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特許7485182設置パターンの導出方法及び導出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】設置パターンの導出方法及び導出プログラム
(51)【国際特許分類】
   B66B 11/02 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
B66B11/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023145550
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-056718(JP,A)
【文献】特開平08-067465(JP,A)
【文献】中国実用新案第210236819(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 11/00 - 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランス調整用の目標モーメントをエレベータのかご部に発生させるバランスウェイトの設置パターンを導出する方法であって、
前記かご部において前記バランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が取付候補位置として設定されており、
前記取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンとして、当該第1パターンごとに、そこで選択されている前記取付候補位置に前記バランスウェイトを取り付けた場合に前記かご部に発生するモーメントを発生モーメントとして求める算出ステップと、
前記第1パターンのうちの、前記算出ステップで算出した前記発生モーメントについての前記目標モーメントとの誤差が許容範囲内であるものを、前記設置パターンとして導出する導出ステップと、
を備える、設置パターンの導出方法。
【請求項2】
特定の高さ位置で水平に設定された2次元平面内において前記取付けの候補になり得る位置が、前記取付候補位置として設定されており、
更に、前記2次元平面が少なくとも2つの領域に区分けされ、且つ、当該領域ごとに、その領域内に含まれている前記取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部が、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンとして設定されており、
区分けされた前記領域から前記第2パターンを1つずつ取り出して組み合わせたものを前記第1パターンとして、前記算出ステップ及び前記導出ステップを実行する、請求項1に記載の設置パターンの導出方法。
【請求項3】
前記領域ごとに、当該領域内に含まれている前記取付候補位置の中から、隣接して1つに纏まっている前記取付候補位置だけを選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部が、1つも選択しない場合も含めて、前記第2パターンとして設定されている、請求項2に記載の設置パターンの導出方法。
【請求項4】
前記取付候補位置の中から、前記バランスウェイトを設置できない設置不可位置が指定された場合に、当該設置不可位置の指定を受け付ける第1受付ステップと、
前記第1受付ステップにて前記設置不可位置の指定を受け付けた場合に、区分けされた前記領域のうちの当該設置不可位置を含む領域において、前記第2パターンのうちの当該設置不可位置を含んだものを除いた残りの組合せパターンを、新たな第2パターンとして再設定する再設定ステップと、
を更に備える、請求項2又は3に記載の設置パターンの導出方法。
【請求項5】
前記かご部は、乗りかごと、当該乗りかごを支持するかごフレームと、を含み、
前記かごフレームは、前記乗りかごの底面側にて平行に並べて配置された2本のコネクティングビームを含んでおり、
前記2次元平面は、前記2本のコネクティングビームを含むように設定され、且つ、その2次元平面内において当該2本のコネクティングビームへの前記バランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が、前記取付候補位置として設定されている、請求項2又は3に記載の設置パターンの導出方法。
【請求項6】
前記導出ステップでは、前記目標モーメントとの誤差が許容範囲内になる前記第1パターンが複数現れた場合には、当該複数の第1パターンから、取り付けられる前記バランスウェイトの総重量が最小になるものを前記設置パターンとして導出する、請求項1~3の何れかに記載の設置パターンの導出方法。
【請求項7】
前記第1パターンのうちの、そこで選択されている前記取付候補位置の個数が小さいものから順に、前記算出ステップ及び前記導出ステップを実行し、当該導出ステップにて前記設置パターンを導出できるまで繰り返す、請求項1~3の何れかに記載の設置パターンの導出方法。
【請求項8】
バランス調整に用いる前記バランスウェイトの個数の上限値が指定された場合に、当該上限値の指定を受け付ける第2受付ステップ、
を更に備え、
前記第2受付ステップにて前記上限値の指定を受け付けた場合、前記第1パターンのうちの、そこで選択されている前記取付候補位置の個数が当該上限値以下であるものを対象として、前記算出ステップ及び前記導出ステップを実行する、請求項1~3の何れかに記載の設置パターンの導出方法。
【請求項9】
バランス調整用の目標モーメントをエレベータのかご部に発生させるバランスウェイトの設置パターンを導出するプログラムであって、
前記かご部において前記バランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が取付候補位置として設定されており、
コンピュータに、
前記取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンとして、当該第1パターンごとに、そこで選択されている前記取付候補位置に前記バランスウェイトを取り付けた場合に前記かご部に発生するモーメントを発生モーメントとして求める算出ステップと、
前記第1パターンのうちの、前記算出ステップで算出した前記発生モーメントについての前記目標モーメントとの誤差が許容範囲内であるものを、前記設置パターンとして導出する導出ステップと、
を実行させる、設置パターンの導出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのかご部のバランスを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかご部のバランス(かご部の傾き等)を調整する技術として、バランスウェイトをかご部に取り付けて調整する技術が、従来から用いられている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-153013号公報
【文献】特開2013-056718号公報
【文献】特開2013-173609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来は、作業員が、自身の経験に基づいて決めた位置にバランスウェイトをまずは取り付け、その後、バランス(かご部の傾き等)の測定と、その測定の結果に基づいたバランスウェイトの位置調整と、を繰り返し行うことにより、バランスウェイトの適切な設置位置を見付け出す必要があった。このため、作業員には、煩わしい作業が強いられていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、エレベータにおけるかご部のバランス調整に必要な作業の簡略化を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る導出方法は、バランス調整用の目標モーメントをエレベータのかご部に発生させるバランスウェイトの設置パターンを導出する方法であって、算出ステップと、導出ステップと、を備える。具体的には、かご部においてバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が取付候補位置として設定されている。そして、算出ステップでは、取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンとして、当該第1パターンごとに、そこで選択されている取付候補位置にバランスウェイトを取り付けた場合にかご部に発生するモーメントを発生モーメントとして求める。導出ステップでは、第1パターンのうちの、算出ステップで算出した発生モーメントについての目標モーメントとの誤差が許容範囲内であるものを、設置パターンとして導出する(態様1)。
【0007】
上記導出方法によれば、目標モーメントとの誤差が許容範囲内になるバランス調整用の設置パターンを簡単に導出することが可能になる。
【0008】
そして、作業員がかご部のバランス調整を行う場合には、作業員は、導出した設置パターンに従ってバランスウェイトをかご部に取り付けるといった簡単な作業を行うだけでよく、そのような簡単な作業だけで、目標モーメントとの誤差が許容範囲内になるモーメントをかご部に発生させることが可能になる。
【0009】
上記態様1に係る導出方法は、次のような構成を備えていてもよい(態様2)。具体的には、特定の高さ位置で水平に設定された2次元平面内において取付けの候補になり得る位置が、取付候補位置として設定されていてもよい。更に、2次元平面が少なくとも2つの領域に区分けされ、且つ、当該領域ごとに、その領域内に含まれている取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部が、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンとして設定されていてもよい。そして、区分けされた領域から第2パターンを1つずつ取り出して組み合わせたものを第1パターンとして、算出ステップ及び導出ステップを実行してもよい。
【0010】
上記態様2によれば、第1パターンとして、区分された複数の領域にバランスウェイトの設置位置を分散させた組合せパターンを効率良く設定することが可能になる。
【0011】
上記態様2に係る導出方法において、上記領域ごとに、当該領域内に含まれている取付候補位置の中から、隣接して1つに纏まっている取付候補位置だけを選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部が、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンとして設定されてもよい(態様3)。
【0012】
上記態様3によれば、各領域において取付候補位置が1つに纏まった組合せパターンだけが第2パターンとして設定されるため、導出される設置パターンにおいても、各領域には、取付候補位置が1つに纏まった状態で現れることになる(或いは、1つも取付候補位置がない状態になる)。よって、作業員が設置パターンに従ってバランスウェイトを取り付ける際には、作業員は、1つの纏まった場所にバランスウェイトを取り付けることができ、その結果として、作業員にとって作業が容易になる。
【0013】
更には、このように1つに纏まった組合せパターンだけを第2パターンとして設定することにより、第1パターン(区分けされた領域から第2パターンを1つずつ取り出して組み合わせたもの)の数を減らすことができ、その結果として、算出ステップでの計算量を低減させることができる。その一方で、第1パターンの数が制限されることになるが、第1パターンとしては、区分された複数の領域にバランスウェイトの設置位置を分散させた組合せパターンが設定されるため、その第1パターンの中には、目標モーメントとの誤差が許容範囲内になるものが含まれやすくなる。
【0014】
上記態様2又は3に係る導出方法は、第1受付ステップと、再設定ステップと、を更に備えていてもよい(態様4)。具体的には、第1受付ステップにおいて、取付候補位置の中から、バランスウェイトを設置できない設置不可位置が指定された場合に、当該設置不可位置の指定を受け付けてもよい。そして再設定ステップでは、第1受付ステップにて設置不可位置の指定を受け付けた場合に、区分けされた領域のうちの当該設置不可位置を含む領域において、第2パターンのうちの当該設置不可位置を含んだものを除いた残りの組合せパターンを、新たな第2パターンとして再設定してもよい。
【0015】
上記態様5によれば、設定済みの取付候補位置の中に設置不可位置が含まれている場合であっても、それを指定することにより、当該設置不可位置を除外した残りの組合せパターンを新たな第2パターンとして再設定し、その新たな第2パターンを用いて設置パターンを導出することが可能になる。
【0016】
上記態様2~4の何れかに係る導出方法は、次のような構成を備えていてもよい(態様5)。具体的には、かご部は、乗りかごと、当該乗りかごを支持するかごフレームと、を含んでいてもよい。また、かごフレームは、乗りかごの底面側にて平行に並べて配置された2本のコネクティングビームを含んでいてもよい。そして、2次元平面は、2本のコネクティングビームを含むように設定され、且つ、その2次元平面内において当該2本のコネクティングビームへのバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が、取付候補位置として設定されていてもよい。
【0017】
上記態様1~5の何れかに係る導出方法において、導出ステップでは、目標モーメントとの誤差が許容範囲内になる第1パターンが複数現れた場合には、当該複数の第1パターンから、取り付けられるバランスウェイトの総重量が最小になるものを設置パターンとして導出してもよい(態様6)。
【0018】
上記態様6によれば、かご部のバランス調整を、できるだけ小さい総重量で効率良く実現することが可能になる。
【0019】
上記態様1~6の何れかに係る導出方法において、第1パターンのうちの、そこで選択されている取付候補位置の個数が小さいものから順に、算出ステップ及び導出ステップを実行し、当該導出ステップにて設置パターンを導出できるまで繰り返してもよい(態様7)。
【0020】
上記態様7によれば、取付候補位置の個数が小さい第1パターンから順に設置パターンを探索することができ、見付けることができた場合には、その時点で設置パターンの導出を終了させることができる。従って、設置パターンの導出に必要な計算量を低減させることができる。しかも、かご部のバランス調整を、できるだけ小さい総重量で効率良く実現することが可能になる。
【0021】
上記態様1~7の何れかに係る導出方法は、第2受付ステップを更に備えていてもよい(態様8)。具体的には、第2受付ステップにおいて、バランス調整に用いるバランスウェイトの個数の上限値が指定された場合に、当該上限値の指定を受け付けてもよい。そして、第2受付ステップにて上限値の指定を受け付けた場合、第1パターンのうちの、そこで選択されている取付候補位置の個数が当該上限値以下であるものを対象として、算出ステップ及び導出ステップを実行してもよい。
【0022】
上記態様8によれば、バランス調整のために作業員が準備したバランスウェイトの個数を上限値として指定することにより、その上限値までの範囲内で設置パターンを導出することが可能になる。
【0023】
本発明に係る導出プログラムは、バランス調整用の目標モーメントをエレベータのかご部に発生させるバランスウェイトの設置パターンを導出するプログラムであって、コンピュータに、算出ステップと、導出ステップと、を実行させる。具体的には、かご部においてバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が取付候補位置として設定されている。そして、算出ステップでは、取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンとして、当該第1パターンごとに、そこで選択されている取付候補位置にバランスウェイトを取り付けた場合にかご部に発生するモーメントを発生モーメントとしてコンピュータに求めさせる。導出ステップでは、第1パターンのうちの、算出ステップで算出した発生モーメントについての目標モーメントとの誤差が許容範囲内であるものを、設置パターンとしてコンピュータに導出させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、かご部のバランス調整に必要な作業の簡略化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】エレベータのかご部の構成を例示した正面図である。
図2】かごフレームの本体部を示した斜視図である。
図3】バランス測定部をZ軸方向から見て示した概念図である。
図4】モーメントとガイドレールまでの距離との関係を示したグラフである。
図5】取付候補位置の設定方法を例示した概念図である。
図6】実施形態で用いられる第2パターンを示した概念図である。
図7】実施形態に係る設置パターンの導出方法を示したフローチャートである。
図8】第1変形例に係る設置パターンの導出方法を示したフローチャートである。
図9】第2変形例に係る設置パターンの導出方法を示したフローチャートである。
図10】第3変形例に係る設置パターンの導出方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[1]実施形態
[1-1]エレベータの構成
<かご部の構成>
図1は、エレベータのかご部1の構成を例示した正面図である。以下では、この図の紙面において左から右へ向かう水平方向をX軸方向とし、この図の紙面に垂直で且つこの紙面に向かう水平方向をY軸方向とする。また、X軸方向及びY軸方向の何れにも垂直な上向きの方向(鉛直上向きの方向)をZ軸方向とする。図1に示されるように、エレベータのかご部1は、利用者を収容する乗りかご11と、Z軸方向に延びた左右2本のガイドレール2に対して当該乗りかご11を昇降可能に設置するかごフレーム12と、を含む。
【0027】
かごフレーム12は、乗りかご11を支持する本体部121と、当該本体部121を昇降可能な状態で2本のガイドレール2に保持する4つの保持部122と、を含む。
【0028】
図2は、かごフレーム12の本体部121を示した斜視図である。図1及び図2に示されるように、本体部121には、乗りかご11を底面側から支持する底面側フレーム部121Aと、乗りかご11の左右の側面側にてガイドレール2に沿って配置される2つの側面側フレーム部121Bと、乗りかご11の天面側に配置された天面側フレーム部121Cと、が含まれており、これらのフレーム部が強固に連結されている。また、底面側フレーム部121Aには、乗りかご11の底面側において中央付近でX軸方向に延びたメインビームBm1と、当該メインビームBm1の前後の位置でX軸方向に延びると共に平行に並べて配置された2本のコネクティングビームBm2と、が含まれている。
【0029】
2本のガイドレール2は、何れも、断面がT字状となるように形成されたレールであり(図3参照)、T字の脚に相当する部分(以下、「脚部21」と称す)を内側へ向けた状態で設置されている(図1参照)。そして、各保持部122は、ガイドレール2の脚部21の先端面に当接する1つのローラ122Aと、ガイドレール2の脚部21を前後から挟む2つのローラ122Bと、によって構成されている(図1参照)。
【0030】
<バランス測定部の構成>
上述したかご部1には、当該かご部1のバランス(傾き)を測定するバランス測定部3が設けられている(図1参照)。
【0031】
図3は、バランス測定部3をZ軸方向から見て示した概念図である。この図に示されるように、バランス測定部3は、ガイドレール2の脚部21の先端面までのX軸方向の距離Lxを測定するセンサ31(レーザセンサなど)と、ガイドレール2の脚部21の前面(後面であってもよい)までのY軸方向の距離Lyを測定するセンサ32(レーザセンサなど)と、を含んでいる。
【0032】
バランス測定部3による距離Lx及びLyの測定によれば、かご部1のバランス(傾き)が変化したときに、その変化を、距離Lx及びLyの変化として捉えることが可能になる。具体的には、かご部1において最もバランスが取れているときの距離Lx及びLyをセンサ31及び32で測定しておき、そのときの距離Lx及びLyを基準距離Lx0及びLy0としておくことにより、かご部1のバランス(傾き)の変化を、当該基準距離Lx0及びLy0からの距離Lx及びLyの変化(ズレ)として捉えることができる。
【0033】
<バランスウェイトの構成>
上記バランス測定部3の測定結果に基づいてかご部1のバランス調整を行う場合、本実施形態では、上述した2本のコネクティングビームBm2にバランスウェイトが取り付けられる。
【0034】
従来は、作業員が、自身の経験に基づいて決めた位置にバランスウェイトをまずは取り付け、その後、バランス(かご部1の傾き)の測定と、その計測の結果に基づいたバランスウェイトの位置調整と、を繰り返し行うことにより、バランスウェイトの適切な設置位置を見付け出す必要があった。このため、作業員には、煩わしい作業が強いられていた。
【0035】
そこで本実施形態では、以下に説明する方法及びプログラムによってバランスウェイトの設置パターンSpを導出することにより、その設置パターンSpに従ってバランスウェイトを取り付けるといった簡単な作業でバランス調整を行えるようにする。これにより、かご部1のバランス調整に必要な作業の簡略化が可能になる。
【0036】
[1-2]設置パターンの導出方法及び導出プログラム
<事前準備(その1)>
1つ目の事前準備として、バランス調整のときにかご部1に発生させるべき目標モーメントMpを導出する。一例として、以下のようにしてバランス調整用の目標モーメントMpを導出することができる。
【0037】
まず、乗りかご11内の床面を、上述したX軸方向及びY軸方向を座標軸とするX-Y座標平面(床面の中心を原点とする2次元平面)と考え、そのX-Y座標平面におけるX軸上の3点(原点X0、正の位置X1、負の位置X2)にテストウェイトを順に設置していく。そして、そのテストウェイトによって各点に生じるY軸周りのモーメントMtyを算出する。また、バランス測定部3により、各点にテストウェイトを設置したきのX軸方向の距離Lxを測定する。
【0038】
図4(A)は、上述の方法で得られるY軸周りのモーメントMtyとX軸方向の距離Lxとの関係を示したグラフGsである。そして、このようなグラフGsを、乗りかご11の位置を変えて取得する。図4(B)は、最下層、中間層、最上層の3つの位置に乗りかご11を移動させ、それぞれの位置で上記グラフGsを取得した場合が示されている。尚、図4(B)では、最下層、中間層、最上層の3つの位置でのグラフGsがそれぞれグラフGs1、Gs2、Gs3として示されている。この図に示されるように、モーメントMtyが同じ値であっても、距離Lxは、乗りかご11に繋がれたケーブルなどの影響により、乗りかご11の位置に応じて変化し得る。
【0039】
次に、図4(B)の3つのグラフGs1~Gs3がそれぞれ示す距離Lxについての、モーメントMtyが或る値Myであるときの基準距離Lx0からのズレ幅dLx1~dLx3(誤差)の2乗総和を考える。そして、当該2乗総和が最小になるときのモーメントMtyの値を、バランス調整に必要なY軸周りの目標モーメントMpyとして導出する。
【0040】
更に、X-Y座標平面におけるY軸上の3点(原点Y0、正の位置Y1、負の位置Y2)にもテストウェイトを順に設置し、同様にして、バランス調整に必要なX軸周りの目標モーメントMpxを導出する。
【0041】
具体的には、テストウェイトによって各点に生じるX軸周りのモーメントMtxを算出し、また、バランス測定部3により、各点にテストウェイトを設置したきのY軸方向の距離Lyを測定することにより、X軸周りのモーメントMtxとY軸方向の距離Lyとの関係を示したグラフGtを取得する。更には、最下層、中間層、最上層の3つの位置に乗りかご11を移動させ、それぞれの位置で上記グラフGtを取得する(グラフGt1~Gt3。図4(B)参照)。
【0042】
次に、3つのグラフGt1~Gt3がそれぞれ示す距離Lyについての、モーメントMtxが或る値Mxにあるときの基準距離Ly0からのズレ幅dLy1~dLy3(誤差)の2乗総和を考える。そして、当該2乗総和が最小になるときのモーメントMtxの値を、バランス調整に必要なX軸周りの目標モーメントMpxとして導出する。
【0043】
<事前準備(その2)>
2つ目の事前準備として、かご部1においてバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置を取付候補位置Pdとして設定する。本実施形態では、2本のコネクティングビームBm2にバランスウェイトを取り付ける場合を考える。この場合、取付候補位置Pdを、以下のように設定することができる。
【0044】
まず、1つ目の事前準備で用いたX-Y座標平面(床面の中心を原点とする2次元平面)を下方へ移動させることにより、2本のコネクティングビームBm2を含むことになる特定の高さ位置にX-Y座標平面を設定する。尚、ここで設定したX-Y座標平面と、1つ目の事前準備で用いたX-Y座標平面とは、Z軸方向における位置の違いはあるもののその違いは僅かであるので、同じ2次元平面として同一視してもよい。
【0045】
そして、上記X-Y座標平面において2本のコネクティングビームBm2へのバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置を、取付候補位置Pdとして設定する。
【0046】
図5は、コネクティングビームBm2への取付候補位置Pdの設定方法を例示した概念図である。図5の例では、X-Y座標平面においてX軸方向に延びた各コネクティングビームBm2が占めている領域を複数の要素Rc(同じ形状(長方形)且つ同じ大きさの区画)に分割し、各要素Rcの中心位置を取付候補位置Pdとして設定した場合が示されている。
【0047】
この場合、取付候補位置Pdは、X軸方向において等間隔に設定され、取付候補位置PdのX座標Pdxは、|Pdx|=Wc×(j-0.5)と表される。ここで、Wcは、X軸方向における要素Rcの幅(要素幅)を表し、jは、自然数を表す(j=1、2、・・・)。また、取付候補位置PdのY座標Pdyについては、2つのコネクティングビームBm2にそれぞれ対応させて、Pdy=Yc1(>0)、Yc2(<0)と表すことにする。尚、図5の例では、各コネクティングビームBm2が占めている領域を20個の要素Rcに分割した場合、即ち、X軸方向において20個の取付候補位置Pdを等間隔に設定した場合が示されている。
【0048】
更に本実施形態では、上記取付候補位置Pdから少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る組合せパターンの一部を第1パターンSc1として設定する。この第1パターンSc1は、後述する導出方法に用いられる組合せパターンであり、バランス調整用の設置パターンSpになり得る組合せパターンである。具体的には、第1パターンSc1を以下のようにして設定する。
【0049】
まず、X-Y座標平面(2次元平面)を、X軸及びY軸を境界とする4つの領域Qr(原点周りの第1象限~第4象限に対応した領域Qr1~Qr4)に区分けする(図5参照)。そして、当該領域Qrごとに、その領域Qr内に含まれている取付候補位置Pdから少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る組合せパターンの一部を、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンSc2として設定する。
【0050】
より具体的には、領域Qrごとに、当該領域Qr内に含まれている取付候補位置Pdの中から、図6に示されるように、隣接して1つに纏まっている取付候補位置Pdだけを選択する場合(取付候補位置Pdを1つだけ選択する場合を含む)に考え得る全ての組合せパターンを、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンSc2として設定する。図6は、本実施形態で用いられる第2パターンSc2を示した概念図である。図6では、各領域Qr内に含まれる10個の取付候補位置Pdについて、1つも選択しない場合も含めて56個の第2パターンSc2を設定した場合が示されている。尚、図6では、各組合せパターンにおいてどの取付候補位置Pdが選択されているのかが、選択された取付候補位置Pdに対応している要素Rcにハッチングを施すことで示されている。
【0051】
また、各領域Qr内に含まれている10個の取付候補位置Pdに10個のビットをそれぞれ対応させ、且つ、当該10個のビットを、Y軸に近い取付候補位置Pdに対応するものから順に並べることにより、上述した56個の第2パターンSc2を、10個のビットで構成されたビット列Cn(nは、56個のビット列を区別するためのインデックスである。n=1、2、・・・、56)で表すことができる。ここで、各ビットには、対応する取付候補位置Pdが選択される場合には「1」の値が代入され、選択されない場合には「0」の値が代入される。
【0052】
このように第2パターンSc2を設定することにより、区分けされた4つの領域Qr1~Qr4の全てから第2パターンSc2(56個の第2パターンSc2のうちの何れか)を1つずつ取り出して組み合わせたものを第1パターンSc1として設定することができる。これにより、第1パターンSc1として、区分された4つの領域Qr1~Qr4にバランスウェイトの設置位置を分散させた組合せパターンを効率良く設定することが可能になる。
【0053】
<設置パターンの導出方法>
上述した事前準備を行った上で、本実施形態では、当該事前準備で得た目標モーメントMpをエレベータのかご部1に発生させるためのバランスウェイトの設置パターンSpを導出する。ここで、設置パターンSpは、目標モーメントMpをエレベータのかご部1に発生させることができるバランスウェイトの位置関係(X-Y座標平面内での位置関係)を表したものである。そして本実施形態では、そのような位置関係が、事前準備で設定した取付候補位置Pdの組合せパターン(第1パターンSc1)の中から抽出される。以下、設置パターンSpの導出方法について具体的に説明する。
【0054】
図7は、本実施形態に係る設置パターンSpの導出方法を示したフローチャートである。本実施形態の導出方法は、算出ステップS11と、導出ステップS12と、を備える。
【0055】
算出ステップS11では、事前準備で設定した第1パターンSc1ごとに、そこで選択されている取付候補位置Pdにバランスウェイトを取り付けた場合にかご部1に発生するモーメントを発生モーメントMcとして求める。
【0056】
具体的には、区分けされた4つの領域Qri(i=1、2、3、4)から第2パターンSc2(56個の第2パターンSc2のうちの何れか)を1つずつ取り出して組み合わせたものを第1パターンSc1として、当該第1パターンSc1のそれぞれについて、[数1]を用いてX軸周りの発生モーメントMcxを算出し、また、[数2]を用いてY軸周りの発生モーメントMcyを算出する。
【0057】
【数1】
【0058】
ここで、Mcx(i)は、領域Qriに発生するX軸周りのモーメントの絶対値を表す。Niは、領域Qri内に含まれている取付候補位置Pdの個数を表し、本実施形態では、何れの領域QriにおいてもNi=10である。gwは、バランスウェイトの重量を表し、本実施形態では、何れの取付候補位置Pdにおいても同じ重量gwのバランスウェイトが取り付けられるものとする。Yc(i)は、i=1、2の場合はYc(i)=|Yc1|であり、i=3、4の場合はYc(i)=|Yc2|である。niは、領域Qriの第2パターンSc2として取り出したビット列Cnに付されているインデックスを表す。jは、ビット列Cn内での各ビットの位置を、Y軸に近い取付候補位置Pdに対応するビットの位置から順に表すインデックスである(j=1、2、・・・)。
【0059】
【数2】
【0060】
ここで、Mcy(i)は、領域Qriに発生するY軸周りのモーメントの絶対値を表す。Wcは、X軸方向における要素Rcの幅(要素幅)を表す(図5参照)。
【0061】
そして、算出ステップS11では、4つの領域Qri(i=1、2、3、4)から第2パターンSc2(56個の第2パターンSc2のうちの何れか)を1つずつ取り出して組み合わせた全ての第1パターンSc1(56の4乗個のパターン)について、上記[数1]及び[数2]を用いて発生モーメントMcx及びMcyを算出する。
【0062】
導出ステップS12では、第1パターンSc1(本実施形態では、56の4乗個の組合せパターン)のうちの、算出ステップS11で算出した発生モーメントMcについての目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内であるものを、設置パターンSpとして導出する。
【0063】
具体的には、第1パターンSc1のうちの、算出ステップS11で算出したX軸周りの発生モーメントMcxについてのX軸周りの目標モーメントMpxとの誤差が許容範囲内(所定値dMx以下)であり、且つ、算出ステップS11で算出されたY軸周りの発生モーメントMcyについてのY軸周りの目標モーメントMpyとの誤差が許容範囲内(所定値dMy以下)であるものを抽出する(ステップS12A)。
【0064】
ステップS12Aでは、X軸周り及びY軸周りの何れの誤差も許容範囲内になる第1パターンSc1が複数現れ、その結果として複数の第1パターンSc1が抽出される場合がある。
【0065】
そこで、抽出した第1パターンSc1が「1つ」であるのか、それとも「複数」であるのかを判断する(ステップS12B)。そして、ステップS12Bにて「1つ」であると判断した場合には、その1つの第1パターンSc1を設置パターンSpとして導出する(ステップS12C)。一方、ステップS12Bにて「複数」であると判断した場合には、当該複数の第1パターンSc1から、取り付けられるバランスウェイトの総重量が最小になるものを設置パターンSpとして導出する(ステップS12D)。
【0066】
このような導出方法によれば、目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内になるバランス調整用の設置パターンSpを簡単に導出することが可能になる。
【0067】
そして、作業員がかご部1のバランス調整を行う場合には、作業員は、導出した設置パターンSpに従ってバランスウェイトをかご部1に取り付けるといった簡単な作業を行うだけでよく、そのような簡単な作業だけで、目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内になるモーメントをかご部1に発生させることが可能になる。
【0068】
また本実施形態では、各領域Qrにおいて取付候補位置Pdが1つに纏まった組合せパターンだけが第2パターンSc2として設定されるため、導出される設置パターンSpにおいても、各領域Qrには、取付候補位置Pdが1つに纏まった状態で現れることになる(或いは、1つも取付候補位置Pdがない状態になる)。よって、作業員が設置パターンSpに従ってバランスウェイトをかご部1に取り付ける際には、作業員は、1つの纏まった場所にバランスウェイトを取り付けることができ、その結果として、作業員にとって作業が容易になる。
【0069】
更には、このように1つに纏まった組合せパターンだけを第2パターンSc2として設定することにより、第1パターンSc1(区分けされた4つの領域Qr1~Qr4の全てから第2パターンSc2を1つずつ取り出して組み合わせたもの)の数を減らすことができ、その結果として、算出ステップS11での計算量を低減させることができる。その一方で、第1パターンSc1の数が制限されることになるが、第1パターンSc1としては、区分された4つの領域Qr1~Qr4にバランスウェイトの設置位置を分散させた組合せパターンが設定されるため、その第1パターンSc1の中には、目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内になるものが含まれやすくなる。
【0070】
また本実施形態では、導出ステップS12において、目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内になる第1パターンSc1が複数現れた場合には、当該複数の第1パターンSc1から、取り付けられるバランスウェイトの総重量が最小になるものが設置パターンSpとして導出される。従って、かご部1のバランス調整を、できるだけ小さい総重量で効率良く実現することが可能になる。
【0071】
<設置パターンの導出プログラム>
上述した算出ステップS11及び導出ステップS12は、コンピュータによって実行されてもよい。そして、それらのステップをコンピュータに実行させるプログラム(設置パターンSpの導出プログラム)は、携帯可能な記憶媒体(例えば、フラッシュメモリ等)に読取可能な状態で保存されてもよいし、サーバなどの外部装置にダウンロード可能な状態で保存されてもよい。
【0072】
[2]変形例
[2-1]第1変形例
エレベータによっては、設定済みの取付候補位置Pd(図5参照)の中に、何らかの事情でバランスウェイトを設置できない設置不可位置Peが含まれてしまう場合がある。そこで、上述した導出方法及び導出プログラムは、そのような設置不可位置Peを除いて設置パターンSpを導出することができるものに適宜変更されてもよい。
【0073】
図8は、第1変形例に係る設置パターンSpの導出方法を示したフローチャートである。本変形例では、導出方法は、第1受付ステップS21と、再設定ステップS22と、を更に備える。また、これらのステップは、他のステップと共にコンピュータによって実行されてもよい。
【0074】
第1受付ステップS21では、取付候補位置Pdの中から設置不可位置Peが指定された場合に、当該設置不可位置Peの指定を受け付ける。ここで、このステップをコンピュータに実行させる場合には、取付候補位置Pdの中から設置不可位置Peであるものを選択するための選択画面の表示をコンピュータに実行させ、その選択画面にて作業員が取付候補位置Pdの何れか1つを選択した場合に、選択された取付候補位置Pdが設置不可位置Peとして指定されたものとして、その指定の受付けをコンピュータに実行させる。
【0075】
再設定ステップS22では、上記第1受付ステップS21で受け付けた設置不可位置Peを含んでいる領域Qr(ここでは、区分けされた4つの領域Qr1~Qr4の何れか)において、上述した第2パターンSc2(図6参照)のうちの当該設置不可位置Peを含んだものを除いた残りの組合せパターンを、新たな第2パターンSc2として再設定する。
【0076】
第1変形例によれば、設定済みの取付候補位置Pdの中に設置不可位置Peが含まれている場合であっても、それを指定することにより、当該設置不可位置Peを除外した残りの組合せパターンを新たな第2パターンSc2として再設定し、その新たな第2パターンSc2を用いて設置パターンSpを導出することが可能になる。
【0077】
[2-2]第2変形例
上述した導出方法及び導出プログラムは、第1パターンSc1のうちの、そこで選択されている取付候補位置Pdの個数Nc(Nc≧1)が小さいものから順に、算出ステップS11及び導出ステップS12を実行し、当該導出ステップS12にて設置パターンSpを導出できるまで繰り返すものに変更されてもよい。
【0078】
図9は、第2変形例に係る設置パターンSpの導出方法を示したフローチャートである。本変形例では、まず、取付候補位置Pdの個数Ncを表すパラメータmを用いて、それをm=1に設定する(ステップS31)。次に、区分けされた4つの領域Qr1~Qr4の全てから第2パターンSc2を1つずつ取り出して組み合わせたものを第1パターンSc1とするときに、当該第1パターンSc1での取付候補位置Pdの個数NcがNc=mになる第2パターンSc2の組合せを抽出する(ステップS32)。
【0079】
そして、算出ステップS11では、ステップS32で抽出した第2パターンSc2の組合せ(Nc=mの第1パターンSc1)を対象として、各組合せについての発生モーメントMcを算出する。
【0080】
次に、導出ステップS12において、ステップS31で抽出した第2パターンSc2の組合せ(Nc=mの第1パターンSc1)の中から、算出ステップS11で算出した発生モーメントMcについての目標モーメントMpとの誤差が許容範囲内であるものを抽出する(ステップS12A)。
【0081】
その後、誤差が許容範囲内である第2パターンSc2の組合せ(Nc=mの第1パターンSc1)を抽出できたか否かを判断する(ステップS12E)。ステップS12Eにて「抽出できた(Yes)」と判断した場合には、抽出した第2パターンSc2の組合せ(Nc=mの第1パターンSc1)を設置パターンSpとして導出する(ステップS12F)。一方、ステップS12Eにて「抽出できなかった(No)」と判断した場合には、パラメータmに1を加算し(ステップS12G)、それからステップS32に戻って同じことを繰り返す。
【0082】
尚、ステップS12Aにおいて、誤差が許容範囲内である第2パターンSc2の組合せ(Nc=mの第1パターンSc1)が複数抽出された場合には、何れか1つを作業員に選択させてもよい。例えば、本変形例のステップをコンピュータに実行させる場合には、ステップS12Aで抽出された複数の第1パターンSc1の何れか1つを選択するための選択画面の表示をコンピュータに実行させ、当該選択画面にて作業員が第1パターンSc1の何れか1つを選択した場合に、選択された第1パターンSc1を設置パターンSpとしてコンピュータに導出させてもよい。
【0083】
第2変形例によれば、取付候補位置Pdの個数Ncが小さい第1パターンSc1から順に設置パターンSpを探索することができ、見付けることができた場合には、その時点で設置パターンSpの導出を終了させることができる。従って、設置パターンSpの導出に必要な計算量を低減させることができる。しかも、かご部1のバランス調整を、できるだけ小さい総重量で効率良く実現することが可能になる。
【0084】
尚、本変形例の導出方法及び導出プログラムは、上述したように取付候補位置Pdの個数Ncが同じである第1パターンSc1を1つのグループにして、個数Ncが小さいグループから順に算出ステップS11及び導出ステップS12を実行するものに限らず、これに代えて、取付候補位置Pdの数Ncが小さい第1パターンSc1から順に1つずつ、算出ステップS11及び導出ステップS12を実行するものに適宜変更されてもよい。
【0085】
[2-3]第3変形例
作業員がかご部1のバランス調整を行う場合、そのために当該作業員が準備できるバランスウェイトの個数Ndには上限がある。そこで、上述した導出方法及び導出プログラムは、バランスウェイトの個数Ndの上限値Ndhの範囲内で設置パターンSpを導出することができるものに適宜変更されてもよい。
【0086】
図10は、第3変形例に係る設置パターンSpの導出方法を示したフローチャートである。本変形例では、導出方法は、第2受付ステップS41を更に備える。また、このステップは、他のステップと共にコンピュータによって実行されてもよい。
【0087】
第2受付ステップS41では、バランス調整に用いるバランスウェイトの個数Ndの上限値Ndhが、例えば作業員によって指定された場合に、当該上限値Ndhの指定を受け付ける。ここで、このステップをコンピュータに実行させる場合には、上限値Ndhの入力画面の表示をコンピュータに実行させ、その入力画面にて作業員が数字を入力した場合に、入力された数字が上限値Ndhとして指定されたものとして、その指定の受付けをコンピュータに実行させる。
【0088】
そして、第2受付ステップS41にて上限値Ndhの指定を受け付けた場合、第1パターンSc1のうちの、そこで選択されている取付候補位置Pdの個数Ncが上限値Ndh以下であるものを対象として、算出ステップS11及び導出ステップS12を実行する。
【0089】
具体的には、区分けされた4つの領域Qr1~Qr4の全てから第2パターンSc2を1つずつ取り出して組み合わせたものを第1パターンSc1とするときに、当該第1パターンSc1での取付候補位置Pdの個数Ncが上限値Ndh以下になる第2パターンSc2の組合せを抽出する(ステップS42)。そして、ステップS42で抽出した第2パターンSc2の組合せ(Nc≦Ndhの第1パターンSc1)を対象として、算出ステップS11及び導出ステップS12を実行する。
【0090】
第3変形例によれば、バランス調整のために作業員が準備したバランスウェイトの個数Ndを上限値Ndhとして指定することにより、その上限値Ndhまでの範囲内で設置パターンSpを導出することが可能になる。
【0091】
[2-4]第4変形例
上述した導出方法及び導出プログラムにおいて、取付候補位置Pdは、コネクティングビームBm2において取付けの候補になり得る位置に限らず、かごフレーム12の構成に応じて、別の部分において取付けの候補になり得る位置に適宜変更されてもよい。また、取付候補位置Pdは、かごフレーム12の構成に応じて、X-Y座標平面(2次元平面)内にマトリクス状又は格子状に設定されてもよい。このようにマトリクス状又は格子状に設定する場合においても、区分けされた各領域Qrにおいては、隣接して1つに纏まっている取付候補位置Pd(ライン状又は島状に纏まった取付候補位置Pd)だけを選択する組合せパターンを、1つも選択しない場合も含めて、第2パターンSc2として設定することができる。
【0092】
[2-5]第5変形例
上述した導出方法及び導出プログラムにおいては、第2パターンSc2の設定に際して、X-Y座標平面を、4つの領域Qrに区分けする場合に限らず、4つ以外の複数の領域Qrに区分けしてもよい。
【0093】
また、区分けした領域Qrごとに第2パターンSc2を設定する場合、各領域Qrにおいて複数の纏まりが現れるような組合せパターンを第2パターンSc2として設定してもよい。
【0094】
或いは、区分けせずに、X-Y座標平面上の全ての取付候補位置Pdを対象として、それらの取付候補位置Pdから少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンSc1としてもよい。
【0095】
[2-6]第6変形例
上述した導出方法及び導出プログラムは、取付候補位置Pdに取り付けるバランスウェイトの重量gwを可変にしたものに適宜変更されてもよい。
【0096】
[2-7]第7変形例
上述した事前準備(その1)を行う場合において、既にバランスウェイトがかご部1に取り付けられている場合には、当該バランスウェイトをテストウェイトと考えて目標モーメントMpを導出してもよい。そして、その目標モーメントMpを用いて設置パターンSpを導出した後は、その設置パターンSpになるように、既に取り付けられているバランスウェイトの位置を変更したり、当該バランスウェイトを除去したりしてもよい。
【0097】
上述の実施形態及び変形例の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態や変形例ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
1 かご部
2 ガイドレール
3 バランス測定部
11 乗りかご
12 かごフレーム
21 脚部
31、32 センサ
Cn ビット列
Gs、Gs1、Gs2、Gs3 グラフ
Gt、Gt1、Gt2、Gt3 グラフ
Lx、Ly 距離
Mc、Mcx、Mcy 発生モーメント
Mp、Mpx、Mpy 目標モーメント
Mx、My 或る値
Nc、Nd 個数
Pd 取付候補位置
Pdx X座標
Pdy Y座標
Pe 設置不可位置
Qr、Qr1、Qr2、Qr3、Qr4、Qri 領域
Rc 要素
Sp 設置パターン
X0、Y0 原点
X1、Y1 正の位置
X2、Y2 負の位置
gw 重量
121 本体部
121A 底面側フレーム部
121B 側面側フレーム部
121C 天面側フレーム部
122 保持部
122A、122B ローラ
Bm1 メインビーム
Bm2 コネクティングビーム
Lx0、Ly0 基準距離
Mtx、Mty モーメント
Ndh 上限値
Sc1 第1パターン
Sc2 第2パターン
dLx1、dLx2、dLx3 ズレ幅
dLy1、dLy2、dLy3 ズレ幅
dMx、dMy 所定値
S11 算出ステップ
S12 導出ステップ
S21 第1受付ステップ
S22 再設定ステップ
S41 第2受付ステップ
【要約】
【課題】エレベータにおけるかご部のバランス調整に必要な作業の簡略化を可能にする。
【解決手段】導出方法は、バランスウェイトの設置パターンを導出する方法であって、算出ステップと、導出ステップと、を備える。具体的には、かご部においてバランスウェイトの取付けの候補になり得る位置が取付候補位置として設定されている。そして、算出ステップでは、取付候補位置から少なくとも1つの位置を選択する場合に考え得る全ての組合せパターン又はその一部を第1パターンとして、当該第1パターンごとに、そこで選択されている取付候補位置にバランスウェイトを取り付けた場合にかご部に発生するモーメントを発生モーメントとして求める。導出ステップでは、第1パターンのうちの、算出ステップで算出した発生モーメントについてのバランス調整用の目標モーメントとの誤差が許容範囲内であるものを、設置パターンとして導出する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10