(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】木製部材と鋼製部材との接合構造および鋼製接合具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20240509BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
E04B1/30 Z
E04B1/58 508T
(21)【出願番号】P 2020105453
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】倉田 高志
(72)【発明者】
【氏名】原田 公明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 美和
(72)【発明者】
【氏名】角野 大介
(72)【発明者】
【氏名】大山 翔也
(72)【発明者】
【氏名】重松 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】杜 凌子
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-068081(JP,A)
【文献】特開2010-285780(JP,A)
【文献】特開2018-184743(JP,A)
【文献】特開平05-179703(JP,A)
【文献】特開平06-017507(JP,A)
【文献】特開2000-129778(JP,A)
【文献】特開2014-214497(JP,A)
【文献】特開2011-032677(JP,A)
【文献】特開2005-155026(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0134294(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/18
E04B 1/24
E04B 1/30
E04B 1/58
E04C 3/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材に固着された鋼製接合具を介して木製部材が接合される木製部材と鋼製部材との接合構造であって、
前記鋼製接合具は、基端部が前記鋼製部材に固着される
第1部材と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される
第2部材とを有し、
前記
第1部材の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成され、前記鋼製部材および前記木製部材にかかる地震エネルギーが前記
第1部材で吸収されることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項2】
鋼製部材に固着された鋼製接合具を介して木製部材が接合される木製部材と鋼製部材との接合構造であって、
前記鋼製接合具は、基端部が前記鋼製部材に固着される
第1部材と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される
第2部材とを有し、
前記第1部材が、第1ウェブ部と、第1フランジ部と、を有し、
前記第2部材が、第2ウェブ部と、少なくとも上下いずれかの第2フランジ部と、を有し、
前記
第1部材の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成され、前記鋼製部材および前記木製部材にかかる地震エネルギーが前記
第1部材で吸収されることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項3】
鋼製部材に固着された鋼製接合具を介して木製部材が接合される木製部材と鋼製部材との接合構造であって、
前記鋼製接合具は、基端部が前記鋼製部材に固着される
第1部材と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される
第2部材とを有し、
前記第1部材の端縁と、前記第2部材の端縁と、が溶接され、
前記
第1部材の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成され、前記鋼製部材および前記木製部材にかかる地震エネルギーが前記
第1部材で吸収されることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
少なくとも前記
第1部材が、低降伏点材料で形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項5】
請求項1
から請求項4のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記
第2部材が、前記木製部材に形成されたスリットに挿入される第2ウェブ部と、前記木製部材の表面に沿って固定される少なくとも上下いずれかの第2フランジ部と、を有し、
前記
第1部材が、前記第2ウェブ部に連結される第1ウェブ部と、前記第2フランジ部に連結される第1フランジ部と、を有することを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項6】
請求項1
から請求項4のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記
第2部材が、前記木製部材に形成されたスリットに挿入される第2ウェブ部と、前記木製部材の表面に沿って固定される少なくとも上下いずれかの第2フランジ部と、を有し、
前記
第1部材が、前記第2ウェブ部の延長上に延びる第1ウェブ部と、前記第2フランジ部に対して厚み方向にずれて配置されかつ前記第2フランジ部と平行方向に延びる第1フランジ部と、を有することを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項7】
請求項
5または請求項
6に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
片面に前記第2ウェブ部および前記第2フランジ部が接合されかつ反対面に前記第1ウェブ部および前記第1フランジ部が接合されたエンドプレートを有することを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項8】
請求項
5から請求項
7のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第1フランジ部の厚みが前記第2フランジ部よりも薄く形成され、または、
前記第1ウェブ部の厚みが前記第2ウェブ部よりも薄く形成され、または、
前記第1フランジ部の厚みが前記第2フランジ部よりも薄く形成されかつ前記第1ウェブ部の厚みが前記第2ウェブ部よりも薄く形成され
ていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項9】
請求項
5から請求項
8のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第1フランジ部の幅が前記第2フランジ部よりも狭く形成され、または、
前記第1ウェブ部の幅が前記第2ウェブ部よりも狭く形成され、または、
前記第1フランジ部の幅が前記第2フランジ部よりも狭く形成されかつ前記第1ウェブ部の幅が前記第2ウェブ部よりも狭く形成され
ていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項10】
請求項
5から請求項
9のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第1ウェブ部が、凹状または孔状の強度緩和部を有することを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項11】
請求項
5から請求項
10のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第1フランジ部が、側縁に切欠き部を有することを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項12】
請求項
5から請求項
11のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第2フランジ部は、前記木製部材の上面に沿って固定される第2上フランジ部と、前記木製部材の下面に沿って固定される第2下フランジ部と、を含み、
前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部との隙間、および前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部との隙間の少なくとも一方に、スペーサが介装されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項13】
請求項
12に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記スペーサが、前記隙間に圧入される楔状の部材であることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項14】
請求項
12に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記スペーサが、前記隙間に充填されて硬化する充填剤であることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項15】
請求項
5から請求項
11のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記第2フランジ部は、前記木製部材の上面に沿って固定される第2上フランジ部と、前記木製部材の下面に沿って固定される第2下フランジ部と、を含み、
前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部とが複数の木ねじまたは接着剤で接合され、
前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部とが複数の木ねじまたは接着剤で接合され、
前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部との接合構造と、前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部との接合構造とが、上下対称に形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項16】
請求項
5から請求項
11のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記木製部材と前記第2ウェブ部とが、前記第2ウェブ部およびその両側の前記木製部材を貫通する1個以上のドリフトピンで接合され、
前記木製部材、前記第2ウェブ部、および複数の前記ドリフトピンは、上下対称に形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項17】
請求項
15または請求項
16に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記
第1部材は、前記
第2部材と同じ対称面に対して上下対称に形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項18】
請求項1から請求項
17のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記鋼製接合具は、前記
第1部材および前記
第2部材が、それぞれH形鋼またはT形鋼を用いた第1鋼材および第2鋼材で形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項19】
請求項1から請求項
18のいずれか一項に記載の木製部材と鋼製部材との接合構造において、
前記鋼製部材は鋼管柱であり、
前記木製部材は木製梁であり、
前記木製梁で支持される床部材は、前記鋼管柱との間に間隔が形成されていることを特徴とする木製部材と鋼製部材との接合構造。
【請求項20】
木製部材と鋼製部材との接合構造に用いられる鋼製接合具であって、
基端部が前記鋼製部材に固着される
第1部材と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される
第2部材とを有し、
少なくとも前記
第1部材の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成されていることを特徴とする鋼製接合具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製部材と鋼製部材との接合構造および鋼製接合具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツホール、イベントホール等の大規模空間構造物では、屋根架構として梁部材を三角格子状または四角格子状に連結したラチスシェル構造が採用されている。近年のラチスシェル構造では、木製部材の有する美観性、軽量性等が考慮されて、梁部材として木製部材が採用されている。
梁部材として木製部材を使用する場合、従来の鋼製部材を使用する場合に比べ、接合部の剛性および耐力が不足し、ラチスシェル構造が座屈したり、変形したりし易い。
そこで、木製部材と鋼製ジョイントとの接合部に、ウェブ部の上下端部の少なくともいずれかにフランジ部を形成した鋼製金具を用い、接合部の剛性および耐力を向上させる構造が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1においては、ウェブ部およびフランジ部を有する鋼製部材としてT型あるいはH型の鋼材を用い、鋼製部材のウェブ部およびフランジ部に木製部材を沿わせるとともに、ウェブ部およびフランジ部とともに木製部材を貫通するラグスクリューや締結ボルトが用いられている。
木製部材と鋼製部材との接合構造としては、特許文献1に記載のもの以外にも、様々な構造が用いられている。例えば、木製部材における端部の中央に凹溝部を設け、これにT型金具のプレート部を挟み込んでボルトにて固定する構造がある(特許文献2参照)。
【0004】
一方、前述のような大規模空間構造物では、地震の際に構造体に加わる力や揺れを減らすための免震・制震構造が注目されている。例えば、鋼製柱梁の枠組みにK型あるいはV型のブレース架構を設置した構造において、ブレース架構と一体にオイルダンパーを設置し、制震性能を確保するものがある(特許文献3参照)。
特許文献1の構造では、鋼製柱部近傍においてフランジ部の幅が減少するドッグボーン形状に成形し、鋼製金具と木製部材との接合部をドッグボーンから離すことで、木材の接合部が破壊する前に接合部の鋼製金具が塑性化するようにし、鋼製金具に十分な靭性を付与することがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-35255号公報
【文献】特開平8-60742号公報
【文献】特開平11-172959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1の接合構造では、鋼製部材と木製部材との接合強度や、木製部材の特性のばらつき等から、信頼性のある設計ができないという問題があった。さらに、特許文献1の
図7の構造では、鋼製部材と木製部材の境界が明確でない上に、木製部材の端部による応力集中を考慮する必要があり、設計が複雑であるという課題があった。
また、地震などのエネルギーの吸収性能を高めようとすると、前述した特許文献3のようなエネルギー吸収ダンパーを別途設置するなど、構造が複雑でコストが上昇するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、エネルギー吸収性能が高く、かつ構造が簡単で設計が容易な木製部材と鋼製部材との接合構造および鋼製接合具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鋼製部材に固着された鋼製接合具を介して木製部材が接合される木製部材と鋼製部材との接合構造であって、前記鋼製接合具は、基端部が前記鋼製部材に固着される第1部分と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される第2部分とを有し、前記第1部分の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成され、前記鋼製部材および前記木製部材にかかる地震エネルギーが前記第1部分で吸収されることを特徴とする。
このような本発明では、基端部が鋼製部材に固着される第1部分の降伏強度を、木製部材および鋼製部材よりも低くすることで、鋼製接合具の第1部分が強度低下部として、木製部材および鋼製部材に先行して塑性化するようにできる。これにより、接合構造にかかる地震エネルギーは、専ら第1部分を塑性変形させて第1部分に吸収され、第2部分および木製部材あるいは鋼製部材における破壊を抑制できる。
本発明において、第1部分は鋼製接合具の一部として形成され、鋼製接合具が木製部材および鋼製部材の間に介在する一部材として設計が容易であるうえ、鋼製であることで塑性変形時にも十分な靱性が得られ、かつ降伏強度にばらつき等がなく、これらの点でも設計が容易である。そして、鋼製接合具の第1部分において十分なエネルギー吸収性能を確保できる構造にすることで、別途のエネルギー吸収ダンパーなどを設ける必要を無くすことができる。
これにより、エネルギー吸収性能が高く、かつ構造が簡単で設計が容易な木製部材と鋼製部材との接合構造を提供することができる。
【0009】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、少なくとも前記第1部分が、低降伏点材料で形成されていることが好ましい。
本発明において、低降伏点材料としては、例えば建築構造用低降伏点鋼材LY225などが利用できる。
このような本発明では、第1部分が低降伏点材料で形成されることで、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
【0010】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第2部分が、前記木製部材に形成されたスリットに挿入される第2ウェブ部と、前記木製部材の表面に沿って固定される少なくとも上下いずれかの第2フランジ部と、を有し、前記第1部分が、前記第2ウェブ部に連結される第1ウェブ部と、前記第2フランジ部に連結される第1フランジ部と、を有することが好ましい。
このような本発明では、第1部分および第2部分がそれぞれ互いに連続するウェブ部とフランジ部とを有し、第2部分のウェブ部およびフランジ部が木製部材のスリットおよび表面に接続されることで確実な荷重伝達が可能である。
【0011】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第2部分が、前記木製部材に形成されたスリットに挿入される第2ウェブ部と、前記木製部材の表面に沿って固定される少なくとも上下いずれかの第2フランジ部と、を有し、前記第1部分が、前記第2ウェブ部の延長上に延びる第1ウェブ部と、前記第2フランジ部に対して厚み方向にずれて配置されかつ前記第2フランジ部と平行方向に延びる第1フランジ部と、を有するとしてもよい。
このような本発明では、第1フランジ部と第2フランジ部とを厚み方向(高さ方向)にずらすことで、第1ウェブの高さを第2ウェブよりも小さくでき、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
【0012】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、片面に前記第2ウェブ部および前記第2フランジ部が接合されかつ反対面に前記第1ウェブ部および前記第1フランジ部が接合されたエンドプレートを有することが好ましい。
このような本発明では、第1ウェブと第2ウェブと、および第1フランジと第2フランジとが、それぞれエンドプレートを介して接合され、第1フランジを第2フランジの厚み方向に大きくずらして第2フランジの延長線上から外れても、エンドプレートを介して第1フランジと第2フランジとの接続を維持し、荷重伝達を確保することができる。
【0013】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第1フランジ部の厚みが前記第2フランジ部よりも薄く形成され、または、前記第1ウェブ部の厚みが前記第2ウェブ部よりも薄く形成され、または、前記第1フランジ部の厚みが前記第2フランジ部よりも薄く形成されかつ前記第1ウェブ部の厚みが前記第2ウェブ部よりも薄く形成されていることが好ましい。
このような本発明では、第1部分の各部が第2部分の各部より薄く形成されることで、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
【0014】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第1フランジ部の幅が前記第2フランジ部よりも狭く形成され、または、前記第1ウェブ部の幅が前記第2ウェブ部よりも狭く形成され、または、前記第1フランジ部の幅が前記第2フランジ部よりも狭く形成されかつ前記第1ウェブ部の幅が前記第2ウェブ部よりも狭く形成されていることが好ましい。
このような本発明では、第1部分の各部が第2部分の各部より狭く形成されることで、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
【0015】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第1ウェブ部が、凹状または孔状の強度緩和部を有することが好ましい。
本発明において、凹状の強度緩和部としては、第1ウェブ部の表面に打刻、切削、研磨などにより凹み部分を形成したものが利用できる。孔状の強度緩和部としては、第1ウェブ部の中間に表裏を貫通する開口部を形成したものが利用できる。これらの強度緩和部の第1ウェブ部における数および配置は適宜選択できる。凹状の強度緩和部は、第1ウェブ部の片面でもよく、両面に形成してもよい。
このような本発明では、第1ウェブ部に凹状または孔状の強度緩和部が形成されることで、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。強度緩和部は、第1ウェブ部の中間部に形成され、第1ウェブ部の外周形状を変化させないため、第1部分の降伏強度を低く設定しつつ、鋼製接合具の剛性および耐力に対する影響を小さくできる。
【0016】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第1フランジ部が、側縁に切欠き部を有することが好ましい。
このような本発明では、第1フランジ部の側縁に切欠き部が形成されることで、第1フランジ部の中間に幅狭部分が形成され、第1部分の降伏強度を低く設定することが容易にできる。第1フランジ部の幅狭部分は、従来のドッグボーン形状に相当するが、前述した本発明の他の構成によって第1部分の降伏強度が低く設定されており、鋼製接合具の剛性および耐力に対する幅狭部分の影響を小さくできる。
【0017】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第2フランジ部は、前記木製部材の上面に沿って固定される第2上フランジ部と、前記木製部材の下面に沿って固定される第2下フランジ部と、を含み、前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部との隙間、および前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部との隙間の少なくとも一方に、スペーサが介装されていることが好ましい。
このような本発明では、木製部材の上面と第2上フランジ部との間、および木製部材の下面と第2下フランジ部との間に隙間が生じても、これをスペーサで埋めることができ、第2部分と木質部材との間のがたつきなどを確実に解消できる。
【0018】
すなわち、本発明の接合構造において、第2部分が上下にフランジ部を有する場合(第2上フランジ部と第2下フランジ部がある場合)、各々の上下間隔の間に木質部材が導入される。この際、木質部材は、その性質上、金属材料のような仕上げ精度が得られないほか、温度や湿度による狂いなども生じ易い。このため、上下のフランジ部の間に木質部材を円滑に導入するためには、木質部材の上下寸法を上下のフランジ部の間隔寸法よりも小さく形成しておく必要がある。その結果、上下のフランジ部と導入された木質部材との間には間隔の発生が避けられない。これに対し、上下のフランジ部と導入された木質部材との間にスペーサを介装することで、発生した間隔を確実に埋めることができる。
【0019】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記スペーサが、前記隙間に圧入される楔状の部材であることが好ましい。
本発明において、楔状のスペーサとしては、木製の部材あるいは金属製の部材が利用でき、圧入にあたってはハンマーによる叩き込みなどを利用できる。スペーサは、隙間に対して複数を配列してもよい。
このような本発明では、第2上フランジ部あるいは第2下フランジ部と木質部材との隙間に楔状のスペーサを圧入するため、隙間の解消が確実に行える。また、スペーサを圧入するため、第2上フランジ部と木質部材との間および第2下フランジ部と木質部材との間にそれぞれ隙間がある場合でも、いずれか一方にスペーサを圧入することで、両方の隙間を解消することができる。
【0020】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記スペーサが、前記隙間に充填されて硬化する充填剤であることが好ましい。
本発明において、隙間に充填されて硬化する充填剤としては、二液混合硬化型のエポキシ樹脂や、光硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂など、硬化時の強度が高く、肉持ちのよい材料が好ましい。
このような本発明では、第2上フランジ部あるいは第2下フランジ部と木質部材との隙間に充填剤を充填するため、隙間の解消が確実に行える。また、隙間に対して充填剤を充填するだけなので、作業の静粛性が高く、比較的容易に行うことができる。
【0021】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第2フランジ部は、前記木製部材の上面に沿って固定される第2上フランジ部と、前記木製部材の下面に沿って固定される第2下フランジ部と、を含み、前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部とが複数の木ねじまたは接着剤で接合され、前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部とが複数の木ねじまたは接着剤で接合され、前記木製部材の上面と前記第2上フランジ部との接合構造と、前記木製部材の下面と前記第2下フランジ部との接合構造とが、上下対称に形成されていることが好ましい。
このような本発明では、それぞれ木製部材と第2部分との接合が確実に行えるとともに、接合構造が上下対称に形成されることで、接合部の剛性および耐力を確保しつつ、接合部の塑性化の効果を高められる。
さらに、鋼製部材から木製部材に至る接合構造が上下対称となることで、曲げ方向による特性が上下同様となり、設計段階での剛性・耐力評価の際に非対称性を考慮する必要を解消でき、設計を容易にできる。
【0022】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記木製部材と前記第2ウェブ部とが、前記第2ウェブ部およびその両側の前記木製部材を貫通する1個以上のドリフトピンで接合され、前記木製部材、前記第2ウェブ部、および複数の前記ドリフトピンは、上下対称に形成されていることが好ましい。
このような本発明では、木製部材と第2部分との接合が確実に行えるとともに、接合構造が上下対称に形成されることで、接合部の剛性および耐力を確保しつつ、接合部の塑性化の効果を高められる。
さらに、鋼製部材から木製部材に至る接合構造が上下対称となることで、曲げ方向による特性が上下同様となり、設計段階での剛性・耐力評価の際に非対称性を考慮する必要を解消でき、設計を容易にできる。
【0023】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記第1部分は、前記第2部分と同じ対称面に対して上下対称に形成されていることが好ましい。
このような本発明では、木製部材と第2部分との接合が確実に行えるとともに、接合構造が上下対称に形成されることで、接合部の剛性および耐力を確保しつつ、接合部の塑性化の効果を高められる。
さらに、鋼製部材から木製部材に至る接合構造が上下対称となることで、曲げ方向による特性が上下同様となり、設計段階での剛性・耐力評価の際に非対称性を考慮する必要を解消でき、設計を容易にできる。
【0024】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記鋼製接合具は、前記第1部分および前記第2部分が、それぞれH形鋼またはT形鋼を用いた第1鋼材および第2鋼材で形成されていることが好ましい。
このような本発明では、第1部分に必要な条件(前述した材質、厚み、および形状など)に応じた第1鋼材と、第2部分に必要な条件(同前)に応じた第2鋼材とを準備し、これらを溶接することで、所期の第1部分および第2部分を有する鋼製接合具が簡単に製造できる。これらの第1鋼材および第2鋼材は、それぞれ第1部分および第2部分としての条件に合致するものであれば、市販の型鋼材の規格品を利用でき、調達が容易かつコスト低減も図れる。
【0025】
本発明の木製部材と鋼製部材との接合構造において、前記鋼製部材は鋼管柱であり、前記木製部材は木製梁であり、前記木製梁で支持される床部材は、前記鋼管柱との間に間隔が形成されていることが好ましい。
このような本発明では、床部材に荷重がかかった際に、かかった荷重は専ら木製梁で負担され、床部材から鋼管柱への直接的な伝達を防止できる。これにより、降伏強度を低く設定した第1部分に荷重が確実に伝達され、鋼製接合具を木製部材に先行して塑性化させることができる。
【0026】
本発明は、木製部材と鋼製部材との接合構造に用いられる鋼製接合具であって、基端部が前記鋼製部材に固着される第1部分と、先端部から所定長さにわたって前記木製部材に接合される第2部分とを有し、少なくとも前記第1部分の降伏強度が、前記鋼製部材および前記木製部材よりも低く形成されていることを特徴とする。
このような本発明の鋼製接合具によれば、前述した本発明の接合構造で説明した通りの効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、エネルギー吸収性能が高く、かつ構造が簡単で設計が容易な木製部材と鋼製部材との接合構造および鋼製接合具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図4】前記第1実施形態の鋼製接合具を示す斜視図。
【
図5】本発明の第2実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図7】本発明の第3実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図9】本発明の第4実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図10】本発明の第5実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図11】本発明の第6実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図12】前記第6実施形態の接合構造を示す平面図。
【
図13】前記第6実施形態の鋼製接合具の履歴特性を示すグラフ。
【
図14】本発明の第7実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図15】前記第7実施形態の接合構造を示す平面図。
【
図16】本発明の第8実施形態の接合構造を示す側面図。
【
図17】本発明の第9実施形態の接合構造を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から
図4の各図には、本発明の第1実施形態が示されている。
接合構造1は、鋼製部材である鋼管柱10と、木製部材である木製梁20とを接合するものである。これらの鋼管柱10と木製梁20とは、鋼管柱10に固着された鋼製接合具30を介して接合されている。
【0030】
鋼管柱10は、
図1に示すように、上下に接合された上側柱11と下側柱12とを有し、これらの間に柱梁接合部13が配置されている。これらの上側柱11、下側柱12、柱梁接合部13は、それぞれ断面四角形の鋼管で形成されている。上側柱11と柱梁接合部13との間にはダイヤフラム14が設置され、下側柱12と柱梁接合部13との間にはダイヤフラム15が設置されている。ダイヤフラム14、15は鋼板であり、各々の表面には上側柱11、下側柱12、柱梁接合部13の端部が全周溶接されている。
【0031】
木製梁20は、
図2および
図3に示すように、一対の積層材21を平行に並べ、各々の間に矩形板状のスペーサ22を挟み込んだうえ、スペーサ22の中央孔を通るボルト23で締結して一体に形成したものである。
【0032】
図1および
図2において、一対の積層材21の間には、スペーサ22の厚み分のスリット24が形成される。
このスリット24には、木製梁20と鋼製接合具30とを接合する際に、後述する鋼製接合具30の第2ウェブ部321を挿入し、一対の積層材21とともにボルト23で締結することが可能である。
【0033】
図1および
図3において、木製梁20の下面203には、所定長さの区間にわたって、平坦な凹部25が形成されている。凹部25は、木製梁20の下面203を所定の厚み分切削することで形成できる。
この凹部25により、上面202から凹部25までの高さ寸法は、上面202から下面203までの高さ寸法(元の積層材21の高さ寸法)よりも小さくなっている。
【0034】
鋼製接合具30は、
図1および
図2に示すように、基端部が鋼製部材である鋼管柱10に固着される第1部分301と、先端部から所定長さにわたって木製部材である木製梁20に接合される第2部分302とを有する。
【0035】
図4に示すように、鋼製接合具30は、比較的短いH形鋼を用いた第1鋼材31と、比較的長いH形鋼を用いた第2鋼材32を溶接で接合したものである。そして、第1鋼材31により鋼製接合具30の第1部分301が形成され、第2鋼材32により鋼製接合具30の第2部分302が形成されている。
【0036】
第1鋼材31は、第1ウェブ部311を有するとともに、その上下に第1上フランジ部312および第1下フランジ部313を有する。
第1ウェブ部311は、鋼管柱10側の端縁を柱梁接合部13に溶接される。第1上フランジ部312は、鋼管柱10側の端縁をダイヤフラム14に溶接される。第1下フランジ部313は、鋼管柱10側の端縁をダイヤフラム14に溶接される。
【0037】
第1鋼材31は、第1ウェブ部311の端縁が、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の端縁よりも突出した形状とされている。この突出長さは、ダイヤフラム14,15の外周が柱梁接合部13より外側に張り出す寸法に合わせられている。
これにより、第1鋼材31を鋼管柱10に固着する際に、第1ウェブ部311と柱梁接合部13とが密接しつつ、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313とダイヤフラム14,15が密接し、各々の溶接を適切に行うことができる。
第1鋼材31は、垂直な軸に対して対称形に形成されており、鋼管柱10側および第2鋼材32側の両端部が、ともに第1ウェブ部311が突出した形状とされている。
【0038】
第2鋼材32は、第2ウェブ部321を有するとともに、その上下に第2上フランジ部322および第2下フランジ部323を有する。
第2ウェブ部321は、第1鋼材31側の端縁を第1ウェブ部311の端縁に溶接される。第2上フランジ部322は、第1鋼材31側の端縁を第1上フランジ部312の端縁に溶接される。第2下フランジ部323は、第1鋼材31側の端縁を第1下フランジ部313の端縁に溶接される。
【0039】
第2鋼材32は、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323の第1鋼材31側の端縁が、第2ウェブ部321の第1鋼材31側の端縁よりも突出した形状とされている。この突出長さは、第1鋼材31の第1ウェブ部311の端縁が、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の端縁よりも突出する寸法(ダイヤフラム14,15の外周が柱梁接合部13より外側に張り出す寸法に相当)に合わせられている。
これにより、第1鋼材31と第2鋼材32とを溶接する際に、第2ウェブ部321と第1ウェブ部311とが密接しつつ、第2上フランジ部322と第1上フランジ部312、および第2下フランジ部323と第1下フランジ部313とが密接し、各々の溶接を適切に行うことができる。
【0040】
第2鋼材32は、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323に、複数のねじ孔324を有する。
ねじ孔324は、第2ウェブ部321の両側に3個ずつ2組が配列され、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323の各々に合計12個ずつ形成されている。
ねじ孔324には、それぞれ木ねじ325が挿通され、木製梁20と接合する際に、木製梁20の上面202へとねじ込むことができる(
図1および
図3参照)。
【0041】
木製梁20と第2鋼材32つまり鋼製接合具30とを接合する際には、第2ウェブ部321をスリット24に挿入し、木製梁20の一対の積層材21を第2ウェブ部321の両側に配置したうえ、ボルト23で締結することで、木製梁20と第2鋼材32とを一体化する。
第2鋼材32において、第2上フランジ部322の下面と第2下フランジ部323の上面との間隔は、木製梁20における上面202から凹部25までの高さ寸法より大きく形成され、一対の積層材21を第2ウェブ部321の両側に配置する作業を円滑に行うことができる。
【0042】
前述した木ねじ325を締め込むことで、木製梁20の上面202が第2上フランジ部322の下面に密着されるとともに、積層材21が持ち上げられ、第2下フランジ部323の上面と凹部25の表面との間に隙間が生じる。
この隙間には、側方から楔状部材326が圧入され、この楔状部材326により第2下フランジ部323と凹部25ないし木製梁20とが互いに圧接される。
このように、木製梁20と鋼製接合具30とは、一対の積層材21で第2ウェブ部321を挟みつけ、上面202を木ねじ325で第2上フランジ部322に締結し、さらに凹部25を楔状部材326で第2下フランジ部323に圧接させることで、確実な接合および荷重伝達が可能である。
【0043】
本実施形態において、鋼製接合具30は、少なくとも第1部分301の降伏強度が、鋼管柱10および木製梁20よりも低く形成されている。
第1に、第1部分301である第1鋼材31は、低降伏点材料で形成され、素材の段階で鋼管柱10および木製梁20よりも降伏強度が低く形成されている。低降伏点材料としては、例えば建築構造用低降伏点鋼材LY225などが利用できる。
【0044】
第2に、第1部分301である第1鋼材31は、第2部分302である第2鋼材32よりも降伏強度が低く形成され、鋼製接合具30として鋼管柱10および木製梁20よりも降伏強度が低いとともに、鋼製接合具30のなかでも第1鋼材31がさらに降伏強度を低く形成され、一連の接合構造1のなかでも第1鋼材31(第1部分301)が最も降伏し易い部分とされている。
そして、第1鋼材31の降伏強度を低く形成するために、本実施形態では、下記の手段が組み合わせて用いられている。
【0045】
鋼製接合具30において、第1上フランジ部312の厚みが第2上フランジ部322よりも薄く、第1下フランジ部313の厚みが第2下フランジ部323よりも薄く形成され、第1鋼材31の降伏強度が第2鋼材32よりも低く形成されている。
なお、第1上フランジ部312と第2上フランジ部322とは、接合にあたって各々の下面が平坦に連続し、第1下フランジ部313と第2下フランジ部323とは、接合にあたって各々の上面が平坦に連続した形状とされている。
【0046】
第1鋼材31において、第1ウェブ部311には、強度緩和部としての開口部314が2つ形成されている。開口部314は、第1ウェブ部311の表裏を貫通する角の丸い矩形の孔であり、第1上フランジ部312の近くに1つ、第1下フランジ部313の近くに1つ形成されている。この点でも第1鋼材31の降伏強度が第2鋼材32よりも低くされている。
なお、所期の剛性を確保するために、開口部314の周囲には、第1ウェブ部311の外周に沿って所定の幅で第1ウェブ部311が残されている。
【0047】
第1鋼材31において、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313には、それぞれ両側縁にC字状の切欠き部315が形成され、これにより第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の平面形状は中間部の幅が狭いドッグボーン形状に形成されている。この点でも第1鋼材31の降伏強度が第2鋼材32よりも低くされている。
【0048】
このような本実施形態では、次のような手順で接合構造1を組み立てる。
組み立てに先立って、上側柱11から下側柱12までを接合して鋼管柱10を形成し、これに鋼製接合具30の第1鋼材31を固着させておく。さらに、一対の積層材21とスペーサ22とをボルト23で締結して木製梁20を仮組みしておく。
建築現場に鋼管柱10を立て、鋼製接合具30の第2鋼材32に木製梁20の端面201側を近接させ、スリット24に第2ウェブ部321を挿入してゆく。第2ウェブ部321の端部が凹部25の最奥部まで達したら、木ねじ325をねじ込み、木製梁20を引き上げて上面202と第2上フランジ部322とを密着させる。さらに、凹部25の隙間の両側から楔状部材326を順次叩き込み、第2下フランジ部323と木製梁20との間に圧入させる。これにより、鋼管柱10に固着された鋼製接合具30を介して、鋼管柱10と木製梁20とが接合される。
【0049】
このような本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
本実施形態では、鋼管柱10(鋼製部材)に固着された鋼製接合具30を介して木製梁20(木製部材)が接合される接合構造1において、基端部が鋼管柱10に固着される第1部分301(第1鋼材31)の降伏強度を低くすることで、鋼製接合具30の第1部分301が強度低下部として、木製梁20および鋼管柱10に先行して塑性化するようにできる。これにより、接合構造1にかかる地震エネルギーは、専ら第1部分301(第1鋼材31)を塑性変形させて第1部分301(第1鋼材31)に吸収され、第2部分302(第2鋼材32)および木製梁20(木製部材)あるいは鋼管柱10(鋼製部材)における破壊を抑制できる。
【0050】
本実施形態では、第1部分301(第1鋼材31)は鋼製接合具30の一部として形成され、鋼製接合具30が木製梁20(木製部材)および鋼管柱10(鋼製部材)の間に介在する一部材として設計が容易であるうえ、鋼製であることで塑性変形時にも十分な靱性が得られ、かつ降伏強度にばらつき等がなく、これらの点でも設計が容易である。そして、鋼製接合具30の第1部分301において十分なエネルギー吸収性能が確保できるため、別途のエネルギー吸収ダンパーなどを設ける必要がない。
これにより、エネルギー吸収性能が高く、かつ構造が簡単で設計が容易な木製部材と鋼製部材との接合構造1を提供することができる。
【0051】
本実施形態では、第1部分301(第1鋼材31)および第2部分302(第2鋼材32)が、それぞれ互いに連続するウェブ部(第1ウェブ部311および第2ウェブ部321)、および互いに連続するフランジ部(第1上フランジ部312と第2上フランジ部322、第1下フランジ部313と第2下フランジ部323)を有し、このうち第2部分302の第2ウェブ部321が木製梁20のスリット24に挟み込まれ、第2上フランジ部322が木製梁20の上面202に木ねじ325で締結され、第2下フランジ部323が楔状部材326により木製梁20の下面203に圧接されることで確実な荷重伝達が可能である。
【0052】
本実施形態では、第1部分301(第1鋼材31)が低降伏点材料で形成されることで、第1部分301の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
本実施形態では、第1部分301の各部(第1上フランジ部312および第1下フランジ部313)が第2部分の各部(第2上フランジ部322および第2下フランジ部323)より薄く形成されることで、第1部分301の降伏強度が第2部分302よりも低くなり、第1部分301の降伏強度を低く設定することが容易にできる。
【0053】
本実施形態では、第1ウェブ部311に、強度緩和部として2つの開口部314を形成したので、第1部分301の降伏強度を低く設定することが容易にできる。強度緩和部である開口部314は、第1ウェブ部311の中間部に形成され、第1ウェブ部311の外周形状を変化させないため、降伏強度を低く設定しつつ、鋼製接合具30の剛性および耐力に対する影響を小さくできる。
【0054】
本実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の側縁の両側に、それぞれ切欠き部315を設けて幅狭部分を形成したので、第1部分301の降伏強度を低く設定することが容易にできる。第1上フランジ部312および第1下フランジ部313において切欠き部315で形成される幅狭部分は、従来のドッグボーン形状に相当するが、前述した本実施形態の他の構成(低降伏点材料、強度緩和部である開口部314)によっても第1部分301の降伏強度が低下されており、鋼製接合具30の剛性および耐力に対する幅狭部分の影響を小さくできる。
【0055】
本実施形態において、木製梁20の下面203の凹部25と第2下フランジ部323との隙間に、スペーサとしての楔状部材326を圧入したので、第2部分302と木製梁20との間のがたつきなどを確実に解消できる。
とくに、スペーサとして楔状部材326を用い、側方から叩き込むようにしたので、隙間の解消が確実に行える。また、第2上フランジ部322と木製梁20との間および第2下フランジ部323と木製梁20との間にそれぞれ隙間がある場合でも、下側の隙間に圧入される楔状部材326で両方の隙間を解消することができる。
【0056】
本実施形態において、鋼製接合具30は、第1部分301および第2部分302が、それぞれH形鋼を用いた第1鋼材31および第2鋼材32で形成されるようにした。このため、第1部分301に必要な条件(前述した材質、厚み、および形状など)に応じた第1鋼材31と、第2部分302に必要な条件(同前)に応じた第2鋼材32とを準備し、これらを溶接することで、所期の第1部分301および第2部分302を有する鋼製接合具30が簡単に製造できる。これらの第1鋼材31および第2鋼材32は、それぞれ第1部分301および第2部分302としての条件に合致するものであれば、市販の型鋼材の規格品を利用でき、調達が容易かつコスト低減も図れる。
【0057】
〔第2実施形態〕
図5および
図6には、本発明の第2実施形態が示されている。
接合構造2は、前述した第1実施形態の接合構造1と基本構成が同じである。このため、共通部分については同じ符号を用いるとともに、重複する説明を省略し、以下には相違部分について説明する。
【0058】
前述した第1実施形態では、木製梁20の下面203に、端面201から平坦な凹部25を形成し、凹部25と第2鋼材32の第2下フランジ部323との間に、スペーサとしての楔状部材326を圧入していた。
これに対し、本実施形態では、凹部25をやや薄く形成し、凹部25と第2鋼材32の第2下フランジ部323との間に、スペーサとして充填剤327を充填している。
充填剤327は、二液混合硬化型のエポキシ樹脂や、光硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂など、硬化時の強度が高く、肉持ちのよい材料が用いられる。
充填剤327の設置にあたっては、木製梁20を鋼製接合具30に導入し、木ねじ325で上面202を第2上フランジ部322に密着させ、第2鋼材32の第2下フランジ部323との隙間を最大にした状態で、この隙間に未硬化の充填剤327を充填し、硬化させる。
【0059】
本実施形態によれば、前述した第1実施形態で説明した効果を得ることができる。さらに、隙間に対して充填剤327を充填することで、第2部分302と木製梁20との間のがたつきなどを確実に解消できる。
この際、第1実施形態の楔状部材326に代えて、充填剤327を用いているので、隙間に対して充填剤327を充填するだけでよく、楔状部材326の叩き込みのような作業がないため、作業の静粛性が高く、容易に行うことができる。
【0060】
〔第3実施形態〕
図7および
図8には、本発明の第3実施形態が示されている。
接合構造3は、前述した第1実施形態の接合構造1と基本構成が同じである。このため、共通部分については同じ符号を用いるとともに、重複する説明を省略し、以下には相違部分について説明する。
【0061】
前述した第1実施形態では、凹部25と第2鋼材32の第2下フランジ部323との間に、スペーサとしての楔状部材326を圧入していたのに対し、本実施形態では、前述した第2実施形態と同様、凹部25をやや薄く形成し、第2下フランジ部323との間にスペーサとしての充填剤327を充填している。
【0062】
前述した第1実施形態では、第2上フランジ部322と木製梁20とを木ねじ325で締結していた。
これに対し、本実施形態では、第2上フランジ部322と木製梁20とを木ねじ325で締結したうえ、凹部25と第2下フランジ部323との間にスペーサとしての充填剤327を充填し、充填剤327が固化したのち、第2下フランジ部323と木製梁20とを別の木ねじ325で締結している。
【0063】
本実施形態によれば、前述した第1実施形態および第2実施形態で説明した効果が得られるとともに、第2下フランジ部323と木製梁20との間も木ねじ325で締結することで、鋼製接合具30と木製梁20との接続剛性をさらに高めることができる。
【0064】
〔第1~第3実施形態の変形〕
前記第1~第3の各実施形態では、第1鋼材31を低降伏点材料で形成することで、第1部分301の降伏強度を低く設定した。これに対し、前記各実施形態では、フランジ部の厚み(第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の厚みを第2上フランジ部322および第2下フランジ部323よりも薄く形成すること)、第1ウェブ部311に形成した強度緩和部としての開口部314、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313に幅狭部分を形成する切欠き部315など、他の手段によっても第1部分301の降伏強度を低く設定できており、第1鋼材31を低降伏点材料で形成することは本発明に必須ではない。
【0065】
前記各実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の厚みを第2上フランジ部322および第2下フランジ部323よりも薄く形成することで、第1部分301の降伏強度を低く設定した。これに対し、第1ウェブ部311の厚みを第2ウェブ部321よりも薄く形成することで、第1部分301の降伏強度を低くしてもよく、または、第1部分301の各部(第1ウェブ部311、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313)を第2部分302の各部(第2ウェブ部321、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323)より薄く形成してもよい。
【0066】
前記各実施形態では、第1ウェブ部311の強度緩和部として、第1ウェブ部311の表裏を貫通する開口部314を2つ形成した。これに対し、開口部314は1つ、または3つ以上であってもよく、その形状も角の丸い矩形に限定されるものではなく、多角形状、円形や楕円形その他任意の形状の開口などを用いることができる。
【0067】
図9において、本発明の第4実施形態として、接合構造4は、前述した第1実施形態の接合構造1と同じ構成を有するとともに、強度緩和部として、第1ウェブ部311の中央に表裏を貫通する円形の開口部316が形成されている。
図10において、本発明の第5実施形態として、接合構造5は、前述した第1実施形態の接合構造1と同じ構成を有するとともに、強度緩和部として、第1ウェブ部311の上部に偏った位置に、表裏を貫通する円形の開口部316が形成されている。
これらの開口部316を有する接合構造4,5によっても、前述した第1実施形態の接合構造1と同様な効果を得ることができる。
【0068】
さらに、第1ウェブ部311の強度緩和部としては、表裏を貫通する開口部314,316に代えて、第1ウェブ部311の表面の片方または両面に、打刻、切削、研磨などにより凹み部分を形成し、薄肉化することで第1ウェブ部311の強度を緩和してもよい。
【0069】
前記各実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の両側縁に、それぞれ切欠き部315を形成し、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の中間部にそれぞれ幅狭部分を形成した。これに対し、切欠き部315は第1上フランジ部312および第1下フランジ部313のいずれか一方だけでもよく、あるいは全ての切欠き部315を省略してもよい。
【0070】
前記各実施形態では、第1下フランジ部313と木製梁20の下面203に形成した凹部25との隙間に、スペーサである楔状部材326あるいは充填剤327を設置し、隙間を無くすようにした。これに対し、凹部25を省略し、第1下フランジ部313と木製梁20の下面203との間にスペーサを設置してもよい。
また、木製梁20の下面側に限らず、第1上フランジ部312と木製梁20の上面202との間にスペーサを設置してもよい。この場合、木ねじ325は第1下フランジ部313と木製梁20の下面203とを締結するように設置すればよい。
さらに、木ねじ325による第1上フランジ部312と木製梁20との固定など、木製梁20と鋼製接合具30との固定に十分な接合剛性が得られていれば、スペーサは省略してもよい。
【0071】
〔第6実施形態〕
図11および
図12には、本発明の第6実施形態が示されている。
接合構造6は、前述した第1実施形態の接合構造1と基本構成が同じである。このため、共通部分については同じ符号を用いるとともに、重複する説明を省略し、以下には相違部分について説明する。
【0072】
前述した第1実施形態の接合構造1では、第1鋼材31の高さ寸法が第2鋼材32の高さ寸法と略同じとされていた。すなわち、第1ウェブ部311の幅(高さ寸法)が第2ウェブ部321と同じとされ、第1上フランジ部312と第2上フランジ部322、および第1下フランジ部313と第2下フランジ部323とが、それぞれ同じ高さで相互に接続されていた。
これに対し、本実施形態では、第1鋼材31の高さが第2鋼材32よりも低く形成されている。すなわち、第1ウェブ部311の幅(高さ寸法)が第2ウェブ部321よりも小さく形成され、第1上フランジ部312は第2上フランジ部322よりも低い位置にずれて配置され、第1下フランジ部313は第2下フランジ部323よりも高い位置にずれて配置されている。
【0073】
本実施形態では、第2鋼材32の端部にエンドプレート33が設置されている。
エンドプレート33は、木製梁20の端面201に沿って配置され、上縁を第2上フランジ部322の下面に溶接され、下縁を第2下フランジ部323の上面に溶接されるとともに、片面に第2ウェブ部321の端縁が溶接されている。
第1鋼材31は、第1ウェブ部311、第1上フランジ部312、および第1下フランジ部313の端縁をエンドプレート33の表面(第2ウェブ部321の反対側面)に溶接されている。これにより、高さがずらされた第1上フランジ部312と第2上フランジ部322と、および第1下フランジ部313と第2下フランジ部323とは、互いにエンドプレート33を介して荷重伝達可能に接続されている。
【0074】
前述した第1実施形態の接合構造1では、第2鋼材32と木製梁20との接続にあたって、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202とを多数の木ねじ325で締結するとともに、木製梁20の下面203の凹部25と第2下フランジ部323との間にスペーサである楔状部材326を介在させていた。
これに対し、本実施形態では、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202と、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203とを、それぞれ接着剤34で接着している。接着にあたっては、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202との間、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203との間に僅かな隙間を空けておき、木製梁20と第2鋼材32とを接続状態に配置したのち、隙間に接着剤34を注入することができる。
【0075】
このような本実施形態においても、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
とくに、本実施形態では、第1鋼材31の高さを小さくすることで、第1鋼材31における降伏強度を低く設定することができる。とくに、第1鋼材31の高さの増減により、第1鋼材31における降伏強度の調整が容易にできる。
この際、第1鋼材31と第2鋼材32との接続にエンドプレート33を用いたので、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313を任意の高さに設定可能となり、第1鋼材31を所望の高さに設定できる。
本実施形態では、第1鋼材31および第2鋼材32が、それぞれ同じ対称面Rsに対して上下対称に形成されているため、接合構造6としての剛性および耐力を確保しつつ、接合構造6の塑性化の効果を高められる。
さらに、鋼管柱10(鋼製部材)から木製梁20(木製部材)に至る接合構造1が上下対称となることで、曲げ方向による特性が上下同様となり、設計段階での剛性・耐力評価の際に非対称性を考慮する必要を解消でき、設計を容易にできる。
【0076】
すなわち、前述した第1~第5の各実施形態においては、鋼製接合具30自体および木製梁20との接合手段(木ねじ325あるいは接着剤34)が上下非対称であった。このため、鋼製接合具30に曲げ力が加えられた際の履歴特性も上下非対称となり、設計が複雑化する可能性があった。
これに対し、本実施形態では、第1鋼材31および第2鋼材32が上下対称であるとともに、鋼製接合具30と木製梁20との接合手段である接着剤34も上下対称とされ、接合構造6の全体が上下対称となっている。
図13には、本実施形態の接合構造6における鋼製接合具30に対し、曲げモーメントM(縦軸)を繰り返し加えた際に、木製梁20に生じる鋼管柱10に対する角度R(縦軸)の履歴特性が示されている。このグラフに示されるように、本実施形態の接合構造6においては、その全体が上下対称となっていることで、履歴特性が原点に対して対称となり、設計を簡素化できる。
【0077】
さらに、本実施形態では、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202と、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203とを、それぞれ接着剤34で接着したので、構造および接続作業を簡素化できる。
【0078】
なお、第6実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の各々が、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323に対してずれた位置に配置されていたが、第1上フランジ部312と第2上フランジ部322とがずれて配置されているが第1下フランジ部313と第2下フランジ部323とが同じ高さとされてもよく、第1上フランジ部312と第2上フランジ部322とが同じ高さであるが第1下フランジ部313と第2下フランジ部323とがずれて配置されてもよい。
【0079】
〔第7実施形態〕
図14および
図15には、本発明の第7実施形態が示されている。
接合構造7は、前述した第1実施形態の接合構造1と基本構成が同じである。また、前述した第6実施形態の接合構造6と同様に、エンドプレート33を備え、第1鋼材31の高さが第2鋼材32よりも小さく形成され、第2鋼材32と木製梁20との接合に接着剤34が用いられている。
このため、接合構造1および接合構造6との共通部分については同じ符号を用いるとともに、重複する説明を省略し、以下には相違部分について説明する。
【0080】
前述した接合構造1および接合構造6では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の幅寸法が第2上フランジ部322および第2下フランジ部323と同じであるが、第1鋼材31の降伏強度を下げるために、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の厚み寸法が、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323の厚さ寸法より薄く形成されていた。
また、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323の幅寸法と同じとされ、各々の両側縁に切欠き部315が形成されていた。
【0081】
これに対し、本実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の厚み寸法が第2上フランジ部322および第2下フランジ部323の厚さ寸法と同じとされ、各々の両側縁の切欠き部315が省略され、これらによる第1鋼材31の降伏強度を下げる効果は得られない。
一方、本実施形態では、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313の幅寸法が、第2上フランジ部322および第2下フランジ部323よりも狭く形成され、これにより第1鋼材31の降伏強度を下げる効果を得ている。
【0082】
このような本実施形態においても、前述した第1実施形態および第6実施形態と同様な効果を得ることができる。
とくに、第1鋼材31において、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313が小型化されるとともに、構造が簡素化でき、製造も容易にできる。
なお、第1上フランジ部312および第1下フランジ部313はいずれかが幅寸法が狭いものであってもよく、例えば、第1上フランジ部312は第2上フランジと同じ幅であるが第1下フランジ部313は第2下フランジ部323よりも幅が狭い形状、あるいはその逆としてもよい。
【0083】
〔第8実施形態〕
図16には、本発明の第8実施形態が示されている。
前述した第6実施形態の接合構造6では、第2鋼材32と木製梁20とを接合する際に、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202と、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203とを、それぞれ接着剤34で接着していた。
これに対し、第8実施形態の接合構造8では、木製梁20の一方の側面から第2ウェブ部321を貫通して木製梁20の他方の側面に達する複数のドリフトピン35を用いている。
このような本実施形態においても、前述した第1実施形態および第6実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0084】
〔第9実施形態〕
図17には、本発明の第9実施形態が示されている。
前述した第6実施形態の接合構造6では、第2鋼材32と木製梁20とを接合する際に、第2上フランジ部322と木製梁20の上面202と、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203とを、それぞれ接着剤34で接着していた。
これに対し、第9実施形態の接合構造9では、第2鋼材32の上下面にそれぞれ複数の木ねじ325がねじ込まれ、これにより第2上フランジ部322と木製梁20の上面202との締結、および第2下フランジ部323と木製梁20の下面203との締結が行われている。
このような本実施形態においても、前述した第1実施形態および第6実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0085】
本実施形態の木製梁20には、上面202に床部材41が載置されている。床部材41はコンクリートスラブなどで形成され、複数を並べて木製梁20の上に敷き詰められている。
床部材41の鋼管柱10に臨む端縁は、鋼管柱10の表面から所定間隔を隔てられ、この間隔には柔軟で荷重を伝達しない封止材42が詰め込まれている。
このような本実施形態では、床部材41に荷重がかかった際に、かかった荷重は専ら木製梁20で負担され、床部材41から鋼管柱10への直接的な伝達を防止できる。これにより、降伏強度を低く設定した第1部分に荷重が確実に伝達され、鋼製接合具30を木製梁20に先行して塑性化させることができる。
【0086】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記各実施形態では、鋼製接合具30を形成する第1鋼材31および第2鋼材32としてH形鋼を用いたが、これらにT形鋼を用いてもよい。この場合、第1部分301および第2部分302はフランジ部を上にしてもよく、下にしてもよい。また、フランジ部が上下いずれか一方になるため、前記実施形態のようなスペーサは省略される。
さらに、第1鋼材31および第2鋼材32は矩形断面の鋼管であってもよく、この場合はウェブ部およびフランジ部に代えて鋼管の上下面あるいは両側面を用いればよく、これらの両側面あるいは上下面に強度緩和部を形成したり、肉厚を薄くしたりすることで、第1部分301の降伏強度を低下させてもよい。
加えて、鋼製接合具30は、第1鋼材31と第2鋼材32とを接合したものに限らず、第1部分301および第2部分302が連続した鋼材であってもよく、第1部分301に相当する部分に強度緩和部を形成したり、肉厚を薄くしたりすることで、第1部分301の降伏強度を低下させればよい。
前記各実施形態では、一対の積層材21を束ねて木製梁20を形成したが、積層材21に限らず無垢材であってもよく、スペーサ22を挟む代わりに木製梁20と同じ高さの中間鋼板などを挟み込んでもよい。前記実施形態では、一対の積層材21でスペーサ22を挟むことで、木製梁20の端部にスリット24を形成したが、1本の積層材で木製梁20を形成し、その端部に切削加工でスリット24を切り込んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、木製部材と鋼製部材との接合構造および鋼製接合具に利用できる。
【符号の説明】
【0088】
1~9…接合構造、10…鋼製部材である鋼管柱、11…上側柱、12…下側柱、13…柱梁接合部、14…ダイヤフラム、15…ダイヤフラム、20…木製部材である木製梁、201…端面、202…上面、203…下面、21…積層材、22…スペーサ、23…ボルト、24…スリット、25…凹部、30…鋼製接合具、301…第1部分、302…第2部分、31…第1鋼材、311…第1ウェブ部、312…第1フランジ部である第1上フランジ部、313…第1フランジ部である第1下フランジ部、314…強度緩和部である開口部、315…切欠き部、316…強度緩和部である開口部、32…第2鋼材、321…第2ウェブ部、322…第2フランジ部である第2上フランジ部、323…第2フランジ部である第2下フランジ部、324…ねじ孔、325…木ねじ、326…スペーサである楔状部材、327…スペーサである充填剤、33…エンドプレート、34…接着剤、35…ドリフトピン。