(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム、並びに正極活物質の製造方法、正極活物質、正極合剤及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240509BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240509BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240509BHJP
H01M 4/136 20100101ALN20240509BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/054
H01M4/36 A
H01M4/136
(21)【出願番号】P 2023579287
(86)(22)【出願日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2023037723
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2022167033
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521335915
【氏名又は名称】株式会社ルネシス
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貞充
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-009583(JP,A)
【文献】特開2011-081926(JP,A)
【文献】特開2011-091010(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、正極活物質であり、
前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する工程(1)と、
前記固形物から未精製炭化物を選別する工程(2)と、
前記未精製炭化物を洗浄した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理した後、精製炭化物を得る工程(3)と、
前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する工程(4)と、
Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)と、を混錬し、非酸化性雰囲気下で熱処理して得られる固形物を粉砕して乾燥して正極活物質を得る工程(5)と、を備え、
下記要件(i)~(iii)のいずれか1以上の要件を満たすことを特徴とする電極部材の製造方法。
要件(i):正極活物質用炭化物(B)の少なくとも一部が、工程(3)により得られる精製炭化物であること
要件(ii):重質油(C)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる重質油であること
要件(iii):硫黄(D)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる硫黄であること
【請求項2】
成分(A)の少なくとも一部が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の電極部材の製造方法。
【請求項3】
成分(A)の少なくとも一部が、木材を燃焼させて得られた木質燃焼灰である請求項2に記載の電極部材の製造方法。
【請求項4】
成分(A)の少なくとも一部が、卵殻焼成物である請求項2に記載の電極部材の製造方法。
【請求項5】
工程(3)における未精製炭化物の洗浄が、亜臨界または超臨界二酸化炭素処理である請求項1に記載の電極部材の製造方法。
【請求項6】
硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である請求項1に記載の電極部材の製造方法。
【請求項7】
硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、負極活物質及び/又は正極活物質用炭化物であり、
前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理し、負極活物質及び/又は正極活物質用炭化物としての精製炭化物を得る工程を有することを特徴とする電極部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電極部材の製造方法を用いる電極部材の製造システムであって、
前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する熱処理手段(x)と、
前記固形物から未精製炭化物を選別する選別手段(y1)と、
前記未精製炭化物を洗浄する洗浄手段(y2)と、
洗浄後の未精製炭化物を、非酸化性雰囲気下で熱処理し、精製炭化物を得る熱処理手段(y3)と、
前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する分離手段(z1)と、
Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)とを混錬し、原料混合物を得る混錬手段(z2)と、
前記原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理し、固形物を得る熱処理手段(z3)と、
得られた前記固形物を粉砕して乾燥を行う調整手段(z4)と、
を備えることを特徴とする電極部材の製造システム。
【請求項9】
洗浄手段(y2)において、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理する請求項8に記載の電極部材の製造システム。
【請求項10】
前記電極部材の製造システムが、分離手段(z1)によって分離されたガスを燃焼させ、発生した二酸化炭素を回収するガス処理手段(w1)を有し、
洗浄手段(y2)において、ガス処理手段(w1)によって回収された二酸化炭素を用いて、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理する請求項9に記載の電極部材の製造システム。
【請求項11】
熱処理手段(x)が、分離手段(z1)によって分離された軽質油を燃焼させ、発生した熱を用いて前記原料を熱分解する請求項8に記載の電極部材の製造システム。
【請求項12】
熱処理手段(y3)で得られた精製炭化物を粉砕する粉砕手段(w3)を有する請求項8に記載の電極部材の製造システム。
【請求項13】
前記電極部材の製造システムが、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上を製造するイオン原料製造手段(w4)を有する請求項8に記載の電極部材の製造システム。
【請求項14】
前記電極部材の製造システムが、中和処理手段(w5)を有し、
中和処理手段(w5)が、熱処理手段(z3)で発生する硫化物を中和処理した中和済み固形分を製造し、
前記イオン原料(A)が前記中和済み固形分を含む請求項8に記載の電極部材の製造システム。
【請求項15】
硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である請求項8に記載の
電極部材の製造システム。
【請求項16】
下記成分(A)~(D)を混合して得られた原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理する工程を含むことを特徴とする正極活物質の製造方法。
成分(A):Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料
成分(B):正極活物質用炭化物
成分(C):重質油
成分(D):硫黄
【請求項17】
成分(A)の少なくとも一部が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上である請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項18】
成分(B)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物である請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項19】
成分(C)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油である請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項20】
成分(D)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項21】
成分(A)が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上であり、
成分(B)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物であり、
成分(C)の少なくとも一部が、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油であり、
成分(D)の少なくとも一部が、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項22】
硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である請求項18に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項23】
請求項16から22のいずれかに記載の製造方法で得られる正極活物質。
【請求項24】
請求項23に記載の正極活物質を含有する正極合剤。
【請求項25】
正極、負極、及び電解質を備え、前記正極が、請求項24に記載の正極合剤を用いてなる二次電池。
【請求項26】
硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、正極活物質であり、
前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られた前記重質油と前記硫黄と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料と、正極活物質用炭化物とを混練し、非酸化性雰囲気下で熱処理し、正極活物質を得る工程を有することを特徴とする電極部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2022年10月18日に出願された日本国特許出願(特願2022-167033号)の利益および優先権を主張する。前述の特許出願に対する優先権を明示的に主張するものであり、参照により、その出願の全開示内容が、あらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用の正極活物質の製造方法及びこれに適した電極部材の製造方法に関する。また、これらの製造方法で得られた電極部材(正極活物質含む)を使用した正極合剤及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、携帯電話用途等の小型電源、電気自動車用途、電力貯蔵用途等の中型・大型電源としてその需要は近年増大している。一方、リチウム二次電池の正極活物質の主要な構成元素であるリチウムは、採算性が取れる塩湖からの生産は一部の国に限られていることから、リチウム二次電池の需要拡大に伴う供給不安や価格高騰が懸念されている。
【0004】
リチウム二次電池を代替する新たな二次電池の正極活物質の研究開発が行われており、その候補のひとつとして、硫黄系正極活物質の研究開発が行われている。
例えば、特許文献1には、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルを、リチウム二次電池の正極活物質に使用することが開示されている。また、特許文献2には、フッ素を導入することによって電位をより高くしたフッ素導入硫黄変性ポリアクリロニトリルを二次電池の正極活物質に使用することが開示されている。
【0005】
一方、タイヤ由来のゴム類等の硫黄を含有するゴム類を原料に用いて正極活物質を製造する方法が報告されている(特許文献3)。当該製造方法では、ゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留分離して得られる硫黄及び重質油を混錬して熱処理した生成物をリチウム二次電池の正極活物質として使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5534227号公報
【文献】特開2013-101811号公報
【文献】特許第6266655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、リチウム以外のアルカリ金属(Na、K)やアルカリ土類金属(Ca,Mg)を使用した二次電池も開発されているが、高い体積容量が求められる携帯機器用途や車載用途についてはリチウム二次電池がこれからもリードしていくと考えられる。
一方、体積容量がそれほど求められない、すなわちコンパクトにする必要のない定置型二次電池では、リチウム以外のイオン種の二次電池への使用が想定される。
【0008】
特許文献1,2の硫黄変性ポリアクリロニトリル系正極活物質は、実質的にはリチウム二次電池用であり、一部ナトリウム二次電池に使用例もあるが容量に制限があり、他のアルカリ金属(K)やアルカリ土類金属(Ca,Mg)を使用した二次電池用では実績がない。また、原料に特殊なアクリロニトリルを使用するため、原料入手が困難になり、高コストになりやすい。
また、特許文献3のゴム類由来原料を使用した正極活物質は、原料の硫黄を含有するゴム類として廃タイヤ由来のゴム類等の廃棄物を使用できるという利点があるが、リチウム二次電池としては優れた性能を示したものの、Li以外のイオン種の二次電池にそのまま転用できるものではなかった。
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、原料として硫黄含有ゴムを使用した電極部材の製造方法及び電極部材の製造システムを提供することである。
また、本発明の他の目的は、リチウム以外のイオン種を使用した、新規の正極活物質の製造方法及び正極活物質、並びに正極合剤及び二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の電極部材の製造方法に関する。
<1> 硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、正極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する工程(1)と、前記固形物から未精製炭化物を選別する工程(2)と、前記未精製炭化物を洗浄した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理した後、精製炭化物を得る工程(3)と、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する工程(4)と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)と、を混錬し、非酸化性雰囲気下で熱処理して得られる固形物を粉砕して乾燥して正極活物質を得る工程(5)と、を備え、下記要件(i)~(iii)のいずれか1以上の要件を満たす電極部材の製造方法。
要件(i):正極活物質用炭化物(B)の少なくとも一部が、工程(3)により得られる精製炭化物であること
要件(ii):重質油(C)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる重質油であること
要件(iii):硫黄(D)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる硫黄であること
<2> 成分(A)の少なくとも一部が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上である<1>に記載の電極部材の製造方法。
<3> 成分(A)の少なくとも一部が、木材を燃焼させて得られた木質燃焼灰である<1>または<2>に記載の電極部材の製造方法。
<4> 成分(A)の少なくとも一部が、卵殻焼成物である<1>または<2>に記載の電極部材の製造方法。
<5> 工程(3)における未精製炭化物の洗浄が、亜臨界または超臨界二酸化炭素処理である<1>から<4>のいずれかに記載の電極部材の製造方法。
<6> 硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である<1>または<5>のいずれかに記載の電極部材の製造方法。
<7> 硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、
前記電極部材が、正極活物質であり、
前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られた前記重質油と前記硫黄と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料と、正極活物質用炭化物とを混練し、非酸化性雰囲気下で熱処理し、正極活物質を得る工程を有する電極部材の製造方法。
<8> 前記イオン原料が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上である<7>に記載の電極部材の製造方法。
<9> 硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、負極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理し、負極活物質としての精製炭化物を得る工程を有する電極部材の製造方法。
<10> 硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である<1>から<9>のいずれかに記載の電極部材の製造方法。
<11> <1>から<8>のいずれか、または<10>に記載の製造方法で得られた正極活物質を含有する正極合剤。
<12> 正極、負極、及び電解質を備え、前記正極が、<11>に記載の正極合剤を用いてなる二次電池。
<13> 前記負極が、<9>の製造方法で得られた負極活物質を含む<12>に記載の二次電池。
<14> 前記電解液が、電解質塩としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)又はカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を溶解したトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)である<12>または<13>に記載の二次電池。
【0012】
また、本発明は以下の電極部材の製造システムに関する。
<1a> <1>から<10>のいずれかに記載の電極部材の製造方法を用いる電極部材の製造システムであって、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する熱処理手段(x)と、前記固形物から未精製炭化物を選別する選別手段(y1)と、前記未精製炭化物を洗浄する洗浄手段(y2)と、洗浄後の未精製炭化物を、非酸化性雰囲気下で熱処理し、精製炭化物を得る熱処理手段(y3)と、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する分離手段(z1)と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)とを混錬し、原料混合物を得る混錬手段(z2)と、前記原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理し、固形物を得る熱処理手段(z3)と、得られた前記固形物を粉砕して乾燥を行う調整手段(z4)と、を備える電極部材の製造システム。
<2a> 洗浄手段(y2)において、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理する<1a>に記載の電極部材の製造システム。
<3a> 前記電極部材の製造システムが、分離手段(z1)によって分離されたガスを燃焼させ、発生した二酸化炭素を回収するガス処理手段(w1)を有し、洗浄手段(y2)において、ガス処理手段(w1)によって回収された二酸化炭素を用いて、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理する<2a>に記載の電極部材の製造システム。
<4a> 熱処理手段(x)が、分離手段(z1)によって分離された軽質油を燃焼させ、発生した熱を用いて前記原料を熱分解する<1a>から<3a>のいずれかに記載の電極部材の製造システム。
<5a> 熱処理手段(y3)で得られた精製炭化物を粉砕する粉砕手段(w3)を有する<1a>から<4a>のいずれかに記載の電極部材の製造システム。
<6a> 前記電極部材の製造システムが、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上を製造するイオン原料製造手段(w4)を有する<1a>から<5a>のいずれかに記載の電極部材の製造システム。
<7a> 前記電極部材の製造システムが、中和処理手段(w5)を有し、中和処理手段(w5)が、熱処理手段(z3)で発生する硫化物を中和処理した前記中和済み固形分を製造し、前記イオン原料(A)が前記中和済み固形分を含む<1a>から<6a>のいずれかに記載の電極部材の製造システム。
<8a> 硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である<1a>から<7a>のいずれかに記載の電極部材の製造システム。
【0013】
また、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1b> 下記成分(A)~(D)を混合して得られた原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理する工程を含む正極活物質の製造方法。
成分(A):Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料
成分(B):正極活物質用炭化物
成分(C):重質油
成分(D):硫黄
<2b> 成分(A)の少なくとも一部が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上である<1b>に記載の正極活物質の製造方法。
<3b> 成分(B)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物である<1b>または<2b>に記載の正極活物質の製造方法。
<4b> 成分(C)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油である<1b>から<3b>のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
<5b> 成分(D)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である<1b>から<4b>のいずれかに記載の正極活物質の製造方法
<6b> 成分(A)が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上であり、
成分(B)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物であり、
成分(C)の少なくとも一部が、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油であり、
成分(D)の少なくとも一部が、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である<1b>に記載の正極活物質の製造方法。
<7b> 硫黄を含有するゴム類が、タイヤ由来のゴム類である<3b>から<6b>のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
<8b> <1b>から<7b>のいずれかに記載の製造方法で得られる正極活物質。
【0014】
<1c> <8b>に記載の正極活物質を含有する正極合剤。
<2c> 正極、負極、及び電解質を備え、前記正極が、<1c>に記載の正極合剤を用いてなる二次電池。
<3c> 前記電解液が、電解質塩としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)又はカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を溶解したホスファート類である<1c>または<2c>に記載の二次電池。
<4c> 前記ホスファート類が、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)である<3c>に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原料として硫黄含有ゴムを使用した電極部材の製造方法及び電極部材の製造システムが提供される。また、リチウム以外のイオン種を含む正極活物質の製造方法及び正極活物質、並びに正極合剤及び二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る電極部材の製造システムの概念図である。
【符号の説明】
【0017】
x 熱処理手段
y1 選別手段
y2 洗浄手段
y3 熱処理手段
z1 分離手段
z2 混錬手段
z3 熱処理手段
z4 調整手段
w1 ガス処理手段
w2 燃焼手段
w3 粉砕手段
w4 イオン原料製造手段
w5 中和処理手段
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0019】
(用語の定義)
本発明において、「電極部材」とは、「電池の電極を構成する部材」を意味し、具体的には電極活物質(正極活物質及び負極活物質)、導電材(正極導電材及び負極導電材)及び集電体(正極集電体及び負極集電体)を意味する。
本発明において、「正極活物質」とは、電極活物質であって、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち、正極に用いられるものである。また、本発明において、「負極活物質」とは、電極活物質であって、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち、負極に用いられるものである。
【0020】
また、本発明において、炭化物(carbonized product)は、「純粋な炭素原子からなる炭素材料」だけでなく、「含炭素原料を熱処理することで得られる炭素原子及び不純物(含炭素原料由来のミネラル成分等)を含む材料」を包含する概念である。
また、本発明において、「未精製炭化物」とは、硫黄を含有するゴム類である原料を熱分解して得られる固形物から選別される炭化物である。また、本発明において、「精製炭化物」とは、未精製炭化物を洗浄した後に、非酸性雰囲気下で熱処理して得られる炭化物である。未精製炭化物及び精製炭化物に対する粉砕処理は、任意である。
【0021】
<1.正極活物質の製造方法>
本発明は、下記成分(A)~(D)を混合して得られた原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理する工程を含む正極活物質の製造方法(以下、「本発明の正極活物質の製造方法」と称す。)に関する。
成分(A):Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料
成分(B):正極活物質用炭化物
成分(C):重質油
成分(D):硫黄
【0022】
本発明の正極活物質は、成分(A)~(D)を出発原料として、次のようにして製造することができる。すなわち、以下の(p1)、(p2)の工程をこの順で含むことにより製造することができる。
工程(p1):成分(A)~(D)を混合して原料混合物を得る工程
工程(p2):得られた原料混合物を非酸化性雰囲気中で熱処理して熱処理物を得る工程
【0023】
なお、本発明の正極活物質は、後述する<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明する「本発明の電極部材の製造システム」により好適に製造することができるが、これに限定されることはなく、本発明の正極活物質の製造方法は、「本発明の電極部材の製造システム」以外の製造設備を使用して行うこともできる。
【0024】
以下、本発明の正極活物質の製造方法を詳細に説明する。
【0025】
<工程(p1)>
工程(p1)は、成分(A)~(D)を混合して原料混合物を得る工程である。
【0026】
<成分(A)>
成分(A)はNa、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料である。
【0027】
成分(A)であるイオン原料は、対象となるイオン種(Na、K、Ca又はMg)を含有し、正極活物質に目的とするイオン種を与えることができる原料を意味する。
【0028】
成分(A)であるイオン原料は1種でもよいが、2種以上を用いてもよい。2種以上のイオン原料を使用する場合、イオン種は同じであっても異なってもよい。
【0029】
成分(A)として、例えば、Na、K、Ca又はMgの過炭酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
成分(A)として、新規の原料も使用できるが、廃棄物由来の原料を使用することが好ましい。成分(A)として、新規の原料のみを使用してもよく、廃棄物由来の原料のみを使用してもよく、新規の原料と廃棄物由来の原料を混合(混合割合は任意)して使用してもよい。
【0030】
成分(A)の好適例のひとつは、過酸素漂白剤を含む無機系洗剤である。無機系洗剤の過酸素漂白剤に含まれる過炭酸ナトリウムは好適なナトリウム源となりうる。
【0031】
成分(A)の好適例のひとつは、植物燃焼灰(特に木質燃焼灰)である。「植物燃料灰」とは、植物性原料の燃焼灰であり、植物性原料由来のNa、K、Ca及びMg(特にはCa)並びにこれら以外のミネラル成分を含有する。
植物性原料としては本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、廃棄物利用の観点で、籾殻、藁、竹、間伐材、雑草から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
植物燃焼灰の好適例のひとつは、木質原料の燃焼灰である木質燃焼灰である。木質原料としては本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、典型的には、スギ、カラマツ、ヒノキ等の広葉樹、ブナ、シラカバ、ナラ等の針葉樹、竹を挙げることができる。また、木質原料としては、廃棄物利用の観点で、家屋解体木質、製材所木質廃材、家具工場木質廃材、樹木木質等を挙げることができる。
【0032】
成分(A)の好適例のひとつは、カルシウムを含有する生物材料の焼成物である。「カルシウムを含有する生物材料」として卵殻、貝殻などが挙げられ、これらの焼成物である卵殻焼成物や貝殻焼成物は、カルシウムを与えるイオン原料として好適に使用できる。
【0033】
成分(A)の好適例のひとつは、石膏である。「石膏」は硫酸カルシウムを含有する鉱物であり、カルシウム源として好適である。
石膏としては本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、廃棄物利用の観点で、石膏ボードを分離して製造した石膏が挙げられる。
【0034】
成分(A)の好適例のひとつは、温泉スケールである。「温泉スケール」は、温泉水に元々溶けていた成分が温度や圧力の変化、空気との接触、パイプ等への接触等により、不溶性成分として析出、堆積したものである。
温泉スケールの構成成分は、元の温泉水によるが、カルシウム、ナトリウム、カリウム及びマグネシウムの少なくとも1種を含む。また、温泉スケールには、シリカ系鉱物、酸化水酸化鉄などの成分も含まれることが多いため、必要に応じてこれらを取り除いた後に成分(A)として使用してもよい。
【0035】
<成分(B)>
成分(B)である正極活物質用炭化物は、正極活物質原料として使用される炭化物(carbonized product)である。
正極活物質用炭化物として、本発明の目的を損なわない限り、任意の炭素材料が使用でき、例えば、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等)、繊維状炭素材料(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維等)等が挙げられる。
【0036】
また、正極活物質用炭化物として、原料となる含炭素原料を不活性条件で熱処理したものが好ましい。炭化物の原料となる含炭素原料は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、バイオマス原料(例えば、木材、竹、籾殻等)、各種樹脂材料、ゴム材料等のプラスチック類が挙げられ、これらの含炭素原料を単独または2種以上が含炭素原料として使用される。
【0037】
成分(B)は、後述する<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明する精製炭化物を、少なくとも一部含むことが好ましい。
すなわち、成分(B)である正極活物質用炭化物の好適な一例は、その少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から炭化物を選別し、未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物である。
【0038】
熱処理条件は、含炭素原料の種類や、目的とする炭化物の物性(結晶性、多孔度等)を考慮して適宜決定される。典型的には、含炭素原料を、非酸化性雰囲気下(例えば、N2等の不活性ガスの流通下)で加熱し炭化処理を行う。炭化処理温度は、例えば、500℃以上1200℃以下である。
【0039】
<成分(C)>
成分(C)である重質油は、正極活物質の必須成分であると共に、製造するときに他の成分を接合するバインダーとして機能する。
【0040】
重質油としては、コールタール系、石油系、ゴム系のいずれも使用することができる。
【0041】
成分(C)は、後述する<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明する重質油を、少なくとも一部含むことが好ましい。
すなわち、成分(C)である重質油の好適な一例は、その少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油である。
【0042】
<成分(D)>
成分(D)である硫黄は、市販品でもよく、硫黄を含む化合物又は組成物から分離したものを使用してもよい。
【0043】
成分(D)は、後述する<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明する硫黄を、少なくとも一部含むことが好ましい。
すなわち、成分(D)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である。
【0044】
本発明の正極活物質の製造方法の好適な一例では、成分(A)が、無機系洗剤、植物燃焼灰、卵殻焼成物、貝殻焼成物、石膏及び温泉スケールからなる群より選ばれる1種以上であり、成分(B)の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物であり、成分(C)の少なくとも一部が、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油であり、成分(D)の少なくとも一部が、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄である製造方法である。
【0045】
成分(A)~(D)の割合は、成分(A)~(D)の種類に応じて、正極活物質として機能する範囲で適宜決定される。
例えば、成分(A)が木質燃焼灰の場合、成分(A)~(D)の好適な割合は、成分(A)を20~60重量%、成分(B)を10~30重量%、成分(C)を5~15重量%、成分(D)を20~40重量%、である。
【0046】
工程(p1)において混合方法としては、工業的に通常用いられる乾式混合により行えばよい。乾式混合装置としては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、乾式ボールミルを挙げることができる。また、混合は、本発明の目的を損なわない限り、湿式混合によって行うこともできる。
【0047】
<工程(p2)>
工程(p2)は、工程(p1)で得られた原料混合物を非酸化性雰囲気中で熱処理して熱処理物を得る工程である。工程(p2)により熱処理物(正極活物質)が得られる。
【0048】
本明細書において、「非酸化性雰囲気」とは、酸素等の酸化性ガスを実質的に含まない雰囲気をいい、典型的には、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気である。また、本発明の目的を損なわなければ、水素あるいは水素を含む不活性ガス等の還元雰囲気であってもよい。
【0049】
工程(p2)において、原料混合物の熱処理は、例えば、原料混合物を非酸化性雰囲気にした後に、室温から熱処理温度まで昇温し、熱処理温度にて所定時間熱処理を行い、その後、例えば室温まで降温する。
【0050】
熱処理温度や熱処理時間は、各成分(A)~(D)の種類や割合に応じて、目的とする熱処理物(正極活物質)を生成する範囲で適宜設定される。
熱処理温度は、例えば250℃以上500℃以下(好適には300℃以上400℃以下)である。熱処理時間は、例えば10分以上10時間以下である。
【0051】
工程(p2)で得られた熱処理物は、必要に応じて粉砕して使用される。粉砕方法としては、工業的に通常用いられる粉砕により行えばよい。粉砕装置としては、振動ミル、ジェットミル、乾式ボールミル等の粉砕機を挙げることができる。また、必要に応じて風力分級等の分級操作を行ってもよい。
【0052】
<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>
上述した本発明の正極活物質の製造方法は、以下に説明する硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法(以下、「本発明の電極部材の製造方法」と称す。)の一部とすることができる。また、本発明の電極部材の製造方法は、以下に説明する電極部材の製造システム(以下、「本発明の電極部材の製造システム」と称す。)を使用して好適に実現できる。
【0053】
本発明の電極部材の製造方法は、原料である硫黄を含有するゴム類から電極部材(電極活物質、導電材及び集電体)を製造するに当たり、電極部材の主な原料となる炭化物、硫黄、重質油のみならず、副次的に生成する軽質油、硫化物、二酸化炭素、排熱を再利用して原料やエネルギーとして利用することができる。そのため、本発明の電極部材の製造方法は、タイヤ等の硫黄を含有するゴム類を電池部材の原料として利用することができる。
【0054】
本発明の電極部材の製造方法は、新規原料を使用することもできるが、原料として通常廃棄されるゴム類(例えば、廃タイヤ等)を有効利用できるという利点がある。
【0055】
本発明の電極部材の製造方法は、硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が正極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られた前記重質油と前記硫黄と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料と、正極活物質用炭化物とを混練し、非酸化性雰囲気下で熱処理する工程を有することを特徴とする。
【0056】
本発明の電極部材の製造方法の他の一例は、硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、負極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を亜臨界または超臨界二酸化炭素処理した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理し、負極活物質としての精製炭化物を得る工程を有することを特徴とする。
【0057】
本発明の電極部材の製造方法の他の一例は、硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、正極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する工程(1)と、前記固形物から未精製炭化物を選別する工程(2)と、前記未精製炭化物を洗浄した後に、非酸化性雰囲気下で熱処理した後、精製炭化物を得る工程(3)と、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する工程(4)と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)と、を混錬し、非酸化性雰囲気下で熱処理して得られる固形物を粉砕して乾燥して正極活物質を得る工程(5)と、を備え、下記要件(i)~(iii)のいずれか1以上の要件を満たすことを特徴とする。
要件(i):正極活物質用炭化物(B)の少なくとも一部が、工程(3)により得られる精製炭化物であること
要件(ii):重質油(C)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる重質油であること
要件(iii):硫黄(D)の少なくとも一部が、工程(4)により得られる硫黄であること
【0058】
上述した本発明の電極部材の製造方法は、本発明の電極部材の製造システムを用いて、好適に実施することができる。
【0059】
本発明の電極部材の製造システムは、上述した本発明の電極部材の製造方法を用いる電極部材の製造システムであって、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離する熱処理手段(x)と、前記固形物から未精製炭化物を選別する選別手段(y1)と、前記未精製炭化物を洗浄する洗浄手段(y2)と、洗浄後の未精製炭化物を、非酸化性雰囲気下で熱処理し、精製炭化物を得る熱処理手段(y3)と、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離する分離手段(z1)と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料(A)と、正極活物質用炭化物(B)と、重質油(C)及び硫黄(D)とを混錬し、原料混合物を得る混錬手段(z2)と、前記原料混合物を非酸化性雰囲気下で熱処理し、固形物を得る熱処理手段(z3)と、得られた前記固形物を粉砕して乾燥を行う調整手段(z4)を備える電極部材の製造システムである。
【0060】
以下に本発明の電極部材の製造方法及び本発明の電極部材の製造システムの実施形態の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0061】
図1は、本発明の実施形態に係る電池部材の製造システムの概念図である。
図1に示すように、本実施形態の電池部材の製造システムでは、硫黄を含有するゴム類を原料に用い、原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、得られる未精製炭化物から精製炭化物(負極活物質及び/又は正極活物質用炭化物(上記成分(B)に相当))を製造し、さらに前記乾留ガスを冷却して油分とガス分とに分離し、油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離し、得られる重質油(上記成分(C)に相当)及び硫黄(上記成分(D)に相当)と、精製炭化物(上記成分(B)に相当)と、イオン原料(上記成分(A)に相当)とを混練し熱処理することにより正極活物質を製造する。
このように、原料として硫黄を含有するゴム類を再生して電極部材として利用できるようにしている。
【0062】
得られた負極活物質をバインダーと共に負極集電体に塗工することによって負極を作製することができる。また、得られた正極活物質をバインダーと共に正極集電体に塗工することによって正極を作製することができる。製造した正極や負極を用いて電池を製造することができる。
なお、本発明に係る負極活物質、負極導電材及び負極、並びに正極活物質、正極導電材及び正極は、これらから同一の電池を製造する場合に限られず、それぞれ別個の電池を製造する場合に利用することもできる。
【0063】
本発明の実施形態に係る電池部材の製造システムは、まず、原料となるゴム類を、熱処理手段(x)である熱分解炉を用いて熱分解処理する。これにより、固体状の固形物と気体状の乾留ガスとに分離される。
熱分解炉で原料となるゴム類を熱分解するための熱は、燃焼手段(w2)である燃焼炉で軽質油を燃焼した際の燃焼熱を用いる。燃焼熱が不足する場合は、外部から燃料を加えて加熱する。軽質油の燃焼熱を用いることにより、外部からの燃料追加を抑制し、本実施形態に係る製造方法(及び製造システム)のエネルギー効率が向上する。
なお、熱処理手段(x)での熱分解処理条件(熱分解炉の形状及び寸法、温度、熱分解時間等)は、熱分解処理される原料の量及び種類等によって、適宜設定することができる。また、熱処理手段(x)は、原料を熱分解処理して固形物と乾留ガスとに分離できる限り、任意の熱処理手段を使用することができる。
【0064】
原料となるゴム類としては、硫黄を含有するゴム類であればよく、好適にはタイヤ由来のゴム類である。ここで、「タイヤ由来のゴム類」は、タイヤに含まれるゴム類を意味し、タイヤにはゴム類以外の部材(補強材等の金属)を除去して得られる。
タイヤとしては、加硫ゴムが使用されたものであればよく、空気入りタイヤ、ソリッドタイヤ等を挙げることができる。また、原料となるゴム類として、新品のタイヤも使用できるが、使用後に廃棄されるタイヤ(廃タイヤ)や、タイヤの製造過程で欠損品や余剰材料として発生して廃棄される硫黄を含有するゴムを主成分とする廃棄物も好適に用いることができる。
また、原料となるゴム類は、上記のタイヤ用途のみならず、例えば、自動車用防振ゴム部材なども使用することができる。
【0065】
ゴム類から熱分解によって分離された固形物は、選別手段(y1)である選別機を用いて選別処理される。これにより、未精製炭化物と未精製炭化物以外(典型的には金属)に選別される。上述の通り、タイヤにはゴム類以外に補強材等の金属が含まれているが、選別処理によって前記固形物から金属が除去される。
【0066】
選別手段(y1)は、熱処理手段(x)によって得られた固形物から未精製炭化物を選別できる限り、任意の選別手段を用いることができる。選別手段(y1)として、例えば、磁力選別機、風力選別機、篩選別機を用いることができる。
【0067】
固形物から選別された金属は、金属資源として再生利用できる。
【0068】
一方、固形物から選別された未精製炭化物は、不純物を取り除くために洗浄される。具体的には、洗浄手段(y2)である亜臨界・超臨界処理装置を用いて、亜臨界または超臨界二酸化炭素処理を行うことによって、未精製炭化物が亜臨界または超臨界二酸化炭素により洗浄され、負極活物質又は正極活物質用炭化物(精製炭化物)としての品質、性能を高めることができる。
【0069】
固形物から選別された未精製炭化物は、洗浄前に必要に応じて粉砕してもよい。
【0070】
なお、洗浄手段(y2)は、固形物から選別された未精製炭化物を洗浄できる限り、任意の洗浄手段を用いることができる。
【0071】
洗浄後の未精製炭化物は、熱処理手段(y3)である熱処理機を用いて熱処理(非酸化性雰囲気下、500~1200℃)し、精製炭化物を得ることができる。得られた精製炭化物は、負極活物質又は正極活物質用炭化物として再生利用することができる。
なお、熱処理手段(y3)での熱処理条件(熱処理機の形状及び寸法、温度、熱処理時間等)は、熱処理される未精製炭化物の量及び種類等によって、適宜設定することができる。また、熱処理手段(y3)は、熱処理される未精製炭化物を、非酸化性雰囲気下で熱処理し、精製炭化物(負極活物質及び正極活物質用炭化物)を得ることができる限り、任意の熱処理手段を用いることができる。
【0072】
また、得られた精製炭化物は、特に負極活物質として使用する場合には鉄を除去する処理を行うことが好ましい。
【0073】
得られた精製炭化物を負極活物質として利用する場合には、微粉化することが好ましい。得られた精製炭化物は、粉砕手段(w3)である粉砕機で粉砕され、微粉化することができる。微粉化した精製炭化物は、負極活物質としてバインダーを用いて成形することで、電池の負極として再生利用することもできる。
粉砕手段(w3)としては、振動ミル、ジェットミル、乾式ボールミル等の粉砕機を挙げることができる。
【0074】
また、得られた精製炭化物は、二次電池の負極活物質や導電材以外の用途(例えば、キャパシタ用活物質や燃料電池触媒用担体等)に使用することもできる。
【0075】
一方、ゴム類から熱分解によって分離された乾留ガスは、乾留ガスを分離する分離手段(z1)に送られる。分離手段(z1)は、乾留ガスを気体と液体に分離する冷却器と、冷却器で分離された液体を蒸留する蒸留機と、気体または液体から硫黄を除去する脱硫機(図示せず)を有する。
乾留ガスは、まず、冷却器を用いて冷却処理される。これにより、乾留ガスは液体状の油分と気体状のガス分(非凝縮ガス)とに分離される。
【0076】
ここで、冷却器による冷却温度によって重油と非凝縮ガスとの生成比率や成分を制御することができる。冷却温度を低くすると、重油の生成比率が増大するとともに非凝縮ガスに含まれる炭化水素量が減少する。そのため、非凝縮ガスの炭化水素濃度を検出器で検出し、濃度が一定となるように冷却温度を制御することもできる。
【0077】
乾留ガスから分離された非凝縮ガスは、減圧した後に、脱硫機を用いて脱硫処理する。脱硫機で回収された硫黄は、正極活物質の製造に利用することもできる。
【0078】
脱硫処理された後の非凝縮ガスは、硫黄分が含まれていない炭化水素ガスであり、ガス処理手段(w1)に送られる。ガス処理手段(w1)は、燃焼器と二酸化炭素回収器を有する。脱硫処理後の被凝縮ガスを、燃焼器で燃焼させたのちに二酸化炭素回収器で二酸化炭素を回収し、その他を排気する。回収されたCO2の一部又は全部は、上述した洗浄手段(y2)での未精製炭化物の亜臨界または超臨界二酸化炭素処理に使用することができる。
【0079】
一方、乾留ガスから分離された油分は、蒸留機を用いて硫黄の沸点以上の温度で蒸留処理される。この処理により、硫黄が大量に含有する軽質油が分離され、硫黄がほとんど含有しない重質油が残留する。
【0080】
硫黄を含有する軽質油は、脱硫機で脱硫処理することで、硫黄と硫黄分を含有しない軽質油とに分離して回収する。そして、分離された硫黄分が含まれていない軽質油は、燃料として再生利用することができる。
【0081】
なお、本実施形態に係る分離手段(z1)は冷却器、蒸留機及び脱硫機を有するが、熱処理手段(x)によって得られた乾留ガスを、ガス分、重質油、軽質油及び硫黄に分離できる限り、本発明に係る分離手段(z1)は任意の分離手段を用いることができる。
【0082】
分離された重質油と硫黄は、上述の通り、固形物から回収された精製炭化物(正極活物質)及びイオン原料と共に、混錬手段(z2)である混練機を用いて混練した後、熱処理手段(z3)である熱処理機(非酸化性雰囲気)で熱処理を行い、調整手段(z4)に含まれる粉砕機で粉砕後、さらに調整手段(z4)に含まれる真空乾燥機で乾燥することで、目的とする固体状の正極活物質を製造することができる。
【0083】
なお、混錬手段(z2)、熱処理手段(z3)及び調整手段(z4)は、本発明の目的を損なわない限り任意である。
混錬手段(z2)としては、工業的に通常用いられる乾式混合機で行ってもよい。乾式混合機としては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、乾式ボールミルを挙げることができる。また、混錬は、本発明の目的を損なわない限り、湿式混合によって行うこともできる。
熱処理手段(z3)としては、電気式熱処理機、若しくは、燃焼式熱処理機、又は、バッチ式熱処理機、若しくは、フロー式熱処理機を挙げることができる。
調整手段(z4)に含まれる粉砕機としては、振動ミル、ジェットミル、乾式ボールミルを挙げることができる。
【0084】
ここで、イオン原料、正極活物質用炭化物、重質油及び硫黄は、それぞれ上述した<1.正極活物質の製造方法>における成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)に対応する。
【0085】
イオン原料は、成分(A)として詳細を上述したため、ここでの説明は省略するが、例えば、無機系洗剤、卵殻、植物由来原料(草木)、貝殻、石膏及び温泉スケール等の原料を、イオン原料製造手段(w4)である熱処理機を用いて熱処理等の処理を行い、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料として使用する。
【0086】
また、本実施形態において、正極活物質の製造に用いる正極活物質用炭化物(成分(B))、重質油(成分(C))及び硫黄(成分(D))は、原料として使用したゴム類に由来するもののみに限られず、必要に応じて他の原料から生成したものや市販品を加えてもよい。
但し、正極活物質の製造に用いる正極活物質用炭化物(成分(B))、重質油(成分(C))及び硫黄(成分(D))の少なくとも一部が本発明の電極部材の製造方法によって得られたものであることが好ましい。
【0087】
すなわち、本発明の電極部材の製造方法において、正極活物質用炭化物(成分(B))の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物であり、重質油(成分(C))の少なくとも一部が、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる重質油であり、硫黄(成分(D))の少なくとも一部が、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られる硫黄であることが好ましい。
【0088】
また、正極活物質を製造するにあたり、熱処理手段(z3)での熱処理の際に発生する硫化物(特には硫化水素)は、中和処理手段(w5)である中和器において、中和剤を含む水溶液で脱硫処理され、硫黄分が回収される。そして、脱硫処理で使用した中和剤を含む水溶液から水分を蒸発させて得られるイオン分を含む固形物(中和済み固形分)も、イオン原料として再利用することもできる。
【0089】
以上、図面を参照して本発明の電極部材の製造方法の実施形態について述べたが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【0090】
<3.正極合剤>
本発明の正極合剤は、本発明の正極活物質のみから構成されていてもよいが、電極内抵抗を小さくするため、他の導電性材料である導電材(及び必要に応じて他の材料)と混合して使用してもよい。
【0091】
導電材は、電極を形成した際に電子伝導性を向上させる役割を有する。導電材は、導電性(電子伝導性)を有し、本発明の正極活物質の性能を損なわない材料であればよく、無機材料、有機材料のいずれでもよいが、典型的には炭素系材料である。
【0092】
炭素系材料としては、二次電池に使用される任意の炭素系材料を使用することができ、より具体的には、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等)、繊維状炭素材料(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維等)などを挙げることができる。
この中でも、カーボンブラックは、微粒で表面積が大きく、正極合剤中に添加されることにより、得られる電極内部の導電性を高め、充放電効率及び大電流放電特性を向上させることも可能である。
【0093】
また、<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明した炭化物を、導電材としての炭素系材料として使用することもできる。
【0094】
導電材である炭素系材料の形状や大きさは、電極の使用目的等を考慮して適宜選択できるが、炭素系材料が粒子状である場合には、例えば、粒径0.03~500μmであり、繊維状である場合、直径2nm~20μm、全長0.03~500μm程度である。
【0095】
本発明で使用される導電材は、1種類でもよいし、または大きさ(粒径、繊維径及び繊維長さ)や結晶性等の異なる2種以上の導電材を任意の割合で使用してもよい。
【0096】
正極合剤における導電材の割合は、電極の使用目的等を考慮して適宜選択できるが、導電材が炭素系材料の場合、電極中の炭素系材料の割合は、通常、電極活物質100重量部に対して5~100重量部である。
【0097】
本発明の正極合剤は、目的を損なわない範囲で他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、典型的にはバインダーが挙げられる。
【0098】
バインダーは、他の電極構成材料を接着する結着剤としての作用を有する。
バインダーとしては、例えば有機高分子化合物からなるバインダーが挙げられる。バインダーとしての有機高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどの多糖類及びその誘導体;
ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ポリウレタン樹脂;尿素樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;石油ピッチ;石炭ピッチなどが挙げられる。
【0099】
バインダーは、結合剤としては複数種の結合剤を使用してもよい。
【0100】
バインダーの電極における構成材料の配合量は、例えば、正極活物質及び導電材の合計100重量部に対し、通常0.5~50重量部程度、好ましくは1~30重量部程度である。
【0101】
<4.二次電池>
本発明の二次電池は、正極、負極、及び電解質を備え、正極が、上記本発明の正極合剤を用いてなることを特徴とする。なお、本発明の二次電池の構造は特に限定されず、従来公知の二次電池の構造を採用することができる。例えば、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池等が挙げられる。
【0102】
以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0103】
正極は集電体と、当該集電体の表面に形成された正極活物質層とを有し、正極活物質層は、上記本発明の正極合剤(正極活物質、導電材及びバインダー)で形成される。
【0104】
集電体としては、特に限定されず従来公知のものを使用できる。例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いた箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル等が挙げられる。
【0105】
集電体の大きさや厚みは、電池の使用用途に応じて決定され、使用する正極の大きさに応じて適宜適した大きさのものを選択できる。
【0106】
正極を製造する方法は、典型的には正極合剤(正極活物質、導電材及びバインダー)と溶媒とを混合させて調整したスラリーを集電体上に塗工し、乾燥後プレスする等して固着することで、集電体の表面に正極活物質層を形成して正極を得る。
【0107】
スラリーの溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアミノプロピリアミン、ジエチルトリアミン等のアミン系;エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル系;メチルエチルケトン等のケトン系;酢酸メチル等のエステル系;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
スラリーを集電体上に塗工する方法としては、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、例えばスリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等を挙げることができる。
【0108】
負極は、集電体と、当該集電体の表面に形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層は、典型的には負極活物質を含む負極合剤で形成される。
【0109】
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料が挙げられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体等のいずれでもよい。ここで、炭素材料は、導電材としての役割を果たす場合もある。
【0110】
上記の通り、本発明において負極活物質は、特定のものに限定されないが、ハードカーボンを使用してもよい。
【0111】
ハードカーボンは、2000℃以上の高温で熱処理してもほとんど積層秩序が変化しない炭素材料であり、難黒鉛化炭素ともよばれる。ハードカーボンとしては、炭素繊維の製造過程の中間生成物である不融化糸を1000~1400℃程度で炭化した炭素繊維、有機化合物を150~300℃程度で空気酸化した後、1000~1400℃程度で炭化した炭素材料等が例示できる。ハードカーボンの製造方法は特に限定されず、従来公知の方法により製造されたハードカーボンを使用することができる。
【0112】
負極活物質として、<2.電極部材の製造方法及び電極部材の製造システム>で説明した精製炭化物を使用することができる。なお、精製炭化物は、正極活物質における成分(B)と同様のものを使用することができる。
すなわち、負極活物質の好適な一例は、その少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物である。
【0113】
負極活物質として、上述した炭素材料(精製炭化物を含む)は、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0114】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、80~95質量%であることが好ましい。
【0115】
バインダーとしては、正極に使用可能なものと同様のものが使用可能であるため、これらについては説明を省略する。集電体としては、アルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いる。集電体は正極用の集電体と同様に、箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル等から構成される。
【0116】
また、負極活物質層を集電体上に形成する方法としては、正極活物質層を集電体上に形成する方法と同様の方法を採用することができる。
【0117】
本願発明の二次電池において、電解質の種類は特に限定されず、必要に応じて選択することができる。前記電解質は、固体電解質、液体電解質(即ち電解液)から選択される少なくとも1種類であってもよい。前記電解質が電解液である場合、前記電解液は、電解質塩及び非水系溶媒を含む。
【0118】
電解質塩は、二次電池に電解質塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩)を使用できる。電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
非水系溶媒としては、二次電池に用いられる非水系溶媒を使用することができ、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート等のホスファート類;又は上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。
【0120】
引火点がなく安全な電解液の非水系溶媒として、ホスファート類が好ましく、特にトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファートが好ましい。
ホスファート類(特にはトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート)に溶解させる電解質塩の好適例として、実施例で開示したナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)及びカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)が挙げられる。
NaFSIは、本発明の正極活物質に含まれるイオン種(成分(A)由来)がナトリウムを多く含む場合に適した電解質塩である。また、KFSIは本発明の正極活物質に含まれるイオン種(成分(A)由来)がカリウム及び/又はカルシウムを多く含む場合に適した電解質塩である。
【0121】
本発明の二次電池の好適な例は、本発明の正極活物質の製造方法で得られた正極活物質を含有する正極合剤を用いてなる二次電池である。
また、本発明の二次電池の好適な例は、負極活物質の好適例の少なくとも一部が、硫黄を含有するゴム類を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記固形物から未精製炭化物を選別し、前記未精製炭化物を熱処理することで得られる精製炭化物であることが好ましい。
また、本発明の二次電池の好適な例は、電解液が、電解質塩としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)又はカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を溶解したトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)であることが好ましい。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下における「%」は、特に明示しない限り「重量%」を示す。
【0123】
(実験例1)
負極は、以下の通り作製した。
負極活物質として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」を使用した。
廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」は、
図1に準じる電極部材の製造システムにより製造された精製炭化物である。具体的には、廃タイヤを不活性雰囲気容器内で、400℃で2時間加熱し、廃タイヤ内の成分をガス化及び冷却にて油化(ガス化及び油化合計約55%)し、ガス化及び油化しない残渣物を回収し、回収した廃タイヤ熱分解残渣物をさらに熱処理後、粉砕して平均粒度20μmとした後に、16000ガウスの電磁分離機で磁性体を完全に除去して得られる廃タイヤ熱分解残渣物由来の未精製炭化物をさらに超臨界二酸化炭素で洗浄(CO
2洗浄)後、粉砕して粒径調整することで得られる精製炭化物である。
負極活物質(廃タイヤ由来炭化物)を1.5g(全体の92.71%)と、バインダーとしてのポリアクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、製品名20CLPAH)0.106g(全体の6.55%)とを、溶媒として0.007gのカルボキシメチルセルロース(CMC)及び0.005gのCNTを含む水溶液(楠本化成株式会社「TUBALL
TM BATT H
2O CMC」)1.2gと共に混合(混練)することによって負極合剤を得た。
次いで、得られた負極合剤を負極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、70℃で3時間乾燥を行って負極シートを得た。得られた負極シートから11.3mmφで切り抜いて負極とした。
【0124】
実験例1の正極活物質は、以下の手順で得た。
正極活物質用炭化物として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。正極活物質用炭化物(成分(B))5.5g(原料全体の24.2%)と、過炭酸ナトリウム(成分(A))8.44g(原料全体の37.2%)、コールタール(成分(C))2.75g(原料全体の12.1%)、硫黄(成分(D))6g(原料全体の26.4%)をステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、15.2gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例2の正極活物質を得た。物性評価により実験例1の正極活物質にはチオ硫酸ナトリウムが含まれることが確認された。
【0125】
以下の通り、実験例1の正極を得た。
実験例1の正極活物質2g(全体の94.49%)及び導電材としてのアセチレンブラック(AB、電気化学工業社(HS100))0.056g(全体の2.64%)を、PVDF0.058g(全体の2.71%)を含むNMP溶媒0.673g(CNTは実質0.003g、固形分比率0.08%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例1の正極合剤を得た。次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから15mmφで切り抜いて実験例1の正極とした。
【0126】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、ナトリウム塩としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、「NaFSI/TFEP」と記載)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例1の電池(コイン型電池(円筒型、外径20mm/高さ3.2mm)、以下「コイン型電池(R2032)」と記載)を得た。
【0127】
上記の実験例1の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M NaFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:0.5-3.9V
充電は、定電流を3.9Vまで流し続けその後、電圧維持するだけの電流を5時間流し、電流値が低下していくCVCC充電で行った。
【0128】
実験例1の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
73.5μA/1.766cm2(正極15mmφ)
充放電回数:20回
放電時間:約4時間(73.5μAh)
【0129】
以上の通り、過炭酸ナトリウム(成分(A))、正極活物質用炭化物(成分(B))、コールタール(成分(C))及び硫黄(成分(D))を不活性ガス雰囲気下で熱処理して得られた正極活物質を使用した充放電可能な二次電池が作製できることが確認された。
【0130】
(実験例2)
実験例2の正極活物質は、以下の手順で得た。
正極活物質用炭化物として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。正極活物質用炭化物(成分(B))10g(原料全体の20%)と、炭酸水素カリウム(成分(A))25g(原料全体の51%)、コールタール(成分(C))3.8g(原料全体の8%)、硫黄(成分(D))10g(原料全体の20%)の原料合計48.8gをステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、歩留まり67%の32.5gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例2の正極活物質を得た。物性評価により実験例2の正極活物質にはチオ硫酸カリウムが含まれることが確認された。
【0131】
実験例2の正極活物質1.003g(全体の86%)及び導電材としてのAB0.063g(全体の5.41%)を、PVDF0.073g(全体の6.27%)を含むNMP溶媒2.453g(CNTは実質0.025g、固形分比率2.14%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例2の正極合剤を得た。
次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから15mmφで切り抜いて実験例2の正極とした。
【0132】
負極は、実験例1と同様の手順で作製した。
【0133】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、カリウム塩としてカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、「KFSI/TFEP」と記載)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例2の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
【0134】
上記の実験例2の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M KFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:2.0-4.2V
充電は、定電流を4.2Vまで流し続けその後、電圧維持するだけの電流を5時間流し、電流値が低下していくCVCC充電で行った。
【0135】
充放電試験の結果は以下の通りである。
64.7μA/1.766cm2(正極15mmφ)
充放電回数:5回
放電時間:約5時間(64.7μAh)
【0136】
以上の通り、炭酸水素カリウム(成分(A))、正極活物質用炭化物(成分(B))、コールタール(成分(C))及び硫黄(成分(D))を不活性ガス雰囲気下で熱処理して得られた正極活物質を使用した充放電可能な二次電池が作製できることが確認された。
【0137】
(実験例3)
実験例3の正極活物質は、以下の手順で得た。
加熱炉を用い、空気中で木材(さざんかの木)を燃焼して得られた木質燃焼灰(植物燃焼灰)を、成分(A)として使用した。また、正極活物質用炭化物(成分(B))として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。
木質燃焼灰(成分(A))12.7g(原料全体の41%)、正極活物質用炭化物((成分(B))6g(原料全体の20%)と、コールタール3g(原料全体の10%)、硫黄9g(原料全体の29%)の原料合計30.7gをステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、歩留まり71%の21.9gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例3の正極活物質を得た。
【0138】
実験例3の正極活物質1.14g及び導電材としてのAB0.08gを、PVDF0.073gを含むNMP溶媒2.453g(CNTは実質0.025g、固形分比率2.14%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例3の正極合剤を得た。
次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから12.9mmφで切り抜いて実験例3の正極とした。
【0139】
負極は、実験例1と同様の手順で作製した。
【0140】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、カリウム塩としてカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(KFSI/TFEP)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例3の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
【0141】
上記の実験例3の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M KFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:1.2-3.8V
CVCC充電、CC放電
(初回電圧保持のCVは30時間、2回目は10時間、3回目以降5時間)
【0142】
実験例3の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
112μA/1.306cm2(正極12.9mmφ)
充放電回数:27回
放電時間:約1時間(112μAh)
【0143】
以上の通り、木質燃焼灰(成分(A))、正極活物質用炭化物(成分(B))、コールタール(成分(C))及び硫黄(成分(D))を不活性ガス雰囲気下で熱処理して得られた正極活物質を使用した充放電可能な二次電池が作製できることが確認された。
【0144】
(実験例4)
実験例4の正極活物質は、以下の手順で得た。
加熱炉を用い、卵殻を1200℃で熱処理した卵殻焼成物(主成分CaO)を、成分(A)として使用した。また、正極活物質用炭化物(成分(B))として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。
卵殻焼成物(成分(A))25g(原料全体の51%)、正極活物質用炭化物(成分(B))10g(原料全体の20%)と、コールタール3.8g(原料全体の8%)、硫黄10g(原料全体の20%)の原料合計48.8gをステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、歩留まり67%の32.5gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例4の正極活物質を得た。
【0145】
実験例4の正極活物質4.015g及び導電材としてのAB0.08gを、PVDF0.073gを含むNMP溶媒2.453g(CNTは実質0.025g、固形分比率2.14%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例4の正極合剤を得た。
次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから11.3mmφで切り抜いて実験例4の正極とした。
【0146】
負極は、実験例1と同様の手順で作製した。
【0147】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、カリウム塩としてカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(KFSI/TFEP)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例4の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
【0148】
上記の実験例4の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M KFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:1.2-3.8V
CVCC充電、CC放電
(初回電圧保持のCVは30時間、2回目は10時間、3回目以降5時間)
【0149】
実験例4の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
112μA/1cm2(正極11.3mmφ)
充放電回数:48回
放電時間:約1時間(75μAh)
【0150】
以上の通り、卵殻焼成物(成分(A))、正極活物質用炭化物(成分(B))、コールタール(成分(C))及び硫黄(成分(D))を不活性ガス雰囲気下で熱処理して得られた正極活物質を使用した充放電可能な二次電池が作製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、リチウムを使用することなく、安価な材料を用いて二次電池を与えることができるため、本発明は産業的に極めて有用である。
【要約】
リチウム以外のイオン種を使用した、新規の正極活物質の製造方法を提供する。硫黄を含有するゴム類を原料に用いた電極部材の製造方法であって、前記電極部材が、正極活物質であり、前記原料を熱分解して固形物と乾留ガスとに分離し、前記乾留ガスを冷却して油分とガスとに分離し、前記油分を蒸留して重質油と軽質油と硫黄とに分離して得られた前記重質油と前記硫黄と、Na、K、Ca、及びMgからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有するイオン原料と、正極活物質用炭化物を混練し、非酸化性雰囲気下で熱処理し、正極活物質を得る工程を有する電極部材の製造方法。前記イオン原料として廃棄物由来の原料(例えば、植物焼成灰、卵殻焼成物等)を使用することができる。