(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】フォトニック結晶面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
H01S5/183
(21)【出願番号】P 2020120961
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託事業、「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/フォトニック結晶レーザーの短パルス化・短波長化」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016750(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018220(WO,A1)
【文献】特開2019-201065(JP,A)
【文献】特開2019-106398(JP,A)
【文献】特開2020-068330(JP,A)
【文献】特開2018-113490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子であって、
層に平行な面内における形成領域内に2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層が埋め込まれて形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の表面に形成されたメサ形状のメサ部と、を有し、
前記メサ部は前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記空孔の前記形成領域の内側に形成されて
おり、
前記メサ部は、前記第2の半導体層の表面から内部に達する溝によって画定されている、フォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記溝は、前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき、前記溝の外周が前記空孔の前記形成領域の外側にあるように形成されている、請求項
1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記空孔の前記形成領域は円形状を有し、前記メサ部は前記空孔の前記形成領域と同軸の円柱形状を有する、請求項
1又は2に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記第2の半導体層は、ガイド層と、前記ガイド層上に形成され、前記ガイド層よりもエネルギーバンドギャップが小さい及び/又は不純物濃度が高い表面層とを有し、前記溝は前記表面層を貫通して前記ガイド層の内部に達する、請求項
1~3のいずれか一項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項5】
フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子であって、
層に平行な面内における形成領域内に2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層が埋め込まれて形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の表面に形成されたメサ形状のメサ部と、を有し、
前記メサ部は前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記空孔の前記形成領域の内側に形成されており、
前記第2の半導体層は、前記メサ部と、前記メサ部以外の部分である平坦部とを有する、フォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記メサ部は、前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき、前記メサ部の外周が前記空孔の前記形成領域の内側にあるように形成されている、請求項
5に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記空孔の前記形成領域は円形状を有し、前記メサ部は前記空孔の前記形成領域と同軸の円柱形状を有する、請求項
5又は6に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記第2の半導体層の表面は平坦であり、
前記メサ部は、前記第2の半導体層の前記表面上に設けられ、透光性の酸化物導電体で形成されている、請求項1
又は5に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic-Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、フォトニック結晶レーザの面内回折効果と閾値利得差について開示され、非特許文献2は、正方格子フォトニック結晶レーザの三次元結合波モデルについて開示されている。
【0004】
また、異なるサイズの複数の空孔を格子点に配置して構成された多重格子フォトニック結晶を有するフォトニック結晶面発光レーザが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、板状の母材内に、該母材とは屈折率が異なる複数の領域から成り該領域のうち少なくとも2個の厚さが互いに異なる異屈折率領域集合体を多数、周期的に配置した2次元フォトニック結晶を有する2次元フォトニック結晶面発光レーザ光源が記載されている。
【0006】
また、非特許文献3には、フォトニック結晶の空孔サイズや格子定数を変化させることで、ビーム品質劣化を招く多モード発振を抑制することについて開示されている。
【0007】
しかし、フォトニック結晶は非常に小さな空孔を有するため、空孔のサイズや格子定数を精度よく製造することは困難である。
【0008】
このような2次元フォトニック結晶面発光レーザ素子においては、高次モード発振を抑制し、基本モードを維持しつつ高電流注入時においても安定した、ビーム品質の高いレーザ素子を実現することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】田中他、2016年秋季応用物理学会予稿集15p-B4-20
【文献】Y. Liang et al.:Phys. Rev.B Vol.84(2011)195119
【文献】M. Yoshida et al., Proceedings of the IEEE (2019). “Experimental Investigation of Lasing Modes in Double-Lattice Photonic-Crystal Resonators and Introduction of In-Plane Heterostructures.”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザにおいて、高次モード発振を抑制し、高電流注入時に至るまで基本モードを維持しつつ、安定した、ビーム品質の高いレーザ素子を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子であって、
層に平行な面内における形成領域内に2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層が埋め込まれて形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の表面に形成されたメサ形状のメサ部と、を有し、
前記メサ部は前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記空孔の前記形成領域の内側に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】実施例1のフォトニック結晶レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【
図2A】フォトニック結晶レーザ10の上面を模式的に示す平面図である。
【
図2B】フォトニック結晶層14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図である。
【
図2C】フォトニック結晶レーザ10の底面を模式的に示す平面図である。
【
図3】主開口K1と副開口K2を正方格子状に面内で2次元配列して形成するためのレジストパターンを模式的に示す上面図である。
【
図4】本実施例のフォトニック結晶層14Pの空孔形状を示すSEM像である。
【
図5】比較例1のPCSEL素子90を模式的に示す断面図である。
【
図6A】実施例1のPCSEL素子10の遠視野像を示す図である。
【
図6B】比較例1のPCSEL素子90の遠視野像を示す図である。
【
図7】空間的位置に対する発振モード周波数を、実施例1及び比較例1の場合を比較して模式的に示す図である。
【
図8】実施例2のPCSEL素子20の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図9】実施例3のPCSEL素子30の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図10】実施例4のPCSEL素子40の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例1】
【0015】
[フォトニック結晶面発光レーザの構造]
フォトニック結晶面発光レーザ(以下、PCSELとも称する。)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n-ガイド層、発光層、p-ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0016】
一方、半導体発光構造層を挟む一対の共振器ミラー(ブラッグ反射鏡)を有する分布ブラッグ反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR )レーザが知られているが、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)は、以下の点でDBRレーザとは異なっている。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)では、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、共振方向(フォトニック結晶層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0017】
図1Aは、実施例1のフォトニック結晶レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。PCSEL素子10は、複数の半導体層が基板上に積層されて構成されている。当該半導体層は、例えば、GaN系半導体などの六方晶系の窒化物半導体からなる。
【0018】
より詳細には、基板11上に、n-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n-ガイド層(第1のガイド層)14、活性層15、p-ガイド層(第2のガイド層)16及びp-コンタクト層17がこの順で形成されている。
【0019】
n-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13及びn-ガイド層(第1のガイド層)14は第1の半導体層12を構成し、第2のガイド層16及びp-コンタクト層17は第2の半導体層18を構成する。第1の半導体層12は第1導電型(例えばn型)の半導体層を含み、第2の半導体層18は、第1導電型とは反対導電型(例えばp型)の半導体層を含んでいる。
【0020】
また、n-ガイド層(第1のガイド層)14は、下ガイド層14A、フォトニック結晶層(空孔層、またはPC層)14P及び埋込層14Bからなる。フォトニック結晶層14Pは層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有している。
【0021】
第2のガイド層16は、活性層15上に設けられた第1のp側半導体層16A、第1のp側半導体層16A上に設けられた電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)16B、及び電子障壁層16B上に設けられた第2のp側半導体層16Cから構成されている。
【0022】
第2のガイド層16上に形成されたp-コンタクト層17は、金属電極とのオーミック接触性を向上させる半導体層であり、第2のp側半導体層16Cよりもエネルギーバンドギャップが小さい半導体層及び/又は不純物濃度が高い半導体層で形成されている。
【0023】
本明細書においては第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0024】
なお、本明細書において、「n-」、「p-」は「n側」、「p側」を意味するものであって、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n-ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0025】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。p-ガイド層(第2のガイド層)16についても同様である。
【0026】
また、上記においては、フォトニック結晶レーザ素子10の具体的で詳細な半導体層の構成について説明したが、素子構造の一例を示したに過ぎない。要は、フォトニック結晶層14Pを有する第1の半導体層(又は第1のガイド層)、第2の半導体層(又は第2のガイド層)、及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有し、活性層への電流注入によって発光するように構成されていればよい。
【0027】
例えば、フォトニック結晶レーザ素子は、上記した全ての半導体層を有する必要はない。あるいは、フォトニック結晶レーザ素子は、素子特性を向上するための種々の半導体層(例えば、正孔障壁層、光閉込め層、電流閉込め層、トンネル接合層など)を有していてもよい。
【0028】
また、基板11の裏面には円環状のn電極(カソード)20Aが形成され、レーザ光出射面である基板11の裏面のn電極20Aの内側には反射防止膜22が設けられている。
【0029】
図1Aに示すように、第2の半導体層18の上面には第2の半導体層18の表面(すなわち、p-コンタクト層17の表面)から第2のp側半導体層16Cの内部に達する溝(グルーブ)16Gが形成されている。
【0030】
なお、溝16Gは、第2のガイド層16の内部に達する深さで形成されていればよく、例えば、第2のp側半導体層16Cの内部に留まる深さの溝として形成されていてもよい。
【0031】
図2Aに示すように、溝16Gは、n-ガイド層14(すなわち、フォトニック結晶層14P)に垂直な方向から見たとき(以下、上面視ともいう。)、円形状のp電極20Bの周囲を囲む円環状の溝として形成されている。すなわち、溝16Gは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rよりも内側に形成された円筒状の溝である。溝16Gの周方向に垂直な断面は矩形形状又は台形形状を有し、溝16Gの底面は半導体層に平行な円環状の平坦面である。
【0032】
溝16Gによって、第2のガイド層16には円柱状のメサ形状を有するメサ部(以下、単にメサとも称する)16Mが画定されている。メサ16Mは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rの内側に形成されている。また、メサ16Mは、薄い円柱状の空孔形成領域14Rと同軸の円柱状の台地である。
【0033】
また、メサ16Mのp-コンタクト層17上にはp電極(アノード)20Bが形成されている。
【0034】
積層された半導体層(すなわち、第1の半導体層12、活性層15及び第2の半導体層18)の側面、p電極20Bの上面以外の表面、及び溝16Gの内部(側面及び底面)は、SiO2などの絶縁膜21で被覆されている。なお、図の明確さのため、絶縁膜21にはハッチングを施していない。また、p電極20Bに電気的に接続されたパッド電極23が形成されている。
【0035】
フォトニック結晶層14Pから直接放出された光(直接放出光Ld)と、フォトニック結晶層14Pから放出されp電極20Bによって反射された光(反射放出光Lr)とが基板11の裏面の光放出領域20Lから外部に放出される。
【0036】
図1Bは、
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(キャビティ)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。空孔対14K(主空孔14K1及び副空孔14K2)は、結晶成長面(半導体層成長面)、すなわちn-ガイド層14に平行な面(図中、A-A断面)において、例えば正方格子状に周期PKを有して、空孔対14Kがそれぞれ正方格子点位置に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。
【0037】
図2Aは、フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の上面を模式的に示す平面図、
図2Bは、フォトニック結晶層(PC層)14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図、
図2Cは、フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の底面を模式的に示す平面図である。
【0038】
図2Bに示すように、フォトニック結晶層14Pにおいて空孔(キャビティ)14Kは、例えば円形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。
図2Cに示すように、n電極(カソード)20Aは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たとき(上面視において)、空孔形成領域14Rに重ならないように空孔形成領域14Rの外側に環状の電極として設けられている。n電極20Aの内側の領域が光放出領域20Lである。
【0039】
図1Aに示すように、第2のガイド層16のメサ16Mは高さHMを有する。また、
図1A、
図2A及び
図2Bに示すように、メサ16Mの直径DMは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rの直径DPよりも小さい(DM<DP)。
【0040】
また、環状のn電極20Aは空孔形成領域14Rと同軸であるように形成され、空孔形成領域14Rの直径DPは、n電極20Aの内径DEよりも小さい(DP<DE)。
1.フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の作製工程
以下に、PCSEL素子10の作製工程について詳細に説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、常圧(大気圧)成長により基板11(成長基板)上に半導体層を成長して積層した。なお、以下に説明する工程でSnはステップnを意味する。
【0041】
また、下記に示す層厚、キャリア濃度、3族(III族)及び5族(V族)原料等、温度等は、特に指定しない限り、例示に過ぎない。
[S1:基板準備工程]
基板11として、主面が、Ga原子が最表面に配列した(0001)面である「+c」面のGaN単結晶を用意した。主面はジャストでも、例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板でも良い。例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0042】
主面と対向する光放出領域20Lが設けられた基板面(裏面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0043】
本実施例では、GaN基板11として、n型GaN単結晶を用いた。n型GaN基板11は、電極とのコンタクト層の機能を有している。
[S2:n-クラッド層形成工程]
+c面GaN基板11上に、n-クラッド層13としてAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層を2μmの層厚で成長した。AlGaN層は、5族原子の供給源としてアンモニア(NH3)を供給しつつ、1100℃に加熱されたGaN基板へ、3族原子の供給源としてトリメチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を供給することにより成長した。
【0044】
キャリアのドーピングはシラン(SiH4)を上記原料と同時に供給することで行った(Siドープ)。このときの、室温でのキャリア濃度は凡そ4×1018cm-3であった。
[S3a:下ガイド層+空孔準備層の形成工程]
続いて、TMGを供給し、n-ガイド層14としてn型GaNを250nmの層厚で成長した。キャリアのドーピングは、AlGaN層と同様にシラン(SiH4)を同時に供給した。この時のキャリア濃度は凡そ4×1018cm-3であった。この成長層は、下ガイド層14Aに加えてフォトニック結晶層14Pを形成するための準備層である。
【0045】
なお、以下においては、説明の簡便さ及び理解の容易さのため、このような成長層が形成された基板11(成長層付き基板)を、単に基板と称する場合がある。
[S3b:空孔(ホール)形成工程]
上記準備層を形成後、基板をMOVPE装置のチャンバより取り出し、成長層表面に微細な空孔(ホール)を形成した。洗浄により清浄表面を得た後、窒化シリコン膜(SixNy)をプラズマCVDを用いて成膜した。この上に電子線描画用レジストをスピンコートで塗布し、電子描画装置に入れて2次元周期構造のパターニングを行った。
【0046】
図3に示すように、長方形状の主開口K1と、正方形状を有し、主開口K1よりも小なる副開口K2とからなる開口対を周期PK=164nmで正方格子状にレジストの面内で2次元配列したパターニングを行った。なお、図面の明確さのため、開口部にハッチングを施して示している。
【0047】
より詳細には、主開口K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PK=164nmで正方格子状に配列されている。副開口K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PK=164nmで正方格子状に配列されている。
【0048】
なお、x方向及びy方向はそれぞれ、主開口K1の長軸方向(<11-20>方向)及び短軸方向(<1-100>方向)に対して45°傾斜した方向である。本明細書では、x-y座標を空孔座標とも称する。
【0049】
主開口K1の長軸及び副開口K2の2辺は結晶方位の<11-20>方向に平行であり、主開口K1の短軸及び副開口K2の他の2辺は<1-100>方向に平行である。なお、本明細書において、空孔(又はホール)の「長軸又は短軸」は、フォトニック結晶層14Pに平行な面内における当該空孔断面(開口面)の長軸又は短軸をいう。
【0050】
また、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1に対してΔx及びΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。具体的には、x方向の重心間距離Δx及びy方向の重心間距離Δyは65.6nm(=PK×0.4)であった。
【0051】
パターニングしたレジストを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSixNy膜を選択的にドライエッチングした。これにより周期164nmで正方格子状に配列された主開口K1及び副開口K2がSixNy膜を貫通するように形成された。
【0052】
なお、周期(空孔間隔)PKは、発振波長(λ)を410nm、GaNの屈折率(n)を2.5とし、PK=λ/n=164nmとして算出した。
【0053】
続いて、レジストを除去し、パターニングしたSixNy膜をハードマスクとしてGaN表面部に孔部(ホール)を形成した。ICP-RIE装置にて塩素系ガス及びアルゴンガスを用いてGaNを深さ方向にドライエッチングすることにより、GaN表面に垂直に掘られた長円柱状及び円柱状の空孔の対である孔部(ホール対)を形成した。つまり、長方形の主開口K1及び正方形の副開口K2に、長円柱状及び円柱状の孔部(ホール)が形成される。なお、本工程において、当該エッチングによりGaN表面部に掘られた空孔をフォトニック結晶層14Pにおける空孔(キャビティ)と区別するため、以下において「孔部(ホール)」と称する。
[S3c:洗浄工程]
ホールを形成した基板は、脱脂洗浄を行った後、バッファードフッ酸(HF)にてSixNy膜を除去した。
[S3d:埋込層形成工程]
この基板を、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、アンモニア(NH3)を供給して950℃(第1の埋込温度)まで昇温後、トリメチルガリウム(TMG)及びNH3を供給してホール対(主ホール及び副ホール)を閉塞し、埋込層14Bを形成した。
【0054】
以上の埋込工程により、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが正方格子点の各々に配置された二重格子構造のフォトニック結晶層14Pを有するn-ガイド層14が形成された。
[S4:発光層形成工程]
続いて発光層である活性層15として、多重井戸(MQW)層を成長した。MQWのバリア層及び井戸層はそれぞれGaN及びInGaNであった。バリア層の成長は、基板を820℃まで降温後、3族原子の供給源としてトリエチルガリウム(TEG)を、窒素源としてNH3を供給して行った。また、井戸層の成長はバリア層と同じ温度にて、3族原子の供給源としてTEG及びトリメチルインジウム(TMI)を、窒素源としてNH3を供給して行った。本実施例における活性層からのPL(Photoluminescence)発光の中心波長は412nmであった。
[S5:第1のp側半導体層形成工程]
活性層の成長後、基板を1050℃に昇温し、第1のp側半導体層16AとしてGaNを120nmの層厚で成長した。第1のp側半導体層16Aはドーパントをドープせずに、TMG、NH3を供給して成長した。
[S6:電子障壁層形成工程]
第1のp側半導体層16Aの成長後、基板温度を1050℃で維持したまま、電子障壁層(EBL) 16Bを成長した。EBL16Bの成長は、3族原子源としてTMG及びTMAを、窒素源としてNH3を供給して行った。またp-ドーパントとしてCp2Mgを供給した。以上により、Al組成が18%、層厚が17nmのEBL16Bを形成した。
[S7:第2のp側半導体層形成工程]
電子障壁層(EBL) 16Bの成長後、基板温度を1050℃で維持したまま、第2のp側半導体層16Cを成長した。第2のp側半導体層16Cは、3族原子源としてTMG及びTMAを、窒素源としてNH3を供給して成長を行った。またp-ドーパントとしてCp2Mgを供給した。以上により、Al組成が6%、層厚が600nmの第2のp側半導体層16Cを形成した。なお、成長後のN2雰囲気中で850℃、10分間のアクチベーションをしたときの、p-クラッド層(p-AlGaN)18のキャリア濃度は2×1017 cm-3であった。
【0055】
第2のp側半導体層16Cの形成により、第1のp側半導体層16A、EBL16B及び第2のp側半導体層16Cからなる第2のガイド層16が形成された。
[S8:p-コンタクト層形成工程]
第2のp側半導体層16Cを成長後、基板温度を1050℃で維持したまま、層厚が25nmのp-コンタクト層17を成長した。p-コンタクト層17の成長は、3族原子源としてTMGを、窒素源としてNH
3を供給して行った。またドーパントとしてCp2Mgを供給した。
[S9:素子分離溝形成工程]
エピタキシャル成長層の形成が完了した成長層付き基板の表面にスピンオングラス(SOG)法でSiO2を塗布した。塗布したSiO2膜にフォトリソグラフィを用いて素子分離溝をパターニングした。SiO2をマスクにして、気相エッチングにてn側クラッド層13又は成長用基板11が露出するまでエッチングした。その後、BHFでSiO2マスクを除去し、素子分離溝を形成した。
[S10:溝及びメサ形成工程]
再度、SOG法で表面にSiO2を塗布した。塗布したSiO2膜にフォトリソグラフィを用いてパターニングし、マスクを形成した。このSiO2マスクを用いて、気相エッチングにて、p-ガイド層(第2のガイド層)16の内部に達する溝16Gを形成した。
図2Aに示すように、円環状の溝16Gの形成の結果、溝16Gの内側には、p-ガイド層16の円柱状のメサ16M(メサ部)が形成された。
【0056】
メサ16Mは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rの外縁の内側であって、空孔形成領域14Rと同心の円柱状の台地である。また、
図1Aに示すように、メサ16Mは高さHMを有する。
[S11:アノード電極形成工程]
エピタキシャル成長基板の表面にp電極金属層として厚さ100nmのパラジウム(Pd)を電子ビーム蒸着法により成膜した。p電極金属層をフォトリソグラフィ法によりパターニングし、直径200μmのp電極20Bをp-コンタクト層17上に形成した。
[S12:絶縁膜形成工程]
フォトリソグラフィ法を用いてp電極20B上にマスクを形成した後、スパッタリングによって厚さ200nmのSiO
2絶縁膜(保護膜)を成膜した。リフトオフによってp電極20B上のSiO
2絶縁膜21を取り除いた。
[S13:p側パッド電極形成工程]
フォトリソグラフィ法を用いてPCSEL素子10の上面上にマスクを形成した後、スパッタリングによってチタン/プラチナ/チタン/金(Ti/Pt/Ti/Au)からなる金属層をこの順で電子線蒸着法で成膜した。リフトオフによってPCSEL素子10の上面周囲の金属層を取り除いてパッド電極23を形成した。
[S14:基板研磨工程]
次に、基板裏面を150μmの厚さまで研削し、さらにダイヤモンドスラリー及び化学機械研磨(CMP)法により鏡面研磨した。
[S15:加工変質層除去工程]
続いて、出射面をKOH溶液でウェットエッチングし、加工変質層を除去した。加工変質層の除去にはNaOH溶液、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)溶液等のウェットエッチングや塩素系ガスを用いたドライエッチング法を用いてもよい。
[S16:カソード電極形成工程]
続いて、電子ビーム蒸着法により基板11の裏面にTi及びAuを順に電子ビーム蒸着法により成膜し、円環状にパターニングし、n電極20Aを形成した。
[S17:反射防止膜形成工程]
レーザ光出射面である円環状のn電極20Aの内側に、スパッタリングによってSiO
2を成膜し、反射防止膜22を形成した。反射防止層は単層でもよいし別の誘電体膜と組み合わせた多層膜としてもよい。
[S1
8:個片化工程]
最後に、基板分離溝の中央線に沿ってレーザースクライブして、個片化したPCSEL素子10を得た。
2.空孔層
図4は、本実施例のフォトニック結晶層14Pの空孔の形状を示すSEM(Scanning Electron Microscope)像である。なお、後述する比較例1のフォトニック結晶層14PのSEM像も同様である。
【0057】
本実施例における埋め込まれた空孔の形状を確認するため、フォトニック結晶層14Pの空孔が露出するまで積層構造を表面から収束イオンビーム(FIB)により加工し、その後SEM観察を行った。
【0058】
長六角柱の空孔(主空孔)14K1及び正六角柱の空孔(副空孔)14K2の空孔対が観察された。主空孔14K1は、長軸が<11-20>軸に平行な長六角柱形状を有していた。また、副空孔14K2は、主空孔14K1よりも、サイズ(例えば、少なくとも空孔径及び深さのいずれか)が小さい。
【0059】
すなわち、周期PKの正方格子点の各々に主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが配された二重格子構造のフォトニック結晶層14Pが形成されていることが確認された。
3.デバイス特性
上記したように作成した実施例1のPCSEL素子10と、比較例1のPCSEL素子90とのデバイス特性を評価した。なお、比較例1のPCSEL素子90は、溝16Gを有していない点においてのみ本実施例のPCSEL素子10と相違し、その他の構成は本実施例のPCSEL素子10と同様であった。
【0060】
比較例1のPCSEL素子90を示す
図5を参照して、より具体的に説明すると、比較例1のPCSEL素子90では、メサ16Mが形成されておらず、第2のガイド層16の表面は平坦である。すなわち、p-コンタクト層17、及び第2のガイド層16の厚さは一定である。
【0061】
また、p-コンタクト層17の表面には、空孔形成領域14Rと同軸であるp電極20Bが形成されている。p電極20Bの直径DCは、実施例1のPCSEL素子10のメサ16Mの直径DMに等しい(DC=DM)。
【0062】
作製したPCSEL素子10(実施例1)とPCSEL素子90(比較例1)に、繰り返し周波数が1kHzでパルス幅が100ns(ナノ秒)のパルス電流を流し、ビーム形状を測定した。
【0063】
図6Aは、実施例1のPCSEL素子10の遠視野像を示し、
図6Bは、比較例1のPCSEL素子90の遠視野像を示している。実施例1のPCSEL素子10では0.2度以下の広がり角で単峰形状のビームが得られた。比較例1のPCSEL素子90では、0.2度以下の広がり角で単峰形状のビームに加え、直線状(十字状)の高次モードが見られた。
【0064】
すなわち、実施例1のPCSEL素子10においては、高次モード(横モード)が抑制され、単峰形状のビーム品質の高いレーザ光が得られることが確認された。以下に、この点について考察する。
【0065】
図7は、空間的位置に対する発振モード周波数を模式的に示す図である。実施例1及び比較例1の場合を比較して示している。図中、バンド端周波数FBE(フォトニックバンド端周波数)を破線で示し、フォトニックバンドギャップ(PBG)はハッチングを施して示している。また、電流注入領域であるメサ領域(実施例1)及び電極領域(比較例1)について示している。
【0066】
ここで、フォトニックバンドギャップ(PBG)は、光の禁制帯を意味する。すなわち、フォトニックバンドギャップは、光が存在できない周波数領域を示しており、当該領域内の周波数を有する光は透過できない。
【0067】
図7を参照すると、比較例1においては、(A)電流を注入しないとき、バンド端周波数FBEは電極領域(p電極20B)の内外で一定である。一方、(B)電流注入時には、電流注入領域である電極領域の内側の半導体層では、電極領域の外側の半導体層よりもキャリア密度が増大し屈折率が低下する。
【0068】
これにより、電極領域内側の半導体層のバンド端周波数は電極領域外側の半導体層のバンド端周波数よりも高くなる。すなわち、電極領域外の領域(つまり、透明化されていない吸収領域)への光の漏れが減少し、水平方向の光閉じ込めが強まる。その結果、基本モードと高次モードの閾値利得差が減少し、高次モードで発振しやすくなる。従って、横モード制御性が低下し、多モード発振が生じ易くなる。
【0069】
他方、実施例1においては、メサ領域外の外側の半導体層(すなわち、溝16Gの領域)ではメサ領域の内側の半導体層に比べて有効屈折率が小さい。従って、(A)電流を注入しないとき、メサ領域内のバンド端周波数はメサ領域外のバンド端周波数より低い。
【0070】
そして、(B)電流注入時には、メサ領域の内側の半導体層でキャリア密度が増大し屈折率が低下しても、メサ領域内外の半導体層のバンド端周波数の差を小さくすることができる。尚、
図7ではその差がゼロの場合を示している。また、特に高電流注入動作においても安定した基本モード発振のビーム品質の高いレーザ光が得られる。
【0071】
より詳細には、バンド端周波数の差が小さくなることにより、電極領域(メサ領域)外への光の漏れが比較例1と比較して大きくなる。基本モードは電極の中央に電界強度ピークを持つ形状である一方、高次モードは電極の中心からずれたところに電界強度のピークを持つため、光漏れの影響(すなわち損失)は、高次モード>基本モードになる。その結果、基本モードと高次モードの閾値利得差が大きくなり、高次モードが抑制される。
【0072】
従って、基本モードと高次モードの閾値利得差の減少を抑制でき、高次モード発振が抑制されたビーム品質の高いレーザ光が得られる。
【実施例2】
【0073】
図8は、実施例2のPCSEL素子20の構造の一例を模式的に示す断面図である。実施例2のPCSEL素子20の半導体層の構成は、実施例1において説明した構成と同様である。以下においては、PCSEL素子20のメサ構造を中心に詳細に説明する。
【0074】
実施例2のPCSEL素子20においては、実施例1の場合と同様に、第2の半導体層18には第2の半導体層18の表面(すなわち、p-コンタクト層17の表面)から第2のp側半導体層16Cの内部に達する溝16Gが形成されている。また、溝16Gによって、第2のガイド層16にはメサ16Mが形成されている。
【0075】
メサ16Mは、空孔形成領域14Rと同軸の円柱形状を有し、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rの内側に形成されている。すなわち、メサ16Mの直径DMは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rの直径DPよりも小さい(DM<DP)。
【0076】
また、溝16Gの外周(又は溝16Gの底面の外周)の直径DGは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rの直径DP以上の大きさを有する(DP≦DG)。
【0077】
図7を参照して説明したように、実施例2のPCSEL素子20においても、電流注入時には、メサ領域の内側の半導体層でキャリア密度が増大し屈折率が低下しても、メサ領域内外の半導体層のバンド端周波数の差を小さくすることができる。
【0078】
また、実施例2のPCSEL素子20においては、溝16Gの外周の直径DGは、空孔形成領域14Rの直径DP以上の大きさを有する(DP≦DG)ので、空孔形成領域14Rの外周領域の全体に亘って、電流注入時におけるメサ領域内外の屈折率の差(バンド端周波数の差)を小さくすることができる。
【0079】
従って、基本モードと高次モードの閾値利得差の減少を抑制でき、高次モード発振が抑制されたビーム品質の高いレーザ光が得られる。また、特に高電流注入動作においても安定した基本モード発振のビーム品質の高いレーザ光が得られる。
【0080】
なお、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rが上面視において円形状を有する場合について説明したが、これに限らない。空孔形成領域14Rが円形状以外の形状を有する場合、溝16Gの外周が空孔形成領域14Rの外側であるように、すなわち、上面視において溝16Gの外周が空孔形成領域14Rを包含するように形成されていることが好ましい。
【実施例3】
【0081】
図9は、実施例3のPCSEL素子30の構造の一例を模式的に示す断面図である。実施例1のPCSEL素子10と比較すると、PCSEL素子30の第2のガイド層16にはメサ16Mが形成されているが、円柱状のメサ16M以外の第2のガイド層16の領域が平坦に(すなわち、同一の厚さに)形成されている点である。
【0082】
PCSEL素子30においては、実施例1のPCSEL素子10と同様に、メサ16Mは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rの内側に形成されている。また、メサ16Mは、薄い円柱状の空孔形成領域14Rと同軸の円柱状の台地である。
【0083】
メサ16Mは、直径DMを有し、高さHMを有する。メサ16Mの直径DMは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rの直径DPよりも小さい(DM<DP)。また、空孔形成領域14Rの直径DPは、n電極20Aの内径DEよりも小さい(DP<DE)。
【0084】
図7を参照して説明したように、実施例3のPCSEL素子30においても、電流注入時には、メサ領域の内側の半導体層でキャリア密度が増大し屈折率が低下しても、メサ領域内外の半導体層のバンド端周波数の差を小さくすることができる。従って、基本モードと高次モードの閾値利得差の減少を抑制でき、高次モード発振が抑制されたビーム品質の高いレーザ光が得られる。また、特に高電流注入動作においても安定した基本モード発振のビーム品質の高いレーザ光が得られる。
【実施例4】
【0085】
図10は、実施例4のPCSEL素子40の構造の一例を模式的に示す断面図である。本実施例のPCSEL素子40においては、第2の半導体層18の表面(すなわち、p-コンタクト層17の表面)は平坦であり、p-コンタクト層17上に、メサ部としてのメサ20Mが形成されている。
【0086】
メサ20Mは、金属酸化物であり、透光性の導電体であるITO(Indium Tin Oxide)層で形成されている。メサ20Mは、p電極として機能する。また、メサ20Mの上面にはAg(銀)層(図示しない)が形成され、ITO/Ag電極構造を有し、その上にパッド電極23が設けられている。
【0087】
メサ20Mは、空孔形成領域14Rと同軸の円柱形状の層として設けられ、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rの内側に形成されている。すなわち、メサ20Mの直径DMは、フォトニック結晶層14Pの空孔形成領域14Rの直径DPよりも小さい(DM<DP)。
【0088】
積層された半導体層(すなわち、第1の半導体層12、活性層15及び第2の半導体層18)の側面、第2の半導体層18の上面、及びメサ20Mの上面以外の表面は、SiO2などの絶縁膜21で被覆されている。
【0089】
PCSEL素子40においては、メサ形状のp電極としてメサ20M(ITO層)を採用している。ITOはその透明性と屈折率の値(屈折率n=2.0~2.2)から、電極としてのみならずクラッド層の一部としても機能する。
【0090】
なお、本実施例では、上記実施例の第2のp側半導体層16C(層厚600nm)よりも薄い第2のp側半導体層16C(層厚200nm)を採用している。
【0091】
メサ20M(ITO層)の外側に成膜されたSiO2絶縁膜21の屈折率はn=1.4~1.55であり、有効屈折率は、(電流注入領域:メサ20M(ITO層))>(電流非注入領域)となる。
【0092】
このように、有効屈折率に差を設けることで、上記実施例のメサと同様な効果が得られ、モード安定化を図ることができる。
【0093】
本構造によれば、メサ形成時のドライエッチングによる結晶へのダメージを回避することができる。また、製造工程を簡略化することができる。
【0094】
さらに。ITO/Ag電極構造により、p電極側に出射したレーザ光を基板側に効率よく反射させ、高効率化を図ることができる。また、比較的抵抗の高い第2のp側半導体(p-AlGaN)層を薄膜化できるため、高効率化及び高出力化が可能となる。
【0095】
なお、メサ20MがITOからなる場合を例に説明したが、酸化インジウム系に限らず、ZnO系、ZrO系、GaO系、SnO系、あるいはこれらの合金系等の透光性の酸化物導電体を用いることができる。また、ITO/Ag電極構造からなる場合を例に説明したが、AgをAl、Rh、Ru、Pt、Pd、Au等の高い反射率を持つ金属、あるいは、これらの合金を用いることができる。あるいは、金属の代わりに誘電体多層膜による反射膜を用いてもよい。
【0096】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、高次モード発振が抑制されたビーム品質の高いフォトニック結晶レーザ(PCSEL)素子を提供することができる。
【0097】
上記した実施例において、円形形状は、真円形状に限らず、楕円形状及びオーバル形状を含む長円形状等を含み、円柱形状は、楕円柱形状及び長円形状を含む。
【0098】
例えば、上記した実施例においては、フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき(上面視)、空孔形成領域14Rが円形状を有する場合について説明したが、これに限らない。例えば、空孔形成領域が長円形状等を有していても良い。あるいは、空孔形成領域が正方形、長方形を含むn角形形状(nは4以上の整数)であってもよい。
【0099】
また、空孔形成領域は、フォトニック結晶層14Pの全体に渡って形成されていても良い。
【0100】
また、上記した実施例においては、メサが円柱形状を有する場合を例に説明したが、これに限らない。例えば、メサは、4角柱形状を含むn角柱形状(nは4以上の整数)を有していても良い。
【0101】
また、メサ構造は、空孔形成領域に対応した形状を有し、当該形成領域に対応した柱形状を有するように形成されていることが好ましい。
【0102】
上記した実施例においては、二重格子構造のフォトニック結晶層を有するフォトニック結晶レーザ素子について説明したが、これに限らず、単一格子構造のフォトニック結晶を有するフォトニック結晶レーザ素子についても適用が可能である。
【0103】
また、上記した実施例においては、窒化物半導体からなるフォトニック結晶レーザについて説明したが、これに限らず、他の結晶系の半導体からなるフォトニック結晶レーザについても適用が可能である。
【0104】
また、上記した実施例における数値は例示に過ぎず適宜改変して適用することができる。
【符号の説明】
【0105】
10,20,30,40:PCSEL素子、11:基板、12:第1の半導体層、13:第1のクラッド層、14:第1のガイド層、14A:下ガイド層、14P:フォトニック結晶層、14B:埋込層、15:活性層、16:第2のガイド層、16A:第1のp側半導体層、16B:電子障壁層、16C:第2のp側半導体層、16G:溝、16M、20M:メサ部、17:p-コンタクト層、18:第2の半導体層、20A:第1の電極、20B:第2の電極、20L:光放出領域、21:絶縁膜、23:パッド電極、90:PCSEL素子(比較例)、DM:メサの直径、DP:空孔形成領域の直径