(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】デスモグレイン量の推定装置及び推定プログラム並びに肌のシミ濃度推定装置及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/00 101A
A61B5/00 101N
(21)【出願番号】P 2019216293
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】梶原 篤史
(72)【発明者】
【氏名】長嶌 美奈子
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-199053(JP,A)
【文献】特開2018-063226(JP,A)
【文献】特開2016-037501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0152599(US,A1)
【文献】特開2017-119665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/01
A61B 9/00 -10/06
G01N 33/48 -33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デスモグレイン量と肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いほどデスモグレイン量が多いと判定することで、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
を備え、
対象者から肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報は、
分光光度計により対象者の肌のL
*値、a
*値、b
*値を測定することによる、シミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報であり、
前記の肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いこと、が、
分光光度計により測定した対象者の肌の、L
*値が低いこと、a
*値が高いこと、b
*値が高いことである、デスモグレイン量推定装置。
【請求項2】
コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いほどデスモグレイン量が多いと判定することで、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
として機能させるための、デスモグレイン量推定プログラムであり、
対象者から肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報は、
分光光度計により対象者の肌のL
*値、a
*値、b
*値を測定することによる、シミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報であり、
前記の肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いこと、が、
分光光度計により測定した対象者の肌の、L
*値が低いこと、a
*値が高いこと、b
*値が高いことである、デスモグレイン量推定プログラム。
【請求項3】
デスモグレイン量と肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、デスモグレイン量が多いほど肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いと判定することで、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
を備え、
対象者から肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報は、
分光光度計により対象者の肌のL
*値、a
*値、b
*値を測定することによる、シミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報であり、
前記の肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いこと、が、
分光光度計により測定した対象者の肌の、L
*値が低いこと、a
*値が高いこと、b
*値が高いことある、肌のシミ濃度推定装置。
【請求項4】
コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、デスモグレイン量が多いほど肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いと判定することで、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
として機能させるための、肌のシミ濃度推定プログラムであり、
対象者から肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報は、
分光光度計により対象者の肌のL
*値、a
*値、b
*値を測定することによる、シミ(黒みがかった部分)の濃度に関する情報であり、
前記の肌のシミ(黒みがかった部分)の濃度が高いこと、が、
分光光度計により測定した対象者の肌の、L
*値が低いこと、a
*値が高いこと、b
*値が高いことである、肌のシミ濃度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の肌におけるデスモグレイン量の推定装置及び推定プログラム並びに肌のシミ濃度推定装置及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
肌荒れ、日焼けや乾燥により生じる角層の落屑等の肌状態の悪化に関し、コルネオデスモゾームタンパク質の増加が原因の一つとして知られている(特許文献1)。
【0003】
ここで、コルネオデスモゾームタンパク質のうち、特に、デスモグレインが表皮細胞間及び角質細胞間の接着に関与していることが知られている(特許文献2-4)。
【0004】
そして、特許文献5には、蛍光抗体法により染色したデスモグレインの存在位置を指標とする表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法が開示されている。
【0005】
上記の通り、デスモグレインと肌状態には相関関係があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平7-505383号公報
【文献】特開2016-37501号公報
【文献】特許第4002635号
【文献】特許第4197194号
【文献】特開2007-199053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行技術のあるところ、本発明は、対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する新規技術を提供することを課題とする。特に、本発明は、対象者の肌におけるデスモグレイン量を簡便に推定する技術を提供することを課題とする。
また、本発明は、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する新規技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、デスモグレイン量と、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に基づき、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いほどデスモグレイン量が多いと判定することを特徴とする、対象者の肌におけるデスモグレイン量の推定方法である。
【0010】
このような推定方法を用いることで、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度という、取得するのが比較的容易なデータを用いて対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定することができる。
従来の技術では、デスモグレイン量を測定するにあたり、対象者の肌から角層を取得し解析する必要があり、少なからず対象者に負担をかけるという問題があった。また、従来の技術では、高価な実験機器や試薬を使用する必要があるため、コスト面での問題もあった。
しかしながら、本発明によれば、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を取得するのみでデスモグレイン量を推定することができる。そのため、デスモグレイン量を利用した肌診断などの場面における対象者の負担を軽減することにつながる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態では、前記デスモグレインがデスモグレイン1である。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態では、
対象者から肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を、予め用意した、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関を示す式又はモデルに適用し、対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する工程と、
を有する。
【0013】
また、本発明は、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
を備える、デスモグレイン量推定装置にも関する。
【0014】
また、本発明は、
コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
として機能させるための、デスモグレイン量推定プログラムにも関する。
【0015】
また、第二の本発明は、デスモグレイン量に基づき、デスモグレイン量が多いほど肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いと判定することを特徴とする、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定方法である。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態では、前記デスモグレインがデスモグレイン1である。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態では、対象者から前記デスモグレイン量を取得するデスモグレイン量取得工程と、
前記デスモグレイン量取得工程で取得した前記デスモグレイン量を、予め用意した、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関を示す式又はモデルに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する工程と、
を有する。
【0018】
また、本発明は、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
を備える、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度推定装置でもある。
【0019】
また、本発明は、コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
として機能させるための、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度推定プログラムでもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡便にデスモグレイン量を推定することができる。
また、本発明によれば、簡便に肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例における、L
*値の測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例における、a
*値の測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例における、b
*値の測定結果を示すグラフである。
【
図4】実施例における、硬度の測定結果を示すグラフである。
【
図5】実施例における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例における、メラニン量の測定結果を示すグラフである。
【
図7】実施例における、デスモグレイン1量及びメラニン量の測定結果を示す図(代表)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に基づく、対象者の肌におけるデスモグレイン量の推定方法>
本発明は、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に基づき、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いほどデスモグレイン量が多いと判定することを特徴とする、デスモグレイン量の推定方法である。
【0023】
本発明は、デスモグレイン1量を推定する形態とすることが好ましい。
【0024】
対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報の取得方法は特に限定されない。ここで、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報の取得方法は、非侵襲的な方法であることが好ましい。
【0025】
シミ濃度に関する情報の非侵襲的な取得方法として、分光光度計を用い、L*値、a*値、b*値を測定することにより、シミの濃度に関する情報を取得する方法を挙げることができる。
また、シミ濃度に関する情報の取得方法としては、角層細胞を取得し、染色処理に供することにより、シミの濃度に関する情報を取得する方法も挙げることができる。
【0026】
また、肌の硬度に関する情報の非侵襲的な取得方法として、インデントメーターを用い、肌の硬度に関する情報を取得する方法を挙げることができる。
【0027】
本発明における「デスモグレイン量の推定」は、定量的な推定値でもよく、正常の肌状態におけるデスモグレイン量を指標とした相対的かつ定性的な推定でもよい。
また、本発明における「対象者の肌におけるデスモグレイン量の推定」には、特定部位におけるデスモグレイン量の推定、対象者の肌全体のうちデスモグレイン量の多い部位の推定、の何れの概念をも含む。
【0028】
デスモグレイン量の推定方法の具体的な態様は特に限定されない。
デスモグレイン量の推定方法としては、上記肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いほど、デスモグレイン量が多いと推定するような定性的な推定手法を採用しても構わない。
この場合には、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度について基準を設けておき、その基準よりミ濃度及び/又は肌の硬度が高い場合に「デスモグレイン量が多い」と推定するような二元的な推定手法を採用してもよい。
【0029】
また、デスモグレイン量の推定方法の具体的な態様として、
対象者から肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を、予め用意した、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関を示す式又はモデルに適用し、対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する工程と、
を有する態様を挙げることができる。
【0030】
また、定量的な推定手法を採用してもよい。具体的には、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の相関関係に関する式又はモデルを予め作成しておき、対象者より取得したデスモグレイン量を当該式又はモデルと照合することにより、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する実施の形態を好ましく挙げることができる。このような実施の形態とすることにより推定精度を向上させることができる。
【0031】
ここで、式又はモデルを作成するためには、前述のデスモグレイン量と、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を多変量解析すればよい。該多変量解析としては、目的変数(従属変数)と説明変数(独立変数)との関係を利用できるものが好ましく、判別分析、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティック)を好ましく例示することができる。これらの内、特に好ましいのは重回帰分析(MLR)、非線形回帰分析(PLS:Partial Least Squares)である。
式又はモデルとしては、回帰式又は回帰モデルが好ましく挙げられ、さらに好ましくは重回帰式又は予測式が挙げられる。
【0032】
上記相関関係と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関を示す式又はモデルを作成するため、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を関連付けたデータベース(DB)を作成することが好ましい。ここで、DBの人数は、好ましくは50人以上、より好ましくは100人以上、さらに好ましくは200人以上である。
DBの構造としては、例えば行列形式(マトリックス)であれば、行に人物を、列にデスモグレイン量及び肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を入力することができる。
【0033】
このDBは、新規に取得した対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定した後、デスモグレイン量の推定値を追加することで、更新してもよい。必要に応じて、更新したDBに対し上述した多変量解析を行って、式又はモデルを更新することもできる。該更新によって推定精度が向上する所以による。
【0034】
式又はモデルの作成、又は上記DBの作成にあたって必要となる肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の測定及び、デスモグレイン量の測定は、常法により行うことができる。
【0035】
以上で説明した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の測定及び、デスモグレイン量の測定を、統計学的に有意な数の被験者に対して行うことで、上記式又はモデル、並びにDBを作成することができる。
【0036】
また、本発明は、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定装置にも関する。
本発明の推定装置は、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
を備える。
【0037】
記憶手段は、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する。
相関データとしては、上述した式又はモデル、並びにこれらを作成するためのDBが挙げられる。
記憶手段は、例えばROM(Read Only Memory)により実現することができる。
【0038】
デスモグレイン量の推定手段は、対象者から取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する。
当該推定手段は、CPU(Central Processing Unit)により実現することができる。
CPUにおける上述した推定処理は、ROMに記憶されているプログラムに従って実行される形態とすることができる。
【0039】
また、記憶手段に、新規に取得した対象者のデスモグレイン量、及び肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定値が追加的に記憶され、相関データが逐次更新される実施の形態とすることが好ましい。
この場合、記憶手段に記憶された追加データを含むDBに基づき再解析を行い、更新された式又はモデルを算出し、これを記憶手段に上書き記憶する更新手段を設けることが好ましい。
更新手段は、ROMに記憶されたプログラムに従って、CPUにより実現する形態とすることができる。
【0040】
また、本発明の推定装置は、CPUに実行させるOS(Operating System)プログラムや各種アプリケーションプログラムを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)を備えることが好ましい。
【0041】
また、本発明は対象者のデスモグレイン量推定プログラムにも関する。
本発明の推定プログラムは、コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌におけるデスモグレイン量を推定する推定手段と、
として機能させる実施の形態とすることが好ましい。
ここで、本発明はこのようなプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録したものでもよい。
【0042】
<デスモグレイン量に基づく、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定方法>
本発明は、対象者の肌におけるデスモグレイン量に基づき、デスモグレイン量が多いほど肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いと判定することを特徴とする、肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定方法である。
【0043】
本発明は、デスモグレイン1量に基づき肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する形態とすることが好ましい。
【0044】
対象者の肌におけるデスモグレイン量に関する情報の取得方法は特に限定されない。
デスモグレイン量に関する情報の取得方法としては、角層細胞を取得し、染色処理に供することにより、デスモグレイン量に関する情報を取得する形態とすることが好ましい。
【0045】
本発明における「肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定」は、定量的な推定値でもよく、正常の肌状態における肌の色合いを指標とした相対的かつ定性的な推定でもよい。
また、本発明における「肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定」には、特定部位における肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度、対象者の肌全体のうち肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の高い部位の推定、の何れの概念をも含む。
【0046】
肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定方法の具体的な態様は特に限定されない。
肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の推定方法としては、上記デスモグレイン量が多いほど肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高いと推定するような定性的な推定手法を採用しても構わない。
この場合には、デスモグレイン量について基準を設けておき、その基準よりデスモグレイン量が多い場合に「肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度が高い」と推定するような二元的な推定手法を採用してもよい。
【0047】
また、定量的な推定手法を採用してもよい。具体的には、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度の相関関係に関する式又はモデルを予め作成しておき、対象者より取得したデスモグレイン量を当該式又はモデルと照合することにより対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する実施の形態を好ましく挙げることができる。このような実施の形態とすることにより推定精度を向上させることができる。
【0048】
ここで、式又はモデルを作成する方法は、前述の手法を援用することができる。
【0049】
また、本発明は、対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定装置にも関する。
本発明の推定装置は、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
を備える。
【0050】
ここで、本発明の推定装置の好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【0051】
また、本発明は対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度推定プログラムにも関する。
本発明の推定プログラムは、コンピュータを、デスモグレイン量と肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得したデスモグレイン量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度を推定する推定手段と、
として機能させる実施の形態とすることが好ましい。
【0052】
ここで、本発明の推定プログラムの好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
肌のシミ濃度及び/又は肌の硬度とデスモグレイン量の関係性を裏付ける試験結果を示す。
【0054】
(1)被験者及び測定部位
本実施例では、40歳から52歳の女性20名を被験者とした。
そして、本実施例では、被験者顔面における、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)と正常状態の部位(図中部位B 参照)を測定部位として選定した。
【0055】
(2)測定
(2-1)L
*値、a
*値、b
*値測定
上記の測定部位に分光光度計をあて、各部位5回ずつ測定に供することにより、L
*値、a
*値、b
*値を測定した。
結果を、
図1~
図3に示す。
【0056】
L*値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に低い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、暗いことが確認できた。
【0057】
a*値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、赤みが強いことが確認できた。
【0058】
b*値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、黄みが強いことが確認できた。
【0059】
(2-2)硬度測定
上記(2-1)の試験に供した各測定部位にインデントメーターを押し当て5回ずつ測定に供することにより、硬度を測定した。
結果を、
図4に示す。
【0060】
硬度に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に低い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、硬いことが確認できた。
【0061】
(2-3)デスモグレイン1(Dsg1)染色
上記(2-1)、(2-2)の試験に供した各測定部位の角層細胞をテープストリッピング法で採取し、スライドガラスに貼付した。
【0062】
角層を貼付したスライドガラスを、キシレンに一晩浸漬させた。
浸漬後、洗浄、風乾させたのち、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液中で室温、条件下、15分間静置した。
【0063】
15分後、角層細胞をPBSで洗浄し、0.5%TritonX(ナカライテスク社製)/PBS溶液に、室温条件下、5分間浸漬させた。
【0064】
浸漬後、洗浄し、ブロックエース水溶液中(DSバイオファーマメディカル UK-B80)、室温条件下、1時間静置した。
【0065】
静置後、リキッドブロッカー(大道産業社 製)で枠付けし、一次抗体を加え、湿潤箱中、室温条件下、2時間静置した。
一次抗体として、Anti Desmoglein 1,Mouse Mono(Dsg1 P23) Progen,651110 原液(IgG 濃度:10-15g/mL)を使用した。
【0066】
静置後、PBSを用い洗浄し、二次抗体を加え、湿潤箱中、室温条件下、1時間静置した。
二次抗体として、Alle xa Fluor@488 Goat Anti mouse IgG Invitrogen,A 11001 PBS200倍希釈溶液を使用した。
【0067】
静置後洗浄し、Fluoromout-G(southern biotech 社製)で封入し、室温で30分乾燥させた。
【0068】
乾燥後、マニキュアでカバーガラスを固定し、乾燥させたのち、(撮影)共焦点レーザー顕微鏡(Nikon A1)、×20での観察に供した。
結果を、
図5、
図7に示す。
【0069】
デスモグレイン1(Dsg1)量に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、デスモグレイン1(Dsg1)量が多いことが確認できた。
【0070】
(2-4)メラニン量の測定
まず、(2-3)デスモグレイン1(Dsg1)染色に供した角層細胞を70%エタノールに浸漬させた。浸漬後、蒸留水に、37℃一晩浸漬したのち、カバーガラスを外した。
【0071】
風乾した後、角層細胞をフォンタナ・アンモニア銀溶液に、37℃、遮光条件下、24時間浸漬させた。浸漬後、水洗し風乾し、New M・X(FX00100 MATSUNAMI 社製)を用い封入した。その後、観察に供した。
結果を、
図6、
図7に示す。
【0072】
メラニン量に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図中部位A 参照)は、正常状態の部位(図中部位B 参照)に比して、メラニン量が多いことが確認できた。
【0073】
(3)考察
肌の明度の低い箇所では、デスモグレイン1量が多いことがわかった。
ここで、肌の明度の低下は、肌のpHが低くデスモグレイン1を分解するセリンプロテアーゼの活性が低いために、角層の重なりが密になったこと(角層の重層化)によるものと考えられる。
また、デスモグレイン1量が多い箇所では、メラニン量が多いことがわかった。
【0074】
以上の結果は、シミ濃度が高いほどデスモグレイン量が多いことを示している。
したがって、デスモグレイン量に基づき、対象者の肌における肌のシミ濃度を推定できることがわかった。
また、肌のシミ濃度に基づき、デスモグレイン量を推定できることがわかった。
【0075】
肌の硬度が高い箇所では、デスモグレイン1量が多いことがわかった。ここで、肌の硬さの要因は、肌のpHが低くデスモグレイン1を分解するセリンプロテアーゼの活性が低いために、角層の重なりが密になったこと(角層の重層化)によるものと考えられる。
【0076】
以上の結果は、肌の硬度が高いほどデスモグレイン量が多いことを示している。
したがって、デスモグレイン量に基づき、対象者の肌における肌の硬度を推定できることがわかった。
また、肌の硬度に基づき、デスモグレイン量を推定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、対象者の肌におけるデスモグレイン量の推定方法に応用することができる。