(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】グラウンド・ゴルフ用クラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/10 20150101AFI20240509BHJP
A63B 59/60 20150101ALI20240509BHJP
A63B 102/38 20150101ALN20240509BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20240509BHJP
【FI】
A63B53/10 Z
A63B59/60
A63B102:38
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020101410
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523150059
【氏名又は名称】合同会社アスプライヤー
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】米村 安弘
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-190044(JP,A)
【文献】特開2016-059542(JP,A)
【文献】特開2015-226581(JP,A)
【文献】特開2006-150058(JP,A)
【文献】国際公開第94/02216(WO,A1)
【文献】米国特許第4136722(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
A63B 49/00-51/16
A63B 55/00-60/64
A63B 67/00-67/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製のヘッドと、該ヘッドが取り付けられる木製のシャフトからなるグラウンド・ゴルフ用クラブであって、
前記シャフトは、
該シャフトのグリップ側において、無垢材で形成された無垢部と、
前記ヘッド側において、複数の薄板を積層した積層材で形成された積層部と、
からなることを特徴とするグラウンド・ゴルフ用クラブ。
【請求項2】
前記積層部には、前記積層材を曲げた曲げ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のグラウンド・ゴルフ用クラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンド・ゴルフで使用するグラウンド・ゴルフ用クラブに関し、より詳しくは、品質の安定したグラウンド・ゴルフ用クラブ、また、製造コストを抑えたグラウンド・ゴルフ用クラブに関する。
【背景技術】
【0002】
グラウンド・ゴルフの用具については、公益社団法人日本グラウンド・ゴルフ協会の用具標準規則において、仕様が定められている。その中で、クラブはシャフト及びヘッドからなる滑らかな木製と決められている。
【0003】
そして、シャフトは、グリップ部以外の横断面は真円であり、その太さは30mm以内と決められている。また、ヘッドについては、横幅は最も長いところで140mm以上160mm以下、縦幅は最も広いところで70mm以上80mm以下、厚みは40mm以上45mm以下と決められている。
【0004】
このようなグラウンド・ゴルフ用クラブについては、特許文献1のようなものが知られている。この特許文献1のグラウンド・ゴルフ用クラブのシャフトは、第1シャフト部と、ヘッドの上面から突出した第2シャフト部と、ヘッドに埋設された第3シャフト部とが一体に形成され、第1及び第2シャフト部の間に第1曲げ部を有し、第3シャフト部の近傍に第1曲げ部とは逆方向の第2曲げ部を有している。そして、第1シャフトと第3シャフトは、概ね平行であり、第1シャフトの軸の延長線上にヘッドの重心が位置している。
【0005】
このような形状により、特許文献1のグラウンド・ゴルフ用クラブは、シャフトがヘッドの上方の第1曲げ部で折り曲げられてヘッドのヒール寄りに取り付けられている。そのため、このクラブは、アドレス時、視線にシャフトがかからず、ボールが見え易くなっている。
【0006】
また、第1曲げ部、第2曲げ部を有するシャフトを実現するために、特許文献1のグラウンド・ゴルフ用クラブは、段落0039等に記載されているように、薄板を重ね合わせた複合体を形成し、この複合体に熱をかけながら曲げて製造されている。従って、シャフト全体が薄板を接着した積層材で構成されている。
また、特許文献2のように、シャフトがストレートな円柱で形成されているグラウンド・ゴルフ用クラブも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グラウンド・ゴルフ用クラブは、用具標準規則において仕様が定められているが、その販売価格についても、現在は税別18,000円までと決められている。
【0010】
特許文献1のグラウンド・ゴルフ用クラブは、上記のように積層材からなるシャフトで構成されている。従って、一般的な無垢材からなるシャフトに比べ、シャフトの製造工程(薄板を蒸したり、型に入れたり、接着剤を塗布したりする等の工程)が増加してしまい、製造コストが高くなってしまうという問題がある。特に、販売価格の上限が決められているグラウンド・ゴルフ用クラブの場合、製造コストを少しでも低減することができれば、販売、製造を行う者にとってはより多くの利益を得ることができるため、非常に重要である。
また、特許文献2のように曲げ部を有しないグラウンド・ゴルフ用クラブであれば、無垢材のみで製造することができるため、コスト面では有利である。
【0011】
しかしながら、無垢材は、強度にばらつきが多いため、品質が安定しないという問題がある。本発明者の検証によると、一般的には無垢材の方が積層材よりも強度は高いが、中には著しく強度の低い無垢材もある。無垢材の強度を事前に知ることは難しいため、強度の低い無垢材が使用されてしまうと、シャフトがヘッドに嵌め込まれた部分において、ボールの打撃時の衝撃により折れ曲がるおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は、シャフトがヘッドに嵌め込まれた部分においては、想定外のシャフト折れを防止することができる品質の安定したグラウンド・ゴルフ用クラブを提供することを目的とする。また、本発明は、特許文献1のように曲げ部を備えたグラウンド・ゴルフ用クラブにおいて、製造コストを抑えたグラウンド・ゴルフ用クラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様に係るグラウンド・ゴルフ用クラブは、木製のヘッドと、該ヘッドが取り付けられる木製のシャフトからなるグラウンド・ゴルフ用クラブであって、前記シャフトは、該シャフトのグリップ側において、無垢材で形成された無垢部と、前記ヘッド側において、複数の薄板を積層した積層材で形成された積層部と、からなることを特徴とする。
【0014】
積層材は、複数の薄板を積層して形成されているため、無垢材に比べると強度のばらつきが少ない。従って、本発明の構成により、シャフトがヘッドに嵌め込まれた部分における打撃時の衝撃による予期せぬ折れ曲がりを抑えることができる。このため、品質の安定したグラウンド・ゴルフ用クラブを提供することができる。
【0015】
また、本発明のグラウンド・ゴルフ用クラブは、前記積層部には、前記積層材を曲げた曲げ部が形成されていることを特徴とする。
曲げ部を備えたシャフト全体が積層材で形成されている場合に比べ、シャフトのコストを下げることができるため、製造コストを抑えたグラウンド・ゴルフ用クラブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Aは実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブの接合前の撮像であり、BはAの平面図であり、CはBを接合した平面図であり、DはCの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0018】
[実施形態]
図1を用いて、本実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブ100の主要な構成を説明する。
図1Aは試作品をフェース側から見た接合前(分解)の撮像であり、
図1Bが
図1Aの平面図であり、CはBを接合した部分断面の平面図であり、DはCの正面図である。
グラウンド・ゴルフ用クラブ100は、木製のシャフト1と、木製のヘッド2からなる。
【0019】
シャフト1は、
図1Cに示すように、第1曲げ部と、第2曲げ部と、第1曲げ部からグリップ131側に位置する第1シャフト部13と、第1曲げ部と第2曲げ部の間の第2シャフト部14と、第2曲げ部からヘッド2側に位置する第3シャフト部に区分される。
【0020】
また、このシャフト1は、
図1Bに示すように、いわゆる無垢材で形成されたグリップ131側の無垢部1Aと、薄板を積層した積層材で形成されたヘッド2側の積層部1Bからなる。
【0021】
この無垢部1Aは、第1シャフト部13の一部132で形成されている。また、積層部1Bは、第1シャフト部13の一部133と、第1曲げ部と、第2シャフト部14と、第2曲げ部12と、第3シャフト部15とで形成されている。
そして、無垢部1Aと積層部1Bは、ダボ134を用いて
図1Cのようにダボ継ぎされ、接着剤で固着されることによりシャフト1となっている。
【0022】
積層部1Bに形成された曲げ部である第1曲げ部11と第2曲げ部12とは、概ね同じ角度で互いに逆方向に曲がっている。そして、第1シャフト部13の中心軸13Cと第3シャフト部15の中心軸15Cは概ね平行となっている。
【0023】
木製のヘッド2は、ボールが当たるフェース21を樹脂で補強している。なお、ヘッド2の形状については、特に限定はなく、グラウンド・ゴルフ用クラブのヘッドとして一般的に用いられているものを用いることができる。
【0024】
そして、シャフト1において、第3シャフト部15の第3接合部151がヘッド2のヒール22寄りの接合穴23に嵌入され、接着剤により固着される。この固着作業では、
図1Cの平面図においては、第1シャフト部13の中心軸13Cの延長線がヘッド2の重心Gを通るように、また
図1Dの正面図においては、第1シャフト部13の中心軸13Cの延長線と第3シャフト部15の中心軸15Cの延長線がヘッド2の重心Gを通るように固着されている。
【0025】
ここで、無垢材は個々により強度が違うのに対し、積層材は無垢材と比較して強度のばらつきが少ない。また、積層材は曲げ型から外したときに製品の曲率のばらつきが少なく、スプリングバック(曲げ戻り)がほとんど生じない。このため、曲げ部に用いる材質として積層材は、適している。
【0026】
一方、曲げ部を形成するために、薄板を蒸したり、型に入れたり、接着剤を塗布したりする等の工程が増加するため、無垢材に比べ積層材は製造コストがかかってしまう。
【0027】
本実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブ100は、シャフト1が、無垢材で形成された無垢部1Aと、積層材で形成された積層部1Bで形成されており、この積層部1Bに曲げ部が形成されている。このため、製造コストの安い無垢材を一部に使用していることから、従来のように曲げ部を備えたシャフト全体を積層材で形成する場合に比べ、シャフト1のコストを下げることができる。
【0028】
具体的には、積層材からなるシャフトは、複数の薄板を接着して一枚の積層板を形成した後に切断し、個々のシャフトを形成していくことになる。しかし、本発明によればシャフト全体に対応した切断を積層板から行う必要はなく、積層部1Bに対応した切断だけを行えばよいので、積層板から効率よく積層部1Bを切断できるので、製造コストを下げることができる。とくに積層材をシャフト形状に切削、研磨する工程は、無垢材をシャフト形状に切削、研磨する工程に比べ非常に時間を有する。本発明によれば、積層材の切削、研磨は、積層部1Bだけとなるため、製造時間の大幅な削減により製造コストを下げることができる。
【0029】
また、積層材は無垢材に比べ非常に高価であるため、積層材の使用料を減らすことで材料のコストを下げることができる。その他、曲げ加工を行う場合にもシャフト全体での加工が不要となるので、加工装置を小型化することができる。
【0030】
なお、本実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブ100は、積層部1Bに曲げ部が形成されていた。しかしながら、本発明は、曲げ部のないストレートタイプのシャフトからなるグラウンド・ゴルフ用クラブにおいても、シャフトのヘッド側において積層部を用い、シャフトのグリップ側において無垢部を用いてシャフトを形成してもよい。
【0031】
ストレートタイプのシャフトは、通常無垢材のみで形成されているが、無垢材は、強度にばらつきが多いため、品質が安定しないということがある。一方、本発明のように、シャフトのヘッド側において積層部を用い、シャフトのグリップ側において無垢部を用いてシャフトを形成することで、シャフトがヘッドに嵌め込まれた接合部における打撃時の衝撃による予期せぬ折れ曲がりを抑えることができる。従って、本発明により、品質の安定したグラウンド・ゴルフ用クラブを提供することができる。
【0032】
また、本実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブ100は、積層部1Bの曲げ部が第1曲げ部11、第2曲げ部12と、2箇所の曲げ部から形成されていた。しかしながら、本発明は、曲げ部が1箇所のみのシャフトにも適用することも可能である。
【0033】
また、本実施形態のグラウンド・ゴルフ用クラブ100は、無垢部1Aと積層部1Bとの接合として、ダボ134を用いたダボ継ぎによる接合であった。しかしながら、無垢部1Aと積層部1Bとの接合は、例えば、ボルトとナットのような螺着構造であったり等、他の方法でも構わない。また、例えば、ダボ134の周囲を緩衝材のような物で覆って接合してもよい。
【0034】
また、接合箇所において金属で補強を行っても構わない。なお、用具標準規則細目において、シャフトの補強の範囲は、シャフトのヘッド内先端から、ヘッド上端よりグリップ方向12cmまでと決められている。従って、接合箇所の金属補強を考慮すると、接合箇所はヘッド上端よりグリップ方向12cmまでの位置がよい。
【0035】
また、積層部1Bの曲げ部の形成方法としては、特許文献1のような、まず、薄板に接着剤を塗布し重ね合わせて積層物を作り、次に金型内で積層物に熱を加えながら曲げ、曲げた状態を保持しながら接着剤の硬化を待ち、積層物を積層部1Bのシャフト形状に切削、研磨する方法を採用することができる。
【0036】
しかしながら、他の方法を採用することもできる。具体的には、まず、薄板に熱可塑性接着シートを用いて重ね合わせた積層物を作り、次に積層物からシャフトの形状である円柱状に切削、研磨を行って円柱物を作り、出来上がった円柱物に熱を加え、熱可塑性接着シートをいったん軟化させた後に円柱物を曲げた状態にし、その後熱可塑性接着シートを硬化させて積層部1Bの曲げ部を形成してもよい。このような方法は、量産に適しているためシャフトのコストを抑えることができる。
【符号の説明】
【0037】
100:グラウンド・ゴルフ用クラブ
1:シャフト
1A:無垢部
1B:積層部
11:第1曲げ部
12:第2曲げ部
13:第1シャフト部
14:第2シャフト部
15:第3シャフト部