(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】フィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
H03H9/17 F
(21)【出願番号】P 2020046698
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】石田 守
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-312157(JP,A)
【文献】特開2004-072715(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031748(WO,A1)
【文献】特開2004-112757(JP,A)
【文献】特開2013-038471(JP,A)
【文献】国際公開第2006/027873(WO,A1)
【文献】特開2008-306280(JP,A)
【文献】特開2018-026735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備え、前記共振領域に前記付加膜よりも密度の高い周波数調整膜をさらに含む第1共振器と、
同じ圧電層を前記第1共振器と共有し、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、を備え、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が平面視において重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側のいずれにも付加膜および周波数調整膜は設けられていない第2共振器と、
を備えるフィルタ。
【請求項2】
入力端子と、
出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子とを接続する経路に設けられ、各々
圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備える第
2共振器である1または複数の直列共振器と、
一端が前記経路に接続され、他端が接地され、各々
圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備える第
1共振器である並列共振器と、を備え
、
前記第1共振器および前記第2共振器の前記付加膜は各々1または複数の膜から形成され、
前記第2共振器の前記付加膜の合計の厚さは前記第1共振器の前記付加膜の合計の厚さより小さいフィルタ。
【請求項3】
入力端子と、
出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子とを接続する経路に設けられ、各々前記第
2共振器である1または複数の直列共振器と、
一端が前記経路に接続され、他端が接地され、各々前記第
1共振器である並列共振器と、
を備える請求項
1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1共振器の前記付加膜は
前記第1共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜である請求項1
または3に記載の
フィルタ。
【請求項5】
前記第1共振器の前記付加膜は前記第1共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜であり、前記第2共振器の前記付加膜は前記第2共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜である請求項2に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極は、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムおよびイリジウムから選択され金属を主な材料とし、
前記第1共振器の前記付加膜は、密度がアルミニウム以下の金属を主な材料とする請求項
1または3に記載の
フィルタ。
【請求項7】
前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極は、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムおよびイリジウムから選択され金属を主な材料とし、前記第1共振器および前記第2共振器の前記付加膜は、密度がアルミニウム以下の金属を主な材料とする請求項2に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記第1共振器および前記第2共振器の前記圧電層は回転Yカットニオブ酸リチウム基板である請求項1から
7のいずれか一項に記載の
フィルタ。
【請求項9】
前記第1共振器および前記第2共振器の前記圧電層はXカットタンタル酸リチウム基板である請求項1から
7のいずれか一項に記載の
フィルタ。
【請求項10】
前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極の一方を平面視したとき、前記共振領域の重心を含む領域である中央領域には設けられておらず、前記共振領域のうち前記中央領域を挟み前記中央領域以外の領域であるエッジ領域に少なくとも一部が設けられた第2の付加膜を備える請求項1から
9のいずれか一項に記載の
フィルタ。
【請求項11】
前記第1共振器の前記付加膜は、1または複数の膜から形成され、
前記第1共振器の前記付加膜の合計の厚さは、0より大きく、
前記第1共振器の前記圧電層の厚さの0.18倍以下である請求項1
または3に記載の
フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタに関し、例えば、共振器を有するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)およびSMR(Solid Mounted Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器が用いられている。BAW共振器は圧電薄膜共振器とよばれている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み一対の電極を設ける構造を有し、圧電膜の少なくとも一部を挟み一対の電極が対向する共振領域は弾性波が共振する領域である。
【0003】
圧電薄膜共振器では共振領域の周辺部において弾性波が反射し、共振領域内に定在波が形成されると不要なスプリアスとなる。そこで、共振領域内のエッジ領域に付加膜を追加し音速をコントロールすることでスプリアスを抑制することが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電膜にタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムまたは水晶等の単結晶圧電体を用いると、共振領域内の振動は厚みすべり振動となる。厚みすべり振動を用いた弾性波デバイスは大きな電気機械結合係数を有する。しかしながら、フィルタ等に共振器を用いるときには、共振特性を大幅には劣化させず、電気機械結合係数を調整することが求められる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電気機械結合係数を調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備え、前記共振領域に前記付加膜よりも密度の高い周波数調整膜をさらに含む第1共振器と、同じ圧電層を前記第1共振器と共有し、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、を備え、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が平面視において重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側のいずれにも付加膜および周波数調整膜は設けられていない第2共振器と、を備えるフィルタである。
【0008】
本発明は、入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子とを接続する経路に設けられ、各々圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備える第2共振器である1または複数の直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地され、各々圧電層と、前記圧電層を挟み、前記圧電層に厚みすべり振動を励振する一対の電極と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記一対の電極が重なる共振領域における、前記一対の電極の少なくとも一方の電極と前記圧電層との間、前記一対の電極の少なくとも一方の電極内、および、前記一対の電極の少なくとも一方の電極の前記圧電層と反対側の少なくとも一箇所に設けられ、前記一対の電極の少なくとも一方の密度より小さい密度を有する付加膜と、を備える第1共振器である並列共振器と、を備え、前記第1共振器および前記第2共振器の前記付加膜は各々1または複数の膜から形成され、前記第2共振器の前記付加膜の合計の厚さは前記第1共振器の前記付加膜の合計の厚さより小さいフィルタである。
【0009】
上記構成において、入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子とを接続する経路に設けられ、各々前記第2共振器である1または複数の直列共振器と、一端が前記経路に接続され、他端が接地され、各々前記第1共振器である並列共振器と、を備える構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1共振器の前記付加膜は前記第1共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1共振器の前記付加膜は前記第1共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜であり、前記第2共振器の前記付加膜は前記第2共振器の前記圧電層の比誘電率より低い比誘電率を有する絶縁膜である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極は、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムおよびイリジウムから選択され金属を主な材料とし、前記第1共振器の前記付加膜は、密度がアルミニウム以下の金属を主な材料とする構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極は、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムおよびイリジウムから選択され金属を主な材料とし、前記第1共振器および前記第2共振器の前記付加膜は、密度がアルミニウム以下の金属を主な材料とする構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1共振器および前記第2共振器の前記圧電層は回転Yカットニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1共振器および前記第2共振器の前記圧電層はXカットタンタル酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1共振器および前記第2共振器の前記一対の電極の一方を平面視したとき、前記共振領域の重心を含む領域である中央領域には設けられておらず、前記共振領域のうち前記中央領域を挟み前記中央領域以外の領域であるエッジ領域に少なくとも一部が設けられた第2の付加膜を備える構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第1共振器の前記付加膜は、1または複数の膜から形成され、前記第1共振器の前記付加膜の合計の厚さは、0より大きく、前記第1共振器の前記圧電層の厚さの0.18倍以下である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電気機械結合係数を調整可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれ比較例1および実施例1の周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、比較例1および実施例1の中央領域54におけるY方向の変位分布を示す図、
図3(b)は、比較例1および実施例1のエッジ領域52におけるX方向の変位分布を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1における付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bに対するスプリアスの大きさを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1における付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bに対するTCFを示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、シミュレーション2におけるそれぞれ比較例1および実施例1の周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す斜視図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、それぞれ実施例1の変形例3から5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ実施例1の変形例6および7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図11】
図11は、実施例1の変形例8に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
【
図12】
図12は、実施例1の変形例9に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図15】
図15(a)は、ラダー型フィルタの直列共振器Sおよび並列共振器Pにおける周波数に対するインピーダンスの絶対値を示す図、
図15(b)は、ラダー型フィルタの周波数に対する減衰量|S21|を示す図である。
【
図16】
図16(a)および
図16(b)は、それぞれ実施例2の変形例1および2における直列共振器の断面図である。
図16(c)は、実施例2の変形例1および2における並列共振器の断面図である。
【
図17】
図17は、実施例2の変形例3に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(b)では、付加膜28aをクロスハッチングで示す。
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に音響反射膜31が設けられ、音響反射膜31上に圧電層14が設けられている。圧電層14の上面および下面は略平坦である。圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域は共振領域50である。共振領域50において、圧電層14と下部電極との間に付加膜26bが設けられ、圧電層14と上部電極16との間に付加膜26aが設けられている。
【0022】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力を印加すると、共振領域50内の圧電層14に弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の方向60とする。Y方向を厚みすべり振動の方向60とする。弾性波の波長は圧電層14の厚さのほぼ2倍である。共振領域50の平面形状は略矩形である。矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺の延伸方向はX方向およびY方向である。
【0023】
共振領域50の中央領域54に対し、X方向の両側にエッジ領域52が設けられている。エッジ領域52はほぼY方向に延伸する。エッジ領域52のX方向の幅はY方向においてほぼ一定である。エッジ領域52の上部電極16上に付加膜28aが設けられている。共振領域50のうちエッジ領域52に挟まれる中央領域54には付加膜28aは設けられていない。
【0024】
付加膜28a、上部電極16、付加膜26a,圧電層14、付加膜26bおよび下部電極12の厚さをそれぞれT28a、T16、T26a、T14、T26bおよびT12とする。
【0025】
音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31bと音響インピーダンスの高い膜31aとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜31は弾性波を反射する。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。平面視において、音響反射膜31は共振領域50に重なり、音響反射膜31は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。
【0026】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。付加膜28aは、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜または酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜または酸化ニオブ膜等の絶縁膜でもよい。付加膜28aの材料は下部電極12および上部電極16の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
圧電層14は、例えば単結晶ニオブ酸リチウム、単結晶タンタル酸リチウムまたは単結晶水晶である。付加膜26aおよび26bは、上部電極16および下部電極12より密度の小さい金属膜または絶縁膜である。例えば上部電極16および下部電極12がアルミニウム膜(密度は2700kg/m3)のとき、付加膜26aおよび26bは例えば酸化シリコン膜(密度は2200kg/m3)である。例えば上部電極16および下部電極12がルテニウム膜(密度は12370kg/m3)のとき、付加膜26aおよび26bはアルミニウム膜(密度は2700kg/m3)である。
【0028】
[シミュレーション1]
実施例1および比較例1についてシミュレーション1を行った。比較例1では、付加膜26aおよび26bが設けられていない。シミュレーション条件は以下である。
実施例1および比較例1の共通の条件
弾性波の波長λ:圧電層14の厚さT14×2
圧電層14:ニオブ酸リチウム、X方向は結晶方位でX軸方向であり、Z方向はY軸Z軸平面内において、Z軸方向からY軸方向に105°回転させた方向である。
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅を30λとする。
Y方向の条件:Y方向の幅を0.5λとし、境界条件は無限に連続とする。
比較例1の条件
付加膜28a:厚さT28aが40nmのアルミニウム膜
上部電極16:厚さT16が52nmのアルミニウム膜
圧電層14:厚さT14が426nmのニオブ酸リチウム層
下部電極12:厚さT12が55nmのアルミニウム膜
実施例1の条件
付加膜28a:厚さT28aが42nmのアルミニウム膜
上部電極16:厚さT16が55nmのアルミニウム膜
付加膜26a:厚さT26aが10nm(0.011λ)の酸化シリコン(SiO2)膜
圧電層14:厚さT14が451nmのニオブ酸リチウム層
付加膜26b:厚さT26bが10nm(0.011λ)の酸化シリコン(SiO2)膜
下部電極12:厚さT12が55nmのアルミニウム膜
【0029】
図2(a)および
図2(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれ比較例1および実施例1の周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。アドミッタンスの絶対値|Y|では、共振周波数および反共振周波数のピークが観察される。アドミッタンスの実部Real(Y)では、絶対値|Y|に比べスプリアス応答が大きく観察される。
【0030】
図2(a)に示すように、比較例1の|Y|では、反共振周波数faと共振周波数frとの差が大きい。real(Y)では、共振周波数frより高い周波数においてスプリアス62が発生している。共振周波数frより低い周波数においてスプリアスはほとんど発生していない。比較例1においてスプリアスが比較的小さいのは、付加膜28aを設けることにより、エッジ領域52の音速が中央領域54の音速より遅くなり、ピストンモードが実現されたためである。これにより、主にX方向に伝搬する横モードの弾性波の定在波に起因したスプリアスを抑制できる。
【0031】
図2(b)に示すように、実施例1の|Y|では、反共振周波数faと共振周波数frとの差が比較例1より小さい。反共振周波数faと共振周波数frとの差は電気機械結合係数に比例する。このように、実施例1では比較例1より電気機械結合係数を小さくできる。また、比較例1に比べ共振特性はほぼ劣化していない。このように、付加膜26aおよび26bを設けることで、共振特性をほとんど劣化させることなく電気機械結合係数を小さくできる。
【0032】
一方、real(Y)では、共振周波数frより高い周波数におけるスプリアス62に加え、共振周波数frより低い周波数にスプリアス64が生成されている。
【0033】
実施例1において付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bを変え、中央領域54の共振周波数におけるY方向の変位分布およびエッジ領域52におけるX方向の変位分布をシミュレーションした。実施例1では、付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bを0.022λとするサンプルA1と0.045λとするサンプルA2についてシミュレーションした。実施例1における付加膜26aおよび26b以外の膜厚は共振周波数を比較例1と合わせるため変更している。
【0034】
図3(a)は、比較例1および実施例1の中央領域54におけるY方向の変位分布を示す図、
図3(b)は、比較例1および実施例1のエッジ領域52におけるX方向の変位分布を示す図である。縦方向はZ方向であり、横方向はY方向である。実線は、下部電極12、付加膜26b、圧電層14、付加膜26a、上部電極16および付加膜28aを示す。破線は、弾性波による各層の変位を拡大して示している。破線の実線からのずれが変位の大きさに相当する。周波数の値は変位が最大となる周波数である。
【0035】
図3(a)を参照し、中央領域54のY方向の変位は主モードである厚みすべり振動の変位に相当する。中央領域54ではX方向の変位がほとんど発生しないように圧電層14の結晶方位を設定している。中央領域54において、Y方向の変位が最大となる周波数は共振周波数である。比較例1、実施例1のサンプルA1およびA2の共振周波数は、それぞれ3.72GHz、3.71GHzおよび3.73GHzとほぼ同じである。
【0036】
図3(b)を参照し、エッジ領域52ではX方向の変位が生じる。X方向の変位がスプリアスとなる。比較例1では、X方向の変位が最大となる周波数は3.90GHzである。これは、共振周波数frである3.72GHzより高い。
図2(a)のように、共振周波数frより高い周波数では他のスプリアスが存在し、X方向の変位に起因するスプリアスの影響は小さい。
【0037】
実施例1では、サンプルA1およびA2におけるX方向の変位が最大となる周波数は3.62GHzおよび3.53GHzである。これは、共振周波数frであるそれぞれ3.71GHzおよび3.73GHzより低い。このため、
図2(b)のように、共振周波数frより低い周波数にX方向の変位に起因するスプリアス62が発生する。
【0038】
付加膜26aおよび26bの厚さ合計のT26a+T26bを変え、X方向に変位するスプリアス62の大きさをシミュレーションした。
図4は、実施例1における付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bに対するスプリアスの大きさを示す図である。
図4に示すように、付加膜の合計の厚さT26a+T26bが厚くなると、スプリアス強度が大きくなる。破線のように、スプリアス強度は0.25dB以下が求められており、T26a+T26bを0.09λ以下とすることで、スプリアス強度を0.25dB以下とすることができる。
【0039】
酸化シリコンの弾性率の温度変化の符号は圧電層14の弾性率の温度変化の符号と反対である。そこで、付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bに対する共振周波数frおよび反共振周波数faの周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)をシミュレーションした。
【0040】
図5は、実施例1における付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bに対するTCFを示す図である。
図5に示すように、付加膜の合計の厚さT26a+T26bが厚くなると、共振周波数frのTCFの絶対値が小さくなる。反共振周波数faのTCFの絶対値はT26a+T26bにあまり依存しない。
【0041】
[シミュレーション2]
実施例1および比較例1についてシミュレーション2を行った。共通の条件はシミュレーション1と同じである。
比較例1の条件
付加膜28a:厚さT28aが28nmのルテニウム膜
上部電極16:厚さT16が41nmのルテニウム膜
圧電層14:厚さT14が282nmのニオブ酸リチウム層
下部電極12:厚さT12が41nmのルテニウム膜
実施例1の条件
付加膜28a:厚さT28aが20nmのルテニウム膜
上部電極16:厚さT16が31nmのルテニウム膜
付加膜26a:厚さT26aが31nm(0.06λ)のアルミニウム膜
圧電層14:厚さT14が251nmのニオブ酸リチウム層
付加膜26b:厚さT26bが31nm(0.06λ)のアルミニウム膜
下部電極12:厚さT12が31nmのルテニウム膜
【0042】
図6(a)および
図6(b)は、シミュレーション2におけるそれぞれ比較例1および実施例1の周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)および絶対値|Y|を示す図である。
【0043】
図6(a)に示すように、比較例1の|Y|では、反共振周波数faと共振周波数frとの差が大きい。real(Y)では、共振周波数frより高い周波数においてスプリアス62が発生している。共振周波数frより低い周波数においてスプリアスはほとんど発生していない。
【0044】
図6(b)に示すように、実施例1の|Y|では、反共振周波数faと共振周波数frとの差が比較例1より小さく、比較例1より電気機械結合係数が小さい。また、比較例1に比べ共振特性はほぼ劣化していない。このように、付加膜26aおよび26bが金属膜の場合でも共振特性をほぼ劣化させることなく電気機械結合係数を小さくできる。シミュレーション1と異なり
図2(b)のようなスプリアス64が観察できないが、これは、付加膜26aの厚さT26aおよび付加膜28aの厚さT28aが薄いためと考えられる。
【0045】
実施例1によれば、上部電極16および下部電極12(一対の電極)と圧電層14との間にそれぞれ付加膜26aおよび26b(付加膜)が設けられている。付加膜26aおよび26bの密度は上部電極16および下部電極12の密度より小さい。これにより、共振特性を大きくは劣化させることなく、電気機械結合係数を小さくできる。このように、付加膜26aおよび26bを設けることで、共振特性を大きくは劣化させることなく、電気機械結合係数を調整できる。
【0046】
【0047】
表2は主な誘電体の密度および比誘電率を示す表である。
【表2】
【0048】
表1および表2のように、上部電極16および下部電極12をルテニウムとしたとき、付加膜26aおよび26bとして、密度の小さいアルミニウム、チタン、銅、クロム、モリブデン、酸化シリコン(SiO2)または酸化タンタル(Ta2O5)を用いることができる。上部電極16および下部電極12をアルミニウムとしたとき、付加膜26aおよび26bとして、密度の小さい酸化シリコン(SiO2)を用いることができる。
【0049】
付加膜26aおよび26bを金属膜とする場合、下部電極12および上部電極16は、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムおよびイリジウムから選択される金属を主な材料とする。これらの材料で最も小さい密度を有するのはクロムである。そこで、付加膜26aおよび26bを密度がアルミニウム以下の金属膜とする。これにより、共振特性を大きくは劣化させることなく、電気機械結合係数を調整できる。なお、ある金属を主な材料とするとは、意図的または意図せず含まれる不純物を許容し、例えばある金属が50原子%以上、または80原子%以上含まれることである。
【0050】
付加膜26aおよび26bを絶縁膜とする場合、付加膜26aおよび26bの比誘電率は圧電層14の比誘電率より低いことが好ましい。これにより、上部電極16と下部電極12との間の静電容量が付加膜26aおよび26bを設けない場合より小さくなる。よって、電気機械結合係数がより小さくなる。表2のように、圧電層14がニオブ酸リチウム(LN)またはタンタル酸リチウム(LT)のとき、付加膜26aおよび26bとして、比誘電率の小さい酸化シリコン(SiO2)または酸化タンタル(Ta2O5)を用いることが好ましい。付加膜26aおよび26bの材料は上記以外の材料でもよい。
【0051】
電気機械結合係数を効率的に調整する観点から、付加膜26aおよび26bの密度は上部電極16および下部電極12の密度の90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。付加膜26aおよび26bの比誘電率は圧電層14の比誘電率の90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。共振特性を劣化させない観点から、付加膜26aおよび26bの密度は上部電極16および下部電極12の密度の5%以上が好ましい。付加膜26aおよび26bの比誘電率は圧電層14の比誘電率の5%以上が好ましい。
【0052】
下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bの密度は、下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bを構成する材料の物性値から算出できる密度であり、下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bを構成する材料が決定できれば、材料の物性値である密度より下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bの密度を決定できる。下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bの少なくとも1つの膜が複数の膜から形成されている場合、下部電極12、上部電極16、付加膜26aおよび26bの少なくとも1つの膜の密度は、この膜を構成する複数の膜を各々構成する材料から決定される密度と複数の膜の厚みから求めることができる。
【0053】
下部電極12および上部電極16の一方を平面視したとき、共振領域50の重心を含む領域である中央領域54には設けられておらず、共振領域50のうち中央領域54を挟み中央領域54以外の領域であるエッジ領域52に少なくとも一部に付加膜28a(第2の付加膜)が設けられている。これにより、ピストンモードが実現されるため、主にX方向に伝搬する横モードの弾性波の定在波に起因したスプリアスを抑制できる。
【0054】
付加膜26aおよび26bを設けると、X方向のスプリアスが共振周波数frより低くなる。そこで、1または複数の付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bを、0より大きく、圧電層14の厚さT14の0.18倍(λの0.09倍)以下とする。これにより、
図4のように、共振周波数frより低い周波数に生成されるスプリアスを小さくできる。スプリアスの抑制の観点から、付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bは圧電層14の厚さT14の0.15倍以下が好ましく、0.10倍以下がより好ましい。電気機械結合係数を小さくする観点から、付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bは圧電層14の厚さT14の0.01倍以上が好ましく、0.02倍以上がより好ましい。
【0055】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す斜視図である。
図7(a)は圧電層14がニオブ酸リチウムの場合を示し、
図7(b)は圧電層14がタンタル酸リチウムの場合を示す。
図7(a)および
図7(b)のうち左側の破線矢印は
図1(a)および
図1(b)のX方向、Y方向およびZ方向に対応する。右側の図のうち実線は圧電層14の結晶軸の方位を示す図である。
【0056】
図7(a)に示すように、圧電層14がニオブ酸リチウムの場合、結晶方位の点線矢印のように、X方向、Y方向およびZ方向(破線矢印)をそれぞれ結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向および+Z軸方向とし、X軸方向を中心にY軸Z軸平面上を+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に105°回転させる。回転後のY軸方向およびZ軸方向を実線矢印で示す。このように回転させるとZ方向は+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の方向60となる。オイラー角では、(0°,105°,0°)となる。
【0057】
圧電層14を単結晶ニオブ酸リチウム基板とする場合、圧電層14を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)はY軸Z軸平面内の方向である。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電層14の平面方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0058】
圧電層14の上面の法線方向(Z方向)を結晶方位の+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向60およびその直交方向が圧電層14の平面方向となる。Z方向は、+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0059】
図7(b)に示すように、圧電層14がタンタル酸リチウムの場合、結晶方位の点線矢印のように、X方向、Y方向およびZ方向(破線矢印)をそれぞれ結晶方位の-Z軸方向、+Y軸方向および+X軸方向とし、X軸方向を中心にY軸Z軸平面上を+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に42°回転させる。回転後のY軸方向およびZ軸方向を実線矢印で示す。このように回転させるとY方向は+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の方向60となる。オイラー角では、(138°,90°,90°)となる。
【0060】
圧電層14を単結晶タンタル酸リチウム基板とする場合、圧電層14をXカットタンタル酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)はX軸方向である。これにより、圧電層14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電層14の法線方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。
【0061】
結晶方位の+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向を圧電層14のY方向とする。これにより、圧電層14の平面方向のうち+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向が厚みすべり振動の方向60となる。
【0062】
[実施例1の変形例1]
図8(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図8(a)に示すように、実施例1の変形例1では、付加膜26aは圧電層14と上部電極16との間に設けられている。圧電層14と下部電極12との間に付加膜26bは設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0063】
[実施例1の変形例2]
図8(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図8(b)に示すように、実施例1の変形例2では、付加膜26bは圧電層14と下部電極12との間に設けられている。圧電層14と上部電極16との間に付加膜26aは設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1および2のように、付加膜26aおよび26bの少なくとも一方が設けられていればよい。
【0064】
[実施例1の変形例3]
図9(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(a)に示すように、実施例1の変形例3では、付加膜26aは上部電極16の上に設けられている。付加膜26bは下部電極12の下に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例3のように、付加膜26aおよび26bは上部電極16の上および下部電極12の下にそれぞれ設けられていてもよい。
【0065】
[実施例1の変形例4]
図9(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(b)に示すように、実施例1の変形例4では、付加膜26aは上部電極16の上に設けられている。下部電極12の下に付加膜26bは設けられていない。その他の構成は実施例1の変形例3と同じであり説明を省略する。
【0066】
[実施例1の変形例5]
図9(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(c)に示すように、実施例1の変形例5では、付加膜26bは下部電極12の下に設けられている。上部電極16の上に付加膜26aは設けられていない。その他の構成は実施例1の変形例3と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例3および5のように、付加膜26aおよび26bの少なくとも一方が設けられていればよい。
【0067】
[実施例1の変形例6]
図10(a)は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)に示すように、実施例1の変形例6では、上部電極16は複数の金属層16aおよび16bを有し、付加膜26aは金属層16aと16bとの間に設けられている。下部電極12は複数の金属層12aおよび12bを有し、付加膜26bは金属層12aと12bとの間に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例6のように、付加膜26aおよび26bは上部電極16内および下部電極12内にそれぞれ設けられていてもよい。付加膜26aおよび26bの少なくとも一方が設けられていればよい。
【0068】
[実施例1の変形例7]
図10(b)は、実施例1の変形例7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(b)に示すように、実施例1の変形例7では、付加膜28aが設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例7のように、付加膜28aは設けられていなくても、付加膜26aおよび26bを設けることで、電気機械結合係数を調整することができる。
【0069】
実施例1およびその変形例1から7のように、1または複数の付加膜26aおよび26bは、共振領域50における、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極と圧電層14との間、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極内、および、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極の圧電層14と反対側の少なくとも一箇所に設けられていればよい。付加膜26aおよび26bの密度は対応する上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極の密度より小さければよい。また、付加膜26aおよび26bは、共振領域50の全体に設けられることが好ましいが、共振領域50の少なくとも一部に設けられていればよい。電気機械結合係数を小さくする観点から、付加膜26aおよび26bが設けられる領域の面積は共振領域50の面積の50%以上が好ましく80%以上がより好ましい。
【0070】
[実施例1の変形例8]
図11は、実施例1の変形例8に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図11に示すように、実施例1の変形例8では、共振領域50のX方向の両側のエッジ領域52aに付加膜28aが設けられている。さらに、共振領域50のY方向の両側のエッジ領域52bに付加膜28aが設けられている。これにより、中央領域54を囲むエッジ領域52aおよび52bに付加膜28aが設けられている。付加膜28aのX方向の幅とY方向の幅は略等しくてもよいし異なっていてもよい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例8では、X方向およびY方向に伝搬する弾性波に起因する横モードスプリアスを抑制できる。
【0071】
[実施例1の変形例9]
図12は、実施例1の変形例9に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12に示すように、実施例1の変形例9では、音響反射膜31の代わりに空隙30が設けられている。エッジ領域52の上部電極16上に付加膜28aが設けられ、エッジ領域52の下部電極12下に付加膜28bが設けられている。付加膜28aと付加膜28bの幅は略等しくてもよいし異なっていてもよい。付加膜28aと付加膜28bの厚さは略等しくてもよいし異なっていてもよい。付加膜28aと付加膜28bの主成分は同じでもよいし異なっていてもよい。その他の構成は実施例1およびその変形例1と同じであり説明を省略する。
【0072】
実施例1の変形例9のように、付加膜28aおよび付加膜28bが設けられていてもよい。付加膜28aおよび28bは、エッジ領域52における、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極と圧電層14との間、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極内、および、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極の圧電層14と反対側の少なくとも一箇所に設けられていればよい。
【0073】
実施例1およびその変形例1から8のように、圧電薄膜共振器は共振領域50に重なる音響反射膜31を有するSMR(Solid Mounted Resonator)でもよい。変形例1の変形例9のように、圧電薄膜共振器は共振領域50に重なる空隙30を有するFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。
【0074】
共振領域50の平面形状として略矩形の場合を例に説明したが、共振領域50の平面形状は略楕円形、略円形または略多角形でもよい。付加膜28aおよび28bは中央領域54を囲む一部に設けられていればよい。中央領域54は、共振領域50の中心(例えば重心)を含む領域である。
【実施例2】
【0075】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタの例である。
図13は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図13に示すように、ラダー型フィルタでは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の経路に、1または複数の直列共振器S1からS4が設けられている。1または複数の並列共振器P1からP3の一端は入力端子T1と出力端子T2との間の経路に接続され、他端は接地(グランド端子Tgに接続)されている。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0076】
図14(a)は、実施例2に係るフィルタの平面図、
図14(b)は、
図14(a)のA-A断面図である。
図14(a)では、下部電極12を破線で示し、上部電極16を実線で示している。
【0077】
図14(a)および
図14(b)に示すように、単一の圧電層14に直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3が形成されている。下部電極12および上部電極16を、共振器を接続する配線として用いている。入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgを上部電極16により形成するため、下部電極12と上部電極16とを接続する接続部35が適宜設けられている。その他の構成は実施例1の
図1(a)および
図1(b)と同じである。
【0078】
実施例2のように、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。これにより、電気機械結合係数を調整できる。
【0079】
図15(a)は、ラダー型フィルタの直列共振器Sおよび並列共振器Pにおける周波数に対するインピーダンスの絶対値|Z|を示す図、
図15(b)は、ラダー型フィルタの周波数に対する減衰量|S21|を示す図である。
【0080】
図15(a)に示すように、直列共振器Sと並列共振器Pに付加膜26aおよび26bを設けると共振周波数frより低い周波数にスプリアス64sおよび64pが生成される。
【0081】
図15(b)に示すように、ラダー型フィルタの通過特性において、並列共振器Pのスプリアス64pは通過帯域Passより低周波側の減衰域に形成される。このため、スプリアス64pはラダー型フィルタの通過特性にあまり影響しない。直列共振器Sのスプリアス64sは通過帯域Pass内に形成される。このため、通過帯域Pass内にリップルが形成されてしまう。
【0082】
[実施例2の変形例1]
図16(a)および
図16(b)は、それぞれ実施例2の変形例1および2における直列共振器の断面図である。
図16(c)は、実施例2の変形例1および2における並列共振器の断面図である。
図16(a)に示すように、直列共振器には付加膜26aおよび26bを設けない。
【0083】
図16(c)に示すように、並列共振器には、上部電極16上の共振領域50に周波数調整膜20が設けられている。周波数調整膜20は並列共振器の共振周波数を直列共振器の共振周波数より低くするための膜である。共振周波数の調整のため、周波数調整膜20は、付加膜26aおよび26bよりも密度が高い。例えば付加膜26aおよび26bの主な材料がアルミニウムの場合、周波数調整膜20は、例えば、チタン、ルテニウム、クロム、銅、モリブデン、タングステン、タンタル、白金、ロジウムまたはイリジウムを主な材料とする。周波数調整膜20は、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極と圧電層14との間、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極内、および、上部電極16および下部電極12の少なくとも一方の電極の圧電層14と反対側の少なくとも一箇所の共振領域50の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0084】
実施例2の変形例1の
図16(c)のように、フィルタの共振器の一部は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器(第1共振器)であり、さらに共振領域50内に周波数調整膜20を含む。他の共振器は、
図14(a)および
図14(b)のように、第1共振器と圧電層14を共有し、
図16(a)のように、付加膜26a、26bおよび周波数調整膜20が設けない圧電薄膜共振器(第2共振器)とする。これにより、フィルタ特性にスプリアス64が影響する共振器を第2共振器とすることで、フィルタ特性へのスプリアス64の影響を小さくできる。さらに、フィルタ特性にスプリアス64があまり影響しない共振器を第1共振器とすることで、電気機械結合係数を調整できる。なお、第1共振器と第2共振器とが同じ圧電層14を共有するとは、例えば、
図14(a)および
図14(b)のように、第1共振器と第2共振器が単一の圧電層14を共有する構造、および、単一圧電層14に下部電極12および上部電極16を形成することで第1共振器および第2共振器を形成した後、圧電層14に溝を形成して第1共振器の圧電層と第2共振器の圧電層を分離した構造が含まれる。
【0085】
[実施例2の変形例2]
図16(b)に示すように、直列共振器の付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bを、
図16(c)の並列共振器の付加膜26aおよび26bの合計の厚さより小さくする。
【0086】
実施例2の変形例2のように、第1共振器および第2共振器ともに実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器とする。第2共振器の1または複数の付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bを第1共振器の1または複数の付加膜26aおよび26bの合計の厚さT26a+T26bより小さくする。これにより、フィルタ特性にスプリアス64が影響する共振器を第2共振器とすることで、フィルタ特性へのスプリアス64の影響を小さくできる。さらに、フィルタ特性にスプリアス64があまり影響しない共振器を第1共振器とすることで、電気機械結合係数を調整できる。
【0087】
実施例2の変形例1および2のように、並列共振器を第1共振器とし、直列共振器を第2共振器とする。これにより、通過帯域Pass内に形成される直列共振器におけるスプリアス64sを抑制できる。並列共振器の電気機械結合係数を調整できる。
【0088】
図17は、実施例2の変形例3に係るデュプレクサの回路図である。
図17に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2およびその変形例のフィルタとすることができる。
【0089】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0090】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 基板
12 下部電極
14 圧電層
16 上部電極
26a、26b、28a、28b 付加膜
30 空隙
31 音響反射膜
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50 共振領域
52 エッジ領域
54 中央領域
60 厚みすべり振動の方向