(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】気管切開チューブ、ネックプレート、及び気管切開チューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
(21)【出願番号】P 2020163260
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】植原 洋和
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠希
(72)【発明者】
【氏名】星山 裕介
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-511038(JP,A)
【文献】特開平11-221282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ本体と、
前記チューブ本体に接続され、外方に突出する軸部を有する硬質な接続部と、
前記軸部を介して前記接続部に接続され、前記接続部に対して揺動可能な軟質部とを備え、
前記軟質部は、前記軸部の軸受部を有して
おり、
前記軸部には、前記軸受部と係合するフランジ部が複数形成されており、
前記軸受部の一部が、複数の前記フランジ部の間に入り込んでいる、気管切開チューブ。
【請求項2】
複数の前記フランジ部の内、前記軸部の軸方向において外側に位置する外側フランジ部は、前記軸方向において内側に位置する内側フランジ部よりも小さいサイズを有している、請求項
1に記載の気管切開チューブ。
【請求項3】
前記軟質部には、前記軸部まで貫通している貫通孔が形成されている、請求項1
又は2に記載の気管切開チューブ。
【請求項4】
前記軟質部の外側部分は、前記軟質部の内側部分に対してヒンジ部を介して接続されており、
前記ヒンジ部には、ヒンジピンが配置されており、
前記ヒンジピンは、前記軸部に対向する領域において分割されている、請求項1から
3のいずれか一項に記載の気管切開チューブ。
【請求項5】
気管切開チューブのチューブ本体と接続されるネックプレートであって、
外方に突出する軸部を有する硬質な接続部と、
前記軸部を介して前記接続部に接続され、前記接続部に対して揺動可能な軟質部とを備え、
前記軟質部は、前記軸部の軸受部を有して
おり、
前記軸部には、前記軸受部と係合するフランジ部が複数形成されており、
前記軸受部の一部が、複数の前記フランジ部の間に入り込んでいる、ネックプレート。
【請求項6】
チューブ本体と、前記チューブ本体に接続される硬質な接続部と、前記接続部に接続される軟質部とを備える気管切開チューブの製造方法であって、
外方に突出する軸部が形成され
、且つ前記軸部にフランジ部が複数形成されるように
、前記接続部を形成し、
前記軸部を囲む軸受部が形成され
、且つ前記軸受部の一部が複数の前記フランジ部の間に入り込むように、軟質樹脂により前記軟質部の少なくとも一部をインサート成形
する、気管切開チューブの製造方法。
【請求項7】
インサート成形した前記軟質部に対して、前記接続部を相対的に回転させる、請求項6に記載の気管切開チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質部を有するネックプレート、当該ネックプレートを有する気管切開チューブ、及び当該気管切開チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気管切開チューブは、気道確保のため、気管切開後に患者の頚部の切開口に挿入される。また、気管切開チューブは、頚部表面に位置する部材であるネックプレートを有している。そして、ネックプレートを固定テープにより頚部に固定することによって、気管切開チューブが頚部の所定の位置に固定される。例えば、特許文献1には、喉部外壁に当てる部材としてプロテクタを有し、当該プロテクタにより固定される気管切開チューブが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、帯板状の固定板を有する気管切開チューブが記載されている。当該固定板の両端部は、中央部に対して、ヒンジを介しては跳ね上げ自在に結合されている。さらに、固定板の両端部は、固定板の中央部より軟質の樹脂又はゴム等で構成されている。また、特許文献3には、気管開口チューブ用のネックフランジが記載されている。当該ネックフランジは、人間の首内へ挿入されるときに気管開口チューブを位置決め支持する。さらに、ネックフランジは、薄い可撓性を有するシートで形成された首係合部を有している。また、首係合部内には、一対のピボットピンが設けられた硬い連結体が配置されている。そして、ピボットピンは、気管開口チューブの凹所内に移動自在に嵌合している。
【0004】
また、特許文献4には、外套管を有する気管切開用套管が記載されている。当該外套管にはリングが取り付けられており、套管板は、回転可能にリングに取り付けられている。そして、リングの内部にはペグが突出しており、当該ペグは外套管の凹部と係合している。これにより、套管板は、リングとともに旋回することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平7-48264号公報
【文献】特許第3926457号公報
【文献】特許第2781114号公報
【文献】特表平11-511038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ネックプレートは、患者の頚部表面に位置して頚部の皮膚に接触する。そのため、硬質なネックプレートを使用すると、患者が頚部を動かした際に硬い部分が頚部に強く当たり、患者に大きな刺激を与えてしまう。そこで、ネックプレートを軟質材料によって構成するとともに、頚部の動きに追従するように揺動させることが考えられる。しかし、軟質材料によって構成したネックプレートは、揺動可能に取り付けると、ネックプレートが変形することによって外れてしまう。例えば、ネックプレートに形成された軸は、気管切開チューブの外側チューブの凹部に嵌められる。そのため、患者が頚部を動かしたとき又は気管切開チューブを固定するときに、ネックプレートが変形すると、変形によって軸が凹部から抜け出てしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る気管切開チューブは、チューブ本体と、前記チューブ本体に接続され、外方に突出する軸部を有する硬質な接続部と、前記軸部を介して前記接続部に接続され、前記接続部に対して揺動可能な軟質部とを備え、前記軟質部は、前記軸部の軸受部を有している。
【0008】
また、本発明の一態様に係るネックプレートは、気管切開チューブのチューブ本体と接続されるネックプレートであって、外方に突出する軸部を有する硬質な接続部と、前記軸部を介して前記接続部に接続され、前記接続部に対して揺動可能な軟質部とを備え、前記軟質部は、前記軸部の軸受部を有している。
【0009】
また、本発明の一態様に係る気管切開チューブの製造方法は、チューブ本体と、前記チューブ本体に接続される硬質な接続部と、前記接続部に接続される軟質部とを備える気管切開チューブの製造方法であって、外方に突出する軸部が形成されるように前記接続部を形成し、前記軸部を囲む軸受部が形成されるように、軟質樹脂により前記軟質部の少なくとも一部をインサート成形し、前記軟質部に対して、前記接続部を相対的に回転させる。
【発明の効果】
【0010】
これにより、軸部が軸受部から抜け出ることを抑制して、軟質部が気管切開チューブから外れることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。また、以下において、頚部の切開口に挿入される方向を下方とした場合に、その反対方向が上方である。
【0013】
[第1実施形態]
図1に示すように、気管切開チューブ100は、患者の頚部の切開口に挿入されるチューブ本体10と、チューブ本体10に接続されるネックプレート20とを備えている。チューブ本体10は、外側チューブ11と、外側チューブ11に挿脱自在に挿入された内側チューブ12とを有している。外側チューブ11と内側チューブ12とは、いずれも樹脂材料から形成され湾曲した形状を有している。代替的に、チューブ本体10は、内側チューブ12を備えていなくともよい。
【0014】
外側チューブ11には、伸縮自在な薄膜からなるカフ13が取り付けられている。そして、カフ13には、送気ライン14が接続されている。送気ライン14には、チューブと、チューブに連通するバルーンとが設けられており、バルーンには不図示の送気手段が接続される。そして、送気手段から空気を挿入することによって、カフ13を膨張させることができる。なお、
図1では、膨張した状態のカフ13が示されている。また、外側チューブ11には、吸引ライン15が取り付けられている。吸引ライン15には、チューブと、チューブの後端に連通する吸引器の取付部とが設けられており、取付部には不図示の流体吸引器手段が接続される。そして、吸引ライン15のチューブの先端は、カフ13の近傍において開口している。これにより、吸引ライン15を介して唾液等の分泌物を吸引することができる。
【0015】
一例として、気管切開チューブ100を頚部に固定する際には、カフ13の空気を完全に抜いて、スタイレット(不図示)を内側チューブ12内に挿入する。そして、スタイレットの先端部分、カフ13、及び外側チューブ11の全体に潤滑剤を塗布する。その後、頚部の切開口に外側チューブ11の下部を挿入する。続いて、スタイレットを内側チューブ12から抜き出し、送気手段から送気ライン14を介して空気を送って、気管壁に密着するまでカフ13を膨張させる。次に、固定テープ(不図示)を用いて、ネックプレート20を頚部に固定する。このようにして、気管切開チューブ100が、頚部に固定される。また、気管切開チューブ100を頚部に挿管している間は、吸引ライン15を経由してカフ13の上部に溜まった分泌物を吸引できる。
【0016】
図2に示すように、ネックプレート20は、チューブ本体10に接続される硬質な接続部23と、接続部23に接続され、接続部23に対して揺動可能な軟質部24とを有している。接続部23には、外側チューブ11が固定されるジョイント部302が固定されている。すなわち、接続部23は、ジョイント部32を介してチューブ本体10の外側チューブ11に接続される。さらに、接続部23には、内側チューブ12が取り付けられるコネクタ部33が固定されている。なお、内側チューブ12は、コネクタ部33に取り付け可能に構成することに代えて、単にコネクタ部33の内側に挿入されるように構成されてもよい。ジョイント部32は略リング状の形状を有しており、
図2においては、接続部23の下側に固定されている。また、ジョイント部32は、外側チューブ11の上端部の外径よりも大きい内径を有している。そして、ジョイント部32の内側に、外側チューブ11の上端部が挿入されて固定される。また、コネクタ部33は略リング状の形状を有しており、
図2においては、接続部23の上側に固定されている。コネクタ部33は、内側チューブ12の外径よりも大きい内径を有している。そして、コネクタ部33を通って、外側チューブ11の内側に内側チューブ12の下部が挿入されて取り付けられる。
【0017】
さらに、
図3に示すように、接続部23は、中央部分27から外方に突出する一対の軸部25を有している。一対の軸部25のそれぞれは、軸対象な形状を有しており、接続部23は、軸部25の中心軸と直交して中央部分27を横切る面に対して面対称の形状を有している。ただし、接続部23に対して軟質部24を相対的に回転可能であれば、一対の軸部25の一方と他方の形状が異なっていてもよい。また、各軸部25には、軟質部24の軸受部42(
図4)と係合する複数のフランジ部26が形成されている。
図3の例では、フランジ部26が、それぞれ略円盤状の形状を有している。また、フランジ部26は面取りされており、角部が湾曲している。これにより、接続部23に対して軟質部24を相対的に回転しやすくなっている。なお、
図3においては、軸部25が接続部23と一体的に形成されているが、別体に形成された軸部25が接続部23に固定されていてもよい。
【0018】
フランジ部26の数は二つには限定されず、一つ又は三つ以上であってもよい。ただし、フランジ部26が複数形成されることによって、軸受部42の一部が、フランジ部26の間に入り込む。これにより、軸部25が抜け出ることを、より確実に抑制できる。また、フランジ部26は、軸対象な形状を有していればよく、円錐状、球状、リング状、又は円筒状の形状を有していてもよい。さらに、フランジ部26が、軸部25の中心軸を通る断面が略U字状となるような円筒状の形状を有する場合、軸受部42の一部がフランジ部26の内側に入り込む。そのため、軸部25が抜けることをより確実に抑制できる。
【0019】
複数のフランジ部26の内、外側フランジ部26Aは、接続部23において内側チューブ12が挿入される内側から、軸部25の中心軸と平行に外側へと向かう軸方向において、内側フランジ部26Bよりも外側に位置している。そして、軸部25の軸方向において外側に位置する外側フランジ部26Aは、軸方向において内側に位置する内側フランジ部26Bよりも小さいサイズを有している。すなわち、外側フランジ部26Aの外寸は、内側フランジ部26Bの外寸よりも小さい。一例として、外側フランジ部26Aの直径と内側フランジ部26Bの直径との差は、0.8mmから1mmである。
【0020】
図2に戻り、軟質部24は、接続部23から図中の左右方向に延びており、一対の外側部分51と、外側部分51が接続されている内側部分43とを有している。内側部分43は、接続部23を囲むようなフレーム状の形状を有している。そして、一対の外側部分51のそれぞれは、軟質部24の内側部分43に対してヒンジ部53を介して接続されている。また、各ヒンジ部53には、ヒンジピン45が挿入されている。これにより、一対の外側部分51が、内側部分43の左右両側にヒンジ接続されている。代替的に、内側部分43と外側部分51とは一体的に形成されていてもよい。この場合、内側部分43と外側部分51とによって、帯板状の部材が構成される。ただし、内側部分43と外側部分51とを別体に形成して、両者をヒンジ接続することによって、内側部分43に対して外側部分51を揺動させることができる。
【0021】
各外側部分51は、ヒンジピン45を中心に、
図2の矢印Bで示す方向に揺動可能である。すなわち、外側部分51は、接続部23に向かって上方に揺動可能である。そして、各外側部分51は、
図2の左側に示すように、揺動後の姿勢を維持することができる。そのため、頚部の切開口に気管切開チューブ100を挿入した後、切開口を小さく縫合する際には、外側部分51を上方に揺動させることができる。これにより、外側部分51によって隠れていた切開口を露出させることができる。そのため、切開口を縫合する際に、外側部分51が切開口の視認性を阻害することを防止できる。なお、
図2の右側に示す外側部分51も、左側と同様に揺動させた後に、その姿勢を維持することができる。
【0022】
また、各外側部分51には、気管切開チューブ100を頚部に固定する固定テープ(不図示)を取り付ける取付孔52が形成されている。一例として、固定テープは帯状又は紐状の形状を有している。そして、固定テープの中央部を頚部の背面側に位置させた状態で、固定テープの両端部が各取付孔52にそれぞれ取り付けられる。これにより、気管切開チューブ100を頚部に固定することができる。
【0023】
図4に示すように、内側部分43は、略平行に延びる一対の長辺部分43Aと、一対の長辺部分43Aを接続する一対の短辺部分43Bとを有している。そして、接続部23は、一対の長辺部分43Aと一対の短辺部分43Bとに囲まれた開口部に配置される。また、軸受部42は各短辺部分43Bに形成されており、軸受部42には軸穴47が形成されている。例えば、軸穴47はインサート成形によって、軸部25の外側を囲むように形成される。代替的に、軸部25を軸穴47に圧入する場合には、内側部分43を成形する際に軸穴47を形成できる。さらに、軸穴47は、切削加工によって形成してもよい。また、軟質部24の内側部分43には、軸部25まで貫通している貫通孔48が形成されている。これにより、軸部25に到達するように、潤滑剤を貫通孔48に注入できる。なお、一つの軸部25に到達する複数の貫通孔48が形成されていてもよい。
【0024】
図5に示すように、軟質部24の内側部分43は、内側部分43の軸部25を介して、接続部23に接続されている。これによって、軟質部24が接続部23に接続されている。そして、内側部分43には、ヒンジ部53を介して外側部分51が接続される。内側部分43及び外側部分51を含む軟質部24は、軸部25を中心に揺動可能である。すなわち、患者が頚部を大きく動かした場合、軟質部24は、頚部の動きに従って軸部25を中心に揺動する。
図1の例で軟質部24は、矢印Aで示す方向に揺動する。そのため、ネックプレート20が患者の頚部に強く当接することを抑制できる。また、軟質部24は、撓むようにねじれて変形することも可能であり、頚部が複雑に動いた場合であっても、軟質部24が変形するので、頚部に与える刺激を低減できる。さらに、内側部分43の長辺部分43Aがコネクタ部33、接続部23、又は吸引ライン15に当接すると、軸部25を中心とする揺動は規制される。その後、さらに頚部が動いた場合には、長辺部分43Aが変形するので刺激を低減できる。
【0025】
また、
図3に示す軸部25のフランジ部26は、軸受部42と係合している。具体的に、
図5に示す一点鎖線VI-VIに沿った概略断面を示す
図6を参照して説明する。
図6に示すように、フランジ部26の外側フランジ部26Aと内側フランジ部26Bとは、貫通孔48が形成された領域を除いて、軸受部42に囲まれている。これにより、軟質部24に外側へ向かった力が加わった場合であっても、外側フランジ部26Aと内側フランジ部26Bとが軸受部42に引っかかるため、軸部25が軸受部42の軸穴47から抜け出ることが抑制される。一例として、固定バンドで気管切開チューブ100を頚部に固定するときには、軟質部24に対して外方へ引っ張る力が加わる。そのため、仮に、軟質部24から内方に突出する軸が接続部23又は外側チューブ11の凹部に挿入されていると、軟質部24が外方に伸びることによって軸が凹部から離れる方向に移動してしまう。その結果、軟質部24が外側チューブ11から外れてしまう。一方、軟質の軸受部42に外方に突出する軸部25が挿入されていれば、軟質部24とともに軸穴47も伸びるため、軸部25が抜け出ることを抑制できる。
【0026】
また、上述したように、外側フランジ部26Aの外寸は、内側フランジ部26Bの外寸よりも小さい。そのため、外側フランジ部26Aの外周面から軸受部42の外面までの厚みD1は、内側フランジ部26Bの外周面から軸受部42の外面までの厚みD2よりも厚い。これにより、外側フランジ部26Aの外周面に対向する領域では、軸受部42がより大きく潰れて、治具又は指等で軸受部42をつまむことが容易になる。その結果、製造工程において、軟質部24を接続部23に対して相対的に回転させることが容易となる。
【0027】
[気管切開チューブの製造方法]
図7を参照して、気管切開チューブ100の製造方法について説明する。まず、一次成形品として、外方に突出する軸部25が形成されるように、硬質樹脂により
図3に示す接続部23を形成する(S701)。一例として、このような硬質樹脂は、ポリカーボネート、又はABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)である。代替的に、硬質な接続部23は、三次元造形によって、又は金属に切削加工を施すことによって形成されてもよい。さらに、接続部23に対して軟質部24をより回転しやすくするために、軸部25の表面には、シボ加工を施す。そして、形成された接続部23をインサートとして、軸部25を囲む軸受部42が形成されるように、軟質樹脂により軟質部24の少なくとも一部をインサート成形する(S702)。ここで、少なくとも一部とは、
図4に示す内側部分43である。すなわち、接続部23と一体となるように内側部分43をインサート成形する。
【0028】
これにより、
図5に示すような、接続部23と内側部分43とが一体となった二次成形品が形成される。代替的に、内側部分43と外側部分51とが一体的に形成されるように、両者を同時にインサート成形してもよい。一例として、軟質樹脂は、ポリウレタン等の熱可塑性エラストマー、PVC(ポリ塩化ビニル)、又はシリコーンゴムである。代替的に、インサート成形以外の方法として、三次元造形によって、軟質部24を形成してもよい。
【0029】
その後、貫通孔48から潤滑材として、例えばシリコーンオイルを注入する(S703)。貫通孔48は、軸部25に到達しているため、潤滑剤は軸部25の周囲に回り込むことになる。これにより、接続部23に対して軟質部24を揺動させる際に、より回転しやすくできる。このとき、軟質部24が透明であると、軸部25に周囲に回り込む潤滑剤を視認できるため、より確実に潤滑剤を注入できる。また、貫通孔48が外側フランジ部26Aと内側フランジ部26Bの間に形成されていると、潤滑剤を、外側フランジ部26Aの周囲と内側フランジ部26Bの周囲とに回り込ませることができる。このような貫通孔48は、インサート成形する際に形成できる。代替的に、外側フランジ部26Aに到達する貫通孔48と、内側フランジ部26Bに到達する貫通孔48とを形成してもよい。さらに、貫通孔48は、形成された軟質部24に切削加工を施すことによって形成してもよい。なお、シリコーンオイルの注入に代えて又は加えて、インサート成形を行う前に、軸部25の表面に潤滑膜を成膜してもよい。
【0030】
続いて、接続部23と内側部分43とが一体となった二次成形品を加熱する(S704)。一例として、二次成形品を50度から60度の雰囲気中に晒すことによって、二次成形品を加熱する。一例として、加熱時間の長さは、5分から25分、より好ましくは7分から20分である。次に、軟質部24に対して、接続部23を相対的に回転させる(S705)。例えば、軸受部42を摘まみ、固定した接続部23に対して軟質部24の内側部分43を90°から180°の範囲で回転させる。これにより、インサート成形によって軸受部42の軸穴47の内面と密着した軸部25の外面を、内面から剥離できる。そのため、より小さい力によって、軟質部24を接続部23に対して揺動させることができる。このとき、外側フランジ部26Aの外寸が内側フランジ部26Bの外寸よりも小さいと、軸受部42をより摘まみやすくなる。そのため、接続部23に対して内側部分43を相対的に回転させやすくなる。代替的に、固定した軟質部24の内側部分43に対して接続部23を回転させてもよい。
【0031】
次に、ジョイント部32を接続部23に固定する(S706)。一例として、ジョイント部32を接続部23に接着する。そして、コネクタ部33を接続部23に固定する(S707)。一例として、コネクタ部33を接続部23に接着する。代替的に、コネクタ部33及びジョイント部32は、溶着、螺合、又は圧入等の方法によって接続部23に固定されてもよい。また、コネクタ部33を先に固定した後に、ジョイント部32を固定してもよい。
【0032】
そして、予め準備した外側部分51を内側部分43に接続する(S708)。一例として、外側部分51のヒンジ部53を内側部分43の軸受部42の両側に形成されている隙間に挿入して、予め準備したヒンジピン45をヒンジ部53の穴部に圧入する。これによって、外側部分51が内側部分43にヒンジ接続される。なお、外側部分51は、軟質樹脂を用いて成形することによって予め形成されている。代替的に、外側部分51は、硬質樹脂又は金属を用いて形成してもよく、三次元造形又は切削等の方法によって形成してもよい。ただし、軟質樹脂を用いて外側部分51を形成することによって、頚部に与える刺激を低減できる。また、ヒンジピン45には、抜け止め部として機能するフランジが形成されていてもよい。これにより、ヒンジピン45がヒンジ部53から抜け出ることを抑制できる。
【0033】
次に、予め準備した外側チューブ11をジョイント部32に固定する(S709)。一例として、外側チューブ11をジョイント部32に接着する。代替的に、外側チューブ11は、溶着、又は螺合等の方法によってジョイント部32に固定されてもよい。そして、予め準備した内側チューブ12をコネクタ部33に取り付ける(S710)。一例として、内側チューブ12の外面には凸部が形成されており、コネクタ部33には当該凸部を受け入れる溝が形成されている。そして、コネクタ部33に挿入した内側チューブ12を回転することによって、凸部を溝に係合させる。これにより、内側チューブ12がコネクタ部33に取り付けられる。なお、外側チューブ11及び内側チューブ12は、樹脂材料を用いて成形することによって形成できる。
【0034】
その後、必要に応じて、送気ライン14と吸引ライン15とが取り付けられて、気管切開チューブ100が製造される。なお、上述した説明ではインサート成形を用いたが、接続部23と内側部分43とを一体化させるために、軸部25を軸穴47に圧入してもよい。なお、内側部分43と外側部分51とが、異なる材料によって形成されていてもよい。一例として、内側部分43は、接続部23よりも軟質であり、且つ外側部分51よりも硬質である材料によって形成されていてもよい。
【0035】
以上説明した気管切開チューブ100、及びネックプレート20によれば、軟質部24を備えることによって、患者の頚部に与える刺激を低減できる。さらに、軸部25が軸受部42から抜け出ることを抑制して、軟質部24が気管切開チューブ100から外れることを防止できる。
【0036】
なお、内側部分43と外側部分51とは、内側部分43の外縁と外側部分51の外縁とが略連続するような外形を有している。これにより、内側部分43と外側部分51との間で生じる段差を小さくできる。そのため、段差が頚部に当たって刺激を与えることを抑制できる。
【0037】
[第2実施形態]
図8を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態は、ヒンジピン245が分割されている点において、第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態の説明においては、第1実施形態との相違点について説明し、既に説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明を省略する。特に説明した場合を除き、同じ参照符号を付した構成要素は略同一の動作及び機能を奏し、その作用効果も略同一である。
【0038】
図8は、第2実施形態に係るヒンジ部53を拡大して示す概略平面図であり、一対の外側部分51の一方のみを図示している。すなわち、軟質部24の内側部分243の両側には、外側部分51がそれぞれヒンジ接続されている。そして、
図8に示すように、ヒンジピン245は、接続部23の軸部25に対向する領域Rにおいて二つに分割されている。なお、
図8においては、上方から見た場合に視認できないヒンジピン245を、説明の便宜のため破線で示している。
【0039】
一例として、外側部分51のヒンジ部53は、内側部分243の軸受部242の両側の隙間に挿入される。そして、分割されたヒンジピン245のそれぞれは、ヒンジ部53に圧入される。これにより、内側部分243に、外側部分51がヒンジ接続される。また、ヒンジピン245に不図示のフランジを形成することによって、ヒンジピン245の抜け出しを抑制できる。
【0040】
第2実施形態においては、ヒンジピン245が分割されているため、軸部25に対向する領域Rを起点として、軟質の外側部分51を下方に変形させることができる。これにより、頚部がより複雑に動いた場合であっても、外側部分51が変形するので、頚部に与える刺激を低減できる。なお、第2実施形態においては、軸部25をヒンジ部53に挟まれる位置に形成してもよい。すなわち、軸部25に対向する領域Rを避けるように、ヒンジピン245が配置されているため、軸部25をヒンジ部53に挟まれる位置に形成できる。
【0041】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0042】
例えば、ヒンジピン345は、内側部分343に設けられていてもよい。具体的に、
図9に示す変形形態では、一対のヒンジピン345が、内側部分343の軸受部342から図中の上下方向に突出している。なお、
図9は、変形形態に係るヒンジ部353を拡大して示す概略平面図であり、一対の外側部分351の一方のみを図示している。また、
図9においては、上方から見た場合に視認できないヒンジピン345を、説明の便宜のために破線で示している。
【0043】
変形形態においては、外側部分351のヒンジ部353に、軟質部24の内側部分343から突出しているヒンジピン345が挿入されている。これにより、内側部分343の両側に、外側部分351がそれぞれヒンジ接続されている。一例として、外側部分351を短手方向に撓ませることによって、外側部分351のヒンジ部353に、ヒンジピン345を挿入できる。なお、ヒンジピン345は、インサート成形する際に内側部分343と同時に形成された軟質部材である。また、変形形態においても、内側部分343と外側部分351とは、内側部分343の外縁と外側部分351の外縁とが略連続するような外形を有している。これにより、内側部分343と外側部分351との間で生じる段差を小さくできる。
【0044】
以上説明した変形形態においても、ヒンジピン345が分割して形成されている。そのため、軸部25に対向する領域Rを起点として、軟質の外側部分351を下方に変形させることができる。これにより、頚部がより複雑に動いた場合であっても、外側部分351が変形するので、頚部に与える刺激を低減できる。なお、軟質部材に代えて、硬質のヒンジピン345を内側部分343の軸受部342に固定してもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 :チューブ本体
20 :ネックプレート
23 :接続部
24 :軟質部
25 :軸部
26 :フランジ部
26A :外側フランジ部
26B :内側フランジ部
42 :軸受部
43 :内側部分
48 :貫通孔
51 :外側部分
53 :ヒンジ部
100 :気管切開チューブ
243 :内側部分
242 :軸受部
245 :ヒンジピン
342 :軸受部
343 :内側部分
345 :ヒンジピン
351 :外側部分
353 :ヒンジ部