(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】多層ナノ多孔質セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20240509BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240509BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240509BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240509BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2020520298
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 US2018055862
(87)【国際公開番号】W WO2019075457
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-12
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】デービッド ダブリュー エイビソン
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン エー カールソン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン スローン
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521433(JP,A)
【文献】国際公開第2010/134585(WO,A1)
【文献】特開2015-028840(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409-50/457
H01M 50/489-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池用のセパレータであって、
(a)ポリオレフィンを含む多孔質ポリマ層と、
(b)前記多孔質ポリマ層の2つの対向面の少なくとも一方に隣接し、無機酸化物粒子と1つ以上のポリマとを備えるナノ多孔質層と、を備え、
a.150℃、1時間での前記セパレータの収縮が5%未満であり、
b.前記ナノ多孔質層は、平方メートルあたり4.5グラム以下の総塗工重量を含み、
c.
前記無機酸化物粒子の平均結晶サイズは5nm~90nmである、
セパレータ。
【請求項2】
前記ナノ多孔質層は固体部分を含み、前記固体部分における前記1つ以上のポリマの体積分率は、15%と45%の間である、
請求項1のセパレータ。
【請求項3】
前記ナノ多孔質層は固体部分を含み、前記固体部分における前記1つ以上のポリマの体積分率は、25%と40%の間である、
請求項1のセパレータ。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子は、ベーマイト粒子を含む、
請求項1のセパレータ。
【請求項5】
前記ベーマイト粒子は、5nmと8nmの間の平均結晶サイズを有する、
請求項4のセパレータ。
【請求項6】
前記ベーマイト粒子の平均結晶サイズは、30nmと50nmの間である、
請求項
4のセパレータ。
【請求項7】
前記無機酸化物粒子は、疎水処理されたベーマイト粒子を含む、
請求項1のセパレータ。
【請求項8】
前記多孔質ポリマ層の2つの対向面の両方における前記ナノ多孔質層の総塗工重量は、平方メートルあたり3.5グラム未満である、
請求項1のセパレータ。
【請求項9】
前記多孔質ポリマ層は、80nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、前記細孔の少なくとも70%は、80nm以下の直径を有する、
請求項1のセパレータ。
【請求項10】
前記多孔質ポリマ層は、50nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、前記細孔の少なくとも70%は、50nm以下の直径を有する、
請求項1のセパレータ。
【請求項11】
前記多孔質ポリマ層は、ポリエチレンを含む、
請求項1のセパレータ。
【請求項12】
a.アノードと、
b.カソードと、
c.リチウム塩を含む有機電解質と、
d.前記アノードと前記カソードの間に挟まれたセパレータと、を備え、
前記セパレータは、
(i)ポリオレフィンを含む多孔質ポリマ層と、
(ii)前記多孔質ポリマ層の2つの対向面の少なくとも一方に隣接するナノ多孔質層と、を備え、
前記ナノ多孔質層は、無機酸化物粒子と1つ以上のポリマとを備え、150℃、1時間での前記セパレータの収縮が5%未満であり、
前記ナノ多孔質層は、平方メートルあたり4.5グラム以下の総塗工重量を含み、
前記無機酸化物粒子の平均結晶サイズは5nm~90nmである、
リチウム電池。
【請求項13】
前記ナノ多孔質層は固体部分を含み、前記固体部分における前記1つ以上のポリマの体積分率は、15%と45%の間である、
請求項12のリチウム電池。
【請求項14】
前記ナノ多孔質層は固体部分を含み、前記固体部分における前記1つ以上のポリマの体積分率は、25%と40%の間である、
請求項12のリチウム電池。
【請求項15】
前記無機酸化物粒子は、ベーマイト粒子を含み、前記ベーマイト粒子の平均結晶サイズは、30nmと50nmの間である、
請求項12のリチウム電池。
【請求項16】
前記ナノ多孔質層の総塗工重量は、平方メートルあたり3.5グラム以下である、
請求項12のリチウム電池。
【請求項17】
前記多孔質ポリマ層は、80nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、前記細孔の少なくとも70%は、80nm以下の直径を有する、
請求項12のリチウム電池。
【請求項18】
前記多孔質ポリマ層は、50nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、前記細孔の少なくとも70%は、50nm以下の直径を有する、
請求項12のリチウム電池。
【請求項19】
前記多孔質ポリマ層は、ポリエチレンを含む、
請求項12のリチウム電池。
【請求項20】
リチウム電池用のセパレータであって、
(a)多孔質ポリマ層と、
(b)前記多孔質ポリマ層の2つの対向面の少なくとも一方に隣接し、無機酸化物粒子と1つ以上のポリマとを備えるナノ多孔質層と、を備え、
a.前記1つ以上のポリマの少なくとも1つは、水酸基及びカルボン酸基からなる群から選択される反応基を含み、
b.150℃、1時間での前記セパレータの収縮が5%未満であり、
c.前記ナノ多孔質層は、平方メートルあたり4.5グラム未満の総塗工重量を含み、
d.
前記無機酸化物粒子の平均結晶サイズは5nm~90nmである、
セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2017年10月13日出願の米国仮特許出願第62/572,083号の利益及び優先権を主張し、その全内容は参照によりここに組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、電池及び他の電流生成セル用の多孔質セパレータに関する。特に、本発明は、ポリマ層上に無機酸化物/ポリマ層を備える多層多孔質セパレータ及びそのようなセパレータを備えるリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池は、スマートフォン及びポータブルコンピュータ等の携帯用電子機器において広く用いられている。リチウム電池の新たな用途としては、ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両、及び完全に電動の車両のための高出力電池がある。再充電可能リチウム電池及び非再充電可能リチウム電池を含む既存のリチウム電池は、多層セパレータを利用していることが多い。そのようなセパレータは、無機酸化物/ポリマ塗工層で塗工された押し出しポリエチレン又はポリプロピレンの多孔質フィルムを含むことがある。大型で高エネルギ密度のより低コストのリチウム電池に対する需要が高まるにつれ、製造業者は、これらの目標を達成するためにそれほど安全ではない電池活物質に頼るようになってきている。これにより、150℃以上等の温度で高い寸法安定性を有する電池セパレータが必要になってきた。
【0004】
このように、無機酸化物/ポリマ塗工層が高温で更に高い寸法安定性を提供すると同時に、より低い塗工重量及び塗工厚さしか必要とせずに、より低い製造コストを可能にすれば有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、リチウム電池及び他の電流生成セル用のポリマベースのセパレータのための、より軽量で、より低コストで、より薄い無機酸化物/ポリマ塗工層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)多孔質ポリマ層と(b)このポリマ層の両面上に塗工されたナノ多孔質無機酸化物/ポリマ複合層とを備えるリチウム電池用のセパレータを提供することによって、これらの目的を達成する。一実施形態において、ナノ多孔質層は、無機酸化物(例えば、ベーマイト、SiO2)と1つ以上のポリマとを備え、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、約10%~約50%、好ましくは約12%~約45%であってよく、無機酸化物粒子の結晶サイズは5nm~90nmである。結晶サイズが非常に小さい無機酸化物粒子(例えば、ベーマイト粒子)と大きな体積の有機ポリマとのこの組み合わせにより、高温での高い寸法安定性とセパレータの細孔内での電解質の優れたイオン導電性のための高レベルの多孔性とをもたらす多孔質熱安定層が生成される。この組み合わせは更に、熱安定層の塗工重量及び塗工厚さを大幅に低下させ得ることが分かった。
【0007】
別の実施形態においては、ナノ多孔質層は、(a)無機酸化物粒子(例えば、ベーマイト粒子)と無機窒化物粒子(例えば、窒化ホウ素又は窒化アルミニウムの粒子)のブレンドと、(b)1つ以上のポリマと、を備え、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、約10%~約50%、好ましくは約12%~約45%であってよく、無機粒子の結晶サイズは5nm~90nmである。(1)結晶サイズが非常に小さい無機酸化物粒子及び無機窒化物粒子(例えば、ベーマイト粒子及び窒化ホウ素又は窒化アルミニウムの粒子)と(2)大きな体積の有機ポリマとのこの組み合わせにより、高温での高い寸法安定性とセパレータの細孔内での電解質の優れたイオン導電性のための高レベルの多孔性とをもたらす多孔質熱安定層が生成される。
【0008】
好ましくは、熱安定無機酸化物/ポリマ層(又は無機酸化物及び窒化物/ポリマ層)は、多孔質ポリエチレン層又は多孔質ポリプロピレン層等の多孔質ポリマ層の片面上にのみ塗工されるのとは対照的に、両面上に塗工される。この手法により薄くて低コストのセパレータにおいて改善された熱寸法安定性がもたらされることが分かった。但し、ポリマ層の片面上にのみ熱安定層を有することも有用である。
【0009】
本発明のリチウム電池用のセパレータの別の態様は、(a)多孔質ポリマ層と(b)このポリマ層の片面又は両面上のナノ多孔質無機酸化物/ポリマ複合層とを備えるセパレータに関し、ナノ多孔質層は、無機酸化物(例えば、ベーマイト、SiO2)とポリマとを備え、無機酸化物の結晶サイズは、5nm~25nmである。このより小さい結晶サイズにより、凝集力がより高くより薄い塗工層であって、無機酸化物の結晶サイズが例えば約80nm等とより大きい同等の層よりも低い塗工重量においてさえポリマ層に対する接着力がより高い塗工層が得られることが分かった。
【0010】
別の実施形態においては、本発明は、本発明の改良されたセパレータを備えるリチウム電池を含む。
【0011】
本発明の更なる態様はセパレータを作製するための方法であり、この方法は、無機酸化物及び/又は無機窒化物と1つ以上のポリマとを備える溶液を多孔質ポリマ層の片面又は両面上に塗工して本発明のセパレータを形成することを備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示の特徴及び利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することでより完全に理解されるはずである。
【
図1】
図1は、実施例1に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての塗工厚さのグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工厚さの関数としての収縮のグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての塗工厚さのグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての収縮のグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての塗工厚さのグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての収縮のグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての塗工厚さのグラフである。
【
図8】
図8は、実施例3に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての収縮のグラフである。
【
図9】
図9は、実施例3に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての塗工厚さのグラフである。
【
図10】
図10は、実施例3に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータの塗工重量の関数としての収縮のグラフである。
【
図11】
図11は、実施例4に従って作製された本発明の一実施形態によるナノ多孔質セパレータにおける窒化ホウ素の重量分率の関数としての水分含有量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセパレータは、リチウム電池及び他の電流生成セルにおける使用のための優れた安全性、より低いコスト、より薄い厚さ、及び他の重要な性能特性を提供する。
【0014】
本発明の一態様は、(a)多孔質ポリマ層と(b)このポリマ層の両面上のナノ多孔質無機酸化物/ポリマ複合層とを備えるリチウム電池用のセパレータであり、ナノ多孔質層はベーマイトと1つ以上のポリマとを備え、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、約10%~約50%、好ましくは約12%~45%であり、ベーマイトの結晶サイズは5nm~90nmである。代替的には、ナノ多孔質層は、他の無機酸化物(例えば、SiO2)若しくは窒化物(例えば、BN又はAlN)の粒子、又はそれらの組み合わせを更に備えていてよい。
【0015】
「リチウム電池」という用語は、例えば、電気活性アノード材料がリチウムを備える電池を包含していてよい。これは、限定はされないが、二次又は再充電可能リチウムイオン電池、二次リチウム金属電池、及び一次又は非再充電可能リチウム金属電池を包含する。
【0016】
「セパレータ」という用語は、例えば、電池のカソードとアノードの間に挿入されて短絡に対する電気的絶縁を提供すると共に電池の電解質を充填するための細孔を提供する電池内の多孔質材料を包含していてよい。
【0017】
「多孔質ポリマ層」という用語は、例えば、ポリマ材料の層であって、そのポリマ層を通る空気の流れに対して透過性(permeability)を有するように多孔質であるポリマ材料の層を包含していてよい。典型的には、電池産業は、100立方センチメートル(cc)の空気が多孔質層を通過する時間(秒)の値を提供するポロシメータを用いて、この透過性に対応する通気度(air permeability)を測定する。この値は一般にガーレー数と称される。電池産業では、機械的完全性を犠牲にすることなく、セパレータのガーレー数をできるだけ低くすることが好まれる。電池産業で用いられる多孔質ポリエチレンセパレータ又は多孔質ポリプロピレンセパレータの通気度に対する典型的なガーレー数は、100秒/100cc~300秒/100ccである。本発明では、多孔質ポリマ層は、電池産業においてセパレータとして用いられる不織ポリマ層、例えばポリエステル繊維を備えた不織ポリマ層を含まない。
【0018】
「ナノ多孔質」という用語は、直径が約100nmまでの細孔を有する層を包含していてよく、好ましくは細孔の少なくとも90%が直径100nm未満である。細孔のサイズと相対数は、水銀ポロシメトリによって、又は走査型電子顕微鏡(SEM)若しくは透過型電子顕微鏡(TEM)による層の断面によって測定することができる。
【0019】
ここで論じられるように、ナノ多孔質層は、基材、支持体、層、又は塗工物の両面上に存在していてよい。例えば、ナノ多孔質層は、多孔質ポリエチレン層等の多孔質ポリマ層の両面上に存在していてよい。本発明のナノ多孔質層の一般的な利点は、ナノ多孔質層が多孔質ポリマ層の片面上にのみ存在する場合にも見出されるが、全体的な性能は、典型的には、ナノ多孔質層が多孔質ポリマ層の両面上に存在する場合に優れている。
【0020】
ポリマ層の両面塗工の優れた性能特徴は、同じ総塗工重量での片面塗工と比較して、高温でのより小さい収縮及び改善された電池安全性を含む。特に、電池がより大きくなりエネルギ密度もより高くなってきており、また、より高いエネルギ密度及びより低いコストを達成するためにそれほど安全ではない電池活性材料が用いられるようになってきているので、改善された安全性は、典型的には、リチウム電池用のセパレータに求められる最も重要な性能特徴である。
【0021】
ナノ多孔質塗工層を備えた多孔質ポリマ層の両面塗工の別の利点は、各面上の塗工物を異なる組成にする機会を提供することである。これにより、ナノ多孔質層がアノードに面している場合及びカソードに面している場合に最高の性能を得るために、ナノ多孔質層を最適化することができる。一般に、セパレータのいずれかの面上のセラミック塗工物の配合及び塗工厚さを調整することにより、(a)セパレータと特定の電極の間の接着、(b)セパレータと特定の電極、即ちアノード又はカソードのいずれかとの間の界面インピーダンス、(c)泳動種(migratory species)(例えば、カソードからの可溶化遷移金属イオン)の錯体生成を最適化することが可能である。
【0022】
例えば、塗工物がカソードに面している場合、その塗工物は、特により高い充電電圧、例えば4.25ボルトを超える電圧で、酸化に対して耐性がある点で非常に有用である。このことは、例えば、所望のより高い電圧、例えば5.0ボルトまでの電圧で酸化に対して耐性があるようにナノ多孔質層の有機ポリマを選択しすることによってなし得る。また、片面上のナノ多孔質層は、例えば直径が10nm未満の主要結晶サイズを有するベーマイトを用いることにより、直径が10nm未満の細孔等、特に小さい細孔サイズで設計することができる。本発明は、ここに提供される例に限定されないことが理解されるべきである。例えば、サソルのロスカトワ等(Loscutova et al. of Sasol)のPCT/IB2015/000272に記載されているような、ベーマイト粒子を含む表面改質アルミナ粒子を、ここに説明するセパレータ層において利用してよい。この特許出願は、これらの表面改質アルミナの、ナノサイズ単粒子結晶内への分散を開示している。この参考文献はまた、平均結晶サイズが120面上でのX線回折によって測定され得ることも記載している。一例として、本発明の一実施形態によるナノ多孔質層を備えるセパレータ中の無機粒子の結晶サイズ(又は平均結晶サイズ)は、(i)ナノ多孔質層の断面サンプルを採取し、(ii)このサンプルについてTEM又は超高出力SEMを用いて、TEM又はSEM画像内で無作為に選択した100個の単主要(無機)粒子(single primary (inorganic) particles)の直径/幅をそれらの最も広い寸法において測定し、(iii)100個の直径/幅数値において25個の最高直径数値と25個の最低直径数値を除外し、(iv)結晶サイズを中央の50個の直径/幅数値の平均として、即ち測定された粒子の平均結晶サイズとして記録することにより測定されてよい。ナノ多孔質層中のセラミック粒子の細孔サイズ直径は、通常、ナノ多孔質層を作製するのに用いるベーマイト粒子等のセラミック粒子の結晶サイズに近いので、細孔サイズ直径は、狭い結晶サイズのセラミック粒子を含有しているナノ多孔質層に対するセラミック粒子の結晶サイズを示してよい。但し、ナノ多孔質塗工物における種々の結晶サイズのセラミック粒子のブレンドについては、塗工層の細孔サイズ直径は、典型的には、種々のセラミック粒子の複数の結晶サイズ直径の中間であり、又はそれらのブレンドであり、個々のピークが異なる結晶サイズを反映するわけではない。結晶サイズを測定するための上述したTEM又はSEM法は、ブレンドではなく単粒子を分析しているので、この制限はなく、従って、本発明に用いるのに好ましい方法である。非常に小さい細孔サイズを用いるこれらのセパレータ構成は、リチウム金属アノードに対して配置する場合に有用であり、この場合、細孔の非常に小さいサイズは、セパレータ内への及びセパレータを通ってのリチウム金属デンドライトの成長を防止するのに役立ち、そのようなリチウムデンドライトの成長は、セルのサイクルライフ、容量、及び安全性を低下させる。非常に小さいベーマイト粒子が用いられ、これらのベーマイト粒子の一部がポリマセパレータ基材の細孔に入り込む場合、これは、セパレータ内での及びセパレータを通ってのリチウム金属デンドライトの成長を防止する上で特に有用である。
【0023】
別の例においては、ベーマイトは、そのようなナノ多孔質層が、シリコン又はリチウム金属を備えるアノードに対して配置される場合に、サイクルライフを改善するためにフッ素化エチレンカーボネートとの反応によって改質され得る。フッ素エチレンカーボネートと共有結合的に反応したベーマイトを備えたこのナノ多孔質層は、カソードに対して用いたとしても、5.0ボルトまで等のセルの高電圧動作で優れた安定性を達成するのに役立つ。
【0024】
更なる例においては、直径が10nm未満の細孔を有するナノ多孔質層をカソードに対して配置して、カソードからアノードへのニッケルイオン等の遷移金属の拡散を抑制することができ、そのような遷移金属の拡散は、セルのサイクルライフ及び他の性能特性を劣化させる。随意的に、カソードに対してナノ多孔質層を配置して、カソードからの遷移金属イオンの拡散を少なくするために、10nm未満の非常に小さいベーマイト結晶サイズを、このベーマイトとフッ素化エチレンカーボネート又は他の有機カーボネートとの反応と組み合わせることができる。
【0025】
「ベーマイト」という用語は、当該技術分野において理解されている。これは、例えば、経験的化学式Al2O3H20の水和アルミニウム酸化物を含んでいてよく、xは1.0~2.0である。ここでベーマイトに対して交換可能に用いられる別の用語はAlOOHである。ベーマイトは、その特徴的なフーリエ変換赤外分光法(「FTIR」)フィンガープリントによって特徴付けられてよい。ベーマイトは、その特有のX線回折パターンによって、及び3200cm-1付近の水酸基の二重ピークの特有の赤外線スペクトルによっても特徴付けられてよい。ベーマイトは、水の分子について1.5を超え、最大で約2のxの値を有していてよい。但し、全ての粒子サイズの市販グレードのベーマイトは、典型的には、1.0~1.5の範囲にあるxの値を有する。xの値は、先ずベーマイトを約120℃で1時間乾燥させて、表面に吸着した水を除去し、次いで、ベーマイトサンプルを1000℃で1時間加熱して、それにより無水アルミニウム酸化物Al2O3へと脱水したときに生じる水の損失を測定することによって測定することができる。
【0026】
本発明で利用してよいポリマの例は、限定はされないが、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースポリマ、ビニルピロリドンポリマやその重合体、キトサン等の多糖類、ポリエチレンオキシド、及びポリビニルアルコールを含む。好ましくは、ポリマは、単独で又は組み合わせにおいて、ナノ多孔質層に凝集力及び接着力を提供し、リチウム電池の電解質に不溶性であり、またリチウム電池の使用の電圧範囲にわたって電気化学的に安定である。これらの特性を達成するのに必要であれば、1つ以上のポリマを架橋してよい。
【0027】
「ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率」という用語が意味するものは、無機粒子/ポリマ複合層の固体部分のポリマ含有量の体積百分率として表される割合である。以下で説明するように、ナノ多孔質層は、約30%~約70%の%多孔率を有する。換言すると、ナノ多孔質層の体積の多くは空気であり、固体材料ではない。空気体積(例えば、細孔)は、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率を決定する目的では固体部分に含まれない。ナノ多孔質層のポリマと無機粒子の内容物の体積分率は、材料の相対密度に基づいて計算することができる。例えば、無機粒子が密度3.03g/ccのベーマイトのみであり、有機ポリマの密度が1.3g/ccであり、有機ポリマに対するベーマイトの重量比が12:1である場合、ベーマイトの体積分率は83.7%となり、有機ポリマの体積分率は16.3%となる。有機ポリマに対するベーマイトの重量比を4:1に変更すると、ベーマイトの体積分率は63.2%となり、有機ポリマの体積分率は36.8%となる。有機ポリマの密度が1.1g/ccのようにより低い場合、無機粒子/ポリマの同じ重量比での体積分率は、ポリマ密度が1.3g/ccとより高い場合よりも高くなる。ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上の有機ポリマの体積分率を決定するために、例えば、層を注意深くこすり落とすことやポリマ基材を何ら除去しないこと等により、ナノ多孔質層をセパレータから取り外す。次いで、るつぼ内の秤量されたナノ多孔質層サンプルを、有機ポリマを燃焼させてセラミック粒子の残留物を残すのに十分な温度で燃焼させる。これにより、燃焼したセラミック粒子の重量がもたらされる。粒子がベーマイトのみの場合、燃焼した粒子のこの重量を、ベーマイト1分子あたり1分子の水に相当する場合の0.85で除すことによって、燃焼前のサンプルのベーマイトの重量を求める。殆どのベーマイト粒子は燃焼に際して15%の重量損失があるが、ベーマイト粒子が0.84又は0.82等の異なる重量損失係数を有する場合もある点に留意すべきである。これと同じ情報は、熱重量分析器を用いて、ナノ多孔質層を900℃以上に加熱したときのナノ多孔質層の重量を、一定の重量が達成されるまで記録することによっても得ることができる。上記のように、ベーマイトの密度は3.03g/ccである。殆どの有機ポリマの密度は1.1~1.4g/ccであるが、ポリビニリデンジフルオライド(PVdF)等の幾つかのポリマの密度は約1.8g/ccである。有機ポリマの同一性及び重量比を分析することによって有機ポリマの密度が分かった後、ベーマイトのみのナノ多孔質層について、ナノ多孔質層の固体部分における有機ポリマの体積%を計算することができる。例えば、ベーマイトの重量パーセントが88.9%であり、顔料:バインダの重量比8:1で有機ポリマの重量パーセントが11.1%、その密度が1.3g/ccである場合、ベーマイト及び有機ポリマの重量パーセントをそれらの密度で除すことによって、ベーマイトの相対体積パーセントは29.34%と与えられ、有機ポリマの相対体積パーセントは8.54%と与えられる。これらの体積パーセントをナノ多孔質層の固体部分の総体積パーセント100%へと正規化することにより、有機ポリマの体積パーセントは22.54%と与えられる。ナノ多孔質層がベーマイトと他のセラミック粒子のブレンドである場合、又は有機ポリマの密度が未知である場合、当該技術分野で知られているように、有機ポリマの体積パーセントを測定するために更なる分析を行ってよい。
【0028】
粒子の「結晶サイズ」という用語は、無機粒子の主要結晶又は単結晶の平均サイズのことを言う。これは、典型的には、X線回折、透過型電子顕微鏡(TEM)、又は非常に高解像度の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される。上記で引用したサソルのロスカトワ等のPCT/IB2015/000272は、X線回折を用いてアルミナ及びベーマイト等の無機粒子の結晶の平均サイズを決定する例を提供している。前述のように、TEM法又はSEM法を用いて結晶サイズを決定してよい。ベーマイト粒子等の多くの無機酸化物粒子は、形状がほぼ立方体であるが、プレートレット及び針等の他の形状とすることもできる。乾燥した固体状態で溶液中において、ベーマイト粒子は、典型的には、例えば、10~20個の主要粒子等の多くの主要ベーマイト粒子からなるより大きな粒子へと凝集する。本発明のナノ多孔質層中の無機粒子は、粒子の結晶サイズに関連する細孔サイズ直径等の特徴をもたらす。
【0029】
本発明のセパレータの一実施形態において、ポリマ層の両面上のナノ多孔質層の総厚さのセパレータの総厚さに対する比は、10%~80%である。これらの層の厚さは、セパレータの断面のSEM分析によって測定されてよい。ナノ多孔質層におけるナノ多孔質細孔サイズと有機ポリマの高い体積分率とを理由として、ナノ多孔質層の比例厚さの下限を、セパレータの総厚の15%以上、より典型的には25%以上ではなく、約10%にすることによって、安全性の改善に必要とされる高温でのセパレータの寸法安定性において、優れた改善がもたらされることが分かった。ナノ多孔質層におけるナノ多孔質細孔サイズと有機ポリマの非常に高い体積分率(例えば、約10%~約50%)との組み合わせにより、許容範囲内の%多孔率(例えば、約30%~約70%)が、電解質の良好なイオン伝導度と共にもたらされることが分かった。また、本発明のセパレータは、セパレータの総厚さの80%と同等のナノ多孔質層の総厚さで良好に機能することも分かった。
【0030】
一実施形態において、150℃、1時間でのセパレータの熱収縮は5%未満である。この熱収縮は、オーブン内で1時間加熱した後のセパレータの面積変化によって測定されてよい。熱収縮のこの測定は、セパレータの大きなシートを、この大きなシートのより小さい部分上の10cm×10cm等の正方形又は長方形の寸法及び面積をマーキングして測定した後に、オーブン内で吊り下げることにより行われてよい。オーブン内での加熱の後、マーキングした領域の寸法及び面積の%変化又は%収縮を測定する。
【0031】
一実施形態において、200℃、1時間でのセパレータの熱収縮は5%未満である。本発明のナノ多孔質セパレータは、多孔質ポリエチレン層等のポリマ層の融点を十分に超えて加熱された場合であっても、それらの寸法安定性を保持していることが分かった。
【0032】
本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層の両面上の総塗工重量は、150℃、1分間でのセパレータの熱収縮を5%未満にしつつ、4.5グラム/平方メートル(gsm)未満である。尚、密度が約3.03g/ccとより低い密度のベーマイトの使用は、より高密度の無水アルミニウム酸化物又はアルミナ(密度が約4g/cc)と比較して、熱安定化層の塗工重量を更に低下させるのに役立つ。無機酸化物粒子の密度が低いほど、特定の厚さ及び%多孔率に必要な塗工の重量が比例して減少する。
【0033】
例えば、ポリエチレンベースのセパレータ用の45%の多孔率を有する4ミクロン厚のアルミナ/ポリマ層は、典型的には、約8グラム/平方メートル(gsm)の重量である。但し、同じ厚さ及び%多孔率でベーマイト(又はベーマイトと他の密度が類似若しくは低い無機粒子のブレンド)に切り替えると、塗工重量が約6gsm以下に低下する。本発明のセパレータのナノ多孔質層中のポリマの高い体積分率は、5nm~90nmの結晶サイズを有するベーマイトの使用と組み合わされて、セパレータ層の特定の厚さの寸法安定性を高める。セパレータ内の無機粒子/ポリマ層の総厚さを4ミクロン以上にすることは依然として可能であるが、高温での優れた寸法安定性を達成しつつ、無機粒子/ポリマ層の厚さを合計約3ミクロン等、可能な限り薄くすることが、セパレータのコストを下げ、層厚さを減少するために望ましい。一実施形態において、200℃、1時間でのセパレータの熱収縮は5%未満である。
【0034】
一実施形態において、二酸化ケイ素及び窒化ホウ素等の、密度が約3.0g/cc以下の他の無機酸化物及び/又は無機窒化物を、ベーマイト顔料とブレンドしてよい。これにより、以下で更に論じるように、ナノ多孔質層のより低い総塗工重量、及びより低い含水量等の他の望ましい特性がもたらされる。
【0035】
本発明のセパレータの別の実施形態においては、ナノ多孔質層の両面上の総塗工重量は、150℃、1分間でのセパレータの熱収縮を5%未満にしつつ、3.5グラム/平方メートル(gsm)未満である。一実施形態において、200℃、1時間でのセパレータの熱収縮は5%未満である。
【0036】
本発明のセパレータの一実施形態において、無機粒子の結晶サイズは、約30nm~約50nm、好ましくは約5nm~約25nm、より好ましくは約5nm~約10nmであってよい。一実施形態において、無機粒子は、約30nm~約50nmの結晶サイズを有するベーマイト粒子を備える。一実施形態において、ベーマイトの結晶サイズは、約5nm~約10nm、好ましくは約5nm~約8nmであってよい。
【0037】
本発明の別の実施形態においては、ナノ多孔質層の%多孔率は、30%と55%の間である。ナノ多孔質層の%多孔率は、乾燥塗工物における材料が多孔率0%の100%固体塗工物であると仮定すると共にそれを塗工物の実際の密度と比較して、乾燥塗工物における材料のg/ccでの密度から計算されてよい。ナノ多孔質層の実際の密度は、そのgsmでの塗工重量をその塗工厚さで除して、ナノ多孔質層の密度をg/ccで提供することによって計算されてよい。ナノ多孔質層の密度を非多孔質層における同じ材料の計算された密度で除して、それに100%を乗ずることによって、ナノ多孔質層中の体積による%固体分率がもたらされる。この%固体分率の値を100%から減じれば、ナノ多孔質層の%細孔容積又は%多孔率が与えられる。%多孔率は、水銀ポロシメトリ分析によって測定することもできる。
【0038】
一実施形態において、ナノ多孔質層の細孔容積は、0.8cc/gと1.0cc/gの間である。細孔容積は、ナノ多孔質層の塗工重量をgsmで測定し、ナノ多孔質層の厚さを測定して、1平方メートルにおける総ccを決定するによって計算することができる。次いで、1平方メートルにおける総ccをgsm測定のグラム数で除することによって、細孔容積がcc/gで計算される。一実施形態において、ナノ多孔質層の%多孔率は、55%~70%である。このレベルの%多孔率を超えると、長期的でより安全なリチウム電池セパレータ用途に望ましいナノ多孔質層の凝集力及び接着力を得ることが難しくなる。
【0039】
本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、15%~45%である。一実施形態において、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、20%~45%である。一実施形態において、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、25%~45%である。
【0040】
本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層は、80nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、細孔の少なくとも70%は、80nm未満の直径を有している。本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層は、50nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、細孔の少なくとも70%は、50nm未満の直径を有している。本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層は、25nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、細孔の少なくとも70%は、25nm未満の直径を有している。
【0041】
本発明のセパレータの一実施形態において、ナノ多孔質層が存在しない場合のポリマ層の通気度に対するセパレータの通気度の比は、1.0~1.4である。上述したように、この通気度は、典型的には、100ccの空気がセパレータを通過する秒数であるガーレー数を提供する機器で測定される。通気度の低レベルの増加は、無機酸化物/ポリマ層を追加することによりセパレータ内の電解質のイオン伝導度において予想される低下が低いことを示す重要な指標である。イオン伝導度が大きく低下すると、リチウム電池のサイクルレート能力、特にそのパワーレート特性が妨げられると共に、リチウム電池のサイクリングライフタイムも妨げられる可能性がある。
【0042】
本発明のセパレータの一実施形態において、ポリマ層はポリオレフィンを備える。適切なポリオレフィンは、限定はされないが、ポリエチレン及びポリプロピレンを含む。ポリオレフィンポリマの他の例は、限定はされないが、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンの単独重合体並びにそれらの共重合体及び三元重合体を含み、これらは単独で又は1つ以上のタイプのポリマと組み合わせて用いられる。一実施形態において、ポリマ層はポリエチレンを備える。ポリマ層は、押し出しとそれに続く溶媒抽出により多孔性を提供する「湿式プロセス」タイプ、又は押出しとそれに続く延伸により多孔性を提供する「乾式プロセス」タイプのものであってよい。多孔質ポリマ層においては、ポリエチレン及び他のポリマの種々の分子量、密度、及び立体化学構造を種々のメルトフロー特性及び機械的特性と共に利用してよい。
【0043】
ナノ多孔質層の塗工流体のより良好な均一湿潤と基材へのナノ多孔質層のより良好な接着とを目的として、多孔質ポリマ層は、ナノ多孔質層が適用される表面上に塗工層を有していてよい。
【0044】
ポリマ層中にポリエチレンを備えるセパレータの一実施形態において、120℃、1時間でのセパレータの熱収縮は、1.0%未満である。本発明のセパレータのナノ多孔質層がないと、同等の総厚さのポリエチレンセパレータの熱収縮は、典型的には105℃で1.0%より大きい。一実施形態において、120℃での熱収縮前のセパレータの通気度に対する120℃、1時間での熱収縮後のセパレータの通気度の比は、0.8~1.2である。これは、通気度及びイオン伝導度に悪影響を与えることなく、場合によっては熱処理によりイオン伝導度にプラスの影響を伴って、120℃の高温で本発明のポリエチレンベースのセパレータの真空乾燥を可能にするための重要な特徴である。真空乾燥は、リチウム電池のサイクリングライフタイム及び容量を増加させるため並びにリチウム電池サイクリングレート能力を高めるためにセパレータの水分含有量を下げる上で有益である。真空乾燥は、典型的には、ポリエチレンセパレータに対しては約80℃で4~24時間、1つ以上の無機酸化物/ポリマ層を備えたポリエチレンセパレータに対しては約90℃で4~24時間行われる。本発明のポリエチレンベースのセパレータに対して、120℃のより高い温度及び1~3時間のより短い乾燥時間を用いることの可能性は有用である。
【0045】
本発明のセパレータの別の実施形態においては、ナノ多孔質層は、ポリマ層上の積層層である。「積層層」という用語が意味するものは、ナノ多孔質層が直接塗工等によって最初にポリマ層上に形成されるのではなく、その代わりにその後の工程でポリマ層に積層されることである。例えば、ナノ多孔質層は、剥離基材上に塗工され、次いでこのナノ多孔質層は、積層によってポリマ層上に転写される。この積層は、随意的には、ナノ多孔質層をポリマ層に接着すると共に、積層多層セパレータの品質を損なうことなく剥離基材のその後の剥離を助けるための熱の使用及び/又は何らかの有機溶媒の使用を含んでいてよい。
【0046】
本発明のリチウム電池用のセパレータの別の態様は、(a)多孔質ポリマ層と(b)このポリマ層の片面又は両面上のナノ多孔質無機粒子/ポリマ複合層とを備えるセパレータに関し、ナノ多孔質層は、無機酸化物(例えば、ベーマイト)又は無機酸化物及び無機窒化物(例えば、BN又はAlN)のブレンドとポリマとを備え、無機粒子の結晶サイズは、約5nm~約25nm、好ましくは約5nm~約8nmである。一実施形態において、ナノ多孔質層は、約25nm以下の平均細孔直径を有する細孔を備え、細孔の少なくとも約70%は約25nm以下の直径を有する。
【0047】
本発明のリチウム電池用のセパレータの更なる態様は、(a)多孔質ポリエチレン層と(b)ポリエチレン層の両面上のナノ多孔質無機粒子/ポリマ複合層とを備えるセパレータに関し、ナノ多孔質層は、ベーマイト又はベーマイト及び窒化ホウ素のブレンドと1つ以上のポリマとを備え、ナノ多孔質層の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、約10%~約50%であり、両面上のナノ多孔質層の総塗工重量は、平方メートルあたり5.5グラム以下であり、セパレータの150℃、1時間での熱収縮は5%未満である。一実施形態において、両面上のナノ多孔質層の総塗工重量は平方メートルあたり3.5グラム以下であり、ポリエチレン層の厚さは5ミクロンと16ミクロンの間である。
【0048】
別の実施形態においては、本発明は、本発明のセパレータを備えるリチウム電池である。
【0049】
本発明の別の態様は、本発明のセパレータを作製する方法であり、この方法は、多孔質ポリマ層の片面又は両面上に無機粒子及び1つ以上のポリマを備える溶液を塗工することを含む。一実施形態において、無機粒子は、5nm~90nmの結晶サイズを有するベーマイト粒子を備える。一実施形態において、ベーマイト粒子は、約5nm~約25nm、好ましくは約5nm~約8nmの結晶サイズを有する。一実施形態において、乾燥後の塗工物の固体部分における1つ以上のポリマの体積分率は、約10%~約50%、好ましくは約12%~約45%、より好ましくは約15%~約45%である。
【実施例】
【0050】
本発明の幾つかの実施形態を以下の実施例において説明するが、これらは、限定としてではなく例示として提供される。
【0051】
実施例1
ベーマイト(テキサス州ヒューストンのサソルインクから調達したディスパル10F4(DISPAL 10F4 supplied by Sasol Inc., Houston, Texas))12部とキトサン(ミズーリ州セントルイスのシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)から調達した多糖の脱アセチル化キチン、ポリ(D-グルコサミン)、中分子量)1部とを9:1の水:イソプロピルアルコール73部に加え、そのスラリーを攪拌することによってベーマイトスラリーを調製した。ベーマイトの主要粒子サイズは約40nmであった。異なるワイヤ太さの巻き線型ロッドを用いて12ミクロン厚の多孔質ポリエチレンセパレータ(オレゴン州レバノンのエンテック(ΕΝTEK)から調達したEP12)の両面上にベーマイトスラリーを塗工して、両面に対して1.2グラム/平方メートル(gsm)~5.2gsmの範囲の塗工重量を得た。先ずベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの片面に適用し、対流式オーブン内において70℃で2分間乾燥させた。次いで、ベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの反対側の未塗工面に適用し、最初の塗工と同じオーブン加熱条件下で乾燥させた。
【0052】
キトサンバインダに対するベーマイト顔料の12:1重量比は、多孔質ベーマイト塗工層の固体部分において15.3体積%のキトサンバインダを有するものと計算される。この計算は、ベーマイトの比重3.03g/cc及びキトサンの比重1.4g/ccに基づく。
【0053】
塗工厚さは、両面上にベーマイト塗工物を塗工する前と後に、ポリエチレンセパレータ上でドーシーゲージ(Dorsey gauge)を用いて測定した。塗工の前と後での厚さの値の差は、ミクロン単位の塗工厚さである。塗工厚さを測定する代替的な方法は、粘着テープで塗工物を剥がすか、アルコールを染み込ませた布で塗工物を擦り落とすかのいずれかによって両面上のベーマイト塗工物を取り外す前と後に、塗工セパレータ上でドーシーゲージを用いることである。
【0054】
塗工重量は、両面上にベーマイト塗工物を塗工する前と後に、ポリエチレンセパレータの10cm×10cmサンプルの重さを量ることにより測定した。塗工の前と後での重量の差に1,000を乗じると、グラム/平方メートル(gsm)単位の塗工重量となる。塗工重量を測定する代替的な方法では、粘着テープで塗工物を剥がすか、アルコールを染み込ませた布で塗工物を擦り落とすかのいずれかによって両面上のベーマイト塗工物を取り外す前と後に、塗工セパレータの10cm×10cmサンプルの重さを量った。
【0055】
図1は、約0.6gsm~約2.6gsmの片面あたりの平均ベーマイト塗工厚さ及び塗工重量のプロットを示す。両面塗工については、これらの数値を2倍にすると、約1.2gsm~約5.2gsmの総塗工重量範囲が与えられる。両面の総ベーマイト塗工厚さは、約1.2ミクロンから約4.4ミクロンまで変化する。塗工厚さのより正確な測定が望ましい場合には、ベーマイト塗工プラスチックセパレータの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)分析を利用することができる。
【0056】
総塗工厚さについてのSEM分析を用いて、塗工厚さ1ミクロンあたり約1.06gsmの密度が示された。このことから、バインダに対する顔料のこの12:1の比率に対する%多孔率は62%と推定される。
【0057】
ベーマイト塗工のコストを最小化する1つの目的は、熱収縮を150℃で5%未満の収縮等の目標値まで低減するのに必要とされる塗工の総重量を適用することである。
図2は、このレベルの熱収縮が、本実施例の12ミクロンのポリエチレン基材上で約1.9ミクロン以上の片面あたりの平均塗工厚さで得られることを示している。両面塗工については、この数値を2倍にすると、約3.8ミクロン以上の総塗工厚さが与えられる。SEM分析によって決定されたベーマイト塗工の密度に基づくと、両面上の約3.8ミクロンの総塗工厚さは、約4.0gsmの塗工重量に相当する。
【0058】
ベーマイトスラリーのより良好な湿潤及び塗工接着のために、ポリエチレン基材のコロナ処理が好ましい。巻き線型塗工ロッドの他に、限定はされないが、グラビア塗工、スクリーンプリンタ塗工、リバースロール塗工、ブレード塗工、及びスロットダイ塗工等、種々の他の塗工適用方法が用いられてよい。
【0059】
実施例2
ベーマイト(ドイツ、ハンブルグのサソルインクから調達したディスペラルD60(DISPERAL D60 supplied by Sasol Inc., Hamburg, Germany))12部とビニルピロリドン共重合体(デラウェア州ウィルミントンのアシュランドインクから調達したソテラスCCS(Soteras CCS grade supplied by Ashland Inc., Wilmington, DE))1部とを9:1の水:イソプロピルアルコール73部に加え、そのスラリーを攪拌することによってベーマイトスラリーを調製した。ベーマイトの主要粒子サイズは約75nmであった。異なるワイヤ太さの巻き線型ロッドを用いて12ミクロン厚の多孔質ポリエチレンセパレータ(オレゴン州レバノンのエンテック(ENTEK)から調達したEP12)の両面上にベーマイトスラリーを塗工して、両面に対して約2.4グラム/平方メートル(gsm)~約9.2gsmの範囲の塗工重量を得た。先ずベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの片面に適用し、対流式オーブン内において70℃で2分間乾燥させた。次いで、ベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの反対側の未塗工面に適用し、最初の塗工と同じオーブン加熱条件下で乾燥させた。
【0060】
ビニルピロリドン共重合体バインダに対するベーマイト顔料の12:1重量比は、多孔質ベーマイト塗工層の固体部分において18.7体積%のポリマバインダを有するものと計算される。この計算は、ベーマイトの比重3.03g/cc及びビニルピロリドン共重合体の比重1.1g/ccに基づく。
【0061】
図3は、約1.2gsm~約4.6gsmの片面あたりの平均ベーマイト塗工厚さ及び塗工重量のプロットを示す。両面塗工については、これらの数値を2倍にすると、約2.4gsm~約9.2gsmの総塗工重量範囲が与えられる。両面の総ベーマイト塗工厚さは、約2.8ミクロンから約9.0ミクロンまで変化する。
【0062】
既に論じたように、ベーマイト塗工のコストを最小化する1つの目的は、熱収縮を150℃、1時間で5%未満の収縮等の目標値まで低減するのに必要とされる塗工の総重量を適用することである。
図4は、このレベルの熱収縮が、本実施例の12ミクロンのポリエチレン基材上で約2.0ミクロン以上の片面あたりの平均塗工厚さで得られることを示している。両面塗工については、この数値を2倍にすると、約4.0ミクロン以上の総塗工厚さが与えられる。
図3に基づくと、両面上の約4.0ミクロンの総塗工厚さは、約3.9gsmの塗工重量に相当する。
【0063】
9:1の水:イソプロピルアルコール中で15%固形分の、ビニルピロリドン共重合体に対してディスペラルD60の重量比が8:1のベーマイトスラリーについても、本実施例では12:1のベーマイトD60:ポリマ塗工に関して、巻き線型ロッドを用いて12ミクロンのポリエチレン基材上に塗工し、乾燥させた。ポリマバインダの体積パーセントは25.6%と計算された。
図5は、約0.8gsm~約4.2gsmの片面あたりの平均ベーマイト塗工重量及び塗工厚さのプロットを示す。重量比が8:1のベーマイト顔料:ビニルピロリドンポリマバインダでのこのベーマイト塗工の両面塗工については、これらの数値を2倍にすると、約1.6gsm~約8.4gsmの範囲が与えられる。両面の対応する総ベーマイト塗工厚さは、約1.6ミクロンから約8.2ミクロンまで変化する。
図6は、150℃、1時間での5%未満の熱収縮が、約2.2ミクロン以上の片面あたりの平均塗工厚さで得られることを示している。両面塗工については、この数値を2倍にすると、約4.4ミクロン以上の総塗工厚さが与えられる。
図5に基づくと、約4.4ミクロンの総塗工厚さは、約4.8gsmの塗工重量に相当する。
【0064】
実施例3
実施例2の手順を用いて、9:1の水:イソプロピルアルコール中で15%固形分の、重量比12:1のディスパル25F4(DISPAL 25F4)ベーマイト及びビニルピロリドン共重合体のベーマイトスラリーを調製した。ディスパル25F4は、ルイジアナ州レイクチャールズのサソル(Sasol, Lake Charles, LA)から調達し、その主要結晶粒子サイズは8nmである。このベーマイトスラリーを、実施例1及び2で用いたプロセスと同様に、エンテックから調達したEP12の12ミクロンポリエチレン基材上に塗工し、乾燥させた。ポリマバインダの体積パーセントは18.7%と計算された。
図7は、約0.8gsm~約3.0gsmの片面あたりの平均ベーマイト塗工厚さ及び塗工重量のプロットを示す。重量比が12:1のベーマイト顔料:ビニルピロリドンポリマバインダでのこのベーマイト塗工の両面塗工については、これらの数値を2倍にすると、約1.6gsm~約6.0gsmの範囲が与えられる。
図8は、150℃、1時間での5%未満の熱収縮が、約1.8ミクロン以上の片面あたりの平均塗工厚さで得られることを示している。両面塗工については、この数値を2倍にすると、約3.6ミクロン以上の総塗工厚さが与えられる。
図7に基づくと、約3.6ミクロンの総塗工厚さは、約3.6gsmの塗工重量に相当する。
【0065】
9:1の水:イソプロピルアルコール中でビニルピロリドン共重合体に対してディスパル25F4の重量比が8:1のベーマイトスラリーについても、実施例1及び2で用いたプロセスと同様に、12ミクロンのポリエチレン基材上に塗工し、乾燥させた。ポリマバインダの体積パーセントは25.6%と計算された。
図9は、約0.8gsm~約4.7gsmの片面あたりの平均ベーマイト塗工厚さ及び塗工重量のプロットを示す。重量比が8:1のベーマイト顔料:ビニルピロリドンポリマバインダでのこのベーマイト塗工の両面塗工については、これらの数値を2倍にすると、約1.6gsm~約9.4gsmの総塗工重量範囲が与えられる。
図10は、150℃、1時間での5%未満の熱収縮が、約0.9ミクロン以上の片面あたりの平均塗工厚さで得られることを示している。両面塗工については、この数値を2倍にすると、約1.8ミクロン以上の総塗工厚さが与えられる。
図9に基づくと、約1.8ミクロンの総塗工厚さは、約2.9gsmの塗工重量に相当する。厚さが約1.8ミクロンのベーマイト塗工については、塗工重量は、8:1ベーマイト顔料:ビニルピロリドン共重合体のベーマイト重量%がより低いことと、キトサンと比較してビニルピロリドン共重合体の重量%がより高く密度がより低いこととを考慮すると、実施例1で示した約1.1g/ccのベーマイト塗工物の密度に基づき、約2.0gsmであるべきであった。このことは、約0.9gsmのベーマイト塗工物がポリエチレン基材の細孔内に入り込んで乾燥し、表面にベーマイト塗工物を備えたベーマイト/ポリエチレン基材を生成したことを示している。この塗工物の8:1の顔料:バインダ(P:B)比では、細孔内の約0.9gsmのベーマイト粒子は、ベーマイト/ポリエチレンの基材又は層の細孔内の約0.8gsmのベーマイト粒子に相当する。このベーマイト塗工物がポリエチレン基材の両面上に適用されたので、ベーマイトの約半分、即ち約0.4gsmのベーマイトが、ポリエチレン基材の各面の細孔内に入り込んで乾燥し、ベーマイトで塗工されたベーマイト/ポリエチレン基材をもたらすベーマイト/ポリエチレンの基材又は層を形成したようである。
【0066】
ビニルピロリドン共重合体の代わりのキトサンとエンテックのポリエチレン基材の代わりの中国、シンセンのシンセンシニア(Shenzhen Senior)から調達した12ミクロン厚のポリエチレン基材とで、本実施例の手順を用いてディスパル2SF4を伴う同様の8:1ベーマイト塗工物を作製し、1.8gsmの塗工重量が与えられた。この塗工物の熱収縮は、150℃で1時間加熱したときに5%未満であった。粘着テープでベーマイト塗工物を取り外す手順を用いた場合、テープを慎重に引っ張ったにもかかわらず、ポリエチレン基材の一部を剥がさずに10×10cmのサンプルからベーマイト塗工物を取り外すことはできなかった。これは、実施例1及び2並びに比較例1及び2のポリエチレン基材からのベーマイト塗工物の容易且つ完全な取り外しのテープ引っ張り結果とは対照的であった。この結果は、ベーマイト塗工物の一部がポリエチレン層の細孔内に入り込み乾燥すると、テープ引っ張りにおける破損点が、ポリエチレン表面とポリエチレン表面上のベーマイト塗工物との間の界面ではなく、殆どの領域でポリエチレン層の表面の下方になるような接着力及び凝集力がベーマイト塗工物にもたらされたことと一致した。テープ引っ張りの後、ポリエチレン層が乱されなかった幾つかの領域が見つかった。これらの領域から、ベーマイト層の追加的な厚さは約1.8ミクロンであると分かった。
【0067】
テープ引っ張りによってはポリエチレン層からベーマイト塗工物をきれいに取り外すことができなかったので、メタノールを染み込ませた柔らかい布を用いて、塗工物を洗浄し、擦り落とした。洗浄後の10×10cmのサンプルの重量は0.0757グラム(g)であった。メタノールで更に2回擦っても、洗浄され擦られたサンプルのこの重量は変化しなかった。この実施例で用いたポリエチレン基材は、アルミナ又はベーマイト等の無機顔料を含有していなかった。メタノールで洗浄したサンプルをるつぼ内にて1000℃の温度で70分間炉内燃焼させると、ベーマイト顔料重量の15%の重量損失を伴うベーマイト顔料の脱水の後、0.0045gの無水アルミニウム酸化物が示された。アルミニウム酸化物重量を0.85で除することによりこのベーマイトからアルミニウム酸化物への変換係数を用いると、約0.0053のベーマイト含有量が与えられ、即ちポリエチレン層の細孔内に少なくとも約0.53gsmのベーマイト顔料が与えられる。表面上のベーマイト塗工物を取り外すための湿式摩擦は、ポリエチレン層の上部細孔内のベーマイト塗工物を少量取り外したであろうから、細孔内のベーマイト顔料の重量は、0.53gsmよりも若干大きかった可能性がある。ポリエチレン層上には2つの塗工物があったため、1つの塗工からの細孔内のベーマイトの量は、この合計の約半分、即ち約0.27gsmである。ポリエチレン基材の細孔内へのベーマイト塗工物の入り込みの更なる証拠として、150℃で1時間加熱した後、細孔内に約0.53gsmのベーマイトを備えたこの「洗浄」ポリエチレンの寸法安定性は、2つの方向(機械方向(MD)及び横方向(CD))で54%及び36.5%であった。対照的に、塗工前のポリエチレン基材は、70%及び75.5%の熱収縮を示した。ポリエチレン基材の細孔内のベーマイト顔料によるこの熱安定性の向上は、ポリエチレン層の表面に付加された塗工重量及び塗工厚さがかなり小さく、150℃での寸法安定性が高いことの1つの説明である。ポリマ層の細孔内のベーマイト粒子の存在と量を分析するために、燃焼及び/又は熱重量分析法で、上述のような、ナノ多孔質層の表面塗工物の取り外しと、それに続く全ての有機ポリマの燃焼とが、ナノ多孔質層内にベーマイト粒子のみであり、ポリマ層がベーマイト塗工の適用前に無機粒子又はベーマイト粒子を含有していなかった場合に用いられてよい。別の方法は、平均結晶サイズを測定するために用いられるTEM又はSEM法を用いて、ポリマ層の細孔内のベーマイト粒子の存在の画像を作成し、同時にそれらの結晶サイズを決定することである。この方法を上記の燃焼及び/又は熱重量分析法と組み合わせて、細孔内のベーマイト又はもしあれば他のセラミック粒子の重量を定量化することにより、セパレータ内のベーマイト粒子の重量がgsm単位でもたらされる。必要に応じて、FTIR、X線回折、熱重量分析(TGA)、高分解能光電子分光法(ESCA)、及び27Al核磁気共鳴(nmr)等のベーマイト粒子に対する既知の分析技術を利用して、ポリマ層の細孔内のベーマイト粒子の存在と量を更に確認することができる。ポリマ層から表面塗工物を取り外した後ポリマ層の細孔内のベーマイト粒子等のセラミック粒子を収集するための代替的な手法は、ポリマ層からポリマを溶解して不溶性無機粒子を分離する高温溶媒を用いてポリマ層のソックスレー抽出(Soxhlet extraction)を行うことであってよい。無機粒子の重量を提供することに加えて、これを上記の分析方法、燃焼及び/又は熱重量分析やTEM又はSEM方法と組み合わせて、ベーマイト粒子の存在と量を確認することができる。ナノサイズのベーマイト粒子のこの入り込みの1つの利益は、表面ベーマイト又は他の塗工物がない又は最小限であるベーマイト/ポリエチレン基材を種々の用途のために製造及び販売する能力であってよく、そのような用途はCCSを製造するための用途を含み、この場合、ベーマイト/ポリエチレン基材はポリエチレン基材に対して複数の利点を有していてよく、それらの利点は、限定はされないが、高温でのより高い寸法安定性、改善された小さな細孔サイズ分布、及び後続の塗工による湿潤の容易さ等の他の利益を含む。ベーマイト/ポリマ基材の特に有用な用途の一例は濾過用途であってよく、この場合、種々の表面処理の有無にかかわらず、ポリマの細孔内の非常に小さいナノサイズのベーマイト粒子は、細孔内にベーマイト粒子がないポリマ基材からは得られない所望のナノ濾過及び限外濾過特性を提供可能であってよく、また海水の脱塩に適応可能であってよい。この利点は、ポリエチレンに加えて、ベーマイト/ポリプロピレン及びベーマイト/他のポリオレフィン基材等の他のベーマイト/ポリマ基材に対しても利用可能であってよい。
【0068】
実施例4
実施例1の手順を用いて、重量比で50:50のベーマイト及び窒化ホウ素顔料を備えるナノ多孔質セパレータを作製し、ここでは、エンテック製ポリエチレンセパレータに代えて日本、東京の東レから調達した12ミクロン厚の多孔質ポリエチレンセパレータとし、キトサンに代えてビニルピロリドンポリマ、ソテラス(Soteras)CCSとした。窒化ホウ素顔料は、モーメンティブパフォーマンスマテリアルズ(Momentive Performance Materials)から調達したNX1であった。両面上の総塗工重量は2.5gsmであった。
図11は、ベーマイト顔料のみを備え窒化ホウ素のないコントロールと比較したこのセパレータの含水量の減少を示している。具体的には、
図11に示すように、ベーマイトと窒化ホウ素の重量比が50:50で、20%RHでの含水量は、ベーマイト顔料のみの場合の値の3分の1だけ減少した。
【0069】
比較例1
アルミナ顔料(中国、安徽省の安徽エストンマテリアルズテクノロジー社(AnHui Estone Materials Technology Co., Ltd., Anhui Province, China)から調達したHJA-0719)20部とヒドロキシプロピルセルロースポリマ(デラウェア州ウィルミントンのアシュランドインクから調達したクルセルHグレード(Klucel H grade supplied by Ashland mc.,Wilmington, DE))1部とを水63部に加え、そのスラリーを攪拌することによってアルミナ混合物を水中で調製した。バインダに対する顔料のこの20:1の重量比は、実施例2におけるバインダに対する顔料の8:1の重量比と同様のガーレー通気度及び同様の電解質中イオン伝導度をもたらした。20:1の重量比を減少させてゆくと、より高いガーレー通気性とより低いイオン伝導度とを伴って次第に悪影響が大きくなった。アルミナの主要粒子サイズは400nmより大きかった。異なるワイヤ太さの巻き線型ロッドを用いて12ミクロン厚の多孔質ポリエチレンセパレータ(オレゴン州レバノンのエンテックから調達したEP12)の両面上にアルミナ混合物を塗工して、両面に対して約0.8グラム/平方メートル(gsm)~約4.4gsmの範囲の総塗工重量を得た。先ずアルミナ塗工をポリエチレンセパレータの片面に適用し、対流式オーブン内において70℃で2分間乾燥させた。次いで、アルミナ塗工をポリエチレンセパレータの反対側の未塗工面に適用し、最初の塗工と同じオーブン加熱条件下で乾燥させた。
【0070】
ヒドロキシプロピルセルロースポリマバインダに対するアルミナ顔料の20:1重量比は、多孔質アルミナ塗工層の固体部分において13.6体積%のポリマバインダを有すると計算される。この計算は、アルミナの比重4.0g/cc及びヒドロキシプロピルセルロースポリマの比重1.27g/ccに基づく。約4.4gsmの総塗工重量では、このアルミナ塗工物の収縮は、150℃、1時間で約60%であった。
【0071】
比較例2
ベーマイト顔料(中国、安徽省の安徽エストンマテリアルズテクノロジー社(AnHui Estone Materials Technology Co., Ltd., Anhui Province, China)から調達したBG-613)20部とヒドロキシプロピルセルロースポリマ(デラウェア州ウィルミントンのアシュランドインクから調達したクルセルHグレード(Klucel H grade supplied by Ashland Inc.,Wilmington, DE))1部とを水63部に加え、そのスラリーを攪拌することによってベーマイト混合物を水中で調製した。バインダに対する顔料のこの20:1の重量比は、実施例2におけるバインダに対する顔料の8:1の重量比と同様のガーレー通気度及び同様の電解質中イオン伝導度をもたらした。20:1の重量比を減少させてゆくと、より高いガーレー通気性とより低いイオン伝導度とを伴って次第に悪影響が大きくなった。ベーマイトの主要粒子サイズは400nmより大きかった。異なるワイヤ太さの巻き線型ロッドを用いて12ミクロン厚の多孔質ポリエチレンセパレータ(オレゴン州レバノンのエンテックから調達したEP12)の両面上にベーマイト混合物を塗工して、両面に対して約0.8グラム/平方メートル(gsm)~約7.0gsmの範囲の総塗工重量を得た。先ずベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの片面に適用し、対流式オーブン内において70℃で2分間乾燥させた。次いで、ベーマイト塗工をポリエチレンセパレータの反対側の未塗工面に適用し、最初の塗工と同じオーブン加熱条件下で乾燥させた。
【0072】
ヒドロキシプロピルセルロースポリマバインダに対するベーマイト顔料の20:1重量比は、多孔質ベーマイト塗工層の固体部分において10.7体積%のポリマバインダを有すると計算される。この計算は、ベーマイトの比重3.03g/cc及びヒドロキシプロピルセルロースポリマの比重1.27g/ccに基づく。約7.0gsmの総塗工重量では、このベーマイト塗工物の収縮は、150℃、1時間で約60%であった。
【0073】
表1は、実施例1~3からのデータの要約を示す。
【0074】
【0075】
ナノサイズのベーマイト粒子等のナノサイズのセラミック粒子を用いることにおける1つの課題は、マイクロサイズのアルミナ及びマイクロサイズのベーマイト粒子等のマイクロサイズのセラミック粒子と比較して表面積がはるかに大きいため、水を吸収する傾向が大きいことである。リチウムイオンセル、リチウム金属セル、及び含水量に敏感な他の電気化学セルについては、セパレータは、セラミック材料を含まない多孔質ポリマのみのセパレータにおいて典型的に見られるような低い含水量、例えば600ppm未満、好ましくは300ppm未満、より好ましくは100ppm未満の含水量である必要がある。最高80℃でのセパレータの真空乾燥は、ナノサイズのセラミック粒子を備えたセパレータにおけるこの水分含有量を低下させるのに役立ち、本発明のセパレータは、最高で90℃~約110℃のより高い真空乾燥温度さえも可能にする熱安定性を高めたが、セパレータの一部のユーザは、真空乾燥のこの追加の工程を行わないことを好む場合がある。多孔質ポリマセパレータ層内へのセラミック塗工物及びセラミック粒子の入り込みによるものを含め、本発明のセパレータのより高い熱安定性、より少ない量のセラミック塗工材料の使用によるより低いコスト、及びより薄いセラミック塗工厚さが、より疎水性の高いセラミック粒子及び有機ポリマの使用によるセパレータ中のより低い水分含水量を包含しているとすれば、これは好ましい。本発明のより低い塗工重量によりより少ない量のセラミック粒子を有することは、セパレータの水分含有量を低下させるための重要な利点であるが、セラミック粒子がより疎水性であり、吸湿しにくい場合、これは更に有用である。
【0076】
このより低い吸湿性を提供する1つの手法は、特に疎水性材料がベーマイト粒子と化学的に反応し、従ってベーマイト粒子に恒久的に結合する場合、疎水処理されたベーマイト粒子を用いること等によって、疎水性材料でセラミック粒子の表面を処理することである。ベーマイト顔料の化学的改質に適した疎水性材料は、限定はされないが、有機スルホン酸、有機カーボネート、及び疎水基を有するポリマや、ベーマイト又は他のセラミック粒子の水酸基と反応させることができるカルボン酸基及び水酸基等の反応基を有するポリマを含む。
【0077】
有機スルホン酸処理されたベーマイト粒子の例は、ルイジアナ州レイクチャールズのサソルから入手可能なディスパル(登録商標)25SR、即ちスルホン酸基を介してp-トルエンスルホン酸と化学的に反応したベーマイト顔料を含む。反応により、ベーマイト粒子の外表面上に疎水性のp-トルエン基が残り、水を吸収しにくくなる。サソルから入手可能な更に疎水性の高い例は、スルホン酸基を介してp-ドデシルベンゼンスルホン酸が表面反応し、ベーマイト顔料の外表面上に疎水性が極めて高いドデシル基を有するベーマイト粒子である。これにより、ベーマイト粒子は、この処理されたベーマイトが炭化水素溶媒中に分散されるように疎水性になる。セパレータのための、ベーマイト塗工における有機スルホン酸で表面処理されたベーマイト粒子の使用は、スー等(Xu et al)による米国特許出願公開第2013/0171500号に開示されている。
【0078】
有機カーボネート処理されたベーマイト粒子の例は、限定はされないが、有機カーボネートとしてエチレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートを備えたものを含む。ベーマイトの表面と反対側を向く分子の部分において非常に疎水性である有機カーボネートを選択する選択肢の他に、イオン伝導性の増大をセパレータにもたらす有機カーボネートを選択することを視野に入れた選択肢もあり得る。導電性を高めたセパレータを提供するための、エチレンカーボネートで表面処理されたベーマイト粒子の使用は、カールソン等(Carlson et al)への米国特許第8,883,354号に記載されている。
【0079】
セパレータを提供するための、有機ポリマで表面処理されたベーマイト粒子の使用は、カールソン等(Carlson et al)への米国特許第9,871,239号に記載されている。ベーマイトセパレータにおいては主要結晶サイズ及び得られる細孔サイズが小さくなり、このより小さい細孔サイズによりセパレータのイオン伝導度が低くなるので、セパレータのイオン伝導度を高め、セパレータの含水量を下げるために利用することができる上述した3つのタイプ等の表面処理を行うことが有用である。
【0080】
表面処理された疎水性材料を備えたセラミック混合物又はスラリーの調製は、有機カーボネート等の前駆体を、未処理のベーマイト粒子を含有するスラリーに加え、このスラリーを80℃等の温度に十分な時間、例えば1時間加熱して、有機カーボネート等の表面処理材料を表面処理の所望のレベルまでベーマイト粒子と反応させることによって、都合よく行うことができる。表面処理されたベーマイト粒子を乾燥プロセスにより分離する必要はないが、むしろ通常は、多孔質ポリマ基材の塗工のための所望の%固形分レベルまで水及び/又は溶剤で希釈した後、スラリーをそのまま用いることができる。ベーマイト粒子等のセラミック粒子の粒子サイズを更に小さくすること、及び/又はスラリーを更なる均一性のために、そしておそらくは塗工用の所望の%固形分レベルでのより低い粘度のためにスラリーを均質化することが望ましい場合には、任意の表面処理の前及び/又は後のスラリーをインピンジメントミル又は同様のミリングデバイスで更に混合することができる。顔料を含有する塗工混合物を低減及び均質化するためのインピンジメントミルの使用の例は、カッツェン(Katsen)への米国特許第5,210,114号及び5,292,588号に記載されている。
【0081】
本発明の特定の及び一般的な実施形態を参照して本発明を詳細に説明してきたが、その精神及び範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正がなされ得ることが当業者には明らかであろう。