(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】火災検知装置及び火災検知方法
(51)【国際特許分類】
G08B 17/12 20060101AFI20240509BHJP
G08B 25/00 20060101ALI20240509BHJP
G08B 21/00 20060101ALI20240509BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240509BHJP
G01V 8/10 20060101ALI20240509BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G08B17/12 B
G08B25/00 510M
G08B21/00 A
G06T7/00 640
G01V8/10 S
G08B25/10 C
(21)【出願番号】P 2023503931
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008985
(87)【国際公開番号】W WO2022186306
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2021032432
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】川添 悠子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正雄
【審査官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-328333(JP,A)
【文献】特表2019-513315(JP,A)
【文献】特開2006-179030(JP,A)
【文献】永谷泉、工藤純一,MODISデータを用いた森林火災検出のための疑似カラー 合成手法の開発,Journal of The Remote Sensing Society of Japan Vol.33 No.1(2013),33巻1号,2013年01月30日,38-47頁,[検索日:2022.4.19]インターネッ ト:<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/33/1/33_38/_pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00-31/00
A61B 5/00- 5/01
G01V 1/00-99/00
G06T 7/00- 7/90
H04B 7/24- 7/26
H04L41/00-43/55
H04M 3/00
3/16- 3/20
3/38- 3/58
7/00- 7/16
11/00-11/10
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星に搭載された放射計の観測データを用いて、地球上の火災を検知する火災検知装置であって、
前記観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成する画像生成部と、
前記疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化する処理部と、
前記処理部によって伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定する判定部と、
を備える、火災検知装置。
【請求項2】
前記処理部は、伸張化したピクセルデータを正規化し、
前記判定部は、正規化後のピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定する、
請求項1に記載の火災検知装置。
【請求項3】
前記ピクセルデータは、煙に対する反射率に関する指数である煙エアロゾル反射率指数と、大気及び地表の水分量に関する水分指数と、を含み、
前記処理部は、前記抽出部によって抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータのうち、煙エアロゾル反射率指数及び水分指数のいずれか又は両方を伸張化する、
請求項1に記載の火災検知装置。
【請求項4】
前記処理部は、煙エアロゾル反射率指数及び水分指数のうち、伸張化された指数を正規化する、
請求項3に記載の火災検知装置。
【請求項5】
前記観測データのうち、輝度温度を示す観測バンドの情報に基づいて火災の発生の疑いがある位置である火災候補位置を特定する火災候補位置特定部と、
前記火災候補位置を含む所定のエリアを火災検知エリアとして作成する火災検知エリア作成部と、
を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の火災検知装置。
【請求項6】
前記判定部は、ピクセルデータ又はピクセルデータに基づく値を入力データとし、入力データが火災を示すか否かの判定結果を出力する学習モデルを有し、前記処理部による伸張化後の前記ピクセルデータ又は当該ピクセルデータに基づく値を前記学習モデルに入力することで火災の有無を判定する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の火災検知装置。
【請求項7】
人工衛星に搭載された放射計の観測データを用いて、地球上の火災を検知する火災検知装置の火災検知方法であって、
前記観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成するステップと、
前記疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像を抽出するステップと、
抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化するステップと、
伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定するステップと、
を含む火災検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、火災検知装置及び火災検知方法に関する。
本願は、2021年3月2日に日本に出願された特願2021-032432号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星の観測データを用いて、森林火災の煙を検出する手法が知られている。例えば、非特許文献1には、観測データからRGBの疑似カラー合成画像を生成し、この疑似画像のデータから森林火災の煙を検出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】永谷 泉,工藤 純一「MODISデータを用いた森林火災煙検出のための疑似カラー合成手法の開発」,Journal of the Remote Sensing Society of Japan Vol.33 No.1(2013)PP.38-47.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大気中の水分量などの大気の影響により、疑似カラー合成画像において火災の発生を示すデータと火災の発生を示さないデータとの区別が付きにくくなり、煙による火災検知の精度が低下する場合がある。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、疑似カラー合成画像のデータから火災検知を行う場合において、その火災検知の精度を向上させることができる火災検知装置及び火災検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の第一の態様は、人工衛星に搭載された放射計の観測データを用いて、地球上の火災を検知する火災検知装置であって、前記観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成する画像生成部と、前記疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像を抽出する抽出部と、前記抽出部によって抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化する処理部と、前記処理部によって伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定する判定部と、を備える、火災検知装置である。
【0007】
(2)上記(1)の火災検知装置であって、前記処理部は、伸張化したピクセルデータを正規化し、前記判定部は、正規化後のピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定してもよい。
【0008】
(3)上記(1)の火災検知装置であって、前記ピクセルデータは、煙に対する反射率に関する指数である煙エアロゾル反射率指数と、大気及び地表の水分量に関する水分指数と、を含み、前記処理部は、前記抽出部によって抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータのうち、煙エアロゾル反射率指数及び水分指数のいずれか又は両方を伸張化してもよい。
【0009】
(4)上記(3)の火災検知装置であって、前記処理部は、煙エアロゾル反射率指数及び水分指数のうち、伸張化された指数を正規化してもよい。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかの火災検知装置であって、前記観測データのうち、輝度温度を示す観測バンドの情報に基づいて火災の発生の疑いがある位置である火災候補位置を特定する火災候補位置特定部と、前記火災候補位置を含む所定のエリアを火災検知エリアとして作成する火災検知エリア作成部と、を備えてもよい。
【0011】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれかの火災検知装置であって、前記判定部は、ピクセルデータ又はピクセルデータに基づく値を入力データとし、入力データが火災を示すか否かの判定結果を出力する学習モデルを有し、前記処理部による伸張化後の前記ピクセルデータ又は当該ピクセルデータに基づく値を前記学習モデルに入力することで火災の有無を判定してもよい。
【0012】
(7)本開示の第二の態様は、人工衛星に搭載された放射計の観測データを用いて、地球上の火災を検知する火災検知装置の火災検知方法であって、前記観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成するステップと、前記疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像を抽出するステップと、抽出された画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化するステップと、伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定するステップと、を含む火災検知方法である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本開示によれば、疑似カラー合成画像のデータから火災検知を行う場合において、その火災検知の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る火災検知システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る火災検知装置の概略構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係る火災検知装置のフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態に係る火災検知システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態に係る火災検知装置の概略構成図である。
【
図6】第2の実施形態に係る判定閾値(境界線)を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る火災検知装置のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る火災検知装置を、図面を用いて説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る火災検知装置を含む火災検知システムAの概略構成の一例を示す図である。火災検知システムAは、人工衛星1、地上受信局2、及び火災検知装置3を備える。
【0017】
人工衛星1は、赤道上空の高度約36000kmの静止軌道に配置された静止衛星であり、地球の自転と同じ周期で公転する。例えば、人工衛星1は、静止気象衛星「ひまわり」である。この人工衛星1は、可視赤外放射計100を搭載しており、所定の波長帯(観測バンド)における放射輝度(観測データ)を一定周期ごとに計測することができる。
【0018】
したがって、人工衛星1は、低軌道衛星(地上から高度数千キロメートル程度で地球を周回する衛生)よりも時間分解能が高い観測データを取得することができる。人工衛星1は、観測データを取得すると、その取得した観測データを地球上の地上受信局2に送信する。なお、本実施形態の一例として、以下の説明では、人工衛星1がひまわり8号である場合について説明するが、これに限定されず、他の人工衛星であってもよい。
【0019】
地上受信局2は、地上の所定場所に設けられ、人工衛星1からの観測データを受信する通信設備である。地上受信局2は、人工衛星1と無線通信を行うための無線アンテナ及び無線通信機を少なくとも備え、人工衛星1が間欠的に送信してくる観測データを受信して火災検知装置3に出力する。
【0020】
火災検知装置3は、人工衛星1に搭載された放射計100の観測データを用いて、地球上における火災検知エリアの火災を検知する。火災検知装置3は、例えば、データセンターであってもよいし、その他の情報処理装置であってもよい。なお、火災検知装置3は、地上受信局2から観測データを取得したが、これに限定されず、例えば、気象庁のサーバから観測データを取得してもよい。
【0021】
ここで、一例として、人工衛星1の可視赤外放射計100は、可視3バンド、近赤外・赤外13バンドの合計16のバンド構成である。そのうち、人工衛星1がひまわり8号である場合には、火災検知装置3は、バンド番号1のバンドB1、バンド番号3のバンドB3、バンド番号6のバンドB6、バンド番号7のバンドB7、バンド番号14のバンドB14、バンド番号15のバンドB15の観測データを用いる。
【0022】
以下に、第1の実施形態に係る火災検知装置3の構成について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る火災検知装置3の概略構成図である。
【0023】
火災検知装置3は、火災候補位置特定部10及び火災検知部20を備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0024】
火災候補位置特定部10は、観測バンドがバンドB7の観測データを用いて、火災の発生の疑いがある位置(以下、「火災候補位置」という。)を特定する。例えば、火災候補位置特定部10は、バンドB7の観測データを輝度温度の情報として使用し、その輝度温度に基づいて火災候補位置を特定する。そして、火災候補位置特定部10は、特定した火災候補位置を示す位置情報を火災検知部20に送信する。
【0025】
火災検知部20は、画像生成部30、マスク部31、火災検知エリア作成部32、抽出部33、処理部34、及び判定部35を備える。
【0026】
画像生成部30は、観測データに基づいて、RGBカラーの疑似カラー合成画像を生成する。例えば、画像生成部30は、非特許文献1に開示された手法を用いて、疑似カラー合成画像を生成してもよい。
【0027】
以下において、疑似カラー合成画像を生成する方法の一例を説明する。画像生成部30は、バンドB1、バンドB3、バンドB6、バンドB14、及びバンドB15の観測データに基づいて、疑似カラー合成画像を生成する。具体的には、まず、画像生成部30は、バンドB1及びバンドB3の煙エアロゾルに対する反射率の違いを利用し、バンドB1とバンドB3との差分を取ることで煙エアロゾル反射率AE(Aerosol Enhancement:AE)を求める。この煙エアロゾル反射率AEは、地上被覆物の反射率が抑えられた反射率である。例えば、画像生成部30は、より効果的に煙エアロゾル反射率AEを得るために、バンドB3の2倍の反射率とバンドB1の反射率との差分を利用して煙エアロゾル反射率AEを算出してもよい。
【0028】
次に、画像生成部30は、煙エアロゾル反射率AEに基づいて、煙エアロゾル反射率指数(以下、「SARI」という。:Smoke Aerosol Reflectance Index)を求める。SARIは、煙エアロゾル反射率AEを指数関数で画像強調させて濃度の違いを識別できるようにするための値であって、煙エアロゾル反射率AEを指数関数強調で得られる指数である。このSARIは、煙濃度との相関を示すものである。このように、SARIは、バンドB3とバンドB1との差分を取ることで土壌,植生,都市などの主要被覆物の反射率が抑えられた値であって煙エアロゾル反射率AEを強調した指数である。
【0029】
画像生成部30は、バンドB14とバンド15との輝度温度の差分を用いて、疑似カラー合成画像を生成する。画像生成部30は、火災煙と雲や雪氷とを判別するための水分指数(以下、「WI」という。(Water Index))を生成する。このWIは、大気と地表の水分量に関する情報である。WIの算出方法は、例えば、非特許文献1に記載されている手法を用いて算出される。
【0030】
画像生成部30は、SARIとWIとに基づいて、疑似カラー合成画像を生成する。例えば、画像生成部30は、「R」にSARI、「G」にバンドB6の反射率、「B」にWIを割り当てることにより、煙を赤色に表現した疑似カラー合成画像を生成する。ここで、疑似カラー合成画像においては、バンドB6(中間赤外反射率)は煙には反射を示さず、厚い雲には反射を示す。このように、「G」にバンドB6を割り当てることで、煙を赤色で表し、厚い雲を白色に表現することができる。このように、疑似カラー合成画像では、煙が赤色、土壌や森林が緑色、厚い雲がピンク色から白色、薄雲や霧、雪氷、水面が青系色で示される。これにより、疑似カラー合成画像によって森林火災の煙の識別が可能となる。
【0031】
火災検知エリア作成部32は、火災候補位置特定部10からの火災候補位置に基づいて、火災検知エリアROI(Region Of Interest)を作成する。例えば、火災検知エリアROIは、火災候補位置を有する矩形形状の領域である。例えば、火災検知エリアROIは、火災候補位置を中心とする正方形(例えば、25[km]×25[km])の領域である。
【0032】
マスク部31は、第1マスク部310及び第2マスク部320を備える。
【0033】
第1マスク部310は、WIとバンドB6とに基づいて、疑似カラー合成画像の各ピクセルデータにおいて雲の有無を判定する。マスク部31は、疑似カラー合成画像において、雲があると判定したピクセルデータを検知対象としないようにマスク処理して除外する。これは、雲が有ると地表のデータが疑似カラー合成画像に反映されないためである。
【0034】
第2マスク部320は、疑似カラー合成画像において、海の領域に相当するピクセルデータを検知対象としないように除外する。海上は太陽からの入光角度によって高い輝度温度を示してしまうこと、また、海上で火災は生じる可能性が低いことを考慮して、検知対象としないようマスク処理して除外する。
【0035】
抽出部33は、疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリア作成部32が作成した火災検知エリアROIの範囲の画像(以下、「抽出画像」という。)を抽出する。
【0036】
処理部34は、抽出部33によって抽出された抽出画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化する。ここで、伸張化するピクセルデータは、SARI及びWIのうち、いずれか又は両方のデータである。伸張化とは、抽出画像内のピクセル毎のピクセルデータの分布を、より広い範囲に分布するように拡げる処理である。なお、以下において、伸張化する前のピクセルデータを「第1データ」と称する場合がある。
【0037】
例えば、処理部34は、引き伸ばしたい範囲(a,b)を決定する。本実施形態では、一例として処理部34は、aを「データの中の最小値」、bを「データの中の最大値」として決定する。そして、処理部34は、aを「0レベル」、bを「255レベル」になるように伸張化する。例えば、この伸張化は、ヒストグラム伸張であってもよい。
【0038】
次に、処理部34は、第1データを伸張化した後のピクセルデータ(以下、「第2データ」という。)を正規化する。ここで、第2データは、伸張化されたSARIとWIとのデータ、伸張化されたSARIと伸張化されていないWIとのデータ、及び、伸張化されていないSARIと伸張化されたWIとのデータ、のいずれかのデータである。例えば、処理部34は、ピクセル毎の第2データの平均値を「1」として第2データを正規化する。なお、第2データを正規化した後のピクセルデータを第3データと称する。ただし、これに限定されず、処理部34は、正規化処理を省略してもよい。
処理部34が、SARI及びWIの両方のデータを伸長化する場合に、伸長化されたSARI及びWIのうち、いずれか一方のみを正規化してもよい。
【0039】
判定部35は、処理部34によって伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災検知エリアROI内の火災の有無を判定する。例えば、判定部35は、処理部34によって伸張化され、且つ、正規化されたピクセルデータ(すなわち第3データ)に基づいて、火災検知エリアROI内の火災の有無を判定してもよいし、伸張化後のピクセルデータ(すなわち第2データ)に基づいて火災検知エリアROI内の火災の有無を判定してもよい。
【0040】
例えば、判定部35は、ピクセルごとに判定値を設定し、この判定値と閾値(以下、「判定閾値」という。)とを比較することで火災の有無をピクセルごとに判定する。判定閾値とは、一つの値であってもよいし、所定の範囲を示す値であってもよい。ここで、判定値とは、第2データ又は第3データのうち、少なくとも伸張化が行われたSARIとWIとのいずれか又は両方であってもよい。すなわち、判定部35は、第2データ又は第3データのSARIとWIとを判定値としてもよい。この場合には、判定部35は、そのSARIと第1判定閾値(例えば、第1の範囲)とを比較し、且つ、WIと第2判定閾値(例えば、第2の範囲)とを比較する処理をピクセルごとに行うことで火災の有無をピクセルごとに判定する。ただし、これに限定されず、判定値とは、第2データ又は第3データのSARIとWIとを用いて計算される値であってもよい。この場合には、例えば、判定部35は、ピクセルごとに一つの判定値が設定するため、判定値と判定閾値とを比較する処理をピクセルごとに実行することで火災の有無をピクセルごとに判定してもよい。なお、判定値が例えば、判定閾値が示す所定範囲内である場合に火災として判定してもよいし、判定値が所定の範囲外となった場合に火災と判定してもよい。すなわち、判定値と判定閾値との比較方法は、判定値の値や判定閾値の設定方法によって異なる場合があり、ユーザによって任意の調整可能である。
【0041】
また、判定部35は、伸張化及び正規化の処理が行われた第2データ又は第3データを用いて合成画像を作成し、この合成画像に対して判定閾値を適用することにより、火災の有無を判定してもよい。
【0042】
以下に、第1の実施形態に係る火災検知装置3の動作の流れについて、
図3を用いて説明する。
図3は、第1の実施形態に係る火災検知装置3のフローチャートである。
【0043】
火災検知装置3は、人工衛星1からの観測データを取得する(ステップS101)。火災検知装置3は、観測データに基づいて、SARIとWIとを算出する(ステップS102)。また、火災検知装置3は、観測データに基づいて火災検知エリアROIを作成する(ステップS103)。火災検知装置3は、観測データ、SARI、及びWIに基づいて疑似カラー合成画像を生成する(ステップS104)。火災検知装置3は、疑似カラー合成画像に対して、雲及び海に相当するピクセルデータをマスク処理する(ステップS105)。火災検知装置3は、マスク処理後の疑似カラー合成画像から、火災検知エリアROIの範囲の画像を抽出画像として抽出する(ステップS106)。
【0044】
火災検知装置3は、抽出した抽出画像内のピクセル毎のSARI及びWIのうち、いずれか又は両方のデータを伸張化する(ステップS107)。そして、火災検知装置3は、伸張化したデータを正規化する(ステップS108)。火災検知装置3は、伸張化及び正規化された値から判定値を設定し(ステップS109)、その判定値と予め設定された判定閾値とを用いて火災の有無を判定する(ステップS110)。
【0045】
このように、第1の実施形態に係る火災検知装置3は、画像生成部30、抽出部33、処理部34及び判定部35を備える。画像生成部30は、人工衛星1からの観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成する。処理部34は、疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像を抽出する。処理部34は、抽出部33によって抽出された画像内のピクセル毎のSARI及びWIのうち、いずれか又は両方のデータを伸張化する。判定部35は、処理部34によって伸張化されたデータに基づいて、火災の有無を判定する。
【0046】
このような構成により、大気に影響があっても疑似カラー合成画像における火災の発生を示すデータと火災の発生を示さないデータとの区別が可能となり、疑似カラー合成画像のデータから火災検知を行う場合において、その火災検知の精度を向上させることができる。
【0047】
<第2の実施形態>
図4は、第2の実施形態に係る火災検知装置3Bを含む火災検知システムBの概略構成の一例を示す図である。第2の実施形態に係る火災検知装置3Bは、第1の実施形態と比較して、学習モデルを用いて火災の有無を判定する点が異なる。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称及び符号を付するものとし、その構成及び機能に関する具体的な説明は省略する場合がある。
【0048】
火災検知システムBは、人工衛星1、地上受信局2、及び火災検知装置3Bを備える。
【0049】
図5は、第2の実施形態に係る火災検知装置3Bの概略構成の一例を示す図である。
図5に示すように、火災検知装置3Bは、火災候補位置特定部10、学習モデル作成部40及び火災検知部20Bを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、またはRAM等により構成される。
【0050】
学習モデル作成部40は、機械学習を用いることにより適切な判定閾値を設定する。一例として、学習モデル作成部40は、前処理部41及び学習部42を備える。
【0051】
前処理部41は、学習部42で機械学習するための学習データを作成する。この学習データは、実際に火災が発生した箇所の観測データから算出された判定値(以下、「第1過去判定値」という。)と、実際に火災が発生していない箇所の観測データから算出された判定値(以下、「第2過去判定値」という。)とを含む。例えば、前処理部41は、過去に火災があったときの観測データを、気象庁サーバなどから取得する。なお、過去に火災があったときの観測データを「過去観測データ」と称する。
【0052】
前処理部41は、過去観測データを用いて疑似カラー合成画像を生成する。なお、前処理部41により疑似カラー合成画像の生成方法は、画像生成部30により疑似カラー合成画像の生成方法と同様であるため、説明を省略する。なお、以下の説明において、前処理部41により生成された疑似カラー合成画像を、「学習用疑似カラー合成画像」と称して、画像生成部30により生成された疑似カラー合成画像と区別する。
【0053】
前処理部41は、学習用疑似カラー合成画像から、所定のエリアの画像(以下、「学習抽出画像」という。)を抽出する。ここで、所定のエリアの大きさや形状等は、火災検知エリアROIと同様であることが望ましい。また、所定のエリアは、実際に火災が発生した箇所を含むエリアである火災エリアである。
【0054】
前処理部41は、学習抽出画像内のピクセル毎のピクセルデータに対して、処理部34が実施する処理と同様の処理を適用する。前処理部41は、学習抽出画像内のピクセル毎のピクセルデータであるSARI及びWIのうち、いずれか又は両方のデータを伸張化する。また、前処理部41は、処理部34が正規化処理を実行する場合には、SARI及びWIのうち、伸張化したデータを正規化する。そして、前処理部41は、処理部34が実施する処理と同様の処理を行った後のピクセルデータからピクセルごとの判定値を求める。ここで、火災の発生箇所は、既知である。したがって、前処理部41は、火災の発生箇所に基づいて、ピクセルごとの判定値のうち、火災の発生箇所に対応するピクセルの判定値(第1過去判定値)と、火災の発生箇所ではない箇所に対応するピクセルの判定値(第2過去判定値)と、を判別する。そして、前処理部41は、火災が有ることを示すラベルを付した第1過去判定値と、火災が無いことを示すラベルを付した第2過去判定値とを学習データとして学習部42に送信する。
【0055】
学習部42は、前処理部41が生成した学習データを用いて、入力を判定値とし、出力を火災の有無とする学習モデルを機械学習(例えば、サポートベクターマシーン(support vector machine;VM)などの教師あり学習)により構築する。例えば、この学習モデルでは、学習データを用いて機械学習することによって、第1過去判定値と第2過去判定値とを分ける、
図6に示すような境界線Hを引く。そして、学習後の学習済みモデルは、入力された判定値(学習データではない判定値)が入力データとして入力された場合に、境界線Hに基づいて、入力データが、火災が有ることを示す値か否かを出力する。学習部42は、構築した学習済みモデルを火災検知部20Bに送信する。なお、この境界線Hが判定閾値に相当する。例えば、
図6に示す例では、×が火災が有ることを示し、黒塗りの四角が火災が無いことを示す。
【0056】
火災検知部20Bは、画像生成部30、マスク部31、火災検知エリア作成部32、抽出部33、処理部34、及び判定部35Bを備える。
【0057】
判定部35Bは、学習部42が構築した学習済みモデルを備える。判定部35Bは、処理部34によって設定された判定値を入力データとして学習済みモデルに入力することで火災の有無をピクセルごとに判定する。また、判定部35Bは、火災があると判定した入力データのピクセルに基づいて、火災の発生箇所を特定してもよい。
【0058】
以下に、第2の実施形態に係る火災検知装置3Bの動作の流れについて、
図7を用いて説明する。
図7は、第2の実施形態に係る火災検知装置3Bの第2の実施形態に係る火災検知装置3Bのフローチャートである。
【0059】
火災検知装置3Bは、人工衛星1からの観測データを取得する(ステップS201)。火災検知装置3Bは、観測データに基づいて、SARIとWIとを算出する(ステップS202)。また、火災検知装置3Bは、観測データに基づいて火災検知エリアROIを作成する(ステップS203)。火災検知装置3Bは、観測データ、SARI、及びWIに基づいて疑似カラー合成画像を生成する(ステップS204)。火災検知装置3Bは、疑似カラー合成画像に対して、雲及び海に相当するピクセルデータをマスク処理する(ステップS205)。火災検知装置3Bは、マスク処理後の疑似カラー合成画像から、火災検知エリアROIの範囲の画像を抽出画像として抽出する(ステップS206)。
【0060】
火災検知装置3Bは、抽出した抽出画像内のピクセル毎のSARI及びWIのうち、いずれか又は両方のデータを伸張化する(ステップS207)。そして、火災検知装置3Bは、伸張化したデータを正規化する(ステップS208)。火災検知装置3Bは、伸張化及び正規化された値から判定値を設定し(ステップS209)、その判定値を学習済みモデルに入力することでピクセルごとに火災の有無を判定する(ステップS210)。
【0061】
なお、第2の実施形態では、学習モデル作成部40は、火災検知装置3Bに含まれているが、これに限定されず、火災検知装置3Bとは別の装置であってもよい。すなわち、火災検知装置3は、少なくとも学習済みモデルを有していればよく、火災検知装置3とは異なる装置が学習済みモデルを作成してもよい。
【0062】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、観測データに基づいて生成した疑似カラー合成画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化することによって疑似カラー合成画像における火災の発生を示すデータと火災の発生を示さないデータとの区別が明確になり、煙による火災検知の精度の低下を抑制することができる。その結果、火災検知の精度を向上させることができる。
【0063】
また、上記学習済みモデルは、伸張化されたピクセルデータに基づいて生成された過去の判定値を学習データとして用いることで、火災検知エリアの大気環境や土地に依存することなく火災を検知することが可能となり、火災検知エリアごとに学習データを収集して学習する必要がない。換言すれば、境界線Hは、世界中の各地で用いることができる閾値である。
【0064】
また、以上説明した少なくともひとつの実施形態の火災検知装置3,3Bは、例えば、コンピュータであって、1つ又は複数のプロセッサと、その1つ又複数のプロセッサによって実行されるように構成された1つ又複数のプログラムを格納するメモリとを備える。1つ又複数のプログラムは、火災検知装置3,3Bに対して観測データに基づいて疑似カラー合成画像を生成させ、疑似カラー合成画像のうち、火災検知エリアに相当する範囲の画像(抽出画像)を抽出させ、抽出画像内のピクセル毎のピクセルデータを伸張化させ、伸張化されたピクセルデータに基づいて、火災の有無を判定させる命令を有する。
火災検知装置3または3Bが備える構成要素のうち、1以上の構成要素を1つのコンピュータで構成し、すなわち複数のコンピュータによって火災検知装置3または3Bを構成してもよいし、火災検知装置3または3Bの全ての構成要素を1つのコンピュータで構成してもよい。
【0065】
上記実施形態の火災検知装置3または3Bは、火災候補位置特定部10、マスク部31、及び火災検知エリア作成部32を備えているが、これらの構成は火災検知装置3または3Bにとって必須の要素ではない。火災候補位置特定部10や火災検知エリア作成部32に代えて、火災検知装置3または3Bが外部の装置から火災候補位置や火災検知エリアROIを取得する構成であってもよい。本開示の構成において、マスク処理が不要な場合は、火災検知装置3または3Bからマスク部31を除外してもよい。
【0066】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」、「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0067】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0068】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0069】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0070】
A,B 火災検知システム
1 人工衛星
2 地上受信局
3,3B 火災検知装置
10 火災候補位置特定部
20 火災検知部
30 画像生成部
31 マスク部
32 火災検知エリア作成部
33 抽出部
34 処理部
35,35B 判定部
40 学習モデル作成部