(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】微細藻類含有製品およびその製造法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240509BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240509BHJP
A61K 31/336 20060101ALN20240509BHJP
A61K 31/409 20060101ALN20240509BHJP
A61K 36/02 20060101ALN20240509BHJP
A61P 3/02 20060101ALN20240509BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20240509BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20240509BHJP
A61K 8/9706 20170101ALN20240509BHJP
A61K 47/44 20170101ALN20240509BHJP
A61K 47/22 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C12N1/12 C
A23L33/10
A61K31/336
A61K31/409
A61K36/02
A61P3/02
A61P17/00
A61Q19/00
A61K8/9706
A61K47/44
A61K47/22
(21)【出願番号】P 2020562917
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2019045103
(87)【国際公開番号】W WO2020137254
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018248155
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019144715
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509036274
【氏名又は名称】オーピーバイオファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】金本 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 崇史
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-095885(JP,A)
【文献】特開2006-180868(JP,A)
【文献】特開平04-108374(JP,A)
【文献】特開2012-249631(JP,A)
【文献】特開2015-231975(JP,A)
【文献】国際公開第2009/130895(WO,A1)
【文献】LIPIDS,1991年,Vol.26, No.8,p.656-659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類製品を製造するための方法であって、
(A)培養後から(B)の工程まで微細藻類に与えるストレス量を所定値以下に制御する条件下で維持する工程であって、該微細藻類の密度を所定値以下に維持する、かつ/または該微細藻類を所定倍率以上濃縮しない工程、および
(B)微細藻類を、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程
を含
み、該ストレス量の所定値が、約2以下であり、該密度の所定値が、約5g/L(乾燥重量)以下であり、濃縮の所定倍率が、約10倍以上であり、該微細藻類を培養する工程が、前記微細藻類を1g/L(乾燥重量)の密度以上に増殖させることを含み、
該ストレス量は、濃縮操作及びポンプ通過のストレス量で測定され、
該密度は、培養時における密度であり、
該濃縮は遠心分離による濃縮であり、
該失活は、2分以上の加熱によるものであり、
前記微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、
方法。
【請求項2】
前記密度の所定値および/または前記濃縮の所定倍率が、前記微細藻類を濃縮した場合のフェオホルバイドの増大に基づいて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(A)の工程において前記微細藻類を濃縮する処理を行わない、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
(B)の工程の後に前記微細藻類を濃縮する工程を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(B)の工程が、前記微細藻類を加熱することを含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱は、95℃以上に加熱することを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
(B)の工程がフコキサンチンを分解しない、または(B)の工程の前後で比較した場合のフコキサンチンの減少が80%未満である条件で行われる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記条件は、フコキサンチンの分解量が10%未満であることを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
(B)の工程の後に前記微細藻類を乾燥させる工程を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりクロロフィルを30mg以上生産する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記微細藻類がフコキサンチンを生産する藻類である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりフコキサンチンを8mg以上生産する藻類である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記微細藻類が、P.granifer
aである、請求項
1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法を行うことを含む方法によって製造された、生物に使用するためまたは生物が摂取するための、前記微細藻類の藻体を含む微細藻類製品。
【請求項15】
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下である、請求項
14に記載の微細藻類製品。
【請求項16】
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下である、請求項
15に記載の微細藻類製品。
【請求項17】
微細藻類の藻体を含み、前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下(乾燥重量)であ
り、該微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
【請求項18】
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下(乾燥重量)である、
請求項17に記載の微細藻類製品。
【請求項19】
食用製品または化粧品である、請求項
14~
18のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項20】
前記生物が哺乳動物である、請求項
14~
18のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項21】
前記生物がヒトである、請求項
14~
18のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項22】
フコキサンチンの含有量が0.8重量%以上である、請求項
14~
21のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項23】
前記微細藻類のフコキサンチン含有量が0.8重量%以上(乾燥重量)である、請求項
14~
22のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項24】
前記微細藻類のクロロフィル含有量が3重量%以上(乾燥重量)である、請求項
14~
23のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項25】
食用製品である請求項
14~
24のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項26】
食品である請求項
14~
24のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項27】
1日当たり100~150mgのクロロフィルを提供するように摂取される食用製品である、請求項
14~
24のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項28】
化粧品である請求項
14~
24のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項29】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の
各工程により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
前記微細藻類濃縮液を凍結する工程
を含む凍結品を製造するための方法。
【請求項30】
凍結する工程が-40℃以下に冷却することを含む請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
凍結品である請求項
25~
27のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項32】
乳製品不添加、ラクトアイス、アイスミルクまたはアイスクリームである請求項
31に記載の微細藻類製品。
【請求項33】
賦形剤、酸化防止剤、乳化剤、および増粘剤のうちの1つまたは複数を含む、請求項
31または
32に記載の凍結品。
【請求項34】
果実果汁およびフレーバーのうちの1つまたは複数を含む、請求項
31~
33のいずれか1項に記載の凍結品。
【請求項35】
板状の形態である、請求項
31~
34のいずれか1項に記載の凍結品。
【請求項36】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の
各工程により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
前記微細藻類とオイルとを混合する工程
を含むオイル浸漬品を製造するための方法。
【請求項37】
前記微細藻類濃縮液に水を添加して脱塩する工程を含む請求項
36に記載の方法。
【請求項38】
前記微細藻類濃縮液を凍結乾燥する工程を含む請求項
36または3
7に記載の方法。
【請求項39】
オイル浸漬品である請求項
25~
27のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項40】
酸化防止剤を含む請求項
39に記載のオイル浸漬品。
【請求項41】
酸化防止剤がαトコフェロールを含む請求項
40に記載のオイル浸漬品。
【請求項42】
乾燥藻体1gに対して約1~100重量%のオイルを含む請求項
39~
41のいずれか1項に記載のオイル浸漬品。
【請求項43】
乳化剤を含む請求項
39~
42のいずれか1項に記載のオイル浸漬品。
【請求項44】
請求項
39~
43のいずれか1項に記載のオイル浸漬品を含む食用カプセル。
【請求項45】
乾燥剤および酸化防止剤のうちの1つまたは複数を含む、乾燥品である請求項
25~
27のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項46】
遮光容器に封入された、乾燥品である請求項
25~
27および
45のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
【請求項47】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の
各工程により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
賦形剤、乳化剤および酸化防止剤のうちの1つまたは複数の存在下で前記微細藻類濃縮液を乾燥させる工程
を含む乾燥微細藻類を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細藻類を含む製品(例えば、食用製品、化粧品)ならびにその製造のための方法およびシステムに関する。特に、本開示は、フェオホルバイドが低減された微細藻類を含む製品(例えば、食用製品、化粧品)ならびにその提供を可能にする微細藻類の回収・濃縮方法および微細藻類を高濃度に培養するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラおよびユーグレナなどの微細藻類は、含有されるビタミンおよびミネラル類などの栄養成分が着目されており、健康食品や食品素材として利用されている。現在食品として広く流通しているクロレラでは、光合成による独立栄養的な培養法や、有機炭素源を利用した従属栄養的な培養法など種々の培養法が確立されている。しかし、増殖速度、大きさおよび細胞壁の有無など、取り扱いの際に考慮すべき点は微細藻類の種類によって異なるため、細胞の特性に合わせた製造法の確立が望まれる。
【0003】
また、微細藻類には有用成分および有害成分を含む種々の成分が含まれ得る。安全な食品の提供のためには、有害成分の低減が必要であり得る。クロロフィル含量の高いクロレラ(特許文献1=特開2016-67313)など、微細藻類の品種改良によって含有成分を調製することもできるが、製造法の違いによっても製品に含まれる成分は変動し得る。有用成分が多く、有害成分が低減されるような製造法の確立およびその方法によって作製された製品(例えば、食品)の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、高品質の微細藻類製品を効率的に製造する方法を見出した。本開示は、新たな機能性を有しかつ安全な微細藻類製品(例えば、食用製品、化粧品)を提供し得る。本開示の製造方法は、断裂など細胞膜および/または細胞壁の破壊が低減された、または細胞内小器官の破壊、自己消化または細胞内成分分解などを促進する酵素の分泌および/または活性が低減された(例えば、物理的傷害および/または化学的傷害の低減によって)微細藻類に対して、微細藻類自体または微細藻類の成分に対して悪影響を及ぼす酵素などを失活させかつ/または分解する処理を行うことで、フェオホルバイドが低減された微細藻類製品の提供を可能にする。
【0006】
本開示は、高品質の微細藻類製品を効率よく製造する方法およびこの方法において有益に使用することができる装置を提供する。
【0007】
したがって、本開示は代表的に以下を提供する。
(項目B1)
微細藻類製品を製造するための方法であって、
(A)培養後から(B)の工程まで微細藻類に与えるストレス量を所定値以下に制御する条件下で維持する工程であって、該微細藻類の密度を所定値以下に維持する、かつ/または該微細藻類を所定倍率以上濃縮しない工程、および
(B)微細藻類を、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程
を含む、方法。
(項目B2)
前記密度の所定値および/または前記濃縮の所定倍率が、前記微細藻類を濃縮した場合のフェオホルバイドの増大に基づいて決定される、上記項目のいずれかの方法。
(項目B3)
前記密度の所定値が、約10g/L(乾燥重量)以下である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B4)
前記密度の所定値が、約5g/L(乾燥重量)以下である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B5)
前記濃縮の所定倍率が、約100倍以上である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B6)
前記濃縮の所定倍率が、約10倍以上である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B7)
前記ストレス量の所定値が、約5以下である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B8)
前記ストレス量の所定値が、約3以下である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B9)
前記ストレス量の所定値が、約2以下である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B10)
(A)の工程において前記微細藻類を濃縮する処理を行わない、上記項目のいずれかの方法。
(項目B11)
前記微細藻類を培養する工程が、前記微細藻類を1g/L(乾燥重量)の密度以上に増殖させることを含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B12)
(B)の工程の後に前記微細藻類を濃縮する工程を含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B13)
(B)の工程が、前記微細藻類を加熱することを含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B14)
前記加熱は、95℃以上に加熱することを含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B15)
(B)の工程がフコキサンチンを分解しない、または(B)の工程の前後で比較した場合のフコキサンチンの減少が80%未満である条件で行われる、上記項目のいずれかの方法。
(項目B16)
前記条件は、フコキサンチンの分解量が10%未満であることを含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B17)
(B)の工程の後に前記微細藻類を乾燥させる工程を含む、上記項目のいずれかの方法。
(項目B18)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりクロロフィルを30mg以上生産する、上記項目のいずれかの方法。
(項目B19)
前記微細藻類がフコキサンチンを生産する藻類である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B20)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりフコキサンチンを8mg以上生産する藻類である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B21)
前記微細藻類が、ハプト藻綱である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B22)
前記微細藻類がパブロバ科である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B23)
前記微細藻類がパブロバ属である、上記項目のいずれかの方法。
(項目B24)
前記微細藻類が、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguisまたはP.salinaである、上記項目のいずれかの方法。
(項目B25)
前記微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、上記項目のいずれかの方法。
(項目B26)
上記項目のいずれかの方法を行うことを含む方法によって製造された、生物に使用するためまたは生物が摂取するための、前記微細藻類の藻体を含む微細藻類製品。
(項目B27)
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B28)
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B29)
微細藻類の藻体を含み、前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下(乾燥重量)である、生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
(項目B30)
微細藻類の藻体を含み、前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下(乾燥重量)である、生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
(項目B31)
前記微細藻類が、ハプト藻綱である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B32)
前記微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B33)
食用製品または化粧品である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B34)
前記生物が哺乳動物である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B35)
前記生物がヒトである、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B36)
フコキサンチンの含有量が0.8重量%以上である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B37)
前記微細藻類のフコキサンチン含有量が0.8重量%以上(乾燥重量)である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B38)
前記微細藻類のクロロフィル含有量が3重量%以上(乾燥重量)である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B39)
食用製品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B40)
食品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B41)
1日当たり100~150mgのクロロフィルを提供するように摂取される食用製品である、上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B42)
化粧品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B43)
上記項目のいずれかの方法により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
前記微細藻類濃縮液を凍結する工程
を含む凍結品を製造するための方法。
(項目B44)
凍結する工程が-40℃以下に冷却することを含む上記項目のいずれかの方法。
(項目B45)
凍結品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B46)
乳製品不添加、ラクトアイス、アイスミルクまたはアイスクリームである上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B47)
賦形剤、酸化防止剤、乳化剤、および増粘剤のうちの1つまたは複数を含む、上記項目のいずれかの凍結品。
(項目B48)
果実果汁およびフレーバーのうちの1つまたは複数を含む、上記項目のいずれかの凍結品。
(項目B49)
板状の形態である、上記項目のいずれかの凍結品。
(項目B50)
上記項目のいずれかの方法により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
前記微細藻類とオイルとを混合する工程
を含むオイル浸漬品を製造するための方法。
(項目B51)
前記微細藻類濃縮液に水を添加して脱塩する工程を含む上記項目のいずれかの方法。
(項目B52)
前記微細藻類濃縮液を凍結乾燥する工程を含む上記項目のいずれかの方法。
(項目B53)
オイル浸漬品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B54)
酸化防止剤を含む上記項目のいずれかのオイル浸漬品。
(項目B55)
酸化防止剤がαトコフェロールを含む上記項目のいずれかに記載のオイル浸漬品。
(項目B56)
乾燥藻体1gに対して約1~100重量%のオイルを含む上記項目のいずれかのオイル浸漬品。
(項目B57)
乳化剤を含む上記項目のいずれかのオイル浸漬品。
(項目B58)
上記項目のいずれかのオイル浸漬品を含む食用カプセル。
(項目B59)
乾燥剤および酸化防止剤のうちの1つまたは複数を含む、乾燥品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B60)
遮光容器に封入された、乾燥品である上記項目のいずれかの微細藻類製品。
(項目B61)
上記項目のいずれかの方法により微細藻類濃縮液を調製する工程、および
賦形剤、乳化剤および酸化防止剤のうちの1つまたは複数の存在下で前記微細藻類濃縮液を乾燥させる工程
を含む乾燥微細藻類を製造するための方法。
(項目A1)
パブロバ目の微細藻類製品を製造するための方法であって、
(A)培養後から(B)の工程まで微細藻類に与えるストレス量を所定値以下に制御する条件下で維持する工程であって、該微細藻類の密度を所定値以下に維持する、かつ/または該微細藻類を所定倍率以上濃縮しない工程、および
(B)微細藻類を、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程
を含む、方法。
(項目A2)
前記密度の所定値および/または前記濃縮の所定倍率が、前記微細藻類を濃縮した場合のフェオホルバイドの増大に基づいて決定される、項目A1に記載の方法。
(項目A3)
前記密度の所定値が、約10g/L(乾燥重量)以下である、項目A1または2に記載の方法。
(項目A4)
前記密度の所定値が、約5g/L(乾燥重量)以下である、項目A1または2に記載の方法。
(項目A5)
前記濃縮の所定倍率が、約100倍以上である、項目A1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記濃縮の所定倍率が、約10倍以上である、項目A1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記ストレス量の所定値が、約5以下である、項目A1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
前記ストレス量の所定値が、約3以下である、項目A1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記ストレス量の所定値が、約2以下である、項目A1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
(A)の工程において前記微細藻類を濃縮する処理を行わない、項目A1~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目A11)
前記微細藻類を培養する工程が、前記微細藻類を1.5g/L(乾燥重量)の密度以上に増殖させることを含む、項目A1~10のいずれか1項に記載の方法。
(項目A12)
(B)の工程の後に前記微細藻類を濃縮する工程を含む、項目A1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目A13)
(B)の工程が、前記微細藻類を加熱することを含む、項目A1~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目A14)
前記加熱は、95℃以上に加熱することを含む、項目A13に記載の方法。
(項目A15)
(B)の工程がフコキサンチンを分解しない、または(B)の工程の前後で比較した場合のフコキサンチンの減少が80%未満である条件で行われる、項目A1~14のいずれか1項に記載の方法。
(項目A16)
前記条件は、フコキサンチンの分解量が10%未満であることを含む、項目A15に記載の方法。
(項目A17)
(B)の工程の後に前記微細藻類を乾燥させる工程を含む、項目A1~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目A18)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりクロロフィルを30mg以上生産する、項目A1~17のいずれか1項に記載の方法。
(項目A19)
前記微細藻類がフコキサンチンを生産する藻類である、項目A1~18のいずれか1項に記載の方法。
(項目A20)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりフコキサンチンを8mg以上生産する藻類である、項目A1~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目A21)
前記微細藻類がパブロバ科である、項目A1~20のいずれか1項に記載の方法。
(項目A22)
前記微細藻類がパブロバ属である、項目A1~21のいずれか1項に記載の方法。
(項目A23)
前記微細藻類が、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguisまたはP.salinaである、項目A1~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目A24)
前記微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、項目A23に記載の方法。
(項目A25)
項目A1~24のいずれか1項に記載の方法を行うことを含む方法によって製造された、生物に使用するためまたは生物が摂取するための、前記微細藻類の藻体を含む微細藻類製品。
(項目A26)
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下である、項目A25に記載の微細藻類製品。
(項目A27)
前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下である、項目A26に記載の微細藻類製品。
(項目A28)
パブロバ目の微細藻類の藻体を含み、前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.2重量%以下(乾燥重量)である、生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
(項目A29)
パブロバ目の微細藻類の藻体を含み、前記微細藻類のフェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下(乾燥重量)である、生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
(項目A30)
前記微細藻類が、P.graniferaまたはP.gyransである、項目A28または29に記載の微細藻類製品。
(項目A31)
食用製品または化粧品である、項目A25~30のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A32)
前記生物が哺乳動物である、項目A25~31のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A33)
前記生物がヒトである、項目A25~31のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A34)
フコキサンチンの含有量が0.8重量%以上である、項目A25~33のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A35)
前記微細藻類のフコキサンチン含有量が0.8重量%以上(乾燥重量)である、項目A25~34のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A36)
前記微細藻類のクロロフィル含有量が3重量%以上(乾燥重量)である、項目A25~35のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A37)
食用製品である項目A25~36のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A38)
食品である項目A25~36のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A39)
1日当たり100~150mgのクロロフィルを提供するように摂取される食用製品である、項目A25~36のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目A40)
化粧品である項目A25~36のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目1)
生物に使用するためまたは生物が摂取するための微細藻類製品。
(項目2)
前記微細藻類がハプト藻である、項目1に記載の微細藻類製品。
(項目3)
フェオホルバイドの含有量が0.1重量%以下である、項目1または2に記載の微細藻類製品。
(項目4)
食用製品または化粧品である、項目1~3のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目5)
前記生物が哺乳動物である、項目1~4のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目6)
前記微細藻類のフェオホルバイド含有量が0.1重量%以下(乾燥重量)である、項目1~5のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目7)
前記微細藻類がパブロバ目である、項目1~6のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目8)
前記微細藻類がパブロバ科である、項目1~7のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目9)
前記微細藻類がパブロバ属である、項目1~8のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目10)
前記生物がヒトである、項目1~9のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目11)
フコキサンチンの含有量が0.8重量%以上である、項目1~10のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目12)
前記微細藻類のフコキサンチン含有量が0.8重量%以上(乾燥重量)である、項目1~11のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目13)
前記微細藻類のクロロフィル含有量が3重量%以上(乾燥重量)である、項目1~12のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目14)
化粧品である項目1~13のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目15)
食用製品である項目1~13のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目16)
食品である項目1~13のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目17)
1日当たり100~150mgのクロロフィルを提供するように摂取される食用製品で
ある、項目1~16のいずれか1項に記載の微細藻類製品。
(項目18)
微細藻類製品を製造するための方法であって、
(A)微細藻類を、ストレス量を制御する条件下で、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程
を含む、方法。
(項目19)
前記ストレス量が2未満である、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記ストレス量が3未満である、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程における前記微細藻類の密度が、10g/L(乾燥重量)以下である、項目18~20のいずれか1項に記載の方法。
(項目22)
(A)の工程の開始時に、前記微細藻類に与えられているストレス量が低度なストレス量である、項目18~21のいずれか1項に記載の方法。
(項目23)
前記微細藻類を培養する工程の後、(A)の工程の前に前記微細藻類を濃縮する処理を行わない、項目18~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目24)
前記微細藻類を培養する工程の後、(A)の工程の前に前記微細藻類の細胞密度を3g/L(乾燥重量)以下に濃縮することを含む、項目18~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記微細藻類を培養する工程が、前記微細藻類を1.7g/L(乾燥重量)の密度以上に増殖させることを含む、項目18~24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
(A)の工程の後に前記微細藻類を濃縮する工程を含む、項目18~25のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
(A)の工程が、前記微細藻類を加熱することを含む、項目18~26のいずれか1項に記載の方法。
(項目28)
前記加熱は、95℃以上に加熱することを含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
(A)の工程がフコキサンチンを分解しないまたはその分解が低減した条件で行われる、項目18~28のいずれか1項に記載の方法。
(項目30)
前記条件は、フコキサンチンの分解量が10%未満であることを含む、項目29に記載の方法。
(項目31)
(A)の工程の後に前記微細藻類を乾燥させる工程を含む、項目18~30のいずれか1項に記載の方法。
(項目32)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりクロロフィルを30mg以上生産する、項目18~31のいずれか1項に記載の方法。
(項目33)
前記微細藻類がフコキサンチンを生産する藻類である、18~32のいずれか1項に記載の方法。
(項目34)
前記微細藻類が、乾燥重量1g当たりフコキサンチンを8mg以上生産する藻類である、項目18~33のいずれか1項に記載の方法。
(項目35)
前記微細藻類がパブロバ目である、項目18~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記微細藻類がパブロバ科である、項目18~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
前記微細藻類がパブロバ属である、項目18~36のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記微細藻類が、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguisまたはP.salinaである、項目18~37のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
微細藻類を培養するための装置であって、
光を透過する材料の壁を有する少なくとも2つの培養部、
前記少なくとも2つの培養部の上部同士を連結する上部連結部、
前記少なくとも2つの培養部の下部同士を連結する下部連結部、および
前記少なくとも2つの培養部のうちの少なくとも1つであるが全てではない培養部に設置された少なくとも1つの気泡発生デバイス、
を含み、
前記少なくとも2つの培養部、上部連結部および下部連結部が、流体連通するように培地が封入されるように構成されており、
前記装置は、上部連結部の方が下部連結部よりも設置床から離れるように設置されることを特徴とする、装置。
(項目40)
前記少なくとも2つの培養部が約10mm~約1000mmの外径を有する、項目39に記載の装置。
(項目41)
前記少なくとも2つの培養部が約10cm~約1000cmの長さを有する、項目39または40に記載の装置。
(項目42)
前記気泡発生デバイスが、上部連結部よりも下部連結部に近い場所に設置される、項目39~41のいずれか1項に記載の装置。
(項目43)
前記培地が、フィルターおよび前記気泡発生デバイスを通してのみ外気と接触するように構成されている、項目39~42のいずれか1項に記載の装置。
(項目44)
前記気泡発生デバイス以外に撹拌のための動力源を持たない、項目39~43のいずれか1項に記載の装置。
(項目45)
前記少なくとも2つの培養部同士が、いずれの培養部同士も包含関係にない分離した部分である、項目39~44のいずれか1項に記載の装置。
(項目46)
前記少なくとも2つの培養部が互いに光を遮らないように構成されている、項目39~45のいずれか1項に記載の装置。
(項目47)
培養槽、および
クロロフィラーゼを失活させる処理を行う処理部
を含む微細藻類製品を製造するためのシステムであって、
前記培養部から前記処理部までの間が、微細藻類へのストレス量を制御するように構成されている、システム。
(項目48)
前記培養部から前記処理部までの間の水流を、ローラーポンプ、モーノポンプまたはダイヤフラムポンプによって発生させるように構成されている、項目47に記載のシステム。
【0008】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、微細藻類製品は、安全でありかつ新たな機能性を有し、健康、栄養および/または美容上の利益を提供し得る。また、本開示の微細藻類製品は、動物(特にヒト)に対して害となる成分が低減または消失されており、有害作用が低減または消失しているため、微細藻類製品の持つ機能を十分に奏することができる。本開示の製造方法およびシステムは、フェオホルバイドが低減された微細藻類製品の効率的な提供を可能にする。また、本開示の培養装置は、種々の微細藻類の細菌汚染の少ない高濃度培養を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で使用した種々のフォトバイオリアクターを示す。それぞれ、直径100mmのアクリル製、直径200mmのアクリル製、直径250mmのアクリル製、および直径450mmのポリエチレン袋である。
【
図2】実施例1で使用したオープン培養の培養槽を示す。それぞれ、500Lタンク(培地200Lを使用)、および750Lのレースウェイである。
【
図3】それぞれの培養槽で微細藻類を培養した時の増殖を示す。縦軸は、培地1L当たりに含まれる微細藻類の乾燥重量を示し、横軸は、培養日数を示す。
【
図4】最適に設計した微細藻類を高濃度培養可能なフォトバイオリアクターを示す。
【
図5】
図4のフォトバイオリアクターの装置構成を示す。
【
図6】微細藻類を高濃度培養可能なフォトバイオリアクターの別の実施形態を示す。図に示すように複数のフォトバイオリアクターを連結することができる。
【
図7】
図4のフォトバイオリアクターが高温にならないように水で冷却している様子を示す。
【
図8】最適に設計したフォトバイオリアクターにおいて微細藻類を培養した時の増殖を示す。縦軸は、培地1L当たりに含まれる微細藻類の乾燥重量を示し、横軸は、培養日数を示す。
【
図9】約40日間にわたってフォトバイオリアクターにおいて微細藻類を培養した時の増殖を示す。縦軸は、培地1L当たりに含まれる微細藻類の乾燥重量を示し、横軸は、培養日数を示す。実施例1で使用したオープン培養の培養槽を示す。
【
図10】モデル刺激を与えるために使用したカスケードポンプを示す。
【
図11】加熱処理の前後のハプト藻の顕微鏡観察像を示す。スケールバーは50μmを示す。
【
図12】実施例4で使用した加熱装置の構成を示す。
【
図13】それぞれの加熱処理を施した試料の遠心分離処理前後の試料の外観を示す。
【
図14】実施例4で使用したプレート式加熱装置を示す。
【
図15】微細藻類製品を製造するためのシステムの制御ユニットの構成を機能ごとに分けて示す例示的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
(定義等)
本明細書において「微細藻類」とは、葉緑体を含む顕微鏡サイズ(例えば、0.1μm~1mm)の微生物を指し、一般的には水中に棲息する。微細藻類には、原核生物である藍色細菌門(cyanobacteria)、ならびに真核生物である灰色植物門(Glaucophyta)、紅色植物門(紅藻)(Rhodophyta)、緑色植物門(Chlorophyta)、クリプト植物門(クリプト藻)(Cryptophyta)、ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)、不等毛植物門(Heterokontophyta)、渦鞭毛植物門(渦鞭毛藻)(Dinophyta)、ユーグレナ類(Euglenida)およびクロララクニオン植物門(Chlorarachniophyta)の生物が含まれる。
【0014】
緑色植物門にはトレボキシア藻綱(Trebouxiophyceae)が含まれ、トレボキシア藻綱にはクロレラ目(Chlorellales)が含まれ、クロレラ目(Chlorellales)にはクロレラ科(Chlorellaceae)が含まれ、クロレラ科(Chlorellaceae)にはクロレラ属(Chlorella)が含まれる。
【0015】
ユーグレナ類(Euglenida)にはユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)が含まれ、ユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)にはユーグレナ目(Euglenales)が含まれ、ユーグレナ目(Euglenales)にはユーグレナ科(Euglenaceae)が含まれ、ユーグレナ科(Euglenaceae)にはミドリムシ属(Euglena)が含まれる。
【0016】
藍色細菌門(cyanobacteria)にはユレモ目(Oscillatoriales)が含まれ、ユレモ目(Oscillatoriales)にはアルスロスピラ(オルソスピラ)属(Arthrospira)が含まれる。
【0017】
ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)にはハプト藻綱(Haptophyceae)が含まれ、ハプト藻綱(Haptophyceae)には、パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)およびプリムネシウム亜綱(rymnesiophycidae)が含まれる。パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)にはパブロバ目(Pavlovales)が含まれ、パブロバ目(Pavlovales)にはパブロバ科(Pavlovaceae)が含まれ、パブロバ科(Pavlovaceae)には、Diacronema、Exanthemachrysis、Pavlova、Rebeccaが含まれる。ハプト藻は細胞直径5~50μm程度の植物プランクトンで、光合成を行う独立栄養生物である。多くは海洋に生息するが、一部の種は淡水や塩湖にも分布する。ハプト藻の外洋域におけるバイオマスは大きく、海洋の一次生産者として重要である。
【0018】
本明細書において、「微細藻類製品」とは、微細藻類の藻体または微細藻類の一部の成分を含む製品(例えば、食用製品、化粧品)を指す。典型的には、微細藻類製品は乾燥品であるか、または、乾燥品からさらに加工された製品(成分抽出製品を含む)であるか、または乾燥させていない微細藻類から製造した成分抽出製品(例えば、フコキサンチン抽出製品)である。
【0019】
本明細書において、「食用製品」とは、生物(例えば、動物、ヒト)が摂取することを目的とした物品を指し、食用製品には、通常の意味で使用される食品および飲料、非ヒト動物用の餌の他に、食品添加物、機能性食品(例えば、特定保健用食品)、およびサプリメントが含まれる。
【0020】
本明細書において、「化粧品」とは、動物(例えば、ヒト)の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、着用され、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることを目的とする任意の製品を指す。本明細書において、「化粧品」とは、いわゆる医薬品医療機器等法(旧薬事法)上の「化粧品」に限定されず、例えば、医薬部外品、医薬品、雑貨のいずれであってもよい。本明細書において、「医薬部外品」とは、日本の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に定められた、医薬品と化粧品の中間的な分類で、人体に対する作用の緩やかなものを含み、人体に対する作用の緩やかな機械器具も含む。医薬部外品の例としては、薬用化粧品(薬用石鹸、薬用歯磨きなどを含む)、入浴剤、防除用医薬部外品(殺虫剤など)および指定医薬部外品(ドリンク剤、うがい薬、一部胃腸薬など)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「医薬品」とは、ヒトや動物の疾病の診断・治療・予防を行うために与える薬品を指し、日本薬局方に収められている物、人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品を除く)、および人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品および化粧品を除く)が含まれる。
【0021】
本明細書において、「クロロフィル(葉緑素)」は、当技術分野における通常の意味で使用され、しばしば光合成の明反応で光エネルギーを吸収するのに使用される物質である。葉緑体を有する微細藻類は、クロロフィルを含み得る。
【0022】
本明細書において、「フェオホルバイド」は、当技術分野における通常の意味で使用され、しばしば微細藻類においてクロロフィルの分解によって生じる物質である。フェオホルバイドは、クロロフィルにクロロフィラーゼが作用することによって生じ得る。皮膚障害を呈する衛生上の危害が発生し得る可能性があるため、クロレラ加工品などでは、含有量が規制されている(昭和五六年五月八日)(環食第九九号)(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省環境衛生局長通知))。
【0023】
本明細書において、「フコキサンチン」は、当技術分野における通常の意味で使用され、以下の構造
【化1】
を有する物質である。フコキサンチンは、加熱、光照射および酸化などによって分解されやすいことが知られている。
【0024】
本明細書において、微細藻類製品の「製造」とは、細胞を準備する工程から、微細藻類製品を得る工程までの一連のプロセス、その一部の工程、またはその工程の任意の組み合わせを指し、「生産」と交換可能に使用される。例えば、微細藻類製品の製造には、これらに限定されないが、微細藻類を培養する工程、微細藻類を処理する工程(例えば、加熱処理)、微細藻類を濃縮する工程、および微細藻類を乾燥させる工程などのうち少なくとも1つの工程が含まれ得る。
【0025】
本明細書において、「培養」とは、当技術分野における通常の意味で使用され、細胞を培地中または培地上で生存状態に維持する操作を指し、細胞の数は、培養中に増えてもよいし、減ってもよいし、維持されてもよい。本明細書において、「本培養」とは、その培養の終了後に、得られた微細藻類を製品製造のための原料として使用する培養を指す。本明細書において、「シード培養」とは、本培養以外の培養を指し、例えば、より大規模な培養に移す前の培養、微細藻類を安定状態で維持するために細胞密度が大きく変動しないような条件下で実施される培養(維持培養)、細胞状態を変更する(例えば、休眠状態から安定状態への変更(順化培養)、安定状態から急速増殖状態への変更)ための培養などが挙げられる。
【0026】
本明細書において、「濃縮」とは、細胞増殖によらない手段(例えば、遠心分離、濾過、媒体の除去など)によって細胞密度を上昇させる操作を指す。濃縮は、前記微細藻類の細胞密度を3g/L(乾燥重量)に維持することで表現されることもできる。
【0027】
本明細書において、「ストレス量」とは、微細藻類中で産生されるフェオホルバイド量を増大させる任意の操作によって蓄積された、フェオホルバイド生産性の指標である。ある操作が微細藻類に与えるストレス量は、その操作の有無以外は同一の条件下で、常温で培養したNBRC 102809株(NITEから入手可能)について、既存フェオホルバイド量の測定を行った場合の、(その操作を行ったときに測定される既存フェオホルバイド量)/(その操作を行わなかったときに測定される既存フェオホルバイド量)で表される割合と定義される。特に大きな刺激を与えていないNBRC 102809株では、約30~90mg/100g(乾燥重量)の既存フェオホルバイド量が観察され得る。ストレス量は、類似の条件において測定された既存フェオホルバイド量から予測することができる。
【0028】
本明細書において、「高度なストレス量」とは、各操作によって与えられたストレス量の合計が5以上であるストレス量を指す。
【0029】
本明細書において、「低度なストレス量」とは、各操作によって与えられたストレス量の合計が2以下であるストレス量を指す。
【0030】
本明細書で使用されるとき、試料中の分析物の「量」は、一般には、試料の体積中で検出し得る分析物の質量を反映する絶対値を指す。しかし、量は、別の分析物量と比較した相対量も企図する。例えば、試料中の分析物の量は、試料中に通常存在する分析物の対照レベルまたは正常レベルより大きい量であってもよい。
【0031】
本明細書において、用語「約」は、他のそうであると明示しない限り、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。
【0032】
本明細書において「システム」とは、本開示の方法またはプログラムを実行する構成をいい、本来的には、目的を遂行するための体系や組織を意味し、複数の要素が体系的に構成され、相互に影響するものであり、コンピューターの分野では、ハードウェア、ソフトウェア、OS、ネットワークなどの、全体の構成をいうが、本開示では、必ずしもコンピューターを利用することは必須ではなく、種々の構成からなる構成物であれば、システムの範疇に入ることが理解される。
【0033】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0034】
(微細藻類製品)
一つの局面において、本開示は、微細藻類製品を提供する。一つの実施形態において、微細藻類製品は、食品または化粧品である。発明者は、微細藻類におけるフェオホルバイド生成を抑制したまま微細藻類製品を調製する方法を見出したことにより、安全な微細藻類製品(例えば、食品、化粧品)の提供が可能になった。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)に含まれるフェオホルバイド量は、約1重量%以下、約0.7重量%以下、約0.5重量%以下、約0.2重量%以下、約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.01重量%以下、約0.007重量%以下、約0.005重量%以下、約0.002重量%以下、約0.001重量%以下、約0.0007重量%以下、約0.0005重量%以下、約0.0002重量%以下、または約0.0001重量%以下などであり得る。
【0035】
本開示の微細藻類製品には、任意の微細藻類が使用され得る。本開示の微細藻類製品は、微細藻類の藻体および微細藻類成分の抽出物のいずれを含んでもよく、ここで、藻体は、無傷の細胞だけでなく、破断されて細胞成分が分離した状態の細胞も指し、例えば、藻類細胞の主要な構成成分(例えば、細胞壁、細胞膜、タンパク質、脂質、炭水化物)のいずれかが、微細藻類製品中に10重量%以上、5重量%以上、1重量%以上、0.5重量%以上、0.1重量%以上、0.05重量%以上、0.01重量%以上、0.005重量%以上、0.001重量%以上、0.0005重量%以上、または0.0001重量%以上含まれる状態を指し得る。使用され得る微細藻類の例として、藍色細菌門(cyanobacteria)、ならびに真核生物である灰色植物門(Glaucophyta)、紅色植物門(紅藻)(Rhodophyta)、緑色植物門(Chlorophyta)、クリプト植物門(クリプト藻)(Cryptophyta)、ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)、不等毛植物門(Heterokontophyta)、渦鞭毛植物門(渦鞭毛藻)(Dinophyta)、ユーグレナ類(Euglenida)およびクロララクニオン植物門(Chlorarachniophyta)の生物が挙げられる。例えば、使用され得る緑色植物門の微細藻類にはトレボキシア藻綱(Trebouxiophyceae)が含まれ、トレボキシア藻綱にはクロレラ目(Chlorellales)が含まれ、クロレラ目(Chlorellales)にはクロレラ科(Chlorellaceae)が含まれ、クロレラ科(Chlorellaceae)にはクロレラ属(Chlorella)が含まれる。例えば、使用され得るユーグレナ類(Euglenida)の微細藻類にはユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)が含まれ、ユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)にはユーグレナ目(Euglenales)が含まれ、ユーグレナ目(Euglenales)にはユーグレナ科(Euglenaceae)が含まれ、ユーグレナ科(Euglenaceae)にはミドリムシ属(Euglena)が含まれる。例えば、使用され得る藍色細菌門(cyanobacteria)の微細藻類にはユレモ目(Oscillatoriales)が含まれ、ユレモ目(Oscillatoriales)にはアルスロスピラ(オルソスピラ)属(Arthrospira)が含まれる。例えば、使用され得るハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)の微細藻類にはハプト藻綱(Haptophyceae)が含まれ、ハプト藻綱(Haptophyceae)には、パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)およびプリムネシウム亜綱(rymnesiophycidae)が含まれる。パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)にはパブロバ目(Pavlovales)が含まれ、パブロバ目(Pavlovales)にはパブロバ科(Pavlovaceae)が含まれ、パブロバ科(Pavlovaceae)には、Diacronema、Exanthemachrysis、PavlovaおよびRebeccaが含まれる。プリムネシウム亜綱にはイソクリシス目(Isochrysidales)が含まれ、イソクリシス目にはIsochrysis、Imantonia、Emiliania、GephyrocapsaおよびReticulofenestraの属が含まれ、Isochrysisには、I.galbana、I.litoralis、I.maritima、Tisochrysis luteaが含まれ、Emilianiaには、E.huxleyiが含まれ、Gephyrocapsaには、G.oceanica、G.ericsonii、G.muellerae、G.protohuxleyiが含まれる。イソクリシス目の微細藻類とパブロバ目の微細藻類とは、フコキサンチンを生産し、EPAを高生産するという同様の性質を有し得るため、本開示において、フコキサンチン生産において問題となり得るフェオホルバイトの産生の問題の点については少なくとも、パブロバ目に属する微細藻類とイソクリシス目に属する微細藻類とは共通の課題を有することになるため、本開示について当該文脈において、本開示の内容によって、その課題が同様に解決されると当業者には理解される。本開示の好ましい実施形態では、フェオホルバイド量の産生量が問題となり得る微細藻類が対象となる微細藻類として含まれ得る。そのような微細藻類としては、ミドリムシ目(例えば、上述のミドリムシ科、ミドリムシ属の微細藻類)、パブロバ目(例えば、上述のパブロバ科、パブロバ属の微細藻類)、イソクリシス目(例えば、上述のイソクリシス科、イソクリシス属の微細藻類)が挙げられるがこれらに限定されない。一つの実施形態において、使用される微細藻類は、パブロバ科である。一つの実施形態において、使用される微細藻類は、パブロバ属である。一つの実施形態において、使用される微細藻類は、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguisまたはP.salinaである。
【0036】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品に含まれる微細藻類は、フェオホルバイドが低減されている。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品に含まれる微細藻類のフェオホルバイド含有量は、約1重量%以下、約0.7重量%以下、約0.5重量%以下、約0.2重量%以下、約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.01重量%以下、約0.007重量%以下、約0.005重量%以下、約0.002重量%以下、または約0.001重量%以下などであり得る。微細藻類製品に含まれる微細藻類のフェオホルバイド含有量は、(微細藻類製品に含まれるフェオホルバイド量)/(微細藻類製品に含まれる微細藻類量)で計算され得る。
【0037】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品には、フコキサンチンを高生産する微細藻類(例えば、ハプト藻綱)を使用することができる。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)に含まれるフコキサンチン量は、約0.001重量%以上、約0.002重量%以上、約0.005重量%以上、約0.007重量%以上、約0.01重量%以上、約0.02重量%以上、約0.05重量%以上、約0.07重量%以上、約0.1重量%以上、約0.2重量%以上、約0.5重量%以上、約0.7重量%以上、約1重量%以上、約2重量%以上、または約5重量%以上などであり得る。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品に含まれる微細藻類のフコキサンチン含有量は、約0.01重量%以上、約0.02重量%以上、約0.05重量%以上、約0.07重量%以上、約0.1重量%以上、約0.2重量%以上、約0.5重量%以上、約0.7重量%以上、約1重量%以上、約2重量%以上、または約5重量%以上などであり得る。微細藻類製品に含まれる微細藻類のフコキサンチン含有量は、(微細藻類製品に含まれるフコキサンチン量)/(微細藻類製品に含まれる微細藻類量)で計算され得る。フコキサンチンには、抗肥満、抗糖尿病、抗酸化、抗がん、血管新生抑制などの効果があることが知られているため、フコキサンチンを多く含有する本開示の微細藻類製品は、これらの効果を奏することが期待される。
【0038】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品には、クロロフィルを高生産する微細藻類(例えば、ハプト藻綱)を使用することができる。クロロフィルはフェオホルバイドを生じ得るが、発明者は、クロロフィルを高生産する微細藻類であってもフェオホルバイド量を上昇させないように加工して微細藻類製品を製造する方法を見出したため、クロロフィルを高生産する微細藻類であっても好適に使用することができる。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)に含まれるクロロフィル量は、約0.001重量%以上、約0.002重量%以上、約0.005重量%以上、約0.007重量%以上、約0.01重量%以上、約0.02重量%以上、約0.05重量%以上、約0.07重量%以上、約0.1重量%以上、約0.2重量%以上、約0.5重量%以上、約0.7重量%以上、約1重量%以上、約2重量%以上、約5重量%以上、約7重量%以上、約10重量%以上、約20重量%以上、約30重量%以上、または約40重量%以上などであり得る。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品に含まれる微細藻類のクロロフィル含有量は、約0.01重量%以上、約0.02重量%以上、約0.05重量%以上、約0.07重量%以上、約0.1重量%以上、約0.2重量%以上、約0.5重量%以上、約0.7重量%以上、約1重量%以上、約2重量%以上、約5重量%以上、約7重量%以上、約10重量%以上、約20重量%以上、約30重量%以上、または約40重量%以上などであり得る。微細藻類製品に含まれる微細藻類のクロロフィル含有量は、(微細藻類製品に含まれるクロロフィル量)/(微細藻類製品に含まれる微細藻類量)で計算され得る。
【0039】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、食品、餌、サプリメント、食品添加物、飲料などの食用製品であり得るが、任意の食用製品であり得る。食品である微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)は、約0.001~100重量%、例えば、約0.001重量%、約0.002重量%、約0.005重量%、約0.007重量%、約0.01重量%、約0.02重量%、約0.05重量%、約0.07重量%、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.5重量%、約0.7重量%、約1重量%、約2重量%、約5重量%、約7重量%、約10重量%、約20重量%、約50重量%、約70重量%、または約100重量%の微細藻類またはその成分を含み得る。例えば、パブロバ目の微細藻類は、細胞壁を持たず、軟らかいという特性を有し得るため、摂取したときに不快な食感を与えない。微細藻類の味や風味が気になる場合は、任意の好適な矯味剤、矯臭剤、マスキング剤と組み合わせて使用してもよいし、コーティングやカプセル化などの手段を使用して微細藻類の味や風味をマスキングしてもよい。本開示において、微細藻類のフェオホルバイドは低減され得るので、微細藻類製品(例えば、サプリメント、食品添加物)は、例えば、約10重量%以上などの高濃度で微細藻類を含むことができる。また、フコキサンチンなどの有用成分を豊富に含む微細藻類は、少量の摂取で効果が発揮され得るので、サプリメントおよび/または食品添加物として使用することができる。
【0040】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、任意の化粧品であり得る。化粧品である微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)は、約0.001~100重量%、例えば、約0.001重量%、約0.002重量%、約0.005重量%、約0.007重量%、約0.01重量%、約0.02重量%、約0.05重量%、約0.07重量%、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.5重量%、約0.7重量%、約1重量%、約2重量%、約5重量%、約7重量%、約10重量%、約20重量%、約50重量%、約70重量%、または約100重量%の微細藻類またはその成分を含み得る。例えば、パブロバ目の微細藻類は、細胞壁を持たず、軟らかいという特性を有し得るため、皮膚に適用したときの刺激が少ない。微細藻類の匂いなどが気になる場合は、任意の好適な矯臭剤、マスキング剤と組み合わせて使用してもよいし、コーティングやカプセル化などの手段を使用して微細藻類の成分をマスキングしてもよい。本開示において、微細藻類のフェオホルバイドは低減され得るので、微細藻類化粧品は、例えば、約10重量%以上などの高濃度で微細藻類を含んでも安全に使用することができる。
【0041】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、哺乳動物用である。一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、ヒト用(例えば、ヒトの食用)である。
【0042】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品は、乾燥状態であっても水分が含まれていてもよい。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品中の水分量は、約0.1重量%~約50重量%、例えば、約0.5重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%、約7重量%、約10重量%、約20重量%、約30重量%、約40重量%、約50重量%、特に、約2.5重量%、約3重量%、約4重量%などであり得る。乾燥させることによって、微細藻類の保存性、易加工性などが向上し得る。一つの実施形態において、乾燥状態である本開示の微細藻類製品は、賦形剤(デキストリンなど)、乾燥剤、酸化防止剤および脱酸素剤のうちの1つまたは複数を含んでもよく、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)の分解が低減され得る。乾燥剤、酸化防止剤および脱酸素剤は、食品に添加して、または食品の包装に一緒に封入して使用することができる任意のものを使用することができる。一つの実施形態において、乾燥剤、酸化防止剤および/または脱酸素剤は、通気性の袋などの容器に入れて本開示の微細藻類製品に添加され得る。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(例えば、乾燥品)には、乳化剤が含まれていてもよく、例えば、酸化防止剤が微細藻類細胞内に入るのが促進され得る。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(例えば、乾燥品)は、遮光容器に封入されていてもよく、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)の分解が低減され得る。本開示の微細藻類製品(例えば、乾燥品)は、低温で保存されてもよく、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)の分解が低減され得る。
【0043】
本開示の微細藻類製品は、任意の好適な形態であり得る。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品は、例えば、タブレット(乾燥)、粉末、カプセル、クリーム、冷凍品、液状などの形態であり得るが、これらに限定されない。
【0044】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、オイル浸漬品であり得る。オイルは、任意の食用油であってよく、例えば、オリーブ油、ナタネ油、エゴマ油、アマニ油、コーン油、大豆油、ひまわり油、紅花油、綿実油、コメ油、アルガンオイル、アボカドオイル、アーモンドオイル、ピーナツオイル、バター、ヘッド、ラード、ショートニング、マーガリン、ヤシ油、パーム油、ココナッツ油などであり得る。特定の実施形態では、オイル浸漬品において、乾燥した本開示の微細藻類が使用される。オイル浸漬品における本開示の微細藻類:オイルの混合比は、例えば、重量で、約1:100~100:1、約1:50~50:1、約1:20~20:1、約1:10~10:1、約1:5~5:1、約1:75、約1:50、約1:25、約1:20、約1:15、約1:10、約1:7、約1:5、約1:2、約1:1、約2:1、約5:1、約7:1、約10:1、約15:1、約20:1、約25:1、約50:1、約75:1または約100:1であり得る。一つの実施形態では、本開示のオイル浸漬品は、酸化防止剤を含んでもよく、酸化防止剤として、例えば、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール、例えば、ビタミンE)、アスコルビン酸、βカロテン、ビタミンA、リコペン、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、セサミン、クルクミン、クマリン、オレオカンタール、オレウロペイン、レスベラトロール、カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、ルビキサンチン、ユビキノールが挙げられるが、これらに限定されない。一つの実施形態では、本開示のオイル浸漬品は、乳化剤によって乳化された形態で提供されてもよい。一つの実施形態では、本開示のオイル浸漬品は、賦形剤(デキストリンなど)を含んでもよい。一つの実施形態では、本開示のオイル浸漬品は、食用カプセルに封入されて提供され得る。
【0045】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、凍結品であり得る。低温では、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)の分解が低減され得る。一つの実施形態では、凍結品は、乳製品不添加、シャーベット、ラクトアイス(乳固形分3%以上)、アイスミルク(乳固形分10%以上:乳脂肪分3%以上)、アイスクリーム(乳固形分15%以上:乳脂肪分8%以上)、アイスキャンディー、ソフトクリームなどであり得るがこれらに限定されない。凍結品には、賦形剤(シクロデキストリン、糖類など)、果汁(例えば、柑橘類、ブドウ、リンゴ、モモなど)、果実エキス、野菜汁、甘味料、フレーバー、着色料、酸化防止剤、増粘剤などが添加されていてもよい。一つの実施形態では、凍結品は、板状の形態、またはカップ入りの形態であり得る。本開示の微細藻類は、海藻の風味を有し得るため、凍結品においては、この風味をマスキングするための添加剤(例えば、果汁、果実エキス、フレーバー)を添加してもよい。
【0046】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品(本明細書において、各成分の重量%は水分を除いた重量当たりとして定義される)は、
約1~5重量%の本開示の微細藻類および約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.01重量%以下、約0.007重量%以下、約0.005重量%以下、約0.002重量%以下、または約0.001重量%以下のフェオホルバイド、
約5~10重量%の本開示の微細藻類および約0.2重量%以下、約0.15重量%以下、約0.1重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.015重量%以下、約0.01重量%以下、約0.005重量%以下、または約0.002重量%以下のフェオホルバイド、
約10~20重量%の本開示の微細藻類および約0.5重量%以下、約0.2重量%以下、約0.1重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.015重量%以下、約0.01重量%以下、約0.007重量%以下、または約0.005重量%以下のフェオホルバイド、
約20~50重量%の本開示の微細藻類および約1重量%以下、約0.7重量%以下、約0.5重量%以下、約0.2重量%以下、約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、約0.01重量%以下または約0.005重量%以下のフェオホルバイド、あるいは
約50~100重量%の本開示の微細藻類および約2重量%以下、約1.5重量%以下、約1重量%以下、約0.5重量%以下、約0.2重量%以下、約0.15重量%以下、約0.1重量%以下、約0.07重量%以下、約0.05重量%以下、約0.02重量%以下、または約0.01重量%以下のフェオホルバイド、
を含み得る。
【0047】
(微細藻類製品の製造方法)
一つの局面において、本開示は、微細藻類製品の製造方法を提供する。この製造方法には、微細藻類を培養する工程、微細藻類を処理する工程、微細藻類を濃縮する工程、微細藻類を乾燥させる工程、および微細藻類の成分を分離する工程のうちの少なくとも1つの工程が含まれる。上記の本開示の微細藻類製品において使用することができる任意の微細藻類を、この製造方法において使用することができる。また、この製造方法は、上記の本開示の微細藻類製品に含まれる微細藻類の任意の状態(例えば、フェオホルバイド、フコキサンチンおよび/またはクロロフィル含有量)を達成するように実施することができる。
【0048】
本開示の一つの特徴は、微細藻類製品の製造方法の任意の工程において、微細藻類をストレス量を制御する条件下で、クロロフィラーゼを失活させる処理(例えば、加熱)に供することを含む。本開示の種々の実施形態では、微細藻類のストレス量を制御する条件は、任意の条件でありうるが、例えば、微細藻類を濃縮する処理を行わない条件、一定の細胞密度以下に微細藻類を維持する条件、濃縮の際に細胞に掛かる圧力(例えば、遠心濃縮の際のGの強さ)および/または時間(例えば、遠心操作の時間)を弊害の出ない範囲に制限する条件、添加物(例えば、沈降剤、凝集剤)投与により濃縮に伴う細胞への物理障害および化学障害を低減する条件等を挙げることができる。1つの実施形態では、工程(A)中にストレス量を測定する工程を包含してもよい。フェオホルバイドの抑制のためのストレス量の制御は、例えば、微細藻類の密度を低度に維持すること、および/または微細藻類を大きく濃縮しないことで達成され得る。一つの実施形態において、培養後からクロロフィラーゼを失活させる処理までに微細藻類に与えるストレス量は、微細藻類の密度を所定値以下に維持すること、および/または微細藻類を所定倍率以上に濃縮しないことで所定値以下に維持され得る。このときの密度の所定値および濃縮の所定倍率は、目的の微細藻類を濃縮した場合のフェオホルバイドの増大に基づいて決定され得る。
【0049】
なお、ストレス量の制御は、「加熱前の刺激レベルを極力抑える」ことで実現され得る。例えば、パブロバなどの微細藻類に加える刺激の量を規定するか、または刺激を加えられたパブロバの状態を規定することができる。例えば、視認性が高いのは、パブロバは細胞壁がなく柔らかいので、遠心力で形が扁平になったり、細胞が傷ついているという外見を挙げることができる。
【0050】
特に、本開示は、微細藻類製品を製造するための方法であって、
(A)培養後から(B)の工程まで微細藻類に与えるストレス量を所定値以下に制御する条件下で維持する工程であって、該微細藻類の密度を所定値以下に維持する、かつ/または該微細藻類を所定倍率以上濃縮しない工程、および
(B)微細藻類を、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程
を含む、方法を提供することを特徴とする。発明者は、微細藻類がストレス負荷に曝された場合に、有害なフェオホルバイトが生成されることを予想外に見出した。このフェオホルバイト生成を回避するための方法を模索したところ、微細藻類を、クロロフィラーゼを失活させる処理に供することでそれ以降のフェオホルバイト増大を抑制できることを見出した。しかし、クロロフィラーゼ失活処理の前にすでにフェオホルバイトが多量に生成されている場合には、クロロフィラーゼ失活処理によるフェオホルバイト抑制効果は限定的であった。フェオホルバイトの元となるクロロフィルを多く生産し得る微細藻類において、より有効なフェオホルバイト抑制を達成するために検討を重ねたところ、培養後クロロフィラーゼ失活処理の前の期間においてストレス負荷を避ける、特に、高密度および濃縮操作によるストレス負荷を避けることが重要であることが見出された。クロレラなどの細胞壁を有する「硬い」微細藻類については、高密度や濃縮操作が細胞にストレスを与える要因であるとは考えられず、この知見は、「軟らかい」パブロバ目の微細藻類特有のものであると予測される。そのため、培養後クロロフィラーゼ失活処理の前までの期間における細胞密度および濃縮操作に注意を払う必要があること自体が、従来は認識されていなかった課題である。このような課題は新規であるが、使用する微細藻類について、所望のフェオホルバイト抑制効果を達成するために必要な密度および濃縮倍率の限界は、当業者が容易に決定することができるものである。例えば、微細藻類を濃縮した場合にどの程度フェオホルバイド量が増大するかを実験的に確認することで許容される密度および濃縮倍率は決定され得る。
【0051】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を培養する工程を含む。一つの実施形態において、培養する工程は、シード培養する工程および本培養する工程などに細分され得る。一つの実施形態において、シード培養は、複数の培養段階(例えば、試験管の培養段階(約100mL)、ペットボトル、フラスコもしくはメデューム瓶の培養段階(約1L以下)、本開示のフォトバイオリアクターの培養段階(約5L)、10~20本の約5L容量の本開示のフォトバイオリアクターまたは2~4本の約25L容量の本開示のフォトバイオリアクターの培養段階(約50~100L)、およびより大規模なフォトバイオリアクターの培養段階(約1000L以上)のうちの任意の組み合わせ)を含んでもよい。特に断らない限り、以下で説明する培養条件はいずれの種類の培養においても適用され得る。微細藻類を培養する工程における条件(例えば、温度、pH、撹拌条件、光照射条件、および培地組成)はそれぞれ好適に設定することができる。一つの実施形態において、微細藻類の培養は複数の段階(例えば、シード培養および本培養、屋内での汚染フリー培養および屋外での高速増殖培養、順化培養および本培養など)を含んでもよい。微細藻類を培養する工程が、前記微細藻類を1.5g/L(乾燥重量)または1.7g/L(乾燥重量)の密度以上に増殖させることを含んでいてもよい。
【0052】
一つの実施形態において、微細藻類は、約0℃~80℃、より具体的には、約20℃~30℃の温度で培養され得る。適切な温度の上限としては、80℃、70℃、60℃、50℃、40℃、30℃、20℃等を挙げることができ、下限としては、0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃等を挙げることができ、矛盾がない限り、これらの任意の組合せが適切な温度範囲として採用され得る。微細藻類が死滅しない限り、任意の培養温度を利用することができる。培養温度は一定である必要はなく、特に、培養槽が屋外に設置される場合には、厳密な温度管理はされなくてもよい。培養期間の少なくとも一部において、微細藻類が好適に生存・増殖することができる温度に供することが好ましい。直射日光などによって温度が上昇しすぎる場合には、任意の冷却手段(例えば、水冷)によって温度を下げることができる。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約25~30℃の温度で好適に増殖し得る。
【0053】
一つの実施形態において、微細藻類は、約2~13のpHで培養され得る。適切なpHの上限としては、pH13、pH12、pH11、pH10、pH9、pH8.5、pH8、pH7.5、pH7、pH6等を挙げることができ、下限としては、pH2、pH3、pH4、pH5、pH6、pH6.5、pH7、pH7.5、pH8等を挙げることができ、矛盾がない限り、これらの任意の組合せが適切なpH範囲として採用され得る。微細藻類が死滅しない限り、任意のpHを利用することができる。微細藻類の種類ごとに好適なpHは異なり得るが、当業者であれば、使用する微細藻類に好適なpHを容易に設定することができる。培養中に急激なpH変化を起こさないことが好ましく、任意の好適な緩衝剤(例えば、二酸化炭素、アミン化合物など)を使用してpH変化を制御することができる。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約8のpHの弱アルカリ性の環境で好適に増殖し得る。
【0054】
一つの実施形態において、微細藻類は、培養中に撹拌条件に供されてもよいし、撹拌しなくてもよい。撹拌のための手段として、曝気撹拌、機械的撹拌(パドル撹拌など)、流水撹拌(例えば、ポンプを使用する)、培養槽の振盪などによる撹拌などが挙げられるが、これらに限定されない。撹拌手段によっては微細藻類がダメージを受ける場合があり、特に細胞壁をもたないユーグレナやハプト藻などは比較的軟らかいため、培養において細胞を破壊するような激しい撹拌は避けることが好ましくあり得る。
【0055】
一つの実施形態において、微細藻類は、培養期間中の少なくとも一部において光照射下で培養され得る。微細藻類の種類によって異なるが、微細藻類がダメージを受けない範囲で照射する光量が多いほど、微細藻類の増殖速度は向上し得る。微細藻類によっては、一定ではない光照射が好ましい場合もある。特定の波長領域を選択的に照射してもよい。微細藻類を屋外培養する場合、自然光を利用することが有利であり得る。微細藻類を屋外培養し自然光のみを光源として利用する場合であっても、培養槽の深さの調整またはフォトバイオリアクターの直径の調整などによって、微細藻類1細胞当たりの光量を制御することができる。特に、光合成色素の多いハプト藻などを増殖させる際には、自然光などの高い光量を照射することが有利であり得る。使用できる光エネルギー量は、例えば、約30μmol m-2s-1~約3000μmol m-2s-1、または約30μmol m-2s-1~約1500μmol m-2s-1であり得、約50μmol m-2s-1~約300μmol m-2s-1が好ましくあり得る。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約100μmol m-2s-1~約150μmol m-2s-1の光エネルギー量で好適に増殖し得る。
【0056】
微細藻類の培養の際に使用する培地の組成は、微細藻類の種類に合わせて任意の好適なものとすることができる。培地に含まれ得る代表的な成分として、無機塩(例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩)、糖(例えば、グルコース)、有機塩、窒素源(硝酸塩、アンモニウム塩など)、リン源(無機リン、リン酸塩など)などが挙げられるが、その他の成分が含まれていてもよい。窒素源やリン源などは、微細藻類の増殖に伴い消費され得るので適宜添加することができる。また、炭素源(例えば、二酸化炭素)を添加すると、微細藻類に利用され得る。例えば、ハプト藻を培養する場合、ハプト藻の多くは海水~汽水域に生息するため、海水~汽水の組成と近い培地(例えば、海水の約50~75%の塩類を含む培地)または海水~汽水の浸透圧と近い培地が好適に使用され得る。
【0057】
本開示の製造方法における培養する工程において、微細藻類密度を増大させることが培養の効率化のために好ましいが、例えば、微細藻類の乾燥重量換算で、少なくとも0.01g/L、少なくとも0.02g/L、少なくとも0.05g/L、少なくとも0.07g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.2g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少なくとも3g/L、少なくとも3.5g/L、少なくとも4g/L、少なくとも4.5g/L、少なくとも5g/L、少なくとも5.5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも7g/L、少なくとも8g/L、少なくとも9g/L、少なくとも10g/L、少なくとも20g/L、少なくとも50g/Lまたは少なくとも100g/Lの密度まで培養することができる。特に、下で詳細に記載する本開示の装置を使用すれば、微細藻類(例えば、ハプト藻)を2g/L以上の高密度に培養することが可能であり得る。培養期間は、目的の微細藻類密度が達成されるまで継続してもよいし、所定の培養期間を規定してもよいし、維持培養など無期限に継続してもよい。
【0058】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を処理する工程を含む。一つの実施形態において、この処理は、クロロフィラーゼを失活させる処理である。クロロフィラーゼを失活させることによってフェオホルバイドの生成を抑制することができる。クロロフィラーゼを失活させる処理として、例えば、加熱処理、任意の公知のタンパク質変性処理(温度負荷(低温、高温)、薬剤処理(アルコール、強酸、強塩基、他の変性剤)、放射線照射(紫外線、ガンマ線など))などが挙げられるが、これらに限定されない。クロロフィラーゼを失活させる処理(例えば、加熱処理)は、クロロフィラーゼを失活させる任意の好適な条件(手段、時間など)で実施することができるが、微細藻類を破壊しない、および/または微細藻類の有用成分を破壊しない条件が好ましく適用され得る。例えば、ハプト藻はフコキサンチンを産生し得るため、フコキサンチンの分解が少ない、例えば、処理前後で比較した場合のフコキサンチンの減少が、0.01%未満、0.02%未満、0.05%未満、0.07%未満、0.1%未満、0.2%未満、0.5%未満、0.7%未満、1%未満、2%未満、3%未満、4%未満、5%未満、6%未満、7%未満、8%未満、9%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満、60%未満、70%未満、または80%未満である条件で処理されることが好ましく得る。クロロフィラーゼを失活させる処理は、ストレス量を制御する条件下で行うことが好ましく、この処理の前に与えられたストレス量が大きくない微細藻類に対して実施されることが好ましい。大きなストレス量が与えられた微細藻類に対してクロロフィラーゼを失活させる処理を施した場合には、すでに大量のフェオホルバイドが産生されている可能性があり、クロロフィラーゼ失活によるフェオホルバイド抑制効果が十分に得られない場合がある。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理の前に微細藻類に与えられるストレス量は、1000以下、700以下、500以下、200以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4.5以下、4以下、3.5以下、3以下、2.5以下、2以下、1.5以下、または1.2以下である。一つの実施形態において、微細藻類を処理する工程は、微細藻類および/または他の微生物を死滅させることを含む。微細藻類製品を食品または食品添加物として提供する場合、生存生物が存在しない方が製品の取り扱いが容易であり得る。例えば、このような死滅させる処理としては、加熱処理、放射線照射などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理は、加熱処理であり、約50℃~200℃、例えば、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約85℃、約90℃、約95℃、約97℃、約100℃、約102℃、約105℃、約107℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃、約200℃などにおける加熱処理であり得る。加熱処理の時間は、約10秒~20時間、例えば、約10秒、約30秒、約1分、約2分、約5分、約7分、約10分、約15分、約20分、約25分、約30分、約40分、約50分、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約4時間、約5時間、約7時間、約10時間、約20時間などであり得る。
【0060】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理時の微細藻類の密度は、乾燥重量で、約0.01~100g/L、例えば、約100g/L以下、約70g/L以下、約50g/L以下、約40g/L以下、約30g/L以下、約20g/L以下、約15g/L以下、約10g/L以下、約7g/L以下、約5g/L以下、約4g/L以下、約3g/L以下、約2g/L以下、約1g/L以下、約0.5g/L以下、または約0.1g/L以下、かつ約0.01g/L以上、約0.05g/L以上、約0.1g/L以上、約0.2g/L以上、約0.5g/L以上、約0.7g/L以上、約1g/L以上、約2g/L以上、約3g/L以上、約4g/L以上、約5g/L以上、約7g/L以上、または約10g/L以上であり得る。微細藻類の密度が例えば10g/Lを超えると、全体にわたるクロロフィラーゼの失活が不十分となる場合があり得る。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理までの間に微細藻類をストレス量を大きく増大させない処理に供してもよく、例えば、このような処理として、例えば、軽度な膜濃縮(1.5倍濃縮、2倍濃縮、3倍濃縮など)などが挙げられ得る。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理までの間に微細藻類は上記の濃度に濃縮されない。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理までの間に微細藻類は希釈されない。
【0061】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理の前および/または処理中に微細藻類は、高度な遠心分離処理を施されず、例えば、50G以上、100G以上、200G以上、500G以上、700G以上、1000G以上、1500G以上、2000G以上、2500G以上、3000G以上、3500G以上、4000G以上、4500G以上、5000G以上、6000G以上、7000G以上、8000G以上、9000G以上、または10000G以上の重力加速度に曝されず、例えば、約10秒以上、約30秒以上、約1分以上、約2分以上、約5分以上、約7分以上、約10分以上、約15分以上、約20分以上、約25分以上、約30分以上、約40分以上、約50分以上、約1時間以上、約1.5時間以上、約2時間以上、約2.5時間以上、約3時間以上、約4時間以上、約5時間以上、約7時間以上、約10時間以上、または約20時間以上の時間の遠心処理を施されない。
【0062】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を濃縮する工程を含む。微細藻類の濃縮には、当該技術分野において公知の任意の好適な手段を用いることができるが、例えば、遠心分離、フィルタリング、媒体除去(蒸発など)、凝集剤または沈降剤の使用などが挙げられるが、これらに限定されない。濃縮操作は、微細藻類のストレス量を増大させ得る。特に細胞壁をもたないユーグレナやパブロバ目などは比較的軟らかいため、濃縮操作によってフェオホルバイド産生が増大し得る。なお、濃縮操作によってフェオホルバイド産生が増大してしまう、細胞壁をもたないユーグレナやパブロバ目の微細藻類などについて、フェオホルバイドが細胞の濃縮処理で増大してしまうという課題は本開示において初めて見いだされたものである。例えば、クロレラ・クラミドモナスのクロロフィルa+b量は培養条件・時期にもよるが、乾燥藻体1g当たり25mg程度となることが多いが、実施例で利用したパブロバは、乾燥藻体1g当たり35.3mgであり、想定外に多いことが判明した。したがって、本開示は、従来の微細藻類の濃縮を伴う方法において想定されていなかった課題に取り組むものであり、さらに、その解決手段も提供するものである。
【0063】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理の前に、微細藻類を濃縮する工程を実施しない。濃縮していない微細藻類を含む培地をクロロフィラーゼを失活させる処理に供する場合、濃縮した場合と比較して、より多くの試薬やエネルギーが必要となり得、より高度な環境負荷をもたらし得る。しかし、発明者は、微細藻類(例えば、ハプト藻)を、2g/L以上の高密度に増殖させることが可能な培養法を見出したため(例えば、下で詳細に記載する本開示の培養装置を使用する方法)、微細藻類を濃縮せずにクロロフィラーゼを失活させる処理に供した場合でも環境負荷を最低限に抑制することができた。
【0064】
一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理の前までの間に、本開示の微細藻類は、1000倍以上、900倍以上、800倍以上、700倍以上、600倍以上、500倍以上、400倍以上、300倍以上、200倍以上、150倍以上、100倍以上、90倍以上、80倍以上、70倍以上、60倍以上、50倍以上、40倍以上、30倍以上、20倍以上、15倍以上、10倍以上、9倍以上、8倍以上、7倍以上、6倍以上、5倍以上、4倍以上、3倍以上、2倍以上または1.5倍以上に濃縮されないか、またはそのような濃縮操作に供されない。
【0065】
クロロフィラーゼを失活させる処理の後には、微細藻類にストレスを負荷してもフェオホルバイドは増大しないと考えられるため、濃縮操作を行ってもよい。一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理の後に、本開示の微細藻類は、1000倍以上、900倍以上、800倍以上、700倍以上、600倍以上、500倍以上、400倍以上、300倍以上、200倍以上、150倍以上、100倍以上、90倍以上、80倍以上、70倍以上、60倍以上、50倍以上、40倍以上、30倍以上、20倍以上、15倍以上、10倍以上、9倍以上、8倍以上、7倍以上、6倍以上、5倍以上、4倍以上、3倍以上、2倍以上または1.5倍以上に濃縮されるか、またはそのような濃縮操作に供される。一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理後に微細藻類は、乾燥重量で、約10g/L以上、約20g/L以上、約50g/L以上、約70g/L以上、約100g/L以上、約150g/L以上、約200g/L以上、約300g/L以上、約400g/L以上、または約500g/L以上に濃縮されるか、またはそのような濃縮操作に供される。
【0066】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を乾燥させる工程を含む。上記の本開示の微細藻類製品の水分含量となるように乾燥させることができる。
【0067】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類の成分を分離する工程を含む。微細藻類は藻体自体が有用であり得るが、特定の成分も有用であり得る。そのため、微細藻類に含まれる特定の成分を他の微細藻類成分から分離して、特定の成分の濃度を増大させてもよい。また、別の実施形態では、微細藻類から特定の成分(有害成分など)を分離して除去してもよい。例えば、本発明者は、ハプト藻であるパブロバにフコキサンチンが多く含まれることを見出したため、フコキサンチンを分離・精製して本開示の微細藻類製品としてもよい。
【0068】
一つの実施形態において、本開示の製造方法において使用される微細藻類は、クロロフィルを高生産する微細藻類であり得、例えば、培養工程の終了時に藻体乾燥重量基準でクロロフィルを0.1mg/g以上、0.2mg/g以上、0.5mg/g以上、0.7mg/g以上、1mg/g以上、2mg/g以上、5mg/g以上、7mg/g以上、10mg/g以上、15mg/g以上、20mg/g以上、25mg/g以上、30mg/g以上、40mg/g以上、50mg/g以上、70mg/g以上、または100mg/g以上生産する微細藻類であり得る。特に、培養工程の終了時に藻体乾燥重量基準でクロロフィルを30mg/g以上生産する微細藻類はクロロフィル高生産であり得る。クロロフィルはフェオホルバイドを生じ得るので、クロロフィルを高生産する微細藻類は、本開示の製造方法によってフェオホルバイド量がより顕著に低減され得るため、本開示が対象とする微細藻類に含まれ得る。
【0069】
一つの実施形態において、本開示の製造方法(例えば、オイル浸漬品の製造方法)は、微細藻類濃縮液を脱塩する工程を含み得る。一つの実施形態において、脱塩する工程は、本開示の方法によって調製された微細藻類濃縮液に、例えば、約1~100倍、約2~50倍、約5~20倍または約10倍量の水を添加し、例えば、約10分~5時間攪拌し、その後遠心濃縮処理を行うことにより実施され得る。
【0070】
一つの実施形態において、本開示の製造方法は、微細藻類濃縮液を乾燥させる工程を含んでもよいし、含まなくてもよい。特に、ドレッシングや野菜ジュースなど水分を多く含む製品を調製する場合、乾燥させる工程を含まなくてもよい。一つの実施形態において、乾燥させる工程は、本開示の方法によって調製された微細藻類濃縮液を噴霧乾燥することを含み得る。一つの実施形態において、乾燥させる工程は、賦形剤、乳化剤および酸化防止剤のうちの1つまたは複数の存在下で実施することができる。賦形剤は、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)が空気と接触するのを防ぎ、その成分の分解を低減させ得る。酸化防止剤は、微細藻類の成分(例えば、フコキサンチン)の分解を低減させることができ、乳化剤と組み合わせることで、さらに微細藻類細胞内の成分の分解低減を促進し得る。
【0071】
一つの実施形態において、本開示の製造方法は、微細藻類濃縮液を凍結させる工程を含み得る。一つの実施形態において、凍結させる工程は、本開示の方法によって調製された微細藻類濃縮液を、冷凍(例えば、-40℃以下)すること、あるいはボイル殺菌(80~100℃)もしくはレトルト殺菌に耐える袋(例えば、ナイロン袋、アルミ袋)に封入(好ましくは、密封・真空包装)し、低温(例えば、-40℃以下)で冷凍することを含み得る。一つの実施形態において、微細藻類濃縮液を、成形冷凍した後に袋に封入してもよい。一つの実施形態において、凍結させる工程は、急速冷凍(例えば、微細藻類濃縮液を直接低温環境下に曝露すること)を含み得る。1つの袋に封入する微細藻類濃縮液の量は、1ml、3mL、5mL、10mL、50mL、100mL、200mL、1L、2L、3L、5L、8L、10L、15L、20Lなどが挙げられるがこれらに限定されない。一つの実施形態において、封入の際に、脱気注入してもよいし、凍結物を真空パックしてもよい。
【0072】
(微細藻類を培養するための装置)
一つの局面において、本開示は、微細藻類を培養するための装置を提供する。一つの実施形態において、この装置は、透明材料の壁を有する少なくとも2つの培養部、前記少なくとも2つの培養部の上部同士を連結する上部連結部、前記少なくとも2つの培養部の下部同士を連結する下部連結部、および前記少なくとも2つの培養部のうちの少なくとも1つであるが全てではない培養部に設置された少なくとも1つの気泡発生デバイス、を含み、前記少なくとも2つの培養部、上部連結部および下部連結部が、流体連通するように培地が封入されるように構成されており、前記装置は、上部連結部の方が下部連結部よりも設置床から離れるように設置されることを特徴とする。少なくとも2つの培養部、上部連結部および下部連結部は培地により流体連通するため、気泡の発生により培地が装置全体で循環するような流れを生じることができ、効率的に穏和な撹拌状態が達成され得る。好ましい実施形態において、本開示の装置は、気泡発生デバイス以外に撹拌のための動力源を持たない。例えば、ハプト藻は流水条件で好適に増殖し得るため、このような装置の利用が好適であり得る。また、一つの制御系で水量を抑制して活用することができる。一つの実施形態において、本開示の装置は、互いに連結された複数の反復単位(例えば、1つの培養部+1つの上部連結部+1つの下部連結部、2つの培養部+1つの上部連結部+1つの下部連結部など)を含んでもよく、このような実施形態では、反復単位の数の調整によって連続した一つの系を形成する培地の体積を容易に変更可能である。培地体積が大きいほど培地環境の変動は小さくなり得る。本開示の装置は、水流が主に上下方向に生じる縦型の装置であり、効率的な光利用、好適な撹拌条件などの要因から、横型の装置よりも高密度まで微細藻類を増殖可能であり得る。
【0073】
一つの実施形態において、培養部は、細長いチューブ状の形状を有し得る。一つの実施形態において、培養部の外径は、約10mm~約1000mmであり得、例えば、約10mm、約30mm、約50mm、約70mm、約100mm、約150mm、約200mm、約250mm、約300mm、約400mm、約500mm、約700mmまたは約1000mm、あるいはそれらの値の間の任意の値であり得る。培養部の径が細くなるほど、培養部の体積当たりの受光量が増大するので、微細藻類の増殖により好適であり得る。一つの実施形態において、培養部の内径は、約5mm~約1000mmであり得、例えば、約5mm、約7mm、約10mm、約30mm、約50mm、約70mm、約100mm、約150mm、約200mm、約250mm、約300mm、約400mm、約500mm、約700mmまたは約1000mmであり得る。一つの実施形態において、培養部の長さは、10cm~1000cmであり得、例えば、約10cm、約20cm、約50cm、約70cm、約100cm、約150cm、約200cm、約250cm、約300cm、約400cm、約500cmまたは約1000cm、あるいはそれらの値の間の任意の値であり得る。培養部の壁の透明材料として、例えば、アクリル材料、ガラス材料、ポリエチレン材料が挙げられるが、これらに限定されない。特定の波長を透過させる材料であれば任意に使用され得る。例えば、OPMS30543株では、430nmおよび680nm周辺の波長が光合成に有用であり得るため、このような波長の光の透過率が高い素材が好ましい。
【0074】
一つの実施形態において、装置は、1Lあたりの受光面積が少なくとも10cm2/L、少なくとも20cm2/L、少なくとも50cm2/L、少なくとも70cm2/L、少なくとも100cm2/L、少なくとも150cm2/L、少なくとも200cm2/L、少なくとも250cm2/L、少なくとも300cm2/L、少なくとも350cm2/L、少なくとも400cm2/L、少なくとも450cm2/L、少なくとも500cm2/L、少なくとも550cm2/L、少なくとも600cm2/L、少なくとも650cm2/L、少なくとも700cm2/L、少なくとも750cm2/L、少なくとも800cm2/L、少なくとも900cm2/L、または少なくとも1000cm2/Lとなるような構成である。一つの実施形態では、装置は、全ての培養部がほぼ均等の光量を受容するような構成を有し得る。例えば、一つの実施形態では、培養部は、いずれの培養部同士も包含関係にない分離した部分である。また、本開示の装置は、分離した培養部が互いに光を遮らない(例えば、接触しない)ように構成されると、受光量が増大するため有利であり得る。
【0075】
一つの実施形態において、連結部は透明材料であってもよいし、透明材料でなくてもよい。連結部が透明材料でない場合には、連結部内の体積を小さくすることで装置全体の受光効率が向上し得る。一つの実施形態において、連結部は培地の流れを抑制しない形状(例えば、培養部と比較して過度に細くない形状)を有し得るが、培地の流れを適宜抑制できるような構造(バルブなど)を備えてもよい。
【0076】
一つの実施形態において、上部連結部には穴を設けてもよく、例えば、この穴を通して、空気導入用チューブ、CO2導入用チューブ、pH計および空気抜き用チューブなどのチューブ、計器、コードなどを挿入することができる。
【0077】
一つの実施形態において、気泡発生デバイスは、エアストーンまたは培養部の下部に設けられた気体導入用の穴であり得る。一つの実施形態において、気泡発生デバイスは、上部連結部よりも下部連結部に近い場所に設置される。培地の深部で気泡が発生することにより、気泡の上昇に伴う培地の流れが生じ、撹拌がより効率的になり得る。例えば、2mまでの水深であれば水圧が低くエアストーンによって容易に気体を導入することができる。一つの実施形態において、気泡発生デバイスは、複数種類の気体(例えば、空気および二酸化炭素)をそれぞれ別々に導入するための複数の気泡発生デバイスであってもよい。気泡発生デバイスは装置中の水流を阻害しないような大きさであることが好ましく、例えば、培養部の内径の80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下または10%以下の直径を有し得る。
図4に示される培養器では、気泡発生デバイスであるエアストーンは、培養部の内径の約28%の直径を有する。一定の方向の流れを生じることが好ましくあり得るため、例えば、本開示の装置が4つの培養部を備える場合、両端の2つの培養部のみ、または中央の2つの培養部のみなど、規則的な位置に気泡発生デバイスが設置され得る。
【0078】
一つの実施形態において、微細藻類を培養するための装置は、培地がフィルターおよび気泡発生デバイスを通してのみ外気と接触するように構成される。一つの実施形態において、装置内部が、装置外部の環境と独立となるように装置を構成することで、汚染(例えば、細菌汚染)に弱い微細藻類(例えば、ハプト藻)を安定的に培養可能であり、また汚染が少なく培養可能であり得る。一つの実施形態において、装置には、採水用のコックが取り付けられてもよい。
【0079】
一つの実施形態において、装置は、センサ、例えば、pH測定器、温度測定器、圧力測定器、酸素量測定器、水の硬度測定器およびアンモニア測定器などを含んでもよく、センサからの入力信号に基づいてこの培養装置または微細藻類製品製造のための別の装置が制御されるように構成されてもよい。
【0080】
一つの実施形態では、単純およびコストの低減のため、本明細書の記載を参考に、水道資材の規格品を主に利用して作製したり、pH計の差し込みや、エアストーンの選定、エア抜き場所およびその形状などを工夫することができる。
【0081】
上記で説明した微細藻類を培養するための装置は、汚染が少なく微細藻類を培養可能であり得るため、この装置は、本培養の前のシード培養のために特に好適に使用され得る。
【0082】
なお、本開示で使用される管の太さは、水道資材の規格とアクリル管もしくはガラス管の外径が合えば調整可能であり、例えば、50Aと100Aの規格で作製したものを利用することができる。
【0083】
(微細藻類製品の製造のためのシステム)
一つの局面において、本開示は、微細藻類製品(例えば、食品)の製造のためのシステムを提供する。システムは、上記の微細藻類製品の製造方法を実施するための任意の適切な手段を備えることができる。一つの実施形態において、本開示は、培養槽、およびクロロフィラーゼを失活させる処理を行う処理部を含むシステムであって、前記培養部から前記処理部までの間が、微細藻類にストレス量を制御することができるように構成されている、システムを提供する。
【0084】
本開示のシステムにおいて、任意の箇所にポンプ(流速可変部)を取り付けることができる。ポンプは、例えばシリンジポンプ、プランジャポンプ、ピストンポンプ、又はローラーポンプであり得る。ポンプによって、流速および圧力などが調整され得る。
【0085】
本開示の微細藻類製品製造システムは、
図15に示すような制御ユニット30を有し得る。制御ユニット30は、制御部31と、検出部32とを有する。制御部31と検出部32とは相互に通信可能に接続されている。ハードウェア(例えば、専用回路)だけで上記制御を実行可能にしてもよいし、CPUにプログラムを実行させることで上記制御を実行してもよい。
【0086】
センサ(例えば、培養槽における、pH測定器、温度測定器、圧力測定器、酸素量測定器、硬度測定器およびアンモニア測定器など)で取得されたデータは、検出部32に送信され、制御部31に信号を送る。
【0087】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、微細藻類製品製造システムに含まれる各種アクチュエータの駆動回路とから構成される。ROM52には、BIOS(Basic Input/Output System)、OS(Operating System)、各種ドライバー、及び各種アプリケーションなど、各種プログラムが格納されている。検出部32は、微細藻類製品製造システムに含まれる各種センサ(例えば、pH測定器、温度測定器)の検出回路から構成される。
【0088】
制御ユニット30は、入力部41と、表示部42と、記憶部43と、インターフェイス44とそれぞれ通信可能に接続されている。インターフェイス44は、制御ユニット30と外部の装置との間でのデータの送受信を可能にする。制御ユニット30は、インターフェイス44を介して、例えば汎用コンピューター(いわゆるパーソナルコンピューター)に接続される。
【0089】
入力部41は、ユーザーからの入力を受け付ける。入力部41は、例えばキーボード、マウス、又はタッチパネルから構成される。表示部42は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)又はELD(Electro Luminescence Display)のようなディスプレーから構成される。なお、入力部41及び表示部42がタッチパネルから構成される場合には、入力部41と表示部42とは一体化していることになる。
【0090】
記憶部43は、例えばハードディスクのような不揮発性メモリーから構成される。記憶部43には、各種制御に係るプログラム及びデータ(例えば、入力部41から制御ユニット30に入力されたデータ)等が格納される。
【0091】
制御部31は、入力部41から制御ユニット30に入力されたデータ、および検出部32に入力されたセンサの各出力信号の少なくとも1つに基づいて、培養槽、温度調節器、撹拌デバイス、添加成分(例えば、窒素源、リン源、培地など)タンク、加熱器、濃縮器などの微細藻類製品製造システムに含まれる構成要素のうちの少なくとも1つを制御する。送液管は、例えば、流路を切り替えるなどしてその長さが制御され得る。
【0092】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものである。
【0093】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0094】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0095】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を記載する。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0097】
(実施例1:微細藻類の培養)
オープン培養およびフォトバイオリアクター培養におけるハプト藻の培養を比較した。
【0098】
本実施例における実験には、市販のパブロバ属のNBRC 102809株(Pavlova gyrans)、あるいは沖縄の海で採取されたパブロバ属のOPMS30543株(Pavlova granifera)(受託番号NBRC 114066)を使用した。OPMS30543株とNBRC 102809株とは、培養、フェオホルバイド生成およびフコキサンチン生産について同様の性質を示し得る。人工海水の素マリンアートSF-1(富田製薬、徳島)を50%海水濃度になるように水に溶解した水溶液に、使用用法規定の2倍濃度になるようにダイゴIMK培地(日本製薬、大阪)成分を添加して、培養液を調製した(pH=約7.5)。藻細胞の増殖に伴いpHが上昇するが、pHを8±0.5に維持するように調整した。培養開始時の微細藻類密度は、約0.1g/Lであった。培養槽は全て屋外に設置し、自然光のみを照射した。
【0099】
培養槽は以下のものを使用した。
・フォトバイオリアクター(アクリル製、直径100mm)(
図1)
・フォトバイオリアクター(アクリル製、直径200mm)(
図1)
・フォトバイオリアクター(アクリル製、直径250mm)(
図1)
・フォトバイオリアクター(ポリエチレン袋、直径450mm)(
図1)
・500Lタンク×2(
図2)
・750Lレースウェイ(
図2)
レースウェイ培養槽のみパドルで撹拌し、他の培養槽は曝気撹拌した。
500Lタンクはそれぞれ200Lの培地で培養した。試験期間の間の気温は約21℃~約28℃であった。
【0100】
その結果、
図3に示すような結果が得られた。ハプト藻はオープン培養が難しく、ある程度増殖するものの細菌汚染により、安定な増殖を維持することが困難であることが分かった。他方、フォトバイオリアクターを用いた場合には、2週間で約12倍の増殖を達成し、細胞密度は約1.2g/Lに達した。
【0101】
また、上記と同様の条件で、1.5tのシート水槽(曝気撹拌)を使用して培養を試みたが、約0.04g/Lの微細藻類密度で培養開始した後、2週間で約0.14g/Lの微細藻類密度に達したが、その後細菌汚染が生じたために増殖は失敗した。他方、発明者が作製したフォトバイオリアクターでは、幾度と培養を試みてもこのような失敗はほとんど無かった。
【0102】
(実施例2:フォトバイオリアクターの設計)
ハプト藻の培養にはフォトバイオリアクターが好適であることが分かったため、フォトバイオリアクターの設計を最適化した(
図4、
図5)。
図4のフォトバイオリアクターは、細い透明パイプが培養槽となっているため、受光面積が大きい。また、曝気撹拌を行うと、2本のパイプの間で水流が循環し、1本のパイプのフォトバイオリアクターより効率的な撹拌が可能となる。このタイプのフォトバイオリアクターは
図6のようにさらに連結させた構成とすることができる。このフォトバイオリアクター(PBR)は、大きな受光面積を有する。
【0103】
【0104】
実施例1と同様に、人工海水を50%となるように添加したIMK×2培地にCO
2を添加することでpH=8に調整し、この培地に約0.1g/Lの上記パブロバ株を添加し、屋外で自然光の下、
図4のフォトバイオリアクター中で曝気撹拌しながら培養を行った。試験期間の間の気温は約21℃~約28℃であった。
【0105】
結果を
図5に示す。約1週間で約10倍の増殖を達成し、細胞密度は約1.1g/Lに達した。
【0106】
さらに、同じ培養槽を使用して長期培養を実施した(
図6)。その結果、約40日間にわたって安定な連続培養が達成され、数回にわたって藻体を回収したにもかかわらず、約3.5g/Lと高い細胞密度に維持することができた。
【0107】
上記のようなフォトバイオリアクターにおいて培養した微細藻類では、細菌汚染が低減されているため、このようなフォトバイオリアクターでシード培養を行い、その後、オープン培養を行うことで、オープン培養においても、細菌汚染が発生する前に十分な増殖の後に微細藻類の回収が達成されることが期待される。
【0108】
(実施例3:微細藻類の回収)
ハプト藻は細胞壁をもたないため、比較的に軟らかいという特徴を有する。また、ハプト藻は約1~10μmと比較的小さな微細藻類である。このように軟らかく小さなハプト藻が効率よく回収できる方法を検討した。
【0109】
上記パブロバ株(0.516g/L)に対して、遠心分離またはフィルタリング(MF膜)を行い藻体を100倍濃縮した。濃縮後、細胞の状態を顕微鏡観察した。
【0110】
遠心分離にはHITACHI himac CR22GII(日立製作所、東京)を使用し、5,000rpmで約10分間遠心操作を行った。一度の遠心操作によりおよそ3L分が濃縮できるので、10Lの遠心操作にはこれを約3回繰り返した。この濃縮物をさらに約1~2回遠心濃縮(約30~60分)し、一つにまとめた。
【0111】
フィルタリングには、Microza AHP1010D(旭化成製、東京)(ウルトラフィルター、分画分子量として50KDa、クロスフロー方式)の膜およびマグネットポンプMD-15RV-N(イワキ、東京)(吐出量;16/19L/min)を使用し、50~100mL/minの速度でろ液が出るように操作し、濃縮時間は約6L/hrであった。
【0112】
遠心分離およびフィルタリングの両方の方法で、細胞を破壊せずにハプト藻を回収できることが確認された。
【0113】
(実施例4:微細藻類におけるフェオホルバイドの生成)
発明者は、上記パブロバ株について成分分析を行った。吸光光度法(可視)によって測定した場合に、約2250mg/100g(乾燥重量)のクロロフィルを含むことが分かった。
【0114】
その結果、ハプト藻であるパブロバには、通常のクロレラなどの微細藻類と比較して多くのクロロフィルが含まれることを見出した。
【0115】
クロロフィルは微細藻類において代謝されることでフェオホルバイドに変換されることが公知であり、フェオホルバイドは光過敏症などを引き起こすことが知られており、動物による摂取が制限されることが望ましい。パブロバの培養および回収の間にフェオホルバイドが生成されるかどうかを調べた。
【0116】
上記パブロバ株の培養物10L(0.516g/L)を遠心分離し、100倍に濃縮した。その後、濃縮物をオートクレーブにより加熱した(100℃、1分間)。既存フェオホルバイドおよびクロロフィラーゼ活性度は、それぞれの以下のように測定した。総フェオホルバイド量=既存フェオホルバイド量+クロロフィラーゼ活性度である。
【0117】
・既存フェオホルバイドの定量法
色素のエーテル抽出溶液から17%塩酸へ移行するクロロフィル分解物量をフェオホルバイドaに換算する(mg%)。
乾燥させた微細藻類100mgを乳鉢に秤り取り、約0.5gの海砂および85%(V/V)アセトン20mlを加え、すみやかにすりつぶした後上清を遠心管に移す。さらに残査にアセトン10mlを添加して同様に操作し、上清を遠心管に移し、この操作をもう一度反復する。次いで、遠心分離(3000rpm、5分間)し、その上清をエチルエーテル30mlを入れた分液ロートに移す。次いで、このエーテル・アセトン混合物に5%硫酸ナトリウム溶液50mlを加え、緩やかに振とうし、硫酸ナトリウム層を捨てる。さらにこの洗浄操作を3回繰り返したのち、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、エーテル層を取り出し、エチルエーテルで全量を50mlとし、色素原液とする。この色素原液20mlを、17%塩酸20ml、続いて同塩酸10mlで順次振とう抽出後、塩酸層を、飽和硫酸ナトリウム溶液150mlおよびエチルエーテル20mlを入れた分液ロートに移す。これを振とう抽出し、エーテル層を分取し、これにエチルエーテルを加え全量を20mlとしたものを分解物抽出液とする。この分解物抽出液をエチルエーテルで正確に必要な濃度になるまで希釈して、667nmの吸光度を測定する。標準品のフェオホルバイドaの吸光度からクロロフィル分解物量を算出し、既存フェオホルバイド量(mg%)とする。標準品のフェオホルバイドaの吸光度は、S.R.Brown(J.Fish Res.Bd.Canada 25、523―540.1968)のフェオホルバイドaの667nmの比吸光係数70.2(0.1%溶液、1cmの示す吸光度)を使用した。
【0118】
・クロロフィラーゼ活性度の定量法
含水アセトン中でインキュベートし、クロロフィル分解物の生成増加量をフェオホルバイドa量に換算する(mg%)。
乾燥させた微細藻類100mgを精秤し、これに冷M/15リン酸緩衝液(pH8.0)およびアセトンの混合液(7:3)を10ml加え、37℃で3時間インキュベートする。その後10%塩酸で弱酸性とし、既存フェオホルバイドの定量法と同じ方法によりフェオホルバイド量を測定し、その測定値から既存フェオホルバイド量を差し引き増加量をもとめ、その増加量をクロロフィラーゼ活性度とする。
【0119】
【表2】
濃縮しなかった培養液では、既存フェオホルバイドおよび総フェオホルバイドは両方とも低度であったが、遠心分離処理を行った場合には、既存フェオホルバイド量が上昇した。加熱によりクロロフィラーゼ活性は抑制されたため、総フェオホルバイド量は既存フェオホルバイド量と同等であった。
【0120】
原液と比較して100倍濃縮液では既存フェオホルバイド量が約9倍であったため、上記濃縮操作におけるストレス量は約9であると予測される。
【0121】
上記パブロバ株の培養物10L(0.516g/L)を、実施例3のフィルタリング濃縮と同様に、MF膜により100倍に濃縮した(約12時間以上)。その後、濃縮物をコイル式加熱(
図12)により加熱した(110℃で2分間または4分間)。それぞれの試料について、既存フェオホルバイド量を上記と同様に測定したところ、上昇が観察された。MF膜による濃縮処理では、遠心分離処理と比較して細胞のダメージは軽度であると顕微鏡では観察されたが、既存フェオホルバイド量が上昇していたことから、実際にはストレス量が大きいことが分かった。また、上記加熱処理を施したサンプルにおいても、既存フェオホルバイド量は高い値であったため、細胞密度が高い状態で加熱処理を行うと既存フェオホルバイド量の抑制が十分にできない可能性がある。
【0122】
さらに、モデル刺激によるフェオホルバイド生産の上昇を試験した。上記パブロバ株の培養物L(1.482g/L)をカスケードポンプ(
図10)に通過させたときの培養物を一部回収したものを試料として評価した。ポンプ通過無し、ポンプ1回通過、ポンプ2回通過(90秒)、ポンプ3回通過(135秒)、ポンプ5回通過(225秒)、ポンプ10分循環またはポンプ20分循環の試料を評価した。それぞれの試料を顕微鏡観察した後、試料をコイル式加熱処理(110℃、4分)、遠心分離濃縮処理および凍結乾燥に供して、この乾燥物(10mg)について、上記と同様に既存フェオホルバイド、総フェオホルバイドおよびクロロフィラーゼ活性度を測定した。
【表3】
物理的衝撃が増大するほど既存フェオホルバイド量が増大した。また、物理的衝撃以外に通過後の培養液の温度も上昇していたことも、既存フェオホルバイド量の増大に寄与していると推察される。
【0123】
ポンプ通過無しと比較してポンプ1回通過、ポンプ2回通過、ポンプ3回通過およびポンプ20分循環では、それぞれ既存フェオホルバイド量が約1.4倍、約1.3倍、約1.9倍および約2.3倍であったため、上記各剪断力負荷におけるストレス量は約1.3~2.3であると予測される。
【0124】
これらの結果から、微細藻類に対する操作によってフェオホルバイド量が増大し得ることが見出された。そのため、フェオホルバイドを低減するため方法を検討した。
【0125】
(実施例5:加熱処理によるフェオホルバイドの抑制)
上記パブロバ株に対して加熱処理を行ったところ、褐色に近かった藻体の色は鮮やかな緑色に変化し、藻体の破裂は観察されなかった(
図11)。フェオホルバイドの産生を触媒するクロロフィラーゼは、加熱によって失活すると考えられたため、加熱によってフェオホルバイド産生が抑制されるかどうかを試験した。
【0126】
実施例4と同様のフィルタリング操作によって、60L培養物(0.145g/L)を28℃で約10時間かけて0.6Lまで濃縮した(100倍濃縮:13.440g/L)。濃縮後の細胞を顕微鏡観察したが異常は見られなかった。濃縮物の一部を
図12に示す装置で95℃以上で4分間加熱した。
【0127】
フェオホルバイドを試験したところ、非加熱濃縮物と比較して、加熱濃縮物は、既存フェオホルバイド量が増大していた。これは、クロロフィラーゼの失活が不十分であったためと考えられる。クロロフィラーゼの失活が不十分であった原因として、溶液中の固体密度が高かった(1%~1.5%)ため溶液の熱伝導率が下がり、規定の温度で内部の細胞まで十分に加熱できなかったこと、ならびに細胞外物質(タンパク、多糖など)の密度の上昇による断熱性の増大などが考えられる。
【0128】
図12に示すように、加熱装置を構成した。上記パブロバ株の培養物(0.592g/L)をチューブを通して一定の速度(10、20、40または80mL/分)でオイルヒーター(105℃)に送り加熱時間を調整した。オイルヒーターから送られた加熱液を氷上のボトルに回収した。それぞれの条件における熱処理時間は、約8分間、約4分間、約2分間および約1分間であった。回収したそれぞれの試料を遠心分離処理し(
図13)、上記と同様に既存フェオホルバイド、総フェオホルバイドおよびクロロフィラーゼ活性度を測定した。
【表4】
【0129】
十分に加熱することにより、その後遠心分離処理を行っても総フェオホルバイド量が上昇しないことが分かった。なお、1分間の加熱試料では、加熱なしの試料よりも既存フェオホルバイド量が上昇していたが、これは、クロロフィラーゼの失活が不十分であり、かつ加熱による細胞破壊により放出されたクロロフィラーゼが広範囲のクロロフィルに作用したためであると考えられる。
【0130】
さらに、
図14に示すようなプレート式の加熱によるフェオホルバイド抑制効果も試験した。
【表5】
プレート式の加熱によってもフェオホルバイドの産生が抑制されることが分かった。
【0131】
以上の結果から、ストレス量を制御しつつクロロフィラーゼ活性を抑制することで、フェオホルバイドの量を抑制することに成功した。
【0132】
(実施例6:微細藻類の処理の間のフコキサンチンの安定性)
発明者は、上記パブロバ株などのハプト藻にフコキサンチンが豊富であることを見出した。フコキサンチンは有用な成分であるが、化学的に不安定な物質であることが知られており、熱などで容易に分解する。加熱処理の間にハプト藻中のフコキサンチンが分解しないかどうかを調べた。
【0133】
フコキサンチンの定量は、HPLC分析において和光純薬(東京)より購入した標準品のフコキサンチン(99%)と比較することによって行った。
HPLC分析の条件は以下の通りであった。
カラム:コスモシール 5C18AR-II、内径4.6×100mm
カラム温度:40℃
溶媒:72.5%アセトニトリル水溶液(0.1%ギ酸)、20分間溶出
流量:1mL/min
検出:450nm波長
導入量:20μL
【0134】
培養直後の湿サンプルの加熱によるフコキサンチン分解を調べた。
上記パブロバ株の培養物をフィルターにより濾過し、濾過藻体を取得した。この濾過藻体を、凍結乾燥、60℃1時間または75℃30分の条件で乾燥させた。この乾燥サンプルに、水およびアセトニトリルを添加してフコキサンチンを抽出し、抽出液をチューブに移して遠心分離(12000rpm、3min)を行い、上清をHPLCで分析した。その結果、以下の表に示すフコキサンチン量が測定された。
【表6】
60℃1時間および75℃30分の加熱条件では、フコキサンチンの分解が観察された。
【0135】
凍結乾燥サンプルの加熱によるフコキサンチン分解を調べた。
凍結乾燥サンプルを用意した。この凍結乾燥サンプルを、加熱なし、120℃1時間または170℃30分の条件で処理した。
加熱処理後のサンプルに、水およびアセトニトリルを添加してフコキサンチンを抽出し、抽出液をチューブに移して遠心分離(12000rpm、3min)を行い、上清をHPLCで分析した。その結果、以下の表に示すフコキサンチン量が測定された。
【表7】
60℃1時間および75℃30分の加熱条件では、フコキサンチンの分解が観察された。
【0136】
実施例5におけるコイル式加熱(
図12)におけるフコキサンチンの分解を調べたところ以下の表のようになった。
【表8】
*加熱試料においてフコキサンチン量が増大しているのは、加熱により細胞が収縮し、藻体単位重量が減少したためであると予測される。
実施例5で検討したフェオホルバイド産生抑制のためのコイル式の加熱条件に供しても、フコキサンチン量の低下は観察されなかった。
【0137】
また、実施例5におけるプレート式加熱におけるフコキサンチンの分解を調べたところ以下の表のようになった。
【表9】
実施例5で検討したフェオホルバイド産生抑制のためのプレート式の加熱条件に供しても、フコキサンチン量の低下は観察されなかった。
【0138】
(実施例6X:他の微細藻類種の処理)
イソクリシス属の微細藻類(I.galbana、I.litoralis、I.maritima、Tisochrysis luteaなど)においても、上記と同様にフェオホルバイト生成抑制条件、およびフコキサンチン分解低減条件を検討する。イソクリシス属微細藻類にストレス(濃縮処理および剪断処理など)を負荷したときのフェオホルバイト生成量を確認する。イソクリシス属微細藻類にストレスを負荷しないまたは軽度に負荷した(1.5倍、2倍の濃縮など)条件において、クロロフィラーゼ失活処理(例えば、加熱)を行い、フェオホルバイト生成量の抑制を確認する。また、上記条件におけるフコキサンチン分解のレベルを確認する。これらの結果から、フェオホルバイトを過度に生成せず、フコキサンチン分解が少ない処理条件の範囲を決定する。
【0139】
(実施例7:微細藻類製品)
上記株を乾燥させて粉末化して食品を作製した(
図16)。外観は、自然な緑色を呈しており、岩のりのような風味があった。パブロバは、食品として好適に使用できることが確認された。
【0140】
(実施例8:オイル浸漬品)
上記で製造した藻体の保存性を試験した。上記株の培養物を、上記実施例と同様に100℃以上で4分間加熱処理し、その後、遠心濃縮処理を行いパブロバ濃縮液を調製した。この濃縮液に対して約10倍量の水道水を添加し、約3時間~4時間攪拌し、その後再度遠心濃縮処理を行うことにより脱塩した。脱塩藻体を凍結した。その後、以下の手順に従って乾燥藻体を調製した。
・凍結藻体を室温、流水、温浴条件で解凍した。主に最大約60℃の加温条件であった。
・約80~85℃で約1分~1時間殺菌した。
・ストレーナーおよび10000Gの磁束密度のマグネットで異物を除去した。
・-18℃~-60℃で予備凍結した。
・48時間以上凍結乾燥させた。市販の凍結乾燥機内を-20℃~-80℃になるように予備冷却し、予備凍結した凍結藻体を用量、用途に応じて多岐管もしくはチャンバーに設置した。真空ポンプにより凍結乾燥機内の圧力を20Pa以下に減圧し、用量に応じて24時間~48時間以上凍結乾燥させた。場合によって、チャンバー内の温度を10℃~20℃に加温する。
・薬さじまたは乳鉢を用いて細胞が潰れない程度に凍結乾燥物を粉砕した。特に量が多い場合は粉砕機器を使用した。
・80meshの篩および12000Gの磁束密度のマグネットで異物を除去した。
【0141】
◎試験条件
(乾燥品)
・各測定時点ごとのビニールパックに250mg以上の乾燥藻体を入れた。(試験試料は、n=3であった)
・ビニールパックに必要に応じて乾燥剤および脱酸素剤を入れ、ビニールパックをアルミパックに入れた。乾燥剤、シリカゲル(富士ゲル産業、大阪);脱酸素剤、バイタロン(常盤産業、神奈川)。
・それぞれの設定温度条件下(冷蔵;5℃、常温;20℃~28℃、高温;40℃)で、遮光して放置した。
・開始時の測定では、試料調製時の残りを分析した。
・その後の各時点(2週間後、1月後、2~12月後の各月、15月後、18月後、21月後、24月後)においては、各試料から少量を回収して分析した。
・分析では、フコキサンチンの量およびフェオホルバイド(n=3試料混合物を使用)を測定した。
(オイル浸漬品)
・乾燥藻体12gと、12mLのオイルまたは12mLのビタミンE添加オイルとを混合して練り合わせた。オイル、オリーブ油(富士フイルム和光純薬、大阪);α-トコフェロール、富士フイルム和光純薬、大阪)。
・油分と藻体とがよく馴染んだ事を確認した後、オイル藻体混合物を約100mg計量してエッペンチューブ(ポリプロピレン製、2mL容量)に入れた。(試験試料は、n=3であった)
・それぞれの設定温度条件下(冷蔵;5℃、常温;20℃~28℃、高温;40℃)で、遮光して放置した。
・開始時の測定では、試料調製時の残りのオイル藻体混合物を分析した。
・その後の各時点(2週間後、1月後、その後1月毎)においては、各試料から少量を回収して分析した。
・分析では、フコキサンチンの量を測定した。
【0142】
フコキサンチンの抽出は以下の通りに実施し、フコキサンチンの測定は実施例7と同様であった。
・各時点の試料に100%エタノールを添加して、超音波下で10分間、抽出する。
・遠心分離(12000rpm、2分)して、抽出液と藻体に分離する。
・抽出液のみを必要量回収してHPLCで測定する。
【0143】
フコキサンチン測定の結果を以下に示す。
【表10】
【表11】
【0144】
乾燥品では、乾燥剤+脱酸素剤の添加により常温でも良好にフコキサンチンが維持され得ることが見出された。オイル浸漬品では、常温でも良好にフコキサンチンが維持することができ、ビタミンEの添加によりさらに安定性が向上し得ることが見出された。特に、冷凍-20℃以下での保存、乾燥剤+脱酸素剤添加した乾燥品の5℃以下での保存、オイル浸漬して5℃以下での保存の条件においてフコキサンチンの低減が十分抑制されると推測された。
【0145】
乾燥品のフェオホルバイト測定の結果を以下に示す。
【表12】
温度によらず、いずれの条件においても、既存フェオホルバイド量の増加は観察されなかった。乾燥状態での保存は、フェオホルバイドの大きな生成をもたらさないと予想される。
【0146】
(実施例9:凍結品)
以下の手順により上記微細藻類を凍結させる。
・上記実施例と同様に調製した微細藻類濃縮液を、冷凍(-40℃以下)するか、あるいはボイル殺菌(80~100℃)もしくはレトルト殺菌に耐えるナイロン袋もしくはアルミ袋に封入(好ましくは、密封・真空包装)し、-40℃以下で急速冷凍する。封入の際、必要に応じて、脱気注入および/または凍結物を真空パックする。
・必要に応じて、賦形剤(シクロデキストリンなど)、酸化防止剤、乳化剤および/または増粘剤を添加する
・必要に応じて、果実果汁、果実エキスおよび/またはフレーバーなどを添加する。微細藻類の風味がマスキングされ得る。
・必要に応じて、乳製品を添加して、ラクトアイス、アイスミルク、またはアイスクリームを調製する。
・凍結物を板状に成形する、または板状の形態で凍結させる。
【0147】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本開示は、フェオホルバイドが低減された安全な微細藻類製品、ならびにその効率的な提供を可能にする製造方法およびシステムを提供し、このような微細藻類製品は種々の健康、栄養および/または美容効果を提供することができ、またこのような製造方法およびシステムを使用することで、高品質な微細藻類製品を少ない環境負荷で提供することができる。また、本開示は、細菌汚染の少ない高濃度培養を可能にする培養装置を提供し、これにより利便性の高い微細藻類の培養を可能にする。