(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】多結晶セラミック誘電体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20240509BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20240509BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240509BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C04B35/468
H01G4/12 270
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01B3/12 303
H01B3/12 335
H01B3/12 326
H01B3/12 339
H01B3/12 323
H01B3/12 322
H01B3/12 337
H01B3/12 309
H01B3/12 307
H01B3/12 338
(21)【出願番号】P 2022073527
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0100616
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514260642
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ソンユン
(72)【発明者】
【氏名】アン ジサン
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-307939(JP,A)
【文献】特開2002-201065(JP,A)
【文献】特開2007-031273(JP,A)
【文献】特開2002-293620(JP,A)
【文献】特開2009-266648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/468
H01G 4/12
H01G 4/30
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウム(BaTiO
3)セラミックで構成されている複数の結晶粒バルク、および
前記複数の結晶粒バルクの界面に存在するドーパント
を含み、
前記界面の組成が前記ドーパントによって制御され、
還元雰囲気焼成で前記ドーパントによって多結晶セラミック誘電体が非還元性を有
し、
前記ドーパントは、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、またはこれらの組み合わせで構成されること
を特徴とする、多結晶セラミック誘電体。
【請求項2】
前記セラミックはABO
3で構成され、
前記AはBaを少なくとも含み、
前記BはTiを少なくとも含むこと
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項3】
前記Aは、Ca、Sr、またはこれらの組み合わせをさらに含むこと
を特徴とする、請求項2に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項4】
前記Bは、Zr、Hf、またはこれらの組み合わせをさらに含むこと
を特徴とする、請求項2に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項5】
前記ドーパントは、前記セラミック100モル体積に対して1~10モル体積の濃度で前記界面に分布されること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項6】
前記セラミックのための前記チタン酸バリウムの前駆体粉末の平均粒径は50nm以下であること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項7】
前記ドーパントは、前記界面の中心を基準に5nm以内の幅に分布されること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項8】
前記ドーパントは、前記セラミック100モル体積に対して0.5モル体積以下で前記結晶粒バルクに存在し、
前記結晶粒バルクは、強誘電性(Ferroelectricity)を維持することを特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項9】
前記ドーパントにより、前記結晶粒バルクの無分別な粒成長を抑制すること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項10】
前記結晶粒バルクそれぞれは、前記セラミックのための前記チタン酸バリウムの前駆体の直径に対して2倍以下の平均結晶粒の大きさを有すること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項11】
前記結晶粒バルクの大きさによって800~2000の比誘電率を有し、周波数によって前記比誘電率の値が維持されること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項12】
100MHz以下の周波数領域で1%以下の誘電損失を有し、
1GHz以下の周波数領域で2.5%以下の誘電損失を有すること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項13】
常温比誘電率を基準に±15%以内の範囲を150℃まで維持するか、または±22%以内の範囲を200℃まで維持すること
を特徴とする、請求項1に記載の多結晶セラミック誘電体。
【請求項14】
結晶化したチタン酸バリウムおよびドーパント前駆体粉末を含む混合物を製造する段階、
エタノール溶媒を利用して、前記製造した混合物を分散および粉碎して混合溶液を生成する段階、
前記混合溶液を乾燥させて混合粉末を生成する段階、
前記混合粉末を加圧成形してディスク形態のペレットサンプルを生成する段階、および
前記ディスク形態のペレットサンプルを焼成して多結晶セラミック誘電体を製造する段
階を含
み、
前記ドーパント前駆体粉末は、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、またはこれらの組み合わせで構成されるドーパントのドーパント前駆体粉末である、
多結晶セラミック誘電体の製造方法。
【請求項15】
前記多結晶セラミック誘電体は、前記結晶化したチタン酸バリウム(BaTiO
3)セラミックで構成されている複数の結晶粒バルクおよび前記複数の結晶粒バルクの界面に存在するドーパントを含み、前記界面の組成が前記ドーパントによって制御されること
を特徴とする、請求項1
4に記載の多結晶セラミック誘電体の製造方法。
【請求項16】
前記多結晶セラミック誘電体は、20kV/cm以上の電界で比誘電率が+15%または-15%以内で変化すること
を特徴とする、請求項1
4に記載の多結晶セラミック誘電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの多結晶体の使用および多量のアクセプタードーパントの分布調節によって多結晶誘電体の粒径組成を制御することにより、広い交流周波数領域で低い誘電損失と高い誘電率の特性、電界による安定した比誘電率、および安定した温度安全性を備えたセラミック誘電体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック誘電物質と金属電極層を幾重に重ねた構造の積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor:MLCC)は、効率的な構造によって高い誘電率と体積効率を示すことから、回路内の電気的信号のスムージング、バイパス、およびカップリングなどの多様な目的に用いられている。電気的信号による更に効率的な役割のためには、比誘電率を高めて誘電損失を低める方向の開発が必須であり、一般的に使用されるclass-IIタイプの積層セラミックコンデンサは、強誘電体チタン酸バリウム(Barium Titanate:BaTiO3)が主に使用されている。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電層とニッケル金属電極層を順に重ねた構造であり、2つの層がともに熱処理されなければならない。この過程において、ニッケル電極層の酸化と、セラミック層とニッケル金属層の不必要な反応を防ぐために、一般的には還元雰囲気および1200℃以下で焼成が行われる。これに基づき、積層セラミックコンデンサに適用される新たな酸化物誘電体は、上述した2つの主要因子を常に考慮しなければならない。ニッケル電極層の酸化を防ぐために還元雰囲気で焼成するという条件でも、酸化物誘電体は非還元性を有さなければならず、比誘電率、誘電損失、および絶縁抵抗を維持しなければならない。また、酸化物誘電体とニッケル電極層の不必要な反応を防ぐために1200℃以下で焼成がなされなければならず、このような温度範囲で酸化物誘電体が十分に緻密化されなければならない。高い比誘電率を有する酸化物誘電体に対する研究が多くなされてきたが、積層セラミックコンデンサに適用するために上述した2つの因子をすべて解決した研究は殆どない。
【0004】
さらに、従来に使用されてきた106Hz以下の低い周波数領域とは異なり、無線充電、無線通信、および電力送信のように108Hz以上の高い周波数帯を使用する技術および電子機器が注目されている。これと相反するように、高い比誘電率を有する酸化物誘電体のほとんどは、高い周波数領域で分極の動きの遅延を防ぐことが難しく、これによって高い誘電損失が生じるようになる。したがって、広い周波数領域帯でも十分に高い比誘電率と低い誘電損失特性を有することが、セラミックコンデンサ技術における核心的な要素であると言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノサイズのチタン酸バリウムの使用および適切なアクセプタードーパントの使用による多結晶誘電体の粒径組成を制御する技術を活用することで、100Hzから1GHzに至る広い周波数領域帯内でも高い比誘電率、絶縁抵抗、および低い誘電損失と高い温度安全性を有する多結晶セラミック誘電体を提供することができる。
【0006】
ナノサイズのチタン酸バリウムの使用およびこれを使用した多結晶セラミック誘電体の粒径にドーパントによる粒径組成制御を誘導することにより、従来の多結晶誘電体の粒径での電気的非均質構造を解決し、粒成長抑制による低い強誘電性を有するようにすることができる。粒径の電気的均質構造の回復および粒成長の抑制はそれぞれ、低周波領域および高周波領域での誘電損失を効果的に低め、広い周波数領域帯で低い誘電損失を有することを可能にする。さらに、高い比誘電率および絶縁抵抗の維持、および高い温度安全性の維持を可能にする。
【0007】
上述したセラミック誘電体の製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
チタン酸バリウム土台のセラミックで構成されている結晶粒バルクおよび前記結晶粒バルクの界面からなる粒径を含み、前記粒径の組成がドーパントによって制御されることを特徴とする、多結晶セラミック誘電体を提供する。
【0009】
一側によると、前記セラミックはABO3で構成され、前記AはBaを少なくとも含み、前記BはTiを少なくとも含むことを特徴としてよい。
【0010】
他の側面によると、前記Aは、Ca、Sr、またはこれらの組み合わせをさらに含むことを特徴としてよい。
【0011】
また他の側面によると、前記Bは、Zr、Hf、またはこれらの組み合わせをさらに含むことを特徴としてよい。
【0012】
また他の側面によると、前記ドーパントは、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、またはこれらの組み合わせで構成されることを特徴としてよい。
【0013】
また他の側面によると、前記ドーパントは、前記セラミック100モル体積に対して1~10モル体積の濃度で前記粒径に分布されることを特徴としてよい。
【0014】
また他の側面によると、前記セラミックのための前記チタン酸バリウムの前駆体粉末の平均粒径は、50nm以下であることを特徴としてよい。
【0015】
また他の側面によると、前記ドーパントは、前記粒径の中心を基準に5nm以内の幅に分布されることを特徴としてよい。
【0016】
また他の側面によると、前記ドーパントは、前記粒径の中心に最も高い濃度で分布され、前記粒径の中心から両方向に正規分布をなしながら減少するように分布されることを特徴としてよい。
【0017】
また他の側面によると、前記ドーパントは、前記セラミック100モル体積に対して0.5モル体積以下で前記結晶粒バルクに存在し、前記結晶粒バルクは、強誘電性(Ferroelectricity)を維持することを特徴としてよい。
【0018】
また他の側面によると、前記多結晶セラミック誘電体は、前記ドーパントにより、前記結晶粒バルクの無分別な粒成長を抑制することを特徴としてよい。
【0019】
また他の側面によると、前記結晶粒バルクそれぞれは、前記セラミックのための前記チタン酸バリウムの前駆体の直径に比べて2倍以下の平均結晶粒の大きさを有することを特徴としてよい。
【0020】
また他の側面によると、前記多結晶セラミック誘電体は、前記結晶粒バルクの大きさによって800~2000の比誘電率を有し、周波数によって前記比誘電率の値が維持されることを特徴としてよい。
【0021】
また他の側面によると、前記多結晶セラミック誘電体は、100MHz以下の周波数領域で1%以下の誘電損失を有し、1GHz以下の周波数領域で2.5%以下の誘電損失を有することを特徴としてよい。
【0022】
また他の側面によると、前記多結晶セラミック誘電体は、還元雰囲気焼成で非還元性を有することを特徴としてよい。この場合、前記多結晶セラミック誘電体は、大気条件による焼成と類似の誘電特性および絶縁比抵抗を有してよい。
【0023】
さらに他の側面によると、前記誘電体セラミックは、常温比誘電率を基準に±15%以内の範囲を150℃まで維持してよく、あるいは±22%以内の範囲を200℃まで維持してよい。
【0024】
結晶化したチタン酸バリウムおよびドーパント前駆体粉末を含む混合物を製造する段階、エタノール溶媒を利用して前記製造した混合物を分散および粉碎して混合溶液を生成する段階、前記混合溶液を乾燥させて混合粉末を生成する段階、前記混合粉末を加圧成形してディスク形態のペレットサンプルを生成する段階、および前記ディスク形態のペレットサンプルを焼成して多結晶セラミック誘電体を製造する段階を含む、多結晶セラミック誘電体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
広い周波数領域で高い比誘電率および低い誘電損失の誘電特性を有し、高い絶縁抵抗および温度安全性を有する多結晶セラミック誘電体およびその製造方法を提供することができる。多結晶誘電体の場合、低周波および高周波でそれぞれ誘電損失を高める2つの主要な要因が存在するようになる。低周波数の場合は、多結晶体の粒径構造と関連することにより、粒径領域での電気的二重層を含む遅延した分極の動きが高い誘電損失の原因となり、高周波数の場合は、高い比誘電率のために使用される強誘電体の高い強誘電性がその原因として作用する。本発明の実施形態では、前記粒径の電気的非均質構造と高い強誘電性制御のためにドーパントの分布調節によって粒径組成を制御することにより、粒径の電気的に安定した構造を形成すると同時に、多結晶誘電体の粒成長を抑制することで強誘電性を低めることができる。より効果的な強誘電性抑制のために、微粒結晶粒形成のためのナノサイズのチタン酸バリウムを積極的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】単一組成の単結晶チタン酸バリウムセラミック誘電体に対し、周波数によって測定した誘電特性の例を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態における、多結晶チタン酸バリウムセラミック誘電体に対し、周波数によって測定した誘電特性の例を示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態における、強誘電性チタン酸バリウムに対する周波数による誘電特性および分極種類を示した模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態における、製作されたセラミック誘電体の周波数による誘電特性改善方案を示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、ドーパントを利用した多結晶誘電体粒径組成制御結果として、粒子成長抑制による強誘電性の減少および粒径内の電気的二重層構造の緩和の発現を示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態における、多結晶セラミック誘電体の製造方法の例を示したフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、各ドーパント種類の多様な元素の分布形状および位置をエネルギー分散型分光分析法によって測定したイメージである。
【
図8】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、粒径中心を基準に原子水準単位のドーパントの分布領域を電子エネルギー損失分光法によって示した図である。
【
図9】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、粒径中心を基準に原子水準単位のドーパントの分布領域を電子エネルギー損失分光法によって示した図である。
【
図10】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理された粒径組成制御多結晶誘電体に対し、粒径中心を基準に原子水準単位のドーパントの分布領域を電子エネルギー損失分光法によって示した図である。
【
図11】本発明の一実施形態における、多様な焼成雰囲気それぞれで熱処理された粒径組成制御多結晶誘電体に対する周波数による誘電特性比較を示した図である。
【
図12】本発明の一実施形態における、多様な焼成雰囲気それぞれで熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、周波数によって誘電特性比較を示した図である。
【
図13】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、チタン酸バリウム前駆体粉末の大きさ調節による結晶粒の大きさ調節および周波数による誘電特性を比較した図である。
【
図14】本発明の一実施形態における、異なるチタン酸バリウム前駆体初期粉末の大きさで製作される粒径組成制御多結晶誘電体に対し、周波数ごとに誘電特性を比較した図である。
【
図15】本発明の一実施形態における、異なるチタン酸バリウム前駆体初期粉末の大きさで製作される粒径組成制御多結晶誘電体に対し、走査透過電子顕微鏡を利用して微細構造および平均結晶粒サイズを示したイメージである。
【
図16】本発明の一実施形態における、異なるチタン酸バリウム前駆体初期粉末の大きさで製作される粒径組成制御多結晶誘電体に対し、電界による分極履歴曲線を示した図である。
【
図17】本発明の一実施形態における、各ドーパント元素の粒径組成制御多結晶誘電体に対して直流電界による比誘電率の変動特性を比較して示した図である。
【
図18】本発明の一実施形態における、0.5%H
2-N
2の雰囲気上で熱処理した粒径組成制御多結晶誘電体に対し、温度による誘電特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は多様な変換を加えることができ、多様な実施形態を有することができる。よって、以下では、添付の図面を例示しながら特定の実施形態について詳しく説明する。
【0028】
しかし、本発明に記載した実施形態と図面に示した構成は、本発明の最も好ましい1つの実施形態に過ぎない。これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の技術的思想に含まれるすべての変更、均等物あるいは代替物を含むものと理解されなければならない。
【0029】
本発明の実施形態を説明するにあたり、関連する公知技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明瞭にし得ると判断される場合、その詳細な説明は省略する。
【0030】
チタン酸バリウムのような強誘電体の場合、単位格子の中心に該当する元素の位置が全体的な中間位置から離脱して存在するようになる。このような単位格子上の中心非対称によって自発的な分極が生じるようになる。強誘電体のこのような自発的分極は、セラミック内で配向分極として作用するようになる。配向分極は、常誘電体で電子分極およびイオン分極以外の追加の分極として作用し、大きさが異なる2つの分極に比べて相当に高い数値を示すようになる。このような理由により、強誘電体の比誘電率は、最小限の常誘電体の比誘電率の数十倍も高い値を有するようになる。すべての種類の分極がそうであるように、高まる交流周波数によって強誘電体セラミック内の配向分極もそれ以上の分極反応を現わすことができなくなり、これによって一般的にGHz領域でデバイタイプの分極緩和(Debye-type relaxation)現象を現わすようになる。
【0031】
本発明の一実施形態に係るセラミック誘電体は、最終的に得られた結晶粒バルクの結晶粒の大きさが300nm以下であることが支配的であり、特に、焼成前の前駆体初期粉末に比べて2倍以下に成長することが好ましい。特に、このような結晶粒粉末の大きさの制御とその界面に集中するドーパント含量を制御することにより、本発明の実施形態では、10MHzあるいは100MHz以下の交流周波数領域では1%未満の低い誘電損失、1GHzまでの周波数では2.5%未満の低い誘電損失を有する誘電体セラミックを得ることができる。
【0032】
図1は、単一組成の単結晶チタン酸バリウムセラミック誘電体に対し、周波数によって測定した誘電特性の例を示した図であり、
図2は、本発明の一実施形態における、多結晶チタン酸バリウムセラミック誘電体に対し、周波数によって測定した誘電特性の例を示した図である。
図1の単一状の単結晶チタン酸バリウムと
図2の多結晶チタン酸バリウムセラミックに対して交流周波数による誘電特性を比較するとき、3つの重要な特徴を発見することができる。1つ目に、単結晶チタン酸バリウムの場合、1MHz以下の領域では0.2%未満という極めて低い誘電損失を有するという点である。2つ目は、同じ単結晶チタン酸バリウムの場合は、10MHzからは急激な比誘電率の緩和および誘電定数の増加を示しているが、多結晶チタン酸バリウムの場合は、このような急激な誘電特性の変化が100MHz以上の高い周波数区間で多少滞って現れるという点にある。最後に、100MHz以下では、単結晶チタン酸バリウムの低い誘電損失とは異なり、多結晶チタン酸バリウムの場合は約5%の高い誘電損失を有する。これは、多結晶体の粒径領域がセラミック強誘電体内の円滑な分極スイッチングに対して悪影響を及ぼしていることが分かる。
【0033】
図3は、本発明の一実施形態における、強誘電性チタン酸バリウムに対し、周波数による誘電特性および分極の種類を示した模式図であり、
図4は、本発明の一実施形態によって製作されたセラミック誘電体の周波数による誘電特性の改善方案を示した図である。上述した単一組成の単結晶チタン酸バリウムと多結晶チタン酸バリウムセラミックの誘電特性の比較によって得られた結果に基づいて積層セラミックコンデンサの新たな発展の方向を模索することが可能になった。約1GHzまでの極めて広い交流周波数領域で一貫して低い誘電損失を有するセラミック誘電体を製作するために、高い周波数領域および低い周波数領域それぞれに影響を及ぼす、2つの大きな調節因子を改善しようとする。
【0034】
図5は、本発明の一実施形態における、ドーパントを利用した多結晶誘電体粒径組成の制御の結果として、粒子成長抑制による強誘電性の減少および粒径内の電気的二重層構造の緩和の発現を示した図である。
【0035】
先ず、100MHz以上の高周波数で誘電損失を効率的に抑制するために結晶粒成長および大きさを調節する。交流周波数による強誘電体ドメイン構造による配向分極の緩和は、一般的には1GHz内外で起こることが広く知られており、ドメインの大きさに反比例して徐々に低い周波数で誘電特性緩和現象が発生するようになる。10MHzから始まる単結晶チタン酸バリウムの強誘電分極の緩和現象が、多結晶チタン酸バリウムの場合には100MHz以上のより高い周波数領域に完全に移って現れる結果は、上述した予測を強く裏付けるものと思われる。また、チタン酸バリウムのような強誘電体の場合、正方性(Tetragonality)およびドメインの大きさは結晶粒の大きさに直接的に比例し、結晶粒が小さいほど強誘電性が減少するようになる。したがって、交流周波数に円滑な分極反応性を示すようになる低い強誘電性の微粒なドメイン構造を有する多結晶セラミック誘電体を製作するために、50nm水準の微粒なチタン酸バリウム前駆体を使用した。このように微粒な前駆体粉末を使用したセラミック誘電体の場合でも10
3以上の高い比誘電率を維持することができ、1GHzでも2.5%以下という極めて低い誘電損失を有することができる。高周波での誘電損失緩和に対する本発明の一実施形態に係る改善方案の模式図を、
図5の上側に示した。
【0036】
また、10MHzあるいは100MHz以下の低周波数で誘電損失を効率的に低める結果を示すために、粒径の電気的非均質構造を解決することは核心的な技術であると考えられる。一般的に、多結晶酸化物セラミックの粒径区間に電気的二重層(Electrical double layer)が存在することは既成の事実であるが、このような電気的二重層は、粒径中心に位置する超過電荷と、これを償うために粒径中心に隣接している空間電荷で構成されている。電気的二重層は、粒径領域での内部電界を引き起こし、このような内部電界によって強誘電分極が静電気的に反応するようになる。このような結果は、粒径が存在しない単結晶チタン酸バリウムでは10MHz以下で極めて低い誘電損失を示す反面、粒径が存在する多結晶チタン酸バリウムでは100MHz以下で5%という高い誘電損失を示すという点においても改めて確認することができた。したがって、このように粒径に存在する電気的二重層による非均質構造を取り除くために、本発明では、ドーパントを利用して多結晶誘電体の粒径組成を制御し、周波数によって円滑に反応する最適化した分極領域を図る。ドーパントを利用した多結晶誘電体の粒径組成制御によって結晶粒成長抑制に対する効果ももたらすことができ、これは高周波での誘電損失の改善に追加の利点を与えることができる。低周波での誘電損失緩和に対する本発明の改善方案の模式図を、
図5の下側に示した。
【0037】
このように、低周波および高周波を含んだ広い周波数領域帯で誘電損失を改善しようとし、このためにドーパントを利用して多結晶セラミック誘電体の粒径組成を制御しようとした。このようなドーパントは、チタン酸バリウムに基づくセラミック誘電体に対してアクセプタとして作用するものを使用し、このようなアクセプタードーパントは、Mn、Fe、Ni、Al、Ga、またはこれらの組み合わせを含んでよい。
【0038】
このような、アクセプタードーパントの使用により、セラミック誘電体の焼成過程中に還元条件下で熱処理を経たとしても、還元しない非還元性を有することができる。粒径内の微細な分布幅に高い濃度となっているアクセプタードーパントによって内在的酸素空孔が発生するようになるが、これは還元雰囲気によって生成される外在的酸素空孔および電子の生成を優先的に遮断する役割をし、非還元性を示すことができる。したがって、アクセプタードーパントの使用により、大気条件の焼成によって製作されたセラミック誘電体と0.5%H2-N2の還元雰囲気条件で焼成されたセラミック誘電体は、極めて類似の絶縁比抵抗と、これによる類似の誘電特性を示すことができる。
【0039】
ドーパントを利用した粒径組成制御により、ドーパントは、粒径中心から両側の結晶粒バルクの方向に約2.5nm、合計5nm以内の極めて薄い分布区域を有することができる。
【0040】
このように、極めて薄い粒径領域で組成を制御することにより、効率的な誘電損失減少効果および結晶粒バルクの強誘電性維持による高い比誘電率維持のような効果をもたらすことができる。粒径中心を基準に5nmの幅を除外し、セラミック誘電体の大部分の比重を占める結晶粒バルクは、チタン酸バリウム土台の強誘電性を完全に維持することができ、このような部分は一般的に広く使用されるコア-シェル(Core-shell)構造との最大の差として現れる。
【0041】
コア-シェル(Core-shell)構造の多結晶誘電体の場合、結晶粒バルク内の特定の中心領域だけが強誘電性を維持するコア(Core)となり、その他の半分以上がドーパント-固溶体形式で常誘電性を帯びたシェル(shell)となる。したがって、このようなコア-シェル構造の多結晶誘電体は、結晶粒バルクの強誘電性を維持することができず、これによって比誘電率が大幅に減少するという短所となる。
【0042】
また、効果的な粒径組成制御のためには、ドーパントが薄い分布領域に高い濃度で存在しなければならず、このためにドーパントは、チタン酸バリウム土台のセラミック100モル体積に対して1~10モル体積の高濃度で使用されてよい。ドーパント含量が1モル体積未満の場合には、相対的に少量の濃度によって多結晶誘電体の粒径組成制御が微弱となることがあり、10モル体積を超過する場合には、二次状が形成されたり結晶粒バルクによってドーパントが拡散したりするように5nm以上のドーパント分布層が形成されることがあり、これによって誘電損失が上昇して比誘電率が大幅に減少する。
【0043】
図6は、本発明の一実施形態における、多結晶セラミック誘電体の製造方法の例を示したフローチャートである。本実施形態に係る多結晶セラミック誘電体の製造方法は、結晶化したチタン酸バリウムおよびドーパント前駆体粉末を含む混合物を製造する段階610、エタノール溶媒を利用して、製造した混合物を分散および粉碎して混合溶液を生成する段階620、混合溶液を乾燥させて混合粉末を生成する段階630、混合粉末を加圧成形してディスク形態のペレットサンプルを生成する段階640、およびディスク形態のペレットサンプルを焼成して多結晶セラミック誘電体を製造する段階650を含んでよい。ここで、結晶化したチタン酸バリウムは、50nm以下の直径を有する粉末を含んでよい。また、結晶化したチタン酸バリウムは、還元雰囲気の焼成条件下でも多結晶セラミック誘電体が絶縁性を維持するようにするためにアクセプタとして作用するアクセプタードーパントを含んでよい。この場合、前記アクセプタードーパントは、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、またはこれらの組み合わせで構成されてよい。また、段階610で、焼成熱処理後の多結晶セラミック誘電体の緻密化のために二酸化ケイ素(SiO
2)を添加して混合物を製造してよい。
【0044】
以下では、発明の具体的な実施形態を提示する。ただし、以下に記載する実施形態は、発明を具体的に例示したり説明したりするためのものに過ぎず、これによって発明の範囲が制限されてはならない。
【0045】
[製造例:ドーパントによって粒径組成が制御された多結晶誘電体の製造]
多結晶誘電体の粒径組成制御のためには粒径選択的にドーパントが分布されなければならず、このために、優先的に結晶化がなされたチタン酸バリウム粉末にドーパント前駆体を混合して焼成熱処理を進める方式で製造が行われた。
【0046】
また、多結晶セラミック誘電体内の微粒の結晶粒の大きさを示すために、結晶化が先制的になされたチタン酸バリウムは、約50nm水準の直径を有する粉末を使用した。
【0047】
優先的に結晶化されたチタン酸バリウムとドーパント前駆体粉末をそれぞれ適当な割合となるように秤量して混合物を製造した。還元雰囲気の焼成条件下でもセラミック誘電体が絶縁性を維持できるようにするために、チタン酸バリウムにアクセプタとして作用するアクセプタードーパントを使用し、MnO、Fe2O3、NiO、Al2O3、Ga2O3のような種類をそれぞれ使用した。
【0048】
また、焼成熱処理後に多結晶セラミック誘電体の容易な緻密化が起こるようにするために、チタン酸バリウムに対して一定量の二酸化ケイ素(SiO2)を添加して混合した。
【0049】
秤量後、混合物の分散および粉砕のために高純度エタノール溶媒をメディア(media)とし、ジルコニアボールとともに24時間の湿式ミーリングを行った。
【0050】
ミーリングが完了した原料粉末混合溶液をホットプレート上でスラリー状態になるまで乾燥させた後、80℃以上のオーブンで残りの溶媒を完全乾燥した。
【0051】
乾燥した粉末をメノウ乳鉢によって十分に粉砕した後、75μmのふるいを用いてふるい分けを行った。
【0052】
8mmの金属モールドを用いて混合粉末をディスク形態のペレットに加圧成形した。この後、200Mpの圧力で10分間にわたり冷間等圧加圧法を施行した結果、焼成過程時よりも効率的な緻密化を行うことができた。
【0053】
垂直加熱炉を利用して1200℃で1時間にわたってディスク形態のペレットサンプルを焼成した。酸化および還元のように多様な雰囲気で焼成を行うために、大気(Air)、窒素(N2)、0.5%H2-N2、1%H2-N2という4つの焼成雰囲気条件を使用した。多結晶セラミック誘電体の多様な分析は、0.5%H2-N2の雰囲気で焼成したサンプルを代表として施行した。
【0054】
[実験例1:ドーパント分布調節による粒径組成制御、およびこれに対する定性的および定量的分析]
製造例のように製造された多結晶セラミック誘電体の粒径組成がドーパントによって調節および制御されているかに対する直接的な確認、および定性、定量的な分析のために、走査透過電子顕微鏡によるエネルギー分散型分光分析法を活用し、これに対する代表的な結果を
図7に示した。
【0055】
図7は、ドーパント粒径組成制御多結晶誘電体に対し、各ドーパント種類の多様な元素の分布形状および位置をエネルギー分散型分光分析法によって測定したイメージである。
図7に示した多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。他の種類のドーパント元素によって粒径組成を制御させた多結晶セラミック誘電体に対し、ドーパントの種類とは関係なく、すべてのドーパントの元素が多結晶セラミック粒径領域に共通して強く現れていることが分かる。このような結果は、一実施例で目標とした多結晶セラミック誘電体構造に適したドーパントの粒径組成制御構造を形成していることを直接的に確認することができる。
【0056】
エネルギー分散型分光分析法を活用することで、ドーパントが多結晶誘電体粒径組成を制御していることを明白に確認することができた。より詳しく説明すると、微視的なドーパント粒径組成制御構造に対する分析のために走査透過電子顕微鏡による電子エネルギー損失分光法を行い、これに対する結果を
図8に示した。
【0057】
図8~10は、ドーパント粒径組成制御多結晶誘電体に対して電子エネルギー損失分光法を活用し、粒径領域を重点として原子水準を分析したイメージおよび結果である。該当の図面に示された多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。それぞれ異なるドーパントによって粒径組成が制御された多結晶セラミック誘電体に対し、ドーパントの種類とは関係なく、粒径中心を基準に両方にそれぞれ約2.5nm以内、合計5nm以内の極めて薄いドーパント粒径制御層が形成されていることを確認することができる。また、各ドーパントは、粒径中心に最も高い濃度で布陣しており、両結晶粒バルクの方向に進むほど徐々に減少して消えることを確認することができる。このように粒径中心をドーパント濃度の最大基準としながら徐々に減少するドーパント濃度により、ドーパント粒径組成制御が一実施例で意図したようになされたことが分かる。合計5nm以内の薄いドーパント粒径組成制御層から少しでも逸脱する区間では、すべてのドーパント種類が同じように分布していないことを確認することができ、これによって結晶粒バルク領域でのドーパント分布がなされないことを改めて確認することができる。
【0058】
[実験例2:交流周波数による誘電特性の測定]
製造例のように製造されたディスク形状のペレットサンプルの両面を研磨した後、シルクスクリーン技法によってAgペーストを両面に塗布して電極処理を行った。
【0059】
上述したように両面にAg電極が処理された多結晶セラミック誘電体を、インピーダンス分析器を活用して100H~1GHzの周波数領域に対して交流電界を印加して比誘電率および誘電損失を測定した。
【0060】
図11および
図12は、一実施例において、それぞれ異なる酸化および還元焼成雰囲気条件で焼成を行った粒径組成制御の多結晶誘電体に対し、周波数による誘電特性を示した図である。すべての種類の粒径組成制御多結晶誘電体に対して酸化雰囲気~1%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成を行った場合、比誘電率および誘電損失の誘電特性に変化がないことが分かる。これは、本発明の実施形態で多結晶誘電体の非還元性を誘導したことに相応して、チタン酸バリウムに対してアクセプタとして作用するドーパントだけを使用した結果として、アクセプタードーパントによる外在的酸素空孔および伝導電子の生成を抑制させた結果であることが分かる。
【0061】
同時に、一実施例のように製作された粒径組成制御多結晶誘電体は、測定した広い領域の周波数帯で低い誘電損失を有し、比較的高い比誘電率を示していることを確認することができる。10MHzあるいは100MHz以下の交流周波数領域では1%もない極めて低い誘電損失を有することができ、1GHzまでの極めて高い周波数では2.5%に満たない低い誘電損失を有し、103級以上の高い比誘電率を有することを確認することができた。このような広い周波数領域での低い誘電損失と高い比誘電率の維持は、本発明の実施例で意図したものに相応し、先に確認された粒径でドーパントによる組成が制御された粒径による結果として見ることができる。
【0062】
一実施例では、高周波数での誘電損失抑制効果を誘導するために強誘電性および微粒なドメイン幅の製作を意図とし、このために微粒な結晶粒の大きさのセラミック誘電体を生成しようとした。セラミック誘電体が微粒な結晶粒の大きさを有するためには、結晶粒成長を効果的に抑制する粒径組成制御のためのドーパント分布構造とともに、初期には小さなチタン酸バリウム粉末を使用しなればならない。これにより、実施例では、ナノサイズ水準のチタン酸バリウムを使用し、それぞれ異なる大きさの初期チタン酸バリウム粉末を使用することで、ドーパントによって粒径組成が制御された多結晶誘電体を製作した。これに対する誘電特性および微細構造は、
図13に示した。
【0063】
図13は、一実施例において、チタン酸バリウム前駆体粉末の大きさ調節による微細構造の変化および周波数による誘電特性の比較を示した図である。該当の図面に示した多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。チタン酸バリウム前駆体粉末の大きさが増加するにつれ、焼成後のドーパント粒径組成制御誘電体の結晶粒も徐々に比例して増加することを微細構造測定によって知ることができる。また、周波数による誘電特性の比較から分かるように、結晶粒の大きさが減少するにつれ、100MHz以上の高周波での誘電損失が順に減少することを確認することができる。このような部分は、上述したように、低い強誘電性でより円滑に分極が交流電界に反応して現れる結果であることを知ることができ、さらに前駆体粉末の大きさとは関係なく、すべてのセラミック誘電体にドーパントによる粒径組成制御を施行することにより、10~100MHz以下の低周波数では同じように低い誘電損失を得ることができた。
【0064】
さらに、それぞれ異なる大きさのチタン酸バリウム粉末を使用することで誘電率調節を可能にするということを示すことができる。50~220nmの前駆体粉末を使用することにより、800~2000水準の比誘電率を有するドーパント粒径組成制御誘電体を使用に適合するように製作することができる。特に、代表的にFeドーパントを使用したセラミック誘電体の場合は、焼成後にも結晶粒の大きさが前駆体初期粉末の直径の2倍以下で現われることを確認することができ、ドーパントを利用した粒径組成制御により、結晶粒成長抑制およびこれによる高周波数での誘電損失減少の効果が現れるということを改めて確認することができる。
【0065】
上述したように、それぞれ異なる大きさのチタン酸バリウム初期粉末を利用した粒径組成制御の多結晶誘電体で、初期粉末の種類とは関係なく、すべての場合で粒成長が抑制される結果を得ることができる。また、チタン酸初期粉末の変更による結果として徐々に増加するチタン酸初期粉末を使用することにより、焼成後のセラミック誘電体の結晶粒増加および強誘電性の増加によって比誘電率が増加する反面、高周波での誘電損失も増加する結果を現わすことができる。このようなチタン酸バリウム初期粉末によって相異するように変化する誘電特性およびこれを裏付ける微細構造測定イメージを、
図14と
図15に示した。
【0066】
図14は、異なる大きさのチタン酸バリウム初期粉末によって製作されるドーパント粒径組成制御誘電体に対する各周波数の誘電特性を比較して示した図である。該当の図面に示された多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。それぞれ異なるドーパントを利用して粒径組成制御した多結晶セラミック誘電体はすべて、チタン酸初期粉末の大きさに比例して共通して比誘電率が増加することが分かる。また、これと同じ傾向により、初期使用されたチタン酸バリウム粉末の大きさが増加することにより、100MHz以上の高周波で誘電損失がともに増加することを確認することができる。使用されるチタン酸バリウムの初期粉末の大きさが増加するにつれ、焼成後のセラミック誘電体の結晶粒の大きさが増加し、これによって現れる強誘電性の増加によって上述した比誘電率および高周波での誘電損失が増加するようになる。これは、高周波での効果的な誘電損失減少効果を示すためには、より強誘電性が低い、ナノサイズの微粒なチタン酸バリウム初期粉末の使用が必須であることを示している。一方、約200nmの大きさを有する比較的肥大なチタン酸バリウム初期粉末を使用した場合でも、10~100MHz以下の低周波での誘電損失は、2%未満の低い誘電損失が維持されていることをも分かる。
【0067】
図15は、異なる大きさのチタン酸バリウム前駆体初期粉末によって製作される粒径組成制御多結晶誘電体に対し、走査透過電子顕微鏡を利用して微細構造を示したイメージである。該当の図面に示した多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。各ドーパントの種類ごとに異なる大きさのチタン酸バリウム初期粉末を使用して粒径組成制御の誘電体を製作した結果、すべての場合においてチタン酸バリウム粉末の大きさに比例してセラミック誘電体結晶粒の大きさが増加することが分かる。このような結果は、
図8に示した誘電特性の変化を裏付けるものとなる。したがって、高周波での低い誘電損失のためには、粒径組成制御のための粒径選択的なドーパント使用による結晶粒成長の抑制効果だけではなく、ナノサイズの微粒な初期チタン酸バリウム粉末の使用が必須要素として作用することが分かる。
【0068】
[実験例3:電界による分極履歴曲線、比誘電率、および温度安全性の測定]
製造例によって製造されたディスク形状のペレットサンプルの両面を研磨した後、シルクスクリーン技法によってAgペーストを両面に塗布して電極処理を行った。
【0069】
上述したように両面にAg電極が処理された多結晶セラミック誘電体を、強誘電特性分析器を活用して4000Vの直流電圧を印加して電界による分極履歴曲線を測定し、これを
図10に示した。
【0070】
図16は、初期異なる大きさのチタン酸バリウム粉末によって製作される粒径組成制御誘電体に対し、直流電圧による分極履歴曲線の測定結果を示した図である。該当の図面に示された多結晶セラミック誘電体は、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。使用したチタン酸バリウム初期粉末の大きさが増加するほど、分極履歴曲線の飽和分極(Saturation polarization)および抗電場(Coercive field)が徐々に増加することを確認することができる。すなわち、チタン酸バリウム初期粉末の大きさに比例してセラミック誘電体の分極および強誘電性が増加する結果を得ることができる。このような結果は、
図14および
図15に示した結果をさらに裏付けるものとなり、これは、高周波領域での誘電損失の減少のためのナノサイズの微粒なチタン酸バリウム初期粉末の使用が必須であることを現わしている。また、分極測定で履歴曲線が現れることに基づき、結晶粒バルクの強誘電性は完全に維持されていることが分かる。
【0071】
両面にAg電極が処理された多結晶セラミック誘電体を、電力デバイス分析器を活用して1000Vの直流電圧を印加して直流電界による比誘電率の変動を測定し、これを
図17に示した。
【0072】
図17は、各ドーパント元素種類の粒径組成制御多結晶誘電体に対し、直流電界による比誘電率の変化測定を示した図である。該当の図面に示した多結晶セラミック誘電体は、大気条件で焼成したBaTiO
3対象群を除き、0.5%H
2-N
2の還元雰囲気で焼成した場合を代表として示した。純粋BaTiO
3の場合、20kV/cmまで比誘電率が30%以上減少したことが分かり、この他のすべての各ドーパント元素の粒径組成制御誘電体は、電界による比誘電率の減少幅が大幅に低下したことを確認することができる。特に、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、およびニッケル(Ni)ドーパントを利用して粒径組成を制御した多結晶セラミック誘電体の場合、電界による比誘電率の減少現象が測定範囲内で著しく低いということが分かる。特に、鉄(Fe)ドーパントを利用した誘電体の場合、初期チタン酸バリウムとして50nm以外の100~200nmの大きさの前駆体粉末を使用したにもかかわらず、20kV/cmまで10%以下の低い比誘電率の減少幅を示したことが分かる。このような直流電界による比誘電率の減少率は、結晶粒が小さいほど減少する傾向を示している。これは、より微粒な前駆体粉末の使用および粒径組成制御効果による結晶粒成長の抑制が電界による優れた比誘電率特性のための必須要素であることを示している。このように、本実施形態に係る多結晶セラミック誘電体は、20kV/cm以上の電界で比誘電率が+15%または-15%以内で変化することができる。
【0073】
両面にAg電極が処理された多結晶セラミック誘電体に対し、25~200℃区間に対して温度変化を加えて1KHzでの比誘電率および誘電損失のような誘電特性を測定し、これを
図18に示した。
【0074】
図18は、粒径組成制御多結晶誘電体に対して温度による誘電特性を示した図である。苛酷な環境でも安定的な駆動が求められるセラミックコンデンサのために、セラミック誘電体には温度による安全性が求められる。マンガン(Mn)ドーパントを利用して粒径組成を制御した多結晶セラミック誘電体の場合、常温比誘電率±22%の範囲で200℃まで維持することができることが分かる。また、鉄(Fe)ドーパントを利用して粒径組成を制御した多結晶セラミック誘電体の場合、常温比誘電率±15%の範囲で150℃まで維持することができることが分かる。これにより、結晶粒バルクの相当部分が常誘電体で存在するコア-シェル(Core-shell)構造でないにもかかわらず、強誘電性が低い粒径組成制御多結晶誘電体として高い温度安全性を示すことが分かる。このような高い温度安全性は、実質的な積層セラミックコンデンサとしての可能性を示している。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明したが、本発明の権利範囲がこれに限定されてはならず、添付の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者による多様な変形および改良形態も本発明の権利範囲に属する。