(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】カプセル化殺生物剤及び生物忌避剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240509BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240509BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240509BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/16
C09D7/63
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021191878
(22)【出願日】2021-11-26
(62)【分割の表示】P 2020573478の分割
【原出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-12
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520512971
【氏名又は名称】エアロゲル アンパーツゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】イーバ バルストラム
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-503302(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02130877(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/033199(WO,A1)
【文献】E. Wallstrom et al.,A new concept for anti-fouling paint for Yachts,Progress in Organic Coatings,2011年05月08日,volume 72,pages 109-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶表面のファウリング(fouling)を防止するための方法であって、前記表面を、防汚添加剤を含有する塗料又はコーティングで塗装することを含み、前記防汚添加剤は、
無機のシリカ含有エアロゲルを含み、前記無機のシリカ含有エアロゲルは、以下
のb~d:
b. 多孔質ゲル格子
、
c. 任意選択的に、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuの少なくとも1つを含むアルコキシド、及び
d. 前記エアロゲルに封入された1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物、
を含み、
ここで、前記シリカ含有エアロゲルは、少なくとも60重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含み、ここで、前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物は、ゲルの形成中に、エアロゲル内に封入され、ここで、前記エアロゲルが最大75重量%のZnピリチオンを含む場合、前記エアロゲルのかさ密度は最大0.5g/mlの値を有しここで、前記殺生物性又は生物忌避性化合物が、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、チオシアン銅、トリオールフルアニド、ジクロルフルアニド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、エチレン-ビスチオカルバミン酸亜鉛{Zn[S
2CN(H)CH
2CH
2N(H)CS
2]}
n、及び2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記防汚添加剤が、少なくとも75重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記防汚添加剤が、少なくとも80重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記殺生物性又は生物忌避性化合物が銅ピリチオン又は亜鉛ピリチオンから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記塗料又はコーティングが、顔料をさらに含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
海洋環境で使用するための防汚コーティング組成物であって、前記防汚コーティング組成物は、顔料及び防汚添加剤を含有し、前記防汚添加剤は、
無機のシリカ含有エアロゲルを含み、前記無機のシリカ含有エアロゲルは、以下
のb~d:
b. 多孔質ゲル格子
、
c. 任意選択的に、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuを含むアルコキシド、及び
d. 前記エアロゲルに封入された1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物、
を含み、
ここで、前記シリカ含有エアロゲルは、ゲルの形成中にエアロゲル内にカプセル化された少なくとも60重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含み、ここで、前記エアロゲルが最大75重量%のZnピリチオンを含む場合、前記エアロゲルのかさ密度は最大0.5g/mlの値を有
し、ここで、前記殺生物性又は生物忌避性化合物が、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、チオシアン銅、トリオールフルアニド、ジクロルフルアニド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、エチレン-ビスチオカルバミン酸亜鉛{Zn[S
2
CN(H)CH
2
CH
2
N(H)CS
2
]}
n
、及び2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールからなる群から選択される、防汚コーティング組成物。
【請求項7】
前記エアロゲル粒子が、少なくとも65重量%のカプセル化された殺生物剤又は生物忌避剤を含む、請求項6に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項8】
前記エアロゲル粒子が、少なくとも80重量%のカプセル化された殺生物剤又は生物忌避剤を含む、請求項6に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項9】
前記エアロゲル粒子が、少なくとも85重量%のカプセル化された殺生物剤又は生物忌避剤を含む、請求項6に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項10】
前記シリカ含有エアロゲルが、少なくとも65重量%の前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記シリカ含有エアロゲルが、少なくとも75重量%の前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記シリカ含有エアロゲルが、少なくとも80重量%の前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記船舶表面が、船体(boat hull)を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高充填量~非常に高充填量(60~90%w/w)のカプセル化された殺生物性及び/又は生物忌避性化合物を有するシリカエアロゲルと、特に船舶用途に適した防汚組成物中のそのようなエアロゲルの作成方法と使用方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
殺生物剤及び生物忌避剤は、建物、施設、又はその他の場所からの生物の望ましくない増殖を防ぐために使用される物質である。殺生物剤及び生物忌避剤は、通常、保護コーティング、塗料、及びラッカーなどの製品に添加され、上記のような望ましくない増殖の影響を受けやすい領域に適用することができる。
【0003】
外部又は内部使用のために適用される保護コーティングには通常、保護と装飾という2つの基本的な機能がある。真菌や藻類などの生物の攻撃は、濡れた状態又は塗装面のいずれかで、塗装膜による保護とその装飾効果の両方を損なう可能性がある。
【0004】
海水にさらされる船の表面は、特別な問題があり、微生物、植物、藻類、動物が定着する傾向があり、そのため船の推進抵抗が増加し、速度が低下したり、燃料消費量が増加したりする。この生物学的プロセスはファウリング(fouling)(汚損)と呼ばれ、2つの大きなグループに分類できる:単細胞藻類や細菌のコロニーを含むマイクロファウリング(Microfouling)(「スライム」と呼ばれることが多い)と、植物(雑草)と動物のファウリングの両方を含むマクロファウリングである。特にマクロファウリングは、推進抵抗に関連して問題を引き起こす。
【0005】
フジツボの大量発生が引き起こす推進抵抗は、船の燃料消費量を最大40%押し上げる可能性がある(The Economist Technology Quarterly Q3 2011、Sep 3rd 2011)。従って、一般的なファウリングの問題を解決すると、燃料費の削減とCO2排出量の削減による財政面と環境面でのプラスの影響があるが、同時に、防汚(anti-fouling)塗料は、絶えず海に放出される殺生物性化合物(重金属を含む)の量が原因で問題が発生させる。
【0006】
ファウリングは通常、細菌、藻類、ヒドロ虫/コケムシ、フジツボ、その他の動物の順序で定着する。
【0007】
ファウリングは通常、膜表面で活性のある殺生物性化合物を放出する防汚塗料/コーティングを使用して防除される。殺生物剤は化学的化合物であり、微生物細胞に対して毒性があり、従って不要な微生物やマクロ生物の増殖を防ぎ、一方、使用頻度の低い生物忌避剤は通常、毒性が比較的低く、水中の施設又は区域からの不要な生物を寄せ付けないか又は阻止することで機能する。
【0008】
ほとんどの防汚化合物はすべてのタイプに対して効果的であるということはなく、そのため活性化合物の組み合わせが必要になる。従来の防汚塗料では、活性化合物の浸出が、同じ崩壊曲線に従うことはめったにない。従って、コーティングは、耐用年数が終了する前にファウリングの防止に部分的にしか成功しない可能性がある。
【0009】
ほとんどの防汚コーティングは、雑草や軟体動物を寄せ付けない活性殺生物剤として、酸化第一銅又はその他の銅誘導体を含む。酸化第一銅粒子は、柔らかいアブレーション塗料から硬いエポキシ樹脂までさまざまな種類の媒体に懸濁状態で保持され、空気中の酸素と反応して第二銅イオンを作成し、これが生きている軟体動物やほとんどの有機的雑草の成長を撃退する(Yachting Monthly, February 4, 2016)。
【0010】
一般的に使用される防汚性銅誘導体は銅ピリチオンであり(Cup、Almond KM et al., Ecotoxicology. 2016 Mar;25(2):389-98を参照)、これは固体として防汚塗料に含むことができる。このような塗料では、新しいCuP粒子(
図1、黒丸)は、水が移動して塗料膜が研磨されるときに、膜表面で常にアクセス可能になる。しかし、部分的に摩耗したCuP粒子が塗料膜から洗い流されるため、大量のCuPは膜表面で予定の殺生物効果を発揮する機会がない(
図1、白い半円)。
【0011】
従って、塗料膜からの洗い流しによる殺生物剤の化学的分解や消失などのさまざまな要因により、その保護寿命が制限され、新しい防汚塗料の再塗布が必要になる。
【0012】
保護コーティングの耐用年数は船体の寿命よりもはるかに短いため、保護コーティングの耐用年数を延長することには大きな価値がある。
【0013】
防汚塗料は、小型遊覧船、大型船の両方、その他の水中海洋建造物に使用されている。そのような表面に防汚塗料の新しい層を塗布するには、通常、船などを清掃及び塗装のために乾ドックに入れる必要がある。このプロセスは面倒な作業であり、材料費が高いこと以外に人件費も高くつく。これに加えて、たとえばコンテナ船が操業していない期間の収益の損失がある。
【0014】
従って、より安価で労働集約的な防汚方法を開発することが、一般的に注目されている。大型船が防汚塗料の新しいコーティングを必要とする場合、数パーセントのコスト減でさえ大きな意味がある。さらに、汚染発生がより少ない防汚方法を開発すること、すなわち、より多くの防汚殺生物剤がその保護目的に使用され、保護目的を確保できない防汚殺生物剤の無駄が少なくなることが、社会的に注目される。
【0015】
防汚コーティングからの殺生物剤及び/又は生物忌避剤の放出は、活性化合物をカプセル化することによって制御することができ、これは、浸出や不要な分解反応からこれらを保護し、これらをゆっくり放出することにより、さまざまなマトリックスでのこれらの有効寿命を延ばす。従って理想的には、カプセル化方法はカプセル化材料中の殺生物剤/生物忌避剤の高充填量を可能にして、コーティングの耐用年数を通してカプセル化材料からの活性化合物の一定の放出を伴わなければならない。この特徴の組み合わせにより、コーティングの長期的な防汚効果が保証され、添加された活性化合物が最大限に活用され、それによって商品のコスト(CoG)と環境への悪影響の両方が低減される。
【0016】
カプセル化の概念自体は、既に提唱されている。たとえば Jamsa S. et al (“Slow release of a biocidal agent from polymeric microcapsules for prevent-ing bio-deterioration”, Progress in Organic Coatings, Vol 76, Issue 1, January 2013, p 269-276) を参照されたい。この文献では、殺生物剤/生物忌避剤が水溶性ポリマー(例えばポリエチレンイミン(PEI))又はポリアクリレートカプセル内に封入される。別の同様のアプローチとして、A Kamtsikakis et al. Bioengineering 2017, 4(4), 81,” Encapsulation of Antifouling Organic Biocides in Poly(lactic acid) Nanoparticles”を言及することができ、これは、生分解性ポリマー粒子へのIrgarol 1051、Econea、及び亜鉛ピリチオン(ZPT、ZnP)のカプセル化を記載する。
【0017】
これらの方法は、殺生物剤/生物忌避剤がカプセルの閉じ込めから逃れる前に、保護ポリマーシェルがまず少なくとも部分的に溶解される必要があり、殺生物剤/生物忌避剤の初期浸出を減らすという目標を達成するが、この具体的なカプセル化の概念は塗料配合物の現実的な要件に対応していない。薄いポリマーシェルに囲まれた殺生物剤/生物忌避剤粒子は、最初に塗料組成物に混合される際に機械的(剪断)力を受け、その後表面に塗料を塗布する際に受ける機械的(剪断)力により容易に損傷される。さらに、記載されているようなポリマーカプセルへの殺生物剤/生物忌避剤の充填量は十分に高くない。
【0018】
上述した物理的に弱いポリマーマイクロカプセルとは対照的に、シリカのような不活性で機械的に頑丈な材料は、防汚塗料に分散される活性化合物をカプセル化するためのより良い選択である。シリカゲルは、その親水性/疎水性の特性を特定の種類の生成物に合うように変更できるという利点を有する。より疎水性の高いシリカゲルは、例えば親水性の水溶性ポリマー粒子をブレンドすることがより困難である可能性がある水性添加剤よりも、溶媒系の塗料組成物への添加剤として好ましい。
【0019】
本発明の発明者らは、固体活性化合物をシリカエアロゲル粒子にカプセル化するための方法を既に開発しており、これは、国際特許出願WO2009/062975に記載されている。記載された方法によれば、カプセル化固体活性化合物の含有量が約50%w/wのエアロゲルを小規模で達成することができた。
【0020】
シリカエアロゲル中の固体活性化合物の充填量限界は、塗料組成物中の防汚成分として最終的に使用するために非常に重要である。シリカエアロゲルにカプセル化された殺生物剤が防汚塗料組成物に添加される場合、シリカは必然的に、特定のエアロゲルの充填率によって決定される比率で充填される。本発明者らは、経験則として防汚塗料は約1.5%w/wを超えるSiO2(シリカ)を含有してはならないことを見つけており、そうでなければ塗料が厚く/粘性になりすぎて、表面に均一に塗布することが困難になる。従って1.5%シリカの制限があるため、塗料組成物への添加エアロゲル量をより多くしただけでは、防汚塗料中の殺生物剤の量を増やすことはできない。例えば、
【0021】
・ 殺生物剤の含有量が50%のエアロゲルは、50%のシリカを含有する。従って、そのようなエアロゲルは、1.5%のシリカ制限未満に保つために、せいぜい塗料の3%w/wしか塗料に充填することがでない。これは、最終的な塗料が1.5%w/wの殺生物剤を含有することを意味する。この経路では、1.5%のシリカ制限を超えずに殺生物剤を追加することはできない。
・ 80%の殺生物剤を有するエアロゲルは20%のシリカを含有するため、このエアロゲルは最大7.5%w/wまで塗料に添加することができる。このエアロゲルで作成された最終的な塗料は、80%x7.5%=6%w/wの殺生物剤を含有するが、それでも含まれるシリカは1.5%以下である。
・ 殺生物剤の充填量90%を有するエアロゲルを使用する場合、15%w/wのエアロゲルを添加することができ、1.5%の「シリカ制限」を超えることなく、塗料中で13.5%w/wの殺生物剤のレベルを達成することができる。
【0022】
図2は、最大1.5%のシリカを塗料に添加できる場合の、エアロゲルへの殺生物剤充填量の関数としての塗料組成物中の殺生物剤の含有量(w-%)を示す。
【0023】
国際特許出願WO2009/062975に記載されている方法はさらに開発され、Wallstrom, E. et al. “A new concept for anti-fouling paint for Yachts” Prog. Org. Coat. 2011, 72, 109-114に記載されており、ここでは、ゲル粒子が研磨プロセスを通して摩耗されるため、追加されたゲル粒子は防汚塗料の研磨特性に寄与することが記録された。亜鉛ピリチオンは、ゲルにカプセル化された方が、カプセル化されていない状況と比較して、より効率的であることも示されている。しかし、この方法は、後に発明者ら(“Yacht paint with minimised biocide content”, the Danish Ministry of Environment, Environmental Project no. 1663, 2015 からのデンマーク語の報告書に記載されている;これは、以下では「デンマークの2015年報告書」(“the Danish 2015 report”)と呼ぶ)によって、約50~55%w/wよりも高い充填量の固体活性化合物のカプセル化には容易に適用できないことが発見された。それぞれ50%及び75%w/wの亜鉛ピリチオン(ZnP)を有すると記載されたエアロゲルは、WO2009/062975に記載の方法によって調製され、続いて防汚塗料に添加され、吸水試験のために表面に塗布された。結果は、デンマークの2015年報告書の
図6.3に示されており、これは本明細書に
図3として含まれている。「75%ZnPエアロゲル」を含む塗料(
図3、左から3列目)は、人工海水に72時間浸漬した後に、「50%ZnPエアロゲル」を含む塗料(
図3、左から2列目)よりも、乾燥塗料膜中では吸水率がほぼ100%高い(約8%)ことが分かった。特に、塩分濃度の高い海水よりもさらに高い吸水率をもたらすことが知られている淡水又は汽水では、コーティングが最終的に膨らむリスクがあるため、この値は高すぎると見なされた。「75%ZnPエアロゲル」を含有する塗料は、塗料組成物に固体としてZnPを添加したばかりの塗料とほぼ同様に、機能しなかった。
【0024】
さらに、生成物の理論かさ密度を実際の値と比較することにより(本明細書の「方法の特性評価」の欄を参照)、「75%ZnPエアロゲル」は均一ではないことが分かった。従って、デンマークの2015年報告書で「75%ZnPエアロゲル」と呼ばれている生成物は実際には異なる組成を有し、封入されたZnPの実際の含有量はより少ない可能性がある。デンマークの2015年報告書にも記載されているいわゆる「50%ZnPエアロゲル」は、より適切に実証されているようであり、これは、上記の参考文献に記載の方法により、約50%の充填量のエアロゲルを製造できるというWO2009/062975の以前の知見と一致する。
【0025】
これは、WO2009/062975に記載されている方法では、約50%w/wを超える充填量の明確に定義された充填エアロゲルを得ることができなかったことを示す。
【0026】
従って、以下:
・ 高い含有量均一性を有する、好ましくは60%を超える高充填量の活性化合物、
・ カプセル化された殺生物剤を組み込んだ、得られる塗料膜の十分な吸水率、及び
・ コーティングの全寿命にわたって、防汚塗料の表面上の一定濃度の殺生物剤、
を有するカプセル化された形態の殺生物剤及び生物忌避剤を得ることができる改良されたカプセル化方法の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0027】
発明の要約
本発明の発明者らは、塩分濃度及び海水温度に関して異なる条件下で、エアロゲル粒子にカプセル化された殺生物性及び/又は生物忌避活性化合物を含む防汚塗料の挙動を分析し、そして、まず防汚効果の大部分は、塗料コーティングの吸水率を正しく管理することに大きく依存していることを見いだした。
図7及び
図8を参照されたい。
【0028】
主要な知見は以下のとおりであった:
・ 吸水率が低すぎる(<1.5重量%)ため汚れが発生し、吸水率が高いため水ぶくれが発生する可能性がある。
・ 塗料中の相対的なロジン含有量は、防汚効果にとって決定的なものではない。
・ 塗料膜の吸水率は、ゲル濃度並びに顔料容積濃度(PVC)に依存する。
【0029】
従って、防汚コーティング組成物は、コーティングの表層で活性化合物の飽和溶液を維持するのに十分な水を吸収できるが、コーティングの水膨れを誘発するほど多くの水を吸収しないことが重要であることがわかった。塩分濃度と水温の1つの組み合わせの理想的な組成が、別の組み合わせに理想的であるとは限らないことも明らかである。ただし、塗料コーティングの吸水率の値は、約1.5~6%の範囲は最適と考えられる。
【0030】
さらに本発明者らは、防汚コーティング組成物の性能を塩分濃度と水温の異なる組み合わせに合わせるために、封入されたエアロゲル粒子自体の吸水率を制御しなければならないことを見出した。この目的のための2つの最も重要な影響力のあるパラメーターは、1)カプセル化エアロゲル粒子への活性化合物の充填量と、2)前記エアロゲル粒子の多孔性である。
【0031】
従って本発明の目的は、高充填量~非常に高充填量(60~95%w/w)の殺生物剤及び/又は生物忌避剤を有するシリカエアロゲル粒子を提供することであり、防汚塗料に配合された場合、エアロゲル粒子は、例えば1.5~6%w/wの範囲の乾燥塗料膜の十分な吸水率をもたらす。
【0032】
本発明者らは、活性化合物の塗料組成物への配合に必要な機械的堅牢性と高充填量~非常に高充填量の活性化合物を有するカプセル化殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)を含む新規エアロゲル粒子の新しい製造方法を開発した。防汚塗料に配合すると、これらの新規粒子は乾燥塗料膜の十分な吸水率をもたらす。これらの粒子は、防汚塗料への添加剤として価値があることが見いだされた。
【0033】
上記のように、本発明者らは、既にエアロゲルへの亜鉛ピリチオン(ZnP)のカプセル化に取り組んでいた(例えばPCT出願WO2009/062975を参照)。新しい方法は、WO2009/062975に記載されている元の方法とほぼ同じ比率のテトラアルコキシシランとアルキルトリアルコキシシランを使用するが、ゲル化プロセスに使用する水の量ははるかに少ない。さらに、触媒として使用されるアンモニアはより少なく、アンモニアは、出発物質と混合された濃縮水溶液としてではなく、別々のエタノール溶液でケイ酸塩の溶液に徐々に充填される。
【0034】
この新しい製造方法はまず、高充填量のカプセル化ZnPを含む新しいエアロゲル粒子の作成を改善するために最初に使用されている。
【0035】
最初に製造された新規ZnPエアロゲル粒子は、WO2009/062975に記載された方法によって製造された粒子より、大幅に改善された均質性及び異なる多孔性を有することが見出された。これは、水銀圧入ポロシメトリーによって客観的に測定することができ、例えばエアロゲル粒子の侵入容積又はかさ密度によって説明することができる。従ってこれらのパラメーターは、デンマークの2015年報告書で言及されている「75%ZnPエアロゲル」などの同様の公称充填量を有する以前のエアロゲルとは別に、新しいZnP充填エアロゲル粒子を設定することができる。具体的には、水銀圧入ポロシメトリー実験により、予備縮合されたケイ酸塩で製造されたZnP充填エアロゲルは、通常の(モノマー)ケイ酸塩から製造された添加エアロゲルよりも、大幅に低いかさ密度と大幅に高い侵入容積を有することが分かった。また、新たに開発された方法によって製造されたZnP充填エアロゲルのかさ密度は、WO2009/062975に記載された方法によって製造されたゲル生成物、すなわちデンマークの2015年報告書で言及されている「75%ZnPエアロゲル」に類似した生成物のかさ密度よりも低いことが見出された。
【0036】
その後、本発明者らはその製造方法をさらに調べ、それが他の殺生物剤に対して良好に機能し、高充填量(>60%w/w)のエアロゲルを確実に提供することを見出した。
【0037】
しかしながら、ZnP含有エアロゲル粒子について観察された低いかさ密度は、本発明のカプセル化された殺生物剤の一般的な特徴ではないようである(実施例10aの結果と実施例10bの結果を比較されたい)。特定の理論に拘束されるつもりはないが、これは、以下の理由により容易に説明できる:1)殺生物剤を充填されたエアロゲルのかさ密度は、殺生物剤自体の密度の影響を受け、2)理想的なプロセス条件からのわずかな逸脱により、わずかに崩壊したゲル構造(これは高い密度を有する)を引き起こし得る。従って、本明細書に記載の充填エアロゲルのかさ密度は、関連する殺生物剤と封入条件の両方に依存し、新規の充填エアロゲルの記述的特徴として使用することはできない。新しい充填エアロゲルを先行技術と区別するのは、主に又は排他的に高い~非常に高い達成可能な充填量(>60%w/w)の殺生物剤であり、これは、例えば熱重量分析(TGA)により検証可能である。
【0038】
従って、第1の態様において、本発明は
a. 以下を含む無機のシリカ含有エアロゲル:
b. 多孔質ゲル格子、
c. 任意選択的に、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuを含むアルコキシド、及び
d. 前記エアロゲルに封入された1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物、
を含む防汚添加剤を提供し、
ここで、前記シリカ含有エアロゲルは、少なくとも60重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含み、前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物の封入は、ゲルのゾル-ゲル形成中に起き、前記エアロゲルが最大75重量%のZnピリチオンを含む場合、前記エアロゲルのかさ密度は最大0.5g/mlの値を有する。
【0039】
第1の態様の粒子は、前述のように、新しく開発された製造方法によって達成することができ、これは、PCT出願WO2009/062975に記載された方法のさらなる発展である。従って、非常に大量の殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)は、2工程法により、テトラアルコキシシラン(モノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩とモノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩の組み合わせ)とアルキルトリアルコキシシランの組合せ+ゾル-ゲル調製物中の必要な活性化合物を使用し、これが最終工程でエアロゲルに変換され乾燥されることにより形成されるアルコゲル中で、インサイチュで封入され得る。得られたエアロゲル粒子は通常、約60~75%w/w含有量のカプセル化活性化合物を含有するが、最大約90~95%w/w含有量まで製造することができる。出発物質間の比率を変えることにより、最終的なエアロゲル粒子の異なる多孔性、密度、及び疎水性/親水性の挙動を得ることができる。エアロゲル粒子は、このような方法の変法によって、溶媒系塗料と水系塗料の両方に一致するように調製することもできる。
【0040】
従って本発明はさらに、第2の態様において、以下の工程を含む第1の態様の防汚添加剤を提供するための方法を提供する:
a. 溶液1を調製する:100部のテトラアルコキシシラン(モノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩、あるいは予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩とモノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩との混合物)を、20~50部のアルキルトリアルコキシシラン、350~500部のエタノール、及び200~450部の殺生物剤と混合し、ミキサーで激しく攪拌する。別の低級アルコールを溶解に使用することができる。Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuを含むアルコキシドを、任意選択的にこの時点で加えることができる。
b. 溶液2を調製する:100部のエタノール、約50部の水、及び0.25~2部のゲル化触媒を混合する。
c. 溶液2を溶液1に、激しく攪拌しながら20~25分かけて徐々に加える。約15分後にゲル化の兆候が観察されるまで、減速して撹拌を続ける。得られた溶液は、ゲル化のために1つ以上の別の容器に移すことができる。ゲル化時間は約30~60分である。
d. ゲルを適切な容器に2~3日間保存し、その後抽出器に移す。
e. 湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で適切な圧力容器(例えば、両端に加熱ジャケットと金属フリットを備えたフロー反応器)に移す。そこで、ゲルに0.5mL/分でエタノールを流す。次に、加熱ジャケット内の温度を約40℃に上げ、エタノールの回収率が1ml/分になるまで、圧力を3バール/分の速度で7~8時間、110~115バール(又はエタノールに可溶性の殺生物剤の場合は約80バール)に上げる。温度と圧力の正確な値は、選択された充填エアロゲルにある程度依存するが、日常的な実験によって容易に評価することができる。CO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器内に流す。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放する。
【0041】
第3の態様において、第2の態様の方法によって得られる防汚添加剤が提供される。
第4の態様において、第1又は第3の態様の、船舶用塗料における防汚添加剤の使用が提供されている。
第5の態様において、本発明の第1又は第3の態様の防汚添加剤を含む防汚塗料組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、固体の銅ピリチオン(CuP)粒子(
図1、黒丸)を含む防汚塗料を示し、これらの粒子は、塗料膜が水の移動により研磨されて、膜表面で常にアクセス可能になる。しばらくすると、部分的に摩耗したCuP粒子が塗料膜から洗い流される(
図1、白い半円)。
【
図2】
図2は、最大1.5%のシリカが塗料に添加され得る場合の、エアロゲルへの殺生物剤の充填量の関数としての、シリカエアロゲル粒子にカプセル化された殺生物剤を含む塗料組成物中の殺生物剤の含有量(w-%)を示す。
【
図3】
図3は、"Yacht paint with minimised biocide content", the Danish Ministry of Environment, Environmental Project no. 1663, 2015 からのデンマーク語の報告書(本明細書において「デンマークの2015年報告書」と呼ぶ)の
図6.3の英語版である。この図は、報告書にそれぞれ50%及び75%w/wの亜鉛ピリチオン(ZnP)を含有すると記載されたエアロゲルを含む防汚塗料の、人工海水への72時間の浸漬後の吸水率を示す。この図は、75%のゲル(左から3列目)が約8%の吸水率を与えるのに対し、50%のゲル(左から2列目)は、4%未満の吸水率を与えることを示す
【
図4】
図4は、塗料層に均一に分布しているエアロゲル粒子を含む防汚塗料層の断面を示す。この場合、塗料層の厚さは約300μmである。各エアロゲル粒子は、活性化合物のいくつかの個別の粒子を含むことができ、各エアロゲル粒子は、粉砕の細かさに応じて、約10μmの寸法を有する。
【
図5】
図5は、
図4に示すエアロゲル粒子を含む防汚塗料層の拡大図である。塗料膜の外面に封入されたエアロゲル粒子は、水性(海洋)環境に曝されると、その多孔性のために水を吸収し始め、しばらくすると、エアロゲル粒子の内部に活性化合物の飽和溶液が生成される。
図5はまた、エアロゲル粒子が塗料膜から容易には洗い流されずに、コーティングに付着したままであり、最終的にはコーティングの研磨/摩耗によって除去されることを示す。
【
図6】
図6は、顔料粒子と、殺生物剤が封入されたケージ状のエアロゲル粒子とを含む、防汚塗料層の別の拡大図を示す。ケージは、殺生物剤を塗料膜中に保持するエアロゲル粒子の機能を説明している。この図はまた塗料層の厚さ(300μm)も示す。比較のために、エアロゲル粒子は、粉砕の細かさに応じて、約10μmの寸法を有する。
【
図7】
図7は、一定の塩分濃度(32ppt)下の5つの防汚配合物の8℃及び23℃における吸水率を示す。充填エアロゲルはすべての配合物で一定に保たれ、充填エアロゲルの量と他の塗料組成物パラメーターのみが変更されている。図が示すように、R/A(ロジン対アクリル)比、ゲル濃度、顔料の容積濃度などの塗料パラメーターを変更することにより、塗料組成物の吸水率を根本的に調整することができる。
【
図8】
図8は、さまざまな塩分濃度(脱塩水と人工海水)下のさまざまな防汚配合物の15℃における吸水率を示す。充填エアロゲルはすべての配合物で一定に保たれ、充填エアロゲルの量と他の塗料組成物パラメーターのみが変更されている。図が示すようにR/A(ロジン対アクリル)比、ゲル濃度、顔料の容積濃度などの塗料パラメーターを変更することにより、塗料組成物の吸水率を根本的に調整することができる。
【
図9】
図9は、本発明による好ましい殺生物剤及び生物忌避剤の表である。
【
図10】
図10~13は、4つの殺生物剤(ZnP(
図10)、CuP(
図11)、Econea(
図12)、チオシアン酸銅(
図13))のそれぞれのTGA(熱重量)分析を示す。各図は、3つのグラフ(問題の空のエアロゲル、充填エアロゲル、及び殺生物剤自体)を含む。これらのグラフから、加熱時の試料の重量損失に基づいて、実際の充填量の概算値を計算することができる。
図13のチオシアン酸銅TGAグラフでは充填量を算出できなかったことに注意されたい。明らかに、チオシアン酸銅(純粋な形態と封入された形態の両方)が化学反応を起こし、これが異常な曲線を引き起こしている。
【
図11】
図10~13は、4つの殺生物剤(ZnP(
図10)、CuP(
図11)、Econea(
図12)、チオシアン酸銅(
図13))のそれぞれのTGA(熱重量)分析を示す。各図は、3つのグラフ(問題の空のエアロゲル、充填エアロゲル、及び殺生物剤自体)を含む。これらのグラフから、加熱時の試料の重量損失に基づいて、実際の充填量の概算値を計算することができる。
図13のチオシアン酸銅TGAグラフでは充填量を算出できなかったことに注意されたい。明らかに、チオシアン酸銅(純粋な形態と封入された形態の両方)が化学反応を起こし、これが異常な曲線を引き起こしている。
【
図12】
図10~13は、4つの殺生物剤(ZnP(
図10)、CuP(
図11)、Econea(
図12)、チオシアン酸銅(
図13))のそれぞれのTGA(熱重量)分析を示す。各図は、3つのグラフ(問題の空のエアロゲル、充填エアロゲル、及び殺生物剤自体)を含む。これらのグラフから、加熱時の試料の重量損失に基づいて、実際の充填量の概算値を計算することができる。
図13のチオシアン酸銅TGAグラフでは充填量を算出できなかったことに注意されたい。明らかに、チオシアン酸銅(純粋な形態と封入された形態の両方)が化学反応を起こし、これが異常な曲線を引き起こしている。
【
図13】
図10~13は、4つの殺生物剤(ZnP(
図10)、CuP(
図11)、Econea(
図12)、チオシアン酸銅(
図13))のそれぞれのTGA(熱重量)分析を示す。各図は、3つのグラフ(問題の空のエアロゲル、充填エアロゲル、及び殺生物剤自体)を含む。これらのグラフから、加熱時の試料の重量損失に基づいて、実際の充填量の概算値を計算することができる。
図13のチオシアン酸銅TGAグラフでは充填量を算出できなかったことに注意されたい。明らかに、チオシアン酸銅(純粋な形態と封入された形態の両方)が化学反応を起こし、これが異常な曲線を引き起こしている。
【
図14】
図14は、実施例10aと10bの結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な説明
本発明の要約に記載されるように、本発明者らは、塗料組成物への配合に必要な機械的堅牢性を有するカプセル化された殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)と、高充填量~非常に高充填量の活性化合物を含む新規エアロゲル粒子の製造のための、新しい製造方法を開発した。これらの粒子は、防汚塗料に配合すると、乾燥塗料膜の十分な吸水をもたらす。これらの粒子は、防汚塗料への添加剤として有用であることがわかった。
【0044】
従って、第1の態様において、本発明は
a. 以下を含む無機のシリカ含有エアロゲル:
b. 多孔質ゲル格子、及び
c. 任意選択的に、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuを含むアルコキシド、及び
d. 前記エアロゲルに封入された1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物、
を含む防汚添加剤を提供し、
ここで、前記シリカ含有エアロゲルは、少なくとも60重量%の1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含み、前記1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物の封入は、ゲルのゾル-ゲル形成中に起き、前記エアロゲルが最大75重量%のZnピリチオンを含む場合、前記エアロゲルのかさ密度は最大0.5g/mlの値を有する。
【0045】
ZnP含有エアロゲルのかさ密度に関する制限(「・・・前記エアロゲルが最大75重量%のZnピリチオンを含む場合、前記エアロゲルのかさ密度は最大0.5g/mlの値を有する」)は、エアロゲル粒子が亜鉛ピリチオンを含む本発明の特定の実施態様を、デンマークの2015年報告書に記載されているとされる「75%ZnPエアロゲル」生成物から区別するために導入された。上述したように、予備縮合されたケイ酸塩で調製された約75%w/wのZnPを含有する充填エアロゲルは、通常のケイ酸塩から作成されたエアロゲルよりも大幅に低いかさ密度と大幅に高い侵入容積を有することが、侵入ポロシメトリー実験によって発見された。「実験」の欄(実施例10a)に見られるように、通常のケイ酸塩で作成された75%w/wのZnPを含むエアロゲルの平均かさ密度は約0.58g/ml(バッチ1A-C)であるが、予備縮合されたケイ酸塩で同様に作成された充填エアロゲルのかさ密度(バッチ2A-B)は約0.39g/mlであり、両方の値のセットは水銀圧入ポロシメトリーによって測定される。デンマークの2015年報告書で言及されている「75%ZnPエアロゲル」に一致するエアロゲルのかさ密度は0.56g/mlであることが分かった。
【0046】
その後本発明者らは、同じ製造方法を使用して、他の殺生物剤、例えば銅ピリチオン(CuP)、Econea(登録商標)(すなわち、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル)、及びチオシアン酸Cu(CuT)を用いて、充填エアロゲルを作成した。
【0047】
かさ密度に関して、これらの充填エアロゲルの全体的な結果は、1つの特定の充填量(75%w/w)で1つの殺生物剤(ZnP)のみを扱った実施例10aの結果ほど明確ではない。新しい又は古い製造プロセスのいずれかによって作成された同様に充填されたCuP-エアロゲルの場合、かさ密度は約0.4g/mlであったが、Econea及びチオシアン酸Cuの場合、値は0.7mg/mlに近かった。
【0048】
従って第1に、本発明の殺生物剤充填エアロゲルのかさ密度は、同等の充填量であっても、原則として低くない(すなわち、最大0.5g/ml)ように思われる(実施例10aの結果を実施例10bと比較されたい)。特定の理論に拘束されるつもりはないが、これは、カプセル化された殺生物剤自体の密度の変化によって説明することができる。
【0049】
第2に、実験結果(実施例10a+実施例10b)は、予備縮合ケイ酸塩を使用することが、原則として、モノマー性ケイ酸塩を使用するよりも低いかさ密度を有する充填エアロゲルを与えないことを示す。モノマー性/通常のケイ酸塩で作成されたZnP充填エアロゲルの場合、平均かさ密度は>0.5g/cm3であるが、予備縮合されたケイ酸塩で作成されたZnP充填エアロゲルの平均かさ密度は<0.5g/cm3である。ただし、CuP充填エアロゲルの場合、ケイ酸塩の種類に関係なく、すべての試料でかさ密度は<0.5g/cm3である。最後に、他の2種類の殺生物剤であるEconeaとチオシアン酸銅の場合、かさ密度はすべての試料について>0.5g/cm3である。
【0050】
従って、本明細書に記載の充填エアロゲルのかさ密度は、特に実際の充填の関数として大幅に変化する可能性があり、新規の充填エアロゲルの一般的な制限的特徴として使用することはできない。新しい充填エアロゲルを従来技術と区別するものは、主に又は排他的に、殺生物剤の達成可能な高~非常に高充填量であり、これは、例えば熱重量分析(TGA)により証明することができる。
【0051】
好適な実施態様において、第1の態様の防汚添加剤は、少なくとも65重量%、例えば少なくとも70重量%、少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、又は約95重量%カプセル化された殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)を含むエアロゲル粒子を含む。
【0052】
本発明者らの知る限り、このような大量のカプセル化された材料を含むエアロゲルは、おそらくはデンマークの2015年報告書に記載されている「75%ZnPエアロゲル」生成物を除いて、これまで開示されていなかった(これは、本発明の充填エアロゲルとは異なる多孔性と均質性を有する)。
【0053】
本発明の高充填ゲル粒子は、大量の殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)を防汚塗料に充填することを可能にする一方で、同時に充填されるシリカの量を上記で説明した1.5%w/w制限未満に保つ。
【0054】
PCT出願WO2009/062975に記載されている方法のさらなる発展である本発明者らの新たに開発された製造方法によれば、非常に大量の殺生物剤及び/又は生物忌避剤(「活性化合物」)が、2工程法により、テトラアルコキシシラン(モノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩とモノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩の組み合わせ)とアルキルトリアルコキシシランの組合せ+ゾル-ゲル調製物中の必要な活性化合物を使用し、これが最終工程でエアロゲルに変換され乾燥されることにより形成されるアルコゲル中で、インサイチュで封入され得る。
【0055】
この新しい方法は、PCT出願WO2009/062975に記載された元の方法とほぼ同じ比率のテトラアルコキシシラン及びアルキルトリアルコキシシランを使用するが、ゲル化プロセスに使用する水ははるかに少ない。さらに、触媒として使用されるアンモニアが少なく、アンモニアは、出発物質と混合された濃縮水溶液としてではなく、別々のエタノール溶液でケイ酸塩の溶液に徐々に加えられる。WO2009/062975に記載された元の方法に対するこれらの変更は、驚くべきことに、非常に高い(>60%w/w)充填量の活性化合物(例えば、殺生物剤及び生物忌避剤)、及びWO2009/062975に記載されている方法により得られるものよりはるかに高い均質性を有する充填エアロゲルの製造を可能にした。
【0056】
新しい方法は、これまでのところ、10リットルの装置で試験製造スケールまでのスケールアップに適していることがわかっている。
【0057】
得られたエアロゲル粒子は通常、約60~85%w/wのカプセル化活性化合物を含有するが、最大約90~95%w/wの含有量まで製造することができる。3つの出発物質間の比率を変えることにより、最終的なエアロゲル粒子の異なる多孔性、密度、及び疎水性/親水性の挙動を得ることができる。エアロゲル粒子はまた、このような方法の変化によって、溶媒系塗料と水系塗料の両方に一致するように調製することもできる。
【0058】
さらに、本発明の方法によって得られるエアロゲルは、理論値に非常に近いかさ密度を有する。
【0059】
殺生物剤を充填した特定のエアロゲルの理論かさ密度(BDth)は、次のように計算することができる:
BDth=(wAG+wBC)/(volAG+volBC)
ここで
wAG=空の(充填されていない)エアロゲルの重量
wBC=重量追加殺生物剤
volAG=容積エアロゲル
volBC=容積追加殺生物剤。
【0060】
追加された活性化合物の容積は、追加された活性化合物の重量をその密度で割ったものとして計算でき、値が不明な場合は、本明細書の「方法の特性評価」の欄に記載されている方法によって決定することができる。ただし、市販の殺生物剤や生物忌避剤の場合、密度などの物理的特性は通常公知である。
【0061】
追加されたエアロゲルの容積は、同様に、追加されたエアロゲルの重量をエアロゲルの密度で割ったものとして計算することができる。これは、「方法の特性評価」の欄で説明した方法でも決定することができる。経験則として、本明細書の方法によって製造された空の(充填されていない)エアロゲルの密度は、本発明者らによって約0.1~0.2g/cm3±10%であることが見出されている。
【0062】
殺生物剤の密度がわかっている場合、殺生物剤を含む充填エアロゲルの理論かさ密度は、次のように簡単に計算することができる:
BDth=1/((1-w%BC)/densAG+(w%BC/densBC))
ここで
w%BC=追加された殺生物剤のw/wパーセント、
densAG=空のエアロゲルの密度(0.1~0.2g/cm3±10%)、及び
densBC=殺生物剤の密度。
【0063】
以下の表は、上記した殺生物剤の約75%w/wを含むエアロゲルの計算された理論かさ密度BDthを、空のゲルの3つの推定密度値(0.1-0.15-0.2g/cm3)の関数として示す。この表はまた、純粋な殺生物剤の密度と、充填エアロゲルの測定されたかさ密度BDactを示す。明らかなように、充填されたすべてのエアロゲルは、計算されたBDthから最大±20%異なるかさ密度を有する。
【0064】
【0065】
かさ密度に対する充填の影響を説明するために、次の表は、3つの異なるレベル(60、75、及び85%w/w)のチオシアン酸銅を充填したエアロゲルの計算されたかさ密度を示す。
【0066】
【0067】
明らかなように、特定の殺生物剤を含む充填エアロゲルのかさ密度は、殺生物剤の充填によって大幅に変化するため、相対的な用語を使用することでのみ、新しい充填エアロゲルを定義することができる(すなわち、使用された殺生物剤と充填に対して)。
【0068】
従って、好適な実施態様において本発明は、理論値BDthとは、最大で±20%、例えば最大で±10%、又は最大で±5%しか違わない実際のかさ密度BDactを有する無機のシリカ含有エアロゲルを含む防汚添加剤を提供し、これは、本発明の製造方法を使用することにより、活性化合物が、SOL-GELプロセス中にエアロゲル調製物中にほぼ完全に均一に分布することを示している。
【0069】
熟練者は、エアロゲルと活性化合物の特定の組み合わせについて、理論値BDthを容易に計算し、実際のかさ密度BDactを決定することができ、従って、過度の負担や独創的な努力なしに、活性化合物を充填したエアロゲルの具体例がこの実施態様の説明に含まれるかどうかを評価することができる。
【0070】
酸性条件下でのTMOS又はTEOSモノマーなどのテトラアルコキシシランの予備重合から作成された部分的に縮合したシリカを使用して、モノリシックシリカエアロゲルを調製することができる。使用される予備重合されるTMOS及びTEOS前駆体は市販されている。
【0071】
従って本発明は、第2の態様において、以下の工程を含む第1の態様の防汚添加剤を提供するための方法をさらに提供する:
【0072】
a. 溶液1を調製する:100部のテトラアルコキシシラン(モノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩、又は予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩、あるいは予備縮合テトラアルキルオルトケイ酸塩とモノマー性テトラアルキルオルトケイ酸塩との混合物)を、20~50部のアルキルトリアルコキシシラン、350~500部のエタノール、及び200~450部の殺生物剤と混合し、ミキサーで激しく攪拌する。別の低級アルコールを溶解に使用することができる。Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Ru、Hf、Ta、W、Re、Al、Ge、In、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuを含むアルコキシドは、任意選択的にこの時点で追加することができる。
b. 溶液2を調製する:100部のエタノール、約50部の水、及び0.25~2部のゲル化触媒を混合する。
c. 溶液2を溶液1に、激しく攪拌しながら20~25分かけて徐々に加える。約15分後にゲル化の兆候が観察されるまで、減速して撹拌を続ける。得られた溶液は、ゲル化のために1つ以上の別の容器に移すことができる。ゲル化時間は約30分間である。
d. ゲルを適切な容器に2~3日間保存し、その後抽出器に移す。
e. 湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で適切な圧力容器(両端に加熱ジャケットと金属フリットを備えたフロー反応器)に移す。そこで、ゲルに0.5mL/分でエタノールを流す。次に、加熱ジャケット内の温度を約40℃に上げ、エタノールの回収率が1ml/分になるまで、圧力を3バール/分の速度で7~8時間、110~115バール(又はエタノールに可溶性の殺生物剤の場合は約80バール)に上げる。温度と圧力の正確な値は、選択された充填エアロゲルにある程度依存するが、日常的な実験によって容易に評価することができる。CO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器内に流す。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放する。
【0073】
本発明で使用することができるテトラアルコキシシランは、メチル、エチル、プロピル、及びブチルなどの1~4個の炭素原子のアルキル基を含む。最も好ましいテトラアルコキシシランは、テトラメチルオルトケイ酸塩(TMOS)及びテトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)である。
【0074】
好適な実施態様において、テトラアルコキシシランは、TMOS(テトラメチルオルトケイ酸塩)、TEOS(テトラエチルオルトケイ酸塩)、テトラ-n-プロポキシシラン、及びテトラ-n-ブトキシシランから選択される。
【0075】
別の好適な実施態様において、予備加水分解/予備縮合テトラアルコキシシランは、予備加水分解テトラメチルオルトケイ酸塩(例えばDynasylan(登録商標)M)、予備加水分解テトラエチルオルトケイ酸塩(例えばDynasylan(登録商標)A)、又は予備加水分解テトラN-プロピルオルトケイ酸塩(例えばDynasylan(登録商標)P)から選択される。
【0076】
好適な実施態様において、アルキルトリアルコキシシランは、MTMS(メチルトリメトキシシラン)及びMTES(メチルトリエトキシシラン)から選択される。
【0077】
ゲル化触媒は、アンモニア水(便利に濃縮された水性NH3又は水中25%)などのエアロゲル形成に便利に使用される任意の触媒であり得る。他の適用可能なゲル化触媒には、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、及び炭酸ナトリウムが含まれる。そのような代替触媒は、殺生物剤がアンモニアと反応する可能性がある場合に好ましい。
【0078】
従って、第2の態様の方法は、広範囲の殺生物剤充填量(<50%から少なくとも85%w/wまで)を可能にするが、出発材料の選択に応じて多孔性、かさ密度、表面積などの異なる材料特性を生じさせる可能性がある。一般的な方法のさまざまなバージョンを使用する例は、スケールアップ実験を含む「実験」の欄に存在する。
【0079】
第3の態様において、第2の態様の方法によって得られる防汚添加剤が提供される。
【0080】
好適な実施態様において、本発明は、本発明の第1又は第3の態様の防汚添加剤を提供し、これは、ピリチオン化合物、塩基性炭酸銅、イソチアゾリノン化合物、置換トリアジン、カルバメート、塩素化芳香族尿素、トリアゾール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の殺生物性又は生物忌避性化合物を含む。ピリチオン化合物の例には、金属ピリチオン化合物、例えば亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、ジルコニウムピリチオン、ナトリウムピリチオンなどが含まれる。イソチアゾリノン化合物の例には、例えば4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(BIT)、n-ブチルイソチアゾリノン(BBIT)、n-オクチルイソチアゾリノン(OIT)、及びこれらの混合物が含まれる。置換トリアジンには、例えばテルブトリン(2-tert-ブチルアミノ-4-エチルアミノ-6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン)が含まれる。カルバメートには、例えばヨードプロピニルブチルカルバメート(IPBC)が含まれる。塩素化芳香族尿素には、例えばジウロン(ジクロロフェニルジメチル尿素)が含まれる。ピリチオン化合物のうちで、一般的に、コストと有効性の観点から亜鉛ピリチオンが使用される。カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物の使用目的に応じて、当業者は、本発明で使用することができる有効成分を決定することができるであろう。
【0081】
本明細書で使用される「殺生物性又は生物忌避性化合物」という用語は、殺生物性又は生物忌避性を有する成分、例えば、特に限定されるものではないが、抗菌性、殺胞子性、殺真菌性などの有効成分を意味することを意図する。
【0082】
本発明の防汚添加剤の使用目的は、海洋用途(ボート、プレジャーヨット、商用船、水中に沈められた静的構造物など)に塗布される防汚塗料に添加されることである。
【0083】
調製されたエアロゲル粒子が防汚塗料に含まれている場合、カプセル化された活性化合物は塗料層に均一に分布される。各エアロゲル粒子は、活性化合物のいくつかの個別の粒子が含み得る(
図4)。
【0084】
従って第4の態様において、船舶用塗料における、第1の態様又は第3の態様の防汚添加剤の使用が提供される。
【0085】
第5の態様において、本発明の第1又は第3の態様の防汚添加剤を含む防汚塗料組成物が提供される。
【0086】
流水との接触又は水中を通過することによって防汚塗料膜が研磨されると、塗料膜の外面に封入されたエアロゲル粒子は水性(例えば海洋)環境にさらされ、その多孔性のために水を吸収し始める。これは、封入された活性化合物粒子の周りの露出したエアロゲル粒子内に局所的な水性環境を作り出し、これがゆっくり溶解を始める。しばらくすると、活性化合物の飽和溶液がエアロゲル粒子内に生成される(
図5)。
【0087】
次に、これは活性化合物の貯蔵器として働き、活性化合物がエアロゲル粒子の多孔質構造に浸透し、防汚膜コーティングの表面に出ると、防汚コーティングの表面へ放出される。上記の要約で説明した
図1の状況とは対照的に、エアロゲル粒子は、塗料膜から容易に洗い流されることはなく、コーティングに付着したままであり、最終的にはコーティングの研磨/摩耗によって除去される。それにより、エアロゲル粒子は、防汚塗料の研磨効果に寄与する。
【0088】
エアロゲル粒子の内部に未溶解の活性化合物が残り、それによって溶解した活性化合物の飽和貯蔵器が確保される限り、表面への放出は実質的にゼロ次の速度論で起こる。言い換えれば、経時的な放出プロフィールは実質的に線形である。
【0089】
従って、防汚コーティングの湿潤表面(すなわち、表面が水に浸されているとき)上の殺生物剤/生物忌避剤の濃度は、コーティングの予想される耐用年数の間、実質的に一定に保たれる。複数の殺生物剤/生物忌避剤が必要な場合は、各活性化合物は個別にカプセル化して、正しい比率で防汚塗料に含めることができるため、個々の活性化合物が保存中に相互作用しないこと、及び最終コーティングから放出される化合物間の一定の比率が、予想される耐用年数の間維持されることが確保される。
【0090】
好適な実施態様において本発明は、本発明のある量の防汚添加剤を含む防汚塗料組成物を提供し、これは、少なくとも4%w/wの殺生物剤、例えば少なくとも5%w/wの殺生物剤、例えば少なくとも6%w/wの殺生物剤、例えば少なくとも7%w/wの殺生物剤に対応する。
【0091】
本発明のさらなる実施態様において、異なるエアロゲルに個別にカプセル化され、次に必要な比率で防汚塗料に添加された2種以上の異なる殺生物剤及び/又は生物忌避剤を含む、防汚塗料が提供される。
【0092】
本発明はさらに、添加されたエアロゲルの構造及び組成に依存する防汚コーティングの吸水率を制御する方法を紹介する。エアロゲルでカプセル化された殺生物剤又は生物忌避剤を含む防汚コーティングの吸水率は、従来の防汚塗料よりもいくらか高い吸水率を有する。これは、水と接触すると、エアロゲルが膨潤する傾向があるためである。
【0093】
しかしながら、現在、活性化合物の高充填量を可能にすることとは別に、カプセル化エアロゲルの出発物質(すなわち、予備縮合されたテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、及びアルキルトリアルコキシシラン)の比率を変えることにより、エアロゲル粒子の膨潤を制御することができ、従ってコーティングの吸水率を制御することができることが分かっている。防汚コーティングの吸水率はコーティングが沈められている水の塩分に依存するため、これは重要である:いずれも塩分濃度が低い淡水と汽水は、塩分濃度の高い海水よりもコーティング中で約50%高い吸水率を誘導する。従って、低塩分濃度の条件下で使用するには、十分に低い吸水率のエアロゲルカプセル化を選択し、コーティング配合を最適化して塩分感度を下げることが重要である(
図7及び
図8を参照)。
【0094】
本発明はさらに、従来の防汚組成物と比較して、防汚コーティングの研磨効果を高める方法を紹介する。
【0095】
コーティング表面の研磨(すなわち摩耗)は、防汚塗料/コーティングの基本的特性であり、これは通常、バインダーシステム、例えばロジン及び自己研磨バインダーの含有量に依存するだけでなく、例えば酸化第一銅及び/又は酸化亜鉛の含有量にも依存する。しかしながら、本発明の発明者らは、エアロゲルが水と接触すると膨潤する可能性があるため、エアロゲル粒子を含むコーティングは、さらなる研磨メカニズムの恩恵を受けることを見出した。この膨潤効果は、コーティングの表面のナノスケールの表面構造の変化をもたらす可能性があり、それが研磨効果に大きな影響を与えることが示されている。初期のデータは、この構造が、生物忌避剤や殺生物剤がない場合でも、フジツボの定着を減らす可能性を示唆している。
【0096】
この方法は、多くの明確に異なる化学構造体、例えばピリチオン、イソチアゾール及びイソチアゾロン、トリアゾール、イミダゾール及びベンズイミダゾール、ハロゲン化ピロール、尿素、カルバメート、スルファミド、並びに亜鉛及び銅塩、例えばチオカルバミン酸亜鉛、チオシアン酸銅、水酸化銅(II)、及び炭酸銅(II)-水酸化銅(II)(1:1)、及び金属銅で、うまく機能することが見いだされた。
【0097】
1つの実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の式のピリチオンから選択される:
【化1】
【0098】
ここで、Metは、銅、亜鉛、ジルコニウム、又はナトリウムから選択される金属である。
【0099】
好適な実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、又はナトリウムピリチオンから選択される。
【0100】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下式のイソチアゾールから選択される:
【化2】
【0101】
ここで、R1とR2はハロゲン又は水素であるか、R1とR2が縮合して、任意選択的にさらに置換された芳香環を形成し、R3=C3~C12アルキルであり得る。
【0102】
特定の実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、2-ブチル-ベンゾ[d]イソチアゾール-3-オン(BBIT)、2-オクチル-2H-イソチアゾール-3-オン(OIT)、又は4,5-ジクロロ-2-オクチルイソチアゾール-3(2H)-オン(DCOIT、Sea-Nine)から選択される。
【0103】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の式のトリアゾールから選択される:
【化3】
【0104】
ここで、R4=水素、C1~C6アルキル、R5=C1~C6アルキル、C1~C6アルキルオキシ、R6=アリール、C1~C6アリールアルキルであり、R4とR5は縮合して、少なくとも1つの酸素を含む5~6員環を形成することができる。
【0105】
特定の実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、1-(4-クロロフェニル)-4,4-ジメチル-3-(1,2,4-トリアゾール-1-イル-メチル)ペンタン-3-オール(テブコナゾール)、1-[[2-(2,4-ジクロロフェニル)-4-プロピル-1,3-ジオキソラン-2-イル]メチル]-1H-1,2,4-トリアゾール(プロピコナゾール)、又は(2RS,3RS;2RS,3SR)-2-(4-クロロフェニル)-3-シクロプロピル-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ブタン-2-オール(シプロコナゾール)から選択される。
【0106】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の一般式のトリアジンから選択される:
【化4】
【0107】
ここで、R7=C1~C6アルキルチオ、R8=C1~C6アルキルアミノ、及びR9=C1~C6アルキルアミノである。
【0108】
好適な実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、2-エチルアミノ-6-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン(テルブトリン)である。
【0109】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の一般式のイミダゾールから選択される:
【0110】
【0111】
ここで、R10及びR11は、水素、C1~C6アルキル又はC1~C3アリールアルキルであり得るか、又は縮合してベンズイミダゾール環を形成することができ、そしてR12=水素、ヘテロアリール、又はカルバモイルであり得る。
【0112】
特定の実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、2-チアゾール-4-イル-1H-ベンゾイミダゾール(チアベンダゾール)、(RS)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-3H-イミダゾール(メデトミジン)、及び1H-ベンズイミダゾール-2-イルカルバミン酸メチル(カルベンダジム)から選択される。
【0113】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の一般式のハロゲン化ピロールから選択される:
【化6】
【0114】
ここで、R13=アリール、R14=ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチルスルホニル、R15=ハロゲン、トリフルオロメチルチオ、R16=シアノ、トリフルオロメチル、ハロゲン、R17=水素、C2~C6アルキルオキシメチルであり、
ここで、R14、R15、及びR16のうちの少なくとも1つはハロゲンである。
【0115】
特定の実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(トラロピリル)及び4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-1-エトキシメチル-5-トリフルオロメチルピロール-3-カルボニトリル(クロルフェナピル)から選択される。
【0116】
別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、以下の一般式のカルバメート、尿素、又はスルファミドから選択される:
【化7】
【0117】
ここで、Q=カルボニル(C=O)又はスルホニル(O=S=O)、R18=アリール、C1~C8アルキル、水素、及びR19=C1~C6アルキル、水素、G=O-R20又はN(R21R22)であり、ここで、R20=C3~C6アルキニル、C1~C6アルキル、R21=C1~C8アルキル、トリハロメチルチオ、水素、及びR22=C1~C8アルキル、アリール、水素である。
【0118】
さらなる実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、それぞれ、以下の3つの一般式のカルバメート、尿素、又はスルファミドから選択される:
【化8】
【0119】
ここで、R18=アリール、C1~C8アルキル、水素、及びR19=C1~C6アルキル、水素、R20=C3~C6アルキニル、C1~C6アルキル、R21=C1~C8アルキル、トリハロメチルチオ、水素、及びR22=C1~C8アルキル、アリール、水素である。
【0120】
特定の実施態様において、殺生物性又は生物忌避性化合物は、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル-尿素(ジウロン)、ジクロロ-N-[(ジメチルアミノ)-スルホニル]-フルオロ-N-(p-トリル)-メタンスルフェンアミド(トリルフルアニド)、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド(ジクロフルアニド)、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート(ヨードカルブ)から選択される。
【0121】
さらに別の実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、亜鉛及び銅塩、例えばチオカルバミン酸亜鉛、チオシアン酸銅、水酸化銅(II)、及び炭酸銅(II)-水酸化銅(II)(1:1)、及び金属銅から選択される。
【0122】
特に好適な実施態様において、カプセル化された殺生物性又は生物忌避性化合物は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、チオシアン酸銅、トリオールフルアニド、ジクロルフルアニド、DCOIT/Sea-Nine、ジネブ(Zineb)={Zn[S2CN(H)CH2CH2N(H)CS2]}n=エチレン-ビスチオカルバミン酸亜鉛、及びEconea(登録商標)=2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(トラロピリル)から選択される。
【実施例】
【0123】
実験
エアロゲル合成に使用される材料
ゲル形成材料は、Si、Ti、Fe、及びAlに基づく金属酸化物、例えばテトラメチルオルトケイ酸塩(TMOS、テトラメトキシシラン)又はテトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS、テトラエトキシシラン)から選択される。より疎水性の高い材料を作るために、メチルトリメトキシシラン(MTMS)を含めることができる。予備重合(予備加水分解、予備縮合)テトラアルコキシシランは市販されているか、又は弱酸性条件下で関連するテトラアルコキシシランを加水分解した後、低温で一晩重合することにより製造することができる。
【0124】
実施例1
約40%カプセル化活性化合物(CuP)を有するエアロゲルの調製(参照例)
1. 6.9gのTMOS(Aldrichのテトラメチルオルトケイ酸塩98%)、3.2gのMTMS(メチルトリメトキシシラン)、及び40gのエタノールを、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間混合した。
2. 混合中に3.5gの銅ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、200mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で少なくとも24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約8.5gであった。
【0125】
1a. 約75%カプセル化殺生物剤(ZnP)を有するエアロゲルの調製
1. 溶液1:0.64kgのTMOS(Aldrichのテトラメチルオルトケイ酸塩98%)、0.32kgのMTMS(メチルトリメトキシシラン)、3.2kgのエタノール、及び1.44kgの亜鉛ピリチオンを10リットルの容器中で混合し、パドルミキサーで激しく攪拌した。
2. 溶液2:0.64kgのエタノール、0.32kgの水、及び10mlのアンモニア溶液(濃縮)を混合した。
3. 溶液2を溶液1に(1)と同じ混合条件で、125rpmで20~25分間添加する。ゲル化の兆候が起きるまで約15分間、混合速度を下げる(100rpm)。ゲル化時間は30分間である。
4. ゲルはプラスチック容器に4~5日間保存し、その後抽出器に移す。
5. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で5又は10Lの圧力容器(フロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110~115バールに上げた。エタノールの回収率が1ml/分になるまで、40℃及び110バールで7~8時間、CO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約1.9kgであった。
【0126】
実施例2
予備縮合されたTMOSからの約40%カプセル化CuPを有するエアロゲルの調製(参照例)
1. 10.5gの予備縮合TMOSと5.2gのMTMSを、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に4.0gの銅ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、300mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約45分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約11gであった。
【0127】
実施例2a
約80%カプセル化殺生物剤(CuP)を有するエアロゲルの調製
1. 溶液1:0.64kgのTMOS(Aldrichのテトラメチルオルトケイ酸塩98%)、0.32kgのMTMS(メチルトリメトキシシラン)、3.2kgのエタノール、及び1.77kgの銅ピリチオンを10リットルの容器中で混合し、パドルミキサーで激しく攪拌した。
2. 溶液2:0.64kgのエタノール、0.32kgの水、及び10mlのアンモニア溶液(濃縮)を混合する。
3. 溶液2を(1)と同じ混合条件で溶液1に、125rpmで20~25分間充填する。ゲル化の兆候が起きるまで約15分間、混合速度を下げる(100rpm)。ゲル化時間は30分間である。
4. ゲルはプラスチック容器に4~5日間保存され、その後抽出器に移される。
3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で5又は10Lの圧力容器(フロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110~115バールに上げた。エタノールの回収率が1ml/分になるまで、40℃及び110バールで7~8時間。CO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約2.2kgであった。
【0128】
この実験の目的は、80w/w%のCuPをカプセル化することであった。通常約55重量%の充填エアロゲルが、出発物質として使用されたモノマー/通常のケイ酸塩に由来するという本発明者の経験に基づくと、2.2kgは、960gの約55%=480gのケイ酸塩、従って約76%CuPを含有する。
【0129】
実施例2b
予備縮合TMOSからの約75%カプセル化ZnPを有するエアロゲルの調製
1. 17.5gの予備縮合TMOS(Dynasylan M、39%)、3.2gのMTMS、及び60gのエタノール(最少量)を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に30.0gの亜鉛ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、2gのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で少なくとも24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約40gであった。
【0130】
実施例3
約75%カプセル化生物忌避剤(ZnP)を有するエアロゲルの調製
1. 6.7gのTMOS(Aldrichのテトラメチルオルトケイ酸塩98%)、3.3gのMTMS、及び40gのエタノールを、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間混合した。
2. 混合中に20gの亜鉛ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、200mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で少なくとも24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約25~27gであった。
【0131】
実施例4
予備縮合TMOSからの約80%カプセル化ZnPを有するエアロゲルの調製
1. 10.5gの予備縮合TMOS及び5.2gのMTMSを、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に30.0gの亜鉛ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、300mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約45分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は37.5gであった。
【0132】
この実験の目的は、80w/w%のZnPをカプセル化することであった。通常45~50重量%の充填エアロゲルが、出発物質として使用された予備縮合材料に由来するという本発明者の経験に基づくと、37.5gは、15.7gの約50%=7.35gのケイ酸塩、従って約80%亜鉛ピリチオンを含有し、TGA測定値とよく一致している(
図14)。
【0133】
実施例5
予備縮合TMOSからの約80%カプセル化CuPを有するエアロゲルの調製
1. 17.5gの予備縮合TMOS(Dynasylan M、39%)、3.2gのMTMS、及び60gのエタノール(最少量)の混合物を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に40.0gの銅ピリチオンを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、2gのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール(又はエタノール)中で24時間室温でエージングした後、乾燥した。ゲル化時間が長引いた場合は、アンモニア溶液の量を減らした。
3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は55gであった。
【0134】
この実験の目的は、80w/w%のCuPをカプセル化することであった。通常45~50重量%の充填エアロゲルが、出発材料として使用された予備縮合された材料に由来するという本発明者らの経験を基準にすると、55gは、20.7gの約50%=10.35gのケイ酸塩、従って約81%の銅ピリチオンを含有し、これはTGA測定値とよく一致している(
図14)。
【0135】
実施例6
予備縮合されたTMOS/TEOSからのカプセル化された殺生物剤を有するエアロゲルの調製
1. 10.5gの予備縮合TMOS又はTEOSと5.2gのMTMSを、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に10gのDiuronを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、2mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをメタノール中で24時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで8時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約18gであった。
【0136】
実施例7a
TMOSからの約75%カプセル化Econeaを有するエアロゲルの調製
4. 14gのTMOS、7gのMTMS、及び60gのエタノール(最少量)(高級アルコールを使用することができる)の混合物を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
5. 混合中に1)に36.0gのEconeaをゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
6. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合している間、1.9gのアンモニア溶液(25%)と2gの水を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約180分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをエタノール中で48時間室温でエージングした後、乾燥した。アンモニア溶液の量を1gに減らして、ゲル化時間を延長することができる。
7. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール(又は高級アルコール)下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで4時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約28gであった。
【0137】
実施例7b
予備縮合されたTMOSからの約75%カプセル化Econeaを有するエアロゲルの調製
1. 17.5gの予備縮合TMOS、3.2gのMTMS、及び60gのエタノール(最少量)(高級アルコールを使用することができる)を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2. 混合中に30.0gのEconeaを1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、2gのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。ゲル化が起きてから、得られたゲルをエタノール中で48時間室温でエージングした後、乾燥した。アンモニアの量を1gに減らして、ゲル化時間を延長することができる。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール(又は高級アルコール)下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で90バールに上げた。35℃及び90バールで4時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約33gであった。
【0138】
この実験の目的は、75w/w%のEconeaをカプセル化することであった。通常45~50重量%の充填エアロゲルが、出発材料として使用された予備縮合された材料に由来するという本発明者らの経験を基準にすると、33gは、20.7gの約50%=10.35gのケイ酸塩、従って約68%のEconeaを含有し、これはTGA測定値とよく一致している(
図14)。Econeaの予測含有量よりも低いのは、乾燥操作中のエタノールによる充填されたゲルからの抽出が原因であると考えられる。
【0139】
実施例7c
予備縮合されたTMOS/TEOSからのカプセル化されたチオシアン酸銅を有するエアロゲルの調製
5. 14gの予備縮合されたTMOS(又は予備縮合されたTEOS)と7gのMTMSの混合物を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
6. 混合中に1)に36gのチオシアン酸銅をゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
7. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合している間、1mlのアンモニア溶液(25%)と2gの水を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。約30分後、ゲル化が起こり、得られたゲルをエタノール中で48時間室温でエージングした後、乾燥した。
8. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で110バールに上げた。40℃及び110バールで4時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約46gであった。
【0140】
この実験の目的は、75w/w%のチオシアン酸銅をカプセル化することであった。通常45~50重量%の充填エアロゲルが、出発材料として使用された予備縮合された材料に由来するという本発明者らの経験を基準にすると、46gは、21gの45~50%=約10gのケイ酸塩、従って約78%のチオシアン酸銅を含有する。これは異常なTGA実験のため、TGAで確認することはできなかった(
図13及び
図14を参照)。
【0141】
実施例7d
予備縮合されたTMOS/TEOSからのカプセル化ジネブを有するエアロゲルの調製
1. 17.5gの予備縮合TMOS(Dynasylan M 39%)、3.2gのMTMS、及び60gのエタノール(最少量)を、磁気攪拌器で三角フラスコ内で15分間撹拌した。
2 .混合中に13gのジネブ(エチレンビスチオカルバミン酸亜鉛)を1)にゆっくり加えた。溶液をさらに15分間混合した。
3. 磁気攪拌器で最大速度(1500rpm)で混合しながら、2mlのアンモニア溶液(25%)を2)に滴加した。さらに2分間混合した後、白色の不透明な溶液を青キャップの瓶に移した。ゲル化が起きた後、得られたゲルをエタノール中で48時間室温でエージングした後、乾燥した。
4. 3)の湿潤ゲルをより小片に切断し、エタノール下で0.5Lの圧力容器(0.5Lのフロー反応器、両端に加熱ジャケットと金属フリットを有する)に移した。そこで、ゲルに0.5Lのエタノールを0.5ml/分で流した。次に、加熱ジャケット内の温度を40℃に上げ、圧力を3バール/分の速度で90~110バールに上げた。40℃及び110バールで4時間、2.5kgのCO2を、10℃で測定した約6mL/分の速度で容器に流した。流した後、圧力を数時間ゆっくり解放した。超臨界乾燥エアロゲルの重量は約25gであった。
【0142】
この実験の目的は、60w/w%のエチレンビスチオカルバミン酸亜鉛(ジネブ)をカプセル化することであった。通常45~50重量%の充填エアロゲルが、出発材料として使用された予備縮合された材料に由来するという本発明者らの経験を基準にすると、25gは、20.7gの約45~50%=約10gのケイ酸塩、従って約68%のジネブを含有する。
【0143】
実施例8
測定されたゲル特性
ゲルデータを測定する前に、材料は約10μmの中程度の粒子サイズに粉砕された。
【0144】
以下にいくつかの例の結果を示す。予想通り、カプセル化された活性化合物を有するエアロゲルの細孔容積は「非充填」ゲルよりも小さいが、実施例1及び2のカプセル化された活性化合物を有するゲル間では、細孔容積に有意差はないことに注意されたい。ただし、オイル数には違いがあり、活性化合物が含まれているとオイル数が減少し、これは、おそらくバインダーシステムとゲル間の相互作用に影響を与えるであろう。活性化合物の量と種類が結果に影響を与えることが予想される。オイル吸収試験はまた、予備縮合アルコキシドで作成されたカプセル化が、単量体アルコキシドで作成された場合とは異なる物理的特性を持つエアロゲルをもたらすことを明らかにしている。予備縮合アルコキシドで作成されたゲルは、飽和に必要なオイルが約20%少ない。
【0145】
【0146】
実施例9
ゲルの選択を除いた2つの同一の塗料の吸水率
第1の塗料(A)は、実施例1のカプセル化されたゲルを含む。2番目の塗料(B)は、実施例2のゲルを含む。ヘグマンバー(Hegman Bar)で測定された粒子サイズが10μm未満になるまで、塗料を分散させた。塗料を7日間沈降させた後に、試験面に塗布した。
【0147】
製造されたプロトタイプ塗料は、試験領域が一定に保たれているアミノシラン処理されたプレパラートガラスに、乾燥塗料膜の厚さを約100μmで塗布された。各ガラスプレートは、塗料を塗布する前と、23℃及び50%RHで最低2日間乾燥させた後に秤量される。実験には人工海水溶液を使用した。人工海水の混合物は、31~35pptの塩分と、7.8~8.2のpHを与える。試験は通常、週の初めに開始され、平衡又は明確な傾向が見られるまで重量が記録される。この試験は二重測定で行われた。さらに、各タイプの単一のプレパラートガラスも脱塩水にさらされた。すべての曝露は23℃で行われた。結果は、実施例2のカプセル化された活性化合物が、最終的な乾燥塗料膜において著しく低い吸水率を与えることを示している。以下の表を参照されたい。水質が結果に明確な影響を及ぼしていることもわかる。
【0148】
【0149】
これらの結果は、上記したデンマークの2015年報告書に示されている2015の結果と比較することができる。
図3も参照されたい。デンマークの2015年報告書では、人工海水に72時間浸漬した後に、「75%ZnPエアロゲル」は、乾燥防汚塗料膜で受け入れ難い程高い吸水率(約8%)をもたらしたと結論付けられた。
【0150】
本試験では、追加されたエアロゲル(すなわち実験1と2のゲル)を除いて同一の2つの防汚塗料が、さらに長時間(96時間)試験され、乾燥塗料の吸水率は、実施例2で製造されたエアロゲルを含む塗料B(すなわち予備縮合されたケイ酸塩を含む)では、実施例1で製造されたエアロゲルを含む塗料A(すなわち通常のケイ酸塩を含む)よりも著しく低いと、結論付けられた。
【0151】
これらの結果はまた、得られた生成物(充填エアロゲル)に違いがあり、これはその製造プロセスにのみ起因する可能性があることを示す。
【0152】
実施例10
水銀ポロメシトリー測定
背景:
水銀圧入ポロシメトリーでは、充填エアロゲルの乾燥試料が容器に入れられ、次にこれが排気されて汚染ガスと蒸気(通常は水)が除去される。容器がまだ排気されている間、水銀が容器を満たす。これにより、固形の非湿潤性の液体(水銀)、及び水銀蒸気で構成されたシステムが作成される。次の工程では、圧力が周囲に向かって増加する。これにより、水銀がエアロゲル試料のより大きな開口部に入り、その量が容積変化に反映される。次に、試料容器を圧力容器に入れ、加圧システムに取り付けると、システムの圧力が約60,000psi(414MPa)(商用機器の典型的な最大値)まで増加する。これにより、水銀は直径約0.003μmの小さな細孔に押し込まれる。細孔の形状やそれを定量化するために採用されるモデルに関係なく、エアロゲル試料の相互接続された細孔に押し込まれる水銀の量は、圧力が増加するにつれて増加する。固体フレームは高い圧縮力によって崩壊する可能性があるため、水銀の圧入は空のエアロゲルの細孔構造の分析にはあまり適していない。
【0153】
水銀圧入ポロシメトリーは、エアロゲルの細孔構造の多くの態様に関する情報、特に多孔性(%)に関する情報を提供し、この多孔性は、試料のボイド(空)スペースの容積を試料の総容積で割ったものとして定義される。また、侵入量(ml/g)は、試料の相互接続された多孔質部分の尺度である。
【0154】
実施例10a
ZnP含有エアロゲルの測定
本実験では、すべてが75%のZnPを含有する5つの異なるエアロゲル試料(1A、1B、1C、2A、及び2B)が、さまざまな細孔関連パラメーターについて水銀圧入ポロシメトリーによって試験された。試料1A、1B、及び1Cは、さまざまなプロセス条件下で通常のケイ酸塩を使用して調製され、試料2A及び2Bは予備縮合TMOSを使用して調製された。
【0155】
通常のテトラアルコキシシラン又は予備縮合ケイ酸塩のいずれかを使用して作成されたエアロゲル間の違いを定義する場合、かさ密度と侵入容積の両方によって非常にうまく説明できることが分かった。
図14を参照されたい。
【0156】
実施例10aで実施された実験から、予備縮合されたTMOSで調製されたZnP含有エアロゲルは、通常のケイ酸塩から作成された同様のエアロゲルよりも、著しく低いかさ密度及び著しく高い侵入容積を有すると結論付けることができる。一方、2種類のゲルの多孔性とオイル数は同様の傾向を示していない。
【0157】
実施例10b
他の殺生物剤を含むエアロゲルの測定
実施例10bにおいて、約75%w/wの殺生物剤を含有するように計画された7つの異なるエアロゲル試料(3A、3B、3C、3D、4A、4B、及び5)をすべて、さまざまな細孔関連パラメーターについて水銀圧入ポロシメトリーによって試験した。バッチ3A及び4Bは、異なるプロセス条件下で通常のケイ酸塩を使用して調製し、試料3B、3C、4A、及び5は、予備縮合TMOSを使用して調製し、試料3Dは予備縮合TEOSを使用して調製した。試験した殺生物剤は、銅ピリチオン、Econea(登録商標)(トラロピリル CAS[122454-29-9]、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル)、及びチオシアン酸銅(CuT)である。
【0158】
上記の実施例10aの結果とは対照的に、実施例10bの結果(実施例10aからの結果も含む
図14を参照)は、上記の殺生物剤(銅ピリチオン、Econea(登録商標)、及びチオシアン酸銅)を用いて調製した場合、予備縮合されたケイ酸塩で調製されたエアロゲルが、通常のケイ酸塩から調製されたエアロゲルよりも著しく低いかさ密度を有し著しく高い侵入容積を有することを示唆していない。
【0159】
すべての試料について、カプセル化された殺生物剤の含有量を熱重量分析(TGA)測定によって評価した。ZnPとCuPについては、エアロゲルに封入される予定の殺生物剤の量と、TGAにより測定したときにエアロゲルに実際に存在する量との間に、良好な一致が見られた(それぞれ77%と76%に対して計画されたもの75%)。Econeaでは、予想よりも高いかさ密度(約0.70g/ml)と、予想よりも低い殺生物剤含有量(約64%w/w)が得られた。特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明者らは、これはエタノールへのEconeaの溶解性によるものであると考えている。充填されたゲルの超臨界乾燥中に、ゲルにエタノールを高圧下で流すとEconeaの一部が抽出され、同時にゲル構造が部分的に崩壊し、これが、観察されたEconeaのかさ密度の増加と予想よりも低い含有量もたらしたと考えられる。その後、この問題は、エタノール流動法中の圧力を約80バールに下げることで改善され得ることが分かった。チオシアン酸銅の場合、実験7cでは、予想される殺生物剤含有量(約78%w/w)を有する充填エアロゲルが得られたが、ニート殺生物剤と充填エアロゲルの熱重量分析(
図13を参照)は、試料の加熱中におそらく酸素との化学反応が発生するため、これが重量損失を計算することを不可能にすることを示唆している。従って、約75%w/wの含有量はTGAにより検証することができなかった。不活性雰囲気下でTGA分析を再度実施できるかも知れない。
【0160】
実施例11
カプセル化された殺生物剤を有するエアロゲルを含有する防汚塗料の例
背景:
ゲルは多孔質構造であり、材料を粉砕するときは、ゲルがバインダーシステムによって濡れていることを確認することが重要である。これは、ゲルがバインダーに導入され、混合物が粉砕される予備分散工程を使用して達成することができる。本発明者らは、予備分散がなければ、おそらく分散剤がゲル内を含むすべての表面を濡らそうとするために、分散剤の必要性が高まることを見出した。
【0161】
予備分散はまた、塗料が1回の工程で粉砕される場合よりも、乾燥した塗料膜の吸水がより迅速に安定するという効果を有する。
【0162】
予備分散後、すべての原材料が塗料に混合され、塗料は約10~20μmまで粉砕される。
【0163】
温度と塩分の両方が乾燥コーティング膜の吸水率に明確な影響を与えることがわかっている。
図7と
図8を参照されたい。さまざまな配合パラメーターとこれらの環境パラメーターとの関係を見つけるには、温度と塩分に対する感度が低下した防汚塗料を配合する方法を理解して、殺生物剤の防汚効果を最適化できることが非常に重要である。
【0164】
以下に、乾燥コーティングの吸水率を評価するために使用された配合を示す。
【0165】
【0166】
塗料は8℃と23℃で試験した。さらに、両方の温度で人工海水と脱塩水を使用した。驚くべきことに、温度を変えると吸水率が増減することが分かった。塩分を増やすと、塩分は減少させる効果があった(
図7及び
図8)
【0167】
配合パラメーターを評価すると、驚くべきことに、ゲル濃度と顔料容積濃度(PVC)の両方が非常に重要なパラメーターであることを示した。
【0168】
実験で使用した塗料配合物は、以下の方法に従って調製した。
1. バインダー溶液1を調製する:キシレン中のロジン50%。完全に溶解するまで撹拌する。
2. バインダー溶液2を調製する:キシレン中アクリル樹脂40%。完全に溶解するまで撹拌する。
3. 36.8gのロジン溶液を、ガラスビーズ(φ3mm;25g/100g塗料配合物)を有するガラス容器中で、2gの本発明のゲルカプセル化殺生物剤(75%ZnP)と混合する。レッドデビル(Red Devil)振盪機で15分間振盪する。
4. 残りの材料を混合する:
a. 8.6gのアクリルバインダー溶液、
b. 2.3gの分散剤、
c. 23.1gの酸化鉄、
d. 23.1gの硫酸バリウム、
e. 3.5gのタルカム、及び
f. 0.6gの増粘剤(例えばLuvogel SA1)。
【0169】
レッドデビル上で3×15分間振盪して、20μmの細かさにする。塗料を4日間休ませて熟成させてから、基質に塗布する。
【0170】
エアロゲルの特性評価方法
ゲルの特性
水銀圧入分析
高圧水銀(Hg)圧入分析は、MicromeriticsのAutopore V装置(初期測定:Autopore IVモデル9520又は同様のもの)で行った。試料は、338μm~6.6nmの孔径スキャンに相当する0.5psia~30000psiaの圧力範囲で測定した。
【0171】
1. すべての試料を、粉末試料を分析するために特別に設計された針入度計に充填した(すなわち、容量5ml、キャピラリーステム容量1.13ml)。針入度計に注がれる試料の量は、20%の容量ステム使用を達成するのに十分であり、これはデータのより良い解像度を保証する。
2. 分析の前に、試料を含む針入度計を、真空下で50μmHg未満の設定値限界まで脱気処理した。次に、試料を2つの異なる操作モードで分析した:低圧(最大40psia、ポイント数17)と高圧(最大30000psia、ポイント数32)。
3. 低圧分析の完了後、Hgと充填層を含む針入度計が再度秤量され、その値がソフトウェア入力として使用されて、かさ密度(すなわち粒子間多孔性)が決定される。
4. 次に、針入度計を高圧ポートに配置し、高圧をかけながら、見掛け密度に関連する粒子内多孔性を測定した。
5.孔径は、ウォッシュバーン(Washburn)式を使用して、接触角(θ)を130度、水銀表面張力(γ)の値を0.48J/m2と仮定して計算した。最後に、データの要約が装置のソフトウェアによって表示される。
【0172】
オイル数
DIN 53155/ISO 587/5に記載の方法を使用して、作成されたゲルのオイル吸収値を測定した。オイル吸収値は、一定重量の顔料を完全に湿らせて、機械的に混合したときに固いペーストを形成するために必要な精製亜麻仁油の量(すなわち、丁度100gの顔料を飽和させるのに必要なオイルのグラム数)である。この値は定性的であると見なされるべきであり、予備的なミキサー操作に関連して意味がある。この値は、臨界顔料容積濃度の計算にも使用される。この場合、測定値は、表面積の湿潤と多孔質構造の浸透の組み合わせになる。
【0173】
吸水率
少量(約0.2グラム)の試料を小さなシャーレに秤量し、底に青いシリカゲルが入ったデシケーターに入れ、気候室に入れる。
1. 通常4~6日後に安定した重量が得られるまで、試料の重量損失が記録され、乾燥重量が記録される。
2. 乾燥した試料を、底に水道水が入ったデシケーター(約86%RH)に入れる。通常4~6日後に安定した重量が得られるまで、試料の増加した重量が記録される。
【0174】
増加した重量が計算される。これは、細孔容積=(飽和した試料の重量-乾燥試料の重量)/水の密度、として表すことができる。
試験はデュプロ(Duplo)で23±2℃で行われる。
【0175】
BET
BET(Brunauer, Emmett and Teller)分析により、孔径分布を含む試料の比表面積が測定される。粉末の比表面積は、固体の表面へのガスの物理吸着と、表面の単分子層に対応する吸着ガスの量を計算することによって決定される。物理吸着は、吸着ガス分子と試験粉末の吸着表面積との間の比較的弱い力(ファンデルワールス力)に起因する。測定は通常、液体窒素の温度で行われる。吸着されたガスの量は、容積測定又は連続フロー法によって測定することができる。この方法は、ガスが細孔と周囲の容積の間で通信することを前提としていることに注意されたい。実際にはこれは、細孔が閉じた空洞であってはならないことを意味する。この試験に使用されたBET装置:Micromeritics VacPrep又は同等の乾燥ステーションを備えたMicromeritics Geminiシリーズ。細孔容積>4×10-6cm3/gが測定される。
【0176】
熱重量(TGA)測定
試料はMettler Toledo TGA 40で分析された。試料(通常は10~25mg)をるつぼに入れ、秤量する。温度は室温から800℃に10℃/分で上昇させる。重量損失が記録される。溶媒は通常250℃になる前に消失し、ゲル作成に関連して通常150℃になる前に消失する。ポリマーを含むその他の有機材料は450℃になる前に消失する。800℃では通常無機材料のみが残る。装置の機能制御はインジウムを用いて行い、温度プロフィールが装置の校正値内にあることを確認する。重量損失は、ソフトウェアプログラムSTAReバージョン7.01を使用して評価される。
【0177】
船舶用防汚塗料
塗料膜の吸水率は、浸出層、活性化合物の浸出、研磨速度、従って防汚特性に関連する重要なパラメーターである。吸水率は、色素沈着の選択、選択したゲル、及びゲルの量に影響される。エアロゲルは非常に多孔性であり、有効な測定を行う前に、さまざまな成分間の平衡を達成する必要がある。バインダーシステムがエアロゲルに浸透し、これが、成分間の平衡が達成されるまで吸水率を低下させることが示されており、また、エアロゲル粒子が塗料層にしっかり固定され、水に曝されても経時的に洗い流されることがないことを保証している。高い侵入容積値(水銀ポロメシトリーによって測定されるように)を有するゲルは、バインダーシステムによってより容易に浸透され得ると想定される。海水中では、ゲルは経時的に加水分解されるため、塗料膜の研磨特性に寄与する。