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特許7485499塩基性水溶液を利用したピーリングジェルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】塩基性水溶液を利用したピーリングジェルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240509BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240509BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/02
A61K8/60
A61Q19/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018061853
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2018165266
(43)【公開日】2018-10-25
【審査請求日】2020-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017062512
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517108871
【氏名又は名称】井上 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100092875
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 孝治
(72)【発明者】
【氏名】井上 喜雅
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】阪野 誠司
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-263721(JP,A)
【文献】特開2007-197349(JP,A)
【文献】特開2007-246667(JP,A)
【文献】特開平4-235113(JP,A)
【文献】特開2003-073251(JP,A)
【文献】特開2013-189390(JP,A)
【文献】特開2004-359627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99, A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜を通して不純物を取り除いた精製水に所定量の炭酸カリウムを混合した上で電気分解し、酸性度の高い水とアルカリ度の高い水に分離すると共に、酸性度の高い水を排水することなく繰り返し電気分解することによって、pH値が10以上で酸化還元電位が-900mV以上のpH値が経時的に低下しにくい強アルカリ性の塩基性水溶液を形成し、同強アルカリ性の塩基性水溶液に所定量の精製水を加えて所定の濃度に希釈した後、所定量の美白成分およびピーリング作用のあるカルボマーを混合することによってジェル化し、上記強アルカリ性の塩基性水溶液による角質除去作用およびタンパク質溶解機能を利用して、上記カルボマーによるピーリング作用を活性化すると共に美白成分の有効な浸透を可能にしたことを特徴とする塩基性水溶液を利用したピーリングジェルの製造方法。
【請求項2】
逆浸透膜を通して不純物を取り除いた精製水に所定量の塩化カリウムを混合した上で電気分解し、酸性度の高い水とアルカリ度の高い水に分離すると共に、酸性度の高い水を排水することなく繰り返し電気分解することによって、pH値が10以上で酸化還元電位が-900mV以上のpH値が経時的に低下しにくい強アルカリ性の塩基性水溶液を形成し、同強アルカリ性の塩基性水溶液に所定量の精製水を加えて所定の濃度に希釈した後、所定量の美白成分およびピーリング作用のあるカルボマーを混合することによってジェル化し、上記強アルカリ性の塩基性水溶液による角質除去作用およびタンパク質溶解機能を利用して、上記カルボマーによるピーリング作用を活性化すると共に美白成分の有効な浸透を可能にしたことを特徴とする塩基性水溶液を利用したピーリングジェルの製造方法。
【請求項3】
美白成分が、アルブチンであることを特徴とする請求項1又は2記載の塩基性水溶液を利用したピーリングジェルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塩基性水溶液を用いたピーリングジェルの製造方法に係るものであり、さらに詳しくは、強アルカリ性の塩基性水溶液にピーリング剤および美白成分を組み合わせた美白効果の高いピーリングジェルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、肌の美白化を目的とした多くの美白化粧品が提供されている。なかでも、美白成分を含んだ美白美容液の人気が高い。美白化粧品の分野で、美白とは、一般に色素沈着が少なく、光の反射量が多い、明るく美しい肌のことを指す。そして、美白成分を含んだ美白美容液は、単なる化粧水や乳液と違って、その美白成分が日焼けによるシミやそばかす、くすみ、クマなどの原因になっている古い角質を取り除き、色素の沈着を防いで、肌本来の新しい角質に戻す作用を果たすとされており、多くは医薬部外品(薬用化粧品)として販売されている。
【0003】
このような美白化粧品における美白成分としては、たとえばビタミンC誘導体(リン酸アスコルビルMg、パルミチン酸アスコルビルリン酸Naなど)、アルブチン、トラネキサム酸、エラグ酸、ルシノール、コウジ酸、カモミラET、プラセンタエキス、ハイドロキノンなどが用いられている。ビタミンC誘導体、アルブチン、トラネキサム酸、エラグ酸、ルシノール、コウジ酸、カモミラET、プラセンタエキス、ハイドロキノンは、一般にメラニンの生成を抑制する効果があるとされ、またトラネキサム酸には、さらに肌荒れを防ぐ効果、ルシノール、プラセンタエキスには、保湿効果が認められている。
【0004】
これらの中でも、ハイドロキノンは、特に美白効果が高く、肌の漂白剤とも呼ばれて、皮膚科などでも使用されている。
【0005】
このように、美白成分それぞれには既に有効な美白作用が認められている。しかし、これら美白成分の殆どは、水溶性のものであり、これまでのところ殆どの美容液が精製水(ろ過・蒸留・イオン交換を経て、不純物を取り除いた純水)を使って製造されている。このため、皮脂の影響や表面張力の影響もあり、肌に浸透しにくい性質がある。いくら有効な美白成分でも、肌に浸透せず、肝心のメラニン部分に届かないのでは十分な美白効果が得られない。
【0006】
このため、美白成分をマイクロカプセル化して精製水に配合し、確実に角層部分まで浸透させる高度な技術も開発されているが、製品価格が高価なものになる欠点を有している。また、精製水自体の性質は同様であるので、皮脂による浸透阻害作用は変わらない。
【0007】
また、本来美白成分には、シミやそばかす、くすみ、クマなどの原因になっている古い角質を取り除き、色素の沈着を防いで、肌本来の新しい角質に戻す作用が期待されているのであるが、必ずしも古い角質を取り除く有効な効果を期待することができないのが実情である。
【0008】
このため、古い角質を取り除き、皮膚のターンオーバーを正常にするには、一般にピーリングという処理法が用いられている。このピーリングには、ピーリング剤(薬剤)を用いる化学的な手法とレーザー等(物理的手段)を用いる物理的な手法があるが、化粧品としては、ピーリング剤を用いる化学的な手法(ケミカルピーリング)が一般的である。
【0009】
そして、ピーリング剤としては、これまでのところ、AHA(アルファヒドロキシ酸)とBHA(ベータヒドロキシ酸)の2種が使用されており、AHAとしては、たとえばリンゴ酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸などの天然由来の成分が、またBHAとしては、トリクロール酸、サリチル酸マクロゴール、サリチル酸エタノールなどの合成化学物質が用いられている(特許文献1を参照)。
【0010】
市販のピーリング用品は、殆どがAHAであり、BHAは主として皮膚科や美容クリニックで使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-277251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、これら従来のピーリング剤は、何れも酸性のものであり、上記BHAは特に酸性が強い。そして、その酸による溶解作用を利用して古い角質(溜った角質)を除去し、皮膚のターンオーバーを図るようにしている。したがって、たしかに一般の美白成分に比べて、角質の除去効果は高いが、それはまた外からの刺激を防ぎ、かつ水分を抱え込んで肌を守っている角質のバリア機能を喪失させてしまうことになり、皮膚に対する影響は必ずしも好ましいものではない。そのため、高い頻度で使用すると、かえって肌荒れや乾燥を招き、逆効果となり、ターンオーバーを遅らせることになる。
【0013】
また、上記従来のピーリング剤は、基本的にピーリング効果のみを目的としており、美白効果を実現するためには、ピーリング後、別に美白成分、保湿成分を含んだ美容液等を使用する必要があり、手間がかかる。
【0014】
本願発明は、このような問題を解決するためになされたもので、有効な角質除去機能および美白成分浸透機能を有しながら、肌には優しい塩基性水溶液を用いたピーリングジェルの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、同目的を達成するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0016】
(1)請求項1又は2の発明の課題解決手段
請求項1又は2の発明の課題解決手段に係るピーリングジェルの製造方法では、逆浸透膜を通して不純物を取り除いた精製水に所定量の食品添加物(炭酸カリウム又は塩化カリウム)を混合した上で電気分解し、酸性度の高い水とアルカリ度の高い水に分離すると共に、酸性度の高い水を排水することなく繰り返し電気分解することによって、pH値が10以上で酸化還元電位が-900mV以上のpH値が経時的に低下しにくい強アルカリ性の塩基性水溶液を形成し、同強アルカリ性の塩基性水溶液に所定量の精製水を加えて所定の濃度に希釈した後、所定量の美白成分およびピーリング作用のあるカルボマーを混合することによってジェル化し、上記強アルカリ性の塩基性水溶液による角質除去作用およびタンパク質溶解機能を利用して、上記カルボマーによるピーリング作用を活性化すると共に美白成分の有効な浸透を可能にしたピーリングジェルを製造することを特徴としている。
【0017】
美白化粧品に使用されている美白成分は、一般にシミやくすみのもとになるメラニンが活性化する際に生じる酸化酵素チロシナーゼを抑える効果がある。すなわち、メラニンの前駆物質であるチロシンと皮膚メラノ―マ細胞のメラニン生成過程で作用する酸化酵素チロシナーゼの結合(活性)を阻害することにより、メラニンの発生を防ぐ。また、肌に入ると、その一部が分解されて、メラニン生成作用をブロックする。
【0018】
一方、逆浸透膜を通して不純物を取り除いた精製水に所定量の食品添加物(炭酸カリウム又は塩化カリウム)を混合した上で電気分解し、酸性度の高い水とアルカリ度の高い水に分離すると共に、酸性度の高い水を排水することなく繰り返し電気分解すると、pH値が10以上で酸化還元電位が-900mV以上のpH値が経時的に低下しにくい強アルカリ性の塩基性水溶液を得ることができる。しかも、このようにして得られたpH値が経時的に低下しにくい強アルカリ性の塩基性水溶液は、一般のアルカリイオン水と異なって、上記10以上の高いpH値が数年間にわたり安定した状態で維持され、経時的に変化しない。
【0019】
強アルカリ性の塩基性水溶液は、他の成分と均衡して混ざりやすく、特に皮膚内への浸透力が高い。また、水であるから保湿作用もあり、強アルカリ性であるから除菌作用もある。したがって、この強アルカリ性の塩基性水溶液に対して、上記安定した美白成分を配合すると、該美白成分が効果的に皮膚内へ浸透して、上述した美白作用、保湿作用、除菌作用を発揮する。
【0020】
しかし、それだけでは、必ずしも有効に美白成分の有効な美白効果を実現することができず、やはり古い角質の除去が必要である。
【0021】
そこで、上記美白成分を配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に対して、さらにカルボマー(カルボキシビニルポリマー)を混合する。高分子合成物質であるカルボマーは、皮膚からは直接吸収されにくく、皮膚の古い角質を取り除く有効なピーリング作用を有している。また、カルボマーは、アルカリ剤で中和すると、透明で綺麗なジェル状になるので、ジェル化に適していて、微生物汚染にも強く、変質、腐敗しにくい。また、カルボマーを配合した粘液は、肌に乗せると溶けるようになじんでゆく。
【0022】
したがって、同カルボマーを上記美白成分を配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に混合すると、中和されて、透明で綺麗なピーリングジェルになり、肌に乗せると溶けるように皮膚になじんで行き、十分に深い浸透力を有して有効なピーリング作用を発揮するようになる。そして、それによって、古い角質や皮脂、汚れなどを効果的に取り除く。
【0023】
しかも、同カルボマーは高分子合成物質であるから、皮膚自体には直接吸収されにくく、皮膚に塗布されると、上記ピーリング作用のみを発揮する。このカルボマーのピーリング作用は、他の成分と均衡して混ざりやすく皮膚内への浸透力が大きい上記アルカリ性の塩基性水溶液の作用によって活性化されるので、その角質等除去作用はより一層有効になる。
【0024】
そして、このように皮膚内深くまで浸透し、古い角質や皮脂、汚れが除去された新しい肌に対して、さらに上記塩基性水溶液中に配合されている美白成分が作用する。それらの結果、肌の新陳代射が促進され、シミやくすみのない透明感のある肌が実現される。
【0025】
ところで、一般のアルカリイオン水は、時間が経つにつれてpH値が低下し、中性に戻ってしまう問題がある。pH値が低下すると、アルカリ性が低下し、他の成分を溶解する溶解度も低下するため、皮膚側の皮脂(タンパク質)や配合される美白成分であるアルブチンを溶解しにくくなる。カルボマーによるピーリング作用も低下する。その結果、上述した皮膚内への浸透力が低下する。したがって、塩基性水溶液は、pH値が高く(10以上)、しかも同高いpH値が経時的に低下しないことが必要である。この点で、上記電気分解によって生成した強アルカリ性の塩基性水溶液は、pH値が経時的に低下しにくい特徴を持っており、最適である。
【0026】
また、上記塩基性水溶液は、pH値と共に酸化還元電位が高いことが望まれる。酸化還元電位が高いと、皮膚の抗酸化機能(老化抑制機能)を向上させることができる。上記電気分解により生成したpH値10以上の強アルカリ性の塩基性水溶液では、-900mV以上の高い酸化還元電位を得ることができる。したがって、上記皮膚の抗酸化機能(老化抑制機能)を十分に実現することができる。
【0027】
これらの塩基性水溶液の特徴が組み合わさって、皮膚のタンパク質を適切に溶解し、カルボマーによるピーリング作用も活性化されて、皮膚内にアルブチンを効果的に導入することができ、皮膚の抗酸化機能(老化抑制機能)をも向上させることができるようになる。その結果、美白効果が大きく向上する。
【0028】
なお、上記電気分解によって得られた強アルカリ性、高酸化還元電位の塩基性水溶液の原液は、所望に精製水により希釈して使用される。この時の希釈率は、設定されるpH値によって変わる。
【0029】
(2)請求項の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段に係るピーリングジェルの製造方法では、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段に係るピーリングジェルの製造方法における美白成分がアルブチンであることを特徴としている。
【0030】
アルブチンは、コケモモやウワウルシの葉などから採取される天然の美白成分である。皮膚科などで使用される美白効果の高い成分にハイドロキノンがある。ハイドロキノンは美白成分が高いが、一方皮膚に与える刺激も強い。このハイドロキノンにブドウ糖を結合したものがアルブチンであり、ハイドロキノンに比べて皮膚への刺激も弱く、安定している。
【0031】
そして、それ自体、シミやくすみのもとになるメラニンが活性化する際に生じる酸化酵素チロシナーゼを抑える効果がある。すなわち、メラニンの前駆物質であるチロシンと皮膚メラノ―マ細胞のメラニン生成過程で作用する酸化酵素チロシナーゼの結合(活性)を阻害することにより、メラニンの発生を防ぐ。
【0032】
また、アルブチンは肌に入ると、その一部が分解されてハイドロキノンの作用を発揮し、メラニン生成作用をブロックする。
【0033】
一方、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段の電気分解によって得られた塩基性水溶液は、上述のように強いアルカリ性を示す。そして、この強アルカリ性の塩基性水溶液は、他の成分と均衡して混ざりやすく、特に皮膚内への浸透力が高い。また、水であるから保湿作用もあり、強アルカリ性であるから除菌作用もある。したがって、この強アルカリ性の塩基性水溶液に対して、上記の如く安定した美白作用のあるアルブチンを配合すると、該アルブチンが効果的に皮膚内へ浸透して、上述した美白作用、保湿作用、除菌作用を発揮するようになる。
【0034】
しかし、それだけでは、必ずしも有効にアルブチンの有効な美白効果を実現することができず、やはり古い角質の除去が必要である。
【0035】
そこで、上記アルブチンを配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に対して、さらにカルボマー(カルボキシビニルポリマー)を混合する。高分子合成物質であるカルボマーは、皮膚からは直接吸収されにくく、皮膚の古い角質を取り除く有効なピーリング作用を有している。また、カルボマーは、アルカリ剤で中和すると、透明で綺麗なジェル状になるので、ジェル化に適していて、微生物汚染にも強く、変質、腐敗しにくい。また、カルボマーを配合した粘液は、肌に乗せると溶けるようになじんでゆく。
【0036】
したがって、同カルボマーを上記アルブチンを配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に混合すると、中和されて、透明で綺麗なピーリングジェルになり、肌に乗せると溶けるように皮膚になじんで行き、十分に深い浸透力を有して有効なピーリング作用を発揮するようになる。そして、それによって、古い角質や皮脂、汚れなどを効果的に取り除く。
【0037】
しかも、同カルボマーは高分子合成物質であるから、皮膚自体には直接吸収されにくく、皮膚に塗布されると、上記ピーリング作用のみを発揮する。このカルボマーのピーリング作用は、他の成分と均衡して混ざりやすく皮膚内への浸透力が大きい上記アルカリ性の塩基性水溶液の作用によって活性化されるので、その角質等除去作用はより一層有効になる。
【0038】
そして、このように皮膚内深くまで浸透し、古い角質や皮脂、汚れが除去された新しい肌に対して、さらに上記塩基性水溶液中に配合されている美白成分であるアルブチンが作用する。アルブチンは、上述のように、ハイドロキノンに比べて皮膚への刺激も弱く、安定している。そして、それ自体、シミやくすみのもとになるメラニンが活性化する際に生じる酸化酵素チロシナーゼを抑える効果がある。
【0039】
すなわち、チロシンとチロシナーゼの結合(活性)を阻害することにより、メラニンの発生を防ぐ。また、アルブチンは肌に入ると、その一部が分解されてハイドロキノンの作用も発揮し、メラニン生成作用をブロックする。それらの結果、肌の新陳代射が促進され、シミやくすみのない透明感のある肌が実現される。
【発明の効果】
【0040】
以上の結果、本願発明のピーリングジェルの製造方法によれば、肌を傷めることなく、有効な角質除去作用を実現して、美白成分の有効な浸透を可能にした新規なピーリングジェルを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したピーリングジェルにおけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(チロシン基質の阻害活性予備試験)の結果を示す図(データ表)である。
図2】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したピーリングジェルにおけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(L-DOPA基質の阻害活性予備試験)の結果を示す図(データ表)である。
図3】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したピーリングジェルにおけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(チロシン基質の阻害活性本試験)の結果を示す図(データ表)である。
図4】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したピーリングジェルにおけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(L-DOPA基質の阻害活性本試験)の結果を示す図(データ表)である。
図5】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したクレンジング液におけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(チロシン基質の阻害活性予備試験)の結果を示す図(データ表)である。
図6】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したクレンジング液におけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(L-DOPA基質の阻害活性予備試験)の結果を示す図(データ表)である。
図7】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したクレンジング液におけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(チロシン基質の阻害活性本試験)の結果を示す図(データ表)である。
図8】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したクレンジング液におけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(L-DOPA基質の阻害活性本試験)の結果を示す図(データ表)である。
図9】この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法により製造された塩基性水溶液を利用したピーリングジェルにおけるチロシナーゼ阻害活性評価試験(図1図2の阻害活性予備試験および図3図4の阻害活性本試験)において使用された被験サンプルA(基礎ピーリング剤)の組成を示す図(組成表)である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、この出願の発明を実施するための具体的な形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。
【0043】
(基本となる実施の形態)
この出願の発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法は、美白成分である例えばアルブチンを配合したアルカリ性の高い塩基性水溶液に対して、ピーリング作用のあるカルボマーを混合して適切にジェル化することによって、肌に優しいアルカリ性の角質除去作用を実現するとともに、美白成分の有効な浸透を可能にした新規なピーリングジェルを得ることを目的として構成されている。
【0044】
すなわち、この発明の実施の形態に係るピーリングジェルの製造方法は、たとえば有効な美白成分の一つであるアルブチンを配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に対して、ピーリング作用のあるカルボマーを混合して適切にジェル化し、それによって肌に優しいアルカリ性の角質除去作用を実現するとともに、上記塩基性水溶液のタンパク質等溶解機能によって上記アルブチンの有効な浸透を可能にしたことを特徴としている。
【0045】
アルブチンは、コケモモやウワウルシの葉などから採取される天然の美白成分である。皮膚科などで使用される美白効果の高い成分にハイドロキノンがある。ハイドロキノンは美白成分が高いが、一方皮膚に与える刺激も強い。このハイドロキノンにブドウ糖を結合したのがアルブチンであり、ハイドロキノンに比べて皮膚への刺激も弱く、安定している。
【0046】
そして、それ自体、シミやくすみのもとになるメラニンが活性化する際に生じる酵素チロシナーゼを抑える効果がある。すなわち、チロシンとチロシナーゼの結合を阻害することにより、メラニンの発生を防ぐ。
【0047】
また、アルブチンは肌に入ると、その一部が分解されてハイドロキノンの作用も発揮し、メラニン生成作用をブロックする。
【0048】
塩基性水溶液は、高いアルカリ性を示す。このアルカリ性の高い塩基性水溶液は、他の成分と均衡して混ざりやすく、特に皮膚内への浸透力が高い。また、水であるから保湿作用もあり、強アルカリ性であるから除菌作用もある。
【0049】
したがって、このアルカリ性の高い塩基性水溶液に対して、上記安定した美白作用のあるアルブチンを配合すると、該アルブチンが効果的に皮膚内へ浸透して、上述した美白作用、保湿作用、除菌作用を発揮する。
【0050】
しかし、それだけでは、必ずしも有効にアルブチンの有効な美白効果を実現することができず、やはり古い角質の除去が必要である。
【0051】
そこで、この実施の形態では、上記アルブチンを配合した高いアルカリ性の塩基性水溶液に対して、さらにカルボマー(カルボキシビニルポリマー)を混合している。高分子合成物質であるカルボマーは、皮膚からは直接吸収されにくく、皮膚の古い角質を取り除く有効なピーリング作用を有している。
【0052】
また、カルボマーは、アルカリ剤で中和すると、透明で綺麗なジェル状になるので、ジェル化に適していて、微生物汚染にも強く、変質、腐敗しにくい。また、カルボマーを配合した粘液は、肌に乗せると溶けるように馴染んでゆく。
【0053】
したがって、そのようなカルボマーを上記アルブチンを配合した強アルカリ性の塩基性水溶液に混合すると、中和されて、透明で綺麗なピーリングジェルになり、肌に乗せると溶けるように皮膚に馴染むようになる。そして、強アルカリ性の塩基性水溶液が持つタンパク質等溶解機能によって古い角質や皮脂、汚れなどを溶解し、十分に深い浸透力を有して有効なピーリング作用を発揮するようになる。
【0054】
すなわち、上記カルボマーは高分子合成物質であるから、ジェル状態で肌に塗布されても、皮膚自体には直接吸収されず、皮膚部分に留まる。したがって、この状態で手で肌をマッサージするように撫でていると、次第に硬化し、滑らかではありながらも高分子による角質研磨作用が生じ、肌を傷めない有効なピーリング作用が生じる。そして、それによって、古い角質や皮脂、汚れなどが効果的に取り除かれる。
【0055】
しかも、同カルボマーのピーリング機能は、皮脂やタンパク質等他の成分を溶解する作用を有し、皮膚のタンパク質と均衡して混ざり合い、相互にカップリングすることにより、皮膚内に有効に浸透する上記アルカリ性の塩基性水溶液の作用によって、より活性化されるので、その角質等除去作用はより一層有効になる。
【0056】
そして、この実施の形態の場合、このように皮膚内深くまで浸透し、古い角質や皮脂、汚れが除去された新しい肌に対して、さらに上記塩基性水溶液中に配合されている美白成分であるアルブチンが作用して、美白効果を向上させることになる。
【0057】
すなわち、アルブチンは、上述のように、ハイドロキノンに比べて皮膚への刺激も弱く、安定している。そして、それ自体、シミやくすみのもとになるメラニンが活性化する際に生じる酵素(酸化酵素)チロシナーゼを抑える効果がある。すなわち、チロシンとチロシナーゼの結合を阻害することにより、メラニンの発生を防ぐ。また、アルブチンは肌に入ると、その一部が分解されて、先に述べたハイドロキノンの作用も発揮し、メラニン生成作用をブロックする。それらの結果、肌の新陳代射が促進され、シミやくすみのない透明感のある肌が実現される。
【0058】
ところで、上記のような作用を果たす本実施の形態の塩基性水溶液には、たとえばアルカリイオン水(pH値10未満)やアルカリ電解水(pH値10以上)などの採用が可能である。しかし、この実施の形態では、後述する所定の電気分解により生成されたアルカリ強度の高いアルカリ電解水(pH値10以上)が採用されている。
【0059】
すなわち、この実施の形態では、次に述べるような特殊な電気分解により生成されたpH値の高い(pH値10以上の)アルカリ電解水が採用されている。
【0060】
まず所定量の真水を準備し、人工透析に使用する逆浸透膜(RO)を通して、不純物を取り除き、精製水にする。
【0061】
次に、この精製水に食品添加物(たとえば重曹NaHCO )を数%混ぜた食品添加物混合水をつくる。
【0062】
その後、この食品添加物混合水を電気分解することにより、酸性度の高い水とアルカリ度の高い水との2種類の水に分離する。
【0063】
次に、分離された酸性度の高い水を排水することなく、繰り返し電気分解することによって、さらにアルカリ度(pH値)の高い水を得る(いわゆる、インフィールド方式の電気分解を行う)。
【0064】
このようにして得られたpH値10以上のアルカリ度の高い電解水(強アルカリイオン水の原液)は、10以上の高いpH値が数年間安定した状態で続くようになり、経時的に変化しなくなる。
【0065】
このアルカリ度の高いアルカリ電解水(pH値10以上)は、不純物の含有量が少なく、上記のようにpH値(10以上)が経時的に変化しないだけでなく、酸化還元電位が高く、たとえば-900mV以上の酸化還元電位を持っている。
【0066】
一般のアルカリイオン水は、時間が経つにつれてpH値が低下し、中性に戻る。pH値が低いと、アルカリ性が低く、他の成分を溶解する溶解度が低下するため、皮膚側の皮脂(タンパク質)や配合される美白成分であるアルブチンを溶解しにくくなる。その結果、上述した皮膚内への浸透力が低下する。したがって、塩基性水溶液は、pH値が高く(10以上)、しかも同pH値が経時的に変化しないことが必要である。この点で、上記アルカリ電解水は最適である。
【0067】
また、一方上記塩基性水溶液には、酸化還元電位が高いことが望まれる。酸化還元電位が高いと、皮膚の抗酸化機能(老化抑制機能)を向上させることができる。
【0068】
この実施の形態の上記電気分解により生成されたアルカリ電解水(pH値10以上)では、-900mV以上の高い酸化還元電位の塩基性水溶液を得ることができる。したがって、上記皮膚の抗酸化機能(老化抑制機能)を十分に実現することができる。
【0069】
これらの塩基性水溶液の特徴が組み合わさって、皮膚のタンパク質を適切に溶解し、皮膚内にアルブチンを効果的に導入することができるようになる。その結果、美白効果が大きく向上する。
【0070】
なお、上記電気分解によって得られた強アルカリイオン水の原液は、所望に精製水により希釈して使用される。この時の希釈率は、設定されるH値によって変わる。
【0071】
一例として、たとえばベースとなるアルカリ電解水の割合を92%として、これにアルブチン2%、カルボマー2.5%が混合され、さらに実際には、その他必要な成分(ステアルトリモニウムクロリド、BG)、好適なエキス(銀杏葉エキス、ローズマリー葉エキスなど)3.5%が混合されて、最終的なピーリングジェルが形成される。
【0072】
以上の結果、この出願の発明の実施の形態のピーリングジェルの製造方法によれば、肌を傷めることなく、有効な角質除去作用を実現して、美白成分の有効な浸透を可能にした従来にはない新規なピーリングジェルを提供することが可能になる。
【0073】
(その他の実施の形態)
なお、以上の電気分解によるアルカリ電解水の製造では、精製水に食品添加物(たとえば重曹NaHCO )を数%混ぜた食品添加物混合水を基にpH値の高いアルカリ電解水を製造するようにしたが、これは同食品添加物としての重曹NaHCO に変えて、同様の精製水に炭酸カリウムK CO を数%(たとえば5%前後)混ぜたカリウム混合水を基にpH値の高いアルカリ電解水(たとえばpH値13前後、酸化還元電位-1000mv程度のもの)を製造するようにしても良い。また、炭酸カリウムに変えて、塩化カリウムを用いても良い。
【0074】
このようにすると、強アルカリ性の塩基性水溶液中に数%のカリウムイオンが含まれることになり、次のような有益な作用が得られる。
【0075】
すなわち、皮膚細胞を活性化させて、ピーリング後の皮膚のターンオーバー(再生)を捉進することができる。人の細胞は、内側にカリウム、外側にナトリウムが多いバランス状態で正常に働くようになっている。これは皮膚の細胞も同じであり、細胞が新陳代謝を行うとカリウムが次第に減ってゆく。このときに体内にカリウムが多くあると、細胞内にカリウムが取り込まれて、細胞は正常な働きを保つことができる。
【0076】
しかし、食事で摂るカリウムが少ないと、カリウムの代わりにナトリウムが取り込まれて、細胞の働きが不十分になる。その結果、新陳代謝が正常に行われなくなり、新鮮な酸素や栄養素の取り込みが低下し、老廃物の排泄がスムーズに行われなくなって、疲労物質が体内に多く溜まるようになる。これを解決することができる。
【0077】
また、カリウムにはナトリウムを排出する作用もあり、皮膚細胞を活性化させ、皮膚の再生を進めることができる。
【0078】
また、上述の実施の形態では、美白成分としてアルブチンを採用したが、メラニンの生成を抑制する美白成分としては、たとえばビタミンC誘導体、トラネキサム酸、エラグ酸、ルシノール、コウジ酸、カモミラET、プラセンタエキス、ハイドロキノン等も知られており、これらをアルブチンの代わりに使用することも可能であり、同様の美白向上効果を実現することができる。
【0079】
(試験結果1:チロシナーゼ阻害活性評価試験)
ここで、マッシュルーム(糸状菌)由来の酸化酵素「チロシナーゼ」を用いて、所定の被験資料(サンプルA~サンプルC)によるチロシナーゼ阻害活性評価試験を行った。試験実施機関として、関西福祉科学大学・健康福祉学部福祉栄養学科(〒582-0026大阪府柏原市旭ヶ丘3-11-1)に依頼して行った。試験期間は、2017年9月9日~2017年10月7日である。
【0080】
その評価試験結果の所定濃度毎の結果(活性阻害率)を添付の図1図4のテーブルに示している。測定するサンプル濃度は、予備試験が1.00,10.00,100,1000,2500μg/mlの5段階、本試験が100、250、500、1000、2500μg/mlの5段階である。
【0081】
図1のテーブルは、チロシン基質の予備試験結果を、図2のテーブルは、L-DOPA基質の予備試験結果を、図3のテーブルは、チロシン基質の本試験結果を、図4のテーブルはL-DOPA基質の本試験結果を示している。
【0082】
被験資料としては、予備試験(予備反応試験)には、サンプルA(一例として図9に示す組成の基礎ピーリング剤単独溶液)、サンプルB(サンプルAの基礎ピーリング溶液に美白成分アルブチンを含有させたもの)、サンプルC(サンプルBに上述した電解水(炭酸カリウムを用いて電気分解したpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液)を添加したもの=本実施例)の3種類、本試験には、サンプルA(一例として図9に示す組成の基礎ピーリング剤単独溶液)、サンプルB(サンプルAの基礎ピーリング溶液に美白成分アルブチンを含有させたもの)、サンプルC(サンプルBに上述した電解水(pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液)を添加したもの=本実施例)に、さらにサンプルE(美白成分であるコウジ酸)を加えた4種類を用いている。 また、チロシナーゼには、上記のようにマッシュルーム(糸状菌)由来のもの、チロシナーゼの反応対象基質として、チロシンおよびL-DOPA、緩衝液として、Mcilvaine pH6.8(チロシン)、リン酸緩衝液pH6.8(L-DOPA)を用いた。陽性対象には、コウジ酸(上記美白成分の一例)、陰性対象には蒸留水を用いている。
【0083】
試験は、予備試験(予備反応試験)で、試験濃度1.00、10.00、100、1000、2500μg/mlで3回実施し、さらに阻害活性のIC50が求められるように、上記5段階濃度で3回実施した。本試験は、100、250、500、1000、2500μg/ml濃度の5段階で同様に実施した。
(1)各ウエルに各濃度の試験サンプル液又は陽性対象液を20μL、緩衝液に溶解した上記各基質750μLを48穴プレートに加え、37°Cの恒温槽で120秒間インキュベートした。
(2)475nm吸光度での吸光度を測定した。
(3)上述の緩衝液に溶解したチロシナーゼ溶液(100U/ml)を20μLずつ添加し、10分間37°C恒温槽で保温し、475nm吸光度にて以下の各吸光度a~dを測定した。
(4)それら各吸光度a~dから、次の式を用いて阻害率(%)を算出した。
阻害率(%)=(d-b)-(c-a)/(d-b)×100
a:酵素反応前のサンプルの吸光度
b:酵素反応前のサンプル不含基質・緩衝液の吸光度
c:酵素反応後のサンプルの吸光度
d:酵素反応後のサンプル不含基質・緩衝液の吸光度
チロシナーゼは、銅イオンと結合して活性をもつ酸化酵素の一種であり、人の皮膚の細胞内に存在し、チロシンやド―パを基質として、ド―パキノンを生成する。ド―パキノンは自動的に酸化されて、赤褐色のド―パクロムとなり、さらに複雑な経路を経てメラニンになる。そこで、この試験では、そのようなメラニンの前駆物質であるチロシン基質およびL-DOPA基質に対して、上記酸化酵素であるチロシナーゼを反応させことによって、人工的にメラニンの生成過程を実現し、それに対する被験資料であるサンプルA~サンプルCの活性阻害効果を確認している。この場合、チロシン基質およびL-DOPA基質それぞれにおけるチロシナーゼの活性阻害効果が高いほど美白作用が高いことを示す。
【0084】
これらの試験結果を見ると、その本試験結果から明らかなように、チロシン基質、L-DOPA基質共に、サンプルA<サンプルB<サンプルCの順にチロシナーゼ阻害活性効果が高くなっていることが明確である。この結果から理解されるように、美白成分として有効なアルブチン溶液も単にそれだけでは必ずしも十分ではなく、上述の実施例のようにpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液と組み合わせて使用すると特に有効となることがわかる。
【0085】
これは、pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液が、皮膚の角質等のタンパク質を溶解する機能に優れており、しかもその溶解は同タンパク質を腐敗させることなく細分化する機能であり、タンパク質のアミノ酸をNH からNH にし、より水に溶けやすくすることを意味している。したがって、上記美白成分として有効なアルブチンにpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液を添加すると、チロシナーゼの活性度を有効に阻害し、美白効果を一段と高めることができる。この塩基性水溶液は、アルブチン等美白化粧品の全成分量の例えば1%程度でも有効であることが確認されている。添加量によって、pH濃度の調整が容易であるため、用途に応じてpH値を所望に設定することができる。同様の効果は、アルブチン以外の多くの美白成分でも実現可能である。
【0086】
また、以上の実施形態の場合、上記pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液は、電気分解を繰り返して生成されており、たとえば炭酸カリウムや塩化カリウムを使用した場合にも、加水分解により生成された塩基性水溶液に比べて、溶解したカリウム等の成分濃度が低い状態で塩基(-OH)成分を多く生成させることができるため、毒劇物には該当せず、人体に対してもやさしく安全である。したがって、化粧品への添加に適している。この電気分解により生成されたpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液は、水酸化カリウム(pH12~14)までの塩基性の高い水であり、+Kと-OHが電離した状態の水である。
【0087】
また、その電気分解による生成は、たとえば水道水等の原料水を、まず軟水化装置(RO逆浸透膜)を介して純水にし、次に、同純水に導電性(解離性)を付与する物質(炭酸カリウム、塩化カリウムなど)を溶解させる。この結果、純水が解離し易く、電気分解に適した高い導電性を有する単純成分の水になる。
【0088】
電気分解の手段としては、基本的に連続式、貯槽式、超音波式、高調波式、その他の各種の手段の採用が可能であるが、以上の実施の形態では、2室型の連続式電気分解方法を採用している。
【0089】
また、上記pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液には、必用に応じて、目に見えない細かい気泡を水の中に充填したウルトラファインバブルや炭酸水が使用される。このようにすると、美白効果が一層向上する。
【0090】
また、以上のように塩基性水溶液にカリウム成分が含まれている場合、体内でのナトリウム成分とのバランスにも寄与することになる。
【0091】
(試験結果2:チロシナーゼ阻害活性評価試験)
次に、上記試験結果1と同様のマッシュルーム(糸状菌)由来の酸化酵素「チロシナーゼ」を用いて、上記とは異なる被験資料(クレンジング剤:詳細は後述)によるチロシナーゼ阻害活性評価試験を行った。試験実施機関は、上記試験結果1の場合と同じ関西福祉科学大学・健康福祉学部福祉栄養学科(〒582-0026大阪府柏原市旭ヶ丘3-11-1)であり、試験期間も同じ2017年9月9日~2017年10月7日である。
【0092】
同試験結果2の所定濃度毎(予備試験:1.00,10.00,100,1000,2500μg/ml、本試験:100,250,500,1000,2500μg/ml)の阻害率を添付の図5図6および図7図8のテーブルに示している。
【0093】
すなわち、図5のテーブルは、サンプルDのチロシン基質の予備試験結果を、図6のテーブルは、サンプルDのL-DOPA基質の予備試験結果を、図7のテーブルは、サンプルDおよびサンプルEのチロシン基質の本試験結果を、図8のテーブルは、サンプルDおよびサンプルEのL-DOPA基質の本試験結果を示している。
【0094】
被験資料であるサンプルDは、洗願時に使用される一般的なクレンジング液に上述の電解水(炭酸カリウムを用いて電気分解したpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液)および美白成分であるアルブチンを含有させたもの、サンプルプルEは、同試験における陽性対象のコウジ酸(上記美白成分の一例)である。チロシナーゼには、上記マッシュルーム(糸状菌)由来のもの、チロシナーゼの反応対象基質としては、チロシンおよびL-DOPA、緩衝液として、Mcilvaine pH6.8(チロシン)、リン酸緩衝液pH6.8(L-DOPA)を用いた。陽性対象には、コウジ酸、陰性対象には蒸留水を用いた。
【0095】
試験は、予備試験(予備反応試験)で、濃度1.00、10.00、100、1000、2500μg/mlの3回実施し、さらに阻害活性のIC50が求められるように、同5段階濃度で3回実施した。本試験では、濃度100、250、500、1000、2500μg/mlの5段階で同様に実施した。
(1)各ウエルに各濃度の試験サンプル液又は陽性対象液を20μL、緩衝液に溶解した上記各基質750μLを48穴プレートに加え、37°Cの恒温槽で120秒間インキュベートした。
(2)475nm吸光度での吸光度を測定した。
(3)上述の緩衝液に溶解したチロシナーゼ溶液(100U/ml)を20μLずつ添加し、10分間37°C恒温槽で保温し、475nm吸光度にて以下の各吸光度a~dを測定した。
(4)それら各吸光度a~dから、次の式を用いて阻害率(%)を算出した。
阻害率(%)=(d-b)-(c-a)/(d-b)×100
a:酵素反応前のサンプルの吸光度
b:酵素反応前のサンプル不含基質・緩衝液の吸光度
c:酵素反応後のサンプルの吸光度
d:酵素反応後のサンプル不含基質・緩衝液の吸光度
チロシナーゼは、銅イオンと結合して活性をもつ酸化酵素の一種であり、人の皮膚の細胞内に存在し、チロシンやド―パを基質として、ド―パキノンを生成する。ド―パキノンは自動的に酸化されて、赤褐色のド―パクロムとなり、さらに複雑な経路を経てメラニンになる。そこで、この試験でも、そのようなメラニンの前駆物質であるチロシン基質およびL-DOPA基質に対して、上記酸化酵素であるチロシナーゼを反応させことによって、人工的にメラニンの生成過程を実現し、それに対する被験資料であるサンプルD、サンプルEの活性阻害効果を確認した。この場合、チロシン基質およびL-DOPA基質それぞれにおけるチロシナーゼの活性阻害率が高いほど美白作用が高いことを示す。
【0096】
これらの試験結果を見ると、その本試験結果から明らかなように、ピーリング剤だけでなく、クレンジング液の場合にも美白成分であるアルブチンおよび電解水(pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液)を加えると、チロシン基質、L-DOPA基質共にチロシナーゼ阻害活性効果が高くなっていることが明確である。
【0097】
このように、クレンジング剤に対しても、美白成分として有効なアルブチンとpH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液を組み合わせることの有効性が明かとなった。これらの効果は、当然ながらアルブチン以外の美白成分でも同様に得られると推測される。それらの美白成分として、ビタミンC誘導体、アルブチン、トラネキサム酸、エラグ酸、ルシノール、コウジ酸、カモミラET、プラセンタエキス、ハイドロキノン等が挙げられる。
【0098】
このことからも、同アルブチン等の美白成分に加えて、pH値の高い強アルカリ性の塩基性水溶液を使用することの有効性が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9