(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】切削水浄化システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240509BHJP
C02F 1/38 20230101ALI20240509BHJP
【FI】
B23Q11/00 U
C02F1/38
B23Q11/00 E
(21)【出願番号】P 2019189228
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502209512
【氏名又は名称】WATASE castings 株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516211455
【氏名又は名称】エンケイマカベ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 由次
(72)【発明者】
【氏名】土田 祐二郎
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-309043(JP,A)
【文献】実開平06-011962(JP,U)
【文献】実開平05-049257(JP,U)
【文献】特表平05-500190(JP,A)
【文献】特開2010-132714(JP,A)
【文献】特開2005-096053(JP,A)
【文献】特開2007-203411(JP,A)
【文献】特開平05-269462(JP,A)
【文献】特開平05-050355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00、11/10
B24B 55/03、55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の切削加工で生じる切削屑が含まれる切削水を再利用するための切削水浄化システムであって、
前記切削水を貯留する既使用切削水貯留手段と、
この既使用切削水貯留手段から送出された切削水を浄化する浄化処理手段と、
前記切削水をオーバーフローさせて微細な第1切削屑を除去する第1切削屑除去手段と、
切削水をサイクロン処理して前記第1切削屑よりも大きな第2切削屑を除去する第2切削屑除去手段と、
前記切削水から前記第1及び第2切削屑が除去された浄化切削水を貯留する清浄水貯留手段と、
前記浄化処理手段の循環流路と排出流路とを切り替える流路切替え手段と、
前記切削水浄化システムを統括制御する制御手段と、
を有し、
前記第2切削屑除去手段において、
サイクロン式遠心分離機が組み込まれ前記切削水を鉛直上方に向かう渦流とし、
前記切削水から前記第2切削屑を分離除去し、
処理済みの切削水を
処理タンクへと還流させ、
前記清浄水貯留手段において、
貯留する前記浄化切削水のpH値を計測するpH計と、
貯留する前記浄化切削水の透過率を測定する光学式透過率濃度計と、
前記浄化切削水を希釈する希釈装置とが備えられ、
前記浄化切削水のpH値が8以上を維持するようpH値向上剤が添加され、
前記浄化切削水の透過率の値が所定値を下回らないよう清浄な液体が補充されるとともに、
前記流路切替え手段において、
前記処理タンクから清浄水貯留手段へと切削水の送水経路を切り替えることにより、
前記処理タンクから循環器を介して所定の時間切削水を循環させ、
前記循環した切削水が浄化切削水として清浄水貯留手段に貯留されるようにしたことを特徴とする切削水浄化システム。
【請求項2】
前記第2切削屑除去手段は、
前記処理タンクから送出された切削水が入水する入水口と、
前記入水口よりも鉛直上方に配置されて渦流となって遠心分離された切削水が送出される出水口と、
前記入水口よりも鉛直下方に配置されて前記渦流となった切削水から分離されたスラッジが排出される排水口と、
を備えている、請求項1に記載の切削水浄化システム。
【請求項3】
前記切削加工で生じた切削水から前記切削屑に含まれる金属粉を遠心分離する予備遠心分離手段と、をさらに具備し、
前記予備遠心分離手段で遠心分離された切削水が前記処理タンクに送出されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の切削水浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムなどの金属の切粉溶解炉などにおける再利用テクノロジーに関し、より具体的にはクーラントを介して切削/研磨した際に生じる金属の微細な粉や粒を含むクーラント(切削水)を再利用するための切削水浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などに例示される各種産業機械を製造する際には、アルミニウムや鋼材などの金属材料が切削加工あるいは研磨加工される。例えばアルミニウムを切削加工する際には、冷却や潤滑を目的としてクーラント(主成分が水である切削油、これを切削水と称する)が用いられる。このとき、加工後のクーラントには、被加工材であるアルミニウムの切削粉や研磨屑のような大小様々な金属微粒子が切削屑として混入している。
【0003】
上述のとおりクーラントには大量の水が必要となることから、従来から上記した加工後のクーラントを再利用する試みが多くなされている。
例えば特許文献1では、上記した金属微粒子を使用済みクーラントから除去するため、円弧状磁石を内蔵したドラムを使用済みクーラントに接触させて金属微粒子を分離除去するマグネットセパレータが開示されている。
【0004】
上記した特許文献1の技術は主として磁性粒子のスラッジをクーラントから分離除去するものであるが、磁性および非磁性の金属粉粒の双方を除去可能な構造も提案されている。すなわち、例えば特許文献2では、金属粉粒含有廃液を永久磁石に接触させることにより、磁性および非磁性の金属粉粒を上記廃液中から除去する第1ステップと、その後、前記廃液を金属メッシュスクリーンに通過させて濾過することにより、第1ステップ後に残った金属粉粒を除去する第2ステップと、を備えた金属粉粒含有廃液の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-183923号公報
【文献】特開2014-543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず、以下に述べるごとき課題が存在する。
すなわち、近年では様々な金属材料が切削加工されることから、磁性材料の金属微粒子を主として扱う特許文献1では汎用性に欠けるのは上述のとおりである。
この点、特許文献2に開示されるごとき金属粉粒含有廃液の処理方法では、たしかに磁性材料か非磁性材料かを問わず汎用性がある面は肯定できるものの、上記した傷や打痕の不良は相対的に低減されるかもしれないが、以下に述べる課題まで解決するには至っていない。
【0007】
すなわち、上記した金属の切削加工で生じる切削屑には、10μm前後の大きさの金属粒子が含まれている。かような大きさの金属粒子がクーラントに混入すると、いわゆるスラッヂが生成されて再利用が困難となってしまう。これに対し、例えばフィルターでスラッヂを除去したとしても、水質までは簡単には変わらずに作業員の仕事量の増加だけを招いてしまう。
一方で特許文献2などによれば、10μm以上の上記した金属粒子についてはある程度除去し得るものの、10μmを下回る微粒子に対しても有効に除去できるとは限らない。
このように特許文献1や2を含む既存の技術では、上記のごとき課題の認識もなく、クーラント(切削水)の再利用にはいまだ改善の余地が大きいと言わざるを得ない。
【0008】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、使用済みクーラント(既使用切削水)からスラッヂを適切に除去しつつ、さらに再生するクーラント(切削水)の水質をより改善させて再利用可能とする切削水浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の切削水浄化システムは、
(1)金属の切削加工で生じる切削屑が含まれる切削水を再利用するための切削水浄化システムであって、
前記切削水を貯留する既使用切削水貯留手段と、
この既使用切削水貯留手段から送出された切削水を浄化する浄化処理手段と、
前記切削水をオーバーフローさせて微細な第1切削屑を除去する第1切削屑除去手段と、
切削水をサイクロン処理して前記第1切削屑よりも大きな第2切削屑を除去する第2切削屑除去手段と、
前記切削水から前記第1及び第2切削屑が除去された浄化切削水を貯留する清浄水貯留手段と、
前記浄化処理手段の循環流路と排出流路とを切り替える流路切替え手段と、
前記切削水浄化システムを統括制御する制御手段と、
を有し、
前記第2切削屑除去手段において、
サイクロン式遠心分離機が組み込まれ前記切削水を鉛直上方に向かう渦流とし、
前記切削水から前記第2切削屑を分離除去し、
処理済みの切削水を処理タンクへと還流させ、
前記清浄水貯留手段において、
貯留する前記浄化切削水のpH値を計測するpH計と、
貯留する前記浄化切削水の透過率を測定する光学式透過率濃度計と、
前記浄化切削水を希釈する希釈装置とが備えられ、
前記浄化切削水のpH値が8以上を維持するようpH値向上剤が添加され、
前記浄化切削水の透過率の値が所定値を下回らないよう清浄な液体が補充されるとともに、
前記流路切替え手段において、
前記処理タンクから清浄水貯留手段へと切削水の送水経路を切り替えることにより、
前記処理タンクから循環器を介して所定の時間切削水を循環させ、
前記循環した切削水が浄化切削水として清浄水貯留手段に貯留されるようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、上記した切削水浄化システムにおいては、
前記第2切削屑除去手段は、
前記処理タンクから送出された切削水が入水する入水口と、
前記入水口よりも鉛直上方に配置されて渦流となって遠心分離された切削水が送出される出水口と、
前記入水口よりも鉛直下方に配置されて前記渦流となった切削水から分離されたスラッジが排出される排水口と、
を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、上記した切削水浄化システムにおいては、
前記切削加工で生じた切削水から前記切削屑に含まれる金属粉を遠心分離する予備遠心分離手段と、をさらに具備し、
前記予備遠心分離手段で遠心分離された切削水が前記処理タンクに送出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少なくとも既使用切削水の水面からオーバーフローする切削屑(とくに10μmを下回る金属微粒子や油分などの浮遊物)を除去することができ、既使用切削水への酸素供給が遮断されずに嫌気性バクテリアの増殖が抑制される。
これにより異臭の発生も抑制しつつ、既使用切削水から金属粒子を適切に除去するだけでなく既使用切削水の水質をも改善した状態で再利用に供することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態における切削水浄化システムの構成を示す模式図である。
【
図2】切削水浄化システムを構成する浄化処理手段の構成を示す模式図である。
【
図3】切削水浄化システムを構成する清浄水貯留手段の構成を示す模式図である。
【
図4】表示手段に表示される稼働状況(画面表示)の一例である。
【
図5】既使用切削水の再利用方法を説明するフローチャートである。
【
図6】浄化処理を終えた清浄水の流通経路を説明する模式図である。
【
図7】変形例における予備遠心分離手段と既使用切削水貯留手段を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための一例としての実施形態について説明する。
<切削水浄化システム100>
まず
図1~4に基づいて本実施形態における示される切削水浄化システム100の各構成について説明する。
図1から明らかなとおり、切削水浄化システム100は、金属の切削加工で生じる切削屑が含まれる切削水を再利用するための切削水浄化システムであって、既使用切削水貯留手段10、浄化処理手段20、汚水排出手段30、及び清浄水貯留手段40を含んで構成されている。
【0019】
ここで、本実施形態に好適な被加工対象としての金属は、例えば鋼材やアルミニウムなど公知の金属材料が例示できる。また、この金属の切削加工で生じる切削屑としては、例えば上記金属材料から加工で生じる加工屑に含まれる金属粒子、クーラントとして水に添加する切削油の成分、加工機(切削刃など)からの削れ片などが挙げられる。
また本実施形態では、加工屑に含まれる金属粒子のうち、嫌気性バクテリアの増殖要因となり得る大きさが10μmを下回る程度の粒子のことを金属微粒子と称して区別する。
なお以下では、金属材料の加工の一例としてアルミニウムの切粉溶解炉における既使用の切削水における再利用システムについて説明するが、本発明はこのアルミニウムの切粉溶解炉への適用だけでなく、クーラントを使用した他の切削加工や研磨加工など公知の金属加工に対して適用してもよい。
【0020】
図1に戻り、既使用切削水貯留手段10は、前記した切削加工で生じた切削水W(既使用切削水)を貯留する機能を有している。かような切削水Wは、切削加工時にクーラントとして使用された使用済みクーラントであり、上述した種々の切削屑が含有されている。
なお既使用切削水貯留手段10の具体例としては、例えば所定の容量を備えた公知の容器(「戻りタンク」とも称する)が例示できる。
このように本実施形態では、加工を終えた使用済みのクーラントを「既使用切削水」と称している。
【0021】
同図に示すとおり、既使用切削水貯留手段10には公知のパイプを介して使用済みクーラント(既使用切削水)が流入する。また、公知のポンプおよびパイプを介して既使用切削水貯留手段10から浄化処理手段20へと既使用切削水を送出することが可能となっている。なおこの既使用切削水貯留手段10は、本実施形態の切削水浄化システム100において必須ではなく、適宜省略してもよい。
【0022】
浄化処理手段20は、この既使用切削水貯留手段10から送出された切削水Wを浄化する機能を備えている。本実施形態では、
図2(a)に示すとおり、処理タンク21と、第1切削屑除去手段22と、循環器24と、を少なくとも有して構成されている。
なお
図2(b)に示すとおり、本実施形態では、浄化処理手段20は、さらにサイクロン式遠心分離器23をさらに含んで構成されていてもよい。換言すれば、サイクロン式遠心分離器23は必須ではなく、浄化の程度などに応じて浄化処理手段20へ適宜組み入れてもよい。
【0023】
処理タンク21は、前記した既使用切削水貯留手段10から送出された切削水Wを貯留する機能を有している。この処理タンク21の具体例としては、公知の金属製または樹脂製の容器が挙げられる。なお後述するとおり、本実施形態では所定時間の浄化処理を行うため、この処理中に処理タンク21に貯留される切削水Wは時間の経過と共に清浄化されることになる。
【0024】
第1切削屑除去手段22は、前記した既使用切削水貯留手段10に設置され、この既使用切削水貯留手段10内で切削水(既使用切削水など)をオーバーフローさせて微細な第1切削屑を除去する機能を有している。なお本実施形態では第1切削屑除去手段22としてオーバーフローを行う態様で示しているが、この形態に限られず第1切削屑除去手段22がフィルターによって実現される構成であってもよい。かような第1切削屑除去手段22の具体例としては、公知の種々のオーバーフロー装置又は公知の除去フィルターが例示できる。また、オーバーフロー又はフィルターによって除去される第1切削屑の具体例としては、例えば上述した大きさが10μmを下回る程度の金属微粒子や切削油の油分などが挙げられる。
【0025】
サイクロン式遠心分離器23は、本実施形態の「第2切削屑除去手段」として機能し、切削水Wに対してサイクロン循環処理を行う機能を有している。すなわち既使用切削水貯留手段10から送出された切削水Wをサイクロン処理することで、前記した第1切削屑よりも大きな第2切削屑を除去することが可能となっている。かようなサイクロン循環処理によって排出除去される第2切削屑の具体例としては、例えば上述した大きさが10μmを超える金属粒子などが挙げられる。
そしてサイクロン式遠心分離器23が組み込まれる場合には、後述する清浄水貯留手段40には、この第2切削屑除去手段によって切削水から第2切削屑も除去された浄化切削水が貯留されることになる。
【0026】
具体的にサイクロン式遠心分離器23を浄化処理手段20に組み入れる場合には、以下のような装置構成が考えられる。
すなわち本実施形態のサイクロン式遠心分離器23は、処理タンク21から送出された切削水Wが入水する入水口23aと、この入水口23aよりも鉛直上方に配置されて渦流となって遠心分離された切削水W(この時点で比較的多くの切削屑が除去されている)が送出される出水口23bと、この入水口23aよりも鉛直下方に配置されて渦流となった切削水Wから分離されたスラッジ(上記した第2切削屑を含む汚水)が排出される排水口23cと、を備えて構成されている。
かようなサイクロン式遠心分離器23としては、工業用途に利用可能な公知のサイクロン式遠心分離機を適用してもよい。
【0027】
図2に示すとおり、本実施形態においては、既使用切削水の浄化処理を行う過程において、第1切削屑除去手段22によって、切削水の表面に浮いた第1切削屑をオーバーフローさせて後述する汚水排出手段30(排出タンク)へ排出する機能も追加していることも特徴の1つとなっている。上述したとおり切削屑のうち大きさが10μm未満の微細な金属微粒子や油分は浄化処理中に切削水の表面へと浮上するため、第1切削屑除去手段22によってこれらを第1切削屑として汚水排出手段30へと排出している。
【0028】
循環器24は、前記した処理タンク21内に貯留された切削水Wを循環させる機能を有して構成されている。また、浄化処理手段20がサイクロン式遠心分離器23を有する場合には、処理タンク21とサイクロン式遠心分離器23との間で切削水Wを循環させる機能を有して構成されている。
より具体的に本実施形態における循環器24は、これらをつなぐパイプとポンプとで構成されている。なお
図2においては、循環流路中に2つのポンプPが配置されているが、循環流を発生させ得る限りにおいて任意の数だけポンプを配置することができる。
【0029】
汚水排出手段30は、処理タンク21内から第1切削屑除去手段22によってオーバーフロー除去された第1切削屑や、前記した第2切削屑除去手段(サイクロン式遠心分離器)23によって遠心分離除去された第2切削屑を一時貯留して排出する機能を有して構成されている。かような汚水排出手段30の具体例としては、所定の容量を備えて汚水(上記第1切削屑や第2切削屑を含むスラッヂなど)を少なくとも一時的に貯留することが可能な公知の容器(排出タンクとも称する)が挙げられる。
【0030】
清浄水貯留手段40は、既使用切削水貯留手段10で切削水W(既使用切削水)から少なくとも第1切削屑が除去された浄化切削水Wcを貯留する機能を有して構成されている。なお、浄化処理手段20がサイクロン式遠心分離器23を備える場合には、上記に加えてさらに切削水Wから第2切削屑が除去された浄化切削水Wcを貯留する機能を有して構成されている。
かような清浄水貯留手段40の具体例としては、所定の容量を備えて浄化切削水Wcを少なくとも一時的に貯留することが可能な公知の容器が挙げられる。
【0031】
より具体的には
図3に示すとおり、本実施形態の清浄水貯留手段40は、クリーンタンク41と、このクリーンタンク41に貯留する浄化切削水Wcの濃度(浄化切削水の濁り)を計測する公知の濃度計42と、クリーンタンク41の浄化切削水Wcを希釈する希釈装置43を備えている。なお、上記に加え、本実施形態の清浄水貯留手段40は、さらにクリーンタンク41に貯留する浄化切削水WcのpHを計測する公知のpH計を備えていてもよい。
【0032】
この希釈装置43は、嫌気性バクテリアの発生を抑えるために、浄化切削水の濃度を計測する濃度計の値に基づいて、切削加工で未使用の清浄な液体Wnew又はpH値向上剤を清浄水貯留手段(クリーンタンク41)内に補充する機能を有している。例えば上記濃度の測定として公知の光学式透過率計測を用い、浄化切削水の透過率が所定値を下回ったときに濃度が基準値を超えたものと判定してもよい。なお上記したpH値向上剤の具体例としては、市販のアルカリ液などpH値を向上させる公知のpH値向上剤を適用できる。
また、希釈装置43は、浄化切削水のpH値を例えば8以上に維持して嫌気性バクテリアの発生を抑えるために、切削加工で未使用の清浄な液体Wnew又は上記したpH値向上剤をクリーンタンク41内の浄化切削水に添加する機能を有していてもよい。
【0033】
[嫌気性バクテリアの影響]
ここで、本発明者らが鋭意検討して解明した嫌気性バクテリアの影響について説明する。
上述したとおり、使用済みクーラント(既使用切削水)には種々の切削屑が多分に含有されており、これら浮上油や切粉等の切削屑が浮遊することで使用済みクーラント(既使用切削水)の水面が覆われてしまう。
すると、このような浮上物によって外界から使用済みクーラントの内部への酸素供給が遮断されてしまい、これにより好気性バクテリアが死滅する一方で嫌気性バクテリアが増殖する。
【0034】
このような嫌気性バクテリアは硫化水素を生成するため、この生成された硫化水素によって使用済みクーラントのpH値を下げる作用が発生する。そしてpH値が下がった使用済みクーラントは酸性になり、再利用した際の加工機械における錆・腐食の一因となってしまう。また、使用済みクーラントの酸性化によって異臭も発生し得ることから、現場の作業環境も悪化を招いてしまう。
【0035】
上記のごとき嫌気性バクテリアの影響に対し、本実施形態では、まず浄化処理手段20によってオーバーフローした浮上物(第1切削屑)を除去する構成を採用している。これに加え、希釈装置43が未使用の清浄な液体Wnew又は公知のpH値向上剤をクリーンタンク41内の浄化切削水に添加可能であるため、クリーンタンク41内のpH値が意図せず下降することを更に抑制している。また、この希釈装置43によって、クリーンタンク41内の浄化切削水の濃度(クーラント濃度)も適切な値に管理することが可能となっている。
なお本実施形態では、希釈装置43は浄化切削水のpH値を8以上に維持する例を説明したが、維持するpH値は一例であってその他の適切な値を設定してもよい。
【0036】
図1に戻り、本実施形態の切削水浄化システム100は、制御手段50によって統括制御されている。かような制御手段50の一例としては、メモリや記憶手段を備えた公知のコンピューターが例示できる。かような制御手段50は、例えばインターネットなどの公知のネットワークと接続可能に構成されていてもよい。
【0037】
後述するとおり、既使用切削水の再利用方法は制御手段50の演算装置によって実行され、例えば
図4に示すごときオペレーション画面が液晶ディスプレイなどの公知の表示手段を介して視覚的に表示される。なお
図4に示したオペレーション画面は一例であって、例えば上記した浄化処理や各タンク内の状況などがリアルタイムで表示されるように構成されていてもよい。
【0038】
<既使用切削水の再利用方法>
次に
図5及び
図6も参照しつつ、本実施形態における既使用切削水の再利用方法の一例について詳述する。なお、以下では浄化処理手段20にサイクロン式遠心分離器23が組み込まれた例を説明するが、このサイクロン式遠心分離器23は省略してもよいことは既述のとおりである。
まずステップ1では、既使用切削水貯留手段10から浄化処理手段20(処理タンク21)へ切削水Wの送水を開始する。このとき図示しないタイマーなどの計時手段によってカウントが開始される。
【0039】
次いでステップ2では、上述した浄化処理手段20にて、第1切削屑除去手段による第1切削屑の除去と、第2切削屑除去手段による第2切削屑の除去が実行される。より具体的には、まず処理タンク21内でオーバーフローした第1切削屑が切削水Wから除去される。これとともに、サイクロン式遠心分離器23内において切削水Wは鉛直上方に向かう渦流となり、この渦流の遠心力の作用によって切削水Wから第2切削屑が分離除去される。
【0040】
このとき分離された第2切削屑を含むスラッヂは排水口23cを介して汚水排出手段30へと排出される。そして本実施形態では、処理タンク21からオーバーフローした第1切削屑を含む汚水も、上記した汚水排出手段30へと排出される。なお第1切削屑と第2切削屑は同じ汚水排出手段30へと排出されずに、それぞれ異なる排出経路で排出されてもよい。
これにより浄化処理手段20によって切削水Wから金属微粒子や油分などの浮上物や金属粒子など種々の切削屑が除去されることになる。
【0041】
そしてステップ3では、サイクロン式遠心分離器23の出水口23bから出た処理済みの切削水Wを処理タンク21へと循環器24を介して還流させる。換言すれば、いったん処理タンク21からサイクロン式遠心分離器23へ送水された切削水Wは、このサイクロン式遠心分離器23でサイクロン循環処理が施された後に再び処理タンク21へと戻される。
【0042】
続くステップ4では、制御手段50の制御の下で、所定の条件を満たしたか否かが判定される。より具体的に、本実施形態では「所定の条件」として「処理開始から15分」が設定されている。したがってこのステップ4では、ステップ1から15分が経過したかが判定される。
【0043】
なお上記は一例であって、例えば処理タンク21内の切削水の水質を基準にするなど、ステップ4の「所定の条件」は上記した設定時間を管理する手法と異なる態様となっていてもよい。いずれにしても、この所定の条件が満足されるまで、本実施形態では「処理タンク21→サイクロン式遠心分離器23→処理タンク21」という切削水Wの循環が繰り返される。
【0044】
そしてステップ4で所定の条件が満たされた場合、続くステップ5では処理タンク21から清浄水貯留手段40へと切削水の送水経路が切り替えられる。
より具体的には
図6に示されるとおり、切削水浄化システム100は、浄化処理手段20の循環流路と排出流路とを切り替える流路切替え手段60をさらに備えている。より具体的には、処理タンク21から循環器24を介して所定の時間(本例では15分)だけ切削水が循環された後に、この所定の時間だけ循環した切削水が流路切替え手段60を介して浄化切削水Wcとして清浄水貯留手段40に貯留される。
【0045】
なお本実施形態の流路切替え手段60は、バルブV1およぶバルブV2を含んで構成されている。そして制御手段50は、上記した循環流路を形成する場合(ステップ1~4)には、バルブV2は閉じる一方でバルブV1を解放する制御を行う。一方で上記した排出流路を形成する場合にはバルブV1は閉じる一方でバルブV2を解放する制御を行う。
【0046】
これにより清浄化された浄化切削水Wcが処理タンク21からサイクロン式遠心分離器23を介して清浄水貯留手段40へと送水される。
以上説明した本実施形態によれば、上記のごとく構成することで以下に述べる効果を奏することができる。
【0047】
すなわち本実施形態によれば、
(1)アルミニウムや鉄などの金属粉によるスラッヂを使用済みクーラント(既使用切削水)から適切に除去できるため、加工機械への意図しない損傷を抑制することができ、また、
(2)切削屑のうち特に大きさが10μmを下回る金属微粒子や油分などの浮上物(第1切削屑)を既使用切削水から除去したため、嫌気性のバクテリアの増殖を抑制して意図しないpH値の低下を防止することが可能となり、
(3)サイクロン式遠心分離器23を用いた場合には、上記した第1切削屑だけでなく上記した第2切削屑も既使用切削水から除去することが可能となり、さらには
(4)希釈装置を用いた場合には、既使用切削水の濃度(クーラント濃度)の上昇も抑制でき、かような濃度管理を行うことで加工品の品質のバラつきや加工品の変色なども防止することができる。
【0048】
なお上記した実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。以下、上述した実施形態に適用が可能な変形例について説明する。また、以下では、実施形態と同じ機能/構造のものには同一の参照番号を付してその説明は適宜省略する。
【0049】
<変形例>
図7は、変形例における予備遠心分離手段70と既使用切削水貯留手段10を模式的に示した図である。同図から理解されるとおり、変形例における切削水浄化システムは、上記した実施形態に比して、既使用切削水貯留手段10あるいは処理タンク21の前段に更なる遠心分離機を有している点に主とした特徴がある。
【0050】
かような予備遠心分離手段70は、主に大きさが比較的大きな金属粒子などの切削屑を予め除去する機能を有して構成されている。より具体的な予備遠心分離手段70としては、例えば特開2011-83702号公報に示されるような公知の遠心分離装置を適用してもよい。
【0051】
このように本変形例では、切削水浄化システム100は、切削加工で生じた切削水から切削屑に含まれる金属粉を遠心分離する予備遠心分離手段70と、この予備遠心分離手段70で遠心分離された切削水が図示しないポンプなどを介して既使用切削水貯留手段10や処理タンク21に送出されることが好ましい。
【0052】
以上いくつかの具体例を用いて本発明を説明したが、上記した実施形態や変形例は一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて実施形態および変形例の要素を適宜組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、適切にスラッヂを除去しつつ再生するクーラントの水質をも向上させる再利用システムを構築するのに適している。
【符号の説明】
【0054】
100 切削水浄化システム
10 既使用切削水貯留手段
20 浄化処理手段
21 処理タンク
22 第1切削屑除去手段(オーバーフロー装置)
23 第2切削屑除去手段(サイクロン式遠心分離器)
24 循環器
30 汚水排出手段
40 清浄水貯留手段
50 制御手段
60 流路切替え手段
70 予備遠心分離手段
W 切削水