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特許7485311がん細胞増殖抑制剤及びがん細胞増殖抑制効果増強剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】がん細胞増殖抑制剤及びがん細胞増殖抑制効果増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240509BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240509BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240509BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K31/341
A61P35/00
A61P43/00 121
A23L33/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022018618
(22)【出願日】2022-02-09
(65)【公開番号】P2023116063
(43)【公開日】2023-08-22
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
(72)【発明者】
【氏名】高垣 晶子
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160238(JP,A)
【文献】MELAIU O. et al.,Influence of the Tumor Microenvironment on NK Cell Function in Solid Tumors,frontiers in Immunology,2020年,Volume 10,Article 3038
【文献】日本内科学会雑誌,2021年,110巻3号,520-525
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 31/341
A61K 39/395
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害剤と、下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種とを含み、前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体である、がん細胞増殖抑制剤。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のがん細胞増殖抑制剤を含有するがん細胞増殖抑制用医薬品。
【請求項3】
請求項1に記載のがん細胞増殖抑制剤を含有するがん細胞増殖抑制用サプリメント。
【請求項4】
免疫チェックポイント阻害剤のがん細胞増殖抑制効果を増強するためのがん細胞増殖抑制効果増強剤であって、下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種を含み、前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体である、がん細胞増殖抑制効果増強剤。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
これまでの免疫療法は、免疫細胞の攻撃力を高める方法が中心だったが、近年、がん細胞表面にある免疫チェックポイントが免疫細胞にある受容体と結合することにより、免疫細胞の攻撃を阻止することができることがわかってきた。そこで、免疫チェックポイント阻害剤を使用して免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を保つ方法の開発が注目されている。
【0002】
免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞を直接攻撃する従来の抗がん剤とは異なり、免疫チェックポイントと受容体の結合を遮断し、がんを攻撃する免疫細胞を活性化させて、間接的にがん細胞を攻撃する。そのため、体への負担が少なく、抗がん剤が効かなくなった進行がんでも治療効果が得られる場合がある。また、自己の免疫を活性化させるので、治療効果が持続する傾向があり、従来型の抗がん薬と比較して副作用は比較的少なめで安全性は高いのが特徴(非特許文献1参照)である。そのため、免疫療法によるがん治療は、外科療法、化学療法、放射線治療に続く第4の治療法として注目されており、さらなる拡大が見込まれている分野である。
代表的な免疫チェックポイント阻害剤としては抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CTLA-4抗体などがあり、特に、抗PD-1抗体が用いられることが多い。
【0003】
一方、免疫チェックポイント阻害剤単独での癌奏効率は20%と報告されており、すべての患者に治療効果が期待出来るものではない。そのため、他の治療法との併用による癌奏効率の向上が期待されており、ワクチン療法などとの併用が検討されている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
ところで、緑茶カテキン代謝物の免疫活性化作用については、免疫細胞の増殖促進作用(特許文献2)、ナチュラルキラー細胞の活性促進作用(特許文献3)などが知られている。その他、緑茶カテキン代謝物の抗癌作用としては、子宮頸癌細胞の増殖抑制作用が知られており(特許文献4)、また、フラバン-3-オール類との併用でガン細胞増殖阻害作用増強効果があることが記載されている(特許文献5)。しかしながら、緑茶カテキン代謝物の単独での抗癌作用は限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2020/067085号公報
【文献】特開2016-003200号公報
【文献】特開2016-160238号公報
【文献】特開2015-030724号公報
【文献】特開2015-209418号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lancet,2017,vol.390,p.2461-2471
【文献】OncoImmunology,2020,vol.9,p.1734268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、食品成分を由来とする安全性の高い成分を含み、単独での免疫チェックポイント阻害剤の抗がん効果よりも高い抗がん効果を有するがん細胞増殖抑制剤、及び免疫チェックポイント阻害剤のがん細胞増殖抑制効果を増強することができるがん細胞増殖抑制効果増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、主なカテキン類の代謝物として報告のある5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの生理活性作用を検討した。その結果、このカテキン代謝物には、免疫チェックポイント阻害剤の抗がん効果を増強する作用があることを発見し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 免疫チェックポイント阻害剤と、下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種とを含む、がん細胞増殖抑制剤。
【化1】

[2] 前記免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗B7抗体、抗C27抗体、抗KIR抗体、IDO阻害薬、抗CD137抗体、および抗TIM3抗体から選択される一種または複数種である、[1]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[3] 前記免疫チェックポイント阻害剤が抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体である[2]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[4] [1]乃至[3]のいずれか一項に記載のがん細胞増殖抑制剤を含有するがん細胞増殖抑制用医薬品。
[5] [1]乃至[3]のいずれか一項に記載のがん細胞増殖抑制剤を含有するがん細胞増殖抑制用サプリメント。
[6] 免疫チェックポイント阻害剤と、下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種を有効成分とするがん細胞増殖抑制とを併用することによって、免疫チェックポイント阻害剤の抗がん効果を増強する、免疫チェックポイント阻害剤効果増強方法。
【化2】

[7] 免疫チェックポイント阻害剤のがん細胞増殖抑制効果を増強するためのがん細胞増殖抑制効果増強剤であって、下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種を含む、がん細胞増殖抑制効果増強剤。
【化3】
【発明の効果】
【0010】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤と、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、またはその塩もしくは抱合体の少なくとも一種とを含むがん細胞増殖抑制剤である。5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンは、食品成分由来成分を有効成分とするため、安全性が高く、その効果は即効性を有する。また、本発明はサプリメント、医薬品などに幅広く応用出来る安全で汎用性の高いものである。本発明によれば、安全で優れたがん細胞増殖抑制効果を有する、安全性の高い機能性食品やサプリメント、または医薬品を提供することが出来る。また、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、またはその塩もしくは抱合体は、免疫チェックポイント阻害剤と併用することによって免疫チェックポイント阻害剤の抗がん効果を高める増強剤とすることが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1において、マウス結腸がん細胞株MC38細胞移植20日目の腫瘍体積を示す。
図2図2は、実施例2において、マウス結腸がん細胞株MC38細胞移植24日目の腫瘍体積を示す。
図3図3は、実施例2において、マウス結腸がん細胞株MC38細胞移植4日目から38日目までの生存数の推移を示す。
図4図4は、実施例3において、マウス悪性胸膜中皮腫細胞株AB1移植22日目の腫瘍体積を示す。
図5図5は、比較例において、マウス結腸癌細胞株MC38細胞移植16日目の腫瘍体積を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、より詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができるものである。
本発明の一つは、免疫チェックポイント阻害剤と下記式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種とを含むがん細胞増殖抑制剤である。
【0013】
本発明のがん細胞増殖抑制剤に含まれる化合物は、式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンまたはその塩もしくはその抱合体である。
【0014】
式(I)の化合物について説明する。式(I)に示す5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンは、以下の通りである。
【0015】
【化4】
【0016】
式(I)中、波線は立体配置がR配置またはS配置であることを表す。したがって、式(I)の化合物は、R体、S体いずれも包含する。なお、R体であることが好ましい。式(I)の化合物は、エピガロカテキンまたはエピガロカテキンガレートを経口摂取したときに腸内で生成される茶カテキン類の代謝産物として知られている。製造方法についても、すでに公知であり、例えば、特開2011-87486号公報には、エピガロカテキンからの微生物による化合物の製造方法、またはその培養菌体の調製物の存在下で行う化合物の製造方法が開示されている。その他、公知の有機化学合成法(synthesis,9,1512-1520,2010)などにより得ることもできる。
【0017】
5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレートの腸内細菌代謝物である。実際にマウスに5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンを経口投与した際の血清中には、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの化合物の硫酸抱合体とグルクロン酸抱合体の検出が報告されている(Biol.Pharm.Bull,42,212-221,2019)。このことから、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの経口投与後のマウス体内には、抱合体が吸収されていることが既に既知であり、経口投与後の生体機能性に抱合体が寄与している可能性が示唆されている。このため、本明細書中で示す生体での認知機能の改善作用についても、硫酸抱合体および/またはグルクロン酸抱合体等の抱合体も含めた5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの効果も含まれるとみなす事が出来る。
即ち、本発明のがん細胞増殖抑制剤の有効成分としては、式(I)の化合物である5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンと、その化合物の塩及びその化合物の抱合体も含まれる。
【0018】
すなわち、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの硫酸抱合体とは、式(I)中のヒドロキシ基の少なくとも一つが硫酸基またはその塩に置換されたものをいう。硫酸基又はその塩は下記のいずれかの置換基である。
【化5】

【化6】
【0019】
置換基として、硫酸基またはその塩を少なくとも1つを含む化合物の例は水酸基の少なくとも一つをスルホン化することにより得ることができる。スルホン化は、三酸化硫黄ピリジンなどを使用することにより、調製することができる。
【0020】
5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンのグルクロン酸抱合体とは、式(I)中のヒドロキシ基の少なくとも一つが、グルクロン酸またはグルクロン酸塩を含む置換基に置換されたものをいう。グルクロン酸またはグルクロン酸塩を含む化合物は、下記のいずれかの置換基である
【化7】

【化8】
【0021】
式(I)中にグルクロン酸またはグルクロン酸塩を含む化合物の例は、エピガロカテキン等を経口摂取した時に尿から検出される茶カテキン類の代謝産物である。したがって、製造方法としては、例えば、ラットに、エピガロカテキンを投与して、尿を回収し、それをHPLCなどにより、分取する方法が挙げられる。
【0022】
式(I)の化合物を免疫チェックポイント阻害剤ともに投与することにより、免疫チェックポイント阻害剤の効果を増大させ、腫瘍体積を小さくすることができ、十分な細胞増殖抑制効果を奏することができる。
【0023】
本発明のがん細胞増殖抑制剤においては、式(I)の化合物の塩も同様のがん細胞増殖抑制効果を有し、式(I)の化合物の塩も有効成分として含有することができる。式(I)の化合物の塩としては、薬理学的に許容される塩が好ましく、このような塩としては、例えば、塩とはナトリウム、カリウムなどとのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどとのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エタノールアミン、ピリジン、リジン、アルギニンなどの有機塩基との塩である。
これらの塩は、従来の方法の得ることができ、例えば、ナトリウム塩であれば、式(I)の化合物を水酸化ナトリウムと接触させることにより得ることができる。
【0024】
このように、式(I)の化合物は、エピガロカテキンから得ることができるか、またはエピガロカテキン、エピガロカテキンガレートもしくはガロカテキン、ガロカテキンガレートの代謝物または代謝物の誘導体である。カテキン類[エピガロカテキン((-)-エピガロカテキン)、エピガロカテキンガレート((-)-エピガロカテキンガレート、ガロカテキン((-)-ガロカテキン、ガロカテキンガレート((-)-ガロカテキンがレート))は、主に緑茶に含まれており、茶の葉、茎、木部、樹皮、根、実、種子やこれらの混合物もしくはそれらの粉砕物から水、熱水、有機溶媒、含水有機溶媒あるいはこれらの混合物等により抽出することにより得られ、抽出物自体の他に、その精製物等があり、形態的には液体、固体(粉末を含む)の別を問わない。
【0025】
本発明のがん細胞増殖抑制剤の効果があるがんとしては、特に限定されるものではないが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、脳腫瘍・神経膠腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫、ぶどう膜悪性黒色腫、髄膜腫、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、甲状腺がん、乳がん、肺がん、胸腺腫、胸腺がん、中皮腫、食道がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、胆管がん、膵臓がん、腎細胞がん、膀胱がん、前立腺がん、腎盂・尿管がん、陰茎がん、精巣(睾丸)腫瘍、子宮がん、卵巣がん、外陰がん、皮膚がん、悪性黒色腫(皮膚)、基底細胞がん、皮膚がんの前駆症、表皮内がん、有棘細胞がん、菌状息肉症、悪性骨腫瘍(骨肉腫)、軟部肉腫、軟骨肉腫、悪性線維性組織球腫及びこれらの転移がんが挙げられ、特に大腸がんの一種である結腸がん、中皮腫の一種である悪性胸膜中皮腫に有効である。
【0026】
本発明のがん細胞増殖抑制剤は、上記式(I)の化合物を有効成分として含有するが、当該化合物の人体に投与する場合は、人体に悪影響がないように投与する。本発明において、式(I)の化合物のヒトへの投与量は、体重、性別、年齢またはその他の要因に従って適宜決定すればよい。例えば、経口投与の場合、成人一日当たり、好ましくは10~500mg/60kg体重、より好ましくは20~300mg/60kg体重、さらに好ましくは20~150mg/60kg体重である。これら用量を、例えば、1日1回~3回に分けて投与することが好ましい。
【0027】
本発明のがん細胞増殖抑制剤には、免疫チェックポイント阻害剤を含む。免疫チェックポイント阻害剤は単独でもがん細胞の増殖を抑制する作用があるが、式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種と併用することにより、がん細胞増殖抑制効果を高めることができる。
【0028】
本発明のがん細胞増殖抑制剤に含まれる免疫チェックポイント阻害剤は、特に限定されるものではないが、例えば抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗B7抗体、抗C27抗体、抗KIR抗体、IDO阻害薬、抗CD137抗体、および抗TIM3抗体が挙げられ、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体が好ましい。
【0029】
本発明のがん細胞増殖抑制剤において、免疫チェックポイント阻害剤は式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩またはその化合物の抱合体と併用して投与される。免疫チェックポイント阻害剤の投与量は併用時においても、単独の使用方法で有効とされている投与量と同様の範囲でよい。免疫チェックポイント阻害剤の有効投与量は一様ではないが、その割合として一例を挙げるとすれば、式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩またはその化合物の抱合体に対して免疫チェックポイント阻害剤の割合の下限が、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上であり、上限は、500%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは100%以下である。ここでの%はいずれも質量%表記である。
【0030】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤と式(I)の化合物とを含有する医薬品やサプリメントとすることもできるし、別個の組成物からなる組合わせの医薬品としてもよいし、式(I)の化合物を免疫チェックポイント阻害剤の効果増強用の医薬品やサプリメントとしてもよい。医薬品やサプリメントにする場合の剤形は、投与目的や投与経路等に応じて、錠剤、カプセル剤、注射剤、点滴剤、散剤、座剤、顆粒剤、軟膏剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、クリーム剤等にすることができる。
【0031】
また、当該医薬品に、一般に製剤に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等の添加物を含有させることができる。結合剤の好適な例としてはグアガム、アラビアゴム末などが挙げられる。賦形剤の好適な例としては、デンプン、トレハロース、デキストリンなどが挙げられる。滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては、油脂、プロピレングリコール、シクロデキストリンなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。
【0032】
式(I)で示される5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種は、免疫チェックポイント阻害剤のがん細胞増殖抑制効果を増強するためのがん細胞増殖抑制効果増強剤に含まれる。5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン、その化合物の塩及びその化合物の抱合体の少なくとも一種を、がん細胞増殖抑制効果増強剤として用いる場合は、当該がん細胞増殖抑制効果増強剤に免疫チェックポイント阻害剤が含まれなくてもよい。すなわち、免疫チェックポイント阻害剤を投与してから、所定の時間経過後にがん細胞増殖抑制効果増強剤を投与してもよいし、がん細胞増殖抑制効果増強剤を投与してから、所定の時間経過後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよい。免疫チェックポイント阻害剤はそれぞれ所定の用法に従えばよいが、一般的には数週間間隔で数カ月から1年程度投与される。がん細胞増殖抑制効果増強剤は免疫チェックポイント阻害剤の投与期間中は継続して投与するのが望ましく、好ましくは1~7日間に一度、より好ましくは毎日投与するのが好ましい。また、免疫チェックポイント阻害剤の投与期間の前後1週間から2カ月の間にも同様に継続して投与することが好ましい。このように併用して投与されることによって免疫チェックポイント阻害剤と相乗的に作用し、効果的にがん細胞の増殖を抑制することができる。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。また、以下の製造例および実施例において、5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンをEGC-M5とも記載する。
【0034】
<製造例1:(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの製造>
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mlのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株及びユウバクテリウム・プラウティ(フラボニフラクター・プラウティ)ATCC29863株は10mlのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。(-)-エピガロカテキン290mgを含む100mlのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mlをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去し、上清をLC/MS分析することで(S)-1-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-3-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)-プロパン-2-オールの生成を確認した。この時のLC/MS条件を以下に記載する。
【0035】
<LC/MS条件>
・カラム:CAPCELLPAK C18 MG(2.0i.d.×100.0mm、5μm、((株)資生堂製)、
・流速:0.2ml/分
・カラム温度:40℃
・移動相:
溶媒A:(水/アセトニトリル/酢酸=100:2.5:0.1、容量比(v/v/v))
溶媒B:(水/アセトニトリル/メタノール/酢酸=35:2.5:65:0.1、容量比(v/v/v/v))
グラジエント;0分:A100% B0%、3分:A100% B0%、25分:A0% B100%、25.1分:A100% B0%、33分:A100% B0%
・検出:UV270nm
・インターフェース:ESI
・ポラリティ:ネガティブ
【0036】
次に、上記ATCC29863株の前培養液を、(S)-1-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-3-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)-プロパン-2-オールの生成を確認した前述の培養液に加えて37℃で48時間嫌気培養を行った。その後、培養液1mlをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)に供し、得られた上清を上記のLC/MS分析に供して(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(EGC-M5)の生成を確認した。
【0037】
(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの生成を確認した培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。上清に塩酸を加えpH3.5に調整した後、200mlの酢酸エチルで3回抽出した。この酢酸エチル層はエバポレーターにより濃縮乾固し、分取HPLCに供した。分取HPLC条件は以下に記載する。
【0038】
<分取HPLC条件>
・カラム:CAPCELL PAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂製)
・流速15ml/分
・カラム温度:40℃
・移動相
溶媒A:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:5:90:0.3、容量比(v/v/v))
溶媒B:アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:65:30:0.5、容量比(v/v/v))
グラジエント;0分:A80% B20%、5分:A80% B20%、20分:A10% B90%、25分:A1% B90%、26分:A80% B20%、35分:A80% B20%
・検出:UV270nm
【0039】
分取後、上記LC/MS分析と同条件で分析し、目的とする代謝物の含まれる画分を確認後エバポレーターで濃縮乾固した。乾固物に5mlの純水を加えて溶解し、再度減圧下で濃縮乾固した。この操作を3回繰り返すことで有機溶媒に含まれていた酸を完全に除去した。乾固物に少量の純水を加えて溶解して、凍結乾燥に供した。(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン(EGC-M5)を45.0mg得た。
【0040】
<製造例2:(R)-5-(3-スルフォオキシ-5-ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの製造>
製造例1で得られた(R)-5-(3,5-ジヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン163.1mg(0.78mmol)に、ピリジン10mlと硫酸ナトリウム5mgを加え、室温で10分間攪拌した。次に、三酸化硫黄ピリジンを790.4mg(4.68mmol)加え、室温で1時間攪拌させた。攪拌後、0.2Mリン酸二水素ナトリウムバッファー(pH7.2)を加えて反応停止させ、エバポレーターで減圧濃縮して得られた濃縮残渣を3mlの水で溶解し分取HPLCに供した。分取HPLC条件を以下に記載する。
【0041】
<分取HPLC条件>
・カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、(株)資生堂製)
・流速:19.0ml/分
・カラム温度:40℃
・移動相:
溶媒A:過塩素酸ナトリウム/水(122.4:500、質量/容量比(w/v))
溶媒B:過塩素酸ナトリウム/アセトニトリル(122.4:500、質量/容量比(w/v))
グラジエント;0分:A100% B0%、3分:A100% B0%、15分:A0% B100%、16分:A100% B0%、20分:A100% B0%
・検出:UV280nm
【0042】
分画したフラクションをエバポレーターで減圧濃縮することによりアセトニトリルを除去し、(R)-5-(3-スルフォオキシ-5-ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトンの粗精製物を得た。得られた各粗精製物をSUPELCO DISCOVERY DSC-18カラムにODS(Chromatorex 15-30μm、10cm)を追加充填したカラムにのせ、水160mlで洗浄した後、アセトニトリル175mlにて溶出した。得られたアセトニトリル溶出画分をそれぞれエバポレーターで減圧濃縮して凍結乾燥に供することにより、白色粉末状の(R)-5-(3-スルフォオキシ-5-ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン精製物を12.5mg(0.04mmol、収率5.2%)得た。
【0043】
得られた精製物を1H-NMRで分析したところ以下のケミカルシフト値が得られ、目的の化合物であることを確認した。
(R)-5-(3-スルフォオキシ-5-ヒドロキシフェニル)-γ-バレロラクトン:1H-NMR(400MHz,重水素化メタノール):δ6.24(2H,s),6.19(1H,s),4.79(1H,m),2.91(2H,d,J=6.8Hz),2.55(1H,m),2.46(1H,m),2.33(1H,m),2.00(1H,m)
【0044】
<製造例3:(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンの製造>
8週齢のWistar系ラット(雄性、日本チャールスリバー株式会社から購入)6匹を精製飼料で1週間予備飼育し、試験前日より絶食させて試験に用いた。投与サンプルは(-)-エピガロカテキンを生理食塩水に溶解させた溶液とし、各ラットに20mg/1.7mLずつ胃内強制投与した。投与は4日間反復して行い、それぞれ投与後6時間~24時間の尿を回収した。
【0045】
回収した尿250mLを合一し、エバポレーターで約45mLになるまで減圧濃縮した。次に、得られた濃縮液にメタノール225mLを加えてよく混合した後、高速遠心分離(10000×g、10分間、4℃)によりタンパク質沈殿物を除去した。得られた上清をエバポレーターで約45mLになるまで減圧濃縮し、水を加えて450mLとした後、酢酸を加えてpH3.0に調整した。0.1Mリン酸-クエン酸バッファーでpH3.0に調整したOasisHLBカートリッジ(Waters社製、35cc)に、上記調整した尿溶液を通液した後、水175mL、20%メタノール水溶液175mLの順で洗浄した後、40%メタノール水溶液175mLにて(R)-5-[3-(β-D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンを含む画分を溶出した。得られた40%メタノール溶出画分をエバポレーターで減圧濃縮し、濃縮残渣に水5mLを加えて分取HPLCに供した。分取HPLC条件は以下に記載する。
【0046】
<分取HPLC条件>
・カラム:Mightysil RP18 GP(20i.d.×250mm、5μm、(関東化学(株)製)
・流速15ml/分
・移動相:
溶媒A:メタノール/水/酢酸(5/95/0.2、容量比(v/v/v))
溶媒B:メタノール/水/酢酸(60/40/0.2、容量比(v/v/v))
グラジエント;0分:A80% B20%、5分:A80% B20%、15分:A0% B100%、18分:A0% B100%、18.1分:A80% B20%、25分:A80% B20%
・検出:UV270nm
【0047】
分取後、得られた分取液をLC/MS分析(製造例1と同条件)に供して(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンが含まれることを確認した。
【0048】
さらに、(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンが含まれる画分をリサイクルHPLCに供し、精製を行った。リサイクルHPLC条件は以下に記載する。
【0049】
<リサイクルHPLC条件>
・カラム:Mightysil RP18 GP(20i.d.×250mm、5μm、(関東化学(株)製)
・流速15ml/分
・移動相:アセトニトリル/水/酢酸(15/85/0.2、容量比(v/v/v))
・検出:UV270nm
【0050】
分取後、上記のLC/MS分析により、分画した画分に(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンが含まれていることを確認した。この(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンが含まれる画分をエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に5mlの水を加えて溶解した後、再度減圧下で濃縮乾固した。この操作を3回繰り返すことで、有機溶媒に含まれていた酸を完全に除去した。最後に、乾固物に水2mLを加えて溶解し、凍結乾燥に供することで(R)-5-[3-(β―D-グルコピラヌロノシルオキシ-5-ヒドロキシ)フェニル]-γ-バレロラクトンを28.0mg得た。
【0051】
<実施例1:EGC-M5と抗CTLA-4抗体との併用投与が結腸がん細胞の増殖に与える効果>
(a) 飼育方法および投与方法
6週齢のC57BL/6J雄性マウスを予備飼育後、マウス結腸癌細胞株MC38細胞を5.0×10cells/miceとなるように皮下移植した。各群を8匹として、抗CTLA-4抗体単独投与群については移植4日後から抗CTLA-4抗体(BioX cell社製)を2.5mg/kg b.w.の投与量で7日ごとに腹腔内投与した。併用投与群については、移植4日後から抗CTLA-4抗体を2.5mg/kg b.w.の投与量で7日ごとに腹腔内投与し、EGC-M5を10mg/kg b.w.の投与量で毎日腹腔内投与した。被験物質は10%DMSO含有PBS緩衝液を溶媒として用い、抗CTLA-4抗体を投与しない対照群(Control群)にはアイソタイプコントロール抗体(Isotype control抗体、BioX cell社製)を投与した。腫瘍体積をノギスで測定し、腫瘍成長を評価した。
【0052】
(b) 試験結果
図1に示したように、移植20日目においてControl群と併用投与群の間の腫瘍体積値に有意差が生じた。一方で抗CTLA-4抗体の単独投与群では腫瘍体積に有意な変化は見られなかった。さらに併用投与群では、屠殺時に腫瘍が根絶している寛解個体が二匹確認された。以上の結果から、EGC-M5と抗CTLA-4抗体の併用投与は抗腫瘍効果を増強することが示された。
【0053】
(c) 統計処理方法
得られた腫瘍体積の結果を平均値(Mean)および標準誤差(S.E.)で示し、Tukey’s Multiple Comparison testにより有意差を調べた。有意水準は*p<0.05とした。
【0054】
<実施例2:EGC-M5と抗PD-1抗体の併用投与が結腸がん細胞の増殖に与える効果>
(a) 飼育方法および投与方法
6週齢の雄性C57BL/6Jマウスを予備飼育後、マウス結腸がん細胞株MC38を5×10cells/mouseとなるように皮下移植した。各群を10匹として、抗PD-1抗体単独投与群については、移植4日後、7日後、11日後、14日後の4回にわたり抗PD-1抗体(BioX cell社製)を5mg/kg b.w.の投与量で腹腔内投与した。併用投与群については、移植4日後、7日後、11日後、14日後の4回にわたり抗PD-1抗体5mg/kg b.w.を腹腔内投与し、移植4日後からEGC-M5を毎日10mg/kg b.w.の投与量で腹腔内投与した。被験物質は10%DMSO含有PBS緩衝液を溶媒として用い、抗PD-1抗体を投与しない対照群(Control群)にはアイソタイプコントロール抗体(Isotype control抗体、BioX cell社製)を投与した。
2日置きにノギスで腫瘍体積を測定し、腫瘍成長を評価した。その後、腫瘍体積がエンドポイント(3000mm)に達し次第、と殺を行い、生存率を評価した。
【0055】
(b) 試験結果
図2図3に示したように、EGC-M5と抗PD-1抗体の併用投与群で、抗PD-1抗体単独投与群よりも、腫瘍成長が抑えられ、生存率が上昇した。
腫瘍体積測定の結果、腫瘍移植から24日目において、EGC-M5及び抗PD-1抗体の併用投与により有意に腫瘍成長を抑制することが認められた。また、生存率の評価を行った結果、腫瘍移植から38日目において併用投与群において有意に生存率が上昇していた。この結果から、EGC-M5は抗PD-1抗体の抗腫瘍作用を増強させることが明らかとなった。
【0056】
(c) 統計処理方法
得られた腫瘍体積の結果を平均値(Mean)および標準誤差(S.E.)で示し、Dunnett’s Multiple Comparison testにより対照群との有意差を調べた。また、生存率の結果については、Log-Rank testにより対象群との有意差を調べた。有意水準は**p<0.01とした。
【0057】
<実施例3:EGC-M5と抗PD-1抗体の併用投与が悪性胸膜中皮腫細胞の増殖に与える効果>
(a) 飼育方法および投与方法
6週齢の雄性C57BL/6Jマウスを予備飼育後、マウス悪性胸膜中皮腫細胞株AB1を1.0×10cells/mouseとなるように皮下移植した。各群を9匹として、抗PD-1抗体単独投与群については、移植4日後、7日後、10日後、14日後の4回にわたり抗PD-1抗体を5mg/kg b.w.の投与量で腹腔内投与した。併用投与群については、移植4日後、7日後、10日後、14日後の4回にわたり抗PD-1抗体(BioX cell社製)を5mg/kg b.w.で腹腔内投与し、4日後からEGC-M5を毎日10mg/kg b.w.の投与量で毎日腹腔内投与した。被験物質は10%DMSO含有PBS緩衝液を溶媒として用い、抗PD-1抗体を投与しない対照群(Control群)にはアイソタイプコントロール抗体(Isotype control抗体、BioX cell社製)を投与した。3日置きにノギスで腫瘍体積を測定し、腫瘍成長を評価した。
【0058】
(b) 試験結果
図4に示したように、EGC-M5及び抗PD-1抗体の併用投与により、Control群と比較して有意に腫瘍成長が抑制されることが示された。また、22日後の腫瘍寛解個体がControl群で0匹、抗PD-1抗体単独投与群で4匹、併用投与群で6匹確認された。以上の結果より、EGC-M5は抗PD-1抗体との併用により抗PD-1抗体の抗腫瘍効果を増強することが確認された。
【0059】
(c) 統計処理方法
得られた腫瘍体積の結果を平均値(Mean)および標準誤差(S.E.)で示し、Dunnett’s Multiple Comparison testにより対照群との有意差を調べた。有意水準は、*p<0.05とした。
【0060】
<比較例1:EGC-M5単独投与が結腸がん細胞の増殖に与える効果>
(a) 飼育方法および投与方法
6週齢の雄性C57BL/6マウスを予備飼育後、マウス結腸癌細胞株MC38細胞を5×10cells/miceとなるように皮下移植を行った。各群を8匹として、腫瘍移植4日後からEGC-M5を、5mg、10mg、20mg、30mg/kg b.w.の投与量になるように10%DMSO含有PBS緩衝液に溶解調製し、毎日200μLずつの容量で腹腔内に投与した。腫瘍体積をノギスで測定し、経時的に腫瘍成長を評価した。移植16日後の腫瘍体積(自然対数)の平均値を図5に示す。
【0061】
(b) 試験結果
移植から16日目における対照群(Control群)とEGC-M5投与群の腫瘍体積(自然対数)の平均値(Mean)および標準誤差(S.E.)について、Tukey’s Multiple Comparison testにより有意差を確認した。その結果、両群の腫瘍体積値に有意な差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、カテキン代謝物として報告されている特定の化合物及びそれらの抱合体は、免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強することができ、免疫チェックポイント阻害剤と式(I)の化合物とを含むがん細胞増殖抑制剤として提供する事が出来、また、当該定の化合物及びそれらの抱合体は、免疫チェックポイント阻害剤のがん細胞増殖抑制効果増強剤として提供することができる。本発明は、食品由来成分を有効成分とする、安全で摂取が可能なサプリメント、医薬品を提供するものである。
図1
図2
図3
図4
図5