(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電池状態推定装置、電池状態推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240509BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2020136259
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山添 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】岩安 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】小森 啓礼
(72)【発明者】
【氏名】塙 信幸
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051442(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/098968(WO,A1)
【文献】特開2016-024149(JP,A)
【文献】特表2014-522488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の条件が非成立である場合に、電池の充電電流または放電電流である出力電流と、前記電池の出力電圧と、前記電池のセル表面温度と、に基づいて、前記電池の充電率の推定値である第1の推定充電率と、前記電池の電流オフセット値の推定値である電流オフセット推定値と、を逐次算出する第1の推定部と、
前記条件が成立する場合に、前記出力電流と、前記出力電圧と、前記セル表面温度と、前記条件が不成立状態から成立状態に変化した時の前記電流オフセット推定値である電流オフセット特定推定値と、に基づいて、前記電池の温度に関する偏差の推定値である温度偏差推定値と、前記充電率の他の推定値である第2の推定充電率と、を逐次算出する第2の推定部と、を備える
ことを特徴とする電池状態推定装置。
【請求項2】
前記第1の推定部は、
前記出力電圧と、前記出力電圧の推定値である電圧推定値との差である電圧差分値を算出する減算部と、
前記充電率に対応するゲインである充電率用ゲインを算出する充電率用ゲイン算出部と、
前記電流オフセット値に対応するゲインである電流オフセット値用ゲインを算出する電流オフセット値用ゲイン算出部と、を備え、
前記充電率用ゲイン、前記電流オフセット値用ゲイン、および前記電圧推定値に基づいて前記第1の推定充電率と前記電流オフセット推定値とを逐次算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項3】
前記温度偏差推定値は、前記電池のセル内部温度推定値と前記セル表面温度との差であり、
前記第2の推定部は、
前記出力電圧と、前記出力電圧の推定値である電圧推定値との差である電圧差分値を算出する減算部と、
前記充電率に対応するゲインである充電率用ゲインを算出する充電率用ゲイン算出部と、
前記セル内部温度推定値に対応するセル内部温度推定値用ゲインを算出するセル内部温度推定値用ゲイン算出部と、を備え、
前記充電率用ゲイン、前記セル内部温度推定値用ゲイン、および前記電圧推定値に基づいて、前記第2の推定充電率と前記セル内部温度推定値とを逐次算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項4】
前記条件は、前記セル表面温度と、前記電池の周囲温度との差分値が所定の温度差以上であるという条件である
ことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項5】
前記条件は、所定の電流値以上の前記出力電流が第1の所定時間以上継続し、または、過去、第2の所定時間内の電流量が所定値以上であるという条件である
ことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項6】
前記電池から充分に離れた位置に設けられ、前記電池の周囲温度を計測する一または複数の温度センサ部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項7】
所定の条件が非成立である場合に、電池の充電電流または放電電流である出力電流と、前記電池の出力電圧と、前記電池のセル表面温度と、に基づいて、前記電池の充電率の推定値である第1の推定充電率と、前記電池の電流オフセット値の推定値である電流オフセット推定値と、を逐次算出する第1の推定ステップと、
前記条件が成立する場合に、前記出力電流と、前記出力電圧と、前記セル表面温度と、前記条件が不成立状態から成立状態に変化した時の前記電流オフセット推定値である電流オフセット特定推定値と、に基づいて、前記電池の温度に関する偏差の推定値である温度偏差推定値と、前記充電率の他の推定値である第2の推定充電率と、を逐次算出する第2の推定ステップと、を備える
ことを特徴とする電池状態推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
所定の条件が非成立である場合に、電池の充電電流または放電電流である出力電流と、前記電池の出力電圧と、前記電池のセル表面温度と、に基づいて、前記電池の充電率の推定値である第1の推定充電率と、前記電池の電流オフセット値の推定値である電流オフセット推定値と、を逐次算出する第1の推定手段、
前記条件が成立する場合に、前記出力電流と、前記出力電圧と、前記セル表面温度と、前記条件が不成立状態から成立状態に変化した時の前記電流オフセット推定値である電流オフセット特定推定値と、に基づいて、前記電池の温度に関する偏差の推定値である温度偏差推定値と、前記充電率の他の推定値である第2の推定充電率と、を逐次算出する第2の推定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池状態推定装置、電池状態推定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1の要約には、「二次電池の充電状態を高精度に推定する装置。二次電池(30)の端子電圧を測定する電圧測定部(22)と、二次電池30の充放電電流を測定する電流測定部(23)と、二次電池(30)の充電状態SOCを推定する制御部(26)を備える。制御部(26)は、充放電電流から電流オフセットを差し引いた充放電電流を積算してSOCを推定する。また、測定モデルにより二次電池(30)の端子電圧を推定し、電圧測定部(22)で測定された端子電圧との誤差を用いて、推定された電流オフセットの第1補正値、及び推定されたSOCの第2補正値を算出し、電流オフセット及びSOCをそれぞれ補正する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、電池温度に基づいて二次電池の充電状態を推定できるが、充電状態を正確に推定することは困難であった。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、二次電池の充電状態を正確に推定できる電池状態推定装置、電池状態推定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の電池状態推定装置は、所定の条件が非成立である場合に、電池の充電電流または放電電流である出力電流と、前記電池の出力電圧と、前記電池のセル表面温度と、に基づいて、前記電池の充電率の推定値である第1の推定充電率と、前記電池の電流オフセット値の推定値である電流オフセット推定値と、を逐次算出する第1の推定部と、前記条件が成立する場合に、前記出力電流と、前記出力電圧と、前記セル表面温度と、前記条件が不成立状態から成立状態に変化した時の前記電流オフセット推定値である電流オフセット特定推定値と、に基づいて、前記電池の温度に関する偏差の推定値である温度偏差推定値と、前記充電率の他の推定値である第2の推定充電率と、を逐次算出する第2の推定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、二次電池の充電状態を正確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】好適な第1実施形態による電池状態推定装置のブロック図である。
【
図5】第1実施形態におけるSOC、セル表面温度、およびセル内部温度推定値の推移の一例を示す図である。
【
図6】第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【
図7】好適な第2実施形態による電池状態推定装置のブロック図である。
【
図8】好適な実施形態によるSOC推定の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図1は、好適な第1実施形態による電池状態推定装置200(コンピュータ)のブロック図である。
電池状態推定装置200は、二次電池である電池100の状態を推定するものであり、SOC・Io推定部210(第1の推定部、第1の推定手段)と、SOC・Ti推定部220(第2の推定部、第2の推定手段)と、ラッチ部230と、切換部240と、切換条件決定部250と、を備えている。電池100は、例えばリチウムイオン電池である。
【0009】
また、電池100には、電池100の状態を検出する電池センサ部150が装着されている。この電池センサ部150は、電池100の出力電圧V、出力電流Iおよびセル表面温度Tsを計測し、計測結果を電池状態推定装置200に供給する。ここで、出力電流Iは、充電電流および放電電流の双方を含む。また、温度センサ部160は、電池100の周囲温度Teを計測し、計測結果を電池状態推定装置200に供給する。
【0010】
SOC・Io推定部210は、出力電圧Vと、出力電流Iと、セル表面温度Tsと、に基づいて、電池100のSOC(state of charge;充電率)と、電流オフセット値Ioと、を推定する。SOC・Io推定部210が推定したSOCを、「推定充電率SOC1(第1の推定充電率)」と呼ぶ。また、推定した電流オフセット値Ioを「電流オフセット推定値Ioe」と呼ぶ。ラッチ部230は、SOC・Io推定部210が推定した電流オフセット推定値Ioeをラッチする。ラッチされた値を「電流オフセット特定推定値Ioes」と呼ぶ。
【0011】
SOC・Ti推定部220は、出力電圧Vと、出力電流Iと、セル表面温度Tsと、ラッチ部230にラッチされた電流オフセット特定推定値Ioesと、に基づいて、電池100のSOCと、電池100のセル内部温度Tiと、を推定する。SOC・Ti推定部220が推定したSOCを、「推定充電率SOC2(第2の推定充電率)」と呼ぶ。切換部240は、切換条件決定部250の制御に基づいて、推定充電率SOC1,SOC2のうち一方を選択し、その結果を推定充電率SOCEとして出力する。
【0012】
切換条件決定部250は、セル表面温度Tsと、周囲温度Teとの差分値「Ts-Te」が所定の閾値(例えば15℃)未満であれば、切換部240に対して推定充電率SOC1を選択させる。一方、差分値「Ts-Te」が該所定値以上になると、切換部240に対して推定充電率SOC2を選択させる。また、ラッチ部230は、選択される推定充電率がSOC1からSOC2に切り替わった時点における電流オフセット推定値Ioeをラッチする。これにより、ラッチ部230は、ラッチした結果である電流オフセット特定推定値IoesをSOC・Ti推定部220に供給し続ける。
【0013】
上述の差分値「Ts-Te」が上述の閾値(例えば15℃)以上になる場合とは、例えば、周囲温度Teが2℃であるときには、セル表面温度Tsが17℃を超える場合になる。これは、充放電電流によって電池100が相当に発熱しているということであり、電池100のセル内部温度Tiはさらに上昇していると考えられる。本実施形態においては、このような場合に推定充電率SOC2を推定充電率SOCEとして選択することにより、高精度にSOCを推定しようとしている。なお、周囲温度Teを計測するにあたっては、温度センサ部160を電池100、モータ(図示せず)等、発熱部品から遠ざけることが好ましい。また、複数個所に温度センサ部160を配置し、これらの計測温度のうち最低温度を周囲温度Teとして採用すると、さらに好ましい。
【0014】
図2は電池100の等価回路図である。
図2において、抵抗器106およびコンデンサ108は並列に接続され、並列回路122を構成している。また、抵抗器110およびコンデンサ112は並列に接続され、並列回路123を構成している。電池100は、電池100の開回路電圧OCVを出力する理想的電池102と、抵抗器104と、並列回路122と、並列回路123と、を直列に接続したものと等価であると考えることができる。
【0015】
抵抗器104,106,110の抵抗値をR
1,R
2,R
3とし、コンデンサ108,112の静電容量をC
2,C
3とする。また、並列回路122,123の時定数をτ
2,τ
3とする。電池100の内部には、等価的に出力電流Iと、電流オフセット値Ioとが流れていると考えることができる。また、電流オフセット値Ioは、出力電流Iの誤差値であると考えることができる。
図2において、抵抗器104における電圧降下は(I+Io)・R
1になる。また、並列回路122,123における電圧降下をVp1,Vp2とする。また、電池端子電圧CCVは、「OCV+(I+Io)・R
1+Vp1+Vp2」に等しくなる。
【0016】
図2に示した開回路電圧OCV、抵抗値R
1,R
2,R
3、静電容量C
2,C
3は、電池100の温度に応じて変化する。従って、温度域毎にこれらパラメータを設定することが好ましい。「電池100の温度」には、セル表面温度Tsとセル内部温度Tiとが考えられ、理想的にはセル内部温度Tiを用いることによって状態推定の精度を向上させることができる。しかし、通常の二次電池において、セル内部温度Tiは直接的には計測できないため、セル表面温度Tsとセル内部温度Tiとが同一であると仮定してSOC等を推定していた。このため、高精度にSOCを推定することが困難であった。そこで、本実施形態においては、電流誤差である電流オフセット値Ioと、温度偏差「Ti-Ts」とを切り分けて推定することにより、セル内部温度Tiを推定し、これによって高精度にSOCを推定するものである。
【0017】
図3はSOC・Io推定部210のブロック図である。
図3において、SOC・Io推定部210は、SOC推定部211と、Io推定部212と、CCV推定部213と、カルマンゲイン推定部214(充電率用ゲイン算出部)と、カルマンゲイン推定部215(電流オフセット値用ゲイン算出部)と、減算部216と、乗算部217a,217bと、加算部218a,218bと、を備えている。
【0018】
SOC推定部211には、推定充電率SOC1と、電流オフセット推定値Ioeと、出力電流Iと、が入力される。SOC推定部211は、入力されたデータに基づいて、推定充電率SOC1xを出力する。Io推定部212は、電流オフセット推定値Ioeと、所定の初期値Io_iniと、に基づいて、電流オフセット推定値Ioxを出力する。
【0019】
CCV推定部213は、電池端子電圧CCV(
図2参照)の推定値である電池端子電圧推定値CCVx(電圧推定値)を出力する。CCV推定部213は、予め、様々なSOCおよび温度に対応して、開回路電圧OCV、抵抗値R
1,R
2,R
3および時定数τ
2,τ
3を記録したテーブルを備えている。そして、入力された推定充電率SOC1xおよびセル表面温度Tsに基づいて開回路電圧OCV、抵抗値R
1,R
2,R
3および時定数τ
2,τ
3を特定し、これら特定したパラメータと、出力電流Iと、電流オフセット推定値Ioxと、に基づいて電池端子電圧推定値CCVxを出力する。減算部216は、出力電圧Vから電池端子電圧推定値CCVxを減算し、その結果を差分値ΔCCVとして出力する。
【0020】
カルマンゲイン推定部214は、逐次求められるSOC用のカルマンゲインGsoc(充電率用ゲイン)を出力する。また、カルマンゲイン推定部215は、逐次求められる電流オフセット値Io用のカルマンゲインGio(電流オフセット値用ゲイン)を出力する。乗算部217aは、差分値ΔCCVにカルマンゲインGsocを乗算し、乗算結果Gsoc・ΔCCVを出力する。乗算部217bは、差分値ΔCCVにカルマンゲインGioを乗算し、乗算結果Gio・ΔCCVを出力する。
【0021】
加算部218aは、推定充電率SOC1xに乗算結果Gsoc・ΔCCVを加算し、その加算結果を推定充電率SOC1として出力する。加算部218bは、電流オフセット推定値Ioxに乗算結果Gio・ΔCCVを加算し、その加算結果を電流オフセット推定値Ioeとして出力する。上述したSOC・Io推定部210の各要素は、所定の演算周期毎に演算結果を更新する。
【0022】
上記構成により、推定充電率SOC1および電流オフセット推定値Ioeは、下式(1),(2)に基づいて、逐次計算によって求められる。下式(1),(2)において、tは時刻であり、Δtは演算周期であり、Qはセルの満充電容量[Ah]である。
【数1】
【0023】
【0024】
図4はSOC・Ti推定部220のブロック図である。
図4において、SOC・Ti推定部220は、SOC推定部221と、Ti推定部222と、CCV推定部223と、カルマンゲイン推定部224(充電率用ゲイン算出部)と、カルマンゲイン推定部225(セル内部温度推定値用ゲイン算出部)と、減算部226と、乗算部227a,227bと、加算部228a,228bと、を備えている。
【0025】
SOC推定部221には、推定充電率SOC2と、出力電流Iと、ラッチ部230(
図1参照)にラッチされた電流オフセット特定推定値Ioesと、が入力される。SOC推定部221は、入力されたデータに基づいて、推定充電率SOC2xを出力する。
【0026】
Ti推定部222は、セル内部温度Tiの推定値であるセル内部温度推定値Tieと、セル表面温度Tsと、に基づいて、次の演算周期におけるセル内部温度推定値Tixと、温度偏差推定値ΔTxと、を逐次出力する。ここで、温度偏差推定値ΔTxは、セル内部温度推定値Tieとセル表面温度Tsとの差分である。CCV推定部223は、SOC・Io推定部210のCCV推定部213(
図3参照)と同様に、電池端子電圧推定値CCVxを出力する。但し、CCV推定部223は、推定充電率SOC1(
図3参照)に代えて、推定充電率SOC2に基づいて電池端子電圧推定値CCVxを出力する。減算部226は、出力電圧Vから電池端子電圧推定値CCVxを減算し、その結果を差分値ΔCCVとして出力する。
【0027】
カルマンゲイン推定部224は、逐次求められるSOC用のカルマンゲインGsocを出力する。また、カルマンゲイン推定部225は、逐次求められるセル内部温度Ti用のカルマンゲインGti(セル内部温度推定値用ゲイン)を出力する。乗算部227aは、差分値ΔCCVにカルマンゲインGsocを乗算し、乗算結果Gsoc・ΔCCVを出力する。乗算部227bは、差分値ΔCCVにカルマンゲインGtiを乗算し、乗算結果Gti・ΔCCVを出力する。
【0028】
加算部228aは、推定充電率SOC2xに乗算結果Gsoc・ΔCCVを加算し、その加算結果を推定充電率SOC1として出力する。加算部228bは、セル内部温度推定値Tixに乗算結果Gti・ΔCCVを加算し、その加算結果をセル内部温度推定値Tieとして出力する。上述したSOC・Ti推定部220の各要素は、上述した演算周期毎に演算結果を更新する。
【0029】
上記構成により、推定充電率SOC2およびセル内部温度推定値Tieは、下式(3),(4)に基づいて、逐次計算によって求められる。なお、上述した式(1),(2)と同様に、tは時刻であり、Δtは演算周期であり、Qはセルの満充電容量[Ah]である。また、電流オフセット特定推定値Ioesは一定値であり、セル内部温度推定値Tie(t)の初期値Tie(0)は、セル表面温度Tsである。
【数3】
【0030】
【0031】
〈第1実施形態の動作〉
次に、第1実施形態の動作を説明する。
図5は、第1実施形態におけるSOC、セル表面温度Ts、およびセル内部温度推定値Tieの推移の一例を示す図である。
図5において横軸は時刻であり、縦軸は温度およびSOCである。図示の例は、電池100のSOCが充分に高い状態(例えば90%)から、電池100を大電流で放電した場合の例である。これにより、電池100のセル表面温度Tsおよびセル内部温度推定値Tieは、時間の経過とともに高くなっている。また、周囲温度Teは一定であり、時刻t1以降は差分値「Ts-Te」が所定の温度差Tse(例えば15℃)よりも高くなっている。これにより、時刻t1以前は推定充電率SOCE(
図1参照)としてSOC1が選択され、時刻t1以降はSOC2が選択されている。
【0032】
一般的に、SOCを推定する場合、上述の式(1)のように電流積算してSOCを推定する場合が多い。その際、電流オフセット推定値Ioeに誤差があると、電流積算と共にSOC誤差が拡大する。しかし、電流オフセット値Ioは、時間経過による変動は小さい。一方、
図5に示した例においては、放電時間が経過するとともに、電池100のセル表面温度Tsが上昇し、セル内部温度推定値Tieはさらに上昇し、両者の差である温度偏差推定値ΔTxも大きくなってゆく。
【0033】
そこで、本実施形態においては、SOCを推定する初期段階、すなわち時刻t1以前に、推定充電率SOC1を算出しつつ、電流オフセット推定値Ioeの精度を上げておくことができる。そして、時刻t1における電流オフセット推定値Ioeを電流オフセット特定推定値Ioesとしてラッチ部230にラッチすることにより、精度の高い電流オフセット特定推定値Ioesに基づいて、推定充電率SOC2を算出することができる。
【0034】
図5において、推定充電率SOC1の真値に対する誤差は、時刻t1に近づくほど大きくなっている。この推定充電率SOC1の誤差は、電流オフセット推定値Ioeの誤差にはさほど関係しておらず、主として電池100のセル表面温度Tsとセル内部温度Tiとの偏差に起因している。そして、時刻t1以降は、SOC・Ti推定部220(
図1参照)がセル内部温度推定値Tieを算出しつつ推定充電率SOC2を計算するため、時間の経過とともに推定充電率SOC2がSOCの真値に近づいてゆく。これにより、本実施形態によれば、図示の全期間にわたって、一点鎖線で示す真値に近い推定充電率SOCEを取得できる。
【0035】
図6は、第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
図6において処理がステップS2に進むと、「SOC2選択条件」が充足されているか否かが判定される。本実施形態においては、「SOC2選択条件」とは、「セル表面温度Tsと周囲温度Teとの差分値が所定の温度差Tse(例えば15℃)よりも高い」という条件である。
【0036】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS6(第1の推定ステップ)に進み、SOC・Io推定部210による推定処理が実行され、切換部240(
図1参照)は推定充電率SOC1を推定充電率SOCEとして出力する。一方、ステップS2において「Yes」と判定されると、処理はステップS4(第2の推定ステップ)に進み、SOC・Ti推定部220による推定処理が実行され、切換部240は推定充電率SOC2を推定充電率SOCEとして出力する。
【0037】
[第2実施形態]
図7は、好適な第2実施形態による電池状態推定装置300(コンピュータ)のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
第2実施形態の電池状態推定装置300は、第1実施形態における切換条件決定部250(
図1参照)に代えて切換条件決定部260を備える点で、第1実施形態の電池状態推定装置200と相違する。切換条件決定部260には、クロック信号CLKが供給される。また、周囲温度Teを計測する温度センサ部160(
図1参照)は設けられていない。それ以外の点において、電池状態推定装置300は、第1実施形態の電池状態推定装置200と同様に構成されている。
【0038】
上述の第1実施形態における切換条件決定部250は、周囲温度Teとセル表面温度Tsとの差分値「Ts-Te」に基づいて、推定充電率SOCEとしてSOC1,SOC2の何れかを選択したが、本実施形態の切換条件決定部260は、以下の二つの条件のうち何れかが成立すると推定充電率SOCEとしてSOC2を選択し、何れの条件も成立しない場合はSOC1を選択する。これは、条件1,2の何れかが満たされると、セル表面温度Tsとセル内部温度Tiとの温度差が充分に大きいと考えられるためである。
・条件1: 電池100から所定の電流値以上の出力電流Iが所定時間T1以上流れている。
・条件2: 過去の所定時間T2における電池100の電流量が所定値以上である。
【0039】
[実施形態の効果]
以上のように好適な実施形態によれば、電池状態推定装置200,300は、所定の条件が非成立である場合に、電池100の充電電流または放電電流である出力電流Iと、電池100の出力電圧Vと、電池100のセル表面温度Tsと、に基づいて、電池100の充電率SOCの推定値である第1の推定充電率(SOC1)と、電池100の電流オフセット値Ioの推定値である電流オフセット推定値Ioeと、を逐次算出する第1の推定部(210)と、条件が成立する場合に、出力電流Iと、出力電圧Vと、セル表面温度Tsと、条件が不成立状態から成立状態に変化した時の電流オフセット推定値Ioeである電流オフセット特定推定値Ioesと、に基づいて、電池100の温度に関する偏差の推定値である温度偏差推定値ΔTxと、充電率SOCの他の推定値である第2の推定充電率(SOC2)と、を逐次算出する第2の推定部(220)と、を備える。
【0040】
これにより、好適な実施形態によれば、二次電池の充電状態を正確に推定できる。
図8は、好適な実施形態によるSOC推定の効果を示す図である。
図8の縦軸はセル内部温度Tiの推定の有無であり、セル内部温度Tiを行うほうが、行わない場合よりもSOCの推定誤差を小さくできる。また、
図8の横軸は電流オフセット値Ioの推定値に対する補正の有無であり、補正を行うほうが、補正を行わない場合よりもSOCの推定誤差を小さくできる。本実施形態によれば、セル内部温度Tiの推定と、電流オフセット値Ioの推定値の補正との双方を適用するため、SOCの推定誤差を最も小さくできる。
【0041】
また、第1の推定部(210)は、出力電圧Vと、出力電圧Vの推定値である電圧推定値(CCVx)との差である電圧差分値(ΔCCV)を算出する減算部216と、充電率SOCに対応するゲインである充電率用ゲイン(Gsoc)を算出する充電率用ゲイン算出部(214)と、電流オフセット値Ioに対応するゲインである電流オフセット値用ゲイン(Gio)を算出する電流オフセット値用ゲイン算出部(215)と、を備え、充電率用ゲイン(Gsoc)、電流オフセット値用ゲイン(Gio)、および電圧推定値(CCVx)に基づいて第1の推定充電率(SOC1)と電流オフセット推定値Ioeとを逐次算出すると一層好ましい。これにより、第1の推定充電率(SOC1)と電流オフセット推定値Ioeとを正確に算出することができる。
【0042】
また、温度偏差推定値ΔTxは、電池100のセル内部温度推定値Tieとセル表面温度Tsとの差であり、第2の推定部(220)は、出力電圧Vと、出力電圧Vの推定値である電圧推定値(CCVx)との差である電圧差分値(ΔCCV)を算出する減算部226と、充電率SOCに対応するゲインである充電率用ゲイン(Gsoc)を算出する充電率用ゲイン算出部(224)と、セル内部温度推定値Tieに対応するセル内部温度推定値用ゲイン(Gti)を算出するセル内部温度推定値用ゲイン算出部(225)と、を備え、充電率用ゲイン(Gsoc)、セル内部温度推定値用ゲイン(Gti)、および電圧推定値(CCVx)に基づいて、第2の推定充電率(SOC2)とセル内部温度推定値Tieとを逐次算出すると一層好ましい。これにより、第2の推定充電率(SOC2)とセル内部温度推定値Tieとを正確に算出することができる。
【0043】
また、所定条件は、セル表面温度Tsと、電池100の周囲温度Teとの差分値Ts-Teが所定の温度差以上であるという条件にすると一層好ましい。これにより、第1の推定充電率(SOC1)または第2の推定充電率(SOC2)の何れを適用するのか、適切に判定できる。
【0044】
また、所定条件は、所定の電流値以上の出力電流Iが第1の所定時間以上継続し、または、過去、第2の所定時間内の電流量が所定値以上であるという条件にしても一層好ましい。これにより、温度センサ部160(
図1参照)によって周囲温度Teを計測する必要がなくなるため、周囲温度Teを計測する実施形態と比較して、電池状態推定装置300を低コストに構成することができる。
【0045】
また、電池100から充分に離れた位置に設けられ、電池100の周囲温度Teを計測する一または複数の温度センサ部160をさらに備えると一層好ましい。「充分に離れた位置」とは、例えば「発熱の影響を実質的に受けない位置」であり、これによって正確な周囲温度Teが得られる。
【0046】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0047】
(1)上記実施形態における電池状態推定装置200のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図6に示したフローチャート、その他上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0048】
(2)また、電池状態推定装置200は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理によって実現してもよい。
【符号の説明】
【0049】
100 電池
160 温度センサ部
200,300 電池状態推定装置(コンピュータ)
210 SOC・Io推定部(第1の推定部、第1の推定手段)
214 カルマンゲイン推定部(充電率用ゲイン算出部)
215 カルマンゲイン推定部(電流オフセット値用ゲイン算出部)
216 減算部
220 SOC・Ti推定部(第2の推定部、第2の推定手段)
224 カルマンゲイン推定部(充電率用ゲイン算出部)
225 カルマンゲイン推定部(セル内部温度推定値用ゲイン算出部)
226 減算部
I 出力電流
V 出力電圧
Io 電流オフセット値
S4 ステップ(第2の推定ステップ)
S6 ステップ(第1の推定ステップ)
Te 周囲温度
Ts セル表面温度
Gio カルマンゲイン(電流オフセット値用ゲイン)
Gti カルマンゲイン(セル内部温度推定値用ゲイン)
Ioe 電流オフセット推定値
SOC 充電率
Tie セル内部温度推定値
ΔTx 温度偏差推定値
CCVx 電池端子電圧推定値(電圧推定値)
Gsoc カルマンゲイン(充電率用ゲイン)
Ioes 電流オフセット特定推定値
SOC1 推定充電率(第1の推定充電率)
SOC2 推定充電率(第2の推定充電率)
ΔCCV 差分値(電圧差分値)
Ts-Te 差分値