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  • 特許-消臭剤及び不活性化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】消臭剤及び不活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20240509BHJP
   A61K 8/26 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240509BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20240509BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240509BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/26
A61K8/67
A61K8/27
A61K8/25
A61K8/9789
A61K8/9794
A61K8/73
A61Q15/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020520404
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020760
(87)【国際公開番号】W WO2019225755
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2018100599
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】落合 正敏
(72)【発明者】
【氏名】勝山 雅子
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-026956(JP,A)
【文献】特開昭62-212316(JP,A)
【文献】特開2017-061423(JP,A)
【文献】特表2003-506469(JP,A)
【文献】特開平09-131393(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093089(WO,A1)
【文献】特開昭49-062648(JP,A)
【文献】SINGH Preet Bano et al.,Smelling Anxiety Chemosignals Impairs Clinical Performance of Dental Students,Chemical Senses,2018年05月15日,Vol.43,pp.411-417
【文献】PREHN-KRISTENSEN Alexander et al.,Induction of Empathy by the Smell of Anxiety,PLoS ONE,2009年06月,Vol.4, Issue6,pp.1-9
【文献】DENAWAKA Chamila J. et al.,Source, impact and removal of malodour from soiled clothing,Journal of Chromatography A,2016年,Vol.1438,pp. 216-225
【文献】PANDEY Sudhir Kumar et al.,Human body-odor components and their determination,Trends in Analytical Chemistry,2011年,Vol.30, No.5,pp.784-796
【文献】秋山 朝子 他,固相マイクロ抽出及び加熱脱着ガスクロマトグラフィー/質量分析計によるヒト皮膚から放出される香気成分の,BUNSEKI KAGAKU,2006年,VOL.55,No.10,pp.787-792
【文献】発見!ストレス臭の正体!,2018年02月15日,https://brand.finetoday.com/jp/ag/stresssmell/
【文献】茶の香りを活用した医療現場でのにおい対策と心の癒し,J. Japan Association on Odor Environment,2017年,Vol.48 No.5,pp.380-388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Science Direct
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張臭消臭剤であって、
緊張臭成分中のアリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドによるネガティブな心理的又は精神的作用を不活性化する第1の消臭成分及び第2の消臭成分を含み、
前記第1の消臭成分は、銀担持ゼオライトであり
前記第2の消臭成分は、銀担持ゼオライト、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つであり
前記緊張臭の原因物質、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドを含む、
緊張臭消臭剤。
【請求項2】
緊張臭消臭剤であって、
緊張臭成分中のアリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドによるネガティブな心理的又は精神的作用を不活性化する第1の消臭成分及び第2の消臭成分を含み、
前記第1の消臭成分は、酸化亜鉛であり
前記第2の消臭成分は、酸化亜鉛、ラポナイト、銀担持ゼオライト、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つであり
前記緊張臭の原因物質、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドを含む、
緊張臭消臭剤。
【請求項3】
前記原因物質が、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の緊張臭消臭剤。
【請求項4】
前記原因物質が、1-オクテン-3-オンをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の緊張臭消臭剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本発明は、日本国特許出願:特願2018-100599号(2018年5月25日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、体臭に起因する不快さを解消する又は軽減する消臭剤に関する。本開示は、人体からの分泌成分による生理的/心理的活性(変調)作用を不活性化する不活性化剤に関する。
【背景技術】
【0003】
人体の皮膚から発せられる臭気成分による臭いの多くは、不快に感じる臭いであり、一般的には「体臭」と呼ばれている。例えば、中高年に特有の体臭として「加齢臭」が知られている(例えば、特許文献1参照)。加齢臭による不愉快さを解消するため、特許文献1に記載の加齢臭抑制香料組成物には、加齢臭に対するマスキング効果に優れる成分及び/又は加齢臭に対するハーモナージュ効果に優れる成分が配合されている。
【0004】
また、一般的に、硫黄化合物は不快臭成分であると考えられている。特許文献2には、2-メチルブタン酸ブチル、α-テルピネン、ジペンテン、cis-4-ヘプテナール、1,4-シネオール、トリメチルヘキシルアルデヒド及び(+)-リモネンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、ポリスルフィド化合物の臭いの抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-286428号公報
【文献】WO2016/204212A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、精神的ストレスによって心拍数が上がるような緊張状態(ストレス状態)にある人の周囲に特有の臭いがあることに気が付いた。そこで、本発明者らは、その臭いの原因について研究したところ、その臭いは、緊張状態又は精神的ストレス状態にある人から分泌・放出される物質に起因する体臭(以下、本開示において「緊張臭」又は「ストレス臭」と称する。)であることが判明した。
【0007】
この緊張臭は、硫黄系の臭いであり、多くの人が不快に感じるであろう臭いである。近年、体臭への関心が高まっていることもあり、緊張臭に起因する不快感を解消又は低減可能な消臭剤に対する需要が高まることが予想される。
【0008】
特許文献2に記載の臭いの抑制剤は、排水口や生ごみ等の人体以外からの悪臭についてのみ言及しており、人体から発する悪臭については検討されておらず、特許文献2に記載の臭いの抑制剤では緊張臭を抑制できるか不明である。
【0009】
緊張状態又精神的ストレス状態にある人から分泌、放出される成分(例えば、緊張臭の原因物質)には、生理的活性作用及び心理的活性作用のうちの少なくとも一方があると本発明者は考えている。そこで、緊張状態又精神的ストレス状態にある人から分泌される成分(以下、「緊張臭成分」と称する。)による生理的活性作用及び/又は心理的活性作用を不活性化する不活性剤に対する需要が高まることが予想される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1視点によれば、第1の消臭成分及び第2の消臭成分のうち少なくとも1つを含む緊張臭消臭剤が提供される。第1の消臭成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含む。第2の消臭成分は、ラポナイト、銀担持ゼオライト、酸化亜鉛、ニームリーフエキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、トコフェロール、及びこれらの組合せからなる第2の群から選択される少なくとも1つを含む。
【0011】
本開示の第2視点によれば、第1の消臭成分及び第2の消臭成分のうち少なくとも1つを含む緊張臭消臭剤が提供される。第1の消臭成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含む。第2の消臭成分は、酸化亜鉛と、ラポナイト、銀担持ゼオライト、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第3の群から選択される少なくとも1つと、を含む。
【0012】
本開示の第3視点によれば、第1の消臭成分及び第2の消臭成分のうち少なくとも1つを含む不活性化剤が提供される。第1の不活性化成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含む。第2の不活性化成分は、ラポナイト、銀担持ゼオライト、酸化亜鉛、ニームリーフエキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、トコフェロール、及びこれらの組合せからなる第2の群から選択される少なくとも1つを含む。不活性化剤は、分泌成分の心理的又は精神的活性作用を不活性化する。
【0013】
本開示の第4視点によれば、第1の消臭成分及び第2の消臭成分のうち少なくとも1つを含む不活性化剤が提供される。第1の不活性化剤成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含む。第2の不活性化剤成分は、酸化亜鉛と、ラポナイト、銀担持ゼオライト、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第3の群から選択される少なくとも1つと、を含む。不活性化剤は、分泌成分の心理的又は精神的活性作用を不活性化する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の消臭剤によれば、緊張臭に基づく不快感を解消ないし軽減することができる。
【0015】
本開示の不活性化剤によれば、緊張臭成分による心理的又は生理的活性作用を不活性化又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例4における結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0018】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、緊張臭は、緊張状態及び/又は精神的ストレスに起因して体内から発せられる臭いである。
【0019】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、緊張臭の原因物質が、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む。
【0020】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、原因物質が、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する。
【0021】
上記第1及び第2視点の好ましい形態によれば、原因物質が、1-オクテン-3-オンをさらに含む。
【0022】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、分泌成分は、緊張状態及び/又は精神的ストレスに起因して体内から分泌される成分である。
【0023】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、分泌成分が、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つを含む。
【0024】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、分泌成分が、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する。
【0025】
上記第3及び第4視点の好ましい形態によれば、分泌成分が、1-オクテン-3-オンをさらに含む。
【0026】
本開示の第1実施形態に係る消臭剤について説明する。
【0027】
本開示の消臭剤は、人が緊張状態及び/又は精神的ストレス状態にあるときに発せられる体臭(緊張臭)に対して好適に適用可能な消臭剤である。本開示における消臭剤は、消臭したい臭い(以下、「悪臭」と称する)の原因物質に対する化学的作用及び/又は物理的作用によって悪臭を除去又は緩和するものをいう。なお、本開示に挙げた成分が、化学的作用及び/又は物理的作用以外によって悪臭を除去又は緩和していたとしても、本開示の消臭剤の範囲外となるものではない。
【0028】
本開示の消臭剤は、第1の消臭成分及び第2の消臭成分のうち少なくとも1つを含む。
【0029】
第1の消臭成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛(粉末)、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含むことができる。第1の消臭成分は、緊張臭の原因物質のうち、特にアリルメルカプタンに起因する悪臭の消臭に有用であると考えられる。
【0030】
本開示において、銀担持ゼオライトとは、例えば、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの少なくとも一部を銀イオンで置換されたものを含む。銀担持ゼオライト中の銀イオン含有率は、例えば、0.1質量%~15質量%とすることができる。
【0031】
第2の消臭成分は、ラポナイト、銀担持ゼオライト、酸化亜鉛、ニームリーフエキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第2の群から選択される少なくとも1つを含むことができる。第2の消臭成分は、緊張臭の原因物質のうち、特にジメチルトリスルフィドに起因する悪臭の消臭に有用であると考えられる。
【0032】
第2の消臭成分は、(A)酸化亜鉛と、(B)ラポナイト、銀担持ゼオライト、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第3の群から選択される少なくとも1つと、を含むと好ましい。この組み合わせによると、緊張臭の消臭効果をより高めることができる。
【0033】
酸化亜鉛は、微細な粉末を使用することができる。酸化亜鉛の平均粒径は、例えば、5μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、又は0.5μm以下とすることができる。
【0034】
緊張臭の原因物質の主成分は、後述するように、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドである。両物質は、嗅覚への影響が特に大きい。したがって、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの臭いを消臭すれば、緊張臭を効果的に消臭することができる。
【0035】
本開示の消臭剤の使用方法及び緊張臭の消臭方法について説明する。
【0036】
本開示の消臭剤は、緊張臭が発生している場所及び/又は発生する可能性がある場所に、事前に及び/又は事後に空気中に散布することができる。消臭剤は、衣服、カーテン、じゅうたん等の布製品に事前に及び/又は事後に付着ないし散布することもできる。消臭剤が肌に悪影響を及ぼさない場合には、事前に及び/又は事後に消臭剤を肌に塗布することができる。例えば、緊張臭成分を分泌すると考えられる箇所、例えば、手のひら、脇、足、背中、頭部、顔、口腔等に消臭剤を塗布することができる。
【0037】
本開示の消臭剤は、他の消臭剤、化学的・生物的・物理的作用等で悪臭を除去又は緩和するもの等と組み合わせて使用することができる。例えば、本開示の消臭剤は、本開示の消臭剤の効果を阻害しない範囲において、防臭成分、脱臭成分、他の消臭成分等をさらに含有することができる。
【0038】
本開示の消臭剤によれば、緊張臭を嗅いだ際に生ずることになる不快感を解消ないし抑制することができる。また、緊張状態又は精神的ストレス状態にある人もしくはあった人、又はこれから緊張状態又は精神的ストレス状態となるおそれのある人は、本開示の消臭剤を用いることによって、緊張臭を発生させているかもしれないという不安感、緊張臭を発生させるかもしれないという不安感を事前及び/又は事後に解消ないし低減することができる。
【0039】
本開示の第2実施形態に係る不活性化剤について説明する。
【0040】
緊張臭成分は、人に対して心理的活性作用及び生理的活性作用のうちのすくなくとも一方を有している。例えば、人が緊張臭を感知した場合、嗅覚受容体が緊張臭成分に応答した場合等には、その人は、精神的に疲労したり、混乱したり、覚醒したりすることが明らかになりつつある。緊張臭成分には、これら以外の精神的活性作用及び/又は心理的活性作用がある可能性もある。本開示の不活性化剤は、緊張臭成分のこのような精神的活性作用及び/又は心理的活性作用を不活性化する作用がある。すなわち、人が本開示の不活性化剤の香りを感知した場合、不活性化剤の香りと緊張臭とを混合して嗅いだ場合、嗅覚受容体が不活性化剤に応答した場合等に、その人は、上記のような精神的変調及び/又は心理的変調を解消ないし抑制することができる。
【0041】
特に、人が緊張臭を知覚すると、ネガティブな感情が高まることが明らかになった。また、ポジティブな感情が低下する傾向があることも明らかになった。ネガティブな感情としては、例えば、POMS(登録商標)(Profile of Mood States)検査に基づく「怒り・敵意」、「混乱・当惑」、「抑うつ・落込み」、「疲労・無気力」及び「緊張・不安」が挙げられる。緊張臭は、このうち「混乱・当惑」、「疲労・無気力」及び「緊張・不安」を特に高めることが分かった。また、ポジティブな感情としては、例えば、「活気・活力」及び「友好」が挙げられる。
【0042】
本開示の不活性化剤は、第1の不活性化成分及び第2の不活性化成分のうち少なくとも1つを含む。
【0043】
第1の不活性化成分は、銀担持ゼオライト、トコフェロール、酸化亜鉛、及びこれらの組合せからなる第1の群から選択される少なくとも1つを含むことができる。第1の不活性化成分は、緊張臭の原因物質のうち、特にアリルメルカプタンに起因する悪臭の不活性化に有用であると考えられる。
【0044】
第2の不活性化成分は、ラポナイト、銀担持ゼオライト、酸化亜鉛、ニームリーフエキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第2の群から選択される少なくとも1つを含むことができる。第2の不活性化成分は、緊張臭の原因物質のうち、特にジメチルトリスルフィドに起因する悪臭の不活性化に有用であると考えられる。
【0045】
第2の不活性化成分は、(A)酸化亜鉛と、(B)ラポナイト、銀担持ゼオライト、ジブチルヒドロキシトルエン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、イリス根エキス、シソ葉エキス、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、サンナエキス、緑茶エキス、及びこれらの組合せからなる第3の群から選択される少なくとも1つと、を含むと好ましい。この組み合わせによると、緊張臭の不活性化効果をより高めることができる。
【0046】
酸化亜鉛は、微細な粉末を使用することができる。酸化亜鉛の平均粒径は、例えば、5μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、又は0.5μm以下とすることができる。
【0047】
緊張臭成分による心理的活性作用及び生理的活性作用、並びに不活性剤による緊張臭成分の不活性化作用は、例えば、心理質問紙を用いる方法、例えば、POMS(登録商標)(Profile of Mood States)、GACL(General Activity Checklist)等を用いて調べることができる。
【0048】
緊張臭の原因物質の主成分は、後述するように、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドである。両物質は、嗅覚への影響が特に大きい。したがって、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの臭いを消臭すれば、緊張臭による心理的及び/又は生理的活性作用を効果的に不活性化することができる。
【0049】
本開示の不活性化剤の使用方法及び緊張臭成分の不活性化方法について説明する。
【0050】
本開示の不活性化剤は、緊張臭成分が発生している場所及び/又は発生する可能性がある場所に、事前に及び/又は事後に空気中に散布することができる。不活性化剤は、衣服、カーテン、じゅうたん等の布製品に事前に及び/又は事後に付着ないし散布することもできる。不活性化剤が肌に悪影響を及ぼさない場合には、事前に及び/又は事後に不活性化剤を肌に塗布することができる。例えば、緊張臭成分を分泌すると考えられる箇所、例えば、手のひら、脇、足、背中、頭部、顔、口腔等に不活性化剤を塗布することができる。
【0051】
本開示の不活性化剤は、他の心理的・生理的作用不活性化剤等と組み合わせて使用することができる。例えば、本開示の不活性化剤は、本開示の不活性化剤の効果を阻害しない範囲において、他の不活性化剤をさらに含有することができる。他の不活性化剤としては、例えば、悪臭(例えば緊張臭)に対して化学的・生物的・物理的作用等で悪臭を除去又は緩和するもの(例えば、防臭成分、消臭成分、脱臭成分等)が挙げられる。
【0052】
本開示の不活性化剤は、緊張臭成分の精神的活性作用及び/又は心理的活性作用を不活性化させることができる。これにより、緊張臭成分に起因する心理的変調、生理的変調等を解消ないし抑制することができる。緊張状態又は精神的ストレス状態にある人もしくはあった人、又はこれから緊張状態又は精神的ストレス状態となるおそれのある人は、本開示の不活性化剤を用いることによって、事前に及び/又は事後に心理的変調、生理的変調等の対策を採ることができる。
【0053】
本開示の消臭剤及び不活性化剤の製造方法は特に限定されない。例えば、消臭成分を混合することによって消臭剤及び不活性化剤を製造することができる。
【0054】
本開示にいう緊張臭及び緊張臭成分について説明する。
【0055】
緊張臭とは、緊張しているとき、あるいは精神的ストレスが掛かっているときに体内から発せられる臭いである。ここでいう緊張又は精神的ストレスには、例えば、対人関係に依拠する緊張又はストレス等が挙げられる。対人に依拠する緊張・ストレスとは、例えば、人前(特に大人数の前)で発表している最中の緊張・ストレス、大切な面接や圧迫的な面接を受けている最中の緊張・ストレス等が挙げられる。このような精神的ストレス状態は、例えば、運動に起因する心拍数上昇が無い場合には、1分間当たりの心拍数が平常安静時よりも20bpm(beats per minute)以上、好ましくは30bpm以上高くなっている状態ということもできる。平常安静時とは、精神的ストレスなく安静にして心拍数の変動の少ない状態、例えば所定時間以上座ってリラックスした状態、をいう。
【0056】
緊張臭は、は血中に含まれていた成分に基づいていると考えられている。本開示において、「体内から発生(分泌・放出)」とは、皮膚、粘膜及び/又は口腔から発生(分泌・放出)することを意味する。本開示にいう「体臭」には口臭も含まれる。
【0057】
緊張臭成分は、硫黄元素を含有する化合物(硫黄化合物)を含む。硫黄化合物としては、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドのうちの少なくとも1つが挙げられる。好ましくは、緊張臭成分は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィドの両方を含む。
【0058】
アリルメルカプタンは、体積基準で、0.1ppb以上、0.3ppb以上、0.5ppb以上、1ppb以上、又は10ppb以上であることができる。アリルメルカプタンは、体積基準で、1,000ppm以下、100ppm以下、10ppm以下、1ppm以下、500ppb以下、100ppb以下、又は10ppb以下であることができる。
【0059】
ジメチルトリスルフィドは、体積基準で、1ppb以上、2ppb以上、3ppb以上、5ppb以上、10ppb以上、20ppb以上、50ppb以上、又は100ppb以上であることができる。ジメチルトリスルフィドは、体積基準で、10,000ppm以下、1,000ppm以下、100ppm以下、10ppm以下、1ppm以下、100ppb以下、又は10ppb以下であることができる。
【0060】
緊張臭成分において、アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドの質量比は、例えば、アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドは、2質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、又は15質量部以上であることができる。アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドの質量比は、例えば、アリルメルカプタン1質量部に対して、ジメチルトリスルフィドは、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、又は25質量部以下であることができる。
【0061】
緊張臭成分は、アリルメルカプタン及びジメチルトリスルフィド以外の硫黄化合物(以下「その他硫黄化合物」という。)として、硫化水素、メチルメルカプタン、二硫化炭素、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有することがある。硫黄化合物の総量は、体積基準で、0.1ppb以上、1ppb以上、又は10ppb以上であることができる。硫黄化合物の総量は、体積基準で、10,000ppm以下、又は1,000ppm以下とであることができる。
【0062】
緊張臭成分は、非硫黄化合物として、硫黄化合物に対して追加的に又は単独で、1-オクテン-3-オンを含有することができる。1-オクテン-3-オンは、体積基準で、例えば、0.1ppb以上、0.5ppb以上、1ppb以上、10ppb以上、100ppb以上、又は1ppm以上であることができる。1-オクテン-3-オンは、体積基準で、例えば、1,000ppm以下、100ppm以下、10ppm以下、又は1ppm以下であることができる。
【実施例
【0063】
本開示の消臭剤及び不活性化剤について、以下に例を挙げて説明する。しかしながら、本開示の消臭剤及び不活性化剤は以下の例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1:ジメチルトリスルフィドに対する消臭試験]
消臭剤0.05質量%とジプロピレングリコール99.95質量%とを混合して、それぞれの消臭剤について消臭剤溶液を作製した。消臭剤溶液1mLと、消臭剤1質量部に対して5×10-4質量部のジメチルトリスルフィドと、を30ミリリットル容量のサンプル管に注入した。専門パネル3人が、サンプル管内の匂いを嗅いで、以下の基準で各消臭剤のジメチルトリスルフィドに対する消臭効果を評価した。
【0065】
[緊張臭原因物質に対する消臭効果]
2点:専門パネルが、消臭剤の消臭効果が高いと評価した;
1点:専門パネルが、消臭剤の消臭効果がやや高いと評価した;
0点:専門パネルが、消臭剤の消臭効果が無いと評価した。
【0066】
表1に、試験した消臭剤と、各消臭剤についての専門パネルによる消臭効果の評価を示す。表1に示す評価は、専門パネルの平均点を以下の基準で表記したものである。以下の例において使用した酸化亜鉛の平均粒径は約0.2μmである。
【0067】
A:2点;
B:1.5点以上2点未満;
C:1点以上1.5点未満;
D:1点未満。
【0068】
試験例1~3の消臭剤には、緊張臭の原因物質であるジメチルトリスルフィドに対する消臭効果が確認された。したがって、試験例1~3の消臭剤は、緊張臭の消臭に有効であると考えられる。
【0069】
【表1】
【0070】
[実施例2:アリルメルカプタンに対する消臭試験]
消臭剤0.10質量%とジプロピレングリコール99.90質量%とを混合して、それぞれの消臭剤について消臭剤溶液を作製した。消臭剤溶液1mLと、消臭剤1質量部に対して5×10-6質量部のアリルメルカプタンと、を30ミリリットル容量のサンプル管に注入した。専門パネル3人が、サンプル管内の匂いを嗅いで、以下の基準で各消臭剤のアリルメルカプタンに対する消臭効果を評価した。表2に、試験した消臭剤と、各消臭剤についての専門パネルによる消臭効果の評価を示す。評価基準は実施例1と同様である。
【0071】
試験例8~16の消臭剤には、緊張臭の原因物質であるアリルメルカプタンに対する消臭効果が確認された。したがって、試験例8~16の消臭剤は、緊張臭の消臭に有効であると考えられる。
【0072】
【表2】
【0073】
[実施例3:アリルメルカプタンに対する消臭試験]
消臭剤0.10質量%とジプロピレングリコール99.90質量%とを混合して、それぞれの消臭剤について消臭剤溶液を作製した。消臭剤は、成分Aとして酸化亜鉛50質量%と、表3に示す成分B50質量%と、を含有する。消臭剤溶液1mLと、消臭剤1質量部に対して2.5×10-6質量部のアリルメルカプタンと、を30ミリリットル容量のサンプル管に注入した。専門パネル3人が、サンプル管内の匂いを嗅いで、以下の基準で各消臭剤のアリルメルカプタンに対する消臭効果を評価した。表3に、試験した消臭剤と、各消臭剤についての専門パネルによる消臭効果の評価を示す。評価基準は実施例1と同様である。
【0074】
酸化亜鉛と他の消臭剤とを混合させると、消臭剤成分を単独で用いるよりも総じて消臭効果を高めることができた。例えば、表2に示す試験例8、14、20、21、及び23と、表3に示す試験例24、30、35、36、及び38とをそれぞれ比較すると、実施例2で使用した消臭剤に酸化亜鉛を添加することによって、消臭剤単独よりも消臭効果を高めることができた。例えば、ラポナイト、ヒドロキシプロピル-β-デキストリン、サトウキビエキス、ビワ葉エキス、及び緑茶エキスは単独では消臭効果が低かったが、酸化亜鉛と混合することによって消臭効果を高めることができた。すなわち、これらの消臭成分と酸化亜鉛とには消臭の相乗効果があるものと考えられる。これより、複数の種類の消臭成分の混合は、緊張臭の消臭により有効であると考えられる。特に、第2の消臭成分として酸化亜鉛を含有する消臭剤は、緊張臭の消臭により有効であると考えられる。
【0075】
試験例10と試験例26とを比較すると、悪臭原因物質に対して酸化亜鉛の量を多くすると、消臭効果を高めることができた。これより、緊張臭に対して消臭剤の適用量を多くすると、消臭効果をより高めることができる。
【0076】
【表3】
【0077】
[実施例4:緊張臭モデル組成物に対する消臭試験]
成分Aとして酸化亜鉛、成分Bとしてヒドロキシプロピル-β-デキストリンを含有する、表4に示す消臭剤を作製した。次に、表5に示す緊張臭成分を含有する緊張臭モデル組成物を作製した。次に、100mLの密閉ガラス容器中で緊張臭モデル組成物100μL及び消臭剤10μLを混合した。そして、密閉ガラス容器を10分間静置した後、密閉ガラス容器の上部空間に存在する気体成分を直接質量分析法により分析した。
【0078】
その結果、消臭剤と緊張臭モデル組成物とを混合した密閉ガラス容器の上部空間からは、緊張臭成分が検出されなかった。緊張臭成分は、消臭剤に吸着されるなどして上部空間から物理的及び/又は化学的に除去されたものと考えられる。これより、本開示の消臭剤によれば、緊張臭を効果的に消臭できることが確認された。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】

【0081】
[実施例5:心理的・精神的作用試験]
被験者に緊張臭のモデル組成物を嗅がせて、POMS(登録商標)及びGACLを用いて緊張臭による被験者の心理的・精神的変化を確認した。その結果、被験者は、緊張臭を嗅ぐと覚醒、疲労及び混乱が生じることが確認された。
【0082】
次に、緊張臭のモデル組成物と共に、本開示の消臭剤を嗅がせると、被験者に上述のような心理的・精神的変化は見られなかった。これより、本開示の消臭剤は、緊張臭(分泌成分)による心理的・精神的作用を不活性化することができることが確認された。
【0083】
POMS(登録商標)2成人用短縮版(Profile of Mood States Second Edition Adult Short)日本語検査用紙を用いて心理状態変化を分析した試験について以下に詳述する。この心理分析においては、質問の回答に基づいて、ネガティブ気分の指標である「怒り・敵意」、「混乱・当惑」、「抑うつ・落込み」、「疲労・無気力」及び「緊張・不安」、並びにポジティブ気分の指標である「活気・活力」及び「友好」に関する心理状態を確認することができる。検査用紙には各指標について5つの設問があり、各設問に提示された気分ついて各被験者に以下の基準で点数付けしてもらった(各指標につき最高得点20点)。
【0084】
0点:提示された気分がまったくなかった;
1点:提示された気分が少しあった;
2点:提示された気分がまあまああった;
3点:提示された気分がかなりあった;
4点:提示された気分が非常に多くあった。
【0085】
まず、8名の被験者を20分間安静状態においた。その後、上記検査用紙の質問に回答してもらった。この検査を「検査1」とする。
【0086】
次に、表6に示す緊張臭モデル組成物のうち、各被験者が認知可能な一番低濃度のモデル組成物を用いて、各被験者に緊張臭を5分間嗅ぎ続けてもらった。その後、検査1と同じ質問に回答してもらった。この検査を「検査2」とする。
【0087】
検査1及び2における各指標における点数の平均値及び標準偏差を算出した。表7に、結果を示す。図1に、各指標に対する点数の平均値及び標準偏差のグラフを示す。
【0088】
検査1と検査2の結果を比較すると、図1に示すように、緊張臭を知覚することによって、ネガティブな感情、特に緊張、混乱及び疲労、が高まることが分かった。一方、ポジティブな感情についても、低下する傾向が確認された。これより、緊張臭は、人の感情を不安定な方向に向かわせる心理的・精神的作用を有していることが分かった。
【0089】
上記実施例4において立証したように、本開示の消臭剤は緊張臭成分を除去することができる。したがって、本開示の消臭剤によれば、緊張臭に起因するネガティブな心理的・精神的作用を不活性化(解消、低減、及び/又は緩和)させることができることが分かった。すなわち、本開示の消臭剤は、緊張臭の心理的・精神的作用に対する不活性化剤として適用できることが分かった。
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】


【0092】
本開示の消臭剤及び不活性化剤は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0093】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0094】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
図1