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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】水素発生装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20240509BHJP
   C01B 35/18 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C01B3/04 Z
C01B35/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020168605
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060865
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-04-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2(2020)年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】疋田 育之
(72)【発明者】
【氏名】世登 裕明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸一
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/100481(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/074518(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0315628(US,A1)
【文献】特開2009-242232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0246575(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0402756(US,A1)
【文献】Tesfaye A.Abtew,Prediction of a multicenter-bonded solid boron hydride for hydrogen storage,Physical review,米国,American Physical Society,2011年,83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/04
C01B 35/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発生機能を有する水素発生材料を収容する反応容器(13)と、
前記水素発生材料に水を供給する水供給部(10)と、
前記水素発生材料の温度調整を行う温度調整部(14)と、
前記水供給部および前記温度調整部の制御を行う制御部(21)と、
を備え、
前記水素発生材料は、二次元ネットワーク構造を有し、ホウ素が負に帯電している二次元ホウ化水素シートを含む材料であり、
前記制御部は、
前記温度調整部によって前記水素発生材料を第1所定温度に加熱し、前記水素発生材料から水素を発生させる水素発生モードと、
前記温度調整部によって前記水素発生材料を前記第1所定温度より低い第2所定温度に温度低下させ、前記水供給部から前記水素発生材料に水を供給することで、前記水素発生材料の水素発生機能を再生する再生モードとを実行し、
前記反応容器の生成ガスが水素である場合には、前記生成ガスは水素を消費する外部機器(19)に供給され、前記反応容器の生成ガスが前記再生モードで副生する酸素である場合には、前記生成ガスは酸素を貯蔵する酸素タンク(20)に供給され、前記反応容器の生成ガスが酸素以外の非水素ガスである場合には、前記生成ガスは外部に排出される水素発生装置。
【請求項2】
前記二次元ホウ化水素シートは、X線光電子分光分析において、負に帯電したホウ素のB1sに由来する187.5eV近傍にピークを有する請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記水素発生モードと前記再生モードを交互に繰り返し実行する請求項1または2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
前記第1所定温度は60~500℃の範囲内である請求項1ないし3のいずれか1つに記載に水素発生装置。
【請求項5】
前記第1所定温度は200~350℃の範囲内である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の水素発生装置。
【請求項6】
前記第2所定温度は0~200℃の範囲内である請求項1ないし5のいずれか1つに記載の水素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、酸素と反応する際に大きなエネルギを放出し、水のみを生成することから、化石燃料に代わる無公害な燃料である。水素燃料を燃料電池や水素エンジンなどの車載エネルギ源として利用するには、水素を安全かつ軽量に貯蔵する必要がある。
【0003】
特許文献1では、水素発生材料である金属水素化ホウ素化物(MBH4:M=Na,Li,K)と水を触媒の存在下で反応させることで水素を発生させる水素発生装置が提案されている。この装置では、金属水素化ホウ素化物を溶解した水溶液を触媒と接触させることで、以下の反応式(1)によって水素を発生させることができ、高圧水素タンクや液体水素タンクを用いる場合よりも小型化が実現できる。
【0004】
MBH4+2H2O→4H2+MBO2・・・(1)
反応式(1)において、金属水素化ホウ素化物のホウ素は正に帯電しているため、酸化物イオンと優先的に結合する。このため、反応式(1)では、金属水素化ホウ素化物が金属ホウ酸化物(MBO2)に変化する。特許文献1の装置で継続的に水素を発生させるためには、新たな金属水素化ホウ素化物を外部から補充するか、あるいは金属ホウ酸化物から金属水素化ホウ素化物を再生する必要がある。
【0005】
非特許文献1では、MgH2を用いて金属ホウ酸化物(NaBO2)を金属水素化ホウ素化物(NaBH4)へ再生することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2005-536430号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y. Kojima, R&D Review of Toyota CRDL Vol.40 No.2 31-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載された再生方法では、大規模な反応装置が必要となる。一方、水素発生装置を頻繁な燃料補給が求められる車載用として用いる場合には、水素発生材料の再生操作の簡略化が必要となる。
【0009】
本発明は上記点に鑑み、水素発生材料から水素を発生させる水素発生装置において、簡易な構成で水素発生材料から水素を継続的に発生可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の水素発生装置は、反応容器(13)と、水供給部(10)と、温度調整部(14)と、制御部(21)とを備える。反応容器は、水素発生機能を有する水素発生材料を収容する。水供給部は、前記水素発生材料に水を供給する。温度調整部は水素発生材料の温度調整を行う。制御部は、水供給部および温度調整部の制御を行う。水素発生材料は、二次元ネットワーク構造を有し、ホウ素が負に帯電している二次元ホウ化水素シートを含む材料である。
【0011】
制御部は、水素発生モードと、再生モードとを実行する。水素発生モードでは、温度調整部によって水素発生材料を第1所定温度に加熱し、水素発生材料から水素を発生させる。再生モードでは、温度調整部によって水素発生材料を第1所定温度より低い第2所定温度に温度低下させ、水供給部から水素発生材料に水を供給することで、水素発生材料の水素発生機能を再生する。反応容器の生成ガスが水素である場合には、生成ガスは水素を消費する外部機器(19)に供給される。反応容器の生成ガスが再生モードで副生する酸素である場合には、生成ガスは酸素を貯蔵する酸素タンク(20)に供給される。反応容器の生成ガスが酸素以外の非水素ガスである場合には、生成ガスは外部に排出される。
【0012】
これにより、簡易な構成で水素発生材料の水素発生機能を再生することができ、水素を継続的に発生させることができる。
【0013】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を示す水素発生装置の概念図である。
図2】二次元ホウ化水素シートのXY平面を示す模式図である。
図3】二次元ホウ化水素シートのYZ平面を示す模式図である。
図4】二次元ホウ化水素シートのZX平面を示す模式図である。
図5】二次元ホウ化水素シートのX線光電子分光分析の結果を示す図である。
図6】水素発生装置の水素発生量を昇温脱離ガス質量分析法で測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1に示すように、水素発生装置1は、水供給部10、反応容器13、ヒータ14、制御部21などを備えている。
【0016】
水供給部10は、内部に所定量の水(H2O)を貯蔵しており、反応容器13に水を供給する。水供給部10には、外部から水を補充することが可能となっている。水供給部10から反応容器13に供給する水は、固体、液体、気体のいずれの状態でもよい。本実施形態では、水供給部10から気体状態の水(水蒸気)を反応容器13に供給する。
【0017】
水供給部10から水供給流路11を介して反応容器13に水が供給される。水供給流路11には、開閉弁12が設けられている。開閉弁12は、水供給流路11を開閉し、水供給部10から反応容器13への水の供給開始および供給停止を切り替える。
【0018】
図1では図示していないが、反応容器13にキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置を設けてもよい。キャリアガスは不活性ガスを用いることができる。反応容器13にキャリアガスを供給することで、反応容器13で生成した生成ガスを効率的に搬送することができる。
【0019】
反応容器13は、内部に水素発生材料が収容されている。水素発生材料は、水素原子を含有する材料であり、水素を発生する水素発生機能を有している。水素発生材料は、水素発生により減少した水素原子を補充することができ、水素発生機能を再生できる。本実施形態では、水素発生材料として二次元ホウ化水素シートを含む材料を用いている。二次元ホウ化水素シートについては、後で詳細に説明する。
【0020】
反応容器13に隣接してヒータ14が設けられている。ヒータ14は、反応容器13を加熱する加熱装置であり、例えば電気式ヒータを用いることができる。ヒータ14は、反応容器13の加熱温度を調整することができる。ヒータ14による反応容器13の加熱によって、反応容器13の内部の水素発生材料が加熱される。ヒータ14は、二次元ホウ化水素シートを含む材料を温度調整する温度調整部に相当している。
【0021】
反応容器13では、水素発生材料が加熱されることで、水素発生材料の水素発生反応が起き、水素発生材料から水素が発生する。さらに反応容器13では、水供給部10から供給される水を用いて水素発生材料の再生反応が起こる。水素発生材料の再生反応では、酸素が副生する。水素発生材料の水素発生反応および再生反応については、後で詳細に説明する。
【0022】
反応容器13で生成した生成ガスは、ガス排出流路15を介して反応容器13から排出される。ガス排出流路15は、第1排出流路16と第2排出流路17に分岐する。ガス排出流路15の分岐点には、流路切替弁18が設けられている。流路切替弁18は、反応容器13から排出された生成ガスの流路を第1排出流路16または第2排出流路17に切り替える。
【0023】
反応容器13の生成ガスが水素である場合には、流路切替弁18は、ガス流路を第1排出流路16に切り替える。第1排出流路16には、外部機器19が接続されている。外部機器19は、例えば燃料電池等の水素消費機器である。第1排出流路16を介して外部機器19に供給された水素は、外部機器19で消費される。
【0024】
反応容器13の生成ガスが水素以外の非水素ガスである場合には、流路切替弁18は、ガス流路を第2排出流路17に切り替える。非水素ガスには、水素発生材料の再生反応で生成する酸素が含まれる。非水素ガスのうち酸素(O2)は回収され、酸素タンク20に貯蔵される。非水素ガスのうち酸素以外のガスは外部に排出される。
【0025】
水素発生装置1は、制御部21を備えている。制御部21は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御部21は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、水素発生装置1における各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御部21は、開閉弁12の開閉制御、ヒータ14による加熱制御、流路切替弁18の流路切替制御等を行う。制御部21は、水供給部10から反応容器13への水の供給制御、反応容器13の温度制御を行う。
【0026】
ここで、本実施形態の水素発生材料として用いられる二次元ホウ化水素シートの構造について図2図4を用いて説明する。図2に示すように、本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子(B)と水素原子(H)のみから形成される二次元ネットワークを有するシート状物質である。二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子と水素原子が1層だけの平面構造で連なった構造を有している。二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子が負に帯電し、水素原子が正に帯電しているという特徴を有している。
【0027】
二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子が六角形の環状に配列された基本骨格を有している。二次元ホウ化水素シートでは、ホウ素原子からなる六角形の環状体の特定の場所に水素原子が規則的に配置されている。ホウ素原子からなる六角形の環状体は隙間なく連続的に形成され、網目状の面構造である二次元ネットワークを構成している。二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子のうち隣接する2つが同一の水素原子と結合する部位を有している。
【0028】
二次元ホウ化水素シートは、ホウ素原子と水素原子からなる二次元ネットワークを有する薄膜状の物質である。本実施形態の二次元ホウ化水素シートでは、網目状の面構造を形成するホウ素原子と水素原子の合計は1000個以上である。
【0029】
図2において、隣り合う2つのホウ素原子の結合距離d1は0.155nm~0.185nmである。図3において、1つの水素原子を介して隣り合う2つのホウ素原子の結合距離d2は0.155nm~0.185nmである。図3において、隣り合うホウ素原子と水素原子間の結合距離d3は0.125nm~0.135nmである。
【0030】
本実施形態の二次元ホウ化水素シートの厚さは、0.23nm~0.50nmである。二次元ホウ化水素シートにおいて、少なくとも一方向の長さ(例えば、図2のX方向またはY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。二次元ホウ化水素シートの大きさ(つまり、面積)は特に限定されず、製造方法によって任意の大きさに形成することができる。
【0031】
二次元ホウ化水素シートは、図2図4に示す局所構造を有している。二次元ホウ化水素シートは、局所的には短距離秩序を有しているが、長距離秩序は有さない構造である。二次元ホウ化水素シートは、特定の周期的な規則性を有しておらず、かつ、凝集することなく無作為に結合している。本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、粉末状態となっている。
【0032】
二次元ホウ化水素シートでは、六角形環状体を形成するホウ素原子間、および、ホウ素原子と水素原子の間の結合力が強い。このため、二次元ホウ化水素シートは、製造時に複数積層されてなる結晶(つまり、凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離することができる。
【0033】
ここで、本実施形態の二次元ホウ化水素シートの製造方法について説明する。本実施形態では、国際公開2018/074518号に記載された二次元ホウ化水素シートの製造方法と同様の方法を用いている。二次元ホウ化水素シートの製造方法は、二ホウ化金属とイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程と、混合溶液をろ過する工程を備えている。
【0034】
二ホウ化金属は、六角形の環状構造を有している。二ホウ化金属としては、例えばAlB2、MgB2、TaB2、ZrB2、ReB2、CrB2、TiB2、VB2を用いることができる。極性有機溶媒中で容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができることから、二ホウ化金属としてMgB2を用いることが好ましい。
【0035】
イオン交換樹脂としては、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(例えばスルホ基、カルボキシル基)を有するものを用いることができる。このような官能基を有するイオン交換樹脂として、例えばスチレンの重合体、ジビニルベンゼンの重合体、またはスチレンとジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基は、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0036】
極性有機溶媒は、特に限定されないが、例えばアセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
【0037】
本実施形態では、二ホウ化金属としてMgB2を用い、イオン交換樹脂としてスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いて二次元ホウ化水素シートを製造した。これにより、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg2+)と、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H+)とが置換して、最小単位(HB)4の二次元ホウ化水素シートを製造することができる。
【0038】
次に、上述した製造方法による生成物をX線光電子分光分析(XPS)で分析した結果について図5を用いて説明する。X線光電子分光分析法では、生成物の表面にX線を照射し、そのときに生じる光電子のエネルギを測定し、生成物の構成元素とその電子状態を分析することができる。
【0039】
図5に示すように、187.5eV近傍にホウ素のB1sに由来するピークが現れている。「187.5eV近傍」における「近傍」は「±1.0eV」を意味しており、ホウ素のB1sに由来するピークは187.5±1.0eVの範囲内に存在している。一方、マグネシウムのMg2pに由来するピークは観測されなかった。これは、生成物には、ホウ素が含まれており、マグネシウムが含まれていないことを示している。このことは、原材料のMgB2のマグネシウムイオンとイオン交換樹脂のスルホ基の水素イオンがイオン交換したことを示していると考えられる。
【0040】
本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、(HXYn(ただし、n≧4、X≦Y)で表される。nは整数であり、n=4が二次元ホウ化水素シートの単位格子を表わす。本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、含有する水素原子の数が変動する。本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、含有する水素原子の数が変動しても、二次元ネットワーク構造を保持している。
【0041】
ホウ素原子(B)と水素原子(H)のモル比(X/Y)は(X/Y)=1から(X/Y)<1の間で変動する。二次元ホウ化水素シートにおいて、ホウ素原子(B)と水素原子(H)のモル比(X/Y)=1の場合が含有する水素原子が最も多くなっている状態であり、(HB)nと表すこともできる。
【0042】
本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、水素の貯蔵および放出が可能な材料である。二次元ホウ化水素シートは、水素発生反応で水素を放出した後に、再生反応で水素の貯蔵量を増やすことができる。
【0043】
二次元ホウ化水素シートを第1所定温度で加熱することで、以下の反応式(2)に示す水素発生反応が起こる。
【0044】
2(HB)n→(2/Y)(HXYn+n(1-X/Y)H2・・・(2)
水素発生反応では、二次元ホウ化水素シートから水素が放出され、二次元ホウ化水素シートの含有する水素原子が減少する。二次元ホウ化水素シートは、水素発生反応によってホウ素と水素のモル比が変動するだけであり、水素を放出する前後でホウ素原子が六角形の環状に配列された基本骨格は変化せず、二次元ネットワーク構造は変化しない。
【0045】
第1所定温度は、60~500℃の範囲内であること望ましく、200~350℃の範囲内であることがより望ましい。
【0046】
第1所定温度が低いと、二次元ホウ化水素シートから水素が充分に発生しない。このため、水素発生量を確保するために、第1所定温度の下限値は60℃以上であることが望ましく、200℃以上であることがより望ましい。
【0047】
水素発生反応を効果的に進行させるためには、第1所定温度は高温であるほど望ましい。一方、二次元ホウ化水素シートの加熱温度が500℃を上回ると、再生反応で二次元ホウ化水素シートを再生することが困難になる。このため、第1所定温度の上限値は500℃以下であることが望ましく、350℃以下であることがより望ましい。
【0048】
水素発生反応の進行にともなって、二次元ホウ化水素シートの含有する水素原子が減少し、水素発生機能が低下する。本実施形態の二次元ホウ化水素シートは、以下の再生反応で含有する水素原子を増大させ、水素発生機能を再生することができる。
【0049】
二次元ホウ化水素シートを第1所定温度で加熱した後、第1所定温度より低温の第2所定温度に温度低下させ、二次元ホウ化水素シートに水(H2O)を供給することで、以下の反応式(3)に示す再生反応が起こる。水は、再生反応における水素原子の供給源である。
【0050】
(2/Y)(HXYn+n(1-X/Y)H2O→2(HB)n+(n/2)(1-X/Y)O2・・・(3)
二次元ホウ化水素シートのホウ素は負に帯電しているため、水に含まれるプロトンが再生反応で優先的に二次元ホウ化水素シートに結合する。再生反応では、二次元ホウ化水素シートの含有水素原子が増加し、水素貯蔵量が増加する。この結果、二次元ホウ化水素シートの水素発生機能が再生する。再生反応では酸素が副生成物として生成する。
【0051】
二次元ホウ化水素シートに供給される水(H2O)は、気体、液体、固体のいずれの状態でも再生反応に用いることが可能である。水が拡散しやすい状態であるほど、再生反応が起こりやすい。このため、二次元ホウ化水素シートに供給される水は、気体であることが最も望ましく、次に液体であることが望ましい。
【0052】
第2所定温度は、0~200℃の範囲内であることが望ましい。第2所定温度が0℃を下回ると、水が固体になって拡散しにくくなり、再生反応が起こりにくくなる。一方、第2所定温度が200℃を上回ると、発熱反応である再生反応が起こりにくくなる。発熱反応である再生反応を促進させるために、第2所定温度は0~200℃の範囲内で低温であるほど望ましい。
【0053】
次に、本実施形態の水素発生装置1の作動について説明する。本実施形態の水素発生装置1は、水素発生反応によって水素を発生する水素発生モードと、再生反応によって二次元ホウ化水素シートを再生する再生モードで作動する。水素発生モードおよび再生モードは、制御部21による制御によって実行される。
【0054】
水素発生モードでは、ヒータ14によって反応容器13に収容された二次元ホウ化水素シートを第1所定温度で加熱する。本実施形態では、第1所定温度を350℃としている。このとき、開閉弁12を閉鎖し、水供給部10から反応容器13への水の供給を停止した状態とする。水素発生モードでは、反応容器13で反応式(2)に示す水素発生反応が起こり、水素が発生する。
【0055】
反応容器13で発生した水素は、ガス排出流路15から排出される。ガス流路は流路切替弁18によって第1排出流路16に切り替えられており、反応容器13から排出された水素は第1排出流路16を介して外部機器19に供給される。
【0056】
再生モードでは、反応容器13の温度を第1所定温度から第2所定温度に温度低下させる。本実施形態では、第2所定温度を80℃としている。反応容器13の冷却は、ヒータ14による加熱を停止し、自然放熱によって行うことができる。
【0057】
再生モードでは、開閉弁12を開放し、水供給部10から反応容器13への水の供給を行う。水は、水蒸気の状態で反応容器13に供給される。再生モードでは、反応容器13の二次元ホウ化水素シートに水が供給された状態となっていればよく、水供給部10からの水の供給は必ずしも再生モードの全期間にわたって行う必要はない。例えば、再生モードの前半に水供給部10からの水の供給を行うようにしてもよい。
【0058】
再生モードでは、反応容器13の内部で反応式(3)に示す再生反応が起こる。再生反応によって、二次元ホウ化水素シートの含有水素が増大し、二次元ホウ化水素シートの水素貯蔵量を増大させることができる。再生反応では、酸素が副生する。
【0059】
反応容器13で生成した酸素は、ガス排出流路15から排出される。ガス流路は流路切替弁18によって第2排出流路17に切り替えられている。反応容器13から排出された酸素は酸素タンク20に回収される。反応容器13の生成ガスのうち酸素以外のガスは、酸素を分離した後で外部に排気される。
【0060】
本実施形態の水素発生装置1は、水素発生モードと再生モードを交互に繰り返し行う。これにより、二次元ホウ化水素シートの水素発生と再生が繰り返し行われ、水素発生装置1による水素発生を継続的に行うことができる。
【0061】
ここで、本実施形態の水素発生装置1における水素発生量を昇温脱離ガス質量分析法で測定した結果について図6を用いて説明する。図6の横軸は経過時間である。図6の縦軸は電流値であり、水素発生装置1の水素発生量を示している。図6中において、破線が二次元ホウ化水素シートの温度を示し、実線が昇温脱離ガス質量分析法で測定した電流値を示している。
【0062】
図6に示した例では、再生モードにおいて、水(水蒸気)をキャリアガスとともに反応容器13に供給している。水蒸気とキャリアガスとの混合ガスに占める水蒸気の割合は40%となっている。
【0063】
図6に示すように、本実施形態の水素発生装置1は、二次元ホウ化水素シートを第1所定温度(350℃)で加熱する水素発生モードと、二次元ホウ化水素シートを第2所定温度(80℃)に温度低下させて水を供給する再生モードを繰り返し行っている。
【0064】
水素発生モードでは、電流値が増大しており、二次元ホウ化水素シートからの水素発生が確認できる。電流値は、上昇した後に低下している。これは、水素発生モードの進行にともなって、二次元ホウ化水素シートの含有する水素原子が減少し、二次元ホウ化水素シートの水素発生機能が低下していることを示している。
【0065】
水素発生モードで電流値が低下した後に再生モードを実行することで、再生モード後の水素発生モードでは電流値が再度増大しており、水素発生が確認できる。これは、再生モードを実行することで、二次元ホウ化水素シートの水素発生機能が再生されていることを示している。なお、再生モードでは、水供給時に電流値が若干上昇しているが、これは水供給時に二次元ホウ化水素シートが発熱するため、この発熱によって水素が生成しているものと考えられる。
【0066】
以上説明した本実施形態の水素発生装置1では、水素発生材料としてホウ素が負に帯電している二次元ホウ化水素シートを用いている。そして、二次元ホウ化水素シートを第1所定温度で加熱する水素発生モードと、二次元ホウ化水素シートを第2所定温度に温度低下させて水を供給する再生モードとを繰り返し行うことで、二次元ホウ化水素シートの水素発生と再生を繰り返すことができる。これにより、本実施形態の水素発生装置1では、簡易な構成で水素発生材料の水素発生機能を再生することができ、水素を継続的に発生させることができる。
【0067】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0068】
例えば、上記実施形態の水素発生装置1において、再生モード時に反応容器13を冷却する冷却装置を設けてもよい。冷却装置としては、例えば空冷ファンや水冷用ラジエータを用いることができる。再生モード時に冷却装置で反応容器13を冷却することで、再生反応を促進することができる。反応容器13にキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置を設ける場合には、キャリアガスによって二次元ホウ化水素シートを冷却することができる。
【0069】
また、上記実施形態の水素発生装置1において、第1排出流路16に排気装置を設けてもよい。これにより、水素発生モード時に、発生した水素をより短時間で外部機器19に供給することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 水供給部
13 反応容器
14 ヒータ(温度調整部)
21 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6