(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/321 20170101AFI20240509BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240509BHJP
B29C 64/236 20170101ALI20240509BHJP
B29C 64/255 20170101ALI20240509BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240509BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240509BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240509BHJP
【FI】
B29C64/321
B29C64/118
B29C64/236
B29C64/255
B29C64/393
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2020075238
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】514129844
【氏名又は名称】ニッポー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 政良
(72)【発明者】
【氏名】白藤 洋康
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 弘明
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/189062(WO,A1)
【文献】特表2018-507798(JP,A)
【文献】特開2016-107456(JP,A)
【文献】特開2018-138351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を加熱して溶融させる加熱手段を有し、溶融した前記樹脂材料を吐出するノズルヘッドと、
前記ノズルヘッドに前記樹脂材料を送り込むと共に前記樹脂材料を吐出させるよう押し出す搬送機構と、
前記搬送機構を前記ノズルヘッドと共に移動自在に駆動する第1駆動部と、
前記搬送機構と離隔して配置され、該搬送機構に前記樹脂材料を供給する供給機構と、
前記供給機構を移動自在に駆動する第2駆動部と、
前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え
、
前記制御部は、前記搬送機構の位置と前記供給機構の位置との位置関係が所定条件となるかを判定し、前記所定条件となる場合は前記供給機構を追動させるよう前記第2駆動部の動作を制御する
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記供給機構が前記搬送機構の位置に応じて追動可能となるように、前記第2駆動部の動作を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定条件として、前記位置関係が、予め設定された距離を上回る位置関係となるかを判定する
ことを特徴とする請求項
1記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記所定条件として、前記位置関係が、前記搬送機構への前記供給機構からの水平面に対する前記樹脂材料の挿入角度が所定角度を下回る位置関係となるかを判定する
ことを特徴とする請求項
1記載の三次元造形装置。
【請求項5】
樹脂材料を加熱して溶融させる加熱手段を有し、溶融した前記樹脂材料を吐出するノズルヘッドと、
前記ノズルヘッドに前記樹脂材料を送り込むと共に前記樹脂材料を吐出させるよう押し出す搬送機構と、
前記搬送機構を前記ノズルヘッドと共に移動自在に駆動する第1駆動部と、
前記搬送機構と離隔して配置され、該搬送機構に前記樹脂材料を供給する供給機構と、
前記供給機構を移動自在に駆動する第2駆動部と、
前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記搬送機構及び前記供給機構は、第1の平行面及び第2の平行面内でそれぞれ移動自在に配置され、
前記第2の平行面における前記供給機構の移動領域は、前記第1の平行面における前記搬送機構の移動領域よりも狭い
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項6】
前記供給機構は、前記搬送機構の上方に配置可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記供給機構は、供給前の前記樹脂材料が巻回されて回動可能に取り付けられたボビン部を含む
ことを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から熱溶解積層法(FDM:Fused Deposition Modeling)により三次元造形物を作製する三次元造形装置では、熱可塑性を有するPLA(Polylactic Acid)やABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)等の常温で硬い樹脂材料を糸状(フィラメント状)にした原料(フィラメント樹脂)を用いている。
【0003】
このフィラメント樹脂は、例えば三次元造形装置の筐体の外部(壁面)に取付固定されたフィラメントリール(ボビン部)に巻回されて保持された上で、吐出口を有するノズルヘッドの溶融部よりも前段に設けられたギア駆動等の搬送機構へ搬送される。そして、この搬送機構によってノズルヘッドへ搬送され、搬送機構によるノズルヘッドへの搬送力により三次元造形物を積層するために溶融された状態で吐出口から吐出される(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-89923号公報
【文献】特開2019-155885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示された従来技術の三次元造形装置では、三次元造形物の形成時に、筐体の外部に取付固定されたフィラメントリールを含む材料供給部からノズルヘッドと共に移動する搬送機構へのフィラメント経路を通してフィラメント樹脂が搬送されるので、次のような問題が生じ得る。
【0006】
すなわち、造形中に材料供給部と搬送機構との位置関係が遠くなった場合には、特に搬送機構の挿入口におけるフィラメント樹脂の挿入角度が急峻になってしまう。このため、挿入口を含むフィラメント経路上でのフィラメント樹脂に摩擦や屈折(屈曲)が起こり易くなる。そして、このような状況下では、搬送機構によるフィラメント樹脂の送込み力或いは引込み力が余計に必要になってしまうので、フィラメント樹脂の安定的な供給が損なわれる場合がある。
【0007】
また、この状況と同時に例えば搬送機構が素早く移動するような造形が行われると、フィラメント樹脂によっては切断が起こったり伸びが生じたりして、ノズルヘッドの吐出口から溶融した樹脂を十分に吐出することができなくなってしまう場合がある。そのような場合は、三次元造形物の積層自体が停止して、造形が失敗してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂材料を安定的に供給搬送することができる三次元造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る三次元造形装置は、樹脂材料を加熱して溶融させる加熱手段を有し、溶融した前記樹脂材料を吐出するノズルヘッドと、前記ノズルヘッドに前記樹脂材料を送り込むと共に前記樹脂材料を吐出させるよう押し出す搬送機構と、前記搬送機構を前記ノズルヘッドと共に移動自在に駆動する第1駆動部と、前記搬送機構と離隔して配置され、該搬送機構に前記樹脂材料を供給する供給機構と、前記供給機構を移動自在に駆動する第2駆動部と、前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記制御部は、前記供給機構が前記搬送機構の位置に応じて追動可能となるように、前記第2駆動部の動作を制御する。
【0011】
本発明の他の実施形態において、前記制御部は、前記搬送機構の位置と前記供給機構の位置との位置関係が所定条件となるかを判定し、前記所定条件となる場合は前記供給機構を追動させるよう前記第2駆動部の動作を制御する。
【0012】
本発明の更に他の実施形態において、前記制御部は、前記所定条件として、前記位置関係が、予め設定された距離を上回る位置関係となるかを判定する。
【0013】
本発明の更に他の実施形態において、前記制御部は、前記所定条件として、前記位置関係が、前記搬送機構への前記供給機構からの水平面に対する前記樹脂材料の挿入角度が所定角度を下回る位置関係となるかを判定する。
【0014】
本発明の更に他の実施形態において、前記搬送機構及び前記供給機構は、第1の平行面及び第2の平行面内でそれぞれ移動自在に配置され、前記第2の平行面における前記供給機構の移動領域は、前記第1の平行面における前記搬送機構の移動領域よりも狭い。
【0015】
本発明の更に他の実施形態において、前記供給機構は、前記搬送機構の上方に配置可能に構成されている。
【0016】
本発明の更に他の実施形態において、前記供給機構は、供給前の前記樹脂材料が巻回されて回動可能に取り付けられたボビン部を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂材料を安定的に供給搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る三次元造形装置の一部を概略的に示す斜視図である。
【
図2】同三次元造形装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】同三次元造形装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】同三次元造形装置のフィラメント供給部の追動に関する動作概念を説明するための図である。
【
図5】同三次元造形装置のフィラメント樹脂の挿入角度に基づくフィラメント供給部の追動に関する動作概念を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係る三次元造形装置を詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る三次元造形装置の一部を概略的に示す斜視図、
図2はこの三次元造形装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態の三次元造形装置として、これら
図1及び
図2に示す熱溶解積層法(FDM)の3Dプリンタ100を例に挙げて説明する。なお、3Dプリンタ100は、溶融樹脂を吐出して積層することで三次元造形物を作製するものであるが、基本的な構造については既知であるので、ここでは説明が必要な場合を除いて主要な説明を割愛する。
【0021】
また、以下の説明に用いられる図面においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。また、以下の説明において、「X軸方向」は3Dプリンタ100の正面に向かい合った場合の左右方向を意味し、「Y軸方向」はこの場合の奥行き方向を意味し、「Z軸方向」はX軸方向及びY軸方向と交差する上下方向(垂直方向)を意味する。
【0022】
図1及び
図2に示すように、FDM型の3Dプリンタ100は、例えばノズルヘッド部10と、樹脂材料であるフィラメント樹脂9をノズルヘッド部10に供給するフィラメント供給部20とを備える。また、3Dプリンタ100には、3Dプリンタ100の全体を制御する制御装置として、例えばコンピュータ200が設けられている。
【0023】
ノズルヘッド部10は、フィラメント樹脂9を加熱して溶融させる加熱手段としての熱溶解部11を有し、溶融した溶融樹脂を吐出する。なお、本実施形態では、ノズルヘッド部10にフィラメント樹脂9を送り込むと共に、溶融樹脂を吐出させるよう押し出す搬送機構としてのエクストルーダ12が、例えばノズルヘッド部10に熱溶解部11と共に一体的に備えられている。
【0024】
従って、以下の説明においては、ノズルヘッド部10が、第1駆動部としてのヘッド駆動部102によって、X軸方向及びY軸方向に移動自在に構成されているものとするが、エクストルーダ12がノズルヘッド部10と別体に設けられている場合は、第1駆動部はエクストルーダ12をX軸方向及びY軸方向に移動自在に駆動するものであれば良い。
【0025】
フィラメント供給部20は、ノズルヘッド部10のエクストルーダ12と、例えばZ軸方向に所定間隔を空けて離隔した上方に配置されている。フィラメント供給部20は、矩形状に構成されたフレームに囲まれた供給ボックス21と、この供給ボックス21の内部に、エクストルーダ12への供給前のフィラメント樹脂9が巻回されて回動可能に取り付けられたボビン部22とを有する。なお、ボビン部22は、供給ボックス21に対して着脱自在に取り付けられている。
【0026】
このフィラメント供給部20は、第2駆動部としてのXY駆動部104によって、ノズルヘッド部10と同様にX軸方向及びY軸方向に移動自在に構成されている。ヘッド駆動部102及びXY駆動部104は、コンピュータ200によって制御される。なお、コンピュータ200は、例えばこれらヘッド駆動部102及びXY駆動部104の状態に応じて、ノズルヘッド部10及びフィラメント供給部20の位置情報を取得可能に構成されている。
【0027】
また、3Dプリンタ100は、筐体フレーム101と、図示しない造形テーブルと、この造形テーブルの昇降機構とを備えている。筐体フレーム101は、例えばZ軸方向に縦長の直方体の外形を有し、アルミニウムや鉄等の枠組みを備えている。筐体フレーム101の下部からヘッド駆動部102までの4つの角部近傍には、例えば4本のZ軸ガイドシャフト103がZ軸方向に延びるように形成されている。
【0028】
Z軸ガイドシャフト103は、例えば造形テーブルをZ軸方向に移動させるための方向を規定する直線状の棒状部材である。Z軸ガイドシャフト103の本数は、造形テーブルを安定的に維持し移動させることが可能な本数であれば、様々な数に設定可能である。なお、造形テーブルは、造形物が載置される台座を兼ねており、ノズルヘッド部10から吐出される溶融樹脂が堆積される台として機能する。
【0029】
昇降機構は、造形テーブルに設けられたZ軸ガイドシャフト103と接触し回動するローラ(図示せず)や、モータの駆動力をタイミングベルト、ワイヤ、プーリ等からなる動力伝達機構(図示せず)を備えて構成されている。昇降機構は、例えば造形テーブルをZ軸方向に所定間隔で移動させる。
【0030】
ヘッド駆動部102は、筐体フレーム101のZ軸方向中間部辺りに設けられた枠体102aと、この枠体102aの内側に枠体102aの近傍においてX軸方向に沿って設けられた一対のX軸ガイドレール13aと、枠体102aの内側に枠体102aの近傍においてY軸方向に沿って設けられた一対のY軸ガイドレール13bとを有する。X軸ガイドレール13a及びY軸ガイドレール13bは、Z軸方向に互いに干渉しない状態でずれて配置されている。
【0031】
また、ヘッド駆動部102は、X軸ガイドレール13aに摺動自在に設けられた一対のX軸スライダ14aと、Y軸ガイドレール13bに摺動自在に設けられた一対のY軸スライダ14bとを有する。更に、ヘッド駆動部102は、X軸スライダ14aをX軸方向に沿って移動させるためのX軸駆動用モータ17aと、Y軸スライダ14bをY軸方向に沿って移動させるためのY軸駆動用モータ17bとを備える。
【0032】
X軸スライダ14aには、X軸方向に所定間隔を空けて並設されたY軸ガイドポール16bの両端が固定され、Y軸スライダ14bには、Y軸方向に所定間隔を空けて並設されたX軸ガイドポール16aの両端が固定されている。X軸ガイドポール16a及びY軸ガイドポール16bは、Z軸方向に互いに干渉しない状態でずれて設けられている。ノズルヘッド部10は、これらX軸ガイドポール16a及びY軸ガイドポール16bが貫通するポールガイドに固定されており、X軸駆動用モータ17a及びY軸駆動用モータ17bの駆動力によって、X軸方向及びY軸方向に移動自在に配置されている。
【0033】
一方、XY駆動部104は、筐体フレーム101のZ軸方向上部辺りに設けられた枠体104aと、この枠体104aの内側に枠体104aから所定間隔を空けてX軸方向に延びるように離隔配置された一対のX軸ガイドレール15aと、枠体104aの内側に枠体104aから所定間隔を空けてY軸方向に延びるように離隔配置された一対のY軸ガイドレール15bとを有する。X軸ガイドレール15a及びY軸ガイドレール15bは、Z軸方向に干渉しないように互いにずれて配置されている。
【0034】
また、XY駆動部104は、X軸ガイドレール15aに沿ってフィラメント供給部20を摺動自在に移動させるX軸駆動部18aと、Y軸ガイドレール15bに沿ってフィラメント供給部20を摺動自在に移動させるY軸駆動部18bとを有する。Y軸駆動部18a及びY軸駆動部18bは、例えば駆動用モータを備えており、このモータの駆動力によってフィラメント供給部20をX軸方向及びY軸方向に移動自在に駆動する。
【0035】
造形物の材料となるフィラメント樹脂9は、例えば径が1.75mm~3.00mm程度の紐状の熱可塑性樹脂からなり、例えばABS、PLA、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)等の樹脂と共に、比較的硬めのエラストマー系の樹脂等を用いることができる。フィラメント樹脂9は、フィラメント供給部20のボビン部22に巻かれた状態で保持されており、造形時にはノズルヘッド部10に設けられたエクストルーダ12によって、例えば露出した状態でノズルヘッド部10内の熱溶解部11に送り込まれる。
【0036】
コンピュータ200は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の各種の情報を入力する際に用いられる入力デバイスや、データ通信モジュール等の通信デバイスからなる入力部105を介して入力された造形物の造形データを記憶部106に記憶する。造形データには、例えばヘッド駆動部102によるノズルヘッド部10の移動データが含まれる。この移動データは、ノズルヘッド部10の位置情報(XY平面内の座標等)を備えている。記憶部106は、RAM、ROM、HDD、SSD等の記憶モジュールを備え、3Dプリンタ100に関する各種の情報を記憶する。
【0037】
コンピュータ200は、記憶部106に記憶された造形データの移動データに基づいて、ヘッド駆動部102の動作を制御して、ノズルヘッド部10をXY平面内で移動させ、造形物を形成する。この際、コンピュータ200は、例えばフィラメント供給部20がエクストルーダ12を備えるノズルヘッド部10のXY平面内の位置に応じて追動可能となるように、フィラメント供給部20の移動データ(追動データ)を算出し、この追動データに基づきXY駆動部104の動作も制御する。
【0038】
具体的には、コンピュータ200は、次のような処理によって、ノズルヘッド部10及びフィラメント供給部20を移動させる。
図3は、3Dプリンタ100の動作の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、3Dプリンタ100が起動して造形プログラムによる造形動作が開始されると、コンピュータ200は、まず、記憶部106から造形データを読み込み(ステップS100)、一連の造形動作におけるノズルヘッド部10の移動データを取得する(ステップS101)。
【0039】
次に、移動データにより指定されるノズルヘッド部10の位置座標と、フィラメント供給部20の位置座標とを解析等することにより、造形物を形成する際にノズルヘッド部10の位置とフィラメント供給部20の位置との位置関係が所定条件となる場合があるかを判定する(ステップS102)。このステップS102にて判定される所定条件としては、例えばノズルヘッド部10の位置とフィラメント供給部20の位置との位置関係が、予め設定された距離を上回る位置関係となるかが挙げられる。
【0040】
位置関係が所定条件となることがない場合(ステップS102のNo)は、例えばノズルヘッド部10とフィラメント供給部20とが造形中に近くに位置すると判断することができる。このため、フィラメント経路に負荷が掛かることはなく、フィラメント樹脂9の摩擦や屈折による不具合は生じ難いと判断することができるので、移動データに基づいてノズルヘッド部10を移動させるようにして(ステップS103)、造形物の造形を行う。
【0041】
一方、位置関係が所定条件となることがある場合(ステップS102のYes)は、例えばノズルヘッド部10とフィラメント供給部20とが造形中に遠くに位置することがあると判断することができる。このため、フィラメント経路に負荷が掛かり、フィラメント樹脂9の摩擦や屈折による不具合が生じ得ると判断することができるので、移動データに基づきフィラメント供給部20の追動データを算出し(ステップS104)、ノズルヘッド部10の移動に合わせてフィラメント供給部20を追動させるようにして(ステップS105)、造形物の造形を行う。
【0042】
そして、例えば一連の造形プログラムが終了すること等により、造形を終了するか否かが判断され(ステップS106)、造形を終了すると判断した場合(ステップS106のYes)は、本フローチャートによる一連の処理を終了する。造形を終了しないと判断した場合(ステップS106のNo)は、上記ステップS100に移行して次の造形のための造形データを読み込み、以降の処理を繰り返す。
【0043】
なお、上記フローチャートにおいて、移動データを取得して(ステップS101)、造形物を形成する際の全てのノズルヘッド部10の位置に対するフィラメント供給部20の位置について所定条件を判定し(ステップS102)、必要に応じて(ステップS102のYes)追動データを算出して(ステップS104)、造形物の造形を行うようにしても良い。
【0044】
本実施形態の3Dプリンタ100は、フィラメント供給部20を上記のように動作させることで、特にフィラメント経路におけるフィラメント樹脂9に掛かる負荷(摩擦や屈折)を軽減し、或いは負荷に伴う不具合の発生を未然に防止し得るので、フィラメント樹脂9を安定的にノズルヘッド部10に供給搬送することが可能となる。
【0045】
なお、ノズルヘッド部10に対するフィラメント供給部20の追動データに基づく具体的な追動動作は、次のように行われる。
図4は、3Dプリンタ100のフィラメント供給部20の追動に関する動作概念を説明するための図である。なお、
図4においては、Y軸方向の追動を例に挙げて説明するが、X軸方向においても同様に動作可能である。
【0046】
図4に示すように、ここでは、ノズルヘッド部10は、Y軸において例えば超A地点(図示せず)、A地点、B地点、C地点、D地点及び超D地点(図示せず)に移動可能に構成され、フィラメント供給部20は、Y軸においてA´地点、B´地点、C´地点及びD´地点に移動可能に構成されている。なお、ここで「超A地点」とは、A地点よりもB地点と反対側の地点であり、「超D地点」とは、D地点よりもC地点と反対側の地点である。
【0047】
例えば、ノズルヘッド部10が超A地点にあり、フィラメント供給部20がA´地点にあるときに、ノズルヘッド部10が図示(1)のように超A地点からB地点を越えてC地点側に移動した場合、ノズルヘッド部10とフィラメント供給部20との位置関係が所定条件となる、すなわち予め設定された距離を上回る位置関係となる。従って、フィラメント供給部20は図示(2)のようにA´地点からB´地点に移動するよう追動する。B´地点に移動したフィラメント供給部20は、例えば図示(3)のようにノズルヘッド部10がA地点からC地点の間を移動しているとき、すなわち位置関係が所定条件となっていないときは追動しない。
【0048】
次に、例えばノズルヘッド部10が図示(4)のようにB地点からC地点を越えてD地点側へ移動した場合、位置関係が所定条件となる。従って、フィラメント供給部20は図示(5)のようにB´地点からC´地点に移動するよう追動する。C´地点に移動したフィラメント供給部20は、例えば図示(6)のようにノズルヘッド部10がB地点からD地点の間を移動しているときは、位置関係が所定条件となっていないので追動しない。
【0049】
次に、例えばノズルヘッド部10が図示(7)のようにC地点から超D地点に移動した場合、位置関係が所定条件となる。従って、フィラメント供給部20は図示(8)のようにC´地点からD´地点に移動するよう追動する。そして、反対に、フィラメント供給部20がD´地点にあるときに、ノズルヘッド部10が図示(9)のように超D地点からC地点を越えてB地点側に移動した場合、やはり位置関係が所定条件となる。従って、フィラメント供給部20は図示(10)のようにD´地点からC´地点に移動するよう追動する。C´地点に移動したフィラメント供給部20は、例えば図示(11)のようにノズルヘッド部10がD地点からB地点の間を移動しているときは、位置関係が所定条件となっていないので追動しない。
【0050】
また、例えばノズルヘッド部10が図示(12)のようにC地点からB地点を越えてA地点側に移動した場合、位置関係が所定条件となる。従って、フィラメント供給部20は図示(13)のようにC´地点からB´地点に移動するよう追動する。そして、B´地点に移動したフィラメント供給部20は、例えば図示(14)のようにノズルヘッド部10がC地点からA地点の間を移動しているときは、位置関係が所定条件となっていないので追動しない。このようにフィラメント供給部20がノズルヘッド部10に追動することにより、フィラメント供給部20からフィラメント樹脂9をノズルヘッド部10に安定的に供給搬送することができる。
【0051】
なお、上述した所定条件として、例えば、ノズルヘッド部10とフィラメント供給部20との位置関係が、具体的にはエクストルーダ12の材料挿入口(図示せず)へのボビン部22からの材料送出口(図示せず)からの水平面に対するフィラメント樹脂9の挿入角度θが所定角度を下回る位置関係となるかを判定するようにしても良い。
【0052】
フィラメント樹脂9の挿入角度θの検出は、ノズルヘッド部10とフィラメント供給部20の配置態様によるZ軸方向の距離、並びに移動データから得られるX軸方向及びY軸方向の座標から算出される距離に基づき行われても、別途各部10,20に設置された位置センサ或いは筐体フレーム101等に設置されたフィラメント樹脂9の角度検出センサ等の検出手段からの出力に基づき行われても良い。
【0053】
図5は、フィラメント樹脂9の挿入角度θに基づくフィラメント供給部20の追動に関する動作概念を説明するための図であり、
図5(a),(b),(c)は3Dプリンタ100の概略的な斜視図、
図5(d),(e),(f)は概略的な下面図である。なお、
図5においては、説明に必要な構成要素の符号以外の符号については図示を省略している。
【0054】
まず、
図5(a)及び
図5(d)に示すように、例えば3Dプリンタ100の動作開始時には、ノズルヘッド部10及びフィラメント供給部20はそれぞれ平行なXY平面(第1の平行面及び第2の平行面)内の移動領域の中央付近に位置している。このため、フィラメント供給部20からノズルヘッド部10に供給搬送されるフィラメント樹脂9が水平面となす挿入角度θは、ほぼ90°となっている。従って、フィラメント経路におけるフィラメント樹脂9に掛かる負荷はほぼ無い状態となる。
【0055】
この状態から、
図5(b)及び
図5(e)に示すように、例えばノズルヘッド部10が移動領域のX軸方向及びY軸方向の端の位置に移動した場合、フィラメント供給部20からのフィラメント樹脂9が水平面となす挿入角度θは、かなり鋭角(例えば、45°を下回る)となってしまう。このため、フィラメント経路におけるフィラメント樹脂9に掛かる負荷が増大してしまうおそれがある。
【0056】
従って、このような場合は、
図5(c)及び
図5(f)に示すように、ノズルヘッド部10の移動位置に応じて、例えばフィラメント樹脂9と水平面とがなす挿入角度θが所定角度(例えば、45°)以上を維持するように、フィラメント供給部20を追動させてX軸方向及びY軸方向の端近傍の位置に移動させる。フィラメント供給部20をこのように追動させることで、フィラメント樹脂9に掛かる負荷が増える前に対応することが可能となるので、造形中においてフィラメント樹脂9をノズルヘッド部10に安定的に供給搬送することができ、造形の失敗等の不具合を防止することが可能となる。
【0057】
なお、XY平面におけるノズルヘッド部10の移動領域は、同じくXY平面におけるフィラメント供給部20の移動領域よりも広い、換言すればノズルヘッド部10の移動領域に比べてフィラメント供給部20の移動領域は十分に狭いため、本実施形態の3Dプリンタ100は、ノズルヘッド部10の頻繁な移動に対してフィラメント供給部20を多少のタイムラグ等があっても余裕を持って追動させることができ、フィラメント樹脂9の安定的な供給搬送を維持することが可能な構造を実現している。また、フィラメント供給部20は、ノズルヘッド部10との位置関係が所定の条件になったときにだけ移動するので、ノズルヘッド部10の頻繁な移動に全て追動するのではない。このため、フィラメント供給部20の余分な移動動作を防止して、振動の発生や余分な電力消費を抑制することができる。
【0058】
以上述べたように、本発明の実施形態に係る三次元造形装置によれば、ノズルヘッド部10へのフィラメント供給部20からのフィラメント経路におけるフィラメント樹脂9の摩擦や屈折等の負荷の発生を防止することができるので、フィラメント樹脂9をノズルヘッド部10に安定的に供給搬送させて造形を行うことが可能となる。
【0059】
なお、上記においては、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0060】
例えば、上記実施形態では、造形テーブルが昇降機構によってZ軸方向に移動して造形物の形成が行われるようにしたが、造形テーブルが固定状態のままノズルヘッド部10がヘッド駆動部102と共に昇降機構によってZ軸方向に移動しながら造形が行われるようにしても良い。この場合は、ノズルヘッド部10とフィラメント供給部20との位置関係について、Z軸方向の要素も加味しながら所定条件の判定処理等が行われる。
【符号の説明】
【0061】
10 ノズルヘッド部
11 熱溶解部
12 エクストルーダ
20 フィラメント供給部
21 供給ボックス
22 ボビン部
100 3Dプリンタ
102 ヘッド駆動部
104 XY駆動部
105 入力部
106 記憶部
200 コンピュータ(制御装置)