(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】飛翔害虫防除用薬剤揮散体及びこれを用いる飛翔害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/20 20060101AFI20240509BHJP
A01M 29/34 20110101ALI20240509BHJP
【FI】
A01M1/20 C
A01M29/34
(21)【出願番号】P 2020109416
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】岸 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅文
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140384(JP,A)
【文献】実開昭63-089901(JP,U)
【文献】特開2014-185500(JP,A)
【文献】特開2016-198113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性薬剤を含有する担体を薬剤容器の内部に収納した網戸に固定して用いる飛翔害虫防除のための薬剤揮散体において、
前記薬剤容器の表面及び裏面には、開口部が形成され、
前記薬剤容器の網戸と直接に対向する側の外表面の外周縁部に、少なくとも2つの
面ファスナーからなる厚み部材が設けられ、これらの厚み部材のうちの2つは、互いに対向する位置に設けられ、
前記の互いに対向する位置に設けられたそれぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部の周の全長の5%以上40%以下であることを特徴とする飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
【請求項2】
前記の網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の形状が方形であり、
前記の互いに対向する位置に設けられたそれぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部を構成する端縁部及び側縁部のいずれか一方の長さの26%以上であることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
【請求項3】
前記厚み部材の厚みが0.5mm~5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除又は忌避するために、網戸に固定して、常温揮散性薬剤を効率的に揮散させる薬剤揮散体及びこれを用いた飛翔害虫防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から常温揮散性薬剤を空気中に揮散させることによって、飛翔害虫の駆除や忌避を行う防除剤は知られており、例えば特許文献1に開示されている。また、使用期間中に薬剤を安定して揮散させるため、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂に薬剤を練り込んだ担体を用いた薬剤揮散体が、例えば特許文献2に開示されている。
さらに、常温揮散性薬剤を含有する担体をコンパクトな薬剤容器の内部に収納し、通常の室温で吊り下げ又は置いて使用する薬剤揮散体が、特許文献3に開示されている。さらにまた、網戸に固定することにより飛翔害虫を駆除又は忌避する方法が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-200239号公報
【文献】特開2001-279033号公報
【文献】特開2008-194034号公報
【文献】特開2012-140384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記の通常の室温で吊り下げ又は置いて使用する場合には、設置される揮散体の周辺は比較的オープンな空間であるのに対して、網戸に固定して使用する場合は、揮散体と網戸が接近した状態であり、空隙率の高い網戸であっても薬剤の揮散状態は通常の室温で吊り下げ又は置いて使用する場合と比べて、揮散体周辺の薬剤揮散環境が異なると思われた。その結果、飛翔害虫を駆除又は忌避効果をさらに上げるためには、揮散体と網戸の位置関係等、さらなる工夫が必要であった。
【0005】
本発明は、常温揮散性薬剤を含有する担体を扁平状の薬剤容器の内部に収納し、網戸に固定して用いる薬剤揮散体であって、揮散した薬剤を含む気流を調整することにより、網戸周辺に飛来する蚊、ブユ等の飛翔害虫をより効率的に駆除又は忌避することが可能な薬剤揮散体及びこれを用いた飛翔害虫防除方法を提供する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が前記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。すなわち、
[1]常温揮散性薬剤を含有する担体を薬剤容器の内部に収納した網戸に固定して用いる飛翔害虫防除のための薬剤揮散体において、前記薬剤容器の網戸と直接に対向する側の外表面の外周縁部に、少なくとも2つの厚み部材が設けられ、これらの厚み部材のうちの2つは、互いに対向する位置に設けられ、前記の互いに対向する位置に設けられたそれぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部の周の全長の5%以上40%以下であることを特徴とする飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
【0007】
[2]前記の網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の形状が方形であり、前記の互いに対向する位置に設けられたそれぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部を構成する端縁部及び側縁部のいずれか一方の長さの26%以上であることを特徴とする[1]に記載の飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
[3]前記厚み部材の厚みが0.5mm~5mmであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
[4]前記厚み部材が、面ファスナーからなることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の飛翔害虫防除用薬剤揮散体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の飛翔害虫防除用薬剤揮散体は、網戸と直接に対向する側に厚み部材が設けられるので、本発明の飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に空間部が生じ、本発明の飛翔害虫防除用薬剤揮散体から揮散した常温揮散性薬剤がこの空間部に漂う。そして、少なくとも2つの所定長さの厚み部材が、薬剤容器の網戸と直接に対向する側の外表面の外周縁部に、互いに対向する位置に配されるので、前記の空間部に漂う常温揮散性薬剤は、厚み部材に沿った方向、すなわち、この空間部から厚み部材が配されない2つの外周縁部に向かう方向に2つの気流が生じる。この2つの方向は、反対方向、すなわち、生じる気流の方向がほぼ180°異なる方向となるので、2つの気流が重なって干渉し、気流がその流れの方向以外の方向に拡散したり、気流の速度が低下したりするのを抑制できる。このため、本発明においては、本発明の飛翔害虫防除用薬剤揮散体から網戸側に揮散した常温揮散性薬剤が網戸に沿ってその濃度が保たれたまま、互いに反対の2つの方向に生じる気流にのって流れることができる。このため、有効な濃度を保持した状態で、常温揮散性薬剤が網戸表面に流れることとなり、この飛翔害虫防除用薬剤揮散体を設置した網戸の周辺に対して、常温揮散性薬剤の効果を発揮することができる。すなわち、この飛翔害虫防除用薬剤揮散体を設置した網戸の周辺に飛来する蚊、ブユ等の飛翔害虫を効率的に駆除又は忌避でき、その実用性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)この発明に係る飛翔害虫防除用薬剤揮散体に用いられる常温揮散性薬剤を示す正面図、(b)(a)の背面図(厚み部材を除く)
【
図2】(a)この発明で用いる薬剤容器を開いた状態の例を示す斜視図、(b)この発明で用いる常温揮散性薬剤含有樹脂担体の例を示す斜視図、(c)厚み部材として面ファスナーを用いた場合のこの発明に係る飛翔害虫防除用薬剤揮散体を網戸に取り付けた状態を示す側面図
【
図3】(a)この発明に係る飛翔害虫防除用薬剤揮散体の気流の流れを示す模式図、(b)(c)厚み部材を異なる位置に配したときの薬剤揮散体の気流の流れを示す模式図
【
図4】(a)(b)この発明に係る翔害虫防除用薬剤揮散体の他の例を示す正面図
【
図5】(a)~(n)実施例1~8、比較例1~7で用いたこの発明に係る飛翔害虫防除用薬剤揮散体に用いられる常温揮散性薬剤を示す背面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、
図1に示すように、常温揮散性薬剤を含有する担体を薬剤容器11の内部に収納した網戸に固定して用いる飛翔害虫防除用薬剤揮散体(以下、単に「薬剤揮散体」と称することがある。)10に係る発明である。
【0011】
(常温揮散性薬剤)
前記常温揮散性薬剤とは、常温(25℃)で揮散性を有する薬剤をいい、空気中に揮散するものであれば特に限定されない。前記常温揮散性薬剤の例としては、より強力な効果を発揮できる点でピレスロイド系薬剤を用いるのが好ましく、揮散性能や飛翔害虫に対する基礎活性が高いメトフルトリン、プロフルトリン、エンペントリン及びトランスフルトリンの1種又は2種以上が好適である。
【0012】
また、前記常温揮散性薬剤には、共力剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、芳香剤等も同時に使用することができる。例えば、前記共力剤としては、オクタクロロジプロピルエーテル(商品名S-421)、イソボルニルチオシアノアセテート(商品名IBTA)、N-オクチルビシクロヘプテンカルボキシイミド(商品名サイネピリン222)、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ[2,2,2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(商品名サイネピリン500)が挙げられる。
前記忌避剤としては、N,N-ジエチル-m-トルアミド(商品名ディート)、1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシラート(商品名イカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(商品名IR3535)、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4,4a,5a,6,9,9a,9b-オクタヒドロジベンゾフラン-4a-カルバイド、p-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。
【0013】
前記抗菌剤としては、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等が挙げられる。
前記防黴剤としては、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール等が挙げられる。
前記芳香剤としては、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、ヒノキ油、緑茶精油、リモネン、α―ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等が挙げられる。
さらに、前記した薬剤以外に、香料、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の安定剤や紫外線吸収阻害剤等を適宜配合してもよい。
【0014】
(担体)
前記担体は、前記常温揮散性薬剤を含浸や練り込み等により、保持させるためのものをいう。
前記担体を構成する材質としては、紙、繊維、樹脂等のいずれも使用可能であり、その中でも、前記常温揮散性薬剤を練り込んだ樹脂製の担体(以下、樹脂製の担体を「樹脂担体」、常温揮散性薬剤を練り込んだ樹脂担体を「常温揮散性薬剤含有樹脂担体」と称することがある。)を採用すると、使用期間中の薬剤の徐放性を制御でき、安定した薬剤揮散量を実現できること、かつ、雨など水分による薬剤の流れ落ちの心配がない点から好ましい。
この樹脂の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレンーメチルメタクリレート共重合体、スチレンーブタジエン共重合体等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0015】
前記樹脂担体の形状は、薬剤の揮散効率を考慮し網状形状が好ましい。網の線径としては、同じく揮散効率の点から0.1~2mmの範囲が好適であるが、薬剤の種類や使用期間に応じて、前記範囲内から適宜設定すればよい。すなわち、蒸気圧の高い薬剤の場合には、線径を大きくすることにより揮散を抑制するように調整し、蒸気圧の低い薬剤の場合は、線径を小さくすることによって揮散を促すように調整する。
【0016】
前記の網状形状の樹脂担体は、平面状であっても、多層構造となるように立体成形したものであってもよい。平面状の担体は、これを複数枚重ねて、立体状にして使用することができる。前記樹脂担体を複数枚重ねたり、立体成形することにより、薬剤揮散面積が増え、その分、常温揮散性薬剤の単位時間当たりの揮散量を増やすことが可能となる。さらに、複数枚の担体毎に薬剤の種類や濃度、網の線径を変え、各薬剤の特長を生かした製剤とすることもできる。
また、立体状の担体としては、前記した平面状の担体を複数枚重ねて立体状にしたものや、
図2(b)に示すような、射出成形により、立体状に成形した立体状樹脂担体13’等があげられる。
【0017】
前記樹脂担体に保持される常温揮散性薬剤の配合量は、使用する薬剤の種類により異なるが、効果を発揮する有効成分量の確保、樹脂に薬剤を練り込んだ後の成形性、更に、担体表面に薬剤がブリードしてべたつきを起こすことを防止する点から2~12重量%の範囲とすることが好ましく、3~10重量%の範囲とすることがより好ましい。常温揮散性薬剤の配合量が2重量%未満の場合には、効果を発揮する有効成分量を確保することが困難となる場合がある。一方、12重量%を超えると、網目状の成形が困難となり、更に、網表面に薬剤が多量にブリードしてべたつきを起こしやすくなる傾向がある。
【0018】
(薬剤容器)
本発明の薬剤揮散体は網戸に固定して、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除又は忌避する。この薬剤揮散体を網戸に固定する場合、窓や雨戸を開閉する際に邪魔にならないよう前記薬剤容器は扁平形状にすることが好ましい。薬剤揮散体は容器内に収納された担体の表面を空気が流れることにより担体に含有された薬剤が徐々に揮散し、揮散した薬剤は薬剤容器に設けられた開口部より薬剤容器外へ放出される。
【0019】
この薬剤容器として、扁平状の容器を用いる場合、網戸と対向する面の形状としては、正方形や長方形(
図1(a))等の方形状、円(
図4(a))等の略円状や楕円(
図4(b))等の略楕円状等の形状を挙げることができるがこれらに限定されず、嗜好性に合わせた形状にすることができる。
【0020】
また、前記薬剤容器の厚みは、3mm~10mmが好ましい。この範囲内とすることにより、網戸に固定しても、窓や雨戸と接触しないので、邪魔にならず、かつ、前記担体と容器内面との隙間を1mm以上とすることができ、前記常温揮散性薬剤の揮散をより効率よく行うことができる。
【0021】
前記の薬剤容器11の表面及び裏面には、
図1(a)(b)に示すように、前記常温揮散性薬剤含有樹脂担体13から常温揮散性薬剤が放散される開口部12が形成される。当該開口部12の開口面積は、揮散を妨げない程度のものであれば良いが、前記薬剤容器の外表面のうち、網戸がある側と反対側(屋外側)の開口面積(A)と網戸がある側(屋内側)の開口面積(B)の比率A/Bが、2/1~1/2であることが好ましい。通常、空気の流れは、一般的に、容器の屋外側の開口部から流入したのち、容器内を通過し、屋内側の開口部から容器外に流出すると考えられるので、この範囲を外れると、屋外側から屋内側への空気の流れがうまく生じないおそれがあり、常温揮散性薬剤の揮散効率が低下する傾向が生じるおそれがある。
【0022】
前記薬剤容器11の構造としては、例えば
図2(a)に示すような、中央部平面シート状の浅底型容器状の樹脂部材を折り曲げたものが挙げられる。この場合、容器は前記折り曲げた部材の2つを一組として用い、それぞれの部材の折り曲げ面が重なりあうように組み立てられる。また、樹脂の一体成形品を使用することもできる。ここでいう樹脂の一体成形品とは、通常の射出成形又は真空成形で成形したもの等であれば成形方法は問わないが、屋外側と屋内側とをヒンジを用いて一体としたり、嵌合したりすることによって一体とすれば、製造工程をより簡略化することができる。
【0023】
前記薬剤容器に用いる樹脂の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ナイロン、ポリアミド等、種々の樹脂材料が使用可能であるが、強度やその性質を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いるのが好ましい。
【0024】
また、これら樹脂の厚みは種々のものが使用可能であるが、樹脂担体の形状やその揮散性能との関係、経済性等の点から、0.05mm~2mmのものを使用するのが好ましい。
【0025】
(厚み部材)
前記薬剤容器は、その外表面であって、網戸と直接に対向する側の外表面に、厚み部材が設けられる。この厚み部材を設けることにより、本発明にかかる薬剤揮散体を網戸に取り付けることができると共に、薬剤容器と網戸との間に一定の隙間を持たせることができるので、その隙間に気流を通しやすくすることができ、担体から揮散する常温揮散性薬剤を効率よく拡散することができると思われる。
【0026】
前記の通り、前記薬剤容器の、網戸と直接に対向する側の外表面の所定の位置に、複数個の前記厚み部材が設けられる。具体的には、網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の外周縁部(以下、単に「外周縁部」と称することがある。)に、少なくとも2つの前記厚み部材が設けられ、これらの厚み部材のうちの2つは、互いに対向する位置に設けられる。
【0027】
この位置に設けることにより、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に生じる空間部に漂う常温揮散性薬剤は、
図3(a)の矢印で示すように、厚み部材14に沿った方向、すなわち、この空間部から厚み部材14が配されない2箇所の外周縁部に向かう方向に2つの気流が生じる。この2つの方向は、反対方向、すなわち、生じる気流の方向がほぼ180°異なる方向であるので、2つの気流が重なることはない。このため、2つの気流の干渉による、気流の流れ方向以外への拡散や気流の速度低下を抑制でき、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体から網戸側に揮散し、漂っていた常温揮散性薬剤が網戸に沿って、その濃度が保たれた状態で、互いに反対の2つの方向に生じる気流にのって流れることができる。このため、有効な濃度を保持した状態で、常温揮散性薬剤が網戸表面に流れることとなり、この飛翔害虫防除用薬剤揮散体を設置した網戸の周辺に対して、常温揮散性薬剤の効果を発揮することができる。
【0028】
一方、厚み部材14が1つの場合、常温揮散性薬剤は、
図3(b)の矢印で示すように、厚み部材14が設けられる部分以外の3方向へ拡散していくため、特定の方向に向かう気流が生じにくく、本願の発明の効果を生じ難くなる傾向が生じる。
また、厚み部材14の2つが互いに対向する位置に設けられていない場合、常温揮散性薬剤は、
図3(c)の矢印で示すように、厚み部材14に沿って、厚み部材14が設けられる部分以外の方向へ気流が生じるが、その気流の方向は、直角又はそれに近いため、2つの気流で干渉が生じる。このため、2つの気流の間の方向にも流れが生じ、結果的に、気流の拡散が生じてしまい、十分な濃度を保持することが困難になるおそれがある。また、これにより、気流の速度が低下するおそれがあり、より遠くまで常温揮散性薬剤が到達しにくくなるおそれが生じる。
【0029】
この厚み部材の形状は、設置する外周縁部の形状に合わせたものでもよく、異なってもよい。前記厚み部材の形状が設置する外周縁部の形状と異なる場合は、厚み部材の一部がこの外周縁部に取り付けられればよい。
【0030】
例えば、網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の形状が正方形や長方形、平行四辺形等の方形状の場合、その外周縁部は直線部分を含むので、厚み部材の形状は、正方形、長方形等の方形状とすると、厚み部材の全面を前記外周縁部に取り付けることができる。
【0031】
また、網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の形状が円形や楕円形等、曲線部分を有する場合、厚み部材の形状としては、前記外周縁部の該当位置の形状に沿わせた形状、すなわち、弧状等の曲線状であってもよく、また、正方形、長方形等の方形状としてもよい。厚み部材の形状を方形状とする場合、その両端部を前記外周縁部に接しさせ、この部分で取り付ければよい。
【0032】
前記厚み部材として、方形のものを用いる場合は、対向する2つの厚み部材は、平行になるように配するのがよい。
前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に生じる空間部に漂う常温揮散性薬剤は、厚み部材に沿った方向、すなわち、この空間部から厚み部材が配されない2箇所の外周縁部に向かう方向に2つの気流が生じるが、2つの厚み部材を平行になるように設けると、この2つの気流の方向の差を、180°により近づけることができ、この発明の効果をより確実に発揮することができる。
【0033】
前記の互いに対向する位置に設けられたそれぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部の周の全長の5%以上がよく、10%以上がより好ましい。5%より短いと、厚み部材に沿って気流が移動する距離が短く、また、厚み部材が配されない2箇所の外周縁部が長くなるため、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に生じる空間部に漂う常温揮散性薬剤が流れ出るそれぞれ気流の方向を一方向に維持することが難しくなり、ある程度の角度で広がってしまうおそれがある。その結果、この発明の効果を得られ難くなるおそれが生じる。
一方、それぞれの厚み部材の長さは、前記外周縁部の周の全長の40%以下がよく、30%以下がより好ましい。40%より長いと、厚み部材が配されない2箇所の外周縁部が狭くなりすぎ、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に生じる空間部に漂う常温揮散性薬剤を効率よく外部に送り出すことが難しくなる傾向が生じる。
【0034】
また、前記の網戸と直接に対向する側の前記薬剤容器の外表面の形状が方形である場合、前記外周縁部も方形となり、直線状の端縁部や側縁部を有することとなる。そして、厚み部材も方形のものを用いることができる。このとき、前記厚み部材が、前記外周縁部の端縁部又は側縁部に設けられる場合、前記厚み部材の長さは、前記の条件を満たすと共に、当該厚み部材が設置される前記薬剤容器の端縁部の長さ又は前記側縁部の長さに対して26~100%の長さを有することが好ましく、30~90%の長さを有することがより好ましい。26%よりも短いと、厚み部材に沿って気流が移動する距離が短く、また、厚み部材が配された端縁部又は側縁部において、厚み部材が配されない部分が長くなり、この部分からも常温揮散性薬剤が流れ出るおそれが生じる。このため、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に生じる空間部に漂う常温揮散性薬剤が流れ出るそれぞれ気流の方向を一方向にすることが難しくなり、広がる傾向が生じ、その結果、この発明の効果を得られ難くなるおそれが生じる。
【0035】
前記厚み部材の幅は薬剤容器の大きさにもよるが揮散性薬剤の拡散効果を妨げない程度であればよく、3~20mmが好ましい。
【0036】
前記厚み部材としては、その効果を果たせる限り、問わないが、硬質や軟質、発泡質の樹脂フィルムや樹脂板等の樹脂体、天然や合成の繊維質体、樹脂製のモノフィラメントあるいはマルチフィラメント、パルプ質体やそれらを組み合わせたもののシート状物や板状物が用いられる。具体的には、樹脂等のフィルム、樹脂等の板、テープ、両面テープ、面ファスナー等を用いることができる。前記テープや両面テープの接着層には、粘着剤や接着剤が用いられる。また、前記面ファスナーのファスナー部は、樹脂製のモノフィラメントあるいはマルチフィラメント、パルプ質体やそれらを組み合わせたものが用いられる。
【0037】
前記厚み部材は、この厚み部材が有する、又はこの厚み部材に塗工した粘着剤や接着剤により前記薬剤容器に固定される。そして、薬剤容器と網戸との固定は、この厚み部材が有する粘着剤、接着剤、面ファスナーのファスナー部等によって固定される。
【0038】
前記厚み部材として面ファスナーを用いる場合、この面ファスナーは、樹脂製のモノフィラメントあるいはマルチフィラメントである面ファスナーのフック面あるいはループ面のいずれかを使用し、容器と網戸間の固定機能を発揮することができ、厚み部材としてより好ましい。
【0039】
前記厚み部材を設置した場合、厚み部材の厚みは、実質、網戸と薬剤容器外表面との離間距離に相当する。
例えば、
図2(c)に示すように、厚み部材14として面ファスナー14’を用いる場合、網戸15に取り付けると、網戸15と薬剤容器11との間に隙間が生じる。これの隙間は、薬剤容器に取り付けられる面ファスナー本体の厚みに相当する。
【0040】
厚み部材の厚みは本発明の効果を果たせる限り問わないが、厚みを0.5mm~5mmとすれば、網戸に固定使用時、雨戸の開閉の邪魔にならず、また、この厚みにより生じる隙間に気流を通しやすくすることができ、担体から揮散する常温揮散性薬剤を効率よく拡散することができる。
【0041】
本発明により、容器と網戸との間に位置する厚み部材により一定の隙間を持たせることにより、前記飛翔害虫防除用薬剤揮散体と網戸との間に空間部が生じ、ここに常温揮散性薬剤を漂わせることができる。そして、厚み部材の厚みが所定範囲なので、その空間部に漂う揮散性薬剤の気流の方向を、厚み部材に沿った方向の2方向のいずれかに揃わせることがより容易となる。このため、担体からの揮散性薬剤が集約されて効率よく気流を生じさせることができ、この発明の効果が発揮される。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の試験例について説明するが、本発明はこれらの試験例のみに限定されるものではない。まず、試験方法及び原材料を下記に示す。
[試験方法]
(効力試験)
4.8m3(幅1m、高さ2.4m、奥行き2m)の小部屋(室温25℃)の奥行1mの位置に部屋を屋内相当部と屋外相当部に二分するようにベニヤ板で開閉式の壁を設けた。この壁の一部、高さ180cm、幅75cmを切り取り、18メッシュの網戸を貼り付けた後に、網戸の長さ及び幅のほぼ中央部に薬剤容器が位置するように所定の方法で薬剤容器を網戸に固定した。この小部屋の屋内相当部にボランティア2名が入った後に、一方の屋外相当部内にアカイエカ50匹を放ち、30分以内に網戸に止まったアカイエカの数を計数し、下記式により付着防止率を算出した。
・付着防止率(%)=(無処理区の付着数―処理区の付着数)/無処理区の付着数×100
・評価
〇:付着防止率が90%以上
△:付着防止率が80%以上~90%未満
×:付着防止率が80%未満
【0043】
[原材料]
(常温揮散性薬剤)
・メトフルトリン(住友化学(株)製:エミネンス)
・EVA…エチレン-ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28)
・LDPE…低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802)
・PET…ポリエチレンテレフタレート((株)ベルポリエステルプロダクツ製:ベルペットIP121B)
【0044】
(実施例1)
図2(a)に示すPET製の略直方体形状で開口率50%の開口部(内側/外側の開口比率=1/1)を有する薬剤容器(長さ80mm、幅130mm、厚み5mm)に、
図2(b)に示すLDPE及びEVAの重量比が9/1からなる樹脂製立体網状担体(長さ60mm、幅110mm、厚み4.8mm、メトフルトリン含有量:100mg又は10mg)を収納した。
厚み部材である面ファスナー14((株)クラレファスニング 製、樹脂フィラメント、フック面:幅5mm、長さ10mm、1.2mm厚)を、
図5(a)に示す位置に、薬剤容器の短辺(長さ方向)の両端付近にそれぞれ1個、両面テープで貼り付けて設置し、薬剤揮散体を得た。
得られた薬剤揮散体を網戸の屋外側から厚み部材である樹脂フィラメントを網戸に押し当て、網戸の内側(屋内側)からの面ファスナーのループ面と接触させ固定した。
これを用いて、前記の効力試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2~8、比較例1~7)
表1に示す条件以外は、実施例1と同様にして、薬剤揮散体を得た。なお、比較例6で用いた接着剤16として、瞬間接着剤PPX(セメダイン(株)製)を用いた。
得られた薬剤揮散体を実施例1と同様にして、網戸に固定した。
これを用いて、前記の効力試験を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
本願発明を満たす場合は、実施例1~8から明らかなように、十分な飛翔害虫の付着防止の効果を得ることができた。
一方、厚み部材の長さが所定範囲未満の場合(比較例1、2)、外周縁部に1つしか厚み部材がない場合(比較例3、4)、外周縁部に厚み部材がない場合(比較例7)、厚み部材を設けていない場合(比較例6)、外周縁部の対向する位置に厚み部材がない場合(比較例5)は、いずれも、十分な飛翔害虫の付着防止の効果を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、網戸に固定して蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散体及びこれを用いた防虫方法を提供するもので、飛翔害虫を駆除又は忌避する分野に適している。
【符号の説明】
【0050】
10 薬剤揮散体
11 薬剤容器
12 開口部
13 常温揮散性薬剤含有樹脂担体
13’ 立体状樹脂担体
14 厚み部材
14’ 面ファスナー
15 網戸
16 接着剤