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特許7485214ポリエステル樹脂組成物の製造方法及び回収されたポリエステル樹脂の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物の製造方法及び回収されたポリエステル樹脂の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240509BHJP
   C08K 5/5333 20060101ALI20240509BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/5333
C08K5/098
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023518642
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015371
(87)【国際公開番号】W WO2022234749
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2021078749
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 珠世
(72)【発明者】
【氏名】木南 万紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 佑
(72)【発明者】
【氏名】西中 文章
(72)【発明者】
【氏名】森山 暢夫
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/029725(WO,A1)
【文献】特開2015-028962(JP,A)
【文献】特開2014-239128(JP,A)
【文献】特開2014-170914(JP,A)
【文献】特開2007-182477(JP,A)
【文献】特開2006-096789(JP,A)
【文献】特開2007-056101(JP,A)
【文献】特開2003-261666(JP,A)
【文献】特開2003-268095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 11/00- 11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合する工程を含み、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足し、前記ポリエステル樹脂(B)は下記(4)及び(5)を満足することを特徴とする、複数回リサイクル用のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.7~0.8dl/g
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~25質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~50質量ppm
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記ポリエステル樹脂(A)が5~95質量部である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたポリエステル樹脂組成物(C)を溶融成形する工程を含む中空成形体(D)の製造方法。
【請求項6】
回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合して、複数回リサイクルするためのポリエステル樹脂組成物(C)を製造するためのポリエステル樹脂(A)の再生方法であって、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足し、前記ポリエステル樹脂(B)は下記(4)及び(5)を満足することを特徴とする、ポリエステル樹脂(A)の再生方法。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.7~0.8dl/g
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~25質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~50質量ppm
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記ポリエステル樹脂(A)が5~95質量部である請求項に記載の再生方法。
【請求項8】
前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する請求項又はに記載の再生方法。
【請求項9】
回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)との混合物であるポリエステル樹脂組成物(C)であって、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足し、前記ポリエステル樹脂(B)は下記(4)及び(5)を満足することを特徴とする、複数回リサイクル用のポリエステル樹脂組成物(C)。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.7~0.8dl/g
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~25質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~50質量ppm
【請求項10】
前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する請求項に記載のポリエステル樹脂組成物(C)。
【請求項11】
前記ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%以上である請求項又は10に記載のポリエステル樹脂組成物(C)。
【請求項12】
請求項11のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物(C)から形成された中空成形体(D)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物の製造方法及び回収されたポリエステル樹脂の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステル樹脂は、透明性、機械的特性、および化学的特性に優れており、それぞれのポリエステル樹脂の特性に応じて、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や工業用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの中空成形体など各種分野において広範囲に使用されている。
【0003】
近年、例えば、ポリエステル樹脂を用いて製造された中空成形体は、我々人類の生活にとっては必要不可欠なものになってきている。一方では、中空成形体の利用量の増加に伴い、資源枯渇、海洋ごみの増加、地球温暖化など様々な問題を引き起こしている。このような課題を解決する方法の一つとして使用済みであるポリエステルボトル等の中空成形体を回収してポリエステルボトル、繊維、不織布等の成形体に再成形して再使用する、いわゆる回収・再生リサイクルシステムが注目されている。
【0004】
しかし、一般に広く用いられているアンチモン化合物、チタン化合物、又はゲルマニウム化合物を重合触媒としたポリエステル樹脂は、使用済みポリエステル樹脂を回収して再生すると、ポリエステル樹脂の劣化によるポリエステル樹脂の着色や分子量の低下が生じるため、その改善が求められている。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、アンチモン化合物、チタン化合物、又はゲルマニウム化合物を重合触媒としたポリエステル樹脂の製造において、ヒンダードフェノール化合物を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
特許文献1及び2に記載の方法では、熱酸化安定性は向上するが、リサイクルを行った場合において物性の劣化を抑制するという観点からはさらなる改善が求められた。
【0007】
そこで、本出願人は熱安定性に優れた触媒を見出した。具体的には、特許文献3及び4に記載のアルミニウム化合物とヒンダードフェノール構造を含むリン化合物とからなる触媒を見出した。しかし、使用済みポリエステル樹脂、特にアンチモン化合物、チタン化合物、又はゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種を重合触媒とした使用済みポリエステル樹脂をリサイクルする検討まではなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/154042号
【文献】国際公開第2013/154043号
【文献】国際公開第2007/032325号
【文献】特開2006-169432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、アンチモン化合物、チタン化合物、又はゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種を重合触媒とした使用済みポリエステル樹脂を用いて、複数回リサイクルを行っても着色や分子量の低下が生じにくい(以下、「リサイクル性に優れた」という)ポリエステル樹脂組成物を製造する方法、及び回収されたポリエステル樹脂の再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む回収されたポリエステル樹脂にアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂を加えることにより、リサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物を製造できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
1.回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合する工程を含み、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足するポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.5~0.8dl/g
2.前記ポリエステル樹脂(B)は下記(4)及び(5)を満足することを特徴とする上記1.に記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~50質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~1000質量ppm
3.前記ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%以上である上記1.又は2.に記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
4.前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度保持率が92%以下である上記1.~3.のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
5.前記ポリエステル樹脂(B)の固有粘度保持率が93%以上である上記1.~4.のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
6.前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記ポリエステル樹脂(A)が5~95質量部である上記1.~5.のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
7.前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する上記1.~6.のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物(C)の製造方法。
8.上記1.~7.のいずれかに記載の製造方法で製造されたポリエステル樹脂組成物(C)を溶融成形する工程を含む中空成形体(D)の製造方法。
9.回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合することによるポリエステル樹脂(A)の再生方法であって、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足するポリエステル樹脂(A)の再生方法。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.5~0.8dl/g
10.前記ポリエステル樹脂(B)は下記(4)及び(5)を満足することを特徴とする上記9.に記載のポリエステル樹脂(A)の再生方法。
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~50質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~1000質量ppm
11.前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対し、前記ポリエステル樹脂(A)が5~95質量部である上記9.又は10.に記載のポリエステル樹脂(A)の再生方法。
12.前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する上記9.~11.のいずれかに記載のポリエステル樹脂(A)の再生方法。
13.回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)との混合物であるポリエステル樹脂組成物(C)であって、前記ポリエステル樹脂(A)は下記(1)~(3)を満足するポリエステル樹脂組成物(C)。
(1)前記ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む
(2)前記ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppm
(3)前記ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が0.5~0.8dl/g
14.前記リン化合物は同一分子内にリン元素とフェノール構造を有する上記13.に記載のポリエステル樹脂組成物(C)。
15.前記ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%以上である上記13.又は14.に記載のポリエステル樹脂組成物(C)。
16.上記13.~15.のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物(C)から形成された中空成形体(D)。
【発明の効果】
【0012】
アルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)をアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む回収されたポリエステル樹脂(A)と混合してポリエステル樹脂組成物(C)を製造することにより、ポリエステル樹脂組成物(C)の着色や分子量の低下を抑制でき、リサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。換言すると、アンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含む、使用済みの回収されたポリエステル樹脂(A)をリサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物(C)に再生することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合することによりポリエステル樹脂組成物(以下、ポリエステル樹脂組成物(C)ということがある)を製造する。回収されたポリエステル樹脂(A)とアルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)とを混合することによりポリエステル樹脂(A)を再生することができる。なお、本明細書では回収されたポリエステル樹脂と回収されたものではないポリエステル樹脂との混合物をポリエステル樹脂組成物という。
【0014】
[ポリエステル樹脂(A)]
ポリエステル樹脂(A)は、エチレンテレフタレート構造単位を50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含有していることがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含有することが特に好ましい。テレフタル酸以外の多価カルボン酸成分、エチレングリコール以外の多価アルコール成分としては、後述するポリエステル樹脂(B)に記載の成分が使用可能である。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)はアンチモン、チタン、及びゲルマニウムから選ばれる少なくとも一種の元素を含むものであり、すなわち、ポリエステル樹脂(A)は、アンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を触媒量用いて製造されている。
【0016】
ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン元素、チタン元素、及びゲルマニウム元素の合計の含有量が2~500質量ppmであり、5~400質量ppmであることが好ましく、10~300質量ppmであることがより好ましく、50~250質量ppmであることがさらに好ましい。500質量ppmを超えると後述するポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が不十分となるおそれがある。なお、本明細書においては、質量ppmとは10-4質量%を意味する。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)は使用済みのポリエステル樹脂が回収されたものであり、ポリエステル樹脂(A)の形状は限定されていないが、ポリエステル樹脂(B)と混合しやすい形状であることが好ましく、例えば、チップ、フレーク、粉末等を挙げることができる。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は0.5~0.8dl/g以上であり、好ましくは0.7~0.8dl/gである。ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が上記未満の場合、ポリエステル樹脂(A)を用いて製造されたポリエステル樹脂組成物(C)の機械的強度や耐衝撃性が不十分になるおそれがある一方、ポリエステル樹脂(A)の固有粘度が上記範囲を超えた場合は、成形加工が困難になるおそれがある。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度保持率が92%以下であることが好ましく、91%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましく、89%以下であることが特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)の固有粘度保持率が92%を上回る場合は、ポリエステル樹脂(B)を配合することによるリサイクル性の向上効果が不十分となるおそれがある。固有粘度保持率の測定方法については後述する。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)は、アンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を用いて製造されたポリエステル樹脂のみであることが好ましいが、アルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を用いて製造されたポリエステル樹脂が含まれていてもよいが少量であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)中におけるアンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の重合触媒を用いて製造されたポリエステル樹脂が50質量%超であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
[ポリエステル樹脂(B)]
ポリエステル樹脂(B)はアルミニウム化合物及びリン化合物を含むものであり、すなわち、ポリエステル樹脂(B)は、アルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を触媒量用いて製造されている。ポリエステル樹脂(B)は、回収されたポリエステル樹脂(A)に混合することで該ポリエステル樹脂(A)を再生することができる再生用ポリエステル樹脂である。
【0022】
ポリエステル樹脂(B)は、多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種と多価アルコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種により形成された重合体である。
【0023】
<多価カルボン酸成分>
ポリエステル樹脂(B)を構成する主たる多価カルボン酸成分がジカルボン酸であることが好ましい。「主たる多価カルボン酸成分がジカルボン酸である」とは、全多価カルボン酸成分に対してジカルボン酸を50モル%より多く含有することであり、ジカルボン酸を70モル%以上含有することが好ましく、ジカルボン酸を80モル%以上含有することがより好ましく、ジカルボン酸を90モル%以上含有することがさらに好ましい。なお、ジカルボン酸を二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0024】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体;が挙げられる。
【0025】
より好ましくは、主たる多価カルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはその形成性誘導体である。ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
「主たる多価カルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体である」とは、全多価カルボン酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とを合計して50モル%より多く含有することであり、70モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することがさらに好ましい。
【0027】
特に好ましくは、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体である。必要に応じて、他のジカルボン酸を構成成分としてもよい。
【0028】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、少量であれば3価以上の多価カルボン酸やヒドロキシカルボン酸を併用してもよく、3~4価の多価カルボン酸であることが好ましい。多価カルボン酸として、例えば、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。全多価カルボン酸成分に対して3価以上の多価カルボン酸は20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、3価以上の多価カルボン酸を二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。全多価カルボン酸成分に対してヒドロキシカルボン酸は20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、ヒドロキシカルボン酸を二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0030】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0031】
<多価アルコール成分>
ポリエステル樹脂(B)を構成する主たる多価アルコール成分がグリコールであることが好ましい。「主たる多価アルコール成分がグリコールである」とは、全多価アルコール成分に対してグリコールを50モル%より多く含有することであり、70モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することがさらに好ましい。なお、グリコールを二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0032】
グリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオールなどに例示されるアルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール;ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコール;が挙げられる。
【0033】
これらのグリコールのうち、アルキレングリコールが好ましく、より好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、又は1,4-シクロヘキサンジメタノールである。また、前記アルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいてもよく、同時に2種以上を使用してもよい。
【0034】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、少量であれば3価以上の多価アルコールを併用してもよく、3~4価の多価アルコールであることが好ましい。3価以上の多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0035】
全多価アルコール成分に対して3価以上の多価アルコールは20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、3価以上の多価アルコールを二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0036】
また、環状エステルの併用も許容される。環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。また、多価アルコールのエステル形成性誘導体としては、多価アルコールの酢酸等の低級脂肪族カルボン酸とのエステルが挙げられる。
【0037】
全多価カルボン酸成分及び全多価アルコール成分の合計に対して環状エステルは20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。なお、環状エステルを二種以上用いる場合はそれらの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0038】
ポリエステル樹脂(B)としては、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、ブチレンナフタレート、もしくはプロピレンナフタレートから選択される1種のみのモノマーからなる重合体、又は2種類以上の上記モノマーからなる共重合体であることが好ましく、ポリエステル樹脂(B)はポリエチレンテレフタレート又はエチレンテレフタレートとエチレンテレフタレート以外の上記モノマーの少なくとも一種とからなる共重合体であることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。エチレンテレフタレートとエチレンテレフタレート以外の上記モノマーの少なくとも一種とからなる共重合体は、エチレンテレフタレートモノマー由来の成分が70モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することがさらに好ましい。
【0039】
<重合触媒>
上述のとおり、ポリエステル樹脂(B)は、アルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を用いて製造されている。
【0040】
(アルミニウム化合物)
ポリエステル樹脂(B)の重合触媒を構成するアルミニウム化合物は溶媒に溶解するものであれば限定されず、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用できる。アルミニウム化合物として、例えば、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩;塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩;アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt-ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド;アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイドなどのキレート化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩、およびキレート化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、酢酸アルミニウム及び塩基性酢酸アルミニウムから選ばれる少なくとも1種が特に好ましく、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
【0041】
上記アルミニウム化合物は水やグリコールなどの溶剤に可溶化するアルミニウム化合物であることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の製造において使用できる溶媒とは、水およびアルキレングリコール類である。アルキレングリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。好ましくは、水、エチレングリコール、トリメチレングリコール、及びテトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは水又はエチレングリコールである。
【0042】
ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有率は、5~50質量ppmであることが好ましく、より好ましくは7~40質量ppm、さらに好ましくは10~30質量ppm、特に好ましくは15~25質量ppmである。アルミニウム元素が5質量ppm未満では、重合活性が十分に発揮されないおそれがある。一方、50質量ppmを超えるとアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。
【0043】
(リン化合物)
ポリエステル樹脂(B)の重合触媒を構成するリン化合物としては、特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きいため好ましく、これらの中でもホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きいためより好ましい。
【0044】
上記リン化合物のうち、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物が好ましい。同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスフィン酸系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きいため好ましく、一種または二種以上の同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が非常に大きいためより好ましい。
【0045】
また、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、P(=O)R1(OR2)(OR3)やP(=O)R14(OR2)で表される化合物などが挙げられる。R1はフェノール部を含む炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール構造を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R4は、水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R2、R3はそれぞれ独立に水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。R2とR4の末端どうしは結合していてもよい。
【0046】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、例えば、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。
【0047】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、上記の例示の他に同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造(3級炭素を有するアルキル基(好ましくはt-ブチル基、テキシル基などの3級炭素をベンジル位に有するアルキル基;ネオペンチル基など)が水酸基の1つ又は2つのオルト位に結合しているフェノール構造など)を有するリン化合物が挙げられ、同一分子内にリン元素と下記(化式A)の構造を有するリン化合物であることが好ましく、中でも、下記(化式B)に示す3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルであることがより好ましい。なお、ポリエステル樹脂(B)の製造に用いられるリン化合物としては、下記(化式B)に示す3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルであることが好ましいが、それ以外に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの変性体も含まれていてもよい。変性体の詳細については後述する。
【0048】
【化1】
【0049】
((化式A)において、*は結合手を表す。)
【0050】
【化2】
【0051】
((化式B)において、X1、X2は、それぞれ、水素、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0052】
本明細書では、ヘキサフルオロイソプロパノール系溶媒に溶解した溶液のP-NMR測定方法により、ヒンダードフェノール構造の少なくとも1種が検出できるポリエステル樹脂を「ヒンダードフェノール構造を有する」という。すなわち、ポリエステル樹脂(B)は、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたポリエステル樹脂であることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)中のヒンダードフェノール構造の検出方法(P-NMR測定方法)については後述する。
【0053】
上記(化式B)において、X1、X2はいずれも炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることがより好ましい。特に、炭素数2のエチルエステル体は、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)が市販されており容易に入手できるので好ましい。
【0054】
リン化合物は溶媒中で熱処理して用いることが好ましい。なお、熱処理の詳細については後述する。リン化合物として、上記(化式B)で示したリン化合物である3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルを用いた場合、上記熱処理において、(化式B)で示したリン化合物である3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの一部が構造変化する。例えば、t-ブチル基の脱離、エチルエステル基の加水分解およびヒドロキシエチルエステル交換構造(エチレングリコールとのエステル交換構造)などに変化する。従って、本発明においては、リン化合物としては、(化式B)で示した3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも構造変化したリン化合物も含まれる。なお、t-ブチル基の脱離は、重合工程の高温下で顕著に起こる。
【0055】
以下では、リン化合物として3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルを用いた場合に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルの一部が構造変化した9つのリン化合物を示している。グリコール溶液中での構造変化した各リン化合物の成分量はP-NMR測定方法により定量できる。
【0056】
【化3】
【0057】
従って、本発明におけるリン化合物としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも9つの上記化学式で示される3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの変性体も含まれていてもよい。
【0058】
リン化合物として上記Irganox1222を用いた場合、ポリエステル樹脂中に下記表1に示した9種のリン化合物残基が含まれる。P-NMR測定方法により、表1に示した9種のヒンダードフェノール構造の中の少なくとも1種が検出された場合、ポリエステル樹脂(B)は、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたポリエステル樹脂であるといえる。ヒンダードフェノール構造を有するリン化合物を用いることにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明においては、上記化式1、4、及び7の少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有率は5~1000質量ppmであることが好ましく、10~500質量ppmであることがより好ましく、15~200質量ppmであることがさらに好ましく、20~100質量ppmであることが特に好ましく、30~50質量ppmであることが最も好ましい。リン元素が5質量ppm未満では、重合活性の低下やアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、1000質量ppmを超えると逆に重合活性が低下するおそれやリン化合物の添加量が多くなり、触媒コストが増加するおそれがある。
【0062】
ポリエステル樹脂(B)において、アルミニウム元素に対するリン元素のモル比(後述する「アルミニウム元素に対するリン元素の添加モル比」と区別するため、以下では「アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比」という)が1.00~5.00であることが好ましく、1.10~4.00であることがより好ましく、1.20~3.50であることがさらに好ましく、1.25~3.00であることが特に好ましい。上述のように、ポリエステル樹脂(B)中のアルミニウム元素およびリン元素はそれぞれ、ポリエステル樹脂(B)の重合触媒として使用するアルミニウム化合物およびリン化合物に由来する。これらアルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することで、重合系中で触媒活性を有する錯体が機能的に形成され、十分な重合活性を発揮することができる。また、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる重合触媒を用いて製造された樹脂はアンチモン触媒などの触媒を用いて製造されてなるポリエステル樹脂と比べて触媒のコストが高く(製造コストが高く)なるが、アルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができる。アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が1.00未満では、熱安定性および熱酸化安定性が低下するおそれや、アルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が5.00を超えると、リン化合物の添加量が多くなりすぎるため、触媒コストが増大するおそれがある。
【0063】
ポリエステル樹脂(B)の製造に用いられる重合触媒として、上述のアルミニウム化合物およびリン化合物に加えて、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物など他の重合触媒を、ポリエステル樹脂(B)の特性、加工性、色調等製品に問題を生じない範囲内において併用してもよい。ポリエステル樹脂(B)中におけるアンチモン元素の含有率は30質量ppm以下であることが好ましく、ポリエステル樹脂(B)中におけるゲルマニウム元素の含有率は10質量ppm以下であることが好ましく、ポリエステル樹脂(B)中におけるチタン元素の含有率は3質量ppm以下であることが好ましい。ただし、上記他の重縮合触媒は、極力使用しないことが好ましい。
【0064】
ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム系異物に相当するアルミニウム元素の含有率が3000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは2800質量ppm以下であり、さらに好ましくは2000質量ppm以下であり、よりさらに好ましくは1500質量ppm以下である。アルミニウム系異物とは重合触媒として用いたアルミニウム化合物に起因するものであり、ポリエステル樹脂(B)に不溶の異物である。アルミニウム系異物の含有率が上記を超えると、ポリエステル樹脂(B)に不溶性の微細な異物が原因となり、成形体の品位が悪化するおそれがある。また、重縮合工程や成形工程でのポリエステルろ過時のフィルター詰まりが多くなるという課題にも繋がる。アルミニウム系異物に相当するアルミニウム元素の含有率の好ましい下限は0質量ppmであることが好ましいが、技術的な困難性より300質量ppm程度である。
なお、本明細書では、実施例に後述した測定方法でアルミニウム元素量を測定していることからも分かるように、この指標は、アルミニウム元素量に基づき、アルミニウム系異物量を相対的に評価するものであり、ポリエステル樹脂中に含まれるアルミニウム系異物量の絶対値を示すものではない。
【0065】
ポリエステル樹脂(B)の固有粘度は0.56~0.90dl/gであることが好ましく、0.60~0.80dl/gであることがより好ましく、さらに好ましくは0.65~0.75dl/gである。ポリエステル樹脂(B)の固有粘度が0.56dl/g未満の場合は、ポリエステル樹脂(B)を空送する際に、ポリエステル樹脂ペレット同士や空送配管との摩擦によってファインが大量に発生するおそれがある。なお、溶融重合のみで固有粘度が0.62dl/gを超えたポリエステル樹脂(B)を製造しようとした場合、経済性が低下するおそれがあるため、0.62dl/gを超えたポリエステル樹脂(B)が必要である場合は、溶融重合で得られたポリエステル樹脂(B)を固相重合法で重合することが好ましい。
【0066】
ポリエステル樹脂(B)の固有粘度保持率が93%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂(B)の固有粘度保持率が93%未満ではポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が低くなり、リサイクル性が不十分となるおそれがある。ポリエステル樹脂(B)の固有粘度保持率の上限は100%が好ましいが技術的な困難性より99%程度である。
【0067】
なお、ポリエステル樹脂(B)の製造方法は後述する。
【0068】
[ポリエステル樹脂組成物(C)]
ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を質量比で5:95~95:5で混合してポリエステル樹脂組成物(C)を製造することが好ましい。すなわち、ポリエステル樹脂組成物(C)において、ポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対してポリエステル樹脂(A)が5~95質量部であることが好ましい。上記範囲内とすることによりポリエステル樹脂組成物(C)の着色や分子量の低下を抑制できる。なお、本明細書での着色の抑制とはリサイクル回数を重ねた(再練りを繰り返した)場合であっても後述のL値の低下や後述のb値の上昇を抑制することを指す。ポリエステル樹脂(A)の配合割合が95質量部を超えた場合は、ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が低くなり、リサイクル性が不十分となるおそれがある。一方、ポリエステル樹脂(A)の配合割合が5質量部未満の場合は、着色の抑制効果が飽和する上に経済性が低下するおそれがある。なお、ポリエステル樹脂(B)は、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる重合触媒を用いて製造されているため、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比を上記の所定の範囲内とした場合であってもアンチモン触媒などの触媒を用いて製造されてなるポリエステル樹脂と比べて触媒のコストが高く(製造コストが高く)なっているが、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを併用することにより製造コストを抑えつつ、リサイクル性も高めることができる。ポリエステル樹脂(A)の配合割合を高くすると、ポリエステル樹脂組成物(C)の製造コストは抑えることができるが、リサイクル回数を重ねると色調が悪化しやすくなる。一方、ポリエステル樹脂(B)の配合割合を高めるとポリエステル樹脂組成物(C)のリサイクル回数を重ねた場合であっても色調の悪化は抑制できるが、製造コストは高くなるおそれがある。ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の質量比は20:80~80:20であることがより好ましく、25:75~75:25であることがさらに好ましい。
【0069】
ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをドライブレンドしてポリエステル樹脂組成物(C)を製造することができる。また、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを溶融押出法で混練してポリエステル樹脂組成物(C)を製造してもよい。その場合、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをドライブレンド後に、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機、単軸遊星型押出機等の一般的な樹脂用混練装置を用いて溶融・混錬することによりポリエステル樹脂組成物(C)を製造することができる。中でも、二軸押出機、四軸押出機、単軸遊星型押出機等の表面更新の優れたものが好ましい。また、該押出機は、少なくとも1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上のベント口を有し、ベント口は減圧系に接続してポリエステル樹脂組成物(C)の劣化を抑制することが好ましい実施態様である。
【0070】
ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度は、0.56~0.90dl/gであることが好ましく、0.60~0.80dl/gであることがより好ましく、0.70~0.75dl/gであることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度が0.90dl/gを超えた場合は、経済性が低下するおそれがある。
【0071】
ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましく、94%以上であることが特に好ましい。ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率が89%未満ではリサイクル性が不十分となるおそれがある。ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率の上限は100%が好ましいが技術的な困難性より99%程度である。また、ポリエステル樹脂組成物(C)の固有粘度保持率はポリエステル樹脂(A)の固有粘度保持率よりも高いことが好ましい。なお、本明細書ではポリエステル樹脂組成物(C)に関する記載で単に「固有粘度保持率」と記載されている場合には、ポリエステル樹脂組成物(C)を1回だけ再練りした再練り品の固有粘度保持率のことを指す。また、ポリエステル樹脂組成物(C)の物性は、固有粘度保持率以外の物性についても特段の記載がない限り、ポリエステル樹脂組成物(C)を1回だけ再練りした再練り品の物性を指す。
【0072】
ポリエステル樹脂組成物(C)を1回再練りした再練り品中に含まれるCT(環状三量体)量が6600ppm以下であることが好ましい。より好ましくは6400ppm以下であり、さらに好ましくは6000ppm以下である。下限は限定されないが、技術的な困難性より2500ppm程度である。CT量が6600ppmを超えると成形時の金型汚れが増加するおそれがある。
【0073】
ポリエステル樹脂組成物(C)を3回再練りした再練り品のCT量からポリエステル樹脂組成物(C)を1回再練りした再練り品のCT量を減じた値(ΔCT)は900ppm以下であることが好ましい。より好ましくは700ppm以下であり、さらに好ましくは600ppm以下である。下限は0ppmであることが好ましいが、技術的な困難性より200ppm程度である。ΔCTが900ppmを超えると成形時の金型汚れが増加するおそれがある。
【0074】
また、ポリエステル樹脂組成物(C)中にリン化合物として上記Irganox1222を用いて製造されたポリエステル樹脂(B)を含む場合、ポリエステル樹脂組成物(C)に対してP-NMR測定方法を行うと表1に示した9種のヒンダードフェノール構造の中の少なくとも1種が検出される。Irganox1222以外の同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として用いた場合も同様である。
【0075】
[中空成形体(D)]
中空成形体(D)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂組成物(C)を溶融成形等の方法で成形して中空成形体(D)を製造する方法(混錬経由法)やポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをドライブレンド等によりブレンドしたブレンド物を中空成形体製造装置に直接供給して成形して中空成形体(D)を製造する方法(直接成形法)などが挙げられる。
【0076】
なお、ポリエステル樹脂(B)は、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる重合触媒を用いて製造されているため、アンチモン触媒などの触媒を用いて製造されてなるポリエステル樹脂と比べて触媒のコストが高く(製造コストが高く)なっているが、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを併用して中空成形体(D)を製造することにより製造コストを抑えつつ、リサイクル性も高めることができる。ポリエステル樹脂(A)の配合割合を高くすると、中空成形体(D)の製造コストは抑えることができるが、リサイクル回数を重ねると色調が悪化する。一方、ポリエステル樹脂(B)の配合割合を高めるとポリエステル樹脂組成物(C)のリサイクル回数を重ねても色調の悪化は抑制できるが、製造コストは高くなる。ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との配合割合は、市場要求により適宜設定すればよいが、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を質量比で5:95~95:5で混合して中空成形体(D)を製造することが好ましい。
【0077】
中空成形体(D)の利用分野は、特に限定されないが、ミネラルウオーター、ジュース、ワイン、ウイスキー等の飲料容器、住居用および食器用洗剤容器、ほ乳瓶、瓶詰め食品容器、整髪料、化粧品等の各種容器等として用いることができる。中空成形体(D)は高品質であるポリエステル樹脂組成物(C)又は高品質であるポリエステル樹脂(B)を含むブレンド物を成形して作製しているので、中空成形体(D)は各種容器として使用された後に回収して再生しても、高品質を維持したまま、ポリエステル樹脂を再使用することが出来、ひいては、資源枯渇の抑制、海洋ごみの減少、地球温暖化の抑制など様々な課題解決に寄与することができる。
【0078】
中空成形体の製造方法は特に限定されておらず、例えば、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをドライブレンド等によりブレンドしたブレンド物を真空乾燥法等によって乾燥した後に押出成形機や射出成形機等の成形機によって成形する方法や、ポリエステル樹脂組成物(C)の溶融体を溶融状態のまま成形機に導入して成形する方法により、有底の予備成形体を得て、この予備成形体を延伸ブロー成形、ダイレクトブロー成形、押出ブロー成形などのブロー成形法により最終的な中空成形体を製造することができる。もちろん、上記の押出成形機や射出成形機等の成形機によって得られた成形体を最終的な中空成形体とすることもできる。
【0079】
さらには、中空成形体は、ポリビニルアルコールやポリメタキシリレンジアミンアジペートなどのガスバリア層、遮光性樹脂層などを設けた多層構造とすることも可能である。また、PVD(物理蒸着法)やCVD(化学蒸着法)等の方法を用いて、容器の内外をアルミニウムなどの金属やダイヤモンド状カーボンの層で被覆することも可能である。
【0080】
なお、中空成形体の口栓部等の結晶性を上げるため、ポリエチレンなどの他の樹脂やタルク等の無機核剤を添加することもできる。
【0081】
ポリエステル樹脂組成物(C)を上記方法で中空成形体(D)に成形してもよいが、例えば、ポリエステル樹脂組成物(C)を固相重合により固有粘度を上昇させたり、CT量を低減させたりした後に中空成形体(D)に成形してもよい。
【0082】
上記ポリエステル樹脂組成物(C)やポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とをドライブレンドしたブレンド物は、固有粘度保持率の他にも着色度も抑制されているので、中空成形体(D)以外にも、繊維、不織布、シート、フィルム等の他の製品等にも好適に用いることが出来る。
【0083】
[ポリエステル樹脂(B)の製造方法]
次に、ポリエステル樹脂(B)の製造方法について説明する。ポリエステル樹脂(B)の製造方法としては、触媒としてアルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒を用いる点以外は公知の工程を備えた方法で行うことができるが、下記(4)と(5)とを満足するように重合触媒を添加することが好ましく、下記(4)と(5)に加えて下記(6)も満足するように重合触媒を添加することがさらに好ましい。なお、下記(4)~(6)の好適な数値範囲については上述している。
(4)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素の含有量が5~50質量ppm
(5)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるリン元素の含有量が5~1000質量ppm
(6)前記ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が1.00以上5.00以下
【0084】
ポリエステル樹脂(B)の製造方法としては、中間体として重縮合物(低次縮合物)であるポリエステル又はそのオリゴマーを合成する第1ステップと、前記中間体をさらに重縮合する第2ステップとを有することが好ましい。
【0085】
また、前記第1ステップ後であって前記第2ステップの前に前記中間体にアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを下記(7)~(9)を満足するように添加することが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の製造に用いられる多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体、少量添加してもよいヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、少量添加してもよい環状エステルは、重合中に反応系から系外へ留出せず、触媒として系に最初に添加された使用量のほぼ100%が重合によって製造されたポリエステル樹脂(B)中に残留するため、これらの仕込み量から「生成されるポリエステル樹脂」の質量を算出することができる。
(7)生成するポリエステル樹脂(B)に対するアルミニウム元素の添加量が5~50質量ppm(より好ましくは7~40質量ppm、さらに好ましくは10~30質量ppm、特に好ましくは15~25質量ppm)
(8)生成するポリエステル樹脂(B)に対するリン元素の添加量が5~1500質量ppm(より好ましくは10~500質量ppm、さらに好ましくは20~200質量ppm、特に好ましくは30~100質量ppm)
(9)前記(7)におけるアルミニウム元素の添加量に対する前記(8)におけるリン元素の添加量のモル比(以下、「アルミニウム元素に対するリン元素の添加モル比」という)が1.00以上7.00以下(より好ましくは1.50以上6.00以下、さらに好ましくは2.00以上5.00以下)
【0086】
上記第1ステップで合成される低次縮合物(低重合体)であるポリエステル又はそのオリゴマーの製造方法としては、特に限定されない。
【0087】
ポリエステル樹脂(B)の製造方法は、触媒としてアルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒を用いる点並びにポリエステル重合触媒の添加量に留意する点以外は、従来公知の工程を備えた方法で行うことができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを製造する場合は、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要により他の共重合成分を直接反応させて、水を留去しエステル化した後、常圧あるいは減圧下で重縮合を行う直接エステル化法、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール、および必要により他の共重合成分を反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、常圧あるいは減圧下で重縮合を行うエステル交換法により製造される。さらに必要に応じて、極限粘度を増大させるために固相重合を行ってもよい。なお、原料として用いたジカルボン酸等を含む多価カルボン酸の量(質量)から、生成するポリエステル樹脂(B)の量(質量)は、算出可能である。
【0088】
これらいずれの方式においても、エステル化反応あるいはエステル交換反応は、1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。
【0089】
また、溶融重合法で製造されたポリエステル樹脂を固相重合法で追加重合してもよい。固相重合反応は、溶融重縮合反応と同様に連続式装置で行うことが出来る。
【0090】
3基以上の反応器よりなる連続重縮合装置(初期段階、中期段階および後期段階の3段階の重合方式)である場合は、1段階目を初期段階、最終段を後期段階、2段階目から最終段の一つ手前の段階までを中間段階とし、中間段階の重合反応の反応条件は、初期段階の反応条件と最終段階の反応条件の間の条件であることが好ましい。これらの重合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0091】
(固相重合法)
固有粘度を増大させるために溶融重合法で製造されたポリエステル樹脂を固相重合してもよい。固相重合は、バッチ式重合法であっても、連続重合法であってもよいが、固相重合は、溶融重合と同様に連続式装置で行うことが好ましい。
【0092】
ポリエステル樹脂(B)のCT量を下げるために、溶融重合法で製造されたポリエステル樹脂を固相重合法で追加重合するのが好ましい。固相重合は、前記第2ステップ(溶融重合)により得られたポリエステルを粉粒体状にして実施される。粉粒体とはチップ、ペレット、フレーク、粉末状のポリエステルを意味するが、好ましくはチップまたはペレットである。
【0093】
上記固相重合は粉粒体状のポリエステルをポリエステルの融点以下の温度にて、不活性ガス流通下あるいは減圧下で加熱することにより実施される。固相重合工程は1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。
【0094】
固相重合工程に供給される粉粒状ポリエステルは、あらかじめ固相重合を行なう場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行なった後、固相重合工程に供給してもよい。
【0095】
このような予備結晶化工程は、粉粒状ポリエステルを乾燥状態で通常120~200℃、好ましくは130~180℃の温度に1分~4時間加熱することによって行なってもよく、あるいは粉粒状ポリエステルを水蒸気雰囲気下又は水蒸気含有不活性ガス雰囲気下あるいは水蒸気含有空気雰囲気下で、通常120~200℃の温度に1分間以上加熱することによって行なってもよい。
【0096】
前記のようにして溶融重合されたポリエステルは、例えば、チップ化されたあと輸送配管中を貯蔵用サイロや固相重合工程に輸送される。このようなチップの輸送を、例えば空気を使用した強制的な低密度輸送方法で行うと、溶融重合ポリエステルのチップの表面には配管との衝突によって大きな衝撃力がかかり、この結果ファインやフィルム状物が多量に発生する。このようなファインやフィルム状物はポリエステルの結晶化を促進させる効果を持っており、多量に存在する場合には得られた成形体の透明性が非常に悪くなる。従って、このようなファインやフィルム状物を除去する工程を付加することは好ましい実施態様の一つである。
【0097】
上記のファインやフィルム状物を除去する方法は限定されないが、例えば、前記の固相重合工程と固相重合工程のあとに設置される後工程との中間工程に別々に設置した振動篩工程および空気流による気流分級工程、重力式分級工程等で処理する方法等が挙げられる。
【0098】
アルミニウム化合物およびリン化合物を触媒として用いる場合には、スラリー状または溶液状で添加するのが好ましく、水やグリコールなどの溶媒に溶解した溶液がより好ましく、水および/またはグリコールに溶解した溶液を用いることがさらに好ましく、エチレングリコールに溶解した溶液を用いることが最も好ましい。
【0099】
ポリエステル樹脂(B)の製造工程の重合反応の開始までの任意の段階でアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tをポリエステル樹脂(B)中の含有率(残存量)が上記(4)~(6)を満たす範囲になるように添加するのが好ましい。
【0100】
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとをポリエステル樹脂(B)中の含有率(残存量)が上記(4)~(6)を満たすように添加することで、重合系中で触媒活性を有する錯体が機能的に形成され、十分な重合活性を発揮することができる。また、アルミニウム系異物の生成も抑制することができる。
【0101】
なお、触媒として機能するアルミニウム化合物中のアルミニウム原子は、ポリエステル樹脂の重合時に減圧環境下に置かれても、触媒として系に最初に添加された使用量のほぼ100%が、重合によって製造されたポリエステル樹脂(B)中に残留する。すなわち、アルミニウム化合物の量は重合の前後でほぼ変化しないため、前記中間体に対するアルミニウム原子の添加量が5~50質量ppmとなるようにすると、ポリエステル樹脂(B)中におけるアルミニウム原子の含有率も5~50質量ppmとなる。
【0102】
また、アルミニウム化合物とともに触媒として機能するリン化合物は、ポリエステル樹脂の重合時に減圧環境下に置かれる際、触媒として系に最初に添加された使用量の一部(10~40%程度)が系外に除去されるが、この除去割合はアルミニウム原子に対するリン原子の添加モル比、添加するアルミニウム化合物を溶解した溶液やリン化合物を溶解した溶液の塩基性度や酸性度、アルミニウム含有溶液やリン含有溶液の添加方法(一液化して添加するか、別々に添加するか)等により変化する。したがって、最終生成物となるポリエステル樹脂(B)中のリン化合物の添加量が上記(5)を満たすように適宜設定するのが好ましい。
【0103】
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを同時に添加することが好ましく、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを、あらかじめ前記中間体に添加する比率で混合して混合液を作製しておき、一液化した混合液を前記中間体に添加することがより好ましい実施態様である。あらかじめ一液化する方法としては、それぞれの溶液をタンクで混合する方法、触媒を添加する配管を途中で合流して混合させる方法などが挙げられる。
なお、反応容器に添加する場合には、反応容器の撹拌を高くすることが好ましい。反応容器間の配管に添加する場合には、インラインミキサーなどを設置して、添加された触媒溶液が速やかに均一混合されるようにすることが好ましい。
アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとを別々に添加した場合、アルミニウム化合物に起因する異物が多く発生しやすく、昇温結晶化温度が低くなったり、降温結晶化温度が高くなったり、十分な触媒活性が得られなくなる場合がある。アルミニウム化合物とリン化合物を同時に添加することで、重合活性をもたらすアルミニウム化合物とリン化合物の複合体が速やかに無駄なく生成できるが、別々に添加した場合には、アルミニウム化合物とリン化合物の複合体の生成が不十分であり、また、リン化合物との複合体を生成できなかったアルミニウム化合物が異物として析出するおそれがある。
また、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tとは、重合反応の開始前であり、かつ、エステル化反応またはエステル交換反応終了後に添加することが好ましく、前記第1ステップ後であって前記第2ステップの前に前記中間体にアルミニウム化合物を溶解した溶液Sとリン化合物を溶解した溶液Tを添加することがより好ましい。エステル化反応またはエステル交換反応終了前に添加すると、アルミニウム系異物量が増大するおそれがある。
【0104】
ポリエステル樹脂(B)が、多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種と多価アルコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種とからなるものであるときは、アルミニウム化合物を溶解した溶液Sは、アルミニウム化合物を溶解したグリコール溶液であることが好ましく、リン化合物を溶解した溶液Tは、リン化合物を溶解したグリコール溶液であることが好ましい。
【0105】
<リン化合物の熱処理>
また、ポリエステル樹脂(B)の製造に使用するリン化合物は溶媒中で熱処理されたものであることが好ましい。使用する溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であれば限定されないが、アルキレングリコールとしては、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましく、エチレングリコール等のポリエステル樹脂(B)の構成成分であるグリコールを用いることがより好ましい。溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくてもよい。
【0106】
上記熱処理の条件は、熱処理温度が170~196℃であることが好ましく、より好ましくは175~185℃、さらに好ましくは175~180℃である。熱処理時間は30~240分が好ましく、より好ましくは50~210分である。
【0107】
上記熱処理時のリン化合物の濃度は3~10質量%が好ましい。
【0108】
上記の熱処理により、グリコール溶液中に含まれるリン化合物の酸性度を一定にすることができ、アルミニウム化合物と併用することによる重合活性が向上するとともに、重合触媒に起因するアルミニウム系異物量の生成を低下させることができ、かつ重合工程におけるリン化合物の留去量が抑制でき経済性が高めることができる。よって、上記熱処理を行うことが好ましい。
【0109】
本願は、2021年5月6日に出願された日本国特許出願第2021-078749号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年5月6日に出願された日本国特許出願第2021-078749号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0110】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0111】
〔評価方法〕
(1)固有粘度(IV)
試料またはそのプリフォームを約3g凍結粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.20g計量し、1,1,2,2-テトラクロロエタンとp-クロロフェノールとを1:3(質量比)で混ぜた混合溶媒を20ml用いて100℃で60分間撹拌して完全に溶解して室温まで冷却した後グラスフィルターを通して試料とした。30℃に温調されたウベローデ粘度計((株)離合社製)を用いて試料および溶媒の落下時間を計測し、次式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(-1+√(1+4K’ηSp))/2K’C
ηSp=(τ-τ0)τ0
ここで、
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSp:比粘度(-)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(=1g/dl)
τ:試料の落下時間(sec)
τ0:溶媒の落下時間(sec)
【0112】
(2)試料中における所定の金属元素の含有率
白金製るつぼに後述するポリエステル樹脂(A-1)を秤量し、電気コンロでの炭化の後、マッフル炉で550℃、8時間の条件で灰化した。灰化後のサンプルを1.2M塩酸に溶解し、試料溶液とした。調製した試料溶液を下記の条件で測定し、高周波誘導結合プラズマ発光分析法によりポリエステル樹脂(A-1)中におけるアンチモン元素、ゲルマニウム元素、及びチタン元素の濃度を求めた。同様に後述するポリエステル樹脂(E)~(G)中におけるアンチモン元素、ゲルマニウム元素、及びチタン元素の濃度を求めたが、含有量が1質量ppm以下である元素については記載を省略した。また、上記と同様の方法で後述するポリエステル樹脂(B-1)中におけるアルミニウム元素の濃度を求めた。
装置:SPECTRO社製 CIROS-120
プラズマ出力:1400W
プラズマガス:13.0L/min
補助ガス:2.0L/min
ネブライザー:クロスフローネブライザー
チャンバー:サイクロンチャンバー
測定波長:167.078nm
【0113】
(3)ポリエステル樹脂(B-1)中におけるリン元素の含有率
ポリエステル樹脂(B-1)を硫酸、硝酸、過塩素酸で湿式分解を行った後、アンモニア水で中和した。調整した溶液にモリブデン酸アンモニウムおよび硫酸ヒドラジンを加えた後、紫外可視吸光光度計(島津製作所社製、UV-1700)を用いて、波長830nmでの吸光度を測定した。あらかじめ作製した検量線から、ポリエステル樹脂(B-1)中のリン元素の濃度を求めた。
【0114】
(4)ポリエステル樹脂(B-1)中におけるアルミニウム系異物量
ポリエステル樹脂(B-1)30gおよびp-クロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:質量比)混合溶液250mLを、撹拌子を入れた500mL三角フラスコに投入し、ホットスターラーを使用して100~105℃、1.5時間で加熱溶解した。該溶液を、直径47mm/孔径1.0μmのポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(Advantec社製PTFEメンブレンフィルター、品名:T100A047A)を用いて、異物を濾別した。有効濾過直径は37.5mmとした。濾過終了後、引き続きクロロホルム50mLを用いて洗浄し、次いでフィルターを乾燥させた。
該メンブレンフィルターの濾過面を、走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、ZSX100e、Rhライン球4.0kW)でアルミニウム元素量を定量した。定量はメンブレンフィルターの中心部直径30mmの部分について行った。なお、該蛍光X線分析法の検量線はアルミニウム元素含有率が既知のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて求め、見掛けのアルミニウム元素量をppmで表示した。測定はX線出力50kV-70mAで分光結晶としてペンタエリスリトール、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用い、PHA(波高分析器)100-300の条件でAl-Kα線強度を測定することにより実施した。検量線用ポリエチレンテレフタレート樹脂中のアルミニウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法で定量した。
【0115】
(5)試料中のヒンダードフェノール構造又はその分解残基の存在確認
試料420mgをヘキサフルオロイソプロパノールと重ベンゼンとを1:1(質量比)で混ぜた混合溶媒2.7mLに溶解し、リン酸25%重アセトン溶液を10μL添加して遠心分離を行った。その後、上澄み液にトリフルオロ酢酸100~150mgを添加し、すぐに下記の条件でP-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER社製、AVANCE 500)
31P共鳴周波数:202.456MHz
ロック溶媒:重ベンゼン
検出パルスのフリップ角:65°
データ取り込み時間:1.5秒
遅延時間:0.5秒
プロトンデカップリング:フルデカップル
測定温度:25~35℃
積算回数:20000~30000回程度
表1に示した化式番号残基のピーク波長を以下に示す。これらのピーク波長が検出されたときには、試料中にヒンダードフェノール構造を有すると判断した。
化学式1:34.5ppm、化学式4:30.5ppm、化学式7:53.6ppm
化学式2:33.8ppm、化学式5:30.1ppm、化学式8:53.0ppm
化学式3:31.9ppm、化学式6:28.7ppm、化学式9:51.3ppm
【0116】
(6)環状三量体の定量
試料を冷凍粉砕あるいは細片化し、試料100mgを精秤した。これを、ヘキサフルオロイソプロパノ-ル/クロロホルム混合液(容量比=2/3)3mLに溶解し、さらにクロロホルム20mLを加えて希釈した。これにメタノ-ル10mLを加えてポリマーを沈殿させた後、濾過した。濾液を蒸発乾固し、ジメチルホルムアミド10mLで定容とした。次いで下記の高速液体クロマトグラフ法でポリエステル樹脂中あるいは中空成形体中の環状三量体量を定量した。前記操作を5回繰返し、その平均値をCT含有量とした。
装置:L-7000(日立製作所社製)
カラム:μ-Bondasphere C18 5μ 100オングストローム 3.9mm×15cm(Waters社製)
溶媒:溶離液A:2%酢酸/水(v/v)
溶離液B:アセトニトリル
グラジエントB%:10→100%(0→55分)
流速:0.8mL/分
温度:30℃
検出器:UV-259nm
【0117】
(7)試料の固有粘度保持率
試料を真空乾燥140℃、16時間乾燥し、水分率150ppm以下の乾燥ポリエステルを作製した。この乾燥ポリエステルを用いて以下の条件で二軸押出機にて再練り処理を1回行った後に再練り品の固有粘度を測定し、下記の式を用いて固有粘度保持率を算出した。また、上記乾燥ポリエステル樹脂を用いて以下の条件で二軸押出機にて再練り処理を3回行った後に再練り品の固有粘度を測定し、下記の式を用いて固有粘度保持率を算出した。なお、固有粘度の測定方法は上記(1)に記載のとおりである。
二軸押出機:テクノベル社製 KZW15TW-45/60MG-NH(-2200)
設定温度:260℃(実温268~270℃)
スクリュー回転数:200rpm
吐出量1.7~2.0kg/h
固有粘度保持率(%)=100×再練り品の固有粘度/試料の固有粘度
なお、水分率は、電量滴定法であるカールフィッシャー水分計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、CA-200)を用いて、試料0.6gを230℃,5分間、250mL/minの窒素気流下の条件で測定した。
【0118】
(8)カラー測定
試料の非晶ペレットを測定セルに詰め込み(約50g)回転させながら測定を実施した。
装置:東京電色社製 精密型分光光度色彩計TC-1500SX
測定方法:JIS Z8722準拠 透過光 0度、-0度法
検出素子:シリコンフォトダイオードアレー
光源:ハロゲンランプ 12V100W 2000H
測定面積:透過25mmφ
湿温度条件:25℃、RH50%
測定セル:φ35mm、高さ25mm 回転式(ペレット)
測定内容:X,Y,Z3刺激値 CIE色度座標 x=X/X+Y+Z y=Y/X+Y+Z
ハンターLab表色系
上記(7)と同じ方法で再練り処理を行い、再練り処理を1回行った後の再練り品におけるL値及びb値と再練り処理を3回行った後の再練り品におけるL値及びb値と求めた。
【0119】
(9)ポリエステル樹脂(A-1)の組成分析
ポリエステル樹脂(A-1)20mgを重ヘキサフルオロイソプロパノールと重クロロホルムとを1:9(容量比)で混ぜた混合溶媒0.6mlに溶解し、遠心分離を行った。
その後、上澄み液を採取し、下記の条件でH-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER社製、AVANCE NEO 600)
1H共鳴周波数:600.13MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
フリップ角:30°
データ取り込み時間:4秒
遅延時間:1秒
測定温度:30℃
積算回数:128回
【0120】
以下、アルミニウム含有エチレングリコール溶液及びリン含有エチレングリコール溶液の調製について説明する。
【0121】
<アルミニウム含有エチレングリコール溶液sの調製>
塩基性酢酸アルミニウムの20g/L水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールをともに調合タンクに仕込み、室温(23℃)で数時間撹拌した後、減圧(3kPa)下、50~90℃で数時間撹拌しながら系から水を留去し、アルミニウム化合物が20g/L含まれたアルミニウム含有エチレングリコール溶液sを調製した。
【0122】
<リン含有エチレングリコール溶液tの調製>
リン化合物として、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)を、エチレングリコールとともに調合タンクに仕込み、窒素置換下撹拌しながら175℃で150分熱処理し、リン化合物が50g/L含まれたリン含有エチレングリコール溶液tを調製した。
【0123】
<ポリエステル樹脂(B-1)>
撹拌機付き10Lステンレス製オートクレーブに、事前に調合した高純度テレフタル酸とエチレングリコールからなるエステル化率が約95%のポリエステルオリゴマーと、高純度テレフタル酸を仕込み、260℃でエステル化反応を行って、オリゴマー混合物を得た。得られたオリゴマー混合物は酸末端基の濃度が750eq/tonであり、水酸基末端の割合(OH%)は59モル%であった。
得られたオリゴマー混合物に、上記方法で調製したアルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを混合し一液化した混合液を添加した。該混合液は、それぞれオリゴマー混合物の質量に対して、アルミニウム元素およびリン元素として21質量ppmおよび58質量ppmとなるように作製した。アルミニウム元素に対するリン元素の添加モル比は2.41であった。なお、生成されるポリエステル樹脂の量は、添加するテレフタル酸の量より算出可能であり、本実施例では、生成されるポリエステル樹脂に対してアルミニウム元素およびリン元素として21質量ppmおよび58質量ppmとなるように混合液が添加されている。
その後、1時間で系の温度を280℃まで昇温して、この間に系の圧力を徐々に減じて0.15kPaとし、この条件下で重縮合反応を行い、IVが0.60dl/gのポリエステル樹脂を得た。その後、得られたポリエステル樹脂を、バッチ式の固相重合装置を使用し、230℃にて、減圧下、7時間固相重合し、固有粘度が0.70dl/gのポリエステル樹脂(B-1)を得た。ポリエステル樹脂(B-1)におけるアルミニウム元素の残存量は21質量ppm、リン元素の残存量は45質量ppm、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比は1.87であった。ポリエステル樹脂(B-1)中におけるアルミニウム系異物に相当するアルミニウム元素の含有率は710質量ppm、ポリエステル樹脂(B-1)のL値は58.7であり、ポリエステル樹脂(B-1)中にヒンダードフェノール構造を有することが確認できた。
【0124】
<ポリエステル樹脂(A-1)>
ポリエステル樹脂(A-1)として、協栄産業株式会社より提供された回収ポリエステル樹脂フレークを用いた。該回収ポリエステル樹脂フレークは、組成分析の結果、エチレンテレフタレート構造単位を97モル%以上含むこと確認した。該回収ポリエステル樹脂フレークの固有粘度は0.750dl/gであった。また、上記回収ポリエステル樹脂フレーク中におけるアンチモン元素の含有率は190質量ppm、ゲルマニウム元素の含有率は1.6質量ppmであった。なお、チタン元素の含有率は1質量ppm以下と非常に少量であるため、表2及び表3ではチタン元素の含有率の記載は省略した。アンチモン、ゲルマニウム、チタンの各元素の含有率から、上記回収ポリエステル樹脂フレークは、アンチモン触媒で製造されたポリエステル樹脂を用いた中空成形体を主体とした回収ポリエステル樹脂フレークであることを裏付けることができた。
【0125】
(実施例1~6)
ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(B-1)とを表2に示した配合比で溶融混練することでポリエステル樹脂組成物を得ることができた。ポリエステル樹脂組成物の各種特性を表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
(比較例1、参考例1~4)
ポリエステル樹脂(A-1)、ポリエステル樹脂(B-1)、及び下記ポリエステル樹脂(E)~(G)単体の各種特性を表3に示す。なお、ポリエステル樹脂(E)~(G)はアンチモン触媒、チタン触媒、及びゲルマニウム触媒の少なくとも一つを用いて作製されたポリエステル樹脂であり、アンチモン、チタン、ゲルマニウムの各元素の含有率は上記の測定方法で測定されている。
ポリエステル樹脂(E):インドラマ社製N1(アンチモン元素の含有量:270質量ppm、固有粘度:0.789dl/g)
ポリエステル樹脂(F):インドラマ社製H0AF(チタン元素の含有量:7質量ppm、固有粘度:0.753dl/g)
ポリエステル樹脂(G):インドラマ社製N2G(ゲルマニウム元素の含有量:30質量ppm、固有粘度:0.739dl/g)
【0128】
(比較例2~4)
ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(E)~(G)のいずれかとを表3に示した配合比で溶融混練することでポリエステル樹脂組成物を得ることができた。ポリエステル樹脂組成物の各種特性を表3に示す。
【0129】
【表3】
【0130】
実施例1~実施例6では、回収されたポリエステル樹脂(A-1)に対してポリエステル樹脂(B-1)を混合することにより複数回リサイクルを行っても極限粘度保持率が高いポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0131】
また、実施例1~実施例6では、回収されたポリエステル樹脂(A-1)に対してポリエステル樹脂(B-1)を混合することにより複数回リサイクルを行っても黒ずみの尺度であるL値が高いままであり、かつ、黄色みの尺度であるb値が低いままであるポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0132】
ポリエステル樹脂(B-1)はアルミニウム元素及びリン元素の添加量が少ないにもかかわらず、重合時間が短くなっている上にアルミニウム系異物量も少ないため高品質である。また、触媒添加量も少ないことから、触媒のコストを低減できる。
【0133】
ポリエステル樹脂(B-1)を用いた参考例1はリサイクル性は優れているが、ポリエステル樹脂(B-1)は製造コストが高いため、経済性が劣る。
【0134】
比較例1では、回収されたポリエステル樹脂(A-1)をリサイクルしているが、リサイクル回数を重ねるにつれて極限粘度保持率が低下して分子量が低下してしまい、さらに、L値が低下し、b値が高くなり、着色が見られた。
【0135】
参考例2~4では、アンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂を用いた場合であり、比較例2~4では、アンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂を回収されたポリエステル樹脂(A-1)と混合した場合である。アンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂の固有粘度保持率が高くなっている(参考例2~4)にもかかわらず、回収されたポリエステル樹脂(A-1)に対してアンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂を混合してもポリエステル樹脂(A-1)のみをリサイクルした場合と固有粘度保持率が同程度であり(比較例2~4)、回収されたポリエステル樹脂(A-1)に対してアンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂を混合しても分子量の低下を抑制することはできなかった。また、アンチモン元素、チタン元素、又はゲルマニウム元素を含むポリエステル樹脂を回収されたポリエステル樹脂(A-1)と混合した場合、リサイクル回数を重ねるとCT量やΔCTが多くなってしまい、リサイクル性を高めることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
アルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)を回収されたポリエステル樹脂(A)と混合してポリエステル樹脂組成物(C)を製造することにより、ポリエステル樹脂組成物(C)の着色や分子量の低下を抑制でき、リサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。また、アルミニウム化合物及びリン化合物を含むポリエステル樹脂(B)を回収されたポリエステル樹脂(A)と混合して中空成形体(D)を製造することにより、中空成形体(D)の着色や分子量の低下を抑制でき、リサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
また、ポリエステル樹脂組成物(C)や中空成形体(D)は再使用することが出来るので、資源枯渇の抑制、海洋ごみの減少、地球温暖化の抑制など様々な課題解決に寄与することができる。