(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】赤外線センサ素子及び赤外線センサ
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20240509BHJP
H10N 10/00 20230101ALI20240509BHJP
【FI】
G01J1/02 C
H10N10/00 S
(21)【出願番号】P 2020174466
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 邦之
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-178171(JP,A)
【文献】特開2011-153871(JP,A)
【文献】特開2012-008035(JP,A)
【文献】特開2013-134079(JP,A)
【文献】国際公開第2008/044578(WO,A1)
【文献】特開2000-230858(JP,A)
【文献】特表2003-507904(JP,A)
【文献】特開2008-292312(JP,A)
【文献】特開2007-316077(JP,A)
【文献】特開平11-051762(JP,A)
【文献】特開2009-031197(JP,A)
【文献】特開2000-111396(JP,A)
【文献】特開2006-184151(JP,A)
【文献】特開2012-163347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 11/00
H01L 21/339
H01L 29/762
H02K 24/00 - H02K 27/30
H02K 31/00 - H02K 31/04
H02K 35/00 - H02K 35/06
H02K 39/00
H02K 47/00 - H02K 47/30
H02K 53/00
H02K 99/00
H10K 39/32
H10N 10/00 - H10N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板に対向して配置される熱吸収部と、
前記熱吸収部と前記ベース基板との対向方向に交差する第1方向に突出して前記ベース基板及び前記熱吸収部の間を接続するとともに、前記熱吸収部に接続される第1端部の断面積が前記ベース基板に支持される第2端部の断面積よりも大きい梁部と、
前記梁部において前記第1端部から前記第2端部に亘って設けられた熱電対と、を備えている赤外線センサ素子。
【請求項2】
前記梁部は、前記対向方向から見て前記第1端部の幅が第2端部の幅よりも広く、かつ前記第1端部と前記第2端部とに至る範囲で前記対向方向での厚さが一様に形成されている請求項1に記載の赤外線センサ素子。
【請求項3】
前記熱吸収部の外周縁は、前記対向方向から見て前記第1方向に交差する第2方向に沿って延びるとともに、前記梁部の前記第1端部が接続された接続辺を有し、
前記第2方向において、前記第1端部の幅は前記接続辺の幅に対して1/10倍よりも大きく1/2倍よりも小さい請求項1又は請求項2に記載の赤外線センサ素子。
【請求項4】
前記梁部は、
前記第1端部を含むとともに、前記熱吸収部から前記第1方向に延びる第1延在部と、
前記第1延在部における前記第1端部とは反対側に位置する第3端部から前記第2方向に延びるとともに、前記第2端部を含む第2延在部と、を備えている請求項3に記載の赤外線センサ素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の赤外線センサ素子と、
前記赤外線センサ素子が支持された前記ベース基板を含み、前記赤外線センサ素子が封止されたパッケージと、を備えている赤外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサ素子及び赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサに用いられる赤外線センサ素子として、ベース基板に対向して配置される熱吸収部と、熱吸収部から突出して熱吸収部及びベース基板の間を接続する梁部と、を備えた構成が開示されている(例えば、下記特許文献1参照)。
熱吸収部は、対象物から放射される赤外線に応じて温度が変化する。梁部は、熱吸収部で吸収された熱により、基端部(熱吸収部側)が温接点として機能し、先端部(ベース基板側)が冷接点として機能する。梁部には、先端部から基端部に亘って熱電対が設けられている。熱電対は、温接点と冷接点とで生じた温度差によって熱起電力を発生させ、電気信号として外部に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、赤外線センサの感度を向上させるには、温接点と冷接点との温度差を大きくすることが好ましい。この場合には、梁部の熱抵抗を高くするために、梁部の断面積を小さくしたり、梁部における基端部から先端部までの長さを長くしたりすることが考えられる。
しかしながら、梁部の断面積を小さくすると、熱吸収部で吸収した熱が梁部に伝わり難くなり、温接点と熱吸収部との間で温度差が生じる可能性がある。
また、梁部における基端部から先端部までの長さを長くすると、赤外線センサ素子の大型化に繋がる可能性がある。
【0005】
本発明は、大型化を抑制した上で、感度を向上させることができる赤外線センサ素子及び赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を採用した。
本発明の一態様に係る赤外線センサ素子は、ベース基板に対向して配置される熱吸収部と、前記熱吸収部と前記ベース基板との対向方向に交差する第1方向に突出して前記ベース基板及び前記熱吸収部の間を接続するとともに、前記熱吸収部に接続される第1端部の断面積が前記ベース基板に支持される第2端部の断面積よりも大きい梁部と、前記梁部において前記第1端部から前記第2端部に亘って設けられた熱電対と、を備えている。
【0007】
本態様によれば、梁部のうち、熱吸収部に接続される第1端部の断面積がベース基板に支持される第2端部の断面積よりも大きいため、熱吸収部で吸収した熱を梁部に効率的に伝達することができる。これにより、赤外線センサ素子のうち温接点となる第1端部と、熱吸収部と、の温度差を小さくできる。
一方、梁部のうち、第2端部の断面積を第1端部の断面積よりも小さくすることで、第1端部の熱を第2端部に伝わり難くすることができる。これにより、赤外線センサ素子のうち、温接点となる第1端部と、冷接点となる第2端部と、の温度差を大きくできる。
その結果、赤外線センサ素子の感度を向上させることができる。
しかも、本態様では、梁部のうち第1端部と第2端部の断面積を異ならせることで、第1端部及び第2端部での熱抵抗を異ならせている。これにより、例えば梁部の長さを拡大して梁部の熱抵抗を調整する場合に比べ、赤外線センサ素子の対向方向から見た外形の大型化を抑制できる。
【0008】
上記態様の赤外線センサ素子において、前記梁部は、前記対向方向から見て前記第1端部の幅が第2端部の幅よりも広く、かつ前記第1端部と前記第2端部とに至る範囲で前記対向方向での厚さが一様に形成されていることが好ましい。
本態様によれば、梁部の厚さを変化させることなく、第1端部と第2端部との断面積を異ならせることができる。これにより、製造効率の向上を図ることができる。
【0009】
上記態様の赤外線センサ素子において、前記熱吸収部の外周縁は、前記対向方向から見て前記第1方向に交差する第2方向に沿って延びるとともに、前記梁部の前記第1端部が接続された接続辺を有し、前記第2方向において、前記第1端部の幅は前記接続辺の幅に対して1/10倍よりも大きく1/2倍よりも小さいことが好ましい。
本態様によれば、第1端部の幅を接続辺の幅に対して1/10倍よりも大きくすることで、熱吸収部で吸収した熱を梁部に効率的に伝達することができる。これにより、赤外線センサ素子のうち温接点となる第1端部と、熱吸収部と、の温度差を小さくできる。
一方、第1端部の幅を接続辺の幅に対して1/2倍よりも小さくすることで、第1端部の熱容量が過剰に増大するのを抑制し、熱吸収部で吸収した熱が第1端部に移動し過ぎるのを抑制できる。これにより、熱吸収部及び第1端部の温度を確保できる。
【0010】
上記態様の赤外線センサ素子において、前記梁部は、前記第1端部を含むとともに、前記熱吸収部から前記第1方向に延びる第1延在部と、前記第1延在部における前記第1端部とは反対側に位置する第3端部から前記第2方向に延びるとともに、前記第2端部を含む第2延在部と、を備えていることが好ましい。
本態様によれば、赤外線センサ素子の対向方向から見た外形の大型化を抑制した上で、梁部の長さを確保できる。また、第2延在部と熱吸収部との間に隙間によって、熱吸収部から第2延在部への熱伝達を抑制できる。
【0011】
本発明の一態様に係る赤外線センサは、上記何れかの態様の赤外線センサ素子と、前記赤外線センサ素子が支持された前記ベース基板を含み、前記赤外線センサ素子が封止されたパッケージと、を備えている。
本態様によれば、上記態様の赤外線センサ素子を備えているので、小型で高感度な赤外線センサを提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、大型化を抑制した上で、感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】リッド基板を取り外した状態の赤外線センサを示す斜視図である。
【
図4】突出部の幅の変化に対する温接点での温度変化、熱吸収部での温度変化、及び冷接点(基準点)での温度変化の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。なお、以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
【0015】
[赤外線センサ1]
図1は、赤外線センサ1の斜視断面図である。
図2は、リッド基板22を取り外した状態の赤外線センサ1を示す斜視図である。
図1、
図2に示すように、赤外線センサ1は、パッケージ10と、パッケージ10内に封止された赤外線センサ素子11と、を備えている。以下の説明では、赤外線センサ素子11の厚さ方向をZ方向(対向方向)とし、Z方向に直交する2方向をそれぞれX方向(第1方向)、Y方向(第2方向)として説明する。
【0016】
<パッケージ10>
パッケージ10は、いわゆる真空パッケージである。具体的に、パッケージ10は、ベース基板21と、リッド基板22と、を備えている。
ベース基板21は、Z方向を厚さ方向とする矩形板状である。ベース基板21の第1面21a(+Z側を向く面)には、+Z側に向けて開口する凹部24が形成されている。凹部24は、Z方向から見た平面視において、ベース基板21の中央部に形成されている。したがって、ベース基板21の第1面21aは、平面視において凹部24の周囲を取り囲んでいる。なお、ベース基板21の材料は、例えばシリコン等により形成されている。
【0017】
図1に示すように、リッド基板22は、Z方向に沿う断面視で-Z側に開口するカップ状に形成されている。具体的に、リッド基板22は、頂壁部31と、頂壁部31の外周縁から-Z側に延びる周壁部32と、を備えている。
頂壁部31は、ベース基板21に対してZ方向で対向している。頂壁部31は、平面視での外形がベース基板21と同等に形成されている。
周壁部32における-Z側端面は、ベース基板21の第1面21aの外周部分に、全周に亘って接合されている。これにより、ベース基板21とリッド基板22とで囲まれた部分は、赤外線センサ素子11を収容する収容空間S1を構成する。本実施形態において、収容空間S1は、真空(又は減圧)封止されていることが好ましい。但し、収容空間S1は、断熱性に優れた気体(アルゴンやクリプトン等)が封入されていてもよい。
【0018】
リッド基板22は、赤外線透過率の高い材料であることが好ましい。このような材料としては、シリコンやゲルマニウム、カルコゲン化物ガラス等が好適に用いられる。すなわち、本実施形態の赤外線センサ1は、対象物から放射される赤外線がリッド基板22を通じて収容空間S1内に入射する。なお、本実施形態では、ベース基板21とリッド基板22との2枚の基板により収容空間S1を形成する構成について説明したが、この構成に限られない。例えば、3枚以上の基板の重ね合わせによって収容空間S1を形成してもよい。また、本実施形態では、基板の重ね合わせによって収容空間S1を形成した場合について説明したが、例えばベース基板21に対して金属缶を組み付けて収容空間S1を形成してもよい。また、パッケージ10は、赤外線センサ素子11に効率的に赤外線を供給するためにレンズ等を備えていてもよい。
【0019】
<赤外線センサ素子11>
図1、
図2に示すように、赤外線センサ素子11は、メンブレン構造により形成された、いわゆるサーモパイル型のセンサ素子である。赤外線センサ素子11は、赤外線を受光するとともに、赤外線による温度変化に応じて熱起電力を発生させる。赤外線センサ素子11は、収容空間S1内に収容されている。具体的に、赤外線センサ素子11は、枠体49と、熱吸収部50と、第1梁部(梁部)51と、第2梁部(梁部)52と、を備えている。
【0020】
枠体49は、平面視で矩形枠状に形成された薄膜である。枠体49は、ベース基板21の第1面21a上に凹部24の周囲を取り囲むように設けられている。なお、枠体49は、シリコン窒化物等により形成されている。
【0021】
図3は、赤外線センサ素子11の平面図である。
図3に示すように、熱吸収部50は、Z方向を厚さ方向とする矩形(正方形)板状に形成されている。熱吸収部50は、Y方向に沿って延びるとともに、X方向で対向する第1辺(接続辺)50a及び第2辺(接続辺)50bと、X方向に沿って延びるとともに、Y方向で対向する第3辺50c及び第4辺50dと、を備えている。熱吸収部50は、凹部24に対してZ方向で対向する位置で、枠体49の内側に配置されている。図示の例において、熱吸収部50の平面視での外形は、凹部24のZ方向から見た外形よりも小さくなっている。なお、熱吸収部50の平面視外形は、適宜変更が可能である。また、熱吸収部50の平面視外形は、矩形状以外の多角形状や円形状等であってもよい。さらに、本実施形態では、熱吸収部50とベース基板21との対向方向をZ方向としている。この場合、対向方向とは、X方向及びY方向の何れかの方向から見てベース基板21と重なり合っている方向である。
【0022】
第1梁部51及び第2梁部52は、熱吸収部50の外周縁のうち、Z方向から見た熱吸収部50の中心Oに対して回転対称(図示の例では、2回対称)となる位置に設けられている具体的に、第1梁部51は、熱吸収部50の第1辺50aのうち、-Y側端部に設けられている。第2梁部52は、熱吸収部50の第2辺50bのうち、+Y側端部に設けられている。なお、以下の説明では、第1梁部51を例にして説明し、第2梁部52のうち第1梁部51と対応する構成については適宜説明を省略する。
【0023】
第1梁部51は、Z方向から見てL字状に形成されている。第1梁部51は、突出部(第1延在部)60と、接続部(第2延在部)61と、を備えている。
突出部60は、熱吸収部50第1辺50aから-X側に突出している。すなわち、突出部60は、基端部(第1端部:熱吸収部50側の端部)において、熱吸収部50に接続されている。突出部60の基端部は、赤外線センサ素子11の温接点として機能する。突出部60は、Y方向の寸法(幅)及びZ方向の寸法(厚さ)が、X方向の全体に亘って一様に形成されている。
【0024】
接続部61は、突出部60の先端部(第3端部:熱吸収部50とは反対側の端部)から+Y側に延在している。接続部61は、熱吸収部50の第1辺50aに対してX方向に離間した状態で、第1辺50aに沿って延在している。接続部61は、X方向の寸法及びZ方向の寸法が、Y方向の全体に亘って一様に形成されている。接続部61の先端部(第2端部:突出部60とは反対側の端部)は、枠体49に接続されている。接続部61の先端部は、赤外線センサ素子11における冷接点として機能する。
【0025】
第2梁部52は、第1梁部51と同様に、突出部(第1延在部)70及び接続部(第2延在部)71を備えている。
突出部70は、熱吸収部50第2辺50bから+X側に突出している。
接続部71は、突出部70の先端部から-Y側に延在している。接続部71は、熱吸収部50の第2辺50bに対してX方向に離間した状態で、第2辺50bに沿って延在している。接続部71の先端部(突出部60とは反対側の端部)は、枠体49に接続されている。したがって、熱吸収部50は、梁部51,52を介して枠体49に支持されている。
【0026】
図2に示すように、各梁部51,52には、熱電対75が各別に設けられている。熱電対75は、一対の導電材により形成されている。各導電材は、各梁部51.52上において、枠体49と熱吸収部50との間を架け渡すように延びている。熱電対75を構成する一対の導電材は、熱吸収部50側の端部において接続されている。熱電対75のうち、熱吸収部50側の端部は、突出部60(又は突出部70)の基端部(温接点)と熱吸収部50との境界部分を跨って配置されている。熱電対75のうち、枠体49側の端部は、接続部61(又は接続部71)の先端部(冷接点)と枠体49との境界部分を跨って配置されている。
【0027】
ここで、第1梁部51を例にして、第1梁部51の寸法等について説明する。
第1梁部51では、突出部60におけるZ方向に沿う断面積が、接続部61におけるZ方向に沿う断面積よりも大きくなっている。具体的に、突出部60及び接続部61は、Z方向の厚さが互いに同等に形成される一方、突出部60が接続部61よりも幅広に形成されている。
図3に示すように、突出部60の幅D1(Y方向の寸法)は、第1辺50aの長さD2に対して1/10倍よりも大きく1/2倍よりも小さいことが好ましく、1/5倍よりも大きく1/3倍よりも小さいことがより好ましい。また、接続部61の幅D3は、突出部60の幅D1(X方向の寸法)に対して1/2以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、突出部60及び接続部61それぞれが一様な寸法に形成されているが、この構成に限られない。突出部60における任意の位置での幅が、接続部61における任意の位置での幅よりも広くなっていればよい。この場合、突出部60における少なくとも基端部での幅が、接続部61の先端部での幅よりも広くなっていることが好ましい。
【0028】
接続部61と第1辺50aとの間の隙間D4は、接続部61の幅D2と同等に設定されている。本実施形態において、隙間D4は、接続部61の幅の1/2倍以上2倍以下に設定することが好ましい。隙間D4を接続部61の幅の1/2以上に設定することで、接続部61と熱吸収部50との間の距離を確保し、熱吸収部50の熱が隙間D4を通じて接続部61に伝わるのを抑制できる。一方、隙間D4を接続部61の幅の2倍以下に設定することで、赤外線センサ素子11の大型化を抑制できる。
【0029】
<赤外線センサ1の作用>
本実施形態の赤外線センサ1では、対象物から放射される赤外線がリッド基板22の頂壁部31等を透過して熱吸収部50に入射する。これにより、熱吸収部50の温度が上昇する。熱吸収部50で吸収した熱は、各梁部51,52において突出部60,70に伝達された後、接続部61,71を通じてパッケージ10に伝達される。この際、突出部60,70の基端部(温接点)と接続部61,71の先端部(冷接点)との温度差に基づき、熱電対75に熱起電力が生じる。赤外線センサ素子11では、各熱電対75で発生した熱起電力が足し合わされ、電気信号として出力される。
【0030】
ここで、本実施形態の赤外線センサ素子11では、梁部51,52の基端部を構成する突出部60,70の断面積が、梁部51,52の先端部を構成する接続部61,71の断面積よりも大きい構成とした。
この構成によれば、熱吸収部50で吸収した熱を突出部60,70に効率的に伝達することができる。これにより、温接点である突出部60,70と、熱吸収部50と、の温度差を小さくできる。
一方、接続部61,71の断面積を突出部60,70の断面積よりも小さくすることで、突出部60,70の熱を接続部61,71に伝わり難くすることができる。これにより、温接点である突出部60,70と、冷接点である接続部61,71と、の温度差を大きくできる。
その結果、赤外線センサ素子11の感度を向上させることができる。
しかも、本実施形態では、突出部60,70及び接続部61,71の断面積を異ならせることで、突出部60,70及び接続部61,71での熱抵抗を異ならせている。これにより、例えば突出部及び接続部の長さを異ならせて熱抵抗を異ならせる場合に比べ、赤外線センサ素子11の平面視での外形の大型化を抑制できる。
【0031】
本実施形態の赤外線センサ素子11では、突出部60,70及び接続部61,71の厚さを一様にした状態で、突出部60,70の幅D1を接続部61,71の幅D3よりも広く形成した。
この構成によれば、梁部51,52の厚さを変化させることなく、突出部60,70と接続部61,71との断面積を異ならせることができる。これにより、製造効率の向上を図ることができる。
【0032】
ここで、本願発明者は、突出部60,70の幅の異なる複数の赤外線センサ素子11について、突出部60,70の幅D1の変化に対する熱吸収部50での温度変化、及び接続部61,71の先端部での温度変化を検証する試験を行った。
図4は、突出部60,70の幅の変化に対する温接点での温度変化、熱吸収部50での温度変化、及び冷接点(基準点)での温度変化の関係を表すグラフである。なお、本試験において、温接点の温度は突出部60,70の基端部の温度である。熱吸収部50の温度は、熱吸収部50の中心Oの温度である。冷接点の温度は、接続部61,71の先端部の温度である。
【0033】
図4では、突出部60,70の幅が、第1辺50a又は第2辺50bに対して1/10倍の構成を比較例1とし、1/2倍の構成を比較例2としている。一方、突出部60,70の幅が、第1辺50a又は第2辺50bに対して1/5倍の構成を実施例1とし、1/3倍の構成を実施例2とした。本試験では、各比較例1,2及び実施例1,2において、熱吸収部50に与える熱量は同等に設定している。
【0034】
図4に示すように、突出部60,70の幅が広くなるに従い、熱吸収部50の温度が低下している。これは、突出部60,70の幅の増大に伴い、熱吸収部50で発生した熱が突出部60,70に移動し易くなり、熱吸収部50で吸収した熱を熱吸収部50で保持し難くなったためであると考えられる。一方、突出部60,70の幅に関わらず、冷接点の温度は変化しなかった。これは、パッケージ10の熱容量が赤外線センサ素子11の熱容量に比べて大きいことから、熱吸収部50から突出部60,70に伝達される熱量が大きくなるに従い、接続部61,71からパッケージ10に伝達される熱量が大きくなったためであると考えられる。
【0035】
また、温接点の温度は、実施例1,2において比較例1,2に比べて上昇している。一方、比較例2のように、突出部60,70の幅が第1辺50a又は第2辺50bの幅に対して1/2倍になると、温接点の温度は比較例1と同等の温度まで低下した。これは、突出部60,70の幅の増大に伴い、突出部60の熱容量が増加したためであると考えられる。
【0036】
上述した試験の結果から、突出部60,70の幅は、第1辺50a又は第2辺50bの幅に対して1/10倍よりも大きくすることで、熱吸収部50で吸収した熱を梁部51,52に効率的に伝達することができる。これにより、赤外線センサ素子11のうち温接点となる突出部60,70と、熱吸収部50と、の温度差を小さくできる。
一方、突出部60,70の幅を第1辺50a又は第2辺50bの幅に対して1/2倍よりも小さくすることで、突出部60,70の熱容量が過剰に増大するのを抑制し、熱吸収部50で吸収した熱が突出部60,70に移動し過ぎるのを抑制できる。これにより、熱吸収部50及び突出部60,70の温度を確保できる。
その結果、温接点と冷接点との温度差を確保し易い。
【0037】
本実施形態の赤外線センサ素子11では、梁部51,52が、熱吸収部50から突出する突出部60,70と、突出部60,70の先端部からY方向に延びる接続部61,71と、を備える構成とした。
この構成によれば、赤外線センサ素子11のZ方向から見た外形の大型化を抑制した上で、梁部51,52の長さを確保できる。また、接続部61,71と熱吸収部50との間に隙間によって、熱吸収部50から接続部71への熱伝達を抑制できる。
【0038】
本実施形態の赤外線センサ1では、上述した赤外線センサ素子11を備えているので、小型で高感度な赤外線センサ1を提供できる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上述した実施形態では、梁部51,52が突出部60,70及び接続部61,71を有するL字状に形成された構成について説明したが、この構成に限られない。梁部51,52の形状は、基端部の断面積が先端部の断面積よりも大きい構成であれば、適宜変更が可能である。この場合、梁部は、直線状や曲線状に延在していてもよい。
上述した実施形態では、熱吸収部50の2回対称となる位置に梁部51,52を設ける構成について説明したが、この構成に限られない。梁部は、熱吸収部50の任意の位置に、任意の数設けることが可能である。
上述した実施形態では、1つのパッケージ10に対して1つの赤外線センサ素子11が封止された構成を例にして説明したが、1つのパッケージ10に対して複数の赤外線センサ素子11がアレイ状に配列された構成であってもよい。
【0040】
上述した実施形態では、突出部60,70及び接続部61,71の幅を異ならせることで、突出部60,70及び接続部61,71の断面積を異ならせる構成について説明したが、この構成に限られない。突出部60,70及び接続部61,71の厚さを異ならせることで、突出部60,70及び接続部61,71の断面積を異ならせてもよい。
上述した実施形態では、突出部60,70及び接続部61,71それぞれの幅が、全長に亘って一様に形成された構成について説明したが、この構成に限られない。突出部60,70及び接続部61,71の幅は、連続的に変化するテーパ状に形成したり、段階的に変化する段付き状に形成したりしてもよい。
【0041】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0042】
1…赤外線センサ
10…パッケージ
11…赤外線センサ素子
21…ベース基板
50…熱吸収部
50a…第1辺(接続辺)
50b…第2辺(接続辺)
51…第1梁部(梁部)
52…第2梁部(梁部)
60…突出部(第1延在部)
61…接続部(第2延在部)
70…突出部(第1延在部)
71…接続部(第2延在部)