(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】結晶
(51)【国際特許分類】
C07D 241/20 20060101AFI20240509BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20240509BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240509BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240509BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240509BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240509BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240509BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240509BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240509BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20240509BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240509BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240509BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240509BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240509BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C07D241/20
A61K31/4965
A61P1/04
A61P3/10
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/12
A61P11/06
A61P11/08
A61P13/12
A61P17/00
A61P19/02
A61P25/00
A61P43/00 112
(21)【出願番号】P 2022154085
(22)【出願日】2022-09-27
(62)【分割の表示】P 2019545594の分割
【原出願日】2018-09-27
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017187296
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】冨士原 聡夫
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/088084(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/150865(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/180033(WO,A1)
【文献】特許第7160043(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/042828(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/060827(WO,A1)
【文献】仲井由宣 花野学編,新製剤学,第1版第2刷,株式会社南山堂,1984年04月25日,第102-104頁,第217-236頁
【文献】塩路雄作,固形製剤の製造技術,普及版第1刷,株式会社シーエムシー出版,2003年01月27日,第9-14頁
【文献】平山令明編著,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年07月25日,第37-84頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 241/20
A61K 31/4965
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られる粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)が6.4度、8.1度、9.5度、10.9度、13.2度、15.7度、17.0度、19.5度、20.3度、21.0度および22.8度に回折ピークを示す、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸のI型結晶。
【請求項2】
赤外吸収スペクトルにおいて、波数が2874cm
-1、1736cm
-1、1558cm
-1、1375cm
-1、1126cm
-1および696cm
-1に吸収ピークを示す、請求項1に記載の
I型結晶。
【請求項3】
示差走査熱量測定において、127℃である吸熱ピークを有する、請求項1に記載の
I型結晶。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶を有効成分として含有するPGI2受容体作動剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶を有効成分として含有する、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、または脊柱管狭窄症に伴う症状の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸(以下、「化合物B」という。)の新規な結晶に関する。
【化1】
【背景技術】
【0002】
医薬品は、様々な流通や保管等の条件下でも長期間に渡って品質が保持される必要がある。したがって、有効成分となる化合物には、物理化学的に高い安定性が要求される。このため、医薬品の有効成分は、高い安定性が期待できる結晶が採用されることが一般的である。
医薬品の有効成分の結晶をスクリーニングする過程においては、結晶を得るための最適条件を見出すことが困難なだけではなく、結晶が得られた場合であっても、しばしば結晶多形の存在が問題となることが多い。その問題は、結晶形によって物理化学的な安定性に差異があることに起因する。
また、医薬品の有効成分として採用する結晶形の選択を誤れば、保管時の外部環境によって、純度の低下、結晶形転移等が起こり、化合物を一定の品質に維持することが困難となるため、結晶形によっては、薬効の低下や副作用等の不測の事態を招くことになる。このため、医薬品の有効成分となる化合物の結晶の取得に成功した場合には、その結晶多形について厳密な物理化学的な安定性に関する評価検討が必要とされる。
【0003】
しかしながら、化合物の構造から、結晶多形の有無または安定な結晶形を予測することは不可能であり、さらには結晶を形成できない化合物が存在する場合もあり、化合物毎に結晶を形成させる条件を種々検討する必要がある。
【0004】
一方、化合物Bは優れたPGI2受容体作動作用を有し、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支筋拡張作用、脂質沈着抑制作用、白血球活性化抑制作用等、種々の薬効を示すことが知られている(例えば、特許文献1-6参照)が、結晶多形の存在はおろか、そもそも結晶の形成の可否すら知られていないのが現状であり、最適な結晶の取得が医薬品として開発する上での重要な課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2002/088084号
【文献】国際公開第2009/157396号
【文献】国際公開第2009/107736号
【文献】国際公開第2009/154246号
【文献】国際公開第2009/157397号
【文献】国際公開第2009/157398号
【文献】US2014/0221397
【文献】US2011/0178103
【文献】US2011/0015211
【文献】US2011/0118254
【文献】US2011/0105518
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hepatology,2007,Vol.45,No.1,p.159-169
【文献】PubMed:Nihon Yakurigaku Zasshi,2001,Feb,117(2),p.123-130,Abstract
【文献】International Angiology,29,Suppl.1 to No.2,p.49-54,2010
【文献】Japanese Journal of Clinical Immunology,Vol.16,No.5,p.409-414,1993
【文献】Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis,Vol.1,No.2,p.94-105,1990,Abstract
【文献】The Journal of Rheumatology,Vol.36,No.10,p.2244-2249,2009
【文献】The Japanese Journal of Pharmacology,Vol.43,No.1,p.81-90,1987
【文献】British Heart Journal,Vol.53,No.2,p.173-179,1985
【文献】The Lancet,1,4880,pt 1,p.569-572,1981
【文献】European Journal of Pharmacology,449,p.167-176,2002
【文献】The Journal of Clinical Investigation,117,p.464-72,2007
【文献】American Journal of Physiology Lung Cellular and Molecular Physiology,296:L648-L656,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、物理化学的安定性に優れる化合物Bの結晶を提供することおよび当該結晶を有効成分として含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
化合物Bの製造方法は、特許文献1の実施例42に開示されている。しかしながら、特許文献1の実施例42において、如何なる形態の化合物Bが得られたかについては明示されていない。
そこで、本発明者は、特許文献1の実施例42に開示された方法と同様の手順により化合物Bの製造を試みたところ、その形態は結晶(以下、「III型結晶」という。)であることが判明した(後述する参考例1を参照。)。当該III型結晶の粉末X線回折の測定、IR測定およびDSC測定の結果を、それぞれ
図1、
図2および
図3に示す。
しかしながら、後述する試験例1に示すように、III型結晶は熱力学的に不安定であることが判明したため、本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、熱力学的により安定なI型結晶およびII型結晶が存在することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明としては、例えば、下記(1)~(7)を挙げることができる。
(1)Cu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られる粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)が6.4度、8.1度、9.5度、10.9度、13.2度、15.7度、17.0度、19.5度、20.3度、21.0度および22.8度に回折ピークを示す、化合物BのI型結晶(以下、「本発明I型結晶」という。)、
(2)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が2874cm-1、1736cm-1、1558cm-1、1375cm-1、1126cm-1および696cm-1に吸収ピークを示す本発明I型結晶、
(3)示差走査熱量測定において、127℃である吸熱ピークを有する本発明I型結晶、
(4)Cu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られる粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)が9.6度、11.4度、11.7度、16.3度、17.5度、18.5度、18.7度、19.9度、20.1度、21.0度および24.6度に回折ピークを示す、化合物BのII型結晶(以下、「本発明II型結晶」という。)、
(5)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が2867cm-1、1749cm-1、1568cm-1、1382cm-1、1131cm-1および701cm-1に吸収ピークを示す本発明II型結晶、
(6)示差走査熱量測定において、147℃である吸熱ピークを有する本発明II型結晶、
(7)(1)~(6)のいずれか1つに記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物(以下、「本発明医薬組成物」という。)。
【0010】
本発明の実施例および特許請求の範囲における回折ピークの回折角2θを特定するときには、得られた値が当該値±0.2度の範囲内として、好ましくは当該値±0.1度の範囲内として理解すべきである。
また、本発明の実施例および特許請求の範囲における赤外吸収スペクトル(以下、「IRスペクトル」という。)の吸収ピークを特定するときには、得られた値が、当該値±2cm-1の範囲内として、好ましくは当該値±1cm-1の範囲内として理解すべきである。
また、本発明の実施例および特許請求の範囲における示差走査熱量測定(以下、「DSC」という。)の吸熱ピークを特定するときには、得られた値が、当該値±3℃の範囲内として、好ましくは当該値±2℃の範囲内として理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】III型結晶の粉末X線回折スペクトルのチャートを示す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を表す。
【
図2】III型結晶のIRスペクトルのチャートを示す。縦軸は透過率(%)を、横軸は波数(cm
-1)を表す。
【
図3】III型結晶を1分間に10℃ずつ温度を上昇させた場合のDSC測定のチャートを示す。図の縦軸は発熱量(mW)を示し(マイナスの場合は吸熱量)、横軸は温度(℃)を示す。
【
図4】本発明I型結晶の粉末X線回折スペクトルのチャートを示す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を表す。
【
図5】本発明II型結晶の粉末X線回折スペクトルのチャートを示す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を表す。
【
図6】本発明I型結晶のIRスペクトルのチャートを示す。縦軸は透過率(%)を、横軸は波数(cm
-1)を表す。
【
図7】本発明II型結晶のIRスペクトルのチャートを示す。縦軸は透過率(%)を、横軸は波数(cm
-1)を表す。
【
図8】本発明I型結晶を1分間に10℃ずつ温度を上昇させた場合のDSC測定のチャートを示す。縦軸は一秒あたり発熱量(mW)を示し(マイナスの場合は吸熱量)、横軸は温度(℃)を示す。
【
図9】本発明II型結晶を1分間に10℃ずつ温度を上昇させた場合のDSC測定のチャートを示す。図の縦軸は発熱量(mW)を示し(マイナスの場合は吸熱量)、横軸は温度(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.本発明I型結晶
本発明I型結晶は、Cu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られる粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)が6.4度、8.1度、9.5度、10.9度、13.2度、15.7度、17.0度、19.5度、20.3度、21.0度および22.8度に回折ピークを示すことを特徴とする。また、好ましくは、上記回折ピークに加え、15.8度、17.2度、21.9度、23.7度、24.5度、25.5度、25.8度、28.9度および32.0度に回折ピークを示すことを特徴とする。
また、本発明I型結晶は、IRスペクトル(KBr法)において、波数が2874cm-1、1736cm-1、1558cm-1,、1375cm-1、1126cm-1および696cm-1に吸収ピークを示すことを特徴とする。
また、本発明I型結晶は、示差走査熱量測定において、127℃である吸熱ピークを有することを特徴とする。
本発明I型結晶は、例えば、後述する実施例1に記載の方法により得ることができる。
【0013】
B.本発明II型結晶
本発明II型結晶は、Cu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られる粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)が9.6度、11.4度、11.7度、16.3度、17.5度、18.5度、18.7度、19.9度、20.1度、21.0度および24.6度に回折ピークを示すことを特徴とする。また、好ましくは、上記回折ピークに加え、19.4度、20.6度、21.1度、21.7度、22.7度、26.6度、26.7度、28.8度および30.8度に回折ピークを示すことを特徴とする。
また、本発明II型結晶は、IRスペクトル(KBr法)において、波数が2867cm-1、1749cm-1、1568cm-1、1382cm-1、1131cm-1および701cm-1に吸収ピークを示すことを特徴とする。
また、本発明II型結晶は、示差走査熱量測定において、147℃である吸熱ピークを有することを特徴とする。
本発明II型結晶は、例えば、後述する実施例2に記載の方法により得ることができる。
【0014】
C.医薬用途・本発明医薬組成物
本発明に係る化合物Bは、優れたPGI2受容体作動作用を有し、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支筋拡張作用、脂質沈着抑制作用、白血球活性化抑制作用等、種々の薬効を示す(例えば、特許文献1参照)。
【0015】
従って、本発明I型結晶、本発明II型結晶(以下、まとめて「本発明結晶」という。)または本発明医薬組成物は、一過性脳虚血発作(TIA)、糖尿病性神経障害(例えば、非特許文献1を参照)、糖尿病性壊疽(例えば、非特許文献1を参照)、末梢循環障害[例えば、慢性動脈閉塞症(例えば、非特許文献2を参照)、間欠性跛行(例えば、非特許文献3を参照)、末梢動脈塞栓症、振動病、レイノー病](例えば、非特許文献4、非特許文献5を参照)、膠原病[例えば、全身性エリテマトーデス、強皮症(例えば、特許文献7、非特許文献6を参照)、混合性結合組織病、血管炎症候群]、経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞・再狭搾、動脈硬化症、血栓症(例えば、急性期脳血栓症、肺塞栓症)(例えば、非特許文献5、非特許文献7を参照)、高血圧、肺高血圧症、虚血性疾患[例えば、脳梗塞、心筋梗塞(例えば、非特許文献8を参照)]、狭心症(例えば、安定狭心症、不安定狭心症)(例えば、非特許文献9を参照)、糸球体腎炎(例えば、非特許文献10を参照)、糖尿病性腎症(例えば、非特許文献1を参照)、慢性腎不全(例えば、特許文献8を参照)、アレルギー、気管支喘息(例えば、非特許文献11を参照)、潰瘍、蓐瘡(床ずれ)、アテレクトミーおよびステント留置などの冠動脈インターベンション後の再狭窄、透析による血小板減少、臓器または組織の線維化が関与する疾患[例えば、腎臓疾患{例えば、尿細管間質性腎炎(例えば、特許文献9を参照)}、呼吸器疾患{例えば、間質性肺炎(例えば、肺線維症)(例えば、特許文献9を参照)、慢性閉塞性肺疾患(例えば、非特許文献12を参照)}、消化器疾患(例えば、肝硬変、ウイルス性肝炎、慢性膵炎、スキルス胃癌)、心血管疾患(例えば、心筋線維症)、骨・関節疾患(例えば、骨髄線維症、関節リウマチ)、皮膚疾患(例えば、手術後の瘢痕、熱傷性瘢痕、ケロイド、肥厚性瘢痕)、産科疾患(例えば、子宮筋腫)、泌尿器疾患(例えば、前立腺肥大症)、その他の疾患(例えば、アルツハイマー病、硬化症腹膜炎、I型糖尿病、手術後臓器癒着)]、勃起不全(例えば、糖尿病性勃起不全、心因性勃起不全、精神病性勃起不全、慢性腎不全による勃起不全、前立腺摘出のための骨盤内手術後の勃起不全、加齢や動脈硬化に伴う血管性勃起不全)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、虚血性大腸炎、ベーチェット病に伴う腸潰瘍)(例えば、特許文献10を参照)、胃炎、胃潰瘍、虚血性眼疾患(例えば、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症)、突発性難聴、無血管性骨壊死、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)(例えば、ジクロフェナック、メロキシカム、オキサプロジン、ナブメトン、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ)投与に伴う腸管傷害(例えば、十二指腸、小腸、大腸で発症する傷害であれば特に制限されないが、例えば、十二指腸、小腸、大腸に生じるびらん等の粘膜傷害や潰瘍)、脊柱管狭窄症(例えば、頚部脊柱管狭窄症、胸部脊柱管狭窄症、腰部脊柱管狭窄症、広範脊柱管狭窄症、仙骨狭窄症)に伴う症状(例えば、麻痺、知覚鈍麻、疼痛、しびれ、歩行能力の低下)(特許文献11を参照)の予防剤または治療剤として有用である。
また、本発明結晶または本発明医薬組成物は、遺伝子治療または自己骨髄細胞移植などの血管新生療法の促進剤、末梢血管再建術または血管新生療法における血管形成促進剤としても有用である。
【0016】
本発明結晶は、医薬として投与する場合、そのまま、または医薬的に許容される無毒性かつ不活性の担体中に、例えば、0.1%~99.5%の範囲内で、好ましくは0.5%~90%の範囲内で含有する。
上記担体としては、固形、半固形または液状の希釈剤、充填剤、その他の処方用の助剤を挙げることができる。これらを一種または二種以上用いることができる。
【0017】
本発明医薬組成物は、固形または液状の用量単位で、末剤、カプセル剤、錠剤、糖衣錠、顆粒剤、散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤等の経口投与製剤、注射剤、坐剤等の非経口製剤のいずれの形態をもとることができる。徐放性製剤であってもよい。それらの中で、特に錠剤等の経口投与製剤が好ましい。
末剤は、本発明結晶を適当な細かさにすることにより製造することができる。
散剤は、本発明結晶を適当な細かさにし、次いで同様に細かくした医薬用担体、例えば、澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物と混合することにより製造することができる。任意に風味料、保存剤、分散剤、着色剤、香料等を添加することができる。
カプセル剤は、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤あるいは錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えば、ゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造することができる。また、滑沢剤や流動化剤、例えば、コロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールを粉末状となった末剤や散剤と混合し、その後、充填操作を行うことにより製造することができる。崩壊剤や可溶化剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。
また、本発明結晶の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることもできる。
錠剤は、粉末化された本発明結晶に賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化またはスラグ化し、次いで崩壊剤または滑沢剤を加えた後、打錠することにより製造することができる。
粉末混合物は、適当に粉末化された本発明結晶を希釈剤や基剤と混合することにより製造することができる。必要に応じて、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィン)、再吸収剤(例えば、四級塩)、吸着剤(例えば、ベントナイト、カオリン)等を添加することができる。
顆粒は、まず粉末混合物を、結合剤、例えば、シロップ、澱粉糊、アラビカゴム、セルロース溶液または高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕することにより製造することができる。このように粉末を顆粒化する代わりに、まず打錠機にかけた後、得られる不完全な形態のスラグを粉砕して顆粒にすることも可能である。このようにして作られる顆粒に、潤沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイル等を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。
また、錠剤は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、本発明結晶を流動性の不活性担体と混合した後に直接打錠することによっても製造することができる。
こうして製造された錠剤にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。シュラックの密閉被膜からなる透明または半透明の保護被膜、糖や高分子材料の被膜およびワックスよりなる磨上被膜も用いることができる。
他の経口投与製剤、例えば、液剤、シロップ剤、トローチ剤、エリキシル剤もまたその一定量が本発明結晶の一定量を含有するような用量単位形態にすることができる。
シロップ剤は、本発明結晶を適当な香味水溶液に溶解して製造することができる。エリキシル剤は、非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造することができる。
懸濁剤は、本発明結晶を非毒性担体中に分散させることより製造することができる。必要に応じて、可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味付与剤(例えば、ペパーミント油、サッカリン)等を添加することができる。
必要であれば、経口投与のための用量単位処方をマイクロカプセル化することができる。当該処方はまた、被膜をしたり、高分子、ワックス等中に埋め込んだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
非経口投与製剤は、皮下、筋肉または静脈内注射とした液状用量単位形態、例えば、溶液や懸濁液の形態をとることができる。当該非経口投与製剤は、本発明結晶の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば、水性や油性の媒体に懸濁しまたは溶解し、次いで当該懸濁液または溶液を滅菌することにより製造することができる。また、安定剤、保存剤、乳化剤等を添加することもできる。
坐剤は、本発明結晶を低融点の水に可溶または不溶の固体、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂[例えば、ウイテプゾール(登録商標)]、高級エステル類(例えば、パルミチン酸ミリスチルエステル)またはそれらの混合物に溶解または懸濁させて製造することができる。
【0018】
投与量は、体重、年齢等の患者の状態、投与経路、病気の性質と程度等によって異なるが、一般的には、成人に対して、本発明結晶の量として、1日あたり、0.001mg~100mgの範囲内が適当であり、0.01mg~10mgの範囲内が好ましい。
場合によっては、これ以下で足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とすることもある。また、1日1回から数回の投与または1日から数日間の間隔で投与することができる。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例、試験例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0020】
粉末X線回折スペクトルは、SmartLab((株)リガク製)(光学系:集中法、電圧:45kV、電流:200mA、波長:Cu Kα、ソーラースリット:5.0度、走査範囲:4~40度、走査速度:47.3度/分、試料回転:60度/分)により測定した。
IRスペクトルは、IR Affinity-1((株)島津製作所製)(測定モード:%Transmittance、積算回数:16回、分解:2.0、波数範囲:400~4000cm-1)により測定した。
DSCは、DSC-50((株)島津製作所製)(セル:アルミナ(オープン)、ガス:窒素(20.0mL/分)、加熱速度:10.0℃/分、ホールド温度:250℃、ホールド時間:0分)により測定した。
【0021】
参考例1 III型結晶の製造
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸tert-ブチル(例えば、特許文献1を参照)(13.15g)をメタノール(179.7mL)に溶解した後、1N水酸化ナトリウム水溶液(41.47mL)を加えた。当該混合物を1時間加熱還流した後、溶媒を減圧下留去し、残留物に水を加え溶解させた。ジエチルエーテルで洗浄した後、得られた水層を1N塩酸(44mL)で中和し、酢酸エチルで抽出した。得られた酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した後、残留物にジイソプロピルエーテルを加え結晶化させ、当該結晶をろ過し、適量のジイソプロピルエーテルで洗浄した。40℃にて減圧下乾燥し、III型結晶(9.88g)を得た。
III型結晶の粉末X線回折の測定、IR測定およびDSC測定の結果を、それぞれ
図1、
図2および3に示す。
回折角2θ: 8.4度、12.6度、13.4度、14.3度、14.6度、15.9度、16.9度、18.0度、18.8度、19.4度、20.3度、20.6度、21.6度、21.7度、22.3度、22.5度、23.3度、23.7度、23.9度、27.0度、29.6度および30.8度
IR吸収ピーク: 2867cm
-1、1747cm
-1、1558cm
-1、1380cm
-1、1131cm
-1および701cm
-1
DSC吸熱ピーク: 118℃
【0022】
参考例2 化合物Bの製造
2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(例えば、特許文献1を参照。)(300g)のイソプロピルアルコール(1425mL)懸濁液に、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム(120.8g)を水(570mL)に溶解したもの)を加えた。100℃にて11時間撹拌した後、10℃以下まで冷却した。濃塩酸を滴下した後、10℃以下にて1時間撹拌した後、生じた析出物をろ過し、適量の50%イソプロピルアルコール水溶液、水およびアセトニトリルで析出物を洗浄した。当該析出物を65℃にて減圧下乾燥し、目的化合物(208.3g)を得た。
【0023】
実施例1 本発明I型結晶の製造
参考例2で製造した化合物B(63g)をアセトニトリル(315mL)に90℃にて溶解し、同温にて30分撹拌した。溶液をろ過し、アセトニトリル5mLで洗い込み、再度加温撹拌した。刺激として参考例2で製造した少量の化合物Bを加えた後、徐々に冷却し、10℃以下にて1時間撹拌した後、結晶をろ過し、適量のアセトニトリルで洗浄した。65℃にて減圧下乾燥し、本発明I型結晶59.5gを得た。
本発明I型結晶の粉末X線回折の測定、IR測定およびDSC測定の結果を、それぞれ
図4、
図6および
図8に示す。
回折角2θ: 6.4度、8.1度、9.5度、10.9度、13.2度、15.7度、15.8度、17.0度、17.2度、19.5度、20.3度、21.0度、21.9度、22.8度、23.7度、24.5度、25.5度、25.8度、28.9度および32.0度 IR吸収ピーク: 2874cm
-1、1736cm
-1、1558cm
-1、1375cm
-1、1126cm
-1および696cm
-1
DSC吸熱ピーク: 127℃
【0024】
実施例2 本発明II型結晶の製造
参考例2で製造した化合物B(0.5g)をイソプロピルアルコール(2.5mL)および8%水酸化ナトリウム水溶液(1.5mL)に80℃にて溶解し、同温にて30分撹拌した。徐々に室温冷却し、室温にて4N塩酸水溶液でpH5~6に調整した後、10℃以下にて1時間撹拌した後、結晶をろ過し、適量の水で洗浄した。65℃にて減圧下乾燥し、本発明II型結晶(0.45g)を得た。
本発明II型結晶の粉末X線回折の測定、IR測定およびDSC測定の結果を、それぞれ
図5、
図7および
図9に示す。
回折角2θ: 9.6度、11.4度、11.7度、16.3度、17.5度、18.5度、18.7度、19.4度、19.9度、20.1度、20.6度、21.0度、21.1度、21.7度、22.7度、24.6度、26.6度、26.7度、28.8度および30.8度
IR吸収ピーク: 2867cm
-1、1749cm
-1、1568cm
-1、1382cm
-1、1131cm
-1および701cm
-1
DSC吸熱ピーク: 147℃
【0025】
試験例1 安定性試験
化合物Bの各種結晶形をそれぞれガラス瓶に入れ、密栓して90℃に保存した。1日、5日および14日後に試料を取出し、1mg/mLの濃度でメタノールに溶解してHPLCにて類縁物質測定を行うとともに、14日後の結晶については結晶形を確認した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
上記結果から、いずれの結晶形においても、化学的安定性は非常に高いが、I型およびIII型については徐々に熱力学的に安定なII型に転移することが明らかとなった。
【0027】
試験例2 本発明I型結晶の各種溶媒中での溶媒懸濁試験
本発明I型結晶を各種溶媒と混合し、室温で30分撹拌した。形成した結晶をろ取し、結晶形を確認した。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
上記のように、本発明I型結晶は、全ての溶媒懸濁下において、その一部が本発明II型結晶に転移した。この結果から、本発明II型結晶は、室温における各種溶媒懸濁下において熱力学的に安定であることが明らかとなった。