(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】低酸素環境を提供する手当て部材
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20240101AFI20240509BHJP
【FI】
A61F13/02 360
A61F13/02 310M
A61F13/02 310D
(21)【出願番号】P 2022503438
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020043950
(87)【国際公開番号】W WO2021021851
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-10
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522021701
【氏名又は名称】アドヴァンスト ドレッシング、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【氏名又は名称】木下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】ラッシュ、トーマス、イー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴォイチェホフスキ、ティモシィ
(72)【発明者】
【氏名】ブアン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ミッドオー、リチャード、エル.
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング、エドワード、ビー.
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535805(JP,A)
【文献】米国特許第10046095(US,B1)
【文献】特開2013-090956(JP,A)
【文献】米国特許第05288289(US,A)
【文献】特表2004-527421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/02
A61F 13/0246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
適用部位カバーと、
該適用部位カバーの下及び前記適用部位カバーによって覆われた適用部位の周りの空間から酸素を除去するように前記適用部位カバーに設けられた又は前記適用部位カバーに対して配置された脱酸素剤を含み、
前記適用部位カバー及び前記脱酸素剤が、該脱酸素剤が前記適用部位カバーの下の酸素を消費している間、前記適用部位の周りの前記適用部位カバーの下のガス圧を、治療用の陰圧を超えたガス圧に維持するように構成さ
れ、
ウィッキング材料をさらに具え、前記適用部位カバーを押す大気圧が、該適用部位カバーの下の内気圧及び前記ウィッキング材料の機械的な圧縮抵抗圧を超えると、前記ウィッキング材料が収縮するように構成され、前記ウィッキング材料が空隙を具え、前記ウィッキング材料に対する40mmHgの外部圧力によって、前記ウィッキング材料の空気の体積が少なくとも16%圧縮される、
手当て部材。
【請求項2】
前記適用部位カバーがフィルムから作られたドレープであり、該ドレープの皮膚に面する表面に設けられた接着剤をさらに含む、請求項1の手当て部材。
【請求項3】
前記脱酸素剤が前記接着剤を介して前記ドレープに取付けられている、請求項2の手当て部材。
【請求項4】
前記ドレープの前記皮膚に面する表面に設けられたガスケットをさらに含む、請求項2の手当て部材。
【請求項5】
前記ガスケットがシリコーンを含み、前記手当て部材が、前記シリコーンが設けられたガスケットバッキングフィルムをさらに含み、該ガスケットバッキングフィルムが、接着剤を介して前記ドレープに取付けられている、請求項4の手当て部材。
【請求項6】
前記脱酸素剤が、前記適用部位カバーを作るために用いられているフィルム形成ポリマー、又は前記適用部位カバーに付けられている脱酸素剤フィルムに組込まれている、請求項1の手当て部材。
【請求項7】
前記適用部位カバーが多孔質、すなわち、孔のあいた領域を含むフィルムから作られたドレープであり、前記脱酸素剤が前記多孔質、すなわち、孔のあいた領域内の前記ドレープの外面に取付けられている、請求項1の手当て部材。
【請求項8】
前記ドレープの皮膚と面する表面の下に設けられたガスケットをさらに具え、前記ドレープの前記多孔質、すなわち、孔のあいた領域が前記ドレープの下の前記ガスケットによって枠組みされた領域内に閉じ込められている、請求項7の手当て部材。
【請求項9】
前記脱酸素剤が、前記ドレープに当てられ接着されたときに該ドレープの前記多孔
質、すなわち、孔のあいた領域を覆う上部組立体の構成要素の1つである、請求項8の手当て部材。
【請求項10】
前記脱酸素剤が、前記ドレープに当てられ接着される前に、密封された包装内の酸素を枯渇させるように、該密封された包装内において活性状態で包装されている、請求項9の手当て部材。
【請求項11】
前記ウィッキング材料が、該ウィッキング材料全体の体積の少なくとも約60%を占める空隙を具える、請求項
1の手当て部材。
【請求項12】
前記ウィッキング材料が、該ウィッキング材料全体の体積の少なくとも約80%を占める空隙を具える、請求項
1の手当て部材。
【請求項13】
前記適用部位カバーがシリコーンである、請求項1の手当て部材。
【請求項14】
前記シリコーンが空洞を具え、前記脱酸素剤が前記空洞内に配置される、請求項1
3の手当て部材。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかの手当て部材と、
密封パッケージを含み、
前記密封パッケージの中に前記手当て部材が密封されており、前記手当て部材が前記密封パッケージから取出されるまで、前記密封パッケージが周囲の酸素が前記脱酸素剤と反応するのを防ぐ、
包装品。
【請求項16】
前記脱酸素剤が還元剤基板上に設けられた還元剤、及び破断可能なパッケージの中に設けられた電解質溶液を含む、請求項1の手当て部材。
【請求項17】
前記脱酸素剤が基板上に設けられた還元剤乾式電解質、及び破断可能なパッケージの中に設けられた水溶媒を含む、請求項1の手当て部材。
【請求項18】
前記適用部位カバーがフィルムから作られたドレープであり、該ドレープの皮膚と面する表面の下に前記破断可能なパッケージを破断する突起をさらに具える、請求項1
6又は1
7の手当て部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
陰圧創傷治療(negative pressure wound therapy)に使用するための脱酸素剤(oxygen scavengers)が知られている。例えば、米国公開番号2005/0070835には、酸素吸収剤/除去剤が空洞内に配置された気体又は液体不透過性覆い(housing)を含む部分陰圧を作り出す装置及び方法が開示されている。国際公開番号2017/075381にも、酸素を除去することができる反応器を含む創傷治療装置が開示されている。
【背景技術】
【0002】
米国公開番号2005/0070835では、剛性又は半剛性材料で構成されることが好ましい覆いを、装置がどのように具えるかが論じられている。米国公開番号2005/0070835は、鉄金属の酸化によって酸素を吸収するものなど、異なるタイプの酸素吸収剤に言及している。米国公開番号2005/0070835には、さらに、酸化銀、過酸化金属、銀金属、及び抗菌性有機化合物についても言及している。創傷を覆うための気体又は液体不透過性覆いによって形成された空洞にこれらのタイプの酸素吸収剤を配置すると、脱酸素剤中の反応剤が、空洞内で除去される酸素の量を制限するように特に設計されていない限り、空洞内が無酸素(又はほぼ検出できない量の酸素)になるが、米国公開番号2005/0070835では、これについて特に議論していない。
【0003】
国際公開番号2017/075381には、反応器が酸素をどのように消費して、その結果、創傷の周囲の密閉空間において、大気圧からおよそ20%減少させることができることが論じられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に利用可能な陰圧創傷治療(NPWT)システムに現在使用されている陰圧の範囲は、大気圧の約-5%~約-20%、又は大気圧から約-40mmHg~約-150mmHgの範囲である。-5%(約-40mmHg)未満(less than -5%)の陰圧は、治療用陰圧の範囲外であると考えられ、創傷の周囲から酸素を除去することが望ましい場合があるが、典型的な治療用の陰圧範囲である必要性はない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記に鑑みて、本発明の手当て部材は、適用部位カバーと、適用部位カバーに設けられた又は適用部位カバーに対して配置された脱酸素剤を含み、適用部位カバーの下及び適用部位カバーによって覆われた適用部位の周りの空間から酸素を除去する。適用部位カバー及び脱酸素剤は、脱酸素剤が適用部位カバーの下の酸素を消費している間、適用部位周囲の適用部位カバーの下のガス圧を、治療用の陰圧を超えたガス圧(above a therapeutic negative pressure)に維持するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【0007】
図1には、ドレープ12の形態の適用部位カバー、ドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14、脱酸素剤18を含む手当て部材10が示されている。
図2には、2枚フィルムの形態の適用部位カバーが示されており、ここでは、脱酸素剤は、脱酸素剤フィルム24を作るために用いられているフィルム形成ポリマーに組込まれており、ドレープ12に付けられている。各実施例において、脱酸素剤18又は脱酸素剤フィルム24に組込まれた脱酸素剤は、気体の酸素(O
2)と反応し、脱酸素剤と接触しているあらゆる空気から酸素を除去するように設計されている。手当て部材10が皮膚に対して密封されると、適用部位カバーによって覆われた適用部位の周囲が局所的な低酸素又は非常に低い酸素環境となり、このことは特定の皮膚状態に対して有益であり得る。したがって、脱酸素剤は、適用部位カバーの下及び適用部位カバーによって覆われた適用部位の周囲の体積から酸素を除去するように、適用部位カバーに設けられ、又は適用部位カバーに対して配置されてもよい。以下により詳細に説明するように、適用部位カバー及び脱酸素剤は、適用部位の周囲の適用部位カバーの下のガス圧を、上述した治療用の陰圧を超えたガス圧に維持するように構成される。本発明の手当て部材は、典型的なNPWTシステムで使用されるものと比較して、手当て部材の下のガス圧が大気圧又は大気圧に近い圧力になるように構成される。
【0008】
図3及び
図4には、ガスケット26、ウィッキング材料28、及び剥離層32が示されており、これらも手当て部材10に設けられてよい。
図3にはまた、互いに貼合わされることができ、手当て部材10が組立てられたときに手当て部材10がその中で密封される、下部ホイル層34及び上部ホイル層36から構成され得る密封パッケージが示されている。密封パッケージは、手当て部材10が密封パッケージから取出されるまで、周囲の酸素が脱酸素剤と反応するのを防ぐ。
図4には、上述した脱酸素剤フィルム24から作られる適用部位カバーが示されている。
【0009】
ドレープ12は、可撓性材料から作ることができ、薄い可撓性のエラストマーフィルムから作られてもよい。剛性又は半剛性タイプの気体又は液体不透過性覆いとは異なり、ドレープ12(及び他の適用部位カバー)は、ウィッキング材料28及びそれが当てられる皮膚とのなじみが良い。そのような材料の例には、ポリウレタン又はポリエチレンフィルムが含まれる。ドレープ12が作られる薄膜は、液体に対しては実質的に不透過性であるが、水蒸気や他の気体に対しては幾分透過性であってもよい。例えば、ドレープ12が作られる薄膜材料は、TEGADERM(登録商標)ブランドで販売されているもの、すなわち、3M社から入手可能な9834 TPUテープなどのポリウレタンや他の半透過性材料で構成されてもよい。同様のフィルムは、他の製造業者からも入手可能である。
【0010】
図2には、ドレープ12に付けられた脱酸素剤フィルム24が示されている。脱酸素剤フィルム24は、米国特許第7,781,018号又はそこで論じられた特許文献の教示に従って作られ得る。所望であれば、脱酸素剤フィルム24は、
図4に示された、適用部位カバー自体として設けられてもよいし、米国特許第7,781,018号又はそこで議論された特許文献の教示に従って作られてもよい。いずれの例においても、ドレープとして作用する脱酸素剤フィルム24、すなわち、ドレープ12に付けられた脱酸素剤フィルム24、又は脱酸素剤フィルム24と組合わせられたドレープ12は、TEGADERM(登録商標)ブランドで販売されているフィルム、すなわち、3M社から入手可能な9834TPUテープと同等又はほぼ同等の可撓性を有するフィルムである。脱酸素剤フィルム24はまた、それが当てられるウィッキング材料28及び皮膚となじみが良い。ドレープ12の場合でも脱酸素剤フィルム24の場合でも、適用部位カバーのこのなじみの良さによって、酸素が適用部位カバーの下から除去されるときに、適用部位カバーが皮膚の方に引き寄せられ、これにより、適用部位カバーの下の体積減少が可能となる。
【0011】
図3を参照して、ガスケット26は、良好な水分及び気体バリア特性を有するポリシロキサンゲル接着剤、例えばポリマー サイエンス、インコーポレイテッド社(Polymer Science, Inc.)のP-DERM PS-1050などのシリコーン42を含んでもよい。内側貫通孔46を含み得るガスケット26は、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は共重合ポリエステルフィルムであり得るガスケットバッキングフィルム48上にシリコーン42を設けることよって形成される。ガスケットバッキングフィルム48は、ドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14と接触させて、ガスケット26をドレープ12に貼付けることができる。ガスケット26は、同様の方法で脱酸素剤フィルム24に貼付けられてもよい。ガスケット構造のバリエーションには、ガスケットとしてシリコーンの代わりにハイドロゲルを使用することが含まれてもよい。アクリル系接着剤よりも皮膚に対してより密封することができる他の材料が、ガスケットとして使用されてもよい。
【0012】
図1に示された実施形態で使用するための脱酸素剤18の一例が、亜鉛粉末(Zn)、炭素粉末(C)、臭化カリウム(KBr)、及びポリフルオロエチレン(PTFE)のような結合剤の多孔質複合体であって、これらは、リチャージャブル バッテリー カンパニー(dba Exothermix)の空気によって活性化される温熱器(Air Activated Heater)と同様に水(H
2O)の添加の有無は関係がない。別の変形例には、鉄微粉から作られた反応性材料、又はドレープ12によって覆われた適用部位に存在する酸素と反応し、活性化後に接触すると酸素を吸収することができる任意の他の材料を含む脱酸素剤がある。
【0013】
図5には、アルミニウム、亜鉛又は鉄を含み得る還元剤が、薄い基板(以下、還元剤基板60と言う。)上に、例えば、印刷されて設けられた脱酸素剤18が示されている。手当て部材10を包むための密封されたパッケージを要することなく、手当て部材10が皮膚上に配置される準備が整うまで、破断可能なパッケージ64内に設けられてよい電解質溶液62は、還元剤基板60、故に、還元剤から保護される。タッチ作動式マイクロニードルアレイパッチに使用される固体マイクロニードルと形状及びサイズが類似し得る小突起66は、ドレープ12の皮膚に面する表面16に固定されるか、又は(適用部位に対して)ドレープ12の皮膚に面する表面16の下に設けられてもよい。小突起66は、電解質溶液62が還元剤基板60上の還元剤に投入されるように、破断可能なパッケージ64を破断させるために使用されてもよい。小突起66の近傍でドレープ12を押圧して破断可能なパッケージ64を破断させる。破断可能なパッケージ64は、他の態様で破断されてもよい。
【0014】
図3及び
図4に戻って参照して、ウィッキング材料28は、皮膚から水分を除去する能力を有する任意の適当な材料であってよい。しかしながら、特定の実施態様では、ドレープ12を押す大気圧が、ドレープ12の下及びドレープ12によって覆われた適用部位の周囲の内気圧にウィッキング材料の機械的な圧縮抵抗圧を加えたものを超えると、ウィッキング材料28が収縮するように構成されてよい。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0015】
接着剤14は、ドレープ12の皮膚に面する表面16に塗布されたアクリル系感圧接着剤であってもよい。他のタイプの接着剤、例えば、米国特許第10,336,923号に記載されているような光応答性接着剤ポリマーがドレープ12に塗布されてもよい。アクリル系感圧接着剤は、皮膚と接触したときに、比較的長い時間、例えば数日間持続することができる強い初期接着性を有することが知られている。接着剤14は、ドレープ12の皮膚に面する表面16の全体にわたって塗布されてもよく、これは、組立て中に手当て部材10の他の構成要素を保持するためにも有用であり得る。しかしながら、既知のアクリル系感圧接着剤は、空気の出入りを防ぐ又は大幅に抑制するように良好な密封性を有することは知られておらず、したがって、接着剤14に加えてガスケット26が手当て部材10に設けられてもよい。
【0016】
剥離層32は、例えば患者の皮膚のような適用部位に当てる準備が整うまで、ガスケット26及び接着剤14を保護する。剥離層32は、ドレープ12上の接着剤14と接触する剥離層32の側、及びガスケット26及びウィッキング材料28の適切な表面が、フッ素樹脂製の剥離コーティングで覆われていてもよい。剥離層32は、片面がフッ素樹脂製の剥離コーティングで覆われたポリエステルフィルムであってもよく、シリコーンとともに使用されてもよい。この剥離コーティングは、アクリル系感圧接着剤とも相性が良い。剥離層32は、ドレープ12よりも大きな面積を有し、ドレープ12が適用部位に貼付けられる前にドレープ12から取除かれる。
【0017】
ドレープ12、脱酸素剤18、ガスケット26、ウィッキング材料28、及び剥離層32は、手当て部材10に異なる方法で組立てられてもよい。さらに、脱酸素剤18の配合には種々の方法があり、以下で配合され得る。(1)亜鉛、鉄、アルミニウムのような還元剤、及び還元剤と酸素の反応をサポートするのに必要な電解質溶液、(2)還元剤及び水溶媒を有しないため電解質溶液がない電解質塩、又は(3)電解質塩又は水溶媒の一方しかない還元剤。
【0018】
還元剤が電解質溶液に設けられた場合、脱酸素剤18は活性化状態にあるため、使用するまで空気との接触がないように保護する必要がある。使用時には、手当て部材10をその保護包装(
図3では下部ホイル層34及び上部ホイル層36として示される。)から取出し、適用部位に迅速に当てる。保護包装は、例えば、開封されるまで保護包装への空気の浸入を妨げるホイルタイプのような密封された金属化包装であってよい。手当て部材10が保護包装から取り出された後、脱酸素剤18は、直ちに空気から酸素を除去し始める。手当て部材10が適用部位に素早く当てられることで、脱酸素剤18が手当て部材10と皮膚の間に閉じ込められた空気から酸素を除去し、数分から数時間で無酸素又はほぼ無酸素の環境に達する。使い勝手は最もシンプルであるが、手当て部材10の包装を開封後、速やかに貼付することが必要である。ドレープ12及びガスケット26が、外部環境から脱酸素剤18への酸素の透過を遅らせる適切な障壁となるため、還元剤への酸素の主なアクセスは、皮膚に対して密封された手当て部材10内に閉じ込められた空気からウィッキング材料28を経由して行われる。これにより、ガスケット26によって囲まれた領域内の皮膚に、所望の無酸素又はほぼ無酸素の環境が作り出される。
【0019】
脱酸素剤18が電解質塩(KBrなど)を含み、水溶媒を含まない場合、水を加えるまで活性状態にならない。脱酸素剤18、ひいては手当て部材10は、水蒸気から保護される必要があるが、酸素の除去は重要ではない。電解質塩が潮解性であることが予想されるので、水の添加は、水滴、皮膚の汗との接触、又は皮膚からの水蒸気に起因する閉じ込められた空気の湿気からの水蒸気の結露であってもよい。使用には、ほとんどの環境で簡単に手に入る水の添加が必要である。手当て部材のパッケージを開けてから手当て部材10を対象の皮膚に当てるまでのタイミングは、脱酸素剤18がパッケージのまま活性になる場合よりも重要ではない。水溶媒は、
図5に示された破断可能なパッケージ64と同様の可能なパッケージに設けられてもよい。
【0020】
脱酸素剤18が電解質塩や水溶媒を含まない場合、脱酸素剤18を空気中の酸素と反応させるために、使用時に電解質溶液を添加する必要がある。手当て部材10の使用期間が十分に短ければ、食卓塩の溶液でも、亜鉛の活性成分の腐食を急速に進行させることなく、脱酸素剤18を活性化させ得る。この場合、脱酸素剤18、ひいては手当て部材10を空気や湿気に晒すことから完全に保護する必要はない。
【0021】
空気の密閉空間から酸素を除去すると、その圧力が低下する。剛性容器では、酸素を除去すると、圧力が20%低下する(ある程度の湿度を想定している。)。しかしながら、快適な手当て部材材料は剛性ではなく、典型的なウィッキング材料は圧縮性であるので、内部の空気圧が外部の空気圧より低いと、閉じ込められた空気の体積は収縮する。この空気の体積の収縮により、酸素の除去によって失われた圧力の少なくとも一部が回復する。窒素のみに理想気体の法則の式を適用し、PN2収縮前=PN2大気と規定すると、
PN2大気V収縮前=PN2収縮後V収縮後、すなわち、
PN2収縮後=(V収縮前/V収縮後)PN2大気
【0022】
ウィッキング材料が空気の体積収縮に対して反発する力がない場合
陰圧(NP)=P大気-PN2収縮後
NP=P大気- PN2大気(V収縮前/V収縮後)
【0023】
しかしながら、ウィッキング材料28は、空気の体積収縮に必要な圧縮に対して反発する力を有する。ドレープ12(又は、例えば、ドレープ12が設けられていない場合には、手当て部材10の最も外側の材料)を押し下げる大気圧、並びに内部の空気圧及びウィッキング材料28の機械的な圧縮抵抗圧の組合わせとの間にバランスが取れるまで、手当て部材10は収縮する。
P大気=PN2収縮後+P機械的な圧縮抵抗圧
【0024】
手当て部材内の気圧は、ウィッキング材料28の圧縮性によって決定される。ウィッキング材料28が容易に圧縮されるほど(P機械的な圧縮抵抗圧が低いほど)、PN2収縮後はPatmに近づき、手当て部材10の下の陰圧が低くなる。
陰圧(NP)=P大気-PN2収縮後=(PN2収縮後+P機械的な圧縮抵抗圧)-PN2収縮後
NP=P機械的な圧縮抵抗圧
【0025】
手当て部材10の空気から除去される酸素は、その空気のうちの20%にしか相当しないので、手当て部材10の下の空気量は、大気圧の影響下で20%以上収縮することはできない。20%収縮すると、手当て部材10の下の残りの窒素圧力が、全大気圧力P大気に等しくなる。
【0026】
一般に入手可能な陰圧創傷治療システムに現在使用されている陰圧の範囲は、-60mmHg~150mmHg、又は大気圧の-8%~-20%の範囲である。5%以下(-40mmHg)の陰圧は、治療用陰圧の範囲外であると考えられ得る。
【0027】
最大40mmHgの外部圧力がその空気体積を20%圧縮するほど「スポンジ状」のウィッキング材料は、手当て部材10の下に、40mmHg以下の大気圧より低い圧力の窒素雰囲気を発生させる。
初期状態:P大気V収縮前=(nN2+nO2)RT=(PN2大気+PO2大気)V収縮前
酸素除去後:PN2大気V収縮前=nN2RT
収縮後:PN2パッチV収縮後=nN2RT
陰圧:NP=P大気-PN2パッチ= P大気-nN2RT/V収縮後
NP=P大気-PN2大気V収縮前/V収縮後
NPがP大気の5%の場合:0.05P大気=P大気-PN2大気V収縮前/V収縮後
PN2大気=0.80P大気が分かっている場合:0.05P大気=P大気-0.80P大気V収縮前/V収縮後
V収縮前/V収縮後=0.95P大気/0.80P大気=1.1875
開始体積に対する収縮率=(V収縮後-V収縮前)/V収縮後=1-(1/1.1875)=1-0.84=0.16=16%
【0028】
言い換えれば、40mmHgの圧力で空気の体積が16%圧縮できるウィッキング材料は、40mmHgの陰圧で酸素のない環境を手当て部材10の下に作り出すことができる。
【0029】
繊維質又は発泡体の何れの開放気孔ウィッキング材料の場合であっても、ウィッキング材料28が作られる材料は、手当て部材10の下に最大40mmHgの陰圧を有する手当て部材10を作ることができるように、40mmHgの圧力でその空気の体積が16%以上圧縮されるように選ばれる。
【0030】
ウィッキング材料28が約80%の多孔質で始まる場合、80%のうちの16%を圧縮するには、バルク寸法を13%だけ圧縮する必要がある。ウィッキング材料28が約60%の多孔質で始まる場合、その60%のうちの16%を圧縮するには、バルク寸法を10%だけ圧縮する必要がある。
【0031】
手当て部材10は、種々の様式で組立てられてよい。一例で、
図3及び
図6を参照すると、ドレープ12は、接着剤14とともに皮膚に面する表面16にフラッドコーティング(flood coated)されてもよい。内側貫通孔46を具えてもよいガスケット26は、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は共重合ポリエステルフィルムであってもよいガスケットバッキングフィルム48上にシリコーン42を設けることによって、ドレープ12に取付けられてよい。ガスケットバッキングフィルム48を、ドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14と接触させる。キャリアフィルムに蒸着又は印刷されてもよい脱酸素剤18を、ガスケット26の内側貫通孔46内に配置する。脱酸素剤18のためのキャリアフィルムを、ドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14と接触させる。所望により、液体不透過性であるが気体透過性の膜68を、脱酸素剤18とウィッキング材料28の間に設けてもよい。脱酸素剤18のためのキャリアフィルムよりも面積の大きいウィッキング材料28も、ドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14と接触させる。次いで、剥離層32をドレープ12の皮膚に面する表面16上の接着剤14と接触させて、ガスケット26及びウィッキング材料28も覆い、手当て部材10が組立てられる。
【0032】
手当て部材10は、脱酸素剤フィルム24の形態のドレープ12、すなわち、脱酸素剤フィルム24の形態の適用部位カバーが無くても組立てることができ、その一例が
図7に示されている。この構造では、適用部位カバーは、貫通孔を含まないが、その代わりに、周囲の雰囲気に対して酸素剤18及びウィッキング材料28を覆いながら、シリコーン42が受入れることを可能にする空洞40を含むシリコーン42の形態であってよい。薄いキャリアフィルムに印刷又は蒸着され得る脱酸素剤18は、シリコーン42の空洞40に配置され、その後、ウィッキング材料28で覆われる。上述のガスケットバッキングフィルム48と同様のキャリアフィルム上に設けても設けなくてもよい接着剤14を、シリコーン42の全周に設けて、手当て部材10の皮膚への接着を容易にすることができる。次いで、剥離層32を接着剤14と接触させて、シリコーン42及びウィッキング材料28も覆って、手当て部材10が組立てられる。
【0033】
ドレープ12が皮膚に接触せず、むしろ手当て部材10を構成する構成要素を積み重ねるためのキャリアであるような手当て部材10が組立てられてもよい。このような例は、
図8に示されている。
【0034】
上述の手当て部材構成のバリエーションには、皮膚への密封性を確実にするためにシリコーン42の代わりにハイドロゲルを使用することが含まれる。電解質及び還元剤は、PTFEの有無に拘わらず、ハイドロゲルに混合されてもよい。ハイドロゲルの使用は、ハイドロゲルの水分含有量を維持するために、水分バリア包装を必要とする。
【0035】
ウィッキング材料28と脱酸素剤18の間、又はウィッキング材料28と皮膚の間に酸素透過性膜を介在させることにより、手当て部材10の下の酸素分圧が低下する速度を遅らせてもよい。ウィッキング材料28と脱酸素剤18の間に酸素透過性膜を組合わせ、脱酸素剤18によって覆われていないウィッキング材料28のその部分の上に酸素透過性ドレープを伴えば、皮膚上の酸素レベルがゼロにならないことが可能となる。
【0036】
別の代替案として
図3及び
図4を参照すると、バルブ70をドレープ12又は脱酸素剤フィルム24に設け、それぞれに設けられた開口72と協働させてもよい。バルブ70は、欧州特許第1 958 883号に記載されているものと同様の構造であってよい。バルブ70の動作は、バルブが脱酸素剤フィルム24と同様に動作するであろうという理解の下、ドレープ12を参照して詳細に説明される。ドレープ12の下のガス圧を、治療用陰圧を超えたガス圧、好ましくは治療用陰圧よりも大気圧近くに維持できるように、バルブ70は開かれて、空気をドレープ12の下の空間に入れるように構成され得る。例えば、バルブ70は、ドレープ12の下の空間と周囲との間の圧力差が-60mmHg未満(less than -60mmHg)、又はさらに-40mmHg未満(less than -40mmHg)で開かれるように構成されてもよい。このように、バルブ70が開いていると、空気がバルブ70及び開口部72を通ってドレープ12の下の空間に入り、ガス圧を周囲の大気圧に向かって上昇させる。その後、システムは、ほぼ大気圧のほぼ純粋な窒素雰囲気に動的平衡となる。機械的ポンプをバルブ70の中又は上に挿入して、パッチの下の空気を除去し、圧力を-1~-40mmHgに減少させることができる。
【0037】
図9には、上部組立体84及び下部組立体86を有する2片からなる手当て部材が示されている。下部組立体86は、ドレープ12、ガスケット26、ウィッキング材料28、及びドレープ12の皮膚に面する表面16上に接着剤14を含む。ウィッキング材料28は、抗菌パッドであってもよく、脱酸素剤18の還元剤を活性化するための水又は電解質溶液を保持し得る。ウィッキング材料28は、図示されていない銀の層を含んでもよい。上部組立体84は脱酸素剤18を含み、これは、例えばテープのような接着剤層92を有する薄い可撓性キャリア88上に印刷又は蒸着されてもよい。また、脱酸素剤18は、前述の脱酸素剤のいずれであってもよい。脱酸素剤18は、ドレープ12に当てられ接着される前に、密封された包装内の酸素を枯渇させるように、(例えば、ホイル層34、36と同様な)密封された包装内において活性状態で包装されてもよい。
【0038】
下部組立体86が適用部位の上に当てられた後、下部組立体86の上に上部組立体84が付けられる。上部組立体84を付けるためには、上部組立体84を表面上にトップダウンで置く。剥離ライナー(図示せず)を剥がして、接着剤層92及び脱酸素剤18を露出させる。ドレープ12の多孔性、すなわち、孔のあいた領域94の上に上部組立体84を配置し、接着剤層92をドレープ12の外面96に接着させる。ドレープ12の多孔性、すなわち、孔のあいた領域94は、ドレープ12の下のガスケット26によって枠組みされた領域内に閉じ込められ、上部組立体84は、ドレープ12に適切に当てられ接着されたときにドレープ12の多孔性、すなわち、孔のあいた領域94を覆う。上部組立体84を下部組立体86に接着するときに見える位置合わせマーク102は、ドレープ12の外面上に設けられてもよい。上部組立体84及び下部組立体86は、個々に包装され得、上部組立体84は、下部組立体86を取外すことなく、必要に応じて交換され得る。
【0039】
上記開示された実施形態の様々な特徴及び機能、並びに他の特徴及び機能、又はその代替物若しくは品種は、望ましくは、他の多くの異なるシステム又はアプリケーションと組合わされ得ることが理解されるであろう。また、その中の様々な現在予見されていない若しくは予想されていない代替案、修正、変形又は改良が、その後、当業者によってなされ得ることも、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。