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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】通信装置及び通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20240509BHJP
   G04G 7/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H04L7/00 990
G04G7/00 301
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021209367
(22)【出願日】2021-12-23
(65)【公開番号】P2023094100
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591004146
【氏名又は名称】平河ヒューテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】魏 舒
(72)【発明者】
【氏名】任 光輝
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-127887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0074278(US,A1)
【文献】横手 慎一 他,Technology Reports 3.5GHz帯導入,NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol.24 No.2 [online],一般社団法人電気通信協会,2016年,p.18-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
G04G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する通信装置であって、
前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する時刻同期処理部と、
前記通信装置が前記マスタ装置から送信された前記時刻同期用のパケットを受信してから前記時刻同期処理部に出力するまでの経路長に応じた第1の装置内遅延時間、及前記時刻同期処理部から前記複数のスレーブ装置に出力するまでのそれぞれの経路長に応じた第2の装置内遅延時間を出力先ごとに測定して遅延時間テーブルに記録する遅延時間測定部と、
前記時刻同期用のパケットの出力先に対応する前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む特定の時刻同期用のパケットを生成する特定パケット生成部と、
前記時刻同期処理部により補正された前記通信装置の時刻を基準に、生成された前記特定の時刻同期用のパケットを前記出力先の前記スレーブ装置に送信するパケット送信部と、を備え、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、
通信装置。
【請求項2】
前記通信装置は、さらに前記複数のスレーブ装置間で送受信するパケットを中継するものであり、
前記パケット送信部は、前記時刻同期用のパケットを他のパケットよりも優先的に送信する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記遅延時間測定部は、前記第1の装置内遅延時間及び前記第2の装置内遅延時間を定期的に測定して前記遅延時間テーブルに記録し、
前記特定パケット生成部は、前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから定期的に読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む前記特定の時刻同期用のパケットを生成し、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから定期的に読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記スレーブ装置と前記マスタ装置との時刻の差である時刻同期精度が200ns以下である、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
マスタ装置と、複数のスレーブ装置と、マスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する通信装置と、を備えた通信システムであって、
前記通信装置は、前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する時刻同期処理部と、前記通信装置が前記マスタ装置から送信された前記時刻同期用のパケットを受信してから前記時刻同期処理部に出力するまでの経路長に応じた第1の装置内遅延時間、及前記時刻同期処理部から前記複数のスレーブ装置に出力するまでのそれぞれの経路長に応じた第2の装置内遅延時間を出力先ごとに測定して遅延時間テーブルに記録する遅延時間測定部と、前記時刻同期用のパケットの出力先に対応する前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む特定の時刻同期用のパケットを生成する特定パケット生成部と、前記時刻同期処理部により補正された前記通信装置の時刻を基準に、生成された前記特定の時刻同期用のパケットを前記出力先の前記スレーブ装置に送信するパケット送信部と、を備え、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、
通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置及び通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IP(Internet Protocol)技術を活用したIPネットワークでは、高精度時刻同期方式のPTP(Precision Time Protocol)が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、時刻同期装置間で伝送装置を経由して時刻同期用パケットを送受信し、その送受信の時刻情報をもとに時刻同期装置の時刻を同期する時刻伝送システムに用いられる伝送装置であって、自装置に入力された時刻同期用パケットが自装置から出力されるまでの装置内遅延時間を測定する遅延計算部と、遅延計算部により測定された装置内遅延時間を時刻同期用パケットに後続するパケットに付与し、その付与したパケットを時刻同期用パケットの出力先に出力する遅延情報書込部と、を有する伝送装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-91135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通信装置がマスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する場合、通信装置の装置内の遅延がマスタ装置と通信装置との間の時刻同期に影響を与え、ひいては通信装置とスレーブ装置との間の時刻同期に影響を与えるという問題がある。また、スレーブ装置間で送受信されるパケットを通信装置で中継するとともに、マスタ装置から送信される時刻同期用のパケットに基づいてスレーブ装置間で時刻同期を行う場合、通信装置と外部装置との間の通信路のパケットの伝送負荷が変動することによって通信装置の装置内遅延時間も変動し、スレーブ装置間における同期精度の低下やばらつきが大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、装置内遅延時間を考慮しない場合と比較して、時刻同期精度の向上を図ることができる通信装置及び通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]マスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する通信装置であって、
前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する時刻同期処理部と、
前記通信装置が前記マスタ装置から送信された前記時刻同期用のパケットを受信してから前記時刻同期処理部に出力するまでの経路長に応じた第1の装置内遅延時間、及前記時刻同期処理部から前記複数のスレーブ装置に出力するまでのそれぞれの経路長に応じた第2の装置内遅延時間を出力先ごとに測定して遅延時間テーブルに記録する遅延時間測定部と、
前記時刻同期用のパケットの出力先に対応する前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む特定の時刻同期用のパケットを生成する特定パケット生成部と、
前記時刻同期処理部により補正された前記通信装置の時刻を基準に、生成された前記特定の時刻同期用のパケットを前記出力先の前記スレーブ装置に送信するパケット送信部と、を備え、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、通信装置。
[2]前記通信装置は、さらに前記複数のスレーブ装置間で送受信するパケットを中継するものであり、
前記パケット送信部は、前記時刻同期用のパケットを他のパケットよりも優先的に送信する、前記[1]に記載の通信装置。
[3]前記遅延時間測定部は、前記第1の装置内遅延時間及び前記第2の装置内遅延時間を定期的に測定して前記遅延時間テーブルに記録し、
前記特定パケット生成部は、前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから定期的に読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む前記特定の時刻同期用のパケットを生成し、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから定期的に読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、前記[1]に記載の通信装置。
[4]前記スレーブ装置と前記マスタ装置との時刻の差である時刻同期精度が200ns以下である、前記[3]に記載の通信装置。
]マスタ装置と、複数のスレーブ装置と、マスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する通信装置と、を備えた通信システムであって、
前記通信装置は、前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する時刻同期処理部と、前記通信装置が前記マスタ装置から送信された前記時刻同期用のパケットを受信してから前記時刻同期処理部に出力するまでの経路長に応じた第1の装置内遅延時間、及前記時刻同期処理部から前記複数のスレーブ装置に出力するまでのそれぞれの経路長に応じた第2の装置内遅延時間を出力先ごとに測定して遅延時間テーブルに記録する遅延時間測定部と、前記時刻同期用のパケットの出力先に対応する前記第2の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第2の装置内遅延時間を含む特定の時刻同期用のパケットを生成する特定パケット生成部と、前記時刻同期処理部により補正された前記通信装置の時刻を基準に、生成された前記特定の時刻同期用のパケットを前記出力先の前記スレーブ装置に送信するパケット送信部と、を備え、
前記時刻同期処理部は、前記第1の装置内遅延時間を前記遅延時間テーブルから読み出し、読み出した前記第1の装置内遅延時間を考慮して前記通信装置の時刻を前記マスタ装置の時刻に同期するように補正する、通信システム。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、3-5に係る発明によれば、装置内遅延時間を考慮しない場合と比較して、時刻同期精度の向上を図ることができる。
請求項2に係る発明によれば、通信装置と外部装置との間の通信路のパケットの伝送負荷が変動しても、スレーブ装置間における同期精度の低下やばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る通信システムの一例を示すブロック図である。
図2図2は、送受信処理部の構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、遅延時間テーブルの一例を示す図である。
図4図4は、PTPパケットのフォーマットの一例を示す図である。
図5図5は、装置間のパケットの流れの一例を示すシーケンス図である。
図6図6は、通信装置内におけるパケットの流れの一例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0011】
[実施の形態の要約]
本実施の形態に係る通信装置は、マスタ装置及び複数のスレーブ装置との間で時刻同期用のパケットを送受信する通信装置であって、通信装置の時刻をマスタ装置の時刻に同期するように補正する時刻同期処理部と、通信装置がマスタ装置から送信された時刻同期用のパケットを受信してから時刻同期処理部に出力するまでの第1の装置内遅延時間、及時刻同期処理部から複数のスレーブ装置に出力するまでの第2の装置内遅延時間を出力先ごとに測定する遅延時間測定部と、時刻同期用のパケットの出力先に対応する第2の装置内遅延時間を含む特定の時刻同期用のパケットを生成する特定パケット生成部と、時刻同期処理部により補正された通信装置の時刻を基準に、生成された特定の時刻同期用のパケットを出力先のスレーブ装置に送信するパケット送信部と、を備え、時刻同期処理部は、第1の装置内遅延時間を考慮して通信装置の時刻をマスタ装置の時刻に同期するように補正する。
【0012】
マスタ装置は、時刻源となる基準時刻情報の一例としてのグランドマスタークロック(以下、GMクロックという。)として動作するグランドマスタ装置だけでなく、グランドマスタ装置の機能を有するとともに映像、音声等のパケットを送信するサーバ装置でもよい。時刻同期用のパケットは、時刻同期のために使用されるパケットをいい、例えば、PTP(Precision Time Protocol)が採用されたシステムに適用されるが、PTPに限定されない。通信装置としては、例えば、L2スイッチ、L3スイッチ等のスイッチングハブ、ルータ、ゲートウェイ、IEEE1588のBC(Boundary Clock)、光スイッチ等を用いることができる。通信装置は、時刻同期用のパケットのみを送受信するものでもよく、時刻同期用のパケットを送受信するとともに、複数のスレース装置間で送受信するパケットを中継するものでもよい。
【0013】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る通信システムの一例を示すブロック図である。この通信システム1は、グランドマスタ装置2と、通信装置3と、複数のスレーブ装置4A、4B(これらを総称するときは、以下「スレーブ装置4」という。)とを備える。これらのグランドマスタ装置2、通信装置3及び複数のスレーブ装置4は、イーサネット(登録商標)等のIPネットワークにより通信可能に接続されている。ここで、グランドマスタ装置2は、マスタ装置の一例である。グランドマスタ装置2及びスレーブ装置4は、外部装置の一例である。IPネットワークは、通信路の一例である。
【0014】
なお、同図では、通信装置3に接続されたスレーブ装置4を2つとしたが、3つ以上でもよい。また、同図では、複数のスレーブ装置4を1つの通信装置3を介してグランドマスタ装置2に接続したが、複数のスレーブ装置4を複数の通信装置3を介してグランドマスタ装置2に接続した構成としてもよい。
【0015】
グランドマスタ装置2は、IPネットワーク全体の時刻源となる基準時刻情報の一例としてのGMクロックを含むPTPパケットを定期的に生成し、通信装置3との間でPTPパケットを送受信する。ここで、PTPパケットは、時刻同期用のパケットの一例である。
【0016】
通信装置3は、グランドマスタ装置2のGMクロックに対してPTPの時刻同期で動作するバウンダリークロック(Boundary Clock)デバイスとして機能する。通信装置3は、例えば、PTPに準拠したL2スイッチを用いる。
【0017】
スレーブ装置4は、GMクロックに対してPTPの時刻同期で動作するオーディナリークロック(Ordinary Clock)デバイスとして機能する。スレーブ装置4Aは、時刻同期処理を行う時刻同期処理部41aと、計時部42aを備える。スレーブ装置4Bも同様に時刻同期処理部41bと、計時部42bを備える。計時部42a、42bは、図示しないクロック源(例えば、発信器、振動子等)からのクロック信号を計時してスレーブ装置4A、4Bの時刻を出力する。
【0018】
(通信装置の構成)
通信装置3は、送受信処理部30と、時刻同期処理部31と、計時部32とを備える。
【0019】
送受信処理部30は、グランドマスタ装置2用のポートS30aと、スレーブ装置4A、4B用のポートM30a、M30bと、時刻同期処理部31用のポートC30a、C30bとを備える。ポートS30aとポートC30aとは、第1の伝送路Raによって接続され、ポートC30bとポートM30aとは、第2の伝送路Rbによって接続され、ポートC30bとポートM30bとは、第3の伝送路Rcによって接続されている。なお、図1における各伝送路Ra、Rb、Rcは、実際の経路を示すものではなく、概念的に示すものである。
【0020】
時刻同期処理部31は、ポートC31a、C31bを備え、グランドマスタ装置2との間でPTPパケットを送受信することにより、IPネットワークの通信路における後述する式(1)により算出して求めたオフセット時間Toff及び第1の伝送路Raによる遅延時間に基づいて、通信装置3の時刻をグランドマスタ装置2の時刻に同期するように補正する時刻同期処理を定期的(例えば、8回/秒)に行う。時刻同期処理部31が2つのポートC31a、C31bを備えることにより、グランドマスタ装置2に関する処理とスレーブ装置4に関する処理とを並行して行うことができる。なお、ポートC30bをスレーブ装置4A用のポートと、スレーブ装置4B用のポートの2つにしてもよい。
【0021】
計時部32は、図示しないクロック源(例えば、発信器、振動子等)からのクロック信号を計時して通信装置3の時刻を出力する。
【0022】
図2は、送受信処理部30の構成の一例を示すブロック図である。送受信処理部30は、遅延時間測定部301と、特定パケット生成部302と、パケットを送受信するパケット送受信部303と、RAM(Random Access Memory)等で構成され、遅延時間テーブル304a(図3参照)を記憶する遅延時間メモリ304と、パケットを記憶するパケットメモリ305とを備える。ここで、パケット送受信部303は、パケット送信部の一例である。
【0023】
遅延時間測定部301、特定パケット生成部302及びパケット送受信部303は、FPGA:Field Programmable Gate Array)、ASIC:Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって構成してもよい。また、これらの各部301~303の各機能は、プログラムをROM(Read Only Memory)等のメモリに記憶し、そのプログラムをRAM(Random Access Memory)に読み出してCPU(Central Processing Unit)が実行することにより実現してもよい。
【0024】
遅延時間測定部301は、装置内遅延時間の一例として各伝送路Ra、Rb、Rcにおける遅延時間を定期的(例えば、8回/秒)に測定する。なお、装置内遅延時間に待機時間や処理時間等を含めてもよい。
【0025】
特定パケット生成部302は、装置内遅延時間を記録したPTPパケット(以下、「特定のPTPパケット」という。)を生成し、時刻同期処理部31に送信する。特定のPTPパケットの詳細については後述する。ここで、特定のPTPパケットは、特定の時刻同期用のパケットの一例である。
【0026】
パケット送受信部303は、グランドマスタ装置2又はスレーブ装置4から送信されたパケットの種類を、後述するイーサヘッダ110(図4参照)に記録されたパケットタイプを基に判断し、PTPパケットを他のパケットよりも優先的に送受信する。
【0027】
また、パケット送受信部303は、パケットのイーサヘッダ110から送信先アドレスを取得し、当該パケットをポートS30a、M30a、M30bから送信先アドレスに対応するグランドマスタ装置2、スレーブ装置4A、4BのポートM2a,S4a、S4bに送信する。
【0028】
さらに、パケット送受信部303は、グランドマスタ装置2又はスレーブ装置4から送信されたPTPパケットを受信した時刻、及びグランドマスタ装置2又はスレーブ装置4にPTPパケットを送信した時刻を計時部32から取得し、時刻同期処理部31に通知する。
【0029】
パケットメモリ305は、PTPパケットだけでなく、PTPパケット以外のパケットも記憶する。パケットメモリ305に対するパケットの記憶及び取り出しは、パケット送受信部303により行われる。
【0030】
図3は、遅延時間テーブル304aの一例を示す図である。遅延時間テーブル304aは、「ポート番号」、「遅延時間」の各項目を有する。「ポート番号」には、ポートS30a、M30a、M30bにそれぞれ付与されたポート番号の001、002、003が記録されている。遅延時間測定部301は、各伝送路Ra、Rb、Rcにおける遅延時間を定期的に測定し、図3に示すように、測定結果を外部装置用のポートS30a、M30a、M30bの識別情報(例えば、ポート番号)に対応付けて遅延時間テーブル304aに記録する。なお、図3では、遅延時間をDta、Dtb、Dtcで表しているが、実際は測定値が記録される。ここで、遅延時間Dtaは、第1の装置内遅延時間の一例であり、遅延時間Dtb、Dtcは、第2の装置内遅延時間の一例である。
【0031】
図4は、特定のPTPパケットのフォーマットの一例を示す図である。特定のPTPパケット100a~100c(201、202a、202b、203a、203b、204a、204b)は、イーサヘッダ110、PTPヘッダ120、時刻情報格納部130を有する。イーサヘッダ110には、送信先を示す送信先アドレス(例えば、MACアドレス)、送信元を示す送信元アドレス(例えば、MACアドレス)、パケットがPTPパケットかそれ以外のパケットかを示すパケットタイプ等が記録される。PTPヘッダ120は、メッセージの種類に対応した識別情報が記録されるメッセージタイプ121、装置内遅延時間等の時刻を補正するための情報が記録されるコレクションフィールド(Correction Field)122を含む。時刻情報格納部130には、PTPパケットの送信時刻、受信時刻等が記録される。図4では、遅延時間をDta、Dtb、Dtcで表しているが、実際は測定値が記録される。
【0032】
特定パケット生成部302は、ポート番号001、002、003に対応する遅延時間を遅延時間テーブル304aから読み出し、読み出した遅延時間をコレクションフィールド122に記録した特定のPTPパケット100a~100c等を生成し、時刻同期処理部31に送信する。
【0033】
(本実施の形態の動作)
次に、本実施の形態に係る通信システム1の動作の一例を、図5及び図6を参照して説明する。図5は、装置2、3、4間のパケットの流れの一例を示すシーケンス図である。図6は、通信装置3内におけるパケットの流れの一例を示すシーケンス図である。
【0034】
(1)グランドマスタ装置2と通信装置3との間の時刻同期処理
特定パケット生成部302は、ポート番号001に対応する遅延時間Dtaを遅延時間テーブル304aから読み出し、読み出した遅延時間Dtaをコレクションフィールド(Correction Field)122に記録した特定のPTPパケット100aを生成する。特定パケット生成部302は、図6に示すように、特定のPTPパケット100aを時刻同期処理部31に送信する。
【0035】
グランドマスタ装置2は、図5(a)に示すように、ポートM2aからSyncメッセージを含むPTPパケット101を通信装置3のポートS30aに送信する。通信装置3のパケット送受信部303は、グランドマスタ装置2から送信されたSyncメッセージを含むPTPパケット101を受信し、その受信した時刻t2を計時部32から取得し、時刻同期処理部31に通知する。時刻同期処理部31は、通知された時刻t2を記録する。
【0036】
グランドマスタ装置2は、図5(a)に示すように、Syncメッセージを含むPTPパケット101を送信した時刻t1を記録した、Follow-upメッセージを含むPTPパケット102を通信装置3のポートS30aに送信する。
【0037】
通信装置3のパケット送受信部303は、図5(a)に示すように、グランドマスタ装置2から送信されたPTPパケット102を受信する。当該PTPパケット102は、図6に示すように、パケットメモリ305に保持された後、パケット送受信部303により時刻同期処理部31に送信される。時刻同期処理部31は、当該PTPパケット102から時刻t1を取得し、記録する。ここで、Syncメッセージを含むPTPパケット101及びFollow-upメッセージを含むPTPパケット102は、時刻同期用のパケットの一例である。
【0038】
次に、時刻同期処理部31は、図6に示すように、特定パケット生成部302から送信された特定のPTPパケット100aからDelay_Requestメッセージを含む特定のPTPパケット201を生成して送受信処理部30に送信する。当該特定のPTPパケット201は、パケットメモリ305に保持された後、図5(a)に示すように、パケット送受信部303によりポートS30aからグランドマスタ装置2のポートM2aに送信される。
【0039】
パケット送受信部303は、当該特定のPTPパケット201を送信した時刻t3を計時部32から取得し、時刻同期処理部31に通知する。時刻同期処理部31は、通知された時刻t3を記録する。
【0040】
次に、グランドマスタ装置2は、図5(a)に示すように、Delay_Requestメッセージを含む特定のPTPパケット201を受信した時刻t4を記録した、Delay_Resposeメッセージを含むPTPパケット103を通信装置3のポートS30aに送信する。
【0041】
次に、当該PTPパケット103は、図6に示すように、パケットメモリ305に保持された後、パケット送受信部303により時刻同期処理部31に送信される。時刻同期処理部31は、当該PTPパケット103から時刻t4を取得し、記録する。
【0042】
そして時刻同期処理部31は、次の式(1)によりオフセット時間Toffを算出する。
Toff=(Dms+Dsm)/2
={(t2-t1)+(t4-t3)}/2 ・・・(1)
【0043】
続いて時刻同期処理部31は、特定のPTPパケット100aのコレクションフィールド122から遅延時間Dtaを取得し、オフセット時間Toff及び遅延時間Dtaに基づいて、通信装置3の時刻がグランドマスタ装置2の時刻に同期するように計時部32を補正する時刻同期処理を行う。
【0044】
(2)通信装置3とスレーブ装置4A、4Bとの間の時刻同期処理
ここでは、通信装置3がマスタ装置として動作する。
【0045】
特定パケット生成部302は、ポート番号002、003に対応する遅延時間Dtb、Dtcを遅延時間テーブル304aから読み出し、遅延時間Dtbをコレクションフィールド122に記録した特定のPTPパケット100bを生成し、遅延時間Dtcをコレクションフィールド122に記録した特定のPTPパケット100cを生成する。特定パケット生成部302は、図6に示すように、特定のPTPパケット100b、100cを時刻同期処理部31に送信する。
【0046】
時刻同期処理部31は、図6に示すように、特定パケット生成部302から送信された特定のPTPパケット100b、100cからSyncメッセージを含む特定のPTPパケット202a、202bを生成する。
【0047】
当該特定のPTPパケット202a、202bは、図5(b)に示すように、パケットメモリ305に保持された後、パケット送受信部303によりポートM30aからスレーブ装置4A、4BのポートS4a、S4bに送信される。
【0048】
スレーブ装置4A、4Bの時刻同期処理部41a、41bは、Syncメッセージを含む特定のPTPパケット202a、202bを受信した時刻t6、t6’を記録する。
【0049】
次に、時刻同期処理部31は、図6に示すように、特定のPTPパケット202a、202bから、Syncメッセージを含む特定のPTPパケット202a、202bを送信した時刻t5を記録した、Follow-upメッセージを含む特定のPTPパケット203a、203bを生成して送受信処理部30に送信する。
【0050】
当該特定のPTPパケット203a、203bは、図5(b)に示すように、パケットメモリ305に保持された後、パケット送受信部303によりポートM30a、M30bからスレーブ装置4A、4BのポートS4a、S4bに送信される。スレーブ装置4A、4Bの時刻同期処理部41a、41bは、時刻t5を記録する。ここで、通信装置3は、バウンダリークロックデバイスとして機能するものであるので、通信装置3が記録した時刻t5は、グランドマスタ装置2の時刻に同期した時刻である。
【0051】
次に、スレーブ装置4A、4Bは、図5(b)に示すように、ポートS4a、S4bからDelay_Requestメッセージを含む特定のPTPパケット401a、401bを通信装置3のポートM30aに送信する。
【0052】
スレーブ装置4A、4Bの時刻同期処理部41a、41bは、Delay_Requestメッセージを含む特定のPTPパケット401a、401bを送信した時刻t7、t7’を記録する。通信装置3は、図5(b)に示すように、当該PTPパケット401a、401bを受信した時刻t8、t8’を記録した、Delay_Resposeメッセージを含む特定のPTPパケット204a、204bをスレーブ装置4A、4BのポートS4a、S4bに送信する。スレーブ装置4A、4Bの時刻同期処理部41は、時刻t8、t8’を記録する。
【0053】
スレーブ装置4A、4Bの時刻同期処理部41a、41bは、時刻t5、t6、t6’、t7、t、7’、t8、t8’に基づいてオフセット時間Toffを算出し、特定のPTPパケット202a、202b(又は203a、203b)のコレクションフィールド122に記録された遅延時間及びオフセット時間Toffに基づいて、自装置4A、4Bの時刻を通信装置3の時刻に補正する時刻同期処理を行う。すなわち、スレーブ装置4Aの時刻同期処理部41aは、オフセット時間Toff及びポート番号002に対応する遅延時間Dtbに基づいて、スレーブ装置4Aの時刻が通信装置3の時刻に同期するように自己の計時部42aを補正する時刻同期処理を行う。スレーブ装置4Bの時刻同期処理部41bは、オフセット時間Toff及びポート番号003に対応する遅延時間Dtcに基づいて、スレーブ装置4Bの時刻が通信装置3の時刻に同期するように自己の計時部42bを補正する時刻同期処理を行う。
【0054】
なお、図5(a)、(b)では、Two-step clock方式の時刻配信の例として、Follw-upメッセージを含むPTPパケット、及びDelay_Resposeメッセージを含むPTPパケットに時刻情報を記録したが、One-step clock方式の時刻配信の場合、Syncメッセージを含むPTPパケット、及びDelay_Requestメッセージを含むPTPパケットに時刻情報を記録してもよい。
【0055】
(本実施の形態の作用、効果)
本実施の形態に係る通信システム1によれば、以下の作用、効果を奏する。
(a)装置内遅延時間を考慮して通信装置3の時刻をグランドマスタ装置2の時刻に同期させることで、装置内遅延時間を考慮しない場合と比較して、時刻同期精度の向上を図ることができる。
(b)グランドマスタ装置2及びスレーブ装置4と通信装置3の間の通信では、PTPパケットを他のパケットよりも優先的に処理し、装置内遅延時間を送信先に通知することにより、時刻同期精度をIEEE1588規格の1μsの1/5程度(200ns)に向上させることができた。また、時刻同期精度のばらつきを、従来700nsから60msであったものが200ns以下に抑えることができた。
(c)通信装置3は、バウンダリークロックデバイスとして機能するため、グランドマスタ装置の代わりにマスタ装置の役割を担うので、グランドマスタ装置2に掛かる負荷を軽減することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施の形態は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形、実施が可能である。例えば、上記実施の形態では、特定パケット生成部302は、出力先に対応する装置内遅延時間を記録した特定のPTPパケットを生成したが、全ての出力先に対応する装置内遅延時間を出力先を示す情報とともに記録した特定のPTPパケットを生成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…通信システム、2…グランドマスタ装置、3…通信装置、4、4A、4B…スレーブ装置、30…送受信処理部、31、41a、41b…時刻同期処理部、32、42a、42b…時計部、100a、100b、100c、201、202a、202b、204a、204b…特定のPTPパケット、101、103、401a、401b…PTPパケット、110…イーサヘッダ、120…PTPヘッダ、121…メッセージタイプ、122…コレクションフィールド、130…時刻情報格納部、301…遅延時間測定部、302…特定パケット生成部、303…パケット送受信部、304…遅延時間メモリ、304a…遅延時間テーブル、305…パケットメモリ、C30a、C30b、C31a、C31b、M30a、M30b、M2a、S30a…ポート、Ra…第1の伝送路、Rb…第2の伝送路、Rc…第3の伝送路、
図1
図2
図3
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図5
図6