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特許7485771FimH変異体、その組成物、及びその使用
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  • 特許-FimH変異体、その組成物、及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】FimH変異体、その組成物、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/245 20060101AFI20240509BHJP
   A61K 39/108 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240509BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20240509BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240509BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240509BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240509BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240509BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C07K14/245 ZNA
A61K39/108
A61K39/39
A61P31/04
A61K47/55
A61K48/00
A61P37/04
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12N15/31
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022542383
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2021050707
(87)【国際公開番号】W WO2021144369
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】20152217.4
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】グリジュプトラ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウェーデンバーグ,エヴェリン,マーリーン
(72)【発明者】
【氏名】ゲェーツェン,イェローン
(72)【発明者】
【氏名】ファエ,ケレン,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェイスマ,ルイス,ジェイコブ
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0199071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
A61K 39/108
A61K 39/39
A61P 31/04
A61K 47/55
A61K 48/00
A61P 37/04
C07K 14/245
C12N 15/63
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドであって、前記FimHレクチンドメインは、配列番号1の144位に対応する位置でバリン(V)を含み、かつ、配列番号1との少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、前記ポリペプチド。
【請求項2】
前記FimHレクチンドメインは、配列番号1との少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記FimHレクチンドメインは、配列番号1との少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、配列番号2との少なくとも95%の配列同一性を有する完全長FimHであ、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のポリペプチドと、FimC(FimCH)とを含む複合体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項6に記載の複合体、又は請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物は、アジュバントを更に含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
医薬品としての使用のための請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項6に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチド、又は請求項8若しくは9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫反応の誘発での使用のための請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項6に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチド、又は請求項8若しくは9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記細菌は、大腸菌(E.coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)であり、好ましくは大腸菌(E.coli)である、請求項11に記載の使用のためのポリペプチド、ポリヌクレオチド、複合体、又は医薬組成物。
【請求項13】
対象中において大腸菌(E.coli)により引き起こされる尿路感染の予防又は処置における使用のための請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項6に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチド、又は請求項8若しくは9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項15】
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドを製造する方法であって、請求項7に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項14に記載のベクターを含む組換え細胞から前記ポリペプチドを発現させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記ポリペプチドを回収して精製することを更に含み、任意選択的に、前記精製の後に、前記ポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医微生物、免疫学、及びワクチンの分野に関する。具体的には、本発明は、FimHレクチンドメインを含むポリペプチドであって、このFimHレクチンドメインは、このFimHレクチンドメインがマンノースに対する親和性が低い高次構造となるアミノ酸変異を含み、且つ対象への投与時に大腸菌(E.coli)の膀胱上皮細胞への付着の抗体を介した阻害を高レベルで誘発する、ポリペプチドに関する。更に、本発明は、そのようなポリペプチドを含む組成物、及び免疫原性ポリペプチドの投与により必要な対象中において免疫反応を刺激する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管外感染の原因となる大腸菌(E.coli)の株は、腸疾患を引き起こすものとは遺伝子が異なり、腸管外病原性大腸菌(E.coli)(ExPEC)と呼ばれている。ExPECは、外来、長期介護、及び病院の環境において腸管外感染を引き起こす最も一般的な腸内グラム陰性生物である。大腸菌(E.coli)に起因する典型的な腸管外感染として、尿路感染(UTI)、種々の腹腔内感染(IAI)、肺炎、手術部位感染、髄膜炎、血管内デバイス感染、骨髄炎、及び軟部組織感染が挙げられ、これらはいずれも、菌血症を伴う可能性がある。大腸菌(E.coli)は、重度の敗血症の主要な原因であり、高い罹患率及び死亡率の原因となっている。
【0003】
ExPECは、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の他のメンバーのように、粘膜上皮表面への付着を助けるI型線毛を産生する。このI型線毛は、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科のメンバーの表面から発する毛様構造である。I型線毛の主要成分は、右巻きのらせん状に配置されたFimAのサブユニットを繰り返して、中央軸に孔が開いている約1μmの長さ及び7nmの直径のフィラメントを形成している(Brinton,1965)。主要なサブユニットとしてのFimAに加えて、線毛フィラメントはまた、マイナーなタンパク質サブユニットとしてFimF、FimG、及びFimHも含む。マイナーなタンパク質サブユニットFimHは、真核細胞表面上のマンノース含有糖タンパク質へのI型線毛細菌の付着を促進するマンナン結合付着であり、マンナン及びフィブロネクチン等の様々な標的に結合するタンパク質のファミリを表す。免疫電子顕微鏡研究により、FimHは、I型線毛の遠位端に戦略的に配置されており、FimGと複合体を形成して柔軟な線毛構造を形成すると思われ、且つフィラメントに沿って様々な間隔で長手方向にも配置されていることが明らかになった。
【0004】
FimH付着タンパク質は、UTIに対する様々な前臨床モデルにおいてワクチンとして使用され場合に防御を誘発することが分かっている(Langermann S,et al.,1997,Science,276:607-611;Langermann S,et al.,2000,J Infect Dis, 181:774-778;O’Brien VP et al.,2016,Nat Microbiol,2:16196)。1999年に、Medimmuneは、FimH含有サブユニットワクチンを第2相試験へと進めたが、UTIの予防では効果がないために、このワクチンの開発は2003年に中止された(例えば、Brumbaugh AR and Mobley HLT,2012,Expert Rev Vaccines,11:663-676を参照されたい)。それにもかかわらず、Sequoia Sciences社は、FimCタンパク質と複合体化し且つ新規のアジュバント製剤と組み合わされたFimHタンパク質からなるワクチンである、再発性UTIのワクチンを現在臨床開発していると思われる。この会社は、このワクチンは免疫原性が高く、良好な耐容性を示し、UTIの頻度を減少させ得ると報告しているが、安全性及び有効性を確立する必要が依然としてある(https://www.sequoiasciences.com/uti-vaccine-program)。
【0005】
大腸菌(E.coli)感染の最中に、マンノシル化受容体に結合する付着FimHのレクチンドメインは、下記の2種の異なる高次構造を取り得ることが分かっている:マンノースに対する低い親和性(緊張)及びマンノースに対する高い親和性(伸長/弛緩)(Kalas et al,2017,Sci Adv 10;3(2))。低親和性高次構造は、細菌の運動性及び新規組織のコロニー形成を促進する。高親和性高次構造により、尿排泄の機械的力下での細菌の強固な付着が確実となる(Kalas et al, 2017 上記参照)。更に、低親和性バリアントに対する抗体は、尿路上皮細胞への細菌の結合をブロックし、且つ膀胱中のCFU数を減少させることが分かった(Tchesnokoca,2011 Infect Immun. 79(10):3895-904;Kisiela,2013 Proc Natl Acad Sci,19;110(47):19089-94)。
【0006】
国際公開第02102974号パンフレットでは、多くのFimH変異体であって、全てが、この分子の峡谷領域中にアミノ酸改変を含む、FimH変異体が説明されている。具体的には、国際公開第02102974号パンフレットでは、結合ポケット中のマンノース相互作用残基が変異しているバリアントが説明されている。この変異位置は、FimH変異体がより開いた高次構造に保たれており、それにより、野生型タンパク質ではアクセスしにくいエピトープが露出することから選択されている。しかしながら、現在まで、本発明者らが知る限りでは、これらの変異体はいずれも、ワクチン候補として更に追求されていない。臨床試験では、野生型FimHのみが使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、当該技術分野では、大腸菌(E.coli)により引き起こされる細菌感染に対して高度に阻害性の抗体を誘発し得るワクチンが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は、FimHレクチンドメインを含むポリペプチドであって、前記FimHレクチンドメインは、配列番号1の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、ポリペプチドを提供する。
【0009】
第2の態様では、本発明は、本発明に係る完全長のFimHポリペプチドと、FimC(FimCH)とを含む複合体を提供する。
【0010】
第3の態様では、本発明は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0011】
第4の態様では、本発明は、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る複合体、又は本発明に係るポリヌクレオチドを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
第5の態様では、本発明は、医薬品としての使用のための本発明に係るポリペプチド、本発明に係る複合体、本発明に係るポリヌクレオチド、又は本発明に係る医薬組成物を提供する。
【0013】
第6の態様では、本発明は、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫反応の誘発での使用ための本発明に係るポリペプチド、本発明に係る複合体、本発明に係るポリヌクレオチド、又は本発明に係る医薬組成物を提供する。本発明は、更に、必要な対象中における腸内細菌関連状態を処置するか又は予防する方法であって、本発明に係るポリペプチド、本発明に係るポリヌクレオチド、又は本発明に係る医薬組成物の有効な量を投与することを含む方法に関する。
【0014】
第6の態様では、本発明は、本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0015】
第7の態様では、本発明は、更に、ポリペプチドを製造する方法であって、本発明のポリヌクレオチド及び/又は本発明のベクターを含む組換え細胞からこのポリペプチドを発現させることを含み、任意選択的に、この方法は、このポリペプチドを回収することを更に含み、任意選択的に、この回収の後に、このポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】様々なFimHバリアントにより誘発されたFimH血清抗体(総IgG)のレベル。非フロイントアジュバント(Speedy-rat model,Eurogentec)と組み合わせた60ug/用量の様々なFimHバリアントにより0、7、10、及び18日目に4回の筋肉内免疫付与を行なったWistarラット(n=2)。抗FimH抗体のレベルを、免疫付与前(0日目、白丸)及び免疫付与後(28日目、黒丸)に、ELISAにより測定した。データは、2匹の動物/群からの2重の血清サンプルの平均を表す。抗体価(EC50)を、12段階希釈曲線にフィットさせた4パラメータロジスティック回帰モデルに基づいて算出した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、FimHレクチンドメインを含む新規のポリペプチドであって、このFimHレクチンドメインは、マンノースに対する親和性が低い高次構(本明細書では「低親和性高次構造」とも称される)に「ロック」されている、ポリペプチドを提供する。本発明は、マンノースに対する親和性が低い高次構造のFimH抗原がマンノースを介した付着を阻害し得る抗体を誘発することが可能であるという観察に部分的に基づく。この抗体は、阻害性が高く、且つ細菌感染の予防又は処置での効果が高い。本明細書では、F144V変異を有するFimHレクチンドメインは、このFimHレクチンドメインがUTIに対するワクチン(例えば再発性UTIを予防するか又は低減するためのワクチン)での使用に非常に適したものになる、望ましい特性の驚くべき良好な組み合わせを有することが発見された。
【0018】
したがって、第1の態様では、本発明は、FimHレクチンドメインを含むポリペプチド(好ましくは免疫原性ポリペプチド)であって、このFimHレクチンドメインは、配列番号1の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、ポリペプチドを提供する。
【0019】
アミノ酸144位は、配列番号1のFimHレクチンドメインの参照アミノ酸配列における144位を指す。配列番号1以外の本発明のアミノ酸配列では、好ましくは、アミノ酸144位は、好ましくはデフォルト設定を使用するClustalW(1.83)配列アラインメントにおける、配列番号1中の144位に対応するアミノ酸位置に存在する。本明細書の上記で定義されているアミノ酸配列アラインメントアルゴリズムを使用して、配列番号1以外のFimHレクチンドメインアミノ酸配列中の対応するアミノ酸位置を同定する方法は、当業者に既知であるだろう。
【0020】
一実施形態では、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、このFimHレクチンドメインがマンノースに対する親和性が低い高次構造となる変異を含む。一実施形態では、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、配列番号1の144位に対応する位置で変異されている。この変異は、単一アミノ酸残基の欠失、付加、又は置換の内のいずれか1つであり得る。好ましくは、この変異は、単一アミノ酸残基の置換である。この変異は、好ましくは、配列番号1の144位に対応するアミノ酸残基の置換である。好ましくは、この変異は、配列番号1の144位に対応する位置でのフェニルアラニン(F)アミノ酸残基の置換である。本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドでは、配列番号1の144位に対応する位置は、好ましくは、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸に置換されている。本文脈での「変異」、「変異された」、又は「置換」、「置換された」という用語は、別のアミノ酸が、対応する親分子(本明細書では、144位がFであるFimHレクチンドメインを含むポリペプチドである)での示された位置に存在することを意味している。そのような親分子は、物理的には、ポリペプチドとして存在し得るか又はそのようなポリペプチドをコードする核酸の形で存在し得るが、アミノ酸配列又はこのアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列として単にインシリコか又は紙上でも存在し得る。したがって、本文脈での変異又は置換はまた、例えば、対応する親分子をコードする核酸がプロセスの最中に最初は実際に調製されなかったにもかかわらず、この変異又は置換をコードするように合成されている核酸からタンパク質が発現される場合にも存在すると見なされ、例えば、核酸分子が完全に化学合成により調製されている場合にも存在すると見なされる。
【0021】
好ましい一実施形態では、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、144位でのフェニルアラニン(F)からバリン(V)への置換を含む。ある特定の実施形態では、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、144位でバリンを含む天然には存在しないポリペプチドである。ある特定の実施形態では、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、144位で、天然に存在するフェニルアラニンの代わりにバリンを有する。
【0022】
一実施形態では、FimHレクチンドメインは、配列番号1との少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。好ましくは、FimHドメインは、本発明のFimHレクチンドメインの場合にバリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、又はアラニン(A)に置換されている144位を除いて、配列番号1を有する配列を含み得る。
【0023】
完全長のFimH(FimHFL)は、下記の2つのドメインで構成されている:短いテトラ-ペプチドループリンカーによりC末端ピリンドメイン(FimHPD)に接続されたN末端レクチンドメイン(FimHLD)。本発明の一実施形態では、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含む。好ましい一実施形態では、本発明のポリペプチドは、完全長のFimHポリペプチドであって、FimHレクチンドメインは、配列番号1中の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、FimHポリペプチドである。
【0024】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号2との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する完全長のFimHである。好ましくは、この完全長のFimHポリペプチドは、本明細書で説明されているF144V置換を除いて配列番号2を有する配列を含み得る。別の実施形態では、このポリペプチドは、配列番号4又は好ましくはその少なくともアミノ酸22~300との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する完全長のFimHである。好ましくは、この完全長のFimHポリペプチドは、本明細書で説明されているF144V置換を除いて配列番号4又はより好ましくはその少なくともアミノ酸22~300を有する配列を含み得る。
【0025】
ある特定の実施形態では、ポリペプチドは、全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,063号明細書で説明されている配列番号23~45及び55との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する完全長のFimHである。
【0026】
FimHポリペプチドは、大腸菌(E.coli)の様々な株の間で高度に保存されているだけでなく、多種多様なグラム陰性菌の間でも高度に保存されている。更に、株間で起こるアミノ酸変化は、一般的に、同様のアミノ酸位置で起こる。大腸菌(E.coli)株間でのFimHの高度な保存の結果として、ある株からのFimHポリペプチドは、他の大腸菌(E.coli)株がFimHレクチンにより細胞に結合することを阻害するか又は防止する抗体反応を誘発し得、並びに/又は他の大腸菌(E.coli)株により引き起こされる感染に対する保護及び/若しくは処置を提供する。したがって、一実施形態では、完全長のFimHは、配列番号5又は好ましくはその少なくともアミノ酸22~300との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。好ましくは、完全長のFimHポリペプチドは、本明細書で説明されているF144V置換を除いて配列番号5又はより好ましくは少なくともそのアミノ酸22~300を有する配列を含み得る。別の実施形態では、完全長のFimHは、配列番号6との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。好ましくは、完全長のFimHポリペプチドは、本明細書で説明されているF144V置換を除いて配列番号6を有する配列を含み得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ペリプラズムシャペロン」という用語は、共通の結合エピトープの認識を介して様々なシャペロン結合タンパク質と複合体を形成し得る、細菌のペリプラズム中に局在化しているタンパク質と定義される。シャペロンは、細菌細胞からペリプラズムへと輸送されたタンパク質がその本来の立体構造に折り畳む際に、テンプレートとして機能する。シャペロン結合タンパク質とシャペロンとの会合はまた、ペリプラズム内の局在化されているプロテアーゼによる分解から、この結合タンパク質を保護するようにも機能し、水溶液でのこの結合タンパク質の溶解度も増加させ、集合綿毛(assembling pilus)へと順次正しく組み込まれる。シャペロンタンパク質は、そのような集合を媒介することにより綿毛の集合に関与するが構造へは組み込まれない、グラム陰性菌中のタンパク質のクラスである。FimCは、FimHのペリプラズムシャペロンタンパク質である。FimCは、配列番号3との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。ある特定の実施形態では、FimCは、全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,063号明細書で説明されている配列番号29との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。FimCとFimHとの非共有結合性複合体を、FimCHと命名する。
【0028】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドを含み、FimHピリンドメイン、又は本明細書で説明されている完全長のFimH、及びFimCを更に含む複合体を提供する。
【0029】
本発明の一実施形態では、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含み、且つFimCと複合体化してFimCH複合体を形成している。
【0030】
本出願の発明者らは、アミノ酸変化が異なるいくつかのFimHレクチンドメインバリアントを生成し、これらを、様々なアッセイで効率に関して試験している(実施例を参照されたい)。驚くべきことに、レクチンドメインが変異している、試験した全てのFimHタンパク質が、所望の特性(即ち、十分な純度(タンパク質濃度及び純度)、完全性、並びに機能性)を有するFimCH複合体へと組み込まれ得たわけではなかった。
【0031】
配列番号1の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインは、所望の特性を有するFimCH複合体を形成し得た。
【0032】
一実施形態では、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、配列番号2との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する完全長のFimHであり、且つFimCと複合体化してFimCH複合体を形成する。最終形態の完全長のFimHは、典型的には、例えば配列番号4及び5のアミノ酸1~21と示されているシグナルペプチドを含まず、即ち、配列番号4又は配列番号5の完全長のFimHは、これらの配列のアミノ酸22~300を含むが典型的にはそのアミノ酸1~21を欠いていると理解される。完全長のFimHの組換え産生の場合には、組換え宿主細胞中においてシグナルペプチドを含むFimHをコードし、ポリペプチドのペリプラズム位置へと至る一般的な分泌経路を経て内(細胞質)膜を超えて輸送される(「ペリプラズム発現」と称されることもある)ことが有用であるが、単離されて例えば医薬組成物で使用される最終的なFimHポリペプチドでは、シグナルペプチドは、典型的には、このポリペプチドを発現している組換え細胞によるプロセシングの結果としてもはや存在しない。
【0033】
より好ましい実施形態では、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は少なくとも約100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、配列番号1の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を有するレクチンドメインを含むFimHタンパク質とを含むか、又はからなる。更により好ましい実施形態では、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は少なくとも約100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、レクチンドメイン中にF144V置換を含むFimHタンパク質、又は(例えば、シグナルペプチドを依然として含む配列番号4若しくは5中に)F165V置換を含む完全長のFimHタンパク質とを含むか、又はからなる。シグナルペプチドを依然として含むであろう完全長のFimHでは、アミノ酸165位は、FimHレクチンドメイン中のアミノ酸144位に対応する。本明細書の上記で定義されているアミノ酸配列アラインメントアルゴリズムを使用して、完全長のFimHアミノ酸配列中の対応するアミノ酸位置と、FimHレクチンドメインアミノ酸配列中の対応するアミノ酸位置とを同定する方法は、当業者に既知であるだろう。
【0034】
一実施形態では、大腸菌(E.coli)シャペロンFimCと、本発明のFimHレクチンドメインバリアントを含む複合体を、組換え細胞から、FimCと一緒に、本発明に係るFimHレクチンドメインバリアントポリペプチドを共発現させることにより形成し得る。
【0035】
一実施形態では、FimCH複合体は、ある細菌株に由来するFimCを含むが、FimHは、異なる細菌株に由来する。別の実施形態では、FimCH複合体は、FimC及びFimHであって、両方とも同一の細菌株に由来するFimC及びFimHを含む。ある特定の実施形態では、FimH、又はFimC、又はFimH及びFimCの両方は、天然に存在する実際の細菌単離株由来ではない人工配列であり得、例えば、これらはまた、天然単離株のコンセンサス配列又は組み合わせにも基づき得る。
【0036】
一実施形態では、FimCH複合体は、His-タグを含む少なくとも1つのポリペプチドを含む。一実施形態では、本発明に係る完全長のFimHがHis-タグを含むか、又は本明細書で説明されているFimCがHis-タグを含む。好ましくは、FimCH複合体において、FimCは、His-タグを含む。His-タグは、本明細書で使用される場合、ヒスチジン(His)残基(例えば、6個のHis残基)のストレッチであり、内部に付加され得るか、又は好ましくはタンパク質のN末端若しくはC末端で付加され得る。そのようなタグは、精製を容易にするためによく使用されている。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、本明細書の上記で定義されているFimHポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関連する。このポリヌクレオチドには、このポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーターが先行し得る。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、FimHコード配列に対して内因性である。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の細菌中においてFimHの発現を駆動する内因性プロモーターである。他の実施形態では、このプロモーターは、FimHコード配列に対して異種であり、例えば、組換え発現系での使用のために当業者に既知の強力なプロモーターが使用される。例えば、FimH及び/又はFimC発現に、誘発性Lacプロモーターを含むpET-DUETベクターを使用し得る。誘発性プロモーターの場合には、IPTGを使用して発現を誘発し得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは、その天然環境から単離されている。ある特定の実施形態では、本発明は、本発明に係る単離ポリヌクレオチドを提供する。このポリヌクレオチドは、組換えポリヌクレオチド、合成ポリヌクレオチド、又は人工ポリヌクレオチドであり得る。このポリヌクレオチドは、核酸の任意の形態であり得、例えばDNA又はRNAであり得、好ましくはDNAであり得る。このポリヌクレオチドは、天然に存在するFimHコードポリヌクレオチド中には存在しない1つ又は複数のヌクレオチドを含み得る。好ましくは、このポリヌクレオチドは、その5’末端及び/3’末端で、天然に存在するFimHコードポリヌクレオチド中には存在しない1つ又は複数のヌクレオチドを有する。コードされた成熟FimC及び/又はFimHの配列には、好ましくは、それぞれのポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド中においてシグナルペプチドが先行し得、このシグナルペプチドは、FimCポリペプチド及び/又はFimHポリペプチドそれぞれに対して内因性シグナルペプチド(即ち、これらのタンパク質に関して天然に存在するようなシグナルペプチド)であってもよいし、異種シグナルペプチド(即ち、他のタンパク質由来のシグナルペプチド、又は合成シグナルペプチド)であってもよい。このシグナルペプチドは、ペリプラズム発現に有用であるが、典型的には切断され、最終的に産生されて精製されたFimC及び/FimHそれぞれ中には存在しない。
【0038】
必要な場合には、及び/又は望ましい場合には、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、又は本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、薬学的に許容される担体を添加することにより、薬学的に活性な混合物に組み込み得る。
【0039】
したがって、さらなる態様では、本発明はまた、本発明に係るFimHレクチンドメイン、又は本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組成物(好ましくは医薬組成物)も提供する。
【0040】
本発明の(医薬)組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤(例えば、担体、充填剤、保存料、可溶化剤、及び/又は希釈剤)を含み得る。生理食塩水、並びに水性デキストロース溶液及びグリセロール溶液も液体担体として利用し得、特に注射液用の液体担体として利用し得る。好適な賦形剤として、下記が挙げられる:デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、及び同類のもの。好適な医薬担体の例は、“Remington’s pharmaceutical sciences,”XIII ed.Editor-in-Chief Eric W.Martin. Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,2013で説明されている。
【0041】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、1種又は複数種の緩衝剤(例えば、Tris緩衝生理食塩水、リン酸緩衝剤、スクロースリン酸グルタミン酸緩衝剤)を更に含む。
【0042】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、1種又は複数種の塩(例えば、Tris-塩酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、及びアルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、又はそのようなアルミニウム塩の混合物))を更に含む。
【0043】
本発明の組成物を、この組成物が投与される宿主中において免疫反応を誘発するために使用し得、即ち、この組成物は、免疫原性である。そのため、本発明の組成物を、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の細菌により引き起こされる感染に対するワクチンとして使用し得、好ましくは、クレブシエラ(Klebsiella)により引き起こされる感染に対するワクチンとして使用し得、より好ましくは、大腸菌(E.coli)により引き起こされる感染に対するワクチンとして使用し得、そのため、この組成物は、ワクチンでの使用に適した任意の追加の成分を含み得る。例えば、ワクチン組成物の追加の成分は、本明細書で説明されているアジュバントである。
【0044】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、保存料(例えば、フェノール、塩化ベンゼトニウム、2-フェノキシエタノール、又はチメロサール)を更に含む。具体的な実施形態では、本発明の(医薬)組成物は、0.001%~0.01%の保存料を含む。他の実施形態では、本発明の(医薬)組成物は、保存料を含まない。
【0045】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物を、対象への意図した投与経路に好適であるように製剤化する。例えば、本発明の組成物を、皮下投与、非経口投与、経口投与、皮内投与、経皮投与、結腸直腸投与、腹腔内投与、膣内投与、又は直腸投与に好適であるように製剤化し得る。具体的な実施形態では、本医薬組成物を、静脈内投与、経口投与、口腔内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、気管内投与、皮下投与、筋肉内投与、局所投与、皮内投与、経皮投与、又は肺投与のために製剤化し得、好ましくは筋肉内投与のために製剤化し得る。
【0046】
本発明の組成物を、投与のための指示書と一緒に、容器、パック、又はディスペンサに入れ得る。
【0047】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物を、使用前に保存し得、例えば、この組成物を、(例えば、約-20℃又は約-70℃で)凍結保存し得るか、冷蔵条件下(例えば、約2~8℃、例えば約4℃で)保存し得るか、又は室温で保存し得る。或いは、成分(i)、(ii)、及び(iii)の内の1つ又は複数を含む別個の組成物を保存して、使用前に、(i)、(ii)、及び(iii)の3つ全てを含むワクチン組み合わせ組成物に混合し得る。更に別の代替では、これら別個の組成物は、組み合わせ投与スケジュールで提供される。
【0048】
本発明の一実施形態では、本発明の医薬組成物を、担体タンパク質に共有結合的に連結された1種又は複数種の多糖を含む組成物と一緒に投与し得る。好ましくは、そのような組成物は、例えば、全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2019/175145号パンフレットで説明されている、担体タンパク質に共有結合的に連結された大腸菌(E.coli)O-抗原多糖の1種又は複数種のバイオコンジュゲート(bioconjugate)を含む。
【0049】
ある実施形態では、本明細書の本発明の医薬組成物は、アジュバントを更に含む。本明細書で使用される場合、「アジュバント」という用語は、本発明の組成物と同時に投与されるか又はその一部として投与される場合に、FimHに対する免疫反応を増加させ、増強し、及び/又は増大させるが、アジュバント化合物が単独で投与される場合には、コンジュゲート及び/又はFimHに対する免疫反応を生じない化合物を指す。アジュバントは、例えば、リンパ球動員、B細胞及び/又はT細胞の刺激、並びに抗原提示細胞の刺激等のいくつかの機構により、免疫応答を増強し得る。
【0050】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、アジュバントを含むか、又はアジュバントと組み合わせて投与される。本発明の組成物と組み合わせて投与されるアジュバントを、免疫原性組成物の投与の前に投与し得るか、この投与と同時に投与し得るか、又はこの投与の後に投与し得る。好ましい実施形態では、本発明のFimH及びアジュバントを、単一組成物の形態で投与する。
【0051】
アジュバントの具体例として下記が挙げられるが、これらに限定されず:アルミニウム塩(ミョウバン)(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び酸化アルミニウム、例えば、ミョウバン又はナノミョウバン製剤を含むナノ粒子)、リン酸カルシウム(例えば、Masson JD et al,2017,Expert Rev Vaccines 16:289-299)、モノホスホリルリピドA(MPL)又は3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)(例えば、英国特許第GB2220211号明細書、欧州特許第0971739号明細書、同第1194166号明細書、米国特許第6491919号明細書を参照されたい)、AS01、AS02、AS03、及びAS04(全てGlaxoSmithKline;例えば、AS04に関しては、欧州特許第1126876号明細書、米国特許第7357936号明細書、AS02に関しては、欧州特許第0671948号明細書、同第0761231号明細書、米国特許第5750110号明細書を参照されたい)、イミダゾピリジン化合物(国際公開第2007/109812号パンフレットを参照されたい)、イミダゾキノキサリン化合物(国際公開第2007/109813号パンフレットを参照されたい)、デルタ-インスリン(例えば、Petrovsky N and PD Cooper,2015,Vaccine33:5920-5926)、STING-活性化合成環状ジヌクレオチド(例えば米国特許出願公開第20150056224号明細書)、レシチン及びカルボマーホモポリマーの組み合わせ(例えば米国特許第6676958号明細書)、並びにサポニン、例えば、Quil A及びQS21(例えば、Zhu D and W Tuo,2016,Nat Prod Chem Res 3:e113(doi:10.4172/2329-6836.1000e113を参照されたい)、これらは、任意選択的に、QS7と組み合わされる(Kensil et al.,in Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(eds.Powell & Newman、Plenum Press、NY、1995を参照されたい)。一部の実施形態では、アジュバントは、非フロイントアジュバント(完全又は非完全)である。ある特定の実施形態では、アジュバントは、Quil-Aを含み、例えば、Brenntag(現在はCroda)又はInvivogenから市販されているQuil-Aを含む。QuilAは、キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)の木からのサポニンの水抽出画分を含む。このサポニンは、共通のトリテルペノイド骨格構造を有するトリテルペノイドサポニンの群に属する。サポニンは、T依存性抗原及びT非依存性抗原に対する強力なアジュバント反応を誘発し、並びに強力な細胞傷害性CD8+リンパ球反応及び粘膜抗原に対する反応の増強が知られている。これをまた、コレステロール及びリン脂質と組み合わせて、免疫賦活複合体(ISCOM)であって、QuilAアジュバントは、様々な起源からの多種多様な抗原に対する抗体媒介性の免疫反応及び細胞媒介性の免疫反応の両方を活性化し得る、免疫賦活複合体も形成し得る。ある特定の実施形態では、アジュバントは、AS01であり、好ましくはAS01Bである。S01は、MPL(3-O-デサシル-4’-モノホスホリルリピドA)、QS21(キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)、画分21)、及びリポソームを含むAdjuvant Systemである。ある特定の実施形態では、AS01は、市販されているか(GSK)、又は参照により本明細書に組み込まれる国際公開第96/33739号パンフレットで説明されているように製造し得る。ある特定のアジュバントは、エマルションを構成し、このエマルションは、2種の不混和液体(例えば、油及び水)の混合物であり、これらの不混和液体の一方は、他方内で小適として懸濁されており、表面活性剤により安定化される。水中油型エマルションは、水が連続を形成して油の小滴を取り囲んでおり、油中水型エマルションは、油が連続相を形成している。ある特定のエマルションは、スクアレン(代謝性油)を含む。ある特定のアジュバントは、ブロックポリマーを含み、このブロックポリマーは、2種のモノマーが互いにクラスター化して繰り返し単位のブロックを形成する場合に形成されたコポリマーである。ブロックコポリマー、スクアレン、及び微粒子安定剤を含む油中水型エマルションの一例は、Sigma-Aldrichから市販され得るTiterMax(登録商標)である。任意選択的に、エマルションを、TLR4アゴニスト等の免疫賦活化合物と組み合わせ得るか、又はこのエマルションは、この免疫賦活化合物を更に含み得る。ある特定のアジュバントは、MF59(例えば、欧州特許第0399843号明細書、米国特許第6299884号明細書、同第6451325号明細書)及びAS03でも使用される水中油型エマルション(例えば、スクアレン又はラッカセイ油)であり、任意選択的に、免疫刺激剤(例えば、例えばAS02中のモノホスホリルリピドA及び/又はQS21)と組み合わされる(Stoute et al.,1997,N.Engl.J.Med. 336,8691を参照されたい)。アジュバントのさらなる例は、免疫賦活剤を含むリポソーム(例えば、例えばS01E及びAS01B中のMPL及びQS21(例えば、米国特許出願公開第2011/0206758号明細書)である。アジュバントの他の例は、CpG(Bioworld Today,Nov.15,1998)、並びにイミダゾキノリン(例えば、イミキモド及びR848)である。例えば、Reed G, et al.,2013,Nature Med,19:1597-1608を参照されたい。
【0052】
ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントは、サポニンを含み、好ましくは、キラヤ・サポナリア(Quillaja saponaria)から得られるサポニンの水抽出画分を含む。ある特定の実施形態では、アジュバントは、QS-21を含む。
【0053】
ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントは、toll様受容体4(TLR4)アゴニストを含む。TLR4アゴニストは、当該技術分野で公知であり、例えば、Ireton GC and SG Reed,2013,Expert Rev Vaccines 12:793-807を参照されたい。ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントは、リピドAを含むTLR4アゴニスト、又はその類似体若しくは誘導体である。
【0054】
アジュバント(好ましくは、TLR4アゴニストを含むアジュバント)を、アジュバント中の免疫調節分子及び/又は免疫原に対する様々な送達系を表す様々な方法で製剤化し得、例えば、エマルション、例えば、油中水型(w/o)エマルション又は水中油型(o/w)エマルション(例は、MF59、AS03である)、安定(ナノ)エマルション(SE)、脂質懸濁液、リポソーム、(ポリマー)ナノ粒子、ビロソーム、吸着ミョウバン(alum adsorbed)、水性製剤(AF)、及び同類のもので製剤化し得る(例えば、Reed et al,2013,上記参照;Alving CR et al,2012,Curr Opin Immunol 24:310-315を参照されたい)。
【0055】
免疫賦活性TLR4アゴニストは、他の免疫調節成分、例えば、サポニン(例えば、QuilA、QS7、QS21、Matrix M、Iscoms、Iscomatrix等)、アルミニウム塩、他のTLRの活性剤(例えば、イミダゾキノリン、フラゲリン、CpG、dsRNA類似体等)、及び同類のもの(例えば、Reed et al,2013,上記参照を参照されたい)と任意選択的に組み合わされ得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、「リピドA」という用語は、LPS分子の疎水性脂質部分を指し、この部分は、グルコサミンを含み、且つケトシド結合により、このLPS分子の内核中のケト-デオキシオクツロソネートに連結されており、LPS分子がグラム陰性菌の外膜の外葉中に固定される。LPSの合成及びリピドA構造の概説に関しては、例えば、Raetz,1993,J.Bacteriology 175:5745-5753,Raetz CR and C Whitfield,2002,Annu Rev Biochem 71:635-700;米国特許第5,593,969号明細書、及び同第5,191,072号明細書を参照されたい。リピドAは、本明細書で使用される場合、天然に存在するリピドA、その混合物、類似体、誘導体、及び前駆体を含む。この用語は、下記を含む:単糖、例えば、リピドXと称されるリピドAの前駆体;二糖リピドA;ヘプタ-アシルリピドA;ヘキサ-アシルリピドA;ペンタ-アシルリピドA;テトラ-アシルリピドA、例えば、リピドIVAと称されるリピドAのテトラ-アシル前駆体;脱リン酸化リピドA;モノホスホリルリピドA;ジホスホリルリピドA、例えば、大腸菌(Escherichia coli)及びロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のリピドA。いくつかの免疫活性化リピドA構造は、6本のアシル鎖を含む。グルコサミン糖に直接付着している4本の主要なアシル鎖は、通常は10~16個の炭素の長さの3-ヒドロキシアシル鎖である。これら主要なアシル鎖の3-ヒドロキシ基には、2本の追加のアシル鎖が付着していることが多い。一例として、大腸菌(E.coli)リピドAは、典型的には、糖に付着した4本のC14 3-ヒドロキシアシル鎖と、2’位及び3’位それぞれで主要なアシル鎖の3-ヒドロキシ基に付着した1本のC12及び1本の14とを有する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「リピドAの類似体又は誘導体」という用語は、リピドAの構造及び免疫学的活性が類似しているが、必ずしも自然界には天然に存在しない分子を指す。リピドAの類似体又は誘導体は、グルコサミン残基が別のアミン糖残基(例えばガラクトサミン残基)に置換されるように、還元末端でグルコサミン-1-ホスフェートの代わりに2-デオキシ2-アミノグルコネートを含むように、4’位でリン酸塩の代わりにガラクツロン酸部分を持つように、改変され得、例えば、短縮され得るか、又は縮合し得る。リピドAの類似体又は誘導体を、例えば化学的誘導により、細菌から単離されたリピドAから調製してもよいし、例えば、好ましいリピドAの構造を最初に決定し、その類似体又は誘導体を合成することにより、化学的に合成してもよい。リピドAの類似体又は誘導体はまた、TLR4アゴニストアジュバントとしても有用である(例えば、Gregg KA et al,2017,MBio 8,eDD492-17,doi:10.1128/mBio.00492-17を参照されたい)。例えば、リピドAの類似体又は誘導体を、例えばアルカリ処理による、野生型リピドA分子の脱アシル化により得ることができる。リピドAの類似体又は誘導体を、例えば、細菌から単離されたリピドAから調製し得る。そのような分子を化学的に合成することも可能である。リピドAの類似体又は誘導体の別の例は、リピドAの生合成及び/又はリピドAの改変に関与する酵素が変異しているか、又は欠失しているか、又は挿入されている細菌細胞から単離されたリピドA分子である。MPL及び3D-MPLは、リピドAの毒性を弱毒化するように改変されているリピドAの類似体又は誘導体である。リピドA、MPL、及び3D-MPLは、長い脂肪酸鎖が付着している糖骨格を有しており、この骨格は、グリコシド連結中での2つの6炭素糖と、4位でのホスホリル部分とを含む。典型的には、この糖骨格には、5~8個の長鎖脂肪酸(通常は12~14個の炭素原子)が付着している。天然起源に起因して、MPL又は3D-MPLは、多数の脂肪酸置換パターン(例えば、ヘプタ-アシル、ヘキサ-アシル、ペンタ-アシル等)の複合又は混合として存在し得、脂肪酸の長さが様々である。このことはまた、本明細書で説明されている他のリピドAの類似体又は誘導体の一部にも当てはまるが、合成リピドAバリアントも定義されて同種であり得る。MPL及びその製造は、例えば米国特許第4,436,727号明細書で説明されている。3D-MPLは、例えば米国特許第4,912,094B1号明細書で説明されており、且つ3位で還元末端グルコサミンにエステル連結している3-ヒドロキシミリスチンアシル残基の選択的除去により、MPLとは異なる(例えば、米国特許第4,912,094B1号明細書の第1欄中のMPLの構造と第6欄中の3D-MPLの構造とを比較されたい)。当該技術分野では、3D-MPLが使用されることが多いが、MPLと称される場合がある(例えば、Ireton GC and SG Reed,2013,上記参照の表1中の第1の構造は、この構造をMPL(登録商標)と呼ぶが、実際には3D-MPLの構造を描写している)。本発明に係るリピドA(類似体、誘導体の)例として、下記が挙げられる:MPL、3D-MPL、RC529(例えば欧州特許第EP1385541号明細書)、PET-リピドA、GLA(グリコピラノシルリピドアジュバント、合成二糖糖脂質;例えば、米国特許出願公開第20100310602号明細書、米国特許第8722064号明細書)、SLA(例えば、Carter D et al,2016,Clin Transl Immunology 5:e108(doi:10.1038/cti.2016.63)、これは、ヒトワクチン用のTLR4リガンドを最適化するための構造-機能アプローチを説明している)PHAD(リン酸化ヘキサアシル二糖;この構造は、GLAの構造と同一である)、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD (3D(6A)-PHAD) (PHAD、3D-PHAD、及び3D(6A)PHADは、合成リピドAバリアントである、例えば、これらの分子の構造も提供するavantilipids.com/divisions/adjuvantsを参照されたい)、E6020(CAS Number 287180-63-6)、ONO4007、OM-174、及び同類のもの。3D-MPL、RC529、PET-リピドA、GLA/PHAD、E6020、ONO4007、及びOM-174の例示的な化学構造に関して、例えば、Ireton GC and SG Reed,2013,上記参照の表1を参照されたい。SLAの構造に関しては、例えば、Reed SG et al,2016,Curr Opin Immunol 41:85-90の表1を参照されたい。ある特定の好ましい実施形態では,TLR4アゴニストアジュバントは、3D-MPL、GLA、又はSLAから選択されるリピドAの類似体又は誘導体を含む。
【0058】
リピドAの類似体又は誘導体を含む例示的なアジュバントとして、下記が挙げられる:GLA-LSQ(合成MPL[GLA]、QS21、リポソームとして製剤化された脂質)、SLA-LSQ(合成MPL[SLA]、QS21、脂質、リポソームとして製剤化されている)、GLA-SE(合成MPL[GLA]、スクアレン油/水エマルション)、SLA-SE(合成MPL[SLA]、スクアレン油/水エマルション)、SLA-ナノミョウバン(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ナノミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、SLA-AF(合成MPL[SLA]、水性懸濁液)、GLA-AF(合成MPL[GLA]、水性懸濁液)、SLA-ミョウバン(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、GSK ASxxシリーズのアジャウバント内のいくつか、例えば、AS01(MPL、QS21、リポソーム)、AS02(MPL、QS21、油/水エマルション)、AS25(MPL、油/水エマルション)、AS04(MPL、アルミニウム塩)、及びAS15(MPL、QS21、CpG、リポソーム)。例えば、下記を参照されたい:国際公開第2013/119856号パンフレット、同第2006/116423号パンフレット、米国特許第4,987,237号明細書、同第4,436,727号明細書、同第4,877,611号明細書、同第4,866,034号明細書、同第4,912,094号明細書、同第4,987,237号明細書、同第5191072号明細書、同第5593969号明細書、同第6,759,241号明細書、同第9,017,698号明細書、同第9,149,521号明細書、同第9,149,522号明細書、同第9,415,097号明細書、同第9,415,101号明細書、同第9,504,743号明細書、Reed G,et al.,2013,上記参照、Johnson et al.,1999,J Med Chem,42:4640-4649、及びUlrich and Myers,1995,Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach;Powell and Newman,Eds.;Plenum:New York,495-524。
【0059】
TLR4アゴニストアジュバントとして、非糖脂質分子も使用し得、例えば、Neoseptin-3等の合成分子、又はLeIF等の天然分子も使用し得、例えば、Reed SG et al,2016,上記参照を参照されたい。
【0060】
別の態様では、本発明は、医薬品としての使用のための、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0061】
さらなる態様では、本発明は、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌に対する免疫反応を誘発するための医薬品としての、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物の使用に関する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「免疫原」、又は「免疫原性」、又は「抗原」という用語は、単独、アジュバントとの併用、又は提示ビヒクル上での提示のいずれかでのレシピエントへの投与により、それ自体に対する免疫反応を誘発し得る分子を説明するために互換的に使用される。
【0063】
本明細書で使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的反応」又は「免疫反応」は、対象中における、この抗原又はこの組成物中に存在する抗原に対する体液性の及び/又は細胞性の免疫反応の発生を指す。
【0064】
さらなる態様では、本発明は、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌により引き起こされる細菌感染に対する免疫反応の誘発での使用のための、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物に関する。
ある特定の実施形態では、この細菌感染は、スタフィロコッカス・サプロフィチカス(Staphylococcus saprophyticus)又はスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、プロテウス種(Proteus spp.)、セラチア種(Serratia spp.)、又はシュードモナス種(Pseudomonas spp.)により引き起こされる。好ましい実施形態では、この細菌感染は、クレブシエラ種(Klebsiella spp.)又は大腸菌(E.coli)により引き起こされる。最も好ましい実施形態では、この細菌感染は、大腸菌(E.coli)により引き起こされる。そのため、一実施形態では、本発明は、大腸菌(E.coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)(好ましくは大腸菌(E.coli))に対する免疫反応を誘発するための医薬品としての、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物の使用に関する。
【0065】
好ましい実施形態では、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌により引き起こされる細菌感染は、大腸菌(E.coli)による感染であり、例えば、ExPECによる感染であり、より具体的には、尿路感染(UTI)である。一実施形態では、本発明は、対象中においてUTIと関連する症状及び/又は後遺症の処置、予防、又は抑制での使用のための、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物に関する。ある特定の実施形態では、前記UTIは、rUTIである。大腸菌(E.coli)は、若い女性及び高齢者における重要な健康管理問題であるUTI及びrUTIの主要な病原体の一つである。そのため、好ましい実施形態では、細菌感染は、大腸菌(E.coli)により引き起こされるUTI又はrUTIである。
【0066】
一実施形態では、本発明は、必要な対象中における腸内細菌関連状態と関連する症状及び/又は後遺症を処置するか、予防するか、又は抑制する方法に関する。この方法は、この対象に、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物の有効な量を投与することを含む。好ましくは、この投与により、腸内細菌関連状態の処置又は予防で有効な免疫反応が誘発される。好ましくは、腸内細菌関連状態は、泌尿生殖道感染であり、より具体的にはUTI又はrUTIである。
【0067】
本発明はまた、エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌に引き起こされる細菌感染(好ましくは、大腸菌(E.coli)により引き起こされる細菌感染)の処置、予防、又は抑制のための医薬品の製造のための、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、説明されているポリヌクレオチド、又は本明細書で説明されている医薬組成物の使用にも関する。より好ましくは、この細菌感染は、大腸菌(E.coli)により引き起こされるUTI又はrUTIである。
【0068】
さらなる態様では、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターに関する。ある特定の実施形態では、このベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり、好ましくはプラスミドである。このベクターは、好ましくはDNAの形態であり、例えばDNAプラスミドの形態である。ある特定の実施形態では、このベクターは、プロモーターに作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含み、このことは、このポリヌクレオチドがプロモーターの制御下にあることを意味する。このプロモーターは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流(例えば、プラスミド中の発現カセット中)に位置し得る。
【0069】
本発明は、更に、本発明のポリペプチドの製造方法であって、本明細書で説明されているFimHレクチンドメインを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び/又は本明細書で説明されているベクターを含む組換え細胞を培養することであり、この培養を、このポリペプチドの製造に資する条件下で行なう、培養することを含む方法に関する。
【0070】
ある特定の実施形態では、この方法は、ポリペプチドを回収することを更に含み、任意選択的に、この回収の後に、医薬組成物への製剤化が続く。
【0071】
好ましくは、本発明に係るFimHレクチンドメインを含むポリペプチドを製造する方法で、大腸菌(E.coli)細胞(例えば大腸菌(E.coli)B21誘導体細胞)を使用する。
【0072】
ポリペプチドの回収は、好ましくは、当該技術分野で公知の従来のタンパク質精製方法を使用して実施し得る精製及び/又は単離工程を含む。そのような方法は、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含み得る。
【0073】
そのような精製及び/又は単離の典型例は、タンパク質に対する抗体、又はタンパク質構造の一部として発現しているHis-タグ又は開裂可能なリーダー若しくはテイルを利用し得る。ある特定の実施形態では、本明細書で説明されているポリペプチドは、His-タグを含み、IMAC親和性精製等の方法により精製される。ある特定の実施形態では、本明細書で説明されているポリペプチドは、His-タグを含まず、そのような場合には、精製を、カチオン交換クロマトグラフィー(cIEX)及び疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により実施する。
【0074】
定義
背景技術及び本明細書全体を通して、様々な刊行物、論文、及び特許が引用されているか又は説明されているが、これらの参考文献のそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文献、行為、材料、デバイス、物品、又は同類のものの説明は、本発明に関する状況を提供することを目的とするものである。そのような説明は、これらの内容のいずれか又は全てが、開示されたか又は特許請求されたあらゆる発明に関する先行技術の一部を形成することを認めるものではない。
【0075】
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で引用されるある特定の用語は、本明細書で規定されている意味を有する。本明細書で引用されている全ての特許、公開済みの特許出願、及び刊行物は、本明細書に完全に記載されているかのように、参照により組み込まれる。本明細書で使用される場合、及び添付した特許請求の範囲において、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別途文脈が明確に指示しない限り複数の言及を含むことに留意しなければならない。
【0076】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、別途文脈が必要としない限り、「含む」という語句、並びに「含む」及び「含んでいる」等の変形形態は、規定の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を包含するが、任意の他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を除外するものではないことを意味することが理解されるだろう。本明細書で使用される場合、「含んでいる(comprising)」という用語は、「含んでいる(containing)」若しくは「含んでいる(including)」という用語に置き換えられ得るか、又本明細書で使用される場合に「有する」という用語に置き換えられ得ることもある。
【0077】
本明細書で使用される場合、「からなる」は、特許請求の範囲の要素において規定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書で使用される場合、「本質的に~からなる」は、特許請求の範囲の基本的な特徴及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外するものではない。上記の「含んでいる(comprising)」、「含んでいる(containing)」、「含んでいる(including)」、及び「有する」という用語のいずれもが、本発明の態様又は実施形態の文脈において本明細書で使用される場合はいつでも、「~からなる」又は「本質的に~からなる」という用語に置き換えられて、本開示の範囲を変更し得る。
【0078】
本明細書で使用される場合、多数の列挙された要素の間を接続する「及び/又は」という用語は、個々の選択肢及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものと理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」により接続されている場合には、第1の選択肢は、第2の要素を含まない第1の要素を適用することを指す。第2の選択肢は、第1の要素を含まない第2の要素を適用することを指す。第3の選択肢は、第1の要素及び第2の要素を共に適用することを指す。これらの選択肢のいずれか1つは、本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語の意味の範囲内に含まれ、したがって「及び/又は」という用語の要件を満たすものと理解される。複数の選択肢を同時に適用することはまた、「及び/又は」という用語の意味の範囲内に含まれ、したがって「及び/又は」という用語の要件を満たすものとも理解される。
【0079】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明に係る組成物の有効性又は本発明に係る組成物の生物学的活性に干渉しない非毒性物質を指す。「薬学的に許容される担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入、又は医薬製剤での使用のための当該技術分野で公知の他の物質を含み得る。薬学的に許容される担体の特性は特定の用途のための投与経路に依存することが理解されるだろう。特定の実施形態によれば、本開示に照らして、本発明では、ワクチンでの使用に適した任意の薬学的に許容される担体を使用し得る。好適な賦形剤として下記が挙げられるが、これらに限定されない:滅菌水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール、又は同類のもの、及びこれらの組み合わせ、並びに安定剤、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、又は他の好適なタンパク質及び還元糖。
【0080】
本明細書で使用される場合、「有効な量」という用語は、対象中において所望の生物学的反応又は医学的反応を誘導する、有効成分又は有効構成成分の量を指す。有効な量を、記述されている目的に関して、実験的に且つ通例の様式で決定し得る。例えば、インビトロアッセイを、任意選択的に、最適な投与量範囲の特定を助けるために利用し得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「患者」は、本発明の実施形態に係る方法又は組成物によりワクチン接種されることになるか又はワクチン接種されているあらゆる動物を意味しており、好ましくは哺乳動物を意味しており、最も好ましくはヒトを意味している。「哺乳動物」という用語は、本明細書で使用される場合、あらゆる哺乳動物を包含する。哺乳動物の例として、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒト等が挙げられるが、これらに限定されず、最も好ましくはヒトが挙げられる。ある特定の実施形態では、対象は、成人である。本明細書で使用される場合、「成人」という用語は、18歳以上のヒトを指す。ある特定の実施形態では、対象は、18歳未満であり、例えば0~18歳であり、例えば、9~18歳であるか、又は12~18歳である。ある特定の実施形態では、対象は、約18~約50歳のヒト対象である。ある特定の実施形態では、対象は、約50~約100歳のヒトであり、例えば、50~85歳、60~80歳、50歳以上、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上、85歳以上のヒトである。一部の実施形態では、対象は、85歳以下であり、80歳以下であり、75歳以下である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、男性である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、女性である。
【0082】
本明細書で使用される場合、「UTI」は、腎臓、膀胱、尿管、又は尿道の感染を意味する。UTIの症状として、下記の内の1又は複数が挙げられ得る:排尿時の灼熱感、頻尿又は強い尿意、排尿の不完全さ、外見及び/又は匂いが異常な尿、尿中の白血球の増加、疲労感又は震え、意識の混乱、発熱又は悪寒、倦怠感、背中、下腹部、骨盤、又は膀胱の疼痛又は圧迫。しかしながら、一部の患者では、無症状であり得るか、又は症状が非特異的であり得る。UTIの後遺症として、侵襲性疾患及び敗血症等の全身性の合併症が挙げられ得る。ある特定の実施形態では、UTIは、臨床的に及び/又は微生物学的に実証されており、例えば、尿の細菌培養及び/又は分子法若しくは他の方法で確認される。ある特定の実施形態では、対象は、UTIを過去に有したことがあるか又は現在有しているヒト対象である。ある特定の実施形態では、対象は、過去2年以内に、過去1年以内に、又は過去6ヶ月以内に、UTIを有したことがある。ある特定の実施形態では、対象は、再発性UTI(rUTI)を有したことがあるか、又は現在有している。「rUTI」は、本明細書で使用される場合、6ヶ月での少なくとも2回の感染を意味しているか、又は1年での少なくとも3回のUTIを意味している。ある特定の実施形態では、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、本発明のFimCH複合体、又は本発明の組成物が投与される対象は、過去2年以内に、過去1年以内に、又は過去6ヶ月以内に、少なくとも2回UTIに罹患したことがある。ある特定の実施形態では、この対象は、複雑なUTIに罹患したことがある。「複雑なUTI」は、本明細書で使用される場合、尿生殖路の構造的若しくは機能的な異常、又は基礎疾患の存在等の状態を伴うUTIを意味する。ある特定の実施形態では、UTIにより、尿中の白血球の数の増加、又は他の尿の異常が引き起こされる。ある特定の実施形態では、UTIを有する対象は、尿中に多数の細菌が存在しており(即ち、この尿は無菌ではない)、例えば、細菌細胞数が、少なくとも約10個の細胞/mLであり、少なくとも約100個の細胞/mLであり、少なくとも約10個の細胞/mLであり、例えば、少なくとも約10個の細胞/mLであり、例えば、少なくとも約10個の細胞/mLである。
【0083】
本明細書で使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的反応」又は「免疫反応」は、対象における、抗原、又は組成物中に存在する抗原に対する体液性及び/又は細胞性の免疫反応の発生を指す。
【0084】
別途指示されない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の各要素に関すると理解すべきである。
【0085】
「約(about)」又は「約(approximately)」という用語は、数値(例えば約10)と関連して称される場合、好ましくは、この値が、所与の値(10)10%程度、好ましくはこの値の5%程度であり得ることを意味する。
【0086】
「相同性」、「配列同一性」という用語、及び同類のものは、本明細書では互換的に使用される。配列同一性は、本明細書では、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド若しくはタンパク質)配列、又は2つ以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列の、これらの配列を比較することにより決定した場合での関係と定義される。当該技術分野では、「同一性」はまた、アミノ酸配列間又は核酸配列間の、場合によってはそのような配列のストリング間の一致により決定した場合での、配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、あるポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存アミノ酸置換と、別のポリペプチドの配列とを比較することにより決定される。「同一性」及び「類似性」を、既知の方法により容易に算出し得る。
【0087】
「配列同一性」及び「配列類似性」を、2つの配列の長さに応じてグローバルな又はローカルなアラインメントアルゴリズムを使用する、2つのペプチド配列又は2つのヌクレオチド配列のアラインメントにより決定し得る。長さが類似している配列を、好ましくは、全長にわたり配列を最適にアラインさせるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えばNeedleman Wunsch)を使用してアラインさせ、長さが実質的に異なる配列を、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えばSmith Waterman)を使用してアラインさせる。次いで、これらの配列を、これらの配列が(例えばデフォルトパラメータを使用するプログラムGAP又はBESTFITにより最適にアラインさせた場合に)配列同一性の少なくともある程度最低限の割合(下記で定義される)を共有する場合に、「実質的に同一」又は「本質的に類似」と称し得る。GAPは、Needleman and Wunschグローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、2つの配をその全長(完全長)にわたりアラインさせ、一致の数を最大化させ、且つギャップの数を最小化させる。グローバルアラインメントは、2つの配列は長さが類似している場合に配列同一性を決定するために好適に使用される。一般的に、下記のGAPデフォルトパラメータが使用される:ギャップ作成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)。ヌクレオチドの場合、使用されるデフォルトスコアリングマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合、デフォルトスコアリングマトリックスは、Blosum62である(Henikoff & Henikoff,1992,PNAS 89,915-919)。配列アラインメント及び配列同一性割合のスコアを、コンピュータプログラム(例えば、GCG Wisconsin Package,Version 10.3、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121-3752 USAから入手可能)を使用して決定し得るか、又は上記GAPの場合と同一のパラメータを使用するか、若しくはデフォルト設定(「needle」及び「water」の両方、並びにタンパク質アラインメント及びDNAアラインメントの両方に関して、デフォルトGapオープニングペナルティは10.0であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは0.5であり;デフォルトスコアリングマトリックスは、タンパク質の場合はBlosum62であり、DNAの場合はDNAFullである)を使用して、EmbossWIN バージョン2.10.0のオープンソースソフトウェア、例えば、プログラム「needle」(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを使用する)若しくは「water」(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを使用する)を使用して決定し得る。配列が全長にわたり実質的に異なる場合には、ローカルアルゴリズム(例えば、Smith Watermanアルゴリズムを使用するもの)が好ましい。
【0088】
或いは、類似性又は同一性の割合を、例えば、FASTA、BLAST等のアルゴリズムを使用して公的データベースに対して検索することにより決定し得る。そのため、本発明の核酸配列及びタンパク質配列を、更に、例えば他のファミリメンバー又は関連配列を同定すべく公的データベースに対する検索を実施するための「クエリー配列」として使用し得る。そのような検索を、Altschul,et al. (1990)J.Mol.Biol.215:403-10のBLASTnプログラム及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施し得る。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実施して、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、BLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施して、本発明のタンパク質配列に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためにギャップ付アリンメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402で説明されているように利用し得る。BLASTプログラム及びGapped BLASTプログラムを利用する場合には、それぞれのプログラム(例えば、BLASTx及びBLASTn)のデフォルトパラメータを使用し得る。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/でのthe National Center for Biotechnology Informationのホームページを参照されたい。
【0089】
配列の説明
【0090】
【表1】
【0091】
FimHポリペプチドの配列の他の例は、米国特許第6,737,063号明細書(例えば、この明細書中の配列番号23~45又は55の内のいずれか1つ)で説明されており、これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0092】
本発明の下記の実施例により、本発明の性質を更に説明する。下記の実施例は本発明を限定せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により決定されるものであることを理解すべきである。
【0093】
実施例1:新規のバリアントの設計-SPRデータ
ワクチンの有効性でのFimH立体構造変化の影響を理解するために、タンパク質を低親和性状態に潜在的に固定し得る様々な変異を含むFimHのいくつかのバリアントを設計し、膀胱での細菌の付着及びコロニー形成を減少させ得る機能的抗体を誘発する最良のFimHバリアントを特定することを目指した。
【0094】
材料及び方法
FimHの設計及び発現
FimC及びFimHを、ペリプラズム中での発現のために異種シグナル配列を使用し、且つ固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)を使用する親和性精製のためにFimCでC末端His-タグを使用して、pET-DUETベクター中で発現させた。IPTGを使用して発現を誘発させ、IMAC精製(Talon)を使用してタンパク質を抽出して精製した。
【0095】
SPR
FimHレクチンドメインバリアントと、nヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガンドとの相互作用の結合親和性及び速度論の詳細な洞察を得るために、表面プラズモン共鳴(SPR)測定を実施した。簡潔に説明すると、全てのFimHバリアントを、HBS-N(0.01MのHEPES、pH7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.05%の界面活性剤P20)中の3又は10μMのいずれかの最高濃度で、マンノシドリガンド5表面に滴定した(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)。タンパク質を、シングルサイクルキネティクス注入(single cycle kinetics injection)を使用して、0.12~10μM又は0.036~3.0μMで注入した。
【0096】
結果
いくつかのFimHバリアントを設計し、機能的阻害活性を誘発し得、それにより、幅広い適用範囲を提供しつつ細菌が膀胱細胞に結合することを防ぐFimHレクチンドメインの発見を目標とした。好適なFimHレクチンドメインバリアントの発見の可能性を最適化するために、予測される作用機序が異なるバリアントを選択した。
【0097】
既に説明されている変異体FimH_Q133K及びFimH_R60Pは、結合ポケット中のマンノース相互作用残基中に変異を有する。この変異は、マンノースとの結合相互作用に直接影響を及ぼすと予想される。これらの変異体を、陽性コントロールとして採用した。二重変異体R60P_Q133Kを、潜在的に増強された効果を調べるために一緒に採用した。加えて、野生型(WT)FimHレクチンドメインを、陰性コントロールとして一緒に採用した。いくつかのさらなるFimH変異体(本明細書で「変異体1」及び「変異体2」と称されるものを含む)を作製し、機能的阻害抗体を得ることを目的とするパネルの候補として試験した。
【0098】
最初に、マンノースへの結合に関するバリアント親和性を、SPRを使用して評価した。結果を表2に示す。予想されるように、FimHのマンノース結合ポケット中に変異を有するレクチンドメインバリアント(Q133K及びR60P_Q133K)は、マンノシドに全く結合しなかった。R60P変異体は、予想されるように、マンノシドに対して低い親和性を示した。
【0099】
F142Vは、マンノシドに対してある程度の親和性を依然として示しており、このことは、この変異がマンノシドへの結合を完全に消失させなかったことを示す。F144V置換を含むFimHレクチンドメインバリアントでは、マンノシドへの結合が完全に消失した。F144V変異と比較した場合にアミノ酸配列中の位置が非常に近いことを考慮すると、マンノシドへの結合にF142VとF144Vとの間で差違が見られることは驚きであった。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例2:阻害抗体を誘発する能力
親和性が低い高次構造のFimHに対して生成された抗体は、細菌細胞をブロックし得、且つ膀胱中でのコロニー形成を減少させ得ることが分かっている。親和性が低い高次構造に固定されたFimHの様々なバリアントにより誘発される抗体の機能性を評価するために、付着阻害アッセイ(AIA)を使用した。
【0102】
材料及び方法:
免疫付与
Wistarラットに、非フロイントアジュバントと組み合わせた上記のFimHバリアント(60μg 各バリアント/用量)により0、7、10、及び18日目に4回の筋肉内(i.m.)免疫付与を行なった(Speedyラット28日モデル、Eurogentec)。血清抗体の機能性を、下記で説明する付着阻害アッセイ(AIA)により、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に調べた。
【0103】
付着阻害アッセイ(AIA)
細菌(大腸菌(E.coli)J96)を、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)で標識した。標識した細菌を、37℃で1時間にわたり膀胱尿路上皮細胞(5637細胞株)に接種した。付着菌の%を、フローサイトメトリーにより測定した。血清阻害の評価のために、細菌を、37℃で30分にわたり血清サンプルと共に予めインキュベートし、次いで5637細胞と混合した。
【0104】
ELISA
96ウェルプレートを、1ug/mLのFimHで一晩コーティングした。洗浄後、コーティングされたプレートを、室温で1時間にわたり、ブロッキング緩衝剤[リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+2%ウシ血清アルブミン(BSA)]と共にインキュベートする。PBS+0.05%のTween 20による洗浄後、このプレートに血清を添加し、次いで室温で1時間にわたりインキュベートする。洗浄後、各ウェルに、室温で1時間にわたり、2%のBSAを含むPBSで希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ラット抗体を添加する。最終洗浄後、この反応を、テトラメチルベンジジン基質で現像する。この反応を1Mのリン酸で停止させ、450nmで吸光度を測定する。
【0105】
結果
血清抗体阻害力価を、4パラメータロジスティック回帰モデルに基づいて半最大阻害濃度(IC50)として算出した。加えて、様々なFimHバリアント(総IgG)により誘発された血清抗体のレベルを、ELISAにより評価した。半最大有効濃度として定義されるEC50力価を、4PL非線形回帰モデルで解析した二重の12段階滴定曲線に基づいて算出した。
【0106】
FimHバリアントのそれぞれにより誘発された阻害抗体の大きさの評価により、FimH-23-10_F144Vが最高レベルの機能性抗体を誘発し得ることが分かり(図1)、このことは、本発明以前では驚くべきことであり且つ完全に予測不可能なことであった。この結果に基づいて、F144V置換を含むFimHレクチンドメインを、主要な候補として選択した。
【0107】
実施例3:抗体の機能性
抗体の機能性を、阻害抗体が存在するかどうかを評価するために精製済IgG調製物を使用する生物層インターフェロメトリー解析(Octet,Pall Fortebio)で評価した。簡単に言うと、4種の異なる濃度の精製済IgG(0~125マイクログラム/ml)を、本明細書で説明されているFimHバリアントと混合した。混合後、FimHレクチンドメインタンパク質を、(ビオチンストレプトアビジン化学を使用して)ビオチン標識モノマンノシドで予め固定化されたバイオセンサーに結合する能力に関して評価した。会合及び解離を、600秒にわたり測定し、会合中の反応(単位ナノメートル(nm))を、算出して比較した。このことを、マンノースへのFimHの結合を阻害するFimHバリアントの能力を評価するために、ブランクコントロールと比較してマンノシドにより行なった。
【0108】
結果
FimH結合ポケット高次構造の変化(この変化により、マンノシドへのFimHの低い、中程度の、又は高い親和性の結合がもたらされる)は、尿路上皮細胞への細菌の結合に重要な役割を果たす。マンノースに対する親和性が低い高次構造に対する抗体は、細菌付着に対する阻害効果を有するであろうことが示唆されている。この示唆を分析し、且つワクチン有効性へのFimH高次構造の変化の影響を更に理解するために、FimHレクチンドメインバリアントで免疫付与したラットの血清からの精製済IgGを、生物層インターフェロメトリー(BLI)による単純なマンノシド(モノマンノース-ビオチン)へのFimHの結合を減少させる能力に関してスクリーニングした。
【0109】
FimHレクチンドメインで免疫付与したラットからの血清中の阻害抗体の存在に関するBLIスクリーニングにより、FimH-23-10_F144Vが、固定化されたモノマンノシドへの低親和性及び高親和性両方のFimHレクチンドメインタンパク質の結合を阻害し得ることが示された(データは示さない)。
【0110】
実施例4:特徴付けられた阻害mAb 475及び926に結合する能力
FimHのレクチンドメイン中での変異により、FimHの結合ポケット中に存在するエピトープ等の強力で機能的な免疫反応の誘発で重要なエピトープの喪失が引き起こされ得る。本明細書で説明されている変異において結合ポケットの完全性が損なわれていないことを確実にするために、変異体FimHレクチンドメインへのモノクローナル抗体(mAb) mAb475及びmAb926の結合を評価した。mAb475及びmAb926は、FimHのマンノース結合ポケット内のFimHレクチンドメイン上の重複しているが異なるエピトープを認識する(Kisiela et al. 2013-2015)。
【0111】
結果
変異したFimHレクチンドメインは、国際公開第02102974号パンフレットで既に説明されている。国際公開第02102974号パンフレットでは、ほとんど特定されていない変異の可能な変異の広範なリスト(約159個のアミノ酸の長さであるFimHのレクチンドメインで示唆されている65個の可能な変異部位)が説明されている。しかしながら、国際公開第02102974号パンフレットでは、54位、133位、又は135位でアミノ酸置換を有するFimHレクチンドメインが最も有望な候補であり、FimH_Q133Kが非常に好ましい選択肢と明確に述べられている。したがって、FimH-23-10_Q133Kが機能的mAb475により認識されなかったことは非常に驚くべきことであり、このことは、結合ポケットの完全性の問題を示す(表3)。対照的に、FimH-23-10_F144VはmAb475及びmAb926の両方により認識されており、このことは、結合ポケットが完全に無傷のままであることを示す(表3)。
【0112】
【表3】
【0113】
そのため、結論として、全てのFimHバリアントの内、FimH_F144Vは、マンノースに対する親和性の大幅な減少を示しており(このことは、このバリアントが、マンノース高次構造に対する親和性が低かったことを示す)、且つ固定化されたモノマンノシドへの低親和性及び高親和性の両方のFimHレクチンドメインタンパク質の結合を阻害し得た。更に、FimH_F144Vは、試験された全ての変異の中で最高レベルの機能的抗体を誘発し、且つ無傷の結合ポケットを有することが示された。この変異体はまた、FimCH複合体でも製造可能であった。結論として、144位でバリンを有するFimHレクチンドメインは、このドメインがワクチン成分として非常に好適となる特徴の驚くべき組み合わせを有しており、即ち、これまで焦点が当てられていると見られるFimHベースのワクチンを開発するための努力が行なわれている野生型と比べて優れており、且つ本明細書で試験された他のバリアントと比べて優れている。

以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドであって、前記FimHレクチンドメインは、配列番号1の144位に対応する位置で、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、ポリペプチド。
[発明2]
前記ポリペプチドは、変異を含み、前記変異は、F144V置換である、発明1に記載のポリペプチド。
[発明3]
前記FimHレクチンドメインは、配列番号1との少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、好ましくは、前記FimHレクチンドメインは、144位のフェニルアラニン残基がバリンに置換されている配列番号1を含む、発明1又は2に記載のポリペプチド。
[発明4]
前記ポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含む、発明1~3のいずれか一つに記載のポリペプチド。
[発明5]
前記ポリペプチドは、配列番号2との少なくとも90%の配列同一性を有する完全長FimHであり、好ましくは、前記FimHは、144位のフェニルアラニン残基がバリンに置換されている配列番号2を含む、発明1~4のいずれか一つに記載のポリペプチド。
[発明6]
発明4又は5に記載のポリペプチドと、FimC(FimCH)とを含む複合体。
[発明7]
発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[発明8]
発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチド、発明6に記載の複合体、又は発明7に記載のポリヌクレオチドを含む医薬組成物。
[発明9]
前記組成物は、アジュバントを更に含む、発明8に記載の医薬組成物。
[発明10]
医薬品としての使用のための発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチド、発明6に記載の複合体、発明7に記載のポリヌクレオチド、又は発明8若しくは9に記載の医薬組成物。
[発明11]
エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫反応の誘発での使用ための発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチド、発明6に記載の複合体、発明7に記載のポリヌクレオチド、又は発明8若しくは9に記載の医薬組成物。
[発明12]
前記細菌は、大腸菌(E.coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)であり、好ましくは大腸菌(E.coli)である、発明11に記載の使用のためのポリペプチド、ポリヌクレオチド、複合体、又は医薬組成物。
[発明13]
対象中において大腸菌(E.coli)により引き起こされる尿路感染の予防又は処置における使用のための発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチド、発明6に記載の複合体、発明7に記載のポリヌクレオチド、又は発明8若しくは9に記載の医薬組成物。
[発明14]
必要な対象中における腸内細菌関連状態を処置するか又は予防する方法であって、前記対象に、発明1~5のいずれか一つに記載のポリペプチド、発明6に記載の複合体、発明7に記載のポリヌクレオチド、又は発明8若しくは9に記載の医薬組成物の有効な量を投与することを含む方法。
[発明15]
発明7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[発明16]
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドを製造する方法であって、発明7に記載のポリヌクレオチド及び/又は発明15に記載のベクターを含む組換え細胞から前記ポリペプチドを発現させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記ポリペプチドを回収して精製することを更に含み、任意選択的に、前記精製の後に、前記ポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、方法。
図1