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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光学近接システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20240509BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01B11/00 Z
G01C3/06 120Z
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022090747
(22)【出願日】2022-06-03
(65)【公開番号】P2023014980
(43)【公開日】2023-01-31
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】17/379,492
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】エイ.ダグラス マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス アラン ボルトン
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008496(JP,A)
【文献】特開2020-085717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学近接センサシステムであって、
直線偏光で放射光ビームを生成するように構成されたレーザーと、
前記レーザーと対象物との間の距離によって規定される光キャビティを含む光キャビティシステムと、対象物は、前記放射光ビームの一部を反射して、反射光ビームを生成するように構成されており、
前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの一部を偏向させるように構成された少なくとも1つの部分反射ミラーと、
前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信し、前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示す周波数を有する近接信号を生成するように構成された少なくとも1つの光検出器と、
前記近接信号を周波数を有するパルス信号として生成するために、前記少なくとも1つの部分反射ミラーから前記少なくとも1つの光検出器への前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部の第1の直線偏光を通過させ、かつ第2の直線偏光を遮断するように構成された少なくとも1つの直線偏光子と、
前記近接信号の周波数に基づいて対象物までの距離を算出するように構成された近接プロセッサと、を備える光学近接センサシステム。
【請求項2】
前記レーザーと対象物との間に配置され、前記放射光ビームを第1の直線偏光から円偏光に変換し、前記反射光ビームを円偏光から第2の直線偏光に変換するように構成された四分の一波長板を備え、前記四分の一波長板は、前記放射光ビームを第2の直線偏光から円偏光に変換し、前記反射光ビームを円偏光から第1の直線偏光に変換するようにさらに構成される、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項3】
前記レーザーは、垂直キャビティ面発光レーザー(VCSEL)として構成され、前記VCSELは、前記VCSELが前記反射光ビームを受信することに応答して、第1の直線偏光で前記放射光ビームを生成することと第2の直線偏光で前記放射光ビームを生成することとの間で発振するように構成される、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項4】
前記放射光ビームを整列させて、前記放射光ビームの空間断面積を狭めて、前記反射光ビームからのより多くの光エネルギーが前記VCSELに再入射することを可能にするコリメートレンズをさらに備える、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項5】
前記近接信号の周波数は、前記反射光ビームの第1の直線偏光と第2の直線偏光との間の発振の周期的な遷移に対応し、前記近接プロセッサは、前記近接信号の周期的な遷移の周波数に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項6】
基準周波数信号を生成するように構成された局部発振器をさらに備え、前記近接プロセッサは、前記基準周波数信号と前記近接信号との間の比較に基づいて対象物までの距離を決定するように構成される、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの部分反射ミラーが第1の部分反射ミラーを含み、前記少なくとも1つの光検出器が第1の光検出器を含み、前記少なくとも1つの直線偏光子が第1の直線偏光子を含み、システムはさらに、第2の部分反射ミラー、第2の光検出器、および第2の直線偏光子を備え、前記第1の部分反射ミラーは、前記放射光ビームの一部を前記第1の直線偏光子を通過して前記第1の光検出器に到達するように偏向させ、前記第2の部分反射ミラーは、前記反射光ビームの一部を前記第2の直線偏光子を通過して前記第2の光検出器に到達するように偏向させる、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項8】
前記第1の光検出器および前記第2の光検出器は、個々の第1および第2の近接信号を生成するように構成され、前記近接プロセッサは、前記第1および第2の近接信号の周波数に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される、請求項に記載の光学近接センサシステム。
【請求項9】
距離を測定するための方法であって、
レーザーにより直線偏光で放射光ビームを生成し、前記放射光ビームの直線偏光を第1の直線偏光と第2の直線偏光との間で周期的にスイッチングするステップと、
前記レーザーと対象物によって規定された光キャビティ内に放射光ビームを提供するステップと、対象物は、前記放射光ビームを反射して、反射光ビームを生成するように構成されており、
前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信するように構成された少なくとも1つの光検出器により周波数を有する近接信号を生成するステップと、前記近接信号の周波数は、前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示しており、
基準周波数信号に対する前記近接信号の周波数の比較に基づいて、対象物までの距離を算出するステップと、を含む方法。
【請求項10】
前記レーザーがVCSELであり、周期的にスイッチングすることが、前記反射光ビームを前記VCSELに提供することに基づく、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記近接信号を生成することは、前記近接信号の周波数が、前記放射光ビームの直線偏光の第1の直線偏光と第2の直線偏光との間の周期的なスイッチングの周波数に基づくように、前記近接信号を生成することを含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概してセンサシステムに関し、詳しくは光学近接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近接センサは、離れた物体の非接触検出を行う。近接センサは、物体の動きまたは存在に関する情報を電気信号に変換する。1つのタイプには、外部磁場によって導電性表面に発生する渦電流による磁気損失を検出する誘導型近接センサが含まれる。検出コイル上に交流磁界が生成されて、金属物体に発生する渦電流によるインピーダンスの変化が検出される。従って、誘導型近接センサは金属物体に限定される。別のタイプには、センサと対象物との間の静電容量の変化を検出する静電容量型近接センサが含まれる。静電容量型近接センサには、センサと対象物との間に絶縁体または誘電体が必要である。地上用途では、センサと対象物との間のギャップ内にある空気が絶縁体または誘電体として機能する。しかしながら、静電容量型近接センサは、宇宙環境では効果がない。さらに別のタイプの近接センサは、磁気近接センサを含む。磁気近接センサは、対象物(即ち、磁石)によって生成された磁場を検出する。従って、磁気近接センサは、磁性物体の検出に限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第10121918号明細書
【文献】米国特許第9641941号明細書
【文献】米国特許第9285390号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0327146号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0292321号明細書
【発明の概要】
【0004】
以下では、主題の開示の基本的な理解を提供するために、その要約を簡略に説明する。この要約は、主題の開示の広範な概要ではない。主要/重要な要素を特定したり、主題の開示の範囲を説明したりすることは意図されていない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の前置きとして、主題の開示のいくつかの概念を簡略化された形で提示することである。
【0005】
主題の開示の一例は、直線偏光(linear polarization)で放射光ビームを生成するように構成されたレーザーと、レーザーと対象物との間の距離によって規定される光キャビティ(optical cavity)を含む光キャビティシステムとを含む光学近接センサシステムを含み、対象物は、放射光ビームの一部を反射して、反射光ビームを生成するように構成されている。少なくとも1つの部分反射ミラーは、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの一部を偏向させるように構成される。少なくとも1つの光検出器は、放射光ビームおよび反射光ビームの少なくとも1つの偏向された一部を受信し、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示す周波数を有する近接信号を生成するように構成される。近接プロセッサは、近接信号の周波数に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される。
【0006】
主題の開示の別の例は、距離を測定するための方法であって、レーザーにより直線偏光で放射光ビームを生成すること、レーザーおよび対象物によって規定される光キャビティ内に放射光ビームを提供することを含む方法を含み、対象物は、放射光ビームを反射して、反射光ビームを生成するように構成されている。周波数を有する近接信号が、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信するように構成された少なくとも1つの光検出器により生成される。近接信号の周波数は、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示す。対象物までの距離は、基準周波数信号に対する近接信号の周波数の比較に基づいて算出される。
【0007】
主題の開示のさらに別の例は、基準信号を生成するように構成された局部発振器と、光学近接検出システムとを含む光学近接センサシステムを含む。光学近接検出システムは、反射光ビームに応答して第1の直線偏光と第2の直線偏光との間で周期的に遷移する直線偏光で放射光ビームを生成するように構成されたレーザーを含む。このシステムは、レーザーと対象物との間の距離によって規定される光キャビティを含む光キャビティシステムをさらに含み、対象物は、放射光ビームを反射して、反射光ビームを生成するように構成されている。四分の一波長板が、レーザーと対象物の間に配置され、かつ放射光ビームを第1の直線偏光から円偏光に変換し、反射光ビームを円偏光から第2の直線偏光に変換するように構成されている。少なくとも1つの部分反射ミラーは、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの一部を偏向させるように構成される。少なくとも1つの光検出器が、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信し、放射光ビームおよび反射光ビームの少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示す近接信号を生成するように構成される。近接プロセッサは、基準信号と近接信号の比較に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】固定光キャビティ長を有する光学近接検出システムの一例を示す図である。
図2】光キャビティ長の変化に対する光キャビティの偏光スイッチング周波数の変化を示すグラフである。
図3】光学近接センサシステムの一例を示す図である。
図4】光キャビティ長が変化する光学近接検出システムの一例を示す図である。
図5A】例示的な光学近接検出システムにおける光検出器からの強度出力プロットを示す図である。
図5B】例示的な光学近接検出システムにおける光検出器からの強度出力プロットを示す図である。
図6】光キャビティ長の関数としての光キャビティの偏光スイッチング周波数のプロットを示す図である。
図7】キャビティ長が変化する別の光学近接検出システムの一例を示す図である。
図8】光キャビティ長が変化するさらに別の例示的な光学近接検出システムを示す図である。
図9】対象物までの距離を測定する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本開示の様々なシステム、方法、および他の例を図示している。図中に示されている構成要素の境界(例えば、ボックス、ボックスのグループ、またはその他の図形)は、境界の一例を表している。いくつかの例では、1つの構成要素が複数の構成要素として設計され得るか、または複数の構成要素が1つの構成要素として設計され得る。いくつかの例では、別の構成要素の内部構成要素として示されている構成要素は、外部構成要素として実施され得、その逆もあり得る。
【0010】
本開示は、図面を参照して説明され、同様の参照番号は、全体を通して同様の構成要素を参照するために使用される。以下の説明では、説明の目的で、主題の開示を完全に理解するために、多くの具体的な詳細な説明が記載されている。しかしながら、主題の開示は、これらの具体的な詳細な説明がなくても、実施できることは明らかかである。他の例では、周知の構造およびデバイスが、主題の開示を説明しやすくするために、ブロック図の形で示されている。
【0011】
特定の特性(例えば、厚さ、方向、構成など)が本明細書に記載されているが、本開示の特徴、機能、および利点は、本明細書に記載されているものとは異なる特性を使用できることを理解されたい。これらの代替案は、本明細書に添付される開示および特許請求の範囲内に含まれるべきである。
【0012】
本明細書では、2つの物体を互いに位置決めまたは結合する目的で、対象物への近接位置または距離を決定するための例示的な光学近接センサシステムが開示されている。光学近接センサシステムは、第1の直線偏光(即ち、平行偏光または垂直偏光)で光ビームを生成するように構成される垂直キャビティ面発光レーザー(VCSEL:vertical-cavity surface-emitting laser)として構成することができるレーザーを含む。また、光学近接センサシステムは、対象物および少なくとも1つの光検出器によって形成される光キャビティを含む。対象物は、距離に応じた近接度が測定される物体に対応することができる。従って、対象物は、従来の光キャビティ内のミラーと同様に動作して、レーザーからの光が対象物から光キャビティ内のレーザーに向かって反射されることになる。
【0013】
光検出器(複数可)は、対象物から反射して戻ってきた光をキャプチャするために様々な方法で配置することができる。例えば、光検出器(複数可)は、レーザーに関連する利得領域を実質的に取り囲むとともに、実質的に平面に配置することができ、かつ/または複数の偏光ビームスプリッタを介して光キャビティから引き出すことができる。(即ち、対象物からの)反射光ビームの少なくとも一部は、レーザーの利得領域において受信される。反射光ビームは、第1の直線偏光とは反対の第2の直線偏光(即ち、それぞれ垂直偏光または平行偏光)で受信することができる。例えば、光キャビティシステムは、レーザーと対象物との間に配置された四分の一波長板を含んでおり、四分の一波長板は、光ビームを第1の直線偏光から円偏光に変換し、反射光ビームを円形偏光から第2の直線偏光に変換するか、またはその逆に変換することができる。
【0014】
従って、反射光ビームは、レーザーの利得領域を刺激して、第1の直線偏光と第2の直線偏光とで光ビームを放射する間に周期的に発振させることができる。従って、光検出器(複数可)は、光ビームの第1の直線偏光と第2の直線偏光との間の遷移に基づいて周期的発振を検出するように構成することができる。光検出器(複数可)は、周期的発振に関連する周波数を有する近接信号を生成するように構成することができる。周期的発振の周波数は、光キャビティ長、従ってレーザーからの対象物の距離に基づいて変化する。システムは、ルックアップテーブルなどから、距離信号の周波数に基づいて対象物の距離を算出するように構成された近接プロセッサをさらに含むことができる。さらに、光学近接センサの信号対雑音比(SNR)を高め、従って、光学近接センサの範囲を拡大するために、光学近接センサは、レーザーからの光ビームをコリメートするためのコリメートレンズを含んでおり、それにより、光キャビティ内を伝搬するより多くの光エネルギーを確保するようにする。
【0015】
従って、光学近接センサシステムは、VCSELに固有の偏光スイッチング特性を利用して、対象物までの距離を決定する。具体的には、外部光キャビティの形成と、発振偏光(lasing polarization)に対して直交する偏光のVCSEL利得領域へのフィードバックとにより、発振偏光が切り替わり、ここで、キャビティ偏光スイッチング(PS:polarization switching)周波数(または光キャビティ出力周波数)Fcは、キャビティ長Lに依存する。フィードバックを周期的に注入することができれば、その周期で偏光をスイッチングすることができる。固定長を有する光キャビティの一端にVCSELを配置し、反対側の端にミラーを配置して外部光キャビティを形成した場合、キャビティPS周波数Fcは、以下の式1によって決定される。
【0016】
Fc=c/4*L (式1)
ここで、cは光速、Lは光キャビティ長である。
図1は、固定長Lを備えた光キャビティ102を有するシステム100の図である。システム100は、光キャビティ102の一端にあるVCSEL104と、光キャビティ102の反対側の端にある固定ミラー106とを含む。VCSEL104は、第1の直線偏光(即ち、平行偏光または垂直偏光)108で光ビームを生成するように構成される。式1から明らかなように、キャビティPS周波数Fcは、固定の安定したキャビティ長を有する光キャビティ102の光キャビティ長Lに反比例する。四分の一波長板110がVCSEL104と固定ミラー106との間の光キャビティ102内に配置される場合、第1の直線偏光(即ち、平行偏光または垂直偏光)108は、円偏光112に変化する。入射角はミラー106に垂直であるため、反射光は円偏光を維持する。反射ビームが四分の一波長板110を通過して戻ると、反射ビームは第2の直線偏光114に変換される。しかしながら、直線偏光の第2の状態は、第1の直線偏光108から90度(即ち、それぞれ、平行の垂直)回転している。従って、上記したように、四分の一波長板110は、光ビームを第1の直線偏光108から円偏光112に変換し、反射光ビームを円偏光112から第2の直線偏光114に変換する。
【0017】
反射ビームをVCSEL104の利得領域にフィードバックすると、偏光が直交モードに反転し、これにより、光信号が直線偏光状態をスイッチングするようになる。従って、VCSEL104は、光ビームを供給する際に、直線偏光(即ち、垂直偏光および平行偏光)の間で発振する。VCSEL104および固定ミラー106によって形成される光キャビティ102は共振型である。従って、偏光スイッチングは自己共鳴状態となり、光キャビティ102の1往復ごとに出力偏光が変化する。式1に基づくと、長さが1センチメートルの光キャビティ102に対するキャビティPS周波数Fcは、約7.49GHzとなる。
【0018】
しかしながら、図2のグラフ200を参照すると、光キャビティ長が時間とともに変化する場合、PS周波数Fcは、光キャビティの縮小または延伸に伴ってそれぞれ増加または減少する。従って、式1は、より適切に式2のように記述される。
【0019】
Fc(L)=c/4*L (式2)
その結果、キャビティPS周波数は光キャビティ長に依存するため、VCSELを含む光学式非接触センサを実施して、対象物までの距離を決定することができる。
【0020】
図3は、対象物までの距離を決定するように構成された例示的な光学近接センサシステム300を示す。光学近接センサシステム300は、例えば、宇宙船上で物体を互いに位置決めまたは結合するための用途で実施することができる。宇宙用途では、いずれの物体に損傷を与えることなく、2つ以上の物体をリモートで位置決めおよび/またはドッキングすることが重要である。地上用途で使用される近接/距離検出システムおよび方法は、宇宙環境では効果的でないか、または単に機能しないことになる。光学近接センサシステム300は、宇宙環境において効果的であり、かつ対象物までの距離を継続的に算出するように構成することができる。
【0021】
光学近接センサシステム300は、光学近接検出システム302、局部発振器304、および近接プロセッサ306を含む。光学近接検出システム302は、対象物までの距離を検出するように構成される。光学近接検出システム302は、少なくとも1つのレーザー308および光キャビティシステム310を含む。レーザー(複数可)308は、例えば、垂直刺激軸を含む利得領域を含むような垂直キャビティ面発光レーザー(複数可)(VCSEL)として構成することができる。レーザー(複数可)308は、本明細書に記載されるように、直線偏光を交互に繰り返す光ビームを生成するように構成される。例えば、レーザー(複数可)308は、レーザー(複数可)308の利得領域の第1の刺激軸に対して平行偏光(即ち、p偏光)であり得る第1の直線偏光と、反射光ビームをレーザー308に戻すことに基づいてレーザー(複数可)308の利得領域の第1の刺激軸に対して垂直偏光(即ち、s偏光)であり得る第2の直線偏光との間で交互に繰り返し得る。
【0022】
キャビティPS周波数Fcの測定値を得るために、レーザー308からの光のごく一部が、光キャビティからサンプリングされ、直線偏光子を通過し、光検出器でキャプチャされる必要がある。従って、図3の例では、光キャビティシステム310は、対象物312、四分の一波長板314、部分反射ミラー(例えば、ビームスプリッタ)316、直線偏光子318、および光検出器320を含む。対象物312は、レーザー308に対して運動している場合もあれば、運動していない場合もある。
【0023】
部分反射ミラー316は、光キャビティの長手方向軸に対して角度が付けられており、レーザー(複数可)308からの光の一部を偏向して、第1の直線偏光の光ビームの一部および第2の直線偏光の光ビーム(即ち、反射光ビーム)の一部が偏向されて、光キャビティの側面から出射するようにする。次に、偏向された各光ビームは、直線偏光子318を通過して光検出器320に到達する。直線偏光子318は、偏向された光ビームの偏光状態を分析および/または検証する分析器として機能する。
【0024】
光検出器320は、光ビームおよび対象物からの反射光ビームの強度を測定して、個々の少なくとも1つの近接信号PROXを生成するように構成される。一例として、近接信号(複数可)PROXは、パルス信号であり得、かつレーザー(複数可)308からの平行偏光と垂直偏光の放射間の周期的発振に対応する周波数を有することができる。従って、近接信号(複数可)PROXの周波数は、レーザー(複数可)308に対する対象物312の運動に応答して変化することができる。従って、近接信号(複数可)PROXは、レーザー(複数可)308に向かう方向またはレーザー(複数可)308から離れる方向への対象物312の運動を示すことができる。近接信号(複数可)PROXは、対象物までの距離を算出するように構成された近接プロセッサ306に提供される。例えば、近接プロセッサ306は、近接信号(複数可)の周波数を、局部発振器304からの所定の基準周波数F_REFと比較することができる。近接信号(複数可)と基準周波数F_REFとの間の周波数の差は、例えば、ルックアップテーブルから対象物までの距離を決定するために使用される。
【0025】
図4は、光キャビティ長が時間とともに変化する例示的な光学近接検出システム400を示す。光学近接検出システム400は、図3の例における光学近接検出システム302に対応することができる。従って、以下の図4の例における説明では、図3の例を参照する。
【0026】
光学近接検出システム400は、開口から光キャビティ406を通過して対象物408に向かって、デカルト座標系410によって示されるように、おおよそY軸の方向に放射光ビーム404を生成するように構成されるVCSEL402を含む。光キャビティ406は、VCSEL402と対象物408との間の距離によって規定される。放射光ビーム404は、第1の直線偏光(即ち、平行偏光または垂直偏光)を有するとともに、光キャビティ406の長手方向軸414に対して任意の角度で配置された第1の部分反射ミラー412と結合する。第1の部分反射ミラー412は、放射光ビーム404の一部(第1の偏向部分)416を、第1の直線偏光子418を介して第1の光検出器420に偏向させる。一例では、第1の部分反射ミラー412は、放射光ビーム404の一部を、光キャビティ406の長手方向軸414に対して任意の角度で偏向させて、第1の偏向部分416を光キャビティ406の側面を介して出射させることができる。図4の例では、放射光ビーム404の第1の偏向部分416は、光キャビティ406の長手方向軸414に実質的に垂直に偏向される。
【0027】
放射光ビーム404の非偏向部分422は、第1の部分反射ミラー412を通過し、かつ四分の一波長板424を通過する。四分の一波長板424は、放射光ビーム404に四分の一波長位相差(retardance)を与えて、放射光ビーム404を第1の直線偏光から円偏光417に変換するように構成される。放射光ビーム404は、対象物408で反射し、反射光ビーム426として四分の一波長板424を通過して戻る。四分の一波長板424は、反射光ビーム426を円偏光417から第2の直線偏光に変換する。四分の一波長板424によって与えられる追加の四分の一波長位相差に基づいて、反射光ビーム426の第2の直線偏光は、放射光ビーム404の第1の直線偏光に直交する。従って、放射光ビーム404が垂直偏光を有する場合、反射光ビーム426は平行偏光を有する。逆に、放射光ビーム404が平行偏光を有する場合、反射光ビーム426は垂直偏光を有する。
【0028】
反射光ビーム426は、光キャビティ406の長手方向軸414に対して任意の角度で配置された第2の部分反射ミラー428と結合する。第2の部分反射ミラー428は、反射光ビーム426の一部(第2の偏向部分)430を、光キャビティ406の長手方向軸414に実質的に垂直に偏向させて、第2の偏向部分430を光キャビティ406の反対側の側面から出射させる。第2の偏向部分430は、第2の直線偏光子432を通過して第2の光検出器434に到達する。反射光ビーム426の非偏向部分436は、第2の部分反射ミラーを通過してVCSEL402に戻る。
【0029】
第1および第2の光検出器420、434は、放射光ビーム404および反射光ビーム426の強度を監視するように構成される。前述したように、VCSEL402は、互いにほぼ直交する刺激軸を含む利得領域を有することができる。従って、反射光ビーム426がVCSEL402に提供されると、反射光ビーム426は、反射光ビーム426の偏光に対応する刺激軸、即ち、VCSEL402から放射光ビーム404対して直交する刺激軸を刺激し始める。直交刺激軸の刺激の結果として、VCSEL402は、放射光ビーム404の直線偏光を、反射光ビーム426によって刺激される刺激軸に対応するようにスイッチングする。従って、反射光ビーム426の直線偏光は、放射光ビーム404および反射光ビーム426の両方が四分の一波長板424を通過することに基づいて、放射光ビーム404に対して直交偏光に変化する。従って、VCSEL402は、放射光ビーム404を提供する際に、直線偏光(即ち、垂直偏光および平行偏光)の間で発振する。
【0030】
図5Aおよび図5Bを参照すると、第1および第2の光検出器420、434は、図4の例において放射光ビーム404および反射光ビーム426の強度に対応する近接信号PROXおよびPROXとして示される近接信号PROXを生成するように構成される。説明を簡単にするために、図5Aおよび図5Bは、固定光キャビティ長に対する、第1および第2の光検出器420、434それぞれからの強度出力プロット500A、500Bである。図4における例では、第1および第2の光検出器420、434からの強度出力は、互いに相補的である。これは、第1および第2の直線偏光子418、432が同じ入力角度に整列されており、放射光ビーム404の直線偏光が第1および第2の直線偏光の間で切り替わるときに、偏光のうちの一方のみが通過することができるためである。一方の直線偏光子の状態を他方に対して90°回転させるだけで、2つの光検出器420、434の最小値および最大値を整列させることが可能となる。
【0031】
第1の光検出器420に関する強度出力の約1から約0への変化(第2の光検出器434の場合はその逆)は、放射光ビーム404の直線偏光(即ち、平行直線偏光と垂直直線偏光との間)の変化を表す。従って、近接信号PROXおよびPROXは、この例では、約1から約0への強度の変化に基づいて、VCSEL402の第1の直線偏光と第2の直線偏光との間の周期的な遷移に対応する周波数を有することができる。従って、第1および第2の光検出器420、434のそれぞれの近接信号PROXおよびPROXの周波数は、対象物までの距離を表す。上記したように、近接プロセッサは、ルックアップテーブルなどから、近接信号PROXおよびPROXの周波数に基づいて対象物までの距離を算出するように構成することができる。
【0032】
しかしながら、図6を参照すると、光キャビティ長は固定されておらず、時間とともに変化する。前述したように、光キャビティ長が変化すると、光キャビティのPS周波数が変化する。図6は、光キャビティ長の関数としてのキャビティ出力周波数のプロット600を示す。図示のように、キャビティ出力周波数の極大値間の期間は、光キャビティ長が増加するにつれて長くなる。従って、周期、即ち光キャビティのPS周波数Fcは、対象物までの距離を表す。
【0033】
図7を参照すると、いくつかの用途では、VCSELに戻る光エネルギーは、第1の直線偏光から第2の直線偏光への直線偏光のスイッチングを誘導するのに十分であり得る。しかしながら、VCSEL402からの放射光ビーム404は、コリメートされていないビームであるため、VCSEL402から対象物に発散して、VCSEL402に戻る。結果として、VCSEL402に戻る光エネルギー量に損失がある。従って、他の用途では、VCSELに戻る光エネルギーは、第1の直線偏光から第2の直線偏光への直線偏光のスイッチングを誘導するには不十分な場合がある。一例では、コリメートレンズは、光ビームを狭めて、VCSELに戻る光エネルギーの損失を低減することができる。コリメートレンズは、光学近接センサの信号対雑音比(SNR)を高める光キャビティ内を伝搬する光エネルギーの量を増加させて、光学近接センサの範囲を拡大する。
【0034】
図8は、光学近接検出システム800の別の例を示す。光学近接検出システム800は、図3の例における光学近接検出システム302に対応することができるとともに、図4において示される光学近接検出システム400と同様ものである。従って、以下の図8の例の説明では、図3および図4の例を参照する。さらに、同様の特徴には同じ参照番号が含まれるため、以下では詳しく説明しない。
【0035】
図8に示される光学近接検出システム800は、コリメータ802をさらに含む。コリメータ802は、放射光ビーム404がコリメータ802を通過するように、VCSEL402の出力に沿って配置される。コリメータ802は、放射光ビーム404を整列させるため、ビームの空間断面積が狭くなる。従って、放射光ビーム404を狭めることにより、反射光ビーム426からのより多くの光エネルギーがVCSEL402に再入射することが可能となる。従って、コリメータ802は、十分な光エネルギーを有する放射光ビーム404の生成を可能にし、反射光ビーム426は、第1の直線偏光から第2の直線偏光への直線偏光のスイッチングを誘導するために、VCSEL402の利得領域に必要なフィードバックを提供する。
【0036】
上記した前述の構造的および機能的特徴を考慮して、本発明の様々な態様による方法は、図9を参照することにより、よりよく理解されるであろう。説明を簡単にするために、図9の方法は順次実行されるものとして示され説明されているが、本発明に従って、いくつかの態様は、本明細書に示し説明したものとは異なる順序で、および/または別の態様と同時に生じ得るので、本発明が例示された順序によって限定されないことを理解および認識されたい。さらに、本発明の一態様による方法を実施するために、図示されたすべての特徴が必要とされるわけではない。
【0037】
図9は、対象物までの距離を算出するための方法900の一例を示す。902において、レーザー(例えば、レーザー402)は、第1の直線偏光で放射光ビーム(例えば、放射光ビーム404)を生成する。904において、放射光ビームは、レーザーおよび対象物(例えば、対象物408)によって規定された光キャビティ(例えば、光キャビティ406)内に提供され、対象物は、放射光ビームを反射して、反射光ビーム(例えば、反射光ビーム426)を生成するように構成される。906において、周波数を有する少なくとも1つの近接信号(例えば、近接信号PROXおよびPROX)が、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部に基づき、放射光ビームおよび反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信するように構成された少なくとも1つの光検出器(例えば、光検出器420、434)により生成される。近接信号の周波数は、対象物までの距離を示すことができる。908において、対象物までの距離は、例えば、ルックアップテーブルから、基準周波数信号に対する近接信号の周波数の比較に基づいて、算出される。
【0038】
上記の説明は、開示のいくつかの例を構成する。もちろん、本開示を説明する目的のために構成要素または方法の考えられるあらゆる組み合わせを説明することは不可能であるが、当業者は本開示の多くのさらなる組み合わせおよび置換が可能であることを認識するであろう。従って、本開示は、添付の特許請求の範囲を含む本出願の範囲内に含まれるすべてのそのような代替形態、修正形態、および変形形態を包含することを意図している。
以下に、上記実施形態から把握できる技術思想を付記として記載する。
[付記1]
光学近接センサシステムであって、
基準信号を生成するように構成された局部発振器と、
光学近接検出システムであって、
反射光ビームに応答して第1の直線偏光と第2の直線偏光との間で周期的に遷移する直線偏光で放射光ビームを生成するように構成されたレーザーと、
光キャビティシステムであって、
前記レーザーと対象物との間の距離によって規定される光キャビティと、対象物は、前記放射光ビームを反射して、反射光ビームを生成するように構成されており、
前記レーザーと対象物との間に配置され、前記放射光ビームを第1の直線偏光から円偏光に変換し、前記反射光ビームを円偏光から第2の直線偏光に変換するように構成され、さらに前記放射光ビームを第2の直線偏光から円偏光に変換し、前記反射光ビームを円偏光から第1の直線偏光に変換するように構成された四分の一波長板と、
前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの一部を偏向させるように構成された少なくとも1つの部分反射ミラーと、
前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部を受信し、前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの1つ少なくとも1つの偏向された一部に基づいて対象物までの距離を示す近接信号を生成するように構成された少なくとも1つの光検出器とを含む前記光キャビティシステムと、を含む光学近接検出システムと、
基準信号と前記近接信号の比較に基づいて対象物までの距離を算出するように構成された近接プロセッサと、を備える光学近接センサシステム。
[付記2]
前記近接信号をパルス信号として生成するために、前記少なくとも1つの部分反射ミラーから前記少なくとも1つの光検出器への前記放射光ビームおよび前記反射光ビームのうちの少なくとも1つの偏向された一部の前記第1の直線偏光を通過させ、かつ前記第2の直線偏光を遮断するように構成された少なくとも1つの直線偏光子をさらに備える、付記1に記載の光学近接センサシステム。
[付記3]
前記少なくとも1つの部分反射ミラーが第1の部分反射ミラーを含み、前記少なくとも1つの光検出器が第1の光検出器を含み、前記少なくとも1つの直線偏光子が第1の直線偏光子を含み、システムはさらに、第2の部分反射ミラー、第2の光検出器、および第2の直線偏光子を備え、前記第1の部分反射ミラーは、前記放射光ビームの一部を第1の直線偏光子を通過して前記第1の光検出器に到達するように偏向させ、前記第2の部分反射ミラーは、前記反射光ビームを前記第2の直線偏光子を通過して前記第2の光検出器に到達するように偏向させる、付記2に記載の光学近接センサシステム。
[付記4]
前記第1の光検出器および前記第2の光検出器は、個々の第1および第2の近接信号を生成するように構成され、前記近接プロセッサは、前記第1および第2の近接信号に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される、付記3に記載の光学近接センサシステム。
[付記5]
前記近接信号は、前記反射光ビームの第1の直線偏光と第2の直線偏光との間の発振の周期的な遷移に対応し、前記近接プロセッサは、前記近接信号の周期的な遷移に基づいて対象物までの距離を算出するように構成される、付記1に記載の光学近接センサシステム。
[付記6]
前記レーザーは、垂直キャビティ面発光レーザー(VCSEL)として構成され、前記VCSELは、前記VCSELが前記反射光ビームを受信することに応答して、第1の直線偏光で前記放射光ビームを生成することと第2の直線偏光で前記放射光ビームを生成することとの間で発振するように構成される、付記1に記載の光学近接センサシステム。
[付記7]
前記放射光ビームを整列させて、前記放射光ビームの空間断面積を狭めて、前記反射光ビームからのより多くの光エネルギーが前記VCSELに再入射することを可能にするコリメートレンズをさらに備える、付記6に記載の光学近接センサシステム。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9