(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ひび割れ検出方法、ひび割れ検出装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240509BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G06T7/00 610C
G01N21/88 J
(21)【出願番号】P 2020162003
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591099186
【氏名又は名称】株式会社PAL構造
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】小林 徹
【審査官】小太刀 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-241471(JP,A)
【文献】特開2001-124522(JP,A)
【文献】特開2020-088647(JP,A)
【文献】特開2017-053819(JP,A)
【文献】特開2018-198053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G01N 21/88
33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出画像データに撮影されたひび割れ部を認識するひび割れ検出方法であって、
情報処理装置が備える学習手段が、前記検出画像データの解像度よりも狭い幅のひび割れが撮影された教師画像データを含む教師データを用いて学習処理を行う学習ステップと、
ひび割れ検出装置が備える認識処理部が、前記学習処理を利用して、前記ひび割れ部を撮影して得られた前記検出画像データから前記検出画像データの解像度よりも幅が小さいひび割れ部を認識する認識ステップを含
み、
前記教師データは、前記教師画像データと、前記教師画像データにおけるひび割れ位置及びひび割れ幅を特定するアノテーション画像データを含み、
前記ひび割れ幅は、前記検出画像データの解像度よりも狭い第1幅と、前記第1幅よりも狭い第2幅を含み、
前記学習ステップにおいて、前記学習手段は、モデルに対して、前記教師画像データを入力して前記アノテーション画像データを出力するように学習処理を行い、
前記認識ステップにおいて、前記認識処理部は、前記モデルを用いて、前記検出画像データから、前記第1幅と前記第2幅のひび割れ部を区別して、前記ひび割れ部の位置及び幅を検出する、ひび割れ検出方法。
【請求項2】
前記教師画像データは、教師画像処理エンジンが教師撮像素子から出力されたデータを処理して得られたものであり、
前記検出画像データは、検出画像処理エンジンが検出撮像素子から出力されたデータを処理して得られたものであり、
前記認識ステップにおいて、前記ひび割れ検出装置が備える認識調整部が、前記教師撮像素子と前記検出撮像素子との違い及び/又は前記教師画像処理エンジンによる処理と前記検出画像処理エンジンによる処理との違いによって前記第1幅及び/又は前記第2幅のひび割れ部の画像データにおける現れ方の違いを調整して、前記認識処理部は、前記モデルを用いて、前記検出画像データから、前記第1幅と前記第2幅のひび割れ部を区別して、前記ひび割れ部の位置及び幅を検出する、請求項
1記載のひび割れ検出方法。
【請求項3】
検出画像データに撮影されたひび割れ部を認識するひび割れ検出装置であって、
前記検出画像データの解像度よりも狭い幅のひび割れが撮影された教
師画像データを含む教師データを用いた学習処理を利用して、前記ひび割れ部を撮影して得られた前記検出画像データから前記検出画像データの解像度よりも幅が小さいひび割れ部を認識する認識ステップを含む認識処理部を備え
、
前記教師データは、前記教師画像データと、前記教師画像データにおけるひび割れ位置及びひび割れ幅を特定するアノテーション画像データを含み、
前記ひび割れ幅は、前記検出画像データの解像度よりも狭い第1幅と、前記第1幅よりも狭い第2幅を含み、
情報処理装置が備える学習手段は、モデルに対して、前記教師画像データを入力して前記アノテーション画像データを出力するように学習処理を行い、
前記認識処理部は、前記モデルを用いて、前記検出画像データから、前記第1幅と前記第2幅のひび割れ部を区別して、前記ひび割れ部の位置及び幅を検出する、ひび割れ検出装置。
【請求項4】
コンピュータにおいて、請求項1
又は2に記載のひび割れ検出方法における前記認識ステップを実現するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ひび割れ検出方法、ひび割れ検出装置及びプログラムに関し、特に、検出画像データに撮影されたひび割れ部を認識するひび割れ検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ウェーブレット係数が閾値よりも大きい画素を使ってコンクリート表面に生じているひび割れを検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のように、単に画素を単位としてひび割れがあるか否かを二値的に判定することでは、十分な精度が期待できない。
【0005】
そこで、本願発明は、ひび割れを検出するために撮影された画像データの解像度に着目して、精度を向上させることに適したひび割れ検出方法等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第1の観点は、検出画像データに撮影されたひび割れ部を認識するひび割れ検出方法であって、情報処理装置が備える学習手段が、前記検出画像データの解像度よりも狭い幅のひび割れが撮影された教画像像データを含む教師データを用いて学習処理を行う学習ステップと、ひび割れ検出装置が備える認識処理部が、前記学習処理を利用して、前記ひび割れ部を撮影して得られた前記検出画像データから前記検出画像データの解像度よりも幅が小さいひび割れ部を認識する認識ステップを含む。
【0007】
本願発明の第2の観点は、第1の観点のひび割れ検出方法であって、前記教師データは、前記教師画像データと、前記教師画像データにおけるひび割れ位置及びひび割れ幅を特定するアノテーション画像データを含み、前記ひび割れ幅は、前記検出画像データの解像度よりも狭い第1幅と、前記第1幅よりも狭い第2幅を含み、前記学習ステップにおいて、前記学習手段は、モデルに対して、前記教師画像データを入力して前記アノテーション画像データを出力するように学習処理を行い、前記認識ステップにおいて、前記認識処理部は、前記モデルを用いて、前記検出画像データから、前記第1幅と前記第2幅のひび割れ部を区別して、前記ひび割れ部の位置及び幅を検出する。
【0008】
本願発明の第3の観点は、第2の観点のひび割れ検出方法であって、前記教師画像データは、教師画像処理エンジンが教師撮像素子から出力されたデータを処理して得られたものであり、前記検出画像データは、検出画像処理エンジンが検出撮像素子から出力されたデータを処理して得られたものであり、前記認識ステップにおいて、前記ひび割れ検出装置が備える認識調整部が、前記教師撮像素子と前記検出撮像素子との違い及び/又は前記教師画像処理エンジンによる処理と前記検出画像処理エンジンによる処理との違いによって前記第1幅及び/又は前記第2幅のひび割れ部の画像データにおける現れ方の違いを調整して、前記認識処理部は、前記モデルを用いて、前記検出画像データから、前記第1幅と前記第2幅のひび割れ部を区別して、前記ひび割れ部の位置及び幅を検出する。
【0009】
本願発明の第4の観点は、検出画像データに撮影されたひび割れ部を認識するひび割れ検出装置であって、前記検出画像データの解像度よりも狭い幅のひび割れが撮影された教画像像データを含む教師データを用いた学習処理を利用して、前記ひび割れ部を撮影して得られた前記検出画像データから前記検出画像データの解像度よりも幅が小さいひび割れ部を認識する認識ステップを含む認識処理部を備える。
【0010】
本願発明の第5の観点は、コンピュータにおいて、第1から第3のいずれかの観点のひび割れ検出方法における前記認識ステップを実現するためのプログラムである。
【0011】
なお、本願発明を、本願発明の第5の観点のプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。また、本願発明を、学習手段が、前記検出画像データの解像度よりも幅が大きいひび割れ部の検出処理において、前記検出画像データの解像度よりも幅が小さいひび割れ部を検出する処理を利用して検出精度を向上させるものとして捉えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、学習処理を利用して画像データの解像度よりも幅の狭いひび割れを検出することにより、解像度を超えた精度の高いひび割れ検出処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本願発明の実施の形態に係るひび割れ検出システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1のひび割れ検出システム1の動作の一例を示すフロー図である。
【
図3】発明者らが実際に使用した(a)教師画像データ及び(b)アノテーションデータ並びに(c)検出画像データ及び(d)検出結果データの一例を示す。
【
図4】ひび割れの判定に使用した検出画像データの一例を示す。
【
図6】教師画像データについて、検出精度を向上させる工夫の一例を示す。
【
図7】学習処理部25における学習処理において使用した評価指標の一例を説明するための図である。
【
図8】教師撮影装置3と検出撮影装置7が異なる場合の処理の一例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
撮影装置(カメラなど)において、撮像素子は、レンズから入ってきた光を電気信号に変換する電子部品である。RAW画像データは、撮像素子から得られた無加工のセンサデータである。画像処理エンジンは、RAW画像データを画像ファイルに変換する。撮影装置は、RAW画像データをJPEGなどの画像ファイル形式に変換して出力する。また、撮影装置によっては、RAW画像データを出力できるものもある。
【0016】
解像度は、撮影装置から出力される画像データにおける単位面積当たりの画素数である。ひび割れ検出では、従来、特許文献1などにあるように、画素を単位として、ひび割れが存在するか否かを判断することが行われていた。ひび割れは存在するか否かという二値的な状態であり、画素を単位にして二値的な判断を行うことは極めて自然である。この場合に、解像度を高めることにより、ひび割れ検出の精度が向上すると期待される。
【0017】
しかしながら、画質は、撮像素子のサイズが同じであったり小さくなったりすると、解像度を大きくしても高画質にならない場合がある。撮像素子では、通常、一つの画素全体が受光領域として利用できるわけではない。解像度が高くなると受光領域が小さくなり、画質が低下する可能性がある。そのため、高解像度にすると、ひび割れの光を受光領域で受光できず、検出できない可能性もある。ひび割れを高精度に検出するためには、解像度と受光領域のバランスを考慮する必要がある。撮影装置は、小型化しており、解像度が低いものを利用して受光領域を確保して画質を保つことにより、ひび割れの検出精度を高めることが望ましい場合もある。
【0018】
RAW画像データを利用することは、検出精度の観点からは望ましいとも考えられる。しかしながら、高度な検出処理を利用するには、データサイズを小さくして、データの送受信を容易にすることが望ましい場合もある。そうすると、画像処理エンジンにより解像度を低下させて、ファイルサイズを小さな画像データを出力させることにより高度な検出処理を用いやすくすることが望ましいことも考えられる。
【0019】
ひび割れ検出の精度を高めるためには、撮像素子でひび割れの光を検出すること、そして、撮像素子で検出されたひび割れの光が画像処理エンジンにより画像ファイルに現れることを適切に分析することが必要である。
図1などを利用して、学習処理を利用して画像データにおけるひび割れ位置とひび割れ幅を同時に評価して、解像度よりも小さな幅であっても高精度にひび割れ部を検出することができることを説明する。
【0020】
また、従来は、システムで使用する撮影装置を一定のものとしていた。しかしながら、撮影装置の技術は、日々進化しており、例えば同じハードウェアであっても、ソフトウェアを更新することにより画像処理エンジンの処理が異なることもある。撮影装置を固定してしまっては、撮影装置の技術進歩を検出精度の向上に活用できないことになる。
図8などを利用して、撮像装置が変わる場合の検出処理について説明する。
【0021】
図1は、本願発明の実施の形態に係るひび割れ検出システムの構成の一例を示すブロック図である。
【0022】
ひび割れ検出システム1は、教師撮影装置3と、学習処理装置5と、検出撮影装置7と、ひび割れ検出装置9を備える。
【0023】
教師撮影装置3は、教師撮像素子11と、教師画像処理エンジン13と、教師撮影記憶部15を備える。教師撮影記憶部15は、教師撮影データ19を記憶する。
【0024】
学習処理装置5は、教師データ記憶部21と、アノテーション処理部23と、学習処理部25と、モデル記憶部27を備える。教師データ記憶部21は、複数の教師データ31を記憶する。それぞれの教師データ31は、教師画像データ33と、アノテーションデータ35を含む。アノテーションデータ35は、アノテーション位置データ37と、アノテーション幅データ39を備える。モデル記憶部27は、モデル43を記憶する。
【0025】
検出撮影装置7は、検出撮像素子51と、検出画像処理エンジン53と、検出撮影記憶部55を備える。検出撮影記憶部55は、検出撮影データ59を記憶する。
【0026】
ひび割れ検出装置9は、検出データ記憶部61と、認識処理部65と、検出結果データ記憶部67を備える。検出データ記憶部61は、検出画像データ71を記憶する。検出結果データ記憶部67は、検出結果データ73を記憶する。
【0027】
図2は、
図1のひび割れ検出システム1の動作の一例を示すフロー図である。教師撮影装置3は、建造物や構造物などに生じるひび割れを撮影し、教師撮影データ19を得る(ステップST1)。具体的には、教師撮影装置3において、教師撮像素子11は、レンズから入ってきたひび割れ及びその周囲の光を電気信号に変換してRAW画像データを得る。教師画像処理エンジン13は、RAW画像データを所定の解像度である教師撮影データ19に変換して出力する。教師撮影記憶部15は、教師撮影データ19を記憶する。教師撮影データ19は、多数存在するが、この例では解像度は同じであり、以下では、この解像度を「教師解像度」という。教師解像度は、RAW画像データと同じでもよく、小さくてもよい。
【0028】
学習処理装置5において、学習処理部25は、教師撮影装置3から教師撮影データ19を得る。学習処理装置5は、教師撮影装置3から、例えばインターネットなどの通信手段を利用したり、教師撮影記憶部15をUSBメモリなどとして接続し直したりすることにより、教師撮影データ19を得ることができる。教師データ記憶部21は、得られた教師撮影データ19を、教師画像データ33として記憶する。教師画像データ33は、教師撮影データ19をそのまま記憶してもよく、教師撮影データ19から一つ又は複数のひび割れ個所を抽出して記憶してもよい。
【0029】
アノテーション処理部23は、教師画像データ33のそれぞれに対応して、アノテーションデータ35を組み合わせる(ステップST2)。アノテーションデータ35は、教師画像データ33におけるひび割れの位置及び幅を特定する情報である。アノテーション位置データ37は、ひび割れの位置を特定する。アノテーション幅データ39は、ひび割れの幅を特定する。少なくともひび割れの幅は、教師解像度よりも小さい第1幅と、第1幅よりも小さい第2幅を含む。教師データ31は、教師画像データ33に対応して多数存在する。アノテーション処理部23は、学習処理装置5の管理者によって位置及び幅が指定されたアノテーションデータ35を組み合わせてもよく、自動的に検出された位置及び幅によるアノテーションデータ35を組み合わせてもよく、両者を組み合わせてもよい。
【0030】
学習処理装置5において、学習処理部25は、多数の教師データ31を利用した学習処理により、教師画像データ33を入力とし、アノテーションデータ35を出力とするモデル43を生成する(ステップST3)。モデルは、一般に知られている学習モデルを利用することができる。モデル記憶部27は、生成されたモデル43を記憶する。
【0031】
検出撮影装置7は、ひび割れ部の検出処理の対象となる建造物の壁などを撮影し、検出撮影データ59を得る(ステップST4)。具体的には、検出撮影装置7において、検出撮像素子51は、レンズから入ってきた処理対象部の光を電気信号に変換してRAW画像データを得る。検出画像処理エンジン53は、RAW画像データを所定の解像度である検出撮影データ59に変換して出力する。検出撮影記憶部55は、検出撮影データ59を記憶する。この例では、検出撮影データ59の解像度は、教師解像度と同じであるとする。
【0032】
ひび割れ検出装置9において、認識処理部65は、検出撮影装置7から検出撮影データ59を得る。検出データ記憶部61は、得られた検出撮影データ59を、検出画像データ71として記憶する。検出画像データ71は、検出撮影データ59をそのまま記憶してもよく、検出撮影データ59から、例えば空などひび割れ検出の対象外の部分を除いて記憶してもよい。
【0033】
認識処理部65は、学習処理装置5に記憶されたモデル43を利用して、検出画像データ71を入力として、出力された検出結果データ73を出力する(ステップST5)。検出結果データ記憶部67は、検出結果データ73を記憶する。検出結果データ73では、検出画像データ71におけるひび割れの位置及び幅を特定する情報を含む。幅は、教師解像度よりも小さい第1幅と第2幅を区別して検出することができる。
【0034】
図3は、発明者らが実際に使用した(a)教師画像データ及び(b)アノテーションデータ並びに(c)検出画像データ及び(d)検出結果データの一例を示す。教師解像度は、0.3mm/pixelに固定した。
図3(a)にあるように、教師画像データは、撮影されたひび割れ個所を抽出して作成した。
図3(b)にあるように、アノテーションデータでは、ひび割れ位置と、その幅を特定している。
図3(a)及び(b)を組み合わせた教師データとする。
図3(a)を入力として
図3(b)を出力とする学習処理を行った。教師データは、同様に、多数作成して使用した。
図3(c)は、ひび割れ検出処理を行ったものであり、
図3(d)は、検出結果を示す。ひび割れの位置と幅を併せて学習することにより、ひび割れの位置と幅を同時に検出することができている。
【0035】
図4は、ひび割れの判定に使用した検出画像データの一例を示す。
図4において、ひび割れ幅は、(a)0.1mm以下、(b)0.2mm、(c)0.5mm、(d)0.8mm、(e)1.5mm、及び、(f)2.0mmである。
図4(c)~(f)のように、画素よりも十分に大きな幅のひび割れについては、画素単位で検出することもできる。しかしながら、
図4(a)及び(b)のように画素よりも狭い幅のひび割れについては、画素を単位とした二値的な判断は適切でない。そのため、学習処理を利用して、モデルが、これらを区別して出力できるようにすることにより、精度を向上させることができる。
【0036】
本願発明は、ひび割れ位置とひび割れ幅を検出する。画素よりも小さな幅のひび割れでは、画素には、ひび割れ箇所と、ひび割れでない箇所が含まれる。画素よりも十分に大きな幅のひび割れでは、画素には、すべてひび割れ箇所の光を検出するもの(以下、「中心部」という。)と、その周辺に位置するもの(ひび割れ箇所と、ひび割れでない箇所の境界に位置する画素。以下、「周辺部」という。)が存在する。画素よりも小さな幅のひび割れでも、大きな幅のひび割れでも、ひび割れ箇所とひび割れでない箇所を含む画素がある。このような画素では、画素よりも小さな幅のひび割れと大きな幅のひび割れとでは、例えば色情報(RGB値の分布や各画素間の色強度の差(勾配)など)などが異なる。発明者が使用したモデルでは、検出画像データが、多数のフィルタ(畳込み層)を通過することによって、徐々に、ひび割れか否か、及び、ひび割れ幅が検出される。モデルにおいて、画素よりも小さな幅のひび割れと大きな幅のひび割れでの色情報などを含めて分析することにより、画素よりも小さな幅のひび割れを検出することと、画素よりも大きな幅のひび割れを検出することとを総合的に利用して、検出精度を向上させることができる。
【0037】
例えば、解像度が0.3mm/pixelの検出画像データにおいて、0.5mmの幅のひび割れが幅方向に3つの画素にあらわれており、中央部の画素では0.3mmの幅のひび割れの光が検出され、両端(周辺部)の画素では0.1mmの幅の光が検出されたとする。この場合に、従来のように画素単位で、例えば閾値を半分として、半分を超えるひび割れが検出されたかにより判断すると、中央の画素でひび割れが存在することが検出でき、ひび割れ位置は特定することができる。他方、ひび割れ幅は、両端の画素ではひび割れが存在しないと検出してしまうと、0.3mmの幅のひび割れと判断してしまう。本願発明により、例えば、画素よりも小さい幅のひび割れと大きい幅のひび割れを総合して検出するための学習処理を利用して中心部及び周辺部の画素を分析して、ひび割れの存在及びひび割れ幅の分析を行うことにより、周辺部をも含めたひび割れ幅を検出でき、解像度よりも大きな幅のひび割れ幅の検出精度をも向上させることができる。
【0038】
このように、中央部及び周辺部の画素を併せた単位に対して本願発明による学習処理を応用することにより、ひび割れ幅が画素よりも大きなひび割れの検出精度も向上させることができる。例えば中央部及び周辺部の画素を併せて分析するときに、検出画像データを利用するとともに、異なる解像度に変換した解像度変更検出画像データを利用してもよい。同様に、画素単位であっても、画素よりも小さなひび割れ幅の画素に対する学習処理と、周辺部の画素に対する学習処理とを総合的に利用することにより、検出精度を向上させることができる。
【0039】
図5は、検出処理を行った結果を示す。解像度は0.3mm/pixelであるところ、ひび割れ幅0.2mm、0.1mm、0.05mm未満のひび割れを検出できている。
【0040】
図6は、教師画像データについて、検出精度を向上させる工夫の一例を示す。(a)元画像に対して、(b)回転させたり、(c)明るさを増加させたり、(d)明るさを減少させたり、(e)グレイスケール化したり、(f)色調(RGB)を変化させたり、(g)色調(HSV)を変化させたりすることにより、アノテーションデータを増加させずに教師データを増加させて、検出精度を向上させることができる。検出画像データも、同様に画像処理を行って、検出精度を向上させることができる。
【0041】
図7は、学習処理部25における学習処理において使用した評価指標の一例を説明するための図である。
図7において、黒色部及び右下斜線部の画素はひび割れ部位を示し、教師データにおいてアノテーション位置データを示す。右下斜線部の画素は、正しく検出されたひび割れである。左下斜線部の画素は、ひび割れでないが検出された画素を示す。左下斜線部では、ひび割れの有無に加えて、ひび割れの幅を検出することができるが、この例では、評価指標としては、ひび割れの見落としをしないように、検出できたか否かを重視する。
【0042】
評価指標は、ひび割れ部の見落としを重視して、再現率を利用することができる。再現率(Recall)は、正しく検出したひび割れpixel数(右下斜線部の画素数)を、検出すべきひび割れpixel数(黒色部と右下斜線部の画素数)で割った値である。
図7の例では、正しく検出したひび割れpixel数は23、検出すべきひび割れpixel数は35であるため、約0.657である。なお、他に、例えば適合率(Precision、検出結果(右下斜線部及び右上斜線部の画素数)のうち、正解(右下斜線部の画素数)の割合)や、IoU(Intersection over Union、検出すべき画素と検出結果(黒色部、右下斜線部及び右上斜線部の画素数)のうち正解(右下斜線部の画素数)の割合)を利用してもよい。
【0043】
図8は、教師撮影装置3と検出撮影装置7が異なる場合の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図1と同じ符号は、同様の処理を行うものである。
図8のひび割れ検出システム101では、
図1のひび割れ検出システム1に加えて、教師撮影装置3の教師撮影記憶部15に教師調整データ17を記憶し、学習処理装置5の教師データ記憶部21において教師調整データ29を記憶し、モデル記憶部27にモデル調整データ41を記憶し、検出撮影装置7の検出撮影記憶部55に検出調整データ57を記憶し、ひび割れ検出装置9の検出データ記憶部61において検出調整データ69を記憶し、ひび割れ検出装置9が認識調整部63を備える。
【0044】
この例では、教師撮影装置3と検出撮影装置7は、同じ型番の製品であり、教師撮像素子11と検出撮像素子51は同じハードウェア構成であるが、ソフトウェアのバージョンが異なるために、教師画像処理エンジン13と検出画像処理エンジン53の処理が異なる場合を例に説明する。
【0045】
画像処理エンジンによる処理では、ひび割れが占める割合が大きな画素ではひび割れの色(通常は黒色)の影響が強くなり、ひび割れが占める割合が小さな画素ではひび割れの色の影響が弱くなる。このように、ひび割れが占める割合と、ひび割れの色の影響とは、単調に変化する関係性が認められる。そのため、画像処理エンジンによる処理が異なっても、ひび割れの色の影響の度合いが変化するのみで、ひび割れの占める割合と、ひび割れの色の影響とが逆転するような事態は生じない。そのため、調整は、通常、撮影されたひび割れの影響の度合いを変更すれば足り、大幅な変更は必要ない。
【0046】
教師撮影記憶部15は、教師調整データ17を記憶する。これは、例えば、基準となる図形などを撮影して教師画像処理エンジン13による画像処理により得られた画像データである。学習処理装置5は、教師撮影装置3から教師調整データ17を得て、教師調整データ29として記憶する。学習処理部25は、ステップST3の処理を行うにあたり、教師調整データ29を用いて、生成するモデル43が前提とする教師画像処理エンジン13を特定するモデル調整データ41を生成する。
【0047】
検出撮影記憶部55は、検出調整データ57を記憶する。これは、例えば、教師調整データ17を作成するときに使用した基準となる図形などを撮影して検出画像処理エンジン53による画像処理により得られた画像データである。ひび割れ検出装置9は、検出撮影装置7から検出調整データ57を得て、検出調整データ69として記憶する。認識処理部65がステップST5の処理を行う前に、認識調整部63は、モデル調整データ41と検出調整データ69を用いて、教師画像処理エンジン13と検出画像処理エンジン53との画像処理の違いによるひび割れの色の影響の違いを修正するようにモデル43を調整する。これは、例えば、モデル43において第1幅と第2幅を区別する閾値を調整してもよく、検出画像データ71の色調を変更してもよい。認識処理部65は、認識調整部63による調整後に、ひび割れ検出を行う(ステップST5)。
【0048】
なお、教師調整データを利用することにより、多数の教師画像データにおいて解像度が異なるものを許容してもよい。同様に、検出調整データを利用することにより、解像度が異なってもよい。教師撮像素子と検出撮像素子が異なる場合にも対応することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,101 ひび割れ検出システム、3 教師撮影装置、5 学習処理装置、7 検出撮影装置、9 ひび割れ検出装置、11 教師撮像素子、13 教師画像処理エンジン、15 教師撮影記憶部、17 教師調整データ、19 教師撮影データ、21 教師データ記憶部、23 アノテーション処理部、25 学習処理部、27 モデル記憶部、29 教師調整データ、31 教師データ、33 教師画像データ、35 アノテーションデータ、37 アノテーション位置データ、39 アノテーション幅データ、41 モデル調整データ、43 モデル、51 検出撮像素子、53 検出画像処理エンジン、55 検出撮影記憶部、57 検出調整データ、59 検出撮影データ、61 検出調整データ、63 認識調整部、65 認識処理部、67 検出結果データ記憶部、71 検出画像データ、73 検出結果データ