(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/26 20060101AFI20240509BHJP
C07C 25/28 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C07C17/26
C07C25/28
(21)【出願番号】P 2020091979
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】香川 巧
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-229243(JP,A)
【文献】特開2009-067726(JP,A)
【文献】特表2009-509937(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106146454(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 25/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される、ペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドと、ビニルハライドとを、有機溶媒中、
ニッケル触媒及び配位子存在下、
または配位子とニッケルとを反応させてなるニッケル錯体存在下、
反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】
で表される、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法
であって、
ニッケル触媒が、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、ビス(トリフルオロ酢酸)ニッケル(II)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸ニッケル(II)、塩化メタリルニッケル(II)ダイマー、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、またはビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)であり、かつ
配位子が、トリ-tert-ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(±)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、(R)-(+)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、(S)-(-)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、トリ(2-フリル)ホスフィン、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2´,4´,6´-トリイソプロピルビフェニル、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、1,1´-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、または1,10-フェナントロリンである、
または、ニッケル錯体が、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジブロミド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジヨージド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジカルボニル、ビス(ジシクロヘキシルフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス[ジシクロヘキシル(フェニル)ホスフィノ](o-トリル)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリシクロホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、[1,1´-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、ブロモ[2,6-ピリジンジイル]ビス(3-メチル-1-イミダゾイル-2-イリデン]ニッケル(II)ブロミド、または[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]トリフェニルホスフィンニッケル(II)ジクロリドである、
方法。
【請求項2】
ペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドが、有機溶媒中、ブロモペンタフルオロベンゼン又はクロロペンタフルオロベンゼンとマグネシウムを反応させて得られるペンタフルオロマグネシウムハライドと、亜鉛ハロゲン化物とを反応させて得られる請求項1に記載の下記一般式(1)で表されるペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドであることを特徴とする、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項3】
ペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドが、有機溶媒中、ブロモペンタフルオロベンゼン又はペンタフルオロヨードベンゼンと亜鉛を反応させて得られる請求項1に記載の下記一般式(1)で表されるペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドであることを特徴とする、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項4】
ニッケル触媒が、0価のニッケル触媒であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【請求項5】
2価のニッケル触媒と配位子の混合溶液にアルキルマグネシウムハライドを添加し調製した0価のニッケル触媒であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【請求項6】
配位子が、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法に関する。2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンは、単独重合又は様々な炭素-炭素二重結合を有する化合物との共重合が可能で、光学材料や電子材料の製造中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来より、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法としては、クロロペンタフルオロベンゼン又はブロモペンタフルオロベンゼンとマグネシウム金属を反応させペンタフルオロフェニルマグネシウムハライドを調製し、アセトアルデヒドを反応の後、脱水反応により調製する方法(例えば特許文献1参照)、ヘキサフルオロベンゼンとビニル-リチウムを反応させ調製する方法(例えば非特許文献1参照)、ペンタフルオロフェニル-イッテリビウムジブロミドと臭化ビニルを塩化コバルト触媒存在下反応させる方法(例えば非特許文献2参照)、ペンタブロモフェニルトリフラートとトリ(n-ブチル)ビニルスズをテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)触媒存在下、反応させる方法(例えば非特許文献3参照)等が知られている。
【0003】
この内、特許文献1に記載の方法は、ブロモペンタフルオロベンゼンとマグネシウム金属を反応させペンタフルオロフェニルマグネシウムハライドを調製し、アセトアルデヒドを反応の後、アルミナ(Al2O3)の存在下、345℃~350℃の温度で、窒素雰囲気下での脱水反応により調製する方法である。この方法は、脱水反応時に高温で実施する必要があるか、又は、工業的に使用が困難な五酸化リン等の強い脱水剤が必要という課題がある。
【0004】
非特許文献1に記載の方法は、ヘキサフルオロベンゼンとビニル-リチウムを、室温下で反応させ調製する方法であり、1段の反応で2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを製造できるが、収率が20%と低く、また高分子のヘキサフルオロベンゼンのビニル誘導体と思われる固形分がかなりの量(considerable quantity)生成してしまうという課題がある。
【0005】
非特許文献2に記載の方法は、収率80%と高収率ではあるが、高価な臭化イッテリビウムが必要という課題がある。さらに非特許文献3に記載の方法は、毒性が高く、環境への負担が高いトリ(n-ブチル)ビニルスズを用いるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】レオ エイ ワール(Leo A. Wall)ら,Jounal of Reseach of the National Bureau of Standards, Section A: Physical and Chemistry(1963)、67A(5),481-97
【文献】シガロフ エイ ビー(Sigalov, A.B)ら,Izvestiya Akademii Nauk SSSR Seriya Khimicheskaya(1983),(7),1692
【文献】カサド アルトゥロ エル(Casado, Arturo L.)ら,Journal of the American Chemical Society(2000),122(48),11771-11782
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術を鑑み、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを経済的にかつ簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを安価かつ簡便な製造方法について、鋭意検討した結果、クロロペンタフルオロベンゼン又はブロモペンタフルオロベンゼンから誘導されるペンタフルオロ-亜鉛ハライドとビニルハライドをニッケル触媒存在下反応させることにより容易に2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1] 下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される、ペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドと、ビニルハライドとを、有機溶媒中、ニッケル触媒及び配位子存在下、反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】
で表される、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法であって、ニッケル触媒が、0価のニッケル触媒、又は、2価のニッケル触媒と配位子の混合溶液にアルキルマグネシウムハライドを添加し調製した0価のニッケル触媒であることを特徴とする2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
[2] 上記のペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドが、有機溶媒中、ブロモペンタフルオロベンゼン又はクロロペンタフルオロベンゼンとマグネシウムを反応させて得られるペンタフルオロマグネシウムハライドと、亜鉛ハロゲン化物とを反応させて得られる上記一般式(1)で表されるペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドである、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法に係る。
[3] 上記のペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドが、有機溶媒中、ブロモペンタフルオロベンゼン又はペンタフルオロヨードベンゼンと亜鉛を反応させて得られる上記一般式(1)で表されるペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドである、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法に係る。
[4] ニッケル触媒が、0価のニッケル触媒であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
[5] 2価のニッケル触媒と配位子の混合溶液にアルキルマグネシウムハライドを添加し調製した0価のニッケル触媒であることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
[6] 配位子が、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンであることを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれかに記載の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの経済的かつ簡便な、より工業的な製造が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドとしては、具体的には例えば、ペンタフルオロフェニル-亜鉛フルオリド、ペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリド、ペンタフルオロフェニル-亜鉛ブロミド、ペンタフルオロフェニル-亜鉛ヨージド等が挙げられる。
これらを製造するには、通常、クロロペンタフルオロベンゼン又はブロモペンタフルオロベンゼンとマグネシウムの反応により得られるペンタフルオロフェニルマグネシウムハライドと、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等の亜鉛ハライドとを、テトラヒドフラン(以下THFと略す)等のエーテル系溶媒中で、0℃~25℃の温度範囲で、1時間~24時間反応させることにより得ることができる。あるいは、、ブロモペンタフルオロベンゼンやペンタフルオロヨードベンゼンと、亜鉛粉末とを、THF等の有機溶媒中で、0℃~60℃の温度範囲で、1時間~24時間反応させることにより得ることができる。
【0013】
本発明に適用可能なビニルハライドとしては、具体的には例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル等が挙げられ、反応に具するペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライド1.0モルに対して、1.0モル~1.5モル使用すると良い。
【0014】
本発明に適用可能なニッケル触媒としては、具体的には例えば、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、ビス(トリフルオロ酢酸)ニッケル(II)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸ニッケル(II)、塩化メタリルニッケル(II)ダイマー、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)等が挙げられ、反応に具するペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライド1.0モルに対して、0.001モル~0.300モル量使用すると良い。
【0015】
本発明に適用可能な配位子としては、具体的には例えば、トリ-tert-ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(±)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、(R)-(+)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、(S)-(-)-2,2´-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1´-ビナフチル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、トリ(2-フリル)ホスフィン、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2´,4´,6´-トリイソプロピルビフェニル、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、1,1´-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,10-フェナントロリン等が挙げられる。
これらの配位子を選択する際、反応させる基質、反応の種類等により好ましい配位子が変わることがあるため、目的に応じてスクリーニングするとよい。
また、用いられる配位子の使用量としては、使用するパラジウム触媒1モルに対して、配位子中に含有されるリン原子又は窒素原子の個数換算で、1.0モル~3.0モル使用すると良い。
【0016】
また、これら配位子等とニッケルとをあらかじめ反応させたニッケル錯体やさらにそのニッケル錯体の誘導体として知られている、具体的には例えば、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジブロミド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジヨージド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジカルボニル、ビス(ジシクロヘキシルフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス[ジシクロヘキシル(フェニル)ホスフィノ](o-トリル)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリシクロホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、[1,1´-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、ブロモ[2,6-ピリジンジイル]ビス(3-メチル-1-イミダゾイル-2-イリデン]ニッケル(II)ブロミド、[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]トリフェニルホスフィンニッケル(II)ジクロリド等を使用しても良く、これらニッケル錯体を使用する際は、反応に具するペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライド1.0モルに対して、0.001モル~0.300モル量使用すると良い。
【0017】
本発明の実施に当たって、2価のニッケル触媒を使用する場合は、あらかじめ、2価のニッケル触媒と配位子の混合溶液に、所定量のアルキルマグネシウムハライドを添加し、還元し、0価のニッケル触媒を発生させた後に使用する。
本発明の実施に当たって、2価のニッケル触媒を0価に還元する際に、適用可能なアルキルマグネシウムハライドとしては、具体的には例えば、メチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムヨージド、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムヨージド、n-プロピルマグネシウムクロリド、n-プロピルマグネシウムブロミド、n-プロピルマグネシウムヨージド、iso-プロピルマグネシウムクロリド、iso-プロピルマグネシウムブロミド、iso-プロピルマグネシウムヨージド、n-ブチルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムブロミド、n-ブチルマグネシウムヨージド、tert-ブチルマグネシウムクロリド、tert-ブチルマグネシウムブロミド、tert-ブチルマグネシウムヨージド等が挙げられ、反応に具する2価のニッケル触媒1モルに対して、2.0モル~2.5モル量使用すると良い。
【0018】
本発明の実施に当たって、必要に応じて反応を促進する目的で、塩化リチウム、N-メチルイミダゾール(以下、NMIと略す)、N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン等の副資材を添加してもよく、反応に使用するニッケル触媒1.0モルに対して、0.1モル~3.0モル使用すると良い。
【0019】
本発明に適用可能な溶剤としては、反応に不活性なものであれば特に規定はないが、好ましくは、THF、THFとN-メチルピリリドン(以下、NMPと略す)の混合溶剤、THFとジオキサンの混合溶剤等で、反応に具するペンタフルオロフェニル-亜鉛ハライドの重量に対して、4重量倍量~100重量倍量使用すると良い。混合溶剤を用いる場合のTHFと他の溶剤の量比は特に規定はないが、THF/他溶剤の重量比が、10/1~1/1の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の反応温度及び時間は、使用するビニルハライド、ニッケル触媒、配位子及び溶剤により異なるが、通常、30℃~90℃の温度範囲で、5時間~48時間反応を行うことにより、反応は完結する。
【0021】
本発明の製造後の後処理としては、周知の方法で実施可能で、水を添加しニッケル等を析出させ、ろ別した後、濃縮、蒸留することにより、目的物の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを得ることが可能である。目的物の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンは自己重合性の化合物のため、反応後の後処理操作時及び保管時に、ジブチルヒドロキシトルエンや4-tert-ブチルカテコール等の重合禁止剤を0.01重量%~1.00重量%添加しても良い。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
なお、分析には下記機器を使用した。
1H-NMR (400 MHz), 19F-NMR (376 MHz), 13C-NMR (100 MHz):ブルカー製アバンス400(Buruker Avance 400)。
GCMS(EI):島津製作所製GCMS-QP2010Plus。
【0024】
参考例1 ペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドの調製(調製法1)
マグネット撹拌子を備えた50mLのナス型フラスコに、マグネシウム(0.236g,9.718mmol)、ヨウ素(0.005g,0.020mmol)を入れ、窒素置換した後、THF(20mL)を添加し、室温下、1時間撹拌した。
次いで、これを氷浴上、5℃に冷却し、ブロモペンタフルオロベンゼン(2.000g,8.098mmol)を1.5時間かけて滴下した後、室温下、さらに1時間撹拌し、ペンタフルオロフェニル-マグネシウムブロミドを調製した。
マグネット撹拌子を備えた100mLのナス型フラスコを、窒素置換下後、塩化亜鉛(1.546g,11.34mmol)及びTHF(20mL)を仕込み、氷浴上、5℃に冷却した後、これに先に調製したペンタフルオロフェニル-マグネシウムブロミドのTHF溶液を添加、さらに室温下、3時間撹拌し、目的物のペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドのTHF溶液を得た。
【0025】
得られたペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドのTHF溶液を19F-NMRで測定したところ、ペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリド(major)と平衡関係で生成するビス(ペンタフルオロフェニル)-亜鉛(minor)のピークが観測され、(major)/(minor)比は、1.00/0.23であった。
19F-NMR(CDCl3,376MHz)δ(major)-117.66--117.73(m,2F),-157.16--157.51(m,1F),-162.46--162.51(m,2F),(minor)-118.30--118.35(m,2F),-157.16(m,1F),-162.46--162.51(m,2F)。
【0026】
参考例2 ペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドの調製(調製法2)
マグネット撹拌子を備えた50mLのナス型フラスコに、マグネシウム(0.236g,9.718mmol)、ヨウ素(0.005g,0.020mmol)を入れ、窒素置換した後、THF(20mL)を添加し、室温下、1時間撹拌した。
次いで、これを氷浴上、5℃に冷却し、クロロペンタフルオロベンゼン(1.640g,8.098mmol)を1.5時間かけて滴下した後、室温下、さらに1時間撹拌し、ペンタフルオロフェニル-マグネシウムクロリドを調製した。
マグネット撹拌子を備えた100mLのナス型フラスコを、窒素置換下後、塩化亜鉛(1.546g,11.34mmol)及びTHF(20mL)を仕込み、氷浴上、5℃に冷却した後、これに先に調製したペンタフルオロフェニル-マグネシウムクロリドのTHF溶液を添加、さらに室温下、3時間撹拌し、目的物のペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドのTHF溶液を得た。
【0027】
得られたペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリドのTHF溶液を19F-NMRで測定したところ、ペンタフルオロフェニル-亜鉛クロリド(major)と平衡関係で生成するビス(ペンタフルオロフェニル)-亜鉛(minor)のピークが観測され、(major)/(minor)比は、1.00/0.25であった。
19F-NMR(CDCl3,376MHz)δ(major)-117.66--117.73(m,2F),-157.16--157.51(m,1F),-162.46--162.51(m,2F),(minor)-118.30--118.35(m,2F),-157.16(m,1F),-162.46--162.51(m,2F)。
【0028】
参考例3 ペンタフルオロフェニル-亜鉛ブロミドの調製(調製法3)
マグネット撹拌子を備えた50mLのナス型フラスコを、窒素置換した後、亜鉛(0.556g,8.504mmol)、THF(20mL)及びトリメチルシリルクロリド(10μL)を添加し、室温下、30分撹拌した。
次いで、ブロモペンタフルオロベンゼン(2.000g,8.098mmol)を同温度で添加した後、40℃で4時間反応を行い、目的物のペンタフルオロフェニル-亜鉛ブロミドのTHF溶液を得た。
【0029】
得られたペンタフルオロフェニル-亜鉛ブロミドのTHF溶液を19F-NMRで測定したところ、ペンタフルオロフェニル-亜鉛ブロミド(major)と平衡関係で生成するビス(ペンタフルオロフェニル)-亜鉛(minor)のピークが観測され、(major)/(minor)比は、1.00/0.35であった。
19F-NMR(CDCl3,376MHz)δ(major)-117.83--117.97(m,2F),-156.57(t,1F,J=19.2Hz),-162.06--162.19(m,2F),(minor)-118.31--118.42(m,2F),-157.44(t,1F,19.2Hz),-162.43--162.48(m,2F)。
【0030】
実施例1 2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの調製
マグネット撹拌子を備えた100mLのナス型フラスコに、塩化ニッケル(II)(0.105g,0.810mmol)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(0.334g,0.810mmol)を仕込み、窒素置換した後、THF(30mL)を添加し、室温下、30分攪拌した。次いでこれに、エチルマグネシウムブロミド(1.0M-THF溶液,1.78mL,1.78mmol)を添加、10分撹拌し、0価のニッケル触媒溶液を調製した。
別のマグネット撹拌子を備えた100mLのナス型フラスコで、参考例1と同じ方法で、ブロモペンタフルオロベンゼン(2.000g,8.098mmol)より調製した、ペンタフルオロフェニル亜鉛クロリドのTHF(40mL)溶液に、室温下、塩化ビニル(0.607g,9.718mmol)を供給し、吸収させた。次いで、同混合物を60℃に加熱した後、先に調製した0価のニッケル触媒溶液を30分かけて添加し、同温度で20時間反応を行った。
反応終了後、水(2mL)を添加し沈殿物を析出させ、有機層を分離の後、さらに沈殿物をイソプロピルエーテル(10mL)で2回洗浄した。
【0031】
得られた有機層は合わせて、ベンゾトリフルオリドを内部標準物質として用いた19F-NMRでの分析の結果、目的物の2,3,4,5-ペンタフルオロスチレン(1.163g,5.992mmol,収率74%)が生成していた。
1H-NMR(CDCl3,400MHz)δ6.62(dd,1H,18.0,12.0Hz),6.07(d,1H,18.0Hz),5.71(d,1H,12.0Hz)ppm。
19F-NMR(CDCl3,376MHz)δ-143.98(dd,2F,21.1,7.9Hz),-156.72(t,1F,20.7Hz),-163.67--163.80(m、2F)ppm。
13C-NMR(100MHz,CDCl3)δ145.20(dm,248.9Hz),140.40(dm,244.5Hz),137.93(dm,259.8Hz),123.67(dt,5.4,2.3Hz),121.58(d,2.0Hz),112.46(dt,9.6,4.2Hz)ppm。
GCMS(EI,m/z):194(M+)。
【0032】
実施例2 2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの調製
実施例1と同じ反応装置を用い、参考例3と同じ方法で、ブロモペンタフルオロベンゼン(2.000g,8.098mmol)より調製した、ペンタフルオロフェニル亜鉛ブロミドのTHF(20mL)溶液を用い、60℃で30時間反応を行った以外は実施例1と同じ操作を行い、目的物の2,3,4,5-ペンタフルオロスチレン(0.975g,5.023mmol,収率62%)を得た。
【0033】
実施例3~10 2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンの調製
実施例1と同じ反応装置を用い、表1中に示した条件下、反応を行った。結果を表1中に示した。
なお、実施例3~実施例8については、ニッケル触媒1モルに対して2.2モル量のエチルマグネシウムブロミド(1M-THF溶液)を用いて0価のニッケル触媒を発生させ、実施例9~実施例12については、ニッケル触媒1モルに対して2.1モル量のiso-プロピルマグネシウムブロミド(1M-THF溶液)を用いて0価のニッケル触媒を発生させた。また、実施例13~実施例15は、0価のニッケル触媒のため、そのまま用いた。
表1中の溶剤量には、アルキルマグネシウムハライド由来の量は考慮していない。
【0034】
【0035】
1)
ニッケル原子とリン原子のモル比を示す。
2)ブロモペンタフルオロベンゼン(1モル)に対する触媒のモル量を示す。
3)ブロモペンタフルオロベンゼン(1モル)に対するハロゲン化ビニルのモル量を示す。
4)1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンの略号を示す。
5)トリフェニルホスフィンの略号を示す。
6)[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリドの略号を示す。
7)トリシクロヘキシルホスフィンの略号を示す。
8)1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタンの略号を示す。
9)トリシクロペンチルホスフィンの略号を示す。
10)4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンの略号を示す。
11)2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2´,4´,6´-トリイソプロピルビフェニルの略号を示す。
12)[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリドの略号を示す。
13)1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンの略号を示す。
14)ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)の略号を示す。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法で得られる2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンは、光学材料、電子材料等の共重合用モノマーとして有用である。