(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】抗VEGF-A抗体による癌に対する治療応答性を予測又は決定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240509BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240509BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240509BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/543 501A
G01N33/543 541B
G01N33/543 545A
G01N33/543 575
G01N21/64 F
C07K16/22 ZNA
(21)【出願番号】P 2020109239
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000131474
【氏名又は名称】株式会社シノテスト
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 照人
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 宗一
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 和則
(72)【発明者】
【氏名】アリアル ビベック
(72)【発明者】
【氏名】上田 英昭
(72)【発明者】
【氏名】大川 政士
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 恵一
(72)【発明者】
【氏名】日暮 和彦
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534305(JP,A)
【文献】特表2013-534306(JP,A)
【文献】国際公開第2001/036972(WO,A2)
【文献】特表2019-528074(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119434(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/036256(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/53
A61K 39/395
C07K 16/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性をin vitroで予測又は決定するための方法であって、
前記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体中の全VEGF-A、VEGF-A121濃度及び/又はVEGF-A165濃度をそれぞれ、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121抗体及び/又は抗VEGF-A165抗体を用いて測定し、
決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えない
場合、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えない
場合、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超える
場合、前記患者
の抗VEGF-A抗体に対
する治療応答性
又は治療応答性の可能性が示されることを含む、前記方法。
【請求項2】
抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性をin vitroで予測又は決定するための方法であって、下記の工程(1)~(4)、
(1)前記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した抗VEGF-A抗体とを接触させて、前記検体中のVEGF-A121及び/又はVEGF-A165を前記抗体と結合させる工程、
(2)前記工程(1)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体、及び/又はラベル化した抗VEGF-A165抗体と接触させる工程であって、ただし、前記抗VEGF-A抗体はすべてのVEGF-Aに結合する抗体であり、前記抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、及び前記抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、前記工程、
(3)前記工程(2)の固相を洗浄し、及び、前記ラベルからのシグナルを測定して、前記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121、及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4)前記工程(3)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えない
場合、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えない
場合、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超える
場合、前記患者
の抗VEGF-A抗体に対
する治療応答性
又は治療応答性の可能性が示される工程、
を含む、前記方法。
【請求項3】
抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療効果をin vitroで予測又は決定するための方法であって、下記の工程(1’)~(4’)、
(1’)上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した、抗VEGF-A121抗体及び/又は抗VEGF-A165抗体とを接触させて、上記検体中のVEGF-A121又はVEGF-A165を上記抗体と結合させる工程であって、ただし、上記抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、かつ抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、上記工程、
(2’)上記工程(1’)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体と接触させる工程、
(3’)上記工程(2’)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4’)前記工程(3’)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えない
場合、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えない
場合、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えない
場合、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超える
場合、上記患者
の抗VEGF-A抗体に対
する治療応答性
又は治療応答性の可能性が示される工程、
を含む、上記方法。
【請求項4】
前記ラベルが、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、及び酵素ラベルからなる群から選択される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記濃度の決定を、免疫学的アッセイによって行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗VEGF-A抗体が、ベバシズマブである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記癌が、結腸直腸癌、大腸癌、乳癌、肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、子宮頸癌及び悪性神経膠腫からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ラベル化した抗VEGF-A121抗体及びラベル化した抗VEGF-A165抗体のラベルが、互いに波長域の異なる蛍光ラベルである、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗VEGF-A121抗体が、下記の(a)~(c)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
【請求項10】
前記抗VEGF-A165抗体が、下記の(d)~(f)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法で使用するためのキットであって、固相化したVEGFポリクローナル抗体及び/又は抗VEGFモノクローナル抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体、及びラベル化した抗VEGF-A165抗体を含む前記キット。
【請求項12】
前記方法のための使用説明書をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記ラベルが、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、又は酵素ラベルである、請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
前記酵素ラベルが、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼである、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記抗VEGF-A121抗体が、下記の(a)~(c)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、請求項11~14のいずれか1項に記載のキット。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
【請求項16】
前記抗VEGF-A165抗体が、下記の(d)~(f)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、請求項11~14のいずれか1項に記載のキット。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
【請求項17】
前記方法が、免疫学的アッセイを使用するものである、請求項11~16のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性(もしくは、治療効果)をin vitroで予測又は決定するための方法を提供する。
【0002】
本発明はまた、上記方法で使用するためのキット、並びに、抗体を提供する。
【背景技術】
【0003】
近年、抗癌剤の開発は目覚ましく、従来の抗癌剤に加えて、癌免疫療法の進歩、分子標的薬の開発によって、多くの癌においてその治療成績は向上してきた。一方、癌の早期診断、進展度判定などに必要なバイオマーカーの開発も盛んに行われるようになっており、分子標的薬を併用した抗癌剤による治療効果を判別できるバイオマーカーの開発が望まれている。
【0004】
血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular Endothelial Growth Factor)は、個体の発生、成長時の心血管系・リンパ管の発達に重要な役割を果たす因子の一つであり、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-DのVEGFファミリーが知られている。VEGFは、血管損傷時の血管再生や、糖尿病など病的血管新生、腫瘍血管新生にも中心的な働きをもつ。VEGFを標的とする抗VEGF抗体は、現在、癌や加齢黄班変性などの疾患の治療薬として使用されている。
【0005】
一方、抗VEGF抗体は、癌患者によって不応答な場合もあるため、当該抗体による治療前に治療効果を予測することが望まれており、それに関連した多数の特許出願が存在する(特許文献1~13)。さらにVEGFをELISA等のアッセイ法で検出する方法が特許文献14、15などに開示されている。
【0006】
しかしながら、抗VEGF抗体による腫瘍治療応答を予測するバイオマーカーの有効性は検証されていないし(非特許文献1)、また、公知の抗体を用いて抗VEGF抗体の存在下でVEGF-Aレベルを測定することは難しい(特許文献15)、と云われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-512860号公報
【文献】特表2012-532628号公報
【文献】特表2013-534305号公報
【文献】特表2013-534306号公報
【文献】特表2013-534307号公報
【文献】特表2013-537522号公報
【文献】特表2013-538338号公報
【文献】特表2015-502543号公報
【文献】特開2015-180879号公報
【文献】特開2016-014670号公報
【文献】特開2016-026290号公報
【文献】特表2017-535548号公報
【文献】特開2017-099389号公報
【文献】特表2003-515136号公報
【文献】特表2019-523404号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】M. Canavese et al., Int. J. Cancer 2017;140:2183-2191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
VEGF-A121とVEGF-A165は、VEGF-Aの主要な2つのアイソフォーム(すなわち、バリアント)である。ベバシズマブなどの抗VEGF抗体は、当該アイソフォームを認識して中和抗体として作用するが、抗癌剤による治療を行った臨床検体でVEGF-A121やVEGF-A165を詳細に検討した報告は少ない。さらにまた、従来のVEGF-Aアッセイ用ELISAキットは主にVEGF-A121とVEGF-A165を一括して測定するものであり、また、市販のVEGF-A121アッセイ用ELISAキットは、VEGF-A165との交差性に問題があった。このため、抗VEGF抗体による抗腫瘍治療の効果(すなわち、治療応答性)の判定を精確に行うことが妨げられてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対し、VEGF-A121及びVEGF-A165のそれぞれと特異的に結合可能な抗体を作製し、それらのラベル化抗体を第二抗体とするサンドイッチアッセイを用いることによって、癌患者の血漿ではなく血清検体中のVEGF-A121及びVEGF-A165の各々を精確に測定し得ること、並びに、その測定結果を抗VEGF抗体(例えばベバシズマブ)の治療応答性(もしくは、治療効果)の予測又は決定(もしくは、判定支援)に使用できることを見出した。また、この研究において、血清検体を用いる限り全VEGF-Aでも治療応答性の予測又は決定に用いることができることを見出した。さらに、血清検体中のVEGF-A121及びVEGF-A165の測り分けの有用性を明確にするために、VEGFアイソフォームインデックス(VEGF isoform Index)を定義し、それが抗VEGF抗体(例えばベバシズマブ)の治療応答性の予測又は決定に使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の特徴は、以下のとおりである。
[1]抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性をin vitroで予測又は決定するための方法であって、上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体中の全VEGF-A、VEGF-A121濃度及び/又はVEGF-A165濃度をそれぞれ、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121抗体及び/又は抗VEGF-A165抗体を用いて測定し、決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、前記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定することを含む、上記方法。
【0012】
[2]抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性をin vitroで予測又は決定するための方法であって、下記の工程(1)~(4)、
(1)上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した抗VEGFポリクローナル抗体及び/又は抗VEGFモノクローナル抗体とを接触させて、上記検体中のVEGF-A121及び/又はVEGF-A165を上記抗体と結合させる工程、
(2)上記工程(1)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体、及び/又はラベル化した抗VEGF-A165抗体と接触させる工程であって、ただし、上記抗VEGF-A抗体はすべてのVEGF-Aに結合する抗体であり、上記抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、及び抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、上記工程、
(3)上記工程(2)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121、及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4)上記工程(3)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定する工程を含む、上記方法。
【0013】
[3]抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療効果をin vitroで予測又は決定するための方法であって、下記の工程(1’)~(4’)、
(1’)上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した抗VEGF-A121抗体、及び/又は抗VEGF-A165抗体とを接触させて、上記検体中のVEGF-A121又はVEGF-A165を上記抗体と結合させる工程であって、ただし、上記抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、かつ抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、上記工程、
(2’)上記工程(1’)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体と接触させる工程、
(3’)上記工程(2’)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4’)上記工程(3’)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定する工程、
を含む、上記方法。
【0014】
[4]上記ラベルが、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、及び酵素ラベルからなる群から選択される、上記[2]又は[3]に記載の方法。
[5]上記濃度の決定を、免疫学的アッセイによって行う、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]上記抗VEGF-A抗体が、ベバシズマブである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記癌が、結腸直腸癌、大腸癌、乳癌、肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、子宮頸癌及び悪性神経膠腫からなる群から選択される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]上記ラベル化した抗VEGF-A121抗体及びラベル化した抗VEGF-A165抗体のラベルが、互いに波長域の異なる蛍光ラベルである、上記[2]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]上記抗VEGF-A121抗体が、下記の(a)~(c)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
[10]上記抗VEGF-A165抗体が、下記の(d)~(f)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
【0015】
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法で使用するためのキットであって、固相化したVEGFポリクローナル抗体及び/又は抗VEGFモノクローナル抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体、及びラベル化した抗VEGF-A165抗体を含む上記キット。
[12]上記方法のための使用説明書をさらに含む、上記[11]に記載のキット。
[13]上記ラベルが、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、又は酵素ラベルである、上記[11]又は[12]に記載のキット。
[14]上記酵素ラベルが、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼである、上記[13]に記載のキット。
[15]上記抗VEGF-A121抗体が、下記の(a)~(c)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、上記[11]~[14]のいずれかに記載のキット。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
[16]上記抗VEGF-A165抗体が、下記の(d)~(f)に示す抗体からなる群から選択される抗体である、[11]~[14]のいずれかに記載のキット。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
[17]上記方法が、免疫学的アッセイを使用するものである、上記[11]~[16]のいずれかに記載のキット。
【0016】
[18]下記の(a)~(c)に示す抗体からなる群から選択される抗VEGF-A121抗体。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
[19]下記の(d)~(f)に示す抗体からなる群から選択される抗VEGF-A165抗体。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体
[20]ラベル化されている、上記[18]又は[19]に記載の抗体。
[21]上記ラベルが、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、又は酵素ラベルである、上記[20]に記載の抗体。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、抗VEGF-A抗体治療を受ける又は受けた癌患者の血清検体中の全VEGF-A、VEGF-A121及びVEGF-A165の各々を精確に測定し得ること、並びに、その測定結果を抗VEGF抗体(例えばベバシズマブ)の治療応答性(もしくは、治療効果)の予測又は決定(もしくは、判定支援)に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この図は、抗VEGF-A165モノクローナル抗体「クローン名:4F9A9G9」(anti-VEGF-A165mAb)及び抗VEGF-A121モノクローナル抗体「クローン名:5A6G4C8」(anti-VEGF-A121mAb)の、組換えヒトVEGF-A165「rh165」又は組換えヒトVEGF-A121「rh121」に対する交差反応性の結果(それぞれ、
図1A、
図1B)を示す。
【
図2A】この図は、ベバシズマブによる抗癌治療を受けた、進行性大腸癌と診断された患者12例について、抗VEGF-Aモノクローナル抗体、抗VEGF-A121モノクローナル抗体「クローン名:5A6G4C8」及び抗VEGF-A165モノクローナル抗体「クローン名:4F9A9G9」を用いて、ベバシズマブ投与前(T0)と投与後(T1;投与開始後2週間目)の上記患者の血清中の全VEGF-A、VEGF-A121及びVEGF-A165を測定した結果を示す。図中、PDは治療予後不良症例(progressive disease)を表し、non-PDは治療予後良好症例(non-progressive disease)を表す。
【
図2B】この図は、ベバシズマブによる抗癌治療を受けた進行性大腸癌患者12例について、抗VEGF-Aモノクローナル抗体、抗VEGF-A121モノクローナル抗体「クローン名:5A6G4C8」及び抗VEGF-A165モノクローナル抗体「クローン名:4F9A9G9」を用いて、ベバシズマブ投与前と投与後(投与開始後2週間目)の上記患者の血漿中の全VEGF-A、VEGF-A121及びVEGF-A165を測定した結果を示す。図中、PD及びnon-PDはそれぞれ治療予後不良症例、治療予後良好症例を表す。
【
図3】この図は、VEGFアイソフォームインデックスを示す。図中、PD及びnon-PDはそれぞれ治療予後不良症例、治療予後良好症例を表す。図中、バーはそれぞれPD及びnon-PDの場合の測定値の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
1.治療応答性の予測又は決定方法
本発明は、第一の態様により、抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性をin vitroで予測又は決定(もしくは、判定支援)するための方法であって、上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体中の全VEGF-A、VEGF-A121濃度及び/又はVEGF-A165濃度をそれぞれ、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121抗体及び/又は抗VEGF-A165抗体を用いて測定し、決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、或いは、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定することを含む、上記方法。
【0021】
本発明は、第二の態様により、抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療効果をin vitroで予測又は決定(もしくは、判定支援)するための方法であって、下記の工程(1)~(4)、すなわち、
(1)上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した抗VEGF-A抗体とを接触させて、上記検体中のVEGF-A121及び/又はVEGF-A165を上記抗体と結合させる工程、
(2)上記工程(1)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体、及び/又はラベル化した抗VEGF-A165抗体と接触させる工程であって、ただし、上記抗VEGF-A抗体はすべてのVEGF-Aに結合する抗体であり、抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、かつ抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、上記工程、
(3)上記工程(2)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121、及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4)上記工程(3)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、及び、血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定する工程、
を含む、上記方法を提供する。
【0022】
本発明は、第三の態様により、抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療効果をin vitroで予測又は決定(もしくは、判定支援)するための方法であって、下記の工程(1’)~(4’)、すなわち、
(1’)上記患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後の血清検体と、固相化した抗VEGF-A121抗体及び/又は抗VEGF-A165抗体とを接触させて、上記検体中のVEGF-A121又はVEGF-A165を上記抗体と結合させる工程であって、ただし、上記抗VEGF-A121抗体はVEGF-A121と特異的に結合する抗体であり、かつ抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合する抗体である、上記工程、
(2’)上記工程(1’)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体と接触させる工程、
(3’)上記工程(2’)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する工程、並びに、
(4’)上記工程(3’)で決定された濃度に基づいて、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性があると予測又は決定する工程、
を含む、上記方法を提供する。
【0023】
本明細書における「治療を受ける又は受けた」という用語は、抗VEGF-A抗体を投与する治療を受ける前と、当該治療を受けた後のいずれかを指し、いずれの場合にも治療効果が不明である。
【0024】
本明細書における「癌」(もしくは「がん」)という用語は、抗VEGF-A抗体によって腫瘍組織の血管新生が抑制又は阻害される傾向を示す、悪性、進行性もしくは再発性の、癌、腫瘍及びカルシノーマを指す。癌には、非限定的に、例えば結腸直腸癌、大腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、脳腫瘍、(悪性)神経膠腫、神経膠芽腫、腎細胞癌、卵管癌、原発性腹膜癌などが含まれる。
【0025】
本明細書における「VEGF」という用語は、ヒトを含む哺乳動物由来の血管内皮増殖因子(もしくは、「血管内皮成長因子」ともいう。)を指し、VEGFファミリーにはVEGF-A、-B、-C、-D、-Eなどがある。VEGFは、VEGF受容体に結合し、シグナル伝達を介して血管内皮細胞の増殖、血管及び脈管形成、内皮細胞の生存、血管透過性及び血管拡張、単球走化性及びカルシウム流入、等の生物学的機能に関与している。
【0026】
VEGFファミリーのうち、「VEGF-A」は、特に血管新生の促進に関与しており、従って、VEGF-Aは癌治療の標的となり得る。VEGF-Aには、転写によるmRNAの生成の際に生じるスプライング・バリアントが存在し、バリアントには、例えばVEGF-A111、VEGF-A121、VEGF-A145、VEGF-A165、VEGF-A189、VEGF-A206などが知られている(C.J. Peach et al.,Int. J. Mol. Sci.2018,19,1264;doi:10.3390/ijms19041264)。これらのバリアントの作用は明確ではないが、バリアントによってマウスでの血管形成像が異なる、組織や生体内の微小環境によって発現量や作用が異なることなどが報告されている。本発明に関わるバリアントは、VEGF-A121及びVEGF-A165であり、これらのバリアントはさらに、エキソン8がエキソン8aであるVEGF-A121a、VEGF-A165a、或いは、エキソン8がエキソン8bであるVEGF-A121b、VEGF-A165bに分類されるが、本明細書では一括して「VEGF-A121」、「VEGF-A165」と称する。VEGF-A121及びVEGF-A165タンパク質は、天然タンパク質であってもよいし、或いは組換えタンパク質であってもよい。組換えヒトタンパク質は、例えばNCBI(米国)登録番号NM_001025366、NM_001025370、NM_001171626、AF486837などに示されるヌクレオチド配列に基づいて公知の遺伝子組換え技術によって作製することができる(Green,M.R. and Sambrook,J.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))。本明細書における「治療効果」又は「治療応答性」という用語は、患者において、抗VEGF-A抗体による治療が癌の退縮、症状軽減、又は寛解を生じさせることを指す。
【0027】
本明細書における「判定」という用語は、医師による直接的な判断ではなく、上記方法を実施することによって得られた測定結果に基づいて「治療効果」又は「治療応答性」の判定を支援又は補助することを意味する。
【0028】
本明細書における「予後不良」という用語は、治療後の癌又はその症状の見通しが悪いことを意味し、例えば癌患者において転移が生じることにより生存率(例えばカプランマイヤー検定)が(著しく)低下する状態をいう。
【0029】
上記3つの方法について、上記工程(1)~工程(4)を参照しながら以下に説明する。
【0030】
<工程(1)>
この工程では、癌患者の抗VEGF-A抗体投与前及び投与後(例えば投与開始後2週間目)の血清検体と、固相化した抗VEGF-A抗体とを接触させて、上記検体中の全VEGF-Aを上記抗体と結合させる。
【0031】
本明細書における「抗体」という用語は、非限定的に、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、その抗体フラグメント、組換え抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、ラクダ抗体、ラベル化抗体などを包含する。これらの抗体類は、公知の方法によって作製することができる。
【0032】
VEGF-Aポリクローナル抗体の作製は、例えばヒトVEGF-Aタンパク質を異種動物(例えば、ヤギ、ウサギなど)の皮下に投与し、抗血清を取り出すことを含む方法によって得ることができる。好ましくは、抗血清はさらに、例えばヒトVEGF-Aタンパク質を結合したカラム担体(例えばアガロース、Sepharose(登録商標)など)に結合したアフィニティカラム、プロテインA/Gカラムなどを使用して、ヒトVEGFタンパク質に対する抗体を精製してもよい。或いは、抗VEGF-Aポリクローナル抗体は、市販のものを使用してもよい。
【0033】
モノクローナル抗体は、例えば次のようにして作成することができる。VEGF-A、VEGF-A121タンパク質又はVEGF-A165タンパク質を異種動物(例えばマウス、ラットなど)の皮下に免疫してVEGFに対する抗体を形成させたのち、脾臓細胞を取り出し、この細胞をミエローマ細胞と融合し、抗VEGF抗体を産生する融合細胞を培養して目的のモノクローナル抗体を産生、回収することを含む方法によって行うことができる。
【0034】
抗体の固相化は、例えばポリ塩化ビニル製やポリスチレン製のマイクロタイタープレートなどの固相に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、炭酸/炭酸水素ナトリウムバッファなどのバッファ中、補足抗体である抗VEGF-A抗体を結合(もしくは付着)することによって行うことができる。抗体の濃度は、例えば0.1~10μg/mLであり、温度は、4℃又は5℃の低温がよく、例えば一晩インキュベーションする。
【0035】
固相はさらに、補足抗体を含む溶液を取り除き、抗体が結合していない表面をカゼインなどのタンパク質(ブロッキング剤)でブロックする。ブロッキング剤の濃度は、例えば0.5~3%(w/v)であり、バッファとして例えば塩化ナトリウム、カゼイン及び/又はウシアルブミンなどを含有するTrisバッファ及び/又はリン酸バッファなどが使用される。温度は、例えば室温~37℃であり、ブロッキングを例えば約1~2時間行うことができる。
【0036】
ブロッキング後、例えば界面活性剤(例えばTween(TM)(例、Tween20))含有PBSを用いて数回固相を洗浄する。
【0037】
次に、上記固相を、例えば塩化ナトリウム、カゼイン及び/又はウシアルブミン、血清などを含有するTrisバッファ及び/又はリン酸バッファ中で、癌患者の血清又は血漿検体と一緒にインキュベーションする。インキュベーションは、例えば25℃一晩、或いは37℃1.5~2時間行うことができる。癌患者の血清又は血漿検体には、VEGF-A121、VEGF-A165又はその両方のタンパク質が含有していると想定され、これらのタンパク質は、固相化した抗VEGF-A抗体と結合する。
【0038】
<工程(2)>
この工程では、上記工程(1)の固相を、ラベル化した抗VEGF-A抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体又はラベル化した抗VEGF-A165抗体と接触させる。
【0039】
上記抗VEGF-A抗体はすべてのVEGF-Aと特異的に結合するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。抗VEGF-A121抗体は、VEGF-A121と特異的に結合するモノクローナル抗体であり、かつ抗VEGF-A165抗体はVEGF-A165と特異的に結合するモノクローナル抗体である。このことは、抗VEGF-A121抗体はVEGF-A165と結合しない又は結合し難いこと、並びに、抗VEGF-A165抗体はVEGF-A121と結合しない又は結合し難いことを意味する。
【0040】
抗VEGF-A121抗体の例は、非限定的に以下の抗体(例、モノクローナル抗体、scFV、キメラ抗体、組換え抗体など)を挙げることができる。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体。
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体。
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体。
【0041】
抗VEGF-A165抗体の例は、非限定的に以下の抗体を挙げることができる。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体。
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む工程。
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体。
【0042】
抗VEGF-Aポリクローナル抗体は、上記のとおり、公知のポリクローナル抗体作製法によって作製してもよいし、市販のポリクローナル抗体を使用してもよい。
【0043】
また、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121抗体又は抗VEGF-A165抗体は、公知のモノクローナル抗体作製法(岩崎辰夫ら、単クローン抗体-ハイブリドーマとELISA、1983年、講談社サイエンティフィック)によって作製してもよいし、或いは、市販のモノクローナル抗体を使用してもよい。
【0044】
例えば上記工程(2)の場合、固相を、ラベル化した抗VEGF-Aポリクローナル抗体又はラベル化した抗VEGF-Aモノクローナル抗体と接触させる。
【0045】
上記抗体のラベル化は、例えば蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、又は酵素ラベルによって行うことができる。ラベルの種類の違いによってアッセイ法は、蛍光抗体法、放射免疫測定法、化学発光法、酵素抗体法(例えばELISA、サンドイッチELISAなど)などと称する。
【0046】
蛍光ラベルには、蛍光タンパク質(例えばGFP、RFP、YFP、EGFP、Venus、DsRedなど)や蛍光色素分子(例えばクマリン、ローダミン、ユーロピウム錯体、ボロンジピロメチン、ダンシル、ベンゾフラザン、フルオレセイン、FITC、アクリジン、ビマン、トリアザペンタレン、ピレンなど)など、放射性同位体ラベルには、例えば放射性のヨウ素、テクネチウムなど、化学発光のラベルには、例えばアクリジニウムエステルなど、酵素ラベルには、例えばペルオキシダーゼ(POD)(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、リコンビナントペルオキシダーゼなど)、アルカリホスファターゼ(ALP)などが例示される。
【0047】
上記抗体には、抗体タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト(-SH)基などの官能基を介して上記ラベルを結合するための反応性基を導入することができるし、或いは、上記ラベルに抗体と結合するための反応性基を導入してもよい。反応性基の例として、ビオチンとアビジンなどが挙げられる。
【0048】
上記固相への上記ラベル化抗体の結合は、例えば塩化ナトリウム、カゼイン及び/又はウシアルブミン、血清などを含有するTrisバッファ及び/又はリン酸バッファ中で、例えば室温(例えば25℃)で1~2時間インキュベーションすることによって行うことができる。
【0049】
インキュベーション後、上記固相を、例えば界面活性剤(例えばTween(TM)(例、Tween20))含有PBSを用いて数回固相を洗浄する。
【0050】
<工程(3)>
この工程では、上記工程(2)の固相を洗浄し、及び、上記ラベルからのシグナルを測定して、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121及び/又はVEGF-A165の各濃度を決定する。
【0051】
ラベルによってシグナルの検出方法は異なる。
【0052】
蛍光シグナルは、蛍光ラベルが発する最適の励起波長と蛍光波長を用いて、分光蛍光光度計で測定することができる。
【0053】
ラベル化した抗VEGF-A抗体、ラベル化した抗VEGF-A121抗体又はラベル化した抗VEGF-A165抗体の蛍光ラベルの種類を互いに蛍光波長域の異なるラベルとするときには、VEGF-A、VEGF-A121及び/又はVEGF-A165の各濃度を同時に測定することが可能である。蛍光ラベルの例は、GFP(緑色蛍光タンパク質)とRFP(赤色蛍光タンパク質)である。
【0054】
放射能シグナルは、例えば液体シンチレーションカウンターを用いて、放射能を測定することができる。
【0055】
酵素ラベルの場合には、酵素に適した発色性基質を使用することができる。例えばペルオキシダーゼ(POD)(例えばHRP)の場合、基質として、TMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)、OPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)、ABTS(2,2’-azino-di-[3-ethyl-benzothiazoline-6 sulfonic acid] diammonium salt)などを使用することができる。
【0056】
TMBの場合、例えば15~30分インキュベートし、等量の2M硫酸を加えて反応を停止させ、450nmの吸光度を測定する。
【0057】
OPDの場合、492nmの吸光度を測定する。
【0058】
ABTSの場合、416nmの吸光度を測定する。
【0059】
或いは、例えばアルカリホスファターゼ(ALP)の場合、基質として、pNPP(p-Nitrophenyl-phosphate)を使用することができる。室温で約15~30分インキュベートすることによってニトロフェノール生成により黄色に発色するため405nmの吸光度を測定する。反応停止は0.75M水酸化ナトリウム溶液を等量加えて行うことができる。
【0060】
上記濃度の好ましい測定法は、サンドイッチELISAアッセイであるが抗原と抗体との反応を利用した免疫学的測定方法ならば実施可能である。
【0061】
精確な定量のために、標準試薬であるVEGF-A、VEGF-A121又はVEGF-A165の濃度を横軸に、本発明方法のアッセイシステムで測定したシグナル値を縦軸にプロットして検量線を作成する。この検量線を用いて、上記検体中の全VEGF-A、VEGF-A121又はVEGF-A165の濃度を実測することが好ましい。
【0062】
<工程(4)>
この工程では、上記工程(3)で決定された抗VEGF抗体による治療前後の血清中の全VEGF-A、VEGF-A121又はVEGF-A165の濃度に基づいて、上記癌患者の、抗VEGF-A抗体に対する治療応答性を決定する。
【0063】
抗VEGF-A抗体は、例えばベバシズマブである。
【0064】
ベバシズマブは、商品名「アバスチン(登録商標)」であり、上記例示の癌の治療のために臨床使用されている。
【0065】
後述の実施例での測定により次の結果が得られた。
(1)ベバシズマブ治療後は、血清中の全VEGF-A、VEGF-A165は低下し、一方、VEGF-A121は上昇する。
(2)ベバシズマブ治療後は、血清又は血漿中のVEGF-A121が上昇する。
(3)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD)では、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)と比較して、ベバシズマブ治療前の血清において全VEGF-A、VEGF-A121、VEGF-A165は高値である。この現象は血漿では確認できない。つまり血清中のVEGF-Aを測定することが非常に重要であることが明らかとなった。
(4)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD)では、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)と比較して、ベバシズマブ治療後の血清中VEGF-A121濃度がベバシズマブ治療前の血清中VEGF-A121濃度からの上昇の程度が小さい。
(5)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD;患者3,8)では、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えて大きいが、一方、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)では、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えず小さい。
(6)上記の知見から、VEGFアイソフォームインデックスは投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義するとき、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性(もしくは、治療効果)があると予測又は決定(もしくは、判定支援)することができる。
【0066】
2.キット
本発明は、第四の態様により、上記1に記載の方法で使用するためのキットであって、(好ましくは固相化した)VEGFポリクローナル抗体、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121抗体、及び抗VEGF-A165抗体を含むキットを提供する。これらの抗体は、必要に応じてラベル化されていてもよい。
【0067】
ラベルは、上記例示のものが含まれるが、そのうち、好ましいラベルは、蛍光ラベル又は酵素ラベルである。
【0068】
上記方法が、免疫学的アッセイ(例えばサンドイッチアッセイ、ELISAアッセイなど)を使用するときには、例えばペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼなどの酵素ラベルが好ましい。
【0069】
抗VEGF-A121抗体及び抗VEGF-A165抗体に関して、非限定的に、上記抗VEGF-A121抗体が、例えば、以下の抗体を含む。
(a)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)及び配列番号3(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体。
(b)配列番号7の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号8の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体。
(c)配列番号9のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体。
【0070】
上記抗VEGF-A165抗体は、例えば以下の抗体を含む。
(d)重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)の配列として、配列番号11(CDR1)、配列番号12(CDR2)及び配列番号13(CDR3)のアミノ酸配列、並びに、軽鎖可変領域のCDR配列として、配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)及び配列番号14(CDR3)のアミノ酸配列をそれぞれ含む抗体。
(e)配列番号15の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び、配列番号16の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体。
(f)配列番号17のヌクレオチド配列によってコードされる重鎖可変領域、及び配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖可変領域を含む抗体。
【0071】
キットにはさらに、上記方法のための使用説明書をさらに含んでもよい。
【0072】
本発明はさらに、第五の態様により、上記(a)~(c)の抗体からなる群から選択される抗VEGF-A121抗体、並びに、上記(d)~(f)の抗体からなる群から選択される抗VEGF-A165抗体を含む。
【0073】
上記抗体は、ラベル化されていてもよい。このとき、ラベルは、例えば、蛍光ラベル、放射性同位体ラベル、化学発光、及び酵素ラベルからなる群から選択しうる。
【0074】
これらの抗体は、上記1節に記載した方法によって作製可能である。
【実施例】
【0075】
本発明を以下の実施例を参照しながらさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって制限されないものとする。
【0076】
[実施例1]
<進行性大腸癌患者における分子標的薬(抗VEGF-A抗体であるベバシズマブ)による治療応答性の判別>
[1]測定
ベバシズマブによる抗癌治療を受けた進行性大腸癌患者12例について、当該患者からの薬剤投与前及び投与後(投与開始後2週間目)の血清及び血漿中の全VEGF-A、VEGF-A121及びVEGF-A165の各濃度を、抗VEGF-A抗体、抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」及び抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」を使用するサンドイッチELISAアッセイ手順に従って測定した。
【0077】
具体的な手順は以下のとおりである。
【0078】
工程1(抗体の固相化):
ヤギ抗ヒトVEGFポリクローナル抗体(R&D社)100μL(1μg/mL-PBS)を5℃で一晩、固相(Thermo Fisher)に結合させた。
【0079】
工程2(ブロッキング):
上記固相に、50mM Tris、150M NaCl、0.5%カゼイン、を含むブロッキング溶液100μLを重層し、37℃で2時間静置しブロッキングしたのち、PBST(Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水)で5回洗浄した。
【0080】
工程3(試料添加):
患者から採血し遠心分離(3500rpm)等によって処理して得られた血清及び血漿試料50μL及びバッファ50μL(50mM Tris、150mM NaCl、0.5%カゼイン)を上記固相に添加し、25℃で一晩インキュベーションし、その後、PBSTで5回洗浄した。
【0081】
工程4(標識抗体の結合):
ペルオキシダーゼ(POD)標識抗VEGF-A抗体、POD標識抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」又はPOD標識抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」の各々100μL(POD標識抗VEGF-A抗体濃度0.016μg/mL-バッファ、POD標識モノクローナル抗体「5A6G4C8」及び「4F9A9G9」の各濃度0.25/mL-バッファ)(バッファ:50mM Tris、150mM NaCl、0.5%カゼイン)を二次抗体として上記固相に添加し、25℃で2時間インキュベーションしたのち、PBSTで5回洗浄した。
【0082】
工程5(発色):
ペルオキシダーゼ用発色基質TMBZ(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine;同仁化学)100μLを上記固相に添加して室温で30分間静置した。
【0083】
工程6(発色反応の停止):
工程5の上記固相に硫酸(0.1M)100μLを添加して発色反応を停止した。
【0084】
工程7(吸光度測定):
工程6の発色を、吸光光度計(バイオラッド社)を用いて450nm/570nmで測定した。
【0085】
[2]抗体
上記工程4で使用した抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」又は抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」は、マウスよって作製された。
【0086】
抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0087】
抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」は、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0088】
上記工程4で使用した抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」又は抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」の抗原結合特異性を評価するために、抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」(anti-VEGF-A121mAb)及び抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」(anti-VEGF-A165mAb)の、組換えヒトVEGF-A121「rh121」又はVEGF-A165「rh165」に対する交差反応性を調べた結果をそれぞれ
図1のA及びBに示した。
図1から、抗VEGF-A121モノクローナル抗体「5A6G4C8」及び抗VEGF-A165モノクローナル抗体「4F9A9G9」はそれぞれ、VEGF-A121、VEGF-A165を特異的に認識する抗体であることが判明した。
【0089】
[3]結果
進行性大腸癌と診断されベバシズマブ投与を受けた患者12例における投与前(T0)と投与後(T1;投与開始後2週間目)の血清及び血漿中のVEGF-A121、VEGF-A165及び全VEGF-AをELISAにより測定した結果を
図2A(血清)及び
図2B(血漿)に示した。
【0090】
図2A及び
図2Bから、次のことが分かった。
(1)ベバシズマブ治療後は、血清中の全VEGF-A、VEGF-A165は低下し、一方、VEGF-A121は上昇した(
図2A)。
(2)ベバシズマブ治療後は、血清又は血漿中のVEGF-A121が上昇した(
図2A、
図2B)。
(3)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD;患者3,8)では、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)と比較して、ベバシズマブ治療前の血清において全VEGF-A、VEGF-A121、VEGF-A165は高値である。この現象は血漿では確認できない。つまり血清中のVEGF-Aを測定することが非常に重要であることが明らかとなった(表1~表3、
図2A、
図2B)。
(4)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD;患者3,8)では、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)と比べて、ベバシズマブ治療後の血清中VEGF-A121濃度がベバシズマブ治療前の血清中VEGF-A121濃度からの上昇の程度が小さかった(表1、
図2A)。
(5)ベバシズマブ治療予後不良症例(PD;患者3,8)では、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えて大きくなるが、一方、ベバシズマブ治療予後良好症例(non-PD)では、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えず小さくなった(
図3)。
【0091】
上記の知見から、VEGFアイソフォームインデックスを投与前の血清中VEGF-A165濃度/血清中VEGF-A121の変化率と定義し、ここで血清中VEGF-A121の変化率を(投与後VEGF-A121濃度-投与前VEGF-A121濃度)/投与前VEGF-A121濃度と定義するとき、VEGFアイソフォームインデックスが1000を超えないとき、或いは、VEGF-A濃度が6000pg/mLを超えないとき、VEGF-A121濃度が1000pg/mLを超えないとき、VEGF-A165濃度が800pg/mLを超えないとき、又はVEGF-A121濃度で(投与後VEGF-A121濃度/投与前VEGF-A121濃度)が2を超えるとき、上記患者は、抗VEGF-A抗体に対し治療応答性がある(治療効果がある)と決定することができた(
図3)。
【0092】
【0093】
【0094】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により、抗VEGF-A抗体による治療を受ける又は受けた癌患者における治療応答性(もしくは、治療効果)を判定することができるため、患者の治療を効率的かつ経済的に行うことを可能にする。
【配列表】