を有するような弧状を有してもよい。
【0058】
より詳しくは、
図9が示すように、メタルマスク30を製造するときには、まず、上述した第1面11aと第2面11bとを含む金属層21であるメタルマスク基材と、第1面11aに貼り付けられる第1ドライフィルムレジスト12と、第2面11bに貼り付けられる第2ドライフィルムレジスト13とを準備する。2つのドライフィルムレジスト12,13の各々は、金属層21とは別に形成されたフィルムである。
【0059】
そして、第1面11aに第1ドライフィルムレジスト12を貼り付け、かつ、第2面11bに第2ドライフィルムレジスト13を貼り付ける。すなわち、第1面11aに第1ドライフィルムレジスト12を積層し、第2面11bに第2ドライフィルムレジスト13を積層する。例えば、金属層21の厚さ方向において、金属層21が2つのドライフィルムレジストに挟まれた状態で、3つの層に所定の熱と圧力とを加えることによって、金属層21の第1面11aに第1ドライフィルムレジスト12を貼り付け、かつ、第2面11bに第2ドライフィルムレジスト13を貼り付ける。なお、第1ドライフィルムレジスト12と第2ドライフィルムレジスト13とは、金属層21に対して別々に貼り付けられてもよい。
【0060】
ここで、2つのドライフィルムレジスト12,13と金属層21との密着性を高める観点では、金属層21の第1面11aおよび第2面11bの各々が、平滑な面であることが好ましい。この点で、第1面11aおよび第2面11bの各々において、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、三次元表面粗さSzが3.17μm以下であるため、メタルマスクを製造する上で好ましい程度に、ドライフィルムレジスト12,13と金属層21との密着性が高まる。こうしてメタルマスク形成用中間体が製造される。
【0061】
図10が示すように、ドライフィルムレジスト12,13のうち、貫通孔を形成する部位以外の部分を露光し、露光後のドライフィルムレジストを現像する。これによって、第1ドライフィルムレジスト12に第1貫通孔12aを形成し、かつ、第2ドライフィルムレジスト13に第2貫通孔13aを形成する。すなわち、第1ドライフィルムレジスト12と第2ドライフィルムレジスト13とをパターニングする。
【0062】
第1ドライフィルムレジスト12を露光するときには、第1ドライフィルムレジスト12において金属層21に接する面とは反対側の面に、第1貫通孔12aを形成する部分以外の部分に光を到達させるように構成された原版を載せる。第2ドライフィルムレジスト13を露光するときには、第2ドライフィルムレジスト13において金属層21に接する面とは反対側の面に、第2貫通孔13aを形成する部分以外の部分に光を到達させるように構成された原版を載せる。また、露光後のドライフィルムレジストを現像するときには、現像液として、例えば炭酸ナトリウム水溶液を用いる。
【0063】
なお、第1ドライフィルムレジスト12がポジ型レジストから形成されるときには、第1ドライフィルムレジスト12のうち、第1貫通孔12aを形成する部分を露光すればよい。また、第2ドライフィルムレジスト13がポジ型レジストから形成されるときには、第2ドライフィルムレジスト13のうち、第2貫通孔13aを形成する部分を露光すればよい。
【0064】
図11が示すように、例えば、第1ドライフィルムレジスト12をマスクとして、すなわち、第1ドライフィルムレジスト12を介して、塩化第二鉄液を用いて金属層21の第1面11aをエッチングする。このとき、第2ドライフィルムレジスト13には、金属層21の第2面11bが第1面11aと同時にエッチングされないように、第2保護層61を形成する。第2保護層61の形成材料は、塩化第二鉄液によってエッチングされにくい材料であればよい。これによって、金属層21の第1面11aに、第1ドライフィルムレジスト12の第1貫通孔12aを介して、第2面11bに向けて窪む第1凹部11c1を形成する。
【0065】
ここで、上述したメタルマスク形成用中間体では、第1ドライフィルムレジスト12と金属層21との密着性が高められている。そのため、金属層21が塩化第二鉄液に曝されたとき、塩化第二鉄液は、第1ドライフィルムレジスト12に形成された第1貫通孔12aを通じて金属層21の第1面11aに接する一方で、塩化第二鉄液が、第1ドライフィルムレジスト12と金属層21との界面に入り込むことが抑えられる。それゆえに、金属層21には、第1凹部11c1が、形状の精度が高められた状態で形成される。
【0066】
また、第1面11aと対向する平面視において、第1凹部11c1が有する開口の寸法における平均値をAとし、寸法の標準偏差に3を掛けた値をBとするとき、(B/A)×100(%)が10%以下となるように金属層21に複数の第1凹部11c1が形成される。
【0067】
図12が示すように、金属層21の第1面11aに形成した第1ドライフィルムレジスト12と、第2ドライフィルムレジスト13に接する第2保護層61とを取り除く。また、金属層21の第1面11aに、第1面11aのエッチングを防ぐための第1保護層62を形成する。第1保護層62の形成材料は、塩化第二鉄液によってエッチングされにくい材料であればよい。
【0068】
図13が示すように、第2ドライフィルムレジスト13をマスクとして、塩化第二鉄液を用いて金属層21の第2面11bをエッチングする。これによって、金属層21の第2面11bに、第2ドライフィルムレジスト13の第2貫通孔13aを介して、第1面11aに向けて窪む第2凹部11c2を形成する。
【0069】
ここで、上述したメタルマスク形成用中間体では、第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との密着性も高められている。そのため、金属層21が塩化第二鉄液に曝されたとき、塩化第二鉄液は、第2ドライフィルムレジスト13に形成された第2貫通孔13aを通じて金属層21の第2面11bに接する一方で、塩化第二鉄液が、第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との界面に入り込むことが抑えられる。それゆえに、金属層21には、第2凹部11c2が、形状の精度が高められた状態で形成される。
【0070】
また、第2面11bと対向する平面視において、第2凹部11c2が有する開口の寸法における平均値をAとし、寸法の標準偏差に3を掛けた値をBとするとき、(B/A)×100(%)が10%以下となるように金属層21に複数の第2凹部11c2が形成される。
【0071】
図14が示すように、第1保護層62と第2ドライフィルムレジスト13とを金属層21から取り除くことによって、複数の貫通孔11cが形成されたメタルマスク30が得られる。
【0072】
なお、メタルマスクを製造するために使用されるメタルマスク基材11が上記第2の形態であるとき、メタルマスク形成用中間体は、金属層、樹脂層、および、第1ドライフィルムレジスト12から構成される。こうしたメタルマスク形成用中間体に対しては、第1ドライフィルムレジスト12をマスクとしたエッチングが施される一方で、樹脂層に対してはレーザ加工などによる穿孔が行われてもよい。
【0073】
また、メタルマスクを製造するために使用されるメタルマスク基材11が上記第3の形態であるとき、メタルマスク形成用中間体は、樹脂層と、この樹脂層を挟む2つの金属層と、2つのドライフィルムレジスト12,14から構成される。こうしたメタルマスク形成用中間体に対しては、各ドライフィルムレジスト12,14をマスクとしたエッチングの他に、樹脂層に対してはレーザ加工などによる穿孔が行われてもよい。
【0074】
[実施例]
図15から
図20を参照して実施例を説明する。以下では、メタルマスク基材が1つの金属層から構成される例を説明する。
【0075】
[表面粗さの測定]
実施例1から実施例3のメタルマスク基材、および、比較例1のメタルマスク基材の各々について、三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzを以下の方法で測定した。なお、以下において、三次元表面粗さSaおよび三次元表面粗さSzの各々の値における単位は、いずれもμmである。
【0076】
実施例1から実施例3のメタルマスク基材、および、比較例1のメタルマスク基材は、430mmの幅を有するメタルマスク基材の原反を準備し、原反の一部を500mmの長さで切り出すことによって得た。また、メタルマスク基材は、20μmの厚さを有するものとし、形成材料をインバーとした。
【0077】
50倍の対物レンズを装着した形状解析レーザ顕微鏡(VK-X210、(株)キーエンス製)を用いて、三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzを測定した。三次元表面粗さSa、および、三次元表面粗さSzとして、1つの方向における約280μmの幅と、1つの方向と直交する方向における約220μmの幅とを有する面における三次元表面粗さSaおよび三次元表面粗さSzを測定した。
なお、三次元表面粗さSaおよび三次元表面粗さSzは、ISO 25178に準拠する方向によって測定した。
【0078】
実施例1から実施例3、および、比較例1のメタルマスク基材の各々において、互いに異なる3か所の各々から切り出した試験片での表面粗さを測定した。各試験片は、メタルマスク基材の長さ方向に沿う長さが20mmであり、メタルマスク基材の幅方向に沿う長さが30mmである矩形板形状を有するものとした。
【0079】
メタルマスク基材の長さ方向における2つの端部を第1端部および第2端部とし、幅方向における2つの端部を第3端部および第4端部とするとき、3つの試験片の各々をメタルマスク基材における以下の位置から切り出した。
【0080】
すなわち、試験片1を第1端部から100mmだけ離れ、かつ、第3端部から200mmだけ離れた位置から切り出した。また、試験片2を第2端部から100mmだけ離れ、かつ、第3端部から70mmだけ離れた位置から切り出した。そして、試験片3を第2端部から100mmだけ離れ、かつ、第4端部から70mmだけ離れた位置から切り出した。
【0081】
なお、各試験片において、5つの測定点における三次元表面粗さSaと三次元表面粗さSzとを測定した。5つの測定点は、各試験片における中央の1点と、中央の1点を囲む外周における4点とした。各試験片における外周の4点は、試験片の対角線上に位置する点とし、かつ、中央の1点と、外周における各点との間の距離は、10mmとした。
【0082】
実施例1から実施例3におけるメタルマスク基材の各々において、各試験片における三次元表面粗さSaの最大値、および、各試験片における三次元表面粗さSzの最大値として以下の表1に示される値が得られた。
【0083】
【0084】
表1が示すように、実施例1のメタルマスク基材では、試験片1での三次元表面粗さSaの最大値が0.09であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.83であることが認められた。また、試験片2での三次元表面粗さSaの最大値が0.08であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.63であることが認められた。また、試験片3での三次元表面粗さSaが0.09であり、三次元表面粗さSzの最大値が3.17であることが認められた。
【0085】
すなわち、実施例1のメタルマスク基材において、三次元表面粗さSaの最大値が0.09であり、三次元表面粗さSzの最大値が3.17であることが認められた。
【0086】
実施例2のメタルマスク基材では、試験片1での三次元表面粗さSaの最大値が0.09であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.60であることが認められた。また、試験片2での三次元表面粗さSaの最大値が0.10であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.88であることが認められた。また、試験片3での三次元表面粗さSaの最大値が0.09であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.76であることが認められた。
【0087】
すなわち、実施例2のメタルマスク基材において、三次元表面粗さSaの最大値が0.10であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.88であることが認められた。
【0088】
実施例3のメタルマスク基材では、試験片1での三次元表面粗さSaの最大値が0.10であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.93であることが認められた。また、試験片2での三次元表面粗さSaの最大値が0.11であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.84であることが認められた。また、試験片3での三次元表面粗さSaの最大値が0.10であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.96であることが認められた。
【0089】
すなわち、実施例3のメタルマスク基材において、三次元表面粗さSaの最大値が0.11であり、三次元表面粗さSzの最大値が2.96であることが認められた。
【0090】
また、比較例1において、各試験片における三次元表面粗さSaの最大値、および、各試験片における三次元表面粗さSzの最大値として以下の表2に示される値が得られた。
【0091】
【0092】
表2が示すように、比較例1のメタルマスク基材では、試験片1での三次元表面粗さSaの最大値が0.14であり、三次元表面粗さSzの最大値が5.10であることが認められた。また、試験片2での三次元表面粗さSaの最大値が0.13であり、三次元表面粗さSzの最大値が5.78であることが認められた。また、試験片3での三次元表面粗さSaの最大値が0.16であり、三次元表面粗さSzの最大値が5.10であることが認められた。
【0093】
すなわち、比較例1のメタルマスク基材において、三次元表面粗さSaの最大値が0.16であり、三次元表面粗さSzの最大値が5.78であることが認められた。
【0094】
図15は、実施例1のメタルマスク基材を用いたメタルマスクの製造工程において、第1面に第1凹部を形成した後に、第1面に対して照射光を照射して、第1面にて反射された反射光を撮像した画像である。
【0095】
図16は、比較例1のメタルマスク基材を用いたメタルマスクの製造工程において、第1面に第1凹部を形成した後に、第1面に対して照射光を照射して、第1面にて反射された反射光を撮像した画像である。
【0096】
図15が示すように、実施例1のメタルマスク基材11によれば、メタルマスク基材11と第1ドライフィルムレジスト12との密着性が高められている。そのため、第1面11aと対向する平面視において、第1面11aでの各第1凹部11c1における開口の大きさが、他の全ての第1凹部11c1における開口の大きさとほぼ等しいことが認められた。
【0097】
一方で、
図16が示すように、比較例1のメタルマスク基材では、金属層の表面71aと対向する平面視において、複数の第1凹部71c1における開口の大きさが大きくばらついていることが認められた。
【0098】
実施例1のメタルマスク基材、および、比較例1のメタルマスク基材の各々において、24個の第1凹部の直径を測定した。なお、実施例1では、
図15に示される第1凹部11c1のうち、二点鎖線で囲まれる領域に含まれる第1凹部11c1の直径を測定し、比較例1では、
図16に示される第1凹部71c1のうち、二点鎖線で囲まれる領域に含まれる第1凹部71c1の直径を測定した。
【0099】
また、各第1凹部について、紙面の上下方向での直径である第1直径、および、紙面の左右方向での直径である第2直径を測定し、各第1凹部について、第1直径と第2直径との平均値である平均直径を算出した。実施例1における第1直径、第2直径、および、平均直径と、比較例1における第1直径、第2直径、および、平均直径とは、以下の表3に示すとおりであった。
【0100】
【0101】
表3が示すように、実施例1の第1凹部11c1における平均直径は、47.0μm以上50.4μm以下であり、比較例1の第1凹部71c1における平均直径は、46.0μm以上64.9μm以下であることが認められた。
【0102】
実施例1において、メタルマスク基材11の表面と対向する平面視での第1凹部11c1の開口における直径の平均値をAとし、直径の標準偏差に3を掛けた値をBとし、(B/A)×100(%)を算出した。第1直径において、(B/A)×100(%)は、8.2%であり、第2直径において、(B/A)×100(%)は、6.6%であり、平均直径において、(B/A)×100(%)は、5.9%であることが認められた。
【0103】
比較例1において、実施例1と同様に、金属層の表面71aと対向する平面視での第1凹部71c1の開口における直径の平均値をAとし、直径の標準偏差に3を掛けた値をBとし、(B/A)×100(%)を算出した。第1直径において、(B/A)×100(%)は、30.3%であり、第2直径において、(B/A)×100(%)は、26.1%であり、平均直径において、(B/A)×100(%)は、26.7%であることが認められた。
【0104】
実施例1において、(B/A)×100(%)は8.2%以下、すなわち10%以下であるため、メタルマスク基材11が有する第1凹部11c1の開口、ひいてはメタルマスクが有する貫通孔の開口における直径において、寸法の精度が高いことが認められた。これに対して、比較例1において、(B/A)×100(%)は30.3%以下であり、実施例1によれば、比較例1に比べて、メタルマスク基材11が有する第1凹部11c1の開口、ひいてはメタルマスクが有する貫通孔の開口における直径において、寸法の精度が大幅に高まることが認められた。
【0105】
また、実施例1および比較例1について、第1凹部の平均直径の頻度を2μmごとに示すヒストグラムと、1μmごとに示すヒストグラムとを作成した。
【0106】
図17および
図18が示すように、実施例1では、第1凹部の平均直径の頻度が、50μmにおいて最も高いことが認められた。また、
図19および
図20が示すように、比較例1では平均直径の各値における頻度の差が、実施例1よりも小さいことが認められた。
【0107】
このように、実施例1のメタルマスク基材11によれば、メタルマスク基材11と第1ドライフィルムレジスト12との密着性が高められているために、複数の第1凹部11c1の各々が、形状の精度が高い状態で形成されることが認められた。一方で、比較例1のメタルマスク基材によれば、メタルマスク基材とドライフィルムレジストとの密着性が低いために、複数の第1凹部71c1において、形状の精度が低くなることが認められた。
【0108】
なお、実施例2および実施例3の各々においても、
図15に示される複数の第1凹部の形状と同等の形状が得られることが認められた。
【0109】
すなわち、メタルマスク基材11の1つの面において、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、かつ、三次元表面粗さSzが3.17μm以下であれば、金属層21と第1ドライフィルムレジスト12との密着性が高まることが認められた。
【0110】
なお、メタルマスク基材11の第2面11bに第2凹部11c2を形成する際においても、上述した表面粗さを有する構成であれば、メタルマスク基材11の第1面11aに第1凹部11c1を形成する際と同様に、メタルマスク基材11と第2ドライフィルムレジスト13との密着性が高められていることを示す傾向が認められた。
【0111】
以上説明したように、ドライフィルムレジスト用メタルマスク基材、メタルマスク、および、メタルマスク製造方法の1つの実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、かつ、三次元表面粗さSzが3.17μm以下であるため、第1面11aと第1ドライフィルムレジスト12との間に隙間が形成されにくくなり、結果として、第1ドライフィルムレジスト12と金属層21の表面との界面における密着性が高まる。
【0112】
(2)第2面11bにおいて、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、三次元表面粗さSzが3.17μm以下である。そのため、金属層21のうち、第2面11bにおいても、第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との密着性を高めることができ、第1面11a、および、第2面11bに対するエッチングにおいて、加工の精度を高めることができる。
【0113】
(3)メタルマスク基材11の表面がインバー製であれば、ガラス基板の線膨張係数とインバーの線膨張係数とが同じ程度である。そのため、メタルマスク基材から形成されるメタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用すること、すなわち、形状の精度が高められたメタルマスクをガラス基板に対する成膜に適用することが可能である。
【0114】
(4)メタルマスク基材がポリイミドから形成された樹脂層22を備える構成では、インバーの線膨張係数と、ポリイミドの線膨張係数とが同じ程度である。そのため、メタルマスク基材11が、互いに異なる2つの材料を含むとしても、メタルマスク30における温度の変化によって、メタルマスク30が反りにくくなる。それゆえに、形状の精度、および、機械的な強度が高められたメタルマスク30を提供することが可能ともなる。
【0115】
(5)第1面11aに加えて第2面11bにおいても、第2ドライフィルムレジスト13と金属層21との密着性が高まる。そのため、貫通孔11cが、第1面11aにおけるエッチングと第2面11bにおけるエッチングとによって形成される構成でも、貫通孔11cにおける形状の精度が高められる。
【0116】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・各貫通孔11cの断面積は、金属層21の厚さ方向の全体にわたってほぼ同じであってもよい。あるいは、各貫通孔11cの断面積は、金属層21の厚さ方向において、第1面11aから第2面11bに向けて大きくなってもよいし、第1面11aから第2面11bに向けて小さくなってもよい。
【0117】
・金属層21の形成材料は、純粋な金属、あるいは、合金であれば、インバー以外の材料であってもよい。また、金属層21の形成材料がインバー以外の材料であるとき、金属層21に接する樹脂層として、金属層21の形成材料との間における線膨張係数の差が、金属層21の形成材料における線膨張係数と、ポリイミドにおける線膨張係数との差よりも小さい樹脂が用いられてもよい。
【0118】
・金属層21において、第2面11bでの三次元表面粗さSaは、0.11μmよりも大きくてもよいし、三次元表面粗さSzは、3.17μmよりも大きくてもよい。こうした構成であっても、少なくとも第1面11aにおいては、金属層21と第1ドライフィルムレジスト12との密着性を高めることができる。
【0119】
・メタルマスク30は、有機EL素子の形成材料をガラス基板に対して蒸着するときに用いられるメタルマスクに限らず、各種の金属材料を蒸着やスパッタなどで成膜する際などのように、他の用途のメタルマスクであってもよい。この場合には、複数の貫通孔11cが、第1面11aと対向する平面視において、不規則に並んでいてもよい。
【0120】
・メタルマスク基材のエッチングに用いられるレジストは、上述したドライフィルムレジストに限らず、レジストを形成するための塗液がメタルマスク基材に塗布されることによって形成されるレジストであってもよい。すなわち、レジストは、塗布によってメタルマスク基材の表面に配置されてもよいし、貼り付けによってメタルマスク基材の表面に配置されてもよい。こうしたレジストであっても、上述したメタルマスク基材によれば、メタルマスク基材の表面に対する密着性の低いレジストを用いた場合に、ドライフィルムレジストを用いた場合と同様の効果を得ることは可能である。
【符号の説明】
【0121】
10…メタルマスク形成用中間体、11…メタルマスク基材、11a…第1面、11aM…第1マスク面、11b…第2面、11bM…第2マスク面、11c…貫通孔、11c1,71c1…第1凹部、11c2…第2凹部、11M…マスク基体、12…第1ドライフィルムレジスト、12a…第1貫通孔、13,14…第2ドライフィルムレジスト、13a…第2貫通孔、21,23…金属層、21a…母材、21b…圧延材、22…樹脂層、30…メタルマスク、41…第1開口、42…第2開口、43…括れ部、50…圧延装置、51,52…圧延ローラー、53…アニール装置、61…第2保護層、62…第1保護層、71a…表面、C…コア。