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特許7485261化石燃料および再生可能な成分を含有する炭化水素のブレンド、およびかかるブレンドを製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】化石燃料および再生可能な成分を含有する炭化水素のブレンド、およびかかるブレンドを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 3/00 20060101AFI20240509BHJP
   C10L 1/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C10G3/00 Z
C10L1/04
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2021567851
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2020025223
(87)【国際公開番号】W WO2020228991
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】PA201900582
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】520152858
【氏名又は名称】スティーパー エナジー エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイヴァーセン、スティーン ブルマーステッド
(72)【発明者】
【氏名】ゲレーロ、ジュリー カテリーン ロドリゲス
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095723(JP,A)
【文献】特開2007-308569(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0094919(US,A1)
【文献】特開2014-218643(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 3/00
C10L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製油所に投入するための、かつ製油所で処理するための再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分と、石油由来の炭化水素を含有する第2のブレンド成分とを含む炭化水素ブレンドであって、ここで、前記第1のブレンド成分は、220℃超の沸点を有する少なくとも70重量%の炭化水素物質を含み、かつハンセン溶解度パラメータ(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~12,6~12)を有し、ここで、前記第2のブレンド成分は、ハンセン溶解度パラメータ(δd2,δp2,δh2)=(17~20,3~5,4~7)を有し、ここで、前記第1のブレンド成分は、最終的な前記炭化水素ブレンド中に最大80重量%の相対量で存在する、炭化水素ブレンド。
【請求項2】
前記第1のブレンド成分が、ハンセン溶解度パラメータ(δ,δ,δ)=(17~20,~12,~12)を有する炭化水素物質と、ハンセン溶解度パラメータ(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,4~6)を有するリンカー物質とを含み、ここで、前記炭化水素物質は、前記第1のブレンド成分中に90~99.5重量%の相対量で存在し、前記リンカー物質は、前記第1のブレンド成分中に0.5~10重量%の相対量で存在する、請求項1に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項3】
前記リンカー物質は、少なくとも1重量%の硫黄含有量有する油である、請求項2に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項4】
前記第1のブレンド成分が、300℃超の沸点を有する少なくとも70重量%含む炭化水素物質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項5】
前記第1のブレンド成分が、300℃超の沸点を有する少なくとも50重量%を含む炭化水素物質含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項6】
前記第1のブレンド成分が、400℃超の沸点を有する少なくとも10重量%含む炭化水素物質を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項7】
前記第1のブレンド成分が、最終的な前記炭化水素ブレンド中に10~75重量%の相対量で存在し、ここで、前記第2のブレンド成分は、最終的な前記炭化水素ブレンド中に25~90重量%の相対量で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項8】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質が、1重量%未満の含水量有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項9】
前記第1のブレンド成分が、ハンセン溶解度パラメータ(δd1,δp1,δh1)=(17~20,7~9,8.5~10)を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項10】
前記第1のブレンド成分中の前記炭化水素物質が、ハンセン溶解度パラメータ(δ,δ,δ)=(18.0~19.5,~12,7~10)を有し、前記リンカー物質が、ハンセン溶解度パラメータ(δd3,δp3,δh3)=(17~20、4~6、4~)を有する、請求項2または3に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項11】
前記第1のブレンド成分が、最終的な前記炭化水素ブレンド中に50~75重量%の相対量で存在し、ここで、前記第2のブレンド成分は、最終的な前記炭化水素ブレンド中に25~50重量%の相対量で存在し、さらに前記リンカー物質は、任意に最終的な前記炭化水素ブレンド中に0.5~5重量%の相対量で存在する、請求項2、3および1のいずれか1項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項12】
前記リンカー物質が、1.ケトン類、2.アルコール類、3.アルカン類、4.トルエン、キシレン、クレゾールを含む芳香族類の群からそれぞれ選択される1種または複数の成分を含む請求項2、3、1および1のいずれか1項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項13】
前記リンカー物質が、25~90重量%のケトン類、0.1~40重量%のアルカン類、1~40重量%のアルコール類および0.1~20重量%のトルエンおよび/またはキシレンおよび/またはクレオソールを含む請求項1に記載炭化水素ブレンド。
【請求項14】
前記炭化水素ブレンドの50℃における粘度が160~180cStの範囲であり、前記炭化水素ブレンドの引火点が60℃超であり、前記炭化水素ブレンドの流動点が30℃未満であり、全酸価(TAN)が2.5mgKOH/g未満である、請求項1~1のいずれか1項に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項15】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素成分および/または前記炭化水素物質が、25未満のコンラドソン残留炭素分をさらに有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項16】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素成分および/または前記炭化水素物質が、50mgKOH/g未満全酸価(TAN)をさらに有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項17】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素成分および/または前記炭化水素物質がさらに、
- 60~150℃の範囲の引火点、
- 30℃未満の流動点
- 0.1重量%未満の灰分、
- 20未満のコンラドソン残留炭素分および
- 2.5mgKOH/g未満の酸価
を有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項18】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質が、15重量%未満の酸素含有量さらに有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項19】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素成分および/または前記炭化水素物質が、5重量%未満酸素含有量を有する、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項20】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質が、1000~10000cStの範囲の50℃における粘度、または100~1000cStの範囲の50℃における粘度をさらに有する、請求項19に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項21】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質が、バイオマスおよび/または廃棄物から製造される、請求項1記載の炭化水素ブレンド。
【請求項22】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質の製造が、水熱液化プロセスによって行われる、請求項2に記載の炭化水素ブレンド。
【請求項23】
前記第1のブレンド成分の前記炭化水素物質が、
a.1種または複数の供給原料に含まれる1種または複数のバイオマスおよび/または廃棄物を提供する段階と、
b.前記バイオマスおよび/または廃棄物を、少なくとも1つが水を含む1つまたは複数の流体中でスラリー化することにより、供給混合物を提供する段階と、
c.前記供給混合物を100~400バールの範囲の圧力に加圧する段階と、
d.前記加圧された供給物を300℃~450℃の範囲の温度に加熱する段階と、
e.前記加圧および加熱された供給混合物を反応ゾーンで3~30分の変換時間で維持する段階;
f.前記変換された供給混合物を25℃~200℃の範囲の温度に冷却する段階と、
g.前記変換された供給混合物を1~120バールの圧力に膨張させる段階と、
h.前記変換された供給混合物を、原油、気相、および水溶性有機物と溶解塩とを含む水相に分離する段階と、
i.任意にさらに、1種または複数の不均一系触媒の存在下で、60~200バールの範囲の圧力および260~400℃の温度にて、1つまたは複数の段階において前記原油を水素と反応させることにより前記原油を改質し、改質された前記原油を、低沸点化合物を含む留分と高沸点化合物を含む第1の炭化水素成分とに分離する段階と
によって製造される、請求項2に記載の炭化水素ブレンドの製造方法
【請求項24】
請求項1記載の炭化水素ブレンドを形成するための中間ブレンド成分であって、前記中間ブレンド成分は、当該中間ブレンド成分の少なくとも一部を形成する、炭化水素を含有する炭化水素物質とリンカー物質とを含み、ここで、前記炭化水素物質は、ハンセン溶解度パラメータ(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~12,7~10)を有し、前記リンカー物質は、ハンセン溶解度パラメータ(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,3~6)を有し、前記炭化水素物質は、前記中間ブレンド成分中に90~99.5重量%の相対量で存在し、さらに前記リンカー物質は、前記中間ブレンド成分中に0.5~10重量%の相対量で存在する、中間ブレンド成分。
【請求項25】
前記炭化水素物質が、前記中間ブレンド成分中に95~99.5重量%の相対量で存在し、さらに前記リンカー物質が、前記中間ブレンド成分中に0.5~5重量%の相対量で存在する、請求項2に記載の中間ブレンド成分。
【請求項26】
請求項1記載の再生可能な炭化水素成分を含有する炭化水素ブレンドを製造する方法であって、前記方法は、
ハンセン溶解度パラメータ(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~10,6~10)を有する再生可能な成分を含む第1のブレンド成分を、最終的な前記炭化水素ブレンドの最大80重量%の量で提供する段階と、
ハンセン溶解度パラメータ(δd2,δp2,δh2)=(17~20,3~)を有する第2のブレンド成分を提供する段階と、
- 前記第1のブレンド成分を前記第2のブレンド成分に添加して前記炭化水素ブレンドを形成する段階と
を含む、方法。
【請求項27】
前記方法がさらに、
ハンセン溶解度パラメータ(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,3~6)を有するリンカー物質を、最終的な前記炭化水素ブレンドの0.5~10重量%の相対量で提供する段階と、
- 前記リンカー物質を前記第1のブレンド成分または前記第2のブレンド成分に添加して中間ブレンド成分を形成する段階と、
- 前記第2のブレンド成分または前記第1のブレンド成分を前記中間ブレンド成分に添加して前記炭化水素ブレンドを形成する段階と
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のブレンド成分および/または前記第2のブレンド成分および/または前記中間ブレンド成分を、前記炭化水素ブレンドを形成する前に、70~150℃の範囲の温度に加熱する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のブレンド成分または前記第2のブレンド成分と前記リンカー物質とを含む前記中間ブレンド成分を、前記第2のブレンド成分または前記第1のブレンド成分を添加して前記炭化水素ブレンドを形成する前に、均質な混合物を形成するように操作する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記均質な混合物を形成するための前記操作を、前記混合物を撹拌することによって、または前記混合物をポンプ輸送することによって行う、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1記載の炭化水素ブレンドの製造を準備する方法であって、前記方法は、再生可能な炭化水素成分を含有する前記第1のブレンド成分のハンセン溶解度パラメータ(δd1,δp1,δh1)を測定する段階と、前記第2のブレンド成分のハンセン溶解度パラメータ(δd2,δp2,δh2)を測定する段階と、ハンセン溶解度パラメータの前記測定に基づいて前記第1のブレンド成分および前記第2のブレンド成分の相溶性を決定する段階とを含む、方法。
【請求項32】
前記測定されたハンセン溶解度パラメータに基づいて前記相溶性が存在すると決定され、前記第1のブレンド成分および前記第2のブレンド成分が直接混合されることが許容される、請求項3に記載の方法。
【請求項33】
前記測定されたハンセン溶解度パラメータに基づいて前記第1のブレンド成分および前記第2のブレンド成分が相溶性でないと決定され、この場合、ハンセン溶解度パラメータ((δd3,δp3,δh3))を有するリンカー物質が選択され、相溶性を達成するために前記第1または前記第2のブレンド成分に前記リンカー物質が添加される、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製油所における炭化水素処理の分野、特に、効率を高めて製油所で処理するための最終的な炭化水素ブレンドの少なくとも一部を形成する、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分と、石油由来の炭化水素を含有する第2のブレンド成分とを含む炭化水素ブレンドを処理する分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気候変動により、国際社会は、2050年までに最高気温の上昇を2℃に抑えるために、温室効果ガスの総排出量を削減するという野心的な目標の設定を余儀なくされている。温室効果ガス総排出量の約25%は輸送によるもので、燃料効率の向上にもかかわらず、排出量は1990年の量よりも依然として高い唯一の分野であり、1990年の量と比較してCO排出量が増加し続けている唯一の分野である(すなわち、大型トラック、海運および航空)。小型車やバスの排出量は、燃料効率の向上、電化、ハイブリッド車、バイオエタノールによって削減することができるが、かかるオプションは、排出量が増加し続け、今後も増え続けると予測される大型トラック、海運および航空には存在しない。そのため、かかる輸送用途には新しい解決策が必要である。
【0003】
水熱液化(HTL)は、バイオマスや廃棄物流などの生物由来の材料を、水の臨界点(218バール、374℃)付近の高圧水中で、例えば150バール~400バールの圧力および300~450℃の範囲の温度にて、再生可能な原油に変換するための非常に効率的な熱化学的手法である。これらの条件では、水は特殊な性質を獲得し、生物有機材料を再生可能な原油に変換するなど、多くの化学反応の理想的な媒体となる。水熱液化は、すべての有機炭素材料(リグニンなどの難分解性バイオポリマーを含む)が再生可能なバイオ原油に直接変換されるため、その変換効率および炭素効率が高いことから、資源効率が非常に高い。寄生損失が少ないため、エネルギー効率が非常に高く、他の熱化学プロセスとは異なり、乾燥や相変化を必要としないため、潜熱を加える必要がなく、すなわち湿った材料を処理することができる。さらに、水熱液化プロセスにより、広範な熱回収プロセスが可能になる。製造された再生可能な原油は、その石油系油と多くの類似点があり、例えば熱分解によって生成されたバイオ油よりも一般的にはるかに高品質である。バイオ油は、通常、酸素などのヘテロ原子を大量に含む(例えば40重量%)とともに、含水量が高い(例えば30~50重量%)ため、かかるバイオ油は化学的に不安定で、石油と混ざり合うことができず、輸送用燃料などの最終製品への改質および/または共処理において深刻な問題を課す。石油の水素化処理から採用された触媒的な水素化脱酸素は、熱分解によって製造されたバイオ油を少なくとも部分的に炭化水素またはより安定したバイオ油に変換することが証明されているが、公表された研究、例えばXing(2019),Pinheiro(2019),Mohan(2006),Elliott(2007)によると、高い酸素含有量による非常に高い水素消費量、触媒安定性および反応器のファウリングに関する制限がある。
【0004】
水熱液化によって製造された再生可能な原油の量と質は、特定の運転条件と適用される水熱液化プロセス、例えば、原料、乾物含有量、加熱および変換時の圧力と温度、触媒、液体有機化合物の存在、加熱および冷却速度、分離システムなどのパラメーターに依存する。
【0005】
従来の石油化学用原油と同様に、水熱液化プロセスから製造された再生可能な原油は、その最終的な用途で使用され得る前に(例えば、既存のインフラでドロップイン燃料として直接使用)、接触水素化処理や分留などの改質/精製が必要である。しかしながら、水熱液化によって製造された再生可能な原油は、多くの点でその石油系油に似ているにもかかわらず、次に挙げるその独特の性質も有している:
- 酸素含有量が高いため、従来の石油系油よりも沸点および粘度が高いこと
- 酸素がある場合とない場合との沸点の差が大きいこと
- 石油由来の油よりも酸素含有量が高いことから、例えば、酸素含有量が高いため接触水素化による改質の際に発熱が大きくなること
- 再生可能な原油は、その石油系油や、例えば接触水素処理から生じる部分的または全面的に改質された油とは、完全にはブレンドできず/相溶性がない。
【0006】
これらの独特の性質は、水熱製造プロセスの運転中、再生可能な原油もしくはその留分を直接使用する際と、再生可能な原油を個別に改質するかまたは製油所で従来の石油由来の油や他の油などの他の油と共処理するかによって行うかどうかにかかわらない改質プロセスとの両方で考慮する必要がある。
【0007】
化石燃料炭化水素とともに再生可能な成分を含有する炭化水素のブレンドを含む、油またはその留分を製油所の投入ストリームなどのブレンドで、製油所に入る前または製油所プロセス中の後の段階で使用する場合、すべての成分が完全に相溶性であり、例えば、使用中、貯蔵中および/または同じ用途で使用する他の燃料ブレンドとの希釈によって分離しないことが重要である。
【0008】
かかる相溶性ならびに効率性および加工性の向上は望ましいことであるが、再生可能な成分を含む油では通常得られない。
【0009】
再生可能な原油と化石油との相溶性を高める手法の1つが、酸素含有量が高い場合に、再生可能な原油を水素化して脱酸素化することである。これにより相溶性は向上するが、混和性の上昇を達成するには非常に高価な手法である。
【0010】
Energy & Fuels 2019,33,p.11135-11144,(Ying et al)より、高速熱分解プロセスから得られるバイオ油は、その非混和性と非常に高い酸素含有量のため、石油との共処理の観点から問題があり、このためHTL由来のバイオ原油に焦点が移ったと11135頁に記載されている。
【0011】
米国特許出願2013/0174476号明細書からは、バイオマス由来の液体と、少なくとも1種の石油由来の組成物と、任意に1種または複数の添加物とを含むバイオ油組成物を製造して、代替可能なバイオ油組成物を製造することが知られている。バイオマス由来の液体は、この従来から知られている技術では熱分解油であるが、これは上述のような欠点があり、さらに水分を多く有している。このプロセスでは、プロセスの効率を著しく低下させる大量の残渣が発生する。
【0012】
プロセスおよび資源の効率化の理由ならびに経済的な理由から、再生可能な原油をできるだけ多くの有用で価値のある製品に変換し、それを直接使用したり、同じ原油中で処理したりすることができ、価値の低い残留物や廃棄物の発生を最小限に抑えることがさらに望ましい。
発明の目的
【0013】
したがって、本発明の目的は、石油成分とともに再生可能な成分を含む炭化水素ブレンドであって、上記のような効率性および相溶性の問題に悩まされず、廃棄物または残留物の発生を最小限に抑えることができる炭化水素ブレンドを提供することである。
発明の説明
【0014】
本発明の一態様によれば、本目的は、製油所に投入するための、かつ製油所で処理するための最終的な炭化水素ブレンドの少なくとも一部を形成する、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分と、石油由来の炭化水素を含有する第2のブレンド成分とを含む炭化水素ブレンドであって、ここで、第1のブレンド成分は、220℃超の沸点を有する少なくとも70重量%の炭化水素物質を含み、かつ特性(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~12,6~12)を有することを特徴とし、ここで、第2のブレンド成分は、特性(δd2,δp2,δh2)=(17~20,3~5,4~7)を有することを特徴とし、ここで、第1のブレンド成分は、最終的な炭化水素ブレンド中に最大80重量%の相対量で存在する、炭化水素ブレンドによって達成される。
【0015】
第1のブレンド成分を指定されたとおり提供することで、炭化水素ブレンドから生じる残留物が最小限に抑えられ、ひいては効率の向上が達成される。
【0016】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、特性(δ,δ,δ)=(17~20,6~15,6~12)を有することを特徴とする炭化水素物質と、特性(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,4~6)を有することを特徴とするリンカーとを含み、ここで、炭化水素物質は、第1のブレンド成分中に90~99.5重量%の相対量で存在し、リンカー物質は、第1のブレンド成分中に0.5~10重量%の相対量で存在する。
【0017】
一実施形態では、リンカー物質は、少なくとも1重量%の硫黄含有量、例えば少なくとも1.5重量%の硫黄含有量を有する油、好ましくは少なくとも2.0重量%の硫黄含有量を有する油である。
【0018】
一実施形態では、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分は、300℃超の沸点を有する少なくとも70重量%、例えば350℃超の沸点を有する少なくとも70重量%の炭化水素物質を含み、好ましくは、第1のブレンド成分の炭化水素物質は、370℃超の沸点を有する少なくとも70重量%、例えば400℃超の沸点を有する少なくとも70重量%の第1の成分を含む。
【0019】
一実施形態では、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分は、300℃超の沸点を有する少なくとも50重量%の炭化水素物質、例えば350℃超の沸点を有する少なくとも50重量%の炭化水素物質を含み、好ましくは、第1のブレンド成分は、370℃超の沸点を有する少なくとも50重量%の炭化水素物質を含み、例えば、第1のブレンド成分は、400℃超の沸点を有する少なくとも50重量%の第1のブレンド成分を有する炭化水素物質を含む。
【0020】
一実施形態では、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分は、400℃超の沸点を有する少なくとも10重量%の炭化水素物質、例えば450℃超の沸点を有する少なくとも10重量%の炭化水素物質を含む。
【0021】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、最終的な炭化水素ブレンド中に10~75重量%の相対量で存在し、ここで、第2のブレンド成分は、最終的な炭化水素ブレンド中に25~90重量%の相対量で存在する。
【0022】
一実施形態では、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分は、1重量%未満の含水量、例えば0.5重量%未満の含水量を有する炭化水素物質を含み、好ましくは、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分は、0.25重量%未満の含水量、例えば0.1重量%未満の含水量を有する炭化水素物質を含む。
【0023】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、特性(δd1,δp1,δh1)=(17~20,7~12,7~12)を有することを特徴とする。
【0024】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、特性(δd1,δp1,δh1)=(17~20,7~9,8.5~10)を有することを特徴とする。
【0025】
一実施形態では、再生可能な成分を含む第1のブレンド成分中の炭化水素物質は、特性(δ,δ,δ)=(18.0~19.5,6~12,7~10)を有することを特徴とし、リンカー物質は、特性範囲(δd3,δp3,δh3)=(17~20、4~6、4~7)を有することを特徴とする。
【0026】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、最終的な炭化水素ブレンド中に50~75重量%の相対量で存在し、ここで、第2のブレンド成分は、最終的な炭化水素ブレンド中に25~50重量%の相対量で存在し、さらにリンカー物質は、任意に最終的な炭化水素ブレンド中に0.5~5重量%の相対量で存在する。
【0027】
一実施形態では、リンカー物質は、1.ケトン類、2.アルコール類、3.アルカン類、4.トルエン、キシレン、クレオソールなどの芳香族類の群からそれぞれ選択される1種または複数の成分を含む。
【0028】
一実施形態では、リンカー物質は、25~90重量%のケトン類、0.1~40重量%のアルカン類、1~40重量%のアルコール類および0.1~20重量%のトルエンおよび/またはキシレンおよび/またはクレオソールを含むか、またはさらに含む。
【0029】
一実施形態では、炭化水素ブレンドの50℃における粘度は160~180cStの範囲であり、炭化水素ブレンドの引火点は60℃超であり、炭化水素ブレンドの流動点は30℃未満であり、全酸価(TAN)は2.5mgKOH/g未満である。
【0030】
一実施形態では、第1のブレンド成分および/または炭化水素物質は、25未満のコンラドソン残留炭素分を有することをさらに特徴とする。
【0031】
一実施形態では、第1のブレンド成分および/または炭化水素物質は、50mgKOH/g未満、例えば40mgKOH/g未満のTANを有することをさらに特徴とし、好ましくは、第1のブレンド成分および/または炭化水素物質は、30mgKOH/g未満、例えば20mgKOH/g未満の全酸価(TAN)を有することをさらに特徴とする。
【0032】
一実施形態では、第1のブレンド成分および/または炭化水素物質はさらに、
- 60~150℃の範囲の引火点、
- 30℃未満の流動点
- 0.1重量%未満の灰分、
- 20未満のコンラドソン残留炭素分および
- 2.5mgKOH/g未満の酸価
を有することを特徴とする。
【0033】
一実施形態では、第1のブレンド成分の炭化水素物質は、15重量%未満の酸素含有量、例えば12重量%未満の酸素含有量を有することをさらに特徴とし、好ましくは、第1のブレンド成分は、10重量%未満の酸素含有量、例えば8重量%未満の酸素含有量を有することをさらに特徴とする。
【0034】
一実施形態では、第1のブレンド成分および/または炭化水素物質は、5重量%未満、例えば3重量%未満の酸素含有量を有する。
【0035】
一実施形態では、第1のブレンド成分は、1000~10000cStの範囲の50℃における粘度、例えば100~1000cStの範囲の50℃における粘度を有することをさらに特徴とする。
【0036】
一実施形態では、第1のブレンド成分の炭化水素物質は、バイオマスおよび/または廃棄物から製造される。
【0037】
一実施形態では、第1のブレンド成分の炭化水素物質の製造は、水熱液化プロセスによって行われる。
【0038】
一実施形態では、第1のブレンド成分の炭化水素物質は、以下の段階によって製造される:
a.1種または複数の供給原料に含まれる1種または複数のバイオマスおよび/または廃棄物を提供する段階;
b.バイオマスおよび/または廃棄物を、少なくとも1つが水を含む1つまたは複数の流体中でスラリー化することにより、供給混合物を提供する段階;
c.供給混合物を100~400バールの範囲の圧力に加圧する段階;
d.加圧された供給物を300℃~450℃の範囲の温度に加熱する段階;
e.加圧および加熱された供給混合物を反応ゾーンで3~30分の変換時間で維持する段階;
f.変換された供給混合物を25℃~200℃の範囲の温度に冷却する段階;
g.変換された供給混合物を1~120バールの圧力に膨張させる段階;
h.変換された供給混合物を、原油、気相、および水溶性有機物と溶解塩とを含む水相に分離する段階;
i.任意にさらに、1種または複数の不均一系触媒の存在下で、60~200バールの範囲の圧力および260~400℃の温度にて、1つまたは複数の段階において原油を水素と反応させることにより原油を改質し、改質された原油を、低沸点化合物を含む留分と高沸点化合物を含む第1のブレンド成分とに分離する段階。
【0039】
本発明の更なる態様では、本目的は、先行する請求項のいずれかに記載の炭化水素ブレンドを形成するための中間ブレンド成分によって達成され、中間ブレンド成分は、当該中間ブレンド成分の少なくとも一部を形成する、炭化水素を含有する炭化水素物質とリンカー物質とを含み、ここで、炭化水素物質は、特性(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~12,7~10)を有することを特徴とし、リンカー物質は、特性(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,3~6)を有することを特徴とし、炭化水素物質は、中間ブレンド成分中に90~99.5重量%の相対量で存在し、さらにリンカー物質は、中間ブレンド成分中に0.5~10重量%の相対量で存在する。
【0040】
一実施形態では、炭化水素物質は、中間ブレンド成分中に95~99.5重量%の相対量で存在し、さらにリンカー物質は、中間ブレンド成分中に0.5~5重量%の相対量で存在する。
【0041】
本発明のまた更なる態様では、本目的は、先行する請求項のいずれかに記載の再生可能な成分を含有する炭化水素ブレンドを製造する方法であって、以下の段階を含む方法によって達成される:
- 特性(δd1,δp1,δh1)=(17~20,6~10,6~10)を有することを特徴とする再生可能な成分を含む第1のブレンド成分を、最終的な炭化水素ブレンドの最大80重量%の量で提供する段階;
- 特性(δd2,δp2,δh2)=(17~20,3~6,3~6)を有することを特徴とする第2のブレンド成分を提供する段階;
- 第1のブレンド成分を第2のブレンド成分に添加して炭化水素ブレンドを形成する段階。
【0042】
一実施形態では、本方法は、以下の段階をさらに含む:
- 特性(δd3,δp3,δh3)=(17~20,3~6,3~6)を有するリンカー物質を、最終的な炭化水素ブレンドの0.5~10重量%の相対量で提供する段階;
- リンカー物質を第1または第2のブレンド成分に添加して中間ブレンド成分を形成する段階;
- 第2または第1のブレンド成分を中間ブレンド成分に添加して炭化水素ブレンドを形成する段階。
【0043】
一実施形態では、第1のブレンド成分および/または第2のブレンド成分および/または中間ブレンド成分は、炭化水素ブレンドを形成する前に、70~150℃の範囲の温度に加熱してもよい。
【0044】
一実施形態では、第1または第2のブレンド成分とリンカー物質とを含む中間ブレンド成分は、第2のブレンド成分または第1のブレンド成分を添加して炭化水素ブレンドを形成する前に、均質な混合物を形成するように操作される。
【0045】
一実施形態では、均質な混合物を形成するための操作は、混合物を撹拌することによって、または混合物をポンプ輸送することによって行われる。
【0046】
本発明の更なる態様では、本目的は、先行する請求項のいずれかに記載の炭化水素ブレンドの製造を準備する方法によって達成され、この方法は、再生可能な炭化水素成分を含有する第1のブレンド成分の特性(δd1,δp1,δh1)を測定する段階と、第2のブレンド成分の特性(δd2,δp2,δh2)を測定する段階と、特性の測定に基づいて第1および第2のブレンド成分の相溶性を決定する段階とを含む。
【0047】
一実施形態では、測定された特性に基づいて相溶性が存在すると決定され、第1および第2のブレンド成分が直接混合されることが許容される。
【0048】
一実施形態では、測定された特性に基づいて第1および第2のブレンド成分が相溶性でないと決定され、この場合、特性((δd3,δp3,δh3))を有するリンカー物質が選択され、相溶性を達成するために第1または第2のブレンド成分にリンカー物質が添加される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下では、本発明を、図面に示された一実施形態を参照して説明する。
図1】炭素質材料を再生可能な炭化水素に変換するための連続的な高圧プロセスの図式的概観を示す図である。
図2】実施例1の油を製造するために使用されるプラントのプロセスフロー図である。
図3】実施例2の部分的に改質された再生可能な油を製造するための接触改質プロセスの図式的概観を示す図である。
図4】実施例2および3の再生可能な原油の改質に使用されるユニットの概略的なフロー図である。
図5】第1のブレンド成分および/または中間ブレンド成分の潜在的なドロップインポイントを示した概略的な製油所プロセスダイアグラムを示す図である。
図6】溶解度試験で適用した溶媒分類の写真を示す図である。
図7】溶解度を評価するためのスポット試験の写真を示す図である。(1)は完全に溶解している2種の溶媒を示し、(2)は部分的に溶解している2種の溶媒を示す。
図8】実施例1で製造された再生可能な原油(油A)のハンセン溶解度パラメーターを3Dプロットした図である。
図9a】実施例1で製造された再生可能な原油のハンセン溶解度パラメーターを推定するために使用されるハンセン溶解度パラメーターを決定するための溶媒および溶媒混合物をまとめた図である。
図9b】実施例1で製造された再生可能な原油のハンセン溶解度パラメーターを推定するために使用されるハンセン溶解度パラメーターを決定するための溶媒および溶媒混合物をまとめた図である。
図10】水熱液化および改質プロセスで製造された再生可能な液体の性質をまとめた図である。
図11】実施例1で製造された再生可能な原油である油A、油Bおよび油Cのハンセン溶解度パラメーターを3Dプロットした図である。
図12】再生可能な原油である油A(実施例1)、部分的に改質された再生可能な油(実施例2)、および改質された再生可能な油(実施例3)のハンセン溶解度パラメーターを3Dプロットした図である。
図13a】化石原油、VGOおよびビチューメンのハンセン溶解度パラメーターを、再生可能な原油と比較した3Dプロットを示す図である。
図13b】化石原油、VGOおよびビチューメンのハンセン溶解度パラメーターを、部分的に改質された油と比較した3Dプロットを示す図である。
図13c】化石原油、VGOおよびビチューメンのハンセン溶解度パラメーターを、改質された油と比較した3Dプロットを示す図である。
図14】異なる再生可能な液体、化石燃料油、VGOおよびビチューメンのハンセン溶解度パラメーターをまとめた図である。
図15a】超低硫黄燃料油および高硫黄燃料油のハンセン溶解度パラメーターを、部分的に改質された油、部分的に改質された重質留分および改質された重質留分と比較した3Dプロットを示す図である。
図15b】超低硫黄燃料油および高硫黄燃料油のハンセン溶解度パラメーターを、部分的に改質された油、部分的に改質された重質留分および改質された重質留分と比較した3Dプロットを示す図である。
図16】本発明の好ましい実施形態による再生可能な成分を含有する低硫黄燃料ブレンドの一例を示す図である。
図17】実施例14に記載した部分的に改質された重質留分(HFPUO)と船舶用軽油(MGO)とのブレンドのスポット試験および顕微鏡画像を示す図である。
図18】実施例15に記載した部分的に改質された重質留分(HFPUO)と高硫黄燃料油(HSFO)とのブレンドのスポット試験および顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、バイオマスおよび/または廃棄物などの炭素質材料を再生可能な油に変換するための連続的な高圧製造プロセスの一実施形態を示す。
【0051】
図1に示すように、バイオマスおよび/または廃棄物の形態をとる炭素質材料が、まず供給混合物調製段階(1)に供される。供給混合物調製段階は、炭素質材料をポンプ輸送可能な供給混合物に変換し、多くの場合、炭素質のサイズを縮小し、炭素質材料を、他の要素、例えば水、触媒および他の添加物、例えば有機物とともにスラリー化して供給混合物にするための機械的な手段を含む。本発明の好ましい実施形態では、前処理段階で供給混合物を予熱してもよい。多くの場合、前処理段階では、供給混合物が約100℃~約250℃の範囲の温度に予熱される。
【0052】
本発明によるバイオマスおよび廃棄物の非限定的な例としては、木質バイオマスおよび残渣(例えば、木材チップ、おが屑、林業用の間伐材、道路切削材、樹皮、枝、庭や公園の廃棄物および雑草)、低質材、ヤナギ、ススキおよびダンチクのようなエネルギー作物;農業副産物(例えば、小麦、ライ麦、コーンライス、ヒマワリなどからの草、麦わら、茎、わら、籾殻、穂軸および殻);パーム油製造からの空の果房、パーム油製造業者の排水(POME)、砂糖製造からの残渣(例えば、バガス、ビナス、モラッセ、温室廃棄物);ススキ、スイッチグラス、ソルガム、ジャトロファのようなエネルギー作物;水生バイオマス(例えば、大型藻類、微細藻類、シアノバクテリア);動物用の敷料および肥料(例えば、家畜生産からの繊維分);都市産業廃棄物流(例えば、黒液、製紙スラッジ、製紙工程で発生するオフスペック繊維;食品製造工程で発生する残渣および副生成物(例えば、ジュース、植物油またはワインの製造工程で発生する搾りかす、使用済みコーヒーの出し殻);都市固形廃棄物(例えば、都市固形廃棄物の生物起源部分、分別された家庭廃棄物、レストラン廃棄物、屠殺場廃棄物、廃水処理で発生する一次スラッジ、二次スラッジなどの下水スラッジ、嫌気性消化で発生する消化物およびこれらの組み合わせなどのバイオマスおよび廃棄物が挙げられる。
【0053】
本発明による多くの炭素質材料は、木質バイオマスおよび農業残渣などのリグノセルロース材料に関連している。
【0054】
かかる炭素質材料は、一般的に、リグニン、セルロースおよびヘミセルロースを含む。
【0055】
本発明の一実施形態は、1.0~60重量%の範囲のリグニン含有量、例えば10~55重量%の範囲のリグニン含有量を有する炭素質材料を含む。好ましくは、炭素質材料のリグニン含有量は、15~40重量%、例えば20~40重量%の範囲である。
【0056】
炭素質材料のセルロース含有量は、好ましくは、10~60重量%の範囲であり、例えばセルロース含有量は15~45重量%の範囲である。好ましくは、炭素質材料のセルロース含有量は、20~40重量%、例えば30~40重量%の範囲である。
【0057】
炭素質材料のヘミセルロース含有量は、好ましくは、10~60重量%の範囲であり、例えばセルロース含有量は15~45重量%の範囲である。好ましくは、炭素質材料のセルロース含有量は、20~40重量%、例えば30~40重量%の範囲である。
【0058】
第2の段階は加圧段階(2)であり、ここで、供給混合物は、ポンプ輸送手段によって少なくとも150バール、最大で約450バールの圧力に加圧される。
【0059】
続いて、加圧された供給混合物は、約300℃以上、最大で約450℃の範囲の反応温度に加熱される。
【0060】
供給混合物は、一般的に、炭素質材料の変換に十分な時間、例えば2~30分間にわたり、これらの条件で維持された後、冷却され、減圧される。
【0061】
液体炭化水素生成物、水溶性有機物および溶解塩を有する水、二酸化炭素、水素およびメタンを含むガスならびに上記変換された炭素質材料からの懸濁粒子を含む生成物混合物は、続いて1つ以上の段階で50℃~250℃の範囲の温度に冷却される。
【0062】
その後、冷却されたまたは部分的に冷却された生成物混合物は、減圧装置に入り、ここで、圧力が変換圧力から200バール未満の圧力、例えば120バール未満の圧力に減圧される。
【0063】
適切な減圧装置としては、圧力を所望のレベルまで下げるのに適合した長さおよび内空断面を有する、直列および/または並列に配置された多数の管状部材を備えた減圧装置と、減圧ポンプユニットを備えた減圧装置とが挙げられる。
【0064】
変換された供給混合物はさらに、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、メタンおよび他の短い炭化水素(C~C)、アルコール類およびケトン類を含む気相と、原油相と、水溶性有機化合物ならびに溶解塩と、場合によっては、処理される特定の炭素質材料および特定の処理条件に応じて、懸濁粒子、例えば無機物および/またはチャーおよび/または未変換の炭素質材料を有する水相とに少なくとも分離される。
【0065】
第1のセパレータからの水相は、通常、カリウムおよびナトリウムなどの均一系触媒などの溶解塩ならびに水溶性有機化合物を含有する。本発明による炭素質材料の炭化水素への連続的な高圧処理の多くの実施形態は、上記分離された水相から均一系触媒および/または水溶性有機物を回収し、これらを供給混合物調製段階に少なくとも部分的に再利用するための回収段階を含む。これにより、プロセスの全体的な油収率およびエネルギー効率が向上する。本発明による好ましい実施形態は、回収ユニットが蒸発および/または蒸留段階を含み、ここで、蒸発および/または蒸留のための熱が、高圧水冷却器から熱油または蒸気などの熱伝達媒体を介して熱を伝達することによって少なくとも部分的に供給され、それによって全体的な熱回収および/またはエネルギー効率が向上することである。
【0066】
再生可能な原油は、改質プロセス(図示せず)にさらに供してもよく、ここで、約20バール~約200バールの範囲の圧力、例えば50バール~120バールの範囲の圧力に加圧された後、1つ以上の段階で300℃~400℃の範囲の温度に加熱され、1つ以上の反応ゾーンに含まれる水素および不均一系触媒と接触し、最終的に異なる沸点留分に分画される。
【0067】
実施例1:本発明の好ましい実施形態による再生可能な成分を含有する第1のブレンド成分の提供
【0068】
図1のパイロットプラントを用いて、シラカバとマツの木から3つの異なる再生可能な原油である油A、油Bおよび油Cを製造した。未処理の木材チップの分析結果を以下の表1に示す。
【0069】
表1.無水無灰ベースの炭素質材料の組成
【表1】
【0070】
供給物調製
木材チップをハンマーミルシステムで木粉にまでサイズを縮小させ、(溶解塩および水溶性有機物を含む)再利用水、再利用油、触媒と混合して、均質でポンプ輸送可能な供給混合物を製造した。触媒として炭酸カリウムを使用し、pH調整には水酸化ナトリウムを使用した。実行中、カリウム濃度を一定に保つよう試みた。すなわち、水相中のカリウム濃度を測定し、これに基づいて必要な補給触媒濃度を決定した。水酸化ナトリウムは、分離した水相の出口pHを8.0~8.5の範囲に維持するのに十分な量を添加した。さらに、供給バレル内での沈降を防ぎ、ポンプ性能を向上させるために、テクスチャリング剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース,M=30000)を0.8重量%の濃度で供給スラリーに添加した。
【0071】
第1のサイクル(バッチ)では水相も油相も利用できなかったため、出発油として粗製トール油を使用し、第1のサイクルの水相をエミュレートするために5.0重量%のエタノールと純水(逆浸透膜水,RO水)とを使用した。プロセスを定常状態と見なすことができ、代表的な油相と水相とが生成されるまでには、複数のサイクル(バッチ)が必要である。出発油の濃度が10%未満の油を製造するには、約6回のサイクルが必要である。そのため、前のサイクルで生成された油相と水相とを次のサイクルの供給混合物に添加するというサイクルを6回行った。6サイクル目の実行時の供給組成を以下の表2に示す。
【0072】
表2.6サイクル目の実行時の供給混合物の組成
【表2】
【0073】
表2の供給混合物は、いずれも約320バールの圧力および約400℃の温度で処理した。脱気された生成物を、各試験の開始時からバレルに個別の物質収支サンプル(MB)として回収し、MB1、MB2、MB3などの番号を付けた。回収した生成物を秤量し、油相と水相とを重量測定により分離して秤量した。データを各バッチごとに電子的および手動の両方で記録した。
【0074】
総物質収支
総物質収支(MBTot)とは、特定の時間内にユニットから出る総質量とユニットに入る総質量との比率のことである。また、総物質収支は、生成されたデータの品質パラメーターと見なすこともできる。平均値は100.8%であった。
【0075】
バイオマスからの油収率(OY)
バイオマスからの油収率(OY)とは、流入する乾燥バイオマスのうち、無水無灰油に変換された割合を表している。これは、特定の時間内に乾燥バイオマスから生成された無水無灰油の質量を、同じ時間内にユニットに入る乾燥バイオマスの質量で割ったものと定義される。再循環された油は収支に含まれず、バイオマスからの油収率を計算する際に、回収された油の合計量から差し引かれる。平均油収率(OY)は45.3重量%で、標準偏差は4.1重量%であることがわかった。すなわち、供給物中の乾燥バイオマス(木材+CMC)の質量の45.3%が無水無灰油に変換されたことになる。
【0076】
詳細な油分析
油の測定データを表3に示す。
【0077】
表3.6サイクル目の油のデータ
【表3】
【0078】
製造されたHydrofaction油のエネルギー回収
エネルギー回収率(ERoil)とは、供給された木材の化学エネルギーのうち、どれだけ油で回収されるかを表している。加熱に必要なエネルギーや、ユニットに供給される電気エネルギーも考慮されない。回収率の計算には、油の高位発熱量(HHV)38.6MJ/kgを、表1に示した木材混合物のHHVと一緒に使用した。結果得られる6サイクル目の油のエネルギー回収率は85.6%で、標準偏差は7.7%であり、すなわち、プラントに供給された木材の(化学)エネルギーの85.6%が、生成された油に回収されたことになる。
【0079】
ガス生成およびガス分析
バイオマスを石油に変換するプロセスでガスが発生する。供給物における乾燥した木材から発生したガスの収率は41.2重量%である。ガスは主にCO、CHおよび他の短い炭化水素(C~C)、Hおよび一部の低級アルコール類で構成されている。ガスは、スウェーデンのSveriges Tekniska Forskningsinstitut(SP)で採取および分析した。6サイクル目のガスの分析結果を、ガス組成から推定したガスの発熱量とともに表4に示す。HTLプロセスは還元条件で動作するため、ガスには酸素(O)が含まれておらず、ガス中に検出された酸素は、ガスサンプルを充填した際にサンプルバッグ内に漏れた空気に起因すると考えられる。ガス組成は、酸素(および窒素)について補正している。計算したガスの元素組成を表4に示す。
【0080】
表4.プロセスで発生したガスのガス組成
【表4】
【0081】
表5.元素ガス組成
【表5】
【0082】
実施例2:再生可能な原油の改質による再生可能な成分を含有する第1のブレンド成分の提供
【0083】
図3に示すように、実施例1に記載したマツ材から製造された再生可能な原油である油A、油Bおよび油Cを、水素化処理による部分的な改質に供した。
【0084】
このプロセスは、ダウンフロー型管形反応器を用いて、連続パイロットプラントユニット内で行った。3つの独立した加熱ゾーンを使用して、触媒床の等温プロファイルを確保した。そのため、反応器には、予熱ゾーン、触媒床(等温ゾーン)および出口ゾーンを含む3つのセクションが割り当てられる。反応器には、炭化ケイ素の不活性材料を有する25%~50%劣化した触媒を充填していた。市販のNiMo-S触媒を使用した。
【0085】
この触媒床をまず窒素雰囲気中で100~130℃の範囲の温度で乾燥させ、続いてジメチルジスルフィド2.5重量%を有する硫黄を添加したディーゼル油および45バールおよび25~320℃の温度における水素流量24L/h(35℃/h)を用いて、約40時間にわたって、または硫黄の飽和レベルがオフになるまで、すなわち触媒の過活性がなくなるまで、予備硫化プロセスで活性化させた。これは、硫黄生成物の飽和状態または液比重の変化によって監視した。生成物の比重が安定したら、再生可能な原油を所望の流量でシステムに導入した。重量時空間速度(WHSV)を0.2~0.5h-1の範囲で変化させ、水素の流量は一定(H900scc/油1cc)、操作圧力は90バール、不均一系触媒を含む等温ゾーンの操作温度は320℃とした。
【0086】
結果得られる部分的に改質された油品質は、以下の性質を有していた(表6)。
【0087】
表6:再生可能な原油および部分的に改質された油の物理化学的性質
【表6】
【0088】
表6に示した結果から、空間速度を下げると水は増加するが、粘度、酸素含有量およびTANは減少することがわかる。この効果は、脱炭酸/メタネーションおよび水素化脱酸素/脱水反応の反応速度が高くなることと関係している。
【0089】
実施例3:部分的に改質された油をさらに改質することによる再生可能な成分を含有する第1のブレンド成分の提供
【0090】
図3に示すように、実施例2に記載した部分的に改質された油を、水素化処理の更なる段階に供した。
【0091】
このプロセスは、ダウンフロー型管形反応器を用いて、連続パイロットプラントユニット内で行った。3つの独立した加熱ゾーンを使用して、触媒床の等温プロファイルを確保した。そのため、反応器には、予熱ゾーン、触媒床(等温ゾーン)および出口ゾーンを含む3つのセクションが割り当てられる。反応器には、炭化ケイ素の不活性材料を有する50%劣化した触媒を充填していた。市販のNiMo-S触媒を使用した。
【0092】
この触媒床をまず窒素雰囲気中で100~130℃の範囲の温度で乾燥させ、続いてジメチルジスルフィド2.5重量%を有する硫黄を添加したディーゼル油および45バールおよび25~320℃の温度における水素流量24L/h(35℃/h)を用いて、約40時間にわたって、または硫黄の飽和レベルがオフになるまで、すなわち触媒の過活性がなくなるまで、予備硫化プロセスで活性化させた。これは、硫黄生成物の飽和状態または液比重の変化によって監視した。生成物の液比重が安定したら、再生可能な原油を所望の流量でシステムに導入した。
【0093】
重量時空間速度(WHSV)は0.3であり、水素の流量は一定(H1300scc/油1cc)、操作圧力は120バール、不均一系触媒を含む等温ゾーンの操作温度は370℃とした。表7に示すように、部分的に改質された油を水素化処理した後、沸点および残渣の有意な減少が得られ、すなわち、初期沸点(IBP)から350℃までの留分は、改質プロセスによって2倍超になり、残渣(BP>550℃)は16.3.%から7.9%に減少した。
【0094】
表7:再生可能な原油および部分的に改質された油の物理化学的性質
【表7】
【0095】
実施例4:製油所プロセスならびに第1および中間ブレンド成分の潜在的なブレンドポイント
【0096】
従来の製油所プロセスでは、燃料の高い収率と化石燃料油の最大利用とを確保するために、いくつかの水素化処理段階と分離とが含まれている。図5は、従来の製油所プロセスを簡略化したものを示し、ここで、石油原油はまず常圧蒸留によってナフサ、ジェット燃料/ケロシン、ディーゼル油、常圧軽油および常圧ボトム油に分留される。これらの各留分は、燃料仕様への準拠を保証するために、必要に応じてさらに水素化処理に供される。既存のインフラを利用して、再生可能な炭化水素を含有する第1の燃料ブレンド成分と、製油所ストリームを含む第2のブレンド成分とを共処理すること、すなわち、石油系油のための既存の製油所で共処理することが望ましい。製油所には、いくつかの潜在的なドロップインポイントが存在する。いかなる場合でも、第1のブレンド成分の相溶性が、共処理中の円滑な製油所操作を保証するために重要であり、例えば、ブレンド成分は、使用中、貯蔵中および/または同じ用途で使用する他のブレンドとの希釈によって分離すべきでない。再生可能な原油(本文脈における炭化水素物質)の特定の留分(留出物)は、許容できる触媒失活速度で、少なくとも比較的小さなブレンド比で、特定の石油留分(第2のブレンド成分)と共処理できることが先行技術で示されている(例えばYing(2019))。しかしながら、先行技術の共処理方法体系では、通常、大量の残留物も発生する。通常、残留物は、望ましい高付加価値製品にさらに処理することが困難であるより重質な油成分を含んでいるため、プロセス全体の効率を低下させるプロセスロスとなる。先行技術のプロセスにおけるかかる残留物は、石油由来の組成物と再生可能な原油とをブレンドし、非相溶性の部分(すなわち残留物)を分離し、それによって、通常、第1のブレンド成分が元の第1のブレンド成分のより軽質な留分を含む結果として、または再生可能な原油をより軽質な留出物留分とより重質な残留物留分とに分留した結果として、発生する可能性がある。本発明による炭化水素ブレンドでは、残留物の量が最小限に抑えられるか、または除去され、すなわちプロセス全体の効率が向上する。その結果、本発明による炭化水素ブレンドは、通常、再生可能エネルギーを多量に含むことから、従来の石油由来の製品と比較して、カーボンフットプリントの少ない高付加価値製品に処理することができる高沸点成分を多量に含む。本発明による中間ブレンド成分の特に魅力的なドロップインポイント、または本発明による炭化水素ブレンドをもたらすブレンドポイントは、以下に例示される溶解度プロファイルによってさらに説明されるように、水素化処理の前に軽油および/または真空軽油とブレンドすることである。本発明による炭化水素ブレンドの相溶性が向上すると、加工性の向上、例えば反応器の目詰まりが起こりにくいこと、触媒失活が少ないこと、全体としてよりスムーズで堅牢な製油所操作、および第1の燃料ブレンド成分の比率が高いことなどの更なる利点が、本発明による炭化水素ブレンドによって得られる可能性がある。これらはいずれも、再生可能な成分を含有する非在来型の第1のブレンド成分を製油所に導入するための製油所に関する重要な判断材料となる。
【0097】
実施例5:ハンセン溶解度パラメーター
【0098】
ハンセン溶解度パラメーター(HSP)は、様々な溶媒および物質の溶解性、ブレンド性および安定性を表す方法体系で、例えばポリマーおよび塗料業界で広く使用されている。この方法体系の優れた記述が、C.M.Hansen,"Hansen Solubility Parameters-A Users Handbook",Second Edition,CRC Press,Taylor & Francis Group,LLC(2007)に示されており、これにより本明細書に参考文献として組み込まれる。
この方法体系では、分散(ファンデルワールス力に関連)のΔE、極性(双極子モーメントに関連)のΔE、水素結合のΔEという3種類の分子相互作用が考慮される(式1)。全溶解度パラメーター(δ)は、式1をモル体積の収率で割ることで得られる(式2)。
ΔE=ΔE+ΔE+ΔE(式1)
【数1】
【0099】
ハンセンが述べているように、これらの3つのパラメーターは、純粋な溶媒の場合は固定点として、複雑な混合物サンプルの場合は溶解度球として、3Dダイアグラムで示すことができる。溶解度球の中心は、そのハンセン溶解度パラメーターに対応し、その半径(R)、いわゆる相互作用半径は、通常は球内に含まれる適切な溶媒と、球の外側に位置する不溶性溶媒との境界を決定する。ハンセン溶解度パラメーターは、「似たもの同士はよく溶ける」という原理に基づいており、ハンセン溶解度パラメーターの距離指標は似ているかどうかを測定するものであり、δ、δおよびδのパラメーターの値が似ている溶媒は相溶性がある可能性が高いことを意味している。
【0100】
複雑な混合物について溶解度プロファイルを決定する場合、研究に含めるべき2つのパラメーター、つまり、球形プロットにおける材料間の距離(Ra)と、1種の溶媒または2種以上の溶媒の混合物の、球の中心からの相対距離(RED数)とである。Raは、それぞれのパラメーターの体積または重量の加算によって決定することができ(式3)、RED数は、Raと球体半径(R)との比に相当する(式4)。
Ra=4(δd1-δd2+(δp1-δp2+(δh1-δh2(式3)
RED=Ra/R(式4)
【0101】
相対距離REDは、溶媒および調査対象のサンプルのハンセン溶解度パラメーターが同じであるときに0に等しく、相溶性がある溶媒またはその混合物では、RED値が1未満になり、溶媒と溶質との間の溶解度の低下に伴ってRED値が徐々に大きくなる。
【0102】
ハンセン溶解度パラメーターの決定
実施例1で製造された再生可能な原油である油A、油B、油C、実施例2および3からの改質された再生可能な油、ならびに異なる化石原油および沸点留分のハンセン溶解度パラメーターを、以下に記載する溶媒および手順を用いて決定した。
【0103】
材料
比較のために、化石原油の溶解度プロファイルを決定した。溶解度試験には、市販の化学薬品供給業者から入手した以下の溶媒を使用した:1-プロパノール(≧99.5%)、1-ブタノール(99.8%)、2-ブタノン(≧99.0%)、2-ヘプタノン(≧98%)、アセトアルデヒド(≧99%)、塩化アセチル(≧99.9%)、アセトン(≧99.9%)、アセトニトリル(≧99.9%)、アセチルアセトン(≧99%)、1-ブタンチオール(99%)、シクロヘキサン(≧99.5%)、シクロペンタノン(≧99%)、ジエチルエーテル(≧99.0%)、酢酸エチル(99.8%)、フルフラール(≧98%)、ヘキサナール(≧97%)、ヘキサン(≧97.0%)、酢酸イソプロピル(98%)、乳酸水溶液(≧85%)、m-クレゾール(99%)、メタノール(≧99.9%)、ペンタン(≧99%)、フェノール液(≧89.0%)、テトラヒドロフラール(≧99.9%)、トルエン(99.8%)Sigma-Aldrich社、テトラヒドロフルフリルアルコール(99%)、1-メチルイミダゾール(99%)、2,6ジメチルフェノール(99%)、ジメチルジスルフィド(≧99.0%)、グリシジルメタクリレート(≧97.0%)、リン酸トリトリル(90%)Aldrich社、2-メトキシフェノール(≧98%)、アニソール(99%)、ジクロロメタン(≧99.5%)、プロピレンオキシド(≧99%)Alfa Aesar社、グリセロールおよびエチレングリコール(一般用)BDH社、過酸化水素(USP-10容量)Atoma社。
【0104】
ハンセン溶解度パラメーターを推定するための手順
調査対象の油のハンセン溶解度パラメーターは、C.M.Hansen,"Hansen Solubility Parameters-A Users Handbook",Second Edition,CRC Press,Taylor & Francis Group,LLC.(2007)に記載されている一連の溶解度試験およびHSPモデル、ならびにAbbott S.& Yamamoto H.(2008-15)が作成したHSPiPソフトウェアによって決定した。
【0105】
まず、20種類の有機溶媒を周囲温度で対象となる油と混合し、観察および測定された溶解度に基づいて、「良」(すなわち可溶性)、「部分的に可溶性」または「貧」(すなわち不溶性)溶媒に分類した。
【0106】
調査対象の油の溶解度パラメーターが不明であったため、最初のスクリーニングに使用した溶媒のセットは、ハンセン溶解度パラメーターの範囲が広いものであった。最初の溶解度試験を終了し、HSPの第1近似値を得た後、ハンセン溶解度パラメーターモデルの精度を上げるべく、調査対象の油パラメーターに近い溶媒を選択した。図8には、HSPiPソフトウェアを使って初期の結果からハンセン溶解度パラメーターを擬似的に3D表示(球体)したものを示す。
【0107】
この表示では、「良」溶媒は球の内側または表面に配置されている一方、部分的に可溶性または不溶性である溶媒は球の外側に配置されている。調査対象の油のハンセン溶解度パラメーターの初期値が決定されたら、ソフトウェアは、式5で相対距離(RED)を推定する。REDとは、2つの物質の溶解度パラメーターRa(すなわち、調査対象のサンプルと溶媒)の修正された差と、まだサンプルを溶媒に溶解させることができる最大溶解度パラメーターの差Rとの比のことである。
【数2】
【0108】
したがって、溶媒および調査対象のサンプルのハンセン溶解度パラメーターが同じであれば、相対距離REDはゼロに等しい(RED=0)。溶媒のHSPが球の表面に配置されている場合、REDは1に等しく(RED=1)、サンプルが溶媒に溶けないかまたは溶媒が貧溶媒の場合、REDは1よりも大きい(RED>1)。ハンセン溶解度パラメーターの近似値とRED値とが、対象となる油について推定されれば、モデルの精度を上げることができる。
【0109】
これは、HSPiPソフトウェアによって予測されたRED値に基づいて選択された溶媒または溶媒の混合物の新しいセットを用いて溶解度試験を行うことによって達成される。試験された溶媒および混合物の両方のハンセン溶解度パラメーターは、3D球体モデルの表面上で中心付近に配置することが望ましい。モデルが改良された後、ソフトウェアHSPiPは、必要とされる機能、すなわち、溶解度の橋渡し、エマルジョンブレーカー、決定された化学物質に対する不溶性材料の沈殿に応じて、適切な溶媒の予測ツールとして使用することができる。使用した溶媒および溶媒混合物のリストを図9a/9bに示している。
【0110】
溶解度試験は、キャップ付きのコニカルガラス管のセットに、1つのサンプルを約0.5g、溶媒または混合物を5ml入れて行った。溶解度試験は三重に行った。これらの管を5時間超音波処理下に置いて、室温で一晩静止させた。続いて、各ガラス管の内容物を目視で検査し、次のように5つのカテゴリーに分類した:ガラス管内で相分離または固体の沈殿が観察可能でないときは「可溶性(1)」;大きな固体または油の塊が見られ、サンプルが溶媒または混合物に完全には溶解していないことを示している場合は「部分的に可溶性(2~4)」;「非可溶性(0)」は、明確に定義された相を有する混合物である。部分溶解度は2~4の範囲で、2が最も相対的な溶解度が高いことを示し、図6は、各溶解度カテゴリーの例を図示している。
【0111】
サンプルの色が濃いため、「可溶性(1)」と「部分的に可溶性(2)」とのカテゴリーを目視で区別することは難しく、そのためこれらのサンプルは「不確定」と表示した。これらの「不確定」のサンプルの溶解度を評価するために、より正確なブレンドの安定性/相溶性の指標として「スポット試験」法を用いた。この方法は、船舶用燃料ブレンドの相溶性評価に広く用いられており,例えば、Redelius[P.Redelius,"Bitumen solubility model using hansen solubility parameter,"Energy and Fuels,vol.18,no.4,pp.1087-1092,2004]ではハンセン溶解度パラメーターの分析に用いている。スポット試験は、各々の「不確定」の溶液を1滴ずつ濾紙の上に置いて行い、P.Products,and R.S.Sheet,"Cleanliness and Compatibility of Residual Fuels by Spot Test,"vol.4,no.Reapproved 2014,pp.2014-2016,2016に示されるスポット試験法の基準に基づいて評価した。図7aに示すように均一なカラースポットが形成された場合、混合物は完全に可溶性である(すなわちカテゴリー1)と考えられ、一方、図7bに示すように2つの別々の同心円状のスポットが形成された場合、溶媒は部分的に可溶性である(すなわちカテゴリー2)と考えられる。
【0112】
実施例6:再生可能な原油のハンセン溶解度パラメーター
【0113】
実施例1で水熱液化により製造された再生可能な原油(油A、BおよびC)のハンセン溶解度パラメーターと溶解度プロファイルとを、計36種類の溶媒および23種類の溶媒混合物を用いて決定した。結果を図8にまとめている。油AのHSPの3D表示(図8)では、球の内側に24種類の溶媒を、球の外側に33種類の溶媒を配置した場合、0.965の良好な適合度が示される。各溶媒のスコアとRED値とを図8に示している。RED値が1に等しい溶媒は球の表面に位置し、1未満の値を有するものは球の内側に位置し、1より高い値を有するものは球の外側に位置している。したがって、RED値が0に近いほど、溶媒または混合物は球の中心に近い。再生可能な原油のハンセン溶解度パラメーターの相関関係を推定するために、油Bおよび油Cのパラメーターも決定した。この場合、図9a/9bに示すように、HSPの決定には11種類の溶媒で十分であった。
【0114】
再生可能な3種類の原油である油A(δ:19.19,δ:14.52,δ:11.61,R:9.3)、油B(δ:18.36,δ:10.43,δ:10.06,R:6.7)、および油C(δ:18.13,δ:9.59,δ:9.25,R:6.8)の溶解度プロファイルは類似しており、図11に視覚化され得る。しかしながら、油Aは、油BおよびCよりも極性が高く、水素結合相互作用が強い。3種類のバイオ原油のパラメーターを比較すると、図9aに見られるように、油AおよびBは可溶性であるのに対し、油Cは1-メチルイミダゾールに部分的に可溶性であるという唯一の例外を除き、類似していると考えることができる。調査対象の再生可能な原油のハンセン溶解度パラメーターの違いは、各油の製造に使用されたバイオマス供給原料、すなわち、油Aはシラカバ、油Bと油CはマツEWであることと、実施例1に記載した処理条件とに関連し得る。
【0115】
実施例7:部分的に改質された油および改質された油のハンセン溶解度パラメーター
実施例2の部分的に改質された再生可能な油の場合に得られたハンセン溶解度パラメータースコアとRED値とを、図8および図9にまとめている。
【0116】
図9a/9bに示すように、実施例2からの部分的に改質された再生可能な油IIのハンセン溶解度パラメーター(δ:17.95,δ:10.96,δ:9.96)を決定するために、計18種類の溶媒を使用した。実施例2からの部分的に改質されたものについてのハンセン溶解度球の3D表示を図11に示している。ハンセン溶解度球の適合度は0.883で、異常値の溶媒1種を除いている。15種類の溶媒を用いて、実施例3に記載した方法体系に従って、改質された再生可能な油のハンセン溶解度プロファイルを決定した。改質された油のハンセン溶解度球を図11に視覚化しており、適合度は1,000で、ハンセン溶解度パラメーターはδ:17.36,δ:8.01,δ:7.59であった。
【0117】
図12からわかるように、ハンセン溶解度パラメーターと溶解度半径とは、バイオ原油、部分改質された油および改質された油で異なっており、改質プロセスが溶解度の性質に影響を与えていることがわかる。再生可能な原油(油A)は、強い極性、高い分散相互作用および強い水素結合相互作用を有する。再生可能な原油の水素化、完全脱酸素およびマイルドクラッキングなどの1段階の改質(部分改質)を行った後、いわゆる部分改質された油は、極性、水素結合相互作用および溶解度半径がかなりの減少を示した。これは、酸素、ヘテロ原子および金属の存在が極性パラメーターに大いに寄与しているという事実に起因し得る。実際、原油の改質が多いほど、3つのハンセン溶解度パラメーターの値は低くなり、これは、再生可能な原油と部分的に改質された油の溶解度プロファイルを、完全に改質した油と比較すると明確に視覚化できる。
【0118】
後者は、分散性、極性および水素結合相互作用が低いだけでなく、溶解度半径も低いことがわかった。バイオ原油の溶解度球における部分的に改質された油のRED値は、かなり低く(0.524)、完全な溶解度を示唆している。しかしながら、改質された油のRED値(RED=0.934)は、RED≧1の溶解度限界に近く、バイオ原油への溶解度が低いことを示している。そのため、バイオ原油と改質された油との間の溶解度は、その改質の度合いに反比例する。
【0119】
実施例8:改質された再生可能な油と石油原油との相溶性
再生可能な油の多くの実用的な用途、例えば、石油精製所での共処理およびパイプラインでの輸送には、再生可能な油と石油系油との相溶性が重要である。
【0120】
このために、ハンセン溶解度パラメーター分析を用いて、改質された再生可能な油と、真空軽油(VGO)、ビチューメンおよび石油原油との相溶性を試験した。結果を図14に示し、図13a、13bおよび13cに視覚化している。図からわかるように、石油原油、VGOおよびビチューメンは、改質された再生可能な油と比較して、極性および水素結合のパラメーターに違いがある。しかしながら、溶解度プロファイルは、ハンセン溶解度パラメーターの球の間に重なり合っている部分があることも示している。さらに、石油原油の球の中心は、改質された油の溶解度の境界限界、すなわちRED=0.981に置かれており、これは、改質されたバイオ原油と石油原油との間の溶解度比を増加させるだけでなく、深度水素化処理の後、改質されたバイオ原油の溶解度プロファイルが石油原油の溶解度プロファイルに非常に近くなることも示しており、つまり、再生可能な原油を水素化処理によって改質した後、改質された油が化石原油と比較して類似した性質を示すことを意味している。
【0121】
実施例9:バイオ原油および/または部分的に改質された再生可能な油と石油原油との共処理
【0122】
再生可能な原油および/または部分的に改質された再生可能な油を石油原油および重質石油原油留分、例えば真空軽油(VGO)と共処理することを評価するために、石油原油の溶解度プロファイルを決定した。計21種類の溶媒を用いて、化石原油(δ:18.47,δ:6.67,δ:3.58)およびVGO(δ:19.1~19.4,δ:3.4~4.2,δ:4.2~4.4)のハンセン溶解度パラメーターを決定した。その3D表示は、それぞれ5.6および5.8の溶解度半径で1,000の大きな適合度を有し、図13a、bおよびcは、再生可能な原油、部分改質された油、化石原油、VGOおよびビチューメンについて得られた溶解度プロファイルの球を示している(δ:18.4,δ:4.0,δ:0.6,R:5.76)。ビチューメンのハンセン溶解度パラメーターは、Redelius,"Bitumen Solubility Model using Hansen Solubility Parameters,Energy and Fuels,vol.18,no.4,pp.1087-1092,2005で決定した。
【0123】
バイオ原油、化石原油、VGOおよびビチューメンの分散相互作用パラメーターは似ていても、極性および水素結合の相互作用パラメーターにはかなりの違いがある。バイオ原油の溶解度球における化石燃料油、VGOおよびビチューメンのRED値は、それぞれ1.248、1.415および1.506である。これらのRED値は、溶解度の限界を上回っておりRED≧1、バイオ原油には部分的にしか溶解しないことを示している(図12)。このことは、実験室試験で、石油原油にバイオ原油を5~50重量%の割合でブレンドして確認した。部分的に改質された油のハンセン溶解度パラメーターを、石油原油、VGOおよびビチューメンと比較した場合も同様の挙動が観察され、ここで、極性および水素結合相互作用のパラメーターの差は大きい。部分的に改質された油の溶解度球における化石燃料油、VGOおよびビチューメンのRED値は、溶解度の限界を上回っておりRED≧1(それぞれ1.282、1.534および1.611)、室温での部分的に改質された油の部分溶解度を示している。部分的に改質されたバイオ原油および石油原油と、ビチューメンまたは真空残渣との混合物の溶解度は、温度を上げることで改善される。この実験的試験では、部分的に改質されたバイオ原油と、石油系油または重質誘導体留分とを9:1の比で混合したものが、この混合物を70~130℃の範囲の温度に加熱すると、スポット試験分析によって可溶化し相溶化することが示される。そのため、再生可能な炭化水素とリンカー物質とを含む第1のブレンド成分と、第2の成分とは、本発明の有利な実施形態では、それらを操作して均質な混合物を形成する前に、両方とも70~150℃、例えば80~120℃の温度に加熱される。上記の溶解性と使用適性の基準を上回ってすべて満たすリンカー物質を選択するために、溶媒の組み合わせなどの様々なリンカー物質をHSPiPソフトウェア上でスクリーニングし、溶解度限界を超えない、すなわちRED≦1の適切な混合物を同定した。多くの溶媒および混合物の試験を通して、2重量%のトルエンまたはMEK/m-クレゾール(70:30)のブレンドを添加すると、バイオ原油およびビチューメンの溶解度が高まることがブレンド試験で確認された。この混合物は、室温で完全には相溶性ではないが、ブレンドを150℃に加熱するとスポット試験分析で相溶化する。
【0124】
実施例10:再生可能な原油および改質された再生可能な油の留分のハンセン溶解度パラメーター
【0125】
未処理のバイオ原油、部分的に改質された油および改質された油の各留分とその化石留分との相溶性は、それらのブレンドを、再生可能な油の水素化処理における再循環ならびに石油留分および/または他のバイオ油との共処理などのプロセスにおいて評価するために重要である。そのため、実施例4に記載した方法体系で、下記に示される留分のハンセン溶解度パラメーターを決定した。部分的に改質された油および改質された油を蒸留して改質された留分を得て、改質された油を実施例2および3に記載したように製造した。図15aおよび15bは、改質された重質留分のハンセン溶解度プロファイルの3D表示を示している。
【0126】
表8:未処理のバイオ原油、部分的に改質された油および改質された油のハンセン溶解度パラメーター留分
【0127】
【表8】
【0128】
図15aおよび15bからわかるように、ハンセン溶解度パラメーターと溶解度半径とは、化石燃料、すなわち超低硫黄燃料油(ULSFO)および高硫黄燃料油(HSFO)に類似している。
【0129】
実施例11:再生可能な原油に対して相溶性がある希釈剤、粘度低下剤および貯蔵安定性向上剤再生可能な原油に対して完全に相溶性がある合成希釈剤または粘度および/もしくは密度低下剤は、再生可能な原油の流動性を向上させる希釈剤、製造プロセス中の、例えば再生可能な原油の溶媒/希釈剤アシスト分離による分離効率を高める希釈剤、または原油の貯蔵安定性を向上させる希釈剤など、多くの実用的な用途に望ましい。バイオ原油の溶解度プロファイルを用いて、「油A」のハンセン溶解度パラメーターの溶解度プロファイルの球内に収まる溶媒のリストを選択した。これらの溶媒は、所望の「合成ライト」混合物を構成するのに適したものとして選択した。この溶媒リストを、以下の基準を用いてさらに絞り込んだ:a)低毒性、b)再生可能な原油からの分離のし易さ(例えば、沸点による)、c)複雑でない形状、d)バイオ原油の酸素含有量の増加に寄与しない溶媒、e)バイオ原油の品質低下に寄与し得る他のヘテロ原子(すなわち、窒素、硫黄、塩化物など)または金属を含有しない溶媒、f)溶媒の現地での入手可能性、およびg)コスト。ロータリーエバポレーターで製造された実施例1で製造された再生可能な原油Aから、カットオフ沸点が130℃の軽質留分を得た。再生可能な原油軽質留分のガスクロマトグラフィー分析に基づいて、再生可能な原油軽質分の主要な体積割合を表す化合物のファミリーを確立した。すなわち、置換ベンゼン:15体積%、C~Cケトン類:50体積%、アルカン類:24体積%およびアルコール類:11体積%。このアプローチに基づき、メチルエチルケトン、アルカン類(例えば、オクタン、ノナン)、p-キシレンおよび/またはトルエン、ならびに1-ブタノールおよび/またはプロパノールを含有する混合物が、再生可能な原油のライトエンドを「合成ライト」としてエミュレートするのに適していると同定した。
【0130】
表9.Hydrofaction(商標)原油ライトエンドの同定および混合物例
【表9】
【0131】
表10.純粋な溶媒および混合物例のHSPパラメーター
【表10】
【0132】
選択された混合物における各溶媒の体積割合を表9に示している。GC-MSで得られたライトの体積濃度を用いて、類似混合物(表9)のハンセン溶解度パラメーターのREDスコアの初期値(1.53)を得た。
【0133】
表9ではさらに、RED値が類似している溶媒混合物の体積濃度をいくつか示しており、これは、提案されたすべての混合物が、再生可能な原油からの実際の軽質混合物の挙動に十分近いことを意味しており、個々の溶媒および組み合わされたリンカー物質のハンセン溶解度パラメーターを表10に示している。
【0134】
実施例12:リンカー物質を用いたバイオ原油および/または部分的に改質された再生可能な原油と化石原油との共処理
【0135】
上記の溶解性と使用適性の基準を上回ってすべて満たす溶媒を選択するために、溶媒の組み合わせなどの様々なリンカー物質をHSPiPソフトウェア上でスクリーニングし、溶解度限界を超えない、すなわちRED≦1の適切な混合物を同定した。多くの溶媒および混合物の試験を通して、1)2重量%のトルエンまたは2重量%のMEK/m-クレゾール(70:30)のブレンドを添加すると、バイオ原油およびビチューメンの溶解度が高まることが確認された。この混合物は、室温で完全には相溶性ではないが、ブレンドを150℃に加熱するとスポット試験分析で相溶化する。2)バイオ原油と真空軽油(VGO)とのブレンドは、HSPが約δ:15.6,δ:8.3,δ:9.4の溶媒混合物、例えば、アセトン(60重量%)+プロパノール(30重量%)+ペンタン(10重量%)を2重量%添加することで相溶化する。3)部分的に改質された油とVGOとのブレンドは、リンカーを使用せずに部分的に改質された油の25%までの割合で相溶性がある。
【0136】
実施例13:低硫黄船舶用ブレンドを製造するために、再生可能な油を船舶用燃料とブレンドするためのリンカー物質再生可能な液体(原油、部分的に改質された再生可能な油、同じ油からの350℃以上の沸点の留分)を用いた低硫黄船舶用燃料ブレンド基材の溶解度を試験すべく、再生可能な液体の濃度を2~50重量%の範囲で用いてブレンド試験を行った。この試験では、再生可能な液体は、試験したどのようなブレンド比でも、低硫黄船舶用燃料ブレンド基材(ISO8217(2012)規格に準拠したRMG 180超低硫黄燃料油)に部分的にしか溶解しないことが示された。当然のことながら、かかるブレンド基材は、他の船舶用燃料と直接ブレンドして使用した場合、不溶性成分の沈殿、分離および/または沈降などを引き起こす相溶性の問題を有している。そのため、かかる相溶性の問題に悩まされない再生可能なブレンド基材が非常に望ましい。
【0137】
船舶用燃料への液体のブレンドを可能にするリンカー物質を同定すべく、ハンセン溶解度プロファイル分析を行った。図15aおよび15bに視覚化しているように、各油の溶解度の球が重なり合っており、これは、それらのハンセン溶解度パラメーターが異なり、それらの溶解度の中心間のRED距離が1より大きいにもかかわらず、部分的に溶解していることを意味している。
【0138】
リンカー物質として機能し得る同定された潜在的な溶媒混合物は、主に、硫黄含有溶媒、ケトン類、アルカン類、アルコール類ならびにトルエン、キシレンおよびクレオソールのような芳香族化合物で構成されている。
【0139】
実施例14:再生可能な成分を含有する第1の燃料ブレンド成分を含む低硫黄燃料ブレンド
【0140】
実施例13に記載された溶解度プロファイルに基づいて、再生可能な成分を含有する第1の燃料ブレンド成分を、350℃以上の沸点およびハンセン溶解度パラメーター(δ:17~18.5,δ:7~9.5,δ:7~10.5;R:4~8)を有する再生可能な改質された原油の重質留分と、ハンセン溶解度パラメーター(δ:18~19.7,δ:3~6,δ:3~6;R:4~6)および0~10重量%の濃度で2.49重量%の硫黄含有量を有するRMG380高硫黄燃料油(HSFO)を含むリンカー物質とから製造した。
【0141】
最大10重量%の異なるリンカー物質濃度を有する第1の燃料ブレンド成分を、ハンセン溶解度パラメーター(δ:18~19.7,δ:3~6,δ:3~4.5;R:4~6.5)を有するISO 8217 RMG 180超低硫黄仕様に準拠した超低硫黄燃料油(ULSFO)を含む第2の燃料成分と混合した。
【0142】
予想通り、リンカー物質を含まない第1の燃料ブレンド成分は、改質された再生可能な留分の割合が5~50重量%の場合、改質された重質留分と2つの船舶用燃料(すなわち、超低硫黄および高硫黄の船舶用燃料)とを混合すると、相溶性がないことがわかった。しかしながら、2重量%以上の高硫黄リンカー物質を含む第1の燃料ブレンド成分に対しては、ブレンドは相溶性があることがわかった。さらに、低硫黄燃料ブレンドは、超低硫黄燃料油(ULSFO)で希釈しても、すべての比率で相溶性を保つことがわかった。例えば、超低硫黄燃料油を、本発明による低硫黄燃料ブレンドと同じタンクに加えることができるが、相溶性の問題は全く生じない。
【0143】
本発明による低硫黄燃料ブレンドの性質の一例を、再生可能な成分(Steeper HF,350℃以上の沸点の留分)を含有する62体積%の第1の燃料成分のブレンドについて図16に示している。
【0144】
実施例15:部分的に改質された油の重質留分(酸素3重量%)と船舶用軽油とを含む第1の燃料ブレンド成分の低硫黄ブレンド
【0145】
酸素含有量が3重量%の実施例10からの重質留分(沸点350℃以上)を含む第1の燃料ブレンド成分と、船舶用軽油(MGO)を含む第2の燃料ブレンド成分とを用いて、ISO 8217 DMA規格に準拠してブレンド試験を行った。重質留分はハンセン溶解度パラメーター(δ:17~19,δ:7.5~12,δ:7~10;R:5~9)を有し、船舶用軽油(MGO)はハンセン溶解度パラメーター(δ:18~19.7,δ:3~6,δ:3~5;R:4.5~6.5)を有していた。溶解度のRED中心が1よりも高いため、本発明によるリンカー物質を使用しない場合、ブレンドは部分的にしか溶解しないと予想される。図17のスポット試験および顕微鏡試験からわかるように、このことは、部分的に改質された再生可能な油からの重質留分(HFPUO)50重量%/船舶用軽油(MGO)50重量%およびHFPUO25重量%/MGO75重量%の比率でのブレンド試験でも観察された。
【0146】
実施例16:部分的に改質された油の重質留分(O3重量%)と高硫黄燃料油(HSFO)とを含む第1の燃料ブレンド成分の低硫黄ブレンド
【0147】
実施例10からの重質留分(沸点350℃以上)を含む酸素含有量3重量%の第1の燃料ブレンド成分と、船舶用軽油(超低硫黄燃料油)を含む第2の燃料ブレンド成分とを用いて、ISO 8217 DMA規格に準拠してブレンド試験を行った。重質留分はハンセン溶解度パラメーター(δ:17~19,δ:7.5~12,δ:7~10;R:5~9)を有し、高硫黄燃料油はハンセン溶解度パラメーター(δ:18~19.7,δ:3~6,δ:3~6;R:3~6)を有していた。溶解度のRED中心が1に近いため、本発明によるリンカー物質を使用しない場合、ブレンドは可溶性または相溶性であると予想される。図18のスポット試験および顕微鏡試験からわかるように、このことは、部分的に改質された油の重質留分(HFPUO)50重量%/高硫黄燃料油(HSFO)50重量%およびHFPUO25重量%/HSFO75重量%の比率でのブレンド試験でも観察され、これは、HSFOが本発明の主たる目的を達成するのに適したリンカー物質であり、実施例15に記載された再生可能な炭化水素成分を含有する第1の燃料ブレンド成分の低硫黄燃料ブレンドを得たことを意味している。
図1
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図15b
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図18