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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】スポンジチタンの酸素濃度の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2025 20190101AFI20240509BHJP
【FI】
G01N33/2025
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021075252
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2020032198の分割
【原出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021135302
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(72)【発明者】
【氏名】志賀 裕一
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-158565(JP,A)
【文献】特開2003-193151(JP,A)
【文献】特開2013-177689(JP,A)
【文献】特開2000-309833(JP,A)
【文献】特開2004-169139(JP,A)
【文献】特開平09-031559(JP,A)
【文献】特開昭62-077429(JP,A)
【文献】特許第6878639(JP,B1)
【文献】SU, Y. et al.,Deoxidation of Titanium alloy using hydrogen,International Journal of Hydrogen Energy,2009年09月24日,Vol.34, No. 21,pp.8958-8963,doi: 10.1016/j.peptides.2011.03.009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダミー用チタン材の溶湯を貯留するためにダミー用チタン材を設置する第1の貯留部と、分析用スポンジチタンの溶湯を貯留するために分析用スポンジチタンを設置する第2の貯留部とを備える溶解装置内に前記ダミー用チタン材を設置する準備工程と、
前記準備工程後、前記溶解装置内で減圧又は不活性雰囲気の下、前記ダミー用チタン材を溶解する第1の溶解工程と、
前記第1の溶解工程後、前記溶解装置内で前記減圧又は前記不活性雰囲気を維持しつつ分析用スポンジチタンを溶解した後に固化させることで分析用試料を得る第2の溶解工程とを含み、
前記分析用試料の測定結果による前記分析用スポンジチタンの酸素濃度は、170質量ppm以下である、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項2】
前記第1の溶解工程においては、前記第1の貯留部内で前記ダミー用チタン材を溶解し、
前記第2の溶解工程においては、前記第2の貯留部内で前記分析用スポンジチタンを溶解する、請求項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項3】
前記溶解装置は、前記第1の貯留部から下方に延在した第1の鋳型部と、前記第2の貯留部から下方に延在した第2の鋳型部とを更に備える、請求項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項4】
湯を貯留する貯留部と、前記溶湯の固化物を除去するための吊棒と、分析用スポンジチタンを供給する供給部とを備える溶解装置内にダミー用チタン材を設置する準備工程と、
前記準備工程後、前記溶解装置内で減圧又は不活性雰囲気の下、前記ダミー用チタン材を溶解する第1の溶解工程と、
前記第1の溶解工程後、前記溶解装置内で前記減圧又は前記不活性雰囲気を維持しつつ分析用スポンジチタンを溶解した後に固化させることで分析用試料を得る第2の溶解工程とを含み、
前記第1の溶解工程と前記第2の溶解工程との間に、
前記第1の溶解工程にて前記貯留部で溶解された前記ダミー用チタン材の溶湯を固化させて、前記貯留部から前記吊棒により前記溶湯の固化物を取り除く除去工程と、
前記除去工程後、前記供給部から前記貯留部に前記分析用スポンジチタンを供給する供給工程とを更に含み、
前記分析用試料の測定結果による前記分析用スポンジチタンの酸素濃度は、170質量ppm以下である、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項5】
前記供給部は、供給口において更に開閉扉を有し、以て前記分析用スポンジチタンを設置する室を備え、
前記第1の溶解工程においては、前記開閉扉を閉めた状態で前記ダミー用チタン材を溶解する、請求項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項6】
溶解装置内にダミー用チタン材を設置する準備工程と、
前記準備工程後、前記溶解装置内で減圧又は不活性雰囲気の下、前記ダミー用チタン材を溶解する第1の溶解工程と、
前記第1の溶解工程後、前記溶解装置内で前記減圧又は前記不活性雰囲気を維持しつつ分析用スポンジチタンを溶解した後に固化させることで分析用試料を得る第2の溶解工程とを含み、
前記第1の溶解工程における前記ダミー用チタン材の溶湯の温度は、第2の溶解工程における前記分析用スポンジチタンの溶湯の温度よりも高く、
前記分析用試料の測定結果による前記分析用スポンジチタンの酸素濃度は、170質量ppm以下である、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項7】
溶解装置内にダミー用チタン材を設置する準備工程と、
前記準備工程後、前記溶解装置内で減圧又は不活性雰囲気の下、前記ダミー用チタン材を溶解する第1の溶解工程と、
前記第1の溶解工程後、前記溶解装置内で前記減圧又は前記不活性雰囲気を維持しつつ分析用スポンジチタンを溶解した後に固化させることで分析用試料を得る第2の溶解工程とを含み、
前記第1の溶解工程では、前記ダミー用チタン材が溶解し始めてから2分以上電子ビームを前記ダミー用チタン材の溶湯に照射し、
前記分析用試料の測定結果による前記分析用スポンジチタンの酸素濃度は、170質量ppm以下である、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項8】
前記第1の溶解工程は、前記溶解装置が備える排気口を介して前記溶解装置内を真空排気し、又は前記溶解装置内の不活性ガスを排気することを含む、請求項1、4、6及び7のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項9】
前記第1の溶解工程では、前記ダミー用チタン材が溶解し始めてから2分以上電子ビームを前記ダミー用チタン材の溶湯に照射する、請求項1、4及び6のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項10】
前記ダミー用チタン材がダミー用スポンジチタン、ダミー用純チタンのスクラップ、ダミー用純チタンの切粉、ダミー用純チタンの板材、及びダミー用純チタンの鋳片から選ばれる1種以上を含む、請求項1、4、6及び7のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項11】
前記ダミー用スポンジチタン及び前記分析用スポンジチタンは、同一のスポンジチタン塊からそれぞれ採取されたものである、請求項1、4、6及び7のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項12】
前記第1の溶解工程における前記ダミー用チタン材の溶湯の温度は、第2の溶解工程における前記分析用スポンジチタンの溶湯の温度よりも高い、請求項1又は4に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項13】
プラズマ溶解方式、アーク溶解方式及び電子ビーム溶解方式から選択される1種により前記ダミー用チタン材及び前記分析用スポンジチタンを溶解する、請求項1、4及び6のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【請求項14】
電子ビーム溶解方式により前記ダミー用チタン材及び前記分析用スポンジチタンを溶解する場合、前記第2の溶解工程の分析用スポンジチタンに照射する照射出力は、前記第1の溶解工程のダミー用チタン材に照射する照射出力よりも低い、請求項1、4、6及び7のいずれか一項に記載のスポンジチタンの酸素濃度の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野及び触媒分野等において、金属チタンには更なる高純度の技術が要求されている。金属チタン中の酸素はその濃度を低減すべき成分の一つである。
【0003】
金属チタンのインゴット等は、四塩化チタンをマグネシウムで還元するといったクロール法によって得られたスポンジチタンを使用し、破砕、溶解、鋳造が行われて製造されている。
【0004】
しかしながら、クロール法にてスポンジチタンを製造すると、スポンジチタン中には不可避的に塩化マグネシウムが残存してしまう。塩化マグネシウムは潮解性を有する。また、チタンは、大気中の酸素と反応しやすく、特に微小な穴(細孔)を持つスポンジチタンになればその表面積が大きいために、スポンジチタンが大気に接触するとその酸素濃度は高くなる。金属チタン中の酸素を低減するためにスポンジチタンの酸素濃度を抑制する方法としては、様々な報告がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、クロール法により製造されたスポンジチタン塊の中央部を取り出し、破砕して得られたスポンジチタン粒を保管容器内に封入する際に、スポンジチタン粒が充填された保管容器内を40Pa以下まで減圧した後にその保管容器内に低湿度ガスを注入するスポンジチタン粒の保管方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-087373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スポンジチタンの酸素濃度を分析するには、始めに分析用スポンジチタンを、例えば減圧雰囲気または不活性雰囲気とした溶解装置内で溶解させ、これにより得られる溶湯を固化させて、分析用試料を得る。この分析用試料を使用して酸素濃度を測定し、その測定結果を分析用スポンジチタンの酸素濃度として扱うことができる。しかしながら、スポンジチタン塊から分析用スポンジチタンを採取し、それから作製した分析用試料の酸素濃度の分析結果は、安定しないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、スポンジチタンの酸素濃度を精度良く測定可能なスポンジチタンの酸素濃度の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、分析用スポンジチタンを溶解して作製した分析用試料の酸素濃度の分析結果が安定しない理由は、次に述べる事項の影響を受けているためであるという知見を得るに至った。分析用スポンジチタンは、通常スポンジチタン塊の破砕物であって多孔体であり、塩化マグネシウムはスポンジチタン塊の表面に付着したもののみならず閉じ込められた閉孔部位にも含まれることがある。よって、スポンジチタン塊から採取した分析用スポンジチタンを溶解装置内で溶解すると、その溶解の都度、分析用スポンジチタンに含まれていた塩化マグネシウムが揮発して溶解装置の内面等に付着する。溶解装置内に付着して堆積した当該塩化マグネシウムは、その潮解性の故に、溶解装置内を大気に開放した際に水分を吸収する。この水分が、その後に行う溶解で溶解装置の内部空間に放出され更にチタンの溶湯と反応するため、得られた分析用試料の酸素濃度に影響を及ぼすと考えられる。よって、分析用スポンジチタンを溶解する際に溶解装置内の塩化マグネシウムから放出される水分の影響を低減できれば、分析用試料の酸素濃度が安定し、ひいては分析用スポンジチタンの酸素濃度分析結果が安定する(すなわち分析用スポンジチタンの酸素濃度の測定精度が高くなる)と考えられる。しかしながら、分析の都度溶解装置内の塩化マグネシウムを除去するのは大変な手間がかかる。場合によってはチューブ内、壁の角部、目地部など塩化マグネシウムの除去が困難な部位もある。以上より、分析の都度溶解装置内の塩化マグネシウムを除去するのは実際的な解決手段ではない。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意検討し、溶解装置内で分析用スポンジチタンを溶解する前にダミー用チタン材を溶解し、その溶解時の雰囲気を維持しつつ(すなわち溶解装置内を大気解放しないで引続き)分析用スポンジチタンを溶解することが、分析結果の安定化に効果的であることを見出した。これにより、ダミー用チタン材が、その溶解時に上記塩化マグネシウムから放出される水分と反応し、溶解装置内の水分が適切に除去されると考えられる。その後に分析用スポンジチタンを溶解して分析用試料を作製すれば、分析用スポンジチタン溶解時には上記塩化マグネシウムからの水分放出が抑制されて当該水分による酸素濃度の分析結果の変動を抑制できると考えられる。
【0011】
すなわち、本発明は一側面において、溶解装置内にダミー用チタン材を設置する準備工程と、前記準備工程後、前記溶解装置内で減圧又は不活性雰囲気の下、前記ダミー用チタン材を溶解する第1の溶解工程と、前記第1の溶解工程後、前記溶解装置内で前記減圧又は前記不活性雰囲気を維持しつつ分析用スポンジチタンを溶解した後に固化させることで分析用試料を得る第2の溶解工程とを含むスポンジチタンの酸素濃度の分析方法である。
【0012】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記溶解装置は、前記ダミー用チタン材の溶湯を貯留するために前記ダミー用チタン材を設置する第1の貯留部と、前記分析用スポンジチタンの溶湯を貯留するために前記分析用スポンジチタンを設置する第2の貯留部とを備える。
【0013】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記第1の溶解工程においては、前記第1の貯留部内で前記ダミー用チタン材を溶解し、前記第2の溶解工程においては、前記第2の貯留部内で前記分析用スポンジチタンを溶解する。
【0014】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記溶解装置は、前記第1の貯留部から下方に延在した第1の鋳型部と、前記第2の貯留部から下方に延在した第2の鋳型部とを更に備える。
【0015】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記溶解装置は、溶湯を貯留する貯留部と、前記溶湯の固化物を除去するための吊棒と、前記分析用スポンジチタンを供給する供給部とを備え、前記第1の溶解工程と前記第2の溶解工程との間に、前記第1の溶解工程にて前記貯留部で溶解された前記ダミー用チタン材の溶湯を固化させて、前記貯留部から前記吊棒により前記溶湯の固化物を取り除く除去工程と、前記除去工程後、前記供給部から前記貯留部に前記分析用スポンジチタンを供給する供給工程とを更に含む。
【0016】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記供給部は、供給口において更に開閉扉を有し、以て前記分析用スポンジチタンを設置する室を備え、前記第1の溶解工程においては、前記開閉扉を閉めた状態で前記ダミー用チタン材を溶解する。
【0017】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記第1の溶解工程は、前記溶解装置が備える排気口を介して前記溶解装置内を真空排気し、又は前記溶解装置内の不活性ガスを排気することを含む。
【0018】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記ダミー用チタン材がダミー用スポンジチタン、ダミー用純チタンのスクラップ、ダミー用純チタンの切粉、ダミー用純チタンの板材、及びダミー用純チタンの鋳片から選ばれる1種以上を含む。
【0019】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記ダミー用スポンジチタン及び前記分析用スポンジチタンは、同一のスポンジチタン塊からそれぞれ採取されたものである。
【0020】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、前記第1の溶解工程における前記ダミー用チタン材の溶湯の温度は、第2の溶解工程における前記分析用スポンジチタンの溶湯の温度よりも高い。
【0021】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、プラズマ溶解方式、アーク溶解方式及び電子ビーム溶解方式から選択される1種により前記ダミー用チタン材及び前記分析用スポンジチタンを溶解する。
【0022】
本発明に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一実施形態においては、電子ビーム溶解方式により前記ダミー用チタン材及び前記分析用スポンジチタンを溶解する場合、前記第2の溶解工程の分析用スポンジチタンに照射する照射出力は、前記第1の溶解工程のダミー用チタン材に照射する照射出力よりも低い。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態によれば、スポンジチタンの酸素濃度を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の一例を示す概略断面図である。
図2】(A)~(E)は、本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の手順を示す、溶解装置の内部構造の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法に用いられる溶解装置の内部構造の他の例を示す概略断面図である。
図11】比較例1で用いられる溶解装置の内部構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。なお、図1~10においては、装置本体10の底部側から天井側に設置された照射部30に向かう方向を「上方」とし、照射部30から装置本体10の底部側に向かう方向を「下方」とする。
【0026】
[1.発明の概要]
スポンジチタンの定量分析では微量の不純物であっても精度の良い分析が求められる。本発明者らはスポンジチタンの酸素分析値を安定させるべく鋭意研究を行い、以下の知見を得るに至った。なお、いわゆる高純度品の不純物量分析では分析値安定への要求がより高い。
【0027】
まず、スポンジチタンの酸素濃度分析においては、スポンジチタンを溶解してインゴットを得て、このインゴットから分析用試料を得て、該分析用試料の酸素濃度を測定することができる。なお、分析用試料の測定結果を分析用スポンジチタンの酸素濃度として扱うことができる。ここで、スポンジチタンの溶解により塩化マグネシウムが蒸発し、溶解装置の内壁に塩化マグネシウムが付着することに本発明者らは着目した。
【0028】
従来、スポンジチタンの溶解時においては溶解装置内を減圧するまたは不活性雰囲気とするため、溶解装置内に少量の塩化マグネシウムが残っていても問題ないと考えられていた。しかしながら、本発明者らは、溶解装置の大気解放後に塩化マグネシウムが吸湿する水分量が酸素濃度分析において無視できないことを突き止めた。すなわち、スポンジチタンを溶解するたび、潮解性を有する塩化マグネシウムが溶解装置の内壁や配管等に堆積し、大気開放時に水分を吸収する。この塩化マグネシウムが吸収した水分は、その後に当該溶解装置内でスポンジチタンを溶解した際に加熱されることで、塩化マグネシウムから溶解装置の内部空間に放出される。この放出された水分は、スポンジチタンを溶解して生じた溶湯と反応することで、その酸素濃度を上昇させる。換言すれば、従来の分析では、スポンジチタンの酸素濃度が上記水分との反応に基づき高い値として測定されてしまい、又、溶解装置内に堆積した塩化マグネシウムの量によってもスポンジチタンの酸素濃度の分析結果がばらついてしまうおそれがあるといえる。
【0029】
塩化マグネシウムから放出される水分による汚染(すなわち酸素濃度分析値の増加)を低減する手段としては、以下の2つの方法が挙げられる。1つ目は、溶解装置内を大気に開放した際に、炉体や配管に付着した塩化マグネシウムを清掃除去する。2つ目は、スポンジチタンの溶解前に溶解装置を予め加熱することで塩化マグネシウム中の水分を除去しておく。上記1つ目に関しては、清掃可能な部位や程度は限界があり、酸素汚染を引き起こす塩化マグネシウムを分析の都度溶解装置から完全に除去するのは現実的ではない。また、上記2つ目に関しては、塩化マグネシウムが付着した部位全てを予備加熱できるような溶解装置を製作するのは技術面及び製造コスト面で適当でない。
【0030】
これに対し、例えば、溶解装置内に溶解すべき分析用スポンジチタンに設置するだけでなくダミー用チタン材も設置し、第1の溶解工程においてはダミー用チタン材を溶解し、その後、大気解放せずに(すなわち分析用スポンジチタンを溶解する空間内に存在する塩化マグネシウムに水分を吸収させない。)第2の溶解工程において分析用スポンジチタンを溶解し、その分析用スポンジチタンの溶湯を固化させることで、酸素濃度の分析用試料としてインゴットを得ることは有効である。この分析用試料を使用して酸素濃度の分析を実施すれば、同一のスポンジチタン塊から採取したスポンジチタンで第1の溶解工程を行わずに第2の溶解工程に相当する工程だけを行った場合に比べて、分析用試料中の酸素濃度の測定値が適切に低くなる。これは、第1の溶解工程ではダミー用チタン材の溶解に基づく装置内高温化により塩化マグネシウムから水分が放出され、さらに溶解装置内の水分がダミー用チタン材と反応して適切に除去されて、当該水分と第2の溶解工程での分析用スポンジチタンとの反応が抑制されたからであると考えられる。したがって、スポンジチタンの酸素濃度の分析結果が安定する。
以下、本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法について図面を使用しながら説明する。
【0031】
[2.スポンジチタンの酸素濃度の分析方法]
本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法は、図1に示す溶解装置100Aを用いるものであって、準備工程と、第1の溶解工程と、第2の溶解工程とを含む。更に、第1の溶解工程と第2の溶解工程との間に、除去工程を含んでもよい。
なお、本発明の一実施形態に係るスポンジチタンの酸素濃度の分析方法においては、ダミー用チタン材と分析用スポンジチタンを溶解する手段として、プラズマ溶解方式、アーク溶解方式及び電子ビーム溶解方式から選択される1種を適用可能である。以下に述べる本実施形態においては、特段の言及がない限り、電子ビーム溶解方式を用いた例について説明する。
【0032】
<準備工程>
準備工程においては、図2(A)に示すように、溶解装置100A内にてダミー用チタン材DTを所定の場所に設置する。なお、分析用スポンジチタンATの設置も準備工程中におこなってよい。
【0033】
(溶解装置)
溶解装置100Aは、装置本体10と、貯留部20と、照射部30と、供給部40と、吊棒50と、給気口60と、排気口70とを備える。
装置本体10は、周囲を取り囲む壁部11で区画される内部を密封可能な容器もしくは筐体である。該密封とは壁部11のみで形成されなくてよく、継続的な排気に基づく真空状態や不活性ガスの充填で形成すればよい。よって、給気口60および排気口70は必ずしも閉鎖されなくてよい。また、壁部11は移動可能の仕切壁であってもよい。装置本体10の材質は耐熱性を有するものであればよく、例えば水冷式の普通鋼等が挙げられる。
貯留部20は、たとえば水冷銅坩堝等の坩堝であり、チタンの溶湯を貯留する。このとき、耐熱性の観点から、水冷銅坩堝の外表面側(溶湯に接しない側の表面)にステンレス鋼や普通鋼を貼り合わせてよい。
照射部30は電子銃であり、電子ビームを熱源として金属に照射することで金属を溶解させる。なお、図1に示す溶解装置100Aにおいて、貯留部20の直上に照射部30が配置されているが、貯留部20に配置される金属に電子ビームを当てることができれば、配置はこれに限定されるものではない。例えば、照射部30には、広範囲に電子ビームを照射することができるように角度調整機構(不図示)を更に備えてよい。
供給部40は、貯留部20よりも高い位置に配置され、開口された供給口41aを有する室41に設置する分析用スポンジチタンATを押し出し機構42により押し出して貯留部20に供給する。また、供給部40は、図3に示すように、室41の供給口41aにヒンジ部材41bを介して開閉扉43を開閉自在に取り付けてもよい。この場合、開閉扉43を閉めた状態でダミー用チタン材DTを溶解すれば、ダミー用チタン材DTへの電子ビームの照射により塩化マグネシウムから放出される水分と分析用スポンジチタンATの接触を抑制できる。供給部40においては、押し棒42aで開閉扉43を開けて、分析用スポンジチタンATを押し出し機構42で押し出して貯留部20に供給してもよい。あるいは、供給部40は、図4に示すように、分析用スポンジチタンATを設置する台座44を有し、該分析用スポンジチタンATを台座44上にて押し出し機構42で押し出して貯留部20に供給してもよい。
吊棒50は、貯留部20内の溶湯の固化物(ダミー用チタン材DT)を除去する。吊棒50は、上下方向の動作が可能である。場合により、吊棒50はその軸に沿って回動可能とする。
給気口60は、装置本体10内にアルゴン等の不活性ガスを通す給気管61と装置本体10が連結された部位に形成され、装置本体10内に当該不活性ガスを供給するために設けられている。
排気口70は、装置本体10内から排気するための排気管71と装置本体10が連結された部位に形成され、排気口70を介して装置本体10内の気体を外部に排出する。
【0034】
ダミー用チタン材DTについては特に限定されず、スポンジチタン、純チタンのスクラップ、純チタンの切粉、純チタンの板材、及び純チタンの鋳片等が挙げられる。なかでも、ダミー用チタン材DTをスポンジチタンとする場合、該スポンジチタンは、分析用スポンジチタンATと同一のスポンジチタン塊から採取されたものであることが好適である。
【0035】
<第1の溶解工程>
第1の溶解工程においては、準備工程後、図2(B)に示すように、溶解装置100A内で減圧状態の下、照射部30から電子ビームを照射することでダミー用チタン材DTを溶解する。
【0036】
第1の溶解工程の一例として、減圧下で溶解する形態を説明する。始めに給気口60及び排気口70を用いてアルゴン等の不活性ガスで装置本体10内をパージした後、排気口70により装置本体10内を真空引きすることで、減圧状態にする。真空引きする際には、排気口70が真空排気装置(不図示)に連通される。次に、装置本体10内を真空引きによって所定の内圧に維持しつつ、電子ビームをダミー用チタン材DTに照射することで、ダミー用チタン材DTの溶湯を得る。
電子ビーム溶解において、電子ビームの照射出力は下限側として、10kW以上でよく、15kW以上でもよい。なお、電子ビームの照射出力は上限側として、典型的に50kW以下であり、より典型的に35kW以下である。
また、真空引きにより、装置本体10内の内圧(絶対圧)は10-1Pa以下に制御すればよい。
また、ダミー用チタン材DTの溶解時に塩化マグネシウムから放出される水分を充分に除去するという観点から、ダミー用チタン材DTが溶解し始めてから2分以上電子ビームをダミー用チタン材DTの溶湯に照射すればよい。該照射時間の上限側は適宜設定可能である。
【0037】
後述の第2の溶解工程での分析用スポンジチタンATの溶解を開始する前に溶解装置100A内に入り込んだ水分の除去を行うという観点から、第1の溶解工程におけるダミー用チタン材DTの溶湯の温度は、後述する第2の溶解工程における分析用スポンジチタンATの溶湯の温度よりも高くすることが好ましい。第1の溶解工程においてより高い温度で溶解を行えば塩化マグネシウムから水分の放出が適切に促進されるため、第2の溶解工程において塩化マグネシウムから放出される水分量を低減できる。ダミー用チタン材DTの溶湯の温度及び分析用スポンジチタンの溶湯の温度は、例えば二色型放射温度計で測定可能である。
【0038】
第1の溶解工程においては、ダミー用チタン材DTの溶解時に塩化マグネシウムに含有される水分がすべてダミー用チタン材DTの溶湯に反応するとは限らないので、ダミー用チタン材DTの溶解中に溶解装置100Aが備える排気口70を介して装置本体10内を真空排気することを含むのが好ましい。このとき、排気口70からは、例えばダミー用チタン材DTが含んでいた塩化マグネシウムと、装置本体10内に堆積していた塩化マグネシウムから放出された水分と、その水分の一部とダミー用チタン材DTの溶湯との反応により得られた水素ガスとが排気されうる。
【0039】
<除去工程>
除去工程においては、図2(C)に示すように、第1の溶解工程にて貯留部20で溶解されたダミー用チタン材DTの溶湯を固化させて、貯留部20から吊棒50により溶湯の固化物を取り除く。
【0040】
ダミー用チタン材DTの溶湯を固化させる手段としては、例えば装置本体10の外側に水冷ポンプを取り付けて、水冷銅坩堝である貯留部20を冷却することでダミー用チタン材DTの溶湯を冷却することが挙げられる。ダミー用チタン材DTの溶湯を固化させている間、真空引きすることで装置本体10内の圧力を所定の範囲内に維持すればよい。
【0041】
ダミー用チタン材DTの固化物を取り除く手段としては、例えば電子ビームによりダミー用チタン材DTの固化物を一部溶解して、吊棒50を下方に降ろし該吊棒50の下方側の先端部をダミー用チタン材DTの溶解部に浸漬させて、その溶解部を固化させることで接合した後、吊棒50を上方に上げることが挙げられる。
ダミー用チタン材DTの固化物を貯留部20から取り除いた後、ダミー用チタン材DTが接合された吊棒50を回転することで、照射部30の照射口を塞がないようにダミー用チタン材DTを位置することができる。
【0042】
<供給工程>
供給工程においては、除去工程の後、ダミー用チタン材DTの固化物が取り除かれた貯留部20に、図2(D)に示すように、供給部40の分析用スポンジチタンATを押し出し機構42により供給する。これにより、貯留部20に分析用スポンジチタンATが投入される。
【0043】
<第2の溶解工程>
第2の溶解工程においては、第1の溶解工程後、装置本体10内を大気に開放せずに、分析用スポンジチタンATを溶解させ、その後に固化させることで分析用試料を得る。上記のとおり、第1の溶解工程後は装置本体10内の減圧又は不活性雰囲気を維持しつつ第2の溶解工程に移行する。
【0044】
第2の溶解工程の一例として、第1の溶解工程時から引き続き装置本体10内を真空引きすることにより装置本体10内で減圧状態を維持しつつ、図2(E)に示すように、電子ビームを貯留部20の分析用スポンジチタンATに照射することで、貯留部20に分析用スポンジチタンATの溶湯を得る。そして、同様に装置本体10内で減圧状態を維持しつつ、分析用スポンジチタンATを溶解した後に分析用スポンジチタンATの溶湯を冷却して固化させることで分析用試料を得る。その後、装置本体10内を大気開放して分析用試料を装置本体10から取り出し、さらに分析用試料から測定に供する小片を採取し、化学分析によりその酸素濃度を測定することができる。
【0045】
電子ビーム溶解において、第1の溶解工程で放出されなかった水分が第2の溶解工程にて放出されることを抑制するという観点から、第2の溶解工程の分析用スポンジチタンATに照射する照射出力は、第1の溶解工程のダミー用チタン材DTに照射する照射出力よりも低くすることが好ましい。電子ビーム溶解において、電子ビームの照射出力は下限側として、10kW以上でよく、15kW以上でもよい。なお、電子ビームの照射出力は上限側として、典型的に50kW以下であり、より典型的に35kW以下である。
また、真空引きにおいては、装置本体10内の圧力(絶対圧)を10-1Pa以下に制御すればよい。
【0046】
更に、図2(A)~(E)に示す溶解装置100Aを用いたとき、スポンジチタンの酸素濃度の分析方法の他の例を以下に説明する。
図2(A)に示すように、貯留部20にダミー用チタン材DTを設置し、供給部40に分析用スポンジチタンATを設置する。次に、給気口60を介してアルゴン等の不活性ガスで装置本体10内をパージすることで、装置本体10内を不活性雰囲気にする。なお、排気口70を介して装置本体10内を事前に減圧したのち、不活性ガスをパージすることが好ましい。次に、図2(B)に示すように、装置本体10内で不活性雰囲気の状態を維持しつつ、プラズマ溶解またはアーク溶解にてダミー用チタン材DTの溶湯を得る。次に、図2(C)に示すように、吊棒50を下方に降ろし該吊棒50の下方側の先端部をダミー用チタン材DTの溶解部に浸漬させて、その溶解部を固化させることで接合した後、吊棒50を上方に上げる。次に、図2(D)に示すように、ダミー用チタン材DTが接合された吊棒50を回転することで、照射部30の照射口を塞がないようにダミー用チタン材DTを位置する。次に、供給部40は室41内の分析用スポンジチタンATを押し出し機構42で押し出して貯留部20に供給する。次に、図2(E)に示すように、装置本体10内で不活性雰囲気の状態を維持しつつ、プラズマ溶解またはアーク溶解にて分析用スポンジチタンATの溶湯を得る。そして、装置本体10内で不活性雰囲気の状態を維持しつつ、分析用スポンジチタンATを溶解した後に分析用スポンジチタンATの溶湯を冷却して固化させることで分析用試料を得る。その後、装置本体10内を大気開放して分析用試料を装置本体10から取り出し、さらに分析用試料から測定に供する小片を採取し、化学分析により酸素濃度を測定することができる。
なお第1の溶解工程および第2の溶解工程では、給気口60からアルゴン等の不活性ガスを供給し、かつ、排気口70から排気を行ってもよい。このような不活性ガスの流れを作り出すことで、溶解装置100A内の不活性雰囲気を維持しつつ塩化マグネシウムから放出される水分や溶湯から蒸発する不純物蒸気を装置本体10から除去しやすくなる。
【0047】
なお、これまでに説明した構成で利用可能のものは下記にて説明する他の例でも利用可能である。
【0048】
(他の例)
図5に示す溶解装置100Dは、装置本体10と、ダミー用チタン材DTの溶湯を貯留するための第1の貯留部21と、該第1の貯留部21と並列して配列され分析用スポンジチタンATの溶湯を貯留するための第2の貯留部22と、照射部30と、給気口60と、排気口70とを備える。なお、給気口60側に第2の貯留部22を配置することで、溶解により発生する蒸気が排気口70側に流れ、結果として給気口60側に設置した分析用スポンジチタンATの汚染を抑制できる。
次に、図5に示す溶解装置100Dを用いたときのスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一例を以下に説明する。
第1の貯留部21にダミー用チタン材DTを設置し、第2の貯留部22に分析用スポンジチタンATを設置する。次に、アルゴン等の不活性ガスで装置本体10内をパージした後、真空排気装置(不図示)に連通して装置本体10内を真空引きすることで、減圧状態にする。次に、真空引きによって装置本体10内を所定の圧力を維持しつつ、電子ビームの照射向きを調整し電子ビームをダミー用チタン材DTに照射することで、ダミー用チタン材DTの溶湯を得る。その後、第1の貯留部21を冷却することで、ダミー用チタン材DTの溶湯を固化させる。次に、第2の貯留部22内の分析用スポンジチタンATに電子ビームを照射できるように、電子ビームの照射向きを調整する。次に、真空引きによって装置本体10内で減圧状態を維持しつつ、電子ビームを分析用スポンジチタンATに照射することで、分析用スポンジチタンATの溶湯を得る。そして、装置本体10内で減圧状態を維持しつつ、分析用スポンジチタンATを溶解した後に分析用スポンジチタンATの溶湯を冷却して固化させることで分析用試料を得る。その後、装置本体10内を大気開放して分析用試料を装置本体10から取り出し、さらに分析用試料から測定に供する小片を採取し、化学分析により酸素濃度を測定することができる。装置本体10内に二つの貯留部を備えるため、吊棒50は備えなくてもよい。
【0049】
図6に示す溶解装置100Eは、装置本体10と、台座44と、ダミー用チタン材DTの溶湯を貯留するための第1の貯留部21と、該台座44上に配置され分析用スポンジチタンATの溶湯を貯留するための第2の貯留部22と、照射部30と、給気口60と、排気口70とを備える。このとき、溶解により発生する蒸気が排気口70側に流れ、結果として給気口60側に設置した分析用スポンジチタンATの汚染を抑制できる。
【0050】
図7に示す溶解装置100Fは、装置本体10と、ダミー用チタン材DTの溶湯を貯留するための第1の貯留部23と、第1の貯留部23の直下に設けられた第1の鋳型部23aと、分析用スポンジチタンATの溶湯を貯留するための第2の貯留部24と、第2の貯留部24の直下に設けられた第2の鋳型部24aと、第1の貯留部23及び第1の鋳型部23a並びに第2の貯留部24及び第2の鋳型部24aを設置し、軸心C1回りに回転駆動する駆動手段(不図示)を有する回転体25と、照射部30と、給気口60と、排気口70とを備える。第1の貯留部23と第1の鋳型部23aとの間、及び、第2の貯留部24と第2の鋳型部24aとの間にはそれぞれ、溶解前にダミー用チタン材DT又は分析用スポンジチタンATを第1の貯留部23内又は第2の貯留部24内に保持する純チタン製のチタン板材23b、24bが配置されている。当該溶解装置100Fは、回転体25を駆動手段により回転させることで、照射部30の照射向きを変更せずに、第1の貯留部23と第2の貯留部24を切り替えることができる。なお、駆動機構には、例えばモータ等が内蔵されている。また、溶解装置100Fは第1の貯留部23(回転後は第2の貯留部24)と照射部30とが比較的近接しているため上記駆動手段を採用したが、照射部30の照射向きを変更可能とすれば、上記回転体25の設置を省略できる。
次に、図7に示す溶解装置100Fを用いたときのスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一例を以下に説明する。
第1の貯留部23にダミー用チタン材DTを設置し、第2の貯留部24に分析用スポンジチタンATを設置する。次に、アルゴン等の不活性ガスで装置本体10をパージした後、装置本体10内を真空引きすることで減圧状態にする。次に、真空引きによって装置本体10内を所定の圧力を維持しつつ、照射部30から電子ビームを第1の貯留部23内のダミー用チタン材DTに照射することで、ダミー用チタン材DTの溶解時に、チタン板材23bも溶解し、第1の鋳型部23aにそのダミー用チタン材DTの溶湯が流れ込む。次に、第1の鋳型部23a内のダミー用チタン材DTの溶湯を冷却して固化させる。次に、真空引きによって装置本体10内を所定の圧力を維持しつつ、照射部30から電子ビームを第2の貯留部24内の分析用スポンジチタンATに照射することで、分析用スポンジチタンATの溶解時に、チタン板材24bも溶解し、第2の鋳型部24aにその分析用スポンジチタンATの溶湯が流れ込む。そして、第2の鋳型部24a内の分析用スポンジチタンATの溶湯を冷却して固化させることで分析用試料を得る。その後、装置本体10内を大気開放して分析用試料を装置本体10から取り出し、さらに分析用試料から測定に供する小片を採取し、化学分析により酸素濃度を測定することができる。なお、各貯留部の底側に設置されたチタン板材23b、24bは溶解後第1の鋳型部23a、第2の鋳型部24aの底側にて固化する。よって、分析用試料の底側部分を分析対象としなければよい。図7に示す装置の変形例として、図5に示すような第1の貯留部21または第2の貯留部22を使用可能である。例えば、装置本体10内に第1の貯留部21と第2の貯留部24とを設置し、分析用試料の形成のみ鋳型部を利用してもよい。
【0051】
図8に示す溶解装置100Gは、装置本体10と、ダミー用チタン材DTの溶湯を貯留するための第1の貯留部27と、分析用スポンジチタンATの溶湯を貯留するための第2の貯留部28と、第1の貯留部27、第2の貯留部28、及び軸心C2回りに回転駆動する駆動手段(不図示)を有する回転体25と、照射部30と、給気口60と、排気口70とを備える。当該溶解装置100Gは、回転体25を回転させることで照射部30の照射向きを変更せずに、第1の貯留部27と第2の貯留部28を切り替えることができる。
【0052】
図9に示す溶解装置200Aは、装置本体10と、該装置本体10と第1の仕切り板215を介して連結される第1の待機室210と、該装置本体10と第2の仕切り板225を介して連結される第2の待機室220と、装置本体10内に配置される第1の貯留部21と、第1の待機室210内に配置される第2の貯留部221と、装置本体10内に配置される照射部30と、第1の待機室210から装置本体10を介して第2の待機室220まで延在する駆動機構(不図示)と、給気口60、260、265と、排気口70、270、275とを備える。また、第1の貯留部については鋳型部を備えてよく、すなわち第1の貯留部23及びその下方に延在する第1の鋳型部23aを設けてもよく、第2の貯留部については鋳型部を備えてよく、すなわち第2の貯留部224及びその下方に延在する第2の鋳型部224aを設けてもよい(図10参照)。また、第1の貯留部21と第2の貯留部224とを組合せて使用してよいし、第1の貯留部23と第2の貯留部221とを組合せて使用してよい。このとき、第1の貯留部23と第1の鋳型部23aとの間は、純チタン製である第1のチタン板材23bが介在し、第2の貯留部224と第2の鋳型部224aとの間は、純チタン製である第2のチタン板材224bが介在している。更に、装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220にはその内部にアルゴン等の不活性ガスを供給するための給気管61、261、266がそれぞれ連結されている。装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220にはその内部を真空排気するための排気管71、271、276が連結されている。
なお、図9及び図10に示す溶解装置200A、200Bは、複数の待機室を備えているが、溶解装置は1つの待機室を備えるものであってもよい。その場合には、装置本体と待機室との間にダミー用チタン材DTの固化物と分析用スポンジチタンATを交換可能とするような駆動機構を備えればよい。
次に、図9に示す溶解装置200Aを用いたときのスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一例を以下に説明する。
第1の貯留部21にダミー用チタン材DTを設置し、第2の貯留部221に分析用スポンジチタンATを設置する。次に、アルゴン等の不活性ガスで装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220内をそれぞれパージした後、装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220内を真空引きすることで、減圧状態にする。次に、真空引きによって装置本体内を所定の圧力を維持しつつ、照射部30から電子ビームをダミー用チタン材DTに照射することでダミー用チタン材DTの溶湯を得る。次に、ダミー用チタン材DTの溶湯を冷却して固化させる。次に、第1の仕切り板215及び第2の仕切り板225をそれぞれ上方に移動させ、真空引きによって装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220内を所定の圧力を維持しつつ、装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220を空間的に連結し、第1の待機室210内の第2の貯留部221を駆動機構により装置本体10内に移動する。それと同時に、装置本体10内の第1の貯留部21を駆動機構により第2の待機室220内に移動する。次に、第1の仕切り板215及び第2の仕切り板225をそれぞれ下方に移動させて装置本体10、第1の待機室210及び第2の待機室220を気密に仕切り、減圧状態を維持したまま照射部30から電子ビームを分析用スポンジチタンATに照射することで、分析用スポンジチタンATの溶湯を得る。そして、分析用スポンジチタンATの溶湯を冷却して固化させることで分析用試料を得る。その後、装置本体10内を大気開放して分析用試料を装置本体10から取り出し、さらに分析用試料から測定に供する小片を採取し、化学分析により酸素濃度を測定することができる。
なお、第1の貯留部21にてダミー用チタン材DTの溶解後に、第1の待機室210に分析用スポンジチタンATを設置しアルゴン等の不活性ガスで第1の待機室210にパージした後、第1の待機室210及び第2の待機室220内を真空引きすることで、減圧状態にしてもよい。その後の操作は、上述したスポンジチタンの酸素濃度の分析方法の一例と同様である。以上より、図9及び図10に示す溶解装置200A、200Bを使用し、溶解装置内(特に装置本体10内)の減圧または不活性雰囲気を維持しつつ第1溶解工程および第2溶解工程を実施可能である。
【実施例
【0053】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0054】
(実施例1)
実施例1においては、図1に示す溶解装置100Aを組み立てた。このとき、貯留部20として、水冷銅坩堝(容量:2000mL)を用いた。
【0055】
次に、前記水冷銅坩堝に1000gのダミー用スポンジチタンDTを載置した。また、室41に500gの分析用スポンジチタンATを載置した。分析用スポンジチタンATは、ダミー用スポンジチタンDTと同一の製造ロットで製造したスポンジチタン塊を使用した。なお、ダミー用スポンジチタンDT及び分析用スポンジチタンATは、公知のスポンジチタンの製造方法により製造されたものである。
【0056】
次に、装置本体10内の圧力(絶対圧)を1×10-3Pa以上1×10-1Pa未満の範囲となるように真空引きした。真空引き後、照射部30から電子ビーム(照射出力:20kW)をダミー用スポンジチタンDTに照射して、該ダミー用スポンジチタンDTの溶湯が前記水冷銅坩堝に形成された。ダミー用チタン材DTが溶解し始めてから10分間、照射出力を変更せずに電子ビームを照射し、その溶湯状態を維持した。その後、電子ビームの照射を停止した。
【0057】
次に、装置本体10内の真空引きを維持した状態で、水冷銅坩堝の内部でダミー用スポンジチタンDTの溶湯を固化させた。その後電子ビーム(照射出力:5kW)によりダミー用チタン材DTの固化物を一部溶解して、吊棒50を下方に降ろし該吊棒50の下方側の先端部をダミー用チタン材DTの溶解部に浸漬させて、その溶解部を固化させることで接合した後、吊棒50を上方に上昇させた。吊棒50を上昇させることで、固化物を水冷銅坩堝から取り除き、固化物は照射部30の照射口を塞がないように位置させた。
【0058】
次に、装置本体10内の真空引きを維持した状態で、押し出し機構42により分析用スポンジチタンATを水冷銅坩堝に供給した。分析用スポンジチタンATの供給後、照射部30から電子ビーム(照射出力:20kW)を分析用スポンジチタンATに照射して、該分析用スポンジチタンATの溶湯が坩堝に形成された。分析用スポンジチタンAT全体が溶湯とされたことを確認した後、電子ビームの照射を停止した。そして、装置本体10内への真空引きを維持した状態で、水冷銅坩堝の内部で分析用スポンジチタンATの溶湯を固化させたことで、分析用試料が得られた。
【0059】
次に、装置本体10を大気開放し、分析用試料から小片(0.1g)を2個採取した。そして、2個の小片中の酸素濃度を不活性ガス溶融-赤外線吸光法によりそれぞれ測定した。その結果、分析用スポンジチタンの酸素濃度の平均値は、170ppmであった。なお、酸素濃度の結果については表1に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例2においては、ダミー用スポンジチタンDTを溶解させるために、電子ビームの照射出力を30kwに変更したこと以外、実施例1と同様に実施して分析用試料を得た。その後、実施例1と同様に、分析用試料から小片を採取し、得られた分析用スポンジチタンの酸素濃度を不活性ガス溶融-赤外線吸光法によりそれぞれ測定した。酸素濃度の結果については表1に示す。
なお、ダミー用スポンジチタンDTの溶湯の温度と分析用スポンジチタンの溶湯の表面温度を二色型放射温度計で測定したところ、ダミー用スポンジチタンDTの溶湯の温度は分析用スポンジチタンの溶湯の温度よりも高かった。
【0061】
(比較例1)
比較例1においては図11に示すような装置を使用した。すなわち、装置本体510と、貯留部520である水冷銅坩堝と、照射部530と、供給口560と、排気口570とを備える溶解装置500を組み立てた。当該溶解装置500を用いて、ダミー用チタン材であるダミー用スポンジチタンを使用しなかったこと以外、実施例1と同様に実施して分析用試料を得た。その後、実施例1と同様に、分析用試料から小片を採取し、得られた分析用スポンジチタンの酸素濃度を不活性ガス溶融-赤外線吸光法によりそれぞれ測定した。酸素濃度の結果については表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例による考察)
実施例1、実施例2、および比較例1では同一ロットのスポンジチタンを使用した。すなわち、実施例1のダミー用スポンジチタンDT及び分析用スポンジチタンAT、実施例2のダミー用スポンジチタンDT及び分析用スポンジチタンAT、比較例1で使用したスポンジチタンは同一ロットのものである。
上記表1によれば、実施例1~2におけるスポンジチタンの酸素濃度の平均値は、比較例1におけるスポンジチタンの酸素濃度の平均値よりも20~30質量ppm低かった。この理由としては、装置本体10内に堆積した塩化マグネシウムから放出された水分がダミー用スポンジチタンDTの溶湯と反応することでその水分を予め除去できたことが考えられる。
【0064】
また、実施例2におけるスポンジチタンの酸素濃度の平均値は、実施例1におけるスポンジチタンの酸素濃度の平均値より若干低かった。この理由としては、ダミー用スポンジチタンDTの溶解時の照射出力を上げたことで、塩化マグネシウムからの水分放出がより促進され、かつ放出された水分をダミー用スポンジチタンDTの溶湯と反応させてより確実に除去できたことが考えられる。
【符号の説明】
【0065】
10、510 装置本体
11 壁部
20、520 貯留部
21、23、27 第1の貯留部
22、24、28、221、224 第2の貯留部
23a 第1の鋳型部
23b 第1のチタン板材
24a、224a 第2の鋳型部
24b、224b 第2のチタン板材
25 回転体
30 照射部
40 供給部
41 室
41a 供給口
41b ヒンジ部材
42 押し出し機構
42a 押し棒
43 開閉扉
44 台座
50 吊棒
60、260、265、560 給気口
61、261、266、561 給気管
70、270、275、570 排気口
71、271、276、571 排気管
100A、100B、100C、100D、100E、100F、100G、200A、200B、500 溶解装置
215 第1の仕切り板
225 第2の仕切り板
AT 分析用スポンジチタン
C1、C2 軸心
DT ダミー用チタン材、ダミー用スポンジチタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11