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特許7485564算出方法、検査方法および軸受の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】算出方法、検査方法および軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20240509BHJP
   G01N 3/34 20060101ALI20240509BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20240509BHJP
【FI】
G01N3/32 E
G01N3/34 Z
G01M13/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020135095
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2021028632
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019147715
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚弘
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028441(JP,A)
【文献】国際公開第2008/129832(WO,A1)
【文献】特開2004-077206(JP,A)
【文献】特開2017-017458(JP,A)
【文献】特開2015-099971(JP,A)
【文献】特表2015-530570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32~3/38
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
き裂進展試験方法を用いた算出方法であって、前記き裂進展試験方法は、
微小穴が形成された試験片を準備する工程と、
前記試験片の上で転動体を複数回転動させ前記試験片に転動疲労を与える工程と、
前記転動疲労が与えられた前記試験片に生じたき裂の前記微小穴からの長さを測定する工程とを備え、
前記測定する工程は、100MHz以上の高周波超音波により行なわれ
前記転動疲労を与える工程により前記試験片に生じる前記き裂の前記微小穴からの長さは、前記微小穴の径より長く、
前記き裂進展試験方法による第1の試験の結果を基に、前記微小穴の径より長い前記き裂の先端における応力拡大係数の範囲を算出する工程と、
前記応力拡大係数の範囲を算出する工程の後、第2の試験としての、前記試験片に対し再度前記転動疲労を与える工程と、再度前記測定する工程を行ない前記試験片の前記き裂の進展の有無を確認する工程とをさらに備え、
前記進展の有無を確認する工程の結果を基に、前記応力拡大係数の範囲の値を変更しながら前記き裂が進展しなくなるまで前記第2の試験を繰り返すことにより、前記き裂のき裂進展下限界値を求める工程と、
前記き裂進展下限界値から前記試験片の許容欠陥寸法a th を求める工程とをさらに備える、算出方法。
【請求項2】
前記測定する工程は、150MHz以上の高周波超音波により行なわれる、請求項1に記載の算出方法。
【請求項3】
前記測定する工程は、200MHz以上の高周波超音波により行なわれる、請求項1または2に記載の算出方法。
【請求項4】
前記測定する工程の後に、前記き裂の長さが測定された前記試験片に再度、転動疲労を与える再疲労工程と、
前記再疲労工程の後に再度、前記試験片の前記き裂の長さを測定する再測定工程とを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項5】
き裂進展試験方法を用いた算出方法であって、前記き裂進展試験方法は、
微小穴が形成された試験片を準備する工程と、
前記試験片の上で転動体を複数回転動させ前記試験片に転動疲労を与える工程と、
前記転動疲労が与えられた前記試験片に生じたき裂の前記微小穴からの長さを測定する工程と、
前記測定する工程の後に、前記き裂の長さが測定された前記試験片に再度、転動疲労を与える再疲労工程と、
前記再疲労工程の後に再度、前記試験片の前記き裂の長さを測定する再測定工程とを備え
前記転動疲労を与える工程により前記試験片に生じる前記き裂の前記微小穴からの長さは、前記微小穴の径より長く、
前記き裂進展試験方法による第1の試験の結果を基に、前記微小穴の径より長い前記き裂の先端における応力拡大係数の範囲を算出する工程と、
前記応力拡大係数の範囲を算出する工程の後、第2の試験としての、前記試験片に対し再度前記転動疲労を与える工程と、再度前記測定する工程を行ない前記試験片の前記き裂の進展の有無を確認する工程とをさらに備え、
前記進展の有無を確認する工程の結果を基に、前記応力拡大係数の範囲の値を変更しながら前記き裂が進展しなくなるまで前記第2の試験を繰り返すことにより、前記き裂のき裂進展下限界値を求める工程と、
前記き裂進展下限界値から前記試験片の許容欠陥寸法a th を求める工程とをさらに備える、算出方法。
【請求項6】
前記測定する工程および前記再測定工程は、100MHz以上の高周波超音波により行なわれる、請求項5に記載の算出方法。
【請求項7】
前記測定する工程および前記再測定工程の少なくともいずれかは、150MHz以上の高周波超音波により行なわれる、請求項5または6に記載の算出方法。
【請求項8】
前記測定する工程および前記再測定工程の少なくともいずれかは、200MHz以上の高周波超音波により行なわれる、請求項5~7のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項9】
前記試験片を準備する工程において、前記微小穴を起点として5μm以上の初期き裂が形成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項10】
前記試験片を準備する工程において前記試験片に形成される前記微小穴は前記径が0.1mm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項11】
前記応力拡大係数の範囲ΔKIIは、前記第1の試験により得られた前記き裂の前記微小穴の平面視での中心からの長さをa、前記転動体が前記試験片に与える最大面圧をPmaxとすると、
【数1】

で求められる、請求項1~10のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項12】
前記き裂進展下限界値は、前記試験片に前記き裂を進展させないことが可能な前記応力拡大係数の範囲の最大値ΔKIIthであり、
前記許容欠陥寸法athは、
【数2】

のΔKIIに前記き裂進展下限界値ΔKIIthを代入したときのaの値として求められる、請求項1~11のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項13】
前記試験片は、スラスト軸受およびラジアル軸受のいずれかの軌道輪である、請求項1~12のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項14】
対象物を準備する工程と、
前記対象物における許容欠陥寸法を超える欠陥の有無を検査する工程とを備える検査方法であり、
前記検査する工程においては、前記対象物に含まれる前記欠陥が、請求項1または5に記載の算出方法により得られる前記許容欠陥寸法以下の寸法であるか否かが検査される、検査方法。
【請求項15】
前記検査する工程は10MHz以上の高周波超音波を用いた超音波探傷法によりなされる、請求項14に記載の検査方法。
【請求項16】
前記検査する工程は放射線透過試験によりなされる、請求項14に記載の検査方法。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載の検査方法を用いた軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、き裂進展試験方法、許容欠陥寸法の算出方法、検査方法および軸受の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受を構成する外輪および内輪は、転動体から繰り返し応力を受ける。これにより、外輪および内輪を構成する材料が疲労し、やがてき裂が生じて進展する。このような疲労破壊現象は、転がり軸受に限らず他の金属材料においても生じる。したがって、金属材料の疲労およびそれに伴うき裂の発生、進展について知っておくことは、その材料の疲労寿命を推定し安全に利用する上で重要である。
【0003】
たとえば特開2015-28441号公報(特許文献1)には、微小穴が形成された試験片に対して転動疲労を与え、微小穴の底部に形成されたエッジ部からのき裂の長さを確認する試験方法が提案されている。さらに特開2015-28441号公報では、応力拡大係数範囲とき裂進展速度との関係を示す疲労き裂進展速度線図が開示されており、これにより、軸受の使用条件に応じた疲労寿命の推定がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-28441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2015-28441号公報に開示されるき裂進展試験においては、き裂の長さを確認するために、試験片を切断し、断面観察を行なっている。すなわち特開2015-28441号公報においては、き裂の長さを測定する際に試験片を切断してしまう。このため、いったんき裂の長さを測定してしまうとその試験片を用いてき裂をさらに進展させる試験を行なうことは不可能である。そこで特開2015-28441号公報では、転動疲労のための負荷を与える回数が異なる複数の試験片を準備し、複数の試験片ごとに異なる長さのき裂を生じさせることによりそのき裂の評価を行なっている。
【0006】
しかしながら、き裂の進展速度は、試験片に設けられた微小穴の深さ、き裂先端の応力場、およびき裂周辺の組織の違いの影響を受ける。したがって異なる長さのき裂の評価がすべて別個の試験片によりなされた場合、試験片ごとに上記の各パラメータにばらつきが存在するために測定結果がそれらの影響を受け、単純に転動疲労の負荷を与える回数以外の各パラメータのばらつきの影響が加味された測定結果が得られる。
【0007】
つまり異なるき裂長さ間の評価がすべて同一の、すなわち単一の試験片によりなされることが、上記試験片ごとのばらつきの影響を無くすことができるため理想的である。そのためには試験片にある回数の負荷を加えるごとに形成されるき裂の長さを、試験片を切断することなく測定し、その後その試験片と同一の試験片を用いてさらに負荷を加えき裂を進展させながら再度き裂の長さを測定するという手法を用いることが要求される。
【0008】
試験片を破壊せずにそのき裂長さを測定する方法として超音波を用いた測定が挙げられる。しかし従来は数十MHz程度の低い周波数の超音波により測定されていたため、き裂長さを正確に測定することが困難であった。つまりこのような低い周波数の超音波を用いても、上記のようにき裂の進展の処置とき裂の長さの測定とを繰り返すことはできなかった。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものである。その目的は、試験片ごとのばらつきの影響を含まない、高精度なき裂進展試験方法、許容欠陥寸法の算出方法、検査方法および軸受の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1例に従ったき裂進展試験方法では、微小穴が形成された試験片が準備される。試験片の上で転動体を複数回転動させ試験片に転動疲労が与えられる。転動疲労が与えられた試験片に生じたき裂の微小穴からの長さが測定される。上記測定する工程は、100MHz以上の高周波超音波により行なわれる。
【0011】
本開示の第2例に従ったき裂進展試験方法では、微小穴が形成された試験片が準備される。試験片の上で転動体を複数回転動させ試験片に転動疲労が与えられる。転動疲労が与えられた試験片に生じたき裂の微小穴からの長さが測定される。上記測定される工程の後に、き裂の長さが測定された試験片に再度、転動疲労を与える再疲労工程がなされる。上記再疲労工程の後に再度、試験片のき裂の長さを測定する再測定工程がなされる。
【発明の効果】
【0012】
上記によれば、試験片ごとのばらつきの影響を含まない、高精度なき裂進展試験方法、許容欠陥寸法の算出方法、検査方法および軸受の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態のき裂進展試験方法を示すフローチャートである。
図2】本実施の形態に係るき裂進展試験に用いられる試験片と転動体との態様を示す概略図である。
図3図2中のIII-III線に沿う部分の概略断面図である。
図4】本実施の形態のき裂進展試験方法を用いて微小穴から形成されたき裂長さを測定した結果を、SEM(Scanning Electron Microscope)による測定結果と比較したグラフである。
図5】実施の形態2におけるき裂の応力拡大係数の範囲、および試験片の許容欠陥寸法の算出方法を示すフローチャートである。
図6】実施の形態2の算出方法が行われる態様を示す、図3と同一部分の概略図である。
図7】実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第1例を示す概略断面図である。
図8】実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第2例を示す概略断面図である。
図9】実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第3例を示す概略断面図である。
図10】実施の形態3における軌道輪の欠陥の有無を調べる検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態に係るき裂進展試験方法について図に基づいて説明する。図1は、本実施の形態のき裂進展試験方法を示すフローチャートである。図1を参照して、まずき裂進展試験に用いられる、微小穴を有する試験片が準備される(S10)。
【0015】
図2は、本実施の形態に係るき裂進展試験に用いられる試験片と転動体との態様を示す概略図である。図2を参照して、たとえば一般の転がり軸受の外輪および内輪を構成する高炭素クロム軸受鋼SUJ2製の試験片1が準備される。試験片1はたとえば図2においては円盤形状である。しかし図2の試験片1の形状はあくまで1例であり、これに限らず他の任意の形状とすることができる。
【0016】
試験片1のたとえば円形の主表面1a上には、微小穴2が形成される。微小穴2はたとえばドリル加工により形成される。試験片1に形成される微小穴2は径が0.02mm以上の円形またはこれに近い形状を有する楕円形の平面形状である。ここで径とは、形成された微小穴2の平面視における寸法の最大値(たとえば楕円形であれば長軸の長さ)を意味し、言い換えれば当該微小穴2の平面形状が外接する仮想円の直径を意味する。
【0017】
主表面1a上には転動体軌道3が設けられる。転動体軌道3は、転動疲労試験を行なうための転がり軸受を構成する転動体4が主表面1a上を複数回転動し試験片1に負荷を与えるための軌道である。転動体軌道3はたとえば微小穴2を通り、円形の主表面1aよりも半径の小さい円環形状である。しかしこれに限らず転動体軌道3は他の任意の形状とすることができる。いずれにせよ転動体軌道3は微小穴2が形成された領域を通っている。
【0018】
図3図2中のIII-III線に沿う部分の概略断面図である。図3を参照して、試験片1を準備する工程においては、微小穴2を起点として、5μm以上の初期き裂5が形成されている。初期き裂5はたとえば104回程度の転動疲労により発生される。図3では模式的に微小穴2を内壁面が図の上下方向に延び、最下部のみ尖った形状としているが、これはあくまで1例であり、微小穴2の断面形状はこれに限られない。たとえば微小穴2は半球状であってもよい。図3においては微小穴2の内壁面が図の上下方向に延びる部分の最下部であり、内壁面が尖るように傾斜した部分との境界の屈曲部を起点として、ほぼ水平方向に延びるように初期き裂5が発生している。図3では初期き裂5の延びる長さをa’としている。
【0019】
図1を再度参照して、次に、図2および図3のように準備された試験片1への転動疲労寿命試験がなされる(S20)。つまり図2に示すように、試験片1の主表面1a上のたとえば転動体4が、転動体軌道3に沿うように複数回転動されることで、試験片1に転動疲労が与えられる。
【0020】
次に、ある回数だけ転動体4の転動が繰り返されたところで、転動体4の転動がいったん終了し、試験片1のき裂の長さが測定される(S30)。つまり、転動疲労が与えらえた試験片1に初期き裂5から延びるように形成されたき裂の長さが測定される。ここでは微小穴2(の外縁)からの、当該き裂の長さが測定される。このき裂の長さの測定は、試験片1を切断することなく、100MHz以上の高周波超音波によりなされる。なお当該測定は150MHz以上の高周波超音波によりなされることがより好ましく、その中でも200MHz以上の高周波超音波によりなされることがいっそう好ましい。
【0021】
次に、上記(S30)にてき裂の長さが測定された後に、当該き裂の長さが測定された試験片1に再度、転動疲労試験により転動疲労が与えられる(S20)。ここでは先の(S20)と全く同じ処理、すなわち転動体4を複数回転動させ試験片1に転動疲労を与える処理が、先の(S20)の処理がなされた試験片1と同一の試験片1に対して再度なされる。この再疲労工程により、当該試験片1に形成されていたき裂はさらに進展し、その長さが長くなる。
【0022】
次に、転動疲労寿命試験が再度なされた当該試験片1に対して再度、試験片1のき裂の長さを測定する再測定工程がなされる(S30)。ここでも上記と同様に、き裂の長さの測定は、試験片1を切断することなく、100MHz以上の高周波超音波によりなされる。なお当該測定は150MHz以上の高周波超音波によりなされることがより好ましく、その中でも200MHz以上の高周波超音波によりなされることがいっそう好ましい。
【0023】
以上のように本実施の形態では、同一の(単一の)試験片1に対して(S20)と(S30)とが繰り返される。これにより、様々な回数の負荷を加えたときのそれぞれにおいて形成されるき裂の長さが、単一の試験片1により求められる。
【0024】
図4は、本実施の形態のき裂進展試験方法を用いて微小穴から形成されたき裂長さを測定した結果を、SEM(Scanning Electron Microscope)による測定結果と比較したグラフである。横軸は、本実施の形態のき裂進展試験方法による試験片と同条件で準備された試験片のき裂の長さをSEMで測定した結果を示している。縦軸は、当該本実施の形態の超音波を用いた測定方法、および比較例としての光学顕微鏡を用いた測定方法によるき裂の長さの測定結果を示している。なお本実施の形態の超音波を用いた測定方法においては、き裂の測定には200MHzの高周波超音波が用いられた。また比較例としての光学顕微鏡を用いた測定方法においては、微小穴から延びるき裂の長さが、試験片の切断による断面観察により測定された。なおSEMによる測定結果も各試験片を切断し断面を観察した結果であるが、ここではこの測定結果を高精度とみなしている。つまりSEMによる測定結果と各方法での測定結果との差異を考察することにより、各方法での測定結果の精度を検証している。またグラフ中の数式のxは横軸、yは縦軸を示している。
【0025】
図4を参照して、データをプロットして得られる直線の傾きの値は、「超音波」すなわち本実施の形態の方法を用いた方が、「光学顕微鏡」すなわち比較例の方法を用いるよりも1に近い。すなわち本実施の形態の方法により、比較例の方法よりも高精度にき裂の長さが測定出来ていることがわかる。また得られた直線に対する個々のデータのばらつきの値を示すR2は、本実施の形態の方法により比較例の方法よりも大きな値が得られている。すなわち本実施の形態の方法により、比較例の方法よりもばらつきが小さくなっていることがわかる。
【0026】
図4の結果をもとに、以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0027】
本開示の第1例に従ったき裂進展試験方法においては、微小穴2が形成された試験片1が準備される。試験片1の上で転動体4を複数回転動させ試験片1に転動疲労が与えられる。転動疲労が与えられた試験片1に生じたき裂の微小穴2からの長さが測定される。上記測定する工程は、100MHz以上の高周波超音波により行なわれる。
【0028】
本開示の第2例に従ったき裂進展試験方法においては、微小穴2が形成された試験片1が準備される。試験片1の上で転動体4を複数回転動させ試験片1に転動疲労が与えられる。転動疲労が与えられた試験片1に生じたき裂の微小穴2からの長さが測定される。測定する工程の後に、き裂の長さが測定された試験片1に再度、転動疲労を与える再疲労工程がなされる。再疲労工程の後に再度、試験片1のき裂の長さを測定する再測定工程がなされる。
【0029】
転動疲労寿命試験により試験片1に生じたある長さのき裂が、たとえば上記第1例のように100MHz以上の超音波を用いて試験片1を破壊することなく測定される。このようにすれば、上記第1例および第2例のいずれにおいても、数十MHz程度の低い周波数の超音波を用いて測定した場合に比べて高い精度の測定結果が得られる。このためその後にさらに長いき裂を測定しき裂の長さを測定する際にも、その破壊されていない試験片1を再度使い回すことができる。このため本実施の形態によれば、たとえば複数の試験片1を用いて測定する際に各試験片1間に発生するばらつき(測定結果に影響する)を含まない高精度な測定結果を得ることができる。
【0030】
上記により、き裂進展下限界およびき裂進展速度についてもより正確に試験確認できる。具体的には、まずき裂進展下限界について、試験片にある回数の負荷すなわち転動疲労を与え、当該外輪および内輪などに形成されるき裂進展が小さかった場合に、これまでき裂は進展せずに停留していると判断されていた。しかしこれまではき裂が本当に進展せず停留していたかどうかについて確認できなかった。これは初期き裂の長さが不明であったためである。しかし本実施の形態によれば、1つの試験片1に対して、任意の回数の負荷を与えた前後におけるき裂長さを測定することができる。このためき裂が進展せず停留していたかどうかを、転動疲労寿命試験の前後におけるき裂の長さを自由に測定比較することにより確認できる。
【0031】
またき裂進展速度については、これまでは複数の試験片のそれぞれに与える負荷すなわち転動疲労の回数を変更し形成されるき裂長さについての試験を実施することで、その結果から推定されていた。しかし本実施の形態によれば、1つの試験片1に対して非破壊で複数回、き裂の形成とその長さの測定とを繰り返すことができる。このため1つのき裂に対して、その進展を確認しながらき裂進展試験を実施できる。これにより、従来よりいっそう正確にき裂進展速度が確認できる。
【0032】
上記の本開示の第1例に従ったき裂進展試験方法において、上記測定する工程は、150MHz以上の高周波超音波により行なわれることが好ましい。上記の本開示の第1例に従ったき裂進展試験方法において、上記測定する工程は、200MHz以上の高周波超音波により行なわれることが好ましい。これにより、いっそう高精度にき裂の長さを測定することができる。
【0033】
上記の本開示の第1例に従ったき裂進展試験方法において、測定する工程の後に、き裂の長さが測定された試験片1に再度、転動疲労を与える再疲労工程がなされ、再疲労工程の後に再度、試験片1のき裂の長さを測定する再測定工程がなされてもよい。このことによる作用効果は上記のとおりである。なおこの再測定工程においても100MHz以上、より好ましくは150MHz以上、さらに好ましくは200MHz以上の高周波超音波により行なわれることが好ましい。
【0034】
上記の本開示の第2例に従ったき裂進展試験方法において、上記測定する工程および上記再測定工程は、100MHz以上、より好ましくは150MHz以上、さらに好ましくは200MHz以上の高周波超音波により行なわれることが好ましい。このことによる作用効果は上記のとおりである。
【0035】
上記の本開示の第1例および第2例に従ったき裂進展試験方法において、試験片1を準備する工程において試験片1に形成される微小穴2は径が0.1mm以下であることが好ましい。これは試験片1の材料中に実際に含まれる非金属介在物の大きさが0.1mm以下であることと、転動体4と転動体軌道3との接触部にて微小穴2の影響が大きくなるのを防ぐこととに起因する。このようにすれば、付与された負荷以外の影響を極力受けずにき裂を進行させることができ、測定結果の信頼性をより高めることができる。
【0036】
上記の本開示の第1例および第2例に従ったき裂進展試験方法において、試験片1を準備する工程において、微小穴2を起点として5μm以上の初期き裂5が形成されることが好ましい。このようにすれば、付与された負荷以外の影響を極力受けずにき裂を進行させることができ、測定結果の信頼性をより高めることができる。
【0037】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、試験片に形成されたき裂から、モードIIと呼ばれるせん断型の疲労き裂進展におけるき裂の応力拡大係数の範囲、および試験片の許容欠陥寸法の算出方法が説明される。図5は、実施の形態2におけるき裂の応力拡大係数の範囲、および試験片の許容欠陥寸法の算出方法を示すフローチャートである。図6は、実施の形態2の算出方法が行われる態様を示す、図3と同一部分の概略図である。図5および図6を参照して、実施の形態1(図1)に示した工程と同様のき裂進展試験方法の工程がなされる。すなわちまずき裂進展試験に用いられる、微小穴2を有する試験片が準備される(S10)。微小穴2の径Dは実施の形態1と同様に0.1mm以下であることが好ましい。微小穴2の径Dは、微小穴2が円形の平面形状を有する場合はその直径であり、円形でない場合にはその平面視における寸法の最大値(たとえば楕円形であれば長軸の長さ)である。また微小穴2の平面視での中心とは微小穴2の平面視での重心の位置であり、微小穴2が円形または楕円形の平面形状であればその中心と重心との位置は一致する。準備された試験片1への転動疲労寿命試験がなされ、転動体4が複数回転動される(S20)。転動疲労が与えらえた試験片1に微小穴2から形成されたき裂5Aの長さa1が測定される(S30)。このき裂5Aの長さa1の測定は、100MHz以上の高周波超音波によりなされる。
【0038】
本実施の形態においては、き裂5Aの長さの測定において、き裂5Aの微小穴2からの長さa1が微小穴2の径Dより長いかどうかが評価される。そして当該き裂5Aの長さa1が微小穴2の径Dより長ければ、上記の各工程からなる第1の試験は終了する。き裂5Aの長さa1が微小穴2の径D以下であれば、再度同一の試験片1を用いて、転動疲労寿命試験(S20)およびき裂5Aの長さの測定(S30)が上記と同様になされる。き裂5Aの長さa1が微小穴2の径Dより長くなるまで、同一の試験片1に対する工程(S20)および工程(S30)が繰り返される。なお微小穴2から形成されるき裂5Bの、微小穴2からき裂先端5Qまでの長さは、上記a1と等しくても等しくなくてもよい。複数のき裂が形成される場合、その少なくともいずれかのき裂の長さがDより長くなればよい。ここまでの各工程を第1の試験とする。
【0039】
次に、上記第1の試験の結果、すなわち微小穴2の径よりも長くなったき裂5Aの長さを基に、微小穴2の径Dよりも長い寸法a1を有するき裂5Aの先端であるき裂先端5Pにおける応力拡大係数の範囲ΔKIIが算出される(S40)。この算出には以下の式(1)が用いられる。
【0040】
【数1】
【0041】
応力拡大係数の範囲ΔKIIの単位は(MPa√m)である。式(1)の応力拡大係数の範囲ΔKIIは、試験片1の転動体軌道3上に転動体4を転動させた際の応力拡大係数の変化量を示す値である。つまりたとえば図3に示す転動体軌道3上を図6に矢印Mで示す方向(右向き)に転動体4が転動する際には、転動体4は転動体軌道3(主表面1a)に対し、図6に示すおよそ放物線状の分布を有する応力を加える。当該応力のうち最大のもの(放物線の頂点に存在する)はPmaxで示される最大面圧である。この応力分布が図6の左側から右側に移動するために、たとえば左側のき裂5Bのき裂先端5Qにおける応力拡大係数は、き裂先端5Qへの転動体4の接近時と通過時と通過後とのそれぞれで異なる値となる。右側のき裂5Aのき裂先端5Pにおける応力拡大係数についても同様である。このそれぞれ異なる応力拡大係数の値のうち最大値と最小値との差が、応力拡大係数の範囲ΔKIIで表される。式(1)での係数0.136は、応力拡大係数の最大値および最小値を求めるための係数の値の差に対応する。また少なくとも式(1)でのaは、微小穴2の平面視での中心からき裂5Aの先端(き裂先端5P)までの距離である。つまりaは微小穴2の径Dの半分D/2を含んだき裂5Aの半径を示している。一方、上記の長さa1は、き裂5Aのみの長さ、すなわち(微小穴2の直径Dの分を含まず)微小穴2の外縁からき裂先端5Pまでの距離としてのき裂5Aの長さである。長さa1は微小穴2の直径Dよりも長い。したがって図6に示すようにaとa1とは異なる値であり、a1<aである。Pmaxおよびaの値を式(1)に代入することにより、ΔKIIが求められる。ここでは一例として説明のため、算出された応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を3MPa√mとする。
【0042】
応力拡大係数の範囲ΔKIIを算出する工程の後、ここまでの各工程に用いられた試験片1と同一の試験片1に対し、再度転動疲労寿命試験が行われる(S50)。つまりここまでの各工程に用いられた試験片1と同一の試験片1に対し、先に求めたΔKII、もしくはそれ以上の条件下で転動体4を転動させる。ΔKIIの値の変更は、たとえば最大面圧Pmaxの値を変更することによりなされる。そして再度、試験片1のき裂5Aの長さa1が測定され(S60)、先に測定された長さa1との比較により当該試験片1のき裂5Aの進展の有無が確認される。ここまでの各工程(S50),(S60)を第2の試験とする。
【0043】
一例として説明のため、工程(S50)においてΔKIIの値が5MPa√mの条件下で試験がなされ、工程(S60)によりき裂5Aの進展が確認されたとする。この結果を基に、応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を変更しながら、き裂5Aが進展しなくなるまで上記第2の試験が繰り返される。具体的には、ΔKIIの値が5MPa√mの場合にき裂5Aの進展が確認されれば、次はたとえばΔKIIの値が4MPa√mの条件下で再度転動疲労を与え、再度き裂を測定する。そしてΔKIIの値が4MPa√mの条件下でき裂5Aの進展が進んでいれば、さらに応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を下げて工程(S50)および工程(S60)からなる第2の試験をさらに行なう。ΔKIIを4MPa√mにすることによりき裂5Aの進展が止まれば、その時のΔKIIである4MPa√mがき裂5Aのき裂進展下限界値ΔKIIthとして求められる(S70)。あるいはΔKIIを4MPa√mにすることによりき裂5Aの進展が止まれば、逆にΔKIIをたとえば4.5MPa√mに上昇させて同様にき裂5Aの進展の有無を調べてもよい。このように応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を変えながら(たとえば下げながら)試験を繰り返すことにより、き裂5Aが進展しなくなるときのΔKIIの最大値がΔKIIthとして求められる。言い換えればき裂5Aが進展するΔKIIとき裂5Aが進展しないΔKIIとの境界の値がΔKIIthとして求められる。さらに言い換えれば、き裂進展下限界値ΔKIIthは、試験片1にき裂5Aを進展させないことが可能な応力拡大係数の範囲ΔKIIの最大値である。応力拡大係数の範囲ΔKIIの値がき裂進展下限界値ΔKIIthの値を超える場合には、き裂5Aが進展する。
【0044】
求められたき裂進展下限界値ΔKIIthから、試験片1の許容欠陥寸法athが算出される(S80)。具体的には、上記の式(1)のΔKIIに工程(S70)で求められたΔKIIthであるたとえば4MPa√m、およびその試験の際に付加された最大面圧Pmaxを代入することにより一義的に求められるaの値が、許容欠陥寸法athとして求められる。
【0045】
図7は、実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第1例を示す概略断面図である。図7を参照して、試験片1はたとえばラジアル軸受101の軌道輪であってもよい。ラジアル軸受101は、外輪1Aと内輪1Bとを有している。これらの軌道輪が試験片1として用いられてもよい。複数の転動体4は外輪1Aと内輪1Bとの間で転動する。複数の転動体4は保持器15により周方向に間隔を有するように配置される。
【0046】
図8は、実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第2例を示す概略断面図である。図8を参照して、試験片1はたとえばスラスト軸受102の軌道輪であってもよい。スラスト軸受102は、軸軌道盤1Cとハウジング軌道盤1Dとを有している。これらの軌道輪が試験片1として用いられてもよい。複数のころとしての転動体4は軸軌道盤1Cとハウジング軌道盤1Dとの間で転動する。複数の転動体4は保持器15により周方向に間隔を有するように配置される。図8のスラスト軸受102は、軌道輪としての軸軌道盤1Cおよびハウジング軌道盤1Dが転動体4と接触する軌道面に溝が設けられていない、いわゆる平板軌道輪である。このように軌道輪は平板であってもよい。
【0047】
図9は、実施の形態2の算出方法に用いられる試験片を含む軸受の第3例を示す概略断面図である。図9を参照して、試験片1はたとえばスラスト軸受103の軌道輪であってもよい。スラスト軸受103は、複数の玉としての転動体4が軸軌道盤1Cとハウジング軌道盤1Dとの間で転動する。図9のスラスト軸受102は、軌道輪としての軸軌道盤1Cおよびハウジング軌道盤1Dが転動体4と接触する軌道面に溝が設けられている。以上の点においてスラスト軸受103はスラスト軸受102と異なるが他の点については同様であるためここでは説明を繰り返さない。
【0048】
以上のように、本実施の形態においては、試験片1はスラスト軸受102,103およびラジアル軸受101のいずれかの軌道輪であってもよい。本実施の形態の算出方法に用いられるこれらの試験片1(軌道輪)は、後に品質の検査を行なうことを予定する製品の軌道輪と同一の材質であることが好ましい。これにより、算出結果を用いた後述の実製品の品質保証の信頼性をより高められる。
【0049】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0050】
本実施の形態の算出方法は、実施の形態1に記載のき裂進展試験方法を用いた算出方法である。転動疲労を与える工程により試験片1に生じるき裂5Aの微小穴2(の外縁)からの長さa1は、微小穴2の径Dより長い。上記実施の形態1に記載のき裂進展試験方法による第1の試験の結果を基に、微小穴2の径より長いき裂5Aの先端であるき裂先端5Pにおける応力拡大係数の範囲ΔKIIが算出される(S40)。
【0051】
応力拡大係数の範囲ΔKIIは、上記第1の試験により得られたき裂5Aの微小穴2の平面視での中心からの長さをa、転動体4が試験片1に与える最大面圧をPmaxとすると、以下の式(1)で求められる。
【0052】
【数2】
【0053】
ところで微小穴2がドリル加工により形成されると、当該微小穴2の周辺には応力集中が発生する。このため微小穴2から形成されたき裂5Aの先端であるき裂先端5Pは、応力集中の影響を受ける。具体的には微小穴2が形成された試験片1には、微小穴2が形成されない試験片1に比べて大きな応力がき裂先端5Pに働く。一方、上記の式(1)は一般に知られる式であるが、これは微小穴2を有さないいわゆる円盤き裂モデルに適用することを前提とした式である。このためドリル加工により微小穴2が形成された系におけるき裂先端5Pでの応力拡大係数の範囲ΔKIIを求めると、実際の数値との間に誤差が生じる。上記のように微小穴2を有する試験片1のき裂5Aには、微小穴2を有さない試験片1のき裂5Aよりも大きな応力が生じることにより、その大きな応力の分だけ誤差が生じるためである。このため上記式(1)を、試験片1に微小穴2から生じさせたき裂5Aを有するモデルに対してそのまま適用することは困難であった。また微小穴2を有するモデルに対する応力拡大係数の範囲ΔKIIを高精度に求める計算式についてはいまだ確立されていない。
【0054】
そこで本実施の形態においては上記のように、微小穴2(の外縁)からのき裂5Aの長さa1を、微小穴2の径Dよりも長くする。サン・ブナンの原理により、き裂5Aの微小穴2(の外縁)からの長さa1を微小穴2の径Dよりも大きくすれば、き裂先端5Pは微小穴2による応力集中の影響を受けない。このためa1がDよりも大きい系においては、円板き裂モデルを前提とした公知の式(1)を用いて、き裂先端5Pにおける応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を高精度に算出できる。なお本実施の形態においては、微小穴2の外縁からのき裂5Aの長さa1を、微小穴2の径Dの2倍よりも長くすることがより好ましい。すなわち本実施の形態は、微小穴2を有するモデルに対して、微小穴2を有さないことを前提とした公知の式(1)を用いて応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を算出することを可能とする方法として、鋭意研究により導き出されたものである。
【0055】
上記算出方法においては、応力拡大係数の範囲ΔKIIを算出する工程(S40)の後、第2の試験としての、上記試験片1に対し再度転動疲労を与える工程(S50)と、再度き裂5Aの長さa1を測定する工程(S60)を行ない試験片1のき裂5Aの進展の有無を確認する工程とをさらに備える。上記進展の有無を確認する工程の結果を基に、応力拡大係数の範囲ΔKIIの値を変更しながら、き裂5Aが進展しなくなるまで第2の試験を繰り返すことにより、き裂5Aのき裂進展下限界値ΔKIIthが求められる(S70)。上記き裂進展下限界値ΔKIIthから試験片1の許容欠陥寸法athが求められる。
【0056】
上記のようにΔKIIが誤差なく高精度に求められるため、これを基に求められたき裂進展下限界値ΔKIIthも誤差なく高精度に求められる。その結果、高精度に求められたΔKIIthから求められる許容欠陥寸法athの値も誤差なく高精度に求められる。き裂進展下限界値ΔKIIthは、試験片1にき裂5Aを進展させないことが可能な応力拡大係数の範囲ΔKIIの最大値である。許容欠陥寸法athは、以下の式(1)のΔKIIに前記き裂進展下限界値ΔKIIthを代入したときのaの値として求められるためである。
【0057】
【数3】
【0058】
また許容欠陥寸法athにより、後述するように、実製品の品質保証の検査において、当該製品が良品か不良品かの判断を、製品に含まれる欠陥の寸法を調べることで判定可能となり、検査工程を簡素化できる。また当該検査工程の信頼度を高めることができる。
【0059】
(実施の形態3)
図10は、実施の形態3における軌道輪の欠陥の有無を調べる検査方法を示すフローチャートである。図10を参照して、本実施の形態では、実施の形態2にて求められた許容欠陥寸法athの値を基準値として、実際の軸受の製品を構成する軌道輪(たとえば外輪または内輪)の内部に含まれる欠陥の検査方法が提供される。具体的には、まず対象物が準備される(S15)。ここで上記の通り、検査の対象物である、実際の軸受の製品の外輪または内輪などの軌道輪が準備される。
【0060】
次に、当該対象物における許容欠陥寸法を超える欠陥の有無が検査される(S25)。当該検査は、10MHz以上の高周波超音波を用いた超音波探傷法によりなされることが好ましい。あるいは当該検査は、放射線透過試験によりなされてもよい。このようにすれば非破壊検査により製品の全数に対する検査が可能となる。
【0061】
工程(S25)においては、対象物に含まれる欠陥のうち最大のものが、実施の形態2で得られた許容欠陥寸法ath以下の寸法であるか否かが検査される。対象物に含まれる欠陥のうち最大のものの寸法が許容欠陥寸法ath以下であれば当該製品は合格であり、許容欠陥寸法athを超えれば当該製品は不合格となる。
【0062】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0063】
本実施の形態の検査方法においては、対象物が準備され、当該対象物における許容欠陥寸法を超える欠陥の有無が検査される。当該検査する工程においては、当該対象物に含まれる欠陥が、実施の形態2に記載の算出方法により得られる許容欠陥寸法ath以下の寸法であるか否かが検査される。
【0064】
実施の形態2により高精度に求められた許容欠陥寸法athの値を基準に、実際の製品を検査することで、当該製品の良否が判定できる。このため、たとえば実際の製品のき裂進展下限界値ΔKIIthのように算出が複雑なパラメータを用いることなく、欠陥の寸法という検出が容易なパラメータを用いて、簡素にかつ信頼性高く、実製品を検査することができる。このように、応力拡大係数の範囲ΔKIIを高精度に求めれば、そこからき裂進展下限界値ΔKIIthおよび許容欠陥寸法athを高精度に求めることを、信頼性の高い製品の品質保証に応用することができる。したがって以上の検査方法を用いた軸受の製造方法は、き裂が進展する欠陥を有さない高品質な軌道輪、および当該軌道輪を含む高品質な軸受を提供することができる。
【0065】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 試験片、1a 主表面、1A 外輪、1B 内輪、1C 軸軌道盤、1D ハウジング軌道盤、2 微小穴、3 転動体軌道、4 転動体、5 初期き裂、5A,5B き裂、5P,5Q き裂先端、15 保持器、101 ラジアル軸受、102,103 スラスト軸受。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10