(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】建材パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/16 20060101AFI20240509BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20240509BHJP
B32B 13/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B28B1/16
E04C2/26 S
E04C2/26 Z
B32B13/00
(21)【出願番号】P 2020086471
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520172281
【氏名又は名称】橋本 大作
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大作
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-004411(JP,A)
【文献】特開平09-290475(JP,A)
【文献】特開昭59-107986(JP,A)
【文献】特開昭52-121625(JP,A)
【文献】特開昭63-255445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/16
B32B 13/00-13/14
E04C 2/26-2/296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタルが敷き延ばされる底板部(2)と、該底板部(2)の周りに立設される側壁部(3)を備える型枠(1)を用いて、下地ボード(a)の片面(a
0)に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層(b)が形成された建材パネルを製造する方法であって、
片面(a
0)にモルタル接着強化用のアンカー部材(c)が固定された下地ボード(a)に対して、その片面(a
0)にモルタル接着用の接着剤(d)を塗布する工程(A)と、
底板部(2)が上向きとなるように置かれた型枠(1)内にモルタル(e)を流し込み、底板部(2)にモルタル(e)を層状に敷き延ばす工程(B)と、
該工程(B)により底板部(2)にモルタル(e)が層状に敷き延ばされた型枠(1)内に、工程(A)を経た下地ボード(a)を嵌め込み、その片面(a
0)をモルタル(e)の上面に密着させる工程(C)と、
該工程(C)により型枠(1)内に嵌め込まれた下地ボード(a)の上に押さえ板(4)を載せ、該押さえ板(4)に荷重付与手段(5)により荷重を付与することで下地ボード(a)をモルタル(e)に圧着させつつ、モルタル(e)を養生する工程(D)と、
該工程(D)による養生が完了した後、下地ボード(a)の片面(a
0)に打放しコンクリート風のモルタル層(b)が形成された建材パネルを型枠(1)から取り出す工程(E)を有することを特徴とする建材パネルの製造方法。
【請求項2】
工程(B)において型枠(1)内にモルタル(e)を流し込む前に、型枠(1)内の少なくとも底板部(2)の上面に、固化したモルタル層(b)の離型を助けるための離型剤(f)を塗布することを特徴とする請求項1に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項3】
工程(D)では、押さえ板(4)を型枠厚さ方向で拘束して下地ボード(a)に対して押圧する拘束部材(6)と、該拘束部材(6)をその状態に保持する保持手段(7)を備えた荷重付与手段(5)により、押さえ板(4)に荷重を付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項4】
拘束部材(6)が、型枠(1)を押さえ板(4)とともに上下から挟んで拘束する拘束部材(6a),(6b)で構成され、
保持手段(7)が、上下の拘束部材(6a),(6b)を締結して締め付ける締結用ボルト・ナット(7x)で構成されることを特徴とする請求項3に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項5】
型枠(1)の長手方向両端部にボルト挿通孔(10)が貫設されるとともに、拘束部材(6a),(6b)の長手方向両端部にボルト挿通孔(60a),(60b)が貫設され、
工程(D)では、拘束部材(6a),(6b)が型枠(1)を押さえ板(4)とともに上下から挟んだ状態で、締結用ボルト・ナット(7x)のボルトをボルト挿通孔(10)とボルト挿通孔(60a),(60b)に挿通させ、締結用ボルト・ナット(7x)で拘束部材(6a),(6b)を締結して締め付けることにより、押さえ板(4)に型枠厚さ方向で荷重を付与することを特徴とする請求項4に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項6】
拘束部材(6a),(6b)は、それぞれ複数本の鉄骨材からなることを特徴とする請求項4又は5に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項7】
工程(D)では、50~100℃の雰囲気中でモルタル(e)を養生することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の建材パネルの製造方法。
【請求項8】
工程(A)において接着剤(d)を塗布する前の下地ボード(a)に対して、その片面(a
0)にモルタル接着強化用のアンカー部材(c)を固定することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の建材パネルの製造方法。
【請求項9】
型枠(1)の底板部(2)の上面形状と下地ボード(a)の形状が、非平面形状であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の建材パネルの製造方法。
【請求項10】
モルタル(e)が、モルタルよりも低比重の粒状物を含むことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の建材パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の内外装に用いられる建材パネル(壁材)の製造方法、詳細には、建物の壁面や天井面などを構成する片面側に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層が形成された建材パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の内装デザインの観点から、建物内部の壁面を打放しコンクリート面にすることが行われているが、既存の建物の内部に打放しコンクリート壁を構築するには、詳細な荷重計算や構造計算が必要であるとともに、建物内でのコンクリート打設を伴う大掛かりな内装工事となるため手間と時間がかかり、費用も嵩む問題がある。
このような問題を解決できる手段として、特許文献1には、内装壁面を構成する片面側に打放しコンクリート風のモルタル層を有する建材パネル(壁材)が提案されている。この建材パネルは、下地板の上面にセメント部材層(モルタル層)を形成し、このセメント部材層の表面をコンクリート粗面に形成したものであり、この建材パネルを既存の建物内の壁面にビス止めなどで取り付けるだけで、コンクリート打放し風の壁面とすることができる。
【0003】
特許文献1には、建材パネルを次のようにして製造することが示されている。この製法(同文献の第5図及び第6図に記載の製法)では、型枠として、建材パネルを構成する下地板xとこの下地板xに対面させる押さえ板yが用いられる。下地板xを垂直方向に起立配置するとともに、この下地板xに対面させて押さえ板yを前低後高状、すなわち、下辺側が下地板xに近接し、上辺側が下地板xから遠ざかるように傾斜配置する。しかる後、下地板xと押さえ板y間にモルタルを流し込んで、押さえ板yを下辺側を支点として下地板x側に向けて回動させる。同文献では、このように押さえ板yを傾斜配置するとともに、モルタルを流し込んだ後に下辺側を支点として下地板x側に向けて回動させることにより、下地板xと押さえ板y間の空気が上方に追い出されことになるため、モルタルの内部に気泡等の混入が防止され良質の製品を製造できる効果があるとしている。そして、下地板xと押さえ板y間に流し込んだモルタルを養生し、モルタルが固形した後、押さえ板yを取外すことにより、表面がコンクリート打ち放し風の建材パネルが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、引用文献1に記載された建材パネルの製法には、以下のような問題がある。
モルタルは高密度材であるため、起立した状態の下地板xと押さえ板y間に流し込まれたモルタルを保持するためには、下地板xと押さえ板yをボルト止めにより所定の間隔を保つように強固に連結する必要があるが、そのためには、下地板xと押さえ板yにボルト用の穴を開ける必要があり、このための作業が煩雑で時間もかかり、製品の外観も悪くなる。また、下地板xと押さえ板y間にモルタルを流し込むには、少なくとも両端側の隙間を塞ぐ必要があり、そのための作業も煩雑で時間もかかる。
【0006】
また、建材パネルは、既設の壁や天井に貼り付け固定されるものであるため、軽量であることが求められる。そのため、モルタル層を含めた全体の厚さを薄くする(好ましくは10mm以下)ことが望ましく、このためには下地板(下地ボード)に対してモルタル層を薄く且つ均一な厚さに形成する必要がある。また、打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層を形成するには、型枠(特許文献1の製法では「押さえ板y」)の表面の凹凸(板の木目など)がモルタル層の表面に適切に転写されることが必要である。そして、本発明者の知見によれば、これらを満足するには、下地板(下地ボード)に荷重をかけてモルタルを下地板に圧着させるとともに、モルタルを型枠面に圧接させる必要があり、特許文献1の製法のように下地板xと押さえ板yとの間にモルタルを流し込むだけでは、下地板に圧着された薄く均一な厚さのモルタル層を形成することができず、また、型枠面の凹凸がモルタル層の表面に適切に転写されない。したがって、特許文献1の製法では、厚さが薄く軽量であり且つ打放しコンクリート風の優れた表面外観を有する建材パネルは製造できない。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、建物の壁面や天井面などを構成する片面側に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層が形成された建材パネルの製造方法であって、厚さが薄く軽量であり且つ打放しコンクリート風の優れた表面外観を有する建材パネルを高い生産性で効率的に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法は、上記課題を解決するために、平置きされた型枠内にモルタルを敷き延ばした後、型枠内に下地ボードを嵌め込んでモルタルに密着させ、しかる後、下地ボードに荷重をかけながらモルタルを養生するようにしたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1]モルタルが敷き延ばされる底板部(2)と、該底板部(2)の周りに立設される側壁部(3)を備える型枠(1)を用いて、下地ボード(a)の片面(a0)に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層(b)が形成された建材パネルを製造する方法であって、
片面(a0)にモルタル接着強化用のアンカー部材(c)が固定された下地ボード(a)に対して、その片面(a0)にモルタル接着用の接着剤(d)を塗布する工程(A)と、
底板部(2)が上向きとなるように置かれた型枠(1)内にモルタル(e)を流し込み、底板部(2)にモルタル(e)を層状に敷き延ばす工程(B)と、
該工程(B)により底板部(2)にモルタル(e)が層状に敷き延ばされた型枠(1)内に、工程(A)を経た下地ボード(a)を嵌め込み、その片面(a0)をモルタル(e)の上面に密着させる工程(C)と、
該工程(C)により型枠(1)内に嵌め込まれた下地ボード(a)の上に押さえ板(4)を載せ、該押さえ板(4)に荷重付与手段(5)により荷重を付与することで下地ボード(a)をモルタル(e)に圧着させつつ、モルタル(e)を養生する工程(D)と、
該工程(D)による養生が完了した後、下地ボード(a)の片面(a0)に打放しコンクリート風のモルタル層(b)が形成された建材パネルを型枠(1)から取り出す工程(E)を有することを特徴とする建材パネルの製造方法。
【0010】
[2]上記[1]の製造方法において、工程(B)において型枠(1)内にモルタル(e)を流し込む前に、型枠(1)内の少なくとも底板部(2)の上面に、固化したモルタル層(b)の離型を助けるための離型剤(f)を塗布することを特徴とする建材パネルの製造方法。
[3]上記[1]又は[2]の製造方法において、工程(D)では、押さえ板(4)を型枠厚さ方向で拘束して下地ボード(a)に対して押圧する拘束部材(6)と、該拘束部材(6)をその状態に保持する保持手段(7)を備えた荷重付与手段(5)により、押さえ板(4)に荷重を付与することを特徴とする建材パネルの製造方法。
[4]上記[3]の製造方法において、拘束部材(6)が、型枠(1)を押さえ板(4)とともに上下から挟んで拘束する拘束部材(6a),(6b)で構成され、
保持手段(7)が、上下の拘束部材(6a),(6b)を締結して締め付ける締結用ボルト・ナット(7x)で構成されることを特徴とする建材パネルの製造方法。
【0011】
[5]上記[4]の製造方法において、型枠(1)の長手方向両端部にボルト挿通孔(10)が貫設されるとともに、拘束部材(6a),(6b)の長手方向両端部にボルト挿通孔(60a),(60b)が貫設され、
工程(D)では、拘束部材(6a),(6b)が型枠(1)を押さえ板(4)とともに上下から挟んだ状態で、締結用ボルト・ナット(7x)のボルトをボルト挿通孔(10)とボルト挿通孔(60a),(60b)に挿通させ、締結用ボルト・ナット(7x)で拘束部材(6a),(6b)を締結して締め付けることにより、押さえ板(4)に型枠厚さ方向で荷重を付与することを特徴とする建材パネルの製造方法。
[6]上記[4]又は[5]の製造方法において、拘束部材(6a),(6b)は、それぞれ複数本の鉄骨材からなることを特徴とする建材パネルの製造方法。
【0012】
[7]上記[1]~[6]のいずれかの製造方法において、工程(D)では、50~100℃の雰囲気中でモルタル(e)を養生することを特徴とする建材パネルの製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれかの製造方法において、工程(A)において接着剤(d)を塗布する前の下地ボード(a)に対して、その片面(a0)にモルタル接着強化用のアンカー部材(c)を固定することを特徴とする建材パネルの製造方法。
[9]上記[1]~[8]のいずれかの製造方法において、型枠(1)の底板部(2)の上面形状と下地ボード(a)の形状が、非平面形状であることを特徴とする建材パネルの製造方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれかの製造方法において、モルタル(e)が、モルタルよりも低比重の粒状物を含むことを特徴とする建材パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、厚さが薄く軽量であり且つ打放しコンクリート風の優れた表面外観を有する建材パネルを高い生産性で効率的に製造することができる。本発明により、建材パネルの厚さを薄くし、軽量化できるため、市販の建材ボード(例えば、ケイカル板、プラスターボードなど)と同様に扱うことができ、壁や天井などの様々な箇所に簡単に貼り付け施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明法で製造される建材パネルの一例を模式的に示す部分切欠斜視図
【
図3】本発明法において建材パネルの製造に用いる型枠の一例を示す斜視図
【
図4】本発明法の一実施形態における工程(A)を示す説明図
【
図5】本発明法の一実施形態における工程(B)を示す説明図
【
図6】本発明法の一実施形態における工程(C)を示す説明図
【
図7】本発明法の一実施形態における工程(D)を示す説明図
【
図8】
図7の工程(D)において、荷重付与手段により押さえ板に荷重を付与した状態を部分的に示す平面図
【
図10】本発明法の一実施形態における工程(E)を示す説明図
【
図11】本発明法において、断面円弧状の建材パネルを製造する場合の一実施形態において、工程(D)における型枠等の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び
図2は、本発明法で製造される建材パネルの一例を模式的に示したものであり、
図1は部分切欠斜視図、
図2は板厚方向の断面図である。
この建材パネルは、下地ボードaの片面a
0に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層bが形成されたものであり、下地ボードaの片面a
0にはモルタル接着強化用のアンカー材cが固定され、このアンカー部材cを介してモルタル層bが形成されている。
図1の建材パネルは平面矩形状であるが、これに限らず任意の形状としてよい。建材パネルの厚さは特に制限はないが、後述するように軽量化の観点からは10mm以下が好ましい。
図3は、本発明法において建材パネルの製造に用いる型枠の一例を示すものであり、この型枠1は、平面矩形状であり、流し込まれたモルタルeが敷き延ばされる底板部2と、この底板部2の周り(外周縁部分)に立設される側壁部3を備えている。この型枠1内には下地ボードaが嵌め込まれるため、底板部2は下地ボードaとほぼ同じ形状とサイズを有する。なお、型枠1(底板部2)は、製造すべき建材パネルの平面形状に応じて任意の平面形状としてよい。
【0016】
型枠1の底板部2は、少なくともモルタルeと接する表面部分が天然板材で構成され、その天然板材の表面の凹凸(木目など)がモルタル層bの表面に転写され、モルタル層bの表面外観が打放しコンクリート風となる。したがって、底板部2全体を天然板材で構成してもよい。また、モルタル層bの表面を平滑にするため、天然板材の表面は塗装しておくことが好ましい。
本実施形態では、後述するように型枠1内にモルタルeを流し込んで敷き延ばし、その上に下地ボードaをセットし、さらにその上に押さえ板4をセットした状態で、荷重付与手段5によって押さえ板4に上から荷重をかけ、モルタルeを養生するものであるため、下地ボードaの上にセットされた押さえ板4の上面が側壁部3の上端よりも上に位置する必要がある。このため、[型枠内側の側壁部3の高さh]-[製造される内装用パネルの厚さ(モルタルeの厚さ+下地ボードaの厚さ)]<[押さえ板4の厚さ]とすることが好ましい。
【0017】
以下、
図3の型枠1を用いた本発明の製造方法の一実施形態について説明する。
図4~
図10は、本発明の製造方法の一実施形態を工程順に示している。
まず、
図4に示すように、片面a
0にモルタル接着強化用のアンカー部材cが固定された下地ボードaを用意し、この下地ボードaの片面a
0にモルタル接着用の接着剤dを塗布する(工程(A))。
使用する下地ボードaの種類は、モルタルが接着し、壁などに固定できる不燃ボードであれば特に制限はなく、例えば、ケイカル板、プラスターボード、MDFボード(段ボールを原料とするボード)などが使用できる。下地ボードaの厚さは、通常、5~10mm程度であり、特に、軽量化のためにパネル全体の厚さを薄くする(例えば10mm以下の厚さとする)という観点からは、3~6mm程度が好ましい。
本発明の建材パネルは、建物の内装用としてだけでなく、建物の外壁面に張り付け固定するなど、外装用として用いることもでき、この場合には、下地ボードaとして、例えば、さきに挙げた各種ボードにプライマーなどを塗布し若しくは含侵させて耐水性や耐候性を高めたものを使用するのが好ましい。
【0018】
アンカー部材cの種類は、下地ボードaに対してモルタルeを接着保持させる物理的なアンカー機能を発揮できるものであれば特に制限はなく、例えば、メタルラス、金網、エキスパンドメタル、ワイヤラスなどのような網状金属部材の1種以上を用いることができる。このアンカー部材cは、タッカーなどで下地ボードaの片面a0の全面に取り付け固定される。そして、このアンカー部材cが取り付け固定された下地ボードaの片面a0の全面に、モルタル接着用の接着剤d(プライマー)を塗布する。この接着剤dの塗布方法は、塗布ローラによる塗布、吹き付けなど任意である。接着剤dとしては、市販のモルタル用接着剤などを用いることができる。
【0019】
上記工程(A)と前後して、
図5に示すように、底板部2が上向きとなるように平置きされた型枠1内にモルタルeを流し込み、その底板部2にモルタルeを層状に敷き延ばす(工程(B))。
モルタルeの層厚は特に制限はないが、通常、3~10mm程度であり、特に、軽量化のためにパネル全体の厚さを薄くする(例えば10mm以下の厚さとする)という観点からは、3~6mm程度が好ましい。モルタルeを層状に敷き延ばす方法に特に制限はないが、通常はモルタル用のコテなどを用いる。モルタルeは、できるだけ均一で平滑な層になるように敷き延ばすことが好ましい。
【0020】
モルタルeに使用するセメントの種類は特に制限はないが、ポリマーセメントが特に好ましく、例えば、ポリマーセメントと細骨材(砂など)に必要に応じて混和剤(モルタル接着増強剤など)を混合したモルタルを使用できる。また、モルタルeには、硬化促進剤を添加することが好ましい。さらに、建材パネルを軽量化するため、モルタルeに低比重の粒状物(元のモルタルよりも低比重の粒状物)を適量含有させてもよい。添加する粒状物の種類は特に制限はないが、例えば、粒径が5mm以下(好ましくは3~5mm程度)のパーライトなどが挙げられる。粒状物の含有量(添加量)は、モルタル層bの性状や強度に問題を生じさせない程度であればよい。
工程(B)では、型枠1内にモルタルeを流し込む前に、型枠1内の少なくとも底板部2に、固化したモルタル層bの離型を助けるための離型剤fを塗布することが好ましい。離型剤fとしては、離型オイルなどを用いることができる。
【0021】
次いで、
図6に示すように、上記工程(B)により底板部2にモルタルeが層状に敷き延ばされた型枠1内に上記工程(A)を経た下地ボードaを嵌め込み、その片面a
0(アンカー部材cが固定された面)をモルタルeの上面に密着させる(工程(C))。
次いで、
図7に示すように、上記工程(C)により型枠1内に嵌め込まれた下地ボードaの上に押さえ板4を載せ、この押さえ板4に荷重付与手段5により荷重を付与することでモルタルeと下地ボードaを圧着させつつ、モルタルeを養生する(工程(D))。
押さえ板4は、下地ボードaに均等に荷重を加えるために用いられるものであり、例えば、ベニヤ板や建材ボードなどの板材で構成される。本実施形態の押さえ板4は、下地ボードaとほぼ同じサイズであり、下地ボードaの上から型枠1内に嵌め込まれる。上述したように、この状態で押さえ板4の上面レベルは型枠1の側壁部3の上端よりも上に位置している。
【0022】
荷重付与手段5は、押さえ板4にできるだけ均一に荷重を付与できるものであれば、その形式や構造を問わないが、簡便な荷重付与手段5として、例えば、押さえ板4を型枠厚さ方向で拘束して下地ボードaに対して押圧する拘束部材6と、この拘束部材6をその状態に保持する保持手段7を備えるものを使用できる。このような荷重付与手段5としては、例えば、拘束部材6が、型枠1を押さえ板4とともに上下から挟んで拘束する拘束部材6a,6bで構成され、保持手段7が、上下の拘束部材6a,6bを締結して締め付ける締結用ボルト・ナット7xで構成されるものが挙げられる。
【0023】
本実施形態でも、そのような荷重付与手段5を用いており、拘束部材6a,6bは、それぞれ複数本の鉄骨材から構成されている。
図8は、本実施形態において、そのような荷重付与手段5により押さえ板4に荷重を付与した状態を部分的に示す平面図であり、
図9は
図8のD-D断面図である。
型枠1の長手方向両端部には、型枠幅方向において所定の間隔で複数のボルト挿通孔10が貫設されるとともに、拘束部材6a,6bである各鉄骨材の長手方向両端部にも、ボルト挿通孔60a,60bが貫設されている。
この荷重付与手段5では、拘束部材6a,6bである各複数の鉄骨材を、押さえ板4の上と型枠1の下側にそれぞれ配置して、拘束部材6a,6bが型枠1を押さえ板4とともに上下から挟んだ状態とする。この状態で、締結用ボルト・ナット7xのボルトをボルト挿通孔10とボルト挿通孔60a,60bに挿通させ、締結用ボルト・ナット7xで拘束部材6a,6bを締結して締め付ける。すなわち、拘束部材6a,6bで型枠1を押さえ板4とともに上下から挟んで締め付けることにより、押さえ板4に型枠厚さ方向で荷重を付与する。
【0024】
拘束部材6a,6bである各鉄骨材の本数は特に制限はなく、押さえ板4に幅方向で均一に荷重を付与できる本数であればよいが、一般的なサイズのパネルを製造する場合には各3本以上とすることが好ましい。
モルタルeの養生は常温でもよいが、モルタルeは型枠1内に密封されたような状態にあるため固化しにくく、常温では固化に時間がかかる。このため、生産性の観点からモルタルeの固化と下地ボードaとの接着を促進するため、50℃~100℃程度、好ましくは70℃~90℃程度の雰囲気中で所定時間、好ましくは6時間以上養生することが好ましい。例えば、乾燥室に型枠を置き、室内に70~90℃程度の温風を導入して8~15時間程度養生を行う。
上記工程(D)による養生が完了した後、
図10に示すように、下地ボードaの片面a
0に打放しコンクリート風の表面外観を有するモルタル層bが形成された建材パネルを型枠1から取り外す(工程(E))。
【0025】
本発明の製造方法は、非平面形状の建材パネルの製造も可能であり、この場合には、底板部2の上面が非平面形状の型枠1と、非平面形状の下地ボードa(さらには押さえ板4)が用いられる。
図11は、断面円弧状の建材パネルを製造する場合の一実施形態を示すものであり、工程(D)における型枠1、モルタルe、下地ボードa等の縦断面を示している。この実施形態では、型枠1の底板部2、下地ボードa、押さえ板4は、いずれも断面円弧状であり、モルタルeは底板部2の円弧状上面に沿って敷き延ばされ、その上に下地ボードa、押さえ板4が順に置かれ、
図8及び
図9に示すような荷重付与手段5により荷重が付与される。その他の構成は、
図4~
図10の実施形態と同様である。
なお、断面円弧状の下地ボードaを作製するには、例えば、下地ボードaとして水に濡らすと変形するもの(例えば、MDFボード)を用い、水に濡らした下地ボードaを事前に型枠1の底板部2の上面(円弧面)に押し当てて変形させ、その変形した状態で乾燥させればよい。
【0026】
以上述べた本発明の建材パネルの製造方法では、平置きされた型枠1内にモルタルeを流し込んで層状に敷き延ばした後、片面a0にアンカー部材cが固定され且つ接着剤dが塗布された下地ボードaを型枠1内に嵌め込んでモルタルeに密着させ、しかる後、押さえ板4と荷重付与手段5で下地ボードaに荷重をかけながらモルタルを養生させるようにしたので、下地ボードaに圧着された薄く且つ均一な厚さのモルタル層bを形成することができ、このため、厚さの薄い軽量の建材パネルを製造することができ、例えば、厚さが10mm以下の建材パネルを製造することも可能である。また、下地ボードaに荷重をかけながらモルタルeを養生するので、型枠1の底板部2の凹凸(板の木目など)がモルタル層bの表面に適切に転写され、打放しコンクリート風の優れた表面外観を有する建材パネルを製造することができる。したがって、特許文献1の製法で製造される建材パネルよりも、薄く軽量で且つ打放しコンクリート風の外観性に優れた建材パネルを製造することができる。
【0027】
さらに、本発明の製造方法は、平置き型の型枠1と押さえ板4と荷重付与手段5という簡易な設備で実施でき、しかも、特許文献1の製法などに較べて作業効率が格段に高いため、建材パネルを高い生産性で効率的に製造することができ、このため製造コストも低く抑えることができる。
本発明の製造方法で製造される建材パネルは、例えば、建物内外の壁、天井、柱、梁などに張り付け固定されるパネルとして使用される。この建材パネルの張り付け固定は、例えば、接着剤+釘止め又はビス止めでなされる。
1枚の建材パネルのサイズは任意であるが、例えば、600~630mm×1500mm程度のサイズとすることができる。この建材パネルは、丸ノコなどにより容易に切断することができる。
本発明法により製造される建材パネルは、上記のように薄く軽量であるため、市販の建材ボード(例えば、ケイカル板、プラスターボードなど)と同様に扱うことができ、取扱いが容易で施工性にも優れる。
【符号の説明】
【0028】
1 型枠
2 底板部
3 側壁部
4 押さえ板
5 荷重付与手段
6,6a,6b 拘束部材
7 保持手段
7x 締結用ボルト・ナット
10 ボルト挿通孔
60a,60b ボルト挿通孔
a 下地ボード
a0 片面
b モルタル層
c アンカー部材
d 接着剤
e モルタル
f 離型剤