(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】真空シール装置、及び、駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/324 20160101AFI20240509BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240509BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240509BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20240509BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20240509BHJP
【FI】
F16J15/324
F16J15/18 C
F16J15/3204 201
F16J15/3212
F16J15/3252
(21)【出願番号】P 2022558877
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2021031338
(87)【国際公開番号】W WO2022091550
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020180316
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 孝治
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/080986(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3217649(JP,U)
【文献】特開2020-144068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/324
F16J 15/18
F16J 15/3204
F16J 15/3212
F16J 15/3252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーの内側である真空側と、前記真空チャンバーの外側である大気側とに跨って配置されるハウジングと、
前記ハウジングを貫通するように配置され、中心軸線回りに回転することで前記大気側から前記真空側に回転動力を伝達する回転伝達部材と、
前記回転伝達部材の外周面に滑り接触するように配置され、前記ハウジングと前記回転伝達部材との間を密閉するシール部材と、を備え、
前記ハウジングは、前記シール部材を支持するシール支持部を備え、
前記ハウジングのうち、前記シール支持部に対して径方向外側に位置
する領域には、冷却流体が流れる外側冷却通路が形成され
、
前記ハウジングには、内部に冷却流体が流れる内側冷却通路が設けられ、
前記内側冷却通路は、前記シール部材のうち前記回転伝達部材に接触する滑り接触部と、前記回転伝達部材と、に対して前記大気側から臨んでいる真空シール装置。
【請求項2】
前記外側冷却通路には、前記冷却流体として液体が導入され、
前記内側冷却通路には、前記冷却流体として気体が導入される請求項
1に記載の真空シール装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記ハウジングと前記回転伝達部材との間に、当該回転伝達部材の軸方向に沿って複数個配置されている請求項
1または2に記載の真空シール装置。
【請求項4】
前記シール部材は、
前記シール支持部に固定される基部と、
前記基部から径方向内側に向かって延びるとともに、前記回転伝達部材の外周面に滑り接触する環状のシール部と、前記シール部から前記基部に跨るように埋め込まれた芯金と、を備えている請求項
1~3のいずれか1項に記載の真空シール装置。
【請求項5】
前記芯金は、前記ハウジングに接触している請求項
4に記載の真空シール装置。
【請求項6】
前記シール支持部は、
前記回転伝達部材の外周面に向かい合う内周壁と、
前記内周壁の軸方向の一端部から径方向内側に向かって延びる端部壁と、を有し、
前記芯金は、前記端部壁に接触している請求項
5に記載の真空シール装置。
【請求項7】
前記ハウジングは、
軸方向の一端側に開口する凹溝を有する第1ハウジングと、
前記凹溝の開口を閉塞して、前記凹溝とともに前記外側冷却通路を構成する第2ハウジングと、を備え、
前記第2ハウジングは、
前記内側冷却通路の一部を構成する周壁と、
前記周壁の一端部に設けられ、かつ、前記凹溝を形成する内面のうち少なくとも径方向内側に位置する面に対して密に嵌め込まれる突起部と、を備えている請求項
1または2に記載の真空シール装置。
【請求項8】
真空チャンバーの外側である大気側に配置された駆動装置と、
前記真空チャンバーの内部である真空側に配置された被駆動部に対して前記駆動装置の動力を伝達するとともに、前記真空チャンバーへの大気の進入を規制する真空シール装置と、を備え、
前記真空シール装置は、
前記真空チャンバーの前記真空側と前記大気側とに跨って配置されるハウジングと、
前記ハウジングを貫通するように配置され、中心軸線回りに回転することで前記駆動装置から前記被駆動部に回転動力を伝達する回転伝達部材と、
前記回転伝達部材の外周面に滑り接触するように配置され、前記ハウジングと前記回転伝達部材の間を密閉するシール部材と、を備え、
前記ハウジングは、前記シール部材を支持するシール支持部を備え、
前記ハウジングのうち、前記シール支持部に対して径方向外側に位置する領域には、冷却流体が流れる外側冷却通路が形成され
、
前記ハウジングには、内部に冷却流体が流れる内側冷却通路が設けられ、
前記内側冷却通路は、前記シール部材のうち前記回転伝達部材に接触する滑り接触部と、前記回転伝達部材と、に対して前記大気側から臨んでいる駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内への大気の進入を抑制しつつ、真空チャンバーの外部から内部に回転動力を伝達する真空シール装置、及び、駆動伝達装置に関する。
本願は、2020年10月28日に日本に出願された特願2020-180316号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハや液晶基板等の製造工場では、パーティクルを嫌い、精巧な処理を必要とする。そのため、搬送ロボット等の作動部が真空チャンバー(内部を真空状態にした部屋)内に配置されることがある。作動部には、駆動伝達装置の回転動力が真空チャンバーの外部から伝達される。駆動伝達装置のうちモータ等の駆動装置は、真空チャンバーの外部に配置される。駆動伝達装置のうち回転伝達部材は、真空チャンバーの隔壁を貫通して、真空チャンバー内で作動部に連結される。真空チャンバーの隔壁の貫通孔と回転伝達部材との間の隙間を通して真空チャンバーの内部に大気が進入するのを規制するために、駆動伝達装置には真空シール装置が装備されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の真空シール装置は、ハウジングと、回転伝達部材と、直接接触式のシール部材と、を備えている。ハウジングは、真空チャンバーの内外(真空側と大気側)に跨って配置される。回転伝達部材は、ハウジングを貫通して大気側から真空側に回転動力を伝達する。シール部材は、回転伝達部材の外周面に滑り接触して、ハウジングと回転伝達部材の間を密閉する。ハウジングには、回転伝達部材の外周面と、シール部材の滑り接触部と、に大気側から臨むように冷却通路が形成されている。冷却通路には冷却空気や冷却液等の冷却流体が流される。
【0004】
真空シール装置では、回転伝達部の駆動に伴い、ハウジングに取り付けられたシール部材が、回転伝達部材の外周面に滑り接触する。これにより、回転伝達部材とハウジングとの間を通して大気が真空チャンバー内に進入するのを規制できる。
シール部材は、回転伝達部材との滑り接触で発生する熱によって劣化する可能性がある。シール部材が劣化すると、シール部材のシール性能が低下する虞がある。このため、真空シール装置では、回転伝達部材の外周面とシール部材の滑り接触部とに冷却流体を流すことにより、発熱によるシール部材の劣化が未然に抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の真空シール装置は、ハウジングのうちの、大気側において回転伝達部材とシール部材の滑り接触部とに臨む位置に冷却流路が形成されている。このため、シール部材のうちの、真空側に配置される部分が冷却流体によって冷却されにくくなる。特に、ハウジングと回転伝達部材との間に、シール部材が軸方向に沿って複数段に配置される場合には、真空側に配置されるシール部材には冷却流体がまったく接触しなくなる。その結果、滑り接触による熱がシール部材の一部に滞留し易くなる。
【0007】
本発明は、シール部材の大気側から真空側に跨る広い領域において、シール部材の熱を効率良く取り除くことができる真空シール装置、及び、駆動伝達装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様に係る真空シール装置は、真空チャンバーの内側である真空側と、前記真空チャンバーの外側である大気側とに跨って配置されるハウジングと、前記ハウジングを貫通するように配置され、中心軸線回りに回転することで前記大気側から前記真空側に回転動力を伝達する回転伝達部材と、前記回転伝達部材の外周面に滑り接触するように配置され、前記ハウジングと前記回転伝達部材との間を密閉するシール部材と、を備え、前記ハウジングは、前記シール部材を支持するシール支持部を備え、前記ハウジングのうち、前記シール支持部に対して径方向外側に位置する領域には、冷却流体が流れる外側冷却通路が形成され、前記ハウジングには、内部に冷却流体が流れる内側冷却通路が設けられ、前記内側冷却通路は、前記シール部材のうち前記回転伝達部材に接触する滑り接触部と、前記回転伝達部材と、に対して前記大気側から臨んでいる。
【0009】
上記の構成により、大気側から回転動力を入力された回転伝達部材は、真空チャンバー内において、必要部位に回転動力を伝達する。このとき、ハウジングと回転伝達部材の間はシール部材によって密閉状態を維持される。ハウジングのシール支持部の径方向外側領域は外側冷却通路を流れる冷却流体によって冷却される。このため、シール部材の真空側の基部に滞留し易い摩擦熱を、外側冷却流路を流れる冷却流体によって取り除くことができる。
【0011】
(2)前記外側冷却通路には、前記冷却流体として液体が導入され、前記内側冷却通路には、前記冷却流体として気体が導入されるようにしても良い。
【0012】
(3)前記シール部材は、前記ハウジングと前記回転伝達部材の間に、当該回転伝達部材の軸方向に沿って複数個配置されるようにしても良い。
【0013】
(4)前記シール部材は、前記シール支持部に固定される基部と、前記基部から径方向内側に向かって延びるとともに、前記回転伝達部材の外周面に滑り接触する環状のシール部と、前記シール部から前記基部に跨るように埋め込まれた芯金と、を備えているようにしても良い。
【0014】
(5)前記芯金は、前記ハウジングに接触させるようにしても良い。
【0015】
(6)前記シール支持部は、前記回転伝達部材の外周面に向かい合う内周壁と、前記内周壁の軸方向の一端部から径方向内側に向かって延びる端部壁と、を有し、前記芯金は、前記端部壁に接触しているようにしても良い。
【0016】
(7)前記ハウジングは、軸方向の一端側に開口する凹溝を有する第1ハウジングと、前記凹溝の開口を閉塞して、前記凹溝とともに前記外側冷却通路を構成する第2ハウジングと、を備え、前記第2ハウジングは、前記内側冷却通路の一部を構成する周壁と、前記周壁の一端部に設けられ、かつ、前記凹溝を形成する内面のうち少なくとも径方向内側に位置する面に対して密に嵌め込まれる突起部と、を備えているようにしても良い。
【0017】
(8)本発明の一態様に係る駆動伝達装置は、真空チャンバーの外側である大気側に配置された駆動装置と、前記真空チャンバーの内部である真空側に配置された被駆動部に対して前記駆動装置の動力を伝達するとともに、前記真空チャンバーへの大気の進入を規制する真空シール装置と、を備え、前記真空シール装置は、前記真空チャンバーの前記真空側と前記大気側とに跨って配置されるハウジングと、前記ハウジングを貫通するように配置され、中心軸線回りに回転することで前記駆動装置から前記被駆動部に回転動力を伝達する回転伝達部材と、前記回転伝達部材の外周面に滑り接触するように配置され、前記ハウジングと前記回転伝達部材の間を密閉するシール部材と、を備え、前記ハウジングは、前記シール部材を支持するシール支持部を備え、前記ハウジングのうち、前記シール支持部に対して径方向外側に位置する領域には、冷却流体が流れる外側冷却通路が形成され、前記ハウジングには、内部に冷却流体が流れる内側冷却通路が設けられ、前記内側冷却通路は、前記シール部材のうち前記回転伝達部材に接触する滑り接触部と、前記回転伝達部材と、に対して前記大気側から臨んでいる。
【発明の効果】
【0018】
上述の真空シール装置は、ハウジングのシール支持部の径方向外側領域に設けられた外側冷却通路を冷却流体が流れる。そのため、シール部材の大気側から真空側に跨る広い領域において、シール部材の熱が効率良く取り除かれる。したがって、上述の真空シール装置を採用した場合には、シール部材のシール性能が長期亘って良好に維持される。
【0019】
上述の駆動伝達装置は、真空シール装置によってシール部材の大気側から真空側に跨る広い領域において、シール部材の熱を効率良く取り除くことができる。そのため、シール部材のシール性能を長期亘って良好に維持しつつ、駆動装置の動力を真空チャンバー内の被駆動部に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態の真空シール装置を採用した駆動伝達装置の部分断面側面である。
【
図3】実施形態の真空シール装置の
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、実施形態の真空シール装置10を採用した駆動伝達装置1の部分断面側面図である。
駆動伝達装置1は、真空チャンバー2(真空状態にされた部屋)の内外を仕切る隔壁3の一部に取り付けられている。真空チャンバー2の内部には、図示しない作動装置(搬送ロボット等)が設置されている。駆動伝達装置1の動力(回転力)は、真空チャンバー2の内部において、作動装置の被駆動部に伝達される。作動装置は、駆動伝達装置1から動力を受けて真空チャンバー2内で動作部(アーム部等)を作動させる。
【0023】
駆動伝達装置1は、駆動装置4と、真空シール装置10と、を備えている。駆動装置4は、大気側(真空チャンバー2の外部)に配置されている。真空シール装置10は、真空チャンバー2への大気の進入を規制しつつ駆動装置4の動力を真空チャンバー2内の作動装置(被駆動部)に伝達する。
【0024】
駆動装置4は、回転駆動力を発生する電動式のモータ5と、モータ5の回転力を所定の減速比に減速して出力軸6aから出力する減速機6と、を備えている。図中のo1は、出力軸6aの中心軸線である。
以下の説明では、中心軸線o1に沿う方向を「軸方向」と称し、中心軸線o1と直交する方向を「径方向」と称する。軸方向のうちの隔壁3に対して大気側を「軸方向外側」と称し、その逆側を「軸方向内側」と称する。径方向のうちの中心軸線o1に向かう側を「径方向内側」と称し、その逆側を「径方向外側」と称する。
【0025】
本実施形態では、モータ5と減速機6によって駆動装置4が構成されているが、駆動装置4はモータ5のみによって構成するようにしても良い。モータ5は、電動式に限定されるものではなく、空圧式や液圧式のモータであっても良い。
【0026】
図2は、
図1の真空シール装置10部分を拡大して示した断面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
真空シール装置10は、略筒状のハウジング11と、回転伝達部材12と、シール部材13と、を備えている。ハウジング11は、真空チャンバー2の内外(真空側と大気側)に跨って配置される。回転伝達部材12は、ハウジング11を軸方向に貫通して大気側(真空チャンバー2の外側)から真空側(真空チャンバー2の内側)に回転動力を伝達する。シール部材13は、ハウジング11と回転伝達部材12の間を密閉する。
【0027】
ハウジング11は、隔壁3の一部を貫通した状態で隔壁3に固定される第1ハウジング11Aと、第1ハウジング11Aの軸方向外側の端部に一体に結合された第2ハウジング11Bと、を備えている。第1ハウジング11Aと第2ハウジング11Bは金属材料によって形成されている。
【0028】
第1ハウジング11Aは、隔壁3の貫通孔3a(
図1参照)に嵌め込まれた孔あき円板状のベース壁14と、ベース壁14から軸方向外側に突出する筒状壁15と、を有する。ベース壁14と隔壁3の貫通孔3aの間はシール部材90(
図1参照)によって密閉されている。第1ハウジング11Aにおける径方向の中央領域には、ベース壁14と筒状壁15とを軸方向に貫通する貫通孔16が形成されている。貫通孔16の軸方向中央領域16cは、貫通孔16の軸方向内側領域(真空チャンバー2側の領域)よりも内径が縮小して形成されている。貫通孔16の軸方向外側領域は、軸方向中央領域16cに対して内径が段差状に拡大して形成されている。貫通孔16の軸方向外側領域は、シール部材13を支持するシール支持部17とされている。
【0029】
第1ハウジング11Aには、凹溝18が形成されている。凹溝18は、第1ハウジング11Aのうち、シール支持部17の径方向外側の領域に配置されている。凹溝18は、正面視が略C字状に形成されている。凹溝18は、筒状壁15の軸方向外側の端面(軸方向の一端側)に開口している。凹溝18は、シール支持部17の形成領域よりも軸方向に深く、かつ充分な径方向高さ(シール部材13の径方向高さよりも充分に高い径方向高さ)に形成されている。凹溝18は、第2ハウジング11Bの軸方向内側の端部によって閉塞される。凹溝18と第2ハウジング11Bの端部によって囲まれた空間部は、外側冷却通路19を構成している。外側冷却通路19の内部には、冷却流体として冷却液(液体)が導入される。
凹溝18の周方向の両端部は、
図3に示すように、仕切壁76によって仕切られている。仕切壁76の軸方向外側の端部には、溝(不図示)が形成されている。溝は、凹溝18を形成する内面のうち径方向内側に位置する周面を環状に繋ぐ(凹溝18のうち仕切壁76によって分断された部分を周方向で繋ぐ。)。
【0030】
外側冷却通路19は、
図3に示すように、略C字形状に形成されている。外側冷却通路19における周方向の一端部には、導入孔20aが設けられている。外側冷却通路19における周方向の他端部には、排出孔20bが設けられている。導入孔20aと排出孔20bは、筒状壁15を径方向に貫通している。導入孔20aには、冷却液の冷却配管が接続される。排出孔20bには、冷却液の排出配管が接続される。導入孔20aと排出孔20bは、筒状壁15の外周面上において、周方向で近接した位置に配置されている。このため、供給配管と排出配管とが、筒状壁15の外周面上の一箇所に集約される。
【0031】
第2ハウジング11Bは、
図2に示すように、円筒状の周壁21と、筒状壁15の端部に結合される端部結合部22と、を有する。
【0032】
端部結合部22は、周壁21の軸方向内側の端部に一体に形成されている。端部結合部22は、接合フランジ23と、閉塞部24と、を有する。接合フランジ23は、筒状壁15の端面に突き当てられた状態で、筒状壁15にボルト締結されている。閉塞部24は、円環状に形成されている。閉塞部24は、凹溝18の開口を閉塞する。閉塞部24の内周縁部には、正面視が円環状の突起部25が一体に形成されている。突起部25は、閉塞部24から軸方向内側に向かって突出している。突起部25は、凹溝18を形成する内面のうち径方向内側に位置する周面と溝とに跨って密に嵌め込まれる。凹溝18の開口は端部結合部22によって閉塞されている。
図2中の符号91は、凹溝18の径方向内側位置と外側位置とで第1ハウジング11Aと第2ハウジング11Bの間を密閉するシール部材である。
【0033】
周壁21の内側には、減速機6のケースが嵌め込まれている。第2ハウジング11Bは、減速機6に固定されている。周壁21の内側の空間部は、シール部材13の滑り接触部に臨む内側冷却通路26を構成している。内側冷却通路26は、軸方向外側が減速機6によって閉塞されている。内側冷却通路26には冷却流体として冷却気体(例えば、冷却空気)が導入される。周壁21の円周方向に離間した二位置には、内側冷却通路26に冷却気体を導入するための導入孔27aと、内側冷却通路26から冷却気体を排出するための排出孔27bと、が形成されている。
【0034】
導入孔27aと排出孔27bは、周壁21の円周上のほぼ180°離間した位置に形成されている。外側冷却通路19と同様に、内側冷却通路26を正面視略C字状に形成しても良い。この場合、導入孔27aと排出孔27bは周壁21の円周上で近接した位置に形成される。これにより、冷却気体の供給配管と排出配管とが、周壁21の外周面上の一箇所に集約される。
【0035】
回転伝達部材12は、有底円筒状の金属ブロックによって構成されている。回転伝達部材12には、減速機6の出力軸6aがキー28を介して結合される。回転伝達部材12は、中心軸線o1回りに出力軸6aと一体回転可能に構成されている。回転伝達部材12は、フランジ部30と、筒部31と、を有する。フランジ部30は、回転伝達部材12の底部側(軸方向内側)において、カップリング部材29に締結固定される。カップリング部材29は、真空チャンバー2内において、作動装置の被駆動部に連結される。筒部31は、フランジ部30の付根部から軸方向外側に向かって突出している。回転伝達部材12は、出力軸6aに結合された状態で、ハウジング11(第1ハウジング11A)の貫通孔16に挿入されている。筒部31の外周面は、貫通孔16の軸方向中央領域16cとシール支持部17とに径方向で向かい合っている。
【0036】
図4は、
図2のIV部を拡大して示した断面図である。
図4に示すように、シール支持部17は、筒部31の外周面に径方向で向かい合う内周壁17aと、内周壁17aの軸方向内側の端部から径方向内側に延びる端部壁17bと、を有する。本実施形態では、シール支持部17には、二つのシール部材13が軸方向に並んで取り付けられている。シール部材13は、第1ハウジング11Aと筒部31の外周面との間を密閉する。二つのシール部材13は同一構造とされている。
【0037】
シール部材13は、筒状の基部13aと、環状のシール部13bと、ばね13cと、を備えている。基部13aは、内周壁17aの内側に嵌め込まれている。シール部13bは、基部13aの軸方向内側の端部から径方向内側に延びた後、軸方向外側に向かって延びている。シール部13bの内周面は、回転伝達部材12(筒部31)の外周面に滑り接触する。シール部13bのうち、回転伝達部材12の外周面に滑り接触する部分(以下、「滑り接触部」と称する。)は複数段の環状のリップ部によって構成されている。ばね部13cは、シール部13bのリップ部分を回転伝達部材12の外周面に押し付ける。
【0038】
シール部材13の基部13aとシール部13bの主要部はゴム状の弾性部材によって形成されている。弾性部材には、断面略L字状の芯金32(金属部材)が埋め込まれている。芯金32は、シール部13bから基部13aに跨るように延びている。芯金32のうちの径方向に沿って延びる部分は、軸方向内側において外部に露出している。
【0039】
二つのシール部材13のうち、軸方向内側に配置されるシール部材13は、芯金32の露出部分がシール支持部17(ハウジング11)の端部壁17bに当接している。軸方向内側に配置されるシール部材13は、滑り接触部で発生した熱を、芯金32と端部壁17bの直接接触部を通してシール支持部17の内周壁17aに伝達できる。軸方向内側に配置されるシール部材13には、第1ハウジング11Aの貫通孔16と回転伝達部材12の外周面との間の隙間を通して、真空チャンバー2内の真空圧が作用する。
【0040】
二つのシール部材13のうち、軸方向外側に配置されるシール部材13は、シール部13bの滑り接触部が回転伝達部材12(筒部31)の外周面とともに、内側冷却通路26内に臨んでいる。軸方向外側のシール部材13は、回転伝達部材12(筒部31)の外周面とともに内側冷却通路26内を流れる冷却気体によって冷却される。
【0041】
駆動伝達装置1は、以下のように作動する。
駆動装置4のモータ5が駆動すると、モータ5の回転が減速機6によって減速された後、出力軸6aから回転伝達部材12に伝達される。回転伝達部材12は、回転伝達部材12とハウジング11との間が二つのシール部材13によって密閉されつつ、中心軸線o1回りに回転する。回転伝達部材12の回転は、カップリング部材29を通しても真空チャンバー2内の作動装置に伝達される。
【0042】
回転伝達部材12が回転する間、外側冷却通路19には冷却液が導入されるとともに、内側冷却通路26には冷却気体が導入される。これにより、シール支持部17は、シール支持部17の外周側において、外側冷却通路19内を流れる冷却液によって冷却される。軸方向内側のシール部材13の滑り接触部は、回転伝達部材12の外周面とともに内側冷却通路26を流れる冷却気体によって直接冷却される。したがって、回転伝達部材12の回転に伴ってシール部材13の滑り接触部で発生した摩擦熱は、外側冷却通路19を流れる冷却液や、内側冷却通路26を流れる冷却気体によって取り除かれる。
【0043】
以上のように、本実施形態の真空シール装置10は、シール支持部17の径方向外側領域に設けられた外側冷却通路19を冷却流体(冷却液)が流れる。そのため、シール部材13の大気側から真空側に跨る広い領域において、シール部材13の熱が効率良く取り除かれる。
したがって、本実施形態の真空シール装置10を採用した場合には、シール部材13のシール性能を長期亘って良好に維持できる。
【0044】
本実施形態の真空シール装置10を採用した駆動伝達装置1は、シール部材13の熱を効率良く取り除くことができるため、シール部材13のシール性能を長期亘って良好に維持しつつ、駆動装置4の動力を真空チャンバー2内の作動装置(被駆動部)に伝達できる。
【0045】
本実施形態の真空シール装置10は、ハウジング11のうち、回転伝達部材12の外周面とシール部材13の滑り接触部とに臨む大気側の領域に、内側冷却通路26が設けられている。このため、発熱し易い滑り接触部の近傍を、内側冷却通路26を流れる冷却流体(冷却気体)によって効率良く冷却できる。
したがって、本実施形態の真空シール装置10は、シール部材13の大気側から真空側に跨る広い領域を、外側冷却通路19を流れる冷却流体によって冷却できる。シール装置10は、最も発熱の大きいシール部材13の滑り接触部の熱を、内側冷却通路26を流れる冷却流体によって直接効率良く取り除くことができる。
【0046】
本実施形態の真空シール装置10では、外側冷却通路19に冷却流体として冷却液が導入され、内側冷却通路26に冷却流体として冷却気体が導入される。このため、シール部材13の滑り接触部に直接臨まない外側冷却通路19では、吸熱対象からの吸熱効率の高い冷却液(液体)によってシール部材13の熱を効率良く取り除くことができる。シール部材13の滑り接触部に臨む内側冷却通路26では、流動に際して高圧になりにくい気体を導入することにより、滑り接触部の熱を効率良く取り除きつつも、シール部材13の不要な変形を抑制して滑り接触部から真空側への冷却流体の進入を抑制できる。
【0047】
本実施形態の真空シール装置10は、ハウジング11のシール支持部17と回転伝達部材12の外周面の間にシール部材13が軸方向に沿って複数個配置されている。このため、本実施形態の真空シール装置10を採用した場合には、複数のシール部材13によって真空側への大気の流入をより確実に規制し、かつ、熱の滞留し易い軸方向内側のシール部材13を、外側冷却通路19を流れる冷却流体によって確実に冷却できる。
【0048】
本実施形態の真空シール装置10で採用するシール部材13は、ハウジング11のシール支持部17に固定される基部13aと、基部13aから径方向内側に延びて回転伝達部材12の外周面に滑り接触する環状のシール部13bと、を備えている。基部13a及びシール部13bを構成するゴム状弾性部材には、シール部13bから基部13aに跨るように芯金32が埋め込まれている。このため、回転伝達部材12の外周面に滑り接触して発熱するシール部13bの熱を、金属製の芯金32を経由してハウジング11のシール支持部17に効率良く伝達できる。したがって、本実施形態の真空シール装置10を採用した場合には、シール部材13の滑り接触部で発生した熱を、外側冷却通路19を流れる冷却流体によって効率良く取り除くことができる。
【0049】
本実施形態の真空シール装置10では、シール部材13の金属製の芯金32がハウジング11に直接接触する構造とされている。そのため、シール部材13の滑り接触部で発生した熱をさらに効率良くシール支持部17に逃がすことができる。
【0050】
本実施形態の真空シール装置10は、端部壁17bにおける径方向内側の端部が回転伝達部材12の外周面に近接した位置に配置される。端部壁17bには、シール部材13の芯金32が面接触している。このため、シール部材13の滑り接触部で発生した熱をより効率良くシール支持部17に逃がすことができる。
【0051】
本実施形態の真空シール装置10は、外側冷却通路19が第1ハウジング11Aの凹溝18と第2ハウジング11Bとに囲まれて構成されている。そのため、シール支持部17の径方向外側領域に配置される外側冷却通路19を切削加工等によって容易に、かつ精度良く形成できる。第2ハウジング11Bには、内側冷却通路26の一部を構成する周壁21に連続するように突起部25が形成されている。突起部25は、第1ハウジング11Aの凹溝18の径方向内側領域に密に嵌め込まれている。このため、外側冷却通路19と内側冷却通路26の間での冷却流体の漏れをより確実に規制できる。
【0052】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、ハウジング11のシール支持部17と回転伝達部材12の外周面の間に一対のシール部材13が配置されているが、シール部材13の数は二つに限らず、三つ以上であっても良い。
上記の実施形態では、外側冷却通路19に冷却流体として液体が導入され、内側冷却通路26に冷却流体として気体が導入される構成とされているが、両冷却通路に液体と気体のいずれか一方を導入するようにしても良い。外側冷却通路19に気体を導入し、内側冷却通路26に液体を導入するようにしても良い。
【符号の説明】
【0053】
1…駆動伝達装置、2…真空チャンバー、3…隔壁、4…駆動装置、10…真空シール装置、11…ハウジング、11A…第1ハウジング、11B…第2ハウジング、12…回転伝達部材、13…シール部材、13a…基部、13b…シール部、17…シール支持部、17a…内周壁、17b…端部壁、18…凹溝、19…外側冷却通路、21…周壁、25…突起部、26…内側冷却通路。